世界の中心で、愛をさけぶ

小説(原作)「世界の中心で、愛をさけぶ」片山恭一著について


ABOUT "ORIGINAL" STORY.

小説「世界の中心で、愛をさけぶ」について。ネタバレあり

世界の中心で、愛をさけぶ
世界の中心で、愛をさけぶ (→Amazon.co.jp)
片山恭一 著 [2001/04発売 小学館 205P \1470]
ISBN 4-09-386072-6

-PickUp-
好きな人を亡くすことは、なぜ辛いのだろうか。
それはすでにその人のことを好きになってしまったからではないかな。 別れや不在そのものが悲しいのではない。その人に寄せる思いがすでにあるから、別れはいたましく、面影は懐かしく追い求められ…… (p.177)

=帯の紹介文=
泣きながら一気に読みました。
私もこれからこんな恋愛をしてみたいなって思いました。
柴崎コウさん (「ダ・ヴィンチ」02年4月号)
--
十数年前。高校時代。恋人の死。
「喪失感」から始まる魂の彷徨の物語。

=概要=
十数年前の田舎の高校生・サクとアキの瑞々しい恋愛、そして喪失感を描いた青春恋愛小説。
2001年に刊行し2003年に大ブレイク。300万部を突破するベストセラーに。

=主な登場人物=
・松本朔太郎(サク) … 平凡な高校生だが理屈っぽい性格。心からアキを愛するが…。
・廣瀬亜紀(アキ) … ナウシカを虚弱にしたような容姿。性格は明るく勉強もできる。
・朔太郎の祖父 … 50年に渡って純愛を貫くロマンチスト。喪失感を知るサクの理解者。
・大木龍之介 … サクの友人。中学時代の恩を返すなど義理堅い性格。二人の関係を見守る。



=原作の話の流れ= (※ネタバレあり。一読したことがある人向けです)

第一章
1. [現在] サクは喪失感を抱えたままアキの両親とオーストラリアへ。(p.1)

2. [中2] サクとアキは初めて同じクラスに。学級委員になった二人は、骨折したクラスメート・大木の入院先に見舞いに行く。(p.5)

3. [中2] 二学期の文化祭で「ロミオとジュリエット」。アキがジュリエットを、サクがロミオを演じる。
クリスマス、サクはラジオに「クラスメートのA・Hが白血病に…」という趣旨のハガキを書く。そのラジオを聞いたアキに非難される。(p.11)

4. [中3] 別々のクラスになるものの、互いに学級委員なので放課後の委員会などで会う。アキが「朔ちゃん」と呼ぶようになる。アキの希望で交換日記を始める。 中3のクリスマスにアキの担任が病死。アキが弔辞を読む。(p.17)

5. [高1] 同じ高校に進学し、同じクラスに。サクはアキを異性として意識し始める。(p.24)

6. [高1] 祖父はかつての恋人が眠る墓をあばいて、骨を盗む計画をサクに話す。(p.27)

7. [高1] サクとアキが祖父の純愛についての会話をする。神様はいるか、死後の世界はあるか。(p.33)

8. [高1] 夜中に墓地に忍び込み、祖父のかつての恋人の墓を掘り起こして骨を少量盗む。
自分の死後に一緒にまいて欲しいと、祖父は遺骨をサクに託す。(p.41)

9. [高1] 神社で待ち合わせてアキに盗んだ骨を見せる。純愛の結晶を前にファーストキス。(p.51)

第二章
1. [現在] オーストラリア。灼熱の砂漠でアキを想う。(p.58)

2. [高2] GWに電車で片道2時間の動物園へデート。帰りにラブホテルに入るが、アキに反対されロビーで引き返す。(p.66)

3. [高2・夏休み] 学校のプールで友人の大木と会話。「早くやってしまえ」と言われる。(p.79)

4. [高2・夏休み] 大木と会話。夢島という無人島に渡って、そこでアキと結ばれる計画を立てる。(p.84)

5. [高2・夏休み] 大木のボートに乗り3人で夢島に渡る。大木は親からの無線を受けて一人先に帰る。
予定通り二人きりになるが、その計画をアキに見抜かれる。(p.88)

6. [高2・夏休み] 夜の夢島。食事をした後、廃墟のホテルの一室で二人は結ばれる(結ばれなかったという解釈もできます)。(p.100)

第三章
1. [高2・二学期] サクは修学旅行でオーストラリアへ。アキは病気で行けずに入院。(p.115)

2. [高2・二学期] アキが白血病であることをサクは知る。アキの髪が抜け始める。「すべてに理由はある」というアボリジニに関する会話。(p.122)

3. [高2・二学期] 治療は2〜5年かかると言われる。一時的に良くなったら一緒にオーストラリアに行って欲しいとアキの両親から頼まれる。(p.129)

4. [高2・二学期] アキの病状はおもわしくない。アキは弱気になり自分の死を覚悟する。(p.133)

5. [高2・二学期] 日々衰弱するアキ。オーストラリア行きも絶望的だったが、サクはアキとのオーストラリア旅行を強行しようとする。旅費として祖父から100万円借りる。アキの自宅からパスポートを盗み出す。(p.139)

6. [高2・二学期] アキの誕生日に合わせて航空チケットを手配。看護婦の目を盗んで病院から抜け出す。空港までの電車の中でケーキで誕生祝いするが、悲壮感が漂う。
空港着。鼻血を出すアキ。サクは引き返そうと言うが、アキは拒む。結局倒れこんでしまい、救急車が呼ばれる。(p.149)

7. [高2・二学期] アキは病院に運び込まれる。死が迫るアキ…。最後の別れの言葉を交わす。(p.159)

8. [高2・夏休み] 夢島から帰る時のことを回想するサク。ボートが故障して流される。(p.161)

第四章
1. [高2・冬休み] 12月末。アキの葬儀。喪失感に襲われるサク。(p.168)

2. [高2・冬休み] 正月明け。「愛する人の死」についての祖父との哲学的な対話。(p.174)

3. [現在] オーストラリア。サクと亜紀の両親はアボリジニの聖地で散骨。(p.184)

4. [高2・三学期] 大木に頼んで再び夢島へと渡る。アキとの思い出の地で散骨しようとするが、結局やめる。(p.193)

第五章
[数年後] 大人になったサクは新しい恋人と故郷へ帰郷。お寺や中学校を案内する。桜吹雪の中でアキの遺骨をまく…。(p.201)




=小説「世界の中心で、愛をさけぶ」FAQ= (※ネタバレあり。一読したことがある人向けです)

Q1. この物語の時代はいつ?

中3の時の会話で西暦2000年についての話題があり、「十年後のことなんだけど」という台詞があります。(p.19-20)
2000年まであと10年ということは、中3の時が1990年前後、夢島〜入院というこの小説のハイライトである高2の時が1992年前後になるはずです。


Q2. この物語の舞台はどこ?

「故郷の地の愛媛と、現在住んでいる福岡をミックスした町を舞台にしました」
(「Oggi」 2003年12月号の片山恭一インタビューで)

と片山氏は答えています。さらに「小池か石応のあたりじゃないかな…」(原作p.111)という固有の地名から、愛媛県宇和島市がベースであることが分かります。というのも「石応」という地名は宇和島市にしか存在しないとのこと。実際、片山氏は宇和島市の出身だそうです。
舞台紹介は謎とき「世界の中心で、愛をさけぶ」という本に載っています。(→関連グッズ)


Q3. 朔太郎って名前が古臭いような…

サクの名前は大正・昭和期の詩人”萩原朔太郎”から取られています。
(詩人 1886〜1942 代表作「月に吠える」「青猫」)
友人の大木も龍之介という名前で、大正期の文豪”芥川龍之介”から。
サクと大木の両親が共に文学かぶれだったため、このような名前が付けられたという設定。(p.6-7)


Q4. 「世界の中心」ってどこ?

3通りの考え方ができると思います。

1. サクとアキがいた場所(大切に想い合った空間)が、常に世界の中心だった(サクにとっての世界の中心には常にアキがいた)
2. オーストラリア、アボリジニの聖地。アキの遺骨を散骨した場所が、世界の中心。
3. 二人きりの夢島。幸せの絶頂であり、「あそこにはすべてがあった」(p.161)という、アキを失った直後の回想が根拠。

なお小学館のサイトには 『一人の人を深く想うとき、ぼくたちは思わず知らず、世界の中心を生きている』という片山氏のコメントがあるので、[1]が有力なんでしょうね。


Q5. サクはいつ「愛を叫んだ」の?

意外ですが、具体的に叫んでいる場面はありません。
なのでこれも2通りの考え方ができると思います。

1. 二人が純粋に愛しあったこと。それが愛のさけび。
2. アキを失ったサクの喪失感。その言いようのない哀しみが愛のさけび。


Q6. サクの祖父は死んだの?

サクの新恋人が「亡くなったお祖父さんにもお会いしてみたかったな」(p.202)と言っているので、
アキを失ってからラストシーンまでの数年間の間に亡くなったのでしょう。
サクは言われた通り、二人の骨を一緒に散骨したはずです。


Q7. カバーの写真がステキ

カバー写真を撮影したのは1972年生まれの写真家・川内倫子さん。
写真集も何冊か出されています。
花子花子  花火花火  うたたねうたたね


Q8. この物語は実話なの?

著者の片山恭一さんが、雑誌のインタビューで自分の体験を描いたものかを尋ねられて、
「完全なフィクション」だと答えているそうです。よって実話ではありません。


Q9. 読んでも泣けなかったけど?

柴崎コウさんの紹介文(泣きながら一気に読みました)が有名になりすぎたせいかもしれませんが、 この本は別に「泣くため」に書かれた小説ではないです。泣けたからいい本、泣けなかったからつまらない本というのは、一面的な見方ですね。
もちろん、感動のあまり泣いてしまった、という人もそれなりにいると思いますし、それはそれでいいことだと思います。 私は読んでいて涙を流すことはありませんでしたが、心に響いた好きな小説です。


Q10. どこかで聞いたことのあるタイトルなんだけど…

セカチュー現象コーナーの項目2を参照してください。


Q11. いつの間にか300万部の大ベストセラー。著者の片山さんはこの状況をどう思ってるの?

セカチュー現象コーナーの項目3を参照してください。




=小説の個人的な感想= (※ネタバレあり)


私がこの小説をたまたま読んだのは出版された2001年。
ネットで「恋人の死」で検索していたらこの本のレビューか何かがあって、興味が沸いたので読んでみました。
私は恋人を亡くしたことはありませんが、「人生において一番辛く悲しいこと」とは愛する人の死だとその頃思っていました。 だから恋愛小説を読みたいというよりは、「恋人の死」にまつわるストーリーを読んでみたいという動機ですね。

そして読んでみて、すごく心に響くものがあったわけですが、その中でも終盤の「愛する人の死」についての祖父との対話が一番印象的でした。

以下その一部を引用。

好きな人を亡くすことは、なぜ辛いのだろうか。
それはすでにその人のことを好きになってしまったからではないかな。 別れや不在そのものが悲しいのではない。その人に寄せる思いがすでにあるから、別れはいたましく、面影は懐かしく追い求められ……
(p.177)

相手への想いがあり、でもその行き場がないから、死別とは辛いもの。
愛情が強ければ強いほど、別れとは残酷なものになるのでしょう。

死んだ人に対して、わしらは悪い感情を抱くことができない。
死んだ人にたいしては、利己的になることも、打算的になることもできない。
人間の成り立ちからして、どうもそういうことになっているらしい。
試しに、朔太郎が亡くなった彼女にたいして抱く感情を調べてみてごらん。
悲しみ、後悔、同情……いまのおまえにとっては、辛いものだろうが、けっして悪い感情ではない。
(p.180)

死別し、残された者にあるのは悲しみや後悔であり、悪い感情はないと。
相手への想いがあっても、決して見返りが得られることはないからこそ、打算的にならずに済むのでしょうか。 死とは取り返しのつかないものであるからこそ、残された者の心は厳粛なものになるのでしょう。

(おじいちゃんはどうやって乗り越えたのかと聞かれて)
逆の場合を考えることにしたんだ。 もしわしの方が先に死んでいたらどうだったろうかってね。
そうなっていたら、あの人は今わしが感じているような悲しみを、わしの死にたいしてやっぱり感じなくてはならなかっただろう。
(中略)
わしが後に残されることによって、彼女の悲しみを肩代わりすることができたとも言えるわけだ。
あの人に余計な苦労をさせずに済んだ。
(p.181)

愛する人の死を悲しむのは、いつも残された者。
逆であれば相手が感じたであろう悲しみを、自分が肩代わりして生きていくという祖父の愛。
そこにあるのは、ただ慎ましく相手を愛おしむ気持ち。

そういう生き様は純粋に「美しい」と思いました。自分の心も浄化されたような気持ちです。
どんなに絶望に陥っても、人間は美しく生きることができるのだ、と。
愛する人の死という深い絶望が描かれている一方で、そこに真摯に向き合って生きていく人間の美しさを感じた小説でした。



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