仔犬のワルツ・水無月芯也について



葉音に銃口を突きつける(!)という衝撃のラストシーンによって、すべて覆された芯也の言動。
芯也の目的とは一体何だったのか?
いつ悪魔の心が芽生えてしまったのか…。
素朴な好青年から一転して、謎の多い人物となった芯也について考えてみます。

主観に拠る部分も多いと思いますが、ひとつの解釈として参考にしてください。


1. 18年前は心のきれいな青年

[9話]
(小暮) この一連の犯人も、あなたは水無月芯也ではないかと?
(奏太郎) 人間は弱い
欲に駆られて道を踏み外した者は、もう決して後戻りはできない
才能のある若者だった
しかし、ある時からその才能を失った
その事に気づいた時から、私は芯也を疑っていた
身寄りのない貧しい青年
美しい心を持っていた青年
悪魔に魂を売り渡してしまった…

奏太郎が本当のことを語っていたとすると、芯也は愛児園出身の孤児でありながら、ピアノの才能に恵まれていた。
そして美しい心を持った青年でもあった。
でも18年前、奏太郎が当時修理工場に勤めていた芯也に、鍵二のバイク事故殺害計画を依頼。
成功すれば養子にしてもいいと言われた芯也は、苦悩した末に、人を殺めることに協力してしまう。

この事件をきっかけに、悪魔に魂を売り渡してしまった芯也。
養子になれれば水無月家を後ろ盾にピアニストとして生きていけるわけで、芯也の気持ちもわからないではないですが、この事件をきっかけに歯車が狂ってしまったと。

まとめ:美しい心を持っていた芯也だが、水無月家という金・権力に屈して、悪魔に心を売り渡してしまう。



2. 音楽を愛する芯也

[1話]
(人生で一番大事なものは何かと問われて)
(芯也) 僕にとって一番大事なのは…音楽です

1話で大切なものに「音楽」を挙げた芯也。
最終話だけを見ると学長の座(金と権力)を求める打算的な人間に見えるけど、
1話ではファンからサインを求められるほどの有名ピアニスト(?)だったわけで(鍵二には及ばないにしても)、
音楽にその命を捧げていたというのもあながち嘘ではないはず。

まとめ:芯也には純粋に音楽を愛する感情もあった



3. 「グロリア」を盗作する芯也

[1話]
(芯也) 生まれながらに希望という光は照らされない、そんな子どもたちのために。
この曲の名前はグロリア。希望の光…

と1話で園長に語っていた芯也。
「グロリア」は物語中では芯也が作曲したことになっていましたが、最終話では鍵二の作曲であることが明らかに。

「グロリア」には2バージョンあるので、
「グロリア〜Appassionata〜」が鍵二作曲で、
「グロリア〜希望の光〜」が芯也編曲という考え方もできるけど、
6話で特別室で舞子が見つけた、鍵二が書いたと思われる楽譜には「グロリア〜希望の光〜」とあったので、
どちらも鍵二作曲の可能性が高いはず。

盗作の動機はよくわかりません。
偶然楽譜を見つけて、音楽家としての歪んだ虚栄心から自分の作曲だと偽った?



4. 苦悩する芯也

3話では2シーン、車の中で何かに苦悩する芯也の姿が見られます。
おそらく、試験官(調律師と人形師)を殺めたことに対する苦悩。
苦悩するということは、まだ悪魔になりきれていないという証拠。この時の芯也には、まだ心の中に良心が残っていたはず。



5. 孤独な芯也

[4話]
(芯也)
でもいつからかこの僕は、その情熱を失ってしまったんだ
寂しいし、苦しいし、哀しい
そして何よりも、ピアニストとして恥ずかしい
それが明るい日差しの中では、特につらい
だからなんだか時々、イライラしてしまうのかもしれない
だから、もしも許されるなら、この惨めな僕を
ほんのつかの間でもいい、かくまってもらえないだろうか
君という、やさしい暗闇の中に…

4話ラストで葉音に孤独な心情を吐露した芯也。
最終話を見終えた今となっては、これらの言動の信憑性を疑ってしまうけど、本音だったと思いたいですね。
物語が進むにつれて、悪魔に蝕まれていったと。



6.アツミが語る悪魔としての芯也

[5話]
(死刑囚・アツミ)
天使にはわかるのよ、悪魔の存在が
悪魔には感情がないの
喜びも哀しみも怒りも、すべてまやかし

たとえばウソの涙も簡単に流せる
”ありがとう”なんて思わないの、悪魔は
ひとひねりで殺す
どんな殺し方でもできる
感情のない涙は、ガラスよりも透明で美しい
濁りのない、どこまでも美しく透明で
あたしが切り札を持たされたのは、知能犯でIQが高いからというより、感情がないから
心の扉は決して開かない
ただし天使にはその場所を見つけられてしまう、腹立たしいことに

あの子と二人でいたら、天敵ですもんね
真っ先に殺すわ…

悪魔の特徴を的確に表しているアツミのセリフ。
結局、悪魔とは芯也のことだったので、このセリフは芯也の悪魔性を捉える意味で大きなヒントになっていますね。
このセリフから推測できるのは…

1.芯也には感情がない
2.喜怒哀楽は表面的なもので、実際はまやかし。
3.感情がないので心の扉は決して開かない。(誰にも屈しないし騙されない)
4.でも天使だけには自分を見破られてしまう。(実際、葉音だけが芯也の犯行と心の闇に気づいた)



7. 律子に愛を告白する芯也

[8話]
(律子との携帯での会話で)
(芯也) 君を愛してる
心から愛してる…

18年前に一人で葉音を産んだ律子を支えたのが、養子に入ったばかりだった芯也。
8話では愛を告白していたけど、10話では「罪悪感ゆえの想いだ」と言っていたので、
(律子が愛した)鍵二のバイク事故に協力したことへの罪滅ぼしの意味で、律子を支えてきたのでしょう。
よって上記の愛の告白は嘘。



8. 他人を憎み、嫉妬し続けた芯也

[10話]
(葉音) あなたには愛する人が
(芯也) 罪悪感ゆえの想いだ
本当の愛とは違う
本当の愛?
僕はまだそれを知らない
他人を憎み、嫉妬し続けた僕には、決して辿り着けないのかもしれない

僕には決して…

「他人を憎み、嫉妬し続けた」という芯也。
これはおそらく愛児園出身の芯也だからこそ持っていた、恵まれた人間に対する憎悪であり嫉妬なのでしょう。
この感情が鍵二のバイク事故を引き起こし、後の殺人にも繋がっていったと考えられます。



9. 学長を目指した動機

[10話]
(芯也) あの人は僕を、どうしても僕を学長にしたかったんです
しかし僕は、次第に苦しくなっていきました
18年前、すでに手を染め始めてしまったことですが
僕は水無月家の養子になれたことで、それだけでもう十分だった
しかしあの人はそうではなかった
どんなことをしても、きっと僕を学長に
金持ちや権威を憎んでいた
機会があれば根こそぎ奪ってやる
そう小さな頃からあの人は…

あの人は僕と同じように愛児園で育ったんです

唱吾を前にした芯也と小暮の会話。「あの人」とは宮西のことで、上のセリフはすべて唱吾を騙すための作り話でしたが、
ここに芯也の本音を読み取ることもできそうです。

おそらく芯也には2つの感情が同居していた。
「水無月家の養子になれたことで、それだけでもう十分だった」という一方で、
「しかしあの人はそうではなかった。どんなことをしてもきっと僕を学長に」という。

「あの人」というのは、芯也の心の中の悪魔であり、欲望の部分、と考えることができます。

「金持ちや権威を憎んでいた。機会があれば根こそぎ奪ってやる」というのも芯也の本音のはず。
音楽を愛する心のきれいな青年である一方で、孤児で愛児園出身という境遇から、こういう性格が形成されたのでは。
そして物語が進むにつれて、この悪魔(欲望・憎悪)の部分が増幅していったと。

そう考えると、芯也が学長を目指した動機も見えてきます。つまり、金持ちや権威への怨念であり、復讐だったと。



10. ラストシーンの芯也

(芯也) この下の海は潮の流れが激しい。目の見えない君が足を滑らせて…
(葉音) 愛してるわ、あなたを愛してる
愛などいらない
あなたに一番必要なものは、愛されること
そんなものはいらない
いらないものは、他のものよ
黙れ、もういい
愛してる
黙れ…

「グロリア」が流れなければ芯也は葉音を銃殺していたのでしょう。
でも葉音の愛に救われた芯也。

そして芯也は最後に涙を流す。
5話でアツミは「ウソの涙も簡単に流せる」と言っていたので、最期に至ってもウソの涙しか流せなかったという解釈もありうるけど、 あの涙はやはり芯也に感情が回復したことを示すものだったはず。



11.まとめ

結局、客観的にはよくわからないので、芯也とはこういう人物だったのでは、という個人的な解釈です。

[個人的解釈]
孤児で貧しくても、音楽を愛する美しい心を持った青年だった芯也。
奏太郎にも養子にしてもいいと言われるほどに気に入られた。
でも18年前の事故に協力したことをきっかけに、悪魔の感情が芽生えてしまう。

それでも18年間は比較的平穏に過ごしてきた。
だが、歪んだ虚栄心から「グロリア」を自分の曲として発表したこともあった。

そして相続レースが始まった。
この時点では「僕は水無月家の養子になれたことで、それだけでもう十分だった」(10話)というのが本音だった。
葉音と出会ったのは偶然。
でも心の奥底には金や権力を望む欲望もあり、とりあえず葉音を東京に連れて行くことに。
(初めから相続レースに参加させる目的で葉音を探しに愛児園に行った、と考えることもできます)

それでも2〜4話頃は、偶然の流れから相続レースに参加したに過ぎなかった。
むしろ音楽を愛する感情の方が強く、音楽を愛するあまり不正を許せずに試験官たちを殺害してしまう。

そして学長レースに勝ち残っていく中で、「金持ちや権威を憎んでいた。機会があれば根こそぎ奪ってやる」(10話) という幼い頃に植えつけられた感情がよみがえっていく。
自分を詮索する舞子や小暮を襲い、もはや歯止めが効かなくなる。

物語の終盤では欲の権化となり、ただ金と権威に取り憑かれていた。
すべての目的は学長になるためであり、そのためには手段を選ばないようになっていた。
それは、不遇の幼児期を過ごしたことへの復讐でもあった。

自分が犯した罪を唱吾になすりつけることに成功し、学長の座についた時には、心は悪魔に蝕まれ、もはや感情は残されていなかった。
だから自分の犯行に唯一気づき、結婚後にそれを指摘した葉音をも、簡単に殺すことができた。

でもその時に「グロリア」が流れ、葉音に愛を与えられたことで、感情が回復する。
唯一、悪魔を見抜くことができる葉音の愛だけが、芯也を救うことができた。
大切なのは憎むことではなく、愛すること。
自分が蝕まれた「憎悪」とは真逆の「愛」を持つ葉音にそう諭され、芯也の心の中の悪魔である「憎悪」は「愛」へとベクトルを変える。

憎悪によって殺人鬼にまでなった芯也。彼を救うことができたのは、愛だけだったのだと。


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