「薔薇のない花屋」情報
野島伸司脚本フジ月9ドラマ「薔薇のない花屋」情報・話題など

最終話「薔薇を売る花屋~涙の一滴(しずく)」感想

2008.03.26 Wednesday

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最終話「薔薇を売る花屋~涙の一滴(しずく)」名セリフ
最終話「薔薇を売る花屋~涙の一滴(しずく)」ストーリーの謎

3/26更新
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以下は管理人の感想です

■人間愛の物語と、視聴者を引っ張る構造

今作は近年の2作「あいくるしい」、小説「スコットランドヤード・ゲーム」の流れを汲む人間愛、人間賛歌のドラマでした。
ただこの2作と違うのは、謎や仕掛けがあったことです。

「薔薇―」の特徴は、さまざまな謎や衝撃があり、先が気になる展開であること。
その謎にも意味があって、全話を通して大きな仕掛けがあったり、壮大なストーリーになるんじゃないかと気になって見ていたけど、それは考えすぎでした。
終わってみたら、幸せが感じられるいい結末、良質な物語ではあったけれど、さまざまな謎や思わせぶりな展開で引っ張る必要性はなかったと思います。

前半の展開はすべて院長の勘違いで動いていたわけで、結局院長のミッションというのは意味や背景が希薄だったと思うんですよね。
今後の展開は気にせずに、平凡でも暖かい愛情が毎回感じられるという物語だったら個人的にはもっと良かったのですが…。

ただ、基本構造や登場人物が同じで、英治を中心に日常の些細な喜怒哀楽や事件を描いていたら、それがどんなにハートフルないいお話であっても、視聴率を取るのは難しい状況があったかもしれません。
「あいくるしい」はそういう穏かなドラマで、私は好きなのだけど、それだと穏かすぎて視聴者の興味が引けないという現実があるのかも。
「薔薇―」は本質的には地味な人間ドラマと言えるけど、表面的には謎を散りばめて多くの人の興味を引く構造にした。そう感じました。

■視聴率

個人的に少し意外なのは、「薔薇―」は視聴率が良かったことです。
この数年は野島ドラマの視聴率は低迷していて、10%前半が定位置で、1桁というのも何度かありました(キムタク主演の「プライド」を除く)。
ファンとしてはその状況に歯がゆさを感じていたけど、この数年の作品と「薔薇―」を比べた時、「薔薇―」が視聴率の差ほど優れているとは感じないのです。
近年の野島ドラマは視聴率的には低迷していたけど、どれも一定のクオリティは保っていたと思うので。
でもひとつ違いがあって、それは「先の展開が気になる(惹きつける)内容だったか」というと「薔薇―」が一番と言えます。
それが成功したというのは、必ずしもいいことではないと思うんです。なぜなら表面的に興味を惹けばいいのかということになり、本質が評価されないことに繋がるからです。

■英治の変化

■中江功(演出)
英治は、極力自分を表に出さないようにしている男。
いっぽう美桜は、本来は無邪気で明るい人間なのに、そういう自分を素直に出せない女。
そんな二人が出会うことによって、本来の自分を出せるようになっていく。
タイトルバックもそういうイメージで作りました。
いろんなことから逃げてきた男が、彼女の存在を感じ、彼女に向かって歩いていくという…。
(TV LIFE 2008/2/15号)

これはまだ3~4話を放送してた頃のTV雑誌の記事だけど、このドラマのテーマが明確に表現されてると思います。
英治はルリを死なせてしまったことをずっと自責していたので、自分が幸せになること、そして人を愛することを避けてきた。
そんな中、雫を育てることが唯一の生きる意味となっていたので、実の父ではないという現実からも目を逸らしてきた。

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お花屋さんは強いのね
俺はいいんだ
何にも執着しない
たやすく手放せちゃう
連れて逃げたってよかったのに
雫ちゃんのことも、私のことも
結局、誰も信じてない
誰も愛してない
(9話・美桜)
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今の英治のままだと、人を愛することも、幸せになることもできないけど、この美桜のセリフを契機に、終盤の展開でそれらに向き合うことになります。
舜との交換条件で、雫に実の父ではないことを告げる。
英治は繋がりが切れるのを恐れていたけど、雫の父ちゃんへの愛情や親しみは何も変わらなかった。
ルリのことで院長から「ありがとう」と言われた英治は、自分を責めるのをやめて、バラを置く花屋を再開。
そして美桜に愛を告げる。
英治の中にずっとあった自責感や心の闇、そして自分が幸せになることへの恐れ。それをトゲと言うなら、そのトゲを抜いたのは美桜なんですね。

■それでも人生は素晴らしい

英治は最後に「それでも人生は素晴らしい」と肯定するわけだけど、これは省吾に対してではあるけど、幼い時の自分に対しても言いたかった言葉だと思いました。
英治は人生で不幸な境遇に三度遭ったと思います。
親のネグレクト、ルリの死、院長のミッション。
それらを乗り越えて幸せを掴めたのは、周りの人々に対する優しさや、人を信じる気持ちがあったから。
人生を黒く塗りつぶされても、また素晴らしいと言える日が来る。
いま幸福を実感するからこそ、昔の自分にそう言ってやりたかったと思うんです。


投稿者 FUMI : 2008/03/26(Wed) |