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過去ログNo1
続・サイド・・・  Name:たか
サイド第2弾です。
前にもあったのですが、もっと皆さんの意見を聞きたいと思ってスレ立てます。
お題は・・・もしも亜紀が生きてたらです。
どんどんレス下さい。
...2004/09/10(Fri) 21:47 ID:HzGAhuQw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
投稿して下さいねぇ
...2004/09/11(Sat) 10:27 ID:ov7.36nM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:とむ
亜紀がもし生きていたら、やっぱり朔ちゃんと結婚していたのではないでしょうか・・・
...2004/09/12(Sun) 01:17 ID:PL/LPePA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:怒羅権
特別版で、実はあれが全部夢で、現実は二人とも
元気で仲良く過ごしてるって事にして欲しいなァ〜
...2004/09/12(Sun) 01:20 ID:kWJvojlQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:とむ
見たいですね。私はこうゆう経験がないのでわからないけれど、どうゆう気持ちになるんでしょう。。。
...2004/09/12(Sun) 01:30 ID:PL/LPePA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:natetta
もう一度2人の幸せな日々を見たい!
例えば最終話で最後に2人が手をつないで歩いていくシーンあの続きが見たい!!
...2004/09/12(Sun) 01:36 ID:QJexOWik    

             Re: 続・サイド・・・  Name:rose
そうですねぇ。
平凡でも普通に幸せに過ごす二人がもう一度見たいですね!!
たとえば大学に進んだ二人のキャンパスライフとか・・
それだと幸せすぎてドラマにならないかな?
...2004/09/12(Sun) 04:42 ID:/bwbeAxY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:伏竜
原稿用紙にして25枚位の短編を書きました。
ドラマの設定を基にした、ファンタジックというか、僕の希望にまかせた内容です。
メインは、緒方さんと綾瀬さんです。
もっと書き足したい部分もあるのですが、取り敢えず勢いで^^;
どこかにアップ出来れば、皆さんの感想を伺いたい所です。
...2004/09/12(Sun) 11:53 ID:BTL7PsoU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:ヨッシー
伏竜さん、すごいですね^^
ぜひ、一度拝見させてもらいたいです。
...2004/09/12(Sun) 11:59 ID:pyryZZJs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:伏竜
http://widower.at.infoseek.co.jp/index2.html

取り敢えずUPしてしまいました。
いいのだろうか^^;
...2004/09/12(Sun) 18:00 ID:N4dAHCZM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:はちみつ
アップしたものの見方がわかりませんT-T
...2004/09/12(Sun) 18:04 ID:PL/LPePA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
すげーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
伏竜殿すごい!!!!!!!!!!!!!!!

感動しました!!!!!!!!!!!!!!!

これTVでやってほしい勢いですよ!!!!!
...2004/09/12(Sun) 19:13 ID:2mM.tC8I    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
どんな話でも構いません!!

ジャンジャン投稿してください
...2004/09/12(Sun) 21:23 ID:CW0amyCY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:しげ
伏竜さんの短編読ませていただきました。不覚にも涙がこぼれてしまいました。
誤解しないで欲しいのですが、これから私が書き込むことはこのスレや伏竜さんの短編を否定しようというものではありません。
このスレのテーマやそれに対する皆さんのレスって私達が『こうあって欲しい』と願っていることだと思うんです。
これは、サクの台詞にもあった『あるはずのない現実に期待する』ってことですよね?
私はサクもきっとこういう期待や妄想(?)をしていたんじゃないかと思います。
上手く言えないんですが、私達は今、亜紀の死を受け入れられなかったり、心の中心にいいようのない喪失感を抱えてしまったサクの気持ちを疑似体験しているのではないでしょうか?
私が伏竜さんの短編を読んで流した涙は、ひょっとしたらサクが毎朝流していた涙と同じ質のものでは?そう思います。
サクは17年間もこんなにも切なく、胸が締め付けられるような哀しみや寂しさと暮らしていたんだと今更ながらに思いしらされています。
本当にすばらしいドラマでしたよね。
...2004/09/12(Sun) 22:16 ID:JJZuhrTk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
そうですよねぇ!!
うんうん。

すばらしいです
...2004/09/12(Sun) 22:28 ID:CW0amyCY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:はたぼう
過労により倒れたサク。
朦朧としている意識の中で、佐藤医師とアキ父母の会話を聞く。
『神経が極限まで張りつめていた状態が続いたことによる過労でしょう、しばらく安静にしてればすぐ回復しますよ』
『彼にまでなんかあったらそれこそやりきれませんよ、アキはもうダメだとしても。最後の望みの綱の骨髄も、私たちのは合わなかった・・・』
飛び起きるサク
『骨髄が合う合わないってそれってなんですか?』
『まだ治療法として確立しているわけではないんだけどね云々』
『僕のじゃダメなんですか!調べてください!』
サクの必死の頼みに血液検査する佐藤医師
検査の結果骨髄が適合することがわかる
『こんなことってあるんだねえ。何分の一の確率なんだろうねえ。ただ君はまだ未成年だから・・・』
『お願いします!ウルルにも連れて行ってやれなかったし、僕がアキにできることはもうこれしかないんです。』
ってところまで考えてみたんですが、いかがでしょう?
...2004/09/12(Sun) 22:28 ID:fiKnqyTg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
真剣モード突入ですねぇ、続きもお願いします
...2004/09/12(Sun) 22:31 ID:CW0amyCY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:くれい
すばらしいですね。
おれもしげさんと同じようなことを考えてました。
「朝、目が覚めると泣いていた」という感じになりそうで・・・。
ありもしない現実に期待して・・・。誰もがそう願う時ってありますよね?
これが17年続いていた朔は良く生きていたなと
思います。

続編期待しております。
...2004/09/12(Sun) 22:39 ID:/q7mq5lc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
明日にでも続編を作ろうかと思います。
...2004/09/12(Sun) 23:24 ID:CW0amyCY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
前編のコメント待ってます。
...2004/09/12(Sun) 23:33 ID:CW0amyCY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:セカ男
皆さんの作るサイドストーリーは一つ一つ本当にすばらしいですね。

人間は一人一人感じ方が違うし、それぞれが描く幸せの形も違うと思うから自分が納得できるサイドストーリーを皆さんの心に描いて、これからも色々読ませて下さい。
...2004/09/13(Mon) 00:06 ID:doANQWRs    

             昨日の続き  Name:はたぼう
『君がそこまで言うんだったら、お父さんとお母さんの同意をもらって・・・』
佐藤医師の話をみなまで聞かずにアキの病室へ駆け込むサク。アキは寂しげにウルルの写真を見ている。サクを見てみるみる涙を浮かべるアキ
『サクちゃんは倒れるまでがんばってくれたのに、わたしがんばれなくてごめんね。これ一日遅れだけど誕生日プレ・・・』
『アキ!見つかったんだ特効薬!骨髄移植すればなおる可能性があるんだって』
アキは力なく微笑んで
『それは私も先生から聞いたけど、型が適合しないとダメなんだよ。サクちゃんいつも肝心なこと忘れてるよね』
『今、俺の調べてもらったんだ。俺のが使えるって佐藤先生が。親父とお袋は絶対説得するから!』
呆然としているアキ
『アキ治るんだようれしくないの?元気になったら今度こそ二人で一緒にウルルへ行こう』
『なんだか夢みたいで、わたし・・・』
『これ誕生日プレゼントにしようと思ってたんだけど』
死んだ後自分を励まそうとするアキの気持ちに胸いっぱいになるサク
起きあがったアキを力一杯抱きしめる
『サクちゃん・・・』
佐藤医師が咳払いをしながら
『もう、いいかな。移植の手順の説明だけど』
−中略−
サクの骨髄を移植されアキは少しずつ顔色もよくなり、それを見てサクは医者になることを決心し、猛勉強し始める。二人の交換テープは相変わらず続いていた。
ある日サクがいつものように病室を尋ねると、病室はもぬけの殻に、一瞬真っ青になったサクに後ろから佐藤医師の声が
『彼女、今朝退院したよ。君にこれ渡してくれって』テープを受け取るサク
『びっくりさせようと思って黙ってたんだけど、サクちゃん、わたし今日退院できることになったよ堤防で待ってるから』
自転車を懸命にこいで堤防へ向かうサク。堤防の上を走って突端まで行くが、誰もいない。
その時、肩をとんとんと。振り返ると頬に人差し指があたる。その先にはセーラー服を着たアキの姿が
『好きよ、サクちゃん。これからもずっと。ありがと』
アキの退院までを考えてみました
この先は皆さんでお考えください
長文失礼いたしました。
...2004/09/13(Mon) 23:25 ID:HErxZjBg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
すごい!!
拍手しちゃいました、感動のストーリーですなぁ。
...2004/09/14(Tue) 16:51 ID:VjJCMvJ.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:すばる
こんにちは。すばるです。
伏竜殿、読ませていただきましたぞよ!相当に悲しいストーリー(というか今サクが後ばかり見ているからなのだが)ですが、感動いたしました。今サクの空白の17年を実に見事に表現していらっしゃる。
...2004/09/15(Wed) 13:53 ID:rydo4X/o    

             Re: 続・サイド・・・  Name:ジミー
すごいな。これでPART2製作できそうだ。
...2004/09/16(Thu) 01:11 ID:0AjCugb.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
もっともっとまってまーす
...2004/09/17(Fri) 15:38 ID:J0jlepRM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:KAZU@32♂
お題「もしも亜紀が生きていたら」とは違うんですが、ラストシーンにつながるストーリーを作ってみました。長文・駄作ですみません。
----------------------------------------------

 僕が亜紀を送ってやることができてから、17年の歳月が流れていた。僕は亜紀のいない世界で34年生きてきた…。

 あれからしばらくして、僕は明希と結婚した。亜紀への想いは今も消え去ることはないが、明希への想いを上回ることはなく、いつしかあの頃の夢を見ることもほとんどなくなっていた。僕は思っていた。あの日、亜紀のお父さんが言っていたのはこういうことだったんだと。寂しいけれど、だからここまで生きてこれたんだと。

 僕は白血病の研究を続け、気づけば大学教授になっていた。今までに沢山の患者の命を救ってきた。一方で、救えない命も未だにある。僕には医者としてまだまだやり残したことがある。でも…もう残された時間は多くないようだ。僕の姿を見て医者の道を志してくれた一樹は医学部で学んでいる。あとは、後輩や一樹が僕の遺志を継いでくれると信じている。医者の不養生…確か17年前に明希に言われた言葉だ。気づいたときには手遅れだった。僕は亜紀に笑って会えるだろうか…。

「サクちゃん!」
不意に呼ばれて振り返ると、そこには亜紀がいた。
「アキ…どうして…」
「あのね、サクちゃん。よく聞いてよ、間違えちゃだめだからね。」
「う…うん」
「こっちの世界に来る途中、あたりが暗くなる場所があるの。そこを通るとき、一瞬だけ遠くに青い光が見えるから、その方向にまっすぐ…きて。」
「こっちの世界って…そこは天国なのかい?アキ…アキ…」
…僕は泣いていなかった。

 僕は明希と一樹に別れを告げて旅立とうとしていた。
「あなた、今までありがとう。私と一樹は大丈夫だから…安心して、サクに戻って。アキさんによろしくね。」
涙まじりの明希の声が聞こえた瞬間、僕の身体は軽くなった。

 ここが…あの世なのか…それとも天国なのか。行けども行けども緑の草原が広がり、空に色はなかった。歩き疲れて、少し休もうかと思ったとき、あたりが急に暗くなった。僕は亜紀が言った言葉を思い出し、青い光を探した。
「あった、あれだ」
僕は一心不乱に駆け出した。あたりはもう明るくなっていたが、青い光があった方向へ、まっすぐに…。

 どれくらい走っただろうか。僕は海に出た。見覚えのある、懐かしい景色。故郷の海だった。
「もう死んだのか」
そこには亜紀のお父さんが立っていた。
「お、お父さん…あの、僕…」
「まだ直っておらんようだな。人に会ったときはまず挨拶をしなさい。アキが待ってる。早く行ってやれ。あの場所に…な」
「ありがとうございます」
僕は駆け出した。あの場所へ。街はあの頃とまったく変わらない。気がつけば僕もあの頃の…サクになっていた。防波堤にたどり着いた。でも、亜紀の姿はなかった。

 途方に暮れていると、誰かに肩を叩かれた。振り返ると頬に指が当たった。とても懐かしい感触だった。僕の目の前には…亜紀が微笑んでいた。
「びっくりした?」
「したよ…」
それ以上は言葉にならない。ただ見つめあっていた。美しく暮れる夕陽…。僕らは手をつないで歩き出した。
...2004/09/17(Fri) 17:38 ID:7ZT2hOPo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Capri
KAZUさん ありがとうございます。
とってもよかったです。 涙目です。
しかも、うまくあのシーンにつながってて感動しました。

 それぞれのキャラクターがしっかり出てますね。

 亜紀パパのセリフの出だしなんて 上手すぎ!
...2004/09/17(Fri) 17:59 ID:irq0U2Fs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:すばる
おおおおお!KAZU@32さん、素晴らしい!うまく繋げていらっしゃる。その想像力に感服いたします。感動しましたよ・・・。
...2004/09/17(Fri) 20:08 ID:UygKl8dY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:マサ
感動しました!!
...2004/09/17(Fri) 20:38 ID:tFRL7vu.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:KAZU@32♂
>>Capriさん、すばるさん、マサさん

いやぁ、お恥ずかしい限りです。
でも、喜んでもらえたようで嬉しいです。
...2004/09/18(Sat) 00:33 ID:4ieq9Gew    

             Re: 続・サイド・・・  Name:やまちゃん
もう、みんな脚本家になったら!
うますぎよ!
...2004/09/18(Sat) 01:11 ID:biuR/RJs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
皆さんうまいです。

これでパート2マジで作れそうです。

まだまだ返信待ってます
...2004/09/18(Sat) 11:52 ID:ZYa64z5M    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
皆さん、すごいですね。どれも読んで感動しました。続編楽しみにしています。
...2004/09/18(Sat) 14:47 ID:ejtdhzYU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:おこのみパパさん
伏竜さん、皆さん、感動です。私はもしアキが生きていたら、白線流しのようなダラダラとした展開を想像していました。私にとってのベストは最後の防波堤のシーンで決まりです。
ちなみに、特別編でアキが弔辞を述べた冒頭から少しの間、声が小倉優子に聞こえたのは私だけでしょうか。録画した方は見直してレス下さい。
...2004/09/19(Sun) 22:37 ID:vv57IfdU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:
亜紀が死ななかったらただのいい話になっちゃう。
でもやっぱ亜紀は死なないで欲しかったな〜
でもそれじゃただのいい話で終わるし・・・・・
亜紀が『死ぬ』からこそ朔の気持ちに共感でき、感動できたのでは??
...2004/09/20(Mon) 03:22 ID:550iJh6k    

             Re: 続・サイド・・・  Name:KAZU@32♂
亜紀が亡くならないとそもそも物語として成立しないんですよね。
残念ですけど。
...2004/09/21(Tue) 17:04 ID:M5yjvuEg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:続編希望
どうも。初です。

たかさんの、サイドの続編楽しみにしています。
もしも、アキが生きていて、サクと愛し合えていたら・・・。一種の願望ですね。文面だけですが、イメージするのは容易です。そんな、セカチューもいいですね。後編期待してます。
...2004/09/21(Tue) 21:17 ID:NSJJc01w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:カツ
サイドの続編みたいです
...2004/09/25(Sat) 00:33 ID:xyDvAXdA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 過去ログ行き寸前の状態で埋もれていたので,呼び戻しました。
...2004/09/30(Thu) 12:44 ID:y7lTsRx.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
にわかマニア殿>救出ありがとうございます。

すみません全然書いてなくて・・・
期待にこたえられずすみません・・・
また書きますんでお許しください・・・
...2004/09/30(Thu) 16:11 ID:DAQw3ee6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:カツ
過去ログ入りして欲しくないので阻止しました
...2004/10/04(Mon) 02:40 ID:QvP/UzOQ    

             過去ログ入り阻止  Name:にわかマニア
過去ログ入りして欲しくないので阻止しました
...2004/10/06(Wed) 12:22 ID:nLIQm5zM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:カズ
亜紀が生きていたらきっと、夢だった絵本の編集者になっているんじゃないでしょうか 朔は亜紀に付いて行って写真撮ったりしてる話なんてのはどうでしょうか?たかさん参考になりますか?
...2004/10/06(Wed) 14:03 ID:ShdqF7ps    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
いいと思いますねww
書いてみようと思いますww
アイデアがまとまったらですが・・・
...2004/10/06(Wed) 14:07 ID:.ZlVPOaI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:カズ
じゃあ、アイデアがまとまったらお願いします!!
...2004/10/06(Wed) 20:09 ID:ShdqF7ps    

             Re: 続・サイド・・・  Name:ゆうき
楽しみに待ってますね
...2004/10/08(Fri) 16:42 ID:zXLT9GJg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:KM
たかさん、朔と亜紀は、ウルルへ取材旅行に行くというのはいかがでしょうか?
楽しみに待ってます!
...2004/10/08(Fri) 17:30 ID:fsJo2ab.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
KM殿とカズ殿のリクを。

亜紀「朔ちゃん、早く早く」

朔「そんなに、はぁはぁ、あせらなくてもいいだろ」

亜紀「まったく、体力が無いんだから」

2004年、34歳になった朔と亜紀はエアーズロックへ来ていた。亜紀の絵本の取材、ということで来ていたのだ。

朔「ちょっと、休もうよ」

亜紀「まったく。だらしないわねぇ」

朔「でも、やっぱりここは綺麗だな」

亜紀「ええ、とっても」

朔「亜紀は、初めてだっけ?」

亜紀「うん」

朔「そっか」

亜紀「大木君達、元気かなぁ」

朔「大丈夫だよ」

亜紀「しばらく帰ってないからね」

朔「そうだなぁ」

亜紀「朔ちゃん、カメラは?」

朔「え、あ、あれ??」
慌てて鞄の中を探す朔

亜紀「首にかかってるよ」

朔「あ・・・」

亜紀「ふふっ」

朔「まったく」

亜紀「昔からずっとね。だまされやすいのは」

朔「ほっとけよ」

亜紀「ちゃんと撮ってね。アシスタントさん」

朔「分かってますよ」

亜紀「早く登りきりましょう」

朔「ああ」
続く。
...2004/10/08(Fri) 17:44 ID:fFJZy6Z2    

             Re: 続・サイド・・・  Name:KM
たかさん、ありがとうございます(^^)
34歳の山田サクと綾瀬アキが目に浮かびます。
...2004/10/08(Fri) 21:32 ID:fsJo2ab.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:カズ
いいですね また早く続きが、読みたいです
...2004/10/08(Fri) 22:16 ID:zXLT9GJg    

             過去ログ救出大作戦  Name:にわかマニア
 ただ今,過去ログ救出大作戦決行中!
...2004/10/11(Mon) 01:11 ID:jljX0PpM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
過去ログ行きを断固阻止!
...2004/10/12(Tue) 20:23 ID:VSdS9lBE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
毎度ありがとうございますww

誠に申し訳ないのですが・・・誰かこのスレッドを私の代わりに盛り上げてもらえないでしょうか・・・よろしい方がいたらお願いします。

私も極力書き込みますのでどなたかどうぞお願いします。
...2004/10/13(Wed) 15:54 ID:SdEdE3TM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:jiro
亜紀がどのように生きているかで変わってきます

1.病が完治した場合
目標に向かって大学へ進学(本の編集者への道)

2.病が完治せず入退院を繰り返す場合 
いつ急変するかわからないため 時に明るく前向きに 時に自暴自棄になりながら生きていく

どちらにしろ子供は無理かも(抗がん剤の影響のためと出産の危険性で)

サクは納得しても付き合っていくのかな?
...2004/10/14(Thu) 18:42 ID:c4X2XsMQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
過去ログ行き阻止
...2004/10/15(Fri) 23:22 ID:itNPifNI    

             21の続き  Name:はたぼう
過去ログに行きかけてるのでつたない文章ですが久々に・・・

サクの骨髄を移植されてアキが退院できたのは1987年の2月14日だった・・・

『はいサクちゃん、今日バレンタインデーだからチョコレート』
 堤防でチョコレートをもらうサク
『開けて』
 包装を開けるとなんと中身はびっくり箱
『うわぁ!!!!』びっくりするサク
『あはははは!』大笑いするアキ
『ほんっとそういう意地悪なところ変わってないよね』ちょっとむくれて横を向くサク
『怒った?』不安げな表情になるアキ
サクは振り返るとにっこり微笑んで
『アキがそんな大笑いする顔見るの久々だから、怒るのより嬉しいのが先にきちゃつてさ』
『本物は後で渡そうと思って置いてきたから。
 今晩は写真館でうちのパパやママや智世たちも一緒にみんなで鍋パーティーだよ。
あたしとサクちゃんは買い出し担当だよ』
『ようし、久々におじいちゃん直伝の腕をふるうぞー』
僕とアキは手をつないでスーパーへ向かった。
...2004/10/16(Sat) 17:54 ID:6JZB4eMM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たか
是非続きを書いていただきたいです。

はたぼうさんにこのスレッド盛り上げていただきたい・・・
...2004/10/16(Sat) 18:01 ID:QyCqa/M.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
こちらでは、初出品です。よろしくお願いします。

【もしも亜紀が生きていたら】

亜紀(語り)
雨の空港で朔の腕の中に倒れてから、私は闇の中にいた。私を呼ぶ父母の声に、空に撒いて、と答えたが、その声もすぐに遠ざかり、サクちゃん、と呼んでも
届かなかった。どのくらい彷徨っただろう、暗闇の彼方に、針の先ほどの光が見え、私は吸い寄せられていった。あの出口の向こうには、世界で一番青いウルルの空が広がっているのだろうか。
まばゆい光が私を包み、一瞬何も見えなくなった。ゆっくりと目を開けると、一人の医師が私の顔を見ていた。
サク、ちゃん?そう、それは大人の顔になった朔だった。

朔「アキ、ドナーが見つかった。俺が骨髄移植をする。きっと助けるから」
亜紀「サ、クちゃん」

亜紀(語り)
朔の顔を見ながら、私はまた深い眠りに落ちていく。私はこの世に未練があるのだろうか。空に撒いて、と言いながら、結局は元いた世界から離れたくないのか?
朔が呼ぶ声がする・・・

朔「アキ、骨髄移植は終わったよ」
亜紀「サクちゃんは、お医者さんになって私を助けてくれたの?」
朔「そうだよ、今は2004年だ。アキは17年間眠っていたんだ」
亜紀「どうして・・・」
朔「あの日、アキが危篤状態になった時、主治医の佐藤先生の大学の先輩が、たまたまいらしてたんだ。その先生がアキのことを診て、超低体温法を使おう、今なら間に合うかもしれない、と言われてね、アキのお父さんも、ほんの少しの確率に賭けてそれを承知した。アキは氷で冷やされながら、この病院に運ばれた。そして、ドナーが見つかるまでの間、冬眠状態で眠っていたんだ。アキの場合は、ドナーがなかなか見つからなくてね、こんなに時間が掛かったんだ」
亜紀「なんだか、信じられない」
朔「アキが眠っている間に、俺もおじさんになっちまったよ・・・なあ、アキ、これからまた、辛い治療が続くけど、俺を信じて我慢してくれ」
亜紀「いいよ、サクちゃん、もう全部まかせるよ・・・」

真、綾子、涙ぐんで二人を見ている。

亜紀(語り)
骨髄移植の後、その副作用は激しかった。体中が痛くなったり、目や口の中の粘膜がただれたり。でも、あの時とは違う。私が進む方向には未来があるんだ。
少し落ち着いた頃、みんなが会いに来てくれた。
智世とスケちゃんは結婚して子供もいた。

智世「(怒ったように)こんなもん、もう必要ないから返すよ」
亜紀「あの時のカセットテープ・・・」
龍之介「(子供に向かって)ほら、あいさつして」
子供「こんにちは、たつあき、です」
亜紀「(微笑んで)いくつ?」
達明「6さい」
智世「アキ・・・(毛布を握り締めて泣く)」

顕良「オレは、オレは、アキのために毎日毎日、朝一番で、一番ありがたいお経をあげていたんだあ(号泣)」

亜紀(語り)
ひとしきり泣いた後、ボウズは10歳も年下の奥さんのことを自慢しはじめた。お金持ちの家のお嬢さんに気に入られたおかげで、本堂も立派になって、檀家回りは運転手つきのベンツでだとか。

谷田部「廣瀬、よく、よく頑張ったね。早く宮浦に帰っておいで(涙)」
龍之介「サクはえれえ医者になったなあ・・・」
亜紀「(うれしそうに)うん」

亜紀(語り)
私の体はゆっくりゆっくり回復していった。そして、ついに退院の日がやって来た。白血病からの生還だった。

真「サク、いや松本先生、本当に、本当に、ありがとうございました(サクの手を握りしめる)」
朔「あ、いえ」
亜紀「サクちゃん・・・」
朔「アキ、俺ももうすぐ宮浦に行くから」
亜紀「うん、待っておるぞよ」

(2005年7月2日、アジサイの丘)
まだ独りで歩くことのできない亜紀を、朔が背負って登ってくる。

亜紀「ごめんね、サクちゃん。重い?」
朔「いや、軽い。軽すぎる」
亜紀「そうだね。私、もっといっぱい食べて、リハビリで筋肉つけて重くなるから」
朔「そうそう(笑う)あ、俺今度さ、宮浦に新しくできる医療センターに来ることになったんだ」
亜紀「(驚いて)ほんとに?」
朔「ほんとだよ」 

街と海が見える場所で、朔、静かに亜紀を降ろす。亜紀、朔につかまり、体を支える。梅雨の合間の空が広がり、アジサイが咲き乱れている。

朔「帰ってきたね、ここに」
亜紀「うん、帰ってきた」
朔「俺は医学部に入ってから、毎日低温テントの中で眠っているアキの顔を見に行った。アキは眠ったままだったけど、俺はずっとアキと生きて来た。アキがいない日は1日だってなかった・・・」

朔、ポケットから婚姻届を出す。

朔「これ、覚えてる?先生も今度はサインしてくれたよ」
亜紀「サクちゃん、ずっと待たせちゃってごめんね。でも、もうちょっと待っててくれる?私ね、リハビリ頑張って、自分の力で歩いて、またあの時みたいに走ってみせる。そしてこの場所に、サクちゃんと2人で登って来たいの。その時まで待ってて欲しい」
朔「うん」
亜紀「ありがとう、サクちゃん」

亜紀、朔の胸に頬をよせる。
さわやかな風が吹き過ぎてゆく

(完)
...2004/10/16(Sat) 22:22 ID:1uKEAhko    

             Re: 続・サイド・・・  Name:KAZU@32♂
久々に覗いてみたら、このスレッドが生きているのにビックリ。

>朔五郎
素敵なストーリーですね。
ちょっぴり感動しました。
...2004/10/18(Mon) 22:23 ID:4ieq9Gew    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
妄想が膨らんじまったので、もう少し書きます(笑)内容は58から続きます

【もし亜紀が生きていたら 2】

白血病との闘いに終止符を打ち、私は故郷の宮浦に帰ってきた。18年ぶりの故郷は見慣れない光景がところどころあるものの、空や海はあの頃のままだった。
私は社会復帰を目指して、新設されたばかりの宮浦メディカルセンターで、リハビリに励んでいた。このセンターには婚約者・松本朔太郎も勤務している。
今日は智世が車で送ってきてくれた。歩行訓練が終わる頃に迎えに来るから、薬局でお茶にしようと誘われている。なんだかとても嬉しかった。
始めた頃は涙が出るほど辛かった訓練だが、今ではかなり足が軽くなってきた。杖をつかえば何とか一人で歩けるようになり、来るべき、朔との新しい生活もなんとなくイメージできるようになってきた。
リハビリの先生が「今日はここまでにしましょう」というのと同時に、朔が近寄ってきた。
「だいぶ足どりが軽くなって来た。頑張ってるね」
「やだ、見てたの?意地悪ね」
「意地悪は、むかし散々されたから。いや、なんだか気になって」
その時、廊下に面した診察室のドアがバタンと開き、中から若い女性が飛び出してきた。涙ながらに何かをつぶやき、足をひきづりながら出口の方へ走っていく。
「なにかしら?」
「あの診察室は心療内科のはずだけど」
開け放たれた診察室の入り口から、ひとりの女性医師がでてきた。首に掛けたネームプレートには、小林明希、と書かれていた。
「あれ、小林じゃないか。どうしたの?」
「松本君、久しぶり。私、週一回ここに来て診察することになったの」
「そうか、ここには専任の心療内科の先生がいなかったからなあ。助かるよ」
「あ、小林、ぼくの・・・」
「わかってるわ、ぼくの婚約者の亜紀さんでしょ。知らないわけないじゃない」
「そ、そうだよな」
「はじめまして、亜紀さん。私、松本君とは大学の同期で、小林明希といいます。同じアキです。よろしくね。」
「はじめまして、廣瀬亜紀です。でも、なぜ私のことを」
「あなたは、ここにいる松本朔太郎のおかげで、あの病院ではちょっとした有名人だったわ」
「おい、余計なこというなよ。ところで、さっきの患者は」
「うん、彼女ね、子供の時の交通事故が原因で、歩行困難になってしまったのよ。歩行困難とはいっても、ごく軽いもので、日常生活には全く支障ないのよ。ところが、結婚が決まってから、急にプレッシャーがかかってきたみたいで、精神的に不安定になってしまったの」
「相手の男性が原因なの?」
「全然。私も会ってみたけど、優しくていい人よ。もちろん、彼女の足のことも十分理解して、なにかと気を遣ってるみたいなんだけど。彼女、自分自身を追い詰めてしまったみたいね」
その時、松本先生、と朔を呼ぶ声がした。
「ごめん、俺行かなきゃ。亜紀、今日、智世の薬局に行くんだろ、俺もあとで行くから。それじゃ」
朔は足早に去っていく。
「亜紀さん、時間ある?」
「はい」
「じゃ、あそこに座って少し話しましょう」
小林先生は私の足を気遣って、ベンチに座らせてくれた。
「医学部に入ってから今日までの松本君は素敵だったな。私、亜紀さんが知らない松本君をずっと見てきたわ」
「小林先生・・・」
「もし、あなたがあの頃の松本君のことを知ったら、今よりもっと、彼を好きになっちゃうと思うな」

明希の回想
松本君は不思議な人だった。授業や実習が終わると、あっという間にいなくなってしまう。そのうち、どうやら病院に誰かを見舞っているらしい、ということがわかってきた。だけど、見舞う相手が「眠れる森の美女」だとわかった時は、さすがに皆驚いた。
医学部の新歓コンパの時、松本君は時計を見ながらソワソワしていた。きっと、適当なところで抜け出して亜紀さんのところへ行くつもりだったと思う。ところが、そういう人に限って先輩達に狙われちゃうもので、彼はあえなく潰されてしまった。
部屋の隅に寝かされていた彼は、しばらくして突然、「アキ、アキ・・・」とうわごとのようにつぶやきながら起き上がった。私は一瞬、彼が自分に気があるのかと思いドキドキした。でも、そんな酔っ払いに抱きつかれても困るから、逃げ腰になった。結局、それが勘違いだとわかって、少しでもそんなことを期待した自分が恥ずかしく、惨めに思えた。
私は気がついた。他の女友達は「ハルカ」とか「マサミ」とか呼ばれるのに、私だけは「コバヤシ」だということを。その理由を思い知らされた日、私はワアワア泣いた。悔しくて悔しくて、嫉妬で体が震えた。
アキから松本君を奪ってやる、私はそう誓った。ある日、私は彼を食事に誘い、ワインを飲んだ。酔って眠ったふりをすると、彼は仕方なく私のアパートまで送ってくれた。帰ろうとする彼を無理やり部屋に上げた私は、何も言わず抱きついた。
彼は優しく背中を撫でるだけで、何もしてくれなかった。その瞬間、私は間違いを悟った。そして彼の頬にキスして、部屋から開放してあげた。

松本君はいつも亜紀さんと生きていた。そして私はいつもそれを見ていた。卒業して医師になってからもそれは変わらなかった。
それぞれの進路を決める時も、松本君は基礎研究や病理には見向きもせず、臨床の血液科を選択した。その目的は誰の目から見ても明らかだった。
臨床医になってからの彼の業績は図抜けたものだった。ある年、ロスで開かれた国際会議で講演することになった。その時の彼の年齢からすれば、異例の名誉だった。医学部全体が彼に期待した。
ロスに着いてすぐ、彼に電話が入った。亜紀さんのドナーが見つかったというのだ。彼は迷わず日本に引き返そうとした。同行した仲間が必死で止めたが彼はきかなかった。結局、その知らせは間違いだったとわかり、講演は無事に終わった。まわりの人は胸を撫で下ろしたけれど、彼の落胆は大きかった。
年月が過ぎ、もう無理ではないか、と皆が思い始めた時も、彼は動じなかった。
たった一度のチャンスを信じて待ち続けた。
そして、ついにドナーが見つかった。松本君は夜も寝ないで骨髄移植の準備を進めた。
亜紀さんが目覚める時が来た。今度こそ松本君は絶対に手の届かないところにいってしまった。
ドナーが提供してくれた骨髄細胞が入った輸液バッグ。松本君の手で、亜紀さんの腕の血管に細い管が入り、骨髄細胞は体の中に満たされていった。
この瞬間のために医者になって生きて来たんだね。よかったね、松本君。もう少しだから頑張って。横で見ていた私は涙が止まらなかった。
亜紀さんの退院が近づいたころ、彼は教授に、新設される宮浦メディカルセンターへの転勤を願い出た。そうなれば血液科にとっても医学部にとっても大きな痛手だったが、教授は苦笑いしただけでそれを許可した。


「もし、もしあの時抱かれていたら、松本君を奪うことができたかもしれない。でも、きっと今ほど彼のことを好きにはならなかったと思う」 
「彼は、すごい人だったんですね。そして、小林先生も」
「ううん、すごいのはあなたたちのほうよ。17年間も眠り続けて、意識が戻るどころか、記憶まで回復するなんて。松本君は、毎日毎日あなたのそばで、その日起こったことを話していたわ。そんな強い思いがあなたを引き戻したのよ。私、あなたたちと生きてこられて本当によかった」
そして、遠くを見るような目で続けた。
「そのせいで、一生独身のまま、仕事に生きることになったけど」

「亜紀!」
迎えに来てくれた智世が呼んでいた。
「亜紀さん、頑張ってね、松本君のためにも。それじゃあ」
「はい、失礼します」
私は小林先生を見送った。白衣のすそを翻して歩いていく後ろ姿が見えなくなるまで。
...2004/10/20(Wed) 02:28 ID:J6cezmXA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
過去ログ行きを阻止します
...2004/10/22(Fri) 17:22 ID:pxSrnANE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
あげときます。
...2004/10/28(Thu) 21:42 ID:ve97YfNc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:勇気
過去ログ行き阻止
...2004/11/08(Mon) 11:12 ID:zXLT9GJg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:グーテンベルク
朔五郎様へ
朔の亜紀への深い愛情がよくわかります。そして密やかに朔を思いつつ二人を見守る小林明希。感動しました。
 
...2004/11/13(Sat) 18:34 ID:.FFfB9Jw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:グーテンベルク
過去ログ行きを阻止します
...2004/11/15(Mon) 07:00 ID:w4BIQMUE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:グーテンベルク
再びあげておきます
...2004/11/27(Sat) 18:18 ID:4.g15nO2    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
残されたテープの続編を書こうと決心しましたが、前に掲載した設定が30年後で、そのままでは難しいので、2004年に朔に分かることに変更しました。
そのため登場人物、役割を見直し、亜紀を中心に展開させました。
そうすると、母親綾子が重要な役割を担うこととなります。
新解釈残されたテープから始まりますが、1986年の高校入学時の様子から、2004年の朔が卒業証書をもらった特別編の翌日までの展開です。テレビドラマの穴を埋めたものにしてみました。
亜紀、朔の行動の理由付け、17年間の空白が埋められたと自負しています。
23話まで書き上げていますが、追加・削除を今後行うかもしれません。
長編となりますが、毎日1話ずつ掲載しますので読んでみてください。


−残されたテープ編(新解釈)−




2004年夏
(松本宅1)
午後、朔は突然帰宅する。
富子は、帰宅した朔を見つけて「明希さんの容態はどうなんだい?朔」と、言った。
朔「うん。もう大丈夫だ。一時はどうなるかと思ったよ」
潤一郎「一樹ちゃんはどうして連れてこなかったんだよ。連絡があったとき連れてくるものだと思って、一緒に魚釣りに行こうと準備していたのに」
朔「ごめん。ごめん。明希が大丈夫だと分かったら、安心したのか、急に、幼稚園の友達の家に連れていってと言い出しちゃって。あずけて来たよ」
富子「ここに連れてくれば良かったのに。お父さん、楽しみに待っていたのよ。がっかりしたね。お前さん?」
潤一郎「うん。そうだな」と。寂しく頷く。
朔「幼稚園の友達の藍ちゃんと姉弟(若い恋人)みたいに育てられたようなんだ。お母さんはもう大丈夫だと安心したら、会いたくなったみたいだね、藍ちゃんに」…
「ここの用事が済んだら迎えに行くことになっている。二、三日あずかりますって、山田さんの奥さんが快く言ってくれて」
潤一郎「ここの用事って?」
朔「うん。廣瀬さん宅に、亜紀に謝らないといけないから」
神妙に答えた。
富子「そうかい!やっと卒業したんだね。17年間も…」
潤一郎、富子はこの日が来るのを心待ちにしていた。
朔に負担がかからないようにと、17年間、気を使って生活してきたのだ。
嬉しくって、お互い微笑んだ。
そして合図を送った。
富子「じゃ、行っておいで。終わったら戻って来るんだよ。朔に大事な話があるから。必ずだよ」
朔「ああ、分かった」
潤一郎は朔が愛用した自転車をとり出し、「これに乗っていけ」と、言った。

朔は高校で谷田部先生から17年ぶりの卒業証書を受取り家路につく。

潤一郎と富子は自宅の縁側に座り、空を眺めていた。
輝きを増し始めた月が辺りを照らし、穏やかな静けさが二人を包んでいた。
遠くの方から、波の音が微かに聞こえてくる。
その音に混じり自転車をこぐ音が近づいて来るのがわかった。

朔「ただいま。待たせてごめん」と、言いながら明るく庭に入ってきた。
富子「遅かったね。朔。廣瀬さんのお宅に行くって出たきりなかなか戻らないんで何かあったのか思ったよ。あんまり遅いから」
朔「ごめん、ごめん。高校に行っていたんだ。そしたら谷田部先生に会ったもので。それから、ほら!」
と、言いながら卒業証書を開いて見せた。
潤一郎「そうか。先生からいただいたのか。良かったな。朔!」
朔「それから、亜紀からの誕生日プレゼントもいただいた。17年前の」
富子「そうかい。そうかい。やっと、区切りがついたんだね。朔、良かったね」
潤一郎「良かった。良かった」
と、何度も頷いた。それから、薄らと涙が零れるのを拭こうともせず、二人は見つめ合っていた。

朔は廣瀬宅で亜紀に手を合わせた後のことを話して聞かせた。
そして、亜紀の遺灰をいただき、ウルルで出来なかった撒骨を高校のグランドでしてきたことを話した。
その時、感じたことも。
…時間と空間の中を漂い、暖かな亜紀の腕の中にいるような幸せを感じた。謙太郎じいちゃんが亡くなり亜紀に抱きしめてもらったときの感覚、世界で一番優しい音を聞いた…


続く
...2004/11/28(Sun) 10:18 ID:HXBSBx5.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
APOさん
 はじめまして!けんといいます。作品読ませていただきました。ドラマの続編がみれてとても良かったです。これからも長編になるとのことなので、楽しみにしていますので、頑張って下さい。
...2004/11/29(Mon) 00:34 ID:wE8vy4tk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−



富子「ねえ、お前さん、いよいよ今日にしようかね。廣瀬さんとの約束を」
潤一郎「そうだな。長かったな。あの時から15年とは」
二人は小声で話した。

富子は席を立ち、お茶の準備をして現れる。
潤一郎と富子は、緊張した雰囲気を漂わせていた。
朔「どうかしたの。何か気に障ること言ったかな?」
潤一郎「いや、15年間、待ち続けた廣瀬さんとの約束を今から果たすことにしたんだ」
富子「別に、怒っているんじゃないよ。嬉しいのと待たされた苛立ちの、半々の気分なんだよ」
潤一郎「…朔に、その…話しというのは、だな…」
沈黙が訪れる。

潤一郎「…長いこと黙っていて悪かったな。…何から話して良いやら…その…」
富子、潤一郎の膝を「ポン」とたたく。
富子「お前さん!そんな話し方をしちゃ、誤解するだろうが。誰か、死んだ時みたいじゃないか」
潤一郎「だってお前、私には話すきっかけが必要で…」
富子「いいよ、お前さん!私が話すから。偶然、気がついたのはお父さんだけど、原因を作ったのは私のようなものだもの」
朔「何なのか判るような気がする。亜紀のことだね。感じるんだ。心配しなくてもいいよ」
潤一郎・富子「………」
お互い顔を見合わせ、そして頷く。
富子「実はね。芙美子がね。泣いちゃってね。『亜紀さん…、おねえさん…、亜紀ねえさん…、呼んであげたかった。呼びたかった。』って、狂ったように泣くんだよ」
富子、そのときのことを思い浮かべ、頬に涙が零れる。
潤一郎、腕で目頭を擦り「チキショー」と、つぶやく。
富子「あのね。朔が廣瀬ご夫婦と一緒にウルルに遺灰を撒きに行った晩にね、3人で亜紀ちゃんが残したテープを聴いたんだよ。朔が居るときに聴いて、何かあったらと思って、朔はあの頃、何といったらいいか…」
潤一郎「ふぬけの状態。」
富子「そう」…
「お葬式の時に廣瀬の奥さんから『聞いてあげてください』って、いただいたものを。芙美子と3人で朔のいないときに聞こうと決めたんだ」
朔「知っているよ。亜紀とウルルに青い空を見に行く約束で、病室に迎えに行ったんだけど、そのときベッドに俺が並べて置いたんだ」…
「3人宛になっていた。そして、俺宛には無かったので、亜紀の顔を見たら、ニコッと笑って、『朔ちゃんとは、いっぱい話したじゃない。これからウルルに新婚旅行に行くんでしょ』と、言った」…
「それで、お世話になった人たちにお詫びのテープを残したと、そう、思った」
富子「そう、そうだったのかい。」

暫くして。
富子「聴き終わった後、芙美子がね。あんまり、泣いてしまって、朔みたいにね、ふぬけになってしまいそうで。私が仏壇の奥にしまい込んでいたんだよ」…
「それでね、お父さんが、突然あれはどうしたと言い出すものだから」
潤一郎「なあ、朔。卒業式に出ないで大学に黙って一人で行っただろう。その時、亜紀ちゃんのことをまだ、引きずったままだと思っちゃって、それで…」
朔「亜紀のテープを聴きたくなったんだね」
潤一郎「まあ、そういうことだ。」
照れながら、頭をかく。
富子「ところがね。それだけじゃなかったんだよ。巻き戻して聴いているときに電話があってね。それも廣瀬の奥様から『卒業、おめでとう。それから医学部合格も』って、電話で話していたものだからテープ切るのを忘れてしまって」…
「そしたら、お父さんが急に叫ぶんだよ」
潤一郎「そう。スイッチを切ったものだと思って、電話に耳を傾けていたんだ。そしたら突然、亜紀ちゃんの声が聞こえてきた」…
「それで、びっくりしてしちゃって 『亜紀ちゃん』って、叫んでしまった。3人宛の後に」…
「暫くしたら、亜紀ちゃんから、朔宛の…」
潤一郎、富子、涙に咽び、暫く言葉が続かなかった。


続く
...2004/11/29(Mon) 18:52 ID:4iMWbhu.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:clice
Apo様
残されたテープから始まる物語読ませていただきました。亜紀は朔のことをどんなふうに思いそして見てたんでしょうかね、亜紀の残す言葉に興味津々です。そしてこれからどの様に話しが進んで行くのかすごく楽しみです。見ているみんなに素敵なストーリーを届けて下さい。
...2004/11/29(Mon) 20:00 ID:xtiW1LvY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−



富子「そ、そうだ。お茶を入れ直すよ。お前さんはテープを聴く準備をしておくれでないかい!」
と、潤一郎に向かって言った。
富子は自分たちだけ哀愁に浸っていたことに、気がついた。
富子「どこがいいかね?朔と亜紀ちゃんのことが大好きだった、謙太郎じいさんの前がいいかね」…
「ねえ、お前さん!仏間に準備しておくれ!」
潤一郎「あいよ!」と、明るく答えた。
潤一郎も気がついた。富子が急に、明るく振る舞ったのを。

潤一郎はプレイヤーの準備を終え、富子が来るのをじっと待っていた。
朔「ところで、芙美子は聴いたの?」
潤一郎「ああ、その日のうちに聞かせてあげたよ」
朔「そうか」

お茶を入れかえた富子は、近づきながら言った。
富子「待たせたね。まずはお茶を飲んでからにするかね」…
「たいしたことないのに、センチになってしまって。びっくりしたろう?」…
「実は、朔宛への忠告のテープなんだよ」

潤一郎、プレイヤーの前に立ち「いいですか?入れますよ。ハイ!」
と、写真のシャッターを押す要領でスイッチを押した。
…キー…ガー…と、微かに雑音が聴こえる。
テープもプレイヤーも古いが、17年間大切に保管していたらしく、よく聞き取ることが出来た。
テープから亜紀の声が流れる。
朔は、久しぶりに聞く。
まさしく、亜紀の声だと思った。
頭の中に、はっきりと亜紀が一時外泊した日のことが、浮かんできた。

(亜紀のテープ)
亜紀「おじさん、おばさん、芙美子ちゃん。…ギーガー…あの日の夕食、鍋料理、とってもおいしかったです」…
「おじさん、おばさんとお話をして、ああ、やっぱり朔ちゃんの家庭って暖かなんだと思いま…た」…
「…ギーガー…気を遣わず、ありのままの私を受け入れて……ありがとうございました。…すごい、嬉かったです」…
「ガーギー…芙美子ちゃん、私の妹になってくたら…思いました。芙美子ちゃん『亜紀お姉さん』って呼んでね。…ガーギー…」…
「…ガーガー…結婚写真…快く撮っていただいて、私、大好きな朔ちゃんのお嫁さんに、ほんとうになったようで…ギーギー…感じました」…
「松本…お父さん、お母さん、芙美子ちゃん。お世話になります。…一度言ってみたかった」…
「オー…シック(泣き声、混じりで)… 朔太郎さんを宜しくお願いします。…ガーガー…」
潤一郎、涙を浮かべながらスイッチを切る。

富子「それでね。芙美子がプレイヤーにしがみついて、『お姉ちゃん』って、泣きながら大声で叫ぶんだよ」…
「私たちも、朔の、本当のお嫁さんが来たように思っちゃって」
と、言って、すすり泣く。
朔「亜紀!ありがとう!」
と、心の中で叫んだ。
朔は、夢島のテープを聞いたときのことを思い浮かべた。
子供を連れて、3人で歩く亜紀の嬉しそうな姿、そして亜紀の微笑みが脳裏に映し出された。
涙が流れ出すのを感じた。
暫らく、沈黙が続く。

潤一郎「この後なんだけど、しっかり聴くんだ。な、朔」と、やさしく言って、スイッチを入れる。
暫らく、微かにガーギーとノイズが続く。
その後、暫らくすると、スー、シー(鼻をかむ音)、…ン!ン!(咳払い)…ガー…
そして、亜紀の声が聞こえてきた。


続く
...2004/11/30(Tue) 19:01 ID:5OdVcyFQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−



1987年10月23日
(病室1)
ウルルへ旅立つ日の早朝、まだ夜明けには時間があった。
朔は迎えにまだ来ていない。
亜紀は録音を続けていた。
最後に、松本家へのテープ。涙が流れて仕方がない。
亜紀は泣き止むまで、スイッチを切るのを忘れていた。
テープを元に戻そうと思った。
が、朔が来るまであまり時間が残されていないことに気が付く。
亜紀「まァ、いいか」

亜紀「松本のお父さん、お母さん、芙美子ちゃん。お願いがあります。スー、シー(鼻をかむ音)」…
「朔ちゃんは、私がいなくなった後、すごい、落ち込むと思います」…
「それで、私が朔ちゃんのこころの中で生き続けていること」…
「そして、いつでも、一緒に生きていることを理解したら、このテープを。そう、聞かせてあげてください」

亜紀「大好きな朔ちゃん、ありがとう。とっても幸せでした。朔にいっぱい甘えられた」…
「本当の自分をさらけ出すことができる、唯一の人です」…
「時々思っていることと反対のことを言ったり、意地悪な態度で示したり、特別扱いしなかったけど、私の全てをありのままに受け入れてくれた。やさしい人です」…
「スー、シー(鼻をかむ音)、ン!(咳払い)」…
「朔ちゃん、お医者さんになって、よく頑張ったね」…
「朔ちゃんって、人の痛みがわかる暖かい人だから、きっと良いお医者さんなっているね。私、ずーっと、お医者さん向いてると思っていました」…
「…(泣いているような音)…」…
暫らくして、
亜紀「スー、シー(鼻をかむ音)」…
「ウルルに、新婚旅行に、青い空を見に行ったよね。私は朔の奥さんになったんだよね」…
「ゴホン(咳払い)」…
「松本朔太郎!(突然、大きな声で)孫を手なずけて私の遺灰を盗ませるんじゃない、ぞよ!おじいさんのときみたいに死んでから結ばれたいなんて、一緒にして、夢島で撒いてなんて」…
「朔!スットコ、ドッコイ!」…
「朔の奥さんになったのだから、結ばれずに死に別れたなんて可愛い孫をだますんじゃない、ぞよ!」…
「解かったか!この、はげ頭!」
暫らく、沈黙が続く。

亜紀「あーすっきりした。…好きよ!朔ちゃん!…大好きだよ!…朔!…ありがとう。…バイバイ」
ここまで録音し、亜紀は泣き続けていた。
空がやっと明るさを取り戻しだした。

2004年夏
(松本宅2)
潤一郎「はい、終了です」
おどけて、プレイヤーのスイッチを切る。
朔はポカーンと口を開けた状態の後、
「どうして、医者になるのがわかったのだろう?亜紀が亡くなって、暫らくしてから谷田部先生に相談したんだった」…
「えーと、解からん!」と、ブツブツと独り言を繰り返した。
富子「まあ、まあ。私らも聞きたいことがあるんだよ。ねえ、お前さん?」
潤一郎「そう、そう。今夜はゆっくりと、朔に17年前のことを問い詰めようと待ちかまえていたんだ」
富子「夕食の支度をしようかね。今夜は長くなりそうだ。」と、言って台所へ向かう。
潤一郎「朔、それまでビールでもやろうかね。どっこい、しょ、っと」と、言って立ち上がった。

潤一郎は準備を終えると手酌で飲み始める。
朔は、注がれたコップを手にしながらブツブツと独り言を繰り返していた。


続く
...2004/12/01(Wed) 18:32 ID:IjCYOJzs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−



30分後。
鍋もの(水炊き)の準備ができ、3人席に着く。
潤一郎「さー、さー。まずはビールで乾杯するとしよう」…
「芙美子もいたらなあ、どんなに楽しいか!」…
「後でチャンと今日のこと報告するように、厳重に言い渡されているから」…
「ま、いいとするか!」
3人一緒に、「カンパーイ(乾杯)」と言ってコップを持ち上げて、一気に飲み干す。
富子「まぁ、食べながら朔を問いつめようね。楽しみだね。あの時、親にさんざん心配させたのだから」…
「今日は逃げるんじゃないよ!」
と言って、朔の肩を『ポン』と、たたいた。
朔「判ったよ。亜紀も罪作りなやつだな。17年たっても、まだイタズラをして!」
潤一郎、楽しそうに手酌でビールを飲む。
心の中で「何年ぶりかな。こんな雰囲気」と、懐かしく思った。

急に、思い当たったらしく、大きな声で言った。
潤一郎「ところで、遺灰を盗むってどうゆうことだよ?」…
「ま、まさか!謙太郎じいさんにそそのかされて、サトさんの遺灰を盗んだんじゃないだろうな!朔」
朔は探るような目つきで、「どうして、サトさんのこと、親父が知っているんだよ」と、言った。
潤一郎「うん。今、ふと、気が付いたんだ。『親父がやりそうなことだ』と」…
「そのとおりだった、訳だ」
昔を懐かしむように、
「知らないと思っていたのは謙太郎じいさんだけだよ。母さんが死ぬ前に富子と二人に話してくれた」…
「子供のときから謙太郎じいさんのことが大好きだったって。そのことを知られたくなくて、苦労したこと」…
「親父とサトさんのことも、遠くから見守っていたんだってさ」…
「それから、突然、親父と結婚することになって、天にも昇るように嬉しかったそうだ」
潤一郎は話しているうちに、センチになった。
納得した顔で、
朔は、「ふーん。そうだったのか」と、感慨深げに言った。

暫らくしてから、富子が勢いよく、言った。
「奥さんになったって?結ばれずに死に別れたことが、騙すことになるのは、どうゆうことだよ?朔!」
朔「うーん。入院している亜紀が俺の将来のことを考えて、テープで『もう、見舞いに来ないで、うっとうしい』と言ったんだ」…
「それで、俺は亜紀のそばに居られるだけで幸せだと伝えたくて、婚姻届を持ってプロポーズした」…
「後で、男性は18歳以上からで、親の同意が必要だと判ったんだけど」…
「二人の結婚写真だけでも撮ろうと」…
「二人とも!知っているだろう?」
少し、声を荒立てて言った。
富子「そ、そんなこと聞いてりゃしないよ。夢島で亜紀ちゃんと結ばれたのかい?」
朔は一瞬、躊躇した後、答えた。
「結ばれていないと思うよ?たぶん」
ビックリしたように、
富子「どういうことだよ。覚えていないのかい。そんな大切なことを!」
朔「夢なのか、現実なのか分からないんだ。亜紀と結ばれたのは、もっと後だった気がするんだ」
思案した顔つきをした。
富子「まさか?!病院で結ばれたって言うんじゃないだろうね。亜紀ちゃんは夢島の後、入院していたんだから。いや、1日だけ外泊したんだっけ」…
「それじゃ、ま、まさか!朔!病気で苦しんでいる亜紀ちゃんと!」
怒った顔つきになっていた。
朔は弱々しく、「そ、そんなことしないよ!キスはしたけどさ。もっと後だよ」と言うなり、考え込んでしまった。

そして、ゆっくりと言った。
「亜紀が死んで、俺が大学に入っているときに?!」
富子は奇妙な顔つきで言った。
「親をからかうんじゃないよ。そんなことあるはずないじゃないか!」
場が和むようにと思って、潤一郎は言った。
「そうだな。朔は夢を見ていたんだな。亜紀ちゃんが死んだことを受け入れられなくて。それに間違いない!」
暫らく3人、それぞれ、亜紀のことを思い巡らせていた。

朔は両親たちに何か秘密があるような気がしてきた。
朔「それより、今日、亜紀の家に行ったとき、亜紀のお母さんもお父さんも、そんなこと何にも言われなかったよ。どうしてだよ!」
あわてた様子で、
富子「まあまあ、そんなに慌てないで。先は長いんだから。続きは食事が済んでからにしないかい」
潤一郎「そうだ。そうだ。まったくだ」と、メロディに乗せて囃し立てた。

食事の間、朔は考え続けていたが腑に落ちないことが多すぎた。
亜紀のことを頭に巡らすと、高校を卒業してからも亜紀にあったような気がしてならなかった。
半分は夢で、残りは本当のことのように思えるのだった。


続く
...2004/12/01(Wed) 19:58 ID:IjCYOJzs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
けんさん、cliceさんへ

ありがとうございます。
励ましをいただきながら返事を書かなくてごめんなさい。
出来るだけ、私の意見は書かないようにしました。
作品を載せるだけで十分です。
解説も直ぐに削除しています。ごめんなさい。

皆様の感想、ご意見はご自由に書いていただきたいと思っています。

とろで、テレビドラマの再放送は何日から始まるのかご存知ありませんか。
その前日までに終了したいので。
最終回は既に書き終えています。そこに結びつける導入部分で苦労しています。目下25話、製作中。
...2004/12/02(Thu) 00:32 ID:2JqQH72w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Marc
こんにちは Apo 様

作品、いつも楽しませて頂いております。

えっと、再放送ですが、27日からだそうです。
27日から連続4日放映予定ですが、毎日時間が中途半端ですので
テープの配分と交換に手間取りそうです。
(うちの奥様が行なってくれる予定ですが、不安だ...)
...2004/12/02(Thu) 12:36 ID:zx1do7G6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
Marcさんへ

ありがとうございます。
最終回を26日に持っていけるよう頑張ります。
そうすると、30話で完結となります。
もう少し、書き足して頑張らないと!
...2004/12/02(Thu) 18:51 ID:2JqQH72w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−




食事が終わり、後片付けも終わった。
暫らくして。

朔は決断したように、「もういいだろう。順に話してよ」と、言った。
富子「分かったよ。これ以上、朔を焦らしても、詰まんないね」…
「亜紀ちゃんからの忠告のテープが見つかったときに、広瀬の奥さんからお祝いの電話があったと言っただろう?」…
「それで、ビックリして電話を切ってしまったんだけど、暫らくしたら電話がかかってきて、『どうされました?何かお困りでも?』って」…
「それで、『亜紀ちゃんのテープが、朔への』て、言ったら、逆に吃驚されて」
富子が言い終わるやいなや、朔は「ど、どういうことだよ!」と叫んだ。
朔の興奮を抑えながら富子は話した。
「『今まで、聞いておられなかったのですか?それで、よく、朔君をお医者様にされましたね』て、逆に聞かれたんだよ」
続きを待っている朔を横目で見ながら、お茶を一口。
朔「そ、それで、どうなったの?」と、たまらず口走った。
朔が落ち着いてきたのを確認して、
富子「話さないよ。朔。亜紀ちゃんが朔にお医者さんのことを話したことがあったろう?思い出すまで、話さないんだから!」
と、言った後、腕組みをし、テコでも動かない態度をとった。

潤一郎はニヤニヤしながら、
「さあ、核心部分の展開かな。少し、頭をすっきりしなくちゃ、なァ…。濃いお茶を入れてくれないかね」と、言った。
二人、お茶をすすりながら楽しそうに微笑んでいた。
暫らく沈黙が続いた。

そして、富子は待ちきれなくなってしまい、「朔、どうなんだよ…?」と催促した。
朔「ずっーと、そのことばかり考えていたんだ。頭を振っても、出てきやしない!」
そのとき、頭の奥で閃いた。
「あ、あ〜、時と場所は判らないが、確か〜、亜紀が、『朔ちゃんて、じっくり考えて結論が出ると、猪突猛進だね。お医者さんなんか、向いているんじゃない?』と、言ったんだ」…
「そしたら俺は、写真館を継ぐことに決めているからと、答えたことがあったよ」
朔は「そうだ、そのときの亜紀は、がっかりしたようで、元気がなかった」と、思い出した。
富子「ピンポン!正解だけど、それだけじゃ20点ってとこかね。まぁ、17年前だから許してやるよ!」

富子「広瀬の奥様がおっしゃたこと言うよ。朔!」…
「亜紀ちゃんがもう長くないとわかったとき、ご主人の真さんがね、『亜紀の写真は残せるが声は残せない』とおっしゃって、テープをすべてコピーすることにされたんだ」…
「朔、智世、介、坊主も含めすべてだね。だから私ら3人に渡されたテープも当然コピーされて、ご夫婦は後で、落ち着いてから聞かれたそうだ」
沈黙。
富子「それで、朔をお医者さんにする、亜紀ちゃんの計画が判ったんだって!」…
「消し忘れのようにしてあったけど、もう1本、朔宛のテープがあったんだよ、別にね」…
「故意に残しておいてくれたようだって、仰っていたよ」
朔は動揺して、目を白黒させていた。
長い沈黙が続いた。

朔がやや、落ち着いたのを確認してから、富子は言った。
「それでね。広瀬さんのご主人がすべてDVDに記録しておられるそうだ。朔さえよかったら、明日、お待ちしていますとのことだよ」
朔はビックリして言った。
「え、今日お会いしたばかりなのに、何にもおっしゃらなかったよ」
富子「ン〜。ちゃんとお聞き。朔!」…
「それで、その翌日、広瀬さん宅で、4人、お会いすることになって、亜紀ちゃんのもう一つのテープを聞かせていただいたんだよ」
富子は広瀬宅を訪問したことを淡々と話し始めた。


続く
...2004/12/02(Thu) 19:18 ID:2JqQH72w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:北のおじさん
Apo.様。

『残されたテープ編(新解釈)』、いつも楽しみに読ませて頂いています。
前回掲載された内容を知りつつ読ませて頂いていますが、段々とストーリーも変わってきてこれからの展開が楽しみでなりません。
毎日掲載していくのは大変なことと思いますが、がんばって下さい。
...2004/12/02(Thu) 22:32 ID:U1HYR5D6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
北のおじさんへ

声援ありがとうございます。頑張ります。
...2004/12/03(Fri) 18:22 ID:jkxtjJ4U    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−




1989年春
(廣瀬宅1)
紫陽花の季節には少し早いが、その香りが仄かに漂っていた。
亜紀の匂いでもあった。

ずーっと外の様子をうかがっていたらしく、玄関のチャイムにふれることなくドアが開いた。
真「やあ、いらっしゃい。どうぞ、遠慮なさらずに」
3人、応接間に入る。

潤一郎「最近、お身体の調子がよろしくないとお聞きしましたが、具合は如何ですか?」
真「はい。毎日散歩をするようになってから、ほら、ご覧のとおり元気になりました。最近、気力が無くなって、あまり動かないでいたのが原因でした」と、言いながら腕を回すのだった。
富子「そう、そうでしたか。元気になられて何よりです」
綾子がお茶の道具を持って現れ、「いらっしゃいませ。昨日は失礼いたしました」と言う。
富子「いえ、こちらの方こそ。吃驚されたでしょう?申し訳ありません」…
「奥様、つまらないものですけど、近所で作っている佃煮なんですよ。どうぞ。結構おいしいと評判ですから」
と、言いながら包みを開いた。
潤一郎「自分で言ってりゃ、きりがないんだから」

綾子は土産を手に取り、「まあ、おいしそう。ありがとうございます」…
「改めまして、朔君、ご卒業おめでとうございます。それから、医学部のご入学すばらしいことで、立派な息子さんでいらっしゃいます」と、お辞儀をした。
潤一郎「とんでもございません。卒業式にも出ず、置手紙を残して行ってしまいました。廣瀬様には大変ご迷惑ばかりおかけしまして」と、お辞儀を返す。
真「とんでもない。朔はいい奴です。亜紀が惚れた立派ないい奴です」…
「いや。朔太郎君!」…
「これは、失礼しました」と、頭をかく。
富子は、「いいんですよ。朔で。気にしないでください」と、手を振りながら、言った。
「わたしらにとっちゃ、亜紀ちゃんは、亡くなったけど、朔の嫁になる人だったんですから」
潤一郎が続けて、言った。
「廣瀬家の義理の息子になりますよ」…
「そう、昨日から。3人、決めたんです!」
真と綾子は顔を見合わせた。
綾子「昨日、お聞きして芙美子さんのこと、二人で泣いてしまいました」…
「ありがとうございます」と、二人は深く頭を下げた。

綾子は、お茶の仕度を始める。
家の中に穏やかで、暖かい、ほのぼのとした空気が流れ続けていた。
それが、次第に濃くなってくるように感じた。
真「まあ、お茶でもゆっくりお飲み下さい。その間に、準備しますので」

10分後。
真「まず、主治医の佐藤先生のテープに入っていたのを回します。入院中に亜紀がこんなことを考えていたとは!」
しばらくして、亜紀の声が流れ出した。

亜紀「佐藤先生、お世話になりました。いろいろと、ご迷惑をおかけしました」…
「あの日、先生から教えていただいた医師が診察する位置、マインドコントロールのお話、とっても嬉しかったです」…
「夢と、希望を持って、いってきます」…
「ありがとうございました」
真テープを止める。
沈黙が続く。

一呼吸してから言った。
綾子「何のことか判らないので、その数日後、入院費の支払いがありましたから、佐藤先生のところにお礼に伺ったんです」…
「そのとき、思い切って教えて下さるようにお願いしてみました。すると、笑いながら快く教えて下さいました」


続く
...2004/12/03(Fri) 19:04 ID:jkxtjJ4U    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−




1987年夏
(病室2 亜紀と佐藤先生)
唐突に訊いた。
亜紀「先生、いつも私の左側に立たれますけど、どうしてなんですか」
佐藤Dr.「はっは!患者さんから訊かれたのは亜紀ちゃんが初めてだよ」…
「いいかい、着物はどんな襟合わせかな?心臓の位置は?利き腕に注射するかい?利き腕は左右どっちが多いかな?」
亜紀「なーんだ、そんなことか。患者に負担が少なく診察出来るように、そうなんですね!」
佐藤Dr.「賢いね。亜紀ちゃん。大学病院の授業で、教授が病室を回診するときね、教授の立つ位置なんだよ」…
「生徒や看護師さんの立つ位置も、だいたい決まっているのさ」
と、言いながら血圧を測定した。

思案したが、思い切って訊いてみた。
亜紀「念を懸けると、ほんとうにそうなってしまうことは、何でなんですか?」
佐藤Dr.「マインドコントロールのことかな?そうだね?いつも相手に優しく接したりして、受け入れやすい要求をしているとね、相手の考えが変わってしまうことがあるそうだ。そのことだよ」…
「洗脳は暴力的で、強制的にやることだし、念をかけるのは宗教的だね。怨念という言葉があるでしょう?」…
「両方の意味があるかもね。専門じゃないからこれ以上はわかりません」

明るく目を輝かせて、
亜紀「じゃ、先生。例えば、私のベッドの左側に、見舞いに来るたびに座ってもらって、『お医者さんに向いているね』って、言い続けているとどうなるの?」
佐藤Dr.「はは〜ん。君の彼氏のことかい?可能せいはゼロでは無いよ。優しく接して、何気なく言ったり、示したりしたら実現するかもしれないね」…
「朔くんだっけ?彼に医者になってもらいたいの?」
と、優しく、心を込めて言った。

亜紀「そうじゃなくて、退屈だから、空想の世界を楽しんでいるの」…
「先生、ありがとう!」


(亜紀の企て)
入院中の亜紀は毎日が退屈で、朔や智世達との思い出にひたる日々が続いていた。
そんなある日、亜紀はふと、企てを思いついた。

亜紀の空想…「もし、私が死んだら、朔ちゃん、すごい、悲しむよね。きっと」…
「朔ちゃんのこと、からかってばかりだったけど、好きな人にしか、しなかったよ。ごめんね。」…
「朔ちゃん。私が朔ちゃんを好きになったのは、いつからか知らないでしょう!うふふ。内緒にしていたけど、永遠に判らずじまいじゃシャクだよね」…
「それでね、テープで告白しておくからね」…
「それと、計画」…
「朔ちゃん、お医者さんに向いていると思うの。絶対、そうだよ。」…
「佐藤先生からいいこと聞いちゃった。これから朔ちゃんが来る度に、仕掛けておくからね。絶対、成ってね、お医者さん」…

「写真館を継ぐの、早すぎるよ」…
「朔ちゃんには大きな夢を持ってもらいたいな!」…
「夢が叶うといいね。朔ちゃん!」…
「私、朔ちゃんのお嫁さんになるのが夢です。それで、可愛い女の子がほしいな」…

亜紀は、そう、考えているうちに、自然と涙が溢れ出してきた。



続く
...2004/12/04(Sat) 10:05 ID:VJPC.A5w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−




1989年春
(廣瀬宅2)
真「続いて、亜紀が私たち宛に残してくれたテープです」
しばらくすると亜紀の声が聞こえてきた。

亜紀「お父さん。お母さん。ごめんね」…
「これは、自殺なのか、わかりません。だけど、頑固で、負けず嫌いで、カッコ付けで、泣き虫の最後のワガママ」…
「白血病で死ぬことが、私の運命だとしても、そんなものに、私の17年を潰されたくない」…
「きっと、行きたいように、生きるために、産まれてきたから」…
「最後まで、そうしたい。青空を見にいく」…
「ワガママでごめんなさい。…」

真は、いったんテープを止めて、
「これが、残されたテープのA面の最初に録音してありました。次に、B面の後半の部分に録音してあったものです」
と言って、テープをひっくり返し、そしてスイッチを入れた。

暫らくして、
亜紀の声が流れ出した。
亜紀「朔ちゃん。朔。好きよ!大好きだよ!」
昨日聞いた声よりも、しっかりとしたものだった。
無音。

亜紀「告白します。私、朔ちゃんのこと、高校入学のときから好きでした。大好きでした」…
「朔ちゃんは覚えていないと思います。それが私だったとは」…
「廊下を、1年生の教室に向かう途中、朔ちゃんが後ろから頬指杖したでしょう」…
「びっくりして振り返ると朔ちゃんが真っ赤な顔でうつむいていて、『ごめんなさい。これ落としました』と、ハンカチを差し出して、『拾おうとして、踏んづけてしまって…汚しちゃって』と、渡してくれた」…
「あの時、私の顔を見られなかったでしょう?」…
「私が『いいよ!有り難う。予備があるから』と、言った瞬間に朔ちゃんは教室に入ってしまいました」…
「そのとき、ビビビと電流が身体の中を走り回り、好きになりました」…
「その後、智世に朔ちゃんのこと、探りを入れ、毎日、遠くから探偵していました。」…

「頬指杖は朔ちゃんが教えてくれたんだよ」…
「それで、『入学式のことを思い出して』って、合図のつもりだったのに、最後まで気づかないじゃない。まったく、もう」…
「智世とは親友になったけど、朔ちゃん達4人がうらやましかった。すごい、仲が良いんだもん!」…

少し間をおいて、
亜紀「…お葬式の日、急に雨が降り出してきて、字が読めなくなってパニック。『助けて!朔ちゃん』って心の中で叫んだの」…
「そしたら、だんだんと近づいて来る人が朔ちゃんだと感じて」…
「ほんとに朔ちゃんが傘をさしだしてくれた。『夢、夢がかなった!』と、びっくりしました」…
「私、読めなくなりそうで、みんなが見ているし、うわのそらで、もうパニック状態」…
「ほんとうは、喜びでいっぱいだったけど顔に現せなくて、ごめんね」…
「ずーっと、ずーっと、朔ちゃんを見るたびに祈りを送っていたの。私のことを振り向いてって!」…
「乙女の祈りは怖い、ぞよ!」…

呼吸を整えて、
亜紀「だから、あの日から朔ちゃんの考えていることが、徐々に判るようになったの」…
「でも、朔ちゃんに私のことを、いつも、振り向いてもらいたくて、いろいろ試したりしちゃった。ごめんね!」…
「朔ちゃんとはテレパシーで自然に感じ合いたかった」…
「朔ちゃんと、もっと、もっと、もーっと、キスしたかった。何千回も何万回も!」…
「そして、朔の子供も」…
亜紀は泣いていいた。

亜紀「シー、シー、それからね、私が死んだ後、朔ちゃんがお医者様になりますようにと、ずーっと、祈っていました」…
「もし、もしも、もしも、朔ちゃんが立派なお医者様になる私の夢が実現したら」…
「その次に、朔ちゃんが私の死の意味を理解したなら」…
「きっと、私は朔の中で、朔が死ぬまで生き続けることが出来る。朔の身体は私と共用ね」…
「そうなれるように、それまで、頑張れ!幸せになってね。朔!大、大、ダーイ好きだよ!朔ちゃん!」…
「死んだ後も、乙女の祈りが通じるか勝負でござる!ぞよ!」…
「私の両親も宜しく、ね。朔ちゃん!」
暫らく沈黙の後、

亜紀「(小さな声で)朔ちゃんには当分聞かせないでね」…
「朔ちゃんがテープを聞きたいと言って来るまで。お願いします。お父さん!お母さん!」

真、テープを止める。
真「こ、これは、直ぐに見つからないよう」…
「消し忘れたように、工作したんだと思います。」
沈黙が続いた。



続く
...2004/12/04(Sat) 19:21 ID:VJPC.A5w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−残されたテープ編(新解釈)−


10

潤一郎と富子は、亜紀がテープで言ったことを頭の中で一生懸命に整理した。
しばらく、静けさが続く。

潤一郎「こういうことですか。亜紀ちゃんは死ぬ前に朔に対して医者になるようにマインドコントロールした」…
「それが実現し、朔が亜紀ちゃんの死を受け入れられたら、亜紀ちゃんは永遠に朔の心の中で一緒に行き続ける」…
「そのとき、朔と亜紀ちゃんは一体となっている。」
真「そうです」…
「朔が医師になったのが、偶然かもしれませんが、亜紀は、朔を亜紀のベッドの左側にいつも座らせようとしていたのは、事実です。他の人たちは右側。佐藤先生もそのとき以来、左側を避けるようにされたそうです」…
「私が左側に行くといやな顔をするんです。どうしてかわからず、私は嫌われていると思ったりしました」…
「綾子とどうしてだろうと話し合ったこともありました」…
「おそらく、入院中に亜紀は朔を医者することを想像し、その夢を託したのでしょう」…
「朔宛てのテープ。これは、私たちへ宛てたメッセージでもあります。そのテープをひっくり返して巻き戻し、病院を抜け出した侘びを録音し、A面のみに宛先を入れる」…
「朔へ宛てた告白のテープは、よく聞くと声質が違うんです」…
「それで、同じ日じゃなく、その日より、ずーっと、前の日、計画を実行にうつした後、直ぐに録音した。と、私たち夫婦で結論づけました」
沈黙

「テープのA面に、私達あてに録音した後」…
「その次に、松本さん宅3人に宛てたテープを吹き込んだのだと思います」…
「それから、こんなものを。朔の誕生日にあげるつもりで創っていたようです」
と、言いながら『ソタノウタ』の絵本を開いて見せた。

潤一郎と富子は絵本のすばらしさに感動するのだった。
富子「亜紀ちゃんってすごい!朔のためにこんなに!」
涙が溢れ出して止まらなかった。
潤一郎も涙に咽ぶのだった。

真「朔は亜紀の死をまだ受け入れていないようですね。あの日以来、一度も訪れてくれません」…
「医学部に合格したのでそろそろ来てくれるかと思い、家内がお電話したのです」
潤一郎「そうでしたか。誠に申し訳ありません」…
「死に物狂いで勉強をしていたし、立ち直ったのではと思っていたのですが」と、言いながら頭を下げた。
綾子「そんな意味で言ったのではないんですよ。私たちも朔君のことが大好きなんです。実の息子のように思っています」…「朔君がウエディングドレスを貸してくれと言ってきた日、病室でキスしている二人を見てしまいました」…
「私、とても嬉しかったんです。亜紀が幸せそうで。その日から私たち夫婦、朔君と亜紀、二人が私たちの子供だと思うようになりました」…
「次の日はとってもステキな結婚式でしたわ」
思い出して、うっとりとした顔になった。

真「そうなんですよ。ウルルに3人で行ったとき、私たちには朔がそばにいてくれたので、そんなに淋しくなかった」…
「実を言うと多少は楽しかったんです。息子が出来た気持ちでした」…
「それで、朔が早く立ちなおるように願っています。朔は思い込んだら一直線みたいな男の子ですから、そっと見守ってあげたいと思っています」…
「亜紀が残したメッセージを朔に示すのは大学を卒業してから、いや、立派な医師になってからでもいいのでは、と思うようになりました」

納得して、頷きながら言った。
富子「そうですね。そうしましょう。朔は鈍感ですから。思い込んだらなかなか変えるのは難しいんです」
潤一郎「猪突猛進ってやつですか」
綾子「そうですね。亜紀もそう言っていましたね。ホホホホ」
4人、笑いに包まれた。


続く


プロローグとしての「残されたテープ(新解釈)」はこれで終了です。
本編と繋ぎにくい短編を特別編として、適当に挿入することにしました。
お楽しみに!
...2004/12/05(Sun) 09:57 ID:.Sv9PcGc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−特別編1−


11

2004年夏
(明希の回想)
バイクに撥ねられた交通事故で、小林明希は入院している。
一時は意識が無かったが懸命の措置で一命を取り留めた。
付き添っていた息子の一樹は安心したのか、幼馴染の藍ちゃんに会いたがり、そのお宅にあずかってもらうことになった。
また、朔は亡くなって17年になる亜紀とのケジメをつけるため宮浦の実家に向う。

朔から、『小林』でなく、『明希』と呼んでもらえるようになっていた。
遂に、念願が叶った喜びに浸る。
そして、息子の一樹を妊娠したと、分かったとき、朔に相談した日のことを思い巡らせた。

(朔が勤める病院で)
医師となった朔が研修医として働き出した頃だった。
職場を訪ねてきた明希が話をしたいと言ったので、病院の庭にあるベンチに案内した。

朔は空を見上げながら言う。
「俺、考え事するとき、よくここのベンチに来るんだ。空を見上げながら考えると、心が落ち着いてくる」
そして、明希を座るように促した。
思案していた明希は、朔の心遣いが解かり、思い切って話してみる。

明希「松本君、相談があるの。聞いてくれない?」
朔「いいけど。改まって、相談なんて!何か困ったことでもあるの?」
一呼吸置いて、
明希は「じゃ、話すね」と言い、静かに語る。
明希「私の両親が事故で死んでしまったのを知っていると思うけど、とても家族が欲しかったの。私、一人ぼっちだったから。」…「松本君も何か淋しそうな雰囲気があって、私と同じような境遇かなって思って話しかけたんだけど」…
「後で、違うと分かったけどね。友達になれて嬉しかったわ。いつも相談にのってくれた」…
「お陰様で、大学を卒業できて社会人になれた。ありがとう」
朔「礼なんていいよ!」

明希「うん。それでね。付き合っていた彼と結婚できると思っていたの。新しい家族が出来るって」…
「でも、うまくいかなくて、分かれたんだけど。その後ね。子供が出来ているのが分かった」…
「産みたいと思うんだけど、意見、聞かせて?」

朔はビックリした。
どう話したらいいものかと思案した。
暫らく考えているうちに、頭の中に思い当たる言葉が浮かぶ。
「そうだね」と、落ち着いた態度で、諭すように話す。
「何かを失うことは、何かを得ること。何かを得ることは、何かを失うこと。人生は帳尻が合うようになっているんだ」…
「何かを得るためには、努力することが大切だと思う。また、喜怒哀楽のある人生が一番、幸福だと思うよ」…
「小林が新しい生命を産みたいと思ったのは、何かを得ることだと思う!」

暫らく間を置いた後、続けて言った。
「俺で出来ることがあったら、何でも協力するよ。身近な人の生命が失われることに耐えられないんだ」…
「君のおなかの中に居る生命は、いきたいように生まれて来るんじゃないかな。そう、思う」

朔の話に納得した明希は「うん」と言って、頷いた。
決心した顔つきで、言う。
「私、産むわ。そして、家族をつくるわ。一人ぼっちじゃなくなる。頑張ってみる」
朔「なんだか、さっきの顔つきと別人みたいだね。希望に満ちている。幸せそうだね」
明希「ありがとう。松本君に相談してよかった」…
「いい言葉ね。『何かを失うことは、何かを得ること』って、これからの励みにするわ」
そして、ダメ元だと思い言ってみる。
「それから、あつかましいお願いなんだけど、生まれてくる子供の名付け親になってくれない?!それと後見人も…」
探るような目で朔を見つめた。

朔「俺で良かったら、何でもするって言っただろう。気にしない!気にしない!」
と、手を振りながら、笑った。

明希は、何て、心の広い人だろう。
『松本朔太郎が生まれてくる子供の父親だったら幸せになれる』と、そう思った。


続く
...2004/12/05(Sun) 19:19 ID:.Sv9PcGc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


12

2004年夏
(松本宅3)
富子が廣瀬宅での出来事を話し終えた。
すると、朔はますます悩んでいる表情を見せた。

富子「ん?どうしたんだよ?わからなかったのかい?」
朔「いや、違うんだ。よくわかったんだけど。卒業式の日に電車で一緒に東京に行ったんだよ。亜紀と」…
「今、はっきりと思い出した。あれは亜紀だ。どうなっているんだ!頭が何か、変だよ!」
と、言いながら頭を振り続ける。

潤一郎「そんな。お前、まだ亜紀ちゃんが死んだことを!」
と、不安そうな顔つきで、言った。
朔「違う。違う。まだ他に何かあるような気がする。廣瀬のお母さんに確認すると訳が分かると思う」…
「明日の朝、もう一度お伺いして来るよ」

不安顔で、
富子「廣瀬さんが明日、朔が来るのを待っていますって説明したじゃないか。変な子だよ、まったく」…
「今日は色々なことが一度にあったから疲れたんだよ。お風呂に入って早くおやすみ。明日にはちゃんとなるから」
朔は、「そうするよ」と言って、部屋を出て行った。
潤一郎と富子は顔を見合わせ、心配な表情を見せた。

長い夜が明けた。

朔は目が覚めても、夢か現実か判断が出来ない状況。
明らかなことは、夢だと思っていた亜紀との出来事が、よりいっそう鮮明なものになってきたこと。
そして、本当にあったことじゃないかと思えるようになったことだ。

…亜紀から朔宛に残されたテープに秘密が隠されていたことに、朔はまだ、気が付いていない…

朔「おはよう」
富子「おはよう」
そして、朔の方を見て言った。
「顔色が悪いよ。二日酔いじゃないのかい?食事にするから顔を洗ってきな!」
洗顔すると、朔は少しさっぱりした気分になった。

朔は、朝食が済んだら、直ぐにでも廣瀬宅を訪問して確かめたい気分。

朔の傍に来て、労わるように、
潤一郎「先ほど、廣瀬さんに電話しておいたよ。9時にお待ちしていますと伝えてくださいとのことだ」…
「気が済むまでお話をしておいで」…
「さあ、朝食だ。久しぶりだね。3人での朝食は、母さん」
そう言って、朔の肩に手を置いた。

朔は痛感した。
「長い間、両親に心配をかけてしまった」と。

朝食が終わり、暫く休憩した後、自転車に乗って廣瀬宅へ向かった。

(廣瀬宅3)
昨日、訪問したばかりなのに、今日感じる感覚は昨日とはまるで違う。
「朝、訪れたためかな?」と、考えたがどうも違うようだ。
とても懐かしく、そして、久し振りといった様なものではなく…
毎日、来ているような…そう、我が家に帰った感じ。
そうだ。
亜紀が毎日、帰宅している感覚。

…亜紀と一体になった感覚。それは、亜紀の心の声が朔に『かたちあるもの』として示していること…

玄関で綾子が迎える。
挨拶を交わす。
朔「おじゃまします」と言って靴を脱ぎ、上がる。
綾子「いらっしゃい。待っていたわ。朔君!昨日はあんまりお話出来なかったけど、私、この日が来るのを楽しみにしていたのよ」
と、親しみ深く、言った。
朔「そ、そうですか??」
綾子「亜紀の部屋でちょっと待っていてくれない。お茶を準備したら、主人と行くから」と、明るく笑う。
それで、朔は「はい」と、素直に言った。
「亜紀のお母さん、とても楽しそうだ」と、朔は思った。

そして、階段を上る。


続く
...2004/12/06(Mon) 19:12 ID:81sdISo.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


13

亜紀の部屋に入る。
ビックリして、目を見開いた。
朔、呟く。「ど、どういうことだ。これは」

昨日とはまるで違う。
「昔の、亜紀の部屋に変わっている。どうして?」…
「ウルルに出発する前の晩、こっそり進入したときのままだ」
違うのは机の上。それは…位牌と写真。
そこには、様々な亜紀の写真で飾られていた。
そして、壁には朔が撮った空の写真が…。
17年前の亜紀との出来事が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

暫らくして、綾子と真が現れた。
真「やー。いらっしゃい。朔」
と、右手を上げながら、親しい態度を示した。
朔「お邪魔しています。亜紀の部屋、どうなされたんですか?昨日とは…」
朔の話を制して、言った。
綾子「びっくりしたでしょう?でも、懐かしいでしょう?亜紀とウルルに向かった前の晩以来ですものね。ウフフ!」
朔「し、知っておられたんですか?」
すまなさそうな顔つきになった。
真「そりゃ分かるさ。亜紀の服を盗みに入ったんだろう?」
真と綾子は笑っている。
朔「はい。亜紀が必要なものをメモして」…
「亜紀は、『今日は両親がいないから』って、言いました」

綾子は頷き、そして、はっきりと言った。
「私、この日が来るのを17年間も、待っていましたよ。昨日、朔君が訪問してくれたので、半日がかりで、亜紀の部屋を昔に戻したの」
真は「おかげで、腰痛が出てしまったよ」と、言いながら腰を擦った。
顔は笑ったままだ。

綾子はお茶を入れながら、「訳は後でお話しするわ。楽しみは後のほうが良いものね。先に朔君の疑問を聞かせて!」…
「さあ、お茶をどうぞ。慌てなくてもいいのよ。ゆっくりと、ね。時間はたっぷりありますから」
優しく、心が和むように話した。
朔はお茶を飲みながら、「はい、分かりました。昨日から頭の中に浮かんでくることをお話します」
と、言った。
多少、緊張していた。

1989年春
(旅立ち1)
卒業式の日、朔は一人、宮浦駅にたたずむ。
何処からともなく、桜の花びらが舞い落ちてくる。

朔の目の前を、少し暖かくなった春の風が横切った。
湿った潮の香りを感じる。
夢島の香りを思い出してしまった。
しかし、あのときの、倒れた亜紀の姿が現れてしまうので、直ぐに頭を振って思い出を断ち切った。

俯き加減に進むうちに、亜紀と最後に座ったベンチが目に入る。
直ぐに目を逸らす。
空港で倒れてしまった、意識をなくした亜紀の弱々しい顔が蘇り、そのベンチに近づくことが出来ない。
それで人目を避け、プラットホームの最先端に向かう。
そこのベンチに腰を掛け、荷を降ろした。

俯いたまま、
朔「ごめんよ。介、坊主、智世。どうしても卒業式に出られなかったんだ」と、呟く。
介達が谷田部先生と話しているとところを立ち聞きしてしまった。
亜紀の写真を卒業式に参列させるって、聞いた。
そのとき、自分はどうなってしまうだろう。
再び、亜紀を死に追いやってしまったことへの後悔に嘖まれ、1年前の状態に戻ってしまうと思った。

朔は、亜紀が死んでしまった現実をそのまま受け入れることは出来ない状態だった。

「一人で旅立とう…
医師になって生と死を理解できるようになろう…
そうすることが亜紀の苦しみに近づくこと」、そう思った。
朔は、亜紀が感じ、思っていたことを少しでも理解したかったのだ。


続く
...2004/12/07(Tue) 17:50 ID:qnuWDl6k    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


14

暫らくしたら、列車の到着を知らせるアナウンスが流れた。
ゆっくりと停止位置の白線に近づく。

東京行きの電車がブレーキ音を響かせ停止した。
ドアが開くと同時に、乗客がドアの位置に移動する。
降りる客はほとんどいなかった。

朔は停止した列車に最後に乗り込む。
人目を避けるように襟を立てる。
朔の周りに、生暖かい、奇妙な、空気の感覚があった。
背中に誰かがぴったりとしがみついているような気がする。
先頭車両に移動した。
「はっ」とした。
「何?」、「白昼夢?」

目の前に、亜紀。亜紀が立っている。近づいてくる。
ウルルに旅立った日の服装のままだ。それに微笑んで…
そして、亜紀の口が開いた。
「うふ、ビックリした?」…「わらわは、会いに来た、ぞ・よ!」…
「朔ちゃん一人で行かせられないよ。とても寂しそうだったもの」
少しはにかんで、続けて言う。
「二人で座ったベンチも避けるし」…「朔ちゃん!自信を持ってね」…
「卒業おめでとう!」…
「それから、よく頑張ったね。医学部!合格おめでとう。朔ちゃん!」
底抜けに明るい亜紀の笑顔が、目の前に迫った。

身体が硬直して、しばらく動けなかった。
朔「あわわわわ」、言葉が出てこない。
「夢の中なのか、妄想なのか、これは現実なのか?」と、思った。

顔をつねってみた。
痛かった。現実だった。

朔「ど、どうして?亜紀!本当は、い、生きていたんだよね。病気治っていたんだね!」
喜びで、涙が溢れ出す。
亜紀「ずーっと、ずーっと、頭に描いていたのよ」と、悪戯っぽく微笑んだ。
そして、腕を組んできた。
でも、触られている感覚がまったく無い。
亜紀に引っ張られるように、二人は、先頭のシートに腰掛けた。
周りには誰もいなかった。

亜紀「安心して、朔ちゃんにしか私のこと見えないから。目、目を瞑って、好きなように、私の服装を想像してみて!」
朔はセーラー服姿で元気だった頃の亜紀を想像した。

目を開けると想像したとおりの服装に換わった。隣に座っている。
交際を始めた頃の元気で、そして爽やかで、目をクリクリして見つめてくれた亜紀。

空港に向かった時と同じように腕を抱えて、朔にもたれかかってきた。
亜紀「ね、分かったでしょう!」…
「私、誰もいない世界で、この日が来るのを、ずーっと、待っていたのよ」…「朔が現れる時を」
懐かしく、そして情を込めて朔の腕に頬擦りした。

その後、語り始めた。優しく諭すように、ゆっくりと。
「朔ちゃんに告白したいことがあるの。雨のお葬式の日、朔ちゃんが傘を差し掛けてくれた。その日以来、私が朔ちゃんのこと好きになったと思っているよね」…
「ほんとはそうじゃないの。その、ずーっと、前。高校入学の頃からなの」

朔は催眠術にかかったように、従順になっていた。

列車は明るい春の日差しの中を走り続ける。
『ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン、…、…』と、リズミカルに走った。

朔は眠っているようで、そして楽しそうで、亜紀の話を聞いていた。



続く
...2004/12/08(Wed) 19:10 ID:pBUsSJuI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


15

1986年春
(松本写真館)
廣瀬宅。
入学式を明日に控えた日のこと。

亜紀は高校の新しい制服に身を包み、明るく元気な声で、
「お父さん、お母さん!どう?似合っている?」と、両手を広げ、はしゃいで言った。
真「見違えるようだね。大人になったように感じるよ。しっかり勉強しなくちゃね」
と、読んでいた新聞を置いた。
亜紀「おとうさん。必ず勉強がつくんだよね」

綾子は微笑みながら言った。
「そうだ、亜紀ちゃん。良い機会だから写真を撮ってきたら。生徒手帳用に提出しなくちゃいけないでしょう?」
亜紀は待っていましたとばかり、「そうだね!」と、言って玄関に駆け出す。
真と綾子は顔を見合わせ笑っていた。

ステップを踏みながら、松本写真館にやってくる。
入ろうとすると、「じゃーね!じいちゃん」と言って、学生服の男の子が飛び出してきて、ぶつかりそうになった。
謙太郎「ああ、任せときな。朔!」と、中から大きな声がした。

亜紀は一瞬、朔と目が合った。
「素敵な目をしている」と、思った。「写真館の子供かしら?」
朔は「良い匂い」と感じた。
お互い会釈してすれ違った。

亜紀は写真館に入り、「あの、写真をお願いしたいんですが?」と、目をパチパチしながら言った。
謙太郎「はい、生徒手帳用だね」
亜紀「はいそうですけど。記念写真もお願いします」
謙太郎「承知しました。どうぞ、こちらへ」と言って、スタジオに立たせる。
カメラから覗いて、「良い子だな。朔のお嫁さんにどうかな」と、思った。

(入学式前、廣瀬宅)
真は「行ってくるよ。亜紀、今日は、入学おめでとう」…
「母さん。今晩のお祝いはカニクリームコロッケにして!」と、言って事務所へ出かけようとした。
「お父さん、いつもそうだよね」…「いってらっしゃい!」と、亜紀が声をかけた。
真が玄関を出て行く。
暫らくすると車の排気音が聞こえ、クラクションが「プップー」と鳴った。

準備を始めた綾子に向かって、
「お母さん、急がないと入学式始まっちゃうよ」と、亜紀がはしゃぐ。
綾子「亜紀ちゃん、どうしたのよ。時間は充分にあるんだから慌てないの。浮かれすぎよ、亜紀!」
綾子の手伝いをしながら、
亜紀「今日ね、私にとって一生で一番大切な日になりそうな気がするの。何でそうなのか分からないけど」…
「大切な人に出会えるような気がする」
綾子「そうかもね。亜紀ちゃん」…
「小学校から転校の繰り返しでお友達らしい人いなかったものね。完璧過ぎたのかもしれないね」…
「その性格じゃ、変な人扱いだから」…
「今度は転校なんてないからね。安心してね。お父さんも亜紀ちゃんには悪いことしたって、言っているのよ」
亜紀「仕方ないじゃない。家族なんだもん」…
「お父さん、一生懸命に働いて、こんな立派な家まで建ててくれたし、文句言ったら罰が当たるよね、きっと」

和服姿の母を見るのは久しぶりで亜紀は嬉しかった。
そして、ますますはしゃいだ。
綾子は亜紀が大人の女性になりつつあるのを感じていた。
ワザと、はしゃぐ振りをしていると感じたからだ。
「亜紀の大切な人って、彼氏のことかな?」と思った。

やがて二人は入学式へ出かけた。


続く
...2004/12/09(Thu) 19:38 ID:qGoet3lY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
こんばんわ。

お願いがあります。

14話の
亜紀「ね、分かったでしょう!」…
「私、誰もいない世界で、この日が来るのを、ずーっと、待っていたのよ」…「朔が現れる時を」

亜紀「ね、分かったでしょう!」…
「この日をずーっと、待っていたのよ」…「朔が現れるのを」
のどちらにしようかと、ずいぶん悩みました。
しつこいのでは?と思った次第です。

ご意見をお聞かせください。
後半部分にもドラマと重ねた会話がありますので。
悩んでいます。

全て、書きあげ、目下、細部の検討をしています。
宜しくお願いします。
...2004/12/09(Thu) 19:49 ID:qGoet3lY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 Apo.様
 なかなか熱のこもった力作ですね。毎晩,楽しみに拝見しています。
 早速ですが,第14話の亜紀のセリフですが,原案のままで別に「しつこく」なんかないですよ。むしろ,「誰もいない世界で」の一言があった方が,寂しかったのはサクだけではないということが表現できて,「つかの間の再会」のシーンが一際引き立つと思います。
 という訳で,私はいま掲載されている原案支持です。
...2004/12/09(Thu) 20:09 ID:m2/3/JIk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
にわかマニアさんへ

ありがとうございます。訂正しないことにします。
2での、にわかマニアさんのご指摘、ご指導で、再度書く勇気が出ました。感謝しています。

この後の展開ですが、高2のお葬式の日まで進みます。それと朔の大学生時代や幼稚園のエピソードなど盛りだくさんです。
年代が折り重なって展開し、ネタ(理由付け)が数箇所にありますので納得していただけるのでは?
一人で納得したりして!(笑い)
最終回を凝ったものにしてみました。自画自賛?

読み終わってからTVの再放送を見ていただくと、ドラマで抜けているところが補えるのでは?

では、読んでいただけると嬉しいです。
...2004/12/10(Fri) 18:53 ID:SJmemS7Y    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


16

(掲示板1)
穏やかな晴天。清々しい日だった。

廣瀬母子は校門を通り抜けた。
校舎脇に並んだ桜は花が散ってしまい、若葉が勢いよく木を覆っている。

着飾った、様々な親子が式場の体育館へ向かっている。
行く手に、たくさんの生徒が群れを作っているのが見えた。
校舎脇、掲示板の前で、ワイワイと騒いでいる。
その一団のひとつに、介、坊主、朔、智世の4人組がいた。
4人の両親は出席していなかった。
亜紀は掲示板で新入生のクラス分け表を確認する。
そして、4人の脇を廣瀬母子がすれ違う。

坊主「綺麗な母子だな!すごい、かわいい女の子。知り合いになりたいな」…
「高校っていいな!大人の雰囲気、恋愛したいなあ!」と呟いて、ボーっと、二人に見とれていた。
朔とすれ違う瞬間、目が合った。
亜紀が軽く会釈する。

掲示板で確認した智世は「朔と同じクラスだね」と、大きな声で言う。
朔は寝ぼけてボーっとしていた。
「ああ、そうだね」と、言って亜紀から目をそらす。
そのとき、亜紀に会釈されたので、「さっきの女の子何処かで会ったのかな?」と、考えていた。

亜紀は「はっ」とする。
「松本写真館でぶつかりそうになった男の子じゃないかしら」と思った。
それから昨夜、夢に出てきた『亜紀の王子様』に似ているように感じた。
「私のこと全てを理解してくれる唯一の人だったらいいな」と思った。

智世は向きを変え、二人に「介と坊主は何組なの?」と言う。
介「となりのC組だ」
坊主「俺、B組」
「離ればなれだね。ちょっぴり淋しい。初めてだよね。男、3人が別々になるの。必ず2人はいっしょだったのに」と、智世は言った。
朔、物静かに「俺は智世と、ずーっと、いっしょ、だよ」
智世「何よ、それ。不満な訳?」と怒り出す。
朔「そうじゃないよ。気心が知れた人が一緒だったら、心強いじゃない」
介「朔ちゃん、かわいそうに。智世の呪縛から逃げられずに!」…
「ねえ、お前さん!」
と言って、朔の肩をポンと叩く。
智世は介に突っかかり、「どういうことよ。私が朔のこと好きだと言いたいの?」
とは言ったものの、「介と一緒の方が良かったのに」と思うのだった。
智世の顔を指差し、
介「そんな言い方するからダメなんだよ。男の子みたいじゃないか」
智世は頬をふくらませ、怒ったふりして介を平手で打つ。
それを制しながら、坊主は言った。
「仕方ないだろう。4人、幼稚園からの腐れ縁なんだから。な、仲良く。な」

歩きながら、
綾子「亜紀ちゃんは何組だった?」
亜紀「A組よ」
…「あの人、何組なのかしら。A組だったらお知り合いになれるのに。それから活発そうな女の子。うらやましいなあ。男の子と平気ではしゃいでいる。仲良し4人組といったところね」…
と思った。

二人は式場の体育館に入っていった。


続く
...2004/12/10(Fri) 19:02 ID:SJmemS7Y    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
APO様
 初めまして!けんといいます。「後で会いに行きます編」一気に読ませていただきました。特に亜紀の高校入学式のエピソードは、私も亜紀は、葬式の時に朔が傘をかけてあげてから、好きになったようにドラマは設定しているようですが、APO様と同じように高校入学の時から、朔の事を見ていたと思っていたので、このエピソードはとてもうれしいです。そして、今後どのように亜紀は、朔達4人組と絡んでいくのかとても楽しみです
...2004/12/11(Sat) 01:42 ID:moz4.j4I    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
ごめんなさい。初めましてではないですね。失礼しました。それにしても、テープの解釈の亜紀の告白は、なるほどととても感心させられました。もしかしたら、朔が亜紀の事好きになるよりも亜紀の方が朔の事好きだったような気がします。原作や映画には、朔の方がどちらかいうと好きの度合いがあったかもしれませんが、ドラマはその逆の解釈も想像出来ますね。
...2004/12/11(Sat) 02:06 ID:moz4.j4I    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
けんさんへ

私と同じように感じていただいて、とても嬉しいです。
ありがとうございます。

自分の意見を書かないと言っておきながら、嬉しいので書きます。
一般に、女性は好きな男性が見つかると一生懸命でサインを送るものです。それでいて、自分からは「好きです。付き合って下さい」と言えません。受身なんです。
それで、男性に「好きだ」と言わせようとします。その後、女性の方が夢中になるのでは。と、私は思います。
TVドラマでは亜紀の方から好きと言っています。普通ではありません。それで、その溝を埋めたくて描きました。

26日までの掲載の予定にしていますが、数えたら1話余るようです。途中で2話分掲示します。

読んでいただいたご意見を書いていただければ嬉しく思います。
...2004/12/11(Sat) 11:26 ID:w4SDZ4uU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


17

1986年春
(入学式が終わって)
朔は式の最中、ウトウトしていた。
昨夜、遅くまで本を読んでいて睡眠不足気味だったから。
「朔、先に行っているわよ。間違わないでね。D組よ」と、言って智世は朔の肩を揺すって体育館から出て行く。
目が覚めた朔は、「え!寝ちまった」
新入生は保護者同伴で教室へ向かっていた。

体育館を出たところで、
綾子「ちょっとトイレ行ってくる。A組だね。先に行っていて」
亜紀「お母さん、方向音痴だから途中で待っているね」
渡り廊下の途中にある手洗い場で手を洗って、何気なく振り返ってみた。
廊下を急ぎ足で、さっきの男の子が近づいてくる…
「あっ、あの人(男の子)」慌ててハンカチを落としてしまう。…それを亜紀は気付かない…
そして1年の教室がある棟の方へ4、5歩行って立ち止ってしまう。

朔は、前方にいた女の子が振り返り際に、ハンカチを落とすのが目に入った。
「気がついていないみたい」…「拾ってあげよう」と立ち止まり、手を伸ばすが、
後ろから来た生徒に押され、バランスを崩してハンカチを踏みつけ「あーあ、どうしよう!」
手に取ると、くっきりと足跡が付いている。
朔「悪いことしちゃったな。謝らないと」と思い、女の子の後ろに進み出た。
そうーっと手を肩に差し出す。
またもや後ろから押されてしまう。

肩に手が触れる。
甘酸っぱい良い香りを漂わせた亜紀が「なーに?」と明るく振り向く。目がクリクリしている。
指先が頬に当たった。
ビビビっと電流が亜紀の体中を駆けめぐる。不思議そうな顔つきになり、「あ、あ、やっぱりあの人だ!」
顔を真っ赤にして、俯いて、手にはハンカチを持って差し出している。
白いハンカチに泥跡が付いているのが見えた。

朔は「良い香り」と感じたが、「もっと、悪いことをしてしまった」と思い、まともに女の子の顔を見ることが出来ない。
俯いたまま、「ごめんなさい。ハンカチ落としました。拾おうとして踏んづけちゃって、汚して…」
亜紀「ありがとう。いいのよ。気にしないで。代わりのものがあるから」
と言って、ハンカチを受け取ると、同時に朔は1年生棟に駆け込み、D組の教室へ逃げ込んでしまった。
亜紀は受け取ったハンカチを胸に当て、逃げ去った朔の方を見つめていた。
「やっぱり、あの人だ。写真館で出会った人だわ。これって運命?」
胸が「ドキン、ドキン」と波打っていた。

その経緯を綾子はトイレから出て、見ていた。
「これが、亜紀が言っていた大切な人との出会いかしら?」と呟いた。

(1年A組)
掲示板に書いてあった学籍順の番号札が机に貼ってあった。

担任が自己紹介をした後、1年の行事、心得等を説明する。
そして、最後に言った。
担任「今日の席順は学籍番号順にしてあります。明日、1時限目のLHRで席を決定しますので、今日は荷物を置かないように」…
「そのとき、各自、自己紹介をすることとなるが、その後、学級委員を決定して席順を決めてもらいます」…
「学級委員に立候補する者は自己紹介のときに、申し出てください。立候補がない場合は中学での経験、成績から当方で指名することとなります。その場合、信任投票を行ってもらいます」…
「以上です」…
「明日、会いましょう。保護者の方々、御苦労様でした」
新入生は、保護者を伴い教室から出て行く。

綾子「さあ、亜紀ちゃん帰りましょうか。途中で買い物付き合ってね」
亜紀「了解」
下駄箱へ向かう途中で、あの二人がD組から出てくるのが見えた。

二人、歩きながら、
智世「朔、ちゃんとメモ取った?」
朔「智世に任せてあるから」
智世「何よ、それ。分かったわ。その代わり授業のノートお願いね」
朔「智世のその台詞、耳にたこができているよ。毎年のことだから」
智世「いいじゃない。朔は勉強以外、まったくダメ人間なんだから。私が付いて面倒見て上げているんでしょう!」

亜紀は、急いで二人に近づき、後ろで会話を聞いた。
「恋人同士かしら?幼馴染みに見えたけど」と自問した。
「サクとトモヨと、言うんだあの二人」
綾子のところに戻り、
亜紀「母さん、ここで、ちょっと待っていて。クラスの名簿、確認して来るから」と、言って掲示板へ駆けだした。

亜紀「D組。えーっと、サクとトモヨ?そうだ。同じ中学だよね」と、言いながら名簿から名前を探す。
「あ、あった。松本朔太郎と上田智世か。間違いなさそう」…
「松本朔太郎って言うんだ、彼!」


続く
...2004/12/11(Sat) 17:56 ID:w4SDZ4uU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 Apo.様。連日の力作,お疲れ様です。
 入学式でも居眠りというのが,何ともサクらしいですね。
 一つだけ,気になった点があります。それは,付き添いの両親を「父兄」と表現した部分です。

 まず,子育てに関わっているのは母も父も同じなのに(母の比率が圧倒的に多いという現実もあります),「父兄」とは女性差別だという問題があります。80年代と言えば,「婦人」というのは女篇に箒と書くことからも,性別分業を固定化するものだということが言われ,「婦人」という表記を「女性」に変えるようになってきた時期にあたります(注)。
 また,「父兄」の「兄」というのも,単なる「エルダー・ブラザー」という意味ではなく,「長男」という意味であり,戸主とその後継者のみを特別扱いするという意味で,男性にとっても家父長制に基づく差別用語なのです。
 ということなので,ここは「父母」とするのが妥当なのではないでしょうか。
 余計な差し出口で御気に障りましたら,謝ります。

 注)語源的に性別役割分業を前提にしているのは,
  何も女篇に箒という漢字に限りません。
   英語のLadyとその男性形であるLordも,語源は
  Loaf(パン)なのですが,Ladyには「パンをこねる人」
  Loadには「パンを守る人」という意味があります。
  そのためか,英語でも「Lady」より「Woman」が
 使われるようになってきました。
...2004/12/11(Sat) 23:00 ID:zLiXDAHw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
にわかマニヤさんへ

ありがとうございます。

ご指摘いただきました「父兄」は保護者に訂正しました。

それから、1話から順に場面の(廣瀬宅2)というように番号を入れました。長編になって場面の見直し整理で必要になりました。ごめんなさい。
...2004/12/12(Sun) 12:08 ID:aBJW7VbA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


18

1986年春
(帰り道1)
入学式が終了し、高校からの帰り道。
歩きながら母子の会話がはずんだ。

亜紀「お母さんとお父さんは恋愛結婚だったとは知っているけど、知り合ったきっかけはどうだったの。教えて」
綾子「そうね。教えても良いけど。どうしたの、急に?」
亜紀「実はね。親しくなりたい人がいたの。とっても魅力的な人。やっぱり今日は運命の日だったのかも」
綾子「そ、そうだったの。良かったね。応援するね」

暫らくすると、懐かしそうに話し出した。
綾子「実はね、お父さんは自分の方が好きになったって、いまだに思っていると思うけど。本当は私の方からかな」…
「今の亜紀ちゃんと同じかもね」
と、言いながら、「亜紀の場合はさっき、廊下で目撃した出来事に違いない」と思った。
綾子「それで、振り向いてもらいたくて色々なことを試したわ。友達の協力を得てね」…
「知らなかった振りをしてお父さんの足を思いっきり踏んづけてあげたの。そしたら、ビックリして飛び上がったわ」…
「それがきっかけかな?」…
「それまで、色々とサインを出したんだけど、まったく相手にしてくれなかったから。」…
「そのとき初めて父さんが『付き合って』って、言ってくれたの。前から気になっていたと白状させちゃった」

亜紀「ふーん。そうだったの。お母さんって積極的だったんだね」
綾子「女はね。一生に一度は勝負しないとね。」…
「それから色々とイタズラしてあげたの。私のこといつも気になるように仕向けたのよ。ホホホ。楽しかったわ」

廊下での出来事を考えながら、
亜紀「でもね。彼には親しい女の子がいるみたいなの」
綾子「そうなの?ゆっくりとね。観察するのよ。彼が本当に探し求めた人なのか見極めるの。そして、この人だと思ったら、人生を賭けるのよ。これはお父さんには内緒ね」…
「娘には、父親をいつまでも理想の男性と思っていて欲しいものらしいわ。私の父もそうだったし、お父さんの亜紀ちゃんに対する態度もまったく同じだから」

亜紀の目を探るように見ながら、
綾子「それで、見染めた彼はどんな感じ?」
亜紀「それがね、入学式が始まる前に目が合ったんだけど、何となく感じたの。この人じゃないかって」…
「そしたらお母さんがトイレに入っている時にハンカチ落としたら拾ってくれて、真っ赤な顔で恥ずかしそうに『踏んづけてごめんなさい』って言うなりD組の教室へ逃げて行っちゃった」…
「帰る時に仲良しの女の子との会話を聞いちゃったの。それで、彼が『松本朔太郎』と言うのが分かったわ」…
「忘れ物が多いようなんだけど、勉強は出来るみたい」
綾子「そう、もうそんなに調べたの?ぜんぜん分からなかったわ」…
「お父さんと違うタイプよね。」

ちょっと考えて、
亜紀「そうね。私の性格はお父さんに似ていると思うの。だから、理想は別のタイプになるのかな?」…
「同じなら喧嘩ばかりになるじゃない。どっちかというとお母さん似じゃないの?彼」
綾子「失礼ね。私はそんなに忘れ物しませんよ」と、笑いながら言った。
亜紀「違うよ。性格だよ。おっとりしていて芯は強いといったタイプかな」
真剣な亜紀の顔を見て、微笑ましく思った。
綾子「そういうことにしておいてあげるわ。亜紀ちゃんとこんな話しが出来るなんて思ってもみなかったわ。大人になったね。私の相談にものってね」

モジモジしながら、「聞いてはいけない」と思ったけど、思い切って聞いてみた。
亜紀「あのね。おじいさんにね、お父さんのことどうやって認めてもらったの?」
綾子「え!」…「そうね。亜紀ちゃんには、まだ早いと思うけど話してあげるね」
少し迷ったが、いつかは話すことになると思った。
「父親の考えでは、『娘の彼氏は自分と同等か、それ以上の男性でないと』と、思っているんじゃないかしら」…
「男性としてね。基準は父親の仕事の内容だと思うの。だから、亜紀ちゃんの彼が社会的に尊敬される職業だとバッチリね」
亜紀「高校生の彼だったらダメってこと?」
綾子「若くて認められるのは、性格かしら」…
「そうね。『どうしても手助けして一人前にさせたい』と思わせるのも手かな?」…
「これは、私が知っている娘に対する父親像ってとこかしら。かつて経験したことだから、ね!」
亜紀は考え込んでいた。

綾子「だから、お父さんはお仕事一生懸命なのよ。今もね。おじいさんに認めてもらいたくて」…
「亜紀ちゃん!安心して、私は味方よ」…
「亜紀ちゃんに好きな男性が出来て、交際していると分かったら、必ず、お父さんは反対するから、相談するのよ!」…
「いいアドバイスしてあげる」
綾子はニコッと笑って見せて、
「でも、条件があるけど」…「それは、私も亜紀ちゃんの彼氏を好きになること。それと、彼氏に興味が湧くことね」

ここまで話しているうちにショッピングセンターに到着した。
母子でカニクリームコロッケの材料を買った。
亜紀の希望でチラシ寿司を献立に追加することとなった。


続く
...2004/12/12(Sun) 18:03 ID:aBJW7VbA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


19

1989年春
(旅立ち2)
東京へ向かう電車の中。
語り終えた亜紀は、空を見上げて、突然「あ、もう直ぐ時間!」…
「戻らないと!」と、言った。
朔は「え?何処へ?」と、半分寝ぼけた状態で訊く。
亜紀「何を言っているの?病院に決まっているじゃないの!」

しっかり、目が覚めた。
朔「こんがらがって理解できないよ。ちゃんと説明してくれ!」
亜紀「私、ほんとうは病院に入院しているの。まだ17歳なのよ、戻ったらね。それから、御まじないしてあげるから…」…
「私が消えたら、今までの出来事を頭の奥にしまいこんでしまうわ…」
と言いながら、人差し指を朔に向けグルグル回した。
朔「そんなの嫌だよ。折角、再会できたのに。もっと会っていたいよ!話したい!」
亜紀「大丈夫。15年後には全てを思い出すからね。わらわは、来年、また会いに行きます、ぞ・よ」…
「朔の誕生日に」…「プレゼント、持ってね」
と、言うのと同時に、亜紀は消えてしまった。

朔は眠りながら、ニヤケ顔で、泣いていた。

2004年夏
(廣瀬宅4)
電車の中で亜紀が話してくれた内容を話し終わり、朔はゆっくりと、お茶を飲んだ。
綾子は頷きながら笑っている。

真は信じられないといった顔つきで、唖然としていた。
初めて聞く内容だった。妻と娘しか知らない会話。それと、自分と妻が付き合い出したきっかけまでも。
自分の知らなかったことばかりでショックだった。
それにもまして、朔がその事実を知っていること。亜紀が死んだ後、聞いて。
妻の綾子はこの経緯を知っていたらしい。
どういうことになっているのか頭の中を、整理しても、整理しようとしても、理解出来ないことだった。
それで、朔に念を押してみることにした。

真「ほんとうなのか?朔!」
朔「分かりません。お母さんにお聞きしたいのです。ほんとうの話ですか?」
綾子「朔君。ありがとう。お母さんって呼んでくれたわね」…
「今の話、全てほんとうのことよ。亜紀はやっぱり未来の朔君に会いに行ったのね」
と、微笑みながら言った。

「入院していた亜紀が死を悟ったときに、夢の中で未来の朔君に会ってきたと話してくれたわ」…
「それから、17年後に全てが明らかになるって。ずーっと半信半疑だったの。でも、昨日、朔君が訪ねて来てくれたので確信に変ったわ」…
「それで、急遽、亜紀の部屋を昔のように模様替えして、今日朔君が来てくれるのを待っていました」…
「思い出しやすいように、と思って」…
「やっぱり、今日来てくれた。ほんとうだった。亜紀ちゃんが話したこと」
綾子は嬉しくてたまらなかった。

暫らくして、
「それで?それだけじゃないでしょう?朔君!」…
「続きがあるんじゃないかしら?急がなくてもいいからね。ゆっくりと、ね。朔君」
優しい声。亜紀に似ていると感じた。
朔「はい。まだあるんですけど、頭の中がモヤモヤしていて、確証が持てないんです」と、言って頭を振った。
やっと、自分の出番が来たと思った真は言った。
「そうだ。亜紀が残したテープを聴くと思い出すんじゃないか?」
綾子「そうですね。朔君、聞いてみようか?」
優しく語るように話す綾子が、亜紀にあまりにも似ていたので嬉しくなってしまった。
朔「はい。お願いします」
と言って微笑んだ。
「よし、分かった」と言って、腰を擦りながら、ドタバタと部屋を出て行く。
階段を下りながら、「今日は亜紀が残したテープを聴くのが目的じゃなかったのか?!」と、問いかけていた。

暫らくすると、DVDの機器を持って真が戻ってきた。
相変わらず腰を擦っている。
真「いいかい。回すよ」と言って、スイッチを押した。
…佐藤先生宛のテープ、廣瀬夫婦宛のテープ、亜紀が朔宛に残した告白のテープが連続して流された…
すると、朔の頭の中が整理され、次々と亜紀とのかかわりが浮かんできた。

1987年秋
(面会謝絶の亜紀から綾子を通じ、朔へ渡ったテープ)
亜紀「朔ちゃん。生きているってどういうことかな?」…
「死ぬってどういうことかな?」…
「たまに、生きているのか、死んでいるのか分からなくなる」…
「…聞いているよね。朔ちゃん!」
「…朔ちゃん!…朔ちゃん!」
「私の声、聞こえているよね!」…
「……」…
「…(あとで会いに行くからね。朔ちゃん!)」…
「…(きっと!)…」…
「……」

…亜紀の心の声は、当時の朔にはまだ、聴き取ることが出来なかった…


続く
...2004/12/13(Mon) 18:29 ID:WxfH3Sp.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


20

(病室3 母子)
亜紀はベッドから身体を起こし、
「お母さん、朔ちゃんのことどう思う?私の旦那様として」と言った。
綾子は傍によって、「そうね。お似合いね。亜紀ちゃんのことしっかり受け止めてくれていると思うわ」…
「亜紀ちゃんが言っていた大切な人でよかったね」…
「亜紀ちゃんが白血病だと宣告されたとき、朔君にね、私、当り散らしちゃったの。どうしようもなくて、気が動転して」…
「でも、その後の朔君のしてきたこと立派ね。亜紀ちゃんのことを理解してくれる唯一の人ってところかしら」…
「うまく言えないけど」

続けて言った。
「亜紀ちゃんと朔君が結婚写真を撮ることになって、朔君が亜紀ちゃんに報告に来たでしょう」…
「そのとき二人キスしていたわね。お母さん、見ていたの。とっても嬉しかった」…
「そのとき、朔君のこと私の子供のように思ったわ。亜紀ちゃんの旦那様としてもね」
亜紀は綾子の手をしっかり握った。

亜紀「お母さん、ありがとう」…
「私、昨夜、未来の朔ちゃんに会ってきちゃった。医学部に合格していたわ。私の夢、夢が実現していたの」…
「それで、朔ちゃんに本当は私のほうが、ずーっと、前から好きだったと告白しちゃった」
綾子は、「そう。そんな夢みていたの?」
と、不思議そうな顔で言った。
亜紀「ううん。夢じゃないの、現実なの。そうね、17年後に分かるわ。遅くともね。もっと早く分かってもいいのだけど」…
「朔ちゃんのことだから、チャンと約束どおりだよ。きっと。ウフフフ」
綾子「え?」
ますます混乱した。
亜紀がおかしくなったんじゃないかと思った。

亜紀「たぶん、17年後に朔ちゃんがお母さんを訪ねて来て、お母さんと私しか知らないことを話し出すから」…
「ちゃんと聞いてあげてね。そうしたら全て、分かるから」
と、言って幸せそうに笑った。

熱があるのでは?とも思った。
綾子「そういうことにしておきますか。17年後のお楽しみにね」
綾子は理解した。
亜紀は死を覚悟して。
それで夢を現実だと、思い込もうとしている。
亜紀が言ったことが信じられなかった。でも、不憫に思い、話を合わせたのだった。


1990年10月23日
(大学生)
大学の食堂で小林明希が近づいてくる。
朔は解剖学の医学書を開き、サンドイッチをかじっていた。

小林「松本君。今日、時間ある?飲みに行かない?」
話しかけてきたのが小林だと気が付き、見上げて言った。
「何だよ、急に!来週じゃダメかい?今日と明日は俺にとって大切な日なんだ」…
「一人でやらなきゃならないことがあるから。毎年のことだから。ごめん。付き合えないよ」
小林はがっかりして言った。
「そうなの?!誰かの誕生日だったりして」
朔「まあ、そんなところだ。悪いな!」
小林「ううん。いいの。またの機会にね」
「松本君には思っている人がいるんだ。でも、何か悲しそう。ひょっとして亡くなった人とか」と、思いながら去っていった。

朔は今日、何かが起こるような予感がしていた。誰かが訪ねて来るような。
一ヶ月位前から頭の中で、『今日と明日、友達と約束事をしてはいけない』と、話し声が聞こえていた。
それも若い女性の声で。

朔の大学生活は授業が終わると、図書館と大学食堂に通うのが日課だった。
春から夏の間は、日陰のベンチでたいてい本を読んでいる。秋から冬にかけては早めにアパートに帰ることが多かった。
同級生から誘われてもめったに付き合わないので、最近は誘われることがなくなった。小林以外には。

大学の食堂を出て、アパートに帰ることにした。
構内を歩く。
並木道にも秋が訪れ、広葉樹の緑が失われている。
斜めからの日差しの中、葉は黄色、橙色と鮮やかさを増してきていた。
日が射す歩道にはところどころ、落ち葉が集められている。
哀愁が漂う情景に包まれて、一人歩く。



続く
...2004/12/14(Tue) 18:53 ID:78psK7js    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


21

朔の後ろを尾行していた者が、早足で近づく。

突然後ろから、「食堂で話していた美人、朔ちゃんの彼女?」
と、若い女性が声をかけた。
吃驚して、朔が振り向くと、亜紀が立っていた。
引き攣った顔で、「あ、あ、亜紀!」
1年前、列車で会ったことが瞬時に朔の頭に中に蘇る。
閉じられていた秘密の引き出しが開かれたのだ。

朔は嬉しさを顔中に現し、言った。
「すごい。ビックリしたよ」
あたりが急に明るくなったように感じる。
感慨深く見詰め合う二人。
亜紀は清楚な服装をしている。今まで見たこともない大人びた亜紀。
成熟した女性という感じ。

すれ違う男子学生が皆「ほう!」と言って、振り返る。
それに朔が気が付いて。
「え!亜紀の姿が見えているみたい!」と叫んだ。
亜紀「そうだよ。今日は完全な身体だよ!朔ちゃんのために頑張ったの」と言いながら、くるり、と回って見せ。
そして、スカートの裾を少し捲り上げた。
辺りが仄酸っぱい亜紀の匂いで充満し、
「朔ちゃん!二十歳!誕生日おめでとう!今日から大人だよね。朔!」…
「大学生って、すっかり大人びた感じだよ。朔ちゃん。素敵になったね!」…
「勉強頑張っている?」
朔「うん、頑張っているよ!趣味みたいに勉強しているから」と、元気いっぱいに答えた。
亜紀は満足顔で、そして頷きながら微笑む。
朔は亜紀が喜ぶ顔を見て、ますます頑張ろうと誓うのだった。

亜紀は明るく、「さあ、二人きりで誕生日のパーティをしましょう!」…
「ケーキを買って、それからシャンパンもね。夕食は何にしようか?朔ちゃん」
朔「亜紀がつくってくれるの?」
亜紀「あは、ははは。私まだ主婦の勉強していなかったから。料理できないよ」
朔「いいよ。亜紀。俺がつくってあげる。口に合うかなあ?」
亜紀「何でも美味しいよ。朔ちゃんが作った料理は。夢島以来だよね」…
「私、時間が少ないから出来たものにしない?それよりも、朔ちゃんと、もっと、もっと、話をしたいから」
朔「分かった。チラシ寿司でも買って帰るかい?亜紀、好きなんだろう?」
亜紀「よく覚えていたわね。当たり!」…
「助かります!」…
「カニクリームコロッケが廣瀬家のお祝いの定番料理なの。でも、私、作り方がよく分からない。母の専売だから」
すまなそうな言い方だった。
朔「いいよ。亜紀のために、すまし汁くらい作ってあげるよ」
朔は嬉しくて、楽しくて堪らなかった。

(アパート1)
手をつなぐ二人。つないだ手を高く振りながら街を歩く。
スーパーマーケットに立ち寄り、買い物を済ませた。
アパートの前で、「へー、ここなんだ」と、亜紀が呟く。
朔「ちょっと古いけど、家賃が安いんだ。医学部の生徒には優遇してくれる大家さんだから」
鍵を開け、部屋に入る。
ドアを閉めると同時に、二人は抱き合い、ディープキッスを繰り返すのだった。出来なかった年月を補うように。

朔は台所ですばやく準備をした。
亜紀はパーティの飾り付けに熱心になっていた。幼稚園みたいに色紙で部屋中飾り立てた。
おまけに、看板まで作った。『朔(&亜紀)二十歳の誕生パーティ会場』と。
準備が完了して、席につく。シャンペンを開ける。
「パーン」と、勢いよく泡が吹き出す。すばやく注ぐ。

亜紀「音楽が欲しいけど。ラジオで我慢するか」と言ってスイッチを入れると、
どこかの放送局から『かたちあるものInstrumental For TV』のBGMが流れ出す。
亜紀「ん?いいじゃない、このピアノ曲」と、言った。

改まって、「ほんとうに、おめでとう!二十歳。朔ちゃん!」
「亜紀!遅くなったけど、亜紀も二十歳、おめでとう!」
と、言い合ってグラスを合わせ、シャンパンを口に運んだ。お互い見合わせ、同時に「ありがとう」と言った。
亜紀は、「はい。プレゼント」と、言って薄い紙を差し出す。
婚姻届!
「3年前は正式じゃなかったけど、今度は堂々と書けるね。朔ちゃん!」…「二十歳って」

すまなそうに、
朔「俺からのプレゼント、何も無いよ。今の亜紀にあげられるもの」
亜紀「いいの。後で朔ちゃんから幸せをいただくことにしているから」…
「だからね!結婚して!ここに名前書いて!私を幸せにして!」と、笑いながら言った。
朔「そ、それって、前に言ったことだね。俺が」
亜紀「いいじゃない。私も言ってみたかったんだから」
二人はじゃれあいながら名前と生年月日、年齢を書いた。

書き終わって、「じゃ、これ、しまっておくね」と、亜紀は言いながら婚姻届をポケットに入れた。
朔「え?出すんじゃないの、役所に」
亜紀「立会人が必要じゃない!内緒だよ」…
「後で分かるようにしておくから、ね」

二人きりのパーティが続いた。


続く
...2004/12/15(Wed) 18:57 ID:ZKoju7HA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
こんばんわ。仕事で5日間家を空けていて、帰ってきたら、もう5話くらいすすんでいました。今一気に読ませてもらいました。綾子も積極的に真に対してアタックしていたところなんか亜紀の性格を考えてみるとありですよね。普通では、ありえないかもしれないけど、朔の誕生日に亜紀が現れてつかの間の誕生日パーティーはなんかほのぼのして良かったです。また続編を期待していますので、頑張って下さい
...2004/12/16(Thu) 02:31 ID:jzLimg6s    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
けんさんへ

激励、ありがとうございます。
亜紀が現れてビックリしたでしょうね。朔は。

徐々に山場にさしかかっていきますので、最後には理由が明らかになります。最後まで、読んでくださいね。
...2004/12/16(Thu) 19:01 ID:OdWlVjro    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


22

(御まじない)
朔の目を、ジーっと、見つめて、
人差指を朔に向け、ゆっくりと回す。そして「御まじない、御まじない…」と、繰り返した。
亜紀「私ね。ほんとうは17歳で、病院に入院中なの。それで、朔ちゃんに会いたくて時間を飛んで来ちゃった」…
「朔ちゃんは私が消えたら、今日のことは記憶の奥にしまい込むんだよ」…
「そうしたら、来年も会えるからね。ピンクの紫陽花が咲く頃に。朔ちゃんは直ぐに私を見つけられるわよ」…
「朔ちゃんに、好きな女性が見つかり、彼女も朔ちゃんを大切に思うようになったら、そしてそれを見とどけたら、私、もう、現れないよ」

「んー。いつまでも朔ちゃんが結婚しないのも困るなー。そうだわ。朔ちゃんがりっぱなお医者様になって、そうね、34歳になる年までにしておくね」…
「それで、最後に私を見たら、今までしまい込んでいた記憶が次第に蘇えるからね」…
「(記憶の)封印が解けると、混乱すると思うけど。頑張ってね。朔ちゃん」

「それから、私が残したテープちゃんと聞いてね。聞いたら、はっきり、記憶が戻ると思うよ。きっと」…
「あとで、お母さんに話しておくからね。そのことを、確認するんだ…ぞ・よ」…
「夢でなく、現実だったって分かるわ。約束だよ。朔ちゃん!」

「わらわは、ずーっと、朔ちゃんのこと見守っている、ぞ・よ」…「好きよ!朔ちゃん」…
「大好きだよ!朔!」

(初夜)
御まじないが終わったのを確認して、
亜紀「それじゃ、朔ちゃんからのプレゼントをいただくとするか!」と、言って寝具の準備をし出した。

ボーっとしていた朔は目が覚めて、「な、何しているんだ?亜紀。どういうこと?」
亜紀「もう、二人とも大人なんだよ。二十歳。結婚したんだよ」…
「だから、今夜は初夜じゃない!」…
「朔ちゃんに抱いてもらいたくて、今日にしたの!」

朔は興奮のあまり、震えだした。
大胆な亜紀。昔のまんま。
朔は振り回され続けていた。
布団の準備を終えた亜紀は、またも大胆に服を脱ぎ捨て中に入った。
全裸になっていた。
そして、言った。「臭い!何なの?この匂い」
朔「男の匂いだよ。女には無いからね。でも、その匂いに女性は魅かれるものなんだ」…
「生理的に女性は男の汗臭さに魅かれるのさ」
亜紀「ふーん。そうなんだ。男性はどうなの?」
朔「俺は亜紀の匂いだね。紫陽花の香りかな。初めてキスした場所、覚えているだろう?それが亜紀と重なるから、毎年、紫陽花を見ると亜紀が浮かんでくるよ」…
「ピンク色でないと、いけないんだけど」

亜紀は手招きして言った。
「早くいらっしゃいよ。お布団の中で話そう。寒くないよ。暖めているから」
朔は下着をつけたまま入ろうとした。
亜紀「下着!」…「全部!全部、脱いで!」と、口を尖らせて言う。
朔は、恥ずかしそうに全裸になって布団にそうっと静かに入り、位置を調整する。
そして今度は朔が笑いながら、
「手!」…「手!手、握って!」
亜紀が朔の冷たい右手をしっかり握りしめて、
「うふふ。楽しいね」…「キスして!朔ちゃん」
朔は「うん」と、言って生唾を飲み込む。

冷えた身体が急に温まるのが分かった。
キスをした。亜紀がしがみ付いてきた。
亜紀の弾力ある肌。丸みのある身体。そして豊満な乳房を感じた。
朔は左手で触ってみる。
亜紀が「アー」と、微かに声を漏らした。

もう、話すことは何も無かった。
自然にふるまう。男と女の関係。本能に任せた。
………。
………。

亜紀「ありがとう。朔ちゃん!幸せ!」と、言って、後始末をする。
シーツに、亜紀のしるしが残っていた。
「朔ちゃんのお嫁さんに今日、ほんとうになったよね」と言った。
目は涙で溢れていた。

朔も感動していた。
大人になった気分になって、亜紀をリードしてみたくなる。
朔「今、大学で流行っている小話をしてあげるね」

…看護婦「先生、至急お願いします」
医師「至急(子宮)は女性にしか使わないけど」
看護婦「じゃ、緊急です」
医師「そう。そう。緊急(金・求)は男性にしか使えない」…

亜紀「それって、女性差別じゃない?朔ちゃん」
主導権を奪われて、
朔「そうかもね。でも流行っているんだ…」…
「(亜紀にはかなわないよ!)…」

暫らく、取り留めのない会話が続いた後、
亜紀「夢島の夜を覚えている?あの日、二人は結ばれる予定だったんだよね。朔ちゃんの計画では」
朔「うん。でも、亜紀と二人きりで。楽しくて。そばに居るだけで充分だったよ。途中でどうでもよくなったんだ」
亜紀「ほんとは、私、結ばれたかったの。あのとき不吉なことが起こりそうだった。私の身体、変だったの。これが最後になるかもって思ったから」…
「今日のこと夢島での出来事と思ってもいいよ」と、言いながら人差し指を回した。

二人は裸で抱き合ったままでいた。
そして、亜紀は「電車での、話の続きを始めるね」と、言った。


続く
...2004/12/16(Thu) 19:07 ID:OdWlVjro    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
こんばんわ。けんです。今回の話読ませていただきました。いよいよ朔と亜紀は、結ばれましたね。初夜でも亜紀がリードなんて朔らしくて良かったです。
 ところで、この話でも出て来たけど、夢島の件、亜紀と朔は、夢島では結ばれたのかむすばれていないのか?原作・漫画は結ばれたように思いましたが、ドラマ・映画は結ばれていないようにおもいましたが・・APO様としては、この話を読んだとおり、結ばれてないという事ですよね?もしよかったら、その根拠を教えて下さいませんか?私もこの件は、ちょっと気になっていましたので・・・
 では、長くなりましたが、続編期待していますので、頑張って下さい
...2004/12/17(Fri) 00:42 ID:8fSohxos    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Wolfy
Apo様
はじめまして。後で会いに行きます編、いつも楽しく読ませて頂いています。朔太郎の二十歳の誕生日に二人が結ばれるお話、良かったです。
ただ、その時の亜紀の振る舞いに、少し違和感を覚えました。自分から「好きよ」と告白した亜紀のことですから、「朔ちゃん、今日はわたしを抱いて。」くらいのことは言ってもおかしくないと思います。しかし、初めて訪れた朔太郎のアパートで、布団を敷いて自分からスッポンポンになってしまう、というのはどうでしょうか。ひとこと「抱いて」と言えば、朔太郎は優しく願いを聞いてくれるに違いないのに、亜紀にはそんなはしたないことをしてほしくありません。
Apo様のことですから、こういう反応があることはご承知の上で、深いお考えがあって書かれたのだと思いますが、私のようなものでも納得できる「朔太郎のエスコートで二人が結ばれる編」も御執筆いただければうれしいです。
初めての方にぶしつけなことを申し上げて、すみません。
...2004/12/17(Fri) 00:52 ID:VntVk9yw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
けんさん、Wolfyさん

ありがとうございます。
先ほど帰宅してビックリしました。私の掲載にはご意見がほとんどなかったので。
...2004/12/17(Fri) 18:50 ID:UQmakwmo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


23

1986年春
(智世との出会い)
亜紀1年生、陸上部初日の練習。
2年生を中心に、グラウンドではランニングを開始している。
陸上部の監督、谷田部は新入部員を整列させ、自己紹介、出身中学校、陸上の経歴を述べさせた後。
指導方針を述べた。
「本校の陸上部の基本方針は………短期間でレベルアップを図るのが目的ですから、気を抜かないこと」…
「以上。練習開始!」と言って、「ピー」と笛を吹いた。
黙々と、練習に励む新入生達。
その中に亜紀、智世の姿があった。新入生の中で二人がぬきんでていた。

練習終了後、グラウンド隅の手洗い場でのこと。
顔を洗いながら智世は、「タオル貸して!」と大きな声で言う。
既に、洗顔を済ませた亜紀は周りを見渡し、自分に話しかけられたのだと理解した。
亜紀「私の使った後でよかったらどうぞ」と言って、タオルを手渡す。
智世「んーもー。あんたしかいないでしょう。タオル持ってくるの、忘れちゃって!一番綺麗そうなタオルの人、待っていたの」
亜紀「ふーん。そうなんだ」
妙に明るい女子で、親しみが湧いた。
顔を拭き終わって、屈託のない笑顔でタオルを亜紀に返しながら、
「有り難う。廣瀬亜紀さん!さすがに実力があるのね。始まる前の自己練習を見ていて注目していたの」
亜紀「え?私も知っているよ。上田智世さん!」
智世「お友達にならない?出来れば親友に。ね。亜紀。いいでしょう。亜紀」
亜紀「何でもはっきり言うのね。いいよ。智世」

すっかり、意気投合した二人は、たこ焼きパパさんで、お近づきの杯(ただし、コーラで)を交わすこととなった。
二人席につき、
亜紀「早速で何なんだけど、智世」…
「私ね、父の仕事の都合で中学校までを転校の連続。それで、親友がいなくて寂しかったの」…
「高校に入ったら必ず親友を作りたいと願っていました。智世のことすっかり気にいっちゃった」
智世「私も似たようなもの。幼稚園のころから、ずっと、介、朔、坊主」…
「幼なじみはいるけど皆男なの。高校に入ったら女の子の親友が夢でした」…
「介には年の離れたお姉さん。朔には芙美子ちゃんっていう妹がいるけど、あとは一人っ子なの。それで、兄妹のようにしてきたわ」
亜紀「私も一人っ子よ」

親友になることを誓ってコーラで乾杯をした。
そして、突然に「松本君ってどんな男の子?好きな女の子のタイプは?智世の彼氏?」と言った。
目をランランと輝かせ、欲しかった洋服をねだって、回答を待っている幼児のようだった。
智世は一瞬、親友になろうとした自分が軽率だったのではと思った。
確認して変な女子だったら絶交しようと、思い切って聞いてみる。

智世は、おそる、おそる「どうして、朔なの?以前からの知り合い?変だよ。亜紀」と、言った。
急に、淋しそうな顔になって「変かな?…。そう、変だよね。突然に」…
「実は入学式の後、教室に向かうときにね」…
「後ろから頬指杖した男の子がいて、びっくりして振り返ると真っ赤な顔で、謝るの。私が落としたハンカチを踏みつけて汚したと言って、差し出すのよ。受け取ると、逃げていちゃった」…
「それが、松本朔太郎。それで好きになってしまって、探偵していたから…」
と、答えた。

ちょっと考えてから、
智世「ふーん。そうか。探偵していたのか」…
「それで、私のことも知っていた訳?ほんとうは、その目的で私に近づいたとか?」…
「怪しいな?」と、探るような目で言った。
亜紀「ちがう、違うってば!まさか!智世の方から話しかけてくれるとは思わなかったわ。すっかり、智世の性格が気に入ったの」…
「それで、以前からの親友みたいに感じちゃって。ごめんなさい。」
と、欲しい洋服をあきらめたときの、幼児のように言った。

智世「実はね!私も!ずーっと!前から朔のこと好きで」
からかってみようと思って、言ってみた。
すると、亜紀の目から一筋の涙が流れ出た。
智世「ごめん!ごめん!嘘でした。好きなのは介でした。安心した?」
亜紀「うーん、すごい。安心した。意地悪!」と、言ってパッと明るい顔になった。
二人、向き合って笑い続けた。

(決意)
智世と別れた後、いままでの自分を思い返してみた。

…小学校以来、こんなに簡単に友人が出来たことがなかった。
同級生はほとんどが幼稚園からの顔見知りで、途中から加わる亜紀には、友達になるのに時間がかかってしまう。
ちょっとでも変わったことを話すと敬遠され。
やっと、仲間に入れそうになったら転校の繰り返しだ。
そのため、良い子ぶった態度が身についてしまい、不満があっても言い出さない性格になった。
いわゆる、隙のない優等生。負けず嫌いな性格のため、勉強や運動に一生懸命。
理由の一つは、父親の期待に答えようとしたから…

高校では早速、智世という親友が出来た。それも簡単に。
「これからは智世の協力を得て、松本朔太郎という男性が『自分の全てを理解してくれる唯一の人』かどうか、ゆっくり見極めればいい、母が言ったように」と、思った。


続く
...2004/12/17(Fri) 19:55 ID:UQmakwmo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


24

1986年夏
(強化練習後)
地獄の階段。練習が終わった。
クタクタになった亜紀と智世は石段に座り込んでしまう。
汗でびっしょりだった。

亜紀「今日は一番すごかったね」
智世「うん。もう、動けないよ。暫らく休んでから戻ろう」
お互い、汗を拭きながら言った。
二人は息を調節する。
深呼吸を繰り返し、酸素を十分体内に取り入れた。

智世「さあ、戻ろう。おしゃべりしながらだと、疲れ、忘れられるよ」
亜紀「そうだね」
智世「亜紀が元気になる話をしてあげる」と言って立ち上がり、歩き出した。
亜紀「え?」と、言って後に続く。

歩きながら、
智世「朔とはどうなったのよ?」
亜紀「目下、探偵中です」
智世「じゃ、知っていること全部、話しなさい!」
亜紀「うん」…
「名前は松本朔太郎。松本写真館の孫。妹と父母4人で住んでいる。大木龍之介君と中川顕良君が親友で、あ、訂正、上田智世も!幼稚園からずーっと」…
「勉強は出来るが忘れ物が多い。時々ボーっとしているが考えがまとまると猪突猛進。女性に優しいが恥ずかしがり屋。だから、好きな女性には話しかけられないタイプ」…
「今までに好きになった女性はいないと思う。思いたい!」…
「本が好きで、写真館にある本は全部読んだみたい。音楽も好きかも。物知りみたいだけど肝心なことはぬけていて、常識が通用しないタイプ。女性アイドルに憧れているみたい」…
「それから、えーっと…来年、好きな彼女ができる?それは私だと思う!」
と、答ながら目はランランと輝く。

智世「もう、いいよ。すごいね」…
「でも、肝心なこと抜けてない?」
亜紀「なーに?」
智世「朔が好きになる女性のこと」
亜紀「教えて、お願い。どんなタイプが好きなの?智世、一生のお願いだから!」
智世「あははは。ヒント。どうして、幼馴染の美人で可愛い、この私を恋人にしないのか。考えてみたら?」
亜紀「んーん。難問だね、こりゃ」…
「男勝り?魅力に欠ける?女らしくない?」と、笑いながら言った。
智世「失礼しちゃうわ!教えないから」と、怒った振りをする。
真剣な顔で、亜紀は言った。
「冗談だってば。教えてください。美人で可愛いい、お嬢様!」と、手を合わせる。

一呼吸してから言った。
智世「仕方が無い。お教えいたしましょう!おそらく朔はお姉さんタイプに魅かれると思うわ」…
「ぐいぐいと引っ張っていって、リードする女性ね。それでもって優しく包んでくれるような女性」

暫く、考え込んで、
亜紀「どうして、そう思うの?」
智世「朔に妹の芙美子ちゃんがいてね。とても優しいの。よく面倒をみるの。だから、その逆の年上が良いかな、って」…
「朔は私のこと妹みたいに思っているけど、私は朔のお姉さんみたいに接しているの」…
「朔に『こう、しなさい』って言いつけるとね、必ず従順に守るのよ。それで思ったんだ」…
「でも、私には包容力が無いから。その点、亜紀はグラマーでボインちゃんだもの」…
「優しく包んであげたら、さすがの朔も、いちころよ。亜紀にね」

「解った?」と言って、亜紀の顔を覗き見た。
亜紀は考え込んで、「ふーん。そうなんだ」
そして、思った。…「包容力?優しく包むって、グラマーとは関係ないと思うけど?」と。

歩きながら話ししているうちに高校に着いてしまった。
二人とも、すっかり元気になっていた。


続く
...2004/12/18(Sat) 16:33 ID:7ijO2bag    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


25

1986年秋
(グラウンド)
放課後。
朔はボーッ、としてネット裏からグラウンドを垣間見ていた。
西日を全身に浴びているので、グラウンドの中で陸上の練習をしているのは分かるが、誰が何をしているのかはっきり見分けることは出来ない。
眩しいので、ときどき目を擦る。
日差し用に、右手を眉に当てるが夕日が勝っている。

グラウンドの中央にいた亜紀はネット裏の朔を見つけて、注視状態。
亜紀は『朔がどうしたのか、誰を見ているのか』が気になり、練習に身が入らなかった。
亜紀の様子がおかしいのに気付いた智世が近づき、言った。
「どうしたの?何かあったの?」
ネット裏の方向を指さし、亜紀が言った。
「誰を見ているのかしら?」
智世は指さした先に、朔が立っているのに気が付く。
そして言う。
「あれって、朔でしょう?」
亜紀が答える。
「気になって、…他に好きな女の子が出来たんじゃないかと!気になって、気になって!」…
「身体が硬直して動かないの」

納得した智世が慰めるように言った。
「あれはね、昨日読んだ本のことを考えていると思うよ。頭の中で整理して、引き出しにしまい込むんだって」…
「必要なとき知識として取り出しやすいように」…
「いっぱい溜まっていて、時間がかかるのよ」…
「朔が前に、そう言っていたから」
呆れた顔で、
「授業もあんなふうにすると、きっとトップの成績だよ!朔は。ほんとうに頭が良いんだから」…
「中学の先生がいつも残念がって、言っていた、よ」…
「朔は、一度覚えたことは絶対に忘れないけどね」
思い出して、笑いながら、
「でも、誰でも知っているような常識は、朔の頭の引き出しに入らないみたい」…
「どうしてなんでしょうね?」

「こら!廣瀬、上田!・・・練習さぼるんじゃない!」
と、谷田部が大きな声で叫んだ。

谷田部は思った。
廣瀬がときどき、松本が現れると見惚れている。今日は上田まで。
「どうしてだろう」と、気になりだした。
「まさか、恋しているんじゃ?松本を」…
「でも、松本はいつも、どこでも、あんな感じでボーッとしているし…」…
「まさかね。でも、いいんじゃな〜い」…「残念!」…
「今は練習中」

二人は再び、グラウンドを走り回った。
いつの間にか、朔はいなくなっていた。

1987年
(正月休み)
亜紀は上田薬局の前に立って中を覗く。
智世に似た、男性が店の中に一人居た。医薬品を整理している。
たぶん、智世の父親だと思った。
意を決し、中に入り「こんにちわ。おめでとうございます」
白衣の父親が「いらっしゃいませ」と、言うのと同時に「智世さん、居ますか?廣瀬亜紀といいます」

「母さん。智世のお友達がお見えだよ」
と、奥に向かい大きな声で言った。
階段を駆け下りる音がしたかと思うと「亜紀!いらっしゃい。どうしたの?」と、智世が言った。
亜紀「ちょっとね。子供の頃のアルバムを見せてもらいたくて」
智世「ははん。亜紀の発作が起きちゃったのか。私のものでよかったらどうぞ。上がって!」
と、言って部屋に案内した。

父親が奥に向かって「智世に女の子が訪ねて来たのって初めてじゃないか。な、母さん!」


続く
...2004/12/19(Sun) 10:48 ID:wR2nsl/6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


26

(智世の部屋1)
智世はアルバムを取り出し、「はい、これが朔の幼稚園時代、これは小学校、次が中学校ね」…
「ずーっと、同じクラスだから、必ずどこかにいるわよ。見つけてごらん!」
直ぐに、どれが朔なのか判ったようで、
亜紀「わー、可愛い!朔ちゃんって、やっぱり男前ね!ステキだわ。私が夢に描いていたとおり!」
智世「あれー?いつの間にか『朔ちゃん』て、呼んでいる!」
亜紀「うん。彼の前では、まだ呼べないの。心の中だけね」

「ふん・ふん・ふん」と口ずさみながら亜紀は熱心に見とれている。
あきれて、「へー、そうなの。ご馳走様。亜紀、紅茶とケーキでいい?」
と言って、智世は立ち上がった。
亜紀「ありがとう。十分よ」…暫らくたってから…「それで!」
智世「まったく、もう。いらないって言ったかと思うじゃないの!朔のことになると盲目ね」
亜紀「気にしなくていいからね」
と言って、アルバムから目を離さなかった。
智世は、あきれた顔で部屋を出て行った。

10分後、紅茶とケーキを持って戻ってくる。
亜紀が熱心に見ている、4人が一緒に写った幼稚園時代の写真を、智世は説明した。
「んーと。これが介ね。4人組のリーダーってとこかな」…
「これが坊主で、皆を賑やかな感じにして、朔が鎮めるのね!」…
「そいでもって、これが私。時々トラブルを起こす訳ね」

突然、智世の方に向きを変え、目を輝かして亜紀が言った。
「ねえ。どうして男の子3人の中に智世が加わったの?」
智世は、昔のことを懐かしむように笑いながら話した。

(桃太郎)
智世は4人組が結成されたときを、思い描いた。

運動会のリレーで、4人組がビリになったのは自分の責任だとしょげていたときのこと。
お遊戯会で桃太郎の劇をすることが決まった。
いつまでも、しょげている智世を慰めようと介、朔、坊主3人がある計画を実行に移した。

先生「桃太郎役、どんな子がいいと思いますか?意見がある人、手を上げて発表してください!」
聞くや否や、介が手を上げて言った。「大きな声の人」
続いて、朔「明るく、元気な子」
坊主「可愛い女の子」

前日、介達3人は、智世が話しかけるのに聞こえない振りをする。
怒った智世は大きな声で、「こら!介、朔、坊主」と叫びながら園内を追っかけ回る。
3人は逃げながら、「もっと大きな声出さないと返事しないよ」と、からかった。
暫らく、そうしておいて、今度は「大きな声だね。元気だね。智世は!それに、可愛いね!」と、言って、他の園児に同意を求めてまわった。
そのお陰で、智世が桃太郎に選ばれる。
3人はお互い、見合って、ニッコリ笑い、拍手を送った。

続いて、他の配役の番に、
朔「お爺さんをやらして下さい」と、手を上げて言った。
介「お婆さんをやります」、そして坊主「家来でいいです」
機先を制したので、すんなり決まってしまった。

これは3人の犯行だった。立案は朔。
智世は前々から劇の主役をやりたがっていた。
桃太郎は男の子の役なので無理だと思っていた。
それを、朔に話したことを、覚えていたのだ。

それ以来、智世は4人の中では主人公。3人を呼び捨てにして家来だと言うようになった。
3人はそれに、満足した。

(智世の部屋2)
亜紀「ふーん。そうだったんだ。でも、朔ちゃんは大木君のこと『介ちゃん』と呼ぶし、大木君は『朔ちゃん』って言うよ?」…
「二人は呼び捨てにしていないじゃない!」
智世「それは、幼稚園に入る前からの仲だから、だよ」


続く
...2004/12/20(Mon) 19:03 ID:Qnev4URA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


27

(朔と介)
どうゆうことで、知り合いになったか分からない。
いつのまにか、二人とも写真館に入りびたりで遊んでいた。
お互い、謙太郎おじいさんが大好き。謙太郎は二人をとても可愛がった。
幼い朔と介を連れて、謙太郎はよく釣りに出かけていた。
舌足らずの朔が龍之介ちゃんと呼べず、いつの間にか「介ちゃん」に。
朔太郎は長すぎたので「朔ちゃん」と介は呼んだ。

桃太郎の劇を見た謙太郎が、「二人は潤一郎、富子夫婦のやりとりにそっくりだ。うまい!うまい!」って、囃し立てる。
頭に乗った介が「ねえ、お前さん?」って、朔に向かって言うようになった。
そしたら、謙太郎はますます、腹を抱えて笑う。
ついに、介の口癖が「ねえ、お前さん」になってしまった。

高校生になった今でも、3人は、時々、写真館で食事を一緒に作ったり、お酒を飲んだりしている。
介も謙太郎の影響で本をよく読んでいた。朔ほどではないけど。
信頼しきった関係。同級生たちが羨むくらいだった。

(智世の部屋3)
亜紀「大木君と朔ちゃんはとても仲良しだったんだ!」
智世「そうよ。幼稚園時代からいいコンビだったわ」…
「小学校の体育の時間にね。跳び箱で。介が一番、最初に試すのだけど、失敗するの。それをじっと観察していた朔が慎重に真似するのね。そして成功するの。そしたら、介が、とても喜んでね」…
「その後、介は簡単に跳んでしまう訳。朔は失敗の見本を介がしてくれたと信じているの」…
「おかしいでしょう。私にはどちらが本当なのか分からないんだけど」…
「兄と弟か、双子みたいで、お互い不足したものを補い合っているようだったわ」

「介には朔が何をしだすか。解るみたいなのね」…
「朔はこうと決めたら、周りが見えなくなってしまう性格でね。それを介がうまく補うのよ」…
「そうね。もし、介が女の子だったら、絶対に朔のお姉さん女房になると思うわ」

智世の話を想像して、その内容が分かった様子で、肯きながら亜紀が言った。
「で、中川君はどうしたの?」
智世「坊主は寂しがり屋で、入園当初は泣いてばかりだったの」…
「それを見かねた介が仲間に入れて、お寺の息子だからって『坊主』とあだ名をつけた」…
「坊主はそれをとても気に入って、仲良し3人組が結成された訳よ」

亜紀「智世はどうなのよ?大木君が好きだって言っているけど、朔ちゃんも好きなんでしょう?」
思い切って、不安に思っていたことを口にした。

智世「仲間に私が最後に加わったのだけど、兄が欲しくって介に憧れたの」…
「朔は一番小さかったから、弟かな?でも、3人は私のことを妹みたいに思っているわ」…
「小学校、中学校、ずーっと、同じ。小さい頃の印象って強力なのね。いまだに続いているから」
智世「私の両親は朔のこと、大好きなの。私が今、朔のお嫁さんに成りたいって言ったら、おそらく朔の両親に婚約の申し込みに行くと思うわ。とても気に入っているの」…
「私が介のことを好きなこと、知っているのにね!」…
「亜紀が朔のこと、好きだって言ったとき嬉しかった。最初は変な子、おかしいんじゃないと思ったけど」…
「亜紀だったら、朔は幸せになれると思うわ。応援しているの」…

智世はキッパリと言った。
「もしも、亜紀が朔を裏切るようなことがあったら、絶対に許さないからね。だから、約束してね!」
亜紀「勿論よ。私の唯一の人と思っているわ」…
「でも、朔ちゃんが私のこと好きになってくれないと、どうしようもないけど」
智世「そりゃ、そうだわ!アハハハ」

暫らくして、
智世「私、勉強あんまり得意でなかったの。で、ノートを私のために作ってくれて」…
「高校でも同じ」…
「当たり前のことと思っているのね。朔には」
亜紀「……。」…(冷や汗)…(朔ちゃんは智世が好きなのでは?)…

「リーダーは大木君なんでしょう?」
智世「そうなんだけど、後ろに控えている朔がいるから、まとまっているって感じかな?」…
「朔を見ているとそんなふうに、見えないでしょう?ボーっとした感じで」
亜紀「そんなことないんじゃない?!」と、不満気に言った。
「勉強疲れよ。きっと、それって。それに、読書。睡眠不足よ…」…
「……。」


続く
...2004/12/21(Tue) 18:47 ID:3AHxT78o    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
智世と亜紀の会話は、ドラマのテイストをいかしつつ、4人の出会いの話とてもよくできていて、良かったです。そして亜紀が、朔の事がとても好きなのかも・・・次回も楽しみにしていますので、頑張って下さい
...2004/12/22(Wed) 04:17 ID:MVzA89C2    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
けんさんへ

感想ありがとうございます。
26日が最終回です。最後まで読んでください。
ドラマが終わって3ヶ月も経つので、間違った記憶かもしれません。間違っていたらごめんなさい。
...2004/12/22(Wed) 19:17 ID:Xl2L/BQQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−特別編2−


28

2004年2月
(介と谷田部)
亜紀が亡くなって17年目になるのに、朔が帰省しないどころか、墓参りもしていない。
そのことに、介は憤りを感じるようになっていた。
いくら医者が忙しい仕事だと言っても、数日休めないことはないはずだ。
今日明日を争う、患者を受け持っていたとしても。
年に数回は余裕のある日が必ずあると思った。
それで、思い切って電話することにした。

介「松本朔太郎先生をお願いします。宮浦の大木と申します。もし、先生が今、お手隙でしたらお取次ぎをお願いしたいのですが。先生とは幼馴染です」
病院の事務員「はい。承知しました。内科病棟にいらっしゃいますので、連絡してこちらの方からお電話を差し上げたいと思いますが、連絡先は表示してある電話番号でよろしいでしょうか?」
介「はい。宜しく、お願いします」
暫らく経って、電話が鳴った。

朔「やあ!介ちゃん!本当に久しぶりです。」
介「ねえ、お前さん。久しぶりはいいんだけど、そろそろ亜紀ちゃんとのこと決着つけないと。なあ、朔ちゃん!」
朔「ごめんなさい。坊主や智世にも心配かけていると、気にしていたんだ。親父やお袋、それと亜紀の両親にも」…
「亜紀には、すまないと思っているけど、やっと心の整理が出来そうなんだ」…
「実はね。昨年の命日に、夜中、一人で墓参りに行ってきたんだ。来年はケジメをつけると報告してきたよ」
介「そうだったのか。いつ頃の予定?」
朔「うん。仕事が溜まっているけど、なんとか夏までには…」
介「分かった。坊主や智世にも連絡しておくよ。二人とも喜ぶよ、きっと。じゃ、楽しみに待っているよ!」
朔「うん。ありがとう」

介は電話を切ったが、『昨年、夜中に一人、墓参りした』と朔が言ったことが気になった。
それで、谷田部先生に相談することにした。
朔は、半年前から夢の中で『朔ちゃん、よく頑張ったね。もういいよ。来年の夏には区切りをつけるんだよ。宮浦に帰っておいで!』と、言っているのを聞いていた。それで、気になって墓参りをしたのだった。
そのとき、亜紀の優しさに触れたような気がした。亜紀が心配しているように感じたのだった。

谷田部は15年の間に3度転勤していた。
昼休みに電話が鳴った。介からの電話が。

介「谷田部先生、お久しぶりです。お元気ですか?宮浦高校でお世話になった大木龍之介です」
谷田部「大木!久しぶりだね。元気そうだね。どうした。突然に?」
介「夕べ、朔ちゃん、いや、松本朔太郎と電話で話したんです。夏には戻るようです。ケジメをつけたいようです」
谷田部「そうか。長かったね。やっと忘れたのかね。廣瀬のことを」
介「どう言ったらよいか?ちょっと違うようなんです。16年ぶり、昨年の命日に、一人でこっそりと、亜紀ちゃんの墓参りをしているんです。それで、気になって」
谷田部「うーん。4月から宮浦高校に転勤することになっているし、校舎が建て代わるようだ。私からも戻るように言ってみるよ。そのときに、また相談しよう!」…
「まったくもう。立派な医師になっても、心配焼かせて。松本は!」
介「はい。そのとおりです。朔ちゃんらしいです。じゃ、宜しくお願いします」
谷田部「おう。任しておきな!」
と言って電話を置いた。

谷田部は呟いた。
「うーん、宮浦か!…私の青春も同じだよ。松本のおじいさんとよく本について語ったな」…
「お陰様で、国語の教師になってしまって…」…
「…おじいさんの孫の担任になってしまうし、縁とは不思議だね」…
「おじいさんがおっしゃっていたとおり、孫の朔太郎は頭のいい子でしたね…」

「松本は廣瀬が死んだ後、医者になりたいと相談してくれた。それ以来、本心を明かさなくなってしまったんだ」…
「それまでは、思っていることを何でも相談してくれたのに…」…
「3年になったとき大木を同じ組にして、4人組を復活させたんだ。松本を見守らせるために…」…
「…その甲斐あって、勉強に身が入り、立ち直ったと思っていたけど」…
「卒業式に出てこなかった。その後も帰省していないみたいだなあ…」

谷田部は「調度いい機会だから、松本に案内状を出すことにしよう。それに15年間も預かっているものを渡したい」
と、思った。

続く
...2004/12/22(Wed) 19:24 ID:Xl2L/BQQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Marc
こんにちは Apo 様

谷田部先生やっぱり気風がいい人ですね、なかなかあんな教師
にはめぐり合えないと思います。
朔達が育った環境は羨ましいですね。
...2004/12/22(Wed) 20:17 ID:a4XteO6c    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
Marcさんへ

谷田部先生って良いですね。どんな男性と恋をしたのか色々と想像してみるのですけど、ピッタリする男性が見当たらないんです。
役柄なのか、松下さんの個性なのか。どうなんでしょう?
...2004/12/22(Wed) 21:10 ID:Xl2L/BQQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


29

(智世の部屋4)
智世「父がね。小学校の頃、朔を見ていて、私のお婿さんになって、この薬局を継いでくれないかなって言ったことがあるわ」…
「朔は小さいころから、大人に好かれるのよね。男の人にも、女の人にも」…
「朔を見ていると、世話をやいてあげたくなるらしいのよね、大人には」…
「いつも、ボーっと考え事をしているようだけど、ちゃんと人の話は聞いているのよ。どういう頭をしているのか、不思議な男よ!」…
「付き合って、絶対に飽きることないと思うよ。優しいし、嘘がつけないタイプよ」…
「まあ、多少は刺激がないかもね!」
亜紀「ふーん。それから?」
神経を集中して聞いていた。
智世「ノートをいつも見せてもらっているんだけど、字は下手くそなくせに完璧に整理されているの。試験の前に見せてもらうと、ヤマが当たるわよ。今まで助かってまーす」
亜紀、怒った顔で「字が下手なのは関係ないじゃない!」と、言うと。
智世「亜紀が怒ることないじゃない」と、言い返した。
亜紀「意地悪!」と言って、ふくれた表情を見せた後、急に笑い出す。
ケーキを食べながら、話が続いた。

智世「1年前の高校入試の日に、こんなことがあったわ」…
「試験会場の受付前で、朔がゴソゴソしているの。『どうしたのって』尋ねたら、『受験票が見当たらないと』と言うの」…
「それでね。『どうするのよ。取りに戻ったら始まっちゃうよ』と言っても、ゴソゴソしているのね」…
「そしたら、前の方に並んでいた他の中学の受験生の一人が泣いているの。その子も受験票を忘れたみたい」…
「それを、じーっと、見ていた朔は受付まで行って、『俺、受験票が見つかりません。失くしました。再発行をお願いします』て、堂々と言うのね。それで、中学の学生証を提示して仮受験票を再発行してもらった」…
「おかげで、泣いていた子も再発行してもらい受験できた訳よ」

続いて、言った。
「朔ってそんな男の子よ。私達3人感心しちゃった。どーお?もっと好きになった?」
亜紀「うん。とっても。いざとなったら勇気と決断力があるんだね」…
「朔ちゃんって。ダーイ(大)、好きになっちゃった」

智世「前に、来年、朔が亜紀のことを好きになるって言っていたけど、自信があるんだ!」
亜紀「あのね。朔ちゃんを見かけると、サインを送っているのよ。私の方に振り向いて!好きになってねって」
と、言いながら手を胸に合わせて、祈りのポーズをとった。
「1年間も続けていると、そろそろ効き目が出てくると思うんだけど」
智世「あははは。なんだ、そんな根拠だったの」…
「乙女チックじゃない、亜紀って!私なら直接、『好きです』と言った方が効果的だと思うけどな」
亜紀「そんな、チャンスがあれば言うけど…」
智世「たこ焼きパパさんに、男3人よく集まっているから仲間に入る?」
亜紀「う、うーん。2年生になって、朔ちゃんと同じクラスになれば良いけど」…
「朔ちゃんの彼女として紹介されたいわ」

智世「うーん、同じクラスか?」
亜紀「同じクラスになれば、必ずチャンスが訪れると思うの」
智世は、暫らく考えてから「私はずーっと朔と同じクラスだったから、2年生も同じだね。きっと。だから、谷田部先生のクラスに私と亜紀がなりたいと言ったら、どうかしら?」…
「意外と希望を聞いてくれたりして!ダメもとじゃない!」
亜紀「うん。そうしてみるか。二人、交互に言い続けるのが良いかもね」…
「練習が終ったときや、国語の授業が終わった休み時間とか。谷田部先生を見かけたら1日に1回はどちらかが言うのね。今日は智世の日、明日は私の日とか決めておくの」
智世「それで、決まり!」

3学期になったら計画を実行に移すことを約束して、智世の家を後にした。

(帰り道2)
亜紀は呟いた。
「智世は大木君とうまくいかなかったら、たぶん朔ちゃんと仲良くなってしまうかも」…
「そして、大人になった結婚するかも」…
「朔ちゃんとなら安心して、暮らせると思う。智世はそのことに気が付いていないんだわ!」…
「ほんとうは智世も朔ちゃんのこと好きなのよ。きっと」…「今は気になる程度だけど」

「もし、朔ちゃんと付き合いだしても、始めは智世に知られないようにしなくては」…
「応援すると言っていたけど、最大のライバルになりそうな気がする」…
「既成事実が出来てからなら、智世に知られてもいい。大木君や中川君にも」…
「朔ちゃんには、私のこと、とても印象深いものにしなくては。強く心に刻み込まなくては!」

その頃は、したたかな乙女心を併せ持つ亜紀だった。


続く
...2004/12/22(Wed) 21:11 ID:Xl2L/BQQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


30

1987年4月
(掲示板2)
2年生のクラス分けの発表があった。
掲示板を見た智世は「やった!希望どおりだわ。二人。亜紀!」
後ろから、そーっと、近づいた谷田部は「どうだった?苦労したんだから。取って置きの手を使ってね。秘密だゾー!」
亜紀、会釈して「ありがとうございました」
谷田部「まあ、いいさ。乙女の祈りは叶えてあげないとね。誰も損はしないんだから」…
「そのかわり、一年間、私に感謝しなさいよ!」…
「ついでに、松本もくっ付けといてあげたから」…「ちゃんと面倒見るんだよ!分かったかい?廣瀬!」
と言って、笑いながら亜紀の顔を覗きこむ。
亜紀は喜びいっぱいの顔で「はい。お世話になります」と、深く頭を下げた。

谷田部は気が付いていた。練習の途中に朔が現れると、亜紀がいつも遠くからジーっと見つめていることを。
1年間もそれが続くと気が付かない訳がなかった。

(高校2年生)
亜紀は毎日、朔へサインを送り続けた。
同じクラスで、傍に居られるだけでも嬉しかった。でも、顔の表情には出せない。
…「慎重にしなくては。第一印象が大切だわ。チャンスを待つのだ、ぞよ」…
学級委員になった亜紀はLHRの時間、正面から朔を見つめることが出来たが、たいていは朔が俯いている。それで、前の席の中川が誤解するかもと心配になってしまった。
中川がジーっと見つめてくるようになったので、ついに朔を見つめることを諦め、心の中で祈ることにした。

中川は亜紀が自分の方をよく見つめるので、誤解してしまった。
ひょっとしたら自分に興味を持っているのではと。
それで、亜紀について探りをいれた。智世に。理由が分からないように、はぐらかしながら。
亜紀の誕生日と目下、欲しがっているものを。
それをプレゼントして、「付き合ってください」と申し込むことに決めていた。

毎日、お祈りをしたので、朔がときどき亜紀を見つめるようになる。
朔は亜紀が1年前の『ハンカチの女の子じゃなかったのか』と、考えていたのだ。
正面からは見ていないが、後姿がそのように感じる。
それと『仄かないい香りは、いつかどこかで嗅いだんじゃないか?』と思った。

ピンクの紫陽花が蕾をいっぱい付け始めた頃。
ついに、亜紀に運命の日が訪れる。待ちに待った日、感動の瞬間。
そう、村田先生のお葬式。突然の雨。
それは運命だった。
亜紀と朔の定められた純愛。

…(十数年後、この出来事を伝え聞いたTBSのあるプロデュサーが、『世界の中心で愛を叫ぶ』というドラマのモデルにしたことを二人は知らなかった)…

1990年10月24日
(アパート2)
夜明けまでには十分な時間があった。
御まじないのお陰で、朔は黙って聞き続けている。半分、眠った状態。

伝えたかったことは話終えた。
ほんとうは、朔と結婚して、満足したかたちで優しく抱いて欲しかった。でも、叶わぬこと。
それで、亜紀は御まじないを少し緩めるつもりで、朔の耳元で言った。
「ねえ、朔ちゃん、もう一回、抱いてもらってもいい?今度は私からのプレゼントとして」
恥ずかしそうに抱きついてみる。

朔は嬉しかった。心行くまで亜紀と親密になりたかったのだ。
それは朔が言いたかった言葉だ。でも、思ったことを行動に移せなかった。
「いつの間にか、受身の自分になってしまっている。でも、これで良いんだ。亜紀が喜んでくれるなら」と思っていた。

「亜紀の全てを知りたい!」…「亜紀の希望を叶えてあげたい。それが自分の幸せでもあるから」
そして、亜紀を優しく抱き寄せ、乳首にキスをした。左の方から右へと。
右の乳房の下に黒子があった。
「亜紀の秘密の場所だ。俺しか知らない」と、呟きながらキスをする。
亜紀の身体が時々ビックリしたように動く。でも、嫌がっているのでなく、快感なのだ。
全身への優しい愛撫を続けた。
…「朔ちゃん。私、とっても嬉しいんだよ。朔ちゃんと結ばれて。私の唯一の人」…
「私のこと、忘れないでね!約束だよ!朔ちゃん!絶対だよ!」…
「好きだよ!朔ちゃん!大好きだよ!」…

耳元にキスをするとき、
亜紀の息が荒くなっているのが解った。
…(亜紀は泣きたかった。幸せをいっぱい感じていたから。でも、朔のために我慢した)…
……
再び、結ばれていく。
……
「朔。ちゃ…。ん…」
「亜紀―。…」
「。」


朔が目覚めたとき、亜紀の姿は無かった。
昨夜の出来事を忘れ去っていたが、跡片付けをしているとき不自然さを感じた。
こんな飾りつけや、看板を自分が作ったのか?
不思議だった。
二人分の食べ残しがどうしても理解できない。
一人で亜紀の命日と二人の誕生日祝いをしたのだろうか?
誰かが居たように思われて仕方がない。それも亜紀が。
それに亜紀の匂いがまだ残されていたから。

でも、朔は肝心なことに気が付いていなかった。
朝起きたとき下着を身に付けていなかったこと。シーツに2箇所の痕跡があったことを。


消し忘れたラジオから、時空を越えて詩が流れていた。

…つよく抱きしめられても  ふいに透き通るからだ  朝の光に浮かんだ  影は いまはひとつだけ
忘れられてゆくのは  誰だってきっと  震えるくらい怖いけど
哀しみを少しずつ  許しましょう  これからは新しい  あなたを生きて
やすらぎを見つけたら  わたしの声  もう忘れてもいい…

…部屋をどれだけ変えても  同じ花ばかり飾る  日々の流れに持たれる  愛は弱いとこもある
いつもつらいだけなら  思い出のために  あきらめるものなんかない
さみしさに負けないで  歩きましょう  これからはどこまでも  あなたを生きて
くちびるも  指さきも  夢の向こう  もう忘れてもいい…

…だけどもし眠れない  夜があれば  誰よりも  思い出す  わたしでいたい
いつまでも  変わらない  笑顔のまま  ただそばにいるから…
(哀しみを許して  作詞:松井 五郎  作曲:岩本 正樹  唄:柴咲 コウ  2004年)
...2004/12/23(Thu) 19:15 ID:SutGpPzw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
こんばんわ。読ませていただきました。なるほど、ドラマの伏線として、納得しましたね。亜紀が、朔と付き合っても最初智世に隠しておこうと思ったのは、智世が亜紀にとって親友でもありライバルになる可能性もあるというところなんか、ちょっとリアルティーがあって良かったです。
 あと最後のラジオにかかってくる歌に柴咲コウのしかもカップリング曲の歌ですよね?これもよかったです。
 26日で最終回みたいでとても残念ですが、頑張って下さい
...2004/12/23(Thu) 23:20 ID:xxXz7uVg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
けんさんへ

いつも感想ありがとうございます。
TVドラマの穴を埋められたら幸いです。
「哀しみを許して」はかたちあるものの中の1曲です。亜紀の心情にぴったりだと思いました。
...2004/12/24(Fri) 19:27 ID:8NW3t1ag    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−特別編3−


31

1990年10月24日
(墓参り1)
亜紀の4回目の命日。
あれから、まる3年が経過した。
亜紀の墓前に介と坊主が花を持って佇んでいる。
既に墓の掃除は前日、坊主が済ませていた。
といっても殆どすることはなかった。亜紀の両親が月命日には必ず、お参りしていたから。
落ち葉を掃いただけだった。

介「亜紀ちゃん、二十歳になったね。遅くなったけど、誕生日おめでとう」
と、ポツリと言った。
坊主「そうだね。昨日が朔の誕生日だから、5人、二十歳になったんだ。亜紀ちゃん、おめでとう」…
「気がつかなくてごめんよ」
介「智世、遅いなァ!昨日、電話で『絶対に行くから、待っていて』と自分から言っていたのに」

坂の下から息を切らして、駆け登って来る智世が見えた。
坊主「あ、智世だ。相変わらず、元気だな!走ってくるよ」
介と坊主は手を振って、智世を迎える。

息を切らして駆け上った智世は「ごめん。ごめん。遅れちゃった」と、言いながら深呼吸。
息を整えながら、汗を拭いて、言った。
「大学の授業、サボっちゃった。友達に代弁を頼んでいたんで、遅れちゃって、ごめんなさい」
介「バレたらどうするんだよ。別の日でも良かったんじゃないの?」
智世「いいのよ。大切な日だから。今日は亜紀の命日、昨日は朔の誕生日。これで5人皆大人になったんだね」
介「うん。今、坊主がそう言って…」
話を制して、智世が言った。
「3人でお参りしよう。朔の代わりに私が二人分お祈りするから」

3人は花を添え、線香に火を付け供えた。
そして、手を合わせ無言でお祈りをした。

智世は手を合わせ、心の中で、
「亜紀!最近分かったんだけど。うまくしてやられたね。朔のこと」…
「ひょっとしたら、亜紀が朔を好きだと言い出さなかったら、私も好きになっていたかもね」…
「まあ、分からないけどね」
「それから、私、結婚して女の子が出来たら、『亜紀』と、名前付けるからね。そう決めたの」…
「それで、娘と親友になるの」…「娘の、亜紀の、最初の親友。私がね。ウフフフ」…
「亜紀みたいな親友が出来るの、もうないよ!たぶん無理だよ」…
「私が生きている限り、親友だからね」…「ゆっくりお休み。亜紀」

目を開け、今度は話した。
「朔、頑張っているよ。りっぱな医師になろうと。亜紀のために、一生懸命」…
「それまで見守ってあげてね」…「これ、朔の分ね」
再び、手を合わせる。

智世の様子を見ていた介が、
「朔ちゃんはどうしたんだろうな。卒業以来、顔を見せやしない。まだ、亜紀ちゃんのこと、責任感じているのかな?」
坊主「医学部だから、忙しいんだよ。きっと。亜紀ちゃんのために一生懸命だと思うよ」
二人分のお祈りを済ませた智世が言った。
「実は、朔のことで話があったんだ。それで今日にしたの。無理言ってごめん。報告しておきたくて」…
「1週間前に松本のおじさんに電話したんだ。亜紀の命日に御参りしてもらいたくて。朔の連絡方法を、って」
と言って、潤一郎との話を説明した。

…卒業式の日に、亜紀からのテープが見つかったこと。次の日、亜紀の家に伺って朔宛のもう1本のテープを聴いたこと。ソラノウタの絵本が17歳の朔へ、誕生日プレゼントとして残されたこと…

智世「それで、朔は亜紀の望みだとも知らないで。お医者様になるため、頑張っているの」…
「松本、廣瀬のおじさん、おばさん、共に、朔が立派な医師になるまで。それまで見守ろうって。決めていらっしゃるの」
介「そうか。俺たちも見守ってやろうな」…「坊主!智世!」
坊主「そうだな。朔は立派だなー。あいつにはかなわないよ」
智世「亜紀に、さっき報告したわ。朔にマインドコントロールをかけたみたいだから、朔は一人前になるまで亜紀の夢を見続けていると思うんだ。だから、朔は淋しくなんか無いと思う」…
「亜紀の祈りは1年がかりで朔を振り向かせんだもん。強力だから」
介、坊主「え?それってどういうこと?」

智世は高校のとき、亜紀と話したことを伝えた。

坊主「そうだったのか!俺が好きになったのは誤解だった訳だ。うん。かなり強烈だわ。亜紀ちゃんの祈りは」
介「今頃、朔ちゃんは亜紀ちゃんと会っているかもしれないね。二人で朔ちゃんの誕生パーティをしたりして」
智世「私もそう思っていたわ。亜紀ならあの世からでも会いに来ると思うもん」
坊主「こら、俺の前で幽霊の話なんかするんじゃない!」
介「あははは。お前、本物の坊主になるのに、まだ、お化けが怖いのか?変わらないなァ!」
3人は楽しく笑い続けた。


続く
...2004/12/24(Fri) 19:31 ID:8NW3t1ag    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
今回の3人の亜紀の墓参りでの話は、とても良かったです。改めて、この3人と亜紀・朔の関係は羨ましいと思いました。次回も楽しみにしていますので、頑張って下さい
...2004/12/25(Sat) 12:47 ID:lLqMniNo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−後で会いに行きます編−


32

2004年夏
(廣瀬宅5)
朔「その後、毎年、紫陽花の花が咲く季節、ちょうど雨上がりの日に亜紀が現れました」…
「今度は、私にしか見えなかったけど声ははっきりと聞こえました」…
「それが不思議なことに、毎年、歳をとっているんです。声もだんだんとお母さんに似てきて、とても優しい声で」
綾子が「うん。うん」と、頷く。
「大学生活や医師になっての苦労話。友人、小林の不幸な出来事と彼女の子供のことなんかを話したんです」…
「亜紀に」…
「いつも笑顔で聞いてくれました。別れ際に人差し指を回しながら『御まじない』と、言うんです」…
「それから、バイバイ…またねって…」
一息ついて、震える声で言った
「年毎、だんだんと亜紀が居る時間が…短くなって…」…
「去年と、今年も、現れてくれたんですけど…直ぐに消えてしまいました。とても…淋しそうでした…」…

朔は涙を溜めて、話し終えた。
真は会話に加わらず、頷きながら聞き入っていた。時々目頭を押さえながら。

綾子が微笑みながら言った。
「やっと全てを思い出したわね。朔君」…
「亜紀と私に関しては、みんな本当の話よ」…
「朔君や智世ちゃん達のことは、初めて聞くことが多かったけど。ありがとう!」…
「知らなかった亜紀の青春を聞けたわ。ほんとうに、ありがとう。朔君!」

暫らく感慨に耽った後、
綾子は、「全て、真実よ。証拠が残っているわ。ちょっと待っていて」と、言って立ち上がった。
亜紀の勉強机に向かい、引き出しを開け、薄っぺらな紙を取り出し朔に渡した。

紙をゆっくり開いた。そして見た。
朔「あ!これは、亜紀が書いた婚姻届!」
胸にしっかり抱きしめた。
綾子「昨日、部屋を昔の状態に戻しているとき見つけたの。日付を見てビックリ14年前のじゃない」…
「それから、亜紀が二十歳になっているわ。それで亜紀が言ったことが真実だと証明されたの」
そう言って、病室での出来事の続きを話し出した。

1987年秋
(病室3)
亜紀「お母さん!昨夜も朔ちゃんに会ってきちゃった。朔ちゃんの二十歳の誕生日。朔ちゃんと結ばれて、私、本当のお嫁さんになったの」…
「ちゃんと御まじないしてきたわ。朔ちゃんへの御まじないが切れるのは17年後。そのときまで、見守ってあげて。ね、お母さん」
そう言った亜紀は苦しそうに息をした。
顔色が悪かったが、とても幸せな目をしている。
入院していて、こんなにも幸せな雰囲気を醸し出す亜紀が、不思議だった。

体力の限界状態。
今度の薬も効果が無かった。
あきらめるより仕方がなった。でも、亜紀はまだ朔との夢を語っている。

亜紀のことが不憫でならなかった。

綾子「はい。はい。亜紀ちゃんの旦那様だから大切に見守るからね。約束するね!」
とは、言ったものの、涙をこらえるのがやっとだった。

2004年夏
(墓参り2)
綾子が話し終え、沈黙が部屋を訪れた。

痺れを切らした真が言った。
「亜紀は17歳で亡くなったが、その後17年間、朔と生き続けていた訳だ。知らなかったのは私だけだったとは」
悔しかったが、娘を持った父親が、嫁に出すときの心境とはこんなものだろう思い、納得した。
続けて言った。
「あれ、お昼の時間、過ぎてしまって。素麺でも食べないかね。朔?」
綾子「そうですね。ごめんなさい、気がつかなくて。朔君、一緒に食べましょうね」
朔「はい。いただきます」…
「あの、その前に亜紀の墓参りに行きたいのですが」
真「そうだな。昼飯の準備が出来るまで二人で行ってこよう。な、朔」
朔「はい。お父さん」
真は『お父さん』と、朔から呼ばれて、とても嬉しかった。それで「うん。うん。」頷き、墓参りの準備で部屋を後にした。

朔と真は線香と桶を持って、坂道を登って行く。
途中で、丘を見上げた二人は亜紀の墓の前でこちらを向いて、二人に手を振る若い婦人を見た。
「亜紀!」…「あれは、亜紀だ!」
二人同時に叫んだ。
亜紀は笑っていた。とても嬉しそうな顔だった。
そして、手を振りながら、スーっと消えてしまった。

一方、綾子は台所で素麺をゆでていた。
そうしたら、肩越しに「おいしそう!」と声がした。
振り向くと、亜紀が立っていた。
二人は、見合って微笑んだ。
そして、「お母さん。ありがとう。バイバイ」と手を振って消えた。


続く
...2004/12/25(Sat) 19:02 ID:YJdtULkA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
長らく読んでいただきまして、ありがとうございました。
ご意見を書いていただけまいたら励みになります。
エピローグを書きたいのですが、まだまとまりません。


−後で会いに行きます編−(最終回)


33

1987年10月23日

亜紀と朔はタクシーを待っている。
病院でタクシーを予約して待たせておけばよかったが、誰かに気付かれて戻されてしまう恐れがあると朔は判断した。
それで、病院を出た下りの坂道でタクシーを拾うことに決めた。

亜紀は、この後の展開を既に夢の中で観たので、知っていた。
空港までは、何とか行けるけど、搭乗口で倒れて意識を無くし、病院に戻されることを。
数日前、観てきた光景のとおりだったから。

あまりにも悲しすぎる結末。
…『運命に潰されたくない…行きたいように生きる…見に行く』と、テープに残してきたのだから、運命に逆らって、一人でウルルに行ってみよう、『運命が変わるかも』…
タクシーを待っている間に、そう思った。

タクシーが止まった。
「今しか、チャンスはない」と思い、
「ありがとう」と、言って、朔を突き放す。
朔はタクシーのドアから滑り落ち、「えっ!」ビックリ顔で亜紀を見つめていた。

その光景を見ていた運転手は、「行ってください」と若い女性から言われ、ちょっと躊躇したが。
病人らしい女の子の必死さが伝わり「はい」と言って、車をスタートさせる。

亜紀は上りホームのベンチに腰掛け、列車を待つ。
そうしているうちに、今、朔がしている行動が頭に浮かんできた。
…通りがかった後続の車の前に、飛び出し、車を急停車させた。
「すみません。知り合いの病人が。女の子が一人で。駅へ。タクシーに乗って。逃げるように。何かあったら困るんです。助けて。助けてください」と、切れ切れに言った。
乗っていた、50代の夫婦は事情が分かったらしく、ドアを開けた。そして、車を駅へ走らせた…

「亜紀―」
朔がベンチに近づき「何かあったら、どうするんだ」と、言った。

ここからは、夢で観た光景に戻ってしまった。
理解した。
…全てが決められた展開になってしまうのだ。結局は朔と一緒にいられる時間が短くなっただけ…運命を変えようとすれば、朔にかえって迷惑がかかってしまうかも…朔は構わないと言うだろうが、取り返しのつかない苦しみを背負わしてしまいそうだ…夢に見た運命を既に背負い込んでしまったんだ…

夢でのストーリーはこうだった。…(タクシーに一緒に乗って駅に着く。空を見た朔は雨が降りそうなのに気付く。亜紀の身体が冷えないようにと、厚手のコートを買いに衣料品店へ走る。駅の待合室で待っているように言い残し。
しかし、亜紀は、そんなことはないと思い、駅の構内に入ってしまう)…

亜紀は定められたストーリーにのって、行動することに決めた。
最後の瞬間が来るまで。
…カッコ悪くてもいい。
惨めに観られてもいい。
朔へ、目的を持って精一杯、最後まで生き続けたことを示そう。
それが、最後のメッセージ。
生きていた私から、朔あての、最後の愛情表現…

…その後、朔とは17年間、時々会うことが出来る。それを楽しみに、いこう。
行ってしまおう…

素直な、亜紀へと変わっていった。


1987年10月24日
夜明け前。
亜紀はベッドに寝かされていた。
両脇には綾子と真。綾子が亜紀の手を握っている。
離れて佐藤Dr.が佇んでいる。

亜紀は夢を見ていた。

か細い声で亜紀が話した。
所々しか声にならない。心の声だった。

「…(透き通る青い)…ソ…ラ…(だね。朔ちゃん!)…ウ・ル・ル…(に二人やって来たんだよね。新婚旅行)」…
「(私が死んでしまったら、思い出の場所に遺灰を)…マ…イ…テ…(ね。)」…
「(そしたら)…ワ…タ…シ…(いつまでも朔といっしょにいられる。きっとそうだよね。)」…
「…サ…ク…チャン………」…
「…(後で会いに行きます!)…」…
「……。」…
「…。」
「。」
最後の瞬間まで、心の中で朔に語りかけていた。

廣瀬亜紀、享年17歳3ヶ月と22日
…(4時間 1989年)…(14時間 1990年)…(1時間 1991年)…(1時間 1992年)…(1時間 1993年)…(1時間 1994年)…(30分 1995年)…(30分 1996年)…(20分 1997年)…(15分 1998年)…(10分 1999年)…(5分 2000年)…(5分 2001年)…(4分40秒 2002年)…(5秒 2003年)…(15秒 2004年)

…時空を越え、BGM『空の果てへ』のメロディが、何処からともなく聞こえた…


(BBS)
Name:少女フレンド…
「Apo.さんへ 泣きながら最後まで一気に読みました。それで質問があります」…
「亜紀は『時をかける少女』(1983年 角川映画 原田知世主演)なんですね。ラベンダーの香りが紫陽花に変わったみたいな」…
「過去に行けば、病気を克服出来たのではないでしょうか」…
「それとも、他に理由でもあるんでしょうか?」

Name:少年Z…
「Apo.さん、はじめまして。僕はこう思いました」…
「23時に亡くなった人はその日の0時に死亡となる。同じく23時に生まれた人はその日の0時には生きていることになる」…
「死んでから24時間以上経過しないと埋火葬が許されない」…
「結局、亡くなった人は自分の意志に関わりなく、生かされたり死んだりさせられる。生まれた人も数時間前には、既に生を受けたことになってしまう」…
「その数時間、または1日、どうしているのだろう。違う次元にいるんじゃないだろうか」

Name:Apo.…
「少女フレンドさん、少年Zさんへ」…
「読んでいただきありがとうございました。質問にお答えします」
…生まれた時刻と死ぬまでの時刻、その日数の狭間で1日のずれが生じる。
人は定められた運命の中、死が訪れる日が決まると、その1日を利用して愛する人々の未来の姿に会うことが出来ると言われています。
亜紀は与えられたその1日を朔と会うために有効に利用したのです。17年の間に分割して。
おかげで朔は寂しさを紛らし、立派な医師になることが出来ました。
これは亜紀が決めた朔の運命。亜紀からの最後のプレゼント。
亜紀と朔は、ついに一つの心になりました…
...2004/12/26(Sun) 16:39 ID:EGoN.LDM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:北のおじさん
Apo.様。

『残されたテープ』編、『後で会いに行きます』編、全て読ませていただきました。
途中で一度だけレスを入れさせていただきましたが、Apo.様が極力自分の意見を書かない(書きたくない?)との事でしたので、無意味な議論を避けるため読み方に専念していました。
Apo.様が書かれていた通り、亜紀を亡くした後の朔の17年間を見事に表されていると思い、感想ではなく感謝したいと思います。
二人の出会いから亜紀の告白への経緯、そしてドラマの本編へ移り、亜紀亡き後の17年間の空白期間の亜紀から朔への愛情表現。
生まれてから死ぬまでの狭間、24時間の17年間への割り当て、最後の2話は読んでいて涙が出そうになる程切ないものでした。
朔を励ます亜紀の姿、見事に表現できたと思います。
一時期は他の小説をパクったのかな?、官能路線へ変更か?(^_^;)と思わせる部分も有りましたが、最終回で納得できました。

これからも機会がありましたなら、すばらしい物語を掲載して下さい。
...2004/12/26(Sun) 18:00 ID:XF1XxkAk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Marc
Apo様
いかん!涙が出る、もうすぐ仕事始まってしまうのに...
...2004/12/27(Mon) 08:29 ID:HC5/TthU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
明けましておめでとうございます。けんです。最終回読ませていただきました。亜紀と朔の出会い、そして、ドラマ本編やその後の亜紀と朔のやりとり、はみごとでした。また、今年もこのような小説を掲載して下さい。楽しみにしています。
...2005/01/01(Sat) 05:28 ID:e3x.eytU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 Apo様
 エピローグの完成前に過去ログに落ちないよう,上げておきます。

 ドラマの謎の一つだった第10話の「突き飛ばし事件」に関して,「夢で見た展開に逆らうため」という新解釈登場ですね。
 でも,その後のサクの行動が読める亜紀なのに,1つ先の駅とか本線との乗り換え駅とかまでタクシーを走らせ,サクをまくという行動に出なかったのは,心のどこかで運命を受け入れていたんでしょうかね。

 最後まで「蚊帳の外」に置かれていた父親がちょっと可哀相って気がしなくもありませんでしたが,涙を誘う物語を有難うございました。
...2005/01/03(Mon) 06:53 ID:kR/DjGN6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
明けましておめでとうございます。

最終回の亜紀がタクシーに乗るとき、朔を突き飛ばす会話を訂正しました。
DVDを見直してあらためて気がつきました。ごめんなさい。
龍之介の命名者が謙太郎だったとは、始めて知りました。
エピローグに書く題材がやっとまとまりました。
これから構想を練り組み立てをします。
「亜紀の結婚編」です。
今度は亜紀パパが活躍します。それから亜紀が朔を医師にしようと思い立った理由を具体化するつもりです。また、特別編2で述べた介達との再会も書けたらと考えています。
いいアイデアがありましたらご意見を載せてください。参考にしたいと思います。
...2005/01/03(Mon) 23:09 ID:jkxtjJ4U    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 さまざまな解釈を読んだ「突き飛ばし」事件ですが,DVDに登場するセリフは当初の放映にはなかったもののようです。時間の都合でカットされたのか,後付けの説明として新たに挿入されたのかは吟味が必要かもしれません。
 龍之介の命名の件ですが,原作ではともに文学マニアの家庭という設定になっていますが,謎解き本にもあるように,そういう言わば希少価値的な家族が同じクラスで巡りあうのは天文学的な確率です。そこで,子どもの頃からの付き合い=家族ぐるみでの付き合いということにして,命名を謙太郎に頼んだという設定にしたものと推測されます。なお,このシーンも,当初の放映にはなかったのがDVDで挿入されています。
...2005/01/03(Mon) 23:33 ID:kR/DjGN6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−番外(考察)−

34

1月1日14時にDVDボックスが届きました。それで2回見直しました。Apo.の小説とテレビドラマと比較検討した結果、明らかになった内容を整理しました。発想の理由付けです。エピローグを書き始めるに当たり読んでいただけたらと思います。
極力、議論を避けていたのは、DVDで確認したあとでなければ回答できなかったのが理由の一つです。

1.雨のお葬式の前から、亜紀は朔のことが好きだったか。朔の情報を探っていたか。(探偵していたか)
 ラジオ番組の投稿葉書で、ジュリエット役の学級委員が白血病になることを聞いた亜紀が、登校してきた朔を階段で問いつめるシーンで、妹がもし病気だったらと意見します。これは亜紀が朔の家族構成を知っていたことになります。その前に、一緒に下校するシーンがありますが(朔って呼んでもいい?の場面)、その時に話し合ったかもしれません。しかし、ストーリー上明らかにされていません。
 また、たこ焼きパパさんで朔が葉書を書いているのを物陰から亜紀が観察しているシーン。葬式の後、亜紀が朔を呼び止めるシーンがありますが、朔を待ちかまえていたと感じました。
 以上のことから、亜紀が朔のことを探偵していて、好きだったと結論付けた次第です。

2.乙女の祈りについいて
LHRで黒板から振り返る亜紀は必ず朔の席の方を見ていること。練習終了後の洗顔中に朔・坊主の方を向き笑いかけるシーンで何かサインを送っているように感じました。お葬式の突然の雨の中、朔が引き寄せられるように傘を差し出すシーンは、亜紀が朔に助けを求めて念じているのではと思いました。
このとき亜紀には異様な緊張感が出ていました。この機会を逃さず、亜紀はイタズラを仕掛け強い印象を朔に植え付けています。登校時、朝の挨拶で、あの笑顔で見詰められたら鈍感な朔もイチコロになってしまうはずです。

3.写真館と桃太郎の劇について
 掃除の途中、怒っている朔に行きたいところがあると告げて、放課後写真館にやってきます。以前から松本写真館が朔のおじいさんが経営していると知っていたことになります。(付き合いだしてから知ったのかもしれませんが、ドラマでは明らかにしていません)入学手続に写真が必要で、写真館で撮影したはずです。併せて、ここで最初の出会いがあったことにするとストーリー展開が無理なく進められます。謙太郎が亜紀の手を握ることなどから、亜紀が客だったことを知っていて朔の彼女に好ましく思っていたことにしたほうが理解できます。
 介の幼少時の写真を言い当てる。谷田部先生は偶然かもしれませんが。幼い頃の朔のアルバムを見て、話しかけようとする。この点は智世から事前に見せてもらっていたからと結論付けました。谷田部先生も謙太郎と知り合いだったことにした方が良いと思いました。謙太郎が亡くなったことをHRで告げ、葬儀日程まで知らせた点を考慮しました。
 介は謙太郎とかなり親しくしているので古くからの知り合いで。また、お前さんと夫婦的な表現をするので、劇のうえで夫婦役を二人が演じたと仮定しました。それと智世が介と朔を呼び捨てにしていたことも併せて、桃太郎の劇を思いつきました。

4.テレパシーとマインドコントロールについて
 亜紀が白血病を知ることになった場面で、朔にマスクを外させて顔色を伺っていたこと。東京から戻った介に「お帰り」と朔と同じことを言ったこと。一時退院の夜、海辺で朔の心を読んで「必ず夜は明けるんだよ」と言ったこと。以上で亜紀は朔の心が読めるのではと思いました。それがテレパシーとして感じ、また、朔に暗示をかけることができる。つまり、マインドコントロールしているのではと結論づけていきました。
マインドコントロールがいつまで続くか解りませんが、催眠術であれば何かに反応して指示されたとおりの行動をとるはず。また、催眠術が解ける方法も指示できるはずだから。同じ意味合いですが「おまじない」と後半は言い換えました。

5.亜紀が死んだ後の再会及び1日の狭間について
 偶然に時をかける少女のストーリーを知ることになって思いつきました。また、偶然だと思いますが、BSiで今日、4日20時から放送されます。これにおまじないを結びつけ、コントロールされ続けて17年が過ぎたことにしました。立派な医師になるために必要な年数と位置付けしました。
 当初は綾子、真にも亜紀が暗示をかけたとの設定を考えていましたが、展開に無理が生じました。3人にしか解らないことにして、暗示にかかっている3人としても解釈が可能なストーリーになるように工夫しました。
 当然、朔は成長して、大人になる訳ですから、成人した恋人・婚約者としてセックスは欠かせないものと考えました。その方が、朔が勉強に打ち込める理由として当然だと思いました。最後に結ばれる小林の存在には、当初から朔のことが好きであるように設定する必要を感じました。それと一樹の後見人として、朔が必要でした。
 1日の狭間については、4月1日生まれの知り合いが前年度生まれに数えられことを知ったから。法律では誕生日の前日が満年齢と位置付けられています。これがきっかけで思い至りました。

6.男らしい朔の行動について
 陸上の県予選で、スタートの時間に遅れた時、係員に懇願する朔から、高校入試の受験票を紛失した場面を思いつきました。愛する亜紀のために献身的に行動する朔から優しいさが溢れていました。亜紀のために何が出来るかと熟考していることや、ウエディングドレスを綾子に借りるため、矢のごとく走り抜ける朔から猪突猛進が思いつきました。
 熟考と猪突猛進が医師に向いてる理由にしていますが、少し理由不足だと思っています。

7.17年間の空白について
 ウルルでの散骨シーンから撮影が開始されていますが、これは17才の朔でのラストシーンであり。特別編に出てくる卒業式のシーンは34才の朔のグランドでの散骨シーンまでの空白を埋める部分であると思いました。その後の展開を予定していたが、撮影の時間が無かったのか、脚本が間に合わなかったのか。ちぐはぐな作り方だと感じました。
 たぶん大学生の朔、小林のシーンがあったと思います。また、朔のことを思いやる残された家族、友人のシーンではなかったのかと想像した次第です。DVDボックスに残されたテープが入っていることを期待していましたが裏切られました。そのテープがあれば1話分はできたのでは思ったものでした。テープにはAB面があるので、そこから隠された部分が存在してもいいと思っていましたから。

8.智世が朔のことが好きではないかと思い立ったことについて
 朔の机の脇にひざまずいて「今日もお見舞いに行くの」と言ったしぐさからでした。姉弟愛みたいかもしれませんがそう感じました。また、亜紀が親友の智世に朔と付き合いだしたことを言っていなかったこと。智世が応援していたこと。以上のことから智世の部屋のシーンを考えました。亜紀が智世をライバルだと思っていたから朔との付き合いを打ち明けなかったのだとすると展開が楽でした。
 上田薬局に朔がキャンプに誘いに行ったとき、父親が出てきて「嫁にもらってくれ」と言いましたが、智世の両親は朔のことが気に入っていると感じられました。朔を嫌う理由が無いのです。優しさが溢れていました。

9.綾子の応援について
 亜紀が母親に何で父親を選んだのかと聞いたとき、何で朔なのと聞き返しています。それから父親にばれないように気を遣っていることから、綾子はかなり前から亜紀が朔を好きなのを知っていたのではと考えました。それで、入学式のシーンを考えました。亜紀が朔のことを知る切掛けもここに設定したわけです。
 母子の会話で男女間の考え方が出てきた方が素敵だし、綾子が応援する理由も明らかになるのではと思いました。真については厳しい父親像ですが、病気になった亜紀のことを思うと優しさがにじみ出ています。入院費を稼ぐだけと言っていたように。朔に途中から挨拶をしなさいと言い出しますが、これは真の朔に対する感謝と亜紀の彼氏と認めていることの裏返しの対応だと感じました。それと、まだ生きていたかと悪態をつくことも同じです。

10.谷田部先生がクラス分けに関与した点
 卒業式に亜紀の名を呼んだこと。式には出席しない主義の介が参加していたこと。そのことから、クラス分けに関与していたのではと考えつきました。

まだ、あるかもしれませんがここまでにしておきます。
...2005/01/04(Tue) 19:42 ID:VJPC.A5w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
こんばんわ

エピローグを7割程度、書き上げました。
4か5話になると思います。
土日には掲載できるのではないでしょうか。
そのときには番外編は削除させてください。

最終章ですので、書き上げてしまったらセカチュウから卒業してしまうのでしょうか。寂しい感じです。
...2005/01/06(Thu) 00:28 ID:81sdISo.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
こんばんわ!皆様

書き上げました。明日から掲載しますので、宜しくお願いします。
番外編は削除の予定でしたが、残すことにします。
「亜紀の結婚編」は6話で完結です。
...2005/01/06(Thu) 23:28 ID:81sdISo.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−亜紀の結婚編(エピローグ)−


35

1987年夏
(夢島)
夢島で倒れた亜紀を漁船に乗せ、港へと急ぐ。朔は亜紀を抱きかかえ、呼びかけている。
「亜紀!しっかりしろ。目を覚ましてくれ!」…
「亜紀―!亜紀―!」
無線機を手にとって、
介「宮浦漁協、応答願います」…「こちら、『五郎七丸』の大木龍之介です。至急、廣瀬さんに連絡をお願いします」
漁協の大木龍也(介の父)「おう。龍之介か。どうした?慌てて」
介「今、夢島からの戻り。廣瀬設計事務所の娘の亜紀ちゃんが。島で倒れてしまって。意識が無いんだ」…
「朔ちゃんが船に乗せようとしたら、突然倒れて」
龍也「解った。直ぐに電話する。あとどのくらいで港に着く?」
介「20分ぐらい」
龍也「了解」

電話がけたたましく鳴った。
綾子「もしもし、廣瀬ですけど」
龍也「私、漁協の大木龍也と申します。廣瀬様のお宅ですね。お嬢様は宮浦高校2年生で、亜紀さんですか?」
綾子「はい。そうですけど。亜紀に何か?」
龍也「落ち着いてください。息子の龍之介から無線で連絡がありまして、夢島でお嬢様が倒れられたそうです」…
「朔太郎君が介抱しているようなんですが、意識が無いようで…20分後に港に着くようです」
綾子「え!」暫く無言…「解りました。主人に連絡して港に向かいます」
龍也「こちらの方から、救急車を呼びますから、ご自宅に居らして下さい」

真が自宅に着くのと同時に救急車も到着する。
廣瀬宅前で夫婦を搭乗させる。「ピーポー、ピーポー」とサイレンを響かせ港へ向かう。
救急隊員「病院の手配は如何しましょう?かかりつけのお医者さん、いらっしゃいますか?」
綾子「稲代総合病院の佐藤先生に受診中なのですが…」
救急隊員「了解しました」
無線機を手にとって、
「稲代総合病院、応答願います」…
「こちら稲代広域消防の救急2号車です。そちらに受診中の廣瀬亜紀さん、女性、17才を搬送します」…
「30分後に到着予定。主治医は佐藤先生。意識が無い状態です。受入準備をお願いします」
救急外来担当医「了解しました」

慌しく着岸した漁船から、朔は亜紀を背負い、走る。
そこへ、猛スピードの救急車が到着。停車すると同時にスピンターンして、中から廣瀬夫婦が飛び出す。
……。
亜紀をストレチャーに乗せ、積み込んでドアを閉めると同時に走り出す。
綾子「亜紀ちゃん!亜紀―!」…「しっかりして!」肩を揺するが反応がなかった。
真「亜紀―!目を開けてくれ!」…「(何があったんだ!あの少年、『お腹が』って言ったみたいだが?あれが朔なのか!)」……。

亜紀は夢を見ていた。
(朔のテープ)
「未来の廣瀬亜紀さんへ」…
「えーっと、廣瀬って入れたけど廣瀬なのかな?出来れば松本になって欲しいです」…
「あ、でも、亜紀は一人っ子だし、俺は妹いるから、俺が廣瀬になるほうが」…
「あ、とにかく、毎日をずっと今日のように亜紀とのんびりと過ごしていければ」
(亜紀のテープ)
「未来の松本朔太郎へ」…
「朔ちゃん、私ね、解ったんだ。幸せってすごく単純なことだね」…
「朔ちゃんがいて、私が居ることなんだよね」…
「きっと、そういう毎日のことで。だから、これからもずっと、昨日のように。朔ちゃんとずっと、手をつないで行けたらと思うよ」…
「私が朔ちゃんの手を引っ張って、朔ちゃんが子供の手を引いて」…
「そんな風に歩いて行けたらと思う」

(10年後、亜紀の夢1)
東京のアパート。
朝、娘を優しく揺すりながら、
亜紀「松本、咲紀(サキ)ちゃん!起きなさい。保育園遅れちゃうよ」
咲紀、目を擦りながら「ママ、眠ちゃいよ」
亜紀「咲紀ちゃんって、若い頃のパパ似だね。お寝坊さんで」…
「パパが準備して待っているよ。急がないと置いて行かれちゃうよ」
咲紀「ママのいじゅわる(意地悪)」
亜紀が部屋から出て行くのと、入れ替わりに朔が現れる。
「咲紀!起きようね。パパと一緒に行こうね。ママは忙しいから叱られちゃうぞ」
咲紀「うん。パパ大好き」と、言って朔に抱きついた。
部屋を覗き見た亜紀は、
「私より朔ちゃんの言うこと、良く効くんだよね。ちょっと淋しいな!」
朔「仕方ないじゃないか。亜紀は忙しいんだから」…
「もう少しで、編集の絵本出来上がるんだろう?そうしたらゆっくりと出来るよね。それまで頑張って!」
亜紀「ありがとう、朔」…
「後、お願いね。今日は早く終わりそうだから。一緒に夕ご飯食べられると思うよ。じゃ。行ってきます」
「咲紀ちゃん、いってきます」と、笑顔で優しく話しかける。
咲紀「ママ。いっれらーしゃい」と、あくびをしながら、クリクリと手を振った。
朔「気を付けてね。亜紀」


続く
...2005/01/07(Fri) 20:54 ID:qnuWDl6k    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
こんばんわ。けんです。セカチューの考察みごとですね。これを読んで、なるほどと、とても感心させられました。今回から始った亜紀の結婚編も5ドラマの5話の亜紀が倒れたシーンは、ドラマに描かれてないにもかかわらず、まるでドラマと違和感がまるでかんじなくて、良かったですよ。あと亜紀と朔との結婚生活もほのぼのして良かったです。
 次回も楽しみにしていますので、頑張って下さい
...2005/01/08(Sat) 02:32 ID:1uK0DwlU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
けんさんへ

感想ありがとうございました。

亜紀と朔の子供の名を「咲紀」としました。
柴咲コウさんから咲(サキ)にして、サクとアキからもサ・キが良いかなって。

もう少ししてUPします。読んでくださいね。
...2005/01/08(Sat) 18:50 ID:pBUsSJuI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−亜紀の結婚編−


36

亜紀は慌ただしく、アパートを後にして職場へ向かう。
朔は咲紀用の朝食を食べさた後、咲紀の歯を磨き、蒸したタオルで顔や手を拭いてあげた。
そして、保育園の制服を着替えさせながら、
「咲紀!ママ、お仕事忙しいけど、今度の休みはゆっくり出来るよ」…
「パパとママ、咲紀の3人でどこか行こうか?何処行きたいかな?」
咲紀「おじいちゃん、おばあちゃんに会いちゃいな」
朔「うん、分かった。宮浦に行こう!3人で」…
「それまでいい子、しているんだぞ。約束したからね。一緒に自転車に乗ろうね」…
「パパは咲紀、それとママを乗せて走るのが夢だったんだ」
咲紀「うん」

手を引いて保育園に向かった。


(次の土曜日)
穏やかな日和見だった。
宮浦へ向かう電車の中。

腕の中で、寝息を立て始めた咲紀を見ながら、
朔「咲紀。寝てしまったね。ちょっと興奮しすぎたのかな?」
咲紀は首から提げたホイッスルを、手にしっかりと握りしめていた。
ゆっくり席に寝かせて、亜紀の隣の席に移る。

それを待っていたように、小さな声で、
亜紀「咲紀ちゃんって、ホイッスル好きだよね。朔ちゃんが高校の時、よく吹いてくれたね。スタートの練習で」
朔「うん、そうだったね。」…
「おじいさんに吹いて聞かせるんだってさ。宮浦に着いた途端に吹きまくると思うよ」…
「起きたら、『おじいちゃん家に着いてから』って言わないとね」
思い出し、微笑みながら、
亜紀「この間ね。咲紀ちゃんが吹いているところの絵を描いてあげたら、すごい、喜んでくれたわ」
朔「壁に貼っている、ピンクの服を着たあの絵だね」
亜紀「うん」…(朔の耳元に口を寄せて)…
「朔ちゃん。あのね。お話があるの」…
「私ね。来月から非常勤職員扱いにしてもらったから。咲紀の面倒みられるからね」
突然の話で、ビックリ顔の朔。
朔「どうして?急に」
恥ずかしそうに、モジモジしながら、
亜紀「あのね。朔ちゃん。私ね」…(肩にもたれかかり、朔の目をじっと見つめる)…
「絵本の編集より、もっとやりたいことがあって。絵本作家に挑戦したいんだ」…
「それにね。朔ちゃんの奥さんになりきろうと思って」

暫らく、考えた後、言葉を選んで言った。
朔「そうか。俺のために無理することないからね。亜紀が気の済むようにすればいいよ」
亜紀「それだけじゃないんだ。もっと大事なこと」…「お腹にね。二人目が…」
沈黙。

顔をクシャクシャにして、
朔「え、え!」…
「ありがとう。亜紀」…
「早速、両方の両親に報告しなくっちゃね。喜ぶゾー。きっと」
亜紀「そうだね。今度は男の子だね。そんな気がするよ」
朔「うん。うん」と、頷き続けた。
……

咲紀が笑顔で、寝息を立てていた。


(病室4)
少し欠けた月が仄明るく照らしていた。
病室で朔のテープに話しかける亜紀。

…「松本朔太郎です」…
亜紀「どうも。廣瀬亜紀です」
…「この間はごめんなさい」…
亜紀「本当だよ」
…「だけど、分かって欲しいことがあって」…
亜紀「ふーん」
…「あれは俺にとって、本当に一番切ない話だったんだ。俺は廣瀬が居なくなるのが、何よりも一番切ない」…
(好きよ!朔ちゃん)…防波堤で告白したときを思い浮かべていた。
涙が溢れ出す。
亜紀「大好きだよ」
シック、シー(泣きながら)「会いたいよ!朔ちゃーん」
涙が止まらなかった。


(亜紀の夢2)
1994年末
来年、朔は医学部を卒業し、研修医として働き始める予定。
亜紀は社会人として2年が過ぎ充実した日々だった。

正月用の買い物に出た富子と綾子は、ショッピングセンターでばったり出会った。
綾子「お正月用のお買い物ですか。奥様」…「朔君は来年卒業でしょう?進路はお決まりになりましたでしょうか?」
富子「それがね。うんともすんとも言ってこないんです。国家試験の勉強で忙しいと一ヶ月前に電話で話したきりなんです」…「亜紀ちゃんのこと、どう思っているのか、問いただしたいんですけど」
綾子「亜紀は、朔君が卒業するのと同時に結婚する気みたいですよ」…
「どうやったらプロポーズさせられるか相談してきましたから」…
「朔君は亜紀が傍に居てくれるだけで幸せだとしか言わないとこぼしていました」
綾子は、不安顔になっていた。


続く
...2005/01/08(Sat) 19:33 ID:pBUsSJuI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
こんばんわ。今回の話を読んで私は、朔・亜紀夫婦の家庭は私の理想の夫婦みたいですね。私は独身ですが、将来こんな家庭を作りたいと思いました。次回朔がどのように亜紀にプロポーズしたのか、楽しみにしていますので、頑張って下さい。
...2005/01/09(Sun) 01:49 ID:kMualNGs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
お詫びと訂正です。

介も一人っ子だと思っていましたが、朔宛ての写真入りラブレターは介の姪っ子だったんですね。
親戚の子だと思い込んでいました。
それで、23話で年の離れた姉がいることに変更しました。お詫びいたします。

亜紀と朔の家庭は私の想像の産物です。娘の咲紀ちゃんはソラノウタに出てくる女の子がイメージです。結構、亜紀は絵も字も上手ですよね。それで絵本作家と考えました。

1時間ぐらいしたらUPします。
...2005/01/09(Sun) 18:51 ID:qGoet3lY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−亜紀の結婚編−


37

富子は暫らく考え込んだあと、「あ、そうだ。奥様」
名案を思いついた。
それで、喫茶店に入り、二人は朔の決心を促すよう、企てをすることになった。
コーヒーを飲みながらヒソヒソと話し込む。

富子「こういうのはどうでしょう」…
「お互い孫の顔を早くみたい。婚約させて周りの人に認知させたい」…(綾子の反応を覗いながら)…
「それから、亜紀ちゃんに見合いの話しが押し寄せ、断るのに苦労している、って」…
「朔のことだから、結婚したらどちらの名字を継ぐのかと悩んでいると思いますよ。親は気にしていないのにね」
ホッとした顔つきになって、
綾子「そうなんですか?朔君を養子に出していただけるんでしょうか?主人が喜びますわ」
富子「そうじゃないんです。朔は考え出したら、イジイジしていると思います。どちらの名字を選ぶか、二人で決めれば良いことだと思います…」…
「親が口出しする時代じゃないと、私ら夫婦は思っていますから」
綾子「そ、そうですよね。一人っ子の時代ですから、親が干渉すると結婚できない子供達で溢れてしまいます」

考え込んでから、
「これはどうでしょう」…(富子の反応を探るように)…
「孫の優先権をどちらが取るか、っていうのは」…
「つまり、名字か孫の優先権か、2者択一で。名字を取らなかった親の方に孫の優先権があることに話しがまとまった。でも、お互い孫の方を取りたいと言って譲らないので、最後には口喧嘩になってしまった」…
「そう言って朔君と亜紀に電話するんです」
相槌を打って、
富子「良いですね」…
「そうしましょう。計画を成功させるにはまず味方からです。お互い、旦那にも信じ込ませましょう」
綾子「楽しみだわ。私、こんなイタズラ大好きなんです」
富子「私もそうなんですよ。奥様」…
「でも、これはイタズラじゃありません。子供の将来を思う親心です。孫の顔を早くみたいお婆さん達の!」
そう言って、二人は笑い出した。

綾子「主人達には、こう言いましょう」…
「口論のあげく。亜紀には一級建築士の養子を取り、設計事務所を継がせる。朔君は大病院の娘をもらい将来は病院長になる」…
「と、二人言い合って、喧嘩別れをしてきたと告げましょう」…
「お互いの主人を信じ込ませて、朔君と亜紀に連絡させるんです」…
「間に信じ込ませた緩衝材役がいるので、よりリアルに伝わりますよね」
富子「奥様は策士ですね。あはははは」
綾子「おほほほほ」
富子「亜紀ちゃんに一級建築士のお見合い話しが直ぐに舞い込み、ご主人が大乗り気だと、朔に告げさせますわ」


その日の夜。
真が亜紀に電話で経緯を話すと、直ぐに「お母さんに換わって」と言った。
綾子が出ると、「上手いこと考えたわね。バレバレよ。お父さんは騙せても私には効かないよ」と亜紀が言った。

潤一郎が朔に電話した。朔は大あわてだった。
「一級建築士の養子を取り、設計事務所を継がせることに真が乗り気だ」と聞いた瞬間から。
朔は急遽、亜紀に連絡し、年末に会うことにした。
プロポーズして、正月に廣瀬家を正式訪問しようと決心したのだ。その時、結婚の了解をもらう計画だ。

亜紀に電話を入れる。
朔「編集の仕事、28日までだよね。夜、アパートに行ってもいい?大事な話しがあるんだけど」
亜紀は直ぐに、あのことだと解って、
「何の話し?私、忙しいのよ。それに宮浦に帰省する準備も必要だし、29日に戻ろうと思っているから」…
「それとも、何。プロポーズでもしたい訳?」と、半分、からかってみる。
朔「まあ、そんなところだ」…「一緒に戻らないかい?」
亜紀「良いわよ。じゃ、楽しみに待っているね。準備して」
朔「ああ」…「(準備して?何だろう?)」
電話を切った。


(亜紀のアパートで、亜紀の夢3)
朔「あのさ。俺たち付き合いだして8年だよね。亜紀が言ったように、ゆっくりと進んで来たと思うんだ」…
「来年は俺も医師として働き出す訳だし、そろそろ結論を出しても良いと思うんだけど」…
「どうだろう?亜紀!」
少し怒った顔を作って、
亜紀「もう少し、解りやすく言ってよ。別れようという訳?」…「大病院の娘さんと、お見合いの話しがあるそうね」
慌てた朔は、
「違う。違う。逆だよ。逆。亜紀以外の人と結婚する気はないよ!全然!」…
「解っているくせに、嫌みなこと言って…」
笑い顔で、亜紀の表情を探った。
亜紀「あのね。朔ちゃん」…
「この間、父から電話で聞いたわ。母達が喧嘩別れしたようだよ」…
「朔がはっきりしないせいだって、両親、カンカンなのよ。どうするのよ!」
亜紀はまだ怒った顔で、朔を睨んでいた。

朔は決心した。そして、思い切って言った。
「亜紀のこと…好きです。ずーっと大好き。全て好き」…
「だから、亜紀…俺と結婚して!俺を幸せにして…」…
「頼むから、他の男性と、その……」、モジモジしている。
亜紀は、急にニッコリ笑って、
「やっと言ったわね。朔ちゃん!待っていました。8年間、この時をずーっと」…
「好きよ!朔ちゃん。大好きだよ!ありがとう!」…「愛しているわ」…
ウルウル目で…「喜んで…お受けします」
「では、ただいまから婚約の儀式を執り行います」と言って、婚姻届を素早く取り出した。
「はい。ここに名前を書いてね。いつでも出せるようにしておくの」…
「結婚しないと急に言い出してもダメだからね。これが証拠品。結婚不履行で訴えるからね」…
「と言うより、呪い殺すかもね。朔ちゃん!」…「今日、この時を大切にするわ。記念日だから」
「それからね。…これにもサインちょうだいね」と言って、A4の用紙を取り出す。



続く
...2005/01/09(Sun) 19:53 ID:qGoet3lY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−亜紀の結婚編−


38

亜紀が改まった口調で読みあげた。弔辞を読んだ時のように。
「誓約書!」…
「松本朔太郎は廣瀬亜紀と結婚するに当たり次の事項を守ることを誓います。」…
「1.亜紀を一生大事にすること。 2.子供は2人以上。それも男女」…
「3.お互い両親を大切にし、家族の悪口は言わないこと。 4.隠し事はしないこと」…
「5.誕生日には必ずプレゼントを持って参加すること。 6.その他、必要事項は協議の上、決める…」

怒った顔で、
朔「何だよ。亜紀。俺を疑っているのか?」…
「亜紀が傍にいるだけで幸せだと、俺、言ったよね!」…
「当然のこととして守るよ」…(すまし顔の亜紀を見たら、不安が込み上げてきた。そして、涙声になった)…
「だから結婚して。一生の、お願い!」…「お願いだから、俺を幸せにして!」…手を合わせた。
再度、朔の反応を確認して、
亜紀「ウフフフ。冗談がきつすぎたよね。ありのままの私を受け入れてね。そして大事にしてね。何でも話してね」…
「隠し事はイヤだよ。ちゃんと解るんだから、朔ちゃんって直ぐに顔に出るからね」…
「婚約のプレゼント。何が欲しい?朔ちゃん!」ルンルン顔。
恥ずかしそうに、俯いて言った。
「亜紀が欲しい…ずーっと…我慢して…きたから…」
亜紀「解っていた、ゾ・ヨ!ウフフフ」

その夜、二人は結ばれた。


(廣瀬宅、亜紀の夢4)
1995年正月。
浮き浮きしている真と綾子。
二人は朔の訪問、亜紀との結婚申出に点数を付けて朔をからかうことを思いついた。
真が言い出したことだった。
妻に上手いこと図られ、亜紀の婚約イベントを楽しみたいと思ったのだ。

メモ帳を手にして、
『チェック項目:@挨拶が出来る A敬語の使い方 B態度・姿勢 C誠意が伝わる説明 D亜紀への愛情』
真「こんなもんでどうかな?」
綾子「うーん。そうね。将来設計が必要ね。質問はあなたがしてくださいね」
真「分かった。『E将来設計』っと。そうだ。亜紀の反応も必要だな。『F亜紀の態度、納得しているか』も加える。と」…
「◎が優で、○が良。それから、△が可で、×を不可にするっと」

朔は亜紀の待つ廣瀬家を訪れた。
チャイムを鳴らすと、
亜紀「いらっしゃい」…「おめでとう。朔!」…
「お待ちしていました」和服を着て、ウキウキしている。
朔「あ、あー。本日はおめでたく。その。だめだ。緊張してしまって」…
「咽喉カラカラだ。亜紀!」カチカチだった。
初めて着るスーツ姿。卒業祝いだと言って亜紀がプレゼントしていた。(本当はこの日のためだった)
亜紀「大丈夫よ。朔ちゃん。自信を持ってね。普段どおりの朔ちゃんで十分だから」優しく諭した。

そこへ、真と綾子が現れる。
気をつけの姿勢になって、
朔「おはようございます。松本朔太郎です」…「本日は、お日柄もよろしいようで、おめでとうございます」
真「明けまして、おめでとう。朔」…「さあ、上がって」
綾子「おめでとう。朔君」
朔は頭を下げ、靴を脱いで部屋に上がろうとした。緊張と、新品の靴だったので、うまく脱げずに片方が転がってしまった。
慌てて亜紀が朔の靴を揃えてあげる。
真、呟く「…正月の挨拶なし。不可だな。…エチケットは?っと、項目なしか。亜紀の態度、反応は優…」メモった。

準備された席に着き、正座してお辞儀をする。
お茶を一気に飲んだ後、「フウー」と、一息ついて、
朔「亜紀。いや、亜紀さんのお父さん、お母さん、今日は大切なお話しがあってお伺いしました…」
姿勢を改め、
「お嬢さん…亜紀さんを私に下さい」…「いや、ご結婚のお許しをいただきたくお伺いしました」
真、呟く「…ご結婚?敬語の使い方のミス。多めに見て可だな。態度・姿勢は良とするか…」
机の下でメモった。

真「で、亜紀のことをどう思っているのかな。それと、将来の設計を知りたいのだが」
緊張していたが、最大の難問をクリアしたので気が楽になった。
朔「はい。お答えします。亜紀さんが私の傍に居てくれるだけで幸せです。ありのままの亜紀さんが好きです」…
「将来は宮浦に戻り、町医者になりたいと思います。それまで、10年位は研修医を続けたいです」…
「亜紀にはそれまで、今の仕事を続けてもらい…」
「いや、絵本編集だけで終わって欲しくないのです。才能に溢れていると思います」…
「絵本作りのノウハウが解ったら、私は亜紀に絵本作家になってもらいたいと思います」…
「子育てと絵本作家、それと私の妻として活きて欲しいです」
初めて聞く、朔の将来設計。亜紀は涙が溢れ出た。


続く
...2005/01/10(Mon) 18:45 ID:SJmemS7Y    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−亜紀の結婚編−


39

真「松本と廣瀬のどちらの姓を名のるのかな?子供の数は?」
朔「名字については亜紀と相談のうえで決めさせてください」…
「子供は授かりものですから決められません。自然に任せたいです。出来ればたくさん欲しいのですが」
真、呟く「…優だ…」
綾子は感動していた。「うん。うん」と微笑んで頷く。

暫らく間があって、真はメモ帳を投げ出した。
「ああ、めんどうくさい。朔。亜紀を宜しく頼む」…「合格。合格!満点だ!ありがとう」と叫び、頭を深く下る。
慌てて、朔も深くお辞儀をする。
亜紀「お父さん、何していたの?」と、落ちているメモ帳を覗いて。
「プッー」と笑い出した。
「朔ちゃんは合格に決まって居るじゃない。私が選んだ人なんだもの」
綾子「計画が台無しじゃないの。でも、あー、楽しかった」…
「アハハハハ」

朔「え!」事情が分からず、『ポカン』としていた。
亜紀がそっと耳打ちした。
「そうなんですか!何か、こう、緊張していたのに」…「面接試験は合格ですか!」
「それで、全て優なんでしょね!」
真の顔を覗き込みながら、笑い出した。
真「朔!」…(ニコッと笑って)…
「お前、亜紀に似てきたゾ!」…「亜紀のお婿様は優でなきゃ!満点だよ!初めからね」
4人、笑いに包まれた。

(朔のアパート、亜紀の夢5)
1995年4月
医師の国家試験も終わり、亜紀は朔のアパートで掃除をしていた。

亜紀「朔ちゃん。研修医になったら引っ越さない?」
朔「どうしたの?急に!貧乏医者なんだよ。贅沢できないよ」
吐き気がしてきた亜紀は流しでゲーゲーと嘔吐した。

朔「どうしたの?気分が悪いのなら言ってくれれば良いのに。これでも医者の端くれなんだよ」
亜紀「なによ!まだ医者じゃないじゃない!一ヶ月後に言ってね」…
「病気じゃないのよ。分からないの?」
朔「え!それじゃー。子供が…」
亜紀「そうみたい」…「それで一緒に住んでもらいたくて」

朔「分かった。この間の婚姻届、直ぐに出してくれないか!入籍を済ませよう」…
「それから、お父さんとお母さんに了解を頂いて結婚式を挙げないとね」
亜紀「ありがとう。朔」…「お母さんにね。昨夜、それとなく話したの」…
「そしたら、私の計画どおりだねって言うのよ。前にね、朔の卒業が決まったら結婚する予定だって言ったことがあるの」…
「それでね。お母さんが朔のお母さんと相談して去年の末に計画したらしいのよ」
朔「分かっていたよ。あんまりスムースに事が運ぶので、図られたと思ったんだ」…
「でも、お陰様でプロポーズも出来たし子供までも。ありがとう。亜紀!」

朔は直ぐに廣瀬宅に電話を入れた。
すると、真が出て一週間後に宮浦で結婚式を挙げることにしたからと言った。とても喜んで。
それから松本の姓を名のるようにとお願いまでしてきたのだった。

亜紀「お父さんったら、もう!孫の優先権を取りたいものだから」
朔「そうなのか。そんなことになっていたのか!」
亜紀「それからね。男の子だったら文学者の名前にするんだって。朔のような子供が欲しいみたいよ」…
「よかったね。朔ちゃん!気に入られて」…
「今朝、お母さんが電話してきたの」…「女の子なのにね」
朔「え!どうして?」
亜紀「どうしてかな?分かるのよ」…「お腹の中から聞こえるの。私、女の子だよって」…
「プロポーズしてもらった日にね。分かったの。子供が出来るって」…
「やっぱり思ったとおりだわ。私の勘はよく当たるの。朔のことだって、会った瞬間から分かったんだもの」…
「私の唯一の人だって。ウフフフ」

朔「そうなんだ。亜紀の言うとおりしておけば間違いないからね。肝に銘じておきます」…
「一生、大事にします。亜紀に手を引かれてね。あはははは」
そう言って、亜紀を抱きしめた。

亜紀「まだあるのよ。内緒にしているようだけど」…
「朔ちゃんのお父さんと相談してね。朔と私が戻るときのために診療所を確保しておくんだって」…
「それと、私のアトリエ兼、子育ての部屋も。それは写真館を改造する計画だって」…
「色々と計画するのが楽しくって、両親4人、毎日集まっているそうよ」
朔「へー。孫の力って偉大だよね。亜紀!」
亜紀「うん。そうだね。おじいさんとおばあさんの力も孫にとっては偉大だよ!ね、朔ちゃん!」
亜紀は、謙太郎とサトの遺灰を撒いた後のことを思い浮かべていた。
…世界で一番大切な人を抱きしめた…世界で一番優しい心を知った…

(病室5)
1987年夏
朝、目覚めた亜紀は夢の内容を考えていた。

…そうか。女の子と男の子のお母さんになるんだ。
私が絵本作家ね。良いんじゃない!
朔ちゃんがお医者さんだって!
そうだ。そうなんだ。朔ちゃん、優しいお医者さん!向いているよ。きっと、そうだよ!
写真館は後でゆっくり継げばいいじゃない。お医者さんだったら、お父さん認めるよね?
でも、朔ちゃんがお医者さんに向いているって言っても、直ぐに納得しないかも!
どうしよう!
乙女の祈りが通じるかな?他に何か方法は無いかな?
自然に気付いて、それから努力しないとね。
私が「お医者さんのお嫁さんになりたい」と言ったらどうかな?
朔ちゃんって、頭が良いから、猪突猛進で勉強して、そうなってくれるかもしれないな!?
病気が良くなって、会えるようになったら話してみよう。そうしよう…


続く
...2005/01/11(Tue) 20:35 ID:w4SDZ4uU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−亜紀の結婚編−


40

2004年夏。
(再会)
朔に卒業証書を渡して、別れた夜。

大木優子は受話器を取った。
谷田部「大木さんのお宅でしょうか?」…
「大木龍之介君をお願いします。私、宮浦高校で担任をしていました谷田部と申します」
優子(介の嫁)「はい、主人がお世話になっております。代わりますのでお待ち下さい」
介「先生、この間は、突然お電話しまして、お世話をおかけしました。朔ちゃん戻っていたようですね」
谷田部「知っていたんだ。やっと、廣瀬とお別れが出来たようだよ。今日ね、グラウンドで遺灰を撒いてね…」
「私も、ほっとしたよ。預かっていた卒業証書も渡すことが出来たし」
介「お世話になりました。先生のお陰です。今日のお話しはそのことですね。私たち、会って良いんですね?」
谷田部「ああ、そうだよ。そう言うことだ」
介「有り難うございました」
谷田部「大木から、中川や大林に連絡してくれないかい」
介「了解しました」


翌日の午前中の電話。
介「智世かい?龍之介だ」…
「朔ちゃん、やっと亜紀ちゃんの遺灰を撒いたそうだ。谷田部先生から、電話があったよ」
智世「そう、良かったね。龍之介。それで何時、会えるの?」
介「それでだね。智世から亜紀ちゃん家(ち)に電話して、朔に会う段取りをしてくれないか」
智世「どうして亜紀なの?朔の家でいいじゃない」
介「朔の家に電話したんだが、今、亜紀ちゃん家に行っているんだって」…
「大切な話しがあるようだし。智世から聞いてもらった方が良いと思って。坊主には俺から連絡しておくから」
智世「解ったわ。たぶん、亜紀が残したテープと絵本のことね。決まったら連絡するね」


午後の電話。
智世「廣瀬さんのお宅でしょうか。亜紀さんの同級生だった大林智世と申します」
綾子「あら、智世さん。お久しぶりね。お元気でした?」
智世「はい。…その、朔…松本朔太郎がお伺いしていると聞いたもので…」
綾子「はい。はい。そろそろ電話があるんじゃないかと思っていました。今、亜紀の墓参りに行っていますよ。主人と一緒に」
智世「そうなんですか。亜紀とお別れが出来たようだと聞いたものですから」
綾子「そうなの。やっとね」…
「それから、いっぱい、幸せな話しを聞かせてもらったわ」…
「戻ったらお電話しますね。良かったら皆さんここでお会いになりませんか。亜紀も喜んでくれると思いますよ」
智世「有り難うございます。そうさせていただきます。」
綾子「ありがとう。後で連絡しますね。大木さんや和尚さんに宜しくね」


(墓参り3)
朔と真は亜紀の墓前でお参りをすませた。
それを墓石に隠れ、じっと見守っている人影があった。二人に近づき声をかけた。
坊主「亜紀ちゃん、喜んでいますよ」
真「あ、和尚さん」
朔「坊主!」
坊主「朔、久しぶりだな。やっと亜紀ちゃんのお参りが出来たんだね。良かった。うん。うん」
真「何時も亜紀がお世話になっています」
坊主「いえ。亜紀ちゃんから笑われていますよ。下手な『御経』、だってね」
朔「坊主。立派になったね。見違えたよ」
坊主「あははは。お前こそ。境内にお二人で来られて、朔だと直ぐに解ったんだけど」…
「墓参りが済むまでと思って、後をつけて待っていたんだよ」
朔「そうだったんだ」

朔と坊主は後で会う約束をして別れた。

坊主が戻ると直ぐに介から電話。
亜紀の墓前での経緯、智世との会話を伝えあった。


(廣瀬宅6)
遅い昼食を終え、3人は介達が訪れるのを待っていた。
朔は気がついていた。
…坊主には亜紀が見えなかったんだ。亜紀のことが見えるのは3人だけじゃないのか…

朔「お父さん、お母さん。卒業後の亜紀との再会の話しは3人だけのことにしませんか」…
「信じてもらえるかどうか解らないし。大切な思い出にしたいんです」
綾子「私もそう言おうと思っていました。ねえ、あなた」
真「私も同感だよ。朔に、そう頼もうかと思っていたよ。さっき、亜紀が現れるのを見たとき、そう感じたんだ」
綾子「そうですよね。とても嬉しかったわ」

朔「それで、みんなが揃ったら亜紀の夢の話しをしたいんです。」
綾子「それって、どうゆうこと?」
朔「亜紀から、聞いていたことがまだあるんです」…
「亜紀と私が結婚して、それから子供が生まれて、東京から宮浦に戻ってくるんです」…
「女の子が生まれていて、二人目がお腹にいて、亜紀は男の子だと言い張るんです」…
「入院中に夢見ていたんだそうです」
真「楽しそうな話しだね。良いと思うよ。みんなで聞こうじゃないか。ね。綾子」
綾子「はい。今日は久しぶりに楽しい一日になりますね。朔君、ありがとうね」…
「そうだ。智世さんに亜紀のこと聞いてみましょうよ。ほんとうの話しだと思うけど」…
「智世さんから、もう一度聞いてみたいわ。亜紀のこと」
真「そうだね」

玄関のチャイムが鳴った。
智世「ごめんくださーい!」
玄関には介、坊主、智世が並んで立っていた。3人とも高校時代に戻ったように生き生きした目をしていた。
迎えに出た朔は、
「やあ、みんな!」…「長いこと心配かけたね!ありがとう!」

3人の後ろには、キラキラした目で見守る婦人の姿。朔の目に映っていた。

(完)


長らく読んでいただきお礼申し上げます。
エピローグは淡々とした内容になってしまいました。朔のイメージがずーっと山田サクだったので、緒方サクでは何か、しっくりこなかったようです。(反省!)
2005年がはるかちゃん、孝之君に良き年でありますように! バイバイ(By Apo.)
...2005/01/12(Wed) 19:05 ID:aBJW7VbA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
 APO様
 久しぶりです。けんです。最終回まで、一気に読ませていただきました。亜紀の夢とてもいいですね。きっと亜紀が生きていたら、たぶんこんな結婚すると思いますね。もちろん朔は亜紀に頭は上がらないと思うけど・・・
 長い間執筆活動お疲れ様でした。またいつかこんな心温まる物語を待っています。
...2005/01/13(Thu) 02:59 ID:hSsCF04E    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Marc
こんにちは、Apo様。

とうとうお話の終わりとなってしまいました、”夢”本当に
良いですね。
出来れば、それを本当に実現できる二人を望むのは結末を知
っている私だけでしょうか?
だから、切ないのでしょうね。
また、お会いできますこと楽しみにしています、ありがとう
ございました。
...2005/01/13(Thu) 19:53 ID:LPVgh6y.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
上げときます
...2005/01/18(Tue) 21:41 ID:i/DIPMY6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
亜紀の結婚編で終わりにするつもりでしたが、また書きたくなって。
亜紀側から見たストーりーもあって良いかなって思いました。最後の結末まで書き上げてから掲載していましたが思いつきで1話1話書いてみようと思います。不定期です。初めての書き方にチャレンジしてみます。作風も変えてみたくなりました。
よろしかったら読んでご意見を書いていただければ励みになります。


−思い出編−


41
(学級委員)
2年生になった亜紀は担任の谷田部から学級委員に指名された。男性は安浦だ。
LHRで立候補者を募ったところ立候補者、推薦者のどちらもなく、業を煮やした谷田部が成績優秀な生徒を指名すると生徒達から了解を取り付けたのだった。
陸上部の顧問でもある谷田部に練習終了後、呼び出され、女子からは亜紀を指名すると言われた。亜紀が断れない性格だと見抜いていたからだ。
谷田部「どうする廣瀬。男子は松本にしようか?」と、微笑みながら言う。
亜紀「それは無理なんじゃないでしょうか、先生。朔ちゃん、成績は上のほうだけど、クラスのトップじゃないし。みんな変に感じると思います。それから、朔ちゃんは受けてくれないんじゃないでしょうか」
谷田部「うん、分かった。それで、どうなの?松本とはうまく進展しているの?折角、同じクラスになったのに、好きだと早く言ってあげたら?愚図愚図していたら黒沢千尋に持っていかれるよ。彼女も松本のことが気になっているみたいだから」
亜紀「ありがとうございます。絶好のチャンスが無くて。でも、夏までには絶対に親しくなります。朔ちゃんのこと誰にも譲る気なんてありませんから。でも、朔ちゃん、好きになってくれるかな?私のこと」
谷田部「大丈夫だよ。思いは伝わるものだよ。頑張りな。それから、最初から朔ちゃんなんて呼んだらダメだよ。目上の人の前では松本君にしなさい。松本が振り向いてくれて、廣瀬に好意を持ってくれたと思ったらすかさず二人だけの呼び名を決めるのさ。これは先輩としての御節介。アハハハ。それにしても松本は鈍感なやつだな」
後ろ向きに手を振りながら、校舎の方向に離れていった。見送る亜紀はお辞儀しながら、谷田部に感謝した。
「え、私、学級委員を受けたことになったの?あ、先生に上手く謀られちゃった。まあ、いいか。先生が味方だから心強いよ」
「朔ちゃんは忘れっぽいから学級委員なんて無理だよね。肝心なことは直ぐに忘れちゃうから。アハハハ」

(遠足)
部室に向かいながら亜紀は1年前、新入生の遠足を思い出していた。
5月の連休明けの日、恒例の新入生だけの遠足があった。紫陽花山への登山。
連休中、夜遅くまで本を読んでいた朔は昼と夜が逆転した状態。遠足があることをすっかり忘れてしまった。
「朔、学校遅れるよ。早く支度しなさい」と母親の富子が急がした。
すると芙美子が「お兄ちゃん、今日は遠足じゃないの?昨日、智世お姉ちゃんお菓子をいっぱい買っていたよ」
朔「え、え。忘れていた。何で、何で早く言ってくれないんだよ。母さん、弁当。弁当」
富子「急に言われたって、間に合う訳ないだろう。仕方ないね。おにぎり、作ってやるから、それ持って行きな。芙美子、水筒にお茶でも入れといておやり。朔、急ぐんだよ。早く顔を洗って」
手早く洗顔を済ませ食堂に行くと準備が整っていた。トロロ昆布付きの大きなおにぎりが2個、中には鰹節と梅干し。急いで朝食代わりに牛乳を2本飲んで自転車にまたがった。富子が風呂敷でおにぎりを包み、水筒を渡した。
学校に到着すると、校庭では参加者の点呼が行われていた。
智世「朔。遅いよ。今日はサボるのかと思った」
朔「介ちゃんは?」
智世「今日は腹痛だって。坊主は頭痛。多分、二人ともサボって釣りにでも行くんじゃない」
朔「そうか。介ちゃんに誘われていたんだ。忘れちゃった。あ、俺も休むよ」
智世「ダメだよ。朔がいないと私一人になるでしょう。ちゃんと私の護衛をするの」
朔「ただの遠足じゃない」怒ってふくれ面をした智世を見て、「仕方ないなー」と、参加することにした。
智世「朔。その荷物なーに?」
朔「寝坊しちゃってサー。それに母さんに遠足だと言うのを忘れていて、急いで作ってもらったものだから。おにぎりだよ」
智世「そうだと思った。お菓子、朔の分も買っておいたからね。一緒に食べよう。弁当分けてあげるからね」
智世は朔のことだから忘れてしまっていると思い、前日、芙美子に会ったとき遠足があることを念押ししていた。
朔は山頂の片隅で風呂敷包みを開け、おにぎりを頬ばる。そこへ智世が亜紀を連れてやって来た。
「朔。探したよ。一緒に食べようって約束したのに、居ないんだもの。紹介するね。廣瀬亜紀さん。陸上部で一緒なんだ。私の親友」
亜紀「今日は。智世の親友、廣瀬亜紀です。宜しく」
朔「松本…朔、朔太郎です……」ニコニコ顔で話しかけられて、ドギマギした。
これは、亜紀と智世の計画だった。亜紀を自然に朔に紹介するための。
智世「さあ、一緒に食事しよう。朔、私たちのお弁当、好きなものとって良いからね。亜紀も並んで」
朔を挟んで腰掛けた。亜紀は気を利かせて、朔用におかずを取って分けてあげた。
「松本君、美味しそうなおにぎりね。サンドイッチと交換しない」
朔が「良いけど」と返事をするのと同時に残りのおにぎりを頬ばった。「わあ、美味しい。大きいね、これ」
朔「朝、急いで作ってもらったから。大きくなっちゃったんだよ」
亜紀「ふーん。そうなんだ」
智世「亜紀ね。短距離速いんだよ。学年で一番速いんじゃないかな。勉強も出来るんだよ。それでもって美人だし。朔、どう思う?」
朔「え、俺、別に。俺の彼女じゃないし。答えられないよ」
亜紀「智世。松本君に失礼だよ。ごめんなさいね。でも、美味しいね。塩加減バッチリだね」
朔「サンドイッチも美味しいよ。ありがとう。智世とは長い付き合いだから別に気にしてないよ」
…朔ちゃんって、ほんとに良い男性みたい。話しているとほのぼのとしてくる。とても優しい人なんだわ…
智世「今日は私の護衛なんだからね。しっかり私を護衛するんだよ。はい、このお菓子は朔の分」
朔「分かっているって」
亜紀「どうゆうこと護衛って?」
智世「幼馴染みの二人と一緒に遠足をサボろうとしていたから無理矢理つれてきたの。3人は私の家来だから」
亜紀「ふーん。うらやましいね。智世」
智世「そうだ。朔。亜紀は私の親友だから、亜紀の護衛役もお願いね。困っているのを見たら直ぐに助けてあげてね」
亜紀は「そうなんだ。私のボディーガードか。宜しくお願いします」と言って、ピョコリと頭を下げた。そして、キラキラと笑った。
朔「分かった。しょうがないなー。昔の約束まだ生きているのかよー。介と坊主にもそう言っておくよ」
智世「あの二人はいいわ、言わなくて。あてにならないから。朔だけでいいからね」
…朔ちゃん、私のことどう思ったかしら?変な子だと思わなかったかな?…大丈夫みたい!第一関門突破ね…


続く
...2005/01/26(Wed) 20:27 ID:PlxWY9Is    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編−

42
亜紀は陸上部の練習と勉学に集中していた。お陰で、2学期には学年トップの成績になった。朔はノンビリと過ごしていたが、相変わらず本だけは手放すことがなかった。暇さえあれば本(マンガも含む)を読んでいた。
たまに構内で二人出会うことがあったが、亜紀は必ず心を込めた会釈を忘れずにした。朔は智世の親友だといわれたので軽い会釈を返すくらいだった。
夏休み、亜紀は綾子の実家(東京の祖父母)に行き、予備校の夏期講座を受けていた。2年になったら部活を止め、受験勉強に集中すると父親と約束していたからだ。成績さえよければ、ひょっとして部活を続けられるかもと期待していた。そのため真のご機嫌を取っておこうと考えたのだ。
朔ともう少し親しくなりたかったが、朔は恋愛については晩熟だと思っていた。母の綾子が言っていたようにじっくり観察して時期を待ったほうが得策だと判断したのだ。でも、遠くからの偵察だけは欠かさなかった。朔が亜紀以外の女性を見つめているようなことがあったら、もうパニック状態になるくらいだった。朔は時々、ボーっとして誰かを見つめていることがあったが智世に訳を教えてもらってからは朔の目先に女性がいないか確認する余裕ができた。もし、目先に女性がいても自分のほうが勝っていると判断すると安心することが出来た。

1年生の秋。陸上の練習をしているとグラウンド脇のベンチに朔が座って本を読んでいるのが目に入った。西日に照らされた朔の横顔を見ているとうっとりした気分になってしまう。遠足で紹介されて以来、朔とは親しく話しをしたことが無かった。
…本当に私のこと覚えているのかしら。忘れっぽい性格で、肝心なことは直ぐに忘れてしまうと智世が言っていたけど、どうなんだろう。私のことを大切に思ううんだったら忘れていることになるし、覚えていたら大切じゃ無いことになる。複雑な心境だね。私の方がリードしなければいけないということだよね。きっと。…
近づいて行って「松本君。私のこと覚えている?」と、キラキラ瞳で話しかけた。
ハッとした朔は「廣瀬だろう。どうしたの。練習終わったの?」
亜紀「何読んでいるんですか?」
朔「武者小路実篤だよ」
亜紀「読書家なんですね。時々見かけるけどいつも本を読んでいるみたい」
朔「ああ。読んだことがない本が図書館にまだあるものだから。今年中に読んでしまおうと思って」
亜紀「そうなんだ。頑張ってね」と言って、練習に戻った。
…朔ちゃんってすごい!ほとんど勉強しないみたいだけど本は読んでいるんだわ。智世が言っていたように。女性に興味がないのかしら?晩熟なのね。そうなんだ、きっと。モーションをかけるのは早いかも。焦らない、焦らない…

2年のクラス分けの発表があったときに、智世と抱き合って喜んだ。亜紀はそれ以上に朔と同じクラスになれたことが嬉しかった。そこへ朔が通りかかったので思い切って話しかけた。
亜紀「松本君。D組で同じになったね。宜しくお願いします。智世も一緒だよ」
朔「そうなんだ。智世とはずーっとだよ」掲示板を確認して、「坊主が一緒か。また、楽しくなるな」
亜紀「遠足のときの約束覚えている?」
朔「ああ。智世と一緒で、護衛役をすることだろう!廣瀬が困ったときには助けるよ」
亜紀「ありがとう。信じているわ」
智世「朔。今度はノートもういいからね。亜紀に教えてもらうから。亜紀って学年トップなんだよ」
朔「ああ。助かるよ」そう言って別れた。亜紀は朔が何処となく淋しそうな表情だったと感じた。
…朔ちゃんは、智世のこと大切に思っていたんだわ。それで、当てにされなくなったんで少しがっかりしたのかもね。いいわ、私が当てにしているから。私専用のボディーガードの彼氏としてね…

(弔辞の指名)
午前中の授業終了後、全校生徒に生物担当の村田先生が亡くなられたことが放送された。禅海寺で告別式が執り行われ、2年生は出席するようにと、学級委員を職員室に呼び出した谷田部は告げた。
谷田部「それでだ。2年生の学年主任だったので、弔辞は中間試験でトップだった廣瀬が行うようにと校長先生が言われるのだが。どうする廣瀬。受けてくれないか」
亜紀「分かりました。お引き受けいたします」
谷田部「そうか。ありがとう。そうすると司会は私がやることになるね。弔辞の内容は廣瀬が考えて作りなさい。それじゃ、お願いしたからね」
親しくなる絶好のチャンスだと思った安浦は心配顔で「廣瀬さん。大丈夫?相談に乗るよ!」と言った。
でも、亜紀は安浦がことあるごとに話しかけて来るのが鬱陶しかった。亜紀には好きになれないタイプであったが、反感を抱かれて気まずくなるよりはと思い我慢していた。
亜紀「心配要りません。父が何度かやったことがあるから、父に相談します。ありがとう」と言って直ぐに別れた。まだ何か言いたそうなのが感じられ、話が長くなって面倒になると困るから早く立ち去りたかったのだ。

帰宅した亜紀は机に向かい弔辞の内容を考えた。生物の授業中に教わった詩の内容が頭に浮かび、生き物の宿命について述べることにした。そのときふと、学級委員に指名されたときの谷田部との会話が思い出され、朔ちゃんが注目してくれるかもしれないと思った。不謹慎かもしれないが、立派に弔辞を読み上げたら亡くなられた村田先生に喜んでいただけるし、併せて朔ちゃんが振り向いてくれるかもと考えたら俄然やる気が出てきた。
部屋をノックして母親の綾子がお菓子とお茶を運んできた。
「亜紀ちゃん。なかなか下へ降りてこないから運んできましたよ。はい、どうぞ。どうしたの?お勉強忙しいの?」
亜紀「学年主任の村田先生が亡くなられて、私、代表して弔辞を読むことになったから。今、作っているの」
綾子「へー。そうだったの。大変ね。それだけかしら?他にも目的があったりして」
亜紀「どういうこと?」
綾子「亜紀ちゃん。2年生になって、悩みでもあるの?朝方、大きな声で寝言『朔ちゃん。振り向いて。好きよ』って。気をつけてね。お父さんに、彼氏が出来たって知られたら大変よ」
亜紀「そうなんだ…まだ、振り向いてくれないの。片思い。それって、お父さんも知っているの?」
綾子「そうね。半信半疑ってとこかな。でも、時間の問題ね」と言いながら部屋を出て行った
帰宅した父親の真に出来上がった弔辞を見せて相談した。点数を稼いでおこうと思ったから。
「亜紀。どうしてお前なんだ。弔辞」
亜紀「校長先生がね、中間試験で学年トップだった私を指名されたんだって。亡くなられた村田先生は2年の学年主任だったから」
真「そうか。頑張るんだよ。こういうのは和紙に書いて読み上げるようにしたほうが良いよ。内容は良いと思う」
亜紀「ありがとう」
綾子「亜紀ちゃん。大役だね。頑張ってね」と、ニコニコしている。母親には心の中を見透かされているので「ペロ」っと舌を出して頷き、返事をした。


続く
...2005/01/30(Sun) 20:32 ID:BCIgSmSs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編−


43
(告別式)
亜紀は告別式が始まる予定時刻より早く来た。まだ準備している状態で、関係者がテントを張っている。葬儀社の人が祭壇の手配を和尚さんと打ち合わせしていた。
谷田部「廣瀬、ご免よ。早く来るように言って。弔辞の内容を一応調べておくようにとの言いつけでね」
亜紀「良いんです。先生、ご苦労様です」と、言って弔辞を渡した。受け取るときに谷田部が「ホウ」と言ったので「父に見て貰ったら、和紙に書くように言われたもので」と回答した。
暫く読んだ後、「よく出来ているね」と弔辞を返しながら「済まないけど、来た順に生徒を並ばしてくれないか。他のクラスの学級委員と協力してね。それから、廣瀬は列中央の中程に居てくれ。呼ばれたらゆっくりと歩いてきて一礼の後、朗読、一礼で元の場所へ戻ること。いいね」
谷田部の言いつけを安浦に伝えた後、亜紀は指定された場所に佇んでいた。そこへ、やって来た智世が「亜紀―。早いね。どうしたの、顔色悪いよ」
亜紀「実はね。私が弔辞を読むことになって、緊張しているみたい」
智世「亜紀なら大丈夫だよ。陸上の練習みたいに根性だよ!」
「うん」と返事はしたものの、しだいに亜紀は焦ってきた。学年を代表して弔辞を読むなんて初めての経験だし、葬式にも出席したことがなかった。ましてや、立派に成し遂げて朔に関心を持ってもらう目的もあったから。時々後ろを振り返るが朔はまだ来ていないようだ。気がそぞろだった。智世が拳を振ってファイトと言ってくれる。
…そろそろ告別式が始まるというのに朔ちゃんはまだ来ない。折角、頑張って弔辞を読み上げるのに、朔ちゃんに見て欲しい。それから、私の方に振り向いて。好きになって…
そのとき、後ろのほうから智世と中川の声が聞こえてきた。話の様子から朔が間に合ったみたいだと思った。
告別式が始まった。…朔が居ると分かった瞬間から、心が落ち着いていくのが分かった。
谷田部「…二年生を代表しまして、廣瀬亜紀」
「はい」と手を上げ、背筋を伸ばしゆっくり進み出て、弔辞を読み出した。
すると俄かに雨が降り出し、だんだんと勢いが増してくる。
「どうしよう。読めなくなりそう。折角頑張ったのに」と空を見上げたが、止みそうな気配ではない。仕方がない。
「……生物の授業を通し、この世に存在するものに何一つ無駄なものはないと教えて…」
生徒達は雨宿りのため、テントの中や軒下に急いで移動する。その気配で亜紀一人取り残されていることを理解した。急に不安が支配してくる。怒った顔つきに変わった。
「…言葉がありません。私にはこの気持ちを伝える言葉がありません」
雨で文字が霞んでしまい、書いてきた弔辞を読み上げるのを諦めた。「だから今日は先生に詩を贈りたいと思います」
暫らく沈黙が訪れた。亜紀は心の中で祈った。
…助けて!私を助けて!朔ちゃん!…負けたくない。雨なんかに…
母の富子に無理矢理に傘を持たされた朔。亜紀が独りぼっちで、雨に打たれながら弔辞を読んでいる。その姿が目に浮かび上がり、引き付けられた。心の中で声が聞こえてきた。「私を守って、助けて、朔ちゃん」と。その声に導かれるように、自然に足が動き出す。 …その時の気持ちは言葉にはならない。ただ、廣瀬亜紀の声がする方に自然に足が…まるで催眠術にかかったようだった。
「お前は聞く。冬は何故、必要なの?すると私は答えるだろう」朔が傘をゆっくりと差し出した。
「答えるだろう。新しい葉を生み出すためだ」ビックリして見上げると白い傘。振り向くと凛々しい朔の顔があった。
…何で、何でもっと早く来てくれなかったの。私のボディーガードでしょう。でも、何か嬉しい。私が困っているのを助けてくれた…
険しい顔つきの亜紀だったが心が落ち着いていった。朔ちゃんが傍にいてくれると何故か心が落ち着いてくる。どうしてだろう、あんなにドキドキしていたのに。朔ちゃんの優しさのお陰なんだわと思った。おかげで最後まで残りの詩を読み上げることが出来た。
それを、悔しくじっと見詰める者がいた。坊主(中川顕良)と黒沢千尋だった。

(賭けてみる)
告別式が終了すると同時に雨が止み、皆はちりぢりに帰っていった。亜紀は今日が朔と親しくなるチャンスだと思った。谷田部が目配せして笑っているのが目に入る。智世が言っていたように朔をからかって注目させようと思ってお寺を後にする。
すると自転車の鍵を無くして朔が自転車の錠前を壊しているのが目に入った。そうだ。キーホルダーをプレゼントするといいわ。お礼としてね。ミュージックウエーブのこと気がついてくれるかしら。そしたらそれを話題にして毎日、話が出来る。そう、それに賭けてみよう。
理容院の前で朔を待っていた。朔の帰り道だと知っていたから。するとカタカタと音を発しながら自転車が近づいてくる。
やっぱり思っていた通りだわ。あれは朔ちゃんに間違いない。
「松本君」と声をかけて呼び止めた。恥ずかしそうにはにかみながら。
防波堤で「これ松本君にあげたかったの」とフナムシの玩具を手に握らせて、からかった。続いてガムの玩具で指を挟んでやった。
すこし怒ったような表情をしたので、急に真剣な眼差しになって、
「傘ありがとう」と言ってミュージックウエーブのキーホルダーを差し出す。「もうやんないって。ハイ」
「じゃーね」と言って、右手を朔の肩にかけ飛び上がる。そのまま堤防を駆けだし、振り向かなかった。
…どうだったろう。私のこと注目してくれたかしら?勝負は明日だわ。自転車にキーホルダーを取り付けて、ミュージックウエーブのことを聞いてきたら成功ね…
翌朝、家を早めに出て、自転車置き場がみられる場所に佇んでいた。
寝ぼけ顔の朔が到着する。自転車の鍵にキーホルダーをつけているのを確認した亜紀は、後ろに回り込みトントン、ブチュー「おはよう」と挨拶した。これ以上は無いといった笑顔を心がけた。「あれ、鍵は?」と、からかってみる。慌ててポケットを探す朔。
「ウフ、キーホルダー付けても分からないの」と、ニコニコしながら催促する。鞄にしまい込んだのを知っていたが、気がつかなければ、鞄の中は?と尋ねるつもりだった。
キーホルダーを手にかざして、ラジオ番組のことを聞いてくれた。一緒の話題が出来た。ウォークマンが欲しいことを告げると駆け出した。嬉しくて微笑んだまま、急には元に戻らない。
…やったー。成功だわ。これ以上の接触は禁物、禁物。朔の方から徐々に近づいてくれなくっちゃね。…

続く
...2005/01/31(Mon) 23:15 ID:rClOMB.U    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Apoさん
新しい切り口からの亜紀像、とても興味深く読ませて頂いています。これからも楽しい物語を創作して下さい。
...2005/02/02(Wed) 00:58 ID:wOdYnvME    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
APOさん
 お久しぶりです。けんです。新しい物語読ませていただきました。今回の物語は、前回の物語の続きのような感じですね。亜紀の視線での物語は、私は以前からとても興味があったので、とてもうれしいです。いわゆるドラマのセカチューは朔の視線ですが、APOさんの物語は、亜紀の視線の物語ですね。今後の展開、ドラマのシーンと重なると思うので、その時の亜紀の気持ちに注目しながら読みたいと思います。大変だと思いますが執筆活動頑張って下さい
...2005/02/02(Wed) 01:37 ID:6G9gdfus    

             Re: 続・サイド・・・  Name:正直な感想です
なんかアキちゃんが打算的性格で、計画的に医者になるよう仕向けたとか、最初からサクちゃんを狙っている様で、アキちゃん本来の清純なイメージが壊れてしまいます。

サイドストーリーは別ものでしょうけど、登場人物や元の設定は引用するなら、180度変わった性格にしないでください。
オリジナルのアキやサクを大切に想っている人は決して少なくない筈です。

他の方が作品の世界を受け入れるばかりのレスなのに対し、あえて意見を言わせて頂きました。

読まなきゃ良かった・・・。
...2005/02/02(Wed) 01:56 ID:Ib5sJbzw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 サイドストーリーは「別もの」ではなく,登場人物やその設定も含めて,あくまでも原作品の世界の延長上に位置するものであるという問題認識は,投稿子さんもこの物語の作者さんも共通しています。問題は,この物語における亜紀の描かれ方を「打算的」な性格ととらえるかどうかにかかっています。
 「打算的」という言い方自体,何やらネガティブな評価が込められている表現ですが,少なくとも,元の物語でも,病室で両親と一緒に夕食をとっている間にサクを忍び込ませるなど,なかなかの「策士」の一面を覗かせています。
 また,中学生の頃からのクラスメートで,時間をかけて仲を発展させてきた原作と異なり,映画やドラマは出会いから死別までをわずか数か月の出来事として描いています。このため,どうしても,出会いのきっかけが恋愛に発展する動機づけが弱くなっています。映画では,これを「衝動」をキーワードにすることで,ある意味開き直って,説明を省略し,観衆に解釈を委ねていますが,ドラマでは,それなりに解釈の道しるべを残しています。
 その手がかりの一つが,フナムシやガムのおもちゃであり,キーホルダーなのです。
 告白テープの「好きなものランキング」にも登場しますが,サクが「いつも鍵を無くす」というのは,前からサクのことを観察していなければ判らないことです。そのサクにキーホルダーをタイミングよくプレゼントできたのは,偶然でしょうか。いつか機会があったら渡すつもりで持ち歩いていたと考える方が自然なのではないでしょうか。まして,フナムシやガムのおもちゃのような「からかい」アイテムを持ち歩いていたことをどう考えればいいのでしょうか。
 「アキちゃん本来の清純なイメージ」を前提として考えるならば,「誰にでも」いたずら・からかいを仕掛けるようなキャラであったという結論以外に,これを整合的に説明できる解釈としては,亜紀にとってサクは以前から気になる存在だったと考えるしかありません。
 だとすると,タコ焼き屋の前で待ち伏せして,何をしているのか観察し(実際にはボウスに頼まれてハガキを代筆中),偶然を装って一緒に帰るという一連の行動も違和感なく受け取ることができるのです。
 つまり,Apoさんの解釈は,決して亜紀の清純なイメージを貶めようとするものではなく,ドラマ自身が残した手がかりを基に,なぜ2人はあの出会いから一瞬にして恋に陥ちたのかという謎解きをしているものだとは考えられませんか。
 
...2005/02/02(Wed) 02:38 ID:xqZKGbBI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
朔五郎さんへ
読んで頂いてありがとうございます。セカチュウ2でのご活躍、期待しています。セカチュウ2にも書かなければと思いますが、展開についていけません。ごめんなさい。ご迷惑をおかけしたままで。

けんさんへ
いつも励まして頂いて感謝いたしております。思いつきから書き始めましたので結末が出来ていません。自分ながらこの先が不安で仕方ありません。初めてのことで。今回は、亜紀の心情を中心のテーマにしています。これからもご意見を宜しくお願いします。

正直な感想です さんへ
不愉快な思いをさせてしまったようでお詫びもうしあげます。
私も最初は一読者だったのですが、朔が医師になった理由を考えるうちに謎解きのかたちで「残されたテープ」をセカチュウ2で書きました。その後、自分中心の世界にはまってしまい皆様にご迷惑をかけてしまいました。お詫びのつもりで、「後で会いに行きます」を続編として書きました。ハッピイエンドのストーリーだったら良かったのですが、私は亜紀の死のストーリーからぬけることが出来ません。そのためにセカチュウにはまってしまったのではないでしょうか。
テレビドラマの脚本は女性ですので原作よりも亜紀の心情がよく出ていると思います。恐らく、演出の方がはるかちゃんにこういう感情で演技をと指導された結果のドラマだと思います。亜紀の台詞、表情の移り変わりからそう思います。また、脚本で当然こうなるでしょうといった省略されたストーリーが感じられます。特に1話に。それを私なりに勝手に想像して書いています。
残されたテープ以来、結果的に、テレビドラマのストーリーをねじ曲げてしまい、また亜紀や朔のイメージを壊してしまって申し訳ありません。深くお詫びします。
自己中心でのめり込んでしまう性格ですので、批判を受けますと反省して冷静になれるようです。ありがとうございました。でも、一度始めたことは最後までやりたい性格です。この後どうなるか分かりませんが引き続き書かせてください。

にわかマニアさんへ
いつも、いつもありがとうございます。おっしゃるように謎解きが趣味なのです。文章にすると表現がヘタなもので、誤解されることが多々あります。それで、小説のかたちをとっています。それも勝手に謎を作っています。

皆様へ
基本的な私のスタンスを書かないと誤解、不愉快を与えてしまうように思いましたので述べさせてください。
私は学園ものドラマが大好きです。今はH2にはまりつつあります。前は勧善懲悪の水戸黄門をよく見ていました。今は見ませんが。また、小説は推理小説です。
恋愛についてですが、私・家族・友人等を観察した結果としてしか言えないのですが、男女かなり異なっています。思春期、女性は憧れもありますが、漠然とした夢でなくあの人といった具体的な人物に向けられるようです。憧れと現実の二面性を同時に持っています。男性はアイドルなどのあこがれから始まるのでは?
女性は好きな相手が心の全てを占めてしまいがちなのですが、男性はリードする機会が多いのか余裕があるようです。例外もありますが。このドラマでは亜紀がリードする側で朔には余裕がないように感じられます。そのために17年間も引きずってしまったのだとも言えるかもしれません。それから男性は何かの機会から具体的な女性に向けられるのではないでしょうか。晩生の人は20歳過ぎても憧れのままの人をよくみかけます。同じ年齢では女性のほうが早熟で大人、現実的と言った感じかな。
女性の方が好きになった幼馴染みを思い続け、いつかは振り向いてくれるのを待っている(智世のように)といったことが多いような気がします。もし、恋敵が現れた場合どうするか、個々に異なるでしょうが、いくつかの企てをして自分の方に引きつける手段を講じるのでは?これは経験上、自信を持って言えます。
ここに掲載しているストーリーは私が経験したこと、聞いたことなどをヒントに展開しています。あくまでも私の想像の産物です。自分を亜紀や朔などの登場人物に置き換えて、どう思う?と自問しながら。他の方のストーリーもそうだと思います。素敵な物語を書ける人が羨ましく思います。私もその読者の一人なんですが。
それから、私の性別、年齢等は不明なように書く努力をしています。出来るだけ中性的になりきろうと。自己中心的な展開になりがちです。それでも、よかったら読んでみてください。
...2005/02/02(Wed) 18:44 ID:pC3Nb3yI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編−


44
(恋敵)
その光景を黒沢千尋が見ていた。「廣瀬さん、とうとう、松本君に近づいちゃった。きっと好きなんだわ。悔しいー。私がねらっていたのに」
佇む千尋。そこへやって来た池田久美が声をかける。「どうかしたの?」
千尋「廣瀬さんと松本君。付き合うみたい。悔しいの。私、ずーっと松本君のこと見てきたんだけど、やっと同じクラスになれて告白しようと思っていたのに先を越されちゃった。仕方ないか。あの時助けられたのが私だと気が付いてくれないんだもの」
千尋は高校受験日のことを思い出した。受験票を失くして受付の前で泣いていた。そしたら突然、男の子が現れ「受験票を無くしました。再発行をお願いします」と言って中学校の生徒手帳を取り出したのだ。堂々としていた。その男の子に続いて、千尋も受験票を再発行してもらい、無事に合格できた。その日以来、朔のことを追い求め憧れていた。でも、1年の間に身長が10cmも伸び、髪も長く伸ばしたので朔にその時の女の子が黒沢千尋だと気付くはずはなかった。面影はあったが、朔の鈍感さは桁外れだったから。
(宮浦北中学校3年2組)
朝のホームルームで。
担任の教師と髪の長い、スラリとした知的な少女が入ってきた。
生徒達は注目し、「ホウ」とため息混じりの声を発する生徒もいた。
先生「紹介します。今日、転校してきた廣瀬亜紀さんです。みんな仲良くしてあげてください。では廣瀬、同級生になる皆に挨拶しなさい」
「廣瀬亜紀と申します。宮浦の家が住めるようになりましたので、伊東から引っ越してきました。宜しくお願いします」と言ってお辞儀をした。
先生「安浦。君の隣の席だから宜しく頼む」
窓際の一番後ろだった。亜紀が席に着くと、「学級委員の安浦正です。宜しく。解らないことがあったら何でも聞いてください」
亜紀「宜しくおねがいします」
それを横目で見ていた池田久美は「安浦君、何か嬉しそう。きっと好きになるわ。私はどうなるのよ。折角、お友達として付き合おうと約束してくれたのに。なんで、転校なんかしてきたのよ。4月まで待てばいいのに。そうか、高校、宮浦に行くつもりなのか」
休み時間、亜紀の周りに男の子達が集まって趣味とか、彼氏がいるのか色々聞いてきた。面倒なので思い切って言ってみた。「高校の準備もあるし、それで早めに転校したんです。父の仕事の関係で転校の繰り返しだったから、親しいお友達はいません。運動、短距離が好きです。幼い頃、憧れていた人はいましたが、高校に入ったら理想の彼が出来たらいいなと思っていますけど。まずは入試頑張ろうと思っています。これ以上はお答えしたくないんですけど」
それを聞いた久美は安心した。とりあえず、亜紀の方から安浦に近づくことはなさそうだ。
亜紀は毎日、退屈な日々が続いた。ガリ勉の少女とみんなに映ったらしく、友達になろうと近づく子は一人もいなかった。クラスメイトは1ヶ月後に迫った高校入試で手一杯の状態だった。ただ、安浦だけはときどき眩しそうな目つきで話しかけてきたが、トラブルが起きないようにと曖昧に答えておいた。
亜紀は願っていた。宮浦高校に入ったら、昔一緒に遊んだ男の子を捜してみよう。必ず見つけ出そうと。

(微笑み)
陸上の練習を終えグラウンド脇の手洗い場で顔を洗っていた。すると、遠くの方から朔が見つめてくれているような気がした。その方を振り返って見ると、やっぱり、朔が自分を見つめてくれていた。嬉しかった。
それで最高の微笑みで「好き好き」のサインを出す。あ、失敗だ。坊主も一緒にいたんだ。目に入らなかった。気をつけないと誤解されてしまう。ただでさえ誤解されやすいのだから、これ以上複雑になったら大変だ。特に朔ちゃんの友達には細心の注意を払わないといけない、と反省した。
(LHR)
文化祭でロミオとジュリエットをやることになった。谷田部の趣味らしく無理やりに決められた。
千尋が後ろの席の久美に相談して「ジュリエットは、やっぱり人前に立つのが好きな人がいいと思いまーす」
続いて久美「雨の中で感動的な弔辞、読む人とか」
それを聞いた朔は嫌がらせをされた亜紀の方を見上げた。亜紀は嫌味を言われてムッとしたが、作り笑いで誤魔化した。でも、朔が不安そうな顔つきで見ていたのが気になった。
千尋は好きな朔を横取りされたようで、亜紀を困らせようと思った。久美は安浦が好きになったらしい亜紀が羨ましく、また、憎らしかった。最近では、その安浦に対しても憎らしく思うようになっていた。
久美は思った。好きな男性には精一杯の笑顔を見せるものなんだよ、女の子は。私が中学校のときしたみたいに。廣瀬さんが安浦君に見せてくれた?あなたは好かれていないっていうの!馬鹿じゃない!そのうちに廣瀬さんから手痛い仕打ちを受けるといいんだわ。千尋もそうよ。松本君が好きなら、精一杯の笑顔を見せてあげなくっちゃ。廣瀬さんに嫌がらせをするのに協力するとはいったけど目的は違うからね。
(初デート)
放課後、智世に向かって「私、今日、練習休むわ。ダメな日なの」と言うと、「分かったわ。先生にそう言っておく」と言って別れた。
朔が最近こそこそとメモ帳を持って書き留めているのが気になっていた。
それで、朔の下校を待ち、離れて、後をつけることにした。たこ焼きパパさんのベンチで朔がこそこそと葉書を書いている。物影から覗っていた。誰宛に書いているのか知りたかった。…まさか、誰か他に好きな人でも…
すると、突然、雨が落ちてきた。チャンスと思い、近づいて傘を差し出す。精一杯の笑顔を見せた。
…不思議そうな顔をする朔ちゃん。可愛い。大好き…
朔ちゃんが傘は自分が持つと言って、差しかけて「今日部活ないの」と聞いてきた。本当の理由は言えないので「雨だし」と答えた。
その後、突然に「やりたくないなら言ったほうがいいんじゃないの?ジュリエット」と言ったのでもうビックリ。私の心が読まれていると思った。そして、とても嬉しくって「あっ、分かっちゃった?」と答えた。
すると「笑った顔が、何か違った」と追い討ちをかけてきた。「もめるの苦手なんだよね。私」と、答えるしかなかった。
…やった!遂に私の気持ちが通じたみたい。朔ちゃんに…
自分ながら、顔が嬉しさのあまりほころんで来るのが分かった。そのとき谷田部先生が言った言葉が浮かんだ。そうだ別れ際に言うしかない。
「松本君!朔って呼んでもいい?」と、嬉しさのあまりに、はにかんで言ってみると「うん」と思いもよらない大きな声で答えてくれた。「じゃね。朔」と言って駆け出す。
…嬉しかった。心が通じることって、何て素敵なこと。人を思うことはいつか通じるものなんだわ。これで、智世と同じになれた…


続く
...2005/02/02(Wed) 22:44 ID:pC3Nb3yI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Apoさん
私はやはり、「ハガキ事件」から「好きよ、サクちゃん」までの流れがイマイチ納得できないので、その「内幕」が明らかになるのではと楽しみにしております。
...2005/02/03(Thu) 23:19 ID:5RSUrU5o    

             Re: 続・サイド・・・  Name:hiro
私は、この「ジュリエットやめたら?」のシーンで、亜紀が、サクの話し方に"慣れてる"かも?と思いました。
普通あまり会話したことがない間柄で、
「今日部活ないの?」
(「雨だし」)
「やりたくないなら言ったほうがいいんじゃないの?」
と続けば、
「本当に雨で休みなの。陸上は好きよ。」
などと言いそうなものですが、亜紀は、しっかり確認の間を取り、
「ジュリエット」
の言葉を引き出しています。
サクはこういう話し方をするようです(例:第3話「ペダル、軽いんだよ」「一人だと」)ので、
おそらく、サクの会話を聞いていたのだろうと思います。
...2005/02/04(Fri) 05:15 ID:hxLR.C4I    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 よくよく考えてみたら,第1話の雨の下校シーンにも謎がありましたね。
 誰もが雨になることを予想だにしなかった葬儀の時に傘を持っていたサクが,この日は傘を持っておらず,逆に亜紀が傘を持参していましたが,どう解釈しますか。
(第1案)
 葬儀の時に急に雨に降られたのに懲りて,亜紀は梅雨の間は常時傘を持ち歩くようにした。
 弱点:サクの母の勘がこの日は働かなかったのか。
(第2案)
 いつか雨の中での出会いがあることを期待して,常時持ち歩いていた。
 弱点:カバンに入りきらないものを持ち歩くと,他人にバレる。
(第3案)
 夕方から雨の予報だったので,サクの母は傘を持たせなかったが,部活のある亜紀は帰りが雨になると思って傘を持っていた。真っ直ぐ帰れば何事もなかったのに,タコ焼き屋に寄り道をしている間に降られてしまった。
 弱点:授業終了時には降っていなかったので,部活が雨天中止ということと矛盾する。(だから,Apoさんは,この日,亜紀は部活をサボったという解釈をされているのでしょう。)
 さて,皆さんは,いかがですか。
 Apoさん。割り込み的な書き込みて失礼いたしました。
 
...2005/02/04(Fri) 12:50 ID:Dho0oYSc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
朔五郎さんへ

目下、次の場面のストーリーを作成中です。一つの謎を解いたと思ったら新たな疑問が湧いてしまいます。それで、なかなか進みません。もう少し待って頂ければ嬉しいです。

hiroさんへ
このドラマは朔の側から作られています。それで、大事なところで朔の解説が入りますので朔の会話はそんなに長くなくても良いのだと思います。それよりも台詞に感情(意味合い)を入れること。それと、感情を身体・表情で現わせばいいのではないでしょうか。逆に、亜紀には解説がないので表現力とそして台詞の中身が重要です。それでも何故なの?と細かい疑問が生じます。それをストーリーに入れる努力をしています。
的確なご指摘有り難うございます。今後の展開の参考にさせて頂きます。

にわかマニアさんへ
ご指摘ありがとうございます。嬉しいです。ご指摘いただきましたとおり考えました。
私の結論はこうです。亜紀は告別式の時、手提げのバックを持っていました。その中には折りたたみ式の傘が入っていた。弔辞の原稿もその中に入れていた。勿論、朔と親しくなる小道具も。準備万端整えて機会を待っていたのだと。それで、弔辞を頑張った。目的は朔に注目されたいためです。
下校のデートは朔の行動を探るつもりだった。グラウンドで微笑んだときに、中川がメモを読んで話しているのも見ていたのだと結論つけました。最初は朔だけに気をとられたが、それが直ぐに分かったと。
当時、折りたたみ式の傘は高価だったでしょう。でも亜紀は裕福な家庭で、梅雨時は母親がいつも持たせていたと思いました。学生鞄の他に運動用の手提げバックを亜紀は持ち歩いています。その中に傘が入っていた。
この日は雨が降っていないのに部活をしていません。一ヶ月後には県予選があるのに。それで、女性特有の日だとして部活を休み、あわせて気になる朔を探偵したことにしました。

朔が何故、困難な医師を目指したか。亜紀の望みを叶えるのが朔の生きがいだった。それで亜紀が医師になるように言ったのでは?これが始まりで「残されたテープ」で謎を解きました。そしたら、何故、亜紀がそう思ったのか。入院中の亜紀はどんなだったか。それが「後で会いに行きます」の謎解きです。
ドラマの亜紀、朔の心情を傷つけないように、また、ドラマ以上に愛し合う思い合う二人にしたつもりです。でも、自己中心的でしたが。「思い出」では亜紀の心情をテーマに何故、朔なのかの謎解きに挑戦しています。イタズラとその背景の謎を恋敵や護衛役で解けたと思い込んでいます。千尋が朔のことが好きだったという点は落し物を教えるときに肩をたたいたことです。また亜紀が堤防に飛び上がるとき朔の肩を利用しています。好意を持っていない男性に触れることは女性には考えられません。多く語ると次の種明かしになりますので。
...2005/02/04(Fri) 19:00 ID:t0IrXsuM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:はるかちち
Apo.様、はじめまして。はるかちちと申します。いつも楽しく、時にはドキドキしながら拝見しています。実はストーリーで納得いかないところがあって聞いてみようと思ってたんです(昨日ですけど)。黒沢千尋が朔を好きだったというとこです。ドラマ中のあの意地悪さを考えると、”それはないでしょう”だったんですけど。そしたら質問する前に答えが載ってましたね。確かに好意をもってない男には気安く触りませんね。自分の思考能力の無さが恥ずかしいです。恥ずかしついでに聞いてもらえますか。あの落し物の場面は亜紀の死後ですよね。朔がどんなにか亜紀を愛したかはクラス中に知れ渡る(元々バレバレ)。女の子的にはそんな朔は素敵..。前から好きではなく後で好きとかは無いですか?
しょーもない疑問を書いてしまいましたが、毎日この作品を楽しみにしています。これからも執筆がんばって下さい。お邪魔しました。
...2005/02/05(Sat) 00:00 ID:ynBUXgA6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 まだ,どなたも触れていらっしゃいませんが,実は,第1話の葬儀のシーンで最も違和感を感じたのが,「生徒代表」と指名されて返事をする時に手を挙げたことなのです。普通,手を挙げるという行為は,賛否を表明するか自分を指名するよう求める時にすることであって,指名された時にやることではないでしょう。
 それをあえて,違和感も顧みず,そのような動作を台本に書き込んだのは,注目して欲しい人がその場にいて,その人に対して「ここにいるぞ」とアピールしている姿を印象付けるためなんでしょうね。
 「目的は朔に注目されたいため」というApoさんの書き込みを見て,そんなことを感じました。
...2005/02/05(Sat) 09:17 ID:CMVVWX/.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
はるかちちさんへ
ご意見ありがとうございます。
千尋が朔のことを好きだったとの根拠ですが、おっしゃるように亜紀が亡くなった後からかもしれませんね。
私は、1話で朔が傘を差しかけ、亜紀が弔辞を読んでいる場面で、坊主、智世、千尋が見守っているシーンでそう感じました。恋愛ドラマでは坊主は亜紀に、智世と千尋は朔に。ところが、朔に関しては智世も千尋も具体的な場面がありません。
千尋は亜紀をからかう場面、亜紀が入院してからは劇の打ち合わせ、廊下で朔に亜紀のことを尋ねる場面と、落し物の場面くらいでしょうか。最初の場面で千尋が登場するのに重要な役割がないのです。当初、意地悪な女の子の設定だけではなかったのでは?と考えて結論つけました。そのほうが、この謎解き物語を作りやすいから。
私の考えを早々と披露してしまい申し訳ありません。にわかマニヤさんが問題提起されたのに。ごめんなさい。これから、気をつけます。

にわかマニアさんへ
直ぐに、私の意見を掲示してしまい申し訳ありませんでした。
ご指摘の手を上げて進み出るシーンですが、告別式では見かけませんね。でも、色々な人に聞きましたがそのような事例はあるようです。卒業式なんかで生徒代表は手を挙げて返事する学校が。
当初はにわかマニアさんのご指摘のように、注目されるためと考えました。でも、そのような学校もあるとのことだったので、谷田部が指示を出したことにしました。でも、手を挙げることも指示したかは曖昧にしてあります。それと、亜紀が葬式に参加するのは初体験だと。
...2005/02/05(Sat) 12:11 ID:iVmPObd6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
思い出編−


45
(母の優しさ)
帰宅した亜紀は部屋で先ほどの出来事を思い出していた。
朔ちゃん、やっと私のこと意識してくれるようになったわ。これからが大事だよね。明日の朝はミュージックウエーブを話題にして、それから感想を聞いて。それからバレないうちに家族のことや友達のこと、聞いておかなくっちゃ。そうそうイタズラのおもちゃの感想もね。

「亜紀ちゃん。ご飯だよ」と声がしたので着替えて下りる。
「お父さん、今日も遅いの?」
「いいから、先に食べなさい」と母が言うが何か変、探るような目つきを感じた。すると、やっぱり、母の綾子から気をつけなさいと注意された。そんなに大きな声だったかな?家の中にいて聞こえるはずがないわ。雨だし。
そうか、戻ったとき居なかったから、外出していたの?買い物でも行っていたのね。それで、見ていたんだ。恥ずかしいけど、味方になってくれるの?ありがとう、お母さん。お父さんに話さないでね。
そこへ、父の真が戻ってきた。機嫌が悪そう。やっぱり勉強のこと言われた。朔のことバレちゃうの時間の問題だわ。お母さんが話さない保障、ないもの。

(朔の告白)
翌朝、朔と大木君がやって来た。亜紀は「おはよう。朔」と嬉しさ一杯の顔で、それからミュージックウエーブを聞いたか訊ねてみる。返事が変。傘を返すと大木君と一緒に逃げるように教室に行ってしまった。
どうしてなの?今日から楽しい交際が始まるというのに。
すると中川君が誕生日を聞いてきた。
ん、ん?訳、わかんない。朔ちゃん達3人仲良しの幼馴染みだし、私、また誤解されるようなこと言ったのかしら?不安が支配していった。イタズラが気に入らなかったとか?でも、智世はぜったいに怒らないと言っていた。本当は私のこと気に入らないの?
3人で何か企んでいるの?大木君「今日も可愛いね」ってからかったし。ん、ん、大木君が中心になって、そうよ、間違いないかも?試されているんだ。私が本気なのか。
授業中、朔の様子を覗うが、見返してこない。何か悩みがあるみたい。私、どうしたらいいの?これで終わりなの?

いつものようにラジオ放送を聴きながら勉強していた。勉強に身が入らない。ミュージックウエーブの最後にペンネーム2年D組のロミオからの葉書が読まれた。ん、これって私のこと?え、白血病で髪の毛が抜ける!腹が立ってきたのでラジオのスイッチを切った。
…どういうことよ。朔ちゃん。朝の変な態度はこれが理由なのね。私をからかっているの?3人で共謀して試しているの?明日、確認しなくっちゃ。でも、どうやって…
暫く考えたあげく、嘘の話で、番組を聞いていた人や本当に病気になっている人に失礼だと思った。そうだ、朔ちゃんにそう言おう。そうしたら理由が分かるかもしれない。
次の日の朝、朔と中川君が昨夜のラジオ放送の話をしているのが聞こえた。やっぱりそうだった。3人で私を試したんだ。始めは優しく「本当に病気にかかっている人もいるんだよ」って注意するだけのつもりだった。でも二人を見てから急に腹が立ってきた。もう、朔ちゃんなんて呼ばないから。ちゃんと謝るまで。
引きつった顔で「松本君、話があるんだけど」と言ったら、朔が逃げていく。「ちょっと待ちなさいよ」と追いかけ、階段の踊り場で問いつめた。
おどおどして白ばっくれるので、段々と本気になった。最初はあっさり注意する気持ちだったのに。朔が何か隠しているのが感じられて、打ち明けてくれないのが無性に頭にきたから。そう言えば中川君が何か私に言おうとしていたわ。絶対、隠している。何だろう?
つい「…妹がなったら…好きな人が…」と言ってしまった。「廣瀬は俺の母親でも妹でもないだろう」と逆に問いつめられた。「そうだよね」と言って引き下がるしかなかった。
…しまった。朔ちゃんに妹がいること、知っていたと気付かれたらどうしよう。探偵していたの、バレてしまう。そしたら、もっと、嫌われるかも…
不安に駆られる時間が続いた。そーっと朔の顔を覗くが、怒っているのか反省しているのか見分けがつかない。朔も私の顔色を伺っているみたいだけど、どんな表情をしたらいいのだろう。何にも無かった顔しかないわ。鬱状態が続く。

今日は部活をする気になれない。家でゆっくり考えなきゃ。このままではこの一年間が無駄になってしまう。運命の人だって、感じたのは間違いだったかしら?私の一人芝居なの。朔ちゃんの運命の人は別の人なの?
そんな!幼いあの時、私を庇ってくれたのは朔ちゃんじゃなかったのかしら?
放課後になった。部活を今日、休むことにした。下駄箱に行くと紙包みが入っている。中身を見るとウォークマン。裏にはHappy Birthday と書いてあった。誰が?私の誕生日を?
確かこの間、中川君に誕生日を聞かれたんだっけ。ヒョッとすると…ヒョッとすると?胸がドキドキしてきた。喉も渇いてきた。
胸にウォークマンを大事に抱いて屋上に駆け上がった。腰掛けながら深呼吸して落ち着きを取り戻す。
スイッチを入れると「あ、あ、入っているのかな…松本朔太郎です。この間はごめんなさい。でも分かって欲しいことがあって…
あれは俺にとって本当に切ない話しだったんだ。俺は廣瀬がいなくなるのが、何よりも一番切ない…」
世界が急に明るくなった。顔がほころんでくる。
切ないって淋しくって悲しいことだよね。それって好きっていうことかな?
「もし許してくれるなら、今日の放課後、あの場所に来て下さい」
喜びが次第に湧き上がってくる。身体全体を駆け回っている。
…やったー。やっと、願いが叶ったわ。これって、朔ちゃんからの告白だわ。私のこと好きになってくれたんだ…
そうか。ウォークマンは。私が欲しいと言ったのでミュージックウエーブに応募したんだわ。私のために。私を試したんじゃないんだ。ん、ひょっとしてこれが全て3人の計画?この朔ちゃんの告白を成功させるため?そうか、それで中川君に誕生日を確認させたんだ。でも、嘘の物語に私を使ったので気が引けたのね。それを、私が怒ったものだから、どう返事したらいいか。朔ちゃん、純情だから。妹さんのことバレなくて良かった。
もういいわ。私が偵察していたことが朔ちゃんにバレても。ずーっと前から好きだったことが知られても。でも、まだ当分二人の秘密にしていよう。智世にも、クラスの皆にも。いつ邪魔が入るか分からないもの。
ちょっとした誤解でもあったら、取り返しがつかないことになりそう。今までみたいに全てうまくいくとは限らないし。安全第一、それから大胆な行動だよね。
…感激だわ!何とかしなくちゃ。今度は私からの告白を。どうしよう…


続く
...2005/02/05(Sat) 19:31 ID:iVmPObd6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:はるかちち
Apo.様、こんばんは、はるかちちです。当方のしょーもない疑問に丁寧に感想をいただきありがとうございました。Apo.様をはじめとして当サイトのアナザー系を執筆されている方は皆さん親切で、応援や意見にちゃんと返事をなさっているので、執筆のジャマにならないように私はあまり投稿しないようにしてたんですよ。ところがこないだこのスレで”ドラマの亜紀のイメージが壊れる、読まなきゃ良かった”見たいなことを書いてる人がいたので、そんなことない、私は応援してますよ!ってことをかきたかったんですよ。の、はずが何故かストーリーに関する疑問を質問する文章になってしまって..
結局、ジャマしてしまいました。すみませんでした。
どうか、お気を悪くされずに、執筆がんばって下さい。
...2005/02/06(Sun) 01:10 ID:w7uGv3xw    

             Re: 黒沢千尋が朔を好きだったという...  Name:say
自分はあくまでも千尋は自分の意志を前面に出さずにいい子ぶっている亜紀が気に入らなくて意地悪していたか、人気がある事への嫉妬からくるものだと解釈しています。

好意を持っていない男子に気安く触らないという断定的な解釈にも違和感を覚えます。確かに中にはそういう人もいます。
また正体不明な相手や嫌っている相手に触らないというのならそうだと言えますが、どうでもいいという程でもなく好きと言えるほどでもない、存在感は感じつつも普通の存在である奴の肩をたたくくらい、ごく普通にありますよ。
自分も男として見てもらえなかった女子から背中や腕を叩かれたりした経験は何度もあります。
...2005/02/06(Sun) 04:17 ID:RyNVUJrs    

             Re: 女性から告白  Name:say
言えない人は多いようですね。
でもやっぱりいますよ。
自分が最初につきあったのは中学一年の時でしたが、それは彼女から告白されて。
自分は特別意識していたわけではなかったけど、何気なく可愛いなとは思ってて、教室の一番後ろで隣同士だったし自分の方が勉強が出来たので授業中教えたりと優しくしているうちに告白されてつきあい始めた。
間接的に好きだという意思表示やら友人経由で言われた事もあるけど、その後も今までに2度別の女性から告白されたし、それは今ほど女性から告白した話を聞くようになるずっと以前の事です。

あーちなみに自慢話をしたいわけじゃありません。
自分はソース顔だし格好いいわけでもないし、体毛も濃い方だしスポーツも得意じゃないし、勉強だって中の上か上の下という半端な位置でしたし、マメなわけでもない、普通で言うところのもてる要素はありません。
...2005/02/06(Sun) 04:39 ID:RyNVUJrs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
はるかちちさんへ
励ましありがとございます。嬉しいです。「思い出編」も終盤に差し掛かっています。満足していただけるか疑問ですが、読んでください。一方的な解釈を展開していますので、その点はお許しください。

sayさんへ
ご意見ありがとうございます。一方的な解釈ですので違うご意見、体験をされている方が居られることを承知のうえで物語を展開しています。
これを書き始めるに当たり次の疑問点の理由探しから始めました。
告別式から亜紀の告白までが短すぎる。好きになった理由が傘を差しかけたこと、ジュリエットやめたらと言ったこと、朔の告白のテープです。それを解決するためには、前から朔が好きだったので様子を探っていた。ライバルがいた。智世だと設定しても無理が生じまして千尋に注目しました。
最初は学級委員で争ったと考えましたが恋敵のほうがよりリアルだし、笑顔を好き好きのサインと考えての展開としました。千尋の笑顔が無いんです。谷田部が一方的に指名したことにして亜紀に反感を抱かせる。でも朔にも興味があった。それを知った亜紀が慌てて急いで告白までの行動をとったことにしたわけです。亜紀の入院中に久美と一緒に廊下でたずねる場面があります。それをじっくり見ていて好きかもと決定つけました。告別式の場面で登場することも意味があるのではと感じました。肩をたたいたことは父親でさえ不潔と感じる年頃ですので嫌いなら絶対に触れないし声をかけるだけでよかったはずです。
亜紀の代わりに学級委員に千尋はなっていますが、選挙で争ったことにしてもよかったかも。そうすると書き始めから訂正しなければなりません。
次に、朔に注目させる(好意を抱かせる)のは、やっぱり告別式で手を挙げることですね。それとイタズラ。告別式では異様に映ります。
ドラマですのでクラスメートの会話が極端に省略されています。それで、雰囲気、表情から推察するしか手がありません。
一歩的な解釈、言い訳になり申し訳ありません。
残り、あと2話くらいで「思い出編」は終了となりそうです。次は、亜紀の告白です。今日中に掲載出来るよう頑張ります。お便りがいただけたら嬉しいです。
...2005/02/06(Sun) 11:57 ID:mjX6qkzg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:say
Apoさん、返事有り難うございます。
好きになった理由ですか。
本当に好きになる時って「好きな点」と「好きになった理由」が一致しない事って多くありませんか。
自分自身何故好きになったのかはっきりとは判らないという経験が何度かあります。
亜紀と綾子との会話で「なんでお父さんだったの」「なぜサクって呼んでもいい?なの」という会話がありましたが、あそこで亜紀が言葉に詰まったのは好きになった理由がうまく説明できないからだと感じていて、更にキーホルダーを渡すシーンで他の人には見せない悪戯好きな面をサクにだけは見せている事からこの時既に好きになっていたんだ感じますので傘を差し掛ける以前から好きだったという流れには矛盾を感じません。
少なくともジュリエットやめたらと言った事は「好きな理由」ですが「好きになった理由」ではないと思います。
で、千尋のキャラクタは嫌いな方ですが、容姿は太い眉も含めて自分の好みだという事もあり、細かくチェックしていたのですが、
1) 会話や目線からは一切そういうものを感じ取れない2) 目線の先の位置関係からサクが気になっているのならサクに目線を移してもおかしくない状況下でもまったく見ていない
3) サクが寝ている体勢からわざわざ顔を上げて何かを見ているところで後ろを通って自分の席に座るシーンでもサクの目線の先を気にする様子がない
4) サクとボウズ・龍之介が谷田部先生から授業中に注意されるシーンでは引きの映像も含め一切笑っていないどころか冷めた表情のまま
5) サクがロミオ役に手を挙げたときの「折角なんだしジュリエットが選べば」のセリフでも状況を楽しんでいる様子しかないし、その後の久美の「できてるって噂もあるし」のあともしてやったりという表情のまま
6) 教室で堂々と意地悪なセリフを吐いているあたり意識している存在が教室の中にいるとは思えない
これらが違和感を覚える理由です。
千尋の笑顔は亜紀への意地悪で教室中が反応したときだけなんですよね。
告別式への参加は心底嫌っていたわけではなかった、単に自分のストレス発散の為にやっていた事だった、だから亜紀への意地悪も軽度に留まっていた、そしてそれを詫びたいと思ったからと解釈しています。(久美も参加して泣いていますし)
肩を叩いたシーンは亜紀とダブらせる演出上の意図も大きいと思いますが、ぼーっとしていて声をかけても反応しなさそうな時(実際反応しなかったのかも)、彼女を失ったばかりで声をかけづらいと感じたなどと思います。
親父でさえ不潔に感じるというのはおじさんと感じる年齢以上に対する嫌悪感で、同年代の場合不潔にしていなければ当時は特に触る事を避けられる事はありませんでした。
ちなみに告別式で手を挙げるのは告別式に教え子として参加した事がない、またはそういうのを見た事がない、学校では返事をする際に手を挙げるというのが徹底されていればおかしくないと思います。逆に「いい子」を演じる亜紀が違和感を覚えられる事を皆の前でするとは思えないです。またチャンスさえあれば積極的に声をかける事の出来る亜紀があの場面で冒険する理由もない。智世と仲がいいし、智世とサクも仲がいいわけで、自分をリスクなくアピールする方法はいくらでもあるという点からも挙手とサクとの関係はないと思います。

人それぞれ感じ方が違うわけですから、自分には違和感を覚えるストーリーになってもおかしくない事は判りますが、コメントを望まれているようでしたので敢えて書かせて頂きました。
納得できる要素があり、それが次作に生かせれば嬉しいです。
では。
...2005/02/06(Sun) 15:57 ID:RyNVUJrs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
sayさんへ

ご意見ありがとうございます。
私の解釈は恐らく受け入れられない方が多いと思っています。それでも、書き始める前提を作ってしか書けませんのであえて理由探しをしています。勝手な解釈です。
好きになった理由と好きな点は違いますね。ごめんなさい表現が間違っていました。お詫びします。
sayさんの感じられたのが正解でしょう。私はドラマを捻じ曲げて解釈していると思うことがあります。最初見たときに感じなかったことが前提を作って、こうでないといけないといった見方をしたときです。雰囲気、表情の推察も勝手な判断をしています。物語を書くための判断ですから。少ない私の経験に基づいています。ですから、反論できません。
意見を述べるのは誤解を招きやすく、うまく言っているのか分かりませんが、ご理解いただけたら嬉しいです。
何故、朔なのかの謎解き物語にするには勝手な解釈が必要でした。そのため、不愉快な思いをさせてしまっていると反省しながら書いています。前作までは意見を書かないと言っていたのは、勝手な解釈ですので書けなくなると思っていたのも理由の一つです。ドラマの最初で、重要な亜紀と朔の恋愛の始まりの謎解きですから批判をお受けしたくて、私の意見を掲示しようと決心した次第です。
あと少しで、私の勝手な解釈の物語が終わります。受け入れられない方々が多いと思いますがお許しください。亜紀や朔のイメージを壊わさないことを願っています。
...2005/02/06(Sun) 17:52 ID:mjX6qkzg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編−


46
(亜紀の告白)
暫らく、亜紀は考えていた。印象に残る告白を。朔がしてくれたような感激深いこと。
そうだ。好きなものランキングで告白したら、印象に残るわね。朔ちゃんがやったみたいにウォークマンを使ってね。
目に輝きが増してくる。急ぎ階段を駆け下りた。
まさか、教室に残っているってことないよね。でも、一応、見てみよう。D組を覗いてみる。女生徒が3人残っているだけだった。朔ちゃんのあの場所って、二人で話しをした場所だとすると、校内というのは考えられないわ。お寺も違うわね。恐らく、たこ焼きパパさんの帰り道、理髪店前、それに堤防ね。間違いないと思う。そうだ、堤防だ。イタズラのこと書いていたもの。間違いないわ。

自宅に駆け足で戻った。
「バタン」と玄関のドアを勢いよく閉めて、部屋に駆け上がろうとすると、慌てて出てきた綾子。
「どうしたの?亜紀ちゃん。そんなに慌てて、ただいまも言わないで。ん?何かあったの?」ウォークマンを見つめていた。
亜紀「うん。これ?最高の誕生日プレゼントを貰っちゃったの。テープ。大好きな人から」
「そう。良かったね。亜紀ちゃん」と言って笑っている。良かった。お父さんに秘密にしてくれるんだ。
亜紀は「それで、直ぐに返事をしないといけないから」と言って部屋に駆け上がった。そして録音を始める。
「広瀬亜紀です。今日は私の好きなものについて話します…第5位 たこ焼きパパさん、の前でこそこそ葉書を書いている松本朔太郎…第4位 ガムのおもちゃで騙される人のいい松本朔太郎…第3位 いつも、いつも鍵を失くしてもぞもぞしている松本朔太郎…第2位 ジュリエットやめたらと言ってくれた松本朔太郎」
ここで録音を中止した。
…どうだかな。第1位はやっぱり直接言った方が印象深いわね。それより、一生に一度だから私、言ってみたい…
そう、ゆっくり考えている暇はないわ。急がなくては。録音したテープをウォークマンに入れ、家を後にした。出て行くとき、後ろから綾子が声をかけた。「しっかりね。亜紀ちゃん」
心配で亜紀の様子を窺っていたのだ。

ウォークマンをしっかり握りしめて走る。培った陸上の練習で、苦にならない。一気にたこ焼きパパさんまでやって来た。あ、朔ちゃんだ。ん、でも、違うかも?
それで。トントン、ブチューのブチューはしないことにした。「やっぱり違っていた。心が感じなかったもの」
堤防に向かって一目散に走った。
海に向かい、堤防に座っている男の子の後ろ姿が目に映る。今度は感じるわ。間違いないと思う。回り込んで堤防に駆け上がった。横顔が目に入る。居た!朔ちゃんだ。やっぱりね。思ったとおりだわ。
駆け寄りながら「サクー!」と叫ぶ。「バーカ。あの場所じゃ解らないでしょ!」と言って立ち止まった。
「これ、返す」といって、ウォークマンを投げる。
朔が「何で?」と言ったので亜紀は「聞いて」とお願いのポーズ。朔がイヤホンを耳にあて聞き始める。胸がドキドキする。恥ずかしい。でも、やっと念願が叶ったんだ。最後まで頑張らなきゃ、このチャンスを逃してしまう。朔が「あの」と言って第1位はどうなったのか聞いてきた。唾を飲み込み、深く息を吸い込む。
「第1位。あの日、傘を差し掛けてくれた松本朔太郎」恥ずかしい。でも、幸せ。潮風を吸い込むと心地よい感じ。
ゆっくり歩き始めて、「好きよ。朔ちゃん」…「大好きだよ」…「ウフッ、ありがとう」 と、心を込めて言った。恥ずかしくって、顔が引きつっているのを感じる。でも、やっと告白できた嬉しさで笑った顔に自然になった。
…生まれて17年間、ずーっと、この日を待っていました。運命の出会い。私の運命の人。世界でたった一人の大好きな人。それは…朔ちゃん…
朔に近づき、傍に腰掛ける。ため息が出た。続いて朔も寄り添って座った。
朔ちゃんも何か、恥ずかしそう。でも、嬉しそうなのが感じられるわ。改めてお礼を言わなくっちゃね。
海に向かって、亜紀「あのね。朔ちゃん。ありがとう。今迄で最高の誕生日プレゼント。私初めてなの、告白。とても、すごい。感激しているの」
亜紀の顔をゆっくり見つめた朔、「あ、あの。誕生日おめでとう。あ…、廣瀬」
亜紀「ごめんなさい。この間は言い過ぎたと反省していたところだったの。でも、そのお陰で朔ちゃんの気持ちが解ったんだよね。怪我の功名だよね、きっと。ウフフフ。それでね、朔ちゃん。私、そんなにイタズラしたかしら?朔ちゃん、葉書にそう書いていたわね」キラキラ瞳で朔に向きを変えて、覗き込む。
朔「したじゃない。フナムシで騙して、ガムのおもちゃで指を挟んで。すごい。喜んでいたよ」下向きでか細い声。「それから、トン、トン、ブチューも…」あまりにも小さい、蚊が鳴くような声で最後は聞き取れなかった。
亜紀「そうだけど。あれはイタズラじゃないんだけど。好きな人にしか出来ないの。好きな人が出来たら、一度やってみたかったの。どう?私の愛情、感じたでしょう?」大きな声で、はっきりと、笑って問い詰めてあげる。
…愛情一杯の笑顔だよ。朔ちゃん見て!…
朔「うん。どうだかな。イタズラされていると思いこんでいたから。思ってもみなかったし…廣瀬が俺を好きだなんて…」
嬉しさが、身体を支配している。朔の顔がほころんできたみたい。
心が浮き浮きして、「あのね。朔ちゃん。私、思ったんだけど、ウォークマンを使って交換日記をしてみない。思っていることや、家での出来事を録音して渡すの。直接話せないことでも、言えるよね。きっと!」キラキラ瞳で見つめる。
朔「今日みたいなこと?良いけど。手本を見せてくれれば…すごい…恥ずかしいから」かすれる様な声。
亜紀「じゃ、私からね。ウォークマン預かっておくわ。朔がしたみたいに下駄箱の奥に入れるね」
立ち上がって、「はい」と右手を出したら、朔が握り返してくれた。二人、手をつなぎ堤防から降りる。少しぎこちない。
朔「あ、あ、…廣瀬。送って行こうか?」
亜紀「今日はいいわ。明日からお願いね。今日のこと、一人で噛み締めたいから。朔ちゃんのこと」
「じゃ、バイバイ。明日ね」と言って、駆け出した。
…朔ちゃん。可愛い。亜紀って呼び捨てに出来ないで!いつか出来るよ。自然にね。そのときが本物だよ…

(母の喜び)
家に戻りながら、どうしても口元が弛んでしまう。幸せが染み出てくる。
「ただいま」と言って玄関に入いると、母親の綾子が駆け寄ってきた。
「亜紀ちゃん。ど、どうだったの?うまく言えた?」不安顔で溢れていた。
亜紀は娘を理解してくれる母親に感謝の気持ちを込めて「うん。ありがと」と笑顔で答えた。
綾子「心配だったのよ。亜紀ちゃんの一世一代の大舞台だもの。女の一生を賭けた大勝負!」
亜紀「大げさなんだから、お母さんは。心配してくれてありがとうございました」と、ペコリお辞儀をした。
綾子「良かった。安心したわ。ダメだったどうしよう。どうやって慰めていいか。そのことばかりで」
亜紀「お父さんには秘密にしてくれる?」
綾子「当たり前でしょう!女の子の恋愛のこと、父親に話したら混乱するだけでしょう。ただでさえ亜紀には口うるさいのだから。亜紀ちゃん、信じているからね!私にはちゃんと話してね。彼のこと。松本朔太郎君!」
亜紀「ありがとう。お母さん」
照れ笑いしながら部屋に上がった。そしたら、遠い昔の記憶を思い出し始めた。そう、初めて宮浦にやってきて遊んだあの日のこと。
…やっぱり、あの子は朔ちゃんだった…


続く

もう少しで最終回が完成します。お気に召さないかもしれませんが、読んでみてください。
...2005/02/06(Sun) 18:45 ID:mjX6qkzg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:say
Apo.さんへ
私も正しく解釈できていると皆を説得できるほどの材料は持ち合わせていません。また全体を通してサイドストーリーを書けるほど全体の流れを憶えていません。
あくまでもピンポイントで指摘しているだけだからこそ自分の意見を自信を持って書けているだけです。

それと私の場合、一気に初回から最終話・特別編を見たので自分の推論を挟み込む余地がなかった分、素直に解釈できているのかもしれません。

ちなみにApo.さん等のサイドストーリーで自分の中のこの物語りのイメージが壊れる事はありませんし、不愉快な思いもしていませんので安心して下さい。

何故サクなのかについてはドラマの中でも触れられていましたが、私の解釈については
1) 呑気
2) 自然体
3) やさしい(龍之介やボウズ等への接し方からも判る)
4) タイプの範疇
というところだと思います。
亜紀の日常の心情が語られているシーンとして2話で夜中に亜紀とサクが丘の上でキスを交わす前のセリフにあると思います。
「面倒起こすと面倒だからって私、家でも学校でもウソばっかりついてんの ニコニコ ニコニコしながら 本当やな女だよね」
つまり自分を出して安らいでいる時間が無いか少ないという事で、その逆の立場にいるサクに魅力を感じたという事でしょう。
裏付け的な言葉として「亜紀はそのままでいいよ」という言葉に感動し涙した一連の事と、後日学校からの帰り道亜紀が自転車の後ろに乗りながら、部活が終わるのを待ってくれている事を断る一連のシーンで「サクちゃん、何かやりたい事とかないの?」「亜紀が頑張るのを見てゆっくり考えるよ」「呑気だなぁ」「あ、馬鹿にしてる!?」「サクちゃんといると楽になると言っているの」というやりとりからもそこに魅力を感じている事がわかると思います。
ちなみに私も亜紀と似たような(ある意味もっと酷い)境遇にいたのでこれらのシーンはとても感情移入でき鮮明に記憶に残っています。
...2005/02/06(Sun) 20:19 ID:RyNVUJrs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
sayさんへ

ありがとうございます。
朔の性格についての解釈は私も同じです。朔の台詞や解説で十分納得できます。亜紀の性格については解説が無く、朔側からの解説等で理解するだけです。それが私には不満なのです。それで、たくさん亜紀の心情を書き足して見ました。亜紀側からの1話です。そのためには2年生になる前からの亜紀の生立ちや周りの人物の関係を設定しないと物語が成立しないものですから勝手な解釈で展開してしまっています。
最終回については亜紀と朔の関係等を空想のもとに作りました。これなら私は理解できますというものです。
もう暫らくお待ちください。
sayさんも辛い経験がおありなんですね。私も小学校にあがるまでの数年間にあります。そのためか変な性格です。
...2005/02/06(Sun) 20:56 ID:mjX6qkzg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編−


47
(理想の男性)
亜紀の脳裏に、幼い頃の思い出がはっきりと蘇ってきた。そうだった。あの子は朔ちゃんだ。

亜紀5才の秋。宮浦の曾祖父に会いに来たことがあった。そのとき、同い年くらいの男の子と遊んだ。
その子は自転車に乗れるようになったばっかりで、亜紀にも乗るようにと勧めてくれた。亜紀が転びそうになると身を挺して庇ってくれる。亜紀は無傷だったが男の子は傷だらけ。
その後、自転車に飽きたのか公園のブランコに乗った。近くに住む年長の悪ガキが来て、ブランコを空けるように要求する。困った亜紀は半ベソで譲ろうとしたとき、その男の子が両手を広げ「ダメ!」と言って立ちはだかった。悪ガキに突き飛ばされても、怯むことがなかった。根負けした悪ガキは引き下がる。すると緊張が解けた男の子はベソをかいて、涙が溢れていた。でも、泣くのを堪えている。感激した亜紀は「お礼だよ」と、ホッペタにキスしてあげた。男の子は「ありがとう」と言って、嬉しそうに笑ってくれた。
それ以来、その男の子が理想の男性になった。
その後、毎年、夏を過ぎた頃になると宮浦に男の子に会いに行くと言って親を困らせた覚えがある。その時の1枚の写真を宝物にしていた。今もアルバムに大切に張ってあった。「タクちゃん。大好き」と書き加えて。
宮浦に家を買い、改築したら移り住むと父親に言われたとき、一番に賛成した。でも、仕事の都合でなかなか実現せず、中3の3学期となってしまったのだ。父親はその数年前に独立し、宮浦に設計事務所を構え、やっと軌道に乗ったところであった。

(亜紀の写真)
朔と智世、それに綾子が中心になって、亜紀の思い出話に花が咲いていた。
一段落したので、真が亜紀のアルバムを持ってきた。
朔が廣瀬家の応接間に飾られた亜紀の写真をじっと見ている。亜紀が真に肩車されている写真。智世は亜紀のアルバムをみていた。介と坊主はビールを飲んでいる。
真「朔、どうした?珍しいかね。今まで見たことがなかったかな?」
朔「はい。亜紀の子供の頃の写真は見せてもらったことがありません。でも、これ、どこかで見たような…」
綾子「あ、これね。亜紀が朔君の松本写真館からもらってきた写真立てに、幼い頃の写真を入れたんですよ。亜紀が選んでくれて」それを聞いて、真が何か気がついたようで、不思議な顔で部屋を出て行った。
朔「そうだったんですか。…亜紀の写真…昔、会ったような気がして」ジッと見つめた。次第に幼い頃の思い出が蘇り始めた。
そこへ突然、智世のビックリした大きな声。
「朔、これ朔じゃない?亜紀と一緒に映っている。これよ!」
幼い頃の亜紀の写真には自転車にまたがった男の子が仲良く写っている。場所は宮浦の河川敷のようだ。よく注意してみると男の子は朔のような気がしたのだ。綾子が覗いて説明した。
亜紀が初めて宮浦の曾祖父に会いに来たときに、一緒に遊んでくれた「タクちゃん」だと。すると介が「へえ、亜紀ちゃん小さい頃、宮浦に来ているんだ」と言って覗いた。するとビックリ「これ朔ちゃんじゃないか。俺、物心がついてから朔ちゃんと遊んでいたから。間違いないよ」
朔にアルバムを渡して、確認すると「どうして秋ちゃんの写真があるの。永田秋ちゃんですよね?お母さん」
綾子「そうだったの。亜紀が呼んでいたタクちゃんは朔君のことだったのね。永田は主人の母方の姓でね」
そこへ真が戻ってくる。「ねえ、あなた。永田のお爺さんに会いにきたとき、亜紀のことを季節の秋だと思いこんでしまったことがありましたね」と綾子が念を押すが、真は妙な顔つきのまま答えた。
「そうだったね。死ぬ前に曾孫に会いたいと言ってね。白亜紀の亜紀だと理解してくれなくて、季節の秋だと言いはるものだから。亜紀に曾祖父の前では季節の秋にしなさいて言いつけたんだ。それがどうかしたの」
綾子「この男の子、タクちゃん。実は朔君なんだって」
真「そうだったのか。あの後、大変だったんだ。宮浦に行くって言って駄々をこねて言うこときかなかった。タクちゃんに会いに行くと毎年、夏が過ぎる頃になると言っていたよね」全てを真は理解していた。因縁の不思議さに心を打たれたのだ。
智世「タクがどうして朔なの?」
朔「恐らく、前歯か無かったので朔と言ったんだけど、タクと聞こえたんじゃないかな?舌足らずだったし」朔も全てを理解した。真の顔色を見た瞬間に。
朔「俺は、永田さん家のアキちゃんで、季節の秋だと紹介されたから。謙太郎じいさんに。まさか廣瀬、亜紀だったなんて」
智世「朔ったら、まったく。肝心なこと抜けているよね。ずーっと気がつかなかった訳だ。亜紀は気づいていたんでしょうか?」
綾子「中3のとき引っ越してきたんだけど、すごく喜んでいたし。高校に入学したとき初めてあった朔君を運命の人だって言っていたから、気づいていたと思いますよ」目が潤んでくるのがわかった。
綾子「そ、それで、朔君はどうして亜紀と知り合いになったの?」
朔「謙太郎じいさんが一緒に遊びなさいって連れてきたので、それで。思い出すと楽しかったなア。別れるとき、ホッペタにキスしてくれたしね。あははは」笑ってはみたが、心は複雑だった。
坊主「俺、覚えているよ。永田さんのおじいさん。確か、今の廣瀬設計事務所がある場所に昔あった駄菓子屋さんだよ。親父の真似して御経をあげたら、いつも飴をもらったんだ」

皆は神妙な顔つきで言葉が発せられなかった。
真が朔に、ソーっと古い写真を見せ、「裏に書いてある名前は朔のおじいさんかね」と小声で聞いた。朔が頷いて「サトさんの写真、亜紀が残していたんですか」と言った。すると、もっと小さい声で、「サトさんは祖父の年の離れた妹だ。母とは姉妹のように育ったんだ」と言った。そして、「亜紀の写真は朔のおじいさんが撮ってくれたようだね。祖父が宝物のようにもっていたもので、亡くなったときに引き取って亜紀に渡したんだ」と語った。

(完)

自分勝手な解釈で物語を作りました。ドラマ及び原作を中傷する意思はありません。亜紀、朔や他の配役のイメージを作り変えてしまったことに深くお詫びいたします。また、出演者、関係者及び読んでくださった方々にお礼申し上げます。
by Apo.
...2005/02/06(Sun) 21:54 ID:mjX6qkzg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SS
Apo.様>>

おつかれ様でした。私は楽しませてもらいました。
これからも頑張ってください。
...2005/02/07(Mon) 01:41 ID:q8qqeiT2    

             Re: 続・サイド・・・  Name:けん
 APO様
 お疲れ様でした。前にも書かせてもらいましたが、他の人は、けっこうきつい事かいている人もいましたが、私はAPO様の物語は好きですよ。亜紀の心情もドラマのシーンにあわせて違和感もなかったし、朔と亜紀が小さい頃会っていた解釈もありだと思うし、おかげで謎だと思っていた数々のシーンが納得できました。また機会がありましたら、このような物語を書いて下さい。では、また楽しみにしています。
...2005/02/07(Mon) 03:03 ID:ZrelRHK6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 そろそろ危険水域に差し掛かってきましたので,掲載順を上げておきます。
...2005/02/16(Wed) 22:02 ID:1OmOMU7E    

             Re: 続・サイド・・・  Name:say
Apo.さん、皆それぞれ変な部分はあるんじゃないでしょうか。
その経験のお陰でひねた・歪んだ部分があるという事でしたら私もあります。
その部分に関しては親と正面から向き合って何度も話し合い、実は親もそういう行動を起こした理由が親の幼少期にあることが分かったりして、その自分の経験を消化することが出来ました。
勿論だからと言ってその事に対する親の行動を許したわけでもなければ自分の性格が変わったわけでもありませんが、気持ちに余裕が出来たり自分をより客観的に観察することが出来、それ以前より前向きに行動できるようになりました。

セカチューから言葉を借りれば、それによって失ったものの代わりに何かを得た、それが何なのか見つけることが出来たという訳です。
...2005/02/25(Fri) 17:44 ID:mcjTE/yM    

             亜紀がもし生きていたら  Name:朔五郎
Apo.さんの作品も一段落のようなので、私が一時このスレに投稿いたします。


夢見るジュリエット(1)


堤防の上を全力で走り、先端へ・・・
誰もいない。
とその時、肩をトントンと叩かれた。
振り返る頬に指が当たる。

「びっくりした?」
「うん、びっくりした・・・」

ふたりは微笑みあい、夕日の中、手をつないで堤防の上を歩いていった。

(完)


「ふう、できた。なんとか間に合った」
亜紀はほっとした表情でつぶやいた。
机の上で、書きあがったばかりの原稿用紙をトントンとそろえる。
と、その時、原稿用紙がパッと奪い去られた。
「あ、お父さん・・・黙って入ってこないで・・・」
「勉強もしないで何やってるんだ」
「文化祭の劇の台本を頼まれたの」
「つまらない台本を書いてるヒマがあったら受験勉強しなさい・・・だいたい、おまえ、こんな白血病なんて不吉な話を創って・・・現実になったらどうするんだ。まあ、引き受けたものは仕方ない。世の中、信用が大事だからな・・・でも二度とこんなことするんじゃないぞ」
「はーい・・・」
「それからな、おまえ、まだあのサクとかいう奴と付き合ってるんじゃないだろうな?」
「・・・・・」
「今は男と付き合ってる場合じゃないだろう?まだ高2なんだぞ。とにかく勉強に専念しろ、いいな」
「・・・・・」

一週間ほどして、真が風呂上りにビールを飲んでいると亜紀がやってきた。
綾子が促す。
「さ、亜紀ちゃん。ちゃんとお父さんに話しなさい」
「ん、何だ」
「あの、お父さん、志望校のことなんだけど・・・」
「なんだ、慶応と津田塾で決まりじゃなかったのか?」
「うん・・・いろいろ考えてね、愛媛大学にしようと思うの」
「え、どうしたんだ。将来のことを考えたら東京の有名大学に行っといたほうがいいんじゃないのか?」
「実はね、やりたい仕事を見つけて・・・」
「絵本の編集じゃなかったのか?」
「・・・うん・・・お父さんに怒られちゃったけど、この間白血病の話を書いてたでしょ?それでいろいろ本とか読んで、私も苦しんでいる人の力になりたいと思って・・・」
「なんだ、医者にでもなるのか?」
「ううん、さすがに国立の医学部は難しいから・・・」
「じゃ、看護学部か?」
「あのね、臨床心理士になって、病気と闘う人たちの精神的な支えになってあげたいの。そのためには心理学科に入って、大学院まで行かなきゃならないの。それで6年間通うんだったら地元のほうがいいかな、と思って」
「あなた、女の子なんだから、家から通えればそれにこしたことはないわよ。本人がきちんと目標を持ってるんだから大学にこだわることないじゃない。亜紀ちゃん、朝6時台の列車に乗れば間に合うんでしょ?」
「うん」
「帰りは、場合によっては大洲の駅まで迎えに行ってやればいいじゃない」
真はどこか不満げだったが
「そうか、まあ家から通いたいんだったらそうしなさい」
と言った。


宮浦は大洲から流れる肱川の河口の港町である。大きな肱川の流れのそばには回漕業を営んだ石丸家の、なまこ壁のある古い屋敷が残っている。裏通りには古い板張りの家並みなどもあり、昔の港町としての賑わいの名残りを遺していた。
かつて予讃線はこの宮浦回りの線路しかなく、松山と宇和島の間を走る急行列車が通っていた。しかし前年に内子回りの新線が開通してからは、素晴らしい景色のこの「海線」はすっかり寂れてしまった。
本数が少ないため、松山の大学に通うには朝6時台の列車に乗らなければならず、なかなか大変である。


「お母さん、ありがと」
「亜紀ちゃん、ホントのこと知ったらお父さん怒るかもよ」
「へへ」
亜紀はペロリと舌を出した。
「だって、東京に行ったら遠恋になっちゃうもん」
「朔くんも愛媛大学に行くの?」
「ううん、松山大学だって。朔ちゃんは下宿するかもしれないって言ってた」
「そう・・・あ、でも亜紀ちゃん、簡単に男の子の部屋に上がったりしたらだめよ」
「はーい」
「もう、なんか危ないなあ・・・」
「でもね、お母さん」
亜紀は真顔になって言った。
「病気と闘う人の力になりたいっていうのは本当だよ」

(続く)


このお話の宮浦はこんなところです。
http://magok.cool.ne.jp/iyonagahama.html

たかさんが立てたサイド系スレも気がつくとこれだけになってしまいました。
Apo.さんの作品等「落とす」には忍びないものも含まれているので、不定期ではありますが投稿していきます。
...2005/04/17(Sun) 17:03 ID:PZzW/X42    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 朔五郎様
 伊豆と四国の2つの宮浦を2つのスレで掛け持ちするのも大変でしょうが,楽しみにしています。

 この第1話,何となく,
@ソリタT的飲料を飲みながら,父親が「もらい」と言って原稿用紙をひったくる。
A娘が「人の部屋に入って来たら,まず,挨拶をしなさい」と切り返す。
といった感じで,仕草とセリフを攻守ところを替えるという朔五郎さんお得意の手法でパロディーができそうですね。
...2005/04/17(Sun) 18:01 ID:kolKlces    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさん
最高です、そのパロディ(爆笑)

ちなみに長浜町は合併により大洲市の一部になってしまいました。
地図上では、三角点のある小高い丘も認められます。登れるかどうかはわかりませんが。
島はかなり遠いですが一応あるようです。船便もあるようです。
宇和島方面から向かうと、伊予大洲から海岸線に向かって北上する予讃(海)線は、伊予長浜でほぼ直角に東に向きを変え、左手に海を見ながら松山へ向かって行きます。宮浦南駅=伊予出石駅とすると、ここは山間の駅で、宮浦以東は左手に海が広がることになり、条件的にはドラマとよく一致すると思います。
大洲は「小京都」と呼ばれる街で、NHK朝ドラ史上最高の視聴率をいまだに保持している「おはなはん」という番組の舞台になったところだそうです(間違いだったらごめんなさい)
なお、蛇足ながら「はるか(春賀)」という駅が大洲市内にあります(笑)
...2005/04/17(Sun) 19:44 ID:0PCWIsSM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:clice
朔五郎様
新しく書き始められた物語読みました。そもそも亜紀が病気にならない設定と思っていいのでしょうか?書き出しの部分が書いている原稿の最後というのがとても素敵です。
純粋に二人の青春物語になるのでしょうか、そうだとすると朔太郎にとって真は病気にも勝る高い壁として、亜紀の前に立ちはだかることになりそうですね。
あるようで無かった伊予長浜を舞台にする恋のお話、これからどんな未来が二人に待っているのか楽しみです。応援させて下さい。
...2005/04/17(Sun) 21:05 ID:OxJ5p81w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
clice様
ご感想ありがとうございます。
いままでのことは全部お芝居でした、というのは、アニメ「キャッツ・アイ」からお借りしました。
結論から申しますと、このお話では亜紀は病気にはならないと考えております。
が、患者とのかかわりを通して、死生観を学んで行くことになると思います。朔と二人で成長していくようなスジを考えております。
二人の恋愛については、真vs亜紀&綾子になると思います。まだ考えていないのですが、真が朔を男として認めるシーンは用意しなければいけないと思っています。
二人のデートの場所は、地元・大洲や松山になると思います。宇和島もおもしろいかな(笑)
clice様のご活躍もお祈りしております。
...2005/04/17(Sun) 23:07 ID:2yXcghhM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
朔五郎様。
お疲れ様です。たー坊です。
真vs亜紀&綾子の構図ですが、くれぐれも「家庭崩壊」なんてことの無いようにお願いしますね(笑)

それにしても、亜紀が健康そのままのストーリー。有りそうで無かったパターンですね。どういうものになるのかとても楽しみです。

次回も楽しみにしております。
...2005/04/18(Mon) 21:18 ID:PLl.Z5WQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 今晩は。西村京太郎モドキです。
 宮浦南=伊予出石とした場合のスケちゃん傷心のトンボ帰りのダイヤ(もちろん1987年当時のもの)の検証です。

 第4話でスケちゃんが去った後,戻って競技に間に合うか眺めた時計は10時半でした。そこで,これと辻褄のあう列車は,10時17分伊予出石発の734Dということになります。
 734Dの松山着は11時30分ですが,高松方面の接続は12時発の1012Dしおかぜ12号までなく,1012Dの高松着が14時55分ですから,連絡船の1時間,新幹線の4時間という所要時間を考えると,相手が東京駅の駅前にでも住んでいない限りとんぼ帰りは不可能だという結論は宇和島の場合と同じです。

 では,松山から海路を利用した場合ですが,今度は宇和島の場合とはちょっと違います。ちょうど,松山港12時発で宇品13時着という高速船があるのです。
 広島からの新幹線は,14時8分発のひかり8号まで大阪止まりしかないのですが,それでも,18時46分には東京駅に着くことができます。この場合も,相手が郊外のかなり遠いところにいると難しいのですが,それでも,宇和島の場合との比較では,空路に加えて,もう一つ選択肢が増えたことになります。

 空路で,松山発14時10分の592便で羽田着が15時30分というのは,宇和島の場合と同じです。

 復路ですが,今治でさえ13レ瀬戸号利用は苦しかったので,宇和島ほど遠くないにせよ,伊予出石も完全に不可能です。そこで,東京駅発19時5分の9レあさかぜ1号を使います。東京駅にそれまでに戻れない場合は,23時37分発の名古屋まで新幹線で追いかけます(東京発21時12分・名古屋着23時19分のひかり271号がタイムリミット)。
 9レの広島着が6時19分ですから,宇品発8時の始発便には余裕で間に合い,松山港着が9時10分です。
 ところが,伊予出石のある旧線経由の列車は,9時20分発の737Dの後は11時49分発の739Dまでなく,739Dの伊予出石着が13時12分なので,一見,万事休すに見えますが,ここで取っておきの裏技を使います。
 松山9時50分発の3Dしおかぜ3号に乗って,そのまま伊予大洲(10時36分着)に先回りし,11時9分発の736Dで上り方向にバックすれば,11時33分に伊予出石にめでたく到着となります。
...2005/04/18(Mon) 22:19 ID:4pQ2N8WU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
たー坊さま
この話の蔭の主役は綾子かもしれません。
「この母にしてこの娘あり」とでもいうように、したたかに夫をコントロールする様子を見せてくれるでしょう(笑)
なにぶん「過去ログ行き阻止」が目的ですので不定期になるかもしれませんが、よろしくお願いいたします。

にわかマニアさま
検証ありがとうございました(^^)
「裏ワザ」について
「夢見るジュリエット」の中で、綾子が「場合によっては大洲まで迎えに行ってやればよい」と言っているのも、とにかく本数が少ないためです。
ところで、宮浦(長浜)と大洲の間には、現在1日7往復バスが走っているようです
興味のある方はこちら
http://www62.tok2.com/home/yamatetsu/bus/gallery/ehime/nagahama/nagahama-1.html

この路線の時刻表など、どなたかご存知でしたら教えてください
...2005/04/19(Tue) 00:43 ID:ScFjZyHs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
>宮浦(長浜)と大洲の間には、現在1日7往復バスが走っているようです

 全国版の大時刻表には載っていませんでした。
 もっとも,以前は青函連絡船の売店で北海道管内だけの時刻表を売っており,地元しか知らないモグリの「私設駅」をはじめ,全国版に載っていない情報が満載されていました。四国にもそういうものがあるのかどうか判りませんが,バス会社の下記ホームページで調べたところでは,以下の7便でした。
 長浜発が7時30分(休日は49分),8時50分,9時55分,10時50分,13時50分,15時45分,17時25分の7便で,大洲までの所要時間は40分です。
 http://www.iyotetsu.co.jp/timetable/kumananyo/03_01_a.html
...2005/04/19(Tue) 22:04 ID:DV0xRJyE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
ありがとうございました。
私も、いよてつのHPには行ってみたのですが、みつかりませんでした(^^;;;
...2005/04/21(Thu) 01:17 ID:ldvdBDoM    

             もし、亜紀が生きていたら  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(2)


「亜紀、今日も居残り練習なの?」
「うん。もう県予選も近いしね」
「そんなに練習ばっかりやってて疲れないの?」
「疲れるけど、走るの好きだから。それに私、リズム感良くなくて、スタート苦手なんだ。だから人より練習しないと」
「毎日遅くなって、親は文句言わないの?」
「全然。お父さんもスポーツをやるからには真剣にやれ、絶対に勝て、って言ってるし」
「あの劇の中の父親とはちょっと違うんだね」
「うん・・・あ、朔ちゃん」
亜紀は思い出したように言った。
「これ」
「え・・・」
朔は渡されたストップウォッチを見て、ちょっと驚いた。
「今日の最後にタイムを計ってみたいの」
「あ、ああ、わかった」
朔がゴール付近まで走って行くのを見ながら、二人の担任教師で陸上部顧問の谷田部は微笑んでいた。
「ホントに仲が良いんだねえ。きっといつまでも覚えてるよ。他のみんなが、あんたたちのことを忘れてもね・・・」
その時、朔の声がグラウンドに響いた。
「ヨーイ・・・スタート!」
大きく振り下ろされた朔の右手を見て亜紀がスタートした。中盤からどんどん加速する。
ゴールラインを通過した瞬間、朔がストップウォッチを止める。
そのタイムを見て朔が驚いた。
「お、おおっ、12秒91」
「え、やった・・・自己ベストだ。うれしい」
「すごいタイムだな・・・って、あ、あれ・・・」
思わず顔を見合わせる朔と亜紀。ぎごちない笑みを交わす。
「ま、まさかね」
「・・・偶然だよな」
「・・・あっ・・・」
右手をこめかみのところに持っていった次の瞬間、亜紀はガクリと崩れ落ちた。
「お、おい、亜紀・・・大丈夫か、亜紀、亜紀!」
あわてて谷田部が走り寄ってきた。
「廣瀬、どうしたの、廣瀬!」
「ちょっとめまいがして・・・」
「松本、とりあえず保健室に連れてって」
「は、はい」
朔は亜紀を背負って、小走りに保健室に向かった。


「どう廣瀬、少しは落ち着いた?」
「はい・・・先生すみません」
「歩けそう?」
「はい」
「念のため病院に行って来なさい。今電話したら、7時までに行けば診てくれるって」
「あ、大丈夫ですから・・・」
「ダメダメ。大丈夫だとは思っても、万が一悪い病気で手遅れにでもなったらどうするの?松本、悪いけど一緒に行ってやってくれる?一人じゃ心配だから」
「はい」
「頼んだよ、松本」
朔は頷くと亜紀の方に振り向いて言った。
「さ、亜紀、行こう」
「うん・・・先生、失礼します」
「気をつけてね」


朔は自転車に亜紀を乗せて病院にやって来た。
受付で診察室の前で待っているように言われた。
二人で椅子に座って待っていると、通り過ぎる人がチラチラ視線を送ってくる。
ふと目を上げた亜紀が驚いて朔に言った。
「朔ちゃん、ここ」
「あっ」
朔と亜紀は産婦人科の診察室の前に座っていたのだった。
あわてて立ち上がる二人。
「内科はあっちだ・・・誤解されたかな、私たち」
「・・・たぶん」


「12番の方、診察室へどうぞ」
「じゃ行って来る」
「うん」
亜紀は診察室へ入った。
佐藤という医師が亜紀に言った。
「はい、座ってください。どうしました?」
「はい。陸上部の練習の後、めまいがして・・・」
「ほう、めまい。そんなことがよくあるの?」
「はい、時々・・・あと、ちょっと耳鳴りが・・・」
「耳鳴り、ね。ちょっと目を閉じてください」
亜紀が目を閉じると、佐藤医師はアルコール綿で指先を拭い、乾かしてから、そっと亜紀の瞼を裏返して色を確かめた。
「ハイ、開けていいですよ。ちょっと貧血気味ですね。あとは・・・そうだ、口内炎とか口角炎とかないですか」
「・・・口内炎が3つあります」
「ふむ。口内炎あり、と。それから、鼻血とか、歯茎から血が出るとか」
「・・・それはありません」
「わかりました。大丈夫だと思うけど一応血液検査しときましょう。明後日結果が出るので、また来てください。じゃ、採血室に行って下さい」
「・・・ありがとうございました」
心配そうな顔をして待っていた朔は、出てきた亜紀に聞いた。
「どうだった?」
「血液検査だって」
「血液検査って・・・あの、まさか・・・あ、いやそんなことないよな」
「なんか、ドキドキしてきちゃった」
「亜紀・・・」
「あんな話書いたから・・・もしかして・・・本当になっちゃったのかな」
「お、おい・・・そんなことあるわけないないよ」
二人にはその場の空気が、やけに冷たく感じられた。

(続く)
...2005/04/25(Mon) 00:32 ID:PvSh0T4I    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
↑の訂正です

下から2行目
誤 「お、おい・・・そんなことあるわけないないよ」

正 「お、おい・・・そんなことあるわけないよ」
...2005/04/25(Mon) 00:42 ID:PvSh0T4I    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(3)


血液検査から2日目。放課後、亜紀が朔に話しかけてきた。
「ねえ・・・時間ある?」
「あ、ああ」
「今日、検査の結果を聞きに行くの。なんか怖いから、一緒に来てくれない?」
「・・・うん」
後ろに亜紀を乗せて、朔は自転車を漕ぐ。心臓が口から飛び出して来そうな気がするほど緊張してきた。
きっと亜紀も同じような気持ちなのだろう。一言もしゃべらず、朔のシャツを強く握り締めていた。
まばゆいばかりの太陽の光。しかし、今の二人にはその光が灰色に見えていた。

妙に白々とした蛍光灯の下に二人は座っていた。内科診察室の前の椅子。
亜紀は力なくうつむき、朔は落ち着きのない視線を白い壁に走る細かいクラックに重ねていた。
「ねえ・・・」
「ん?」
「ゆうべね、急に入院になってもいいように、パジャマとか洗面用具とかバッグに詰めておいたんだ・・・」
「・・・お、おい・・・大丈夫だよ、きっと」
「・・・そうかな・・・」
そのころ診察室の中では佐藤医師がカルテを開き、挟み込まれた最新の検査結果をチェックしていた。その表情が一瞬にして険しくなる。
「これは・・・」
その言葉に看護師がカルテを覗き込む。
「先生、これ、まずいですよね・・・入院ですか?」
「ああ・・・ヘモグロビンA1Cもコレステロールもメチャクチャだ。あれほど禁酒と言っておいたのに・・・また最初からやり直しじゃないか。入院させてインスリンを導入したほうがいいかもしれんなあ・・・」
「先生・・・」
「ああ、このタケナカさんはタップリお説教してやらなきゃ。時間がかかるから後にしよう。廣瀬亜紀さん、先に入ってもらって」
「はい」

看護師に促され、亜紀が診察室に入った。緊張がピークに達し体全体が震えている。
「廣瀬さん、その後変わりませんか?」
「は、はい。特に」
「検査の結果出てますよ。まず・・・」
「せ、先生。LDHや尿酸値はどうですか?」
「は?いや、LDHも尿酸も正常だけど・・・」
「そ、そうですか・・・すみません」
「あ、もしかして自分が白血病じゃないかって心配してた?」
「は、はい」
「それにしてもLDHだの尿酸だのずいぶん専門的なこと知ってるね。そんな知識どこで仕入れたの?」
「テレビのドラマで・・・」
「ええっ、ドラマの中でそんなことまでやってるの?ぼくたち医師も油断できないね」
佐藤医師は苦笑した。
「さて、君の場合だけど、まずMCVという検査値が正常値より低くなっている。
これはね、血液中の赤血球の平均の大きさが小さくなっていることを示してるんだ。白血病や再生不良性貧血なんかだと、正常値か、むしろ高くなることが多い。それから、血清鉄とフェリチンが下がって、総鉄結合能が上がっている。白血球や血小板には異常なし。出血傾向なし。めまい、耳鳴り、口内炎あり。で、そんなことから診断は・・・」
亜紀はピクリと肩を震わせた。
「鉄欠乏性貧血だね。思春期の女の子の20%くらいに見られるといわれてる。鉄の需要に供給が追いつかなくなって、酸素の運搬に必要なヘモグロビンの製造ができなくなっちゃうんだ。ヘモグロビンって授業でやったでしょ?」
「はい」
「それで、脳とかが酸素不足になって、いわゆる貧血の症状が出てくる。口内炎も貧血のときには見られる症状だ」
「じゃ、骨髄移植とかは・・・」
佐藤医師は思わず笑った。
「もちろん必要ないよ。鉄剤を処方するからそれを飲んでもらう。体の中の貯蔵鉄が増えてフェリチンが上がってくるまで何ヶ月かかかるかもしれないけど・・・」

亜紀から話を聞いた朔は一気に緊張が解けて、汗が噴出すのを感じた。
「・・・よかった」
小刻みに首を振りながら、ため息をついた。
「朔ちゃん・・・ごめんね、心配かけて」
「い、いいんだ。悪い病気じゃなければ」
「怖かった・・・鉄欠乏性貧血って聞くまで本当に怖かった」
「疲れたろ。さ、帰ろう」
「もう家には帰れないかもしれないって思った・・・吐き気とかすごくて、髪も抜けちゃって・・・」
「亜紀、もう大丈夫だよ・・・」

外は暗くなって、病院の正面玄関のガラス扉に並んだ二人の姿が映っていた。
「朔ちゃん、鏡みたいだね」
「うん」
「でも、あそこにいるのは本当に私たちかな・・・」
「なに・・・?オレたちが映ってるんだろ」
「なんかね、あの鏡の向こうには別の世界があって、もう一人の私や朔ちゃんがいるような気がするの」
「亜紀・・・」
「それでね、もう一人の私があそこで、良かったね悪い病気じゃなくて、私の分まで頑張って生きてねって、そんなふうに言ってくれてるような・・・」
抑えていた感情がはじけるように、亜紀は朔の肩に額を押し付けて泣き始めた。

(続く)
...2005/04/30(Sat) 05:12 ID:cUleQBwU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
亜紀が悪い病気でなくて、よかったです。
看護士が「まずいですよね」と言ったあとの佐藤医師の話で、あれ、亜紀ってアル中だっけ・・・・などと変な想像をしてしまいました。
...2005/04/30(Sat) 09:07 ID:JnxURxuQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
>緊張がピークに達し体全体が震えている。

 これって,まるで,石丸さんの話に出てくるオーディションを受けた時の綾瀬君の様子そのままですよね。
 でも,事前に入院用品一式そろえるという準備万端・用意周到なところが亜紀らしいと言うか・・・
 これがもし,患者がサクの方だったら,検査結果を聞きに行く日だということを忘れていたり,診察券はどこだとポケットやカバンの中をさがしたりして,亜紀に呆れられていたことでしょう。
...2005/04/30(Sat) 11:17 ID:2xj6JS7s    

             Re: 続・サイド・・・  Name:clice
朔五郎様
最後の数行は正直やられたという感じです。あの短い文章の中に込められた思いが伝わってきます。
二人は玄関ドアを抜けて止めてある自転車に向かって歩き出すが、亜紀は立ち止まりもう一度ドアの方を振り向く。「帰ろう、亜紀」と朔に急かされ、自転車の後に乗って坂道を下っていく。
ドアの内側ではもう一人の亜紀が朔と並んで二人を見送り、そして顔を見合わせて微笑み、手を繋いで病院の中へ消えていく、そんな風景が見える気がしました。
...2005/04/30(Sat) 22:47 ID:Va.W6e0E    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
SATO様
そう思いますよね、やっぱり(苦笑)
ドラマの中で「耳鳴り」「めまい」「口内炎」と来るといかにも重病に感じますが、これらは特に白血病に直結するわけじゃないんですよね。ドラマの中でヤバかったのは、テスト中に鼻血を出したシーン。ああいうことがあったら「要検査」でしょう。

にわかマニア様
サクならやりかねませんなあ(苦笑)
亜紀はけっこう悲観的なところもあるような気がしたので「準備」することにしてみました。

clice様
ご感想ありがとうございます。
お気づきかもしれませんが、SF作家・広瀬正氏の作品「鏡の国のアリス」のイメージをちょっとだけ借りています。
どちらが「表の世界」か「裏の世界」かわからない、読者には、自己のアイデンティティーが崩壊していく恐怖がヒタヒタと忍び寄る・・・
もちろん、このお話ではそういう「恐怖感」は全く意図しておりませんけれど。
...2005/05/01(Sun) 23:04 ID:KMshUONE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
このストーリーでは一話毎にサブタイトルをつけることにしました(笑)
ちなみに、今までの分は

(1) 始まり
(2) 予感
(3) 生への旅路  

3番目は大げさ過ぎるでしょうか(苦笑)
*************************

夢見るジュリエット(4) 結婚写真


五月になり、季節は春から初夏に移ろうとしていた。
朔と亜紀は松本写真館に来ていた。
壁一面に飾られた無数の写真。その中にセピア色になっているが、美しい女性の写真があった。
「きれいなひと・・・」
亜紀がうっとりするように言った。
謙太郎が答える。
「それはな、サトといって、わしの女房の若い頃の写真なんだ」
「ほんとですか?」
「ああ。サトはな、最高の女房であると同時に、最高の女性だったよ」
「・・・またその話?オレはもう聞き飽きたよ」
「サク、そんなつれない言い方をするもんじゃない。おまえも本当に女性を愛した時に、わしの気持ちがわかるようになる」
朔は自分の横顔に注がれる亜紀の視線を痛いほど感じた。
「サク、実はな、おまえに頼みがあるんだ」
「・・・なに?」
「わしが死んだらな、サトの骨とわしの骨を混ぜて、一緒の壷に入れて欲しい」
「やだよ、おばあちゃんの骨を取り出すなんて」
「なにも骨を盗むわけじゃないんだからいいだろう?」
「だいたい、そんなことしたら壷に入りきらないであふれちゃうよ」
「入りきらない分は、どこか景色のいいところに撒いてくれ」
「とにかくやだよ、オレは」
「こんなこと頼めるのはおまえしかおらんのに・・・もうすぐ死んでゆく年寄りの最後の願いを・・・」
部屋の隅でふたりに背を向け、涙を拭う謙太郎の姿を見て亜紀が言った。
「朔ちゃん、やってあげなさいよ・・・」
朔は心の中で舌打ちをすると小声で言った。
「この、タヌキじじい・・・」

「あれ、ここ・・・」
亜紀は壁のある場所を指差した。
そのあたりは結婚写真が集まっていたが、ちょうど写真1枚分くらいの空白ができて、壁が見えていた。
「ああ、そこか・・・そこには誰かの結婚写真があったと思うんだが・・・いつの間にか消えてしまって。サクも知ってるだろ?」
「うん、誰かの写真があった。でも、誰だか思い出せない・・・」
「まあ、いい。きっとおまえが亜紀さんと結婚して写真を撮った時のために、場所を譲ったんだろ。おまえたちの結婚写真はわしが腕によりをかけて撮ってやるからな」
「はい、お願いします」
亜紀は目を輝かせて、うれしそうに言った。
「お、おい・・・結婚って、亜紀、オレと結婚するの?」
「うん」
「そ、そうなの・・・」

宮浦高校では1日の授業が終わり、午後のホームルームが行われていた。
「・・・修学旅行が近づいて来たので、早めにパスポートを用意しておくこと。はい、連絡は以上。これで終わりですが、皆さんに一つ報告があります」
一瞬、教室内がざわつく。
「わたくしごとで恐縮ですが、私、谷田部敏美は来月、結婚します」
「ええっーーーーー」
教室内はハチの巣をつついたようになった。
谷田部先生は困ったように笑いながら静かになるのを待つ。
「相手の方は大林達明さんといって、薬局を経営しています。1年ほど前にある人の紹介で出会いました。結婚しても教師は続けるつもりですので、これからもよろしくね。じゃ、これで終わり」
「起立、礼・・・あ、みんな、ちょっと決めたいことがあるから、このまま残って」
クラス委員の安浦と亜紀が前に出た。
安浦が言う。
「先生の結婚パーティなんだけど、全員は出られないから、男女一人ずつ代表で出席しようと思います・・・」
教室内はザワザワした。
「質問」
女子生徒の一人が手を上げた。
「やっぱり、生徒代表で祝辞とか読むんですよね?」
「うん、きっとそうなると思うよ」
「じゃあ・・・」
その女子生徒は隣りの子と顔を見合わせてニヤリと笑った。
「そういう役はクラス委員の廣瀬さんが向いていると思います」
「そうよ」
「そうだね・・・」
拍手が起こり、亜紀は困ったように下を向いた。
「はい!」
また手が上がった。
「それなら、男子のほうもクラス委員の安浦君でいいと思います」
「わかった。それじゃ・・・」
安浦が言いかけたところで、一番先に手を上げた女子生徒が遮った。
「ちょっと待って。こういうことはやっぱり、廣瀬さんの意見を尊重したほうがいいんじゃないですか?」
ニヤリと笑って続ける。
「いっそ廣瀬さんに決めてもらったら?できてるっていう噂もあるし」
教室が屈折した笑いに包まれた。
「そうか」
「そうだよね」
「ねえ、廣瀬さん、どうなんですか」
それまでうつむいていた亜紀が顔を上げた。
教室が一瞬静かになる。
亜紀はニッコリと笑うと、迷わずに言った。
「それでは朔ちゃ・・・いえ、松本君ということで」
亜紀のとなりでは、安浦がショックを受けたようにうなだれていた。
「はい!」
手が上がった。
「みんなはパーティには出られないけど、せめてみんなで写真を撮りたいと思います。みんなはどう思いますか?」
「賛成!」
「うん」
「松本君、なんとかならない?」
「・・・わかった。うちのじっちゃんに頼んでみる」

(続く)


※次回予告 夢見るジュリエット(5) たすけてください・・・
...2005/05/03(Tue) 18:35 ID:Am.BlgKA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
朔五郎様
お疲れ様です。今回も読ませていただきました。
所々、朔と亜紀のセリフ、立場が逆転しているところが、とても面白いですね。
次回は「たすけてください・・・」とのことですが、どういう内容かとても気になります。
驚愕した谷田部先生の結婚。パーティーに出席した亜紀が、祝辞を読む時に紙を忘れたりして、朔に助けてもらったりするのでしょうか?
期待して待っております。
...2005/05/03(Tue) 22:01 ID:xO6hMlcU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
谷田部先生が結婚!?
今まで出てこなかったアナザーストーリーですね。
誰もこの話題に触れていなかったので、今後が楽しみです(^^)
...2005/05/03(Tue) 23:06 ID:4fc7Aumw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
たー坊様、SATO様
ご感想ありがとうございます。
亜紀ばかりが幸せになっては不公平というもの。
「龍と智」や「坊と新キャラ」にも、カルピスウォーターのような甘くてスッパい青春を味わってもらいましょう(笑)
...2005/05/04(Wed) 18:26 ID:gsR32xGo    

             もし、亜紀が生きていたら  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(5) たすけてください・・・


サクが戻ってくると、アキが床に倒れていた。
「アキ、大丈夫?」
アキの手足には皮下出血の紫色の斑点がいくつも浮き上がっている。
「・・・戻ろう」
「いいから・・・」
「でも・・・」
「行きたいの」

そんな朔と亜紀を見ながら介と智世が顔を見合わせた。
「でもさー、亜紀はマジで天才脚本家だよねー。しかもそれを自分で演じちゃうんだからさ」
「はまり役だな、まったく」
「ハマリ過ぎちゃって怖いよ・・・なんか、鬼気迫るっていうか、シャレにならないっていうか・・・練習の時からこれだもんね」
「でもさ、魅せるものがあるんだな、亜紀には」
「バーカ、あんたホントは亜紀に惚れてんじゃないの?でもね、そりゃムリっていうもんだよ」
「うっせえな、ブス!」

6月初めのある日曜日、空は美しい水浅黄色だった。
谷田部先生が晴れてジューンブライドになる日である。
結婚式の前に、クラス全員が式場の、宮浦プリンセスホテルの中庭に集まっていた。式に出席できない生徒たちのために、新郎新婦を囲んで集合写真を撮るためである。
良く手入れされた緑の芝生が柔らかな美しさを醸し出していた。
庭の隅の木陰にはピンク色のアジサイが咲いている。
「先生、ドレス似合うかな・・・」
みんなの期待感がピークに達したころ、真っ白なドレスに身を包んだ谷田部先生が、新郎と共にやって来た。
一同、思わず歓声を上げた。
「はい、みなさん、新郎新婦の周りに集まって」
出張して来た謙太郎が声を掛けた。
みんな、とびっきりの笑顔で写真に収まる。
撮影が終わり、手を振りながら式場に戻ろうとする先生に向かって、智世がさけんだ。
「がんばれ!」
そして、手にしたホイッスルを「ピィーーー」と吹き鳴らした。

「朔ちゃん・・・みんな、すごいきれいなドレスとか着てるね。なんか、私たちだけ場違いっていうか・・・」
「高校生なんだから、制服でもしょうがないでしょ。それより、祝辞はちゃんと考えてきたの?」
「うん。でも、すごく緊張してきた。もう、たすけて、っていう感じ」
「もうすぐ出番だよ」
司会者がその時を告げる。
「それでは、新婦の敏美さんの生徒さんを代表しまして、廣瀬亜紀さんからお祝いの言葉を頂きたいと思います。廣瀬さん、お願いいたします」
亜紀は集まる視線を感じながら、マイクの前に立った。

先生、ご結婚おめでとうございます。
今日は六月の花嫁にふさわしい爽やかな空が広がっています。
先生は、担任教師として、明るく、優しく、時には厳しく、大空のように私たちを包んで下さいました。
先生、今まで、ありがとうございました。
そしてこれからもよろしくお願いします。
いつでも誰に対しても変わらない、先生の強さと優しさが、こうでありたいと願う、私たちの理想でした。
恩師と呼べる人に出会えた私たちは、幸せです。
先生は勉強だけでなく、人生の先輩として、詩や古典を通して、人と人とが愛し合うことのすばらしさも教えて下さいました。
葛生の漢詩、アボリジニの人々の詩など、今も私の心に残っています。
今日は、先生のご結婚をお祝いして、アメリカ・インディアンの人々の詩を先生に贈ります。

(ナバホの結婚の儀式に歌われる詩)
今、あなたたちは火をともしました。
その火は消えることがあってはなりません。
あなたたち二人は今、愛と理解と、
人生の哲理を表す火を手にしています。
火は、熱を、食事を、温もりを、
そして幸せを与えてくれます。
この新しくともされた火は、
新たな始まりを意味しています・・・・
新しい人生と、新しい家族を。
その火は燃え続けなければなりません。
それはあなたたち二人が一緒に居つづけるということです。
年老いて離ればなれになるまで、
あなたたち二人は一生火をともしていくのです。
(「俺の心は大地とひとつだ」 インディアンが語るナチュラル・ウィズダム2
ノーバート・S・ヒル・ジュニア編 ぬくみ ちほ訳 めるくまーる より引用)

先生、どうぞいつまでもお幸せに。
生徒代表、廣瀬亜紀。

拍手の輪が広がっていった。
まだ緊張が解けきらず、赤い顔のまま、亜紀は席に戻ってきた。
「お疲れ」
「疲れた・・・」
「すっごい良かったよ。先生、なんか涙ぐんでたみたいだぜ」
「もう、周りのことなんか全然わからない」
亜紀は冷たい水を一口飲んだ。

司会者が二人に質問する。
「新婚旅行はどちらへ?」
「ニューヨークへ行こうと思います。彼、こんな恐そうな顔をしてますけど、実は芸術が大好きで前々から行きたがっていたので・・・ただ、それは学校が夏休みに入ってからで、とりあえず、3日間、静岡県の松崎町にある大沢温泉というところでノンビリしてこようと思います」
「また、どうして静岡のほうへ?」
「彼のおじいちゃんが、むかし松崎町に住んでいて、彼が子供の頃、河原で自転車に乗る練習をしたんだそうです。その話を聞いて、その場所を見たくなって」
「どこかで聞いたような話だな」
朔がつぶやいた。
達明が告白する。
「実はぼくも彼女も温泉が大好きで、デートはいつも道後温泉だったんです」
会場全体が笑いに包まれた。

パーティが終わったあと、朔と亜紀は松山空港まで先生を見送りに行った。
酒が入っているせいか、達明の友人たちが大いに盛り上がっていた。
「大林達明くん、結婚おめでとうーーー」
「バンザイ、バンザイ、バンザイ・・・・・」
「それっ、胴上げだ」
「ああっ、カンベンして、恥ずかしいから。もう、たすけて、たすけてくださーーーい・・・」

「亜紀、ちょっとトイレ行ってくる」
「うん」
洗面所で手を洗いながらつぶやいた。
「新婚旅行って、なんか大変だな。オレもいつかは経験するのかな、亜紀と一緒に空港まで来てさ・・・それにしても」
鏡の中の自分に話しかける。
「恥ずかしいよな、人前で、たすけてください、なんてさ」
(えっ・・・)
朔は驚いた。
鏡に映る自分の瞳の中に、悲しみの色が走ったような気がして。

羽田空港に向けて飛び立った先生を見送った朔と亜紀は、椅子に座って一休みしていた。
「朔ちゃん、なんか疲れちゃった・・・」
「亜紀は緊張してたからな。宮浦回りの列車までには時間があるから、ちょっと休んで行こう」
「うん。眠い・・・」
亜紀が朔に寄りかかる。
「亜紀、先生しあわせそうだったね」
「うん」
「ああいうの、天にも昇る気持ちっていうんだろうね」
「そうよ・・・好きなひとの側にいるっていうのは」
「天国みたいなのかな」
「そう、私にとって・・・」
亜紀は、半分夢の中にいるような目で朔を見ながら言った。
「ここ、天国だもん」
そして、続けた。
「好きよ、朔ちゃん」
唇の端に、幸せそうな微笑を少し遺したまま、亜紀は眠りの中に落ちて行った。

(続く)


※次回予告 夢見るジュリエット(6) 最後の日
...2005/05/08(Sun) 04:27 ID:.7rFTEWc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 もう,朔五郎さんというのはフェイントの名手と言うのか,何と言うのか・・・
 次回予告のタイトルが「助けてください」で,空港のあのシーンからスタートしたため,また誰か倒れるのかと思ったら,見事に外されました。「助けてください」は胴上げされる新郎の叫びだったのですね。
 次回の「最後の日」に陸上のシーンが登場しても,引っかからないようにしなければ・・・
 あと,「かたちあるもの」というタイトルがどこかで使われるのか,使われるとしたら最終回なのか,どういう使われ方をするのかを予測してみるのも,ちょっとした頭の体操になりますね。
...2005/05/08(Sun) 09:37 ID:qDqkuY1w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニア様
少なくともこのお話では現在生きている人物が「悪い病気にかかる」とか、ヤバい状況になることはありませんので、ご安心を(^^)
次回は「当然」陸上のシーンです(笑)亜紀と智世に「分厚い壁」が立ちふさがります。
...2005/05/08(Sun) 22:09 ID:NRIVjE0o    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO

朔五郎さん
それを聞いて安心しました(^^)
...2005/05/08(Sun) 22:16 ID:nge97uaw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
朔五郎様
今回もしっかりと読ませていただきました。
にわかマニア様もおっしゃっておられますが、ナイスフェイントでした。大林達明氏の「助けて下さい。」の”シャウト”はしっかりと読者の心に届いたことでしょう。少なくとも私は、「そこかい!!!」とツッコミを入れてしまいしました(笑)
次回の陸上の「厚い壁」とはなんなんでしょうか?また龍之介のとばっちりに関係してきたりして・・・。色々と想像しながら、楽しみにしております。
...2005/05/08(Sun) 22:42 ID:njhyZxvs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
皆様、お久しぶりです。
Apo.です。
私事ですが異動しまして、新しい職場・仕事で忙しい毎日です。前の事務所が閉鎖となりましたので、この2ヶ月間すごい、ハードでした。
連休中、気晴らしにセカチュのDVDを見ました。それで、BBSも久しぶりに見てビックリ。朔五郎さんが新シリーズを執筆されていました。それで、刺激された次第です。前作の「思い出編」は途中、切り上げて終了としてあります。書いていた短編が残っていますので構成し直しまして、掲載したいと思います。朔五郎さん幕間を貸してください。
構成が終了し、お許しを頂けるなら一気に掲載したいと思います。
...2005/05/10(Tue) 23:56 ID:0Y.yQDPo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Apo.さん、お久し振りです。
どうぞ、いつでもご投稿下さい(^^)
Apo.さんの作品が始まったら、その間は休むことにしましょう。
期待して待っております。
...2005/05/11(Wed) 02:41 ID:oI8I5ZJY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
朔五郎さん、ありがとうございます。
お言葉に甘えまして、構成が完了しましたところまで掲載します。毎日の掲載は無理かもしれません。
仕事が忙しくて。
では、読んでいただけましたら嬉しいです。
誤字、脱字があるかもしれません。ありましたら、ごめんなさいね。



−思い出編2−

48 介の回想1

亜紀のアルバムを見ながら、それぞれが亜紀・朔との関わりを思い出していた。
(校庭で)
介は、ここ数日、朔の様子がおかしいのを気にかけていた。朔には何か悩みガあるようだ。
放課後、自転車の後ろに朔を乗せ、薄暗くなっていくグラウンドを介は乗り回した。頃合をみて言った。
「何処まで行く?お前さん」
すると、「お前さんとなら、地獄まで」と朔は元気なく答えた。
先日、朔は廣瀬と仲良く自転車置き場で話をしていた。「心変わりかい?お前さん」と、からかってみた。その時は嬉しそうだったのに、今日は下駄箱の前で廣瀬が「おはよう。朔」と、呼びかけたのに逃げるように立ち去ってしまった。坊主が朔に何か頼みごとをしたようだが、理由が判れば何とか手助け出来るのになァ。
それで、「朔ちゃん。釣りでも行かない?」と、誘ってみた。
「うん。いいけど」との生返事だ。いつもの朔ちゃんとは明らかに違っている。何処となく淋しさを感じるのは如何してなんだろう。

朔は釣りをしながら、ミュージックウェーブの番組にジッと耳を傾けていた。

翌朝。
2階の教室へ向かう階段で、朔が亜紀に問い詰められている。それを聞いていた介はどうしたものかと思案した。
…「坊主が廣瀬亜紀のことを好きで朔ちゃんに何か頼みごとをしたみたいなんだけど。それが原因で廣瀬を怒らしてしまったようだな。坊主と朔ちゃんの仲もおかしくなった。どうしたものか…。朔ちゃんは廣瀬亜紀のことを本当は好きなのに…。無理をして…。この前から元気がなかったのはこのことだったのか」…
授業が終わりに近づくまで、必死に考え込んでいた。
…「朔ちゃんの本当の気持ちを、廣瀬に話させたほうが良いような気がする」…
放課後になった。
寂しそうな顔つきで自転車で帰宅しようとしている朔に後ろからそっと近づき、腕を首に回して言った。
「どうしたんだよ。お前さん。心変わりをしたんだったらはっきり言ったほうがいいよ」
突然のことでビックリしたが、介の言っている意味を直ぐに理解した朔は、「それって、坊主のこと言っているの?それとも…」
「坊主、廣瀬、両方のことだよ」と、明るく答えた。
朔はどう返事したものかと、思案していた。それを見越して介が言う。
「朔ちゃんは昔から、はっきり言わない性格だから誤解されやすいんだよ。坊主のことは大丈夫さ。長い付き合いだし、俺に任せてくれればいいよ。それより、いいのかい?お前さん!廣瀬亜紀は、お前さんの性格、全て解っているのかな?誤解されたまま、もうこれでお終りにしてもいいのかい?」
前日と同じように、考え込んでいる朔を自転車の後ろに乗せ、今度は校舎の周りを介は乗り回した。頃合をみて言った。
「何処まで行く?お前さん」
そして、朔は即座に答えた。「お前さんとなら、地獄まで」
返事は前回と同じだけど、何か結論を出したようだな。
朔はやっと決心がついた。…「坊主に頼まれて葉書を書いたけど、廣瀬には全てバレてしまった。自分がはっきりしなかったために、結果として坊主にも悪いことしてしまった。廣瀬には本当の気持ちを伝えないと、折角、好意を抱いてくれているのを裏切ってしまう。自分も廣瀬に好意を抱いていること。それにしても、介ちゃんはお見通しだった訳だ。叶わないよ」…
介は朔の前回とは違う感じの返事を聞いて安心した。
…「朔ちゃんの初恋は幼い頃出会った女の子だったけど、それも、今日で卒業みたいだね。廣瀬亜紀、彼女が本当の恋だよ。…ね。…お前さん。…頑張れよ!」…

(堤防で)
謙太郎と龍之介は示し合わせて、釣りに来ていた。さっぱり、釣れなかった。それで、漁協に立ち寄りサザエをもらって一杯やることに決まった。
謙太郎と介を見つけて、
龍也「謙の兄貴(アニィ)、お久しぶりです。いつも、龍之介がお世話になっています。今日の収穫は如何でしたか」
謙太郎「今日は、潮の流れが悪かったようだね。それに、にわか雨にあってしまって、早めに切り上げることにしたよ。戻ってからサザエで一杯やろうと思って、寄ってみたんだが…」
それを聞くなり、龍也は事務所から跳んでいって戻ってくると、「そ、そうでしたか。龍之介、ほれ、これをお持ちしなさい」と、サザエを龍之介に渡した。
謙太郎「いつも、すまないね。龍(タツ)」

二人、堤防に近づくと自転車が乗り捨ててあった。よく見ると白い傘が立ててある。それに鍵が壊れている。
「あ、朔ちゃんの自転車。今日は何処かに出かけたのかな?…そうか。今日は葬式があったんだ」
介がそう話しかけて謙太郎を見ると、堤防の隅の方を見つめていた。仲良く話し合っている朔と亜紀の二人をジッと見つめて、介に言った。
「な、介。朔が話している女の子は誰だい?あの子、ずいぶん、いい雰囲気だけど」
「え。あー。あれは同じ学年の廣瀬亜紀ですけど」
「そうか。そうか。あの子とね。朔が…」
「どうしたんですか?ご存知なんですか?廣瀬を…」と言って、介は謙太郎の表情を覗き込んだ。
「こ、これは、秘密にしておこう。な、介」と、謙太郎は言いながら朔の自転車を引いて静かに立ち去ろうとした。
「俺で良かったら、訳を聞かせて下さい。朔ちゃんとは兄弟のように思っているんですから」
「そうだったな。介。朔の気持ちを確認してからにするよ。話せば長くなるけど、龍、いや親父さんの了解を取ってからにしないと。…な!」
「朔ちゃんのおじいさんと今夜は一緒だと言えば、うちの親父は無条件でOKですよ。…あのー。…そのー。…親父とおじいさんの関係?どうなっているのか、この際お話していただけませんか。前々から気になっていたんです。子供だったので聞いてはいけないと思っていましたが、そろそろいいのではと思うようになりました」
「そうか。介には龍との関係を話してもいいかな?それも、龍に了解をとってからにしないと、な」
「はい!解りました。親父に了解をとってきます」と言って、介は公衆電話に駆け出していった。
...2005/05/11(Wed) 20:07 ID:ZPDefzWA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Apo.さま
相変わらず、緻密な描写ですね。
楽しみにしています。
...2005/05/12(Thu) 01:15 ID:2G..k0tQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編2−

49 介の回想2

(写真館で)1
朔の自転車を持ち帰って、1時間ほど経った頃だった。
「おじいちゃん。勝手に自転車もって行かないでよ」と、言って写真館に朔が現れる。
「待っていたぞー。朔。…な、介」と、謙太郎は言いながら楽しそうに写真館の中へ入っていった。介もそれに続く。二人はおどけている。
朔「…。」

楽しいひとときが終わった。葡萄酒の話に華が咲いて、謙太郎は上機嫌だった。時々、謙太郎が朔の顔色を覗っていることに、介は気がついていた。
大方、サザエを食べつくした頃、朔が言った。「俺、帰るよ。介ちゃんは?」
「もう少しいるよ。葡萄酒の話をもう少し、おじいさんに聞いておきたいから」
朔が「そうか」と言って帰って行く。
暫らくして、「おじいさん。朔ちゃん、もう帰ったし…お話を聞かせてくださいよ」
謙太郎は頷いたまま、目を閉じ、暫らく黙っていた。
頭の中で、話の整理がついたのか、ゆっくりと目を見開き静かに言った。
「龍との関わりを話すんだったら、そう、戦時中の出来事も話さないといけないなー。…あの人との関わりから…」
「そんな昔の出来事なん、スか。いいスヨ。時間はたっぷりありますから。葡萄酒もあることだし、まあ、飲みながら…と、言うことで」と、グラスに葡萄酒を注いだ。何か楽しそうだ。
グラスを手に、壁にかかった写真の一つをジッと見つめていた謙太郎は、意を決したように語り始めた。目は空ろ状態であるが語り方はしっかりしたもので、秘密の扉をゆっくりと開いていくような雰囲気を漂わせ始めたていた。
介は身を乗り出した。

(回想)1
「ずいぶんと昔になるが…。あれは、写真屋になろうと隣町の写真館、そこの親方に弟子入りしていたときだった…」
静かに語りだした。

今は廃線になっているが隣町へ続く線路があった。その鉄道を利用して、隣町に早朝から出勤する毎日で、帰りは最終の列車に乗って宮浦に戻ってくる。早く一人前の写真屋になりたくて、休み無しで働いた。給金は交通費と食事代に当てると、ほとんど残らない状態だったが、当時としては恵まれている方であった。
そのうちに、毎週、月曜日に途中の百瀬駅で乗車する若い女性がいることに気付いた。
病弱そうな横顔色であったが、何か気品のある顔立ちで清楚な服装をしていた。それから日が経ったある月曜日、まだ日差しが強くない夏の早朝、その女性は日傘をかざしていたが、隙間から垣間見た顔立ちは透き通るような白さだった。
その時、女性の顔がまともに見え、愛くるしい表情を見た瞬間、謙太郎は一目惚れしてしまった。
…「どうしよう。心臓が高鳴る。咽喉はカラカラだ。何と、あいくるしい」…
話しかける勇気なんてありゃしない。宮浦はまだ穏やかだが、戦況が悪化する一方で何時召集されるか判りはしない。男女が気安く話をすることが許されない時代であった。時々、列車内の様子を見渡すように振る舞い、一点に集中して令嬢の様子を覗うことだけしか、出来ない。名前も素性も分からないので令嬢と表現するしかなかった。
数ヶ月が経過したある日。
同乗した高齢の女性と話しているのが聞こえてきた。それも、集中して聞き耳をしていたから聞き取れたのだが。
「サトさん、今日も病院ですか。大変ですね」と言った。
「あら、小母さん。おはようございます。もう慣れました。入院中はお見舞いしていただき、ありがとうございました」と、令嬢が返事をするところまで聞き取れた。その後の会話は列車の音が激しくなり聞き取れなかった。
…「へー。令嬢の名前は『サトさん』と言うんだ。何かの病気で入院していて、回復したので毎週通院しているのか。名前が判っただけだが、これから良いことが起こりそうな気がしてきたぞ」…
謙太郎はその日、一日、心がウキウキしてたまらなかった。

謙太郎はサトさんが小母さんと呼んだ高齢の女性と親しくなると、サトさんの素性が判るのではと思うようになった。
列車が混んでいたある朝。
その高齢の女性が乗車してきたので席を譲ってあげた。するとその小母さんの方から話しかけられた。
「すまないねー。学生さんかい?」
「いいえ。隣町の写真屋で修行しています。宮浦には、写真館が無いので私が開こうと思って」
「そうかい。感心だね。しっかり頑張るんだよ。時代が時代だけに、お国のために役立つことは頑張るんだよ」
その小母さんは隣町に嫁いだ娘の家に、孫の世話をするため出かけているとのことだった。孫が可愛くて、何かと理由を付けては出かけるようになったと、聞きもしないのに話しかけてきた。世話好きな人の良い小母さんだと思った。
当時、写真屋は華形の職業であった。戦地に行く兵隊は必ず写真を残していくような時代であったから。今のように各家庭に幾つもカメラ・デジカメがある時代とは違って、各家庭には言うに及ばず、記念撮影として学校の学年、役場の新年会など、節々に記録として写真を撮る習慣があった。
今でもその習慣は残っている。そのなかでも卒業写真は、年を経ってからも懐かしく当時の出来事が思い出されるものである。
ある日のこと。列車で再び一緒になった高齢の女性に、今度はサトさんの方から話しかけた。
「あのー。小母さん。何処か腕の良い写真屋さん、知りませんか。回復した記念に写真を撮って来るように兄に言われたものですから」 
「そうですか。お兄様が。…ん…そう言えば、この間、感心な若者に出会いましてね。その若者が隣町の写真屋で修行していると言っていました。宮浦に写真館を造りたいのだそうです。…えーっと、何処で出会ったのだっけ…」
思案しながら、辺りを見渡した。すると、サトさんの方を見た謙太郎の顔が目に入った。
「そうだった。あの若者だった。ちょっと待っていてください。その写真館の場所を聞いてきますから」と、言って謙太郎の方へ近づいていく。
「この間は、世話になったね。ところで聞くが、お前さんが修行している写真館は隣町の何処にあるのかね」 
「駅前にある昭和写真館です」 
「そうかい。ありがとう。今度、お客さんを紹介しようかと思ってね。お前さんの名前は何と言うんだい」 
「申し遅れました。松本謙太郎です。ありがとうございます」と、言って頭を下げた。
「お前さんを訪ねていってもらうから、宜しくお願いしますよ」と、言って謙太郎のもとから離れていく。
サトさんがジッと二人を見つめていたような気がした。

初めて自分を指名してくださるお客様。胸が高鳴った。もし、そのお客様がサトさんだったらと思うと、鼓動がますます高鳴るのを感じた。
...2005/05/12(Thu) 20:00 ID:taAcnwDE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 Apoさん,おかえりなさい。
 ついに,祖父とサトさんの馴れ初めが語られるのですね。それにしても,そのことにスケちゃんの父親がどのように関わっていたのか楽しみです。
...2005/05/12(Thu) 20:41 ID:GOnm.o.w    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編2−

50 介の回想3

次の週の月曜日のこと。
写真館で一人、カメラの手入れをしていると「あのー。お願いします」と、言って店に入ってくる女性があった。
「いらっしゃいませ」と、言って振り向くと、あの令嬢のサトさんが佇んでいた。
…「夢、夢ではないか。列車の中で想像したことが実現するなんて!」…
ちょっと躊躇したが、サトさんの前まで進み出て「御用をお受けいたします」と、言った。
「はい、ありがと。あの、知り合いの小母さんに紹介していただいたもので…。ここに、お勤めの松本謙太郎さんに写真を撮っていただきたいのですが」 
謙太郎はもうビックリした。…「あの小母さんが紹介したのがサトさんだったなんて」…。
「はい。私がその松本謙太郎です。ありがとうございます。指名して頂いて。私の、初めてのお客様です。一生懸命、撮影させていただきます」と、深々と頭を下げた。憧れていた女性に指名してもらい、多少、声が震えていた。
サトさんは飾らない謙太郎の態度に好感を持った。
「どのようなお写真をお望みでしょうか」 
「はい。病気が回復したので、『その記念に写真を撮るように』と、兄に言いつけられたものですから。このままでよろしいのかしら?」と言って、ハニかむ。
「判りました。出来るだけ明るく元気な写真になるように、頑張ります!」と、力を込めて言った。
カメラの前に案内し、いい構図を見つけたと思った瞬間、シャッターを切った。2枚撮影した。
「はい。終了です。現像しますので、3日後の出来上がりとなります」 
「来週にしか受け取りに来られないんですけど、よろしいでしょうか」と、すまなそうな顔になる。
「そうですか。…毎週、月曜日に通院されているんでしたね」
「どうして、それをご存知なんですか」と、急に顔つきが険しくなった。
…「しまった。余計なことまでしゃべってしまったな。謝らなければ。でも、どうやって?」…
謙太郎は、ちょっと冷や汗が出てくるのがわかった。
…「これは、誤魔化すことは出来ない」…
それで、正直に謝ることにした。
「申し訳ありません。お嬢様のお名前ガ『サトさん』で、毎週、月曜日に列車で通院されていることを知ってしまいました。列車の中でご高齢の女性とお話されているのを聞いてしまったものですから。その前から、美しい貴女が気になって仕方がなかったのです。どういう女性なのだろうと。そ、そして、その貴方が、お客様として来ていただいた上に、私を指名してくださるなんて!まるで夢のようでした。それに、お話することまで出来まして、つい、内緒のことまで喋ってしまいました。誠に、申し訳ございません」
謙太郎は深々とお辞儀をした。
暫らくの間、ジッと謙太郎の目を見つめていた。
そして、ゆっくりと微笑んだサトさんは言った。
「そう、そうでしたか。光栄です。こんな私を気にしていただいて。私、結核で入院していましたの。やっと、咳が出なくなって。…その上、結核の菌が出なくなったようなので退院することが出来ました。でも、当分は通院しなければなりませんの」
間をおいて、ちょっと恥ずかしそうな態度で。
「実を言いますと、貴方のこと、列車に乗るようになってから知っていました。…健康で凛々しい男性だなって。…時々、チラッと様子を覗ったりしました。…先週、小母さんに写真館を紹介してくれるように頼むと、貴方の方に歩いていって聞いてくるものですから、ひょっとしたら松本謙太郎さんって貴方のことだったらいいなって…そう、思っていました。…それで、今日は特別におめかしして参りましたの。…ウフッ…」
二人は目を合わせた。心が通じ合うのが判った。
「こうしませんか。写真が出来上がりましたら、お宅にお届けに参ります。もし、ご迷惑でなかったら」
「迷惑なんてとんでもない。嬉しいです。私、病気が病気ですから、男性の方とのお付き合いは出来ないものと思っていました。こんな私でよかったら喜んで」と、はにかみながら、早口で話した。
サトさんが「それでは」と言って出て行きかけたので、「あのー。お住所と…お名前を」と呼び止めた。身体は硬直していた。
「永田。永田サトと申します。来週、また来ます。そのときに私の家までの道案内をさせてください」 
「あの、その時にはもう、写真は出来上がっていますが」 
「ウフッ。写真は届けてくださいね。そうしたら、もう1回お会いできますわね」
…「サトさんが、明るく笑っている。なんて、素敵な女性(ひと)だ」…
「そ、そうですね」と、やっと、答えることが出来た。

(写真館で)2
そこまで語った謙太郎は懐かしそうに、壁に飾られた写真を見つめなおした。
暫らく、沈黙していた。
目が虚ろで、遠くに焦点が合っているみたいだった。そして何故か、泣いているように感じられた。

痺れを切らした介がニッコリ笑って言った。
「おじいさんの初恋?そう…なんですね。その女性が朔のおばあさんになるんですね。俺が知っているおばあさんとは随分違うような気がするんですけど。…女性は年取ると変わるそうだから」
余韻を覚まされた謙太郎は怒ったように、
「そんな訳、ないだろう。サトさんは亡くなったよ!名前が違うだろう! …黙って聞くだけにしてくれないか。独り言のように話さないと続けられない…。…な! 介」
「すいませんでした」と、神妙な顔になって介は謝った。
…「俺、そう言えば朔のおばあさんの名前聞いたことないんだよな…。ところで、親父が出てくるのはいつになるんだ?その頃だったら、親父はまだ子供のはずだ。今夜、一晩はかかりそうだな…」…

深く息を吸い、そして吐いた。気持ちが落ち着いたので、再び謙太郎は語りだした。
...2005/05/13(Fri) 20:53 ID:6arjOzGM    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
朔五郎さん
ありがとうございます。緻密過ぎますよね。
いつもは幾つかの文章から選択して、又は出来るだけ完結になるように削除しているのですが、時間的な余裕が無いものですから。しつこい表現ですみません。

にわかマニアさん
一回は、ボツにした原稿です。時代背景など調べていませんので間違いが多いと思います。よろしかったら指摘して教えてくださると嬉しく思います。
...2005/05/14(Sat) 14:34 ID:NhnXjq36    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編2−

51 介の回想4

(回想)2

次の月曜日。
列車に乗り込んできたサトはジッと謙太郎の方を見つめていた。謙太郎もサトの方向を見つめている。お互い、自然に振舞っていた。
合図を送りあっていることが、他の乗客に見つかったら非国民扱いされるのが関の山だ。そんな時代だった。
治安維持法とかがあってマルクス・レーニン主義とかそのような本を読んでいる、いや、持っているというだけで連行される。ひどい場合、外国の本が家にあるだけで非難される。忠君愛国に敵対する行為だと密告されれば、直ぐに逮捕されるのである。いっぱしの政治家で軍国主義を批判した者は政治犯として投獄されていたのだから。憲兵や特高警察官が、この列車に何時乗り込んでくるかもしれないのである。
当時の社会に同調する少数の勢力以外、大多数の国民はびくびくしながら生活していた。学校では軍事訓練を含め思想教育がより実行され、平和や子を思い愛する親よりも国を愛するといった行為が重んじられたのだ。
平和な今の時代では到底考えられない時代であった。

午後になった。いつものとおりに掃き掃除を始めた。
…「そろそろサトさんが訪ねてくる。ソワソワしてくるのが親方に判らないように気をつけないと」…

「お願いします」と、言ってサトが店に入ってきた。「いらっしゃいませ」と、振り向きながら近づき、「先週、撮影していただきましたお写真。このような出来上がりに成りましたが、如何でしょうか」と、写真を取り出し渡した。
サトは謙太郎が今日は一人ではないことに、直ぐ気付き、「そうですね。これで結構ですよ。それでは先週、お話ししましたように、もう1枚追加して届けていただけないかしら。あなたの先生はどうおっしゃっていますか。出来上がり」
それを聞いた親方は身分のある令嬢だと判断したらしく、跳んできた。
「はい。お嬢様。弟子の初仕事にご指名を頂いたそうで、ありがとうございます。私目にもいい仕上がりだと判断いたしております。ご納得いただけましたら、この松本をお届けに伺わせますが。日時のご指定がございますか」
「そうですね。明日の午後2時でしたら私、時間があります。百瀬駅で永田の家をお聞きになったら直ぐに判りますから。では、お願いしますね」と言って、店を出て行った。
「おい。松本。直ぐに焼き増しするんだ。明日の午後お届けに覗いなさい。そのあと戻らなくて良いからな。その代わり、お得意様を開拓するんだぞ。必ず、写真機を持ってお届けしろ。ついでに、ご家族のお写真はどうでしょうかとお勧めすること。いいな」 
「解りました。親方」
謙太郎は独り立ちするのも近いような気がして嬉しくなった。それにしても、サトの落ち着き具合は板に付いていた。ひょっとしたら、本当に良家のお嬢様じゃないかと思った。

直ぐに、謙太郎は写真の焼増しを始めた。プリントされたサトの写真に見惚れてしまい作業が進まない。
現像室からなかなか出てこない謙太郎を心配して、様子を見に来た親方から、「何している!急がないと終電車に間に合わなくなるぞ。それとも、失敗でも仕出かしたか。お前さんの初仕事だから、仕方がないが…」と、注意を受けた。
やっとのことで、仕事を終え、列車に乗り込むことが出来た。こんなことは始めての経験だった。自分を見失っていると謙太郎は思った。
…「ん?これって、恋?」…
帰りの列車の中で、今まで恋らしい経験がまったく無かったことを痛感した。周りの女性といったら、幾人かの幼馴染がいるくらいで、親しく口を利くのは5歳年下のカメだけだった。海女になったカメは、時々、好物のサザエを持ってきてくれる。
それくらいの関係で、恋なんて縁遠い生活だった。写真屋になる夢だけを追い求めていたから。

翌日、いつものように百瀬駅を通って隣町に向かうのだが、いつもと違う別世界の駅に見えたのだった。午後にはここでサトに会えると思うと顔が緩んでしまう。もしも、謙太郎の顔を今見た知り合いでもいたら、頭がおかしくなったと思ってしまうに違いない。それほどニヤけた顔になっていたから。いつもの精悍な謙太郎とは別人だった。
…。
午後、百瀬駅に列車が近づく。
駅舎から身を乗り出して列車を見つめている女性が遠くからも見て取れた。それはサトだった。幾分か不安だったのだ。病気のことを話してしまったから。
…「きっと謙太郎さんは乗っていらっしゃるわね。急用が出来たなんてこと、ないでしょうね」…
列車が到着する1時間も前に、百瀬駅にサトはやってきたのだが、到着時間が近づくにつれジッとしていることが出来なかったのだ。列車が数十メートルと近づくときには、お互い相手を見つけて見詰め合うことが出来た。
急ぎ下車した謙太郎はサトの元へ走った。サトがニコニコと笑っている。
「待っておられたんですね。ありがとうございます。ご注文のお写真をお届けに参りました」と、お辞儀する。
「ウフッ。もう、お客様ではないですよ。私は」
「どういう意味でしょうか」
「ここでは写真を学んでいる親戚の学生さんということにしてあります。近所の方々は私が結核だと知っていますから近づかないようにしています。ですから、私の家族以外の人がめったに話しかけたりしませんから。ご安心を」 
「昨日は場馴れした話し方だったので、良家のお嬢様ではないかと思いましたよ」 
「良家ではないですが百瀬の地主なんです。女学校のお友達にお嬢様がいますから、その方の話し振りの真似をいたしました。どうでした?私、女優になれるかしら?ウフッ」 
サトは楽しそうに微笑んでいた。
「地主でしたら良家のお嬢様ですよ。私が気安くお話できるような身分ではないですよ」 
「そんなこと、おっしゃらないで下さい。私の治療費を出してくれるだけで、そんなに裕福ではないんですから。半分は厄介者なんです。病気にならなければ、とっくに裕福な嫁ぎ先をあてがわれていたところなんですから。兄とは親子ほど年が離れているんですが、私を娘みたいに可愛がってくれています。父は昔気質(かたぎ)の人なんですが、隠居してから私に何も言わなくなりました。病気のお陰で良い嫁ぎ先はありませんからね」 
「そうなんですか…。…幸せに思えることが一番大切ですよね」 
「私のことを全て、ありのまま受け入れてくださる男性としか結ばれたくありませんの。もう婚期はとっくに過ぎていますけどね。…兄夫婦が私のワガママを理解してくれる唯一の身内なんですよ。それから、兄弟のように育った甥と姪がいますけど」
謙太郎は裕福な家庭にも様々な葛藤があるのを理解した。それにしても、不治の病と言われる結核に侵されていながら、明るく振舞うサトのことが、ますます好きになっていくのを感じた。

…「この人のためなら自分の全てを犠牲にしても、後悔なんて絶対にしない!」…と、そう呟いた。
...2005/05/14(Sat) 17:54 ID:NhnXjq36    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編2−

52 介の回想5

サトは不思議そうな顔になって。
「ところで、どうして写真機を持っていらっしゃるの?今日は約束しましたお写真の配達でいらっしゃっるのじゃ、なかったのかしら?」
「実は、親方に言われたんです。『写真機を持ってお届けしろ』って、ついでにお得意様を開拓するように指示されました。『ご家族の写真は如何ですか』と、お勧めするのだそうです。私も写真技術以外に、商売の方法も学ばなければと思っていたものですから。可笑しいですか?」
「そういうものなんですよね。…私の兄をご紹介しますわね。それで初めての商売を成功させてみてください。貴方のこと、いや、謙太郎さん。…謙太郎さんとお呼びしていいかしら?」 
謙太郎は気をつけの姿勢で、「はい!」と、喜んで答えた。
それを見たサトは「ウフッ」と笑った。
「謙太郎さんのことを兄に話したんです。そしたら、兄から『写真を学んでいる親戚の学生さん』と、近所では言うようにといわれました。兄以外の家族には『兄が昔、お世話になった方の息子さん』と、いうことにしてあります。ですから、お気になさらないでね。ウフッ」
「優しいお兄様ですね」 
「はい。大好きです。…さあ、それでは姪たちの写真をお願いしますね。それで、出来上がりましたら届けてくださいね。そしたら、またお話が出来ますわね。ここ、百瀬では人目を気にすることありませんから」

二人並んで、文学の話をしながら永田家の屋敷に向かった。道端に咲く野花が揺らいでいた。
暫らく歩くと立派な門構えの屋敷が現れた。大きな表札が目に付く。
門を潜ると40代後半の立派な紳士が待っていた。
「サト!遅かったじゃないか…。あれっ、やっぱりお連れしたんだね。そうなるんじゃないかと思っていたよ」
「お兄さんには全てお見通しね。…紹介しますね。あのー。…私が大好きな…松本謙太郎さんです」 
ビックリした。既に恋人扱いだった。
「ま、松本謙太郎です。お、お嬢様のお言葉に甘えて…お伺いいたしました…」と、緊張した仕草で挨拶をした。 
ニッコリ笑って、
「サトの兄の永田治(おさむ)です。妹が無理を言いまして、ご迷惑をおかけしたようでしたらお詫びいたします。私は妹を自分の娘のように思っています。生まれて直ぐ、母親が亡くなったものですから、良子と結婚して娘のように育てました。父親はワガママな婿養子でして、そのため母が苦労した挙句…結局早死にしてしまいました。妹は母に瓜二つなんですよ。母の生まれ変わりのようにも感じております」 
「お兄さん。そんなことまで…」 
「サトが大好きな男性(ひと)なんだろう? そう紹介されたのだから、私も正直にお答えしないと失礼じゃないか」
「さあ。こちらへどうぞ」と、兄嫁の良子がお茶の準備を終え、案内した。兄夫婦は全てをお見通しだったように感じた。

一緒にお茶を飲みながら4人で話しをした。
サトのこれまでのことが理解できた。サトの父親は良家の二男で永田家に婿養子として来たが、ワガママな性格のため、母親はいつも苦労をしていた。そのせいかどうかは判らないが、サトが生まれて直ぐ母親は亡くなり、残された妹を不憫に思っているらしい。母親はサトにそっくりの美人だったし、優しい性格で兄・妹がそれを受け継いだみたいに感じた。
父親は、サトが結核に感染して以来、世間体がどうだなどと不平をと言い出す始末で、怒ったサトの兄が父親を隠居させ、永田家の実権を握った。それでも父親の浪費癖の尻拭いを今もさせられているらしい。
父親が隠居したおかげでサトは晴れて自由な雰囲気を味わえるようになったのだ。サトの父親は自分がこさえた借金の穴埋めになるなら、どこの誰でもいいからお金持ちのところに娘を嫁がせようと考える父親(ひと)らしい。
サトの兄は父親を憎んでいるように感じられた。
サトの義理の姉はとても優しそうな女性(ひと)で、サトとは本当の母子のように見えた。

「もう暫らくすると娘が女学校から戻りますので、記念撮影をお願いしたいのですが」と、お兄さんが話をきりだしてくれた。
たのしい時間だった。

永田家を辞するとき、サトは別れを惜しむように謙太郎を駅まで送ると言い出した。
「仕方がないわね。サトさん。謙太郎さんのお邪魔にならない程度にね。無理な約束を押し付けちゃダメですよ」
良子は、サトの性格やそして何もかも、知り尽くしている感じだった。

駅へ向かう途中。
幼い頃の話を聞いた。父親が癇癪を起こしてサトに当り散らしていると、泣きじゃくるサトを兄や義姉が優しく包み込んで抱いてくれたことを。とても幸せを感じたと。甥や姪が泣いているとサトも兄や義姉にしてもらったように、優しく抱いてあげたのだ。
そしたら、二人とも「サト姉さん」と呼んでくれるようになった。
叔母さんと呼ばれるより、姉弟(姉妹)として呼んでくれることがどんなに嬉しかったことかと。
女学校の4年になるとき、結核に感染していることがわかり学校を中退した。そうしたら、弟(甥)が「医者になってサト姉さんを助けてあげる」と言い出し、そして猛勉強を始めた。天にも昇るくらい嬉しかったと謙太郎に語った。
…。
もう直ぐ、駅に到着するというとき、謙太郎は意を決して言った。
「月曜日には早起きして、百瀬駅から乗車することにします。そうすればサトさんといろんなお話ができますから」 
「エエ…ありがと。私は謙太郎さんを親戚のお兄さんとして接しますから。ウフッ…宜しくね」
そうして、二人の交際が始まる。
謙太郎は月曜日が来るのが、待ち遠しくて堪らなかった。早起きして、百瀬駅まで歩くことがまったく苦にならず、唯一最大の楽しみとなった。雨の日も風の日も欠かすことなく通った。
百瀬ではサトが言ったように、人目を気にすることはなかった。サトさん、お兄さんと呼び合うので、駅で一緒になる乗客は不思議に思うことはなかった。ただ、二人が知り合うきっかけを作った小母さんだけは、首を傾げ奇妙な顔つきを一度したが、その後は二人を暖かく見守ってくれているように感じられた。
二人は、この幸せな時間が永遠に続けばいいと思っていた。
...2005/05/15(Sun) 15:24 ID:r2zYDb2.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
今まで語られなかった謙太郎の恋。楽しみです。
...2005/05/15(Sun) 22:33 ID:rPTfSoLo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
(考察)
先に、お詫びをいたします。

このHPのキャスト紹介では1987年、松本謙太郎70歳、廣瀬真48歳、松本潤一郎47歳となっています。そうしますと終戦の年、1945年では謙太郎28歳、真6歳,潤一郎5歳となります。真、潤一郎の両名とも戦前生まれです。
サトは戦後まで生き抜いたことと紹介されていますから、謙太郎は子供がある身でサトに逢おうとしたことになってしまいます。
また、兵隊として入隊していますので、予備役での入隊(家庭が既にあった)と言うことでしょうか。
出兵するときに百瀬駅でサト別れたということとは辻褄があいません。謙太郎は亜紀と朔に嘘を言ったのでしょうか。
当初、謙太郎とサトの物語を空想して書き始めた頃、短編ですが、時代の設定をせずに書いていました。前編の思い出偏に、サトと真の関係の一部を載せています。
私が考えていた設定と違うことが判明しましたので、掲載を打ち切り、原稿をボツにした訳です。
でも、どう考えても、純愛がテーマである本編とは相容れない年齢設定だと思うようになりました。後半部分を掲載するにあたり読まれた方が、不信をもたれると思いましたので私の意見を先に述べておきます。

今は、高学歴となったせいか、晩婚が多いようです。平均初産が27歳後だと聞いています。しかし、戦後から1970年代までは結婚する年齢はもっと若かったのではないでしょうか。20代の前半くらいに。
そうしますと、謙太郎と潤一郎の年齢設定はいいことになります。しかし、戦地に行っていたこと。出兵するときに百瀬駅でサトと別れたこと。戦後、サトの治療費を稼ぐため闇市で働き、お縄になったこと。
以上のことから、次のように年齢設定を行い、謙太郎とサトの物語は書かれています。
謙太郎はキャスト紹介のとおりの年齢設定としてあります。しかし、結婚は戦後であり、サトが亡くなり、別れが決定した後ということです。サトの死亡は1947年、その年、謙太郎は31歳。そして結婚。1949年、潤一郎が生まれ、潤一郎21歳のときに朔太郎が生まれたことにしました。富子は同い年のほうがいいと判断してあります。
真は大学を卒業後、直ぐに綾子と結婚、直ぐに亜紀が生まれたということです。潤一郎より1、2歳年上となります。
私の身勝手な設定です。よろしかったら続きを読んでください。
...2005/05/16(Mon) 18:59 ID:ueIXz54.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 高校生の子の親が40代中盤で,祖父が70代。これだけ取り上げれば,何の変哲もありませんし,自然な家族構成です。問題は,こうした相対的な関係と「絶対年代」を特定する「手がかり」との整合性にあると思います。
 原作は,2000年という年が「ずっと先のこと」ではなく「10年後」のことであり,その時,25歳ということです(18〜19頁)から,主人公である高校生の子どもたちは1975年生まれということになります。この場合,祖父の足跡と農地改革や「朝鮮特需」といった時代背景(27頁)も無理なく説明できます。
 ところが,映画やドラマは,サクの自責の念を強調するため,亜紀の闘病時期を骨髄バンク設立前に持っていったことや,「亜紀のいる世界」と「亜紀のいなくなった世界」をともに17年として描いたことで,作中人物の相対的位置関係を変えないまま,生年という絶対年代だけを5年ばかり繰り上げてしまいました。その結果,親の世代も戦前・戦中生まれになったというのが,プロフィール表に表記された年齢の意味するところです。
 ところが,ストレプトマイシンが開発されたのが1944年ですから,祖父の悲恋まで平行移動させるのに無理が生じてしまったというのが,Apoさんご指摘の矛盾なのです。サトさんを別の病気にするか,祖父と別れた事情を別のものにしない限り,Apoさんの設定のとおり作中人物の出生年を一部手直しするしかないのかもしれません。
...2005/05/17(Tue) 01:26 ID:kolKlces    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
にわかマニアさん、お礼申し上げます。

考えました物語の設定で掲載します。謙太郎の悲恋の後、朔太郎・亜紀のドラマが生まれる(1987年)までの途中、時空が変わり二人の両親の年齢等がTVドラマの設定に変わってしまった。お言葉に甘えてそういうことで。ニコニコ(笑)
明日は遠出の予定です。仕事です。帰りが遅くなりましたら掲載をお休みします。ペコペコ(涙)


−思い出編2−

53 介の回想6

ある日のこと。

「私、薄緑の若葉が大好きなんですよ。女学校のお友達は柿や栗が実る秋の紅葉がステキだと、言っていたんですけど」
「どうしてですか?」
「赤い色は病気と結びついてしまいますから。新緑は生命力がありますもの。女学校で親しかったお友達が同じ病気で亡くなったんです。真っ赤な血を吐いて。私、見舞いに行って見てしまいました。それ以来、嫌いな色になりましたの」
謙太郎はそれで、サトが病気になった理由を理解した。話題を変えたほうが言いと思い言った。
「サトさんは本がお好きなんですね。私もよく読みますが。他に趣味がおありですか」
「絵を描くのが好きですの。下手なんですが。…暖かくて穏やかな風が吹いていて。…そんな日に、野山でスケッチしていると、見たこともないお花や、珍しい昆虫、お菓子に似た雲なんて…、色々な発見がありますものね」
「それって、絵を描くのが好きと言うよりは、自然が好きと言ったほうが良いのでは?」
「ア、ハハハ。おっしゃるとおりですね」
サトが高らかに笑うのを始めて知った。少しずつ、知り合っていける喜びを謙太郎はかみ締めた。

二人は会って、会話を楽しむというより、会える嬉しさのほう多かった。見詰め合い、微笑み合っているだけで幸せを感じた。百瀬で会うだけで、他に出かけるということはなかった。それが出来るような時代ではない。
永田家で兄夫婦を含めた4人での会話や姪とサトの写真を写すことが、二人の出来事と言えるくらいであった。
謙太郎は二人きりのとき、サトと口づけをしたくなって迫ったが、サトは許してくれなかった。謙太郎に病気をうつしてしまうことを恐れたからだ。その前から、サトは家族と接する場合も同様に、謙太郎との距離を必ず保つことを心がけていた。結核がうつるかもと絶えず思っていたに違いない。
一ヶ月に1回あるかないかの休みに、精がつくもの、うなぎや山芋などを海や山に捜し求めて、サトに届けることが謙太郎に出来る最大・唯一の愛情表現であった。

しかし、それも長続きはしなかった。サトの病状は冬になると悪化して咳や熱が出る。毎年その繰り返しだったのだが、遂に入院してしまった。謙太郎は時間があると病院に見舞いに出かかけるのが日課となった。
そうして続いた夏、やっと、サトの病状が安定して退院出来ることになった。ところが、戦況は悪化をたどる一方で、遂に謙太郎に赤紙が届く。
その頃には、物資が急に乏しくなり、軍部が発表する戦況をそのまま信じている者は少なくなってきていた。若くて召集された兄弟、従兄弟が戦死したとの知らせが彼方此方で聞かれる状況であったから。予備役の30代の男性にも招集令状が届くことが珍しくなくなっていた。

永田家を訪ね、サトと兄夫婦に入隊することを報告した。これまで親しくしていただいた感謝の念を現す、しっかりとしたものだった。兄夫婦は気をきかせて、サトと謙太郎の二人きりにしてくれた。
「どちらの部隊に赴くのかしら。内地だったらいいのですが」 
「残念ながら、噂では、入隊する部隊はインドシナに行くようです。ですから生きて帰れそうにありません」 
「私もやっと退院出来ましたが、それも謙太郎さんあってのことです。謙太郎さんがいなくなると、私、生き延びる自信がありません」 
「もし、死が避けられないようになったら、サトさんの写真を抱いていきます。サトさんも…」 
「解っています。私だって謙太郎さんのことを思っていきます…」 
死が避けられないときには、お互いの写真を胸に抱いていこう。そして、あの世で一緒になろう。それも叶わないときは、生まれ変わって一緒になろうと二人はしっかりと、誓いあった。
「二日後に入隊なのですね。その列車を百瀬の駅で見送ります。最期の別れになるかもしれませんが、いつかどこかで必ずお会いできると信じています。謙太郎さんの戦死の知らせがない限り、病気に打ち勝って生き抜いてみせますから、必ずご無事で戻ってきてください。お国のためと死に急ぐことはだめです。それだけは許しませんことよ」
キリリとした話し方だった。
それが、謙太郎と交わした最後のサトの言葉となった。その後、サトの声を聴くことは二度と、おとずれていない。
入隊の日。百瀬駅を列車がゆっくり通過した折、永田の家族は並んで見送くっていた。
サトは手を振って、明るく微笑む。精一杯の愛くるしい笑顔。涙で腫らした泣き顔より、微笑んだ顔を謙太郎の心に残していてほしかったから。
謙太郎は敬礼の姿勢で、サトの愛くるしい微笑みを脳裏に焼き付けた。

…「目閉じて、遠くを見ると…あの時のサトさんの微笑が浮かんでくる。それに、初めて見たときの心ときめく、愛くるしい笑顔も…」…

(写真館)3
それまで、淡々と語っていた謙太郎であったが、ずっーと心の奥にしまい込んでいたものが、フラッシュバックのように目の前に映し出されて、涙がとめどなく流れ落ちるのがわかった。
「…。」
壁に飾られたサトの写真を見つめながら話し続けていたが、涙顔で介の方に振り向いて、震える声で謙太郎が、ゆっくり言った。
「戦地で何とか生き抜いて、祖国に戻ってみると、な…。…サト、サトさんも生き抜いてくれていたんだ。…でも、戦後のGHQの政策で地主だった永田家は裕福ではなくなってしまっていた。それで、サトさんと一緒になるためにはお金が必要だったんだ。それも大金が…」
「病気の治療費が必要だから。そのため、闇商売に直ぐ手を出したんだ。手っ取り早くお金になるからなー。…なあ、介。…その時の相棒がお前の親父、龍だったんだ…」
「…。」
介は約束を守って頷くだけだった。そして、涙が溢れ出すのを必死でこらえた。
謙太郎が壁にかかっている写真をジッと見つめていたので、ひょっとするとあの写真がサトさんではないのかと思ったが、口を挟むことが憚られた。
…「そうか。サトさんが居なかったら、親父とおじいさんが知り合うことはなかったんだ」…
葡萄酒をお互いのグラスに注ぎ、感情が落ち着くのを待った。
その間、謙太郎は考えていた。
龍のことやサトの死について、話さなければならないが介はまだ17歳。全てを話すことを躊躇していた。龍との関わりやサトについて簡単に話そう。介が大人になって理解できるようになったら自然と解ってくれるだろうと思った。
「これから、龍との出会いを話すが、法律に触れることだからな。その内容は勘弁してくれ。解ってくれるな。介」
介は緊張して、ただ、頷くだけだった。
「…。」
夜が更けて、辺りは静まり返っていた。
...2005/05/17(Tue) 20:51 ID:5qOVVxRc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
Apo.様
お久しぶりですたー坊です。
以前は私が書かせて頂いておりますストーリーにご感想をお寄せ頂きありがとうございました。
さて、Apo様の物語を私も読ませていただいております。毎回Apo様の考察と解釈には感服しております。
次回も楽しみにしております。
...2005/05/18(Wed) 22:03 ID:PLl.Z5WQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
たー坊さん、ありがとうございます。
私の妄想の物語ですが、読んでいただきお礼申し上げます。
皆様、遅くなって申し訳ありません。仕事に追われて時間が少ないので、仕上がりが悪いかも…
ご意見をいただけましたら嬉しく思います。


−思い出編2−

54 介の回想7

(回想)3
謙太郎が一気に語り始める。
「戦地から引き上げて来て、金を稼ぐため闇商売に手を染めた頃のことだ。ある日、闇市場で殴り合いの喧嘩があって…。『殺せー。殺してみやがれ!』て、叫びながら暴れまわっている若者がいたんだ。丁度、介くらいの年だ。戦火で焼け出され、一人ぼっちになってしまい、…それで、やけっぱちな生活をしていたようだ。そいつと目が合ったとき、どうしようもない悲しみが感じられた。それで、強引に喧嘩相手の連中から若者を引き取ってしまった…」
「あのとき、別れの日、一瞬見せたサトさんの目に似ていたんだ。とても切ない眼差しだった。その若者に、そう、思ったんだ。…。……ム……。感じたんだ…」
「…。」
「そして、相棒として使うようになった。勿論、無料(タダ)では済まないので、それまでの稼ぎを全て払ったよ」
「それで、相棒に船の操縦を叩き込ませて、闇物資を運ばせたのさ。…それが龍だよ。そのとき身についた技術で漁師になり、今では漁協の組合長って訳さ」
「闇商売で大金を稼いだよ。そしたら、警察にパクられてしまって、1年間のお勤めをさせられた。龍にはそのとき、闇商売から足を洗わせ…漁師にしたよ、ここ、宮浦でね。知り合いに頼んだんだよ。一人前の漁師にさせてくれるように、ってね。どうにか漁師らしくなった頃、稼いだ金の一部で新装の漁船を買ってやった。龍に…」
「私はその資金で写真屋を開店し、現在に至っているって訳だ。龍は身寄りが全て死んでしまっていたんで、…私が唯一の兄貴と言う訳だーね。な、介…」
「…サトさんは戦後まもなくの間は生死の境をさまよう状態だったんだよ。戦地から引き上げて直ぐに、会いに行ったんだが…サトさんの父親さんがどうしても会わしてくれなかった」
「投獄されている時に、な。介…。面会に来た龍に頼んでサトさんに会いに行ってもらったことがあった」
「ところが。お勤めしている間に。…占領軍から横流しされた特効薬があって。…それを使ってサトさんは結核が治っていたんだよ。でも衰弱した身体だったんだ。…落ちぶれた永田の家を何とかしようと思ったらしく、父親が決めた…人の所に…嫁ぐ…ことが決まっていた。後から知ったお兄さんは必死で止めたんだが、…世話になった兄にこれ以上…迷惑をかけられないと…言っていたそうだ…」
「息子さんの生死が分からず、お兄さんが探し回って、百瀬を留守にしている間に…、父親が戦後のドサクサで幅を利かせていたんだそうだ。やっと見つかった息子さんは長崎で原爆にあって、それガ原因で…しばらくして亡くなってしまった。それで、すごく落胆しておられたとのことだ。…息子さんは医専の学生だったんだよ…」
「…。」
「ストマイつんぼって聞いたことがあるかい」と、聞くと、涙顔の介は首を横に振った。
「特効薬には色々な副作用があって。…後から知ったんだが、それもその一つなんだそうだ。もう会いたくて、会いたくて、お勤めを終えて直ぐにサトさんを迎えに行こうとしていたとき、…ポックリと…サトさんが死んでしまった。恐らく、薬の副作用やら、衰弱した身体、精神的な負担やら、…それで生きる気力も無くなっていたんじゃないのかな…」
「稲葉って家にサトさんは嫁いでいたんだが、…金を積んでそこから…サトさんを…奪い取るつもりだったんだよ」
「…。」
「その後、治お兄さんからたいそうな詫びを入れられたよ。自分の気力が失せた時期だったが、サトや私には本当に済まないことをした。勇気を持って…、父親に意見して婚約を潰せばよかった。サトにも気兼ねするなと叱っておけば…、止められたかもしれないとね…」

(写真館)4
二人の前にしばらくの間、沈黙の世界が広がっていた。
「…。」
「…。」
「これが全てだよ。介」
謙太郎はため息をつき、天井を見上げた。
「あ、ありがとうございました。…親父がおじいさんのこと大切にしていることが、やっと。…やっと解りました。物心ついた頃から、ここ、写真館に…入りびたりで朔ちゃんとは…兄弟のように遊んでいたのはそのためだったんですね…」
介は感激の涙を溢れさせていた。「ウ、ウー」と言いながらワイングラスに残った葡萄酒を一気に飲み干す。

…「亡くなられたサトさんとの関わりで、おじいさんに残したものが親父ということか。そのお陰で、俺も存在していることになるわけだ。そう、そう言いたいんですね。おじいさん」…

「…。」
謙太郎はサトのことをこれ以上聞かないでくれるようにと思った。それには、まだ続きがあったからだ。朔が堤防で親しげに話をしていた廣瀬亜紀にまつわる話である。

「それにな。介。…龍の仲人は私だったし、嫁の富子と介の母親は従姉妹同士じゃないか。だから、介は身内だよ」
暫らく経ってから。
「な、介。朔が親しげに話をしていた女の子がいただろう。…『あの情景だった。サトさんと百瀬で語った、あのときの』…あの子が…サトさんにあまりにも雰囲気が似ていたものだから、それでダブらせてしまったんだ。…面影を。それから、昔の…『初恋』…」
「そうじゃないかと…。…おじいさんの話を聞いているうちに思いましたよ。俺に出来ることがあったら、何でも…。…朔ちゃんの応援をしたいと思います」
「そうか。介もそう感じたか。私と同じように朔も晩熟(おくて)だと思っていたんだが、どうも、これは恋愛沙汰になりそうな気がしてな。な、…すけー。頼むよ。朔のことを見守ってあげてくれ。弟としてな」
「解っていますよ。親父や俺が、今あるのはおじいさんのお陰ですから。陰ながら朔ちゃんの、お役に立ちます。朔ちゃんは、はっきり言わない性格だから誤解を招きやすいんですよね。その点を、不肖この私目が補わせていただきましょう」
「介。大分、酔ったみたいだな。この辺でお開きとするか。明日は学校をサボるようなこと、するなよ!」
お互い高笑いをした。そして、千鳥足で介が帰っていった。


後に、父親の跡を継いで漁師になった介は、夢島で撮った朔と亜紀の写真を漁船に掲げた。そして、「恋人とは夢島に行くなよ」と、口癖みたいに言った。そう言いながら、心の中では呟いていた。

…「親父はおじいさんとサトさんのお陰で生きられたんだ。俺は朔と亜紀のお陰で今があるんだ。ね。そうだよね。亜紀ちゃん」…
...2005/05/19(Thu) 21:34 ID:AM3mzSSU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
思い出編は暫らく休止させていただきます。短編の構成が進みません。もし、時間が出来ましたら再会(再開)したいと思います。
続けられる短編を組み合わせ、『おまけ』と、しまして掲示します。

−おまけ編−

55 謙太郎の秘密

介が帰った後、謙太郎は介に話さなかったことを思い巡らした。

その後のことである。
サトの死後、サトの父親も亡なり永田家は百瀬を引き上げ、宮浦で雑貨店を開いた。
サトの姪は長崎の原爆で死亡した兄の親友と結婚し、宮浦を出て行く。直ぐに男の子が生まれたが、数年後、その御主人も原爆の後遺症で亡くなってしまう。
女手一つで残された一人息子を育てたのだ。その男の子は夏になると、よく、永田のおじいさん家(ち)に遊びに来ていたが、小学校の高学年になると訪れることもなくなった。その男の子が廣瀬真である。
永田治と謙太郎は『永田の兄(あに)さん』、『謙さん』と呼び合う仲で、知り合いの少ない宮浦で謙太郎を頼りにしていた。永田の兄さんから廣瀬真の名前は、亡くなった長男に似ていたので同じ名前を付けたのだと聞いたことがあった。
謙太郎は百瀬の永田家を何度か訪れていたが、長男の永田真には一度も会ったことがない。戦時中、長崎医学専門学校に進学して、めったに実家に戻ることがなかったからである。

夏休み、宮浦に来ている廣瀬真を何度か見たことがあった。負けず嫌いで利発そうな男の子だと思った。そして、いつも本を読んでいたと記憶している。永田の兄さんは長男の生まれ変わりだといって、将来、孫の学費の足しになればと、コツコツ、お金を貯めていた。真が建築士になるといって大学を目指したとき、学費の援助をしたと、後になって聞いたのだった。
将来、宮浦で設計事務所を開いてくれるかもしれないと夢を語られたことも覚えている。
真は大学を卒業し、大手の建築会社に就職したが、それを待っていたかのように母親が亡くなり、廣瀬真の身内は永田の祖父母だけになってしまった。
それから、真が結婚し、永田の兄さんの曾孫に女の子が生まれた。名前は亜紀と名付けられた。白亜紀の亜紀からとって、恐竜のようにたくましく育てとの思いが込められた。両親が早く亡くなったので、真がそう願ったのだと思った。
ところが、永田の兄さんは亜紀がサトに似ていたので、いつも「里の秋」のメロディーを口ずさみ、亜紀を秋と呼ぶようになっていた。多少、老人性のボケが始まっていたのかもしれない。
真が曾孫の亜紀を連れて永田の兄さん家(ち)を訪れたことがある。
そのときには奥様も既に亡くなり、永田の兄さんも身体が弱っていた。永田の兄さんに頼まれて亜紀の写真を撮った。そのときに初めて朔を連れて訪問し、二人を遊ばせたのだ。
その日の出来事を思い出していた。

永田の兄さんに呼ばれたので出かけて行った。寝たきりになっていた。
「謙さん。よく来てくれた。…サトが亡くなって何年になるかね。あれから」
「兄さん。もう、30年近くになるかと思います。今でも、つい昨日のことのように思うことがあります」
「そうか。…お前さんに言っておきたいことがあるが。聞いてくれるかい」
「兄さんの言うことなら何でも」
「あれは、サトが亡くなる数日前のことでな。倒れたと聞いて駆けつけたんだよ。そうしたらなー。私の手を握って、紙に包んだ写真を渡してくれたんだ。もう、喋れない状態だったが、目を見たら言いたいことが分かったんだ。…稲葉の家を出てから、開いてみたら思ったとおり、お前さん、謙さんの写真だった。それでな、裏に書いてあったんだ。『必ず、会いに行きますから、それまで生き抜いてください』ってね。それで、火葬にされるとき、一緒に焼いてもらったよ。…謙さんに渡してくれって言ったのかもしれない。…私へそう言いたかったのかもしれない。今まで、謙さんに言うことが出来なかった…」
「…。」
「あの時は、サトや謙さんの幸せを奪ったのが、不甲斐無い自分ではなかったのかと責め続けていたから…。自分が頑張っていれば、謙さんは本当の義弟になっていたと…。…。それでな、曾孫が生まれたのを知っていると思うが、秋(亜紀)と言うんだがサトに似ているんだよ。それで、サトは会いに来たんだ…生まれ変わって…真の子として」
「…。」
「頼みがあるんだが、写真をね。サト(亜紀)の写真を撮ってくれないかね。真が今度連れてくるから。…それと、謙さん。お前さんの孫と遊ばしてくれないか。調度同い年のはずだから。…死んだサトがそう言っているんだよ」
「…。分かりました。任せてください。私もサトさんとの約束は忘れていませんから」
「そうかい。お願いしたよ…」

(亜紀と朔の出会い)
「おじいちゃん!」と言って、写真館に元気よく推さない朔が現れた。
「おーう、朔。来たか!これからなおじいちゃんと一緒に、な。古い知り合いのところに、ご挨拶に行くんだ。そこのおじいさんに、な。朔と、そこのお嬢ちゃんと遊ばしてくれと頼まれたんだが、一緒に行ってくれるかい?…そうだ。そのお嬢ちゃんに自転車の乗り方を教えてあげたら、どうかな?」
「うん。おじいちゃん」

「お嬢ちゃん、この男子(こ)は私の孫なんじゃが、一緒に遊んでくれないかい?お嬢ちゃんの写真を撮ってくるよう、永田のおじいさんから頼まれたんだよ」
「ウフッ。いいよ。写真のおじいさん。私ね、永田のお家に来ている秋(亜紀)と言うんだよ。昨日、お父さんに言われたんだけど、季節の秋なんだって。あなたの名前は?」
「タク(朔)」
自転車を引きながら、河川敷へやってくる。謙太郎はカメラを構えて亜紀の可愛いしぐさを収めていた。
「ぼふ(僕)、自転車乗れるんだ。乗りたーい?」
「えーっと。乗ったことないから。怖くなーい?」
「大丈夫だよ。ぼふが後ろを持ってて、あげるよ。ここに手をあてて、動き出したらペダル、これね!こぐんだよ。強く、いっぱいだよ」
亜紀が転びそうになると、必死に身を挺して朔が庇った。お陰で、亜紀が傷つくことはなかったが、朔は傷だらけになった。
「ウフッ。タクちゃん、面白いね。…大丈夫?タクちゃん」
「大丈夫だよ。秋ちゃん。いっぱい乗れるようになったね。楽しいーい?」
「うん。とっても。…大好き。…タクちゃん」
朔は楽しくてたまらなかった。
写真を撮り終えた謙太郎は「暫らく、遊んでいなさい」と言って永田の家へ向かった。
…「サトさんの生まれ変わりだと、永田の兄さんは言ったが。恥ずかしがるどころか、信頼しきった感じだった。何処となく似ているようにも思うが、サトさんの幼い頃は知らないからなー。もし本当だったら、成長したサトさんに会える。きっとな…」…
残された二人は引き続き自転車で遊んでいた。暫らくすると、飽きたのか近くの公園へやってきた。
ブランコが一つ空いていたので、朔は亜紀を乗せ、背中を押してあげた。
「おい。それは俺のブランコだぞ。早く、空けろよ」と、言って近くに住む悪がきが亜紀に迫った。
怖くなった亜紀は、「タクちゃん!」と助けを求め泣きそうだった。
「ダメ!今、秋ちゃんが乗っているの」と言って、悪がきの前に両手を広げ立ちふさがる。怒った悪がきは朔を突き飛ばした。
何回も繰り返すが怯まなかった。はじめ亜紀は朔の背中に隠れ、怖そうに見つめていたが、朔から勇気をもらったのか亜紀も両手を広げて拒んだ。
「チェッ。分かったよー!」と、言って二人から離れていった。
すると、怖かった朔は泣き出してしまう。
朔はひざ小僧から血を流していた。汚れた服の土を払ってあげた亜紀は、「ありがと」と言って、ほっぺにキスをした。
ビックリした朔は、泣くのを忘れ、嬉しそうにニッコリ笑った。

それから翌年には、永田の兄さんは撮影した写真を見ても、サト(里)とか秋とか区別がつかない状態になっていた。そして、宝物のように亜紀の写真を胸に抱き、最期は静かに息を引きとった。
後に、独立した真が永田家の跡地に廣瀬設計事務所を開設したのだ。
...2005/05/20(Fri) 21:02 ID:64eHO2es    

             Re: 続・サイド・・・  Name:アーネン
 すこしずつ読み進めております。この物語もまたすばらしいですね。これからも頑張ってください
...2005/05/20(Fri) 21:57 ID:0oIx5gj2    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
アーネンさん、ありがとうございます。
「おまけ」の最後となります。質が悪いです。ごめんなさい。


−おまけ編−

56 朔の回想

写真館からの帰り、朔は自転車をゆっくり漕いでいた。
そして、広瀬にどうやって気持ちを伝えたらいいのかと、考えていた。

薄暗い中、家の前で坊主が立っていた。近寄ってきた坊主は自転車の荷籠に箱を入れた。
<廣瀬には見る目がなかっただけで、そんな女は朔にぴったりで、廣瀬より何百倍もいい女と結婚して見せびらかしてやる>…と、言い捨てて駆け足で帰っていった。
坊主のはからいが充分なほど理解できた朔は…「正直に今の気持ちを廣瀬に伝えなければ」…と、そのとき改めて決心した。部屋に戻って箱を開けるとウォークマンが出てくる。青色(スカイブルー)だった。
坊主が明日の2日は廣瀬の誕生日だと言っていたが…「坊主はこのウォークマンを廣瀬にプレゼントして交際を申し込むつもりだったんだ」…
…「だからこれは絶対、廣瀬亜紀にもらってもらわないと。…そして、テープに今の気持ちを吹き込んで渡そう」…と、考えついた。面と向かって告白することが出来そうになかったから。伝える方法が思いつかず、さがしていたのだから。
…「確実に廣瀬宛のものだと解らせるにはどうしよう。そうだ!誕生日プレゼントだと書いておけばいい。そうしたら、廣瀬はテープを必ず聴いてくれる」…と、確信することが出来た。
…「廣瀬がウォークマンを欲しいとあの日の朝、俺に言ったんだ。それは、この俺だけに告白したんじゃ…?それと、最後に葉書が読まれた人に、ウォークマンが景品としてもらえるって…ことも。…だから、この俺からじゃないかと思って、確かめたくなってくれるかも?」…そう思った。
…「それに賭けてみよう」…
そして正直な気持ち、廣瀬亜紀にたいする心情をラジカセに語りかけた。
「あー。あー。入っているのかな?これ。……」そして、最後にあの場所に来てくれるようにと締めくくった。

翌朝、教室で廣瀬の方を時々覗くが、気がついてくれない。
昼食時に、はじめて目があったが、何か気まずい感じで避ける様なまなざしだった。
…「どうしよう?大丈夫か?俺」…
放課後のチャイムが鳴るのと同時に、下駄箱へ駆けだし、廣瀬の下駄箱の奥に、紙袋に包んだウォークマンを入れた。
そして、約束のあの場所へと向う。
一人、堤防に腰掛け、廣瀬がやって来るのを待つ朔は、<<…しまった…>>と、頭の中がスパークするのを感じた。
…「廣瀬にあの場所が解るだろうか?」…
自分にとっては当然、堤防に決まっている。はじめて親しく話しをした場所だから。気持ちが伝わったのなら、廣瀬は考えて、あの場所が堤防だと気づいてくれるはず。そう、そうに、違いない。キーホルダーを握り締め祈った。そして、賭けてみることにした。次第に不安が襲ってくる。朔は時間が止まったように感じた。
後悔が支配しだしたとき、「サクー。…」って、声がした。廣瀬の声だった。
…「気持ちが伝わった。嬉しい!でも、恥ずかしい」……


廣瀬と別れた後、直ぐに家に帰りたくなかった。
「おじいちゃん」と言って、写真館に立ち寄り先程の出来事を報告した。
「よかったなー。朔。正直に気持ちを話すと、必ず、何かしらは伝わるもんだ。これからも忘れるな。相手と接するときは誠実さが大切なんだ。小細工をしようとしたら、伝わらないし失敗するものなんだ。相手の全てを受け入れることが出来るかどうかで長続きするか決まるのさ」
「おいじいちゃん…。経験あるんだ!」
「まあ、長い人生だからね。男と女のことは潤一郎より経験豊富さーネ」
その時、謙太郎はあの事を朔に頼もう、と思いたった。でも、今日は止そう。また、日を改めて、しばらくは朔の様子を見ることにした。

それから、数日が経った。
写真館の前に朔と亜紀が佇んでいる。亜紀が写真館を指差している。朔も指差しながら言った。
「ここ?…ここ、おじいちゃんの写真館だよ。ほんとにここでいいの?行きたい所(とこ)」 
「うん。ウフッ」と、にこやかに笑っている。朔は仕方なさそうな顔でドアを開けた。
突然、「おじいちゃん」と言って朔が利発そうな、可愛い女の子と入ってきた。何の前触れもなく、亜紀を連れて写真館にやってきたのだ。
「やあ、朔。ん?そのお嬢ちゃんは?」
すると、「朔ちゃんの彼女の、廣瀬亜紀です」と、自己紹介した。
ビックリして「え!」と言うと、朔はニヤけていた顔が急に元に戻って、「亜紀が行きたい所があるから、連れて行ってと言うから…それがここだった」と、ふてくされている。
亜紀は辺りを見渡している。何か懐かしい感じで。
謙太郎は…「やっぱりあの子だ」…と思った。
「あの、お嬢ちゃん。前に一度、いらっしゃったことがありましたよね」
「ええ。高校入学の前の日、ここで写真を撮っていただきました。ウフッ」
やっぱりそうか。あの時の子が…。それにしても、この子が…「廣瀬亜紀だなんて」…笑った顔がサトさんにそっくりじゃないか。
朔は亜紀の様子を覗いながら、「何でこんな所、来たいんだよ」と自問しながらお茶の準備をしていた。
それから、谷田部先生や介の子供の頃の写真をズバリ言い当てる。ほんとに感の鋭い子だ。謙太郎は嬉しくなったので、亜紀の手相を見るようにして「離婚するかも」と言ってみた。ビックリした顔もサトさんにそっくりだった。
朔は怒ったらしく、湯飲みをドンと置いて「ベタベタ触らない!」と、拒絶した。謙太郎は驚きを照れ笑いで誤魔化した。すると、亜紀がサトさんの写真を指差し「誰ですか」と聞いてきた。
謙太郎はその時、サトさんに試されているように感じた。仕方がないサトさんとのいきさつを簡単に話し、死んだら遺灰を混ぜて一緒に撒いて欲しいことを二人に告白した。この前、朔を呼び止め、サトさんの遺灰を盗んでくれと頼んだが、今日はその理由を亜紀の前で話さなければいけないと感じたから。
少しオーバーな話し方だったので、朔が「狸じじぃ」と、言ったのが聞こえたが、亜紀は真剣に聞いていたような気がした。

二人が帰った後、謙太郎は幸福感に満たされていた。

夏之日
冬之日
百歳之後
帰千其居

…「サトさん。やっと会えましたね。サトさんの生まれ変わりなんですね。私も、もうすぐ、会いに逝けるんですね。サトさん!」…


まだ、原稿がありますが、続きの構成が出来ません。当分、休憩します。
朔五郎さん、皆様、ありがとうございました。時間に余裕が出来ましたら再開出来るかも…
それまで、終了といたします。(By Apo.)
...2005/05/21(Sat) 21:06 ID:a2s57fSU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Apo.さんへ
Apo.さんらしい分析と独創性あふれる作品、楽しませて頂きました。
さて「お疲れ様でした」とは敢えて書きません。
このスレを維持しながらお待ちしています。
それでは、また(^^)
...2005/05/21(Sat) 23:09 ID:dGWVb7nI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Apo.さんの作品が一段落のようなので、また朔五郎が繋ぎます。
前回、タイトルが「最後の日」で陸上シーンと予告しましたが「カレンダー上の理由」から変更します。


夢見るジュリエット(6) 最期の選択

僕は話し始めた
僕たちの最期の日々について
幸せな日々の終焉
暖かな世界の崩壊
むせかえるような死の匂い
僕たちの、僕の、最期の選択・・・

「はい、OKです」
亜紀は緒形先生に声をかけた。
「いやあ、ナレーションっていうのは、むずかしいねえ・・・」
苦笑まじりに緒形がいう。
「まあ、僕は谷田部先生には頭が上がらないからね」
緒形は宮浦高校出身で、谷田部の元教え子だった。ずっと松山で教師をしていたが、17年ぶりに母校に帰ってきたのだった。
「廣瀬君、君、陸上部だったよね?」
「はい」
「いや、ぼくもここに通学している頃、陸上部の女の子と付き合っててね、君の彼氏と同じように、彼女が走るのをグラウンドの片隅で見ていたものさ」
「先生、そのひととは」
緒形はふと遠いところを見る目になった。
「彼女は遠いところへ行ってしまった」
「えっ」
「彼女の母親の出身地の修善寺というところで暮らしている」
「そ、そうですか・・・」
亜紀は内心ほっとしながら言った。
「スナックを経営しながら、ひとり息子とね。プロボクサーと結婚したんだが、別れたらしい」
「忘れられないんですね」
「少しずつ忘れて行くんだろうね、これから」

次の朝のホームルーム。
一人の生徒が手を上げた。
「せんせーい。結婚したのに苗字変わらないんですかー」
「もしかして夫婦別姓っていうやつ?」
「やっぱムコ養子?」
「はい、ブウブウ言わない!戸籍上は大林になってます。だけど、職場では今まで通り谷田部で通します・・・さて、今日は新しい仲間を紹介します」
谷田部は黒板に「沢口エリカ」と、名前を書いた。
「じゃあ沢口、自己紹介して」
「はい。静岡県の松崎高校から転入した沢口エリカです。趣味、というわけじゃありませんけど、老人介護のボランティアをやってました・・・」
一人の生徒が質問した。
「ボランティアを始めたきっかけはなんですか?」
「前の高校の先輩が老人ホームでボランティアをやってたんです。その先輩、マジックが得意で、お年よりたちによく披露してました。とっても上手で、面倒見も良かったので、すごく人気があったんです。それで私も一緒に通うようになりました」
「エリカはペコリと頭を下げた。
よろしくお願いします」
谷田部は教室内をぐるりと見回した。
「ええと、中川のとなり空いてるね。じゃ、あそこに座って」
エリカはボウズの隣りの席のほうに近づいて行った。
そして、ふとボウズと目が合ったエリカは、クスリと笑いながら席についた。

「あなた、山口さんの家から案内が来たわ」
「うん、もうそんな時期になったな」
「一年なんて早いわね」
「6月29日か・・・」
真はハガキに目を落としながらつぶやいた。

「ねえ、お母さん」
亜紀が聞いた。
「お父さん、毎年6月29日になると礼服を着てどこかに出かけて行くよね。どんなに仕事が忙しくても、絶対にその日だけは欠かしたことがないんだけど・・・」
「そ、そうね」
綾子は明らかに動揺しながら言葉を濁した。
「お母さん」
綾子はうつむいてしばらく黙っていたが、やがて決心したように口を開いた。
「亜紀ちゃん、ちょっと待っててね」
綾子は真の部屋に入って行った。
戻ってきた綾子は、一冊のアルバムを持っていた。
それを亜紀の前に置くと、静かに表紙を開いた。
一枚の写真・・・セピア色の。
セーラー服を着た少女が笑っている。
「お母さん・・・」
「亜紀ちゃんも、このひとと同じ17歳になったのね。話す時が来たわ・・・」
「お母さん・・・」
「このひとはね、山口桃子さん」
「・・・ももこ、さん?」
「お母さんのね、高校時代の先輩なの。とっても良いひとで、お母さん、大好きだった」
「そう」
「でもね、高校2年の時、血液の病気で亡くなったの。そう、亜紀ちゃんがお芝居で使ったあの病気で」
「そんな・・・」
「あの頃はまだ有効な治療法が無くて、日に日に弱っていくばかりだった」
「かわいそうに・・・」
亜紀はつぶやいた。
その次の瞬間、あることに気付いて、ハッと顔を上げた。
「でも、どうしてお父さんの部屋に?」
「お父さんとお母さんが宇和島の同じ高校の出身だっていうのは知ってるよね」
「うん」
「お父さんと桃子さんは同級生で恋人同士だった。それはお似合いのカップルで、ドラマの世界から飛び出して来たみたいだったわ。本当だったら、桃子さんがお父さんと結婚していたはずよ・・・彼女が病気になって入院してからも、お父さんは毎日お見舞いに行っていた。でもね、今と違って、なかなか面と向かって《好き》とか言えなかったのよ、あの頃は。それでね、お母さんはよく、桃子さんから手紙を預かって、お父さんの靴入れに入れていたの」
「まるで映画のワンシーンみたい・・・」
「最後の望みをかけて、桃子さんは大阪の大学病院に搬送された。でも、やっぱり病状の悪化を止めることはできなかった」
綾子は続けた。
「大阪までお見舞いに行ったお父さんに桃子さんは言ったの」
「なんて言ったの?」
「宇和島に帰りたい。世界で一番美しい海を見て、それから・・・」
綾子は声を詰まらせた。
「亜紀ちゃん、お父さんがあの台本を見た時、どんなにショックを受けたかわかる?最愛のひとを亡くして、たとえお芝居とはいえ、娘が同じような言葉を口にするなんて・・・《もしかしてこれが運命なのか》赤い目をしてつぶやいた顔が忘れられないわ」
「知らなかった・・・」
そして、綾子は話し始めた。
桃子の、そして真の、最期の選択について・・・

(続く)   


*次回予告 夢見るジュリエット(7) 最期の選択2
...2005/05/28(Sat) 22:57 ID:R6NrMCR.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 朔五郎様
 「赤い」シリーズのリメークのおかげで,こういうサイドストーリーを味わうことができすのですね。
 ところで,6月29日って,どんな日でしたっけ。「赤い」シリーズに由来する日ですか?
 とりあえず,5月11日ではなかったので,世界で一番青い海を見た後,「病院に戻ろうとして乗った宇高連絡船第8便が濃霧の女木島沖で・・・」という展開ではなさそうですが,何となく気になりますね。
...2005/05/28(Sat) 23:23 ID:HPG9XcWc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
6月29日は「赤い疑惑2005」最終話の放送日です(^^)
...2005/05/28(Sat) 23:27 ID:R6NrMCR.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
朔五郎さん
「赤い」シリーズと「あいくるしい」を併せたようなストーリーを楽しませていただきました。
廣瀬真はこちらの世界でも最愛の人を亡くした可愛そうな役回りなんですね。綾子がメッセンジャーをやってたとなると、「律子」の役回りだったのですね。
緒形先生に新しい恋人が早く現れてほしいですね。例えば、昔手話をやっていて、「うれピー」を連発したあの方とか・・・
...2005/05/29(Sun) 00:53 ID:IAHObMrk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO

緒形先生の新恋人について、想像してしまいました。
松山の道後温泉の旅館で仲居をやっていて、ソフトボール好きの中学生くらいの娘がいるとか(いわゆるシングルマザーです)・・・

あ、これは悪フザケが過ぎました、スミマセン
...2005/05/29(Sun) 01:54 ID:IAHObMrk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア

>あ、これは悪フザケが過ぎました

 松山出身の俳人・正岡子規が野球用語のいくつかを邦訳し,野球の殿堂入りをしており,夏目漱石とも親交があったことを考えると,朝ドラ+坊ちゃん(道後温泉も舞台として登場)のストーリーに野球好きの俳人が登場という線もアリかもしれません。
...2005/05/29(Sun) 05:50 ID:xaoTDHzE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
お疲れ様です。
今回も読ませていただきました。
真の意外な過去ということで、興味津々です。
SATO様もおっしゃてましたが、真はそちらにせよ、大切な人間をなくす宿命なのでしょうか?
なんか、ドラマで亜紀が白血病になってしまったのも、真に神様が意地悪しているように思えてしまいました。
私のストーリーに感想を頂きましてありがとうございます。これからもお互いに頑張っていきましょう。
...2005/05/29(Sun) 19:19 ID:x.srlg1.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
「赤い●●」放送日まであと11日となりました。
「H2」の録画見ていて思ったのですが、このドラマの中では元気イッパイの石原さとみサン・佐藤めぐみサンは、二人とも間もなく白血病で倒れる役柄なのですね。感無量です。

石原サンはこれまで元気な青春モノで輝いていましたが、赤いシリーズの幸子・大河ドラマの静御前とシリアスが役が続きますね。今後の役者としての成長が楽しみです。
佐藤サンは舞台「セカチュー」後はOLや教師などを演じるところも観てみたいですね。
...2005/06/04(Sat) 01:16 ID:XDp3LmcY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
石原さん、佐藤さんは、次回作で二人とも白血病になってしまう役柄のわけですが、実は「○○疑惑」「舞台○○チュー」ともに「死んでしまう」と発表されてはいないのですね。
果たして「ドンデン返し」はあるのでしょうか・・・
...2005/06/04(Sat) 20:59 ID:bhfrNPYY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
>白血病になってしまう役柄のわけですが、実は「死んでしまう」と発表されてはいないのですね。果たして「ドンデン返し」はあるのでしょうか・・・

 朔五郎さんも悩ましい問いかけをなさいますね。
 確かに,主人公にとって悲劇的な結末となる物語に対して「何とか救いを」という願いは,古くは義経ジンギスカン伝説がありますし,「フランダースの犬」にしても,ラストシーンを教会の絵を見せてもらうストーリーに変更したものが存在することも事実です。
 セカチューの場合も,亜紀を何とか助けたいというファンの願いがアナザーストーリーとなって書き継がれています。ただ,私たちは「原作」と「ファンの願い」をともに知った上で,派生作品として楽しんでいる(たー坊さん,グーテンベルクさん。失礼な言い方でしたら,ごめんなさい)訳ですから,最初から結末を変更する前提で「舞台化」するとなると,話は別です。ちょうど別スレに朔五郎さんも書かれているとおり,この物語におけるヒロイン病気は,あるテーマを描く上での必須の設定なのですから。

 以下,ご参考までに,今は過去ログ入りした「舞台版」スレへの書き込みを一部要約したり加筆したりした上で再掲します。

 前情報だけであれこれ判断するのは避けたいとは思いますが,「セカチュー」が「ある愛の詩」や「愛と死を見つめて」ではなく何故「セカチュー」なのかというレーゾン・デートルだけは踏み外して欲しくないのです。
 原作の冒頭を思い出してください。この物語は2人の出会いから始まっているのではありません。散骨のために空港へ向かうシーンからスタートしているのです。ドラマのオープニングも亜紀を撒こうとして撒けず,ウルルの大地で絶叫するシーンです。
 物語は結局,乾いた大地に亜紀を撒くことに違和感を感じたサクが散骨にふさわしい場所を捜し求め,最後に自分たちが日常を送った場所である学校で亜紀を送るという結末を迎えます。つまり,散骨という形で亜紀を送るラストから逆算した回想というのが,この物語の根本の構造であり,テーマなのです。また,亜紀を亡くした後のサクを描いたからこそ,「世界の中心」という題名との関連付けも生まれてくるのです。
 そう考えると,もし,舞台が主人公の回想としての「劇中劇」として使われた「純愛物語」に特化して描くのだとすると,根本のテーマを省略することになってしまいますし,原作を知らない人には「題名」との関係が説明できないでしょう。
 ウェーバーの名作に「舞踏への勧誘」という小品があります。メインは題名のとおりロンド形式で展開されるワルツですが,単なる舞曲ではなく,題名に「勧誘」とあるとおり,舞踏会場で知り合った人をフロアに誘い,踊り終わった後,席まで送り届けるという情景を描写したものになっています。だから,舞曲が完全終止をした後に11小節の後奏が付いているのです。これを蛇足とばかりに完全にカットしてしまったのがトスカニーニですが,いくら世界的な名指揮者とはいえ,根幹のテーマをカットしてしまったその演奏に拍手する人はいなかったそうです。
 今回の演出がトスカニーニの二の舞にならないことを祈っています。
...2005/06/04(Sat) 22:55 ID:YD9aSwkE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさん
私も、もちろん「セカチュー」が単純な純愛物語だとは思っておりません。こちらはおそらく「同じ結末」を迎えるのでしょう。
可能性があるのは「○○疑惑」のほうで、あらすじの中に「わずかな治癒の可能性」というような表現があるので、もしや、と思っているのですが(^^;;;ただ、こちらは生き残ったとしても、決して結ばれない運命なのですが・・・

ところで、「赤い運命」について、あるパスワードを発見しました。
伊勢湾台風で親とはぐれた二人の女の子。その二人が親と再会するのが「17年後」なのです。

赤い疑惑:○○病
赤い運命:17年後の再会
赤い衝撃:女子スプリンター

偶然でしょうか、これ?(笑)
...2005/06/05(Sun) 21:28 ID:i75Gqpho    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 朔五郎様
 あの病気(赤い疑惑)に17年後の再会(赤い運命),そしてスプリンター(赤い衝撃)とは,偶然の符合にしては何とも揃い過ぎですね。
 70年代後半の放映ですから,1959年生まれの片山さんがちょうど多感な青春時代を過ごされた(であろう)時期と重なるのですが,「17年後」と「陸上」というのは映画以降の設定でしたね。テレビ版の堤監督と片山さんはほぼ同世代ですが,映画の行定監督は1回り下ですから,放映時はまだ小学生だった筈ですよね。相当に印象が強烈だったのでしょうか。

 それから,舞台版についてですが,主人公が部活で格技をやっているというのは設定を原作に戻した感じですが,ヒロインを「複雑な家庭事情を抱えた存在」として描くというのは,新たな切り口ですね。まさか,朝ドラに刺激された訳ではないでしょうが・・・
 それはともかく,配役表を見ての一抹の不安は,「2人の結末」は原作どおりとしても,その後の「本当の結末」が描かれるのかどうかという点なのですね。まあ,田中君は高校生も漁師もインターンもこなすなど,芸域は広いですから,高校時代の主人公と「その後」の主人公を演じ分けることもできるとは思いますが・・・
...2005/06/05(Sun) 22:35 ID:sd3Ez7WA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
これはあくまで朔五郎の主観ですが、原作ではラストの散骨のシーンは2000年、アキの死から8年後であると思います。
これはもちろん、1990年、サクとアキが中学3年の時、10年後二人が25歳の時にはどうなっているかわからないと会話をしているためです。作品全体の骨組みを決める時に、やはりここには「どうなるかわからないと言った10年後」の情景を持ってくるのが自然だと思うからです。
いずれにせよ、サクも新しい恋人?も20代半ばくらいでしょうから、田中クンと佐藤サンで十分演じられると思います。
この場合、佐藤サンは、アキと新しい恋人の二役ということになるのではないでしょうか。
舞台の演出ではドラマほどのリアリティは必要でなく、「アキそっくりの別の女性にその思いが受け継がれる」というような、ちょっとウソっぽい、いかにも「お芝居」という感じの演出が案外ハマるのではないかと思います。
観客の方からすると、アキが死んで悲しみに沈んでいる時、ラストシーンでまるでアキが蘇ったかのような元気な女性が現れるというのは、ものすごく大きな救いになると思うのです。
もし朔五郎が演出するなら、オープニングはこの中学校の校庭のシーンにして、新しい恋人の姿を見ながらアキと過ごした日々を回想する、というようになると思います。
「10年前、ぼくはこの中学校でアキという少女に出会った」というような感じのセリフで回想のシーンに入って行くと思います。
...2005/06/06(Mon) 01:56 ID:s/A2MNzI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 やはり,朔五郎さんも2000年説を採っておいででしたか。
 原作の201頁には「この10年ほどの間に」とあるだけで,「10年」の起算点がどこかは明示されていません。2人の交際期間が高2のわずか半年足らずの映画やドラマと異なり,原作は中2から高2までの複数年を描いているため,単に「何年」と言っても,それが直ちに「亜紀のいない世界に何年」とは即断できないのですね。
 ですから,論理的可能性としては,@亜紀と知り合ってから(サクの人生に「亜紀のいる世界」という定義付けがなされてから)10年,A亜紀が亡くなってから(亜紀のいない世界に)10年,B2人にとって特別な意味づけが与えられる交際期間中のある時点から10年の3種類がありうることになります。
 そして,どの解釈を採るかの決め手ですが,朔五郎さんもおっしゃるとおり,ある時点から将来に向けて「10年後」の会話を交わしている部分が作中に1箇所存在しているということに注目すべきだと思います。この部分とは原作の18〜19頁ですが,10年後には生態系が破壊されているかもしれないというサクに対して,亜紀は「(私たちも)どうなるかわからない」と語っています。とすると,「どうなるか判らない」ままお終いにするのではなく,それに対応したシーンがあって然るべきですし,そこに散骨のラストシーンを持ってくるのが最も自然だと私も思います。

 演出的には,ドラマが「亜紀のいない世界にもう17年もいる」というナレーションで始まり,映画の冒頭近くにいきなり律子が登場したことを考えれば,新しい恋人と郷里を訪ねたサクの回想という形で幕を開けるという朔五郎さんのアイデアもなかなかよさそうですね。
...2005/06/06(Mon) 03:32 ID:rfEou48U    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
制作にTBSが深くかかわり、宣伝にも「かたちあるもの」や「ドラマ名場面集」が使われているところを見ると、おそらくドラマ版に近いストーリーになるのでしょうね。
ただ、映画版、ドラマ版の最大の泣き所は、いかに緊急事態とはいえ、付き合い始めてわずか数カ月で、結婚を意識し、最後はほとんど心中行に近い行動を取るという不自然さです。ことにドラマ版では交友関係など、あれだけ丁寧に描いたのだから、主人公の時間軸をもう少し長く取ってキチンと創っても良かったのではないかと思うのです。
たとえば原作では「一緒にいるとその人の嫌なところも目にするじゃない」というアキの言葉に対して「ぼくたちは二年近く付き合ってるけど、ちっとも飽きないじゃない」というサクのセリフが見事にハマっているのです。映画やドラマでは、この会話は成立しないわけで、ちょっと淋しい気がします。
というわけで、舞台版では「原作回帰」ということで、せめて高校入学のあたりから始まって欲しかったのですが、ムリでしょうね、きっと(苦笑)
...2005/06/08(Wed) 00:58 ID:.7rFTEWc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 確かに朔五郎さんの言われるとおり,映像化にあたり,原作の数年間を高2のわずか半年に凝縮して描いたために,「(急な重病という)緊急事態とはいえ、わずか数カ月で、結婚を意識し、最後はほとんど心中行」という猛スピードで駆け抜けた形になっています。まるで亜紀の人生そのもののように。
 それと,もう一回つくるとしたらという問題の立て方をした場合によく登場するリクエストが「連休の動物園」ですが,これなどは,原作の時間軸を縮めたためにカットされたエピソードと言えます。

 ところが,原作並みに時間軸を取って描いた場合,今度は3〜4年分の物語を描くにはエピソードが足りないという問題が生じてきます。つまり,原作の時間軸の長さはエピソードの積み重ねというよりも,時期も特定した反復の構図という構成上,設定が複数年にまたがらざるをえない構造になっているという面もあるのですね。とすると,第4話のようなサイドストーリーをもっと入れるか,シーンの切り替わりの度に「翌年」とか「○月」とかいった字幕を挟むといった対応が必要になってきます。
 もっとも,この点の問題は高校入学からの2年間ということにすれば何とかなる範囲かもしれません。動物園のエピソードも入れられますし,アナザーストーリーの世界でしか味わえない「聖夜」や「年越し」のシーンも見てみたいですよね。

 ただ,高校入学から描いた場合でも,ネックがない訳ではありません。まず,2人の出会いをいつに設定するかという問題です。先生の葬儀を映画やドラマのように1学期にすると,「亜紀も先生も2学期の初めに入院し年末に葬儀」という原作の反復の構図は崩れたままですし,原作どおり年末に持ってくると,それまでの「同じクラスだが交際するには至っていない」期間をどう描くかという問題が出てきます。
 ここを原作では,サクも学級委員にすることで,「個人的な交際には至らないまでも,常に接触のある(ありうる)関係」として描いています。舞台版では,剣道をやるという点ではサクの設定を原作に戻していますが,映画やドラマのサクのキャラに馴染んだ人たちにとって,この上,学級委員という設定にまでした場合のサクのキャラがどう映るか,ちょっと悩ましいところではあります。

 でも,確かに,「二年近く付き合ってるけど、ちっとも飽きない」というセリフが直後に用意されている原作の方が「一緒にいると嫌なところも目にする(74頁。ドラマでは第2話)」以下のやりとりが「仮定の話」以上の現実味を伴って生きてくるという面はありますね。
 皆さんはいかがですか。
...2005/06/08(Wed) 06:59 ID:5AgtWkBk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
ドラマについては、実際に映像化する部分は「最後の3か月」で良いと思うのです。ただ、回想みたいな形で「図書館で、一緒に高校受験の勉強をしたね」とか一言入れておけば、二人はある程度の期間交際していたということを表現することができます。堤幸彦氏ほどのディレクターなら、そのへんの処理は簡単にできたでしょう。
数か月の間にすべてを凝縮することで「足速いんだもん」という言葉を生み出したのかもしれませんね。
...2005/06/09(Thu) 00:06 ID:0.W5488o    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
朔五郎さま、にわかマニアさま
いよいよ今週15日が「赤い疑惑」放送日です。楽しみですね。
その後の朔太郎は・・・にお二人とも関心がおありのようですが、私は原作に名前の無い女性がラストに登場したので、映画の律子・ドラマの小林明希はその女性にあたる人物だと、ある意味安心していました。ですので、舞台でも新たな女性が現れて朔の気持ちの救いになってくれることを期待しています。イメージ的には、朔五郎さんの「仮想舞台」のラストに登場した、大学の同級生が近いですね。
...2005/06/12(Sun) 16:49 ID:Fhv7EeBk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
226の続きです

夢見るジュリエット(7) 最期の選択2

難波大学医学部付属病院血液科教授・里見洋介は、教授室の窓から大阪の空を血の色に染める夕焼けを見ていた。
・・・まるで空が泣いているようだ。
気を取り直して、新規入院患者についての報告を聞く。
「急性白血病、まだ17歳か」
かわいそうに、そんな言葉を呑み込んで一人の医師を呼んだ。
「財前君」
「はい」
財前ナオミは里見の方へ歩み寄った。
「君にこの患者の主治医をやってもらいたい」
「急性白血病ですね」
1960年代、急性白血病についてはまだ有効な治療法が確立していなかった。対症療法に終始し、患者は4〜6ヶ月で死を迎えることが多かった。
「まあ、気が重いだろうが引き受けてくれ。患者は多感な少女だ。女性の君の方が何かとわかることも多いと思ってね」
「はい、私で力になれれば。でも先生、この子には気の毒ですけど、やはり治癒は難しいのではないかと・・・」
里見は苦渋の色を僅かに浮かべながら言った。
「うん、やはり患者の身体的、精神的苦痛を和らげることに目標を置かざるを得ないだろうな。瀬戸君に手伝ってもらってくれ」
「はい」
財前にとって、瀬戸正樹は気の置けない後輩だった。年齢が離れているにもかかわらず不思議とウマが合い、週に1、2度飲みに行ったりしていた。
「あれ、またスケ殿に難しい患者を押し付けられちゃったんですか」
「瀬戸君、教授のことをスケ殿なんて」
「みんな言ってますよ。じゃ、鎌倉殿にしときますか?」
医師たちは、里見のことを半分親しみも込めて「スケ殿」、里見が神奈川県鎌倉市の出身であることから「鎌倉殿」などと呼んでいた。
財前は苦笑しながら言った。
「話は聞いてる?」
「ええ。しかし残念ながら白血病となると、戦おうにも有効な武器がない・・・やはり、長くて半年でしょうね」
「どうするべきかしら・・・」
「残された時間を彼女らしく過ごせるように考えるべきじゃないでしょうか」
「彼女らしく、ね・・・」
「E.キューブラー・ロスという精神医学者が死にゆく患者の心理的なプロセスを5段階で説明しています。まず、第一段階は否認です」
「それはそうでしょうね」
「これは文字通り、死という運命を拒絶することですが、ロスによれば変わった方法で表現されることもあるようです。つまり、病気のことなど忘れたかのように、以前よりむしろ元気に行動したりすることがあるということです」
「そうやって、死が近づくことを打ち消そうとするわけね」
「はい。ぼくの知っている患者、やはり高校生の女の子なんですけど、一時帰宅の許可を出したら、一日だけ登校したようです。付き合ってる彼と海を見に行ったり、本当に元気に楽しく過ごしたようですよ」
「そう・・・」
「やがて、患者は怒りに燃えるようになります。例の少女の場合、届けられた修学旅行のパンフレット、当然自分は行けないわけですが、それを床に叩き付けたりしました。怒りは周囲の人々、時には医療スタッフに向けられることもあります。なぜ自分だけが死ななければならないのか、いったい誰のせいなのか、というようにね」
「そういう例は私も経験したことがあるわ。健康な人々に対する羨望、恨み、ひがみみたいな感情が噴出することもあるわね」
「次の段階は取引です。神様や運命と取引をして死を避けようとします。さっきの少女の場合はちょっと変わってまして、彼氏のほうが、自分のプラス分をまわしといたから、とか、自分のほうが病気になる代わりに彼女が助かってほしい、とかね。厳密にいえば違うんでしょうけど、いかに二人の心の絆が強かったかがわかりましたよ」
「なるほどね」
「やがて、患者は抑うつ状態に陥ります。危険な状態です。絶望して無気力になったり、自殺しようとしたり・・・」
「私、交際相手が見るに見かねて、患者を連れ出してしまったという話を聞いたことがある」
「あれは有名な話ですからね。それをすれば患者が死に至ることがほぼ確実だと知っていながら実行してしまった」
「私ね、あれは医療スタッフの責任が重大だと思うわ。監視が甘かったという意味じゃないわよ。あの若い二人が心理的にあそこまで追い詰められているのに、プロであるスタッフはいったい何をやってたんだろう」
「心理学的なフォローは、患者本人だけじゃなく、家族やパートナーも含めて行うべきです」
「私もね、小児ガンの子供の母親が1か月位で疲れ果てて、まるで別人のよう表情になってしまうのを何度も見たわ。ある意味、本当につらいのは周りの人だったりするのよね」
「・・・そして患者によっては、最後には運命に対して怒りも抑うつも感じない段階に達します。一見、運命を受容したかのようにね」

宇和島から見舞いにやってきた真は、桃子の病室から出てきたところで財前医師に呼び止められた。
財前に促されて別室に入る。
「君、山口桃子さんと付き合ってるの?」
「はい」
「そう・・・キスとかもする?」
真は真っ赤になってうつむいた。
「もう高校生だからそういうこともあるかもしれないけど、桃子さん、身体の抵抗力が低下してて感染症を起こしやすくなってるの。だから、なるべくなら避けて欲しいの」
「・・・・・」
「彼女ね・・・」
「桃子のお母さんから聞きました。もう3か月位しか生きられないって。桃子も薄々感じているみたいで・・・」
「何か言ってた?」
「こうしていると、生きているのか死んでいるのかわからなくなるって・・・宇和島に帰りたい。宇和島の石応(こくぼ)の海が見たいって」
「どうして?」
「石応には彼女の家があって・・・島が見えるんです、高島っていう島が」
「うん」
「桃子は世界で一番美しい海だって。一度しかない最期なら、石応の、世界で一番美しい海を見たいって言いました」
「うん、ありがとう。とても参考になったわ」
「はい」
「あなた、名前は?」
「真です。廣瀬真です」
「真くん。これからみんなで、桃子さんにとって何が最善かを考えて行かなけりゃいけない。これだけは忘れないで・・・自分たちだけで悩まないで。自分たちを追い詰めないで・・・」

(続く)  
*次回予告 夢見るジュリエット(8)最期の選択3
...2005/06/13(Mon) 00:01 ID:9shNNId2    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 う〜ん。またしても朔五郎さんのフェイントに引っかかってしまった!
 普通,病院が舞台で,「財前君」と言えば,白い巨塔をイメージしてしまうじゃないですか。それが尼将軍と鎌倉殿のことだったとは・・・
 まさか,この医局では,緊急オペのことを「いざ鎌倉」と呼んでいたりして・・・(^^ゞ
 ところで,真は桃子の父から「他にやることは」とか「挨拶は」って言われた時,フリーズせずにきちんと受け答えできたのでしょうか。
...2005/06/13(Mon) 00:13 ID:Jvnxuqoc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
今回も読ませていただきました。
う〜ん・・・・・・切ないです。
「キスもするのか?」と聞かれた真の様子に、朔を重ねてしまいました。
私のストーリーでは、恥ずかしがることもなくなってきた朔ですが、次第に大胆な行動に出て行くのかと思っております。同じように、この物語の高校生の真も、別の意味で大胆な行動に出るのか?と予想しております。未来に生まれてくる娘とその恋人が、ドラマの中でしたように・・・・・・。
次回も楽しみにしております。
...2005/06/14(Tue) 21:02 ID:Y.JyDB5A    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
「白」「赤」「あい・・・」に「大河」も入り混じったストーリーで楽しくなってきましたね。
私もたー坊さんと同じく、17歳(?)の真が朔とダブってしまいました。すると15歳(?)の綾子が律子や明希と重なってくるのでしょうか?
...2005/06/14(Tue) 23:59 ID:CvesiJ7k    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
「赤い疑惑」を観ました。

石原さとみ嬢をはじめ、出演者の皆さんが演技が上手でドラマの世界に引き込まれました。
ところで、「17年間」のキーワードが随所に出てきました(沖縄の叔母=実は幸子の産みの母が17年振りに東京へ戻る、17年間大切に育てた娘等々)が、オリジナルでも元々あった内容なのでしょうか?
17年→朔太郎の失意の日々→セカチューを連想してしまうもので・・・

幸子に会いに来た光男が幸子の父親から門前払いを食らいますが、30年前のオリジナルでは真さんじゃなかった、三浦さんがやられたわけですね。その時の辛い体験が朔に対する態度に表れたというのは考えすぎですか・・・
...2005/06/16(Thu) 19:17 ID:XRjhCNXo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:セカチュウ中毒親父
「17年間」というキーワードはこれからの他の「赤い」シリーズでも、出てきます。
「疑惑」で、オリジナルでは幸子の実母は当時パリ在住の岸恵子さんの役でしたので、そのままパリに行っていたことになっていました。
他の「赤い」シリーズも基本的には、山口百恵さんを主役にしていますで、17年がキーワードになります。
...2005/06/19(Sun) 18:17 ID:/SEDtz.c    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま、たー坊さま、SATOさま
ご感想ありがとうございました。
真と桃子の父との関係は、朔と真の関係とは、また違う感じです(^^)
真は大胆な行動に出ます。が、「ドラマの中の娘とその彼氏」とは一味違う結末になるでしょう。
現在制作中ですので、もう少しお待ちください(^^)
...2005/06/19(Sun) 22:13 ID:ScFjZyHs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
朔五郎さん、勝手に幕間を利用することをお許しください。
終わりにしよう、しようと考えましたがなかなかセカチュウの世界から抜け出せない自分でした。先週、1日だけポッカリ休みが取れました。それで、今日の二日間で残った短編をつなげ構成を完成しましたので掲載します。10話になります。
もうすぐ、あれから1年が経ちますね。使わずに残った短編は全て削除しましたので、やっと卒業できそうです。
新解釈残されたテープから思い出編3までに、ドラマの中で私が疑問に思った事柄を全て収めてあります。よろしかったら読んでください。
朔五郎さん、にわかマニアさん、SATOさん、たかさん、ごろさん、yosiさん、他多くの皆様ありがとうございました。お蔭様で楽しい1年間でした。(By Apo.)


−思い出編3−
57

(友達)
亜紀が亡くなってから、数日が経ったある日のこと。
部屋でくすぶり続ける朔のところに、突然、坊主が入ってきた。
「よう! センチメンタルジャーニー!」
夢島で過ごした亜紀の写真を手にとって見つめている。寝転がりながら、薄っすら涙を浮かべ亜紀との交換テープをウォークマンで聴いいていた。
坊主が言った言葉は亜紀との思い出に慕っているそんな朔を、一言で言い表していた。
「何やっているんだよ。朔―。防波堤で、みんな待っているからさー。さあ、行こうぜ」と、起こしにかかる。
「何で、何で、だよ。俺は、いいよ。一人にしておいてくれ」と、坊主の腕を振り払った。
「だめだよ。今日は。みんな、心配して、朔を待っているんだって。自分でそう言ってくれよ。俺は連れ出す役目だから、サー。俺一人で戻れないよ」と、言いながら、煮え切らない朔の態度にいらだつ顔つきになっていた。
その様子から、坊主がどうしても自分を連れ出すつもりでいることが理解できた。それで、しぶしぶ坊主の後に続いて外に出る。何日ぶりかの外の空気だった。いつの間にか秋が深まってきている。夕方近くの時刻だったので、少し肌寒さを感じた。
潤一郎と富子、少し離れて芙美子が窓越しに二人を見守っていた。心配顔だった。

やって来た朔の顔色を見た智世は少し安心したようだった。病気ではないかと心配していたのだ。
「亜紀。朔には元気でいて欲しいって思っていると思うんだ」と、言って朔の反応を覗った。
戸惑う智世を見た介が続ける。「気持ちは分かるけどサー。焼香だけでもしに行こうよ。亜紀ちゃん、お前さんに会いたがって…」
すると、亜紀の死をまだ完全に受け入れていない朔は、膨れて、「誰が言ったの?誰か亜紀に会ったの?」と、投げやりな態度をとった。
業を煮やした坊主が近づき、「逢える訳ないだろう。…遇える訳ないだろう」と、朔に突っかかる。
介が、「やめろ、って。…」と言うが、坊主は続けた。「お前が一番よく知っているだろう。最後まで一緒にいた、お前が。お前が…」
坊主は今にも泣き出しそうだった。朔みたいに、自分も腑抜けの状態になれたら、どんなに気が楽だろうと思うのだった。
介が「大丈夫か。お前さん」と、慰めるように言うと朔が本音を言った。
「寝ていると遭えるんだ。亜紀に。夢見ているときは、これが夢だって思わないじゃん。…そのうち、目、覚めなくなったりしてサ」
皮肉が込められていると感じた介が思いっきり殴った。亜紀が朔に夢を託していることに気がついていないと思ったから。
朔の首根っこを掴んで揺すりながら、「痛てーだろう。腹減るだろ。寝るだろ。起きるだろ。クソするだろ。なあー。なあ。廣瀬が一番欲しかったもの、お前さんは持っているんだよ。おーい。おい」 
介は悔しくて泣いていた。坊主も智世も泣いている。3人共、今まで我慢していた気持ちを吐き出しているようだった。
次第に、閉ざされた朔の心が洗い流されて、…いく。
暫らく、沈黙が続いた。
朔は介たちの気持ちが手に取るようにわかった。
…「みんなも同じなんだ。俺一人じゃないんだ」…
甘えていた自分が恥ずかしくなった。反省しなければと、そう思った。

坊主が溜まっていた感情を告白した。
「…俺な。廣瀬が智世と話しているのを聞いてしまったんだ。それで、誕生日が分ってサ。廣瀬はウォークマンが欲しくて、ミュージックウェーブに葉書を投稿していることも。それ以来。…それをプレゼントして、『好きです』って告白しようと、ずっーと考えていたんだ。本を読んで、どうやって言おうかって、ね。…廣瀬のこと、入学以来憧れていたからサ。…それで朔に葉書を書いてもらって、あわよくば、景品を当てようと考えついたんだ。お金が無かったから。…学校の階段で、廣瀬が朔に食ってかかっていたのを聞いたときは、俺…馬鹿にされていたように思ったんだ。…朔と亜紀がつき合っていたなんてまったく気が付かなくて。介から聞いて悪いことしたと思ったよ。…たこ焼きパパさんで『悪いが廣瀬のことあきらめてくれ。廣瀬は朔のことが好きなんだ』と、介に言われた。で…そ、その後、…朔の性格を知っているから。潔く応援しようと思ったけど、未練は残っていたよ。景品のウォークマンを朔に渡したときもまだ未練タラタラだった。…図書室で、安浦に朔が食ってかかったときに解ったんだ。おれはあんなに真剣になれないって。…それからは、未練を断ち切るように、朔と廣瀬を応援することに生き甲斐を見つけようって思ったんだ。二人が幸せになれば俺も満足だと思えるように。…今から思うと、かたちは違っているけど、それも愛情だったんだなって。…笑っている廣瀬にやっと好きでしたって言えたよ。俺の初恋に別れを言えたんだ。…。…廣瀬が残してくれたテープを聴いたとき、はっきり解ったよ。俺は坊主に向いているんだと。友達が幸せになることに喜びを感じる様になっていた自分が…。…でも、結果として友達が不幸になったら、すごく落ち込む…。耐えられないくらい…悲しみを感じたんだよ。…朔、な。だから…」
朔は心の中が感謝の気持ちでいっぱいになった。
…(坊主は思い出していた。楽しそうな亜紀と智世の会話を)…
陸上の練習が終わって帰り道、亜紀と智世は話しながら歩いていた。少し離れて坊主がいるのに気がつかない。
二人とも声が大きいので会話がよく聞き取れた。
「亜紀―。もう直ぐ誕生日だね。7月2日。誕生日のプレゼント何がほしい?」
「智世。無理だよ。私の欲しいもの、高いもん。プレゼントしてくれる気持ちだけで嬉しいよ。だから、気にしないでね」
「じゃーさ。参考までに教えてよ」
「うーん。ウォークマン!」
「それって、カセットテープを入れて聞くやつだよね。持ち運びができて、歩きながら。イヤホンで…」
「うん、そうだよ。ミュージックウェーブって、ラジオ番組知ってる?それに投稿して最後に読まれるとね、景品に貰えるんだ。ウォークマン」
「お父さんに、買ってもらえば。誕生日のプレゼントに」
「それこそ無理だってば。勉強の妨げになってしまうと、そう思ってしまうから」
「そうだよね。亜紀のお父さんって、厳しんだよね。信じられないくらいに」
「うん。どうなのかな…? 智世のお父さんはどうなのよ」
「うち? うちは、もう暢気なもんよ。娘が何処の誰と付き合おうが平気みたい。…そんなにモテないと思い込んでいるようだから。いつも、テレビ番組を録画しているわ。それで、ちっとも見ないのよ。…この間まで大変だったんだから。ベータかVHSかってね。やっと買ったと思ったら録画するのに夢中になって。かわりに私が見てあげているんだけどね。…でもね。アッコにおまかせと風雲たけし城は必ず見ているの。どうなっているんでしょうね」
「いいな。父娘(おやこ)仲良しで、気が合って。羨ましいよ」
「亜紀はお父さんと仲が悪いの?」
「う、うーん。別に悪くはないと思うよ。唯ね。性格が似ているから衝突するみたい。母が言っていたのよ。負けず嫌いも度を越すと見ている者はたまらないって。頑固で、一生懸命で、頑張っている父のそういうところに母は引かれるみたいだけどね」
「そうなんだ。亜紀はお父さん似なのか。…自分に厳しすぎる性格なので、逆に、のんびり屋さんと気が合うって訳?」
「そうみたいね。智世の性格」
「あちゃー。自分で言っているんだから。私っておっちょこちょいもいいところだよね」
「そうだね。だから大好きかな。アハハハ」
「んーん。亜紀―。私って何なのよ。まぁ、いいか。当たっているもんね。ハハハ」

...2005/06/20(Mon) 00:21 ID:64eHO2es    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
58

(友達)2
続けて智世も告白した。
「私ね。…朔が毎日、亜紀のお見舞いに行っていたのが、すごく羨ましかったの。それで、最初はイタズラしてやろうと思っていたんだけどね。朔がラブレターもらったでしょう。それをチクッ、たのよね。…亜紀は平気そうな顔していたけど、恐らく不安でたまらなかったでしょうね?フフフ…暫らくして、朔が病室に来たとき目つきが変わったのが分かったもの。…。…。でも、その後、うまく解決したでしょう?…二人、ますます仲良くなったのかもね。…亜紀は毎日退屈で、不安で、堪らなかったんじゃないかって、思っていて。…私から、少し不安材料を与えて、その後直ぐに解決してしまったら、二度と不安心が起きなくなると思ったんだ。…刺激が無くて平凡過ぎると、余計なことまで考えてしまうらしいから。亜紀もそんな時期かなと思って。…。…。別に、私の経験の話じゃないよ。…。…刺激が強すぎても逆効果になるっていうか…」
介が「ゴ、ホン」と咳払いをした。
智世は続けた。「亜紀がね。私に、『いつまでも変わらないでね』って言い残してくれたの。私、一生変わらないわ。それで、亜紀との楽しかった思い出を大切にするの。…。…。何、言っているんだろう。私。…。…あのね。入院している亜紀が朔のことばかり考えているのって。それって、すごく幸せなことだと思ったの。二人のことだけを。…だって、私がお見舞いに行っても、『朔がね…。朔がね…』って、朔のことばかり話すんだもの。そのとき、分かったの。亜紀は幸せなんだって。だから、朔も…。幸せだったって思っていて欲しいの。私…」 とうとう、泣き出してしまった。

暫らくして、介が言った。
「俺さ。亜紀ちゃんから頼まれたんだよ。朔ちゃんを宜しくってね。それから、少し、似ているんだってさ、小心者のところが。
俺のことを言っているのは当たっているけど、亜紀ちゃんは小心者なんかじゃないと思うよ。朔と親しくなる前のことだったら、そうなのかもしれなけど、絶対、勇気があったと思う。…朔ちゃんに残した夢は偉大だよ。夢を託したんじゃないのかな。俺、そう思うんだ。…俺たちは亜紀ちゃんから生きる喜びを教えてもらってサー。そして、亜紀ちゃんの夢を託されたんだよ。だから、しっかりと受け止めてあげないといけないと思うんだ。そうなんだよ。…な。朔ちゃん。そして、みんな夢を実現するんだよ。これから一生をかけて…」
4人、亜紀のことを思い浮かべて泣いていた。
朔は決心した。友人を大切にしなくては。友情を裏切るようなことをしてはならないと。それぞれに、亜紀との関わりがあって、介たちも哀しみに堪えているんだ。自分一人だけが特別じゃないんだ。打ちひしがれてばかりではいけないと思った。

その日から、徐々に昔の朔に戻っていったように見えた。でも、内心は少しも変わってはいなかった。
何度もお焼香に行こうと思い立つことがあった。でも、亜紀の墓前に佇む自分の姿を思い描くと、心が壊れてしまいそうに思えて仕方がない。亜紀と過ごした夏を思い出にすることは、亜紀が居なかったのだといっているようなものだ。忘れ去ってしまうことだと思えるのだった。亜紀が死んだことを忘れないため、亜紀と過ごした夏を思い出にしないために小瓶に入れた遺灰を肌身離さず持ち運ぶようになった。朔の心の時計は10月23日、17歳の誕生日で止まってしまった。
その後、朔の方から亜紀のことを話題にすることは無かった。亜紀の話に加わることも。17年後の2004年まで。


…「あの日、以来だね。朔ちゃん。あれからは亜紀ちゃんのこと喋らなくなって…。毎日、猛勉強していたんだよな。まさか、お医者さんになるつもりだったって、ぜんぜん知らなかったよ。お前さん。…よーく、頑張ったな。すごいことだよ」…
介は思い出に耽っていた。

(大木親子)
謙太郎から父親との関係を聞いてから数日が経っていた。
晩酌している龍也の傍で、介はお酌をする風で実は盗み飲みをしていた。未成年者が飲酒することを公に認められないので、龍也は黙認していた。龍也も同じ年頃には謙太郎のお酒を盗み飲みしていたのだった。

「龍之介、謙兄から聞いたと思うが、私にとって兄貴は大恩人であるのと、唯一の肉親だと思っているんだ。お前にとっても大切なおじいさんなんだよ」
隠して持っていた杯を一息に飲み干し、「ああ、分かっている。サトさんが残してくれたのが親父だと聞いたよ」
「兄貴がそれを話してくれたのかい。良かったなー。龍之介。それに、お前の名前は謙兄が付けてくれたんだよ」
龍也の顔を振り向きながら、「え、そうなの!おじいさんが名付け親なんだ。ゴットファーザーっていうこと?」と、ビックリした顔になった。
「まあ、今流に言えばそうなるかね」
「そうか。俺のゴットファーザーが朔ちゃんのおじいさんか…。良かったら、親父も聞かしてくれない?おじいさんとのこと」
「良いけど、何を聞いたんだ。謙兄に」
「闇市で親父を救った後、相棒に育てて、おじいさんがお縄になっている間にサトさんが亡くなったしまったこと。それと、サトさんと知り合い、付き合っていた経緯(いきさつ)を話してくれた。でも、闇市で何をしていたか、法に触れることだから勘弁してくれと言っていたよ…」
「そうかい。じゃ。サトさんが亡くなった後からのことを話そうかね。恐らく謙兄は誰かが聞いいても、絶対に語らないと思うよ。龍之介だから話したんだと思う。そんな気がするよ。お前は俺の若い頃にそっくりだからな。お前を見ていると、謙兄は俺と語り合った出来事を懐かしく思ったんだと思うよ。そうに違いないよ。…聞いたことを誰にも話すんじゃないよ。朔太郎君にはいずれ話すようなことになるかもしれないがね」
「ああ、分かっているよ。おじいさんからもそう、言われたんだ。朔ちゃんのことを頼むって。恋愛沙汰になりそうだからって」
「そうか。それって、廣瀬さん家(ち)の娘さんのことだね。お前のこと信頼しているようだね。謙兄は…」
…「あのときに会った、サトさんに似ているよなー。あの娘(こ)は…」…
ジッと遠くの過去に思い巡らすような眼差しになった。
そうして、龍也も謙太郎と同じように、昔の思い出を一言、一言かみ締めるように話し始めた。

介は正座して神妙な顔つきで聞いていた。
その日はとても蒸し暑い夜だった。
...2005/06/20(Mon) 19:48 ID:64eHO2es    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
59

(治と謙太郎)
サトの喪が明けた頃。
永田治夫婦を訪ね、位牌に手を合わせていると、後ろから話しかけられる。
「謙太郎さん。いつもすまないねえ。気にしなくていいんだよ。食べるのに困っていないから」
「いいえ、姉さん。サトさんの好物だったから。焼き芋。本当は栗が一番だったらしいけど、味が似ているって言っていましたから」
「そうなんですよ。よく覚えていてくれて。すみません。お供えしておきますね…」
良子は目頭をそっと押さえた。そう言って、部屋から出て行った。
治と二人きりになった。
「謙さん。そう、そろそろどうかね。嫁さんをもらわないかね。いい娘(こ)がいるんだよ」
「兄さん。私にはサトさんのことが…」
「わかっているよ。でもね。サトは死んでしまった。お前さんが人並みの人生を送らないと、死んだサトは浮かばれないよ。…それに私も、謙さんに幸せになってもらわないと、困るんだよ。サトが嫁ぐときに言ったんだ。『謙太郎さんには、楽しくて明るい家庭を持ってもらいたい』ってね」
返事をじっと待つ。
謙太郎は吹っ切れたように、「…。…。…。分かりました。兄さんのおっしゃることなら…」と、言った。
「そうかい。分かってくれたんだね。それでな。お前さんが、まるっきり知らない娘でもないし。この間、それとなく聞いてみたら、満更でもなかったよ。むしろ、お前さんのことを好いているように見えたんだが…」
「誰なんですか?いったい。思い当たる娘がいないんですが…」
謙太郎の顔色を覗いながら、「カメさんだよ。お前さんのことは幼い頃から知っていて、優しくしてくれたって言っていたぞ」
「カメなら洟垂れの頃から知っていますが…。そういえば、時々、サザエを持ってきてくれています。たくさん採れたので、お裾分けだって言っていました。私のほうが優しくしてもらっていると思いますが…」
ホッと、安心して、「ダメだねー。お前さんは。謙さんのことに好意を持っているってことじゃないか。それって…」
「サトさんと付き合っている頃から、ズーッとそうなんですよ。両親が幼い頃から可愛がっていましたから。それで、私は妹のように…」
「分かった。分かった。謙さんに異存がなかったら、話を進めるからね。いいね」と、強引に押し切った。
「…はい。兄さんがそうおっしゃるなら、承知…しました…」
良子は隣の部屋で二人の会話を聞いていた。お茶を出しながら、夫婦は安心したように頷きあった。
そうして、話がトントン拍子で進行していく。

(達也とカメ)
その1ヶ月前の出来事である。
海女をしていたカメは漁を終えて、宮浦漁港を通りかかる。そして、漁船の掃除をしていた男に声をかけた。
「精が出るね。えーと、龍さん?だったっ、け」
「ありがとうございます。海女の姉さん」
龍也は知っていた。若い海女達の頭として慕われているカメのことを。漁師になったころから、憧れるような存在だった。浜のことは知り尽くしていて、時には男たちに忠告することもある。今日は天候が変わるから北側の漁場が良いとか、情報をもたらしていた。漁師たちもそれが的を射た情報であったので一目置いていたのだ。
新米の龍也は空の雲を見て、その日の風がどうなるとか、雨になるとか検討もつかなかった。
「姉さん。サザエですか。いいですね。今夜はサザエを肴に一杯、グーっと」
「な、訳ないでしょう。お届けものだよ。あんた知っているでしょう。謙太郎さん。あの人の大好物だから」
「え、謙の兄(アニィ)、ご存知なんですか?」
「何言っているんだよ。子供の頃から知っているよ。時々ね。こうやってサザエを持っていくのが私の息抜きなのさ」
龍也は謙太郎からサトのことは聞いて知っていたが、カメのことは初めて知った。カメは謙太郎に、以前から好意を抱いていると、その時、感じたのだ。

数日経った。永田雑貨店にやってきた大木龍也は治から声をかけられる。
「龍さん。元気にやっているようだね。漁師の仕事はどうかね?」
「はい。旦那さん。お陰様で皆さんが親切にしてくれます。これも謙兄のお陰です」
「ところで、今日は何か。物要りかい?」
「はい。ナイフが欲しいのですが。持っていたのを誤って海に落としてしまいまして。切り身や釣具用に使いたいのです」
「それならいいのがあるよ。ほれ」と、言って棚から取り出した。
「いいですね。これ」
「これは、ドイツ製でね。めったに入手できない代物だよ。お前さんの、独り立ち祝いにどうかね」と、笑っている。
「いえ、まだ駆け出しです。…そんな、高価なものを。今はまだお金がないですが、いずれ必ず」
「アハハ。気にしない。気にしない。謙さんから、お前さんのことは聞いている。謙さんの弟分なら、私にも義弟というわけだからね。これも、サトのお陰だけどね。ところで、聞きたいことあるんだが…」
「はい。旦那さんのおっしゃることなら」
「謙さんにそろそろ身を固めて欲しいんだが。いい娘を知らないかね。謙さんがそんな娘(こ)のことを話したことはないかね。…私の前では、決して、サト以外の娘の話題なんてするような男ではないからね。家内の良子とも、気にしているんだよ。私ら夫婦が言い出さない限り、決して嫁なんてもらいそうにないからね。あの性格じゃ」
龍也は暫らく、話していいものか迷っていた。黙っている龍也を見た治はいい話を知っていると思った。
「嫁をもらうのは、お互いが納得したうえでなきゃいけないと思うんだ。私に任せてくれないかね。心当たりがあるのなら。私が何気なく、双方の考えを聞いてからにするから。悪いようには決してしないよ」
「分かりました。お話します。…先日、港で海女の若頭をしているカメという姉さんと話をしたんです。謙兄とは幼馴染だそうで、好物のサザエをお届けすると言ったんです。そして、それが姉さんの息抜きなんだそうです。そのとき、思ったんです。前々から謙兄のことを好きなんだなーって。私が感じただけかもしれませんが」
「いや、お前さんが感じたのは間違いないと思うよ。謙さんの人気は宮浦の何処に言っても聞かれるしね。若い娘が恋い焦がしていても間違っていないよ。いい男だからね。サトも一目惚れしたんだから。それに性格もサッパリしているからね」
「はい。私も謙兄のことは、そう思います。カメ姉さんもサッパリした明るい性格で、浜では一目置かれた存在なんです。年少の娘(海女)の面倒を見ているそうです。一緒に住んで。…姉さんが謙兄のことが好きだと分かっているから、周りの娘は手を出さないのでしょうね。俺はそう思います」
「そうなのかい。これはいい話じゃないか。カメさんに会えるように手配を頼めないかね」
「分かりました。話してみます。謙兄には勿論、分からないように気をつけます」
「気が利くね、お前さんも。…頼んだよ。龍さん」
...2005/06/20(Mon) 22:31 ID:64eHO2es    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
60

(達也とカメ)2
カメは謙太郎のことを幼い頃から慕っていた。
物心が付いた頃には、松本の家によく遊びに行っていた。謙太郎の両親から「カメちゃん。カメちゃん」と、妹のように可愛がられたが、それは、近所の子供は男の子ばかりで、女の子はカメ一人だったからかもしれない。
カメは毎日、嬉しくてたまらず、謙太郎の妹のような扱いを受けることに満足だった。
思春期を迎えた頃、恋するようになった。お嫁さんになるなら謙太郎しかいないと。それは乙女の夢だった。
でも、謙太郎は女性からみると誰でも好きになってしまうようないい男で、自分は身分違いではとも思い、やがて、いつまでも妹として接してくれたらそれで充分と考えるようになった。
謙太郎が写真屋になる夢を実現するため努力している姿をみて、自分で協力できるのは好物のサザエを届けるくらいだと理解した。そのうち謙太郎に好きな女性が出来、付き合っているのがわかった。カメは遠くから謙太郎の幸せを祈るような、そんな性格の乙女に育っていたのだ。サトが死んでしまい、謙太郎が落ち込んでいるのを目にしても、以前と変わらない明るい接し方を心がけ、好物のサザエを届けることを欠かさいカメであった。
家が貧しかったので高等小学校に行くこともなく、直ぐに先輩に弟子入りし海女になる修行を始めた。二十歳になるころには一人前の海女になり、周囲からも一目置かれる存在になった。終戦を迎えた年、両親・兄たちを亡くしてしまい、とうとう一人住まいとなってしまう。それで、年若い貧しい海女の世話を買って出て、共同生活を始めた。共同生活をしていたその家が、後に潤一郎夫婦の住まいになったのである。

「姉さん。今日も型のいいサザエがたくさん採れましたね。お届けものに残しますか?」
聞いてきたのは、共同生活をして面倒を見ている真理子だった。
「決まっているでしょう。私の生きがいなんだから。謙兄さんの顔を見たら、疲れが直ぐに消えてしまうんだよ」
「ご馳走様です。前から好きでしたって言ってしまえば良いのに。じれったいんだから…姉さんは」
「小娘が生意気言うんじゃないよ。もう、来ないでと言われたらどうするんだい。私の生きがいが無くなるじゃないのさ。いいんだよ。ずーっと妹の扱いで幸せなんだから」
「小娘じゃありませー、んー。もうすぐ16歳なんだから、大人ですウ。結婚も出来るんですーウ。だから…」
「だから?一人前に扱えと言いたい訳?冗談じゃないよ。海女はね。稼ぎの量で一人前かどうかが決まるものなのサ。もう数年待たないとね。わかったかい」
「…。」

浜中の娘たちはカメが謙太郎のことを思い慕っていることを知っていた。どうにかして応援したいのだが、謙太郎がいい男過ぎるので不釣合いかもとの不安があったのだ。それで、そっと見守っていた。抜け駆けをして謙太郎に言い寄ろうとする礼儀知らずはいなかった。
たまに、その事情を知らない隣町の娘やその母親が謙太郎のことを訊ねてくることがあった。それを知った浜の娘たちは、親が決めた許婚(いいなずけ)がいると答えるのだった。

ある日。
「カメ姉さん。ちょっとお話があるんですが、よろしいでしょうか」
突然、龍也が訪ねて来たので、共同生活をしている娘たちは色めき立った。龍也も浜では人気者だったからだ。淋しそうな雰囲気を漂わせる男前だから。謙太郎の弟分だと誰でも知っていた。
カメが振り向くのと同時に、
「龍さん。何の用事だい?姉さんに」
居合わせた真理子が横合いから訊ねた。
ひやかされていると思った龍也は顔を真っ赤にしながら、カメに向かって言った。
「あの…。永田の旦那さん。雑貨店の。…頼まれたものですから。一度、お会いしたいのだそうです。あの、突然のお話で申し訳ありません。ご都合を聞いてくるように、って」
カメはひょっとしたら謙太郎の話じゃないかと、思った。永田の旦那さんはサトの兄だと知っていたから。
「…私に何の話だろうね。アワビやサザエでも、ご入用なのかね?…。この空模様だったら、明日は波が出るね。…明日でよかったら…」
「ありがとうございます。では、明日の午後に永田雑貨店で。と、言うことでお願いします。戻りまして旦那さんにお伝えします」
「あいよ。昼飯を食べてからお伺いしますって、永田の旦那さんにお伝えください」
「承知しました」と、お辞儀をし、龍也は急いで帰って行った。

「…いい男だわ。龍也さん、って、私好み。姉さん、そう思いません?」胸に手を当て、うっとりしたポーズをとっていた。
「また始まったね。真理子は。いい男を見るといつもそうだよ。女は愛嬌、男は度胸っていってね。カッコだけで判断しちゃダメだよ。…。…。でも、龍さんは度胸もありそうだね」
「ね、そうでしょう。わたし、憧れちゃうわ!」目をパチパチと瞬いた。
他の娘たちは口出しするのを遠慮して、海産物を加工する仕事に精を出していた。

(縁談)
翌日、昼食を早めに終え、手土産を持って出かけた。1時頃に到着する。
「旦那さん。海女をしているカメと申します。私に、お話があるとのことで、昨日、龍さんに聞きましたが…」
「よく来てくれましたね。私は永田治と言います。松本の謙太郎さんとは兄弟のような付き合いをしています。遠慮なさらず、どうぞお上がりください。お忙しいのにお呼びしまして申し訳ありません」
「いいえ。今日、漁は休みですから。これ、お口に合うか分かりませんが、最近始めました佃煮です。漁がない日に試しに作り始めました」
「すみません。お気を使っていただき。…さあ、どうぞ。家内もお会いしたくて待っておりました」
チャブ台を挟み3人座った。お茶の準備をしながら、良子が挨拶する。
「永田の妻の良子です。よく、来てくれましたね。お会いするのを楽しみにしておりました」
お茶を差し出し、「よろしかったら、菓子もありますので」と言った。

頃合を見計らって、治が用件を切り出す。
「お話と言うのは、謙さん。いや、松本謙太郎さんのことなんです。謙太郎さんは妹のサトと将来を誓い合った仲だったんですが、私が不甲斐無いばっかりに、結ばれることなく。…そのうえ、サトも死んでしまいました。このままの状態で、私ら夫婦は死にきれません。サトも成仏できないと思っております。それで…」
「あの、謙太郎兄さんとサトさんの話は存じております。お幸せになればと祈っておりました。…サトさんがお亡くなりになるとは思ってもみなかったことで。…残念でたまりません」
「ありがとうございます。ご存知であったのなら、お話し、し易いことです。実は、謙さんに身を固めて欲しいのです。私らから言い出さない限り、決して自分から身を固めようとは考えない性格だと思うのです。それで、あなたのお考えをうかがいたくて…」
「私は大賛成です。謙太郎兄さんが幸せになるのなら、どのようなご協力も惜しみません」
それを聞いた良子が喜びの声をあげた。「え、じゃあ。カメさん、謙太郎さんと結婚していただけるんですね!」
「え、それって私のことなんですか?私は別にいいお方(娘さん)がいらっしゃると思いまして…」
「はあー。…話が早くなって助かりました。家内と、どういう具合にお話を勧めようかと昨日から、迷いに迷っていたところです。カメさんが嫌でなかったら、このお話を私らにお任せいただけませんか。お願いします。嫌などと決しておっしゃらないで下さい」

真っ赤な顔になり、俯いたままで、カメは微かに「はい」と答えた。
「良かった。良かった。な、良子」
「はい。あなた。とっても嬉しいです。サトも安心するでしょう」
...2005/06/21(Tue) 20:14 ID:a2s57fSU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
61

(謙太郎とカメの結婚)
謙太郎の自宅はカメの家と3軒離れた場所にあった。
自宅で写真館を開くには辺鄙だった。街中で人通りがある場所で開きたかった。どうしたものかと思案しているとき従兄弟の家が空くことになった。それで、その家を貸してくれるように申し出たところ、快く承諾してくれた。
もう、戻ることはないと思うが、写真館を続ける限りは自由に使っていいと言ってくれた。持ち家を交換しないかと提案したのだが謙太郎や、両親が困るだろうからそのままでいい。もし、宮浦に戻るようなことになったら、そうすることに話がまとまった。家の名義など面倒くさいのでそのままにしておいて、従兄弟が戻ってきたときに謙太郎の自宅を明け渡し、綺麗に名義を整理する約束となった。
やがて、従兄弟の家を改築して写真館にする工事が始まる。
龍也に漁船を買い与えていたが、闇商売で得たお金の残り、全てを投じた。一人住まいが出来るように、2部屋と台所、浴室を増築した。商売道具の写真機などを購入すると手元にはほとんど残らなかった。
もう直ぐ開店するという頃に、カメとの結婚が決まったのである。
そのため、結婚資金など残っていない。

「カメ。結婚するにしても、もうお金が残っていないんだ。お前が望むようなことは出来そうにないのだが」
「兄さん、私がどのような結婚を望んでいるか、ご存知ですか?」
「いや、想像しただけだが、女性(おなご)は盛大に祝福されたいものだろうと…」
「私は兄さんとサトさんの経緯(いきさつ)を知っております。幸せになりますようにと祈っておりました。私は兄さんが幸せであれば、それだけで幸せです。海女の仲間や兄さんの知り合いが祝ってくれればそれだけで、充分幸せです。私の兄たちは戦争のため夢を見ることもなく死んでしまいました。両親も長い貧乏生活で、戦後直ぐに他界しましたので、晴れやかな衣装を見せたい者がいないんです。それに、私にそのような衣装が、いや、派手やかなことが似合わないことも重々分かっています。心から祝ってくれる人たちだけで、それだけで充分なんです」
「ありがとう。カメ。俺は幸せだよ。治兄さんに言われるまで、カメのことを気がつかなかった。悪かったな。一生大事にするよ。幸せな人生だったと、きっと言わせてみせる」
「私はそんなこと望んでいません。大事にされるなんてまっぴらです。言いたいことを我慢するのが嫌いなんです。正直に、思っていることを遠慮なく言い合えるのがいいです。今までどおりの兄妹のように。悪口を言い合って喧嘩を派手にするんです。それが夢なんです。新しい、そんな家族を作りたい。言いたいことを隠さずに言い合い、それでいて思いやりのある正直な家族を…」
「ありがとう。俺は幸せになれるよ、きっと。それを望んでいるってことだね?」
「そう。兄さんが幸せに思ってくれるのが、私の幸せなんです」
「…。」
「あの、少しなら私、蓄えがありますから。それを全部使ってください。写真館の開店に資金がいるでしょう?私は、また、海女をして稼げばいいんですから。食べることに困ることなんてないし、海の中にお金が落ちているんですから、それを拾うだけです。アハハハ…」
「分かった。カメのお金を使わせてもらうよ。喜んでね。遠慮なんてしないよ。金は天下の回りもの、と言うからな…」
「そうですよ。アハハハ」

数日が経った。
サトに多少遠慮があったのか、カメが言い出したことだった。
結婚は普段着で二人きり、近くの神社であげた。披露宴はカメの自宅で執り行った。
参加者は謙太郎の両親、カメの同居している海女たち、龍也、それに仲人役の永田夫妻だけだった。みんな喜んで参加した。それぞれが手料理を持ち寄った。
龍也は張り切って一本釣りで鯛を釣って持ってきた。深夜まで二人を祝う宴が続いたのだ。

神社でカメが言った。
「サトさんのことは忘れないであげてください。私が幸せになれるのはサトさんのお陰なんですから。私の前では遠慮しなくて良いですから。兄さんの大切だった人ですから。私にとっても大切な人です」
「分かった。約束する。遠慮なんてしない。サトさんとの約束も」
「よし。それでよし。アハハハ」

結婚して、松本カメになった。
以前にも増して、働き尽くめの日々を送っていた。早朝から海女として働き、浜から戻ると世話している若い海女たちの面倒をみた。その後、謙太郎の写真館に出かけ、店の手伝いをした。休む暇もなく働くカメを見かねた良子がやってきた。
「カメさん。あなた、そんなに働き尽くめだと病気になりますよ。新婚だというのに、何を考えているんですか」
「いいえ、奥様。私は働くことが好きなんです。充実した気持ちになれるんです」
「そうじゃないのよ。謙太郎さんとの生活を大切にしてくださいって言っているの。若い衆は年長の真理子さんにでも任せたらどうなの?時々覗いてあげたら良いのよ。彼女たちも自立するように手本を見せないとね…それよりも、謙太郎さんと夫婦で写真館を盛り立てるように頑張らなきゃ。一緒になった意味がないわ」
「…。」
「ねえ。カメさん。あなた、謙太郎さんの子供を生みたくないの?のんびりと生活しなくては授かるものも授からないでしょ!」
この一言が、カメに生活を改める決心をさせた。夫婦生活がどんなものか分からなかった。母親を亡くして教えてくれる大人たちがいなっかったのと、カメは自分が結婚できるとは今の今まで思っていなかったのだ。遠くから謙太郎の幸せを祈っているだけが生きがいと信じていた。
そして、女は、周りの人の幸せのため、一生懸命に働くものだと思っていたからだ。戦前の男尊女卑の教育に染まりきっていた。
謙太郎の写真館はお客が多く、仕事でいっぱいだった。でも、儲けが少なくやっとどうにか経営できている状態だった。謙太郎は写真技術や客商売はうまいのだが、会計はなっていなかった。付け払いで仕事したものの集金や、原価計算が大まかで、赤字になるような仕事を引き受けていたからだ。
「お客様の幸せのお手伝いをするのだから。仕事が出来ることが幸せなのだ」と、いつも言っていた。
次の日から、カメは内助の功として、出納を受け持った。薄利であるが確実に現金が入ってくるようになった。経営が安定し少しずつではあるが資金が溜まっていった。
そんな時、子供が授かった。朝から気分が悪く、漁に出るというのを謙太郎が叱り飛ばした。
「おカメ!気分が悪いんなら医者にみてもらうんだ。今日、海女は休みだぞ」
「お前さん。漁にでると食い扶持が助かるじゃないか」
「そんなこた、どうでも良いんだ。お前の身体のほうが大事なんだよ。今、大病でもされたら、写真館はどうなるんだ。俺にはお金のことはさっぱり分からないんだぞ。お前一人の身体ではないだろう」
「分かりました。今日は休むことにします。医者に診てもらって具合がよいようでしたら、明日からまた、海女をしますからね。良いですね」
「頑固もんの…。…。お、カ、メ」
「なにさ。この役立たずの、宿六」
この日から、口喧嘩のときは、おカメ!宿六!と言い合うようになった。
医者から戻ったカメが、妙にしおらしくしているので、難しい病気にでもなったのかと謙太郎は心配顔でいた。なかなか、診察結果を話さないので、遂に怒鳴ってしまった。「いい加減にしろ!この、おカメ!医者になんていわれたんだよ!」
「あの…。…。やや(稚児)が…出来たようです…」と、か細い声で、真っ赤になって言った。
...2005/06/21(Tue) 23:49 ID:a2s57fSU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
62

(サトとの思い出)
「謙太郎さんの名前はお父さんがお付けになったんですか?」
「そうですけど。父親が男は素直な謙虚さが大物になる秘訣なんだと、近くに住むご老人に聞いたのだそうで、それで、謙という字と男の子の太郎をくっつけて命名したと聞いています。変ですか」
「いいえ、男の人の名前はその人の性格を現すんですね。女はそうはいかないみたいですけど」
「どうしてですか?サトさんの名は里、郷を連想させていい名前です。私には心の故郷ように感じるんですよ」
「ありがと。亡くなった母がね。付けてくれたんだそうです。父とはそのとき仲が悪くなっていて、皆に好かれますようにと願ったんだそうです。兄からそう聞きました」
「そうですか。亡くなられたお母様が…」
「私、男の子が出来たら文学者の名前を付けたいなって思っているんですよ。すぐに、覚えてもらえるでしょう。それに、本が好きになってくれるかもしれませんからね。ウフッ」
「文学者って誰ですか?」
「この前呼んだのが谷崎潤一郎の『痴人の愛』なんです。謙太郎さんと、このようにお付き合いできるようになってからは、萩原朔太郎の『月に吠える』っていう詩集を読んでいます。小説ではなく詩の方が、深刻じゃなく助かりますから。オホホホ」
「それじゃ。男の子が出来たら潤一郎と朔太郎と命名しましょうね。サトさん」
「ええ、嬉しいですわ。ウフッ。…謙太郎さんはどのような本をお読みになるの?」
「私ですか。本は好きなんですけど。時間があったら太宰治や芥川龍之介、林芙美子なんか読みたいと思っています」
「芥川龍之介の短編って面白いですわね。人の心が分かって…」
「それじゃ今度、読んでみます」
「私の読んだ本でよかったら差し上げますわよ。たくさんありますから…。ね、遠慮なんてなさらないでね」

思い出していた。サトと子供の名前のことで楽しく語り合った頃を。百瀬で週一回の逢瀬を始めた頃だった。
叶わぬ夢を語り合うだけで幸せな気分になれたんだ。そのときに、男の子が出来たら潤一郎や朔太郎と命名する約束をしたんだ。カメに話してみよう。話したら、反対するだろうか? いや、賛成してくれそうな気がする。
カメなら、「男が一度約束したことは、絶対に約束を破ってはいけません」って、言いそうだな。

(大木親子)2
「親父。途中でお袋と同じ名前の女性(ひと)が出てきたけど、それってお袋のこと?」
「おおそうだよ。お前の母さんだよ。母さんと俺の結びの神は姉さん(カメ)だったんだ。お世話になりっぱなしで、恩返しをすることなく亡くなってしまった。俺ら夫婦にとって松本謙太郎夫婦は大恩あるお二人なんだよ。俺にとっては両親と同じだと思っているんだ。母さんもそう思っているよ」
「俺、朔ちゃんのおばあさんのこと、あんまり覚えていないんだけど、優しい人だったんだね」
「ああ、優しかったよ。気風がよくってね。姉御(あねご)って言う感じかな。龍之介と謙兄は気があったので、姉(カメ)さんは遠慮していたのかもしれないが。百合子姉さんに聞いてみるがいいよ。ずっとわが子のように面倒みてもらったんだから」
「俺、イタズラをして叱られたから、怖かったのかもしれない」
「そうだな。躾には厳しかったな。悪いことすると容赦しなかった。謙兄は、男の子は腕白が一番っていう人だから。お前のことが気に入ってくれたんだよ。朔太郎君は腕白ではないからな。でも、優しさは受け継いでいると思うよ。両方のね」
「でも、俺覚えているよ。おばあさんが亡くなったときのこと。小学校になる頃だったよね。…お袋がしがみついて、大泣きしていたことを。…そうだったのか。お世話になったんだね。お袋は」
「ああ、優しい人だったよ。とっても」
そう言った龍也は涙ぐんでいた。

(謙太郎の死)
二人でサトの遺骨を盗み出した。

朔にサトの遺骨を託して写真館まで送ってもらう。
夕方やって来た朔は何かに迷っているようだったが、それも吹っ切れ、今は決心したような表情をしていたと、謙太郎は思った。「よかったな。朔。…それから、ありがとう、よ」と、呟いた。
…「我慢せず、正直に思っている気持ちを伝えるんだぞ。必ず、伝わるから。廣瀬の亜紀ちゃんは朔のことが、好きでたまらないはずだよ。朔が正直に接すれば、亜紀ちゃんも正直になってくれるよ。きっと。ね、サトさん」…
…「朔、お前は『おカメ』に似ているなー。性格。ジッと見守っているだけじゃ、今の世の中、通じないよ。男性(おとこ)は我慢も必要だけど、こと恋愛じゃ、女性(おんな)に正直な気持ちを伝えるものなんだ。『おカメ』も見守ってやってくれ、な。お願いしたよ」…
ひと汗かいたので、軽い入浴を済ませ、一息つこうと仕事場へ向かった。
念願が成就した満足感。壁に飾られた写真に向かい、改めて語りかける。
「やっと、サトさんの許にいける準備が終わったような気がします。治兄さんの勧めでカメと一緒になりましたが、それはそれでいい人生でした。お陰で、朔という良き理解者にも会えたし、亜紀ちゃん…『いや、サトさん。私にはそんな気がして』…にも」
準備した葡萄酒をグラスに注ぎ、サト(写真)に『乾杯』と挨拶して一息に飲んだ。そのとき、心臓が震えだすのを感じた。
ここ最近、時々動悸に襲われることがあったが、苦しく感じることはなかった。かえって充実した人生を感じた。
心が高鳴ったあの頃。思い出していた。朔と亜紀を自分とサトに置き換えて。
その後、悲しい気分になるのだが、そうすると、必ずサトの脇にカメが現れ、心が癒されるのを感じた。
心臓に手をあてながら、「やっと、お迎えが来たのかね?」と、言って目を閉じる。
カメとサトが二人並んで微笑んでいる光景が目の奥に浮かんだ。
「おカメ。…それに、サトさんも。どうしたんだ。今日は、はなから、お揃いでお出ましかい?」
ヨロヨロふらつきながら、ソファーに向かう。心臓の細動が急に激しくなってくるのを感じた。
ソファーに横たわりながら、「朔。しっかり、な…」と、呟く。
カメとサトの微かな笑い声が遠くで聞こえたような気がした。身体に震えが走った。それと同時に心臓が徐々に弱々しくなり、停止していく。力が抜けていく。
手元からグラスが床に落ち、転がって割れた。消えゆく意識の中、謙太郎は瞬きをするそのほんの一瞬に、それまで歩んできた歴史が物凄いスピードで頭の中を駆け巡った。
…「…。…。…潤一郎、富子…後は頼んだぞ。…芙美子…そんなに泣くなよ…。朔、ありがとう…」
そして、スイッチを切ったテレビ画面のようにその映像が消えてしまった。

数時間が経った。
ニコニコ顔で現れた朔が「おじいちゃん。風邪引くよ」と近づいたときには、謙太郎は冷たくなっていた。物静かな微笑を醸し出すような顔だった。
...2005/06/22(Wed) 20:00 ID:S1b.5Gmk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
63

(謙太郎の死)2
龍也は泣いていた。
とめどなく涙が流れ落ちてくる。あの日のことを思い出すたびに。

介は早々に登校していた。
仕事場の漁協に向かおうとしているときだった。電話が鳴った。潤一郎からのものだった。「潤一郎です。龍也兄さんですか」潤一郎からの電話だといって、妻の真理子が手渡した。
めったに電話で話してこない潤一郎からの電話。不安を感じた。それを打ち消すように明るく答えた。
「どうした?朝早くから。久しぶりに鯛でも釣ってきてと、言うんじゃないだろうな?」
「そんなことだったらいいんだけど…。落ち…着いてください…落ち着いて聞いてください。親父が…。親父が死んじゃったんです」
「おい。冗談じゃ済まさないぞ。謙兄がどうしたって。おい。もう一度、言ってみろ!」と、大声で怒鳴った。
「今朝、早く。朔太郎が写真館に行ったら、親父が長椅子に寝ていて、風邪ひくよって、近づいたら、動かないので…。それで、死んでいたって、そう言ってきたんです。朔は親父にからかわれているんだと、そう、自分に言い聞かせて。直ぐに駆けつけたけど。…やっぱり、朔太郎が言うとおりで…。笑っていたんだ。いい顔だった。苦しまなかったと思うよ…。親父。ウッ、ウ、ウー…」
「何で、だよ!まだ、若いじゃないか。これからって言うときに。引退したら謙兄と二人旅をしたり、夜釣りに出かけたり、って、そう、計画していたのに。何で。何で。…俺を一人、残して逝っちゃうなんて。約束していたのに…」
「…。」
「クッ、ク、ク…」

(龍也)
謙太郎の両親が亡くなり、1年後のことである。
その頃になると、天然もののアワビやサザエはあまり採れなくなり海女を続けているのは真理子を含め、数人になっていた。
カメが始めた海産物の加工が軌道に乗っていた。近隣では、宮浦の佃煮は美味しいと有名になっていた。
その他干物もよく売れ、河岸の娘たちは工場形式の加工場でも働き始めた。その資金を出したのは謙太郎夫婦と龍也だった。龍也は漁師として一人前になり独立していたが、工場の経営にも才覚があった。取引先を次々と開拓していた。カメは工夫を凝らし、佃煮の加工技術を受け持つ工場長だった。
謙太郎が『獲る漁業だけでなく、それを使った加工や養殖やら、手を広げていかないと将来は先細りになってしまう』と言い出したのがきっかけだった。現に漁穫量が年々減少してきていたし、若者は仕事場がなく都市に出て行ってしまっていた。そういった状況が、そこ彼処に現れだした頃だった。朝鮮戦争がもたらした好景気が始まりで、都市部から着実に日本は復興していた。
当然のことのように、海産物加工工場は大木水産有限会社としてスタートした。
始めは社長就任を渋っていた龍也だったが、謙太郎に『お前がやらないで、誰がやるんだ』と一括されて引き受けたのだ。社長業とそして営業は龍也に任され、直ぐに黒字経営を維持した。景気が上向きを維持していた時代のお陰でもあった。

年頃を迎えた真理子は龍也に夢中になっていた。
何とか口実を見つけて、龍也と親しくなりたかったが機会も名案も浮かばない。このまま、手をこまねいていると他の娘に奪われてしまいそうな焦りを感じていた。
河岸で偶然会ったので、明るく誘ってみることにした。断られても仕方がないと思いながらも。
「龍也さん。お仕事忙しいでしょう?食事はどうしているんですか。姉さんに面倒見てあげるように言われたんです」
「一人身ですから、居酒屋で。飲みながら、食事も取らしてもらっています。休みの日は謙兄の家でお世話になっているんです」
「一度、私ん家(ち)にいらっしゃいよ。私の手料理でよかったらご馳走しますから」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらいます」

カメから龍也の面倒見てあげるように言われたというのは、嘘だった。思い付きで、つい口から出てしまったのだ。こんなにうまく、誘いに乗ってくれるとは思ってもみないことであった。
龍也も一人身の生活に飽きてきていた。謙太郎の幸せそうな家庭を見るにつけ、いつかは同じような家庭が欲しいと望んでいた。仕事も面白いし、自分のほうから彼女(恋人)をつくろうという気はなかった。そのうちに謙太郎夫婦が世話してくれるものと思っていたから。それで、真理子の申し出が謙太郎夫婦の差し金だと思ってしまったのだ。そうであるなら、何にも気兼ねはいらないと思った。真理子はカメが世話をして一人前に育てた娘だったからだ。
そうして、真理子が住んでいる家に通うようになっていった。

そんな、ある日のこと。
「どうしてくれるんだ。娘を傷ものにして。真理子にはれっきとした許婚(いいなずけ)がいるんだ。娘も承知しているはずだ。来年には結婚の日取りまで決まっているというのに」
と、真理子の父親が龍也のもとにやって来た。酒の匂いをプンプンさせていた。一緒に聞いていたカメは驚いた。いつの間に真理子と良い仲になっていたのか知らなかった。最近は真理子が住む家を訪れることがなかったから。
改めて、挨拶に伺うということで引き取ってもらった。

その夜、龍也と真理子を前に謙太郎とカメが事情を聞き出した。
真理子「許婚(いいなずけ)って言っても子供の頃に父親の友人との間で口約束しただけのことです。その人に借金があるものですから、ひくにひけなくなったと母が言っていました。私、借金の担保(かた)に結婚させられるんです。会ったこともない人に」
謙太郎「龍也は知っていたのかね」
龍也「いいえ。今始めて聞きました。知っていれば…」
謙太郎「知っていればどうしたんだ。どうにもならんだろう。この際、はっきりしていることは、二人はどうしたいのかと言うことだ」
カメ「そうですよ。出来てしまったことは、どうしようもありませんよ。一緒になるつもりなのかね?」
真理子「はい。私、子供が出来たみたいなんです…」
龍也「え、そうなのか。真理子。どうしてそんな大事なことを言わないんだ」
真理子「まだ分かりません。予定なのにまだないんです。1週間も遅れることは今までになかったから。はっきりわかりません」
謙太郎「その話は、後にしよう。はっきりしたら、カメに連れて行ってもらいなさい。病院へ。…どうなのかね。お母さんは何と言っておられるんだ?龍也とのことを」
真理子「はい。私が幸せになれるんだったら、龍也さんと結ばれるのが一番いいと言っています。父には母からも言ってくれるそうです。でも、ちゃんとした筋道を通すように、って念を圧されました」
謙太郎「分かった。龍也。お前はどうする」
龍也「はい。真理子と一緒になります。兄さんみたいな、いい家庭を作ります。幸せになります…」
謙太郎「よく言った。後のことは、わしら夫婦に任せておきなさい。最善を尽くすから、早まったことを考えたりしたらいけないよ。自由になれる身体じゃないようだから。くれぐれも命を大切に考えなさい。それから、何にも恥じることはない。人として当たり前のことをしただけなんだよ。それが、周りのしがらみで思いがけない障害が出来ただけのことサ。それを取り除くのが親代わりのわしら夫婦の仕事だからね。安心して任せておきなさい」
二人は「宜しく、お願いします」と謙太郎とカメに頭を下げるのだった。

...2005/06/22(Wed) 23:05 ID:S1b.5Gmk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
64

(龍也)2
次の日。
謙太郎とカメは真理子の両親を訪ね、二人の結婚を許してもらえるように誠意を持って話した。
その結果、理由が分かった。父親は借金している友人から息子と真理子を結婚させてくれと言われ、そうすれば借金を帳消しにすると付け加えられたのだ。友人は、借金の返済はいつでも良いといっていたが、友人の息子が真理子を一目見て、すっかり気に入ってしまったとのことだった。友人は息子可愛さに無理に押し切ったのだ。許婚(いいなずけ)の話は酒の上でのことで、子供可愛さに約束した。本気ではなかった。
父親も借金を整理して、娘を祝ってあげたいとのことで話がまとまり、結納金として収めるかたちをとることとなった。
帰り道。
「なあ、カメ。私の家を売ることにするよ。そうしたら、お金は出来るだろう」
「そんなこと。お前さん。私の家を売れば…。それとも、加工場の権利を誰かに買ってもらったらどうかしら」
「そりゃ、いけないよ。龍也たちの生活がかかっているじゃないか。会社をのっとられでもしたらどうするんだ。それと、お前の家は真理子が住んでいるんだよ。そうしたら、二人の住むところがなくなる。私たちは写真館に住めるじゃないか。…それと、…二人には黙っていたほうがいいと思わないかい?」
「そうですね。家はいつか取り戻せますしね。お金は天下の廻りものですからね。そのうち、いいことがありますよ。真理子はおめでたみたいだし。アハハハ」
「そうだよ。そのとおりさ。二人で頑張れば何とかなるさ」
そうして、龍也と真理子はカメの家で新婚生活を送ることになった。9ヵ月後には長女の百合子が生まれる。

その後、数年が経って、謙太郎たちが真理子の父親の借金を清算してくれたことが分かった。龍也夫婦は謙太郎とカメの優しさに感謝し続けた。
加工場の仕事は真理子を中心に回転するようになり、カメは写真館の手伝いと潤一郎・百合子の世話に専念した。
真理子が仕事に出かけるとき百合子を預けていく。潤一郎はおおらかな性格でのんき者に育っていたが、百合子のことが気に入って妹のように世話をやいた。泣いているとあやし、オシメも替えてあげる優しさだった。成長した百合子は「お兄ちゃん」といって、いつも潤一郎の後をくっついて歩く日が続く。

後に、龍也夫婦は蓄えた金で、漁協近くに新築の家を構えることが出来た。
そして、百合子を傍において世話できる喜びに溢れていたが、謙太郎夫婦への感謝の気持ちを忘れることはなかった。潤一郎と富子が結婚するとき、二人が住みやすいようにと、改築資金を提供したのだ。


(潤一郎)
1988年7月
謙太郎の一周忌が終わった夜、朔と介はおじいさんとの思い出にと、夜釣りに出かけた。宮浦魚港に電気浮きを浮かべ、スズキを狙った。なかなか大物がかかることはなかった。朔は途中からメバルを狙った。調度、潮加減がいい時間帯であったのか、群れをなすように吊り上げた。
「介ちゃんも切り替えたら」
「いいよ。俺は。初心貫徹っていうやつだよ。ところで、一休みしないか。朔ちゃん。俺さ、ずーッと迷っていたんだけど、いつ話すべきかってね。いつまでも心に仕舞い込んでいるのは負担なんだよ。今日、話そうと思って、誘ったんだ。…朔ちゃんのおじさんとおばさんがどうして結ばれたか、聞いたことあるかい。朔ちゃん? 俺さ、親父に教えてもらったんだ。それに亡くなったおじいさんからも。おじいさんとサトさんのことから始まって、親父とお袋、それに朔ちゃんの両親のこと。」
「それってどういうことなの。サトさんと俺とどういう関係があるっていうんだい?」
「それは、考え方次第だけど、親兄弟、おじいさんやおばあさんの人間関係が俺らにも少なからず影響しているって思うんだよ。俺と朔ちゃんについてもそう言えることだけど、ただ母親同士が従姉妹というだけの関係じゃないだろう? おじいさんと俺の親父の関係、朔ちゃんのお父さんと俺の姉との関係、いろいろな人間関係が折り重なって俺たちは…兄弟みたいに…物心ついたときから始まったんだよ。廣瀬についても同じだよ。サトさんとおじいさんの繋がりで深く感じるようになったんだろう? おじいさんは全ての経緯(いきさつ)を知っていて、朔ちゃんにアドバイスしていたようだよ。俺だって同じさ。おじいさんに聞かせてもらっていなかったら、冷静に朔ちゃんと亜紀ちゃん、二人を見つめることができなかったよ。冷静というのは言い過ぎだよね。それなりに考えて、接していたつもりだけどね」
「よく分からないんだが、介ちゃんが言いたいことって。順序立てて話してくれないか」
「俺だって分からないよ。だだね、亡くなったおじいさんが言ったんだよ。いずれは朔にも話すときが来るから、そのときは俺から伝えてくれって。朔の親父さんも知らないことだって。でも、俺はある程度知っていると思うけどね。出来るだけおじいさんや親父から聞いたとおりに話すけど、それをどう理解するかはお前さんに任せるよ。そこまでは責任もてないしね」
しかし、介は全てを話さなかった。サトと亜紀とのつながりについては。今の朔には逆効果になるかもしれないと判断したからだ。でも、いずれは話せるときが必ず訪れると思った。
介はゆっくりと語り始めた。

数年間、カメは潤一郎と百合子の世話に明け暮れていた。
やがて、百合子が小学校に通うようになって、真理子は朝、百合子をあずけに来ることがなくなった。でも、百合子は学校の帰りに必ず、写真館に立ち寄った。
中学、高校生になった潤一郎が戻るのを待っていて、学校であったことを話して聞かせるのが日課となっていた。たまには一緒に夕食もとり、お風呂も一緒に入っていた。勉強の面倒もカメと潤一郎がみてあげて、まったく兄妹といったものだった。百合子は子供心に潤一郎のお嫁さんになるつもりだったようである。
高校を卒業した潤一郎はそんなに勉強が好きではなかった。一人息子でもあり、地元で就職することとなった。
どういう訳か泳ぎが苦手だったため、海の仕事以外を探し求め、ある日、農協に勤めると言い出した。
カメ「お前、折角、佃煮工場に勤めてさせてもらえるよう、龍さんに頼んでいたのにどうゆう訳だい?」
潤一郎「ああ、俺ってサ。海が苦手なんだよね。泳ぎは下手だし。運動神経が鈍いんだよ。そのためかどうか分からないけど、陸(おか)の仕事がしたかったんだ。海の匂いは嫌いじゃないんだけど、気が静まりすぎてボーっとしちゃうって言うか、落ち着き過ぎるんだよ。仕事にならないと思うよ」
カメ「何なのさ。そんな理由がありますか。あきれた子だね。お父さんもお母さんも海育ちなのにね。どうします?お前さん」
謙太郎「いいんじゃないか。潤一郎にもやりたいことがあればそれに向かって努力すれば。俺はそれでいいと思うよ。俺も写真屋になりたいと思って、長いこと努力したんだし。子供は親が決めたとおりなんてならない時代だよ。後でその仕事が向いてないことが分かったら、そのときに、また考えればいいさ」
潤一郎は父親からは写真屋になれ、母親からは大木の工場に勤めろと言われるものだと思っていた。以外だった。父親の意見が。
海の匂いには母親の優しさが連想され、やすらぎが支配されてしまう。それで、そんな心を仕事で汚したくないのが本音だった。
潤一郎「あのサー。俺ね、親父の仕事をいつも見てきただろう。そのせいか化学が一番成績いいし、薬品が好きっていうか興味があるんだ。…、農協では農薬が売られているよね。その中に毒物劇物というのがあるんだ。そして、販売所には毒物劇物取扱責任者という資格がいるんだよ。この間、その試験を受けてみたんだけど、一番難しい一般というのを」
カメ「それで、どうだったんだい?まさか合格したんじゃ…」
「うん。合格するとは思っていなかったんだけど。はい、これ…」と言って、潤一郎は合格証を取り出した。
謙太郎「おめでとう。やったじゃないか。よく頑張ったな。潤一郎。お前の考えの裏付けもしっかりしたものだ。お父さんは応援するよ。いいな。カメ。しっかりした息子だよ」
カメ「はい。嬉しいです」
そうして、潤一郎は農協で働き始める。
農協では船の塗料も受け持って販売することとなった。それまでは、農業用品目という限られた毒物劇物のものしか販売できなかったのだが、潤一郎が入ってきたために全ての毒物劇物の取扱いが可能となったのだ。潤一郎が販路拡大に宮浦漁協に行くと、勿論のこと、龍也が仲介役を買って出る。お陰で、独占的に船の塗料を販売できるようになった。
やがて、定期的に漁協に通うようになった潤一郎は、目がくりくりして大きな声で話す娘が気になりだした。笑い声も豪快で、明るい性格だと分かった。潤一郎に無いものを持っている娘なのでとても気になった。
...2005/06/23(Thu) 23:42 ID:qoEXwrtI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
65

(谷田部)
百合子は中学生になっていた。
学校帰りに友達を写真館に連れてきた。
百合子「おじいさん、ただいま」
謙太郎「お帰り。百合っぺ。中学はどうだい?楽しいかね?…ん?お友達かい?」
百合子「紹介するね。友達になった谷田部さん。彼女、本が好きなの。それで、おじいさんのことを話したら会いたいって言うから…」
谷田部「初めまして。大木さんとお友達になりました、谷田部敏美です。ご迷惑じゃないかと思いましたが、百合子さんが紹介してくれるって言ってくれて、ついてきました」
謙太郎「はい。宜しく。…ところで、谷田部さん。初めてじゃありませんよ。私は幼い頃から知っています。あなたのことを、ね」
谷田部「どういうことですか?」
謙太郎「あ、ごめん、ごめん。私は写真屋ですから、宮浦のほとんど人たちを写真に納めています。その中でも気に入った写真を壁に掲げているんですよ。ほら、あそこをご覧なさい」と指さした。
そこには、着物を着た幼い谷田部の写真があった。「あ、これ。家にもあります。私が七五三のときのものです。そうだったんですか。おじいさんが撮ってくださったんですね」
謙太郎「商売ですからね。それに、とっても、可愛い子だったから」
そこへ、潤一郎が現れた。「親父、喉がカラカラだよ。お茶をくれないか」と言いながら。
潤一郎「あ、すみません。お客様でしたか」
百合子「お兄さん。お客じゃありませんよ。百合子ですよ。紹介しますね。お友達の谷田部敏美さん。こちらが、許嫁(いいなずけ)で憧れのお兄さんの松本潤一郎さん」
潤一郎「?! ビックリしたヨ。百合っぺ。セーラー服なんか着ているから。…ん?何、言っているんだ。お前は妹だよ。許嫁なんて誰も決めていないんだから。妹ですよ。冗談ですから、気にしないでくださいね。谷田部さん」
百合子「そんなこと言ったって、私はそう決めているんです。幼い頃から、ずーっと。お兄さんのお嫁さんになるんだって」
潤一郎「俺の気持ちも考えてくれよ。百合っぺのおしめも代えてあげたんだよ。お前は妹だって」
カメ「お店で何を騒いでいるんですか! あら、いらっしゃいませ。百合子のお友達ですか。初めまして、伯母のカメと言います」
谷田部「え、伯母さんですか。おじいさんとは?なんか複雑で頭がゴチャゴチャになってしまいそう」
「アハハハ。そうだよね。びっくりしたでしょう。許嫁だ。兄だ。おじいさん、伯母さんじゃーね。もう一つ、実はあかの他人でして」
と謙太郎が言うと、谷田部は眼をくりくりしていた。
潤一郎が仕事に戻ったのを期に、謙太郎とカメは百合子との関わりを谷田部に話して聞かせた。そして、敏美はすっかり謙太郎夫婦が気に入り、写真館を時々訪れるようになった。

(潤一郎)2
漁協の事務所で。
「何をジロジロ見ているんですか。潤一郎さん」
「あ、真理子姉さん。別にジロジロ見ていませんよ。仕事で漁協に来るようになって、4年になりますが、あの娘(こ)の働きぶりを見ていると心が洗われるようで楽しいんです。そう思いませんか?」
「へー。そんなに長いこと、何年も見つめているだけですか?お話しをしたことないんですか?」
「とんでもない。あんないい娘に声をかけるなんて、滅相もない。私には出来ません。仕事中でもありますし」
「何を言っているんですか。今時の若者が。あの子はね。私の従姉妹の富子といいます。よろしかったら、今度の休みに家にいらっしゃい。紹介してあげますから」
「そんなこと…」
「冗談ですよ。主人がね。潤一郎さんにお話、したいことがあるそうです。日曜日に昼食を食べながら、お話ししたいって伝えてくれるように頼まれまして。カメ姉さんには了解をとってありますから、遠慮はいりませんよ」

日曜日。
「ご無沙汰しています。龍也兄さん。今日はお話しがあるとのことでしたが…」
「まあ、玄関先での話しではないよ。さあ、上がって、上がって。久しぶりだね。ここのところ仕事に追われて。…謙兄には、こちらの方がご無沙汰しっぱなしで。お元気だろうか?」
「はい。両親共に、仲良くしております」
「それは良かった。まあ、先ずは食事でもしようじゃないか。食べながら話そう。そんな改まった話しではないんだよ」
豪華な食事が始まった。真理子と百合子は給仕をしていたが、達也が目配せをしたら、別の部屋に引き上げていった。
「話しというのは。佃煮工場のことなんだよ。会社組織として始めたんだが、施設が古くなってしまって、な。…建て替えようと思うんだが、兄さんご夫婦に相談したらこれからのことは若い者で決めるように言われてね。それで、潤一郎君に兄さんたちの権利を譲られるそうだ。それで、これが臨時株主総会と言うわけだね」
「そうだったんですか。何事だろうって、心配して損した心境です。姉さんから従姉妹を紹介するなんて言われたものですから」
「ん?…。…。最後まで聞いてくれ。建て替えるには資金がいるんだ。銀行から借りることにもなる。今よりも大規模なものにしようと考えているものだから、資金調達に株式会社として船出したいんだ。そのため、出資比率が変わってしまうが、私らの持ち株を併せて、50%以上は確保しておきたい。そうしないと、乗っ取られてしまうからね。どうだろうか」
「分かりました。兄さんに全てお任せします。私は今の仕事を続けていければいいですから、生活に困ることはありません。生活がかかっている兄さんに決めていただければいいことです」
「ありがとう。ケジメとして配当金が出せるよう頑張るよ。でも、株主として役員待遇は確保しておくからね。お願いするよ」
「承知しました。戻りましたら両親に伝えておきます」

冷えたビールを持って真理子が現れたので、
「ところで、さっき言った従姉妹を紹介するってどうことだ?」
「あら、もう、そんな話に進んでいるんですか。従姉妹の富子のことですよ。潤一郎さんの憧れの娘みたいなんですよ」
「そうなのかい?潤一郎君」
「明るくていい子だなって、先日、姉さんに言ったものだから…憧れなんて誤解ですよ」
「そうなのかい?4年間も遠くから見つめていたそうだから。ウフ。…実はね。あの後、富子に話したんですよ。潤一郎さんのことを。そうしたらね。いつもの富子じゃないんです。真っ赤な顔になってね、下を向いたまま『ずーッと気になっていて、ステキな男性(ひと)だと思っている』と言うんですよ。どうします、お前さん」
「こりゃ大変だ。謙兄に話さなきゃなるまい。…ところで聞くが、潤一郎君はどうなのかね。結婚相手として付き合ってみる気はないかね。私が謙兄とカメ姉さんに話を進めるが…」
「はい。一度も話をしたことがないんです。お付き合いをしてみたいです」と、か細い声で言った。
...2005/06/24(Fri) 23:27 ID:4l27orYs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Apo.
−思い出編3−
66

(百合子)
潤一郎が帰った後、涙顔で母親の真理子にくってかかった。
「どうしてよ。お母さん!私が潤一郎兄さんのこと、好きだって知っているでしょう?私がお嫁さんになるのに、どうしてくれるのよ」
「何言っているんだい!お前はまだ中学生になったばかりじゃないか。結婚できるわけ、ないだろう?潤一郎さんだって、百合子のこと妹ぐらいにしか思っていないよ。まったく、ビックリするじゃないか」
「だって、お父さん、何か言ってよ。私のこと可愛くないの?娘が失恋しても心配じゃないの?私、ずっと許嫁だと思っていたのに。どうしてよ。私、私…。家出するからね」
「百合子!お父さんを悲しませるようなこと言ってくれるなよ!お前が幸せになってくれるのが一番だよ。でもね、結婚は違うんだよ。百合子が幸せと思っても、相手もそう思わないとうまくいかないんだ。潤一郎君が百合子をお嫁さんにすると言ったことがあるのかい?」
「う、んーん。妹としか言わないけど。私、好きなんだもの」
そう言うと、部屋に駆け上がり戻ってこなかった。部屋で泣いているようだった。すすり泣きが聞こえてくる。それと、嗚咽も。
どうしたものか考えた二人は謙太郎に相談することにした。併せて、潤一郎と富子の件も話さなければならない。

潤一郎と富子の件は快く了解された。しかし、百合子のことは謙太郎とカメにはどうすることもできなかった。謙太郎とカメが間に立つとかえって百合子を苦しませてしまうと判断されたから。それで、当事者の潤一郎が説得することとなった。誠意をもって正直に話せば伝わると結論つけた。
翌日、潤一郎が百合子に会って話をした。随分長い時間であったが、百合子は納得したようだった。でも、それからもイライラがでるときがしばしばあった。
それが解決す日が来た。潤一郎と富子が結婚式を挙げる日だった。急に具合が悪くなった真理子が病院に行き、妊娠していることがわかった。そのとき、一番喜んだのが百合子だったのだ。
そうして生まれたのが龍之介だった、その半年後に朔太郎が生まれた。今度は二人を百合子がとても可愛がった。潤一郎が百合子にしたように。

(龍之介)
真理子が産気ついたとの知らせで、謙太郎は百合子を伴って、産婦人科医院へ駆けつけた。龍也は商用で留守だった。
謙太郎「お、生まれたか!男の子か!男らしく凛々しい顔立ちで、龍(たつ)によく似ている。疲れたろう?真理子」
真理子は浮腫んだ顔で、満足げに首を横に振った。
百合子「へえ。そうなの?お父さんに似ているのか。お猿さんみたいだけど…」
謙太郎「百合っぺ。生まれたては、みんなお猿さんみたいなんだよ。でも、目元がパッチリしているじゃないか。な、龍(りゅう)ちゃん」
百合子「名前は龍(りゅう)ちゃんにするの?」
謙太郎「男の子だったら、いい名前を考えてくれるように龍(たつ)に頼まれていてね。龍(たつ)を音読みにすると『リュウ』だろう。…そう読んでみたんだが、百合っぺは気にいったのかい?」
百合子「うん、とっても。強そうですもの」
謙太郎「そうか。リュウだけじゃかわいそうだから、龍之介にしよう。文学者の芥川龍之介と同じだ」
百合子「うん。そうしましょう。とっても気に入ったわ」
カメ「どうしたんです。こんなところで騒いで。赤ちゃんがビックリするでしょう!さあさあ、邪魔になりますよ。真理子は休まないといけないんだから」
百合子「おばあさん。名前は龍之介だよ!…ね、ね。可愛いでしょ!私の弟だよ。ね、リュウちゃん!」
カメ「もう名前を付けたのかい。いい名前だね…」
カメと真理子は見合って、笑っていた。

(亜紀がいて…)
介「なあ、朔ちゃん。17年か、随分長くかかったけど。亜紀ちゃんの夢を受け取ることが出来たんだね。俺は医者になったときが夢を実現したときかなーと思っていたんだけど…。違ったみたいだね」
朔「心配かけたね。俺サ、時間を止めていたと思うんだ。無意識に。毎年、亜紀の誕生日が近づくと、亜紀と親しくなった頃の出来事が繰り返されていたんだ。頭の中で。…亜紀が死んだ後の出来事は、どうしても別の世界のことに思えて。結びつくことを拒んでいたというか。亜紀は生き続けていたんだよ。俺の身体の中で。やっと、分かったんだ。死んだことが生き始めたことだったと。俺といつも一緒なんだよ、俺の精神構造が亜紀そのものなんだ。…あの日、最期の日、俺に抱かれて『ここ天国だもん』って亜紀は言ってくれたんだよ。…その意味が理解できたんだよ。やっとね…」
介「難しくて、よく分からないけど、亜紀ちゃんが残してくれた夢が理解できたってことだよね。生き続けること」
朔「そのとおりだね。俺が生き続ける限り、亜紀も生き続けるってことだね」
介「高3の夏に釣りをしながら、語ったこと覚えているかい?朔ちゃん」
朔「よく、覚えているよ。でも、介ちゃんが全てを語らなかったこともね。サトさんと亜紀の関わり。…ありがとう。気を使っていたんだね。今になって、よく分かったんだ。亜紀が居て、介ちゃんたち、みんながいたから俺があったんだって。サトさんも含め、おじいちゃんやおばあちゃんとの係わり合い、それ以後の関係も全てが俺に影響していたんだね。今ある自分は、一人でできた訳じゃないんだよね」
介「そうだよね。俺、おじいさんや親父から教わったんだけど。それを理解できたのは亜紀ちゃんからなんだ。それと朔ちゃん。…俺の宝物さ。夢島での二人の写真は」
坊主「何、こそこそ話しているんだよ。さー、一杯飲めよ」
朔「坊主。もう酔っ払ったのか」
坊主「良いじゃないか。今日は特別だよ。やっと幼馴染4人が亜紀ちゃんの前にそろったんだ。嬉しいことじゃないか」
智世「そうよ、そうよ。一杯飲んで騒ごう。亜紀もみんなが揃って騒ぎたがったんだよね。そうですよね。おじさん、おばさん」
綾子「そうですとも。亜紀は私らのせいで友達が出来なくて、宮浦にきてやっと安心したんだと思いますよ。あなたたち4人は亜紀の宝物ですよ。幸せな人生を送ってくれるのを祈っていますよ。きっと。ねえ、あなた」
真「そうだ。そのとおりだよ。私もホッとした心境だよ。朔が昔みたいに戻ってきてくれて」
朔「俺さ。宮浦に戻ることにしたよ。こっちの病院に。これから職を探そうと思っている」
介「そうかい。お前さん。それがいいよ。…これから楽しくなるね。谷田部先生も戻ってきたことだしな」
智世「朔。よく決心したね。偉い!偉い!」
坊主「絶叫マシンの復活だ!悩ましいけど。…嬉しいよ。…昔に戻れて」
朔「そうだな。昔のまんまだよね。みんながいて、亜紀がいて…あの時の…」

…亜紀「そうだよ。朔ちゃん。みんなが居て。…いつまでも、1987年夏のままだよ。みんなが生き続けるかぎり。…きっとそう。わらわは、嬉しいゾヨ。…そして、頑張れ!みんな!…ね、朔ちゃん!…大好きだよ!」…


−fin−


私が抱いた疑問を解決するために、書き始めた物語です。そのため、ドラマの役柄等を勝手に解釈して、見苦しい展開になっていることをお許しください。
思い出編では@亜紀が朔に告白を急いだ理由と告白の過程を、Aサトと謙太郎のいきさつ及び龍之介の役割を、B謙太郎の死により写真館を手放すようになったいきさつ及び大木家と松本家の関係を、Cドラマで伝えたかった真意は、等の内容を考えているうちに出来上がったものです。
書き溜めてから数ヶ月放置していて、当時の考えがどうだったか思い出さない部分もあり、多少食い違いが出ていることと思います。お許しください。一連の物語がドラマ版セカチューの謎解きに少しでもお役に立てたのなら、幸いに思います。(自己中ですが)
長らく、お邪魔して、勝手気ままな言動等を暖かく包み込んでいただきました他の作者の方々、読者の方々、管理人様ありがとうございました。さようなら。(By Apo.)
...2005/06/24(Fri) 23:34 ID:4l27orYs    

             Re: 続・サイド・・・  Name:はるかちち
Apo.さま、こんばんは。はるかちちです。
今回も素敵な物語をありがとうございました。
”さようなら”とか言わないで、また新しい物語を拝見させてください。復活、待ってます。
...2005/06/25(Sat) 00:36 ID:08.WNYOc    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Apo.さま
いつもながら、緻密できちんとしたストーリー構成には感心させられます。

別スレで初めてお会いした時から、いろいろ楽しかったですね。
いつか再会できることを信じております。
...2005/06/26(Sun) 22:57 ID:hwNqDcfo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
それでは、朔五郎がまた、しばらくつないでいきます。

一部を再掲します。

夢見るジュリエット(6) 最期の選択

僕は話し始めた
僕たちの最期の日々について
幸せな日々の終焉
暖かな世界の崩壊
むせかえるような死の匂い
僕たちの、僕の、最期の選択・・・

「はい、OKです」
亜紀は緒形先生に声をかけた。
「いやあ、ナレーションっていうのは、むずかしいねえ・・・」
苦笑まじりに緒形がいう。
「まあ、僕は谷田部先生には頭が上がらないからね」
緒形は宮浦高校出身で、谷田部の元教え子だった。ずっと松山で教師をしていたが、17年ぶりに母校に帰ってきたのだった。
「廣瀬君、君、陸上部だったよね?」
「はい」
「いや、ぼくもここに通学している頃、陸上部の女の子と付き合っててね、君の彼氏と同じように、彼女が走るのをグラウンドの片隅で見ていたものさ」
「先生、そのひととは」
緒形はふと遠いところを見る目になった。
「彼女は遠いところへ行ってしまった」
「えっ」
「彼女の母親の出身地の修善寺というところで暮らしている」
「そ、そうですか・・・」
亜紀は内心ほっとしながら言った。
「スナックを経営しながら、ひとり息子とね。プロボクサーと結婚したんだが、別れたらしい」
「忘れられないんですね」
「少しずつ忘れて行くんだろうね、これから」

次の朝のホームルーム。
一人の生徒が手を上げた。
「せんせーい。結婚したのに苗字変わらないんですかー」
「もしかして夫婦別姓っていうやつ?」
「やっぱムコ養子?」
「はい、ブウブウ言わない!戸籍上は大林になってます。だけど、職場では今まで通り谷田部で通します・・・さて、今日は新しい仲間を紹介します」
谷田部は黒板に「沢口エリカ」と、名前を書いた。
「じゃあ沢口、自己紹介して」
「はい。静岡県の松崎高校から転入した沢口エリカです。趣味、というわけじゃありませんけど、老人介護のボランティアをやってました・・・」
一人の生徒が質問した。
「ボランティアを始めたきっかけはなんですか?」
「前の高校の先輩が老人ホームでボランティアをやってたんです。その先輩、マジックが得意で、お年よりたちによく披露してました。とっても上手で、面倒見も良かったので、すごく人気があったんです。それで私も一緒に通うようになりました」
「エリカはペコリと頭を下げた。
よろしくお願いします」
谷田部は教室内をぐるりと見回した。
「ええと、中川のとなり空いてるね。じゃ、あそこに座って」
エリカはボウズの隣りの席のほうに近づいて行った。
そして、ふとボウズと目が合ったエリカは、クスリと笑いながら席についた。

「あなた、山口さんの家から案内が来たわ」
「うん、もうそんな時期になったな」
「一年なんて早いわね」
「6月29日か・・・」
真はハガキに目を落としながらつぶやいた。

「ねえ、お母さん」
亜紀が聞いた。
「お父さん、毎年6月29日になると礼服を着てどこかに出かけて行くよね。どんなに仕事が忙しくても、絶対にその日だけは欠かしたことがないんだけど・・・」
「そ、そうね」
綾子は明らかに動揺しながら言葉を濁した。
「お母さん」
綾子はうつむいてしばらく黙っていたが、やがて決心したように口を開いた。
「亜紀ちゃん、ちょっと待っててね」
綾子は真の部屋に入って行った。
戻ってきた綾子は、一冊のアルバムを持っていた。
それを亜紀の前に置くと、静かに表紙を開いた。
一枚の写真・・・セピア色の。
セーラー服を着た少女が笑っている。
「お母さん・・・」
「亜紀ちゃんも、このひとと同じ17歳になったのね。話す時が来たわ・・・」
「お母さん・・・」
「このひとはね、山口桃子さん」
「・・・ももこ、さん?」
「お母さんのね、高校時代の先輩なの。とっても良いひとで、お母さん、大好きだった」
「そう」
「でもね、高校2年の時、血液の病気で亡くなったの。そう、亜紀ちゃんがお芝居で使ったあの病気で」
「そんな・・・」
「あの頃はまだ有効な治療法が無くて、日に日に弱っていくばかりだった」
「かわいそうに・・・」
亜紀はつぶやいた。
その次の瞬間、あることに気付いて、ハッと顔を上げた。
「でも、どうしてお父さんの部屋に?」
「お父さんとお母さんが宇和島の同じ高校の出身だっていうのは知ってるよね」
「うん」
「お父さんと桃子さんは同級生で恋人同士だった。それはお似合いのカップルで、ドラマの世界から飛び出して来たみたいだったわ。本当だったら、桃子さんがお父さんと結婚していたはずよ・・・彼女が病気になって入院してからも、お父さんは毎日お見舞いに行っていた。でもね、今と違って、なかなか面と向かって《好き》とか言えなかったのよ、あの頃は。それでね、お母さんはよく、桃子さんから手紙を預かって、お父さんの靴入れに入れていたの」
「まるで映画のワンシーンみたい・・・」
「最後の望みをかけて、桃子さんは大阪の大学病院に搬送された。でも、やっぱり病状の悪化を止めることはできなかった」
綾子は続けた。
「大阪までお見舞いに行ったお父さんに桃子さんは言ったの」
「なんて言ったの?」
「宇和島に帰りたい。世界で一番美しい海を見て、それから・・・」
綾子は声を詰まらせた。
「亜紀ちゃん、お父さんがあの台本を見た時、どんなにショックを受けたかわかる?最愛のひとを亡くして、たとえお芝居とはいえ、娘が同じような言葉を口にするなんて・・・《もしかしてこれが運命なのか》赤い目をしてつぶやいた顔が忘れられないわ」
「知らなかった・・・」
そして、綾子は話し始めた。
桃子の、そして真の、最期の選択について・・・

(続く)   
...2005/06/26(Sun) 23:05 ID:hwNqDcfo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(7) 最期の選択2

難波大学医学部付属病院血液科教授・里見洋介は、教授室の窓から大阪の空を血の色に染める夕焼けを見ていた。
・・・まるで空が泣いているようだ。
気を取り直して、新規入院患者についての報告を聞く。
「急性白血病、まだ17歳か」
かわいそうに、そんな言葉を呑み込んで一人の医師を呼んだ。
「財前君」
「はい」
財前ナオミは里見の方へ歩み寄った。
「君にこの患者の主治医をやってもらいたい」
「急性白血病ですね」
1960年代、急性白血病についてはまだ有効な治療法が確立していなかった。対症療法に終始し、患者は4〜6ヶ月で死を迎えることが多かった。
「まあ、気が重いだろうが引き受けてくれ。患者は多感な少女だ。女性の君の方が何かとわかることも多いと思ってね」
「はい、私で力になれれば。でも先生、この子には気の毒ですけど、やはり治癒は難しいのではないかと・・・」
里見は苦渋の色を僅かに浮かべながら言った。
「うん、やはり患者の身体的、精神的苦痛を和らげることに目標を置かざるを得ないだろうな。瀬戸君に手伝ってもらってくれ」
「はい」
財前にとって、瀬戸正樹は気の置けない後輩だった。年齢が離れているにもかかわらず不思議とウマが合い、週に1、2度飲みに行ったりしていた。
「あれ、またスケ殿に難しい患者を押し付けられちゃったんですか」
「瀬戸君、教授のことをスケ殿なんて」
「みんな言ってますよ。じゃ、鎌倉殿にしときますか?」
医師たちは、里見のことを半分親しみも込めて「スケ殿」、里見が神奈川県鎌倉市の出身であることから「鎌倉殿」などと呼んでいた。
財前は苦笑しながら言った。
「話は聞いてる?」
「ええ。しかし残念ながら白血病となると、戦おうにも有効な武器がない・・・やはり、長くて半年でしょうね」
「どうするべきかしら・・・」
「残された時間を彼女らしく過ごせるように考えるべきじゃないでしょうか」
「彼女らしく、ね・・・」
「E.キューブラー・ロスという精神医学者が死にゆく患者の心理的なプロセスを5段階で説明しています。まず、第一段階は否認です」
「それはそうでしょうね」
「これは文字通り、死という運命を拒絶することですが、ロスによれば変わった方法で表現されることもあるようです。つまり、病気のことなど忘れたかのように、以前よりむしろ元気に行動したりすることがあるということです」
「そうやって、死が近づくことを打ち消そうとするわけね」
「はい。ぼくの知っている患者、やはり高校生の女の子なんですけど、一時帰宅の許可を出したら、一日だけ登校したようです。付き合ってる彼と海を見に行ったり、本当に元気に楽しく過ごしたようですよ」
「そう・・・」
「やがて、患者は怒りに燃えるようになります。例の少女の場合、届けられた修学旅行のパンフレット、当然自分は行けないわけですが、それを床に叩き付けたりしました。怒りは周囲の人々、時には医療スタッフに向けられることもあります。なぜ自分だけが死ななければならないのか、いったい誰のせいなのか、というようにね」
「そういう例は私も経験したことがあるわ。健康な人々に対する羨望、恨み、ひがみみたいな感情が噴出することもあるわね」
「次の段階は取引です。神様や運命と取引をして死を避けようとします。さっきの少女の場合はちょっと変わってまして、彼氏のほうが、自分のプラス分をまわしといたから、とか、自分のほうが病気になる代わりに彼女が助かってほしい、とかね。厳密にいえば違うんでしょうけど、いかに二人の心の絆が強かったかがわかりましたよ」
「なるほどね」
「やがて、患者は抑うつ状態に陥ります。危険な状態です。絶望して無気力になったり、自殺しようとしたり・・・」
「私、交際相手が見るに見かねて、患者を連れ出してしまったという話を聞いたことがある」
「あれは有名な話ですからね。それをすれば患者が死に至ることがほぼ確実だと知っていながら実行してしまった」
「私ね、あれは医療スタッフの責任が重大だと思うわ。監視が甘かったという意味じゃないわよ。あの若い二人が心理的にあそこまで追い詰められているのに、プロであるスタッフはいったい何をやってたんだろう」
「心理学的なフォローは、患者本人だけじゃなく、家族やパートナーも含めて行うべきです」
「私もね、小児ガンの子供の母親が1か月位で疲れ果てて、まるで別人のよう表情になってしまうのを何度も見たわ。ある意味、本当につらいのは周りの人だったりするのよね」
「・・・そして患者によっては、最後には運命に対して怒りも抑うつも感じない段階に達します。一見、運命を受容したかのようにね」

宇和島から見舞いにやってきた真は、桃子の病室から出てきたところで財前医師に呼び止められた。
財前に促されて別室に入る。
「君、山口桃子さんと付き合ってるの?」
「はい」
「そう・・・キスとかもする?」
真は真っ赤になってうつむいた。
「もう高校生だからそういうこともあるかもしれないけど、桃子さん、身体の抵抗力が低下してて感染症を起こしやすくなってるの。だから、なるべくなら避けて欲しいの」
「・・・・・」
「彼女ね・・・」
「桃子のお母さんから聞きました。もう3か月位しか生きられないって。桃子も薄々感じているみたいで・・・」
「何か言ってた?」
「こうしていると、生きているのか死んでいるのかわからなくなるって・・・宇和島に帰りたい。宇和島の石応(こくぼ)の海が見たいって」
「どうして?」
「石応には彼女の家があって・・・島が見えるんです、高島っていう島が」
「うん」
「桃子は世界で一番美しい海だって。一度しかない最期なら、石応の、世界で一番美しい海を見たいって言いました」
「うん、ありがとう。とても参考になったわ」
「はい」
「あなた、名前は?」
「真です。廣瀬真です」
「真くん。これからみんなで、桃子さんにとって何が最善かを考えて行かなけりゃいけない。これだけは忘れないで・・・自分たちだけで悩まないで。自分たちを追い詰めないで・・・」

(続く)  
...2005/06/26(Sun) 23:07 ID:hwNqDcfo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(8) 最期の選択3

ある夜のこと。
担当患者のカルテの整理を終え、深夜、財前ナオミが通用口に向かって廊下を歩いていると、ふと人影が動くのが見えた。
・・・誰?
影は階段を昇り、病室に向かって行くようだ。大きなバッグを抱えている。ナースステーションの前を低く屈んで走り抜けると、ある部屋の前に立った。
・・・あの部屋は・・・山口さん!
影はドアのノブに手をかけ、中に入っていった。

「本当に来てくれたのね」
「当たり前さ」
「帰れるかな」
「帰れるさ。ぼくが必ず連れて行く」
次の瞬間、ふたりの表情は恐怖と絶望に満ちた。
部屋の入り口には財前が立っていた。

次の日、財前は桃子の両親と面会した。
「・・・そうでしたか」
桃子の父・健は深い溜息をついた。
健は古くからの博徒の流れを受け継ぐ「宇津井組」の組長であった。
「真君は礼儀正しくて、挨拶もちゃんとするし、なかなか見所のある少年だと思っておりやす。あっしはこういう稼業をしておりやすんで、渡世のこと、義理人情のことについては点数が辛い方なんですが、真君は娘にとって申し分のない相手だと喜んでいたんですよ」
「しかし、あんなことをするようでは、桃子さんとのお付き合いはやめさせないと・・・」
「先生、あれはあっしの娘が悪いんですよ。真君は娘の必死の願いを叶えようとして着替えを用意しただけでして・・・」
桃子の母・美佐江は涙まじりに尋ねた。
「先生、桃子は、桃子は、もう助からないんでしょうか・・・」
財前はうつむき、しかし目を上げると、はっきりと言った。
「大変お気の毒ですが、あと1か月・・・」
「ああ、最新の治療をしてくれると聞いたから大阪まで連れて来たのに・・・」
泣き叫ぶ美佐江を、健が叱った。
「美佐江、おめえも姐さんとまで呼ばれた女だ。取り乱すんじゃねえ」
「だってさ・・・」
「先生、申し訳ありやせん。こいつにはあっしから良く言い聞かせやすんで・・・」
「いえ、こちらこそ・・・」
「で、先生のお考えは?」
「私は、一度担当医になった以上、最後まで診させて頂きたいと思います。最後の最後まで奇跡を信じて」
「先生のお心遣い、痛み入りやす。ですが、結果が変わらないんだということなら、娘の気持ちを汲んでやりたい気持ちもありやす」
「それが娘さんの命を縮めることになったとしてもですか?」
「なにせ、あっしはシロウトなんで難しいことはわかりやせん。ただ・・・」
「ただ?」
「まあ、たとえは悪いかもしれやせんがね、鬱々たる気分で1か月生きるのと、思い残すことなく2週間で逝っちまうのと、人間、どちらが幸せでしょうねえ・・・」
財前は溜息をついた。
「お父様のお考えは良くわかりました・・・お母様も、それでよろしいのですね?」
「私には、私には・・・難しすぎてよくわかりません」
「・・・私も、教授と相談してみます」

財前医師の話を聞いている間、里見教授は目を閉じたままだった。
やがて、深い溜息をつくと、財前をいたわるように言った。
「悲しいな・・・無念だな、財前君」
まるで堰が切れたかのように財前の目から涙があふれる。
「あの子は蜘蛛の糸に縋るかのように、ここにやって来たんです。それを帰すというのは、死の宣告そのもののような気がして・・・私は、私は信用してもらえなかったんでしょうか・・・」
「それは逆だよ、財前君。もし信頼されていなかったら、本音をぶつけられたりしないよ。ただ恨まれるだけだよ・・・君ならわかってくれると思ったからだよ」
「そうでしょうか・・・」
「そうですよ、財前先生」
瀬戸が口を開いた。
「こうなったら、市立宇和島病院の先生と連絡をとって、緩和ケアの方法とかを申し送っておいたほうがいいんじゃないですか?」
「ぼくもそう思う」
里見も賛成した。
「あの子にとって、これからの1日1日、いや1分1秒が本当に貴重な時間だ。少しでも状態の良い時に帰してやろう」
「それが・・・それが、本当に正しい選択なんでしょうか・・・」
「財前君、それが正しいかどうかについては答えなんて存在しないんじゃないかな。ただ、患者が心からそれを望むなら、医師はそれに従わなきゃならないと、ぼくは思う」
「でも・・・」
「財前君、主治医としての最後の仕事だ。山口桃子に宇和島まで付き添ってくれ」
「・・・はい」
財前は肩を落として出て行った。
「瀬戸君。宇和島からの帰り道が心配だ。悪いが君も行ってくれ」
「わかりました、スケ殿」
里見はただ苦笑いするしかなかった。

それから数日後、山口桃子は両親と二人の医師に付き添われて、宇和島に帰って行った。途中、心配された急変などもなく、高松から乗った列車が終点宇和島に近づくにつれ、表情が明るくなっていった。
市立宇和島病院に到着し、桃子は病室に入った。明日には同級生たちが見舞いに来ると聞かされて目を輝かせた。
新しい主治医への申し送りを終えた財前と瀬戸は、桃子の病室を訪れた。
眠っている桃子を起こそうとする母親を制して、財前はじっと寝顔を見つめていた。
やがて、財前と瀬戸が去る時刻が来た。桃子は相変わらず安らかな寝息を立てている。
病院の玄関まで二人を送った両親は、駅に向かうタクシーが見えなくなるまで、深々と頭を下げていた。

(続く)
※次回予告  夢見るジュリエット(9) 最期の選択4
...2005/06/26(Sun) 23:11 ID:hwNqDcfo    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
Apo.さま
お久しぶりです。
今回の一連の作品は、ドラマの前日談という感じで元気一杯のジッちゃんや若き日の潤一郎、富子、龍之介の両親、少女時代の谷田部先生が生き生きと描かれていて、楽しませていただきました。(途中で登場人物の関係がわからなくなり、迷子になりかけたこともありましたが)
差し支えなければ登場人物の一覧表など載せていただけないでしょうか。


朔五郎さま
オリジナルの「赤」を思わせるシリーズ再開ですね。私も別スレでリメイク版の「赤」もどきを投稿中ですので、競作ということになりますね。お互いに頑張りましょう(^^)
※桃子の父親の健は「ごくせん」を連想してしまいましたよ。
...2005/06/26(Sun) 23:18 ID:e10rY766    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(9) 最期の選択4

財前と瀬戸を乗せた列車は宮浦を過ぎ、伊予灘を左手に見ながら走り続けた。
大きな夕日が海に沈んでいくのを見た時、財前にはそれが桃子の命そのもののように感じられた。
手が届きそうなほど近くに見えるのに、それを止めることは決してできない。

負けた。私は負けた。

財前の頬を涙が伝う。
わざとそうするかのように、ぶっきら棒に瀬戸が言った。
「まさか、医者を廃業しようなんて思ってませんよね」
暗くなっていく海を凝視しながら財前は言った。
「やめないわ」
「それを聞いて安心しました」
口調を変えて瀬戸が続ける。
「先生、今はまだ夜明け前なんです・・・夜明け前が一番暗いんですよ」
鉛色になった海面に、白い波が続いている。
「でもね、明けない夜はありませんよ。ぼくたちは、これからも負け続けるでしょう。これからも失い続けるでしょう。それでも、10年、20年、30年、40年・・・いつか、今は想像すらできないような治療法が出てきますよ。ぼくたちの後輩が、そしてなにより患者さんが白血病に打ち克つ日がきっとくるでしょう。ばくたちはそれを信じて医者やっていくしかしょうがないじゃないですか」

わかってるよ、瀬戸君。泣くのは今日だけ。

「ありがとうね、瀬戸君」
財前の涙はいつしか止まっていた。

6月29日。
一時帰宅を許された桃子は、石応(こくぼ)の自宅にいた。
二階の自室で、真と並んで座り、開け放した窓から、海の向こうの高島を見ていた。

白血病細胞は体内のいたるところに浸潤し、苦痛は次第にひどくなっていった。
それでもこの数日は不思議と痛みが和らぎ、小康状態を保っていた。
大阪から帰って3週間、友人や恩師の見舞いを受けたり、真が撮ってきた海の写真を見たり、弱っていく体とは対照的に、精神的には満ち足りた時間をすごしていた。
ある日、真はギターを持って見舞いに来た。
二人は「四季の歌」を歌った。
真が好きな季節を聞くと、桃子は「秋」と答えた。

秋を愛する人は、心深き人・・・

「桃子にぴったりだね」
真が言うと、桃子は嬉しそうに微笑んだ。

6月29日、梅雨の中休みの日。
残念ながら、もう好きな季節を見ることはできそうもない。
それでも、桃子は真と並んで「世界で一番美しい海」を見ながら、幸せそうな顔をしていた。
真は桃子の右手がトントンと肩を叩くのを感じた。
桃子が機嫌の良い時にやるイタズラだった。
振り向けば、人差し指が頬に当たる。真は承知のうえで振り向いた。
あれ?
指は当たらなかった。
桃子の右手は静かに真の背中を伝い、降りて行く。
桃子の体がゆっくりと真にもたれかかり、命の残り火のやわらかな温もりが伝わってきた。
真はこの時、桃子のすべての苦しみが終わったことを知った。

「桃子さんは安らかな顔をしていた。でも、私はやっぱり悲しかった。なぜ、こんなに良い人が・・・何か治療法はなかったの?でもね、後になって、桃子さんを宇和島に帰す決断をした先生たちやご両親の話を聞いて、考えが変わったわ」
うっすらと涙を浮かべながら綾子は話し続けた。
「治療法が何もなかったあの時代に、絶望的な状況の中で、涙を流しながら一人の患者の幸せを考えた人たちがいた。その誠実さに患者が救われることもあるんだっていうことが良くわかったわ」
綾子は亜紀の方に目を向けた。
「亜紀ちゃんが臨床心理士の仕事をしたいって言った時、ショックだったわ。でもすぐに、これは運命なんだって思ったわ」
「運命?」
「桃子さんが亡くなってから、お父さんと私は会わなくなった。そして七回忌の時に再会したの。桃子さんの思い出話に花が咲いた。その時、一匹の蛍が現れたの。普通の蛍は青白く光るけど、その蛍は赤く点滅していた。不思議なことだけど、やっぱり何かの運命だったのか、お父さんと私は愛し合うようになった」
「桃子さんが二人を結びつけたの?」
「そうかも知れない。あの赤い蛍は桃子さんのメッセージを運んできたのかも。そして亜紀ちゃんが生まれたとき、お父さんは、自分の娘が《心深き人》に愛されますように、という願いをこめて《アキ》と名づけたの」
「アキを愛する人は、心深き人、か。あ、私の《アキ》と言う名前は季節の《秋》なの?」
「そうよ。どんな意味だと思ってたの?」
「朔ちゃんがね、どうせ白亜紀の亜紀だろう。恐竜のようにたくましく生きる、という意味じゃないのって言ったのよ。なんだか凶暴な肉食恐竜みたいに言われてちょっと悲しかったの」
「それはひどいわ。間違いなく季節の秋よ。ああ見えても、お父さんはものすごいロマンチストなのよ。そんな恐竜にちなんだ名前なんか、つけるもんですか」
「それなら、桃子さんは私の名前の中に生きているのね・・・」

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(10) 二つの運命
...2005/06/29(Wed) 00:37 ID:nTxihdgI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
真と桃子のラストシーンは何とも言えない切なさと感動に包まれた見事な場面でした。オリジナルの光夫と幸子もこんな感じだったんでしょうね。

次回のサブタイトルに「運命」がついていますが、これは綾瀬はるかさん主演ドラマと関係あるのでしょうか?四国は台風がたくさん通過する場所なので、そのドサクサで入れ替わった人がいるのでしょうか、などと想像を掻き立てられます。
...2005/06/29(Wed) 06:51 ID:7R4EYSbE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Wolfy
朔五郎さん、はじめまして。Wolfyと申します。
ひとつ伺いたいのですが、山口桃子という名前は、真(=三浦友和さん)の妻、山口百恵さんからとられたのでしょうが、もしかして一部は菊池桃子さんもイメージされているのでしょうか。私は「桃子」と聞けば真っ先に菊池さんを思い浮かべるものですから(河内桃子さんという方もおられますが)。
皆さんのような深い質問でなくて申し訳ありません。
...2005/06/29(Wed) 21:58 ID:wC830bYI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
Wolfyさま、はじめまして

私は一読者なので、詳細は朔五郎さんにお尋ねしなければならないのですが、山口桃子と真はオリジナル「赤い疑惑」の幸子と光夫をイメージしていると思われます。桃子の父親の名前が宇津井組の組長である健、母親の名前が美佐江だったので、おそらくそうではないかと思いました。
...2005/06/30(Thu) 00:33 ID:/euY3Da.    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
Wolfyさま
初めまして。
「山口桃子」は「山口百○さん」のイメージで書きました。「百子」というのはどうかと思ったので「桃子」にしてしまったのです。したがって菊池桃子さんのイメージは入っておりません。
なお、桃子の父・健は当然「宇津井さん」なのですが、SATOさまの想像どおり「ごくせん」のイメージにしてみました。
...2005/06/30(Thu) 00:46 ID:i5Ci29Pk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:Wolfy
SATO様、朔五郎様、お答え頂きありがとうございました。
菊池さんのイメージは入っていないということで、ちょっぴり残念です。(個人的な感想です。気になさらないでください。)
...2005/06/30(Thu) 21:37 ID:qcRcfrHE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 Wolfy様 SATO様 朔五郎様
 石丸さんも,仕事柄,本を読む時にも映像化したらということを考えながら読んでしまうとおっしゃっていましたが,配役を想定しながら物語のイメージを膨らませるのも楽しいものですね。
 私の年代では,任侠の世界といえば,「健さん」は「健さん」でも,宇津井というよりは「高倉」のイメージでしたし,宇津井さんといえば,むしろ,そういう人たちを取り締まる「ガードマン(今でも芥川さんのナレーションが浮かんできます)」のイメージです。その高倉さんも,「黄色いハンカチ」以来,市井の中で暮らす人を演じるようになりました(もちろん,過去を背負いながら泣いたり笑ったりする演技は天下一品です)し,宇津井さんは1986年の大河では,戦後間もない頃に最新の米国医学を紹介する先生の役を演じていましたね。セカチューに引き付けて言えば,さしずめ,松本ドクターの医局の大御所的な教授というイメージでしょうか。
...2005/06/30(Thu) 21:53 ID:AJN8tULg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(10) 二つの運命1

「ねえ、朔ちゃん、ゆうべ恐い夢を見たの」
「恐い夢?」
「うん・・・私はね、この世界に生まれてくる前に、もうひとりの私と一緒にいたの」
「もうひとりの私?」
「そう。それでね、17年前に生まれてくる時、私はこちらの世界に、もうひとりの私はむこうの世界に生まれたの。そして私には幸せになる運命が、もうひとりの私には重い病気になる運命が与えられたの。でも・・・」
「でも?」
「間違えたの・・・神様が」
「つまり、運命が入れ替わっちゃったわけ?」
「そうなの。それで・・・それでね、17年経った今、神様がその間違いに気付いたの」
「へえー。今頃になってねえ」
「それで・・・神様の使いとして赤く光る蛍がやって来たの。私、心の中で、行きたくない、って必死に叫びながら抵抗したんだけど、足が勝手に動いて・・・気が付いたら、恐ろしい顔をした神様が目の前にいて・・・私に宣告するの」
「どんなふうに?」
「これからお前たちの運命を元に戻す。お前は重い病気になるって・・・」
「亜紀、ドラマの観過ぎじゃないの?それって《赤い蛍》だろ?」
「朔ちゃん、嘘じゃないの。本当に神様が・・・信じて、お願い・・・」
「信じてるよ」
「心がこもってないわよ。どうせ嘘だと思ってるんでしょ?」
「信じてるって言ってるだろ」
ククッと笑いながら朔は振り向いた。
「亜紀が見た神様は、こんな顔してなかった?」
「うわ・・・い、いやぁーーー、た、たすけてぇぇぇーー」

「亜紀ちゃん、亜紀、どうしたの」
目を開けると綾子が心配そうにのぞきこんでいた。
「お母さん・・・」
「なにか恐い夢でも見ていたの?夜中に急に悲鳴なんかあげるから、お父さんも私もビックリして飛び起きちゃったわ」
「赤い蛍、赤い蛍が」
「赤い蛍・・・亜紀ちゃん、赤い蛍を見たの?」
「夢の中で」
亜紀は自分の見た夢を、綾子に話した。
「よく聞いて、亜紀ちゃん」
綾子はいつしか真剣な表情になっていた。
「前にも話したと思うけど、お父さんと私が愛し合うようになった時、まるでその運命を告げに来たかのように、赤い蛍が現れたの・・・だから、亜紀ちゃんが見たというのも、たぶん幻ではなく、現実なんだわ」
「お母さん・・・」
「亜紀ちゃん、気をしっかり持つのよ。もうひとりの亜紀ちゃんがいるかどうかはわからないけど、近々、亜紀ちゃんの運命を動かすような何かが起こるのかもしれないわ」
「運命?」
「そう、運命」
「私、やっぱり病気になるのかな・・・」
「亜紀ちゃん、恐れていても仕方ないわ。まだ、悪い方に変わるとは限らないもの」

7月2日、亜紀の17歳の誕生日。
朔が手に包みを持って歩いていた。
前を見ると亜紀が廊下を歩いているのが見えた。足取りが重く、元気がない。何か悩みでも抱えているかのようだった。
「亜紀」
朔が後ろから声をかけると、亜紀は怯えるかのように首をすくめ、こわごわと朔のほうを振り向いた
「どうしたの、亜紀」
いぶかしげに朔が尋ねると、亜紀は慌てて答えた。
「な、なんでもないの」
「亜紀、誕生日おめでとう。これプレゼント」
「何?あ、ウォークマンだ・・・ラジオのDJに葉書を読まれたの?」
「違うよ。ボウズの家の寺の境内を掃除したり、写真館でバイトした金を貯めて買ったんだよ」
「ほんと?すごーい・・・好きよ、朔ちゃん、大好きだよ」
「ははは、じゃ、いっそ《好きなものランキング》でも作って聞かせてよ」
「ごめん、それはできない」
「どうして?」
「ドラマの中に出てきたおじいちゃんがね、好きなものに順番なんか付けちゃいけないって言ってたの」
朔は半分呆れながら言った。
「亜紀はホントにドラマが好きだなあ。全部観てるんじゃないの?あ、当然《赤い蛍》なんか観たでしょ?」
不意を突かれて、亜紀は動揺を隠せなかった。
「あ、あれは観てない」
「へえ、珍しい・・・」
「わ、私、ああいう恐い話は苦手なの・・・」
「そうか、確かに恐いよな。付き合いが始まって、しあわせいっぱいだったのに、急に運命が入れ替わって、3ヵ月か4ヵ月で病気で・・・」
亜紀は、朔の言葉を最後まで聞いていられなかった。
残酷な運命の足音が、すぐそこまで迫っているような気がした。

「じゃな、亜紀」
「ありがとう」
朔は亜紀を自転車から降ろすと、漕ぎ出そうとした。
「あれ?」
向こうに歩いて行く亜紀の肩で何かが、赤く点滅している。
「なんだ、あれ・・・え、蛍・・・赤く光る蛍?」
もう一度、目を凝らしたとき、その光はもう消えていた。

その日の深夜、亜紀は着替えようと、ベッドの上にたたんで置いてあったパジャマに手を伸ばした。
何気なく窓に目をやると、ガラスの外側に何かがとまっているのが見えた。
「やだ、虫がいる」
次の瞬間、亜紀は床の上にへたり込んだ。
「もうだめ、逃げられない・・・」
その虫・赤い蛍は、すうっとガラス窓を通り抜けると亜紀の目の前のベッドの縁にとまった。

「私を迎えに来たの?」

「行かなきゃいけないの?」

「呼んでいるのね、私を・・・」

誰かが私を呼んでいる
小さく淋しく そしてなつかしく
生まれた時から この胸の
どこかで知らない声が聞こえてる
この広い空 あの流れ星
いつか見たような 気がするの
もうひとりの私が どこかにいます
もうひとりのあなたを 捜しています

誰かが私を見つめてる
大きく優しく そしてあたたかく
どんなに泣いても 悲しみは
私の中から 消えてくれない
この陽の光 あの長い影
側にいたような 気がするの
もうひとりの私が どこかにいます
もうひとりのあなたを 捜しています
(作詞 千家和也  作曲 三木たかし  
山口百恵「赤い運命」)

・・・わかりました。
これも私の運命・・・

いま、会いにゆきます。

(続く)
※次回予告  夢見るジュリエット(11) 二つの運命2
...2005/07/02(Sat) 18:56 ID:whSn2Anw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
高倉さんにしろ、宇津井さんにしろ、激しい役から穏やかな役までこなせる芸域の広さが魅力なのでしょうね。
ところで、別スレでの主役の一人・ケンの母方の祖父(龍之介が殴りこみに行った高倉建設の社長)は高倉健さんのイメージで書いております(^^)
...2005/07/02(Sat) 19:12 ID:whSn2Anw    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
ここで「赤い運命」の歌が流れるとは・・・
今度はオカルトっぽい展開になるのでしょうか?
こちらの世界では、「赤い蛍」という恐いテレビドラマが流行ってるのですね。
...2005/07/03(Sun) 00:29 ID:vusIrfqk    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
SATOさま
これはすでに「オカルトそのもの」になってしまいましたね(苦笑)

前にもお話しましたが、このシリーズはSF作家・広瀬正氏の「鏡の国のアリス」という作品から少しだけアイデアを拝借しております。
ちなみに広瀬氏の作品では「鏡の国」では、すべて左右が逆になっているのですが、こちらではそこまでは考えておりません。

ちなみに、若い方は「赤い運命」のあらすじを知らない
かも知れませんが、大体、こんな感じです。
「伊勢湾台風の水害により、二人の女の子が家族と生き別れになる。二人は同じ施設で育つが、17年後身元が判明し、それぞれの親に引き取られることになる。ところが、その前夜、施設が火事になり、混乱の中、二人の身元を証明する証拠の品が入れ替わってしまう。
そのため島崎直子(実は吉野いずみ)は殺人を計画する島崎に、吉野いずみ(実は島崎直子)は検事の吉野に引き取られる」
このように、入れ替わってしまった二つの運命が元に戻るまでを描いたドラマでした。
...2005/07/05(Tue) 00:46 ID:i75Gqpho    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(11) 二つの運命2

深く息を吸い込み、亜紀は部屋を見回した。
小さい頃からずっと育ってきたこの部屋。
・・・この光景を見るのも最後かもしれない。
私は目の前で赤く光る蛍に付いて行き、私ともう一人の私の運命は入れ替わるのかもしれない。
この部屋には、もう一人の私がやって来て、これから先、私として生きていくのだろうか。
あるいは、私は重い病気になり、二度とこの部屋に戻ることはないのだろうか。
何もかも変わらないのに、私自身だけが存在しないこの部屋・・・
そんな時がやってくるのだろうか・・・

行かなければいいの?
もし行かなければ何も起こらないかもしれない。
私は幸せなまま一生を過ごすことができるのかもしれない。
でも・・・私は行く。
目の前の赤い蛍。最初は恐いと思った。
でも、今は違う。何か哀願しているように見える。
時間がない、だから早く来て欲しい、そんなふうに。
もう一人の私が呼んでいる。小さく、淋しく、そして懐かしく。

自分の意思を伝えるように、亜紀は蛍をじっと見つめた。
それを待っていたかのように、蛍は翅を広げた。
ゆっくりと点滅する赤い光が進んで行く。
それに付いて、亜紀は階段を降りて行った。
玄関の広間には、大きな姿見の鏡があった。
蛍はその鏡の前で二回、三回と旋回し、亜紀を待っていた。
やがて蛍は亜紀の意思を最終的に確認するかのように周囲を飛び回り、次の瞬間、それまでのフワリとした動きがウソのように、まっすぐに鏡に向かって突進した。
「あっ」
蛍は鏡の中に吸い込まれて行った。
それに促されるように亜紀も鏡の前に立ち、左手で鏡に触れた。
ガラスの感触は感じられず、自分の手が中に吸い込まれて行く。
そのまま歩を進めると、亜紀の全身はまばゆい光に包まれた。
あまりの眩しさに目を閉じる。
しばらくして目を開けると、亜紀は見知らぬ部屋の中に立っていた。
蒼い月の光が亜紀の背後から部屋に差し込んでいる。振り向くと、ベランダに出るガラス扉があって、そこに亜紀の姿が映っていた。
・・・ここから入って来たんだ。
亜紀は、いま自分がどこにやって来たのか、はっきりと知った。
鏡の中には、やっぱりもう一人の私がいたんだ。
子供の頃から不思議と感じていた・・・
見回すと、そこは病室のようだった。
かすかに虫の音が聞こえる。
「秋?・・・」
ふと、光る数字が目に入り、近寄って見ると、それはデジタル式の卓上カレンダーだった。

1987.10.23

「10月23日・・・私が自分の部屋にいたのは7月2日の夜中だった。3か月半も日にちが進んでいる」
思わず息を呑んだ亜紀は、月の光が差す床の上に何かが落ちているのに気が付いた。
それは、亜紀をここまで連れてきた、あの蛍だった。
まるで、その使命を終えたかのように、秋の月の光の中、その死骸は横たわっていた。
その時、物音がした。
驚いて亜紀が振り返ると、ベッドの上に人影が見える。
「はっ・・・」
白いパジャマを着て、ニット帽を被った少女が、点滴スタンドに掴まりながら立ち上がろうとしていた。
そして、床に伸びた自分の影の横に、もう一つの影があることに亜紀は気が付いた。
「えっ」
背後に立っていた少年の顔を見て亜紀は思わず悲鳴を上げそうになった。
「さ、朔ちゃん・・・」
そこに立っていたのは、まぎれもなく松本朔太郎だった。ただひとつ、亜紀が知っている朔と異なっているのは、その目がどうしようもない悲しみと絶望に満ちていることだった。

・・・やっぱり、おびき寄せられたのだろうか。

覚悟していたこととはいえ、想像していたことが現実となると、亜紀の心は恐怖と後悔で押しつぶされそうになった。
亜紀は震える声で少女に話しかけた。
「わ、私たちは、17年前に生まれて来る時に、神様の間違いで運命が入れ替わってしまったのよね・・・本当はあなたが幸せになり、私が病気になるはずだった・・・」
必死になって亜紀は続けた。
「私のこと、恨んでいるでしょ?だから、私をここに呼んだのよね。私たちの運命を元に戻すために・・・」
亜紀の背後でククッという笑い声がした。
このうえもなく哀しい苦笑だった。
そして亜紀は意外な言葉を聞いた。
「アキは君のことを恨んじゃいないよ」
「えっ」
「こんなことになったのは、アキ自身の運命。誰が悪いわけでも、誰が間違えたわけでもない・・・ただそう決まっていただけのことだよ。そのことはアキが一番良く知っているよ」
「でも、それじゃなぜ私を?」
「アキが言うんだ。どうしても君に渡したいものがあるって」
「渡したいもの?」
亜紀は、傍に近づいてきた少女の顔を見た。
少女はかすかに微笑みながら頷いた。

(続く)
※次回予告  夢見るジュリエット(12) 二つの運命3
...2005/07/10(Sun) 00:09 ID:4iybE5qQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
朔五郎さま
オカルトムードいっぱいの最新作でしたね。
暗い病室で人影が動いたり、後ろからもう一つの影が近づいてきたり、かなり恐かったですよ。亜紀も恐怖でパニクっている様子でしたね。
一足早く「夏の恐いお話」を楽しませていただきました。
...2005/07/10(Sun) 01:14 ID:mGXAfERA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
SATOさま
ご感想ありがとうございました。
さて、念のため「暦」のページで調べたところ、1987年10月23日は「新月=朔」でした。
つまり、この病室には出ているはずのない月の光が満ちていたことになります。
もはや「怪談」としか言いようがありません(苦笑)
...2005/07/10(Sun) 18:55 ID:4iybE5qQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(12) 二つの運命3

「俺たちは明日の朝、遠いところに旅立つ」
その言葉の意味を悟った亜紀は思わず叫んだ。
「やめて、行くのはやめて・・・」
「君も俺たちの運命を知っているわけだね・・・アキが生きて帰れる可能性はゼロに等しいだろう。途中で何かあれば俺も・・・」
「俺もって?」
「もう一人の俺、つまり君の彼氏だったらどうすると思う?君を置いてひとりで帰って来れると思う?」
「そんな・・・」
「行かなければ一年位は生きるかもしれない。二、三年生き延びればドナーが見つかって、骨髄移植が受けられるかもしれない。そんな人生もあるのかもしれない」
「そうよ、だから行くのはやめて」
亜紀の叫びに、少女は首を振った。
「もう耐えられないんだ・・・明日訪れるかもしれない死、五分後にやってくるかもしれない最期。生きているのか死んでいるのか分からない状態で、たったひとつ信じられるのは今、その瞬間だけなんだ」
黙って聞いていた少女は亜紀の顔を見ながら静かに頷いた。
そして自分が左手に付けていた腕時計をはずし、亜紀に渡そうとする。
「君に預かって欲しいんだ、俺たちの時間を。俺たちのかわりに・・・」
「イヤよ!自分で・・・自分たちで生きればいいでしょ!こんなのただの自殺行為じゃない。それとも、親や医者に対する反抗なの?」
「自殺でも反抗でもないよ」
四つの瞳が亜紀を見つめて光っている。
「これが俺たちの運命なんだ。俺たちは運命に従うことに決めたんだ」
亜紀には、もう言うべき言葉が残されていなかった。立ちすくみ、ただ涙を流し続けた。
「俺たちは負けたのかも知れない。何もかも失い続けて、ただお互いが好きだということしか、もう残っていないんだ・・・そんな俺たちが、もう一つだけ残すことがあるとすれば、それは俺たちの負けそのものだ。君は俺たちのことを覚えていて。俺たちが、この病気に負けていったことを。そんな負けが積み重なって、それが踏み台になって、この病気の患者たちの多くが生還できる日がやって来る。それはきっと、もうすぐそこまで来ているんだ。俺たちは間に合わなかったけど」
嗚咽を漏らしながら聞いている亜紀。
「君はこれから、こんなふうに、たくさんの患者の話を聞くことになる。それが君の運命だ」
「どうしてそんなことが分かるの?」
「忘れたの?君はお芝居の台本を書いただろ?あれは俺たちの運命そのものさ・・・それと同じ理由で俺たちは君の運命を知っている」
「そんな・・・」
「ここで全部バラしちゃったら気の毒だから言わないけど・・・そんなに悪い人生じゃないよ、きっと」
「だって」
「患者たちは、君と話をすることによって心が救われるだろう・・・そして、自殺を思いとどまったり、苦しい治療に前向きになったりする患者もきっと出てくるよ」
「そんなこと、私には重すぎる・・・」
「大丈夫だよ、きっと。君は一人じゃない。君のその仕事を一緒にやってくれる頼もしい相棒が現れるよ。いや、もう、すぐ隣にいるけど、まだお互いに気付いていないんだ」
「誰なの?」
「すぐに分かるよ・・・それが君たち二人の運命なんだ」
「運命?」
「そう・・・俺たちの運命は多分あと数日で終わる・・・それと同時に君の運命は大きく動き出す」
「・・・動き出す・・・運命が」
「だから、アキのその時計を受け取って。俺たちの時間を預かって。俺たちが生きられなかった時間を生きて。俺たちが見られなかったものを見て。俺たちが味わうことのできなかった喜びを味わって。勝って欲しい・・・戦って欲しい、患者たちと」
腕時計は今、亜紀の手に渡された。
「・・・行くの、どうしても?」
少女は、しっかりと頷いた。
「わかった、あなたの時間は私が預かる・・・いつかまたどこかで会う時まで」
少女は初めてホッとしたように笑った

「お別れだね・・・さあ、こっちに来て」
亜紀はその言葉通り、ベランダに出るガラス扉の前に立った。
「目を閉じて・・・」
亜紀が目を閉じると、彼は静かに亜紀の背中を押した。
瞼を透して強い光が感じられる。
その眩しさが収まった時、亜紀は目を開けた。
そこは、亜紀の家の玄関の鏡の前だった。

・・・帰って来たんだ

ハッとして、鏡の方を振り向いた。
鏡の中にはパジャマを着て、ニット帽を被った少女が立っていた。
亜紀が鏡に向かって左手を伸ばすと、少女は右手を伸ばした

指先が、そして手のひらがガラス越しに触れ合った。
少女の命の温もりが伝わって来る。
亜紀はまた泣き顔になった。

ごめんね、何もしてあげられなくて。

その心が通じたのか、少女はゆっくりと首を振り、顔いっぱいに笑みを浮かべた。
そして祈りを込めるように、くちびるが動いた。

い、き、て

何度も何度も亜紀は頷いた。
少女はもう一度満面に笑みを浮かべた。
そして、少しずつその姿は薄くなっていき、やがて亜紀自身の姿に変わった。

7月3日の朝、何事もなかったように亜紀は目覚めた。
夢のような・・・
でも夢でなかったことはすぐに分かった。
なぜなら、亜紀の机の上には、あの腕時計が置かれていたから。

(エピローグ)
10月25日。
夜明け前、亜紀は不意に目覚めた。
耳元で亜紀を呼ぶ声がした。優しく、懐かしく。
深い闇の中、亜紀は涙を流し続けた・・・

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(13)  最後の日
...2005/07/10(Sun) 22:24 ID:0RS/aYTU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
>1987年10月23日は新月で、出ているはずのない月の光が満ちていたことになります。もはや「怪談」としか言いようがありません

 まあ,7月2日の月を持って行ったという強引な解釈もなくはないですが・・・
 でも,本日放送の大河でも,早朝に残る月を演出する都合上,月齢を犠牲にして,旧暦の7日なのに,鵯越にかかる月が右半分の半月ではなく,左側の三日月というおよそありえない映像になっていたことに比べれば,まだ罪は軽いかなあと・・・

 それにしても,鏡の中のもう一人の自分から預かったのが普段身に着けている時計だったとは,読みを外されました。てっきり,陸上のストップウォッチ(それも12秒91を刻んだもの)だろうと予測していました。
...2005/07/10(Sun) 23:40 ID:2KgPBHqg    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
ご指摘の通り、腕時計にしようかストップウオッチにしようか随分考えました。

ストップウオッチ:短距離走のように駆け抜けた彼女の一生の象徴
腕時計:彼女が経験することのできなかった「その後」の時の流れの象徴

以上のように考え、ストップウオッチは自分の手元に残し、腕時計を亜紀に託すことにしました。
...2005/07/11(Mon) 23:33 ID:oI8I5ZJY    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(13) 最後の日1

宮浦高校のグラウンドでは今日も陸上部が練習していた。
グラウンドの隅のいつもの場所では、朔が亜紀の走る姿を見ていた。

谷田部が話しかける。
「ねえ緒形、あんた、今の松本みたいに、いつもあそこで見てたよね。桜井はいつも走ってて・・・」
「はい」
「桜井が最後に走った日のこと、覚えてる?」
そんな緒形を、智世が見ていた。

練習が終わった後、谷田部は亜紀と智世を呼び寄せた。谷田部の側にはアシスタントコーチの深田が控えている。
深田は宮浦高校在学中、愛媛県内でも屈指の女子スプリンターであった。美少女であった彼女は、同じ陸上部の砲丸投げの選手と付き合っていた。
不幸は練習中に襲ってきた。彼の投げた砲丸が、トラックを走っていた深田の腰を直撃してしまったのだ。彼女の競技生活は終わりを余儀なくされ、一時車椅子の生活になってしまった。宮浦高校のみならず愛媛県内の陸上関係者の間に衝撃が走った。幸いにも、深田の傷は回復し、日常生活には支障のない状態になった。現在、陸上競技の指導者になるべく、谷田部の下で研修をしている。
「廣瀬、上田、予選は良く頑張ったね。いよいよ県大会本番だよ。100m走の全国大会への出場枠は二つ・・・」
亜紀と智世はなんとなく顔を見合わせた。
「二人の実力なら、揃って全国大会に行けるよ。二人が勝つのを見て、私も幸せになりたい・・・」
「あ、ああ、ゴメン・・・深田はちょっと黙ってて・・・廣瀬、上田、あんたたち、もちろん二人で全国大会に出たいよね」
二人はこくりと頷いた。
「じゃあ、わかってるね。そのためには高い高い壁を乗り越えなきゃならないんだよ」
「はい。私たち、二人揃ってあの人に勝たなくては」
「そうだよ、でも生やさしいことじゃないよ、彼女に勝つのは」
「私と一字違いの・・・」
「そう、伊予高校の広瀬・・・」
松山市近郊にある伊予高校は、以前、映画のロケが行われたことで知られていた。
その高校をいっそう有名にしたのは広瀬の存在であった。
美しくしなやかな走り、そして圧倒的な強さ。
いつしか彼女は「愛媛史上、最強」と呼ばれるようになった。
「まあ、あんたたちは二年生、向こうは三年生だから、胸を借りるつもりで気楽に、と言ってやりたいけど、競技の勝敗ばかりは学年に関わりないからね」
「はい」
「じゃあ、今日はゆっくり休んで。明日からはまた気合を入れて練習だよ」
「はい」

「谷田部先生」
「ん?深田、何か気になることでもあるの?」
「あの二人、県大会は大丈夫でしょうか」
谷田部はちょっと渋い顔をした。
「深田はどう思う?」
「上田さんは絶好調です。今日のタイムは12秒45でした」
「ここにきてずいぶん伸びたね。大会が近づくにつれもっともっと速くなるよ。上田は心配なさそうだね」
「はい」
「あんたも気付いてると思うけど、廣瀬は調子を落としてるね」
「ええ」
「廣瀬・・・」
谷田部は亜紀を思い、深い溜息をついた。

「上田・・・」
「あ、緒形先生」
「今日は君たちの練習を見せてもらったよ」
「先生も陸上に興味があるんですか?」
「うん・・・高校時代付き合ってた子が、君と同じように短距離の選手だったんだ」
「そうですか」
「彼女、ほんとにいつも走っててね、どうしてそんなに頑張るんだ、って聞いたことがある。そしたら、短距離っていうのは瞬発力つまりバネが一番大事なんだ。だから、バネを強くするためにトレーニングするんだって」
「陸上選手のお手本ですね・・・あれ、その先輩は今はどちらに?」
「彼女の母親の出身地の修善寺っていうところにいるみたいだよ」
「遠いところですね。先生、卒業の時別れちゃったんですか?」
「いや、彼女はこの高校を卒業していないんだ」
「え・・・」
「高二の時ね、突然いなくなってしまったんだ」
「突然いなくなった?」
「そう、忘れもしない十月二十四日・・・」
「先生・・・」
「当時の担任教師の真田っていうのが彼女に言い寄ってね、彼女はもちろん拒否したんだけど、それが噂になっちまった。すると真田はサッと逃げてしまい、彼女だけがバカをみたわけさ。それで学校に居づらくなってしまったんだ」
「そんな理不尽な」
「上田、世の中なんていうのはそんなもんさ。正しい者が得をするとは限らない。不正を告発した勇気ある人が、結果的に一家離散に追い込まれるなんてこともある」
「ひどい話・・・」
智世は心底怒った顔をした。
「まあ、それはともかく、それきり彼女には会っていないよ。上田、今度の大会頑張れよ。君なら全国大会に行けそうな気がするよ」
「ありがとうございます、緒形先生。また練習、見に来てくださいね」

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(14) 最後の日2 
...2005/07/16(Sat) 20:21 ID:9Uzu5GrQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
そろそろかと思っていたら、新作がアップされていましたね。テレビっ子の私にとっては懐かしい番組も思い出させていただきました。
緒形先生には早くいい人が見つかるといいですね。
...2005/07/16(Sat) 22:12 ID:yOPoYdzE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
SATOさま
緒形先生を幸せにしてあげましょうか(^^)

読者の皆様へ
朔五郎は別スレの「○○○○○2」では頑なに「死の場面」を拒否し続けてきたのに、こちらでは、立て続けに二人も「殺して」しまい「話が違う」とご立腹の方もいらっしゃると思います。
実はこのシリーズを書くキッカケになったのは、正岡徹先生というドクターが書かれた「血液病おろおろ旅」(医薬ジャーナル社)という本でした。正岡先生は「夜明け前〜黎明期」の頃、血液病治療に従事され、その頃の試行錯誤や関係者の苦悩などを綴っていらっしゃいます。
その中でも特に印象に残ったのは「夜明け前」という一章で、急性骨髄性白血病で逝去した14歳の少年のお話でした。
その内容は医学用語が連続し、また非常に痛々しいものであるため一般の方にはお奨めしませんが、最後の部分を引用いたします。

正岡徹著「血液病おろおろ旅」(医薬ジャーナル社)19ページ

刀折れ、矢尽きた敗北であった。昭和44年以前の大阪成人病センターでの急性白血病の5年生存率は187分の1であった。急性骨髄性白血病は昭和45年に、急性単球性白血病は46年、急性前骨髄球性白血病が48年にそれぞれ最初の治癒例が得られた「この次は治りますように」「もっと鬼になって徹底的に叩こう」「腸内細菌をみんな消そう」など、決意と失意の連続した夜明け前だった。
(引用ここまで)

朔五郎のこのシリーズは「現在の優れた治療成績の礎になったのは、数多くの尊い敗北である」そんなことを表現したくて書いたお話です。そのため、登場人物が「負けた」という表現を連発してしまいました。不快に思われた方がいらっしゃいましたらお詫び申し上げます。

事実を申し上げておきますと、1987年頃には、ドナーさえ見つかれば、骨髄移植自体はかなりの高率で成功するようになっていました。これは1982年、シクロスポリンという免疫抑制剤が治験薬として使用可能になり、急性GVHDなどによる治療関連死が減少したためだと思われます。
...2005/07/18(Mon) 04:30 ID:i/DIPMY6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
朔五郎さま

緒形先生と智世の会話は、「ファイト」の親子の会話のようでもあり、楽しかったですよ。それを意識されてました?
※5話にワンシーンだけ出てきた智世のお父さん役・おかやまはじめさんは、「ファイト」では旅館の若旦那役でユイカちゃんと再共演中です。


「幸せになりたい・・・」と言った深田コーチは木曜夜の「女系家族」の前枠のドラマと年内放送予定の「赤〜」とがカブリますね(^^)
※スミマセン、私木曜日9:00のこのドラマ観てないんです。
...2005/07/24(Sun) 10:03 ID:x2oTAGb6    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
SATOさま
>緒形先生と智世の会話は、「ファイト」の親子の会話のようでもあり、楽しかったですよ。それを意識されてました?

はい、実は(笑)
ものすごくマニアックなネタですが、三原じゅん子さん演じる、おかやまはじめさんの妻(若女将)の役名は「敏美」(谷田部先生と同じ)ではなかったでしょうか?どうでもいいことですけど(苦笑)

私も「木9」は観ていません。ゴメンなさい。なお「深田コーチ」のイメージには以前出演していた「富豪刑事」も入ってます。

現在こちらはストップしてますが、別スレの方を先に進行させようと思ってまして(一応あちらがメインなので)・・・

ちなみに緒形先生の相手役は
「道後温泉の旅館のフロント係の小雪さん」(朝ドラっぽく)
「離婚して故郷に戻ってきた保険外交員のみちるさん」(日9+金10っぽく)

のどちらにしようか、考えているところです。
...2005/07/24(Sun) 11:50 ID:VyCvc/.E    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 朔五郎さま
 「決意と失意の連続した夜明け前」の段階における「刀折れ、矢尽きた数多くの尊い敗北」の上に現在の優れた医療を築き上げた先人たちの努力に思いを馳せながら,なぜ,ドラマのサクは臨床ではなく病理に進んだのかを考えていました。
 詳しくは「謎解き」スレに譲りますが,第二世代を中心に展開する続編スレの松本教授は,最初から臨床に進んだのでしょうか。
 もし,最初から臨床に進んでいたという設定だとした場合,それは,1987年当時の医療水準をどう考えるかということと関わっているのでしょうか。
 また,もし,途中で病理から臨床に転じたという設定だとした場合,そのことと,亜紀が自分の一部となって一緒に生きているということが自覚できるようになったこととの間に何らかの関係があるのでしょうか。

 ところで,緒形先生の相手役が「離婚経験のある保険外交員」だとすると,就学直前の子どもがいるのでしょうか。
...2005/07/24(Sun) 13:55 ID:/hakvl5E    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
ドラマのサクについては「謎解きスレ」で議論するとして、続編の松本教授について書きます。
あのお話の中でも朔はまず病理医になりました。それについてごろ様はこんな表現をされています。
「あいつ(朔)は高尚な目的のためでなく、ただ亜紀の死の近くにいたくて医者になった」と。
朔五郎もそうだと思います。しかし、このような動機で医学の道に入るとすれば「亜紀の無念を晴らすため」臨床医になるのが普通でしょう。
あるいは、基礎研究をするとか。
ところが、彼はそのどちらでもない病理医になった。何故でしょうか?
それは「亜紀が死んだことを忘れないため」だったのではないでしょうか。
亜紀の命を奪った白血病細胞と毎日向き合うことで、亜紀はもういないんだと自分に言い聞かせる。そんな理由からではないでしょうか。
一方、血液内科の臨床医になれば、元気だった人間が衰弱し、副作用で髪が抜け、やがて死んでいく場面を目撃するでしょう。医師はそれを客観的事実として、現象の一つとして受け入れなければなりません。しかし、彼にとってはそれは亜紀の死をも受け入れるということになるのです。
いまだ焼香すらできない彼にとって、それは到底不可能なことだったでしょう。
そんな彼も小林明希に出会い、ついに亜紀の死を受け入れる時が来ました。
「続編」では、その時から、松本朔太郎は臨床医学に目を向けられるようになった、という流れで良いのではないかと思います。

さて、話は替わって「保険外交員」のプロフィールを公開します。

廣瀬みちる(34)
廣瀬真の(年齢の離れた)妹。亜紀の叔母に当たる。
宮浦高校時代は緒形尚人の同級生。緒形がやはり同じクラスで陸上部員の桜井未散(みちる)と付き合っているのを知りながら、密かに好意を寄せていた。
高2の10月24日、桜井は突然、宮浦から姿を消す。しかし、その後も自分のことを「廣瀬」としか呼ばない緒形の態度から、彼にとって「ミチルは一人でいい」ことを思い知らされる。
緒形を諦めたみちるは、松山の短大に通っている頃知り合った医学生・間柴恂とやがて結婚する。
リナという女の子にも恵まれ、若くして大病院の院長になった夫と幸せに暮らしていた。
しかし、その幸せは長くは続かなかった。夫の恂が院長の職を放棄して、パリの美大に留学してしまったのだ。
あまりのことに呆然としたみちるだったが、リナと二人で生きていくため、保険の外交員となる。
しばらく松山支店に勤務していたが、最近、大洲支店宮浦営業所に転勤となり、故郷に戻ってきた。
それを機に正式に離婚し、間柴姓から廣瀬姓に戻る。
なお、リナ(5)は、みちるのことを「おねえちゃん」と呼んでいる。これは、みちるが実年齢より若く見えるため、周囲が「お母さんではなくお姉さんのようだ」と話していたのをリナが聞きつけて「おねえちゃん」と呼ぶようになったのである(みちるが強制しているわけではない)
...2005/07/24(Sun) 23:13 ID:VyCvc/.E    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
保険外交員の女性は亜紀パパ・真の妹さんでしたか?
緒形先生も真から「妹に何の用だ。まず挨拶しなさい。」とか、「教育者たる君が挨拶の仕方を知らないからああいう挨拶できない子(朔のこと)が育ってしまうんだ。」などとやられるのでしょうか?
しかし、みちるの夫もヒドイ男ですな(`´)留学先で毎日ネット掲示板を見ていろいろ書き込みしてるんでしょうかね。←「電車男」からのネタでした。

※ちなみに「温泉旅館のフロント係」の女性はどんな方でしょうか。高校生くらいの女の子がいるのでしょうか?是非紹介して下さい。

余談ですが、「パンテーン」のCMキャラはミムラさんに替わったんですね。CM担当者は廣瀬亜紀から秋穂澪へのバトンタッチを意識したのでしょうか。
...2005/07/27(Wed) 23:55 ID:rHaUGuqE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
>緒形先生も「教育者たる君が挨拶の仕方を知らないからああいう挨拶できない子が育ってしまうんだ。」などとやられるのでしょうか?

 ひょっとすると,間柴恂も「人の生死を扱う職にある者が挨拶ひとつロクにできないのか」とやられ続けて,こりゃたまらんとばかりにフランスに亡命したのではないでしょうか(^^)

>「亜紀が死んだことを忘れないため」白血病細胞と毎日向き合うことで、亜紀はもういないんだと自分に言い聞かせる。そんな彼も小林明希に出会い、ついに亜紀の死を受け入れる時が来ました。

 職場では検体を,家では瓶を見て,亜紀がいないことを自らに言い聞かせる日々とは,何とも物悲しいですね。ひょっとすると,「挨拶おじさん」にいつもやりこめられている姿というのは,向かい合うことができず逃げ続けている姿を象徴しているのかもしれませんね。
 ラスト近くの「生死を扱う仕事は大変だったろう」というセリフは医学部進学を初めて口にした時の「看取る場でもある」という担任の言葉を受けたものでしょうし,結婚写真を頼む時の父親同士の会話に登場する「こんなふうに幸せになりたいと思うのではないか」というセリフは,17年後,「普通は,いい思い出として残るんじゃないか」という小林のセリフに受け継がれています。発言者と場面は変われど,17年後にそれを受け継ぐセリフが登場するというところが巧みですね。
...2005/07/28(Thu) 08:31 ID:AxVuN3Ms    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
SATOさま、にわかマニアさま
「みちるバージョン」の場合、真は妹のことを不憫に思っているでしょう。ですから、そんな妹を幸せにしてくれるかもしれない緒形には案外、下手に出るかもしれません。もちろん、その分「とばっちり」を受けるのは朔で「もう少し緒形先生を見習ったらどうだ」とか「こんな生徒じゃ緒形先生も苦労するだろうな」とかイヤミを言われるんじゃないでしょうか(笑)

小雪さんのプロフィールです。

本仮屋小雪(32)
愛媛県今治市出身。実家は典型的な地場産業であるタオル製造業を営んでいた。
松山一高に在学中は女子ボート部に所属し、全国大会出場経験をもつ。高校卒業後、松山市内の大学に進学し、学生専門の下宿屋に入る。この時、ひとつ屋根の下に、やはり大学生だった緒形が下宿していた。ある日、下宿で小雪が倒れてしまう。鼻血を出し病院に運ばれていく小雪の姿に呆然とする下宿生たち。皆、内心「あれは白○病だ」と思っていた。しかしまもなく、原因は洋酒入りチョコレートの食べ過ぎだったことが判明した
なんとなく引かれあう二人だったが、緒形の心の中からは桜井の面影が消えず、進展することはなかった。やがて小雪の実家のタオル工場が突然倒産してしまう。同業者組合の談合を告発したのが原因だった。
小雪は大学を中退し、道後温泉の旅館で働き始める。以後、付き合って欲しいといわれたり、縁談が持ち込まれたりしたが、彼女が応じることはなかった。緒形の存在の大きさを失って初めて気付いたのだった。
月日は流れ、フロント係として仕事をしていた小雪の前に、慰安旅行で訪れた宮浦高校の教師の一行が現れた・・・

「小雪バージョン」の場合、小雪さんは未婚で子供もいません。
「緒形+小雪+智世」でユニット完成です(笑)
...2005/07/29(Fri) 01:59 ID:/GCuznag    

             Re: 続・サイド・・・  Name:SATO
緒形先生の「正しい者が得をするとは限らない。不正を告発した勇気ある人が、結果的に一家離散に追い込まれるなんてこともある」というセリフは小雪さんのことを言ってたのでしょうか?
みちると小雪、二人の女性の存在が話をややこしくしなければいいのですが。緒形先生にはくれぐれも誤解されることがないよう、気を付けていただきたいです。「貴様、妹の気持ちを弄んでたのか!」と真に殴られたりしたら大変です。
...2005/08/01(Mon) 20:08 ID:v/iql/wI    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
SATOさまへ
小雪とみちる、二人が共存することは、やはり無理でしょう(^^;;
小雪(≒法子?)のイメージは別スレでSATOさまが先に創作されていることでもありますので、こちらでは(今までにないパターンの)「みちるバージョン」でいこうと思います。
...2005/08/01(Mon) 23:46 ID:KMshUONE    

             Re: 続・サイド・・・  Name:にわかマニア
 歳の離れた妹ということは,娘も同然ですね。真は妹に対してどんな接し方をするのでしょうか。過干渉で,妹が「兄さん。私いつまで○○」とキレてしまう場面は登場するのでしょうか。その時の綾子のスタンスや,叔母と姪の会話など,想像するだけで楽しみが膨らんできます。
 緒形先生って,何代か前の信長似だとすると,濃姫に似た人が登場した場合,どんな反応を示すのでしょうか。

 以上,「挨拶おじさん」と「えらいこった爺」という2人の特徴的なキャラにハマってしまった「真重病」患者のたわごとでした。
...2005/08/02(Tue) 12:57 ID:RIgNdH6M    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
にわかマニアさま
みちるのキャラは「内気でおっとりしている」と想定しています。特に勉強やスポーツができたわけでもない。目の前に好きな緒形がいるのに、自分をアピールすることができず、桜井と仲良くしているのを遠くから見ていただけ、という感じです。「(イマアイの)澪の少女時代」に近いかもしれません。
ただ、亜紀と違って、真の少年時代を知っているため、何らかの弱みを握っているかも知れません(笑)
あと、娘のリナが「おねえちゃんのことをいじめるな」と真に立ち向かうかもしれません(リナはみちるを「おねえちゃん」と呼ぶ・笑)
みちると亜紀でグチり合う場面はきっとあるでしょうね(^^)
...2005/08/03(Wed) 00:50 ID:jjCjSkPQ    

             Re: 続・サイド・・・  Name:たー坊
ご無沙汰しております。たー坊です。最近落ち着きつつあるので、お邪魔してみると・・・気が付けばもうすぐここも一杯になるのですね。
これからも楽しみにしておりますので、ぜひとも”2”のスレッドを立てて、書き続けていただきたいと思います。
...2005/08/03(Wed) 20:10 ID:xO6hMlcU    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
たー坊さま
このスレッドは私がスレ主というわけでもなく、ただこの作品群を「過去ログに沈める」のが忍びないため、書き込みをしていた次第です。
でありますので、一杯になったら当然Part2を立てようと思うのですが、今は過去ログ入りしてしまった「サイドストーリー群」を再発掘できるようにリンクを張りたいと思います。
読者の皆様も、これだけ数多くのサイドストーリーが生まれたということこそ「世界の〜」という物語が、いかに広く愛されたかということの証拠であるとわかって頂けると思います。
...2005/08/03(Wed) 21:44 ID:Am.BlgKA    

             Re: 続・サイド・・・  Name:朔五郎
僭越ながら、私が締めさせて頂きます。
Part.2は「サイドストーリーの図書館」のようなスレッドにしたいと思っております。
また、お立ち寄り下さい。
それでは、Part.2でお会いしましょう。
...2005/08/04(Thu) 00:16 ID:bhfrNPYY    

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