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過去ログNo1
「世界の中心で、愛をさけぶ 2」 Part.7  Name:朔五郎
(あらすじ)

大林亜紀は宮浦高校の3年生。同じクラスの大木健三郎と付き合っている。
健三郎という名はノーベル賞作家の大江健三郎から取ったらしい。

茶髪という今風の二人だが、意外にもオク手で、キスより先にはなかなか進めない。ケータイのメールを使って交換日記の様なことをしている。
亜紀の母、智世と健三郎の父、龍之介は若い頃付き合っていたが、訳あって別れたらしく、それが原因で子供達の交際には反対だった。

ケンと私は、まるでロミオとジュリエットね。防波堤の上で夕陽を見ながらアキがつぶやく。
アキの絵画の才能は周囲に認められていたが、実家の薬局を継げといわれていた。このままでは、ケンとも引き離され、好きな絵画の道にも進めなくなってしまう。本当はモダンアートの勉強をしたいのに。

ケンはアキの夢を叶えるために逃亡計画を立てる。まず、東京へ行き、そこでアルバイトをして金を作る。そしてニューヨークへ渡る。

どうせ一度の人生なら、世界で一番自由な空気を吸ってみたい。

しかし、現実は甘いものではなく、東京での苦しい生活に疲れ傷ついていく。
ある日、渋谷の街を歩く二人は、不良グループに襲われる。傷を負いながらアキを守ったケン。しかし金や携帯など、すべてを奪われてしまう。
もはや為すすべもなく、渋谷駅のベンチにうずくまるしかなかった。
アキが高熱を出した。ケンは交番から親に連絡しようと言うが、アキは帰りたくないと言い張った。そして遠のいていく意識の中で「ありがとう、好きよ、ケンちゃん」と言いながら目を閉じた。

内科教授・松本朔太郎は救命センターからの連絡を受け、搬送された亜紀の治療に当たる。重症の肺炎で死線を彷徨うが、朔太郎の懸命の治療により命をとりとめた。

やがて駆けつけた智世や龍之介も、二人の思いの強さを知り、理解を示す。
ひとまず、故郷に帰ることになった二人。退院前日に病院の屋上から超高層ビルの上の空を見ている。
少し離れたところでその姿を見守る朔太郎の耳に、優しく、懐かしいあの声が聞こえた・・・。

その後帰郷した二人は、大学受験に臨む。ケンは地元の県立宮浦大学に合格するが、アキは不合格となり浪人生活に入った。二人は、アキが合格するまで交際を禁じられる。ケンはアキの自宅か図書館以外では会わないことを条件に、家庭教師を申し出る。

アキの同級生マサミは、ふとしたことから廣瀬夫妻と知り合いになり、最後まで自分らしく生き抜こうとした廣瀬亜紀の話を聞き感銘を受けた。大沢先生の妻・律子と二人で「かたちあるもの」という歌を創り、廣瀬夫妻に贈る。

元・宮浦高校教師の谷田部がガンと診断される。治療の苦しさを思い手術を拒否する谷田部に対し、元教え子たち、そしてその子供たちや担任教師だった大沢の必死の説得が実を結び、谷田部は手術を受け、一命を取り留めるのだった。

幼かったケンとアキをはじめ、マサミ、ユイ、シンジ、レイコ、それぞれが少年少女から青年へと、花が開くように変わっていく・・・


このスレッドでは随時、原稿、ご意見、ご感想等を募集しております。お気軽にご投稿ください。

【Part.1】
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=4233&pastlog=7

【Part.2】
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=5871&pastlog=8

【Part.3】
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=6538&pastlog=10

【Part.4】
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=7674&pastlog=12

【Part.5】
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=9509&pastlog=17

【Part.6】
過去ログに入った時点でお知らせします。
...2006/02/10(Fri) 01:13 ID:0RS/aYTU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
皆様のおかげで、このスレもPart.7までやって来ました。
これからも、よろしくお願いいたします。
...2006/02/10(Fri) 01:19 ID:0RS/aYTU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
特別編・ミチルがゆくX

ミチルが部屋に戻ったのは業界時間で30時30分(午前6時30分)のことだった。ロケの帰り道、事故が原因の高速道路の渋滞に巻き込まれたのである。疲れきった体でドアを開け、ダイニングに入った時、目に入ってきたのは食卓の上に散らばった弁当のパックや生ゴミだった。山辺が夕食を一人でとり、片付けなかったに違いない。
物音を聞いて山辺が起きて来た。
「お疲れ、ミチル・・・」
「タカユキ、ゴミ箱じゃないんだけどな」
「ご、ごめん」
「早く片付けて。ちゃんと分別してね」
「あ、あのさ・・・」
「ほら、さっさとやっちゃって欲しいんだけど」
「・・・うん・・・ミチル、今日これから仕事?」
「さすがに臨時の撮休になったわ」
「じゃ、休めるんだ」
「うん。家の中のこともやらなきゃならないし」
「そうか」
「あれ、カードが出しっぱなしになってる」
「あ、ごめんごめん」
「タカユキ、ここに座って」
「はい」
「前にも言ったでしょ、こういうものはちゃんと管理しなきゃダメだって」
「・・・はい」
「もし失くしたりしたら偽造カードとか作られて、変装した悪い女が、お金を全部引き出しちゃうかも知れないんだよ」
「なんか、まるで当事者みたいな・・・」
「まったくもう・・・隙を見せた方が負けだと思わない?結局、騙されるほうがバカだとか言われちゃうんだよ」
溜息をつきながらもミチルは続けた。
「いい機会だから話しておくね」
ミチルは小さな金庫から通帳とカードを取り出した。
「これはね、私の貯金。二千万円を五つの口座に分けて入れてあるわ」
「す、すげえ」
山辺はゴクリと唾を呑み込んだ。
「これがカード」
「う、うん」
「どうしたの?不思議そうな顔をして」
呆気にとられている山辺に、ミチルが言った。
「い、いや・・・こんな大金どうしたのかな、と思って」
「だから貯金したのよ」
「で、でも」
ミチルはフッと息をつくと、山辺の顔をじっと見た。
「え・・・な、なに?」
ミチルは思い切ったように言った。
「詳しく説明しようか?」
山辺はプルプルと首を振った。
「い、いや、想像しとく・・・」
ニヤリと笑いながらミチルが言う。
「だいぶ賢くなったね、タカユキ」
「ミチル・・・」
「なに、どうしたの?私が怖いの?」
「そ、そんなことないよ」
「ふふっ、犯罪に巻き込まれた挙句、最後は口封じでヤクザに・・・」
「ひ、ひえ〜」
「ガスの点検でーす、とか言ってヤツらはやって来るのよ」
「た、たすけて・・・」
「ああ、なんだか可哀想になってきたから、今日はこのくらいにしといてあげる。とにかく、このお金は生活費に使っちゃダメだよ」
「どうして?」
「これはね、タカユキの勝負どころで使うの。仕事が取れるかどうかって時にね」
「そういうものを・・・金で買うの?」
「この世界はキレイごとだけじゃ、やっていけないのよ。時にはそういうこともあるわよ」
「厳しいんだね」
「そうよ、だから頑張って」
タカユキは溜息をついた。
「大丈夫か、オレ・・・」

やがてミチルはバスルームに入って行った。山辺は通信のシナリオ講座の課題を書き始めた。
「タカユキ」
ミチルが呼んだ。
「なに」
「ちょっと来て」
ミチルは体を洗っていた。
「ねえ、背中を洗って」
「う、うん」
「もう夫婦なんだから、そんなに引き攣らなくてもいいでしょ」
「そ、そりゃね」
ミチル愛用のスポンジにシャボンを付け、そっと洗って行く。それから少しぬるめのシャワーで泡を流した。
「ありがとう」
タカユキはミチルの白い背中に触れて言った。
「・・・本当はあったかいんだね、ミチルの体って」
「そうよ・・・私はガラスでできた冷たい女じゃないわ」
しかし山辺は気付いた。ミチルの白く美しい肌が、ほんの少しだけ輝きを失っていることに。
「ミ、ミチル・・・ごめん、こんなこと言って良いのかわからないけど・・・あの・・・ちょっと肌が荒れてない?」
ミチルは一瞬俯いた後、山辺の方を振り向いて笑った。
「最近エステに行ってないから・・・」
ミチルは、女優の命とも言うべき美しさを保つため、週に一度は必ずエステに通っていたはずだった。
「え、行ってないって・・・それ、もしかしてお金が?」
「・・・うん」
「だめだよ、だって女優にとって一番大事なことじゃないか。あの貯金を使えばいいじゃない」
「あのお金はタカユキのために使うの」
「そんなこと言ったって・・・」
ふとミチルの手を取ってみると、それも荒れていた。
「洗い物とかも自分でしなくちゃならないから・・・」
「ミチル・・・どうして」
山辺の目から涙がこぼれた。
「大丈夫だよ。タカユキは自分が大きくなることだけを考えて」
「・・・オレ、頑張るから・・・もう二度とミチルが手を荒らさなくて良いように、強くなるから」
ミチルを背後から抱きしめながら、山辺は呟いた。

(終わり)
...2006/02/12(Sun) 03:25 ID:2G..k0tQ    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん
「ミチルがゆくシリーズ」は「白」のパロディーとして楽しく読んでおります。
...2006/02/12(Sun) 11:33 ID:OsQzbUSI    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 朔五郎さん
 キャラ的には「白」のパロディーですが,大勝負にかけるための「へそくり」というところは「山内一豊の妻」の世界ですね。
...2006/02/12(Sun) 17:11 ID:kJztx.tQ    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん、にわかマニアさん
お読み頂いてありがとうございます。ご指摘のとおり、ちょっとだけ「大河」を入れてみました(^^)
...2006/02/12(Sun) 19:00 ID:2G..k0tQ    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その5)

契約、という言葉に戸惑う亜紀に龍之介は言った。
「亜紀ちゃん、今更なんだけど、うちの健のことどう思う?」
「どう、って・・・」
健と亜紀は思わず顔を見合わせた。
「健との将来を考えてくれてると期待してたんだけど」
「はい、前向きに考えようと思ってます」
龍之介は微笑みながら頷き、言葉を続けた。
「それなら言おう。亜紀ちゃんにもわかってると思うけど、将来、健と一緒に生きて行くのなら、ショッピングセンターの運営の方は、かなりの部分、亜紀ちゃんに見てもらうことになると思うんだ。健は水産会社本体の方を背負わなきゃならないからね」
「・・・はい」
「それでだ」
龍之介は亜紀の目を見ながら言った。
「もし、その気があるのなら、今から少しずつ、うちの仕事に参加してもらおうと思ってね」
「仕事、ですか・・・」
「そう、これはビジネスだ」
「でも私、自分の家の店のことしかわからないし・・・」
「大丈夫だよ」
龍之介は笑う。
「君にやってもらいたいのは《空間プロデュース》だ」
「空間プロデュース?」
「そうだ。この間描いてもらった絵、とても評判が良くてね。なんとなく爽やかな風が吹き込んだような気がするとか、その場が明るくなったとか、お客さんからの声が寄せられているんだよ。それで、ある予算の範囲内で、センター内の装飾を考えて欲しいんだ。君自身が絵を描いてもいいし、装飾品を買ってきても良い。そのへんは任せるよ」
「あの、あまりの大役で・・・」
「亜紀ちゃんには才能がある。きっとできるよ・・・で、その報酬だけど」
「報酬?」
「そう、これはビジネスだから当然だろ?」
「でも・・・」
「ま、聞いてくれ。今度、週末には美術学校に通うと聞いたけど」
「はい」
「それなら、その学費をうちで出させてもらおう」
「ええっ、そんなこと」
「いや、うちの事業を手伝ってもらうんだから、これは経費で落とせる」
何が何だかわからず困惑する亜紀は小さな声で言った。
「両親にも相談しなければいけないので・・・」
「そうだね。良く話してみて欲しい・・・ただ」
「ただ?」
「昨日、センター内のお店で亜紀ちゃんのお父さんにお会いしたんだけど、このことを話したら、亜紀ちゃんの気持ち次第だ、と言ってらしたよ」
「そうですか」
「ねえ、亜紀ちゃん」
それまで黙っていた優子が口を開いた。
「ショッピングセンターのお客さんって、やっぱり女性が多くてね。それもいろんな年齢層の女性が来るでしょ?だから、亜紀ちゃんにその気があるなら、いろいろ見て回って、感じたことを言って欲しいのよ」
「はい」
龍之介が言う。
「もちろん、薬剤師の資格はあの中のお店の運営には必要なものだし、センター全体の衛生面の管理とかにも、とても役に立つ。だから、そちらの方の勉強も頑張って欲しい・・・虫がいいかも知れないけどね」
「いえ・・・」
「今まで亜紀ちゃんは、健の可愛い恋人だった。僕たちもそういう目で亜紀ちゃんを見て、この家に来るのを歓迎していたんだ。もちろん、それは変らないよ。だけどこれからは、それだけじゃなくて、事業をやっていく上で、僕たちの仲間、一員になって貰いたいんだ。まあ、最初はそんなに緊張しないでノビノビやってくれ」
「良いんでしょうか、それで」
「最初はね」
龍之介は笑った。
「あそこのことで何か気付いたこと、ある?」
「若い人たちが集まるお店が一つ欲しいと思います」
「若い人ねえ・・・あ、そうか、あれか」
「はい、タコ焼きの出店を作ったら、高校や大学の帰りに、結構立ち寄るような気がします」
「よし、早速考えてみよう。ありがとう、参考になったよ。そういうこと、これからもどんどん言って欲しいんだ」
「はい」
「ね、亜紀ちゃん」
優子が問いかける。
「亜紀ちゃんは絵本に興味があるの?」
「はい。将来は自分で創ってみたいと思ってます」
「そうか・・・それなら休憩コーナーに、絵本を置いてみたらどうかと思うんだけど、選んでみてくれない?」
「わかりました」

その夜、帰宅した亜紀から話を聞いた達明と智世は、少しの間、黙っていた。
「で、どうする、亜紀」
「せっかくのお話しだから」
「やってみるか」
智世が口を開く。
「せっかく大学に入ったんだし、学生生活そのものを楽しい、充実したものにしたって良いんだよ」
「うん・・・でも、私、いつかはその道を歩いて行くと思うんだ。それなら声を掛けてもらった時に、気持ち良くお受けしたほうが良いと思った」
「そうか」
達明が言った。
「それなら、やってみれば良い。報酬を受けることの重さ、厳しさを知ることも、良い経験になるだろう」
「うん」
心なしか遠いところを見るような目をして、達明がポツリと言った。
「亜紀も自分の道を歩いて行くんだな・・・俺たちの元を離れて・・・」

(続く)
...2006/02/12(Sun) 19:05 ID:2G..k0tQ    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
みなさん、こんばんは。
それにしてもトリノ、盛り上がりませんねえ(涙)
各種目のエースと呼ばれる選手たちがことごとく不振ではねえ・・・
白夜行の雪穂、怖いですね。あの演技が出来るのはさすが、という感じですが、あのイメージが定着するのも困るので「アフターケア」をきちんとして頂きたいと、切に願っております。
...2006/02/16(Thu) 00:39 ID:1uKEAhko    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
白夜行を観て・・・
松浦さん、べーやんとミチルより先に「白夜の国」へ旅立ってしまいましたね(苦笑)
...2006/02/19(Sun) 23:04 ID:ZVH3Qls.    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO

朔五郎さん
スケちゃんに似た顔をした古賀刑事は殉職しちゃいましたね・・・この人をモデルにしたキャラを出そうと思っていた矢先に「想定外」の事件が起こったので、ストーリーの練り直し中です(苦笑)
...2006/02/20(Mon) 21:44 ID:aPbln5qE    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
皆様お疲れ様です。
ようやく、やるべきことを終えて戻って来ました。
ひとまず、今までの物語を読ませていただきました。朔五郎さんの広島編も好調のようですし、SATOさんのも相変わらず良い雰囲気だと思います。
これからも楽しみにしております。
...2006/02/25(Sat) 19:41 ID:PcTGUBxU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
たー坊さん
お帰りなさい。淋しかったですよ(^^;;;
また、刺激しあえるように創作していきましょう。
...2006/02/26(Sun) 02:37 ID:bbFhvI8U    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
特別編・ミチルがゆくY

明るい・・・明るいよ・・・
壇上にはまばゆいばかりのライトが当たっていた。

2020年12月24日。
街中がイルミネーションで輝いている。幸せそうに肩を寄せ合い歩いているカップルや家族連れ。
東京・赤坂では「オフィスB&M」の本社ビル完成記念パーティが華やかに行われていた。主役はもちろん、脚本家兼俳優の山辺孝之である。ここ一年ほどの山辺の活躍はあまりにも華麗であった。シナリオを起こしたドラマ、主演したドラマは確実にヒットし、社会現象にまでなっていた。まさに、天高く昇る太陽のようだった。
これだけの栄光に包まれながら、しかし、彼の心は晴れなかった。近づいてくる女性は星の数ほどいる。富も名声も吸い寄せられるかのように彼に集まっていた。しかし、赤坂で最高級のすき焼きを食べている時でさえ、あの味が忘れられなかった。夜遅く、ロケからの帰り道で、ミチルが買ってきてくれた屋台のタコ焼き。一本ずつ楊枝を持って、フウフウ言いながら食べた、かつおぶしとソースの味・・・
山辺は心の中で呟いた。

なあ、ミチル。今なら分かるんだ。ミチルの愛が、どんなに大事だったかということが。見返りを求めることのない無償の愛。どんなに暗く、長い夜でも、その身を燃やし道を照らしてくれた、真夜中でも決して沈むことのない太陽。

「やったね、タカユキ」
心からの笑顔を見せてくれたあの日。彼が連続ドラマの脚本を手がけるという大きなチャンスを獲得した日だった。
「やっぱりプロデューサーの目ってすごいね。平田さん言ってたもん。巨匠は若い頃から巨匠なんだって。タカユキの、人を見る目の優しさはね、誰にも真似できない程素晴らしいって」
「ずっと前に、お前の書く文章はハンドク不能だって怒られたこともあったけどなあ」
「タカユキはずっと努力して来たじゃない。やっぱりケイゾクは力だよ」
「ミチル・・・」
愛しくて愛しくて仕方なかった。以前より細くなった肩が、以前より白くなった顔が・・・もう二度と離さない。力一杯抱き締めたまま夜は更けていった。
そして次の朝、山辺が目覚めるとミチルの姿は消えていた。テーブルの上には、ミチルのサインが入った離婚届と置手紙が残されていた。
「私たちは、顔も名前も知らない他人だよ。これが私の、最後で、最高のプレゼント・・・がんばれ!!」

となりの女優はどこに行ったの?
もう見えないよ。
彼女の夢は、お前の夢だ・・・

必ず、必ず、タカユキを太陽の下に出してあげるからね・・・

ミチルを失い、茫然自失の日々を送っていた山辺は、思い出の品をすべて、一つの箱の中に入れ封印した。
脚本の締め切りが迫って来た。忙しいのはありがたい。今は・・・今は何も考えたくない。山辺は仕事に没頭した。
そんな山辺のもとに一人の刑事が訪ねてきた。
「宮浦署の笹柿です。あれ、前にお会いしたことありましたっけ?」
「いや・・・」
「そうですな・・・いや、今日うかがったのはミチルさんのことで」
「ミチル?ミチルなら出て行きましたけど・・・」
「そのようですな。ところで、大きなチャンスを手に入れたようですな」
「ええ・・・」
「なによりです。ところで、松裏という男をご存知ですな」
「はい・・・」
松裏は平田プロデューサーのチームでアシスタントプロデューサーを務めていた男だった。
「実は失踪したんですよ、松裏」
「失踪?」
松裏は、山辺に対して何かと辛く当たってきた。仕事を妨害されたことも度々である。
「あいつ、結構いいヤツなんだぞ」
平田に訴えても、いつもそう言われてしまった。
「松裏が消えてからですな、あなたの幸運が始まったのは」
「何が言いたいんですか?」
「実は、松裏が最後に目撃されたのはノルウェーでしてね。江ノ本という男と一緒にいたんですよ」
「それで」
「ミチルさん名義の口座から、二千万円の金が動いています。その振込先は江ノ本です」
「まさか・・・ミチルが金を渡して松裏を・・・」
「証拠はありません。しかし、可能性は十分にあります。とにかく、真島ミチルが現れたら連絡願います」
笹柿を見送って、山辺は崩れるように座りこんだ。ヤクザまがいの男に金を渡して松裏を消したとすれば・・・ミチルだって無事に済むとは思えない。もしかすると、もう既に・・・

死ぬのか、ミチル・・・

不吉な影が覆いかぶさってくるような気がした。
・・・それから一年、誰も出てこなかった。松裏も江ノ本も、そしてミチルも。誰もが彼らのことを忘れてしまったかのようだった。ただ山辺だけが輝きを増していった。

華やかなパーティもお開きになった。山辺はふと、入り口のほうを見た。そこにはサンタクロースの衣装を着た若い女性が立っていた。山辺と目が合うと、彼女は慌てて目を逸らし、その場を立ち去ろうとした。
「!」
山辺は必死で後を追った。
「ミチル!」
その叫びに、彼女は立ち止まった。さらに走り寄ろうとする山辺が、次の瞬間凍りつく。ミチルの傍には笹柿が立っていた。
「・・・ミチル」
涙に濡れた顔を上げると、ミチルは手錠の掛かった手で山辺を、そして新しい本社ビルを指差した。

・・・行って、タカユキ。

どうすることも出来ず、その場に立ち尽くす山辺。しかし、ミチルに背中を押されるように、涙を流しながら去って行った。
その後ろ姿を見送りながら笹柿は言った。
「気は済んだか?」
「はい・・・もう、思い残すことはありません」
「あんた・・・だけどこれでいいのか?あの男のために罪に罪を重ねて・・・もう、シャバには戻れんぞ・・・」
「これが私の運命ですから」
「そうか・・・哀しいのう」
ミチルはもう一度「オフィスB&M」を振り返り、心の中で、別れの言葉を呟くのだった・・・

「随分上達したね、タカユキ」
「うわあ」
「ちょっと、なに動揺してるのよ。見られたら困るの?」
「そ、そんなことは・・・」
「でも、このプロットはなかなか面白いじゃない」
「そ、そう?」
「何と言っても、このリアルさが見事よね」
「ど、ど、どうも・・・」
「作者の潜在的願望がよく表現されてるわ。消え去っていく女優、哀しいわよねえ。でもタカユキ自身がそれを望んでいるわけだ・・・」
「そんなわけないだろ」
ふと山辺の口調が変った。
「オレ達は一生離れられない、いや離れないんだ」
「タカユキ・・・」
ミチルの目が潤んだ。
「私も絶対に離れないから。タカユキのことを信じてるから・・・」
山辺は静かに微笑みながら言った。
「まあ、当然だろ」
「ねえ、今夜チキンライスでいい?鶏肉は入ってないけど・・・」
「オレがやるよ。ミチルは手が荒れるようなことをしちゃダメだよ」
「いいの。私がやりたいの・・・」
「そっか・・・あの夫婦茶碗で食べるか」
「うん」
二人の春は、もう、すぐそこまで来ていた。

(終わり)
...2006/02/26(Sun) 02:39 ID:bbFhvI8U    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん
今回のストーりーを読んでて「オイオイ、何なんだこの展開は・・・」と思っていたら、ベーヤンの創作だったわけですね。恐れ入りました。
...2006/02/26(Sun) 15:55 ID:my90tv0I    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
白○行の公式HPのBBSに「夢落ち」だったらいいのに、という書き込みがありました。
この物語自体、全部亮司が見た夢で、朝目覚めると普通の小学生のままだった、という意味です。
そこで朔五郎は「シナリオ落ち」でやってみました(^^)
...2006/02/26(Sun) 22:58 ID:hwNqDcfo    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その6)

大学の講義が終わり、亜紀はショッピングセンター内の薬局に立ち寄った。
達明と話をしていると、突然背後から声を掛けられた。
「亜紀・・・亜紀じゃない」
誰だろうと思いながら振り向くと、通路を挟んで向かい側のフラワーショップの店先で、見覚えのある顔が笑っていた。
「ナナ」
亜紀が上京した日、帰りの列車の中で出会ったナナだった。
「亜紀に教えてもらって、ここの掲示板を見たら、ちょうどここの求人があったんだ。アルバイトなんだけど、しばらく様子を見て、正職員にしてくれるんだって。良かった」
「ほんと?おめでとう」
「ありがとう・・・亜紀のおかげだよ」
「それで、彼は元気にしてた?」
「う、うん」
表情を曇らせたナナは話題を変えた。
「ねえ、亜紀は週末は絵の勉強をして、将来は絵本を創るんでしょ?」
「うん。そうしたいと思ってる」
「でもどうして・・・その、動機っていうか・・・」
「きっかけは、一冊の絵本との出会いだったの」
「・・・」
「ある女性が、短い一生の間に、たった一冊遺した手作りの絵本」
「たった一冊・・・」
「そう」
亜紀は、廣瀬亜紀と彼女が遺した「ソラノウタ」のことをナナに話した。
「そうなんだ・・・その絵本、素敵なんだろうね、きっと。愛するひとへの思いがいっぱい溢れてて」
「うん」
「それじゃ亜紀も、その《ソラノウタ》みたいな絵本を創りたいんだね」
「違うの」
首を振る亜紀に、ナナは驚いた表情になった。
「え・・・それじゃ」
「私、考えたの。廣瀬亜紀さんが絵本の編集者を目指していた頃、本当はどんな絵本を創りたかったのかって。それは《ソラノウタ》じゃないと思う」
「そりゃそうよね・・・まだ元気なうちから、自分が死んでしまう時のお話しなんて考えるわけないもの」
「亜紀さんは勉強もできて、足も速くて、きれいで、そういうひとだったって・・・キラキラした素晴らしい夢を持っていたのよ。世界中を飛び回って、いろんな話を集めて、それで絵本を編集したいと思ってた。それはどんな絵本だったんだろう」
「それを考えるんだったら、廣瀬亜紀さんが本当はどんな人だったのか、絵本以外にもどんな夢を持っていたのか、そこから見て行かないと・・・」
「そうなの・・・うちの母や、いま付き合ってる彼氏のお父さんとか、それから亜紀さんの恋人だった男性や、亜紀さんのご両親・・・いろんな人に話を聞くんだけど、やっぱりわからないところがあるのよ」
「あまりに短い人生だったからね」
「そう。亜紀さんは周りの人たちと、そういうことを語り合う前に逝ってしまった・・・」
「でもさ、亜紀の夢の中に、その亜紀さんは現れるんでしょ?」
「うん。時々ね」
「だったら分かるよ。いつかきっと・・・それは亜紀へのメッセージ・・・自分が出来なかったことを亜紀に託してるんだよ。自分が本当は創りたくて、でも出来なかった絵本を亜紀に創って欲しいって」
「そうだね、きっと」
「それにはさあ、まず亜紀がきちんと生きることだよ。健康に気を付けて、いつも元気で、恋人や家族や友達を大切にして、いつもキラキラ輝く夢を持って、堂々と太陽の下を歩いて、仕事もバリバリやってさ、楽しく生きて行くことだよ」
「うん」
「案外さ・・・」
亜紀の目を見て笑いながらナナは続けた。
「その人が創りたかった絵本を、亜紀はとっくに創り始めているのかもしれないね」
「え・・・」
「彼女は思ってたんじゃないかな。命の輝きを表現したいって」
「命の・・・輝き・・・」
「そう。そして、人間の心。人間が人間を見る目の優しさ、温かさ。そして強さ」
ナナはもう一度亜紀を見た。
「あの日、電車の中でちょっとだけ亜紀の話を聞いたじゃない。その時思った。ああ、やっぱり人生に目標は必要だなって。亜紀が眩しいよ」
「そんな・・・」
「亜紀、素直に自分自身を見つめてごらんよ。今まで歩いて来た道や、これからの夢や、そんな亜紀にとって当たり前のことが、本当は一番感動的なことなのかもしれないよ」
「とてもそうは思えないけど」
「亜紀ってね、独特の雰囲気があるんだな」
「独特の雰囲気?」
「うん。いつもすごく温かい目に見守られている・・・なんかそういう気がしてたんだ、初めて会った時から」
「どうして」
「だって、亜紀はとっても温かいよ。亜紀と一緒にいるとすごく癒されるよ。本当に愛されているから、そうなれるんだと思う」
「・・・」
「今日話してみて、よく分かった。やっぱり私が感じたことは正しかったんだ」

次の日の昼休み、健と亜紀は学生食堂で食事をしていた。
「ねえ、ちょっと見ていい?」
水産学部の教科書を指差して亜紀が言った。
「うん」
「へえ、ドブに棲む生物か・・・わあ、大きな貝」
そのページには、カラスガイやドブガイなどの大型の二枚貝が載っていた。
「なんか、太陽の光が届かない泥水の中で、真っ黒なコートを着て、固く口を閉ざして生きてるみたいだね。なんだかかわいそう」
「なあ亜紀。陽の当たらないところで、何の希望もなく生きてるようでも、やっぱりその命には意味があるんだよ」
「そうなの?」
「タナゴっていう魚を知ってるだろ?」
「うん。虹色に光る、あのきれいな魚でしょ?」
「そうだよ。タナゴは大きな二枚貝の中に卵を産んで、守ってもらうんだよ」
「へえ」
「一見美しさに無縁なようでも、実は世の中の美しいものを大切に育んでいる存在ってあるんじゃないかな。誰も気付いてくれなくても、黙々とね」
「そうか・・・先入観を持つのは危険なんだね」
「そう」
亜紀は微笑み、健の横顔を見つめた。
(なんて優しくて、温かいんだろう)
愛しさがこみ上げてくる幸せを感じながら、健の耳元でそっとささやいた。
「好きよ、健ちゃん」

(続く)
...2006/02/26(Sun) 22:59 ID:hwNqDcfo    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 朔五郎さん
 伊予大洲編の冒頭に続いて,こちらも「シナリオ落ち」の登場ですね。

 さて,トリノ大会の閉会式の五輪旗降納では,いつもは五輪賛歌が流れるところをヴェルディの歌劇ナブッコの第3幕第2場に登場する「行け,わが想いよ。金の翼に乗って」が流れていましたね。これはバビロン捕囚で連れ去られたエルサレムの人々がユーフラテス河畔でシオンの丘を想って歌う合唱ですが,さてさて,ミチルのもとに囚われたベーやんの「バビロン捕囚」状態は,いつまで続くのでしょうか。

 ===以下余談===
 ヴェルディがナブッコを作曲したのは,妻を喪くし,心身ともにどん底の頃のことでした。この作品によって名声を得たばかりでなく,初演の際にヒロインを演じた歌手を生涯の伴侶に迎えてもいます。まるで「何かを失うことは何かを得ること」を地でいっているような感じがしませんか。
...2006/02/27(Mon) 06:13 ID:218zET.2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん
宮浦に「押しかけてきた」ナナは随分と人懐っこいキャラのようですね。亜紀とはウマが合いそうでこれからの活躍ぶりが楽しみ、と言いたいところですが、お目当ての近藤君が亜紀に横恋慕していると知ったら・・・。健をジッと見ていた栗原さんからも目を離せなくなりましたね。

さて、私のほうは、というと、ストーりー造りであれも入れたい、これも入れたいと欲張ると前に進まなくなってしまいまして・・・(苦笑)
ということで、単純明解に行こうと思います。水・木あたりにはアップしたいなーと思っております。学園青春ドラマから一転、次回は「真っ赤っ赤」な話になります。

※朔五郎さんの話の中で「なあ、○○・・・」のセリフが出たので、私は「ブイブイ!」を使ってみたいですね〜
※長澤まさみさんは次回から大河ドラマに登場するようです。山内一豊を誘惑しているところへササガキ刑事が踏み込んで・・・という場面が見られそうですね(^^)
...2006/02/27(Mon) 21:55 ID:nMfW5o0E    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
パート7になってから初の作品投稿です。間が開きましたので、前回・前々回分も再掲載します。


もう一つのセカチュー第二世代物語
『古河先生と』

次の日の昼休み、ホノカとナオミは宿題を提出した。
解答をチェックした俊介は・・・
俊介「お前ら、まるっきり答えが同じじゃないか。どっちかが丸写ししたんじゃないだろうな。」
案の定という表情を俊介は浮かべる
ナオミ「正直に言います。辞書や参考書を使って、それでもわからないところは二人で教えあいながら解答を作りました。」
ナオミはあっさりと白状した。
俊介「そういうことか。では池内、この答えを導き出した根拠は何だ?」
ホノカ「はい、これは無生物主語ですから・・・」
ホノカはすらすらと質問に答えた。
俊介「まあ、いいだろう。これだけ説明出来ればな。」
ナオミ「これで、よろしいですか?」
俊介「ああ、ご苦労さん。ついでだから、二人にちょっと言っておきたいことがある。」
ホノカ・ナオミ「何でしょうか?」
俊介「結果を出すことはとても大事だ。池内はレギュラーになってインターハイに出たいだろうし、長谷部はいい学業成績をあげて難関大学に合格したいだろう。」
ホノカ「ええ・・・」
ナオミ「勿論そうです。」
俊介「そうだよな。では、そのためにはどうすればいい?池内はどう思う。」
ホノカ「仲間の子が30本シュート練習やってたら、わたしは35本やります。」
俊介「そうか・・・長谷部はどうだ?」
ナオミ「図書館で、隣の人が席を立つまで一問でも多く問題を解きます。」
俊介「そうか・・・それを聞いて安心したよ。」
ホノカ・ナオミ「?」
俊介「これは俺の持論だが、結果を出すことと同じようにそこに至るプロセスもとても大事だと思うんだ。一本でも多くシュート練習をやり、一問でも多く問題を解く。その結果がレギュラー入り・インターハイ出場であり、難関大学合格であればとても素晴らしいことだ。でも、今の世の中、結果を追い求めるあまり、プロセスがおろそかになっていたり、ルールに反した方法をとる人間もいる。このことが大きな問題になって、国会で大論争になっていることはお前達も知っているだろう。」
ホノカ「はい」
ナオミ「毎日ニュースでやってますよね。」
俊介「お前達はそのニュースを観てどう思う?そのような人間になりたいと思うか?」
ナオミ「なんかねー」
ホノカ「お金儲けが全てで、自分だけ良ければいい、という考えはちょっと虚しい気がします。」
俊介「うん・・・俺もそう思っているよ。お前達のように、汗を流して勝利をつかもうとする人間を世の中に送り出したい。そして病んでしまった世の中を少しずつでも治していきたい、そう思って教師になったんだ。」
ナオミ「なんか、お医者様みだいですね。」
俊介「親父が医者だからな。そして、俺は病んだ世の中を治す医者のつもりでいるよ。あ、話が長くなってしまった。引き留めて悪かったな。」
ホノカ「いいえ、先生のお話も聞けて面白かったです。」
ナオミ「先生、わたしたちからも相談があるんですが・・・」
俊介「何だ?」
ナオミ「中川君のことで・・・」

俊介「中川がどうした?」
ナオミ「彼、中学までは野球やってました。天才セカンドとまで言われて、将来も期待されてたんです。でも、お坊さんになるための修行が忙しくて、高校に入ってから野球が出来なくなってしまったんです。」
ホノカ「中川君は、帰るときにいつも野球部の練習を見ているんです。彼と話したんですけど、やっぱり野球をやりたいと言ってました。でも、彼は口下手だから、お父さんにうまく話せないんじゃないかと思って・・・」
俊介「それで、俺にどうしろと?」
ホノカ「中川君を野球部に入れてあげてほしいと彼のお父さんにお話していただけませんでしょうか・・・」
俊介「おいおい、中川本人の話を聞いてもいないのに、どうして俺がお父さんと話をしなければならないんだ?」
ホノカ「それは・・・」
ナオミ「私たち3人の夢なんです。私たちは、物心ついた頃から3人でキャッチボールをやってました。そして、小学生になって、一緒にリトルリーグのチームに入ったんです。あの頃は3人で甲子園に行こうと本気で考えてました。でも、中学にあがる頃、女の子を野球部員として受け入れてくれる学校が無いことを知って、わたしとホノカは野球を諦めました。そのときヒロは言ったんです。『お前たちは俺が甲子園に連れて行く。3人分頑張るからな。』と。」
ホノカ「結局、私たちは3人とも野球と縁が切れてしまったんですよね・・・」
俊介「そうか・・・お前達の気持ちはよく分かった。実は、中川が野球部の練習を見ていることは気付いていたんだ。野球部の監督の立場から言わせてもらえれば、是非欲しい選手なんだがな。」
ホノカ「先生・・・それじゃ・・・」
俊介「今度、中川と一緒に来なさい。相談の続きはその時にしようじゃないか。」
ホノカ・ナオミ「ありがとうございます。」

その日、野球部の練習を見守りながら、俊介はアキヒロのことを考えていた。本人が野球をやりたいと言うのなら、是非やらせたい。だが、親の意向に逆らってまで野球をやらせていいものだろうか。自分のことと照らし合わせるにつけ、気が重くなる俊介であった。実は、俊介は医者になって病院を継いで欲しいという父・信人の意に反して、教師という職業を選んだのである。お互いに頑固な父と息子はまともに話し合うこともせず、絶縁状態となってしまったのであった。自分の問題も解決していないのに、生徒の相談に乗ったりして大丈夫だろうか・・・

ハルカ「監督!」
俊介「お、おう?」
やや上の空で俊介は答えた。
ハルカ「そろそろ練習終了の時間ですけど・・・」
俊介「そうだったな、集合!」

練習が終わったあとの野球部室では・・・
ヒロ「今日の監督、ちょっと変だったな。」
アツシ「うん、なんか、上の空だった。」
ヒロ「どうしたんだろう、何かあったのな?監督ってお前のクラス担任だよな?」
アツシ「もしかして、あいつら、監督に何か変なこと言ったんじゃないだろうな・・・」
ヒロ「あいつらって?」
アツシ「いつもツルンでる女の子二人組なんだけど、授業に遅刻した罰で宿題出されてたんだ。今日が提出日だったはずだけど。」
ヒロ「授業に遅刻?いい加減な奴らだな・・・」
アツシ「二人ともそんないい加減には見えないんだけどな。一人は女子バスケ部のエース候補、もう一人は東大現役合格も狙える才媛だぜ。」
ヒロ「へー、お前のクラスにはすげえ奴がいるんだな。」

部員たちが雑談に花を咲かせている頃、俊介は学校を出た。校門で不意に声をかけられた。
ハルカ「お兄ちゃん!」
俊介「何だ、お前か。」
ハルカ「何よ、その言い方は。折角待っててあげたのに。一緒に帰ろっ」
俊介「ま、たまにはいいか・・・」
学校を出た瞬間、俊介とハルカは兄妹に戻るのである。
そして・・・

(続く)
...2006/03/03(Fri) 22:53 ID:SYhpg2h2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
もう一つのセカチュー第二世代物語
『赤い告白』

喫茶店で俊介とはるかは、兄弟の他愛のない会話を楽しんでいた。
はるか「ねえ、お兄ちゃん、うちの家族はみんな血液型が違うでしょう?パパがA型、ママがB型、お兄ちゃんがO型、わたしがAB型。」
俊介「両親の血液型がAO,BOだったらそうなる可能性はあるよな。」
はるか「でしょう?でもわたし、小学生の頃はそんなことわからなくて、『わたしとお兄ちゃんは本当に血の繋がった兄妹なの?わたしは本当にパパとママの娘なの?』ってパパに聞いたら物凄く叱られちゃった。パパは医学書と家族の血液検査のデータを持ってきて、血液型の遺伝について懇々と説明してくれたわ。その時のパパの目がとても悲しそうだった。わたし、言ってはいけないことを言ってしまったんだと気付いて、泣いてパパに『御免なさい』と謝った。そうしたら、パパは『はるかは私とお母さんの本当の娘なんだよ。俊介とは本当の兄妹なんだよ。だから安心してこの家で暮らしなさい』と言ってくれたの。」
俊介「お前も大それたこと言ったもんだな。そんなこと言われたら親父でなくても悲しむぞ。」
はるか「はい、御免なさい、お兄様。わたし、お兄ちゃんと血の繋がりがあるとわかって嬉しかったけど、ちょっぴり残念にも思ったのよ。」
俊介「何でだよ。」
はるか「お兄ちゃんのお嫁さんになりそこなったから。」
俊介「お前、何言い出すんだよ・・・」
はるか「冗談だよ。そんな真面目な顔しないでよ。でも、野球やってるときのお兄ちゃんは本当にカッコ良かったよ。だから、お兄ちゃんが監督をしている野球部のマネージャーになったんだよ。」
俊介「そうか、俺は、野球が大好きだったからな。甲子園まであと一歩だったけどな・・・だから、どんな形でもいいから甲子園に行ってみたい。そう思って、野球部の監督を引き受けたんだ。幸い、今年のメンバーはいいから、もしかしたら、もしかするかもしれないぞ。」
はるか「ねえ、行こうよ、甲子園へ。わたし達の夢だもの。」
俊介「よし、頑張ろうぜ。」

二人は野球に対する思い、甲子園の夢について語り合った。そして、しばらくして、ふとはるかが真顔になった。

はるか「ところでね、お兄ちゃん、とっても大事な話があるの。」
俊介「大事な話?俺にか?」
はるか「・・・直子さんが来てるの。昨日会ったわ。」
俊介「なに!?直子さんが・・・?」
はるか「ビックリした?わたしだってビックリしたわよ。」

音信不通になっていた恋人の直子が来ている。その事実を聞いて俊介は動揺した。

はるか「ねえ、どうするの?お兄ちゃん。」
俊介「どうすると言われても、急な話だから、気持ちの整理がつかない・・・」
はるか「お兄ちゃん、直子さんのこと嫌いになった?」
俊介「いや、好きだよ、大好きだよ。」
はるか「なら迷うことないじゃない、直子さんに会ってあげて。仕事を休んで、はるばる東京から来てくれたのよ。どんな思いで宮浦まで来たのか、直子さんの気持ちを考えてあげて。」
俊介「はるか、直子さんの気持ちはよくわかるよ。だが、俺が直子さんを遠ざけてしまったんだ。直子さんに済まない気持ちで一杯だ。今更どんな顔して会えばいいんだ・・・」

兄の煮え切らない態度にはるかは苛立った。
はるか「お兄ちゃんたら・・・もう知らない!!」

(続く)
...2006/03/03(Fri) 22:55 ID:SYhpg2h2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
久しぶりの作品、楽しませていただきました。
「ハルカ」=「はるか」でいいのですよね?
なにか、気の強そうなキャラは、石原さ○みさんとよくマッチしていますね(^^)
「八犬伝」を見直してましたら、「ササガキ」にいじめられている「ユキホ」を救うため、「マツウラ」が飛び込んでくるという凄まじいシーンがありました(^^;;;
ナナは「出身元」では「人懐っこくて犬っぽい」という理由で「ハチ」というニックネームを付けられてしまいます。で、そのテイストを活かしてみようと思いました。ユイ、マサミ、レイコたちの元同級生とは、また違う存在にしようと考えております。
...2006/03/04(Sat) 16:13 ID:gsR32xGo    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん
コメントありがとうございます。
「ハルカ」=「はるか」です。サブタイトルが『赤い○○』となっているストーりーに限っては、この表記にしようと思います。(でも『赤い○○』の○○部分を考えるのは結構大変ですね。『疑惑』『運命』『奇跡』のように抽象名詞を探さなければなりません)

明日の大河ドラマにいよいよ長澤まさみさん登場ですね。公式HPを見たところ、一豊の浮気をけしかけたのがどうやら「ササガキ」のようです(^^)
ちなみに、一豊の弟・康豊に古河先生が似てますので、ご参考まで。
...2006/03/04(Sat) 18:22 ID:e8FFq39w    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その7)

ある日、亜紀が自宅に戻ると、隣のアパートの前にトラックが停まっていた。
「引越しか・・・」
呟きながら店に入ろうとした亜紀の耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。
「亜紀・・・亜紀じゃない」
「ナナ」
「隣に薬局があったから、もしかしたらと思ったんだけど」
手に軍手を付け、頭にバンダナを巻いた姿でナナは笑った。
「やっと部屋が見つかったの。ここの7号室」
「へえ、名前に合ってるね」
「うん。日当たりも良いし気に入ってるんだ」
「良かったね」
「あら亜紀、お友達?」
偶然、店から出て来た智世が話し掛ける。
「うん。ショッピングセンターのフラワーショップに勤めてるナナちゃん」
「初めまして、小杉ナナです」
「まあ、じゃ、ウチの店とはお隣さんね。よろしくね」
「こちらこそ」
「そうだ、今夜は引越しで疲れてるだろうから、ウチに来てご飯食べたら?」
「え、でも・・・」
「遠慮なんかしなくていいのよ。これから仲良くしていかなくちゃいけないんだから」
「ありがとうございます。それじゃ、甘えちゃいます」
「そうそう、それでいいのよ。じゃ亜紀、ちょっと手伝ってあげなさいよ」
「うん」

「ふう、だいたい片付いたね」
「亜紀のおかげだよ。ありがとう」
引越しとはいっても荷物も少なく、夕方には女性の部屋らしくなった。
「でもさ」
「ん?」
「ナナの服って、みんな可愛いよね」
衣装ケースの中には、フリル付きや花柄の服が溢れていた。
「そう?私、そういうの好きなんだ」
「ふうん」
亜紀は、もう一度チラリと目を遣った。そんな亜紀に、こぼれるような笑顔を向けながらナナは言った。
「ねえ、亜紀。明日、ペアのグラス買って来るね。イチゴ柄のやつ」
「え、そんなこと、どうして私に・・・」
「だって、私と亜紀のグラスだもん」
「ちょ、ちょっと・・・相手が違うんじゃない?」
「それはそれで、また別の話・・・亜紀、これからも遊びに来てくれるでしょ?」
「うん・・・でも、お邪魔じゃないの?」
「全然」
「そう、ならいいけど・・・」
亜紀は苦笑した。その時、亜紀の携帯電話の着信音が鳴った。それは智世が発信したものだった。
「はい・・・うん、こっちも大体片付いたよ・・・わかった・・・うん、それじゃ」
亜紀は通話を切ると、ナナに言った。
「食事の準備が出来たって。行ける?」
「うん・・・ありがとう、優しくしてくれて」
「だって友達じゃない」
「ほんとに良いひとだね、亜紀は」

珍しいゲストを迎えた大林家の食卓は、いつになく華やいだ雰囲気に包まれた。テーブルの上には智世が作った家庭料理が並んでいた。
「お口に合うかしら。肉じゃがとか、そんなのばっかりだけど」
「とっても美味しいです。呼んでいただいて、ありがとうございました。外食とかコンビニのお弁当が続いてたものですから」
「だめよ、若い女の子がそんなことしてちゃ。お肌に響いちゃうよ」
「はい。部屋が決まって自炊できるようになりましたから」
「あ、これはね、宮浦名物のさつまあげなの。食べてみて」
「はい。わあ、美味しい・・・」
それまで黙っていた達明が口を開く。
「小原さんもずっと店員さんを探していたからねえ。ナナちゃんみたいな子が就職してくれて良かったよ」
ショッピングセンター内のフラワーショップ「スカーレット」の経営者・小原と達明は商店街の役員の仕事などを通じて、旧知の仲だった。小原はよくこぼしていた。
「花屋っていうのは一見きれいに見えるけど、実は結構キツイ仕事でね、特に冬なんか、どんなに手が冷たくてもお湯を使うわけにいかんだろ・・・若い子たちは我慢できなくて、みんな辞めていっちゃうんだよな」
事実、ナナが店員募集の張り紙を見て「スカーレット」に行った時も「ちょっときれいそうだな」という甘い気持ちからだった。しかし、小原の説明を聞くうちに、予想に反して、仕事の内容が地味で大変そうであることが分かってきた。腰が引けたナナは「考えてみます」と言ってその場を後にした。
書店に入ったナナは、一冊の雑誌の表紙に目を止めた。それはフラワーアレンジメントの雑誌だった。何気なく手に取りパラパラとページをめくった。
「ふうん・・・こういう技術を身に付ければ、将来店を持つことも夢じゃないんだ・・・」
ナナは思い出した。いつか隣り合わせた電車の中で、夢や目標を語っていた、亜紀という女性の眩しい横顔を。
「亜紀、もう一度会いたい・・・私も亜紀みたいになりたいよ」
今まで、好きな男のことしか頭になく、恋愛感情のみに溺れていたナナが、初めて見つけた自分自身の目標だった。
意を決したナナは、花の本を何冊か買うと休憩コーナーの椅子に腰を下ろした。そこには年配者から子供までいろいろな年齢層の人々がいたが、みな生き生きと楽しそうな顔をしていた。
(ここには、そういう不思議な雰囲気がある・・・)
ナナはそう感じ取った。
(でも、どうして?)
壁に掛かる一枚の絵。その絵は画面を横切る斜線が強いインパクトを与えていた。
(長い髪をなびかせて、風の中を走っている女性?)
何故か、そんなことを連想させた。そして、その絵から新鮮な空気が吹き出しているような、躍動感のある絵であった。
「きっと有名な画家の作品なんだろうな」
そう思いながら、ナナは本の続きを読み始めた。

「それから私はもう一度《スカーレット》に行きました。そして一所懸命覚えた花の名前を出しながら、採用してください、採用してくださいって心の中で念じていたんです。それを感じ取ってくれたみたいで、小原さんは《君みたいにたくましい子、俺は好きだよ》って言ってくれて・・・」
「そうだったのか・・・それにしてもウチの亜紀も人様からそんなふうに言ってもらえるようになったか」
感慨深そうに達明が言った。
「後で聞きました。あの絵を描いたのは、亜紀だったことを」
「なんだか恥ずかしい」
「私、思ったんです。亜紀は不思議な力を持っている。私がそうであったように、俯いている人も、倒れそうになっている人も、それから無気力な人も、前を向いて歩き出す。そんな勇気を周りに与えることができるんだなって」
「そ、そんなことないよ。私は自分のことで精一杯なんだから」
「いつか気付く時が来るよ、自分自身の力に」
ナナの言葉に困惑するばかりの亜紀だった。

(続く)
...2006/03/05(Sun) 17:59 ID:khNNV7tM    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
大河ドラマ観ました(^^)
いや〜長澤さん、悪い女を演じてますねー。
...2006/03/05(Sun) 21:16 ID:i75Gqpho    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO

「ササガキ」は「ユキホ」には騙されまいと執念を燃やしますが、「コリン」にはあっさり騙されてしまいましたね。
「はるか」さんと「まさみ」さん、二人の悪女と「ササガキ」との対決やいかに・・・(^^)

ナナが大林家の隣に越してきて、新たな家族が増えたような展開ですね。でも、ナナと亜紀が相手に対して感じているお互いの距離感が微妙にズレてるように思いました。ナナの人懐っこさに亜紀が振り回されるかもしれませんね。
...2006/03/05(Sun) 21:50 ID:MiYlmA1A    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎

鋭いです、SATOさん(^^)
...2006/03/05(Sun) 22:02 ID:i75Gqpho    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 海援隊のあの人と大河と言えば,91年の「太平記」にも楠木正成役で出ていましたが,登場人物間のやりとりでお説教っぽくなる場面(演技がというより,そういう台本や演出なのですが)は金八先生を感じたものです。今回も,古参の家臣ということで,ちょっとお説教になってしまうところがありますね。
 一方,秀吉役で登場した83年の「家康」では,指を折りながら自分の年と秀頼の歳を数え,秀次を始末しなければとつぶやく場面は鬼気迫るものがありました。こちらの方は「ササガキ」モードといったところでしょうか。
...2006/03/06(Mon) 08:30 ID:6rOoDupM    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
話は全然違うのですが・・・
「ミチルがゆく」というお話しの中に出てくる「平田」というプロデューサーのネタは、TBSの植田博樹Pの日記の中から勝手に拾ってきております。
植田Pは今までにも数々のヒット作を生み出して来られた方で、映像のプロとしても人間としても深いものをお持ちになられていると感じています。それは日記を読めばわかるような気がするのです。
実は「セカ2」の中にも植田Pの作品をモチーフにしている部分があります。
「ビューティフルライフ」という木村拓哉さんと常盤貴子さんが共演したドラマがありました。肺に腫瘍ができたヒロイン、そして彼女の親友が、ヒロインの兄と結ばれ妊娠します。その話を聞いたヒロインが「見たいなあ、○○の赤ちゃん・・・」と呟いて、その親友が号泣するのです。消えていく命、芽生えてくる命、そして友情・・・それはそのまま「セカ2」の原型になっております。
植田Pは現在「輪舞曲」というドラマに携わっておられまして、もう追い込みなのですが、ドラマも日記も大変面白いので、ぜひご覧下さい。
そんなPが日記の中で「輪舞曲2」をコメディータッチでやりたい、と書かれていましたが、もう抱腹絶倒でした(笑)
「遊び心のある大人」は、とても魅力的ですね(^^)
...2006/03/08(Wed) 09:45 ID:.7rFTEWc    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
特別編・ミチルがゆくZ

山辺は今夜もパソコンに向かっていた。
「頑張ってるね、タカユキ」
脚本家として一本立ちするべく、努力を続ける山辺。その時ミチルはそう思っていた。
「タカユキ、はい、コーヒー」
「うん、ありがと」
ニコリと笑った山辺の顔を愛しいと思いながら、ディスプレイを覗きこんだミチルは、そこに信じられない文字列を見た。

ども、岩丸です・・・

どうやら、web上の日記らしい。ミチルは山辺に詰め寄った。
「ちょ、ちょっと何よこれ・・・シナリオを書いてたんじゃなかったの?」
ミチルの剣幕に山辺はたじろいだ。
「あ、ああ、これちょっとバイトでさ・・・岩丸さんのところのwebスタッフに頼まれて書いてたんだ」
少し蒼ざめながら山辺が説明した。
「だって、これゴーストライターやってるわけでしょ?タカユキがまだあそこのスタッフなら仕方ないよ。でも、独り立ちするために出てきたんでしょ?今から幽霊になっててどうするのよ」
「だって、オレみたいな駆け出しが金稼ごうと思ったら、幽霊にでも何でもなるしかないんだよ」
ミチルは溜息をついた。
「タカユキ、ここに座って」
「・・・はい」
「あのね、タカユキには才能があるのよ。だからこそ二人で頑張って来たんじゃない。ちゃんと作品を書かなきゃダメだよ」
山辺は上目遣いにミチルを見た。
「だってさ、オレだっていつまでもミチルに頼ってるわけにはいかないだろ?」
「そんなこと気にしなくていいのに・・・」
「男はそういうわけにはいかないの。オレはもう、どう思われたって平気だよ。とにかく生きて行かなきゃ・・・」
「もう、最悪」
ミチルは叫んだ。
「元から最悪じゃない、オレたち」
「そうかな。やっぱり私、悪いことしたかな」
急に涙ぐんだミチルを見て、山辺は慌てた。
「なあ、オレだって目標を捨てたわけじゃないさ。だけど生きるために金を稼がなくちゃならないだろ?」
「・・・何だか、悲しくなっちゃう」

なあミチル、俺たちは貧しかったな・・・誰もが目を覆うほど貧しかったな
だからこそ、誰もが哀れむその貧しさを、お互い抱き締めようと決めたんだ・・・

「岩丸さんだって、オレたちを助けようと思って、この仕事くれたんだからさ」
山辺はミチルの肩を抱いた。
「とにかく、もう幽霊はやめて」
「ミチル・・・」
じっと山辺の目を見ながらミチルが言う。
「タカユキ、私たちの夢ってなに?」
澄んだ瞳が涙で潤んでいる。
「二人で手を繋いで、舞台の上を歩いて、そしてカーテンコールを浴びるんだよ」
「その夢だけは捨てないよね」
「もちろんさ」

長い長い夜の底でも、オレたちはお互いの太陽でいたかった
なんだかんだ言っても、オレたちは幸せだった
そして、本物の太陽は、そんなオレたちを見捨てなかったんだ・・・

(終わり)
...2006/03/08(Wed) 23:26 ID:NRIVjE0o    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎

また、遊んじまいました(苦笑)
それにしても、今になって新しいストーリーのスレッドが立つとは、つくづくすごいことだと思います。これだけ愛されたドラマも珍しいですね。
朔五郎も負けずに書かなければ(汗)
...2006/03/08(Wed) 23:33 ID:NRIVjE0o    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO

同感です。ストーリースレッドのパイオニアとして頑張りましょうね。
...2006/03/08(Wed) 23:53 ID:nge97uaw    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>どうやら、web上の日記らしい。
>これゴーストライターやってるわけでしょ?

 そうでしたか(-。-)y-゜゜゜
 「白」では何故あのベーやん日記がないのか,ようやく謎が解けました。「大丈夫か。オレ・・・」をパロディーにされるのが嫌だった訳でも,スケジュール表の調整に忙しくて手が回らない訳でもなく,P日記を代筆していたからだったのですね。
 ということは,P日記がやけにベーやんを持ち上げていたのは,実は,ベーやんの自画自賛だったという訳なのですね(^^)

 冗談はさておき・・・
>今になって新しいストーリーのスレッドが立つとは、つくづくすごいことだと思います。これだけ愛されたドラマも珍しいですね。

 元の作品が永く心に残ったことももちろんですが,このスレをはじめ,先行する続編・別伝作品群に触発されたという面も大きいでしょう。
 特に,このパイオニア・スレッドは,原作や映画はもとより,次回作や裏番組,果てはスタッフノートまで加味してあって,読む人を楽しませるのみならず,創作意欲を刺激する部分もあるのでしょうね。 
...2006/03/09(Thu) 00:53 ID:8Kxcj7L6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん、にわかマニアさん
励ましの言葉、ありがとうございました。

私のような「創作系」は、書いてナンボ(お金はもらってませんけど・苦笑)ですので、とにかく書くだけです(^^)
トリノで、自分が最高の表現をすることのみに集中することが一番大事だと荒川選手が示してくれた・・・これは自分にも当てはまると肝に銘じております。
それで、薄明るい世界を「イナバウワー」級のネタを探し回っております(笑)
...2006/03/09(Thu) 22:47 ID:0.W5488o    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
お疲れ様です。
パソコンの電源が入らなくなってしまい、お邪魔できませんでしたが、今日より復帰し、読ませていただいております。
特に、ベーやんの男のプライドには共感しております。ナナも登場してますます相関図が複雑に・・・。頑張って覚えます。
次回も楽しみにしております。
...2006/03/12(Sun) 00:40 ID:NbPb3GW6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
たー坊さん
ご感想ありがとうございます。
わかりにくくなって申し訳ありません(ペコリ)
「ミチルがゆく」については「裏白夜行」という感じで、本筋には絡んで来ませんので「お遊び」として楽しんで頂ければ幸いです(^^)
ナナはなかなか個性的な女の子で「セカ2」では今までになかったタイプと考えています。もしかするとユイ、レイコらの「第二世代」と摩擦が起こるかもしれません。
これからもよろしくお願いします。
...2006/03/12(Sun) 00:58 ID:36Zce0Vw    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その8)

賑やかな夕食も終わり、ナナが帰ろうとした時のことだった。ナナの瞳の中に、淋しげな色が浮ぶのに気付いた智世は口を開いた。
「ねえ、まだお部屋の中も何となく淋しいでしょ。今夜は亜紀の部屋に泊まって行ったら?」
「そうだよ、ナナ」
「でも・・・」
「遠慮なんかすることないよ。小さな家だけど、ナナちゃんが寝る布団くらいはあるわよ」
「ショッピングセンターの中のこととかさ、いろいろ話したいこともあるんだ」
俯いてためらっているナナに亜紀が言う。
「ナナとは長い付き合いになりそうな気がする、なんとなく」
なぜか泣き笑いのような顔をして、ナナは言った。
「ありがと、うれしい・・・それじゃ、お世話になります」
「どうぞどうぞ」
「それじゃ、着替えを取ってきます」
「うん」
ナナが着替えを取りに出て行ったのを見て、智世が言った。
「なんていうか・・・あの子、なんであんな哀しげな目をするんだろうね。何だか気になっちゃって」
「お母さんもそう思った?」
「うん・・・」
「何か悩みでもあるのかな?」
「あの子、彼氏に会うために広島から出て来たんでしょ?」
「うん、そう言ってた」
「ちゃんと会えたのかな、彼に」
「さあ・・・そこらへんのことは避けてるんだよね」
「うまくいかないのかね」
「そうかもしれないなあ・・・」
「それにしても、親もよく許したわね」
「ほんと。大胆というかなんというか・・・」
「亜紀、あんたが言うことじゃないでしょ」
「そうだね、へへ」

小さなバッグを手に戻って来たナナに智世が声を掛けた。
「お風呂の用意が出来てるから、さっぱりしたら?今日は疲れたでしょ。後は亜紀のへやでゆっくりしてちょうだい」
「ありがとうございます」

亜紀とナナは、亜紀の部屋に入ると夜が更けるまで話に花を咲かせた。
「亜紀は広島に来たことある?」
「ないんだ、残念ながら」
「広島って美味しいものがたくさんあるんだよ。お好み焼きとか・・・」
「広島風って、おソバが挟まってるんでしょ?」
「うん」
「食べてみたいなあ」
「美味しいよ。市内にはお店がいっぱいあって、みんな自分が一番好きな店を持ってるんだよ」
「へえ」
「あとね、あなごめしは最高だよ」
「あなごめし?」
「うん。宮島口っていう駅の傍に有名なお店があるんだけど、いつも行列が出来てるんだ」
「ふーん・・・あ、宮島って、海の中に鳥居が立ってる・・・」
「そう、あの厳島神社があるところだよ」
「それから、尾道も広島県だった?」
「良く知ってるね、亜紀。尾道は広島県でも東側の方だよ」
「あのね、今付き合ってる彼と一緒に映画を見に行って、そのロケ地が尾道だったんだ」
「尾道でロケっていうと・・・」
「《大帝の剣》っていうんだ。知ってる?」
「ああ、堤監督の」
「そうそう。あの映像、きれいだったな・・・」
「・・・とっても良い所だよ、広島って。亜紀もいつかおいでよ」
「うん」

窓から差し込む月明かりの中、亜紀は目を覚ました。
(きれいな月・・・)
何気なくベッドの隣りに敷いた布団のほうに目を遣る。
(あれ・・・)
そこに寝ているはずのナナがいない。
(水を飲みにでも行ったのかな)
しかし腑に落ちない亜紀は、起き上がろうとした。
(!)
掛け布団が異常に重い。
「あれ・・・あ、ナナ・・・」
気が付くと、亜紀の横にナナが寝ていた。いつの間にかベッドに上がって、遠慮するかのように、亜紀の腰のあたりで眠っている。それは、捨てられた子犬がうずくまって、丸くなっているようでもあった。
「ナナ、ねえナナ・・・そんなところにいると風邪をひくよ」
月の光に照らされたナナの頬には涙が流れていた。
「ナナ・・・」
亜紀の声にナナは目を開けた。
「あ、亜紀・・・ごめんね、起こしちゃった?」
「どうしたの?ほら、とにかく布団の中に入って」
ナナは亜紀の横に滑り込んで来た。
「こんなに手足が冷えちゃってる。どうしたの?」
「独りで寝てたら、いろんなこと考えちゃって、悲しくて眠れなくなっちゃって・・・こんなはずじゃなかった・・・こんなに甘えようなんて思ってなかった。でも、亜紀が温かくて優しくて・・・ちょっとだけのつもりだったのに・・・気が付いたら心がボロボロになっちゃった・・・」
「何か辛いことでもあったの?」
「・・・うん」
「それじゃ、起こせば良かったのに」
「でも、それじゃあんまりだと思って・・・せめて亜紀のすぐ横にいたくて・・・」
「ねえナナ、なにをそんなに悩んでいるの?」
「あのね・・・」
「うん」
「私が好きな彼・・・こっちに来て、別の女の子を好きになっちゃったみたいなの」
「そんな、ひどい」
「入学式の日に出会った、一つ年上のひとなんだって」
「・・・・・」
「私、何やってたんだろう・・・どうして、こんなことになっちゃったんだろう」
「ナナ・・・」
「もう、どうしたらいいのかわからないよ」
「そんなこと言わないでよ。将来の目標だって見つけたんでしょ?」
「それとこれとは別だよ」
涙で光る瞳を向け、ナナは言った。
「ねえ、亜紀・・・好きになってもいい?」

(続く)
...2006/03/12(Sun) 01:01 ID:36Zce0Vw    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん
ショウジが好きになってしまった相手が亜紀だと知ったらナナはどうするのでしょうか?気になる展開になってきましたね〜

今夜の大河ドラマを観て・・・
千代(仲間さん)が皿を割ってしまう場面がありましたが、夫の浮気相手の小りんに腹を立てていたせいのようです。小りんの顔は・・・あの皿を割ってばかりいる喫茶店の従業員ソックリ!?
...2006/03/12(Sun) 21:20 ID:82InVJZE    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
「皿を割る」シーンは私も全く同じことをかんがえてました(^^)
ところで、武田鉄矢さんが、あるコラムで書かれていたのですが、大河ドラマの撮影の時に、上川さんは自分の出演シーンでなくとも、長澤さんの演技のモニターをじっと見ているそうです。やはり「あの映画」で賞を総ナメにした女優さんの演技には注目が集まっているのですね(それにしても出番が少ない・・・ブツブツ)
同じコラムで「山田孝之さんは職業俳優の雰囲気がある」とも書かれてます。なかなか味のあるコラムでした。
...2006/03/12(Sun) 21:35 ID:zo0VKSC6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
特別編・ミチルがゆく[

地獄のような現実にいる山辺とミチルのところに、一人の大嘘つきがやってきた。
男は、その日暮らしの二人の足元をみて、金儲けをしようとして、こんな作り話をした。
「おふたりは、今、地獄のような苦しみを味わっているかもしれないが、ある日、この世をつかさどる偉大な存在が、あなた方を救う。その方のために、お布施をしなさい」
山辺は、この話を本気にして、ただ、ただ、救われたい一心で、布施をしようとした。
「待って、タカユキ」
慌ててミチルが止めた。
「しっかりしてよ、こんなのインチキに決まってるでしょ。これってDBSのUプロデューサーが、日記の中で紹介していた、おとぎ話のコピーじゃない」
「そ、そうか」
ウソを見破られた大嘘つきは慌てて逃げていった。
「まったく、もう。そりゃ、真面目で人の良いところがタカユキの魅力なんだけどさ《生真面目なベーやん》だけじゃ、私困るわ」
「どうして?」
「どうしてって、あのね」
ミチルが声を荒げた。
「私は一生をタカユキに賭けたんだよ。この結婚は私にとって青春、っていうか人生のすべてと同じなんだよ。タカユキの才能が花開くことだけが望みなのに・・・」
「ゴメン・・・」
シュンとしながらタカユキが謝った。
「分かれば良いのよ・・・ほら見て、タカユキ」
ミチルは自分の口座の通帳を見せた。山辺は一瞬呆然とした後、信じられないという顔で言った
「すごい・・・どうしたの、これ?」
残高が二千万円から三千二百万円に増えていた。
「ちょっとね・・・投資がうまくいったのよ」
「投資って?」
「うん、実家の方でね、庭に植えてあったサボテンがすごく珍しい種類だったらしくて、それを殖やして売り出したら大当たりしちゃって・・・」
「へえ、でも、よくそんなに量産できたね」
「実家の庭の土が、そのサボテンに合ってるらしいの」
「植物ってにとってさ、土の影響ってすごく大きいじゃない。アジサイだって土の酸性度で花の色が変るっていうし・・・」
「どこで聞いたの、そんなこと?」
不思議そうにミチルが言う。
「前にドラマで観たことがある」
ちょっと得意げに山辺が答えた。
「そう・・・」
「ミチルの実家では、サボテンに合うように土を改良したの?例えば庭に何か埋めたとか」
「まあね・・・そんなところよ」
ミチルは曖昧に答えた。
「やっぱりそうか」
その後、タカユキは通帳を見ながら呟いた。
「ミチルがしっかりしてるのはわかるけど・・・何に使うんだよ、こんな大金・・・オレたちは貧しいんだか、金持ちなんだか・・・」

そんな中、ミチルがポリプロに所属していたころの元マネージャー・中谷ミキが二人のマンションを訪れた。
「ミチル・・・」
「中谷さん、お久しぶりです」
「ああ、私もう見ていられない・・・ミチル、すぐに離婚しなさい」
中谷は山辺を睨みつけた。
「あんたは、とっても綺麗で上品で、エルメスが似合うお嬢様や、お姫様の役がピッタリの女優だった。あんなに活躍していたのに・・・それが最近は、教会をメチャメチャに破壊するとか、金のためだけに結婚するとか、限りない愛情を注いでくれた、育ての親を見殺しにするとか、そんな役ばっかりじゃない」
「演じてて楽しいですけど・・・」
中谷はミチルの手を握った。
「よく聞いて。私、ずっとマネージャーやってるから。あんたが復帰するまで待っていてあげるから。あんたが戻るところは、いつだってあるんだよ。なに、女優にとって離婚の一回くらい勲章みたいなものよ・・・ポリプロだったらいくらでも良い役をつけてあげられるんだから。悪いことは言わないから、こんなヤツ放り出してさ、戻っておいでよ」
「心配してくれてありがとう・・・」
ミチルは黒い瞳を涙で潤ませながら言った。
「でも・・・二人でいるから、先へ行くことしかできないの。戻ることはできないの」
「二人でいて、このザマなの?哀れだね」
中谷は深い溜息をついた。
「ちょっとあんた、何とか言ったら」
山辺に噛みつく。
「そんなこと言われても・・・」
「ねえミチル、気が変ったらすぐに電話するんだよ。一時間でも二時間でも愚痴を聞いて上げてもいいからさ・・・」
まだ諦め切れぬ様子で、中谷は帰って行った。

「ねえ、タカユキ。脚本書けた?」
「うん、だいぶね。だけど、ヒロインの父親の名前をどうしようかと思って・・・」
「真とか、どう?」
「真?」
「そう、真島真。上から読んでも、下から読んでも《真島真》」
山辺の顔に笑みがこぼれる。
「おお、いいねそれ。面白いからそれでいこう」
ミチルは呆れて言った。
「ほら、すぐ本気にする。ホント生真面目なんだから。そんな役名にしたら、俳優さんが激怒しちゃうよ」
「そ、そうだよなあ」
「あ、でもこのヒロインのセリフ、すごくいいね」

死刑台まで歩いて行こう・・・

「私、こんな役を演じてみたい」
「そ、そう?」
「ね、いつ完成するの?」
「来週の木曜日くらいかな」
「楽しみだな・・・終わっちゃうのは、ちょっと淋しいけど」
「そうだね」
「タカユキ、やればできるじゃない」
「うん」
どちらからともなく目を合わせ、二人は微笑み合った。

(終わり)

...2006/03/18(Sat) 03:37 ID:i/DIPMY6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
もう一つのセカチュー第二世代物語
『赤い決意』

「もう知らない!!」
はるかはすっかり切れてしまい、兄を置いて喫茶店を飛び出してしまった。

その数時間前のことである。
プリンセスホテルのロビーに和服姿の清楚な中年女性が入って来た。フロントの案内係に伝言を頼むと女性はロビーのソファーに腰を下ろした。誰かと待ち合わせをしている様子である。やがて、その女性のもとに若い背の高い女性がやって来た。二人は軽く会釈をすると、ホテル内のラウンジに入っていった。中年女性は古河世津子(俊介・はるかの母)、そして若い女性は島田直子である。

ラウンジで語らう二人・・・

世津子「昨日、はるかから聞いたの。本当にお久しぶりね。お元気でした?」
直子「お蔭様で。お母様もお元気そうで何よりです。」
世津子「どうもありがとう。お仕事の方はいかがですか?」
直子「3年目に入ってやっと余裕が出てきました。私の話を聞いて子供が反応してくれるととても嬉しいです。子供たちと心のキャッチボールが少しずつ出来るようになってきて、今、とても仕事が楽しいです。」
世津子「そう・・・それはよかった。あなたは昔から子供好きだったし、小学校の先生という仕事が向いていると思うわ。はるかもとても懐いてたでしょう?」
直子「今の私があるのは、はるかちゃんのお陰です。はじめの頃、はるかちゃんは、小指をかじりながら怒っているような寂しいような目で私を見ていたんです。きっと、お兄さんを私に取られたと思っていたんでしょうね。そこで私、『はるかちゃんからお兄さんを取りに来たんじゃないの、お姉さんになりたくて来てるのよ』と言い聞かせてみたんです。俊介さんがいない日に遊びに行って、はるかちゃんと一緒に本を読んだり、映画のDVDを観たり、切り絵細工をしたりしてたら、あの子が笑ってくれて・・・心が通い合ったのを実感しました。その頃から、子供を相手にする仕事をしたい、と考えるようになったんです。」
世津子「そうでしたの・・・はるかが色々ワガママ言って困らせたんじゃありません?」
直子「いいえ、とんでもない。俊介さんとはるかちゃんと3人で遊びに行ったりして、とても楽しかったのを覚えています。」
世津子「まあ・・・はるかが2人の邪魔をしてなければいいんですけど・・・」
直子「私はそうは思いませんでしたけど、俊介さんがどう思っていたか・・・」

そう言って二人は笑い合った。

世津子「・・・ところでね、直子さん、やはり俊介に?」
コクリと直子は頷いた。
直子「昨日、はるかちゃんからも同じこと聞かれました。俊介さんは今どうしているのか確かめたくて・・・もしも新しい恋人がいるようでしたら、彼には会わずにこのまま東京へ帰ります。でも、彼に恋人がいないのであれば、もう一度やり直したい、そう思って宮浦まで来ました。とにかく、今のままでは前へ進めませんから。」
世津子「本当にありがとう。主人も私も、あなたは俊介の相手として申し分のない方だと思ってましたの。悪いようにはしないわ。私に任せてちょうだい。こちらにはいつまでいらっしゃるの?」」
直子「明日の午前中には東京へ戻らなければならないんです。午後に大事な職員会議が入ってまして・・・」
世津子「わかったわ。帰ったら俊介と話します。今日中に何とかしないとね。」
直子「よろしくお願いします。」
そう言うと、直子は深々と頭を下げた。


はるかが帰宅した。

はるか「ただいま。」
ぶっきら棒にはるかが言う。
世津子「どうしたの、そんな恐い顔して・・・」
はるか「別に・・・何でもない。」
世津子「そんなはずないでしょう。これから俊介が来るんだから、ちゃんとした顔しなさい。」
はるか「・・・お兄ちゃんなら、今まで一緒だった。直子さんのこと話したけど、グズグズはっきりしないから、もうイライラしちゃう。」
世津子「あなたが学校行っている間に直子さんに会って来たの。俊介の気持ちを確かめたがってたわ。もう一回、私が話してみる。」
はるか「無駄よ。あれじゃ、直子さんが可愛そうだわ。」
そう言うと、はるかは二階の自分の部屋に入ってしまった。


信人が帰宅した。

信人「直子さんが来ているんだって?」
世津子「そうなんです。今日会って来たわ。俊介さえその気なら、もう一度やり直したいそうです。」
信人「そうか・・・俊介のやつ、あんないいお嬢さんをほったらかして、バチが当たるぞ。」
世津子「あなた、くれぐれも冷静に俊介と向き合って下さいよ。あなたと俊介がいがみ合うのを一番嫌っているのは、はるかなんですから・・・」
信人「わかっている。」

やがて、俊介がやって来た
俊介「お父さん、お母さん、お呼びでしょうか?」

(続く)
...2006/03/18(Sat) 15:54 ID:ts2lzrN6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん
ミチルは最初は「エルメス」の雰囲気かと思ったのですが、話が進むにつれて「ユキホ」のキャラが強まってきましたね。マネージャーの中谷さんと同じく、変わっていくミチルに私も戸惑っております(苦笑)
※ミチルの実家の庭に埋まってるのは・・・?掘り出したらビックリして腰を抜かすようなものが出てくるのでしょうか??
...2006/03/18(Sat) 16:01 ID:ts2lzrN6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
俊介の煮え切らなさが気になりますね。何か理由があるのでしょうか。
ちなみに、庭に埋めてあるのは少なくとも「○体」ではないと聞いておりますが(笑)
...2006/03/19(Sun) 16:50 ID:ScFjZyHs    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
お疲れ様です。

朔五郎さん
ナナの台詞に「まさか・・・。」と思わせるのはさすがですね。勘違いであって欲しいと願います。万が一の時には、健の鉄拳制裁と亜紀への愛情、アメとムチで修羅場にはならぬようご配慮をお願い致します(笑)

また、ミチルは自分のブランドを立ち上げてみては?と思うこの頃です。ある意味被りますし。サボテンがそうなのかもしれませんが(笑)
次回も楽しみにしております。

SATOさん
俊介の態度が気になると同時に、周りが直子サイドに集中しているのも気がかりですね。こういうケースこそ絡まった糸をさらに解きにくくするものだと思うのですが、どうでしょう?
次回も期待しております。
...2006/03/20(Mon) 02:17 ID:HRLkb/lA    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん たー坊さん
私のストーリーにご心配をいただき、ありがとうございます。
俊介=古河先生は教え子のほのかと直美から顕浩について相談を持ちかけられていて、何とか力になりたいと思っているのですが、自分も似た状況に置かれているので、モヤモヤした気分になっていると想定しております。(私生活の問題を仕事に持ち込むのは本当は良くないのでしょうが、ここはお話の世界なので、大目に見てくださいませ)これからグチャグチャな状況になり、一騒動起こりますが、最後の結末はホッとする形にしたいと考えておりますので、拙作をこれからもよろしくお願いいたします。

今後の予定
1.古河ファミリーと直子
  (現在投稿中)
2.ほのかが顕浩を巻き込んで騒動を起こす。
  (ほのか母・ひろ子が活躍します)
3.顕浩の野球部入りをめぐる騒動
  (古河先生の腕の見せ所です)
4.野球部をめぐる人間模様
  (ほのかはヒョンなことから野球部の臨時マネージャーに、直美は東大に行って野球部に入ると宣言⇒二人ともリトルリーグ出身で野球経験ありです)

頭の中で具体的に構想できている部分は以上です。
...2006/03/21(Tue) 22:42 ID:biQ66I3U    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
このシリーズは、かなり長いものになりそうですね。楽しみにしております。
...2006/03/21(Tue) 23:49 ID:FM.e2GUw    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その9)

「ねえ亜紀、好きになってもいい?」
月の光が、蒼くナナの顔を照らしていた。
「いいよ」
亜紀が静かに微笑む。
「ホントに?」
ナナが驚いた顔をする。
「うん。でもね」
「でも?」
「私、ナナが好きな彼の代わりにはなれないよ」
「そうかな、やっぱり」
ナナはニコリと笑った。しかし、その笑みはすぐに消えた。
「亜紀はホントに優しいね」
「え・・・」
「もう分かってるんでしょ、私が広島から追いかけてきた彼のこと」
亜紀は一瞬ナナから目を逸らした。そしてゆっくりと視線を戻した。
「近藤君・・・近藤彰二君だよね」
「うん・・・」
入学式の朝、キャンパスへと続く坂道は、まるでピンク色のカーペットを敷き詰めたように花びらで一杯だった。会場に向かう亜紀のことを走って追い越し、声を掛けてきたのが彰二(ショウジ)だった。
「私、はっきりと断ったんだけどな。将来を考えている相手がいるからって」
「彼もそう言ってた。ふられたって。でも絶対あきらめないって・・・」
「困るなあ・・・」
呟いた後、亜紀は確かめるように言った。
「ねえ、ナナ・・・ナナは最初から近藤君と私のことを知ってて、私に近づいたの?」
淋しげな笑みを浮かべながら、ナナは首を振った。
「そんなことはないよ」
「そう・・・良かった」
「それだけは信じて」
「うん」
ナナは懐かしむように言った。
「カッコ良かったんだよ、高校時代のショウジ・・・チームで一番の点取り屋さんで、元気が良くて、優しくて。同じクラスだった私は、いつもショウジのことばかり目で追ってた。好きだった・・・生まれたのは愛されるため、生きるのは愛するため・・・そんな言葉がピッタリだったわ。ショウジが宮浦大に行くと聞いた時、絶望で泣くことさえできなかった。ショウジが広島から、私の前からいなくなる・・・どうしたらいいのって」
「それで追い掛けて来たんだ」
「うん。親を必死で説得して。ちゃんと仕事を見つけて自立するっていう条件で、やっと許してもらった」
「それにしても良く認めてくれたね」
「ウチの両親、若い頃駆け落ちして結婚したの。だから分かってくれたのかな、って思ってる」
「ふうん」
亜紀はちょっと苦笑いをした。
「でも宮浦に来てみたら・・・辛いよ」
思い切って亜紀が言う。
「ねえナナ。近藤君って、見かけによらず冷たい人なんじゃないの?付き合っていたナナを放り出して、その、言いにくいけど、他の女の子のことを好きになっちゃうなんて」
ナナはゆっくりと首を振った。
「違うの・・・ショウジは悪くないの・・・片思いなの・・・私、ショウジの彼女だったわけじゃないの」
「え、付き合ってたんじゃないの?」
それまでの前提がすべて崩れ去り、亜紀は唖然とした。
「うん。私が一方的に思ってただけ」
「そう・・・」
それじゃ、しょうがないか・・・亜紀は心の中で呟く。
「でもナナ、そこまで好きなのはなぜ?余程のことだと思うんだけど・・・」
「彼、泣いてたの」
目を閉じてナナが言った。
「泣いてた?」
「うん。12歳で亡くなった女の子の話を読んで、彼は涙を流していた・・・今でも思い出すわ。それを見かけた時、胸の中が熱い物でいっぱいになったことを。ショウジは普段、そんなところは絶対見せない男の子なのに・・・私だけが知っているショウジの素顔・・・その時から、すごく身近に感じるようになったの、彼のことを」
「そうなんだ」
「その広島の女の子はね、二歳の時に、原爆の放射能を浴びたの。でも、元気に成長して、小学校では一番足が速かった。クラスのリレーの選手として活躍していた」
「すごいね」
「でも、ある日、血液検査で異常が見つかった・・・」
「病気だったの?」
「うん。放射能を浴びたことが原因で・・・原爆症っていうんだって」
「原爆症・・・」
「白血球が異常に増えて・・・」
亜紀はハッとした。
「それって白血病じゃ・・・」
「そう、その女の子は放射能を浴びたために白血病になってしまったの。甲状腺っていうところにもガンができていたんだって」
「でも、そんな後になってどうして・・・」
「それが原爆症の特徴なんだって・・・詳しいことはわからないんだけど」
亜紀は体中が熱くなるのを感じた。
「だって、何の罪も無い女の子が、どうしてそんな」
「ショウジも同じことを言ってた・・・どうしてこんなことが・・・八十年前、この広島で何があったんだって」
言葉を噛み締めるようにナナは続けた。
「こんなひどいこと、絶対に許しちゃいけない。この町に生まれたオレたちが永遠に伝えなきゃダメなんだって」
「知らなかった・・・近藤君ってカッコ良くてモテるけど、ちょっと軽い男の子だって思っていた。心の中にそんなものを持ってたなんて・・・」
イタズラっぽく、口を尖らせてナナが言う。
「そうだよ亜紀。先入観で人を見ちゃダメだよ」
「うん」
亜紀はコクリと頷いた。
「その広島の女の子、禎子(サダコ)ちゃんっていうんだけど、一所懸命に折り鶴を折ってたんだって。その鶴が千羽になった時、願いは叶うと信じて」
「・・・・・」
「だけど結局、届かなかった・・・サダコちゃんの手は、青い空には届かなかった・・・鶴は飛べなかったんだ」
「・・・・・」
「その他もいっぱいあるの、伝えなきゃならないことが。そんなことを真剣に考えてるショウジが、私は大好きなの」
「ナナ、私、近藤君と話してみる・・・ナナのこともちゃんと言ってあげるから」
「うん」
ナナは頷いたが、ちょっと弱々しく言った。
「だけど、心配」
「何が?」
「ショウジが、亜紀のことをもっと好きになってしまいそうで・・・そして亜紀だって・・・」
「ないない、そんなこと」
ナナの肩を揺すりながら亜紀は笑った。しかし、心の中では、別の思いが急速に膨らみつつあった。
(知りたい・・・サダコちゃんのこと・・・そしてヒロシマのこと・・・)

(続く)
...2006/03/21(Tue) 23:53 ID:FM.e2GUw    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
ここで、ナナとショウジについて

「出身元」(NANA)では、ショウジは美大生です。そこに高校時代の彼女・奈々が追いかけて上京してきます。片思いではなく、既に「深い関係」になっているという設定です。ショウジは結局、同じ美大の女の子が好きになり、奈々とは破局してしまいます・・・

なお「広島編」に出てくる佐々木禎子という女の子は実在の人物です(有名なのでご存知の方も多いと思われますが)

広島編では
※峠三吉「原爆詩集」
※那須正幹著「折り鶴の子どもたち」
※近藤紘子著「ヒロシマ、60年の記憶」
などの書籍を参考にしております。
...2006/03/22(Wed) 00:08 ID:vN2SIgQQ    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
柴咲コウさんがヒロイン役で出演している『県庁の星』を観て来ました。
「出来るところから始める」「あきらめない」「前向きな姿勢」というものを再認識させてくれるさわやかな内容でした。何歳になっても熱くなれるものなんだな、とも感じました。

余談ですが、柴咲さんの役名が「あき」だったのには思わずニヤリとしましたね。(エンディングでクレジットが流れたときに初めて知ったのですが)
...2006/03/24(Fri) 23:56 ID:Hc4DI3as    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
なかなかUPできず、申し訳ありません。
今回は「白夜行」ネタで。
「白夜行」も終わり、DVD-BOX発売も決まりましたが「続編の要望が強いため、それにつながるようなシーンを特典映像として付け加える」という主旨の告知が公式HPにありました。ラストシーン、男の子の手を握るところの、さらに続きということらしいです。
しかし、はて「白夜行」の続編といえば「幻夜」というのが一般的な見解でしょうが、あのシーンからは全然繋がらないような気がします。
まあ、ある意味「雪穂」より化け物じみた「美冬」はもうカンベン(^^;;;というのが正直なところなのですが・・・
では、ドラマ「白夜行」の続編とは一体何であろうか?気になるところであります(^^)

ラストシーンで、雪穂が読んでいた本のタイトルが象徴しているとすれば、やはり「幻夜」ではないのでしょうね。
...2006/03/26(Sun) 01:20 ID:aQQ2WLwo    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
SATOさん
朔五郎さん

お二人ともお疲れ様です。
私の方では最近スランプ気味なのですが、ようやく先日にUPできました。
お二人の作品もじっくりと熟考し納得できる作品をUPして下さいね。
じかいも期待しております。
...2006/03/26(Sun) 21:02 ID:7mCvsFBE    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
たー坊さん

激励ありがとうございます。
「広島」ではデリケートな題材を扱っていますので、適当に書くわけにいかず、いちいち資料を読み直して、という感じです(^^;;;
まだまだ先が長いのですが(溜息)
...2006/03/27(Mon) 21:47 ID:ZaF3A5rU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
特別編・ミチルがゆく\

脚本家・山辺孝之のデビュー作、ドラマ「白日夢」は、オンエアと同時に大きな反響を呼び、日本中が騒然となった。

・・・互いに愛するが故に、罪に罪を重ねてゆく男と女。たとえ破滅が待っていると分かっていても、相手のことを思えば、戻ることはできなかった。

雪帆「リョウ・・・ちゃん・・・」

2019年10月23日
雪帆の胸には、鋏が突き刺さっていた。

良司「ユ、ユキホ・・・何やってるんだよ」
雪帆「逃げて、リョウ・・・」
良司「バカ、俺独りで行って、それが何になるんだよ」
雪帆「早くしないと、ソウル行きの便が出ちゃう・・・」
良司「ユキホを置いて行けるわけないだろ」
雪帆「ねえ、聞いて・・・ソウルでケアンズ便に乗り換えるのよ・・・ソウルまで辿り付けば秘密組織のユナという女性が手引きしてくれるから・・・」
良司「だって、すべてを俺のために注いだユキホを・・・」
雪帆「ねえリョウ、人生を捧げる方が、捧げられるより幸せだってこともあるんだよ。リョウは私の太陽だから、いいんだ、これで・・・」
良司「嫌だ・・・俺は嫌だ・・・」
雪帆「ねえ、最後のお願い・・・体を起こして、リョウの顔を見せて・・・」

雪帆は最後の力を振り絞り、既に虚ろになった目を良司に向けた。

雪帆「明るい・・・明るいよ・・・」
良司「ユキホ、もう喋るな・・・今、助けを呼ぶから」
雪帆「そんなことしたってムダだよ・・・捕まったら、生きては外には出られないんだから」
良司「いいよ、それで・・・死刑台まで歩いて行こう・・・太陽の下、手を繋いで」
雪帆「ねえリョウ、私やっと気付いた。自分の上には太陽なんてないと思ってた。いつも夜で、死んだ後も永遠の夜を彷徨うんだって・・・天国なんて自分には無縁なんだって・・・だけどねリョウ、私には太陽に代わるものがあった。明るくはないけれど、歩くには十分だった。やっぱり天国はあったんだね・・・だって、リョウがいた日々、そして今、ここ天国だもん」
良司「ユキホ・・・」
雪帆「さあ、行ってリョウジ・・・」
良司「・・・死ぬのか、ユキホ」
雪帆「さよなら」
良司「ユキホ・・・」

ユキホ・・・ユキホ・・・

(えっ・・・)

良司「ユキホ、そろそろ時間だぞ」
雪帆「リョウ、どうして行かないの?」
良司「はあ、寝ぼけてるの?ユキホ」
雪帆「だって・・・あれ?」

雪帆は思わず胸元を見た。しかし、そこに刺さっているはずの鋏はなく、もちろん一滴の血も流れていなかった。

雪帆「だって・・・だって私たち、あんな恐ろしい罪を重ねて・・・私は追い詰められて・・・」
良司「何言ってるの?俺たち、違法行為なんか一つもしてないだろ?あ、スピード違反があったか・・・」
雪帆「そうだったっけ・・・」
良司「おいおい、俺たちは今どこにいるの?」

ハッとしてあたりを見回す雪帆

雪帆「ここは・・・あ、福島空港」
良司「そうそう。それで何のためにここにいるの?」
雪帆「そっか、オーストラリアまで新婚旅行・・・思い出した、リョウが搭乗手続きに行ってすぐ・・・」

(雪帆の回想)
カウンターに向かう良司の背中を見送った雪帆は、何気なく隣りの家族連れに目をやった。そして、小さな男の子と目が合った。雪帆は、人懐っこく近づいてきた男の子と思わず手を繋いで微笑み合った。

(かわいい・・・)

母親「サクちゃん、ホットドッグ買って来たよ・・・あ、どうもすみません、遊んでいただいて・・・」
雪帆「あ、いえ・・・可愛いですね・・・私、結婚したばかりなんですけど、子供が欲しくなっちゃいました」
母親「きっと可愛い赤ちゃんに恵まれますよ」

母親はホットドッグを男の子に渡した。
嬉しそうに食べ始めた男の子の背後で何かが動いた。

雪帆「あれ」

雪帆は目を疑った。この世に存在するはずのない生き物・・・雪帆の目の前を走って行くのは、タキシードを着たウサギだった。

雪帆「何よ、あれ」

慌てて後を追う雪帆。やがて雪帆はウサギの後に続いて薄明るく、細い廊下に迷い込んだ。そして、それが十四年間に及ぶ、罪と罰の日々の始まりだった・・・

良司「十四年間?俺がカウンターに行って帰って来るまで、ほんの四、五分だったよ」
雪帆「そんな・・・あ・・・」

雪帆は見た。あの男の子がまだホットドッグを食べているのを・・・

雪帆「それじゃ、私が過ごしたあの罪深く恐ろしい日々は・・・ほんの数分の間に見た夢だったというの?こんなに明るい太陽の下で・・・」

麗子「ユキホ」
雪帆「お母さん・・・」

それは夢の中で雪帆が殺したはずの母だった。

麗子「どうしたんや、ユキホ・・・そんなビックリした顔をして・・・」
雪帆「う・・・ううん」
麗子「あんたら、ほんまにお似合いやなあ。世界中のどのカップルより幸せそうや。リョウジさん、ユキホのこと、よろしくな」
良司「はい・・・」
麗子「もう時間や。ほな、気いつけてな」
雪帆「はい。行ってきます、お母さん」

皆に見送られながら、二人はしっかりと手を繋ぐと、搭乗口に続くエスカレーターを昇って行った・・・

山辺はミチルの目の前で通帳を開いた
「ミチル、ほらギャラが振り込まれたよ」
「ほんとだ、うれしい・・・わあ、結構たくさん貰えたね。これで、ちゃんと鶏肉の入ったチキンライスが食べられるね」
「うん。ミチルも、またエステに通えるしね」
「そうだね・・・」
貧しい生活の中、互いに太陽であり続けた二人は、ようやく暖かい陽だまりの中に出られたような気がした。やがてこの話は「平成の美談」ともてはやされ、二人はそれをきっかけに、莫大な財産を築くことになる。

だがそれは、また、別の話・・・

(終わり)
...2006/03/27(Mon) 21:59 ID:ZaF3A5rU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 ベーやんのデビュー作がオンエアと同時に大きな反響を呼んだというのは実は「白日夢」でしたとか言ってハシゴを外すなんてことはなさらないことを信じつつ・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ベーやんの溜め息

 雪帆と良司のオーストラリアへの新婚旅行の旅立ちのシーンを撮るなら,直行便が飛んでいる関空(妻の実家にも寄って来れるし)でと思っていたのに,岩丸Pったら,何だか福島空港にこだわりがあるようだ。中国便しか飛んでいないのに何でと思って聞いたら,以前,名前も体型も岩丸によく似たPが手がけたドラマの舞台として使われたのだそうだ。
 そのせいか,「助けてください」ってセリフも入れたがっていたなあ。

 まあ,「福島」空港とは言っても,最寄駅は郡山だから,帰りに袋田の滝でも見て,温泉につかってくるとするか。でも,湯船の中から誰かが突然「生まれたての・・・」とか言いながら浮かび上がってきたりして・・・
 あっ。何考えてるんだろう。
 大丈夫か。オレ・・・

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 「おい。岩丸。その「大丈夫か。オレ・・・」ってのはベーやんのネタじゃないのか」
 「あっ。平田先輩。いやな所を見られちゃいましたね。
 実は,裏サイトの脚本家のコラムがなかなか更新できなくて,代わりに書いていたところで・・・」
 「そりゃ,台本の打ち合わせの度に,ベーやんをイジメていたんじゃ,書いてくれる訳ないだろ。それもノーギャラで」
 「とんでもない。イジメてなんかいないっすよ」
 「でも,台打ちの日に限って,「助けてください」って絶叫が響いてるぜ」
 「ああ。あれは役者デビュー以来のベーやんの口ぐせですよ」
 「でも,ステンドグラス付きの教会のセットを作る予算がないからって,台本を書き直させたんだろ」
 「だって,いくら電卓をたたいても,思い通りの数字が出てこないんですよ」
 「バカ。世間じゃ,そういうのを「赤字」って言うんだ。
 予算が無けりゃ,アタマを使え」
 「?」
 「各局に「ふるさと紹介」のテープがあるだろ。ザビエル聖堂(山口)や大浦天主堂・浦上天主堂(長崎)の映像をTYSやNBCに頼んで取り寄せ,合成すりゃいいじゃないか」
 「・・・」
 「それに,原稿料くらい自腹で面倒見てやれよ」
 「自腹?」
 「ベーやんがAPやADの頃,随分立て替えさせておいて,未精算のままだって聞いてるぞ」
 「そんな・・・ もう時効でしょ。
 そんなにイジメないで下さいよ。
 助けてください!!」
...2006/04/02(Sun) 00:18 ID:faRtOcjA    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
にわかマニアさん
「岩丸P」も「平田P」には、かなわないようですね(^^;;;

ところで、長澤まさみさんの「カル○ス」の新CMはなかなか・・・
堤防に座って笑顔がはじける長澤さんの視線の先には緑の島影が・・・って、そのまんまじゃないですか(^^;;;
...2006/04/02(Sun) 15:07 ID:whSn2Anw    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
皆様、お久しぶりです。
「白夜行」のP日記によれば、Pと森下さんと広島出身の女優さんで会食されたとか・・・
やるんですかね、また。
となると、相手役は誰?もしかして「べーやん」だったりして(^^;;;

長澤まさみさんと妻扶木聡さんが共演する映画「涙そうそう」がやっと制作されるようで、喜んでおります。
血のつながらない兄妹のお話ということですが「涙そうそう」という歌が、亡くなったお兄さんを偲ぶ内容なので、もしかして「世界の〜」の逆パターンのようになるのでしょうか・・・
...2006/04/08(Sat) 00:59 ID:.7rFTEWc    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その10)

「ふーん、たまには真面目な本も読むんだ」
昼休み、ふと人の気配が無くなり、静かになった談話室。皮肉まじりの亜紀の言葉を聞いて、ショウジは顔を上げた。
「一応、文学部だからな」
フッと笑いながら本を閉じる。
「ねえ、どういうこと?」
亜紀は真顔になって言った。
「どういうことって?」
「彼女がいるのに、付き合ってくれだなんて」
「彼女って・・・ナナ?・・・なんで知ってるの?」
ショウジは苦々しい表情になった。
「偶然知り合って、友達になったのよ。昨夜もうちに泊まったわ」
「別に彼女じゃねえよ。高校の時だって付き合ってた訳でもないしさ・・・あっちが一方的に・・・」
亜紀の表情がふっと緩んだ。
「同じこと言ってたよ、ナナも」
「なんだ、知ってたのかよ」
ショウジも苦笑いを浮かべた。
「ごめん、ごめん」
手を合わせて見せる亜紀。
「可愛いくせに、結構意地悪だな」
「そう?」
二人は声を上げて笑った。
「でも、大変かもね・・・あれだけ思い込まれちゃうと」
昨夜のことを思い出しながら亜紀が言う。
「まあね・・・悪い子じゃない、それは分かってるんだけどね」
ショウジが溜息まじり答えた。そんなショウジの横顔を見ながら亜紀は言った。
「ナナは言ってたよ。誰も知らないショウジの素顔を、私は知ってるって」
「誰も知らない素顔?オレの?」
「うん」
「何だよ、それ」
「ほら、原爆症の女の子の本を読んで涙を流してたっていう話・・・」
「あいつ、そんなことまでしゃべったの?」
ショウジは思わず天を仰いだ。そして、手に持った本を亜紀の方に差し出した。
「原爆詩集?」
「ああ」

ちちをかえせ ははをかえせ
としよりをかえせ
こどもをかえせ

わたしをかえせ わたしにつながる
にんげんをかえせ

にんげんの にんげんのよのあるかぎり
くずれぬへいわを
へいわをかえせ     
(峠三吉 原爆詩集より)

「小さい頃から身近に感じて来たからね」
ショウジの家は広島市内にあり、幼い頃、平和記念公園はよく遊んだ場所であった。そして、成長するに従い、そこに存在する事象の意味について深く考えるようになっていった。
「ねえ、あの女の子のこと・・・」
「サダコ?」
「うん」
「知りたいの?」
「うん・・・うちの母の親友だった女性がね、十七歳の時に白血病で亡くなったの。そのひとのことをいろいろ聞いて、私も身近に感じてるんで」
「それじゃ」
と、呟きながらショウジはもう一冊の本を取り出してページをめくった。
「ああ、ここだ・・・」
あるページを開くと、それを亜紀に差し出した。そこには一枚の写真が掲載されていた。びっしりと書き込まれた文字と数字。亜紀はその意味を知るために、その写真に顔を近づけた。

2月21日
白 37,400
赤 382万
血 77%

24日
白 25,200 
赤 242万
血 54%

そしてそれは、7月9日の数値で終わっていた。
「白、赤・・・そして血?」
「うん。それはね、このサダコという女の子が入院してから、自分のカルテを見てザラ紙に書き写したものなんだって」
「え、でもこの白っていうのは白血球の数なんでしょ?」
「そう。赤は赤血球の数、血は血色素の割合だよ」
「ほら、さっき話した、白血病で亡くなった女性、白血球数が29,300だったって・・・」
亜紀はショウジの顔を見た。
「普通、小学生の女の子がこんなことしないよね。この子は自分の病気のことを最初から知っていた・・・十七歳の高校生にだって、最初は白血病なんて告知しなかったって言ってたのに・・・どうして?・・・なぜこの子は自分の病気のことを知ってしまったの?」
一瞬言葉を呑み込み、噛み締めるようにショウジは言った。
「誰も言ってないんだ」
「え・・・」
「この紙は、サダコが亡くなってから見つかったものなんだ。この子は自分の病気のことは知らない・・・誰もがそう思っていた。この検査結果はナースステーションで、自分のカルテを見て書いたんだろう。だけど、サダコがそんなことをしていることを、誰も知らなかったんだ」
あまりの衝撃に言葉を失った亜紀は、絞り出すような声で言った。
「それじゃ、サダコちゃんは・・・」
「自分が気付いていることを家族が知ったら、辛い思いをさせるだろう。だから、最後まで知らない振りをしていたんだ」
「だれにも不安を訴えることもなく、甘えることもしないで、闘っていたというの・・・」
「ああ」
「そんな・・・だって12歳の女の子だよ・・・どうして・・・」
「どうしてだろうな。そんな時代だったのかもしれないな。苦しくて、貧しいけど、ひとりひとりが我慢強かった時代・・・」
ショウジは目を閉じ、静かに、しかし強い口調で言った。
「だけど、この子にこんな残酷な運命を与えたのは神でも創造主でもない。人間なんだ。オレや亜紀や・・・この子と同じ人間なんだ」
「同じ・・・人間・・・」
目を赤くして宙を見つめ、ショウジは言った。
「何様だと思ってるんだ・・・同じ人間なんだぞ。こんなことして良いと思ってるのか?な、亜紀・・・許せるか、こんなこと・・・許せない、オレは絶対に許せない」
亜紀は黙っていた。すべての言葉が力を喪ったような気がした。一言も発することが出来ない亜紀の頬を涙が伝っていた。

(続く)
...2006/04/09(Sun) 18:35 ID:0.W5488o    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
お疲れ様です。

デリケートな広島編が、核心に向けて走り始めたところでしょうか。これから、亜紀の人生に大きな影響を及ぼすことになるのだと予想しております。
これからも楽しみにしております。
...2006/04/09(Sun) 23:27 ID:kAp9lbpg    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
たー坊さん

コメントありがとうございます。白血病の少女の実話から入りましたが、後半、もうひとつ物語を用意しております(こちらは一応オリジナルで)
辛すぎてもいけないし、おちゃらけてもいけないし・・・悩ましいところです(^^;;;
...2006/04/09(Sun) 23:35 ID:iexND0Qc    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
お久しぶりです。
年度末の処理や研修等で多忙でしばらくご無沙汰しておりました。

朔五郎さん
難しいテーマに挑戦されてますね。読む方も色々勉強になります。

録画しておいた『赤い奇跡』をやっと観終わりました。映画の『卒業』『傷だらけの純情』『ローマの休日』を思わせる展開でした。フィギュアの場面はともかくとして、純愛ストーりーとしては楽しめる内容でした。投稿中のストーりーのヒントも得られました(^^)
...2006/04/15(Sat) 11:36 ID:Nsiy/FDE    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん、お久しぶりです。
広島編は、自分のキャパを超えた題材かも知れぬ、と弱気になっております。
サダコのお話は、数多く本が出版されていますが、単なる「闘病記」ではありません。
それでも、始めたからには最後まで書き切らなければなりませんので、頑張ります。
...2006/04/16(Sun) 08:56 ID:1uKEAhko    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
今夜の大河ドラマは、長澤まさみさん演じる「小りん」の恐ろしさが全開でしたねー。
ドキッとしたのは、千代と二人のシーンで「鋏」を持っていたこと。やっぱり「白」を連想してしまいますよね(^^;;;
あと「お腹に子供がいたけど流れた」というところもね(苦笑)
でも、長澤さんの顔立ちは時代劇に合いそうですね。何年か後が楽しみです。
...2006/04/16(Sun) 21:46 ID:1uKEAhko    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
特別編・ミチルがゆく ]

ある夜のこと・・・
「ねえタカユキ、今日DBSに行った時、岩丸プロデューサーに会ったよ」
鏡の前に座って、スキンケアをしながらミチルが言った。
「へえ、どうしてた?」
ベッドの上で上半身を起こし、山辺が答えた。
「なにかねえ、淋しそうだったよ」
「淋しそう?」
「うん・・・なんだかんだ言っても、タカユキに会いたいんじゃないのかなあ」
「そうか?」
「ま、あそこにいた時は、結構いろいろあったけどね、タカユキも」

なあ、岩丸さん
あの頃は、一筋の光もなかったよ
ひとかけらの優しさも、ぬくもりも、美しさもなかった
だけど、俺をイジメてこと歓ぶことが、あなたのやり方だったこと
いつの日も変わらないあなたの優しさだったこと
あのむちゃくちゃな仕事だって 
巨匠と呼ばれる人たちのように
良いドラマを創りたかっただけなんだって
今なら ちゃんとわかるんだけどな・・・

「あのね、岩丸さん《濃姫がゆく・リターンズ》っていうのを企画してるんだって」
振り向きながらミチルが言う。大胆なナイトウエア姿にちょっと眩しそうな顔をしながら山辺は答えた。
「いいんじゃない?あれ評判良かったし」
「それでね」
ミチルが山辺の横にダイブする。
「ふふ、タカユキにも出演して欲しいんだって、俳優として」
「え、オレに?」
「うん」
「もしかして《介さん・朔さん》の朔さんのほう?」
「と、思うでしょ?」
ミチルはイタズラっぽく笑った。
「違うんだなあ。信長役なんだって」
山辺は唖然とする。
「だって、オレは信長役には向いてないでしょ」
「それがね、ピッタリなのよ」
ミチルは妖艶な笑いを浮かべた。
「今回はね、信長は《生真面目で小心者》っていう設定なのよ」
山辺の目が点になった。
「え・・・そ、そんな日本史を破壊するようなこと・・・」
「ま、とにかく、今度の信長は、老臣の重じいに《濃はどうした、また城下をうろついておるのか。あれほど外に出るなと言うたのに・・・あの、うつけ者めが》なんて、いつもグチをこぼしているみたいよ」
あまりにメチャクチャな話にただただ呆れる山辺の頬にキスをして、ミチルが言う。
「ね、夫婦役を、本物の夫婦が演じるっていうのも話題になるよ」
「そ、そうかな・・・」
「それに、またロケで宮浦に行きたいじゃない」
「それも・・・そうだね」
妖しく目を光らせてミチルがささやく。
「楽しみだね・・・朔ちゃん」
「お、おい・・・その演技はやめて・・・なんか、シャレにならないっていうか・・・」
「そう?ホントのこと教えてあげようか」
「ホントのこと?」
「私、あのグラウンドに行ってから、朝になって我にかえるまで、記憶が全部消えてるんだ」
「ええっ」
山辺は思わずすくみ上がった。
「つ、つまり・・・」
「あの夜のこと、私の演技じゃないよ、たぶん」
「あ、あの・・・」
「呼ばれたんだよ、私たち。亜紀っていう女性に」
「そ、そ、そ、そ、そんな・・・」
と、ミチルは急にイタズラっぽい表情になると言った。
「フフッ、ビックリした?」
「え、え・・・もしかして冗談?やめてくれよ、オレ生真面目なんだからさ・・・」
「ごめんね」
「まったく、ミチルの言うことはどこまで本当か分からないよ」
「自分でも分からないの、実は・・・じゃ、とりあえずスケジュール入れとくね」
「あ、ああ・・・」

「あ、そうそう。DBSでは平田プロデューサーにも会ったよ」
「元気だった」
「うん。でも・・・」
「どうかしたの?」
山辺が心配そうな顔をする。
「最近、悪い夢を見るんだって」
「夢?」
「うん。ロケをしてるんだけど、どうしても期限に間に合わなくなっちゃうんだって」
「それは悪夢だ、確かに」
「でもね、今度は《優しい風が吹いているような》ドラマが創りたいって言ってたよ」
「平田さんらしいね」
ふと口調を変えてミチルが言った。
「ねえ、私たちも仕事増えてきたし、事務所作って、マネージャーさん頼もうか」
「うん・・・でも資金はあるの?」
「まかせて」
ミチルは得意げに通帳を開いて、山辺に見せた。
「あ・・・」
驚くべきことに、三千二百万円だった残高は、二億二千八百万に増えていた。
「ミチル・・・ま、まさか」
ワナワナと震えながら自分を見つめる山辺を軽くかわすように、ミチルは言った。
「やだ・・・悪いことなんか何もしてないよ・・・あ、駐車違反やったか・・・」
「そ、それじゃ、これ・・・」
ふふっ、と笑いながら、ミチルが言った。
「実はね、ブランドを立ち上げたのよ」
「ブ、ブランド?」
「そう、黙っててごめんね」
ミチルはパンフレットを広げた。

「奇跡を呼ぶ 愛の平成夫婦茶碗」

唖然とする山辺を可笑しそうに見ながらミチルが説明する。
「ほら、私たちのことって結構話題になったじゃない?それでインタビューを受けた時に、あの夫婦茶碗のことが出たのよ。そしたら、縁起物として商品化しようということになったの。このB&Mのところを自分たちのイニシャルに変えることも出来るのよ。それがものすごく売れちゃって、湯呑みとかコーヒーカップも生産するようになったんだよ」
「そ、そうなの・・・」
「これからの活躍次第で、まだまだ売れるよ。頑張ろうね、タカユキ」
「は、はい」

自分より年下なのに、なんてしっかりしてるんだろう。山辺はただただ驚くばかりだった。それに比べて・・・大丈夫か、オレ?

この二人、もうすぐノルウェーへの新婚旅行に出発するが、その際、またしても亜紀という少女との浅からぬ縁を実感することになる。
しかし、それはまた、別の話・・・

(終わり)
...2006/04/16(Sun) 22:44 ID:1uKEAhko    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
今日の大河を見ていて私も同感でした・・・
ササガキさんは、ようやくコリンに警戒心を抱くようになりましたね。ユキホが片付いて余裕が出てきたのでしょうか?

「赤い奇跡」の中でリンコ(深田恭子さん)がトオル(徳重聡さん)の肩とポンポンとたたき、トオルが振り向くとリンコの人差し指が頬っぺたに当たる場面がありました。それから、リンコの携帯の電話帳の中に『亜紀』という名前がありました。思わずムフフ・・・となりましたね。

朔五郎さんが「白」で頑張ってらっしゃるので、私もそろそろ「赤」を再開しようかと。来週は比較的時間があるので、一気に序盤のクライマックスまで持って行こうと思います。『赤い奇跡2017(仮題)』とでもいたしましょうか(^^)
...2006/04/16(Sun) 23:47 ID:xke1xMcg    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 佐々木禎子さんの話は,いつも胸が詰まりますね。
 2歳の時に被爆した禎子さんが亡くなられたのは1955年のことでしたが,その前年の1954年3月には第5福竜丸が核実験による死の灰を浴びています。その半年後の9月,通信長の久保山さんが「被爆者は私を最後にして欲しい」と言い残して亡くなられました。
 当時,日比谷高校(旧制府立一中)で社会科の教鞭をとっておられた木下航二さんが「原爆許すまじ」を作曲されたのも,この頃のことでした。
...2006/04/17(Mon) 01:19 ID:nZe9pCUE    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
お疲れ様です。

ミチルのしっかりした性格は、若い世代の人間の中では貴重なのかもしれません。
「2億・・・いいなぁ・・・。」物語の感想よりも、欲望が湧き出てしまいました。
...2006/04/17(Mon) 14:06 ID:BsVbFX5A    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
「赤」楽しみにしております(^^)

にわかマニアさん
たくさんの人が知っている題材は、とても難しいです。
まるっきりコピーでは読んでもらえないでしょうし「パロディ大作戦」みたいな「おふざけ」もできません。
でも、とても勉強になります。

たー坊さん
ミチルの場合、微かに「胡散臭さ」が漂うのがどうかと思いますが(苦笑)
でも自分の中で、この夫婦のことがすごく好きになってきてしまいました(^^)
...2006/04/19(Wed) 21:27 ID:v.tTD9/2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その11)

バスケ部の練習が終わり、一年生のショウジは一人、自主練習をしていた。
(負けたくない、絶対に)
3ポイントのスローに力が入る。

ダン、ダン、ダン・・・

リングに跳ね返ったボールが体育館の入り口の方に転がって行った。
「チッ・・・」
後を追ったショウジは、そのボールが拾い上げられるのを見た。
「栗原先輩・・・」
密やかに、しかし華やかに揺れる一輪の花。栗原典代はそんな雰囲気を漂わせていた。彼女の父は大手薬品メーカー・栗原製薬の会長だった。吸収合併を繰り返し、その売り上げは、いまや国内第二位のシェアを占めていた。
会長の一人娘ノリヨは、将来、栗原製薬の中枢を担う男性と結婚することを前提に、幼い頃より厳しい教育を受けてきた。中でも生け花の腕前は、家元に並び立つのではないかと噂されていた。
「どうしたんですか、こんなところに来るなんて」
「近藤くんと話がしたかったの」
甘い微風を送るように、ノリヨが言った。
「え、オレと?どうして・・・何かの間違いじゃ・・・」
「間違いじゃないわよ」
「だって、オレと先輩じゃ、全然住む世界が違うって感じだし・・・文学部っていう以外共通点がないでしょ」
その言葉を聞いて、ノリヨは口許に手を当てながら、たおやかに笑った。
「あるのよ」
「ええっ・・・」
「私たちは似た者同士、きっといい友達になれるわ」
ノリヨの視線の妖しさにショウジはたじろいだ。
「先輩・・・」

亜紀は古びた町を歩いていた。

ガタン、ガタン、ゴォー・・・

一台の路面電車が轟音を立てて走って行く。その行先を見て亜紀は呟いた。
「・・・白島?聞いたことないな・・・どこなんだろう、ここ」
右も左も分からず、困惑しながら歩いていた亜紀は、突然強い衝撃を受けた。
「うわ・・・」
走ってきた小学生の女の子が、亜紀にぶつかったのだった。
(ごめんね、お姉ちゃん)
目がクリっとした、しっかりした感じの女の子だった。
「大丈夫?ケガしなかった?」
(うん)
その女の子は笑いながらコクリと頷いた。
「どうしたの?そんなに急いで」
(今日、運動会なんだ)
亜紀もニコリとした。
「そうか、それでそんなに楽しそうなんだね」
(うん)
人懐っこい笑みがこぼれる。
「そうだ・・・お姉ちゃんも応援に行っていい?」
(ほんと?来てくれるの?うれしい)
女の子は亜紀の手を引いて歩き始めた。
(今日はね、このあと学級対抗のリレーがあるんだ。私は竹組なんだけど、クラス全体で頑張って練習して来たんだよ。だって、前の運動会でビリだったんで、悔しくて・・・)
そんな話をしながら、二人は女の子の学校にやって来た。

広島市立幟町小学校

校門には簡単ではあるが、運動会用の飾り付けがしてあった。
「え、昭和二十九年度・・・」
(ねえ、お姉ちゃんはピカの時はどこにいたの?)
「私は・・・」
その時、学級対抗リレーの選手は集合するようにという放送が流れた。
(じゃ、行くね。竹組を応援してね)
「う、うん」
屈託のない笑顔を見せて、女の子は走って行った。

いよいよプログラムの最後、六年生のリレーが始まる。誰もが息を呑んだかのように、一瞬の静寂があたりを包んだ。
「ヨーイ・・・」

パン

六人の女子がいっせいにスタートした。初め一塊だった集団も次第にばらけてきた。竹組の走者は頑張りを見せ、優勝候補の藤組にくらいつく。そして、二位で第二ランナーの男子にバトンを渡した。
「あ、うまい」
亜紀は呟いた。あの女の子は言った。前の時は、速さでは負けてなかったのに、チームワークが悪くて、何度もバトンタッチに失敗してビリになってしまったと。それが悔しくて、クラス全員で、歩行困難の子まで一緒になって練習して来たのだと。
第二ランナーの男子で竹組はトップに立った。そして、必死の頑張りで、その順位を守っていった。あれだけ苦手だったバトンタッチも、一度の失敗も無く、完璧だった。
「あ・・・」
そして九人目。女子の最終ランナーがリレーゾーンに入った。そこには、あの女の子の姿もあった。
「頑張って・・・」
亜紀は思わず掌を組み合わせた。
竹組の男子がトップで走って来る。そして、叩きつけるように、あの女の子にバトンが渡された。
「・・・」
まるで、一筋の光のように、女の子は走って行った。それは「群を抜いている」という言葉がピッタリだった。他のランナーも、応援する者たちも、もはや関係ないかのような走りだった。大地を踏み締めて走る姿は、何一つ翳りのない、輝かしい未来を予感させた。
「すごい・・・」
二位以下のランナーに大きな差をつけて、女の子はアンカーにタッチした。息を弾ませ、フィールドで同級生たちとはしゃいでいる。
「やった」
完璧な優勝だった。フィールドで踊りあがっている竹組の子供たちを見ながら、亜紀も自分自身のことのように喜んでいた。

(お姉ちゃん)
女の子の声がした。ふと気が付くと、小学校の校舎も校庭も、乳白色の靄で覆われ、見えなくなっていた。
「おめでとう。足、速いんだね」
(ありがとう)
「もう、お家に帰るの?」
女の子は首を振った。
(私、行かなくちゃ)
「行くって・・・どこへ?」
女の子は笑うだけだった。
「そうか・・・」

そうなんだ・・・やっぱりそうだったんだ

亜紀はすべてを悟り、そして言った。
「お姉ちゃんが、一緒に行ってあげようか?」
女の子は何度も、何度も首を振った。
(ダメ。お姉ちゃんは来ちゃダメだよ)
そして、小さく首を傾げて笑いながら、亜紀に向かって手を振った。
「待って・・・ねえ待って、サダコちゃん・・・」
その声にはもう応えず、サダコは靄の中に消えて行った。

柔らかな優しさを感じて、亜紀は目を開けた。談話室で、自分に寄り掛かって眠っている亜紀に、上着を掛ける健がいた。亜紀の手には、ショウジから聞いて買い求めた本があった。
「どうした、泣きそうな顔して」
「そんなことないよ」
「なに、意地っ張りだな」
私は泣かない。泣いてちゃいけない。心の中で亜紀は繰り返していた。

(続く)
...2006/04/22(Sat) 21:58 ID:niZjhlcc    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
お疲れ様です。

早速拝読いたしました。
亜紀は何かとてつもなく重いものを背負った印象を受けました。そして、それを健に気付かせないように意地を張る姿に「無茶するな。」と思っております。精神的に辛くならないうちに、健に半分持ってもらうようにしてあげてください。
...2006/04/23(Sun) 19:43 ID:AlAkXc3g    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 日本一の赤字線と呼ばれた美幸線ですら記憶の彼方に遠ざかった感がありますが,かつて,それを上回る赤字線が存在しました。宇品線です。
 広島駅と宇品港を結ぶこの路線は,日清戦争(この時の大本営は広島城に置かれました)の際の兵員輸送を目的として陸軍省により建設され,当初は山陽鉄道(まだ国有化される前のことです)が陸軍省から線路を借り受ける形で営業していました。沿線には兵器廠・被服廠・糧秣廠があり,軍用線の性格が極めて強い路線でした。私の祖父も,その糧秣廠で働いていました。
 ちなみに,鉄道唱歌に登場する広島は,「かたじけなくも大君の大本営の置かれし地。呉の軍港ほど近く」と紹介されています。余談ついでに,唱歌「港」は呉の軍港をうたったものです。私が音楽に関心を持つようになったのは多分に母の影響がありますが,その母は女学校時代,よく呉の軍楽隊の演奏を聴きに行っていたとのことでした。
 第二次大戦の頃,上京して働いていた父は応召され,軍用列車で行先も知らされずに運ばれましたが,車窓から見える黄金山(広島市内の山で,今はテレビ塔が置かれています)の姿を見て,宇品からどこか外地に連れて行かれるのかと思ったそうです。その後,復員する船の中で,東京は空襲,広島は原爆でいずれも灰燼に帰したと聞かされ,どこに帰ったものかと悩んだそうです。
 呉に海軍鎮守府が,市内に陸軍西部方面軍の司令部が置かれ,軍需工場の立ち並ぶ軍都・広島。原爆の標的にされたのは,そんな事情もあったようです。戦後民主主義の良心とも呼ばれた丸山真男先生(私も一応その孫弟子にあたります)が被爆されたのも,徴用されて広島に連れて行かれた時のことでした。
 とりとめのない身の上話になってしまい,申し訳ありませんでした。
...2006/04/25(Tue) 00:31 ID:ZTG0wHtA    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
たー坊さん
コメントありがとうございます。
「世界の中心で、愛をさけぶ」というドラマは、朔と亜紀を中心にした登場人物たちの、温かな心の交流というのがとても印象的で、多くの人の心をいまだに引き付けているのだと思います。
しかし、その根本にはやはり「死生観」というメインテーマがあり、それを避けて通ることはできないと思います。
それで「続編」であるこの物語にも、あえて、この章を付け加えることにしました。亜紀は一度ボロボロになるかもしれませんが、より強く、より美しく蘇ってくると思います。亜紀は独りではなく、健が付いているので大丈夫です。

にわかマニアさん
「ヒロシマ」は多くの日本人に、耐え難い悲しみをもたらしました。被爆の体験も、戦争の体験もない私が扱うのは僭越なのかもしれません。ですが、最後まで書かせていただこうと思っております。それは、ただ、少しでも多くの方に「ヒロシマ」に目を向けて欲しいという理由からです。
...2006/04/27(Thu) 00:30 ID:ZaF3A5rU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>被爆の体験も、戦争の体験もない私が扱うのは僭越なのかもしれません。

 僭越なんてことはないですよ。
 むしろ,辛い体験ゆえに「自分の内だけにしまいこんで,棺桶の中まで持って行こう」として,たいせつなことを語り継いでこなかったことのツケが回ってきているのかもしれません。
 例えば,与野党を問わず,若手になるほど勇ましい発言をするようになる傾向があるのもそうでしょうし,2004年3月15日に広島で開催された衆院憲法調査会の地方公聴会では,「最新の医療技術をもってすれば原爆など恐れるに足りない」との非科学的妄言が国立の大学院の教授で医学博士の学位を持つ公述人の口から飛び出し,一同,怒るのも忘れてあきれかえっていました。
 「ヒロシマノート」を書いた大江さんにあやかった名前のケンが亜紀とともに広島を訪ねるのを楽しみにしています。
...2006/04/27(Thu) 19:21 ID:.NMuJzU2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その12)

立京大学池袋キャンパス。
夕方、とある講義室から、何人もの学生たちが出て来た。静かだった廊下が、一瞬にして賑やかになった。
「じゃ、先輩、失礼します」
「おお、お疲れ」
「バイバイ」
彼らは演劇部員であった。今日の本読みが終わり、解散になったところだった。
「ねえサク」
「ん?」
いつの間にか演劇部に引き込まれ、最近では殺人犯役も板についてきたミライが振り向いた。
「この近くに美味しいスイーツの店が出来たんだ。付き合ってくれない?」
「いいよ」
「うれしい。行こっ」

「オレの勝ちだね」
その声に顔を向けると、ミライの顔が得意げな笑顔で一杯になっていた。
「え、ああっ・・・当たったの?ウォークマンコネクト・・・」
「へへっ」
「やったね、サク」
マサミは、ミライが持っている箱を見ながら歓声を上げた。
折から、乳酸飲料「キャルピス」のキャンペーンが行われており、応募するとプレゼントが当たった。二つのコースがあり、一つはクイズに答えるとペアでオーストラリア旅行、もう一つはポイントを集めて応募するとウォークマンコネクトが当たるというものだった。ミライとマサミは必死にポイントを集め、どちらが先に当たるか競争していたのだった。
「やられた。悔しい・・・」
「ま、これは二人のものということで」
「ああ、優しいね、サク」
マサミはミライにもたれながら、ちょっと恥ずかしげに言った。
「・・・ダイスキがとまらない」
「でもさ、オーストラリアは当たらなくて残念だったね」
「うん・・・二人で行きたかったな、オーストラリア」
「そうだな」
ふと目を輝かせるとマサミが言った。
「ね、サク。この写真見て」
「ん?お、おおっーーー」
「すごいでしょ」
「う、うん」
そこには、青い海に浮ぶ、ハートの形をした珊瑚礁が写っていた。
「これはね、グレートバリアリーフの中にあって、ハートリーフって呼ばれてるんだ」
「うん、そのものズバリだね」
「この珊瑚礁には伝説があってね・・・」
「そ、その、地下の泉につながっているとか・・・」
「あのね、それはまた別の話で・・・このハートリーフに行って、そこで誓い合えば永遠の愛が約束されるんだって」
「女の子が好きそうな伝説だね」
夢見るような瞳をして、マサミが言う。
「行きたいなあ」
「行こうよ」
マサミは思わずミライを見た。
「行こうよ、新婚旅行で」
「行けるかなあ」
「行けるさ。オレが必ず連れて行く」
まるで出会った頃のようなトキメキを感じて、マサミは嬉しかった。そして、ミライの腕に縋りながら行った。
「ま、今年は無理っぽいから、夏休みは木庭子町に行って泳ごうね。防波堤に座って、ウォークマンでいっぱい音楽を聞こうね」
「好きだな・・・」
ミライが苦笑する。彼氏の実家が大好きな女の子なんて、そうそういるもんじゃないよな。
「あれ、私が行っちゃ困るの?」
「いえいえ、全然・・・」
「じゃ、ゴールデンウィークにはウチに来る?」
「あ、ああ・・・」
マサミの父・ゴン隊長の顔を思い浮かべ、ミライは既にビビッていた。しかし、その招きを断ることは決して出来ないことも、良く知っているのだった。

「さ、着いたよ」
クラシカルなたたずまいの店先には「小りん」という看板が掛かっていた。
ドアを引くと、小さな鈴が「チリリン」と音を立てた。
「この鈴はね、パティシエと奥さんの思い出の品なんだって」
「それが店の名前になってるんだ」
「そうみたい」
店の奥からオーナーの上川が姿を見せた。
「いらっしゃい、マサミちゃん」
「こんにちは」
「あれ、今日は彼氏と一緒?」
「はい。婚約者のサクでーす」
「ど、ども・・・」
赤くなって俯くサクの姿に吹き出しながら上川は言った。
「お似合いだね」
「ありがとう、上川さん。ね、サク、上川さんは演劇部の大先輩なんだよ」
「え・・・」
慌てて立ち上がりピョコンと頭を下げるミライに、上川は笑いかけた。
「いいよいいよ。そんな大した先輩じゃないよ」
上川が主演した「キャラメル箱の男」は、今でも伝説の舞台として語り継がれているのだった。
「さてと・・・あ、上川さん、今日のおすすめは?」
「うん。これ、新作なんだ」
「《千代の涙》ですか?またぁ、奥さんの名前なんか付けちゃって」
「ははは。コーヒー味のムースなんだけど、ちょっとビターな大人の味、ってところかな」
「じゃ、私はそれ。サクは?」
「オレは・・・これにします」
「おお《恋のダウンロード》か。それも自信作だよ」
「あとコーヒー二つ」
「はいはい、じゃ、ちょっと待っててね」

「はい、お待たせ」
上川がケーキとコーヒーを持って現れた。
「わあ、美味しそう・・・頂きます」
「コーヒーもすごく良い香りだね」
「ありがとう。ああ、そうだ。せっかくだから、それを食べたら、ちょっと二人のセリフを聞かせてくれよ」
ミライとマサミは思わず顔を見合わせた。
「なんか昔を思い出しちゃってさ・・・君たちを見てて」

男「もう遅いよ・・・戻ることなんてできやしないよ」
女「ねえ、お客さん。今夜は私が愛してあげる。いっぱいの優しさで包んであげるよ。だから、明日になったら自首した方がいいよ。人間はね、何のために生まれてくると思う?それは愛するためだよ。どんな悪いことをしてしまっても、それを忘れなければ、神様はきっと赦してくれるよ」
男「人間なんて、所詮罪深い生き物さ・・・俺は逃げてやる。逃げて逃げて、逃げ抜いてやる・・・」
女「かわいそうだね、お客さん。そういうの生き地獄っていうんだよ・・・まあいいや・・・私、かわいそうな人を見ると、放っておけない性格なんだ。いいよ。今夜は、今夜だけは全部忘れなよ。忘れさせてあげるよ、私が。フフッ・・・」

じっと聞いていた上川が感心したように言った。
「いやあ、すごいねマサミちゃん。なんというか・・・マサミちゃんに迫られたら俺なんか一発で陥落しちゃうね、きっと」
心配そうな顔をしているミライに、上川が言う。
「そんな顔するなよ。マサミちゃんが君以外の男に興味を持つわけないだろ」
「そうだよ、サク」
「あ、そうだ・・・罪と罰と言えばさ・・・」
上川の口調が、ふと変った。

(続く)
...2006/04/29(Sat) 20:32 ID:RPtP3dZ2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
今回のマサミ&ミライ登場編はちょっとしたコーヒーブレイクみたいに楽しませていただきました。
いつか出てくると思っていたら、ついに登場ですね。上川さん!店内に『恋のダウンロード』がBGMで流れてるように感じましたが、これは幻聴ですよね。(→最近、酒場や喫茶店でよく耳にします)

前回分に戻りますが、栗原先輩はショウジを誘って何を画策しているのかワクワクしています。栗原先輩が健に向ける視線を考えると確かにショウジと利害が一致しているように思います。
...2006/04/29(Sat) 22:24 ID:FjEkuKr6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
お疲れ様です。

朔五郎さん

久しぶりに東京組(?)が登場ですね。
OBの登場がリアルさをより引き立たせていると思います。
大河も加ってますが、どうせならオーナーに甲冑を着けていただきましょうか?
店も純和風に改装していただいて・・・。

SATOさん

>前回分に戻りますが、栗原先輩はショウジを誘って何を画策しているのかワクワクしています。栗原先輩が健に向ける視線を考えると確かにショウジと利害が一致しているように思います。

全くの同感です。
健と亜紀は、一難去ってまた一難という感じでしょうか?作者の朔五郎さんに期待してしまいます。
...2006/04/29(Sat) 22:37 ID:wQVNAimU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん、たー坊さん

感想、ありがとうございます。
このCMネタのキャンペーンは実際に行われています(○ルピス)
たまには出番がないと気の毒なので、出てもらいました(笑)

「小りん」については、和風の甘味処というのも考えたんですけど、お品書きのイメージと合わなかったんです(^^;;;

栗原先輩は怖い人です(^^;;;
...2006/04/30(Sun) 18:17 ID:vd68W3e6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 あの乳酸菌飲料は,われわれが子どもの頃は瓶入りの濃い原液を水で薄めて飲んだものでしたが,最近では最初から「水割り」にして紙パックやペットボトルに入れたものが主流になっているのですね。宣伝する俳優が「皿の割れる喫茶店」を思い出して,落として割らないようにとの配慮かどうかは知りませんが・・・
 ドラマの小道具で,ソリタTが回想版ではガラス瓶,現代版はプラスチック入りと使い分けていたり,第1話に登場する牛乳が宅配の瓶入りのものだったりというのも,時代を感じさせます。度の強いメガネを「牛乳瓶の底」と表現したのも死語になりつつあるのでしょうか。
...2006/05/04(Thu) 02:35 ID:qE5v4rOI    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
にわかマニアさん

「濃い原液」には、最近お目にかかりませんね(懐かしい)
しかし、あのキャンペーン、旅行の行く先が「エアーズロック」では、さすがにシャレにならんと思ったのでしょうね(^^;;;
...2006/05/04(Thu) 02:58 ID:gsR32xGo <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編、遅れて申し訳ありません。間もなくアップの予定です。
...2006/05/06(Sat) 02:28 ID:s/A2MNzI <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO

私もアップが遅れて申し訳ありません。
研修の課題が鬼のように出されてそちらを優先しなければなりません。課題提出の目処が立つまでしばらくお待ち下さい(^^;;

※と言いつつテレビドラマ観てばっかりいる自分って・・・
...2006/05/06(Sat) 08:43 ID:v/T9lKlI    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その13)

「《罪と罰》と言えば、俺が立京大学にいた頃、神父さんの話があってさ・・・」
ふと思い出したように上川が言った。
「ちょうど戦争の頃、広島に赴任していた牧師さんの話だった」
「あ、あの・・・その戦争って、イラク戦争ですか」
「あ、いや・・・」
上川は苦笑いした。
「日本が参戦した最後の戦争、太平洋戦争だよ」
「ほら、サク・・・木庭子町の重じいが行った戦争だよ」
「っていうことは、今が2018年だから・・・1945年だと、七十年以上も前の話か」
「そうだ。その牧師さんは原爆投下の時、広島に赴任していて被爆した。不思議なことに、被爆直後は軽い症状しか出なかった。ところが二週間くらい経ってから、突然、急性原爆症で倒れるんだ」
「自分は大丈夫だと思ってて、急にそんなことになったらショックでしょうね」
「いや、そうじゃないんだ、マサミちゃん。彼は言ったそうだ・・・《俺もやっとこれで、一人前の被爆者になった》」
「そんな・・・」
「負い目を感じていたんだ、牧師として・・・自分だけが無傷で助かったことにね。だから、高熱にうなされながらも、心は安らかだったって。牧師さんっていうのは、そんな人たちらしいよ」
「それが信仰の力なんでしょうか」
「信仰の力っていうより、人間の精神の力なんじゃないかな・・・信仰っていうのは、人間が元々持っているものを引き出す役目を果たすものだろ?」
「・・・そうなのかな」
「次の年の初春、その牧師さんは、祭壇も、屋根も、ステンドグラスも吹き飛び、コンクリートの外壁だけになった教会に行った。そして礼拝堂の位置に跪いて祈りを捧げたそうだ」

神様、どうか私どもの罪をお赦し下さい。
なぜ、私を生かされたのですか?私はなにをすべきなのでしょう・・・

丘の上にあるキャンパスの周りは、新しい芽吹きで溢れていた。ショウジはバスケットシューズが入ったバッグを振り回しながら、町へ向かう坂を下っていた。そんな彼の前に、黒いスーツを着た、若い男が立ち塞がった。
「近藤彰二様ですね」
「そうだけど・・・」
「私、黒崎と申します。栗原製薬会長・栗原努の遣いで参りました。会長が、近藤様にぜひお会いしたいと申しております」
訝しげな表情を見せるショウジに、薄笑いを浮かべながら黒崎は続けた。
「お疑いですね。私、決して怪しい者ではございません。もちろん詐欺師などではありませんよ。あれをご覧下さい」
黒崎の視線の先には、シルバーメタリックのベンツが停まっていた。そして、後席のパワーウィンドウのスモークガラスが音も無く下がると、栗原典代の謎めいた、白い微笑が現れた。
「先輩・・・」
「お分かりいただけましたか?さ、どうぞ」
事態を良く把握できぬまま、ショウジはベンツに乗り込んだ。西洋のアンティーク人形のような笑みを浮べ、ノリヨが言った。
「来てくれてありがとう、近藤君」
「どういうことですか、先輩」
「言ったでしょ・・・私たちは最高の友達なのよ。お互いの利益のために結びつく相利共生、いわばハゼとテッポウエビの関係ね」
「なんか、暗ーいイメージですね」
「あら、種類にもよるけど、ハゼとテッポウエビって、色も鮮やかで、アクアリウムの人気者なのよ」
「いや、そういう見た目じゃなくて・・・」
黒崎の運転するベンツは「牛伏山スカイライン」に入り、細く曲がりくねった山道を登っていた。
「どこに連れて行かれるんですか、オレ」
「もうすぐ着くわよ」
やがて車はひっそりと佇む料亭の前に停まった。茅葺の門には「料亭 桂」という看板が掛かっていた。
「ご案内いたします」
黒崎に促されて、ショウジは建物に入った。古く、黒光りしている廊下を歩き、ある座敷の前で止まった。
「近藤様をお連れしました」
「おお」
黒崎がゆっくりと襖を開けた。部屋の中には眼つきの鋭い初老の男が座っていた。そして彼の脇には物静かな女性が控えていた。
「わざわざおいで頂き、ありがとうございます。ノリヨの父、栗原努です。これは秘書の奥貫です」
奥貫は慎ましく頭を下げた。
「どうも・・・しかし、僕のようなものに、どんな用があるというのですか?」
栗原はニヤリと笑うと言った。
「ま、難しい話は後にして、まずは一席・・・」
栗原が「パンパン」と手を叩くと、料理を載せたお膳が次々と運び込まれた。目を見張るばかりの豪華さだった。
「きれいですね・・・」
ショウジは床の間に置かれた生け花に目をとめて、思わず言った。
「それはノリヨが生けたものです。ノリヨには、幼い頃から常に最高級の素材を与えてきました。少しでも失敗すれば惜しみなく捨てて、新しい花を使う。そうやって腕を磨いてきたんですよ」
「惜しみなく捨てるって・・・だって切花だって命あるものでしょう?」
「ハハハ、命って言ったって、所詮、金を出せば買えるものなのでね」
美しく生けられた花の前に座る、美しいノリヨ。その完璧な美を目の前にしてショウジは、心が冷え切っていくのを感じていた。

海の見える喫茶店「海の時計」では、東大現役合格を目指すナオミが問題集と格闘していた。
「はい、これは私のおごり」
レイコがコーヒーを置いた。
「いつもすみません、お・ね・え・ちゃん」
「あのね・・・」
レイコは苦笑いした。
「・・・マスターと京子さん、順調みたいね」
「うん」
ナオミが頷く。
「きっと来年の春、私が東京に行く頃に結婚するんじゃないかな」
「そうよねえ・・・受験生がいるんじゃ気を遣うわよね」
「私は全然平気なんだけどな・・・」
「ま、それが親心というものよ」
ナオミはフッと笑い、それから真顔で言った。
「でもね、私が東京に行くと、お母さん一人暮らしになっちゃうでしょ・・・やっぱり、ちょっと心配なの。だから、一緒に暮らしてくれたほうがいいの」
「そうか・・・そうかもしれないね」
ナオミは眉をひそめながら言った。
「この間もね、怪しげな客がお母さんに変なこと言うのよ」
「変なことって?」
「こんな小料理屋なんかやめて、いっそイタリアンレストランに改装しないか?ママの料理の腕があればきっとできるよ、ですって」
「まさか・・・ねえ」
「ま、いくら人の良いお母さんでも、さすがに乗らなかったけど・・・でもこれから先、詐欺師みたいなのが来るかもしれないでしょ?」
心の中が、愛しさで満たされるのを感じながら、レイコは言った。
「ナオミちゃんは、ホントに優しいんだね。でもね、きっと大丈夫だよ。マスターだって、京子さんのこと大好きだもん。頼りになるよ、マスターは。だからナオミちゃんは、今は受験に集中して、将来、弱い人の味方をしてあげられる立派な弁護士さんになってよ。京子さんだって楽しみにしてるんだから。それが一番うれしいはずだよ」
「なれるかな・・・私」
「なれるよ、きっと。どんなに頭が良くても、心が冷たい人は大きくはなれないんだ。ナオミちゃんみたいな人を、世界中のみんなが待っているんだよ」
(参考図書:近藤紘子著「ヒロシマ、60年の記憶」)

(続く)
...2006/05/07(Sun) 17:58 ID:n9ysW4KA <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO

最近のテレビのネタも仕入れて面白い話でした。
しかし、庶民とは住む世界が違う栗原父娘がなぜ近藤君を呼んだりしたんでしょうね。ちょっと不気味に感じました。(「白」と「黒」が入り混じってグレーな世界ですね)

栗原努は重ジイと顔が似てるかもしれませんが、全くの別人ですよね?あと黒崎もナオミの彼氏と似てるかも?

ナオミは東大に入った暁には、検事をめざすツララのような学友と巡り会うのでしょうか?
...2006/05/07(Sun) 22:43 ID:gIkVD2Q2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
>栗原
はい「クロ○ギ」の世界です(^^)
...2006/05/08(Mon) 00:42 ID:.7rFTEWc <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
なかなか、アップできなくて申し訳ありません。

今後の予定を

このスレ
「広島編」・・・従来どおり、このBBSのみに書き込みます。
「ミチルがゆく」・・・「世界2」の話のスジを混乱させないよう、ブログのみに書き込みます。

別スレ
「ジュリエット」・・・BBSに出した後、ブログに書き込みます。

ほかに「世界2」の中の「四国編」について
朔五郎的には、内容は非常に気に入っているのですが、文章があまりにもマズイ。いつか直したいと思っていました。そこで、大幅にリニューアルして、設定を変えた上で「世界〜 2006」としてブログに書き込みます。
もちろん「四国編」は「世界2」の中にそのまま残します。
なにとぞ、ご了承くださいませ(ペコリ)

「世界2」の「整理ブログ」のようなものも考える時期に来ているのかもしれませんね。
この場合、無理に一本の物語にまとめようとせず、「○○作」として、シリーズごとに載せていくスタイルが良いのではないかと私は思います。
...2006/05/13(Sat) 01:24 ID:HjyoFwAM <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その14)

宮浦大学の午後。講義も終わり、カフェテリアでは学生たちが思い思いの時間を過ごしていた。
「なあ、亜紀」
「なに?」
「うちの親父、亜紀に感謝してたよ」
コーヒーカップを手に持って健三郎が言った。
「どうして?」
「ほら、亜紀の意見でフードコーナーを増築したじゃない」
「ああ、学生さんたちが集まるようなお店ね」
「うん・・・新しい店が入った、二つ」
「へえ、二つも」
「一つは《たこ焼きパパさん》の二号店」
「まあ、あれは外せないわね」
亜紀がニッコリ笑う。
「で、もう一つは」
「もう一つは、やきそばなんだ」
「やきそば?」
亜紀は目を丸くした。
「うん。最近話題のやきそば屋さんでね。なんでも昔はテレビ局のプロデューサーやってた人なんだって」
「ふうん・・・いろんな人がいるね」
「人間の一生って、わからないものだよね・・・」
亜紀はふと、イタズラっぽい笑いを浮かべると健に言った。
「ね、今度の日曜日、付き合ってくれない?」
「・・・いいけど」
「東京に行くんだ、松本先生に会いに」
「へえ・・・」
「一緒に行こうよ」
「うん」
「よし、決まり」
どことなく諦め顔の健に亜紀が言う。
「あんまり嬉しそうじゃないね」
「だってさ・・・どうせ画材をいっぱい買い込むんだろ?」
「へへ、バレてた?」
「もう、バレバレ」
「ごめんね、健・・・でも頼りにしてるんだ。私には健しかいないんだよ・・・」
「それ・・・ドラマの観過ぎじゃない?」
「ふふっ」
そんな可愛いワガママを大きく包んでくれる健に、心ごと寄り掛かっている亜紀だった。

轟音をあげながら、特急「西伊豆2号」は多摩川に架かる鉄橋を渡り終えた。
「ねえ、健」
何気なく亜紀が言った。
「今日は京葉線に乗り換えるよ」
「え、京葉線?」
健が意外そうな顔をする。
「どこの美術館に行くの?」
「ふふっ、ヒ・ミ・ツ」
「ええっ・・・」
覚悟していたこととはいえ、憂鬱になりかける健だった。

二人は東京駅の地下ホームで京葉線の電車に乗り込んだ。
「あれ、美術館なんてないみたいだけど・・・」
「うん。今日は美術館はナシ」
「え・・・ええっ」
「何よ、不思議そうな顔して」
(だって、そんなこと考えられないだろ)
健は心の中で呟いた。
「私にはね、もっと大事なものがあるの」
「もしかして、ディズニーランド?」
「うーん、ちょっと違うな」
「どこ行くんだよ・・・」

二人がやって来たのは、ガラスのドームが特徴的な水族館だった。
「お、おい、海なら今朝だって・・・」
「いいから・・・」
亜紀は、さっさと二人分のチケットを買ってしまった。
「さ、行くよ」
健の腕を引っ張って中に入って行く。
(東京まで来てサカナを見なくても・・・)
まだ納得できずブツブツ言いながら、健は亜紀に手を引かれていく。やがて、二人は巨大な水槽の前に来た。
「うわ・・・すごい」
漁師の家に生まれ育った健でさえ、その光景には圧倒された。そびえ立つ水槽には、銀色に輝く大きなマグロやカツオが群れをなして泳ぎ回っている。
「健・・・」
声も無く立ち尽くす健の名を、亜紀が呼んだ。そちらに目を向けると、水槽を背に亜紀が立っていた。その姿は背景に溶け込み、まるで海の底に立っているように見える。
「なあ亜紀、大事なものってこれなの?」
「そうだよ」
「どうして・・・」
「これが私たちの永遠だからだよ」
「永遠?」
亜紀は静かに微笑んだ。
「健、廣瀬亜紀さんが永遠を求めて、ウルルの空を目指したのを知ってるでしょ?」
「ああ、聞いたよ」
「健は海に生きる男でしょ?だから、きっといつか、海に帰る時が来る。そして私もいつか健の傍に行くんだよ・・・どっちが先かは分からないけどね」
亜紀は青い水槽を振り返った。
「私たちはいつか、こんな青い海の中で穏やかに過ごす時が来る・・・それが私たちの永遠なの」
「永遠か・・・」
健は亜紀に寄り添うと、静かにその肩を抱き寄せた。

ショウジは宮浦の商店街を歩きながら、昨日のことを思い出していた。
(恐ろしい話だ・・・)
人間の心の、底しれぬ暗さを垣間見たような気がして、まだ鳥肌が立っているような気がする。
「あ・・・」
花を手に持った女の子が目の前を横切った。
「ナナ」
思わず呼び掛けた声にナナが振り返った。
「ショウジ・・・」
その顔一杯に、笑みが溢れた。

(続く)
...2006/05/13(Sat) 22:37 ID:9shNNId2 <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
さすがの健も東京まで画材を買い込みに行くことは予想できても、水族館までは無理だったようですね。しかも、亜紀からの愛のセリフにはジーンと来たことでしょう。

そして、例の2人の再会にはこれからの展開が読めずにワクワクしております。
...2006/05/14(Sun) 21:58 ID:Y.JyDB5A    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
たー坊さん

ナナとショウジは「出身元」では破局してしまいます。しかし、こちらでは全く違う展開にしたいと思っています。
...2006/05/14(Sun) 22:29 ID:CvYP/y82 <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
健と亜紀にとっての永遠は『世界で一番青い海』ということなんですね。いやー、いいシチュエーションです。

ショウジは栗原父娘とどんな話をしたのでしょうか?気になります。
...2006/05/15(Mon) 22:52 ID:SddO440o    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
研修の中休みで息抜きに短編を考えました。
今回はスペシャル編ということで・・・・



もうひとつのセカチュー第二世代物語スペシャル

『教育実習生がやってきた!(前編)』

2017年6月のとある日曜日、今日は梅雨の中休み。小料理屋『きょうこ』のママ・京子は娘のナオミと隣町の『洋ランパーク』に出かけました。パークの園長・理恵(菊次郎の妹)からの誘いを受けていたためです。
理恵が自らアレンジした洋ランに思わずため息がもれる母娘でありました。

ナオミ「ほんと、綺麗・・・」
京子「何か、別世界に来たみたいね・・・」
理恵「お褒めいただいてありがとうございます。そろそろお昼にしましょうか」

そして3人は高級イタリアレストランに入った。
出される料理の数々に舌鼓をうつ3人・・・特に京子は料理のウンチクを語り始め、止まらなくなってしまった。

そして、楽しい食事も終わり・・・

理恵「花のアレンジも、料理も、人々の心を和ませるという意味では同じことを目指しているのかもしれませんね。今日は来ていただいてありがとうございました。とても楽しかったです。これからも兄が色々お世話になると思いますが、よろしくお願いいたします。」
京子「いえいえ、こちらこそ、お誘いいただいてありがとうございました。お兄様がおろしてくださる豆腐があるからこそ、今の店があるんだと思いますわ。」
理恵「そう言っていただくと、兄も喜びますよ。」
ナオミ「おばさん、今日はどうもありがとうございました。」
理恵「どういたしまして。ナオミちゃんも勉強頑張ってね。」
ナオミ「はい」

京子とナオミは帰路につくため、洋ランパークの駐車場にやって来た。自家用車のミニバンに乗ろうとしたその時である。

バン!

隣のベンツのドアが開き、ミニバンのドアミラーを傷つけてしまったのである。
若い男が降りてきたが、「失礼」と言うだけであった。その態度に京子が憤慨した。

京子「ちょっと、あなた、ぶつけておいてその言い方はないんじゃない?」
若い男「このくらいあれば、修理代にはなるでしょう。どうぞお受け取り下さい。」

そう言って若い男はお札を京子に渡す。

京子「何よ、一言謝ることも出来ないの?こんなお金受け取れないわ!」
若い男「まあ、そうおっしゃらずに。では」

ブォー!男はベンツを急発進させて走り去った。

ナオミ「何よ、感じ悪い!」
京子「ったく!あのバンビ!」


翌日、宮浦高校に教育実習生がやって来ました。
授業開始前の職員室では実習生の紹介が行われていた。

実習生「今日から2週間、教育実習生としてお世話になります葛城冬樹(カツラギフユキ)です。わからないことだらけでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いいたします。」
北条校長「ということで、葛城君、頑張ってください。古河先生、彼の指導をお願いします。」

(2年B組の教室)
古河先生が冬樹を伴って入ってきた。
冬樹の姿を見たナオミは・・・

ナオミ「あー、昨日うちのクルマを凹ましたバンビ!」
冬樹「(覚えていない様子で知らん顔)」
俊介「長谷部、何のことだ?」
ナオミ「いえ、こちらのことです。」

休み時間、ナオミは冬樹を追いかけた。
ナオミ「葛城先生、昨日のあの態度は何ですか?別にお金なんかくれなくてもいい、ただ一言『悪かった』とおっしゃっていただければそれでよかったんです」
冬樹「そんな大声で言わなくても聞こえてるよ。綺麗ごと言ってるけど、世の中なんだかんだ言っても金だよ。」
ナオミ「何ですって!?お金で何でも片付けようなんて、そんな考えには納得出来ません!」
冬樹「まぁ、人にはそれぞれ考え方があるから。それより、君もお母さんも声が大きいね。俺、そういう女の人は苦手なんだ。」


(小料理屋『きょうこ』)

京子「なんですって!?あのバンビが教育実習生?」
ナオミ「そうなのよ、何でもお金で片付けようとするから超ムカツイタ」

そこへ若い男がふらりと店に入って来た。

ナオミ「いらっしゃいま・・・・」
京子「あー!昨日のバンビ!」

冬樹「へー、随分狭くて古いお店なんですね」
京子「こじんまりした、懐かしさを演出してるんです!」
冬樹「でも、これから、こういうお店は流行らなくなりますよ。今のうちに手を打っておいたほうが良いですよ。例えばイタリアン・レストランにするとか。父が会社を経営してまして、よろしければバックアップいたしましょうか?」
京子「ご遠慮させていただきます。うちはわざわざイタリアンにしなくてもちゃんとした固定客が付いていますから。それに、この小さな街にイタリアンなんて似合いませんわ。それにね、あなた、私の料理の味を確かめもしないで、よくそんなこと言えるわね。」
冬樹「いや、これは失敬。では、今度の週末に僕の大切な人を連れてきますので、その時にあなたの料理を味わわせていただきます。」
京子「承りました。では、ご予約2名様でよろしいですか?」
冬樹「ええ、そして、料理の味に納得できなかったら、修理代は素直に受け取っていただけますか?」
京子「いいわよ、その替わり、料理の味に納得していただいたら、素直に謝罪してくださいよ。」
冬樹「では、週末を楽しみにしています。」


(精進料理「いけうち」)

ナオミ「ちょっと、お母さん、何であんな約束しちゃうのよ。バンビの口車に乗せられただけじゃないの。料理にかこつけて、あいつは非を認めないつもりだよ」
京子「あ〜、あたしとしたことが、売り言葉に買い言葉で引っ込みつかなくなっちゃったわ・・・」
菊次郎「でも、そのバンビ野郎、随分横柄な奴だな。こうなりゃ売られたケンカだ。すごすご引き下がる訳にはいかないぜ、京子さん。」
ホノカ「ねえ、葛城先生が連れて来る大切な人って誰なんだろう?その人が好きな料理を出してあげればいいんじゃないかな。」
菊次郎「おお、いいところに目をつけたな。」
京子「ナオミ、調べられる?」
ナオミ「そうしたいのはヤマヤマだけど、あたし、バンビに顔知られてるしな・・・」
菊次郎「それなら、うちの若い奴に手伝わせよう。六平太、ちょっといいか。」

厨房から出てきた男の名は香川六平太(35歳)。『いけうち』の料理人である。

六平太「お呼びですか。話は聞こえてましたよ。皆さん、声が大きいもので。」
菊次郎「それなら話が早い。京子さんとナオミちゃんの力になってやってくれ。」
六平太「お安い御用です。小料理屋『きょうこ』が売られたケンカだ。何でも協力しますよ」

そして、六平太とナオミによる葛城冬樹の『身辺調査』が行われた・・・果たして、週末に間に合うのだろうか・・・!?

(後編に続く)
...2006/05/15(Mon) 22:54 ID:SddO440o    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 さすがSATOさん,ブランクを感じさせない力作ですね。
...2006/05/15(Mon) 23:15 ID:mZMow4ro    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん、お久しぶりです。
それぞれの場面が、すぐに思い浮かんで楽しいですね(^^)
「小りん」も次回が最後の出番というウワサなので、応援しましょう(^^)
...2006/05/17(Wed) 23:16 ID:0PCWIsSM <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
SATOさん

お待ち致しておりました(笑)
本当に色んなドラマをバランスよく融合されたものですね。雰囲気バッチリです(笑)
...2006/05/19(Fri) 23:47 ID:Geplekg2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>本当に色んなドラマをバランスよく融合されたものですね(笑)

 別のブログでのやりとりもそうなのですが,SATOさん・朔五郎さんって,まさにドラマの生き字引ですね。
...2006/05/20(Sat) 09:45 ID:fgdYW6gE    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
映画「ラフ」の公式HPが立ち上がり、予告ムービーを見ることが出来ます。

「テープを使ったメッセージ」「海水浴のシーン」
いやあ「あの」感動が蘇りますねえ(苦笑)
でも、長澤まさみさんの「テープの声」はとても懐かしく感じましたよ(^^)
...2006/05/21(Sun) 02:32 ID:dGWVb7nI <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
もうひとつのセカチュー第二世代物語スペシャル
『教育実習生がやってきた!(後編)』

街中を歩く冬樹。そして、彼の後をつける二つの人影があった。良く見ると、変装した六平太とナオミである。ナオミはなんと、野球のユニフォーム姿だった。

ナオミ「六平太さん、いくら何でもこんな格好じゃ目立ち過ぎるよ。」
六平太「いや、かえってその方が相手も警戒しない。野球少年のつもりで歩いていればいいよ。でも、ナオミちゃんのユニフォーム姿、小学生のとき以来だけど、やっぱり似合ってるよ」
ナオミ「あら、そうかしら。」
六平太「東大に入ったらまた野球やればいいじゃない。弱小東大野球部に救世主・ヒロイン現るなんてさ、新聞に載ったりして(笑)」
そう言われて、ナオミもまんざらでない表情を浮かべた。

しかし、六平太とナオミの調査活動も目立った成果があがらず、冬樹が『きょうこ』に来る前日になってしまった。
その日の放課後、日直のナオミは教室の掃除が終わったことを報告するために職員室に立ち寄った。

(職員室)
ナオミ「古河先生、掃除がおわりました。こちらが日報です。」
俊介「おう、ご苦労さん。」

その時、職員室の一角で、大沢先生と冬樹が談笑していた。
冬樹「・・・というわけなんです。よろしければ是非おいで下さい。」
大沢先生「わざわざありがとう、楽しみにしてるよ。」

その様子を『立ち聞き』したナオミは、冬樹がいなくなった後、大沢先生に声をかけた。
ナオミ「大沢先生ッ」
大沢先生「よう、長谷部くん、勉強は順調か?」
ナオミ「先生方に会うたびにそれなんですよね(苦笑)」
大沢先生「いや、すまん。まあ、東大に現役合格するかどうかは、これからの君の頑張り次第だ。でももっと大切なのは、東大に行って何をするかだよ。その点はしっかり考えないとな。君の従姉妹の長沢マサミ君も、いろいろ考えた末に今の進路を選んだんだよ。彼女にもいろいろ聞いてみるといい。」
ナオミ「ええ、そうします。ところで、さっき葛城先生と何を話されてたんですか?」
大沢先生「これだよ」
そう言って大沢先生はチラシを見せた。
チラシには『小林沙織 チャリティー絵画展 於涼風ホーム ○月○日〜○月□日』と書いてあった。
大沢先生「小林さんは、若手女流画家としていま売り出し中でね、会場の下見で明日、東京から来るらしい。葛城君のお父さんの会社がスポンサーをやっている関係で、彼が宮浦を案内して回るそうだ。」
ナオミ「先生、このチラシ、一枚いただいていいですか!」

(小料理屋『きょうこ』)
ナオミ「お母さん、わかったよ、明日バンビが連れて来る人が!」
京子「本当?よくやったわね。で、誰なの?」
ナオミ「小林沙織さんと言って、売り出し中の画家ですって。ネットで調べれば、好きな料理くらいすぐわかるわよ。」
京子「早速調べてみよう。」


―そして、次の日―

トントントン・・・厨房で京子が料理の準備をしていると・・・
「今日は!」
店にホノカの元気な声が響いた。
ホノカ「おばさん、父の使いで豆腐を届けに来ました。」
京子「まあ、ホノカちゃん、わざわざありがとう。」
ホノカ「おばさんが勝負かけてるんだからって、父が一生懸命作ってましたよ。」

夕刻、冬樹が女性を伴って店に入って来た。

京子「いらっしゃいませ。本日はおいでいただきまして、ありがとうございます。」
女性「冬樹さんから、しゃれた小料理屋を見つけたから是非一緒に食べよう、と誘っていただきましたの。」
京子「まあ、そうですか。」
女性「私、小林沙織と申します。よろしくお願いいたします。」
京子「こちらこそ。どうぞごゆっくりなさって下さい。」

(厨房)
ナオミ「あの女の人、バンビよりずっと年上って感じだけど。」
京子「そりゃそうよ。もう学生じゃないんだから。」
ナオミ「バンビとはどういう関係かしら?」
京子「余計なこと考えなくいいから、さっさと料理を出しなさい。」

「おしながき」にしたがって料理が出されていく。

冬樹「この程度の店にしては、思ったより味がいいね。」
沙織「盛り付けが上品で、繊細だし、家庭的な味がする。さすがは女将さんの手作りね。」

そして、『茶碗蒸し』が出された。
ナオミ「こちらは、今日のために特別にご用意したものです。」
冬樹「特別?おい、からかってもらっちゃ困るよ」

一口食べた沙織がナオミに声をかけた。

沙織「お母さん、呼んでくださる?」
ナオミ「は・・・はい・・・」

(厨房)
京子「え、あたしに用?」
ナオミ「うん、何か粗相があったのかな・・・」
京子はうろたえるナオミを制して沙織の前に出た。


京子「お味はいかがでしょうか?」
沙織「これをどこで?」
京子「東京の浅草にある『○○』という家庭料理屋をご存知ですよね。私も東京にいた頃、その店によく通っていました。丁度料理人として修行中だったのですが、家庭的なその店の料理が大好きでした。そこで、自分の舌で確かめた素材や味付け方法をメモに残していたんです。」
冬樹「どういうこと?」
沙織「子供の頃、大好きだったの」
京子「沙織さんのブログを拝見しました。『茶碗蒸し』にはお母様の想い出が詰まっていると。」
沙織「ええ、子供の頃に家族で行った『○○』の『茶碗蒸し』が美味しくて、母に何度も食べさせてとねだったものです。見かねた母が店の料理長に特別に創り方を教わって、私に食べさせてくれるようになったのです。運動会、絵の発表会、入試・・・私にとっての大きなイベントがある度に母が『茶碗蒸し』を創ってくれました。こちらで展覧会をやる前にあなたのお店で『母の茶碗蒸し』を味わえるなんて・・・どうもありがとう」
京子「人は・・・時にどんな高級な料理よりも、思い出の料理の方がずっとおいしいって、 思うことがあるんです。」
沙織「そうね・・・いただきます。」

―そして食事が終わって・・・―

冬樹「沙織さん、とても喜んでましたよ。どうもありがとう・・・・それから、先日、クルマをぶつけて申し訳ありませんでした。」
京子「こちらこそ、お世話になりました。では、お金を返しますね。」
冬樹「いらないよ」
京子「お返しします!この間の約束と違うじゃない。」
冬樹「修理代がかかるでしょう?余ったら好きなもの買えばいいじゃないですか。」
京子「お金で作れないのは美味しい料理だけじゃありませんから! 何でもお金でなんとなかなるって思わないで下さい!」
沙織「冬樹さん、京子さんの言うとおりよ。素直に返していただきましょう。」
そう言って沙織は京子に微笑みかけた。
沙織「京子さん、また予約してよろしいですか?展覧会が終わったらこの店で打ち上げをしたいの。」
京子「喜んで。お待ちしています。」


―翌日―

(宮浦高校の廊下)

冬樹を見かけたナオミが声をかけた
ナオミ「葛城先生、おはようございます」
冬樹「おはよう」
ナオミ「先生って、沙織さんには頭上がらないんですね。あの人、先生の大切な人って言ってたけど、何なの?恋人?それともまだ片思い中かな?」
冬樹「うるさい!声の大きな女は嫌いだって言ったろう。」
ナオミ「ま、せいぜい頑張れや。生意気なバンビくん!」

ナオミはイタズラっぽく笑った。


(おしまい!)
...2006/05/21(Sun) 12:43 ID:biQ66I3U    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん にわかマニアさん たー坊さん

今回の短編は『おい○いプロ○ーズ』のパロディーです。朔五郎さんが用意して下さった素材(京子、ナオミ、大沢先生)に私のオリジナルテイスト(冬樹、沙織)を盛り付けてみました。
...2006/05/21(Sun) 12:50 ID:biQ66I3U    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん

楽しませていただきました(^^)
このバンビくんの幸運を祈っております・・・
...2006/05/21(Sun) 20:14 ID:ldvdBDoM <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
超マニアックネタ(その1)
先ほど、フジ「あいのり」を観ていたら、映画「世界の〜」のサントラが使われていました。
曲は「二台のピアノのレクイエムV」
サクがアキに婚姻届を見せ、二人がビニールカーテン越しにキスするシーンで流れた曲でした。

超マニアックネタ(その2)
TBSのIプロデューサーの動きが活発化しているようです。
「B夜行」公式HPの日記によれば、今日は次のドラマの予算見積もり、明日は「本打ち」だそうです。
今からだと、秋ドラマか、改編期のスペシャルでしょうねえ・・・
まさかウワサの流れている「Sーラー服と〜」ではないでしょうな(^^;;;
...2006/06/05(Mon) 23:45 ID:khNNV7tM <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 サントラの系列局以外の別番組への転用ですか・・・
 この場合,作曲者だけでなく,放送局間でも著作権の問題が発生するような気もするのですが・・・

 Iプロデューサーの「予算見積り」って,ひょっとして何度もソロバンをはじきながら「思ったとおりの数字が出てこない」とこぼし,先輩Pから「世間じゃ,そういうのを赤字って言うんだ」とやられているのでしょうか(^^;;;
 いずれにしても,次回は密かな人気者・ベーやんの露出度をもうちょっと高めて欲しいような(^^)
...2006/06/06(Tue) 12:45 ID:6rOoDupM    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
商業的な放送に曲を使えば、当然フィーは発生するのでしょうね・・・

それにしてもIプロデューサーは以前「白夜行の続編」と言ってました。
映画「手紙」とドラマ「タイヨウのうた」は、こじつければ「白夜行の続編」と言えないことはありません。が、いずれもI氏の作品ではありません。
まあ、小説「幻夜」のドラマ化だけはカンベンしてください(哀願・・・)
...2006/06/11(Sun) 02:08 ID:TLgiFv1g <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>「幻夜」のドラマ化だけはカンベン(哀願・・・)
 各作品のスタッフ・ノートを一読すれば,Iプロデューサーの「思い入れ」は伝わってきます。それが全て「いい方に回った」ことをご本人も監督も認めているのが「世界の中心・・・」なのですが,いつもその通りとはいかないのが「この世の常」でして・・・
 Iさんの次回作が「カラ回り」にならないことを切に祈っています。
...2006/06/11(Sun) 13:25 ID:/reXzWmc    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その15)


赤い花を手に、無邪気に笑うナナ。故郷・広島を遠く離れた宮浦で、その笑顔は懐かしく、そして新鮮だった。
広島にいるころは、ただ鬱陶しかった。もう近寄るな、と怒鳴ったこともある。大学入学と同時に広島を離れ、やっと振り切ったと喜びを感じた。そして「一つ年上の同期生」亜紀に惹かれていく自分がいた。ナナが広島から追いかけて来たことを知って感じた困惑と失望。
しかし今、目の前にいるナナは、自分が知っている彼女とは全く違って見えた。
「買ってきたの? その花」
「ううん、もらってきたんだ」
ナナは子鹿のような目を花に向けた。
「これね、開きすぎちゃって、もう売り物にはならないの。本当なら捨てちゃうんだけど、なんとなくかわいそうで………切花だから、どうせ短い命なんだけどね、それだからこそ最後まで精一杯咲かせてあげたくて。もう二日か三日しかもたないと思うけど」
「そうか………」
ショウジは栗原親子との会話を思い返した。
「優しいんだな、ナナは」
「いまごろ気付いたの?」
ナナはちょっと睨むような目をしてフフフと笑った。
「ま、しょうがないか。広島にいる頃は、全然相手にされてなかったもんね、私。あ、いいんだ、わかってるから。だって、あの頃の私は魅力なかったもん」
「ナ、ナナ」
「でもね」
ナナは勢いよく言った。
「変ったんだよ、私。ただショウジにベッタリで、自分自身の目標なんか何もなかった私だったけど、今は違うの」
夢見る目をしてナナは続けた。
「フラワーアレンジメントの勉強をして、技術を身に付けたら、自分のお店を持ちたいんだ」
「ナナ………」
「亜紀が教えてくれたんだよ。人生には夢や目標が必要だって。亜紀はすごいなあ、やっぱり」
自分に向けられたイタズラっぽい視線に、ショウジは眩しさを感じていた。
「ねえ、ショウジ。私、変ったように見える?」
「あ、ああ」
「少しはイイ女になった?」
「うん」
「ホント? うれしい」
目を輝かせ、ナナは喜びを表した。
「ショウジにそう言ってもらえて最高にうれしい」
そして、過去を振り返るように言った。
「広島にいる時に気付いてればね………でも、私まだ二十歳まえだもん、まだまだやり直せるよね。この先どんなことがあっても、目標目指して頑張るよ、私。だから………」
「だから?」
「だからショウジも頑張ってね。亜紀のことは絶対にあきらめちゃダメだよ。あんなステキな女の子は、もう二度と出てこないよ」
「お、おい」
「じゃ、ショウジ、健闘を祈る。応援してるよ」
「あ、ナナ」
軽く手を振り、ナナは去って行った。そしてショウジはその場を動けなかった。うまく言葉では表せないが、二度と取り返しがつかないような気がしていた。

健と亜紀は、渋谷にある大学病院にやってきた。松本朔太郎が教授として勤務する病院である。いつもは外来患者でいっぱいの正面玄関も、休診とあって人気がない。朔太郎に言われたとおり、受付で名前を告げ、朔太郎を訪ねて来たと言うと、すんなりと中に入れてくれた。
亜紀はこれが三回目なので、二階にある朔太郎の教授室まで、迷うことなく行くことができた。ドアをノックする。
「どうぞ」
聞き覚えのある声にドアを開けると、朔太郎が笑顔で出迎えた。
「こんにちは」
「おお、今日は二人か。良く来たね。さ、どうぞ」
二人が勧められたソファに座ると同時に、慌てた様子で若い医師が飛び込んできた。動揺している様子がありありと見て取れる。
「せ、先生」
「どうした、後藤」
ちょっと待っててくれ、朔太郎は二人に言うと、後藤医師のほうへ歩み寄った。
「せ、先生・・・だめです、もうだめです」
「落ち着け、後藤。ダメって、ドナーが見つからんのか?」
「はい」
「臍帯血は?」
後藤は首を振った。
「せっかく順調に寛解したのに………」
「なあ後藤」
朔太郎は、泣きそうな顔をしている後藤を労わるように言った。
「オレたち医師は、前向きに考えなきゃだめだぞ。わかるな」
「………はい」
「なら、どうすればいい?」
「強力な化学療法か、自家移植を考えます」
「そうだ」
「患者は十七歳の少女です。将来のことを考えれば、自家移植よりは化学療法の方が適しているかもしれません」
「うむ。幸い比較的予後の良いM2だからな。化学療法でも30〜40%の長期生存が期待できる。まだ悲観するのは早いぞ」
「はい」
「自家移植に進むにせよ、通常の地固めを2コースやった後のことだ。まだ時間はある。その間にインフォームドコンセントをしっかりやっておくこと」
「はい」
「本人と家族の意志を良く確認するんだ。それから、引き続きドナーを探すこと。同種移植が可能なら、それがベストだろうからな………地固め2コースのあと、MRD(微小残存病変)陰性なら、通常どおり、もう1コースやるのが良いかもしれん。その後はMRDを継続的にモニターして、陽性に変じた時、次の手を考える………」
「わかりました」
「いずれにせよ、同種移植が困難なら、深い寛解を維持しなければならん。MRDのモニターは忘れるなよ」
「はい。それでは、もう一度文献を検索してみます………失礼します」
「うん、頑張れよ、後藤」
後藤医師が出て行くと、朔太郎は二人の方を振り返った。
「すまなかったな、生々しいところを見せてしまって………」
「松本先生………」
「大丈夫だよ、そんな気遣いは無用だ。オレもプロだからな」
朔太郎はフッと息をついた。
「思い出は思い出、今は今、だよ」
「厳しいお仕事ですね」
「まあな。でも自分で選んだ道だから………そうだ、今日は何か聞きたいことがあるんだって?」
「はい」
亜紀は原爆症についての資料を取り出した。

(続く)
...2006/06/11(Sun) 22:28 ID:oI8I5ZJY <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
朔五郎さん

朔も偉くなりましたね(笑)
これならば、天国にいる廣瀬亜紀も大いに喜んでいることでしょう。
そして、来世で今度こそ一緒になるんだと意気込んでいたり・・・しませんよね?(笑)
ナナとショウジよりもそっちの方が気になってしましまいました。
...2006/06/13(Tue) 18:17 ID:Ld4vJI0U    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
たー坊さん

ご感想ありがとうございます。
実は、私はこの物語を、ずっと「廣瀬亜紀の目線」で書いてきました。
ですから、大林亜紀を描く時は「自分の本当の娘のように可愛くて可愛くて仕方がない。自分が経験することができなかった未来を思う存分生きて欲しい」という感じです。
また、親友であり大林亜紀の母親の智世に対しては「亜紀ちゃんの母親として、本当にそれでいいの?」という、ちょっと厳しい目で見ています。

ちなみに、マサミが木庭子町に行く時は「広瀬亜紀の目線」になります(^^)

さて、廣瀬亜紀は、松本朔太郎に対しては、やはり歯がゆさを感じていたでしょうね。2004年まで、医師としても、一人の男としてもハンパな状態だった朔太郎を見るのは辛かったんじゃないでしょうか。自分のせいで、あんなふうになってしまったのかな、とかね。それからさらに十数年が過ぎ、やっと「大人」になった朔太郎の姿にウルウルしている廣瀬亜紀を思い浮かべてくださいませ(笑)

なお、朔五郎は一応「原作」に従って、亜紀は「永遠の生命を持った精霊」として、皆のとなりで生きている、というコンセプトで描いております。朔太郎に対する愛情は「恋愛」とはちょっと違うものになっているかもしれません。
...2006/06/14(Wed) 22:38 ID:CvYP/y82 <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
しかし石丸Pも、お人が悪い(苦笑)

「白夜行」の日記を読めば、誰だって次回作は、森下さんとの共作だと思うじゃないですか。
それが、長澤まさみさんの「セーラー服と機関銃」のプロデュースとは………

朔五郎は一瞬
「え、森下さんが《セーラー服》の脚本書くの? どんな感じになるんだろ………」
と、真剣に考えてしまいましたよ(^^;;;

ま「痛快コメディ」になりそうなので安心しましたが、念のためもう一度、大声でさけんでおきたい

「とにかく、暗い話は、やめてくださ〜い」 (笑)
...2006/06/22(Thu) 20:32 ID:AUZ51T2M <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO

この『セカチュー2』ワールドでも、ミチルとベーやんに逃げられた岩丸Pがマサミにテレビ出演を頼む話が出てくるのでしょうか(^^)
...2006/06/22(Thu) 21:35 ID:XtomTHmU    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>「痛快コメディ」になりそうなので安心しましたが、「とにかく、暗い話は、やめてくださ〜い」

 確かに,暗いだけで「救い」のない物語は願い下げですが,ある程度の「陰影」がないと「感動につながる問題提起」も描くのが難しいという面もある訳で・・・
 もちろん,映画についてあれだけ深遠な読みを披露して下さっている朔五郎さんのことですから,「コメディー」というのは,あくまでも比喩的な表現でしょうが,単なる「コメディー」は,その場限りの末梢神経刺激的な笑いは提供してくれますが,後に残らないのですね。同じ喜劇でも,渋谷天外や藤山寛美と吉本の違いというか,笑いの中にも世相の風刺や生きていく上での問題提起がないと,その場限りの虚しさだけが残ってしまうという面もあります。
 まあ,テレビや映画を見るということは,単なる息抜きという効用もあるのでしょうが,ある意味では,時間を「失う」かわりに,何らかの考えるヒントを「得る」という側面もある訳ですから。
...2006/06/22(Thu) 22:15 ID:CZiUQBuk    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
いやいや、岩丸さんのことですから 「富豪検事・泉谷ミチル vs 女子高生組長・星マサミ」 なんていうドラマを創るかも(^^)

それにしても「ドジできまじめな(女子高生の)成長過程を描く」って「べーやん」じゃん(苦笑)


にわかマニアさん
もうほとんど死語になってしまいましたが、上質なコメディを表す言葉として「ユーモアとペーソス(哀愁)」というものがあります。
全体的にコミカルなタッチで描きながら、さりげなく、観る者に感動を残すというのは十分に可能なことで、それはチャップリン氏や三谷幸喜氏の作品を観れば明らかだと思います。
というわけで「セーラー服〜」には、そんな味を期待しております。
...2006/06/23(Fri) 01:53 ID:SogL8S42 <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>「ユーモアとペーソス(哀愁)」
 確かに,重いテーマを扱う場合でも,沈みっ放しで救いがないという「あれ」のようなものではなく,そういう中にもどこかユーモアのセンスが漂っている「チャップリン」のようなものを心がけて欲しいですね。一方で,喜劇の場合でも,ナンセンスなギャグで笑いをとるだけというのではなく,さりげなく感動を残したり,ほろっとさせたりするようなものを期待したいですね。
...2006/06/23(Fri) 17:30 ID:HJ0VKy1E    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
なんだかんだ言っても「あれ」のDVDを買ってしまいました(苦笑)
たった今届いたのですが、オリジナルエンディングは

「成田まで」 むむむっ、行く先は?

1.ウルル (これはないな………)
2.ノルウェー (白夜を見に行くのか?)
3.アトランタ (「風と共に去りぬ」の世界か?)
4.成田山新勝寺 (…………)
...2006/06/23(Fri) 22:21 ID:SogL8S42 <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
「セーラー服と機関銃」で堤真一さんが演じる「若頭」の役名は、25年前と同じなら

「佐久間真」

だったと思います。
「佐久間だからサク」などという安易なギャグが飛び出さないでしょうね (自虐)
...2006/06/23(Fri) 23:05 ID:SogL8S42 <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>「佐久間だからサク」などという安易なギャグが飛び出さないでしょうね

 苗字に着目するとそれもアリかもしれませんが,「若頭」という位置付けとファーストネームからすると,二言目には「挨拶は」とかお説教を垂れる小言幸兵衛的なキャラになるかもしれませんね。
...2006/06/23(Fri) 23:35 ID:tVxGGpwA    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その16)


机の上に広がった本やコピーに、ひと通り目を通した朔太郎は、おもむろに口を開いた。
「君たちは、佐々木禎子さんのことは知っているかな?」
その名前を聞いて、亜紀は少し動揺した。朔太郎の心情を思って、白血病の少女についての本は並べなかったのである。
「はい………」
亜紀はバッグの中からサダコの資料を取り出した。朔太郎はその中から、一枚のコピーに目を留めた。
「そうそう、これだ………赤、白、血………今なら《血》といえば血小板数のことだろうけど、これは血色素のことなんだな。それにしても、12歳の女の子が、自分自身の検査値をこれだけ克明に記録していたのは驚くべきことだな。しかも、そのことを誰にも知られていない。自分自身の運命と、たった一人で向き合い、目を逸らそうとしなかった………もう少し………」
朔太郎は一瞬言葉を詰まらせた。
「もう少し年上の子だって、自分の病気を知った時は、泣いたり悩んだりするものだよ。それをこの子は………これは不幸なことだな。せめて苦しみや怒りをぶつける対象があれば、たとえ一時的にでも救われただろうに」
「先生………」
振り返るように朔太郎は言った。
「ぼくは、この女の子の話を大学の先輩から聞いてね。その先輩は広島の隣の山口県の生まれなんだけど、小さい頃からヒロシマの話はよく聞いていたそうだ。ここの医局にいる頃から、放射線障害や白血病については右に出る人がいなかった」
朔太郎はお茶を一口すすった。
「まあ、優秀だけど厳しい人でね。ぼくも、臨床の場に出てからは、ずいぶん鍛えられた。まがりなりにも教授になれたのは、あの先輩のおかげさ」
「その先生は、今どちらに?」
「うん。やはりヒロシマのことが頭から離れなくて、安芸医科大学に血液内科教授として赴任したんだ」
「そうですか」
「実はね」
朔太郎は苦笑しながら続けた。
「この先輩の困ったところは、話し相手の価値観というものをグチャグチャにしてしまうことなんだよ」
「グチャ…グチャ?」
「そうなんだ。たとえば、今ではかなりの白血病患者が長期生存、つまり生還できるようになった。それはどうしてだと思う?」
「骨髄…移植ですか?」
「そう」
朔太郎は頷いた。
「骨髄移植、正確には造血幹細胞移植というべきだろうが………今ではドナーの骨髄液の中の造血幹細胞を移植する従来の方法に加えて、ドナーの末梢血から幹細胞を集める方法、臍帯血を使う方法、患者の骨髄を完全には破壊しないミニ移植、患者自身の末梢血から幹細胞を集めておいて、後で体内に戻す自家移植、といくつも種類があって、症例によって使い分けられている」
「はい」
「残念ながら、亜紀は間に合わなかったが………それでも、今の様子を見たらきっと喜ぶだろう」
「松本先生………」
「健三郎君は、どう思う?」
「は、はい………たくさんの患者さんが救われるようになったのは素晴らしいことだと思います」
「亜紀ちゃんは?」
「私も」
「そうか」
「先生、一番最初にこの治療法を思いついたのは、どんな人だったんでしょう。きっと、強い信念を持った、すばらしい人なんでしょうね」
「そう、思う?」
朔太郎はなぜか苦笑いを浮かべた。
「ええ。違うんですか?」
「もしかしたら、これは聞かない方が良いのかもしれないけど………」
「聞かない方が…良い?」
「うん」
朔太郎は、ちょっと姿勢を正した。
「実はね………もし広島と長崎に原爆が投下されていなかったら、この治療法は、ここまで進歩していなかったかもしれないんだ」
健と亜紀は、朔太郎の言葉の意味を理解できず、一瞬ポカンとした。
「あ、あの………」
「意味がわからんだろ?」
「ええ」
「ぼくも、あの先輩に言われた時は、何を言ってるんだ、と思ったよ」
朔太郎は小さく溜息をついた。
「ぼくも同じことを聞かれたんだ。そして君たちと同じように答えた。すると彼は言った 《お前、ホントにおめでたいヤツだな。平和ボケっていうのはお前みたいのを言うんだよ》ってね」
「どういうことなんでしょう」
「原爆投下の後、被爆した人々は急性放射線障害で次々と亡くなっていった。骨髄がやられて、造血機能がストップしてしまったんだ………ひどい話だ」
表情を曇らせて朔太朗は続けた。
「ところが世の中には精神的にタフな人がいるもので、それを見てあることを考えついた。動物の骨髄液を採取しておいて、強い放射線を浴びせた後、再び体内に戻すと、生存できることを発見したんだ。それが骨髄移植のルーツなんだよ。それから、いくつかの段階を通って、今のように血液疾患の治療法として確立したんだ。言ってみりゃ、何十万人もの人体実験の上に成り立っているような技術だな」
あまりの衝撃に言葉を失っている健と亜紀を慰めるように、朔太朗は言った。
「まあ、そんなことはなにも骨髄移植に限ったことじゃない。世の中には似たようなことがいっぱいある………どうした、元気が無くなったな、二人とも」
朔太郎が気遣いを見せる。そして話を続けた。
「まあ、例の先輩と話してると、万事こんな感じでね。人間が善なんだか悪なんだか、全然わからなくなっちゃうんだよ。まるですべての人間が、生きるために罪を犯しているようで、すべての人間が罰を受けなきゃならないような、そんな気分にすらなるよ」
健と亜紀は顔を見合わせた。
「わ、私、罪と罰なんて、犯罪者だけのものだと思ってました」
「そうだな、人はそういうことを他人事っていうより、まるで神様仏様みたいに 《憐れなヤツだ、でもオレは違う》って、見下ろしたりするんだな………でも、それって実は、単に上っ面しか見ていないのかもしれない………おっと、ぼくもだいぶ先輩の影響を受けてしまっているようだ」
朔太朗は頭を掻いた。
「むずかしい人だけど、それでもぼくは尊敬している。悔しいけど、彼の言うことが真実だからだよ」
「そうですか」
「いったん頭の中がグチャグチャになって、でもそれが整理された時、初めて正しいとわかるんだよ」
「あの、松本先生………」
「ん?」
「その先生、私のような学生とでもお話しして下さるでしょうか」
「うん………きっと大丈夫だよ。君に、その勇気があればね」
朔太郎はイタズラっぽく亜紀の顔をのぞきこんだ。
「自信ある?」
「はい………」
「じゃ、ぼくも先輩に相談したいことがあるから電話してみるよ。ちょっと待ってて」
朔太郎はデスクの上の受話器を取った。
「もしもし………あ、筑紫先生ですか、松本です、ご無沙汰してます。実はちょっと………先生、そんな突き放さないでくださいよ、頼りにしてるんですから………ハハハ………ええ、ドナーが見つからなくて………ええ、化学療法で………わかりました、あとで患者のデータをメールで送りますから………すみません、お忙しいところ………また、そんなご謙遜を………」
朔太郎はまるで意思を確認するかのように亜紀の方を見た。
「あ、先生、実は今、薬学部の学生が来てまして、ヒロシマのことをいろいろ勉強しているみたいなんですよ………ええ、本人、将来は平和を訴える絵本を創りたいという希望もあるようで………それで先生に質問したいことがあるようなのですが、メールか手紙を送らせれば、目を通していただけますか? は、はい………確かに………わかりました、本人に聞いてからお返事します。その時はよろしくお願いします………はい………はい………では、お手数ですが………はい、失礼します」
朔太郎は受話器を置いて、健と亜紀の方を振り返った。
「話を聞いてくれるそうだ。ただ………」
「ただ?」
「電話やメールでは、正しい意味が伝わらないかもしれない。もし、その気があるなら、広島に来てみないか、と言ってたよ。そうすれば、いろいろ見せてやれるからとも」
健と亜紀は、また顔を見合わせた。
「どうする、亜紀ちゃん」

(続く)
...2006/06/26(Mon) 01:27 ID:aQQ2WLwo <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>「話を聞いてくれるそうだ。ただ………」
>「ただ?」

 この流れから,一瞬,「タダじゃ嫌だから,ある人の骨を盗ってきてくれ」とくるのかと構えてしまいましたが,こうやって広島に呼び寄せたのですね。
 本家・大江健三郎氏とは別の大木健三郎版「ヒロシマ・ノート」いよいよスタートですね。


 さて,物語の中にも登場する佐々木禎子さんが入院されていたのは日赤でしたが,その日赤に「お年玉付年賀状」の収益金で原爆病院が設立されたのは,禎子さんが亡くなられた翌年の 1956年のことでした。1956年と言えば,日本が国連に加盟し,国際社会に復帰した年であり,宗谷が第1回目の南極観測に出かけた年でもありましたが,戦後復興が進む中にも,まだまだ戦災の爪痕があちこちに残されていました。
 原爆投下の翌年,1946年の11月にトルーマンの指示で原爆傷害調査委員会(ABCC)が設置されましたが,米ソ冷戦構造を背景として,その翌年の1947年3月に,いわゆる「トルーマン・ドクトリン」と呼ばれる一般教書演説が行なわれたことを見ても,その真の目的がどこにあったのかは明らかでした。

 ともあれ,被爆医療に一定の役割を果たしたこのABCCは,米国原子力委員会(後のエネルギー省)の所管の下に置かれていましたが,日本側も出資して日米合同の組織になったのは1975年のことでした。この年,広島日赤病院と原爆病院の院長を長く兼務され,大江健三郎さんの「ヒロシマノート」にも登場する重藤ドクターが退任されています。
 余談ですが,私のクラスメートにも,親がABCCに勤めているという人が結構いました。確か,高校の1級先輩で元NHKアナのYさんもそうだったと記憶しております。

 それにしても,自ら望んでそのような境遇になった訳でもなく,理不尽な苦しみに耐えてきた患者を前に「病は気から」という無神経な言葉をかけたような人物が「大勲位」を受けるとは,世も末と言うべきなんでしょうね。
...2006/06/28(Wed) 05:58 ID:n54Bc042    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 先日,フジの某番組に「鎌倉殿」と一緒に綾瀬君が出ていましたね。
 ジーコ(ニックネーム)を「芸名ですか」との一言には腹を抱えて笑ってしまいました。ひょっとすると,400勝投手の金田(国鉄)に「どちらの駅にお勤めですか」と聞いた某作曲家や,古葉監督と外木場投手の区別がつかなくて「コバが外野に行くとソトコバか」と聞いた某タレントに匹敵する爆笑ネタとして語り継がれるかもしれませんね。
...2006/06/30(Fri) 12:43 ID:kl5um4Bk    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
にわかマニアさん
おっしゃるとおりで、この物語の進行上でも、ABCCは避けて通れません。いま、いろいろ資料を読んで勉強しております。
...2006/07/01(Sat) 08:20 ID:9dyuxjxQ <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
ご無沙汰しております。
今日は廣瀬亜紀のバースデーイブですね。

朔五郎さん
「広島編」が佳境に入ってきましたね。書く前の調べごとがあって大変でしょうが、続きを楽しみにしております。

※やっと研修の課題提出が終わりましたので、そろそろ私も執筆再開といきたいところです。書きかけの『赤』シリーズは結末が出来ているので、間を埋める作業を始める予定です。そのあとは『タイヨウ』とか『セーラー』のエッセンスを入れた話もやってみたいですね(^^)

※明日の大河で『ササガキ』氏が壮絶な「殉職」をとげるようです。死に際にあの有名なセリフを言うという噂もあります。しかし、よりによって『ユキホ』と瓜二つの少女の誕生日に・・・何かの偶然でしょうか(笑)
...2006/07/01(Sat) 10:52 ID:iyDDNOtw    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん
お待ちしておりましたよ(^^)
「タイヨウ」いいですねー。楽しみにしています。
それにしても「長澤系」は

 アミ(ラフ)
 カオル(涙そうそう)
 イズミ(セーラー)

と「よりどりみどり」で、イメージにはこまりませんね(^^;;;
ただ「カオル」は「タイヨウ」とカブるので「取り扱い注意」ですが(笑)
ちなみに「広島」では、二人に出演してもらう予定です(^^)

>ササガキ氏

「イジメたことが罪だった 殉ずることが罰だった」

というわけでもないのでしょうが(苦笑)
まあ「里見八犬伝」でも、浜路をイジメてますからねえ(苦笑)

先ほどニュースを見ていたら「大学生生き埋め殺人」という痛ましい事件が報道されていました。被害者の方のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

でも、大阪の布施警察署って、どこかで聞いたような………
...2006/07/01(Sat) 12:20 ID:KMshUONE <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:たー坊
お疲れ様です。
広島編もいよいよ本題突入でしょうか?
精神的ショックもあると思いますので、ボディーガードにはカウンセラーの役割もお願いした方がいいのかもしれませんね。
...2006/07/03(Mon) 02:19 ID:t1r7zoFQ    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 雪穂じゃなかった,浜路でもなかった,よく似た人の誕生祝のメッセージは他のスレで書いてしまったので,こちらでは,「イジメたことが罪だった。殉ずることが罰だった」ササガキ氏に謹んで哀悼の意を表します。思い起こせば23年前には太閤殿下だったのが,その役を雪穂の級友の父に譲り,自らはやがて尊敬する竜馬をイジメる土佐藩主の初代の家来になるとは,何という巡り合わせ・・・(合掌)
...2006/07/03(Mon) 22:23 ID:wr4fxN6k    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
にわかマニアさん
武田さんは、まさにその「巡り合わせ」を気にして、一度はこの仕事を断ったそうです。
が、うまく説得されて、結局引き受けてしまったようですよ(苦笑)

たー坊さん
亜紀は、一度は落ち込みますが、ちゃんと立ち直って宮浦に帰ってきます。カウンセラー役は現地で待っております(^^)
もうひとり優秀な「編集者兼後見人」がついておりますし………
...2006/07/04(Tue) 02:26 ID:gsR32xGo <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
みなさん、こんばんは。
間もなくUPできる見込みです。
...2006/07/18(Tue) 00:22 ID:bnTxlF/Q <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
もうひとつのセカチュー第二世代物語スペシャルU

『タイヨウをくれた少女』(その1)

ホノカ『2017年夏、宮浦高校女子バスケット部は大会予選を控え、急ピッチで調整を続けていた。今日は予選前の最後の練習試合の日。メンバー入りが約束されている3年生のレギュラー部員と違い、私たち1・2年生部員にとっては実力をアピールする最後のチャンスなのだ。その意味でとても大事な一戦だ。』

ホノカは颯爽とした動きを見せていた。正確なパス、ドリブル、シュート・・・3ポイントも決めた。

「藤木コーチ、池内さんはメンバー入り決定でよろしいですね?」
「うん、奴なら、ベンチスタートではなく、スタメンでいけるかも知れない」
語り合うのはヘッドコーチの藤木尚人とアシスタントコーチの松下麻美である。

ホノカは相手のディフェンスを巧みなドリブルで切り抜け、そのままシュートを決めようとジャンプした・・・・

「あっ」

その場に居合わせた者たちにとっては時間が止まったように思われた。
コロコロコロ・・・コートをボールが転がっていく。そして、コート上には苦痛に顔をゆがめるホノカの姿があった。シュートしようとした瞬間、相手のディフェンスとぶつかってしまったのである。

「池内!」
藤木コーチの叫び声がむなしく響いた。

*****************

病院からホノカが出てきた。左手にはギブスが施してある。痛々しい姿だった。付き添いのひろ子(ホノカの母)も麻美もホノカの心中を思い、沈痛な表情を浮かべていた。

ホノカ「お母さん、コーチ・・・・神様って時々残酷なことするんだね・・・・どうしてわたしなの・・・・どうしてわたしを選んだの・・・・」
泣きじゃくるホノカをひろ子はそっと抱きしめた。

ホノカ『燦々と輝く太陽・・・・でも、わたしの上の太陽は霞んでいるようだ・・・・』

***************

大会期間中も、宮浦高校の体育館では麻美の指導のもと、1・2年生部員が来年に向けて練習に励んでいる。その中にホノカの姿もあった。しかし、左手が使えないため、ダッシュ、ランニング中心の別メニューだった。

「麻美先輩、お久しぶりです」
麻美「あら、大木君、久しぶり。でも、こんなところにいていいの?」
ケン「今日はアキが模試なんです。付き添おうと思ったんですが、一人で大丈夫だから、たまには羽を伸ばして来いと言われまして・・・」
麻美「それじゃ、練習を手伝ってもらおうかな。」
ケン「あれ、何で池内がいるんですか、あいつの実力なら大会メンバーに選ばれてもおかしくないのに・・・」
麻美「練習試合で怪我してね・・・」
ケン「そうだったんですか・・・」
麻美「今のあの子は本当に辛いと思う。怪我さえしなければ、今頃は大会の試合会場にいるはずなのに、来年に向けた練習を黙々とやらなければならないから・・・モチベーションをどうやって保つか大変だよ。」

ホノカ「大木先輩!お久しぶりです」
ケン「元気そうじゃないか。色々大変だったみたいだけど、来年に向けて頑張れよ」
ホノカ「はい!」

健気に笑顔を見せるホノカだったが、その心中を知る麻美は痛々しく思っていた。

*****************

ホノカ『夏休みに入る頃、ギブスが取れた。バスケ部の練習も休みになり、週2回、病院へリハビリに通うことになった。日常生活の中でも指を動かす練習をした方がいい、という主治医の先生の薦めもあり、ギターの練習を始めた私。何年ぶりだろう、ギターを弾くのは。』

ボローン、ボロローン♪

ナオミ「あー、もう下手くそ!近所迷惑」
ホノカ「いきなり他人の部屋へ入って来るなよ。ちゃんとノックしましょうね」
ナオミ「そんなことよりさ、合コンやろうよ。」
ホノカ「・・・折角だけど、まだそういう気分になれないの。ゴメン・・・」
ナオミ「・・・そう・・・・」

ホノカ『きっとナオミは気分転換のつもりで誘ってくれたのだろう。その気持ちは嬉しかった。でも、今は一人になりたい。ちょっと夜風にあたってこよう』

ホノカは街へ出た。気分を変えて外でギターの練習をしようと思ったのだが、この時間帯になると、ストリートミュージシャンがすでに演奏を披露している最中だった。ホノカは練習場所をさがして駅前のロータリーにやって来たが、ここにもいた。キャンドルをたいてギターの弾き語りをするセミロングの女の子。年恰好はホノカと同じくらいか。

ホノカ『みんな演奏うまいな。これじゃ恥ずかしくて練習なんか出来ないよ。やっぱり帰ろう。』

突然演奏が止まった。そして・・・

ドスン!
弾き語りをしていた女の子がホノカを追って来てぶつかったのである。

ホノカ「何するのよ!危ないじゃない!」
女の子「あの・・・あたし・・・」

ホノカ『それが、この不思議な少女との出会いだった』

(続く)


久しぶりに投稿させていただきました。2〜3回の短編シリーズです。
...2006/07/18(Tue) 23:56 ID:g.IZkU6o    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
お久しぶりです、SATOさん。

この不思議な少女、誰なんでしょうね(^^)
ぶつかったのは、踏み切りの中でしょうか(笑)
まずは、次回を楽しみに待ちます。

それにしても 「まがいもののタイヨウ」にはなりませんよね? (^^;;;
...2006/07/19(Wed) 20:44 ID:ScFjZyHs <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その17)


ゴールデンウイークの連休まで、あと二日。健と亜紀は、学生食堂の喫茶コーナーで、広島のガイドブックを広げながら、旅行について話していた。
「で、泊まるところは?」
「うん、筑紫先生の知り合いの方がプチホテルをやっているんだって。そこに安く泊まれるみたい」
「ふーん」
「当日は、その人が広島駅まで迎えに来てくれるって」
「なんか、すごく恵まれているような」
「ほんと。なんか申し訳ないみたい………」

連休中に広島に行きたいと打ち明けられたとき、達明と智世はちょっと驚いたようだった。だがその目的を聞くと、特に反対はしなかった。
「ただね………」
智世が言った。
「一人、っていうのがちょっと心配なのよ。友達で誰か一緒に行ってくれる子はいないの?」
「うん………同じクラスの子たちは、みんな実家に帰るみたいだし、ユイの家は連休中にセールをやるんで忙しいんだって。レイコは、彼が長野から帰ってくるから、一緒に過ごしたいみたいなの」
「ナナちゃんは? 広島に帰省しないの?」
「ムリムリ。フラワーショップは、これから母の日までが一年で一番忙しいんだから」
「そうだね、そういえば」
「だから」
達明がちょっとイライラした様子を見せた。
「アイツがいるだろう、アイツが」
「アイツって、健?」
「他に誰がいる」
智世が慌てて言った。
「あなた、いくらなんでも」
「いいだろう? 別に駆け落ちするわけじゃあるまいし」
「やめてよ………そんな悪い冗談は」
達明は一瞬目を伏せると、智世に謝った。
「ああ、すまん。悪かったよ。だけどな、何かあった時、やっぱり男がそばにいてくれた方が心強いだろう」
「それはそうだけど………」
「亜紀も、健三郎君も、もう子供じゃないさ。自分たちが取るべき行動は、わかっているだろう。どうせ俺たちは、いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだ。いずれは二人だけで歩いて行くんだから」
「そう………そうなんだよね。それは、わかってはいるんだけど」
達明は、改めて亜紀に言った。
「亜紀、せっかくのチャンスだから、松本先生や、あちらの先生のご厚意を無にしないよう、しっかりと勉強してきなさい。ただ、一人で行くのはやっぱり心配だ。もし出来れば、健三郎君に、一緒に行ってもらいなさい」
父の言葉に、亜紀は頷いた。
「わかった。健に頼んでみる………ありがとう、お父さん」

「三島で新幹線に乗り換えると………広島に着くの、結構遅くなっちゃうね」
「そうだね」
健は頷いた。
「そしたらさ、寝台列車で行こうか。沼津か静岡で乗り換えて」
「そうだね」
亜紀は、時刻表の東海道線のページを開いた。
「東海道線の寝台特急は………あ、二本あるよ 《青い夜行》と《白い夜行》だって。どっちがいいかな」
その言葉に健は、当たり前のことを聞くな、と言わんばかりの顔をした。
「あのな、夜行といえばブルートレイン、これ、常識でしょう」
「ふーん」
亜紀は山陽本線のページを空けた。
「これだと、朝六時過ぎに着くね」
「ちょっと散歩でもして、九時頃に迎えに来てもらえば?」
「そうだね」

健と亜紀が旅行の打ち合わせを終えるのを待っていたように、ショウジが近寄ってきた。
「あれ、大木先輩、どこか行くんですか? え、広島?」
「あ、ああ」
「マジで広島に?」
「うちのお姫様がね………」
苦笑いしながらチラリと亜紀の方を見る。
「ね、ねえ………なにも近藤君にそんなこと言わなくても」
「あ、そっか………」
急にバツが悪そうになった健と亜紀に、ショウジはニコリと笑いかけた。
「イイっすよ、気にしないで下さい」
そして伏目がちになっている二人を慰めるように、ショウジが続ける。
「先輩、亜紀………オレ、亜紀からはリタイアします」
健と亜紀は弾かれたように顔を上げた。ショウジの心が掴みかねている。
「近藤………」
なおも訝しげな顔をしている健に、ショウジはきっぱりとした口調で言った。
「誤解しないでください。オレは先輩に負けて、亜紀を諦めたんじゃない。自分にとって本当に大切なのは誰かが分かったから、そう決めたんです」
「そ、そうなのか」
「はい………先輩、この本読んだことあります?」
それは 「恋するソクラテス」という小説だった。
「ああ、それなら高校時代に読んだよ」
「この中に、主人公の少年が無人島に行くシーンがあるじゃないですか」
「彼女が死んだあと?」
「ええ。そして波打ち際で、宝石のように光るガラス片を拾います」
「うん」
「でも、あとでそれを見たら、輝きは失われていた。だから少年は、それを海に投げました」
「そうだったな」
「頭ではわかっていたんです。輝いていたのは、ガラスという 《かたちあるもの》じゃなくて、それに宿っていたものなんだって。でも、なんか実感はなくて………」
初夏の風がショウジの髪を揺らした。
「でもオレ、やっと感じました」
ショウジは健のことを、真っ直ぐに見た。
「先輩。栗原先輩には気を付けてください」
「栗原先輩って、あの文学部の? どうしてオレが………」
「実はオレ………」
ショウジは、栗原親子に呼び出された時のことを話し始めた。その表情は次第に曇り、口調も重くなっていった。健と亜紀は 「信じられない」という顔をして聞いている。
「目的のためなら、金はいくらでも出すと言うんです。それで………」
「亜紀をモノにしてしまえと?」
「はい………」
「それで、近藤………」
ショウジは思わず苦笑いした。そして、きっぱりと言った。
「受け取るわけないでしょ、そんな金」
「そりゃ、そうだよな」
三人はほっとしたように笑い合った。
「先輩、亜紀、負けないでください」
ショウジの言葉に、フッと笑った健が、静かに、力強く言った。
「バカ、オレたちが負けるわけないだろ」
「はい………じゃ、広島では楽しんできてください」
「サンキュ。あれ、近藤は………連休中はこっちにいるの?」
ショウジは笑いながら、ちょっとはにかむように言った。
「ナナに………言えたら」
亜紀には自分から去って行くショウジがまぶしく見えた。ナナのために心から喜びながら、ほんの少しだけ淋しさを覚えていた。
「頑張ってね、ショウジ。きっと待ってるよ、ナナは」
「まだ…まだ間に合うかな」
「間に合うよ、きっと」
「うん。オレ、とにかく話してみるよ。話すことはいくらでもあるんだ。それが伝わるように必死でやってみるよ」
「そうだね」
健と亜紀は、歩いて行くショウジを見送っていた。次第に小さくなっていくその背中には、太陽の光がいっぱいに降り注いでいた。

(続く)
...2006/07/21(Fri) 23:56 ID:dGWVb7nI <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
朔五郎さん
旅立ち前のワクワクする雰囲気が伝わってきました。広島へ着いてからは亜紀と一緒に『勉強』しようと思いますが、旅の途中のハプニングやサプライズな出会いも楽しみにしています。
ショウジにはくれぐれもナナを守ってもらいたいですね。「バンビ」に似た男にそそのかされて犯罪に加担することがないように・・・(苦笑)
私の投稿ストーりーについては、多分予想が当たってると思いますよ。『世界の中心〜』からはかけ離れた話になってしまいますが、『純愛三部作』の一つをモデルにしてますので、ご理解いただけると幸いです。
...2006/07/22(Sat) 16:26 ID:.gK5tMNE    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
SATOさん

おお、鋭いツッコミですね (謎)
「バンビ」は出てきませんのでご安心を。
それから、やっと 「お約束のシーン」を創れそうです。
「べーやん」や「ミチル」たち、懐かしい(?)人たちも登場する予定です (^^)
...2006/07/23(Sun) 04:22 ID:U41Q0qzc <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
 今,原水禁大会で広島に来ています。
 ケンとアキもいよいよ広島行き決行ですね。
 何となく「ベーやん」にも会えそうな気がして,どこかから「助けてください」という叫び声や「大丈夫か。オレ・・・」という呟きが聞こえてこないか,聞き耳を立てています。
...2006/08/04(Fri) 22:45 ID:f1/sXFL2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
「セーラー服と機関銃」のHPで、AP池辺さんの日記が始まっています(^^)
...2006/08/05(Sat) 03:30 ID:i75Gqpho <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:にわかマニア
>「セーラー服と機関銃」の日記

 この前の「大丈夫か。オレ・・・」とは打って変わって「負けてたまるか」がキーワードのようですね。これが「雨」や「鼻血」にとなると,誰かのイメージとかぶってしまうような・・・

 ところで,ケンとアキが時刻表で見かけた「白い夜行」って,ひょっとして,下関から関釜連絡船を介してシベリア鉄道に乗り入れ,ノルウェイまで行く便のことでしょうか。 
...2006/08/05(Sat) 13:23 ID:RSr7ig5M    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
広島編(その18)


コン、コン………
健の一人用個室のドアがノックされた。
「はい」
「あ、私」
それは亜紀の声だった。
「どうしたの? 眠れないの?」
「うん………」
健はドアを開けた。そこには照れ笑いを浮かべた亜紀が立っている。
「おはよう、健」
「おはよう、って………」
窓の外はまだ暗い。ぽつん、ぽつんと家の明かりが見え、時々通過する踏み切りの赤い警告灯がやけに目立っていた。
「ロビーカーに行こう」
「うん」
健は通路に出ると、個室のドアを閉めた。
「健が言ったとおりだね」
他の客の迷惑にならないように、亜紀が小声で言った。寝台券を買う時、健は個室にこだわったのである。
「別に、普通の寝台でいいんじゃない?」
亜紀が不思議そうに言うと、健は夜行列車についての薀蓄を語り始めた。
「あのな、夜行列車の中って結構危ないんだよ」
「列車が揺れて、ベッドから落ちるっていうこと?」
「そうじゃなくて………」
健が説明を始める。夜行列車の中では寝ている間に、金品を盗まれたりすることが珍しくない。それでカギのかかる個室がいいのだと。
「普通の寝台だと、そこを離れる時、いちいち貴重品を持って歩かなきゃならないだろ」
「そっか………いろいろ詳しいね。やっぱり来てもらって良かった」
健はくすぐったそうな顔をして笑った。
「ま、まあ、そのくらいしか役に立たないからな、オレ」
「そんなことないよ。いつも頼りしてるんだから」
たっぷりと砂糖を入れたカフェオレのような表情をして、亜紀は健の顔を見ていた。

ロビーカーには誰もいなかった。二人は広い窓の方を向いたソファに腰を下ろした。
夜明け前の空には、満月がやさしく光っていた。
「月って不思議だね………」
「ん?」
「宮浦にいても、東京にいても、こうして広島に向かっていても、いつも私たちを見ている」
「うん」
「だんだん細くなって、あれ、いなくなっちゃったのかな、と思っても、いつの間にかまた戻ってきている」
「そうだね」
やがて、空が少しずつ明るくなってきた。
「満月はさ………」
健が月を見上げながら言った。
「朝が来ると見えなくなっちゃうだろ?」
「………うん」
「でも、見えなくても、ちゃんとそこに存在しているんだよね」
「うん」
「オレたちが闇の中にいる時、現れて照らしてくれる」
「うん………」

健と亜紀を乗せた列車は、夜が明けたばかりの広島駅に停まった。大きなバッグを持った二人がホームに降りてくる。
「うーん、着いたね」
「うん」
「とりあえず、座ろうか」
二人はベンチに腰を下ろした。早朝の駅に行き交う人の数はまだ少なく、まだ静かだった。
「さて、どうする? まだ迎えに来てもらうのは早いよね」
「うん。九時か十時頃だね」
ガイドブックをのぞき込みながら相談する。三人連れの女子高生が、興味津々というように二人を見ながら通り過ぎて行った。
「それまで、平和記念公園あたりを散歩する?」
「そうだね」
「じゃ、南口から広電だね」
「うん」

JR広島駅の南口の前には、広島電鉄のターミナルがあった。まだ始発前で、ひっそりと静まり返っている。
「亜紀、オレ、飲み物買って来るから」
「うん」
亜紀は、その場に一人残った。
「遅いなあ………」
販売機が見つからないのだろうか、健はなかなか帰って来なかった。初めての場所で一人になって、亜紀はちょっと不安になっていた。
と、その時、亜紀は停まっていた路面電車に、健が乗り込んで行くのを見た。
「あれ、もう始発が入ってきたのかな。それにしても黙って乗っちゃうなんて、ひどいじゃない………」
亜紀はかなり膨れながら、健を追って電車に乗った。そして、その直後、その電車は走り出した。

やっとの思いでポカリスエットを買い、元の場所に戻ってきた健は呆然とした。
そこには亜紀の姿は無かった。
「………亜紀」
広島に着いて、いきなり降りかかったトラブルに、頭の中が真っ白になっていた。

(続く)
...2006/08/06(Sun) 23:59 ID:fW13KZ8M <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:朔五郎
昨日、八月六日は、広島・原爆の日でした。
被爆により亡くなられた方々のご冥福を、心よりお祈り致します。

八月六日のうちに、健と亜紀が広島に着くところをUPしたかったのですが、滑り込みで間に合いました(汗)

にわかマニアさん
池辺さんは、頑張ってほとんど毎日、日記をUPしているようですね。
「白い夜行」がそんな国際列車であるというのも、夢があって良いかもしれませんね(^^)
...2006/08/07(Mon) 00:14 ID:IJhv9xqc <URL>   

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
昨年9月に広島へ旅行したので、駅前の風景が鮮やかに蘇ってきます。地元の人にとっては何でもない『広電』もヨソモノにとっては乗り場がいくつもあって不安になるものですよね。行き先を確かめずに電車に飛び乗るとトンでもない場所へ連れて行かれてしまいます(苦笑)
二人にとって前途多難の旅になりそうですが、無事に目的地にたどりつけるのでしょうか?続きが楽しみです。
...2006/08/07(Mon) 22:30 ID:MAgm/R6E    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
私事ですが、プリンタを買いました。
カ○リオにしようかピ○ザスにしようかさんざん迷いました。結局、デジタルカメラのメーカーと同じものにしたかったのと、(こちらも『重要』な要素なのですが)以前このスレの中で「ガラシャ夫人」と「小りん」によく似た母娘がどちらにするか言い争った末に「カ」になった話を思い出したので、今回は母の顔を立てて「ピ」を買うことにしました(^^)
...2006/08/19(Sat) 02:16 ID:csB2t0V6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:山内一豊
>132
 そうか。そうか。
 SATO殿は「小りん」よりも「ガラシャ夫人」を選ばれたか。「カ」の方は,機能を説明された時に何「へえ」が記録されるかという楽しみ方もあったが,皿が割れる心配もしなければならんしな・・・
...2006/08/19(Sat) 06:21 ID:JK4wW0.2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:名無しさん@お腹出すぎ
アゲ
...2006/09/18(Mon) 09:21 ID:fl2kmZP6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:宮浦高校 谷田部敏美
 朔五郎さん、お元気ですか?
 ケンとアキの物語を誰もが楽しみにしていた最中に突然自分のブログに引越してからもう半年が経ちました
 まだ帰って来れませんか?
 いつまでも首を長くしてお待ちしています
...2006/11/29(Wed) 22:19 ID:IiRxmA9U    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
谷田部先生、朔五郎さんの投稿仲間のSATOです。私としてはネタ切れ状態でして、投稿が停まってしまいましたことをお詫び申し上げます。もうすぐクリスマスなので、以前投稿した作品の中からクリスマスをテーマにした作品を再投稿させていただきます。


廣瀬家のクリスマス1

イブの一週間前

(居間)

綾子「今年も終わりですね。いろいろあってあっという間だったわ」
真「そうだね、私が入院したのが一番の出来事だったかな。あと、律子さんとマサミさんが遊びに来てくれるようになって、楽しくなったね。」
綾子「ケガの巧妙ね。あなたが入院してなかったら律子さんたちと知り合えなかったかも」
真「うん、何が幸いするのかわからないものだね。」
綾子「来週のイブはまた、智世ちゃんたちが来るのよね。」
真「もう、我が家の恒例行事だからね。アキちゃんはもう3年生だっけ?早いもんだな・・・」

***回想場面***

1998年10月○日

この日、大林達明・智世夫婦が廣瀬家を訪ねてきた。智世は大きなお腹をしていた。

(亜紀の部屋)

亜紀の部屋に通された二人は順番に焼香を始めた。
そして、焼香を終えた二人は正座して真と綾子と向き合った。

達明「廣瀬さん、今日はお願いがあって参りました。おかげさまで、今月23日の予定で私たちに子供が生まれることになりました。実は、超音波の検査で、女の子だと分かったのです。そこで、大変あつかましいお願いだと思うのですが、亜紀さんのお名前を私たちの娘の名前にいただけないかと・・・智世、君からもお願いしなさい。」
智世「おじさん、おばさん、わたし、一時も亜紀のこと忘れたことはありません。亜紀は今でもわたしの中で生きています。お腹の中の子は、きっと亜紀と一緒に生まれてくると思うんです。わたしたち、生まれてくる娘を亜紀のように、明るくて素直で、聡明な娘に育ててみせます。ですから、亜紀の名前を娘の名前にいただけないでしょうか?」

二人は手をついてお願いをした。

真「達明さん、智世さん、顔をあげて下さい。亜紀を思い続けてくれて本当にありがとう。生まれてくる女の子を私たちの亜紀以上に立派な娘に育てて下さい。それを約束していただけるなら、喜んで、娘の名前を差し上げます。」
達明「ありがとうございます」
智世「ありがとうございます・・・(涙)」
綾子「(心の中で:亜紀ちゃん、よかったね。智世ちゃんがあなたの名前を娘さんにつけてくれるんだって・・・)智世ちゃん、ありがとね」


10月23日早朝

(病院の廊下)

ソワソワする達明
真と綾子も来ていた。

真「(達明に)君、少しは落ち着いたらどうなんだ。ここまで来たらもう我々はどうすることも出来ないんだよ。(と言いつつ何かを書いた紙を握る手が震えている)」
達明「は・・・はい・・・(しきりに汗をふく)」
綾子「(真に)あなたこそソワソワしてるじゃないの。汗でベトベトになるからそれ貸して(真から紙を取り上げる)」

それから何時間たったのだろうか・・・

オギャーオギャー!

看護士「おめでとうございます。元気な赤ちゃんが生まれましたよ」
達明「(真の手を握る)・・・やりました・・・(半泣き顔)」
真「その前にすることがあるだろ、早く行ってやりなさい」

ガラス越しに智世・赤ちゃんと対面する達明

達明「智世・・・よくやったな・・・」
智世「(達明に笑顔を返す)」

後ろからやってきた真が、紙をひろげた。
そこには・・・・

「命名 亜紀」

****************

綾子「本当に、早いわね。アキちゃんは、私たちの孫みたいなものよね」
真「そういえば、雰囲気が亜紀に似てきたね。」
綾子「智世ちゃん、ちゃーんと約束守ってくれたのね。」
真「来週のイブが楽しみだね」

その頃、大林家では

智世「アキっ、あんた何考えてるのよ、この日はあんたの名付け親と会う大事な日なのよ。」
アキ「だって・・・みんなと約束しちゃったんだもん・・・」
智世「ブーブー言わない。最初からわかってるんだから!」
達明「まあまあ、アキだって僕たちより友達と過ごしたくなる年頃なんだから。僕もそうだったし、君だってそうだろ?じゃ、こうしよう、アキ、最初は一緒に廣瀬さんの家に行くんだ。そしてちゃんと挨拶しなさい。いいね。そうしたら、みんなのところへ行っていいよ。」
智世「ちょっと、あなた・・・」
達明「(智世にかまわず)わかったな、アキ」
アキ「はい、お父さん」

ということで、次週は廣瀬家・大林家の合同クリスマスパーティー・・・・
...2006/12/20(Wed) 22:08 ID:xoaJRAro    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
廣瀬家のクリスマス2
〜亜紀の墓参り

12月24日 午前9時

廣瀬家・門の前

達明「おはようございます」
智世・アキ「おじさん、おばさん、おはようございます。」
真「やあ、おはようございます」
綾子「おはようございます、荷物は置いていきましょうね」

大人たちは喪服姿、アキは制服姿である
綾子が荷物を持った智世とアキを家の中に連れて行った。
その間に達明が真に声をかけた。

達明「お父さん、クルマのキーを」
真「いつも悪いね、達明君。よろしくお願いします。(キーを渡す)」
達明「いえ、これが我が家の恒例行事になってますから」

駐車場へ行った達明が自動車のエンジンをかけ、
家から戻ってきた綾子・智世・アキ、そして真が自動車に乗り込んだ。
(助手席に智世、後部座席にはアキをはさんで真と綾子が座る)

廣瀬家から自動車が出て来た。向かうは廣瀬家の墓。廣瀬家・大林家合同で亜紀の墓参りに向かうところです。

※24日は亜紀の月命日。智世は毎月墓参りに行っていますが、両家全員での墓参りはクリスマスイブにあたる12月24日にやることになっていました。最初は10月24日に亜紀の墓参りとアキの成長を報告するために両家が集まっていましたが、アキの学校の都合で、冬休みに入った12月24日に変更されたのでした。この合同墓参りは智世の発案によるものです。

○○寺

駐車場に達明が運転する自動車が入って来た。
自動車から降りてきた5人は墓へと向かった。

(廣瀬家の墓)

智世「さあ、アキ、お掃除しましょう」
アキ「はい」

智世とアキが墓石の掃除を始める
綾子は花の用意を、そして真と達明は供え物の準備を始めた。

智世「(掃除をしながら)亜紀、見て、うちのアキ。大きくなったでしょう。とうとう、あんたの年追い抜いちゃったんだよ。病気もしないで、スクスク育ってくれてね、あんたがアキを守ってくれてるんだよね・・・・」
アキ「(智世の独り言を聴きながら、甲斐甲斐しく掃除をしている)」
智世「今度アキは大学受験なの、お願い、亜紀、わたしのアキを守ってね・・・」
アキ「(掃除を続けながら、いつもは口うるさい母のすがるような口調を聞いて意外な気持ちになる)」
智世「終わった?」
アキ「うん」

線香がたかれる

智世「さ、それじゃ、亜紀に挨拶しなさい。」
アキ「はい、(手を合わせる)亜紀さん、いよいよ大学受験です。どうか、私を見守って下さい」

続けて、智世・真・綾子・達明の順番で亜紀の墓前に手を合わせる。
そして、大林家の3人と廣瀬家の2人が向かい合って並び、達明から挨拶が行われた。

達明「本年も無事、アキの成長ぶりを亜紀さんにご報告することが出来ました。どうも、ありがとうございました。」

(大林家の3人と廣瀬家の2人がお互いに礼をする)

〜これで儀式は終わった〜

真「皆さん、ご苦労様。家に戻ったら、亜紀も交えて、盛大にクリスマスパーティーといきましょう。」

帰路につく5人
...2006/12/20(Wed) 22:09 ID:xoaJRAro    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
廣瀬家のクリスマス3

〜メリークリスマス

12月24日 午前11時

亜紀の墓参りから戻った5人

全員着替えが終わった

(朝、智世とアキが抱えていた荷物はプレゼントのほかに着替えも入っていたのです)

(廣瀬家・居間)

5人が集まってくる

智世「さ、アキ、亜紀を連れてきましょう」
アキ「はい」

智世とアキは2階の亜紀の部屋に入り、仏壇の前で順番に焼香し、亜紀の遺影を持ち出した。

(居間)

アキが亜紀の遺影を抱えて智世と一緒に戻ってくると、真が全員に声をかけた。

真「よし、これで全員揃ったな」
達明「始めましょうか、お父さん」
真「うん、そうだね」
達明「アキ、持ってきなさい」

アキは大きな箱を持ってきた

食卓に箱を置いて、包みを解くと・・・・
豪華なクリスマスケーキが・・・
そして、アキ手作りのクリスマスカードも添えられていた。

アキ「おじさん、おばさん、メリークリスマス!」

綾子「まあ、可愛らしいカードだこと(笑顔)」
真「どれどれ・・・これは綾子、君だぞ、そして、これは私か・・・亜紀もいるぞ。アキちゃん、どうもありがとう(笑顔)」

※手作りカードには廣瀬ファミリーの似顔絵が書いてあったのです

綾子「アキちゃん、本当に絵がお上手ね。」
真「人には持って生まれた才能っていうものがあるんだな。」
アキ「ありがとうございます(やや照れている)」
達明「今は受験直前なので、絵の方は我慢させているんですが・・・」
真「おや、受験勉強の邪魔をしてしまったかな?」
達明「いえいえ、お父さん、そんな、今日は我が家にとっての大事な行事ですから、お気遣いなく。」
綾子「でもやっぱり、受験直前で大変よね」
智世「まあ、今日はクリスマスなので、束の間の休息という感じです。」
達明「絵は大学受かってからまた描こうな、アキ」
アキ「うん(笑顔が輝く)」
智世「(苦笑)」

綾子「志望校は決まったの?」
アキ「宮浦大学の薬学部です」
真「そう・・・あそこだったら家からも通えるし、薬学部か、いよいよ上田薬局?いや、大林薬局か?」
達明「おとうさん、上田薬局で結構ですよ」
真「うん、その跡取り娘の誕生だね。上田薬局万々歳だ・・・ハハハ・・・(ご機嫌が良くなる)」

思わず笑顔になる5人

智世「ところで、おじさん、もうお身体は良いんですか?」
真「うん、おかげ様で、無事退院できたし、すっかり良くなったよ。足腰が弱ってしまったが、リハビリでどうにか回復できたんだ。」
達明「それはよかった。お父さんが入院されているとき、これ(智世)が泊まりに行きましたよね。お母さんと色々話しが出来て楽しかったと言ってましたよ。」
智世「(笑顔でうなずく)」
綾子「そう、一人で心細かったから、智世ちゃんが来てくれて、とっても心強かったわ」
智世「おばさんと亜紀の部屋で一緒に寝たんですよね。合宿気分でした。」
綾子「そう、それで知ってる?この子(智世のこと)夜中に寝言言ってたの。」
智世「ちょっと、おばさん、やめて下さいよ。恥ずかしいじゃないですか。主人やアキの前で。(顔を赤らめて苦笑)」
アキ「へー、お母さん、何て言ってたんですか?(イタズラっぽい笑顔)」
綾子「それがね、よく聞き取れなかったけど、亜紀・・・亜紀・・・って言ってたような気がしたわ。」
智世「(恥ずかしがって)確かに、亜紀の夢見てました。合宿で一緒に走ってたのかな・・・おばさんと一緒に寝たときもそうだけど、時々亜紀と走ってる夢見るの・・・」
 
達明と真は笑顔でうなずく

達明「(時計を見ながら)お父さん、申し訳ありません、アキは他に用事がありまして、これで失礼させていただきます。」
真「ああ、そう、ちょっと寂しいな・・・」
智世「でも、わたしたちは残りますから」
達明「(アキに)老人ホームのボランティアに行くんだよな。何ホームだっけ?」
アキ「『涼風ホーム』です。」
真「ああ、あそこ?私、入院してたんだよ。ホームの付属病院に。月一回ボランティアの方が見えてね、ピアノや歌を聴かせてもらったり、手品を教えてもらったんだ。もしかすると、手品を教えてくれた女の子、アキちゃんと同級生じゃないかな?長沢マサミさんというんだけど。」
アキ「はい、彼女、クラスメートです。とっても仲良しな友達なんですよ。これからホームで会うんです。」
真「ああ、そう、彼女によろしく言っておいて」
アキ「はい、おじさんと共通の知り合いだったなんて、面白いですね」
真「じゃ、頑張ってね」
綾子「あと、律子さんにもよろしくね。」
アキ「大沢先生の奥さんですよね。伝えておきます。」

廣瀬家の玄関

真「じゃ、頑張ってきてね。」
綾子「受験が終わったらまた遊びにいらっしゃい。お父さんやお母さんと一緒でなくてもいいわよ。」
アキ「はい、そうさせていただきます、それでは、おじさん、おばさん、失礼します」

こうしてアキは廣瀬家を後にして、「涼風ホーム」へ向かいました。
...2006/12/20(Wed) 22:10 ID:xoaJRAro    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
廣瀬家のクリスマス4

〜亜紀への想い

午後・アキが「涼風ホーム」へ出かけたあとも団欒は続いていた。
(高校生がいないので、アルコール類も出ている)

真「毎年、クリスマスになると君たちが来てくれるから、本当に嬉しいよ。孫の顔を見せてもらっているような気分だ。」
綾子「(うなずく)」
達明「亜紀さんの名前を快く私たちの娘につけてくださったのですから、健やかな成長ぶりをお見せできれば、と思いまして・・・私たちもそれが楽しみであり、励みにもなっているんですよ。」
真「うん・・・ありがとう、達明君、智世さん、君たちがいてくれて、私たちは幸せものだ(目が潤む)」
綾子「ちょっと、あなた、アルコールが過ぎてませんこと?」
真「いや、本当に嬉しい気分になってね。ハハハ・・・」
智世「・・・わたし、全てを受け入れてくれた達明さんと一緒になって本当に幸せなんです。亜紀のこともちゃんと聞いてもらえたし・・・アキの名前のことは、彼がおじさんとおばさんにお願いしようって言ってくれたんですよ。」
達明「いきなりそんなこと言うなよ、お父さんやお母さんの前で照れるじゃないか。」
綾子「そう・・・達明さん、智世ちゃんのこと、とても大切にしてあげてるのね。」
智世「(幸せそうにうなずく)達明さん、覚えてる?わたしが亜紀の代理で卒業証書を受け取った話。」
達明「ああ、覚えてるよ。とてもいい話だったよね。」

 ***************

1989年3月

智世「亜紀は卒業式で名前呼ばれることないし、卒業証書ももらえないんだよね。」
龍之介「そうだな。寂しいけどそうなんだよな。」
智世「せめて卒業証書だけでもあげたいんだけど、何かいい方法ないかな・・・」
顕良「映画で見たことあるんだ・・・」
智世「映画って?最後までちゃんと言いなよ。」
顕良「うん、その、やっぱり病気で死んだ女の子がいて、お父さんとお母さんが遺影を抱いて卒業式に出たって話があるんだ。それと同じことすればいい。」
龍之介「ボウズ、いいこと言うじゃん!それでいこう」
智世「亜紀のお父さん・お母さんに来てもらうわけ?」
龍之介「おっと、そういえばそうだな、谷田部先生に相談してみよう。」
顕良「しかし、こんな大事な時にあいつ(朔のこと)何やってんだ・・・」

(職員室にて)

谷田部先生「あなたたちの気持ちはよくわかる。今でも思い続ける友達がいて廣瀬は幸せものだよ。ただ、ご両親のお気持ちを聞いてみないことにはね・・・」

(廣瀬家へ電話をかける谷田部先生)

谷田部先生「さっき、廣瀬のお母さんと話したんだけど、夕方家に来て欲しいって。お父さんにも話しておいて下さるって。だから放課後にみんなで行こう。ところで松本は?」
顕良「あいつ、今日学校に来てないんですよ。」
谷田部先生「そっか・・・最悪松本抜きでも仕方ないか・・・」

(放課後・廣瀬家にて)

真「わざわざお越しいただいて・・・まずは亜紀に会ってやっていただけますか。」

亜紀の部屋にとおされた四人は谷田部先生・龍之介・顕良・智世の順番で焼香する。

真「松本君はどうしました?」
谷田部先生「今日は学校を休んでおりまして・・・受験疲れだと思います。」
真「松本君のお父さんから聞きました。医学部に合格したそうですね。ただ、彼とはウルルに行って以来会ってないんですよ。亜紀の灰もまけなかったみたいで、気になっているんですよ。」
谷田部先生「まあ、あれ以来松本はこちらに来ていないんですか?よく言っておきますわ。」
真「先生、申し訳ありません。ご心配をおかけしまして。ただ、松本君のお父さんがそのことでかなり心配なさっているようですので、近々顔を見せてくれると思いますよ。
ところで、綾子から聞いたんですが、卒業式で亜紀の名を呼んでいただけるとか?」
谷田部先生「ええ、実はここにいる生徒たちが言い出したことなんですが、まずはお父様とお母様のお気持ちをうかがってからと思いまして。」
真「ありがとうございます。(落涙する。隣に座っていた綾子もハンカチで目をぬぐう)是非お願いいたします。今でも気にかけてくださる友達がいて亜紀は幸せ者だ。なあ、綾子。」
綾子「(うなずく)」
真「(龍之介・顕良・智世に)本当にありがとう。」

三人も真と綾子に礼を返す

智世「(顔をあげてから)あの・・・、私が亜紀さんの代理で卒業式に出席させていただきます」
真「お願いします。こちらの写真(遺影)をお貸ししますので、当日迎えに来てやって下さい。」


卒業式当日

(廣瀬家・玄関)

智世「亜紀さんのお迎えにあがりました」
綾子「どうぞ、あがって・・・」

(亜紀の部屋)

真・綾子の前で焼香する智世

智世「さあ、亜紀、一緒に卒業しようね」

(廣瀬家・玄関)

智世「では、行って参ります」

亜紀の遺影を抱えた智世は真と綾子に挨拶し、学校に向かった。そんな智世を真と綾子は感慨深げにいつまでも見送っていた・・・

(卒業式会場)

クラスの生徒一人一人が名前を呼ばれる。そして・・・

谷田部先生「すいません、最後にもう一人名前を呼ばせてください・・・・(涙ぐんで)廣瀬亜紀!」

智世は亜紀の遺影を抱えて、代理として壇上へあがった・・・

 ************


真「智世さん、あの時は本当に感激したよ。君たちクラスメートや先生の気持ちにね」
綾子「あの時から、何かあるたびに顔を見せてくれるようになったのよね、智世ちゃん」
智世「・・・わたしが亜紀にしてあげられることって、それしか思いつかなかったものですから。」
達明「智世・・・前に聞かせてもらった時も感動したけど、今日もまた聞かせてもらって、君に惚れ直したよ・・・(涙ぐむ)」
智世「あなた、酔っ払ってない?(苦笑)」
達明「お父さん、お母さん、私が智世と出会う前から亜紀さんは智世の中にいたんです。私はそんな智世を気に入り、一緒になりました。ですから、亜紀さんとも一緒に家族になれたと思っています。そこから生まれてきたアキは亜紀さんの娘でもあるんです。ですから、お父さん、お母さん、これからもアキを実の孫のように可愛がってやって下さい。」
真「達明君、そのひと言気に入った。今日は飲もうじゃないか。(達明に酒をすすめる)」

こうして廣瀬家での団欒は続くのだった


(廣瀬家のクリスマス・FIN)
...2006/12/20(Wed) 22:11 ID:xoaJRAro    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
お正月が近いので、初詣の場面があるストーりーを再掲載します。
『いま、会いにゆきます』『H2』をモデルにしたストーりーです。


「マサミとハルカのダイアリー 1」

2017年3月○日

(宮浦高校)

学校は春休みの真っ最中。この日、マサミは久しぶりに陸上部の練習に顔を出すために学校にやって来ました。

ハルカ「マサミさん!」
マサミ「ハルカちゃん、おはよう。今日はどうした?」
ハルカ「新入部員勧誘の準備で来たんです。マサミさんは?」
マサミ「4月から東京行っちゃうからね。最後だから後輩たちの練習に付き合おうかと思って。」
ハルカ「最後まで面倒見のいい先輩なんですね。そうそう、会田(アイダ)君が転校するんですってね。」
マサミ「そうなんだ。彼も今日が最後の練習になんだよね。」
ハルカ「それじゃ、わたし、部室行きますから。最後の練習、頑張ってください。」
マサミ「ハルカちゃんもね。」

ハルカとわかれたマサミはグランドにやって来た。
練習をしていた1・2年の部員がマサミの姿を見て集まってきた。

部員A「先輩、どうも。」
マサミ「最後だからみんなの顔見たくてさ。邪魔にならないように、ここで見てるよ。」
部員B「そんな、遠慮しないでくださいよ。ストップウォッチで僕らのタイム測っていただけません?タクミも今日が最後だし、是非マサミ先輩の手でタイム測ってやってください。」
マサミ「そうか、じゃ、やらせてもらうわ。」

部員が一人一人スタートし、マサミがタイムを測る。そしてタクミの順番が回ってきた。

マサミ「位置について、ヨーイ!ピー(ホイッスル)」

タクミがスタートを切った。そしてもの凄いスピードでゴールを駆け抜ける。
カチャ!マサミがストップウォッチを切った。

マサミ「12秒91!」
タクミ「ヤッター!自己ベストだ!」
マサミ「おめでとう、やったね。新しい学校で頑張るんだよ。」
タクミ「はい!」
マサミ「・・・もうひとつ、やらなければならないこと、あるよね・・・」
タクミ「・・・はい・・・」

マサミ『彼の名前は会田(アイダ)タクミ。私の陸上部の後輩だ。男子短距離のホープとして注目を集めている。これからも宮浦高校で活躍してくれる・・・と思っていた矢先に、父親の仕事の関係で東京の学校に転校することになったのだ。最後に彼がやり残したことは・・・』


(野球部室)

ハルカが入って来た。するとメガネをかけた女の子が振り向いた。
女の子「ハルカ、おはよう。」

ハルカ『彼女の名前は榎本(エノモト)ミオ。私のクラスメートであり、野球部のマネージャー仲間。本当は明日の予定だったのに、彼女がどうしてもと言うので今日になりました。そう、ミオにはもうひとつ、目的があったのです。』

ハルカ「ミオ、早く始めて早く終わらそう。」
ミオ「うん」

マサミ・ハルカ『忘れもしない、6月24日。』
マサミ『この日は陸上の県大会の日。私は最後の夏に燃えていた。そして、初めて大会に出場するタクミ君も・・・』
ハルカ『この日、わたしはミオと一緒に大会の運営の手伝いに来ていました。』

タクミのレースの番になった。タクミがライバルに僅差をつけてトップに立ったと思ったら・・・

マサミ「あっ」
ハルカ「キャッ」
ミオ「!」

タクミはライバルと交錯して転倒してしまった。

マサミ『何で、何でこうなるの?もう少しで優勝で出来たのに・・・私はタクミ君が不憫でならなかった・・・』
ハルカ『ショッキングな場面を見てしまいました。その時です。ミオがつぶやきました。・・・反則だ・・・』

日がとっぷり暮れて表彰式が始まった。照明塔には煌々と灯りがともっていた。

(競技場の廊下)

無言で引き上げるタクミ。
マサミ『事故で失格してしまったタクミ君。あのしょげ返りようを見て、私はかける言葉が見つからなかった。今、グランドでは彼が出場したレースの表彰式が始まろうとしていた。』

タクミとマサミの前を女の子が横切った。ミオとハルカである。

ハルカ「ミオ、待ってよ。どこ行くの?」

ハルカ『わたしはミオが何を考えているのかわかりませんでした。やがて、電気室に入って・・・
ガチャン!ミオは電気のスイッチを切りました。グランドは真っ暗になってしまったのです。』

係員たち「なんだなんだ?」
グランドでも騒ぎが起こっていた。

マサミ『一体何が起こったのだろう。あたりが真っ暗になった。』

ハルカ「ミオ、何であんなことしたの?」
ミオ「あれは、明らかに反則技だった。だから、抗議のために電気を消したの。」

ハルカ『びっくりした。ミオが真剣な顔をして言うんです。でも何で?何でそんなに真剣になれるの?タクミ君のため?えっ、ひょっとしてこれって・・・?』

(夏休みのグランド)

マサミ『今日も彼は一人で黙々とトレーニングを続けている。あの事故があって以来、彼は何かに取り付かれたように、そう、鬼気迫る感じだったのだ。』

マサミ「タクミ君、ちょっと休憩しなさいよ。」
タクミ「もう一本やります。」
マサミ「あまり無理しないで、何が君をそんなに駆り立てるの?」
タクミ「あの事故が悔しくて・・・だからもっと速くなって、だれにも邪魔されずにゴールテープを切りたいんです」
マサミ「タクミ君・・・」

マサミ『私は返す言葉がなかった。彼の悔しさは彼にしかわからないから・・・』

その時、マサミは背中に視線を感じた。

マサミ「?」

遠くからミオが見ている。

マサミ『またあの子だ。あの事故の日以来、あの子が見ている。それもタクミ君がいるときに限って・・・』
...2006/12/30(Sat) 18:04 ID:z1zyc83E    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
「マサミとハルカのダイアリー 2」

ハルカ『2学期が始まりました。』

(1年B組の教室)

竹中先生「これで授業を終わる。」
ミオ「起立!礼!」

ハルカ『わたしはふと、ミオの方を見ました。休み時間なのに席を立たずに、ノートに書き込みを続けているミオ・・・どうしたんだろう?』

ハルカ「ねえ、ミオ、今度の日曜日に映画行かない?」
ミオ「(ビックリして顔をあげる)」
メグミ「(ミオのノートを見て)あらー、あらー」

ハルカ『ミオのノートに書いてあったもの、それはタクミ君の似顔絵でした。ミオとタクミ君は席が隣同士。でも、二人が口をきいたところは見たことがありません。』

ミオ「(顔を赤らめる)」
ハルカ「メグ、よしなよ。からかっちゃ可愛そうじゃない」

ハルカ『きっと、ミオの気持ちは、今のわたしと同じかもしれません。わたしも気になる人がいます。思い出すのは彼のことばかり。もしかしたら、恋をしてるのかも、私もミオも。』


〜文化祭の日〜

マサミ『この頃、私の精神状態は最悪だった。目の前でケンとアキが駆け落ちし、行方不明のままだった。ケンに情が移ってしまい、止めることが出来なかった。後悔とともに、自分を責める毎日だった。』

タクミ「先輩!」
マサミ「へ?」
タクミ「どうしたんですか?ボンヤリして?」
マサミ「別に何でもないよ。そうだ、ちょっとお茶しない?」

マサミ『年下の男の子を誘うなんて、何て大胆な私。でも、その時はごく自然にタクミ君を誘えたんだ。ケンとアキの駆け落ち事件を知らない人と話をしたかった。ユイやシンジは私のことを心配してくれてる。泣きたくなるほど有難い。でも、お互い気を使いながら話すのはちょっと疲れる・・・』

マサミ『喫茶店に入ると私は話し続けた。止まらなかった。最近読んだ本のこと、好きな映画のこと、手品のこと・・・タクミ君はイヤな顔をすることなく聞いてくれた。』

タクミ「先輩、今度は僕の話聞いていただけます?」

マサミ『今度は彼の話が止まらなかった。でも、話を聞いてて心地良かった。そして・・・』

タクミ「僕、ちょっと気になる人がいるんです。」
マサミ「気になる人?」
タクミ「はい、席が隣で、朝『おはよう』と言葉交わすんです。」
マサミ「それ以外に話したことある?」
タクミ「朝の挨拶だけです。だから、片思いなんですよ・・・」
マサミ「片思いか・・・わたしも片思いしてて、ついこの間フラレちゃったよ・・・(涙ぐむ)」

マサミ『みっともないわたし。後輩の前で涙を見せるなんて・・・』

タクミ「先輩みたいな素敵な人をフルなんて、許せないな。どこの誰ですか?ぶん殴ってやりますよ」
マサミ「まあまあ、そう乱暴しないで。それより、その子と速く両想いになれるといいね。応援してるよ」

マサミ『タクミ君、ゴメン、心にもないこと言っちゃって・・・。あの時はとてもそんな気分になれなくて、タクミ君が羨ましいような妬ましいような・・・ヤナ女だね。君を心から応援しようという気持ちになれたのは、それからしばらくして、律子さんと出会った後だったんだ。でもね、あの時、私のためにこんなに怒ってくれて、嬉しかったよ。』
...2006/12/30(Sat) 18:05 ID:z1zyc83E    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
「マサミとハルカのダイアリー 3」

12月中旬

マサミ『この頃になるとわたしは、大沢先生や律子さんのお陰で精神的にも余裕を取り戻していた。タクミ君の片思いはどうなったかな?』

(廊下)

マサミ「タクミ君」
タクミ「先輩」
マサミ「あれからどうなった?」
タクミ「いや、それが・・・」
マサミ「全然進展なしか・・・」
タクミ「はい・・・」

マサミ『タクミ君が意地らしい。キューピット役をやってあげようかな。でも、誰なんだろう?隣の席の子って言ってたけど・・・」

マサミとミオがすれ違った。

マサミ『あれ、どこかで会ったことがある・・・想い出せない・・・』


(1年B組の教室)

ハルカ『ミオ・・・タクミ君と全然話してないじゃない。このままでいいの?』

メグミ「ハールカ!」
ハルカ「びっくりしたー」
メグミ「人のことより、自分の心配した方がいいんじゃない?」
ハルカ「え?」
メグミ「久仁見くんってさ、幼馴染のガールフレンドがいるんだよ。松崎高校の天宮ヒカリさんというんだって。」
ハルカ「でも、同じ学校の立花ヒデオくんの彼女だって聞いたけど?」
メグミ「そんなのわかんないわよ。うちの学校の3年生で立花くん狙ってる人がいるっていう噂よ。その人が立花くん落としたら、ヒカリさんはフリーになって久仁見くんと・・・」
ハルカ「メグ、やめて!」

ハルカ『そうなんです、メグの言うとおり、他人の心配をしてる場合じゃないんです。こうなったら行動を起こさなきゃ・・・』

『そして大晦日、わたしは久仁見くんと初詣に行く約束をしました』

ハルカ「わっ」
アキ「あ〜ハルカちゃん」
ハルカ「皆さん、こんばんは」
レイコ「こんばんはぁ」
マサミ「こんばんは」

マサミ『ハルカちゃん・・・この子がアキの可愛い妹分ね』
ハルカ『野球部のことでいろいろお世話になったアキさんに偶然会いました。そして、マサミさんとお話したのはこの日が初めてだったのです。よし、先輩方の前で久仁見くんとの既成事実を作っちゃえ!』

アキ「デート?」
ヒロ「違いますよ、単に付き添いなだけです」
ハルカ「デートですよ、ね」
ヒロ「付き添いですよ」

ハルカ『久仁見くん、ツレナイ!どうして?』

アツシ「あ、いた」
アツシ「ヒロ〜俺と初詣行く約束だったろ〜」

ハルカ『野田君、御免、今日は邪魔しないで・・・』

ヒロ「デート中なんだけど」
アツシ「お前は友情より愛情を取る人間なんだな」

ハルカ『今、デートって言ってくれた・・・うれしい!』

ハルカ『そして、おみくじをやって初詣は解散となりました。わたしはマサミさん、レイコさんと一緒に帰りました』

マサミ「ハルカちゃん、うらやましいな。あたしたち、まだ彼氏いないから」
レイコ「だよねー」
ハルカ「でも、久仁見君の気持ちがまだわからないんです。やっぱり片思いなのかしら。実は、わたしのクラスメートでやっぱり片思いしてる子がいるんです。席が隣同士なのに話したことないらしくて・・・その子が進展すれば、私も進展できるような気がして、応援してるんです」
マサミ「あたしの後輩でも片思い中の子がいるよ。やっぱり席が隣同士なんだけど、話したことないって。」
ハルカ「へー偶然ですね」

ハルカ『その時、マサミさんの後輩がタクミ君だとは思いませんでした。』
マサミ『いつもタクミ君を見ていた女の子。その子が、ハルカちゃんのクラスメートでタクミ君が片思い中の相手だったなんて・・・その時は全然考えなかった』
...2006/12/30(Sat) 18:06 ID:z1zyc83E    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
「マサミとハルカのダイアリー 4」

3月○日
(宮浦高校グランド)

マサミが部員を集めていた

マサミ「みんな、お疲れさま。これからも頑張ってね」
部員一同「先輩、ありがとうございました。お元気で。」
そして、タクミが代表してマサミに花束を渡した。
マサミ「タクミ君、頑張れよ」
タクミ「はい」

(野球部室)

勧誘のチラシとポスターを作っていたハルカとミオ

ハルカ「出来たー、ミオがマネージャーに加わってくれたから大助かりだよ。」
ミオ「そう言ってくれると嬉しいよ」
ハルカ「これから、どうするの?」
ミオ「うん・・・」

ミオはカバンからサイン帳を出した。

ミオ「ちょっと行ってくる、陸上部まで」

ミオが陸上部室へ向かうとタクミがやって来た。

ミオ「会田君、転校の記念にサインして」

ミオはサイン帳を差し出した。タクミはびっくりした様子だったが、あるメッセージをしたためた。

タクミ「じゃ」
ミオ「じゃ」

そして二人はそれぞれの部室に戻った

(陸上部室)

マサミ「サインして来ただけ?」
タクミ「はい、『君の隣は居心地がよかったです』と書いてきました」
マサミ「それで終わっていいの・・・」
タクミ「いや・・・それは・・・あ、ペンをサイン帳にはさんだまま渡しちゃった」
マサミ「返してもらいに行けばいいじゃない」
タクミ「でも、バスに乗り遅れるから・・・」
そう言ってタクミは部室から飛び出して行った

マサミ『あーあ、ダメだこりゃ』

(野球部室)

ハルカ「サインもらって来ただけ?」
ミオ「うん、これでいいの。」

ミオはサイン帳にはさまったペンを出した。

ミオ「これはタクミ君のペン。すぐ返しに走れば返せると思う。でもわたしは行かない。持っていればもう一度会えるかもしれないから。返したいって電話すればいい。そうすれば彼に会える。電話をすればいい。ペンを返しますって言うだけだから・・・」
ハルカ「そっか・・・頑張れ、ミオ」

(校門)

マサミ「ハルカちゃん、また一緒ね」
ハルカ「そうですね。今日は行きも帰りも一緒」

ハルカ「マサミさん、今日ちょっと楽しいことがあったんです」
マサミ「そう、あたしはじれったいことがあったんだ」
ハルカ「当ててみましょうか?」
マサミ「どうぞ」
ハルカ「タクミ君のことでしょ?」
マサミ「大当たり、あいつ、バスに遅れるからってトットと帰っちゃうんだもん・・・」
ハルカ「でも大丈夫です。相手の彼女、タクミ君のペンを預かってますから・・・また会うチャンスありますよ。」
マサミ「その彼女、ハルカちゃんの知り合い?」
ハルカ「はい、野球部のマネージャー仲間の榎本ミオさんです。」
マサミ「いつもタクミ君を見てた子だよね」
ハルカ「そうです、大当たり!」
マサミ「あたし達はタクミ君とミオさんの応援団をやってたわけか」
ハルカ「そうですね」
マサミ「今度は自分たちの番だね。久仁見くんとはその後どう?」
ハルカ「まだ、ボチボチなんです・・・」
マサミ「よし、今日はマサミ姐さんのオゴリでお茶しよう。あたしは東京で素敵な彼氏をゲット出来るように、ハルカちゃんは久仁見くんと進展があるように、決起集会やろう。」
ハルカ「レイコさんも呼びましょうよ」
マサミ「いいねー」

(喫茶店)

レイコ「お待たせ」


マサミとハルカのダイアリー
     FIN
...2006/12/30(Sat) 18:07 ID:z1zyc83E    

             smwq svkoaprt  Name:orgwn psdrhca
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...2007/01/02(Tue) 06:03 ID:zJHts6co    

             vpxyzcj wgfhpu  Name:blysr yadeisjv
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...2007/11/25(Sun) 10:45 ID:AHIAOqd6    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:SATO
スレが下がってきたので上げます
...2007/12/04(Tue) 23:00 ID:l0ujf4lw    

             mox12  Name:Deke
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...2007/12/13(Thu) 02:08 ID:6jee0sBk    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:議運
【クリスマス特集として朔五郎さんの作品を再掲します】

クリスマス・イブ。
店内に流れるFM放送では「恋人達のクリスマス特集」と題して甘く切ない曲が続いていた。
「それではリクエストのEメールをご紹介しましょう・・・
・・・・・このクリスマス・イブも彼女は病院のベッドで過ごしていることでしょう。ひょっとするとラジオで番組を聞いているかもしれません。文化祭でジュリエットを演じることのできなかった彼女のために、ウエスト・サイド・ストーリーの《トゥナイト》をお願いします・・・はい、実はこのメールを頂いた時、私、もう胸がいっぱいになって、泣きながら一気に読みました・・・彼女の一日も早いご回復をお祈りします」
レイコとマスターは、どちらともなく目を見合わせて、ため息をついた。
「世の中には気の毒な人もいるもんだねえ」
「はい、それを思えば、私やカズナリさん・・・そしてアズサさんも頑張って生きなきゃ」
「そうだね」
レイコはふと振り返って言った。
「マスター、あちらの綺麗な女性は?」
「ああ、清水さんといってね、2年前ご主人を亡くして東京から宮浦に移って来たんだ。今日はこのクリスマスケーキを届けてくれてね」
照れながら言うマスターが微笑ましかった。
「あらマスター、モテるんですね」
「え、そんなことないよ」
「もしかして、再婚とか」
「いやいや・・・」
マスターは苦笑いしながら、目立たない場所に置いてある亡き妻の写真を見た。
レイコはちょっとイタズラっぽく言った。
「ねえ、マスター・・・明日のお昼前、店にいらっしゃいますよね?」
「ああ、いるけど」
「実は・・・紹介したいひとがいるんです。明日来ることになってるんですけど・・・」
「そのひとは、男の人?女の人?」
「ふふっ、ヒミツです」
「レイコちゃんの大事なひとなの?」
「はい、とっても」
「そんなひと紹介してくれるんだ。光栄だね」
そう言いながら、マスターの胸中は複雑だった。
(やっぱり好きな彼ができたのかな・・・でも仕方ない、レイコちゃんのためにはそのほうがいいんだ)
「マスター、このケーキ、私も欲しいな・・・今夜カズナリさんと3人でいただきません?」


立京大学池袋キャンパスのチャペルでは「クリスマスイブの礼拝」が行われている。
賛美歌が流れる中、マサミはいつになく神妙な顔をしたミライの横顔を見ていた。
(ふふ、意外な一面だね)
またひとつ新しいこと見つけた、マサミはなんとなく嬉しかった。
チャペルの外に出ると、イルミネーションが輝き始めている。
「さて、行くか」
「うん」
聖なる夜、バイクに乗った二人は流星のようにお台場を目指した。
「風が冷てえな」
「うん」
ミライの背中に頬をすり寄せる。
「二人乗りだと首都高走れないのが残念だな」
「でも、いいよ・・・一緒にいるだけで」
台場駅の側にあるホテルの駐車場にバイクを停め、二人は恋人たちで賑わう歩道に出て行った。
アクアシティに入る。
「ねえ、ちょっと買い物していい?」
「うん」
マサミはおしゃれな小物や服には目もくれず、どんどん歩いて行く。
「え、どこ行くの?」
「いいから、いいから」
やがてマサミは大きなおもちゃ売り場に入って行った。
「お、おもちゃ?実は子供がいるとか・・・」
「バカなこと言ってるんじゃないわよ」
何かを探しているマサミ。
「なに見つけてるんだよ・・・」
「あ、あった、へへ」
「トランプ?」
「そう。これマジック用のトランプなの」
「へえ、何種類もあるんだね」
「そう。マジックの種類によって使うカードが違うのよ」
「そうなの。でも、なんかその、ほんとに好きなんだね」
「うん、楽しくて楽しくて。常に新ネタを仕入れていかないとね」
マサミの目はキラキラと輝いていた。


「洋服とか見て行かないの?」
「・・・今日はいいや。見始めると長くなっちゃってサクに悪いから」
「別にいいけど」
「ありがと。でも今日は止めとく。サクと話す時間が少なくなっちゃうから」
「それじゃ何か食べようか。何がいい?」
「サクにまかせるよ。どこかいいところに連れてって。でも・・・混んでるね」
「実はさ、混んでると思って、ひとつ予約入れといたんだ」
「すごい!段取りいいね。うれしい」
「じゃ、行こうか」
二人は6階に上がっていった。
「さあ、ここだ」
そこは、アメリカンなブッフェスタイルの店で、入ってすぐチキンを焼くオーブンが出迎えてくれた。
「いい匂い・・・」
「クリスマスにはやっぱりチキンかな、と思ってさ」
「料理、いっぱいあるね」
「好きなだけ取っていいんだよ」
「じゃ、少しずつゆっくり食べよう」
ミライが指を差した。
「ほら、下を見て」
「あ、自由の女神・・・NYにいるみたい」
「ヤマダさんとアヤセはどうしてるかな?」
「ハルカ、バイト捜してるみたいだけど、なかなか大変みたいよ」
「そうか・・・」
窓一面のレインボーブリッジ、その奥にキャンドルのような東京タワー。
「キレイ・・・とってもしあわせ・・・」
夢を見ているような時間が過ぎて行った。


デザートを食べ、コーヒーを飲んで二人の食事は終わった。
「明日、宮浦には何時までに行けばいいの?」
「クリスマスパーティは2時からだから、11時ころまでに」
「ふーん。あ、どうする?このままどこかに泊まっていく?」
「そうね・・・でも、どんな素敵なホテルより、私、サクの部屋が一番好きだな」
「そう?じゃ帰ろうか」
「うん」
マサミはミライの目を見ながら微笑んだ。
「サク、いい男になったね。なんだかすごく頼もしいよ」
...2007/12/25(Tue) 03:56 ID:eRLj9pOc    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:議運
【年末年始特集として朔五郎さんの作品を再掲します】
〜過去ログ17所収「木庭子町の正月」編から〜

 ミライとマサミは岡山駅のホームで、高松行きの列車を待っていた。
 「ねえ、サク《恋するソクラテス》の女の子が、かぐや姫なの?」
 「うん」
 「でも、竹取物語って、可憐な少女が月の世界に帰って行きました、っていう単純な話じゃないよね」
 「そうだよ」
 「かぐや姫は見た目は可愛い少女だけど、実は月の世界で何かの罪を犯して《流刑》みたいな感じで翁のところにやってくるわけでしょ?」
 「そう、実は大人の女性なんだよね」
 「求婚してくる男性たちを手玉にとって、すごくしたたかでしょ?」
 「まるで誰かさんみたいにね・・・」
 「ちょっと、それ誰のことよ」
 「イ、痛テエ、そんなに怒んなよ・・・もちろんこの小説の作者は、この女の子が別世界で罪を犯したということまではイメージしてないだろうけど、この女の子の中に《大人の女性》であるもう一人の彼女が存在しているという《雰囲気》は振りまいているような気がするね」
 「そうか・・・でも、もう一人の彼女が顔を出すのは、決まってミステリアスな場面よね。神社の石段で骨の入った小箱に触れた時とか、夢島の夜とか」
 「それからさ、空港に向かう途中の会話がすごく印象的なんだよね」
 「もしかしてこの言葉?《いいえ、私は欲張りよ・・・だって、この幸せを手放すつもりはないんだもの。どこへでも、いつまでも持っていくつもりでいるんだもの》」
 「そう。マサミはどう思う?」
 「うーん。よくわからないけど、この日17歳になったばかりの女の子の言葉とは思えない」
 「だよね、やっぱり」
 「つまり、こういうこと?この子がいずれ帰っていく場所=別の世界に近寄った時、隠されたもう一人の彼女が顔を見せる。逆に言えば、もう一人の彼女が現れるという事は、死が近づいたことを意味している・・・」
 「もちろん、現実の世界ではそんなことは起こりえないけど、作者はこの小説全体を貫くモチーフとして竹取物語を使っている。まあ、一種のコラボレーションなのかな、っていう気もするね」
 「《別の世界》ってどんな世界なんだろう」
 「この子はアボリジニの人々の世界観に共感を感じているよね」
 「うん」
 「とすればやっぱり、地下の聖なる泉のある場所、ということかな。そして姿は見えなくても、時々こちらに顔を出す・・・」
 「天国とかあの世とかではないわけよね」
 「アボリジニの人々の宗教観っていうのはアニミズムの一種なんだ」
 「サク、難しい言葉を知ってるね」
 「ついこの間、文化人類学の講義でやったんだ」
 「アニミズムってどういうことなの?」
 「簡単にいえば、自然界や人間界のあらゆるモノが神や霊を宿して礼拝の対象になりうるっていう考え方だよ。生命の源は精霊で、精霊は自由にこの世界を動き回る。その精霊が出産適齢期の女性に乗り移ると子供が生まれると考えられてきた。精霊が宿り、やがて死んでまた生まれ変わって行く場所を聖地として大切にしていたんだ」
 「その場所の一つがウルルなのね」
 「そう」
 「ねえ、夢島の蛍の群れが精霊だったとすれば、それは死者の群れであると同時に、赤ちゃんの予備軍でもあったというわけね・・・」
 「うん。肉体はあくまで《着ぐるみ》なんだ。そのコスチュームをどんどん着替えていくように、生命の実体である精霊は何度も生まれ変わる。不滅なんだよ、この世界の中で」
 「天国なんて全然必要ないわけね」
 「だから《別の世界》っていうのも本当は無いんだろうね。すぐ横にいるのに《現在人間として生きている者》には認知できない。そんな状態になることを《別の世界に行ってしまった》と思うんだね、きっと」
 「あ、わかるような気がしてきた」
 「何が?」
 「この男の子は、女の子が死んでしばらくして、顔とかの記憶はだんだん薄れていく。だけど、いろんな場所で少しずつ彼女の存在を感じるようになるわけでしょ?」
 「ああ」
 「つまり、彼女の生命、彼女の実体というのはあくまで精霊なのね。肉体は滅びても、その実体は永遠に生き続ける」
 「うん」
 「そして彼は、精霊となって自由に動き回る彼女、いろいろなものに宿る彼女と、あちらこちらですれ違うわけよね」
 「そうだね。でもその姿を見ることはできない」
 「見えないけれども、感じることができる・・・」
 「一つの謎は解けたね。彼女の言葉・・・《わたしの身体がここにないことを除けば、悲しむことなんて何もないんだから》《ここからいなくなっても、いつも一緒にいるから》《自分がどこへ行くかわかっているから(○○はどこへも行かないよ)ええ、そうね・・・そのことがわかっていると言いたかったの》・・・こういう言葉は全部説明できるよね」
 ふと思い出したようにマサミが言う。
 「時々顔を見せた《別の人格》は彼女として生まれ変わる前の人格だったのかな」
 「そうかもしれないね」
 ミライがふうっと息をつく。
 マサミは、そんなミライを、どうしてこんなに愛しいんだろう、とでも言いたげな表情で見ていた。

 「お下がりください。お待たせしました、快速マリンライナー・高松行き、入線です・・・」

 「来たね」
 二人はすばやく車内に入ると、席を確保した。
 「やっぱり混んでるねー」
 「帰省ラッシュだからね」

 「ねえ、サク」
 「続き?」
 「うん。最後に校庭で撒骨するシーンは、夢島の夜のシーンのリフレインになっているじゃない?」
 「ああ。横にいる新しい彼女の人格が急に変わったように見える・・・桜の花びらが散り、その花びらに紛れて、○○の灰はすぐに見えなくなった・・・帰って行ったんだね、彼女は」
 「彼は気付いたんだ、きっと」
 「何に?」
 「彼女は自由に、いろんなところに存在している。それが本来あるべき状態なの。それを理解できるようになった今、彼女の一部を自分のもとに拘束しても、それはもう無意味なことだと。彼女を帰そう、自由にしてあげようと・・・」
 「彼が撒いた灰が単なる物質じゃなくて、彼女の実体の一部だってことは、花びらに紛れてすぐに見えなくなった、っていう表現を見ればわかるよね」
 「蛍が帰っていった時と同じ表現だもんね」
 「でも、心が動いた最初のキッカケはなんだったんだろうね・・・《この世界には、はじまりと終わりがある。その両端に○○がいる。それだけで充分な気がした》・・・どういうことなんだろう?」
 「ねえ、サク。私、ちょっとわかるような気がするな。この男の子にとっての世界のはじまりにはすでに彼女がいたでしょ」
 「うん」
 「それから、宇宙の時の流れから見ればほんの一瞬だけど、二人にとって幸せで濃密な時間があった。でも、その世界はあっという間に弾け飛んでしまった」
 「ビッグバンみたいなものか」
 「うん、そう。あのね、宇宙には《開いた宇宙》と《閉じた宇宙》があるんだって。今、私たちのいる宇宙はどちらだか判っていないんだけど、《開いた宇宙》だとすると、ビッグバンの後、永遠に膨張を続けて、最後には冷え切った死の世界になるんだって」
 「《閉じた宇宙》だとすると?」
 「永遠に膨張が続くように見えた宇宙も、ある瞬間から収縮に転じるんだって。そして、最後には元の一点に収束していくの。横軸に時間、縦軸に宇宙の広さをとると、こんな形になるのかな」
 マサミは空中にラグビーボールのような形を描いて見せた。
 「彼は自分の世界が《小さな閉じた宇宙》だと確信したのかな」
 「うん、私はそうだと思う。砕け散って、もう二度と巡り合うことなんかないと思っていても、人間の一生なんか遥かに超えた長い長い時間の後に、お互いに元の場所に戻ってくる」
 「そして、それが終焉の時なんだね」
 「うん。でも彼女は、はじまりと終わり、ちょうどラグビーボールの両端のところで彼のそばにいることになる」
 「この場合の彼女は精霊としての存在じゃなくて、白血病で死んでいった《彼女の人格》だよね」
 「もちろんそうよ。でも、でも・・・《またわたしを見つけてね》《すぐに見つけるさ》・・・美しいけど、すごく悲しい会話ね」
...2007/12/30(Sun) 08:23 ID:YGs.UQA2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:議運
【年末年始特集として朔五郎さんの作品を再掲します】
〜過去ログ17所収「木庭子町の正月」編から〜

 快速マリンライナーは瀬戸大橋にさしかかった。
 「わあ、遠くまで見える・・・」
 「すごい橋だろ」
 「うん、もう感動」
 「これを渡れば、いよいよ四国だよ」
 「あの女の子が生まれた島ね」
 瀬戸内の海がキラキラと光っている。

 「ねえ、もうひとつ分からないことがあるわ」
 「なに?」
 「あの女の子が人の死にも理由があると思う、と言っているでしょ?」
 「うん。彼の方はあの世や天国がないとすれば、死んでしまえばみんなおしまいだから、死ぬことに意味なんかありえないと言っている」
 「でも、アニミズム的な考え方では、人の死は単に肉体の消失で、生命の実体はこの世に存在し続けるわけだから、彼女の言葉も意味が通じるね・・・《いまあるもののなかにみんなある。みんなあって何も欠けてない》」
 「《いまここにあるものだけが、死んでからもあり続ける》同じ世界に存在するんだから、その通りだよね」
 「だけどサク、人の死の意味って、いったいなに?」
 「これも文化人類学の講義でやったんだけどさ、アイヌ民族の人々もアニミズム的な生命観を持っているんだって。むかし、アイヌの人々はね、この世で人間は一番下に位置していると考えていたんだって」
 「人間が一番下なの?」
 「そう・・・太陽の光は緑を育み、ウサギは他の動物の栄養になる。人間だけは何の役にも立っていない」
 「へえ」
 「ただひとつ、人間ができるのは神に祈ることだけなんだって」
 「ふーん・・・」
 マサミは不満そうな顔をしていたが、やがて言った。
 「でもさ、人間は万物の霊長って言うじゃない」
 「それはさ、キリスト教的思想・ヘブライズムなんだよ。キリスト教の考え方では、神が人間を創り、その人間の道具としてすべてのものを創った。地球も大自然も、全部人間の道具に過ぎないんだよ。だから自然を征服するって発想が出てくるわけ」
 「アボリジニの人々のアニミズムでは自然そのものに神が宿っているわけでしょ?」
 「いや・・・正確に言うと創造主である《虹を紡ぐ蛇》が自然界のいろいろなものに姿を変えたんだ」
 「ねえサク、今、虹って言った?」
 「うん・・・何か?」
 「女の子が空港から搬送された病院で彼にお別れを言う時、あの夏の日を覚えてる?って言ったじゃない?」
 「うん」
 「そして男の子は、頭の中で真っ青な夏の海を思い浮かべた・・・」
 「うん」
 「《あそこにはすべてがあった。何も欠けていなかった。すべてを持っていた》とも言っている」
 「そう、そのとおり」
 「そして船が故障して漂流するわ。夕立の後に虹が出て、それが自然の風景の中に溶け込んでいく・・・」
 「虹を紡ぐ蛇、つまり創造主が出現したような光景だったのかな?だから完全無欠だと・・・」
 「たぶん、そんなところね」
 「マサミ、アボリジニの人々は創造主のいた時代をドリームタイム《夢の時代》と呼んでいたんだ」
 「どういうこと?」
 「つまりさ、人間が夜に夢を見るでしょ?その夢の中で人間の力を超えるような経験をしたりする」
 「この男の子もウルトラマンのように空を飛ぶ夢を見たって言っているわ」
 「人間は夢の中で、創造主が持っていた不思議な能力を体験できるわけだ」
 「男の子にとって、彼女がいた夏の日はまさに《夢の時代》だったのね」
 「そうだね」
 「っていうことは、夢島っていう名前の意味は」
 「作者はふたつの意味を持たせたんだろうね。ひとつは、少年と少女の夢のような初恋の思い出の場所」
 「でも、その裏に隠された本当の意味は・・・」
 「うん・・・《人間の能力や常識を超えた現象が起こる場所》」
 「夢島っていうのは、なんだか平板なネーミングだと思ってたけど、深い意味があったのね」

 「ご乗車ありがとうございました。まもなく坂出に到着します・・・」

 「小説の話をしながら、こんなとこまで来ちゃったね。あと20分くらいで高松に着くよ」
 「でも、なんか楽しかった・・・いつもと違う感じでサクと話ができて」
 「それも、もうすぐ終わりだね」
 「ちょっと淋しいような・・・」
 「あ、マサミ。今演劇部の次回公演の相手役は誰になったの?」
 「ヤマシタくん」
 「ちっ、またジャニーズっぽいやつか」
 「別に私が選んだわけじゃないよ。あ、サク、妬いてるの?」
 「そんなことねえよ」
 「さて、話を戻して、最後の謎解きをしよう」
 「女の子が生まれ、そして死んでいった理由だね?」
 「ねえサク、アボリジニの人々がアイヌ民族に近い考え方を持っているとするとすれば、人間が生きるのは神に祈るため、ということになるよね」
 「うん」
 「この二人が授業中、天国や神様の話をしていて、廊下に立たされたことがあったでしょ?」
 「チンパンジーやゴリラのDNAの授業のときだね」
 「あの時に、この女の子は《あの世は信じないけど神様は信じる》と言ってるよね?」
 「そう、そして自分の神様はこの世の都合で創りだされた神様じゃないともね」
 「ということは、キリスト教やイスラム教で考えるような神じゃなくて自然界に元々存在するような神ということね。アニミズムに近いような気もするけど、彼女はその時にはまだアボリジニ関連の本とかは読んでないはずよ」
 「やっぱり元々そういう資質があったんだろうね。そして、アボリジニの世界観と出会い、運命や境遇と重ね合わせて、自分なりのユートピアを見出した」
 「それで自分自身を納得させようとしたのね」
 「うん」
 「それじゃ彼女は自分が生まれてきたのは、自然や自然に宿る神に祈るためだと思ってたの?」
 「生まれてきた理由はね」
 「じゃ、死んでいくことの理由は?」
 「彼女は病院での別れの時言ってるよね《でも悲しまないでね》《わたしの身体がここにないことを除けば、悲しむことなんて何もないんだから》って」
 「うん」
 「彼女は気付いて欲しかったんじゃないかな」
 「何を?」
 「命や人を愛することの本質をさ」
 「そうか・・・この男の子は最初、彼女のカラダのことばっかり興味を持ってたよね」
 「男のオレから見てもちょっと異様さを感じるほどだね」
 「って言うかさあ、サクはちょっと臆病過ぎたんだよ」
 「んなことはねえよ」
 「そうだって」
 「ああ、ハイハイ、マサミ先生のおかげで、今ではオトナになれました・・・イテェ!」
 マサミは周囲を見回して、声をひそめながら言った。
 「ちょっと、それじゃ私がムリヤリ迫ったみたいじゃない。ま、いいか。今では、すっごくイイ男になってくれたから・・・好きだよ、サク」
 「・・・ほら、話がズレちまった。で、この小説の中の彼は最初、彼女の肉体のことしか考えていなかったわけだけど、やがて彼女が病気になるわけだ」
 「やせ衰えて、髪も喪って・・・私は経験ないけど、女性が髪を喪うっていうのはものすごく重大なことよ。ちょっと男性には想像できないかもしれないけど。昔ね、近所の小学生の女の子がやっぱり同じ病気になって治療を受けてたんだけど、そんな小さな女の子でさえ、髪が抜けるのをすごく気にしてたわ」
 「そんなふうに彼女は《表面上の美しさ》をどんどん失くしていく。でも、不思議と冷めた平静さを保っているんだよね」
 「そう、彼女の精神的な強さはやはり自分自身のユートピアを持っていたからだと思うわ」
 「彼女は自分の死の意味が、《かたちあるもの》でなくなるに過ぎない、と悟っていたような気がする。だから、最後にオーストラリアに行くときでも、永遠の時を過ごす場所に行く、という意味があったような気がするね」
 「空港に向かう途中でも、彼のほうは、もう悲しくて悲しくてどうしようもないのに比べて、彼女のほうは冷めた目で前を見ている。もう現状というものに見切りを付けちゃってる感じで。この対比はすごく鮮やかだわ」
 「そうだね」
 「たとえばさ《結婚する》って言うとき、彼は世の中の普通の男と女がする結婚をイメージしているよね」
 「うん」
 「でも、彼女が抱いているイメージはきっと違うんだろうな」
 「どんな感じ?」
 「彼女は自分が《かたちなきもの》になることを前提にして、そうだな、生命と生命の融合っていうか、同化っていうか・・・そんなものを思い浮かべてるんじゃないかな」
 「彼女の死後には、彼もそこらへんのところを感じるようになるよね」
 「うん、あんなに彼女の肉体に執着した彼だけど、肉体が消滅しても彼女の存在感は消えることはなかったのよ。ある意味で彼はそのとき初めて、自分が愛していたものが何だったのかを知ったんだと思う」
 「つまり、名前さえ正確には知らなかった彼女の本質だね」
 「そう」
 「彼女は自分の身体が消滅する運命であると悟ったとき、彼にその本質を教えようとした・・・」
 「彼が生きていく上での栄養になろうとしたのね」
 「この小説の中では、彼が彼女を食べる、というような表現がいくつか出てくるんだよね」
 「神社で待ち合わせをしたとき、それからお見舞いに行って彼女の顔の前に手をかざしたとき・・・」
 「それから、ビスケットを齧る《サク、サク、サク、サク》という音。これは食べられるほうが逆のような気もするけど、やっぱり同類の表現でしょ・・・あ、キラ星のごとく並ぶ文豪の中から、主人公の名前として、この名前を選んだのはこの音感、リズムが欲しかったのかもしれないね。もちろんそれだけじゃないだろうけど」
 「確かにそうね・・・それはともかく、ねえサク、アボリジニの人々にしろアイヌ民族にしろ、アニミズムの底流には生命の連鎖っていうか、生命は他の生命の糧になるために存在するっていう思想があると思うんだけど・・・」
 「そうだね」
 「彼女は、アボリジニ風に言えば《彼に命を与える準備ができたから食べてもいい》と思ったのかな」
 「うん、オレもそんなことを感じた」
 「最後のほうで、彼のおじいちゃんが、いろいろなことを言っているよね。でも結局、愛する者の死によって人は善良になると言ってるね」
 「生命や愛について、謙虚で優しい心を持つようになるということじゃないかな」
 「だよね、きっと」
 「なあ、マサミ。この小説は《不治の病に冒された恋人に対する、少年の献身的な純愛》を描いた物語だと思われることが多いと思うんだ」
 「うん、私もそう思ってたわ」
 「確かに、オーストラリアに連れて行こうとしたり、そういう一面はあるとは思う。でも、それ以上に、自分の生命を与えることにより、人を愛することの本当の意味を教えようと思った彼女の思いがすごく心を打つんだよね」
 「結果的に彼は、真の意味で女性を愛することができる一人前の男になれたとも言えるね」
 「・・・彼女はこんなふうに願ったのかな・・・仮の姿ではない本当の私を感じて。そして、いつかあなたが、かたちなき精霊になる日、すぐ傍にいる私をもう一度見つけてって」

 「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点高松です。どなたさまもお忘れ物などなさいませんよう、ご注意ください・・・」

 「サク・・・もしも、もしも私がサクを残して死ぬようなことになったら、私もきっと彼女と同じことを考えると思うわ・・・」
...2007/12/30(Sun) 08:32 ID:YGs.UQA2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:議運
【年末年始特集として朔五郎さんの作品を再掲します】
〜過去ログ17所収「木庭子町の正月」編から〜

 ミライとマサミは高松駅のホームを歩いていた。
 「へえ、この駅は線路がみんな行き止まりになってるんだね」
 「うん」
 「子供の頃行った、北海道の函館駅に似てるわ。階段を上り下りしなくても乗換えができるのね」
 「高松も函館も、元は連絡船への乗り換えの駅だったからね。あ、それから駅前の広場には、海水を引いた池があってね、海の魚が泳いでるんだよ」
 「わあ、おもしろい」
 「あとね、駅前から庵治町へ行くバスが出てるんだけど、バスのりばの横の観光案内所で、映画のロケ地マップをもらえるんだ。バスの中でそのマップを見ながら作戦を立てることができるんだよ」
 「へえ、映画のロケ地なんかあったんだ。その映画って《大空に続く道》でしょ」
 「そうだよ。すごい話題になったよね。いつも彼女にからかわれている少年・・・まるでオレたちみたいだね・・・イテェ!」
 「ちょっと、全然似てないわよ、私たちには・・・でも、あの映画、風景がきれいだったよね。行ってみたいな」
 「行ってもいいけど、はっきり言って木庭子町とほとんどいっしょだよ・・・でもまあ、せっかくだから行ってみるか」
 「うん、うれしい」
 やがて、高徳線のホームにたどりついた。
 「さあ、これに乗るよ」
 「どこで降りるの?」
 「木庭子口だよ。そこから古町行きの路面電車に乗り換えるんだ」

 「次は木庭子口、木庭子口です。古町方面へおいでの方はお乗換えです・・・」

 「わあ、かわいい電車・・・あれ、この電車、青いラッピングをしてスポーツ飲料のCMに出てなかったっけ?」
 「残念だけど、あれは同じ四国でも高知県の土佐電鉄なんだ。これは木庭子町交通局だからね」
 やがて、路面電車は走り始めた。
 まもなく、進行方向右側の車窓に奇怪な形をした山が見えてきた。
 「サク、変わった形の山だね」
 「あれはね、五剣山と言うんだ」
 「へえ、なんか名前に合っている感じ」
 進行方向左側は深い入り江のような海が見える。そして、その向こうにはテーブルのような形をした山があった。
 「あの平らな山が屋島。そしてその手前の海が壇ノ浦古戦場だよ」
 「え、じゃあ平家はここで滅亡したの?」
 「いや、あの壇ノ浦は関門海峡のほうでね。ここでの戦いは屋島の合戦と呼ばれているよ」
 やがて電車は少し急な坂を登り小さな峠のようなところを抜けた。
 目の前に青い空と海が広がった瞬間、マサミが叫んだ
 「わあ、きれい。まさに大空に続く道っていう感じだね」
 「ほら、あそこに小さな入り江があるだろ」
 「うん」
 「平家の軍勢は、あそこに船をたくさん隠して、源氏の水軍を待ち伏せしていたんだ。それで、あそこを《船かくし》というんだよ」
 「ふーん・・・あれ?」
 「どうしたの?」
 「あそこに座ってる女の子・・・」
 「そういや、さっきまでいなかったね」
 「ハルカちゃん、あ、私の高校の後輩で野球部のマネージャーなんだけど、あの女の子とソックリなの。それに、ハルカちゃんがアマチュアの劇団で演じているキャラにピッタリの雰囲気だわ」
 その時、その少女がゆっくりと二人のほうへ顔を向け、はんなりと微笑んだ。
 この世のものとも思われない、ゆったりとした神秘的な微笑。
 ミライとマサミはまるで引き寄せられるかのように、その少女の近くに席を移した。
 軽く会釈した後、思い切ってマサミが話しかける。
 「あの、もしかしてハルカ・・・ちゃん?」
 少女はニコリと笑うと、首を振りながら言った。
 「いいえ、私は吉野静です」
 「あ、すみません・・・私の知り合いによく似ていたものですから・・・私、長沢マサミです」
 「マサミさんですか・・・そちらはマサミさんの彼氏かしら?」
 「はい、佐久間ミライです」
 「いいわねえ、うらやましい・・・」
 「何がですか?」
 「いつも一緒にいられて」
 「シズカさんの彼は?」
 静ははるか遠くの海を見つめながら言った。
 「もう長いこと会っていないわ」
 「えっ」
 「彼は弓道部に入ってて、前にここらへんで団体戦の大会があったのよ。それがちょっと変わったルールだったの。海の上にボートを浮かべて、そこに立てた棒の一番先に扇をつけて、それを的にしたの。当然命中する人なんかほとんどいなかったんだけど、彼の弓道部は、那須野選手が扇を射抜いて優勝したのよ。私の彼は主将だったんだけど、優勝が決まった後、気が抜けて弓を海に落としてしまったの。彼はあわてて海に飛び込んで回収しようとしたけど、皆に止められてしまった。どうせそんなに高いものじゃないだろ?命とどっちが大事なんだ?ってね」
 「値段の問題じゃないと思うけど、本当に大事なら」
 「そりゃそうなんだけど・・・彼がそれを拾おうとしたのは、誰かにその弓を拾われたときに、ああ、あそこの主将の滝沢の弓はこんなに貧弱なのか、と思われるのが嫌だったからなの。本人がそう言ってたわ」
 マサミが聞く。
 「今、あなたの彼は?」
 「滝沢くんは岩手県のほうへ行ってしまった。それ以来会ってないわ」
 「今日は彼との思い出の場所に来たの?」
 「ううん、私たち、ここに一緒に来たことはないのよ。でも、彼が活躍した場所だから。そして彼の夢が宿る場所だから・・・私、日本舞踊やってるから、彼に私の舞を見せて上げたいの。ここで舞えば、その思いが彼に届くような気がする」
 次第にその姿が薄れていくなか、言葉だけが残った。
 「陽が落ちたらね、浜辺で舞うの・・・」
 「陽が落ちたら・・・」
 マサミがその言葉を繰り返した。
 今、起こったことは?
 目の前の海の色は目の覚めるような青だった。
 まるで、そんな少女などいなかったと言われているような気がした。

 「ねえ、サク」
 「なに?」
 「写真館の重じいは80年間、同じひとのことを思い続けているんだよね・・・」
 「そうらしいね」
 「とても信じられない話だけど、きっとホントだね」
 「うん」
 「だってここは、愛する男性のために、800年間舞い続けるひとの魂が宿る場所だから・・・」

 路面電車はいつしか、市街地の広い通りを走っていた。
 「ここらへんが木庭子町の中心だよ。ほら、あそこが町役場」
 やがて、前方に重厚な石造りの建物が現れた。
 「ねえサク、あの建物はなに?すごく立派だね」
 「あれは木庭子町立病院だよ」
 「病院なの?知らない人が見たら県庁の建物と間違えるよ」
 その時マサミはハッとして言った
 「・・・もしかして、あのひとが亡くなった病院?」
 「そう、1986年、17歳の誕生日に、あのひとはこの病院で息をひきとった」
 「やっぱり」
 電車がその前を通り過ぎるとき、ふたりは黙って手を合わせた。

 ふと、まどろみから覚めると、ミライの姿が消えていた。
 電車は小さな十字路に停まった。
 マサミはあわてて飛び降りる。
 電車は左に曲がって、海沿いの道を走り去っていった。
 ・・・まっすぐおいで
 声が聞こえた。
 マサミにはその声の主がすぐにわかった。
 右手に小学校のグラウンドを見て、さらに進んで行くと、道はだんだん狭くなってきた。
 右側に小さな流れが寄り添ってきて、その流れに架かる橋の赤い欄干が見える。
 ・・・初めて来る場所、なんだかとっても懐かしい
 ・・・おかあさんが迎えに来てくれて、とってもうれしかったあの時みたい
 その橋を渡り終えたとき、笑い声が聞こえた。
 ちょっとイタズラっぽくて、かわいらしくて、でもどこか謎めいたその声。
 マサミも顔いっぱいに笑みを浮かべてクルリと振り向く。神社の石段があり、あのひとがそこに座って微笑んでいた
 そこには
 ・・・おかえり
 ・・・ただいま。また呼んでくれてありがとう
 ・・・わかってたんだ
 ・・・そりゃね。だってなんだか、おかあさんみたいに思えるんだもん
 ・・・そう言ってくれると、うれしいよ
 ・・・でも、おかあさんにしてはずいぶん若いね。私よりずっと若い
 ・・・だって、17歳になったばかりだもん
 ・・・永遠に17歳?なんだかずるい
 ・・・それは違うよ
 ・・・どうして?
 ・・・人間はね、自然に成長して、年をとって、消えていくのがしあわせなんだよ
 ・・・そうなの?
 ・・・そうだよ。あ、来年、成人式でしょ?いいなあ、晴れ着を着られて
 ・・・私、見せに来るから
 ・・・うん、自分のことみたいに楽しみ
 ・・・ねえ、やっぱりサクと私をめぐりあわせたの?
 ・・・フフッ、それはどうかな
 ・・・ねえ、そうなんでしょ?
 ・・・教えない
 ・・・イジワルね
 ・・・でも彼、とってもいい感じね
 ・・・あ、気に入ったからって、そっちに連れて行かないでよ
 ・・・そんなことするわけないでしょ。娘の彼氏を奪ってどうするの
 ・・・安心した
 ・・・ほら、彼が呼んでるよ
 ・・・ホントだ
 ・・・さ、もう彼のところへ行きなさい
 ・・・うん
 ・・・しあわせにね
 ・・・ありがとう

 「・・・マサミ・・・マサミ、古町についたよ」
 「あ、寝ちゃった」
 「寝てる間さ、ずっと楽しそうな顔をしてたよ。時々ニコニコ笑ったりしてさ」
 「うん。とっても好きなひとに会ってた」
 「えっ・・・もしかして、元カレ、とか?」
 「そうかもよ、フフッ」
 「そうなんだ・・・」
 「ウソだよ」
 「ウソかよ」
 「・・・ねえ、サク。しあわせにして、私のこと」
 「どうしたんだよ、急に」
 「いいから・・・しあわせにしてよ・・・」
...2007/12/30(Sun) 08:42 ID:YGs.UQA2    

             Re: 「世界の中心で、愛をさけぶ 2...  Name:議運
【年末年始特集として朔五郎さんの作品を再掲します】
〜過去ログ17所収「木庭子町の正月」編から〜

 「眠れないの?マサミ」
 「うん・・・どうしてかな、眠れないの」
 「何か恐いことでもあるの?」
 「明日が来るのが、来年が来るのが、とっても楽しみで、ドキドキして眠れないの」
 「ふーん」
 「私、もうサクがいなくちゃ生きられないと思う・・・」
 「もう一度、温泉行くか」
 「うん」
 二人は音を立てないようにそっと廊下に出た。

 二人は露天風呂に浸かった。体は温かい湯の中にあるが、顔に当たる冬の海風が心地よかった。
 「露天風呂だと長く入っててものぼせないからいいよね」
 「うん」
 今日一日に起こったいろいろなことが二人の距離を近くしていた。肩をぴったり寄せ合って二人は空を見上げる。
 「すごい星空」
 「ああ、きれいだな」
 「私、今、とてもしあわせな気持ちで星を見てる」
 「うん」
 「ちょっとしあわせ過ぎて恐いような気もするの。きっと何かが・・・」
 「やめろよ、マサミ」
 ミライの、いつになく厳しい口調にマサミはハッとした。
 「弱気になったり、悪いことを考えたりすると悪魔につけ込まれるぞ」
 「サク・・・」
 「オレは世の中のプラスを拾い集めて、マサミに回してやる。そうやってマサミを守ってやるよ。マサミは将来、介護の仕事でそのプラスを還元して、今度はお年寄りたちを助けてあげればいい」
 マサミはいま、自分の人生が新しい章に入ったことを感じていた。
 それは新鮮な驚きだった。そして感動だった。
 古い自分を脱ぎ捨てて生まれ変わる、それはミライの存在なしには起こりえないことだった。
 「私ね、いままで人に頼られることが多かったの。いわゆるアネゴっていうやつ。自分でもその気になってた。だから、サクと知り合ってからも、どっちかっていうと尻に敷いちゃおうかなあ、って思ってた。でもね、最近ちょっと違うの。頼りたいの、守って欲しいの。サクやサクのお父さん、お母さん、お姉さんとも助けあっていきたいの、ずっとずっと。あのひともきっとそうだったと思う。大好きな彼に素直に甘えて、その腕の中で目を閉じて、暖かさを感じたかったと思うの。でもまだすごく若かったし、素直になれないで強がっているうちに、あんなことになってしまったような気がするの」
 「でもさ、そうするとオレたちはあのひとの出来なかったことを実現するために生きてるの?単なる立体コピーっていうわけ?」
 「違うよ。私たちは私たちだよ。あのひとにはあのひとの、素晴らしい夢や希望があったはずだよ。でも、それを誰にも話さないまま、あのひとはウルルの空へ行ってしまった・・・あのひとが私たちに言いたいことはたった一つだけだと思うよ。《あなたはあなたの今を生きて、しあわせになるために》」
 「それじゃマサミのしあわせって、なに?」
 「サクと何でも話せること、理解しあえること、サクが私より一日でも長生きして、私の一生を包んでくれること」
 「え?男のほうを後に残すなんて、そりゃちょっとひどいんじゃないの?いざとなったら男のほうが繊細なんだぜ、結局」
 「大丈夫だよ。たぶん子供たちがいるから、一人ぼっちにはならないよ」
 「あ、そっか」
 上目づかいにミライを見ながらマサミが言った。
 「それでも淋しくて淋しくて、どうしようもないくらい淋しかったら、新しい奥さんをもらってもいいよ」
 「心にもないことを言うなよ」
 「バレたか、へへっ」
 「実はオレもさ、なんか不思議な気持ちなんだ・・・東京の部屋で朝目覚めるたびに、マサミの幻がそこにいるんだよ。幻だとわかっているけど、冷たくないんだ。抜け殻じゃないんだ。温もりを感じるんだ。そんな時、ああ、オレとマサミはもうこんなにも繋がっているんだと思って、ちょっと苦笑いしちゃうんだよね」
 その時、流星が夜空を駆け抜けて行った。
 「またひとつ、流れ星の命が燃え尽きたね」
 「ねえサク、あのひとも彼と一緒にこの夜空を見上げたのかな」
 「見ただろうね、きっと」

 あの日見てた星空
 願いかけて二人探した光は
 瞬く間に消えてくのに
 心は体は君で輝いてる・・・
 (作詞 ken hirai「瞳をとじて」より)

 「マサミ、人間てさ、しあわせを求め続ける生き物だよね」
 「うん」
 「だからさ、あのひとが自分の命があとわずかで燃え尽きると知ったあとでも、きっとしあわせを抱きしめようとしただろうね」
 目を閉じてマサミが言う。
 「そのしあわせは、きっと今の私と同じ・・・愛する彼を最後の瞬間まで感じていること」
 「あのひとは最後に彼に会おうとしなかった・・・マサミはなぜだと思う?」
 「彼を愛していたからよ。それ以外のなにものでもないと思うな、私は」
 「どういうこと?」
 二人は思わず見つめ合った。
 「私なら、愛するひとにしあわせになって欲しい。そんな彼の姿を見ていたい。悲しむ姿なんて見たくない。自分がいなくなるとすれば、なおさらにね」
 「あのひとは、彼が前向きに生きていく姿を思い浮かべていたかった・・・最後に涙に濡れて嘆き悲しむ姿など見たくはなかった・・・そういうことなの?」
 「うん、あのひとは何より愛する彼のしあわせを願い、それを想像しながらウルルに旅立っていったと思う」
 「そういうものかな、愛するっていうことは」
 「私はそう思う。少なくとも今はね」
 「マサミ・・・」
 「なに?」
 「しようか?」
 「キス?」
 「うん」
 「好き、大好き・・・サク」
 語り合うふたりを慈しむかのように、時はゆっくりゆっくり流れていった。
...2007/12/30(Sun) 08:47 ID:YGs.UQA2    

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