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過去ログNo1
続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
このスレッドは、多くの方が残された「サイドストーリー」の作品群を埋没させないことを目的に立てたものです。
スレッドの維持のために、当面は朔五郎が投稿していきますが、上記のことが主目的であることをご承知おき下さい。
特に初期の作品群を読むと、まだオンエアされて間もない頃の、新鮮な感動が感じられてとても興味深いと思います。
これら作品群は、いわゆる「セカチュー現象」と呼ばれるものについての貴重な資料にもなると思われます。

「続・サイド・・・」Part.1
お題は「もし、亜紀が生きていたら」
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=3030&pastlog=15

今は過去ログに行ってしまった「これは・・・」
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=3966&pastlog=0009

他にも「サイドストーリー」関連のスレッドをご存知でしたら、教えてください。ただし、当BBS内に限ります。
...2005/08/04(Thu) 00:19 ID:bhfrNPYY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:1ファン
いろんなお話がありますが、読みやすく作品ごとに纏めることはできないでしょうか?

掲示板への投稿という都合上、お話の本編と感想レスが入り乱れて非常に読み難いのです。
(自分でコピペして編集しています)

勝手な意見で心苦しいですが、各作品の執筆者さん、当サイト管理人さんも御一考くだされば幸いに思います。
...2005/08/04(Thu) 02:21 ID:XWnpO4GQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
1ファンさまへ
各執筆者の方々のお考えはそれぞれ違うと思いますので、朔五郎の関与するスレに限定してお話します。
朔五郎が別スレで書いている物語は、複数の執筆者の共作であるという特殊性のため、どうしてもBBS上で「編集会議」を行う必要性がありました。
そんな「ウラ話」的なところを見て頂くのも面白いのではないか、と開き直り、そのまま来てしまったというのが実情です。
また「雑談」的な話題を取り上げる場合、わざわざ新スレッドを立ち上げるよりも、自分がスレ主のところで済ませてしまった方がよい、と考えることもありました。
対策としては、ストーリーの部分と、それ以外の話題の部分の文字色を変えることなどで、読者の方が少しでも分かりやすくなるようにすることなどを検討しております。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。
...2005/08/04(Thu) 23:56 ID:bhfrNPYY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 1ファン様
 執筆者の皆さんを差し置いてコメントするのもいかがなものかと思って遠慮していたのですが,続編スレのメイン・ライターの朔五郎さんからコメントがありましたので,関連して申し上げます。
 朔五郎さんもおっしゃっておられるとおり,ここの特色は,複数の執筆者が編集会議を開きながら共作で進めていくという点にあります。これには若干の経緯があって,最初の執筆者の方が所用のためしばらく留守をされた際に,別の方々がリレー形式でつないでいくということが自然発生的に行なわれたというのが出発点なのです。
 その後も,こうした人たちがスレッド上で打ち合わせをしながら,執筆を分担したり,競作したりということが続きました。また,自ら執筆しないまでも,単なる感想にとどまらず,素材を提供したり,問題提起をしたりする書き込みが寄せられる中で,これを筋書きに反映させるというフィードバックもなされています。つまり,書き手・受け手の一方通行ではなく,双方向型・参加型というこのメディアの特性を生かした営みが続けられていると考えることもできます。
 なお,ご指摘の件につきましては,現在は諸般の事情から中断しているようですが,本編と平行して別途「整理サイト」を設けるということも試みられておりますので,併せてご理解いただければと存じます。
...2005/08/05(Fri) 00:16 ID:sd3Ez7WA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(13) 最後の日1

宮浦高校のグラウンドでは今日も陸上部が練習していた。
グラウンドの隅のいつもの場所では、朔が亜紀の走る姿を見ていた。

谷田部が話しかける。
「ねえ緒形、あんた、今の松本みたいに、いつもあそこで見てたよね。桜井はいつも走ってて・・・」
「はい」
「桜井が最後に走った日のこと、覚えてる?」
そんな緒形を、智世が見ていた。

練習が終わった後、谷田部は亜紀と智世を呼び寄せた。谷田部の側にはアシスタントコーチの深田が控えている。
深田は宮浦高校在学中、愛媛県内でも屈指の女子スプリンターであった。美少女であった彼女は、同じ陸上部の砲丸投げの選手と付き合っていた。
不幸は練習中に襲ってきた。彼の投げた砲丸が、トラックを走っていた深田の腰を直撃してしまったのだ。彼女の競技生活は終わりを余儀なくされ、一時車椅子の生活になってしまった。宮浦高校のみならず愛媛県内の陸上関係者の間に衝撃が走った。幸いにも、深田の傷は回復し、日常生活には支障のない状態になった。現在、陸上競技の指導者になるべく、谷田部の下で研修をしている。
「廣瀬、上田、予選は良く頑張ったね。いよいよ県大会本番だよ。100m走の全国大会への出場枠は二つ・・・」
亜紀と智世はなんとなく顔を見合わせた。
「二人の実力なら、揃って全国大会に行けるよ。二人が勝つのを見て、私も幸せになりたい・・・」
「あ、ああ、ゴメン・・・深田はちょっと黙ってて・・・廣瀬、上田、あんたたち、もちろん二人で全国大会に出たいよね」
二人はこくりと頷いた。
「じゃあ、わかってるね。そのためには高い高い壁を乗り越えなきゃならないんだよ」
「はい。私たち、二人揃ってあの人に勝たなくては」
「そうだよ、でも生やさしいことじゃないよ、彼女に勝つのは」
「私と一字違いの・・・」
「そう、伊予高校の広瀬・・・」
松山市近郊にある伊予高校は、以前、映画のロケが行われたことで知られていた。
その高校をいっそう有名にしたのは広瀬の存在であった。
美しくしなやかな走り、そして圧倒的な強さ。
いつしか彼女は「愛媛史上、最強」と呼ばれるようになった。
「まあ、あんたたちは二年生、向こうは三年生だから、胸を借りるつもりで気楽に、と言ってやりたいけど、競技の勝敗ばかりは学年に関わりないからね」
「はい」
「じゃあ、今日はゆっくり休んで。明日からはまた気合を入れて練習だよ」
「はい」

「谷田部先生」
「ん?深田、何か気になることでもあるの?」
「あの二人、県大会は大丈夫でしょうか」
谷田部はちょっと渋い顔をした。
「深田はどう思う?」
「上田さんは絶好調です。今日のタイムは12秒45でした」
「ここにきてずいぶん伸びたね。大会が近づくにつれもっともっと速くなるよ。上田は心配なさそうだね」
「はい」
「あんたも気付いてると思うけど、廣瀬は調子を落としてるね」
「ええ」
「廣瀬・・・」
谷田部は亜紀を思い、深い溜息をついた。

「上田・・・」
「あ、緒形先生」
「今日は君たちの練習を見せてもらったよ」
「先生も陸上に興味があるんですか?」
「うん・・・高校時代付き合ってた子が、君と同じように短距離の選手だったんだ」
「そうですか」
「彼女、ほんとにいつも走っててね、どうしてそんなに頑張るんだ、って聞いたことがある。そしたら、短距離っていうのは瞬発力つまりバネが一番大事なんだ。だから、バネを強くするためにトレーニングするんだって」
「陸上選手のお手本ですね・・・あれ、その先輩は今はどちらに?」
「彼女の母親の出身地の修善寺っていうところにいるみたいだよ」
「遠いところですね。先生、卒業の時別れちゃったんですか?」
「いや、彼女はこの高校を卒業していないんだ」
「え・・・」
「高二の時ね、突然いなくなってしまったんだ」
「突然いなくなった?」
「そう、忘れもしない十月二十四日・・・」
「先生・・・」
「当時の担任教師の真田っていうのが彼女に言い寄ってね、彼女はもちろん拒否したんだけど、それが噂になっちまった。すると真田はサッと逃げてしまい、彼女だけがバカをみたわけさ。それで学校に居づらくなってしまったんだ」
「そんな理不尽な」
「上田、世の中なんていうのはそんなもんさ。正しい者が得をするとは限らない。不正を告発した勇気ある人が、結果的に一家離散に追い込まれるなんてこともある」
「ひどい話・・・」
智世は心底怒った顔をした。
「まあ、それはともかく、それきり彼女には会っていないよ。上田、今度の大会頑張れよ。君なら全国大会に行けそうな気がするよ」
「ありがとうございます、緒形先生。また練習、見に来てくださいね」

(続く)
...2005/08/05(Fri) 00:37 ID:khNNV7tM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(14) 最後の日2

全国大会出場枠を賭けた県大会まであと3日。
陸上部、特に亜紀と智世は最後の調整に汗を流していた。
このところ不調だった亜紀もようやく復調の兆しをみせていた。
「よし廣瀬、12秒51」
しかし谷田部には分かっていた。伊予高校の広瀬は、その実績から考えて12秒3から4で走る可能性が高いこと。そして、広瀬に喰らい付いて行けるとすれば、絶好調の智世であろうということを。

「緒形先生」
智世が緒形を呼び止める。
「ああ、上田・・・どうだ、調子は?」
「おかげさまで絶好調です」
「そうか・・・」
「先生、高校の時付き合っていたひと、速かったんですか?」
「速かったよ」
「桜井ミチル先輩、どんなひとだったんですか?」
緒形は遠いところを見つめるように言った。
「何を話せばいいかな・・・人に話したことなんかないから、何を話していいのかわからないんだ」
「じゃあ、一番幸せだった時の話・・・」
「幸せだった時、か」
緒形の脳裏に、キリンを見てはしゃぐ桜井の姿が浮かび上がった。
「松山に動物園があるだろ?」
「とべ動物園ですよね?」
「うん。昔はあれが道後公園の中にあったんだ」
「そうなんですか」
手を引かれるように、緒形は話し始めた。

高校2年生の緒形尚人は、今日も桜井未散(ミチル)の練習を最後まで見守っていた。あたりが薄暗くなって来た頃、ミチルはようやく練習を止めた。
「なあミチル、どうしてそんなに頑張るの?明日だってまた練習あるんだろ?少しは息も抜いたほうが・・・」
「あ、うん、ちょっとね」
ミチルは動揺しているようだった。
「あ、そうだ。尚ちゃん」
ミチルは尚人にストップウオッチを渡した。
「ちょっとタイムを計っておきたいんだ・・・」
「わかった」
尚人はゴールラインのところまで走って行った。ミチルの方に振り返って、白いハンカチをヒラヒラ振って見せた。
「見える?」
「うん、見えるよ」
「よし、じゃ用意・・・」
「スタート」の言葉の代わりにハンカチをサッと振った。
ミチルがスタートを切る。
(お、速いな・・・)
風のようにゴールラインを横切った瞬間、尚人はストップウォッチを止めた。
「12秒92」
「やった、自己ベストだ」
顔いっぱいに、うれしそうな笑みを浮かべてミチルははしゃいでいた。
「よかった、一生の思い出になる・・・尚ちゃん、ありがとう」
「お、おい一生の思い出って」
「ゴメン、忘れて・・・今のこと」

尚人は暗闇の中、目を開いて考え続けていた。
おかしい、やっぱり普通じゃない・・・
やっぱり真田のことなのだろうか。
そのことで、一部の女子生徒がミチルに嫌がらせのようなことをしているのは知っていた。しかし、負けず嫌いのミチルは言葉に出して愚痴るようなことは決してしなかった。
「でも辛いよな、きっと」
胸騒ぎを抑えることができず、尚人は夜明け前の道をミチルの家に向かって走った。
ミチルの家の前に着くのとほぼ同時に、二階にある窓の一つが開いた。ミチルの部屋の窓だ。驚いて見ていると、ミチルは靴を投げ落とすと、窓から屋根の上に出て、地面に飛び降りた。
靴を履いて立ち上がった瞬間、ミチルは尚人の存在に気付いた。
一瞬動揺の色を見せたものの、すぐにこう言った。
「尚ちゃん、学校さぼらない?松山に行こう。さ、始発に乗るよ」
「お、おい」
「いいから。さ、早く」
事態が良く呑み込めないまま、尚人はミチルと始発列車に乗った。
「何かあったの?」
「私、もう我慢できない」
「真田のこと?」
「そう・・・別に何かがあったわけでもないのに、変な噂を流されたり、嫌がらせをされたり」
「やっぱりな」
「私、東京に行く」
「え、東京って」
「向こうでアルバイトを見つけて独りで生活する」
「そんなムチャクチャな」
「大丈夫、何とかなるよ。誰も私を知らない場所で暮らしたい」
「無理だよ、やめろよ」
「私、もう決めたの。だから今日一日は松山で思い出作りをしたいの」
「思い出作り・・・」
「道後動物園に行かない?一度行ってみたかったんだ」

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(15) 最後の日3
...2005/08/05(Fri) 00:44 ID:khNNV7tM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
このスレッドでは、朔五郎が創作した物語は「赤い文字」で、その他の話題は別の色の文字で書くことにしました。試験的にやってみます。

ドラマでは、亜紀が100m走、智世は800m走でしたが、ここでは二人とも100m走としています。

ちなみに、高校女子100m走の愛媛県記録は12秒11のようなので、タイムも12秒3くらいに設定しました。
...2005/08/05(Fri) 00:52 ID:khNNV7tM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:ふみ@管理人
朔五郎さん収集などありがとうございます。
『続・サイド・・・』を過去ログに送りましたのでお知らせしておきます。
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=3030&pastlog=15
...2005/08/05(Fri) 23:04 ID:Sed5QPe6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
管理人さま
お知らせ頂きありがとうございました。
また、オンエアから1年も経つのに、このような「遊び場」を提供して下さることに、改めて感謝いたします。
...2005/08/06(Sat) 01:01 ID:fW13KZ8M    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 原作が舞台とした「愛媛編」を書くなら,映画もテレビもカットした「動物園」も書きたいとおっしゃっていたので,いつ登場するのかと思っていたら,緒形先生とミチルの物語だったのですね。それも小林の役割を智世が演じる中で,まるで「夢島」の物語を語るように登場するとは・・・
 まさか,そのうち,村上水軍まで登場して,中納言知盛,信長と濃姫など,時空を超えて登場人物が入り乱れる物語に発展したりして・・・
...2005/08/06(Sat) 20:13 ID:rfEou48U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
にわかマニアさま
信長と濃姫は別スレの「劇中劇」に登場予定です。それから「タヌキじじい」や「三浦屋」なんていうキャラも出すかもしれません。なにしろ「痛快時代劇コメディ」なので(笑)
...2005/08/08(Mon) 03:13 ID:NRIVjE0o    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま

「これは・・・」を探し出していただき、ありがとうございます。懐かしいです。
...2005/08/10(Wed) 20:02 ID:F9QhKn1U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
朔五郎様
SATO様もおっしゃってますが、本当に懐かしいです。私が物語を執筆させていただく前の一読者としてだけの頃を思い出します。ありがとうございました。
...2005/08/10(Wed) 21:31 ID:7u0Smt.E    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATO様、たー坊様
初期の作品には、また最近のものとは違った魅力を持ったものがたくさんありますね。
たくさんの方に読んで頂きたいと思います。
...2005/08/12(Fri) 01:36 ID:2G..k0tQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
「文芸春秋」の今週号に「引退から二十五年、三浦友和が初めて明かす妻・山口百恵の真実」という記事が載っていたので読みました。あのファミリーは本当に仲良しで、素敵な家庭のようです。そして、三浦さんの子供への教育方針ですが、あまりやかましいことは言わなかったようですが、「人様が来たら挨拶しなさい」と言い聞かせていたそうです。
ドラマの中の「挨拶しなさい」はご本人の地だったのでしょうか(^^) 
...2005/08/13(Sat) 22:23 ID:55VIIgBU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
何かで読んだのですが、片山恭一氏は、高校時代の生活指導の先生に強烈なインパクトを感じていらしたようで、その先生の姓が「○瀬」だったそうです。
石丸Pや森下さんがご存知だったかは知りませんが、何かイメージが被っているような気がします。

それがまた、実際に演じられた方と重なるというのも縁というものでしょうか。
...2005/08/14(Sun) 02:11 ID:iM3RCfr2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
森山未來クンが10月期の「月9」に出演します。テレビ版「電車男」のエルメスこと伊東美咲さんの弟役で、医学生の設定だそうです。
※医学生というと、テレビ版サクのその後や、「赤い疑惑」の光男を連想してしまいます(^^)
...2005/08/16(Tue) 19:58 ID:23pQkh/U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(15) 最後の日3

道後動物園は、いつもの道後動物園だった。
オオアリクイはオオアリクイだし、ツチブタはやはりツチブタである。
いつもと違うのは尚人とミチルの方だった。いつになく明るく笑うミチルに尚人は戸惑っていた。
「尚ちゃん、はい」
ミチルはホットドッグを尚人に渡した。そこはゴリラの檻の前だった。
「ねえ、ゴリラってなにか難しいこと考えてそうな雰囲気だよね」
「うん」
「どうみても楽観的な顔には見えないよね」
「俺もそう思う」
「でも本当はなーんにも考えてなかったりしてね」
「そうだね」
「いかにも幸せそうに笑っている人の方が、実は心の中に闇を抱えていたりする」
「おいミチル・・・」
「人前では笑顔しか見せない男が、実はずっと前に死んだ恋人の遺灰を持ち歩いて、人知れず涙を流す・・・」
「ええっ、そんな男がいるの?誰のこと?」
「フィクションよ。本気にしないでよ」
「す、すごい想像力だな・・・」
「あ、ゴリラさんがこっち見てる。嫉妬してるのかな、私たちのこと」
「どうだろ」
「尚ちゃん、私、いますごく幸せ」
「うん」
「だって、尚ちゃんがすぐ隣にいて同じ時間を共有してるんだもん」
「ミチル・・・」
「もう、先のことは考えないの。今、この一瞬だけを信じる」
この時点ではまだ、尚人はミチルを引き止める望みを捨てていなかった。一緒に宮浦に帰ることをどうやって切り出そうかと、機会をうかがっていた。
「尚ちゃん、廣瀬さんのこと、どう思ってる?」
ミチルを連れ戻すことばかり考えていた尚人は意表を突かれて動揺した。
「え、ええっ、廣瀬?い、いや、どうって・・・」
実際、尚人は廣瀬みちるを意識したことはほとんど無かった。
桜井ミチルのように部活動で活躍しているわけでもなく、勉強ができたり学級委員だったりするわけでもない。特徴のない普通の少女であった。
「廣瀬さん、授業中ずっと尚ちゃんのことを見てるよ」
「へえ・・・」
「あれは尚ちゃんに気があるね」
「そう言われたって・・・俺にはミチルがいるし」
「明日からはいなくなるんだよ、桜井ミチルは。ミチルからみちるへ受け継がれる愛。なんかドラマにでもなりそうな話だね」
「関係ないよ、俺には」
「えっ?」
「桜井ミチルは俺の前から消えたりしないから。ミチル、やっぱり宮浦に帰ろう。今ならまだ間に合うよ」
「それはできない」
「俺と別れてもいいのかよ」
ミチルは一瞬苦しそうな表情を浮かべたが、辛うじて言った。
「廣瀬さんが・・・」
「廣瀬のことはもうやめろよ!」
思わず叫んだ尚人はすぐに続けた。
「わかった、行けよ」
「・・・」
「行けよ、東京に」
「尚ちゃん」
「そのかわり、俺も行く」
「えっ」
「俺も付いて行くよ」
「ほんとに?」
「ああ」
ミチルの表情が一気に崩れていった。
「うれしい」
「ミチル」
「ほんとはね、すごく恐かったの」
涙ぐんでミチルは続ける。
「でも尚ちゃんを巻き込んじゃいけないから、言えなかったの」
「バカだな」
「ありがとう、尚ちゃん」
「ミチル、ほら、キリンがいる」
「ほんとだ」
ミチルは、はしゃいだ声を上げて走っていった。
「楽しいね」
「ああ!」
「最高だよね」
「最高!」
「尚ちゃん、私たちも、いつかきっと高いところにある幸せに手が届くよね」
「うん」
「ねえ、キリンってすごく優しい目をしているね・・・」

陽が暮れた頃、二人は松山駅に戻って来た。
「次の高松行きは・・・ああ、もう最終だね」
「尚ちゃん」
ミチルが尚人の手を握る。
やがて二人はホームに出て、高松行きの列車を待った。
遠くに小さな光が見えるが、なかなか到着しない。時間がじりじりと流れ、列車はやっとホームに滑り込んできた。
ドアが開き、一瞬早くミチルが乗り込んだ。
そして、尚人が乗り込もうとしてデッキに片足をかけた瞬間・・・
「あっ」
ミチルは尚人の胸を両手で突いた。
尚人はミチルの方へ手を伸ばした姿勢のまま、まるでスローモーションのように真後ろに倒れていった。
ドサッという音と共にホームに倒れこみ、体に痛みを感じた瞬間、発車のベルが鳴った。
痛みを堪えて上半身を起こし尚人が声を絞り出す。
「そんな逃げんなよ」
「足速いんだもん、私」
ドアが閉まる瞬間、ミチルは言った。
「ありがとう」
列車が動き出す。ミチルが手を振っている。
足を引き摺りながら、松山駅の長いホームを走る尚人を引き離して、列車の赤いテールランプが離れていった。

「あんまり・・・幸せでもないか」
緒形は少し自嘲気味に言った。
「先生、彼女はなぜ先生を突き飛ばしたんですか?」
「・・・それ以上、迷惑をかけたくなかったんだと思う」
「それで、そのあと・・・」
「ひとりで連絡船に乗ろうとした時、警察に保護されてね、次の日には宮浦に帰って来たんだ。でも彼女は家に篭って登校もしなくなってしまったんだ。俺にも決して会おうとしなかった。そして俺には手紙が渡された。そこには、自分のことはもう忘れて自分自身の今を大切にして欲しいと書いてあった。数日後、彼女は母親の出身地・修善寺の高校に転出していったんだ」
「それからは・・・」
「一度も会っていない・・・彼女には」

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(16) 最後の日4
...2005/08/19(Fri) 22:13 ID:h05KZ79c    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>ドラマの中の「挨拶しなさい」はご本人の地だったのでしょうか

 三浦家の教育方針というのは初耳でしたが,確かに,あのセリフは,「演技」というよりは「地」でやっているという感じはありましたね。
 ただ,お説教のネタはあまたある中で,なぜ「あいさつ」なのかを考えると,最後に「ソラノウタ」を渡す場面で,あいさつにも来ない人に渡すいわれはないという趣旨のことを言っていましたから,17年間渡さなかった理由付けとして使うことから逆算して,日頃から「あいさつを」と言い続けることで,この構図を視聴者に印象付けることも狙っていたのでしょう。
...2005/08/22(Mon) 12:53 ID:txt4bFxk    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
動物園での最後のデートですが、尚人はいつ言い出そうかとずっと悩んでいたのでしょうね。
列車のデッキから突き飛ばすところは「10話」にかぶりますが、倒れた尚人が頭打たなかったかな?とちょっと心配になりました。

この場面を想像してたのですが、少年時代の尚人は山田クン、桜井ミチルは、はるかサンの顔がチラチラします。そして、これから登場するであろう廣瀬みちるは幸子サンの顔がかぶってきます。
朔五郎さまが意図された(と思われる)ことと反対の想像をしてしまいまして、スミマセン・・・(^^;
...2005/08/25(Thu) 01:02 ID:4J7nLRcw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
現在、別スレの方が山場を迎えておりまして、こちらはなかなか書けません。申し訳ありません。

さて、ドラマで陸上のシーンの重要なアイテムとして登場するのが「ホイッスル」
亜紀が最後に走った時にも吹かれてますし、ソラノウタのラストにも出てきます。
しかし朔五郎はどうしても違和感を感じるのです。短距離、その中でも100m走のように百分の一秒を争うような種目の場合「音」を聞いてスタートしたのでは勝負にならないと思うのです。
陸上については素人なのでなんとも言えないのですが、少なくとも記録を取るときにホイッスルの音でスタートするでしょうか?
そこらへんのところ、ご存知の方がいらっしゃいましたら教えて頂きたいのですが。よろしくお願い致します。
...2005/08/27(Sat) 04:25 ID:CP.qXjno    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:セカチュウ症候群中年
ホイッスルの使用の件ですが、

競技会では、ピストルの「音」のみです

これはオリンピックでも、世界陸上でも、国内のどのクラスの競技でも同じです

参考までに18,9年前よりさらに前の話ですが、ざっと30年位前の話です

公立高校の陸上部を前提にします

ピストルを使用する場合は公立高校の陸上部という性格と予算の関係でピストル使用が限られてしまいますから、ピストルを使用しない練習も「次善の策」と考えていただければと思いますが

陸上部でも、大会が近くなれば、ピストルを使用する練習になります

また100メートル走なら、100メートル出場の部員だけで、800メートルならその部員だけという具合に種目別に部員を分けて、練習するのが普通です

また、中距離(800メートル走)などは、立ったままのスタンディングスタートになるので、ホイッスルないしはかけ声、あるいは手を叩いてスタートの合図とするとかの練習もありました

ただ、どこかのスレッドで、ハンカチを合図にするような表現がありましたが、短距離の場合、クラウチングスタートになるので、ハンカチを見ることは出来ません

ドラマの陸上部の練習は大会前の練習というよりは、普段の通常練習という光景です

また、雨だからといって練習が休みになるということはありません
雨の日は雨の日のメニューがあり、筋トレが中心になります

ただ、競技会の会場のトラックで走った綾瀬はるかの姿は、陸上ないしクラブ活動で基本的な走りをしてきた感じがする姿です
また、ゴールのテープを切るときの(テープはありませんが)姿勢はかなり練習をつんだのかな、という思いもします

参考になれば幸いです
これからも、よろしく
...2005/08/27(Sat) 22:20 ID:aY.u.HDY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
セカチュウ症候群中年様
丁寧なコメントを頂き、ありがとうございました。大変勉強になりました。自らの不勉強を恥じ入っております(^^;;;
なお「ハンカチを振る」と書いたのは朔五郎であります。素人のたわごととして、大目に見て頂ければ幸いです(恐縮)
これからもよろしくお願い致します。
...2005/08/27(Sat) 23:32 ID:G7innxo.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
いついかなる時にも情報収集なさることに脱帽です。
その地道さを生かした物語をこれからも期待しております。
...2005/08/28(Sun) 01:44 ID:6JeeE84k    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊様
ご期待に添えるかどうかわかりませんが、現在広島関係の資料を集めております。折から、原爆を題材としたドラマが放映されておりました。大変見ごたえがありましたが、あれとは全く別の視点からこのテーマに迫ってみたいと思います。
別スレの今のシリーズの後にUPする予定です。
...2005/08/30(Tue) 00:14 ID:cUleQBwU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(16) 最後の日4

県大会の朝・・・
龍之介は早朝からそわそわし、試合開始二時間前には愛媛県総合運動公園陸上競技場に着いていた。
「大木、ずいぶん早いね」
谷田部の声がする。
「え、ええ」
「上田の応援?」
「べ、別にそういうわけじゃ」
「上田はやるかもしれないよ。絶好調だからね」
「そうか・・・」
龍之介は思わず小さなガッツポーズをした。そして、ポケットの中の一枚のMDに触れた。

谷田部は亜紀と智世を呼び寄せて最後の注意を与えていた。
「とにかく落ち着いてね。フライングで失格、だけは勘弁してよ」
「はい」
「いやあ、谷田部さん。どうもお疲れさまです、ははは」
「あら、森山コーチ」
「全国大会の出場枠残り一つを狙うとなると、指導者として気を遣うでしょうなあ」
「出場枠は二つじゃありません?」
「いやいや、一つは我が伊予高校の広瀬で決まりですから」
「それはどうかしら・・・」
「おっと、時間だ。まったく、広瀬はボクがいないと何にもできないんだから・・・それじゃ失礼」
「なによ、感じ悪い」
「伊予高校の森山コーチ、ああ見えても彼の指導技術は本物だよ。広瀬とは二人三脚という言葉がピッタリだね」
選手たちの集合時間が迫ってきた。
「ねえ、智世。さっきMDプレイヤーで何を聞いてたの」
「うふ、ヒ・ミ・ツ」
龍之介が初めてくれた応援の言葉。智世は素直に喜んでいた。
「がんばってぇ、いきっまっしょい」
「しょいっ!」
「松山一高も気合入ってるね」
「あそこの鈴木さんと相武さんも要注意だよね」
「うん」
「じゃ、亜紀」
「うん」
「友情と勝負は別だよ」
「うん。でも・・・いっしょに全国大会行けたらいいね」
「もちろん」

いよいよ、県大会決勝のレースの時間になった。
選手たちがスタート位置に付く。
亜紀は左隣の広瀬をちらりと見た。
(さすがに落ち着いてる・・・でもこの人に勝たなきゃ・・・)
智世の左には松山一高の鈴木、更にその向こうが亜紀だった。
(亜紀、見なきゃいいのに・・・ああ、固くなっちゃってるよ・・・)
好調を維持している智世には亜紀を気遣う余裕があった。
(でもほんとはね亜紀、あんたにだけは負けたくないんだ。マジで行くよ・・・)
まるで時が止まったように場内を静寂が支配した。
「位置について・・・ヨーイ・・・」

パン!

ピストルの音と共に実力どおり広瀬が素晴らしいスタートを切った。そしてその広瀬に負けないくらいのダッシュを見せたのが智世である。
(行ける)
半歩前に出たのを感じて、更に加速しようとしたその時・・・
「あっ」
突然バランスを崩し、智世は転倒した。
(待って・・・)
智世の目に去ってゆく他の選手の背中が映った。

追いつけない速度で去っていく亜紀を、私はもう捕まえることはできない
このレースでは亜紀と私は遠くなるばかりだろう

スタートが苦手な亜紀だが、その後広瀬に追いついた。しかし、再びリードを許し、後ろからは鈴木が迫って来た。

行けえ、亜紀!

智世の心の叫びに背を押されるように、亜紀は再び広瀬に並ぶ。そして、ほぼ同時にゴールに飛び込んだ。

その時、智世は痛む足を引き摺りながら必死で前に進んでいた。

だけど私は走ることを止めない
ゴールラインに着くことが、二人で努力したことの、たった一つの証だから

結果
1位 広瀬(伊予高校) 12秒36
1位 廣瀬(宮浦高校) 12秒36 (同着)
以上2名、全国大会進出

「チクショウ・・・」
龍之介がくれたMDを聞き返しながら、智世は小さく呟いた。
「頑張ったね・・・上田」
近づいてきた谷田部が智世をねぎらった。
「ほら上田、位置について」
谷田部が智世の背中をポンと押した。
「これじゃ納得できないでしょ」
頷いた智世がスタートラインに走る。そして、スタートの姿勢をとった。
「位置について・・・ヨーイ・・・」

ピィ!

谷田部のホイッスルの音で智世はスタートした。素晴らしい速度でゴールラインを通過する。
谷田部は、走り抜けたあと戻ってきた智世に黙ってストップウォッチを見せた。
「12秒・・・33」
思わず息を呑む智世。そして次の瞬間、涙が溢れ出る。
「ねえ、上田。実力のあるものが必ずしも勝つとは限らない。正しいものが必ずしも正当な評価をうけるとは限らない。これから社会に出るとね、そんな理不尽なことがたくさんあるんだよ。だから上田、こんなことで腐ったり、諦めたりしたらダメだよ。あんたまだ二年生なんだから・・・」
「先生・・・」
「忘れなさい、上田」
智世の髪を撫でながら、谷田部は続けた。
「この大会では、あんたが一番強かった。そのことは私が覚えているから、安心して忘れなさい。そして来年、またここで走りなさい」
「先生・・・先生・・・」
泣きじゃくる智世を、谷田部はしっかりと受け止めていた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(17) 1987年・夏
...2005/08/30(Tue) 22:41 ID:9MkQbco2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
今回の智世はちょっと気の毒でしたが、智世の悔し涙を受け止めてくれた谷田部先生は、本当にいい先生ですね。

レース途中で転倒って、「いま、会いにゆきます」の巧みたいでしたが、練習のしすぎで身体をこわすようなことがないよう、気をつけてもらいたいです(心配になってしまいました)
...2005/08/30(Tue) 23:25 ID:ZbpCyxhU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
朔五郎様
今回も拝読させていただきました。
まだ、世間と言うものがよく分かってはいない智世を優しく諭す恩師の姿には、現代社会に少なくなったように思える教師の理想像を感じました。
こういう先生が増えてくれればいいのに・・・と思わずにはいられませんでした。
これからも楽しみにしております。

SATO様
試験お疲れ様でした。
これから、執筆と投稿が増えることを期待しております。
お互いに頑張っていきましょう。
...2005/09/02(Fri) 22:34 ID:dWeE0mrg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさま、たー坊さま
谷田部先生は、確かに教師としての理想像のひとつだと思います。

ちなみに、今回は「ドラゴン桜」の桜木先生のこんな言葉もヒントになりました。
「腹を空かせている生徒達のために、魚を釣ってやるんじゃなく、釣り方を教えてやるんだ」(笑)
...2005/09/04(Sun) 19:46 ID:gsR32xGo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
先生繋がりで・・・
先ほど日本テレビの「女王の教室」というドラマの最終回を観ておりました。谷田部先生とは全く違うタイプですが「良い先生」であったというオチで・・・。しかし、いくら何でもヒネり過ぎというものでは(苦笑)
ところで、このドラマで準主役という感じで出演していた志田未来ちゃんという女の子は「雨鱒の川」で小百合の子供時代を演じていたので懐かしかったです。少し大きくなって、なかなかの「演技派」になったなあ、と思いました。

ドラマネタをもうひとつ。
新年のドラマ「里見八犬伝」で綾瀬はるかさんが「浜路」という役を演じるのですが、これがなかなか、深〜い役どころなのです。
原作では、浜路は八犬士の一人、犬塚信乃のフィアンセなのですが、愛する彼のため名刀を取り戻そうとして浪人に切り殺されてしまいます。やがて、浜路の霊は、里見家の姫君「浜路姫」の体に乗り移り、愛する信乃の部屋に忍び入り、自分が死んだ浜路であると告白します。
ちなみに「浜路」と「浜路姫」は血縁関係のない全くの他人なのですが、どことなく面影があるということになっていたと思います。
気付いて見ると、どこかで読んだような話だなあ、と思うのですが(苦笑)
ちなみにドラマで恋人の犬塚信乃を演ずるのはタッキー氏です。

さて、こちらの物語、止まっておりましたが、もうすぐUPできる予定です。
...2005/09/18(Sun) 00:00 ID:4Pz1Hyt2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 謙太郎が清盛を,重ジイが時忠を演じた平家物語が放映された頃,その某国営放送で,今ではニュースの時間帯となっている平日の夕方の「人形劇」の時間帯に「八犬伝」が放映されたことがあります。その時には,殺された「浜路」が「姫君」に乗り移るという原作の設定を変更して,同じ「浜路」という一つの継続した人格で描いていました。
 ちなみに,その時のナレーターと主題歌は坂本九でした。

 今回,清盛の孫の恋人が義経のフィアンセを演じるというのは何という巡りあわせなのでしょうか。
...2005/09/18(Sun) 00:25 ID:4pQ2N8WU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
掛け持ちのストーリー投稿お疲れ様です。
先週、「いま、会いにゆきます」を見てたら「里見八犬伝」の予告が流れて、タッキーが出ることはすぐ分かったのですが、刀を振り回す女性の顔を見て「あれ?」と思ったのですが、やはり綾瀬はるかさんだったんですね。
死んだはずの女性が愛する人の前に姿を現すとは、何か「いま、会いにゆきます」みたいなシチュエーションですね(^^)
...2005/09/18(Sun) 00:27 ID:8zvoGx2Y    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(17) 1987年・夏1

夏休みのある日、龍之介が朔の家にやって来た。
「なあ、おまいさん」
「なに?介ちゃん」
「うん・・・智世のことなんだけどさあ・・・」
「ああ、あれはショックだっただろうな」
「それでさ、智世を元気付けるために、ちょっとしたイベントをな」

県大会での転倒、その悪夢のような出来事の後、智世は元気がなかった。亜紀が傍に来ると気を遣って明るく振舞うのだが、その心中を知る龍之介や谷田部は、智世の健気さを痛々しく思っていた。
龍之介は思い余って谷田部に相談した。
「オ、オレ、智世のためにどんなことが出来るのかと思って・・・」
「わかんないなあ、そんなこと・・・あんたと上田にしか」
「いっそ、前から行きたがってたオーストラリアにでも連れて行ってやろうかって・・・でもそんなことしていいのかな・・・」
「大木、迷ってるんだったら止めたほうが良いと思うよ。それに、オーストラリアにはもうすぐ修学旅行で行くでしょ?」
「そ、そうか」
介は頭を抱えて考え込んだ。

「イベントって?」
「うん、みんなで夢島にキャンプに行こうと思って・・・」
「え、いつ?・・・あ、ごめん、オレと亜紀、その日はダメだわ」
「なんだよ、冷めてえな・・・」
「その日は、亜紀が全国大会に出る日でオレも東京まで応援に行くんだよ」
「智世はなにも言ってなかったぞ」
「さすがに東京まで見に行くのは辛いんじゃないの?」
「そうか・・・そりゃそうだよなあ」
「ごめんな、介ちゃん」
「あ、いいよ・・・ボウズにも声かけるし・・・」

ガラガラガラ・・・
ディーゼルカーのエンジンのアイドル音が、やがて「ガーッ」という音に変わり、ワンマンカーが去って行った。
宮浦駅のホームには、すらりとした女性と、その女性に手を引かれた小さな女の子が降り立っていた。
夏の日差しの中、手を繋ぎ「四季の歌」を歌いながら、二人は廣瀬家の前までやって来た。
呼び鈴の音に外に出てきた綾子にその女性は挨拶した。
「お久しぶりです。お義姉さん」
「待ってたわ、みちるさん・・・まあ、リナちゃん、大きくなったねえ」
「こんにちは」
「まあ、ちゃんと挨拶もできるのね。おじちゃんも喜ぶわよ。暑かったでしょう。さあ、早く上がって」
綾子は、炎天下の道を歩いて来た二人のために冷房を少し強くした。
廣瀬みちるは真の妹である。13歳下と歳が離れているため、真とは兄妹と親子半々という感じであった。
「みちるさん、お部屋の方は・・・」
「ここに来る途中で不動産屋さんに寄って決めてきました。すぐに入居できるそうです」
「そう、それは良かったわね。でも、電気屋さんにクーラー入れてもらうまでは生活するのは無理でしょ。それまでうちにいたら?」
「いえ、松山のアパートの方もまだ片付けなければならないので・・・」
「そうか・・・でも今夜は泊まって行けるんでしょ?」
「はい、兄にも会いたいので、そうさせて頂ければ・・・」
「みちるさん、遠慮なんかしないで。亜紀もそのうち帰って来るから」
宮浦高校時代、みちるは特に勉強やスポーツが出来るわけでもなく、学級委員をやったりするわけでもない、ごく普通の目立たない少女だった。同級生の緒形尚人に恋心を抱いていてが、緒形に桜井ミチルという恋人がいたため、ただ黙って見ているしかなかった。
高校二年の秋、桜井は心無い噂が原因で学校に居づらくなり転校して行った。しかし、内気でおとなしいみちるはなかなか緒形に話し掛けることが出来ない。それでも高校時代最後の夏が来た頃、みちるは意を決して緒形に接近しようとした。
「あ、あの・・・」
「どうしたの、廣瀬」
「ちょっと、お話しがあるんだけど・・・時間ある?」
「うん、あるけど」
みちるは町のはずれにあるひまわりの畑に緒形を連れて行った。
「ここ、とっておきの場所なんだ・・・一人になりたい時ここに来るんだ」
「へえ、でも、いいところだね廣瀬」
「緒形くんって、女の子に人気あるんだね」
「そんなことないよ廣瀬、あれはハルカやユイカやサチコが勝手に言ってるだけだよ。今、オレ彼女とかいないしさ、誰とでも気軽に話してるから、そう見えるだけなんじゃないの」
実際に、尚人はあの辛い出来事以降も気さくに周囲に接し、笑顔しか見せたことが無かった。
しかし、みちるは気付いていた。尚人の心の傷は深く、癒されてはいないことを。彼は他の女子生徒には名前を呼んで気軽に話している。しかし、みちるのことは常に「廣瀬」と呼び、決して「みちる」とは呼ばなかった。

・・・ミチルは一人でいいんだな

結局、そのことを改めて突きつけられたに過ぎなかった。
「あれ、話って・・・」
「あ、ごめんなさい。数学のノート貨して欲しくて・・・」
「ああ、いいよ・・・はい」
「ありがとう」
「じゃ、オレ行くわ」
「うん、またね」
尚人が去って行った後、みちるは悲しいまでに鮮やかな夏の色に包まれて、ぽろぽろと涙を流し続けた。

「みちるさんも大変だったわね。でも、こうして故郷に戻って来るんだから、仲良くして行きましょうね。何かあったらすぐに言って来てね」
「ありがとう、お義姉さん」
「リナちゃんもお母さんを助けてあげてね。お母さんのこと、大好きでしょ?」
「うん、お姉ちゃんのこと大好きだよ」
「あらあら、みちるさん若くてきれいだからリナちゃんは《お姉ちゃん》て呼ぶんだ」
「ねえ、リナ。どうしてお姉ちゃんなんて言うの?ちゃんとお母さんって呼びなさいってこの間も言ったでしょ?」
「だって間柴のおばあちゃんが言ってたもん」
「え・・・」
「リナがいると、子供がいると、お母さんは好きなひとが出来ても結婚できないだろうって・・・」
「リナ・・・」
「もしリナがいない方が良いなら、リナ《しせつ》に行ってもいいよ。でもね《しせつ》に行くと17歳になった時、お父さんでもない恐いおじさんに連れて行かれちゃうんだって・・・」
「そんな施設だの恐いおじさんに連れて行かれるだの、誰が言ったの?おばあちゃん?」
「ううん、この間テレビでやってた・・・」
「リナ・・・」
「ねえ、リナなんかいない方が良い?リナのこと嫌い?」
「好きだよ」
みちるは号泣しながら娘を抱きしめた。
「大好きだよ・・・」
綾子は耐え切れずに、両手で顔を覆った。そして隣の部屋では、たまたま早く帰って来て話を耳にした真が、妹のあまりの不憫さに涙を流していた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(18) 1987年・夏2
...2005/09/18(Sun) 05:37 ID:4Pz1Hyt2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
いよいよ「廣瀬みちる」が登場しましたね。これから緒形先生とどう関わっていくのでしょうか?掛け持ちで大変でしょうが、続きを気長に待ちます。

※回想場面の「桜井みちる」の顔が綾瀬さん、今回登場の「廣瀬みちる」の顔が幸子さんになってしまうのですが、もしも意図されていることと逆でしたらお許しを(^^)子連れの保険外交員となると、どうしても幸子さんの顔が浮かんできます・・・
...2005/09/18(Sun) 11:03 ID:eioKExTo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさま
このような物語は、いったん公開してしまえば、もう読者の皆様のものですから、いかようにもイメージして頂いて結構だと思います(^^)

間が空いてしまいましたので、もう一度プロフィールを(^^)

桜井未散(ミチル)
緒形の高校時代の恋人。担任教師・真田とのことであらぬ噂を立てられ、宮浦高校を去る。道後動物園で緒形と最後のデートをした後、緒形を突き飛ばし単独で東京に向かう。高松で連絡船に乗ろうとした時警察に保護され、宮浦に戻るが、緒形とは二度と会おうとしなかった。やがて、母親の出身地の伊豆修善寺の高校に転校する。卒業後プロボクサーと結婚し、男の子を産むが夫とは離婚しているらしい。現在、修善寺でスナックを経営している。

廣瀬みちる
廣瀬真の妹。緒形や桜井の高校時代の同級生。緒形に恋をするが、桜井がいたため黙って見ているしかなかった。桜井が去った後も緒形が自分のことを決して「みちる」と呼ばないことで、緒形の心を知る。緒形を諦めた彼女は松山の短大に進学し、愛媛大の医学生・間柴恂と出会い、恋人同士になる。やがて恂と結婚したみちるはリナという女の子を授かり、若くして大病院の院長となった夫と幸せに暮らしていた。しかし、幸せは長くは続かなかった。恂が仕事と家庭を放り出し、パリの美大に留学してしまったのだ。あまりのことに呆然とするが、娘と二人で生きていくため、保険外交員になる。松山支店に勤務していたが、大洲支店宮浦営業所に転勤となる。それを機に正式に離婚し、間柴姓から廣瀬姓に戻る。
...2005/09/18(Sun) 18:51 ID:i/DIPMY6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
幼いリナの健気さには、こちらもジーンときてしまいました。その一方で、リナの祖母のことを、鬼に近いようにも思えました(苦笑)
同時に、綾子と真には、この2人の当面のバックアップをと願わずにはいられませんでした。

次回も楽しみにしております。
...2005/09/18(Sun) 22:32 ID:3CCZSLOA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
こちらの世界でも真は高校時代に恋人を亡くし、妹は夫に捨てられ・・・と気の毒ですね。

廣瀬みちるの前夫の恂はとんでもない男ですね(`´)ここは一発、真に恂を殴り倒させてあげたいのですが・・・(暴力を肯定する発言はチトまずいかもしれませんが、真は妹を不憫に思うと同時に恂には憤懣やるかたない気持ちだと思います)
...2005/09/19(Mon) 10:13 ID:lNiYGBHQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさま
「いま、会いにゆきます」の最終回、いかがでしたか?なかなかヒントを与えてくれるドラマでしたね。こちらでは「ひまわり畑」を使っちまいました(^^;;;
恂はパリに「亡命」しちゃいましたからねえ・・・まあ、彼の実家は金持ちなので、慰謝料と養育費を取れるだけブン取って、また別の幸せに出会うということで(^^)

たー坊さま
恂の実家は金持ちで、しかも世間体があるので、みちるは金銭的にはさほど困らないでしょう。しかし、心の傷は簡単には癒されないでしょうね。彼女を救うのはやはり「彼」しかいないでしょう(非常にベタな展開ですが・苦笑)
...2005/09/19(Mon) 18:20 ID:ScFjZyHs    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
「赤い運命」放送日まであと1週間となりました。『しせつ』『恐いおじさん』と言ったリナはこの番組を見ていたのでしょうか(^^)
...2005/09/28(Wed) 01:02 ID:nwd22uhI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATO様
その通りです(^^)
...2005/09/29(Thu) 00:24 ID:nTxihdgI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
皆様お疲れ様です。
少し下がっていたのであげておきます。
...2005/10/01(Sat) 01:15 ID:ezFi.8AQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(18) 1987年・夏2

放課後、静岡県松崎町から転入して来た沢口エリカは、隣に座っているボウズの横顔を見てフフッと笑った。
(不器用な感じ、でもなんとなくカワイイ・・・)
その視線に気付いて、ボウズは言った。
「な、なんだよ・・・なんか文句でもあるわけ?」
「文句なんかないよ」
ニコリと笑うエリカにボウズの心臓がドキっと音を立てる。
「ケンってさあ」
「ちょ、ちょっと待って、なんだよケンっていうのは」
「だって中川ケンリョウ君でしょ?」
「おい冗談じゃねえよ。オレはアキヨシだからな」
「だって将来の職業を考えたらケンリョウの方が合ってるよ」
エリカの言葉にボウズはいきり立った。
「オレは寺なんか継がねえって」
「どうして?立派な仕事じゃない。みんなの心の支えになるっていうか」
「とにかくオレは嫌なの」
「まるでダダっ子みたい」
「なんだよ・・・だいたい、とっくにホームルームも終わってるのに、なんで帰んないんだよ」
「決まってるじゃない」
エリカはピョコンと立ち上がりイタズラっぽい笑いを浮かべながら言った。
「ケンと話したかったから」
エリカが出て行こうとした時、近づいて来た龍之介がボウズに話しかけた。
「なあ、夢島にキャンプに行こうぜ」
「メンバーは?」
「俺とおまいさんと智世」
「三人で?」
「ああ、朔と亜紀はその日ダメなんだと」
「あのなあ、そのメンツじゃオレはモロにオジャマ虫だろうが」
「別にそうは思わんけど」
「ねえねえ、それ、私も参加していい?」
エリカが口を挟んだ。
「ああ、もちろんいいよ」
「うれしい。私、もっともっとみんなと仲良くなりたいと思ってたんだ」
「ボウズ、それならいいだろ」
「・・・ああ」

龍之介は、智世にキャンプのことを話すため、上田薬局にやって来た。
「ちわー」
「おお、介ちゃん」
「おじさん、智世、少しは元気になりましたか?」
「それがさ・・・」
父の顔が曇る。
「やっぱダメですか」
「ああ、イマイチだな」
「実は智世を元気付けようと思ってキャンプを計画したんですけど」
「おお、どうぞどうぞ持ってって。でも、くれてやるのは、もうちょっと経ってからだな」
そこへ外出していた智世が帰って来た。
「智世、介ちゃんが何か話があるってさ」
「うん」
智世は飼っている犬を抱き上げた。
なんとなく黙ったまま二人は近所の小さな公園まで歩いて行き、木陰で足を止めた。
「あ、あのさ、こんど夢島にキャンプに行かない?」
「うん・・・」
「気が進まない?」
「うん、ごめんね。あんたがせっかく応援のメッセージなんかくれたのに、あんなことになっちゃって・・・なんか辛いんだよ、私」
「別に気にしないでもいいよ」
「そう言ってくれるのはうれしいんだけどさ・・・」
「そうか」
龍之介は溜息をついた。
「それじゃしょうがないな・・・だけどさ、さっきから気になってるんだけど」
「なに?」
「その犬、重くない?」
「うん、子供の時はちょうど良かったんだけど、ちょっと大きくなりすぎたね」
ちょうどその時、智世が抱いている、というより抱えている巨大な白い犬の舌が智世の顔をベロリと舐めた。
「あはははは、だめだよパンチ、くすぐったい・・・」
「・・・まあ、早く元気になれよ」
「うん、ありがと。ごめんね、せっかく誘ってくれたのに」

廣瀬みちるはリナを連れて夕食の買い物をしていた。引越しも終わり、新しい生活が始まったばかりだった。
「リナ、今日は何が食べたい?」
「必殺うな玉丼」
「なんか子供らしくないね・・・そんなのどこで覚えたの?」
「本に書いてあった」
「へえ、今度お母さんも読んでみよう」
リナの頭を撫でながら顔を上げたみちるは、そこに立っている人物の顔を見て思わず息を呑んだ。
「廣瀬・・・宮浦に帰ってたのか」
「緒形君」
リナは、なにか物珍しいものでもみるような顔をしている。
「ねえ、お姉ちゃん・・・」
「なんだ、娘さんかと思ったら妹さんなのか」
「リナ、それやめなさいって言ったでしょ。ごめんね緒形君。娘のリナです」
「里帰り?」
「ううん、離婚して戻ってきたの」
「え・・・」
「今はこの子と二人暮らし。保険の外交やってるのよ」
「へえ。あ、そうだ。それなら頼みたいことがあるんだ。今度保険を見直そうと思っててさ、ちょっとプラン組んでみてくれないかな」
「え、ほんと?うれしい。この仕事も契約取るのは結構大変なのよ。ぜひよろしくお願いします」
みちるが頭を下げると、リナもあわてて頭を下げた。
「ところで緒形君、家族構成は?」
「家族はいないよ」
「ええっ」
「オレは独身だよ。廣瀬が松山に行ってからずーっと独り」
「そうなんだ・・・」
みちるの心がひそやかに騒ぎ出す。
「いい子だね、リナちゃん」
尚人はしゃがんでリナの頭を撫でた。
「おじちゃん、それなに?」
尚人が手にしたビニール袋を見てリナが尋ねた。
「はは、おじちゃんか」
尚人は思わず苦笑いをする。
「これはね、骨だよ」
ほら、といいながら中身を見せる。
「わあ、すごーい」
「こんな太いの見たことないだろ?親戚のオヤジがラーメン屋やっててさ、頼まれてそこの肉屋で譲ってもらったんだ。美味しい豚骨スープが取れるんだよ。リナちゃんはラーメン好きかい?」
「大好き」
「じゃ、今度食べに来てね」
「はーい」
「リナ、今日はラーメンにしようか」
「うん」
「緒形君、一緒に行っていい?」
「もちろん大歓迎さ」

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(19) 1987年・夏3
...2005/10/01(Sat) 17:54 ID:KMshUONE    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
新作を楽しみに待ってました。
エリカがここで再登場ですね。たー坊さん、グーテンベルクさんに続いて、こちらでもボウズに春は近いのでしょうか(^^)

エリカのボウズに対する口のきき方や態度がまるで映画「世界の〜」の亜紀(長澤まさみチャン)みたいでしたが、くれぐれも悪い病気になることがないよう、祈っています。(「1リットルの涙」放送開始が近いので、考えすぎですか・・・)
...2005/10/01(Sat) 19:13 ID:dUBxw5ew    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>たー坊さん、グーテンベルクさんに続いて、こちらでもボウズに春は近いのでしょうか(^^)

 そう言えば,担任に春が訪れたのは,こちらの方がたー坊さんより一足先でしたね。
 「廣瀬よりもいい人を見つける」という公約が実行される日を,私もSATOさんや他の皆さんと同様,楽しみに待つことにします。
...2005/10/01(Sat) 19:23 ID:fOH0fkDI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATO様
あちらは確か「沢尻さん」こちらは「沢口」ですので、たぶん大丈夫でしょう(笑)
「鏡の国」も、何回も使うネタではないと思いますので(苦笑)

にわかマニア様
「廣瀬よりもいい人」というのはなかなか高いハードルですが、このエリカという子は度胸だけは素晴らしいものがあります。どっちかというと「私が顕ちゃんの手を引いて・・・」というタイプでしょうね(笑)
...2005/10/02(Sun) 19:17 ID:whSn2Anw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
返事を聞いて安心いたしました(^^)
明日からの「赤い運命」の期待にワクワクしながら「赤い疑惑」の録画を観てました。石原さとみさんや陣内孝則さん、田中好子さんの熱演に改めて魅了されました。そういえば、陣内さんは「1リットルの涙」でも父親役ですね。母親役の薬師丸ひろこさんとともに、どんな演技を見せてくれるか楽しみです。
※スーちゃん、手塚理美さん、薬師丸ひろこさんと私の年代のアイドルたちが母親役が似合う年齢になって、つくづく年月を感じてしまいました(シンミリ)
...2005/10/03(Mon) 23:28 ID:9x4MIy.A    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>アイドルたちが母親役が似合う年齢になって、つくづく年月を感じてしまいました

 母どころか,「雨鱒」では,若大将の相方が祖母を演じているのにものすごい歳月を感じてしまいました。
...2005/10/04(Tue) 01:17 ID:ZF2pbiPo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。

皆様の作品制作のネタ元の多さにはいつも感心しております。
ボウズの前に現れたエリカが亜紀よりいい女性であることを切に願っております(笑)
...2005/10/04(Tue) 21:30 ID:2S26iUtw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさま、にわかマニアさま、たー坊さま

お読み頂きありがとうございます。
石野真子さんが母親役ですもんねえ(感無量)
まあ、別スレの「セカ2」では長澤まさみさんが母親やってますけど(苦笑)

「赤い運命」の綾瀬さん、なかなかイイですね。「雨鱒」と同じ玉木さんとのコンビもなかなかのものです。


で、おまけのコーナーです。

廣瀬みちるは別れ際の夫の捨て台詞を思い出していた。
「運が悪かったな、夫がこんな男で。自分の運命を呪うんだな・・・」
...2005/10/04(Tue) 22:37 ID:bhfrNPYY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
今夜は「赤」三昧でした。
夕食を食べながら「赤い疑惑・2話」の録画を観、そのあと「赤い運命」を観ました。「運命」は「疑惑」以上に人間関係が複雑で、やたらと面白かったです。綾瀬さんの演じる直子が健気でした。
※綾瀬はるかさんの名前が最初にクレジットされたのが何となく嬉しかったです(^^)

綾瀬さんの相手役の玉木さん、「ウォーターボーイズ」のイメージが強かったのですが、今回はシックな感じでいいですね。(雨鱒は観てないのでわかりませんが)

母と「赤いシリーズ」リメイクの話をしたときの会話です。
私「今度、百恵ちゃんの『赤いシリーズ』がリメイクされるんだよ。」
母「へー、『ポルシェ』の歌を今の若い子が歌うのかい?」
私「歌じゃなくて、ドラマだよ。」
母「お父さんとお母さんが違う人だったってあれかい?」
私「そのとおり」
母「ま、あれはお話の世界だから、あんたは本当のうちの子だから安心おし。」
※母は最初、百恵・赤と聞いて「♪真っ赤なポルシェ〜」の歌詞でヒットした「プレイバックパート2」を連想したようです。いい大人同士が他愛もない冗談交じりの会話を楽しみました(^^)
...2005/10/04(Tue) 23:12 ID:AACRu61A    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(19) 1987年・夏3

緒形の親戚が出しているラーメン屋に向かう道。黄昏の街に行きかう人々。そんな光景の中を歩く三人は、傍目から見れば幸せそのものの家族のようだった。
みちるの顔も湧きあがってくるような笑みが溢れていた。
「でもね、何となくほっとした」
「何が?」
「緒形君が医者になってなくて」
「なんだよ、急に」
「うん、リナの父親は医者だったんだけど、ひどい男でね・・・もう医者は懲り懲り」
「おいおい、それは俺には関係ないだろ。だいたい俺は医者になろうなんて考えたことは一度もないぜ」
「それは運が良かっただけじゃない?たとえば、桜井、桜井ミチルさんが重い病気にかかってたら、医者になって助けてあげたいと思ったかもよ」
「どうかな」
「冷たいのね」
「だって、そうならなかったんだから・・・」
「それもそうね」
やがて三人は海の見える交差点の角に建つ、古びた洋館の前にやってきた。扉のガラスには「雨平ラーメン」と書かれていた。
「なんかラーメン屋さんじゃないみたい」
「うん、昔は写真館だったみたいだよ」
三人は扉を開け、中に入っていった。
「重兄い、持って来たぞ」
「尚人、また骨を盗んで来てくれたのかい。いつもすまんな」
「ぬ、盗んだなんて人聞きの悪い。ちゃんと譲ってもらったんだよ。仮にもオレは教育者だからな・・・ほら、お客さんだよ」
「ああ、いらっしゃい」
「こんにちは」
重蔵は三人の前にお冷を置いた。
「じゃ、オレは醤油」
結局三人とも醤油味にした。
「このオヤジ、態度は悪いけど味はなかなかのもんだぜ」
「なにい?」
「まあまあ、褒めてるんだから。ここのスープは絶品だよ」
「そうかい」
重蔵の顔がほころんだ。
「手のかけかたが違うんだよ。スープを取るってのはエライこった。ちょっと煮立て過ぎるとすぐにおかしくなっちまってな、エグ味、臭みが染みみてえにに舌先に残る。ラーメン屋に出来るのは手間暇惜しまねえことだけだよ、お客さん」

夕暮れの商店街をブラブラ歩く龍之介の前に、スッとエリカが現れた。
「大木君、タコ焼き食べない?」
「どうしたの、急に」
「私おごるからさ、つきあってよ」
「いいけど」
二人はタコ焼きパパさんにやってきた。夏の間はライトアップ営業しているのだった。
「タコ焼き二つ、あとコーラも」
「へえ、サービスいいね」
「でしょ?」
「で・・・頼みってなに?」
エリカは一瞬言葉に詰まったが、すぐにニコリと笑った。
「バレてた?」
「バレバレ」
少し恥ずかしげにエリカが言う。
「あのさ、中川君のことなんだけど」
「ボウズがどうかしたの?迫られて困ってるとか」
「ううん、逆よ」
「逆?」
「そう。こっちからいろいろサイン出してるのに、全然感じてくれないのよ。それで今度のキャンプの時にもう一押ししてみようと思うんだけど、何か上手い方法はないかな?中川君、どんなことに一番興味持ってるの?」
「うーん・・・」
「ま、話題はこっちで準備するしかないか」
その時、龍之介はあることを思いついた。
「実はさ、智世も行かないことになって、今のままだとオレとエリカとボウズの三人だけなんだよ。それで佐藤メグミとかにも声かけようと思ってたんだけど・・・」
フフフと笑いながら龍之介は言った。
「それはやめにして、やっぱり三人で行こうか」
「そうだね」
「それで、オレは途中で消える」
「え・・・」
「そうして、朝迎えに行ってやるよ」
「二人っきりで一夜を過ごすのか・・・」
「やっぱ、恐いか?」
「そ、そんなことないよ」
「それとも、今回は中止しようか?」
エリカは少しの間考えていた。そして、キラキラ輝く目で龍之介を見ながら言った。
「ううん、連れて行って」
「二人だけになりたいんだな」
「うん」
「そうか、わかった」
「ねえ、大木君」
赤くなり俯きながらエリカが尋ねる。
「中川君、その・・・求めてきたりするかな・・・」
「さあ、ボウズだって男だからな」
エリカはフウっと溜息をついた。そして小声で言った。
「やっぱり準備しとかなきゃダメだね。いざという時のために」

「お嬢ちゃん、美味しいかい」
「うん、おいしい」
「おお、いい子だねえ・・・はい、餃子サービス」
重蔵はリナのことがすっかり気に入ってしまったようだ。
「お客さん、オレは尚人の叔父の雨平重蔵と言います。年があんまり離れてねえんで重兄いって呼ばれてますがね。あの、つかぬことを伺いますが、こちらのお嬢ちゃんは尚人の?・・・尚人とはそういう仲と考えてよろしいんでしょうか」
「あ、いえ、この子は違うんです。私たち全然そんなんじゃ・・・」
「ほう、そりゃ残念だ・・・三人で入って来た時は仲の良い親子連れにしか見えなかったが・・・」
「おい重兄い、いい加減なこと言うなよ」
「はは、わかったわかった。だけどお客さん、良かったらまた来て下さいね」
「はい、ぜひ。とっても美味しいですもの。ねえ、リナ」
「うん」

「ああ、美味しかった」
店の外に出たみちるは尚人に言った。
「連れてきてもらって良かった。ありがとう、ナオト君」
「よせよ、廣瀬」
「ねえ、おじちゃん」
リナが緒形を見上げている。
「リナ、大洲にあるポコペン横丁に行きたいんだ・・・」
「リナ、お母さんが連れて行ってあげるから」
「ヤダ、おじちゃんと行きたい」
「わがまま言っちゃだめよ」
緒形はしゃがんでリナの髪を撫でながら言った。
「いいよ」
ミチルを失って以来感じたことのなかった柔らかな感情が、緒形の中に芽生えようとしていた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(20) 1987年・夏4
...2005/10/10(Mon) 01:53 ID:4iybE5qQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
朔五郎様
お疲れ様です。
尚人とリナの親子のようなやりとりには、ジーンときました。ミチルと良い仲になれば、リナにとってもいいことだと思いますので、ひそかに期待しております。
また、スケちゃんの粋なはからいにより、ボウズとエリカはどうなるのか、そしてその間の朔と亜紀は?
期待を膨らませてお待ちしております。
...2005/10/10(Mon) 22:07 ID:758dhlZU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
「1リットルの涙」を観ました。「世界の〜」みたいに、最初の2〜3回は平和なドラマが展開されるのかと思ったら、いきなり症状が出て、検査・宣告とややショッキングな展開でした。来週以降、辛いドラマになりそうですが、頑張って観ようと思います。

ここからは戯言です。
陣内さんは、「赤い疑惑」での熱演が印象深かったのですが、今回も「難病と闘う少女の父」という似たシチュエーションの役ですね。
陣内さんつながりになりますが、沢尻エリカさんは1年程前の2時間ドラマで石原さとみさんと共演してました。二人は反目し合う役柄で、言い争う場面は(エリカさんがさとみさんを平手打ち!)やたらと迫力がありました。
このドラマは『天国への応援歌〜チアーズ』という高校のチアリーディング部を舞台としたスポ根ドラマで、他のメンバーに市川由衣さん(彼女も「菊次郎とさき」で陣内さんと共演しましたね)、大塚ちひろさん(「いま、会いにゆきます」で高校生の澪役)がいて、豪華な顔ぶれが揃っています。
あと、石原さんのお父さん役は、島崎・・・じゃなかった、船越英一郎さんです。
DVDが出ているので、レンタルしてご覧になってはいかがでしょうか?
...2005/10/11(Tue) 22:33 ID:G4P3Y.II    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
夢島キャンプがドラマ本編とは全く違ったメンバーで展開されそうで楽しみになってきましたね。積極的なエリカにボウズは尻にしかれてしまいそうですが、それもいいかな?
将来ボウズがエリカと結婚したとすると、法話会の前にはエリカの特訓が入り、話がツッカエたりしたら、何度もやり直しさせられそうですね。
※たー坊さん、グーテンベルクさんとは一味違うボウズカップルを出そうと色々工夫されたのでしょうね。お疲れ様です。(比べるつもりはないのですが・・・スミマセン)

ラーメン屋のオヤジが誰かと思ったら重蔵でしたか。「えらいこった」がここで聞けるとは得した気分です(^^)
※ドラマ版と映画版のキャラのさりげない顔合わせ、そして「世界の〜」を軸にした色々なドラマ(「赤いシリーズ」「あいくるしい」「ファイト」等)の組み合わせのテクニックはサスガだと思いました。
...2005/10/11(Tue) 22:50 ID:G4P3Y.II    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
来週から森山未來君出演の「危険なアネキ」の放送開始ですね。お姉さん役で共演するのが、「電車男」のエルメスこと伊東美咲さんです。おしとやかな役から今度は飛んでるキャラを演じる美咲さんの変貌ぶりも楽しみですね。
先日「ウォーターボーイズ」のDVDをレンタルして観たのですが、山田孝之君と森山未來君、いいコンビしてますね。この二人が1年後に同じ朔太郎役を演じて、そのまた1年後にはエルメスでつながるとは・・・偶然とはいえ、面白いですね。
...2005/10/13(Thu) 23:24 ID:WIiCNm4I    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさま
このスレで「エリカ」が登場した頃、まだ「1リットル」は発表されてませんでした。ですので、イメージ的には「あい○○しい」の「ほのか」ですね。イタズラをして豪をからかっていた、あの感じです。
今までにないパターンで、エリカの方から動くことにしてみました。
...2005/10/15(Sat) 00:30 ID:KVUsmmh.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
エリカのイメージは「ほのか」でしたか。
納得いたしました。

※「あい○○しい」を観ていて「ほのか」が出てきたとき、石原さんに平手打ちを食らわせたあの女優さんが演じてるとは思いませんでした。そのドラマではいかにも少女漫画の敵役という感じでしたので、「ほのか」のイタズラっぽい笑顔を見て、いろいろなキャラを演じることが出来る女優さんが出てきたなー、と感心したのを覚えています。
...2005/10/15(Sat) 11:30 ID:F7o0zmbM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
それにしても、緒形さん、竹中さんに続いて、三人目の「直人」が出てきましたね。
トリを飾る(!?)にふさわしいといえるでしょう(藤木さんのドクター役)(^^)
...2005/10/15(Sat) 22:35 ID:KVUsmmh.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(20) 1987年・夏4

愛媛県大洲市は肱川の河畔に開けた城下町で、旧市街の本町付近には、明治から昭和初期にかけての古い町並みがところどころに残っている。肱川の鵜飼は風物詩であり、鮎は代表的な名産品である。この町はまた、生糸の集積地だった歴史を持ち、いわゆる文人大名と呼ばれる領主が多かったためでもあろうか、どことなく優雅で女性的な雰囲気を漂わせていた。
そして、この町を舞台にした「おはなはん」という朝の連続ドラマにより、全国から観光客が押し寄せた時期もあったのである。
ある日曜日の夕方、緒形はリナと約束したとおり、隣町の宮浦からみちるとリナの母子を車に乗せてこの大洲までやって来た。
夏の厳しい日差しも少し和らいで、町は夕暮れ色に染まろうとしていた。駐車場に車を停め、三人はリナを真ん中にして、手を繋いで歩き始めた。
空はまだ明るさを残しているが、ところどころにポツン、ポツンと灯りが見え初めていた。まるで時が歩みを停めてしまったような旧市街を歩いて行く三人は、人目には仲の良い本当の親子にしか見えなかった。
やがて三人は「おはなはん通り」という一角にやって来た。ドラマの舞台となった生糸問屋の漆喰塗りの倉庫が並んでいる。
「なんだか不思議な模様ね」
みちるのいう通り、白い漆喰の剥げ落ちた跡は黄色味を帯びた壁土の色が剥き出しになっていた。
「リナちゃん、ウシの種類でホルスタインっていうの知ってる?」
「うん、知ってる」
「あの壁の模様、ホルスタインの背中みたいだろ?」
「うん」
「今は暑いからあんまりいないけど、春や秋にはスケッチをする人がいっぱいいるよ」
「リナもお絵かきしたい」
「じゃ、秋になったらまた来ようね」
「うん」
やがて三人は「ポコペン横丁」というゲートの下までやって来た。ポコペン横丁は春から秋までは毎週日曜日に開かれるレトロな雑貨市のようなものである。昭和時代に流行した「月光仮面」などのポスターやホーロー製の看板などが数多く貼り付けられ、懐かしいお菓子やおもちゃ、雑貨などが売られていた。
「わあ、すごい賑やかだね」
「おもしろーい」
「リナ、連れてきてもらって良かったね」
「うん。おじちゃん、ありがとう」
「楽しいかい?そりゃ良かった」
ふと看板に目を向けた緒形は、そこに書かれてあるキャッチコピーに気がついた。
「大洲まぼろし商店街1丁目、か」

人間五十年、下天の内にくらぶれば、夢幻のごとくなり

「あら緒形君、織田信長みたいね」
「いや、実は東京の渋谷にある大学にいた頃、ゼミの忘年会で余興をやってさ、オレが信長の役をやったんだよ」
「へえ、じゃ今のは本能寺で自決する場面だったの?」
「いや、コメディに作り変えられててさ、奥さんの濃姫に逃げられちゃうって話だったんだ」
「おかしい・・・」
「全くヒドイ話さ」
「案外、その濃姫役の女の子に気があったんじゃないの・・・あっ、ごめんなさい。そんなわけないよね」
みちるの脳裏に、瞬時に桜井ミチルの面影が蘇った。
「緒形君、今でも忘れられないんだよね、きっと」
みちるの言葉に微かに苦笑し、空を見上げるようにして緒形は言った。
「いや、もうそろそろとは思っているんだ。これから少しずつ忘れていくんだろうな・・・」
急に深刻な雰囲気になってしまった二人を、リナが不安げに見上げている。その様子を見て微笑みながらしゃがんだ緒形はリナの髪を撫でた。
「ごめんね、リナちゃん」
「ううん」
「なあ、廣瀬。オレたちもこのポコペン横丁みたいだな。日曜日だけ幻のように幸せな家族が出現する。だけど月曜日になれば跡形もなく消え失せる。もっとも、オレの人生そのものが夢まぼろしみたいなものかもしれないな・・・ミチルだって本当に存在したんだかどうかな」
「そんな・・・」
「廣瀬にはリナちゃんがいるから。今まで生きてきたっていう確かな証拠があるから・・・」
「私の人生だって似たようなものよ。結婚して、リナが生まれて、あんなに幸せだと思ったのに、そんなもの一瞬にして消えてしまうんだもの」
「結局、似たものどうしなのかな、オレたち」
「そうかもね」
日が暮れて、数多くの電球の優しい光が辺りを照らし出す頃、そんな優しい時間をいつまでも共有したいと考え始めた三人は、ただ微笑みながら、その場にたたずんでいた。

「スケちゃん、来ないね」
「まあ気楽に待とうよ」
夢島のボウズとエリカは、夕陽が海に沈み、その残照が黒ずんでいくのをじっと見つめていた。
「とりあえず、夕飯の準備しようか」
「うん・・・」
やっぱりこんなことしないほうが良かったかな。そんな葛藤を感じながら、エリカは今日一日のことを思い出していた。

「あれ、智世は?」
いよいよ船を出すという時になっても智世は現れない。事情を知らないボウズは不審そうな顔をしている。
「あ、智世はさ、午前中は薬局の商品の棚卸しを手伝うんだって。昼過ぎにオレが迎えに行くから・・・とりあえず三人で行こう」
「ふうん。ま、いいか」
「よし、じゃ乗って」
三人を乗せた「五六七丸」はエンジン音を響かせて岸壁を離れた。
「スケちゃん、良い天気だな」
「ああ」
「あれエリカ、どうしたの?元気ないな・・・」
「そんなことないよ」

ボウズを騙してしまった
これからどうなるんだろう
もしかしたら、大変なことをしてしまったのかも

いろいろな思いが頭の中をグルグル駆け巡り、もう何がなんだかわからなくなっていた。極度に緊張して、ポンと肩を叩かれたらきっと飛び上がってしまうだろう。

島に着くとすぐ「無線が呼んでいる」と言って、龍之介が船に戻って行った。
「スマン、急用が出来ちまった。午後、智世と一緒にまた来るから、二人で泳いでてくれ」
「お、おう」
龍之介は少し蒼ざめているエリカに目で話しかけた。
(大丈夫か?)
頷くエリカ。
「じゃ、また後でな」
白い航跡を残して、五六七丸は島を離れて行った。

「どう、顕ちゃん」
度胸を決めて、授業の時よりちょっと大胆な白い水着に着替えたエリカは、さりげなく自分をアピールする。
「う、うん。良く似合ってるよ」
夏の海のきらめきが急に増したような思いにとらわれながらボウズが答える。
「それだけ?」
「それだけって・・・」
「まあいいや、行こう」
エリカはボウズの手を引っ張って海に走って行った。それからゆっくりと沖に向かって泳いで行った。二人とも泳ぎは上手かった。やがて二人とも足の届かないところまで来た。
「ねえ顕ちゃん、ちょっと疲れちゃった。つかまっていい?」
「いいよ」
エリカはふふっと笑うと、うれしそうにボウズの右肩に両手で掴まった。ボウズは立ち泳ぎをしながらエリカを支えていた。
「どうしたの、変な顔して?」
「い、いや、その・・・」
「ああ、胸?」
エリカはニコリと笑うと、自分も立ち泳ぎをしながらボウズの背中に手を回した。その結果、二人の体は密着することになった。
「・・・やわらかいな、エリカ」
「うん。だって女の子だもん」
やがて二人は手を繋いだまま、穏やかな波の上に仰向けに浮かび、真っ青な夏空と真っ白な入道雲をいつまでも見上げていた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(21) 1987年・夏5
...2005/10/16(Sun) 05:27 ID:rTE3UMpY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
おはようございます。
緒形先生・みちる・リナの3人が手をつなぎながら街中を歩いている姿が目に浮かぶようです。知らない人が見たら親子連れにしか見えないでしょうね。この3人にはゆっくりと「優しい時間」を味わいながら歩いていってもらいたいです。

エリカは大胆な行動に出たけれど、本当は心臓がバコバコだったんですね。そんなところが可愛いですね。
...2005/10/16(Sun) 09:32 ID:3bMTeCqc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 緒形先生・みちる・リナの3人が手をつないで,ゆっくりと過ごす「優しい時間」。時の番人の写真館ならぬラーメン屋の次は,富良野・松崎に続いて伊予大洲にも「皿の割れる喫茶店」が開業するのでしょうか。
 ボウズも,スケちゃんの仕組んだ罠に嵌って早くも「破戒僧」になってしまうのか,ここぞとばかりにエリカやスケちゃんに説教して高僧への道を歩み始めるのか,こちらの方も目が離せなくなってきましたね。
...2005/10/16(Sun) 16:46 ID:mVn7J3K.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさま
この3人には、ゆっくりと愛を育んで貰いたいと思っております。急がなくても、幸せが逃げることはもうないでしょう(^^)
「本当の家族」になるのはリナの入学式の時かな(笑)

にわかマニアさま
また、お人が悪い(^^;;;
本当に喫茶店を作りたくなってしまうじゃないですか。
それでは

※店名は「城下町」(原作より拝借)
※経営者は「森山三咲」で、華やかで目の覚めるような美形だが、静かで上品な女性(エルメスのイメージ?)
※三咲の弟は伊予高校で陸上部のコーチを務めている
※以前、弟の教え子の女子陸上部員が店を手伝ってくれたことがあったが、皿を何枚も割ってしまった

こんなんで、どうでしょう(^^;;;

あと、本当のことを言うと、1987年には「ポコペン横丁」は存在しませんでした。申し訳ありません(ペコリ)
...2005/10/16(Sun) 18:26 ID:rTE3UMpY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
さっそく拝読させていただきました。
エリカの登場に、思わず「おおっ!!」と反応してしまいました(笑)
エリカには亜紀以上の度胸の持ち主なのかなと思いましたが、その一方で朔と亜紀はどこに行っているのでしょうか?そっちも気になっております。
そして、ボウズがどのような行動に出るのか・・・・・・。それが最大の楽しみです。
次回も期待しております。
...2005/10/16(Sun) 22:22 ID:e07B6Vb2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さま
お読み頂いてありがとうございます。
朔と亜紀は東京まで駆け落ち、ではなく、陸上の全国大会出場のために行っております(朔は応援)
もちろん谷田部先生も同行しております。もしかしたら真や綾子も応援席に座っているかも(^^;;;
...2005/10/16(Sun) 22:53 ID:rTE3UMpY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
先日「日○スポーツ」に、女優E.S.さんのインタビューが載っていました。

「結婚にサプライズはいらない。いっしょに食事をしたり、そういう当たり前のことが大事」

というようなことを語っていました。ちょっと意外な感じでしたが、なかなか深い言葉だと思いました。
...2005/10/21(Fri) 02:14 ID:dGWVb7nI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(21) 1987年・夏5


「ねえ、水汲んできたよ」
「おお、サンキュ」
廃宿の裏手の斜面にはきれいな清水が湧いていた。樋から流れ落ちる水は、海から上がった後の体や髪を洗うのに困らないくらいの豊富さだった。
ボウズは空き地に浅い穴を掘ると、その周りに四角の形に石を並べ、その上に鉄板を置いた。藪の中から拾ってきた木の枝をその下に敷き詰めた。
ふとエリカを見ると、何か考え事でもするようかのように包丁を持った手を止めていた。
「・・・エリカ」
涙ぐんでいるような気配に、ボウズは思わず声をかけた。
「エリカ、どうしたの」
「ううん、何でもないの。タマネギ刻んでたら涙が出てきちゃった」
「それならいいけど」
やがて、鉄板の上はお好み焼きとヤキソバで一杯になり、ソースの焦げる香ばしい匂いが一面に漂った。
地面に置いたキャンプ用のランタンが楽しそうな二人の姿を照らし出していた。
「顕ちゃん、料理上手いね」
「まあ、修行とかいう名目で家の中の手伝いはさせられてたからね」
「顕ちゃんの奥さんになるひとは、きっと幸せだろうな」
「どうして?」
「だって優しいし、良く気が付くし、料理も上手いし」
「オレなんかカッコよくないし、家が金持ちっていうわけでもないから」
「だってお付き合いとか結婚とかに、そんなことあんまり重要じゃないよ。こうやって一緒に話をしたり、食事をしたり、そういう普通のことが一番大事なんだよ。隣にいても息苦しくなくて、楽しくなれるひとがいいな」

やがて食事も終わり、二人は廃宿の中に入った。
「エリカ、はい」
ボウズはポカリの入った紙コップを渡した。
「ありがとう」
部屋の隅に残されていた布団を広げ、その上にビニールシートを敷く。二人はその上に座って話を続けた。
ボウズが持ってきたラジカセを出すと、エリカがテープを渡した。
「これね、メグミに借りてきたの」
「メグミって、佐藤メグミ?」
「うん。この間彼氏と二人でここに来た時に聞いたテープなんだって」
「え、じゃ、メグミがスケちゃんと夢島に来たという噂は本当だったのか」
「ううん、メグミの彼氏は田中くんていう人で、大木君と良く似てるけど、全くの別人だよ」
「そうか」
ボウズは智世の顔を思い浮かべながら言った。
「よかった」
「それにしても大木君遅いね」
「もういいよ、エリカ」
「え・・・」
「スケちゃんは来ないんだろ?」
「そ、それは・・・」
「最初からこうなる予定だったんだろ」
「顕ちゃん・・・」
「さっきわかったんだ。だって食材が二人分しか無かったから」
エリカはもう、真っ青になっていた。
「エリカ、どうして?」
「私、焦ってたの」
「焦るって・・・」
「顕ちゃんが廣瀬さんのこと好きだった、ううん、今でも好きだっていうことはメグミから聞いて知っていたわ。だから、顕ちゃんは私のほうなんか絶対に振り向いてくれないと思った。私から積極的に動くしかないって・・・」
「エリカ・・・」
「顕ちゃん、宣言したんでしょ、絶対に廣瀬さんよりいい女を見つけてやるって」
「あ、ああ」
「でも私、顕ちゃんが私のこと、そんなふうに思ってくれるとは思えなくて、それで・・・」
「それで、とりあえず事実を作っちまおうとした」
「そうなの」
「しょうがないな・・・」
ボウズは軽く溜息をつきながら、カセットテープをPlayにした。
「おいおい、ロミオとジュリエットだぜ・・・メグミたち、ここでこんなもの聞いてたのか」
物悲しいメロディが流れて行く。
エリカは側に置いてあったランタンの灯りを無言で消した。二人を暗闇が包み、窓から入ってくる月明かりだけがわずかに二人の姿を照らしていた。
「しようか、ってこと?」
ボウズの問いかけにエリカは頷いた。
一瞬の間の後、ボウズが唇を重ねようとすると、エリカは無意識のうちにビクッと身体を硬直させ拒絶の姿勢をとった。
「なに・・・」
「ごめんね、やっぱり、やっぱり恐いの・・・顕ちゃんとそうなるのがじゃなくて、自分が嘘をついていたことが。だって最初から仕組んだことだもん。こんな不純な気持ちで顕ちゃんと新しい一歩を踏み出すのは嫌なの。二人が本当に好きになって、そうなることを望んだ時に先に進みたいの。ああ、なんて勝手なんだろう、私。こんなこと言う権利なんかないよね・・・」
「エリカ、好きなだけ思ったことを言えよ。オレ、ちゃんと聞いてるからさ。こういうことって、テープとは違ってPlayは出来てもReverseは出来ないんだよ。だから後悔しないように、全部喋っちまったほうがいいよ」
「今日はキスまでにしてほしいの。お願い・・・」
「いいよ。キスっていうのは夢とか語り合いながらするものだろ。エリカが嫌がることを無理やりすれば、夢はそこで終わっちまうからな」
「ありがとう。私もっともっと顕ちゃんのことが知りたい。私のことも知ってほしい。いつまでも一緒にいたい・・・それが今の私の夢なの」
ボウズは静かにエリカの髪を撫でた。
「あ、この際だからオレも言っとく。廣瀬よりいい女を見つけるっていうのは勢いで言っちまったことなんだ。だから取り消す。オレにとって一番大切な女は、他の誰とも比べることなんか出来ないよ、きっと」
ボウズはエリカの肩を優しく抱き寄せた。ボウズに対して、心に沁みこむような信頼感を感じたエリカは、今度は拒まなかった。

やがて二人は、並んで横になり、眠りに落ちていった。二人だけの静かな時間が流れていく。
ふと目を覚ましたエリカは自分の耳を疑った。
(なに、この音・・・)
それはこの無人島では絶対に存在しない筈の音だった。
(恐い・・・)
嘘をついたことへの罰が下されようとしているのだろうか・・・
「顕ちゃん・・・ねえ起きて、顕ちゃん。変な音がするの。私、恐い」
上半身を起こしたボウズに、エリカはしがみついた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(22) 1987年・夏6
...2005/10/23(Sun) 21:24 ID:U41Q0qzc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
さっそく拝読させていただきました。
エリカとボウズの新・夢島コンビ・・・・・・。
エリカの行動がとても可愛らしいですが、例のあの音・・・・・・とても気になります。次回以降の展開に期待いたします。決して、朔と亜紀のようなことにならないように祈ります。
...2005/10/23(Sun) 21:36 ID:h7tgg8KQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま
ボウズ・エリカの夢島アナザーバージョンを楽しませていただきました。
エリカの仕組んだことを責めなかったボウズも男らしいですね。

たー坊さま
「1リットルの涙」放送開始時期に重なったこともあって、私も心配になって朔五郎さまに問い合わせたことがありましたが、その時は否定されていましたので、たぶん大丈夫だと思いますよ。あ、そんなこと言ったら興ざめですか。スミマセン(^^;;
...2005/10/24(Mon) 00:08 ID:n93Ibops    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 朔五郎様,たー坊様,SATO様

>例のあの音・・・とても気になります。決して、朔と亜紀のようなことにならないように祈ります。

 私からも,そう願います。
 (最終回:校庭にて)
 「送ってあげられた?」
 「オレ,仏門に入ろうかなって・・・」
 「もう剃髪してるじゃない」
 これじゃ,シャレにもなりませんからね。
...2005/10/24(Mon) 00:37 ID:8VGf.zng    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さま、たー坊さま、にわかマニアさま
再度ネタばれかもしれませんが、以前、エリカのことを朔五郎様にお聴きしたところ、「1リットル〜」ではなくて「あいくる〜」のイメージが近いとのお話がありました。
エリカに「変な音」が聞こえてきたのは、もしかすると「ほ○か」のように「み○」が悪くなる前兆では・・・とピンときたのですが、でもやっぱり健康でいて欲しいですね。

朔五郎さま、いいところで話が切れたので、「思惑」どおり、読者同士で続きの予想大会みたいになってきましたね(^^;
...2005/10/24(Mon) 19:24 ID:3./ga.xI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
皆様こんばんは。
今日は廣瀬亜紀の命日ですね(合掌)

さて、エリカですが、次の朝、夢島から帰るとすぐに入院します。主治医は藤木医師・・・というのは真っ赤なウソで、彼女は健康そのものです(^^)
「あの音」は電話の音ではありません。このカップルにふさわしい、と言えないこともありません(^^;;;
ちなみに、ボウズにも聞こえるので「耳鳴り」ではありません。
申し訳ありませんが、いましばらくお待ち下さいませ。
...2005/10/24(Mon) 21:39 ID:sIpEvxPM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(22) 1987年・夏6

「ね、聞こえるでしょ、あの音」
エリカに言われて、ボウズも耳を澄ませた。
「・・・!」
ボウズにもはっきりと聞こえた。単調なリズムで繰り返される音・・・それはボウズにとって聞き慣れた音だった。
「どうして・・・こんな時間にこんなところで」
「やっぱり、あれは木魚の音だよね」
二人は思わず顔を見合わせ、次の瞬間抱き合って震えだした。
「わ、私があんな嘘をついて、修行中の顕ちゃんを誘惑したから、仏様が怒ってるんだ・・・」
「違うよ、オレがエリカに対して、一瞬でも邪念を抱いて色ボケ魔人になっちまったから・・・」
「神様、じゃなかった仏様、みんな私が悪いんです。顕ちゃんは許してあげて下さい」
「エ、エリカ、慈悲深い仏様がそんなひどいことするわけないよ」
「じゃ、あの木魚は誰が叩いているのよ」
その時、二人の心の中に、さらに恐ろしいことが思い浮かんだ。
「も、もしかして・・・昔、源平の戦で亡くなった武士の・・・」
「バ、バカなこと言うなよ」
「顕ちゃん、声が震えてるよ・・・」
「オ、オレがビビってるって?・・・そうかもな」
二人はしばらくの間、足が震えて立ち上がることすら出来なかった。しかし、意を決したようにボウズが言った。
「行こう」
「行こうって、どこに?」
「木魚を叩いてるヤツに会いに行くのさ」
「そんなことしたら呪い殺されちゃうかもよ」
「ここでこうしてたって同じだろ?」
「わかった・・・私、顕ちゃんについて行く」
「もし亡霊が出てきたら、オレの法力で追っ払ってやるよ」
「だって僧侶にはならないって・・・」
「一応、寺の長男だから、ありがたいお経の一部くらいは覚えてるよ」
「大丈夫なのかなあ・・・」
二人は音のするほうへ歩いて行った。
「この中だ・・・」
ボウズの言葉にエリカは身体を緊張させて、ボウズのシャツを強く握り締めた。
「入るよ」
懐中電灯で暗闇を照らす。が、もちろん誰もいない。
「あ!」
「やだ、なに・・・」
「なんだ・・・」
そこは廃宿の浴室のようだった。洗い場に伏せた状態で残されていた木の桶の上に、天井から水滴が落ちて反響し、まるで木魚を叩くような音を立てていたのである。
「寝てる間に夕立があったみたいだね」
「うん、すごい雨漏り」
二人は顔を見合わせながら、ヘナヘナとその場に座りこんだ。
「と、とりあえず落武者の呪いではなかったようだね」
「恐かった」
極度の恐怖と緊張から開放されて、二人は呆然としていたが、やがてエリカが声をあげた。
「見て」
「なに?」
エリカは黙って窓の外を指差した。そこには無数の小さな光が点滅している。
「ホタルだ」
「キレイ・・・」
「エリカ、行ってみよう」
「うん」
建物の外に出ると、雨は上がっていた。そして、数え切れない小さな星のようにホタルの光が点滅していた。
「ねえ、宇宙空間に来たみたいだね」
「ああ・・・」
「でも、二人でお星様になるのはまだ早いよね」
「そりゃそうだ」
二人は苦笑しながら手を繋ぐ。
「ずうっと先にはそうなるかもしれないけど・・・」
「それって・・・エリカ、オレたちずっと一緒に生きるの?」
「わからないけど、ちょっとそんな気もする。私のマイナスと顕ちゃんのマイナスを掛け算すればプラスになりそうな・・・顕ちゃんとだったらそんなことだって出来そうな気がする」
「そっか」
「顕ちゃん、私のこと守ってくれるんでしょ?」
「あ、ああ」
「じゃ、ありがたいお経をいっぱい覚えてね」
「それって・・・やっぱり寺を継げっていうこと?」
ボウズがほろ苦く笑う。
「うん。ちゃんと修行もしてよ」
「わかったよ」
「荒行とかもあるんでしょ?」
「ああ、滝に打たれたり、山の中を歩き回ったりな・・・」
「私にはなんにも出来ないけど、荒行から帰ってきたら優しくしてあげる」
「優しくって?」
「お疲れ様って、優しく抱きしめてあげるよ」
「それも悪くないかな」
二人は溶けるような笑顔になった。
「幸せだな・・・」
「なに涙ぐんでるんだよ」
「もう、何か起きるんじゃないかって思っちゃうよ」
「起きてるじゃない」
「え・・・」
「こうやって二人でここにいる奇跡」
「そうか・・・これも運命かな。この瞬間に顕ちゃんの隣に私がいる。運命はどうして私を選んだのかな、仏様が決めてくれたのかな・・・なんだか、とってもうれしい」
ボウズはエリカの肩にひときわ明るく光るホタルが止まっているのを見た。
しばらくして、そのホタルは姿を消した。
「あれ」
しかしそのホタルは二人の頭上を舞っていたのだった。
やがてボウズのシャツに止まったホタルは左の胸あたりに移動した。そして心臓の鼓動に合わせるように明滅を繰り返し、やがて静かに消えていった。ボウズの心に溶け込んで行くかのように。

次の朝、二人を迎えに来た龍之介は目でエリカに問いかけた。
(・・・?)
エリカはちょっと恥ずかしそうに俯きながら、首を横に振った。
(そうか・・・)
何となくほっとした気分になって、龍之介は笑みを浮かべた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(23) 優しい時間・愛媛編1
...2005/10/27(Thu) 03:29 ID:G7innxo.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
夢島編の終わりはどうなるかと思いましたが、なーんだ、と思うと同時に安心しました。平凡な結末もいいものですね。
「どうして私を選んだのかな」というセリフもこのシチュエーションだったら笑って聞き流せます。(セリフの出展となったあのドラマがだんだん辛い展開になってきましたのでなおさらです)

次回は、題名から推測すると喫茶店が舞台になるのでしょうか?清楚なミサキママが登場でしょうか?楽しみにしています。
...2005/10/27(Thu) 20:35 ID:hEohGYw2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
ボウズ&エリカの夢島編、読ませていただきました。「このカップルにふさわしい音」それもボウズにも聞こえるので耳鳴りではないというヒントになんだろう?とおもっておりましたが、木の桶に水滴が落ちることによるって発せられたいたことに安堵いたしましたが、「木魚」って・・・。
ある意味メチャクチャ怖い音だと思いますよ・・・。何気にスケちゃんがエリカに気があるのでは?と感じた私です。
次回も楽しみにしております。
...2005/10/28(Fri) 23:36 ID:ve97YfNc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(23) 優しい時間・愛媛編1

大洲のポコペン横丁にやって来た、緒形、みちる、そしてリナの三人は土蔵造りの喫茶店の前を通りかかった。
「少し休んで行こうか」
「そうね」
格子戸を開け「蔵の時計」というその古びた店に入って行った三人の目に、まるで目を覚ますように美しい女性の姿が映った。くすんだ漆喰の壁を背景にした、赤いワンピースを着たスラリとした立ち姿は、まるで一輪の花のようだった。
「いらっしゃいませ」
その艶やかな姿にもかかわらず、上品で静かな物腰の彼女は、店内のレトロな雰囲気と見事な調和を保っていた。
「コーヒーでよろしいですか。当店では、希望されるお客様にはご自分で豆を挽いて頂きます。どうなさいますか」
「どうする?」
「面白そうね。リナはみかんジュースにする?」
「うん」
「じゃ、コーヒー二つと愛媛みかんジュースを一つ」
「かしこまりました」
彼女はカウンターの中に入ると、豆を挽くミルを二つ持って来た。
「どうぞ」
リナはもう、興味津々といった様子でそれを見ている。
「あ、カレーとかもあるな。ちょっと腹も空いたし、食べてみないか」
「そうね」
「リナ、カレー大好き」
「そうか」
緒形はカウンターの方に向かって言った。
「蔵のカレー、三つ追加してください」
「かしこまりました」
やがてカレーと飲み物、注文した品がすべて出されて、和やかな食事が始まった。
「このカレー、まろやかでとても優しい味ね」
「うん、美味いね。実はさ・・・」
緒形は悪戯っぽく声を潜めて言う。
「大洲だから鮎でも入ってるんじゃないかと、内心ドキドキしてたんだ」
「まさか・・・」
みちるは思わず吹き出した。
「リナちゃんはシチューとか好き?」
「大好き。キノコがいっぱい入ってるのがいいな」
「ホワイトシチューは?」
「好き。とっても美味しい」
「オレ、カレーやシチュー煮込んだりするの結構得意でさ、東京に下宿してる頃は仲間がよく食べにきたんだ。冬になるとホタテやジャガイモを入れた《北海道シチュー》っていうのが一番好評だったな」
「リナも食べたーい」
「じゃ、今度リナちゃんにも作ってあげるよ」
「うれしい」
みちるは、そんな二人のおしゃべりを微笑みながら見ていた。そして、つい口に出した。
「緒形君とリナは本当の父娘みたいね」
口に出した途端、あわてて謝った。
「ごめんなさい、失礼な事言っちゃって」
しかし、緒形は笑いながら言った。
「いいよ。実はオレもそう思ってたんだ。ねー、リナちゃん」
「ねー」
緒形は自分自身を振り返るように言った。
「オレくらいの年になれば、リナちゃんみたいな子供がいてもちっとも不思議じゃないからな・・・可愛いもんだな、子供って」
それを聞いて、みちるは緒形に、一番気になっていることを尋ねようとした。しかし、結局その言葉を緒形にぶつけることはせず、呑み込むことしかできなかった。
(私のことはどう思ってるの、緒形君)

カウンターの上の電話がなっている。
「はい《蔵の時計》です・・・ああ、優太郎。どう東京は・・・暑い?ああそう。で、どうだったの、あなたの生徒さんの結果は・・・予選突破?明日準決勝なの・・・良かったわね。そうそう、愛媛からはもう一人出てたでしょ、えーと宮浦高校のヒロセさんっていう子だったっけ・・・」
それを聞いて緒形とみちるは思わず顔を見合わせた。
「へえ、一緒に準決勝へ・・・良かったわね・・・うん、うん・・・優太郎も付き添い大変だけど頑張ってね・・・うん、じゃあね」
電話が終わるとすぐに、緒形は尋ねた。
「・・・あの、今のお話しが聞こえてしまって・・・大変失礼ですが、宮浦高校の廣瀬の名が出たようなので・・・あ、私、宮浦高校の教員の緒形と申します」
「あ、私は廣瀬と申します。宮浦高校の廣瀬亜紀は私の姪です」
「そうでしたか、それは偶然ですね。私、森山三咲と申します。今の電話は弟の優太郎が掛けてきました。弟は伊予高校で陸上部のコーチをしていまして、今、生徒さんの付き添いで東京に行っているんです。宮浦高校の廣瀬さん、準決勝に進んだようですよ。おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます・・・すごいな、廣瀬」
「亜紀ちゃん頑張ったんだ、よかった」
「弟が言ってました。弟の教え子も、宮浦高校の廣瀬さんと上田さんの存在に刺激を受けたからこそタイムを伸ばせたって。これも何かのご縁ですから、よろしかったら、またおいでください」

二日後、みちるは仕事帰りに、リナが通園している白百合幼稚園にやって来た。建物が古く、雨漏りがするようになったため、改修工事の間、近所の寺に間借りをしていた。
「リナちゃーん、お母さんが迎えに来たよ」
「はーい、直子先生」
寺の本堂で待っていたリナが駆け寄って来る。今日、最後まで迎えを待っていたのはリナだった。リナは自分の母親とどことなく似た雰囲気を持つ、保母の嶋崎直子によくなついていた。
「リナちゃん、また明日ね」
「うん」
そこへ直子の父で園長の嶋崎英一郎がやって来た。
「ああ、廣瀬さん。お迎えお疲れ様です。リナちゃん、バイバイ」
「はーい。さようなら、園長先生」
「あ、直子。今日は俊輔君と待ち合わせをしているんじゃないのか?あとは私に任せて早く行きなさい」
「お父さん、ありがとう・・・じゃ、お願いします」
「ああ、俊輔君によろしくな」
娘の後ろ姿を見送っている英一郎に、みちるは声をかけた。
「あの、園長先生・・・」
「おお、廣瀬さん。何か」
柔和な笑みを浮かべる英一郎に、みちるは言った。
「あの実は相談に乗って頂きたいことがありまして・・・先生のお時間が空いている時にお願いしたいのですが」
「そうですか。ああ、今でよろしければお聞きしますけれど」
「はい、お願いいたします」
「それでは中へどうぞ」
英一郎はみちるを園長室の中に招き入れた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(24) 優しい時間・愛媛編2
...2005/10/30(Sun) 20:35 ID:vd68W3e6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
先日の夢島編が終わったのでしばらく間があくかな・・・と思ったらもう新作が始まったのですね。
「月9」「エル○ス」「赤い○命」を思わせるキャラが新登場して新たな楽しみが増えました。
続きを楽しみにしています。
...2005/10/30(Sun) 21:40 ID:ZbpCyxhU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 緒形先生やボウズたちに気をとられて,あの電話が鳴るまですっかり忘れていましたが,主役たちは東京遠征中だったのですね。
 富良野:森の時計,宮浦:海の時計,伊予大洲:蔵の時計ときましたが,代々木の国立競技場の構内の喫茶店は何て名前なんでしょうかね。
 あっ。また煽ってしまった・・・(^^;;;
...2005/10/31(Mon) 08:30 ID:siZ6Dnhg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
山田孝之クンの新作ドラマ情報です。
今度の彼の役は・・・えっと思いますよ。

http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/report/050921.html
...2005/10/31(Mon) 23:09 ID:fSpFFgfw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
静御前こと石原さとみさんの情報です。
個人的にすごく楽しみです(^^)

http://www.fujitv.co.jp/fujitv/news/pub_2005/05-380.html
...2005/11/03(Thu) 19:04 ID:jjCjSkPQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
石原さんは今度はナース役に挑戦なのですね。
...2005/11/06(Sun) 08:39 ID:PTtaSFgM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
久しぶりにあのコンビが共演ですね。
内容としては重いようですが、その分、スタッフさんを含めて撮影時以外では、明るい雰囲気でよい作品を作っていただきたいですね。
...2005/11/06(Sun) 14:58 ID:/ah7V9/U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
歌手の本田美奈子さんがお亡くなりになりました。闘病中も回復を信じて前向きに病魔に立ち向かっていたとのこと。ご冥福をお祈りいたします。
...2005/11/06(Sun) 21:55 ID:OsLB0j/U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
本田美奈子さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
...2005/11/06(Sun) 22:46 ID:fW13KZ8M    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(24) 優しい時間・愛媛編2

「さあ、どうぞ」
英一郎はみちるとリナを園長室に招き入れた。
「どうぞお座り下さい」
「ありがとうございます」
「どうしました?何か心配事でも・・・」
みちるは一瞬俯いたが、意を決して話し出した。
「実は・・・」
頷きながら話を聞いていた英一郎は、優しい笑みを浮かべながら言った。
「なるほど、リナちゃんのためにも、その緒形さんという方との将来を考えてみたい、ということですな」
「・・・はい」
「で、相手の方から、はっきりとした気持ちを聞いたわけではないのですね・・・まあ、私は幼稚園の園長で、結婚相談所をやってるわけじゃありませんので・・・ただね、長く生きてる者のカンで言いますと、その男性は廣瀬さんやリナちゃんと家族になりたいと思っているんじゃないでしょうか。男の口から、なかなかそういう言葉は出て来ないものですよ」
「そうですか・・・」
「あと、その方とリナちゃんが本当にうまく行くか、ということですよね」
「はい、今は良くても、後になってからいろいろ出てくるんじゃないかと・・・」
「それはその時になってみないとわかりませんなあ・・・ただね、心配しててもしょうがないんですよ。実際にやってみないとね」
「はい・・・」
「私こんなこと言ってますけどね、実はうちの直子、私の本当の娘ではないんですよ」
「ええっ」
みちるは驚愕の表情を浮かべた。互いに信頼し合い、理想の父娘に見える英一郎と直子の血が繋がっていないなど想像すらできなかった。
「私たち夫婦は、ふとしたことから生まれたばかりの娘と生き別れになってしまって・・・もちろんあらゆる手段で捜し回ったのですが、どうしても見つからなかったんです。そんな時、ある施設でちょうど今のリナちゃんと同じ位の歳だった直子と出会ったんです。人懐っこい子で、私たちを見てニコっとしたんですよ。その時、この子と出会ったのは運命かもしれない、この子を自分の娘と思って育てよう。もし、後で本当の娘が見つかったら二人一緒に育てればいい、と思いまして、すぐに引き取ったんです」
「それで本当の娘さんは・・・」
「それから何年かして、ある検事さんの家の養女になっているのがわかりました。でもね、その家でとても大事にされてましてね、話し合いの結果、このままにしておくのが娘にとって幸せだろうということになったんです。それが縁で、その検事さんとは家族ぐるみのお付き合いになって、そこの息子さんと直子はいま、婚約しているんですよ」
英一郎はみちるの不安を解きほぐすように続けた。
「義理の親子なんてものは、どうなるかわからない。でも案外うまくいっちゃうこともあるんですよ、私たち夫婦と直子のようにね。廣瀬さんも不安がって立ちすくんでいるより前に踏み出すことを考えたほうがいいんじゃないのかな」

朔と亜紀は東京・国立競技場の構内にある喫茶店「ストップウォッチ」でアイスコーヒーを飲みながら、初めて出場した全国大会のことを振り返っていた。
「ね、朔ちゃん、ストップウォッチって陸上競技場にピッタリの名前だと思わない?」
「そうだね」
「でも・・・ああ、悔しい。8人中7位だなんて」
「だって亜紀、決勝に出られただけでもすごいことだろ?」
「そりゃそうだけど・・・」
女子100m走決勝には、愛媛・伊予高の広瀬をはじめ「風のハルカ」こと大分・由布院学園の村川や「上州のサラブレッド」こと群馬・四万温泉高の木戸など錚々たる選手が出場していたのである。
「考えてみれば、二年生で無名の新人っていう感じの私が東京まで来られただけでも奇跡だよね」
亜紀は吹っ切れたように笑った。
「こうなると楽しみは九月から始まる新しいドラマよね・・・」
「またドラマか・・・好きだねえ」
「今度のはちょっと面白いのよ」
「あの《白夜行》っていうやつ?」
「うん」
「でも主役を演じる二人って、あんまり聞いたことない名前だよね」
「二人とも新人さんみたいよ」
「そうか・・・それでどんな物語なの?」
「それがもう、素敵なお話しなのよ・・・」

時空を超えて走る銀河鉄道・・・
七月七日、一年に一便だけ運行される超豪華な夜行列車があった。夜空を駆ける流星のような純白の車体。その外見から「白夜行(しろやこう)」と呼ばれるその列車は、行先すら公表されていなかった。
椿原亮司も銀河への旅に出る乗客の一人だった。眠れぬ夜、ラウンジカーで独りワイングラスを傾ける亮司の前に、美しいアテンダント・辛沢由紀穂が現れる。運命のいたずらか、終着駅までの一夜限り、二人は儚くも激しい恋に落ちてゆく・・・
そして、夜明け・・・終着駅のホームで二人は微笑みながら別れて行く。
「今度遭うときは、手を繋いで太陽の下を歩こうね」と約束を交わして。

「ロマンチックな物語よねえ・・・」
うっとりした表情で亜紀がつぶやく。
「ああ、私もそんな恋がしてみたい」
朔にチラリと視線を送る。
「な、なんだよ・・・そんなのが好きなのかよ。亜紀はやっぱり夏の日差しの下にいるほうが似合ってるよ」
「うふふ、そんなにムキにならないでよ」
「・・・なってねえよ」
「ねえ、でもいつか二人でそんな旅に出てみたいと思わない?」
「夜行列車に乗って、か?」
「うん」
「行先さえもわからない旅に?」
「うん・・・でも、やっぱりちょっと怖いかな・・・」
「まあな。行先さえわからないっていうのは、ちょっとパスかも」
亜紀はガラス越しに屋外に目を向けながら言った。
「でもさ、本当にいるかもよ。そんな恋人たち・・・どこに行くのかわからない・・・ううん、絶望的な終着駅にしかたどり着けないことがわかってても、そこに向かう二人が」
「おいおい、どうしちゃったんだよ、亜紀」
亜紀の視線を追って、朔も外に目を向ける。少し涼しくなった黄昏時、何組かのカップルがそぞろ歩いている。
「ほら、どう見ても幸せそうなカッ・・・」
幸せそうなカップルばかりだと言おうとした朔は、ハッとして口をつぐんだ。目の前のガラスにはもう一組の朔と亜紀が映り、こちらを見ている。
「そ、そうだ、亜紀、帰ったらまた、大洲に行ってみようぜ。大都会もいいんだけどさ、ああいう古い町並みのほうが落ち着くんだよね」
「うん」
「おれたちはさ、こんなふうにだんだん近づいていって・・・幸せになれるんだよな、いつか」
「なれるよ、きっと」
亜紀はニコリと笑って言った。
「好きよ、朔ちゃん」

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(25) 優しい時間・愛媛編3
...2005/11/07(Mon) 00:09 ID:IJhv9xqc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さん
「あのコンビ」を観られるのはホントに楽しみですねー(^^)
朔五郎的には綾瀬さんが「汚れ役」をやるのは女優としてのキャリアを積む過程で止むを得ないかな、という気もします。
ただ、原作があれだけ有名な作品だと、ドラマを観る人は当然「期待と先入観」を持ちますよね。タイトルやキャラを拝借する以上「ドラマはドラマだから先入観を持つな」という方が無理というものです。
原作に登場する雪穂という女性は、おそらくドラマで綾瀬さんが演じるよりも遥かに非情な人間です。レ○プされた少女の心の傷に塩をなすりつけるようなことを平然と実行します。当然、作品全体も「純愛」などという生やさしいものではないと思われます。小説のネタばらしになるのであまり詳しくは書けませんけど。
つまり「汚れ役」を演じるのはOKだけど、中途半端にやってほしくないのですよ。綾瀬さんに合わせて「比較的マイルドな」雪穂を演出するのではなく、やるなら徹底的に冷酷非情を演じる覚悟を持ってもらいたいと私は思います。
...2005/11/07(Mon) 04:07 ID:IJhv9xqc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
おはようございます
英一郎がみちるに話した内容は、親子のあり方を見つめ直すことが出来るいい話だと思いました。
最近、娘が母親に毒を盛ったり、親が子供を虐待したり、と実の親子の間で嫌な事件が続いているので、なおさらそう思いました。
(あのドラマがヒントになっていることはわかっているのですが・・・)
...2005/11/07(Mon) 07:32 ID:zV0OU4R2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
「世界の〜」の朔と一樹にしても「赤い運命」の親子にしても、結局は心の繋がりが大事なんだな、と思いました。
...2005/11/07(Mon) 12:23 ID:IJhv9xqc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
今夜の「1リットルの涙」は泣けました。『家族会議』で亜也の病気について弟妹に打ち明け、誰かを恨むでもなく、みんなで亜也を支えようという家族の心意気に感動しました。斜に構えた感じだった亜湖が特に衝撃を受けたようで、次回以降変わっていくのでしょうね。(予告編でチラリと出ていました)
「世界の中心〜」と比べてしまうのはどうかと思いますが、母親役の薬師丸ひろ子さんは、手塚理美さんとは一味違う感じでいいですね。
今回は「夕暮れ」「ヒグラシの鳴き声」が随所に散りばめられていて、ずっと切ない気持ちで観ていました。(「世界の中心〜」でも6話あたりで「夕暮れ」「ヒグラシ」があったのを思い出しました)
...2005/11/08(Tue) 22:17 ID:cSopYvGQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
病気を機会に変わると言えば、かなり古いですが深田恭子さんが主演した「神様もう少しだけ」を思い出します。あのドラマは本人の自覚が変わるのでしたけど・・・
あと、病気がわかった途端に逃げ出す男、という設定は「舞台版・世界の〜」を思い出しました。
...2005/11/09(Wed) 02:58 ID:iexND0Qc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さん
おはようございます。
昨日は仕事の関係で国立競技場へ行きました。
それらしき喫茶店がありましたので、入ってみました。朔と亜紀はここの窓際の席に座ってたんだなどと想像しましたよ。(残念ながらその店は「ストップウォッチ」という名前ではありませんでした)
...2005/11/09(Wed) 06:58 ID:WVCe0Sco    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
レポートありがとうございました。

さて、某テレビ情報誌に「白夜行」のイメージ写真が載っています。
すごい写真ですねー(驚愕)
朔五郎おじさんはもう、ドキドキしてしまいました(^^;;;
ドップリ深みにハマった二人がそこにはいます。
綾瀬さんもさることながら、山田さんの陶酔し切った表情、すごいですねー(汗)
究極の不幸と究極の歓びの共存とでもいいましょうか(^^;;;
強いてセリフをつけるなら「ここ天国だもん」っていう感じです(汗)
...2005/11/10(Thu) 01:25 ID:0RS/aYTU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(25) 優しい時間・愛媛編3

喫茶店「蔵の時計」の格子戸が開く。
「いらっしゃいませ」
緒形尚人は三咲のすぐ前のカウンター席に座った。
「今日はお一人ですか」
「うん。今日は宮浦の夏祭りの日でね。夕方、この前の二人と待ち合わせて縁日に行こうかと思ってね」
「そうですか」
「今日はね、何となく三咲さんに話を聞いてもらいたくてね」
「恋の悩み、ですか?」
「よくわかるなあ」
「そりゃ、顔にそう書いてありますもの」
「ははは、そうですか」

宮浦の夏祭りが始まった。
宮浦観音の境内には色とりどりの提灯が下り、夢の中のような光景だった。
「・・・」
ボウズはソワソワしながらエリカを待っていた。
「顕ちゃん」
待ち焦がれていた声に振り向くと、そこには桜色の浴衣を着たエリカの姿があった。一瞬魂を抜かれたようにポカンとした表情を浮かべたボウズの様子に、エリカはクスリと笑った。
「どうしたの?」
「い、いや・・・」
ボウズの目の前には、活発で悪戯っぽい普段の印象とは全く違うエリカがいた。
「エリカがその・・・今日はすごく女っぽいていうか・・・」
「やだ・・・」
恥ずかしそうに微笑んで、それからボウズの目を見ながらエリカが言った。
「だって女の子だもん」
「そ、そうだったな」
「顕ちゃん・・・」
エリカがボウズの手を引っ張る。
「おい、どこへ・・・」
二人がスルリと入り込んだのは人目から隔絶された大木の陰だった。エリカがボウズの胸板に頬を寄せる。そして二人はしばらく、時の流れに身を任せていた。
二人が木の陰から出ようとした時、エリカが声を上げた。
「あ、廣瀬さん・・・」
提灯の灯りに照らされた参道を歩いて来るのは、確かに亜紀だった。鮮やかな朝顔色の浴衣に、長い髪をアップにした涼しげな姿は人目を引くのに十分だった。普段は見せることのない白い襟足がドキリとするほど新鮮だった。
誰かと待ち合わせをしているのだろう。その瞳は既に少し潤んでいて、幸せな予感が心に溢れているだろうと思わせた。
「朔と待ち合わせだな。わかりやすいな、まったく」
「顕ちゃん・・・もしかして」
「今のオレにはエリカがいるさ。さ、行こう。オレたちはオレたちだよ」
「・・・うん」

緒形は商店街から宮浦観音へと向かう道を歩いていた。と、後ろから自転車が走る音が聞こえ、やがて緒形を追い抜いて行った。
「あれ、緒形先生」
しばらく先で止まり、振り向いて声をかけてきたのは朔だった。
「おお、松本。祭りに行くのか?」
「はい。先生は?」
「オレもそうだよ」
「あ、やべえ・・・じゃ先生、オレ急ぐんで・・・」
「おい、気をつけろよ・・・」
待ち合わせか、廣瀬と・・・上手くやれよ。緒形は心の中でつぶやいた。
なおも歩いて宮浦観音の山門に着いた。早くおいでと誘っているかのように、祭りのざわめきが聞こえてくる。
「おじちゃん」
リナの声に、緒形は我にかえった。
「リナちゃん、こんばんは」
「はい、こんばんは」
「待った?緒形君」
「いや、さっき来たばかりだよ」
そう言いながら、みちるの、黒地に紅梅をあしらった浴衣姿に眩しさを感じていた。
「さあ、行こう」
三人はこの前のように手を繋いで歩き始めた。参道に沿ってたくさんの露天が軒を連ねている。
「リナちゃん、金魚すくいやろうか」
「うん」
リナは、器用な手付きで次々と金魚をすくっていく緒形を頼もしげに見つめていた。
「リナちゃん、お家に金魚鉢はあるの?」
「あ・・・」
「じゃ、おじちゃんの家に水槽があるから、それをあげるよ。」
「ありがとう」
「あれ、タコ焼きパパさんが店を出してるぞ。食べて行こうか」
「うん」
タコ焼きを買って、境内のベンチに紙を敷き、3人は腰を下ろした。
「廣瀬・・・」
緒形がふと、口調を変えた。
「大事な話があるんだ。また、時間をくれないかな」
「・・・うん」
みちるの胸は激しく騒いでいた。
緒形とみちるが真剣な表情になったのを見て、リナはなんとなく目を逸らした。

あ、ホタル・・・

リナの目の前を蒼い光が通り過ぎていく。思わずそれを追ったリナは木陰に人がいるのを見た。鮮やかな朝顔色の浴衣を着て、長い髪をアップにした少女だった。その少女の隣に、誰かもう一人いるようだったが、暗がりになってリナの目には見えなかった。少女はホタルを見ながら、隣の誰かと話をしているようだ。その声は聞こえないが、微かに見える体の動きから楽しそうな様子が感じられた。その動きがふと止まった。

お姉ちゃん、背伸びをしている・・・

幼いリナはもちろん、その意味を理解することはできなかった。しかしなぜか胸がドキドキした。後に思春期になり、リナ自身が同じような経験をするまで、その夜のことを忘れることはなかった。

玄関のチャイムの音を聞いて、綾子はドアを開けた。朔に送られて、亜紀が帰って来た。
「ん・・・」
綾子は亜紀の目に涙が光っていることを見逃さなかった。と同時に、それは悲しみや辛さが原因でないこともすぐにわかった。
「どうしたの?」
亜紀を抱きしめながら綾子は尋ねた。
「そう、ホタルがきれいだったの・・・良かったわね。朔くん、そんなこと言ったの?自分のプラス分を全部亜紀に回してくれるって?朔くんらしいね。幸せだった?・・・なに言ってるの、大丈夫よ。きっと亜紀と朔くんには、これから良いことがいっぱいあるよ。ふうん、それで朔くんは・・・え、ホント?未来の松本亜紀さんて言ってたの?あらあらずいぶん気が早いわね・・・」
甘くすすり上げる亜紀の声を聞きながら、綾子は初めて真に抱きしめられた日のことを思い出していた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(26) 優しい時間・愛媛編4
...2005/11/12(Sat) 18:58 ID:PnM6tu6Q    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
さて今回の創作ですが「なんじゃ、こりゃ」と思われた方も多いと思います。今回はこんな感じで書いてみました。

1.主人公の二人は、他者の視点でのみ描かれる。
2.主人公が二人同時に描かれる場面は無く、主人公の行動がすべて明らかになるわけではない。
3.はじめのうちは誰が主人公であるかさえ、はっきりしない。
4.表面上の事象を数多く積み上げることにより、主人公の内面を浮き上がらせようとしている。

というわけで、あのサスペンスの大傑作のマネをしようと思ったのですが、悲惨な結果に終わってしまいました(涙)
古今東西、この手法にチャレンジした作家は多いが、成功した長編はほとんどないそうで、改めて東野圭吾氏の驚異的な筆力を実感してしまいました・・・
...2005/11/12(Sat) 19:21 ID:PnM6tu6Q    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
リナと尚との関係以上に朔と亜紀の幸せな雰囲気がありありと伝わっていますね。
そしてボウズとエリカの関係も磐石になるまで目が離せません。
そしてさらに気になるのが綾子と真の青春時代でしょうか?厳しい父の顔になるまでの真の変化を描いていただけましたら嬉しいです。
次回も期待しております。
...2005/11/13(Sun) 13:49 ID:.rB5vZnw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さん
実は、真と亜紀の二人で、真の故郷・宇和島を歩いてもらおうと思っていました。最愛の女性を喪った真が綾子を愛するようになるまでを描きたいと思っています。
真25歳、綾子23歳位のころになると思います。
...2005/11/13(Sun) 17:55 ID:HjyoFwAM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(26) 優しい時間・愛媛編4

出窓の上に、緒形がくれた小さな水槽が置かれ、エアポンプの泡がポコポコ出ていた。さっき連れて来られた金魚たちはちょっと疲れたかのように、ゆっくりと泳ぎ回っていた。

トゥルルルル、トゥルルルル・・・

電話が鳴っている。が、誰も出ない。
遠くからはまだ祭囃子が聞こえてくる。

トゥルルルル、トゥルルルル・・・

一度止んだ電話がまた鳴り出した。
リナがその音に気付いた。隣には、みちるがいた。リナを寝かしつけるために横になっているうちに目を閉じてしまったようだった。
「お母さん、電話だよ」
みちるは目を覚まさない。リナは、みちるの体を揺さぶった。しかし、みちるは力無く揺さぶられるままだった。リナは思い出した。祭りに出かける前、みちるが台所で苦しそうに薬を飲んでいたことを。

トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル・・・
狂ったように電話が鳴っている・・・。

緒形は受話器を握り締めながら、みちるがなかなか出ないことに不安を感じていた。祭りからの帰り、緒形の家に寄って水槽を取り出し、二人と共に送り届けた。部屋に上がって水槽をセットしている時に、みちるの顔色が悪い事に気付いた。
「大丈夫?」
「うん・・・薬があるから」

具合が悪くて寝てしまったのかもしれない。そう思って切ろうとした時、突然通話状態になった。リナだ。火が付いたように泣き叫ぶリナの声が聞こえてくる
「リナちゃん、どうした・・・おい、リナちゃん」
深刻な事態になっていることに気付いた緒形は、叩きつけるように受話器を置くと、部屋から飛び出そうとした。その時、棚の上に置いてあった写真立てに右手が触れた。それは床に落ちて、大きな音と共にガラスが砕け散った。緒形は一瞬床の上に目を遣ったが、それ以上ためらうことなく、車に飛び乗った。

喫茶店「蔵の時計」の店主・森山三咲は、緒形の話を静かに聞いていた。
「オレってひどい男なんです。結局、忘れられないんですよ、昔の彼女のことが」
「人と別れるっていうのは、大変なことです。楽しかった思い出、面影、そんなものが幻想のように心に残ります。私だって未練を引き摺って・・・あら、ごめんなさい」
「みんな、いろいろなものを背負って生きてるんですねえ」
「そうですよ・・・でも、あなたは新しい一歩を踏み出そうとしてるんでしょ?」
「ええ」
「私、この間あなたたち三人を見ていて思いました。あの女性、きっと待ってますよ」
「待ってる?」
「そう、待ってます」
「待ってる、か。そういえばオレ、まだ一度も好きって言ってませんでした」
「やっぱり・・・彼女、きっと淋しいでしょうね。結局あなたが好きなのは娘さんだけなのかってね」
その時、奥の厨房で皿が割れる音がした。
「あら・・・」
三咲が奥に入って行く。
「大丈夫?ケガはしなかった?・・・ううん、いいのよ広瀬さん、弁償なんて。手を切らないように気を付けてね」
優しい微笑を浮かべながら三咲はカウンターに戻って来た。
「私の弟の教え子なんですよ。高校三年生で陸上部なんですけど、この前、最後の大会が終わって練習がなくなっちゃったんです。それでヒマを持て余して手伝ってくれてるんですけど、お皿はあまり扱いなれていないようで・・・」
「結構、割っちゃうんですか?」
「ええ、結構」
二人は顔を見合わせて笑った。
「でもね、一所懸命やってくれるんで、いいんです、それで」
「優しいね、三咲さんは」
「あなたこそ。きっと良い夫、良いパパになると思いますよ」
「そうかな」
「そうですよ」
緒形はこの時、みちるとリナの二人を幸せにするつもりでいた。そして幸せにしてもらいたいと思っていた。
明日に失う未来とは、何ひとつ気付かずに。

みちるの住むアパートの前に車を停め、緒形は三階まで一気に駆け上がった。みちるの部屋の扉には鍵は掛かっていなかった。扉を開け放つと、そこには恐怖に震えるリナの姿があった。緒形の姿を見ると、ワアっと泣きながら抱き付いて来た。
「リナちゃん、お母さんは?」
みちるは生気の感じられない顔をして横たわっていた。
「ううっ、すごい熱だ」
緒形は119番に電話を掛けた。
「あの・・・救急車をお願いします・・・病人です。はい、すごい熱で、測ったら40度1分でした・・・宮浦3の56、302号室です・・・はい、はい、お願いします」
それから緒形は、救急車が来るまでの間、濡れたタオルでみちるの額を冷やし続けた。

集中治療室のベッドの上で、みちるは目覚めた。白い霧がだんだんと晴れていき、その向こうに、リナを抱きかかえた緒形の姿が見えた。
「ほんともう頼むよ、みちる・・・」
「緒形く・・・尚ちゃん・・・助けてくれたの、私を・・・」
「なんで・・・」
「ごめんね。最近なかなか契約が取れなくて・・・ちょっと疲れてたの」
「体調が悪かったら言えばいいのに。リナちゃんならオレが連れて行ってやったのに」
「違うの・・・そうじゃないの・・・」
「そうじゃないって・・・」
「行きたかったの。私が行きたかったの。浴衣を着たところを見てもらいたかったの・・・」
「バカだな。祭りは今年だけじゃないだろ。来年も、再来年も、その次も、ずっとずっと一緒に行くんだろ?」
「・・・うん」
「もう、そんな無理をしなくていい。オレがついているから」
「・・・お金に困ってたわけじゃないの。慰謝料だの養育費だの結構貰ってるのよ。だけど、リナは私が育てて見せる。それが意地だったのよ。貰ったお金は全部貯金してるの。リナの将来のために・・・」
「強くなったな、みちるは」

知らせを聞いて駆けつけて来た、真、綾子そして亜紀に引き継いで、緒形は自分の部屋に戻った。
床に落ちた写真立てのガラスが飛び散っている。それを片付けるうちに、指を切った。あの日、道後動物園で撮った写真も床に落ちている。

去る者日々に疎し。この残酷なことわざに、返せる言葉がぼくにはもうない。
ミチルの涙と過ごした17年が終わっていく気がした。
自ら選ぶ未来と、失われる過去の狭間で君の名前を呼ぶ。
ミチル・・・

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(27) 優しい時間・愛媛編5
...2005/11/18(Fri) 01:11 ID:bnTxlF/Q    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さん
みちるは体調が悪いにもかかわらず、尚人に会いたい一心で無理してしまったんですね・・・その女心にジーンときてしまいましたよ。
(ドラマ本編の廣瀬亜紀も「H2」の古賀春華も自分の体調の悪さをかえりみず、デートに出かけて倒れてしまったのを想い出しました)

「祭りは今年だけじゃないだろ。来年も、再来年も、その次も、ずっとずっと一緒に行くんだろ?」と尚人がみちるに語りかけたセリフは映画の「次なんてないんだってば!」のセリフとは正反対に位置する名セリフだと思います(^^)

※三咲の店で皿を割ってしまう広瀬さんの下の名前は「梓」ですか、「直美」ですか、それとも「まさみ」でしょうか?(笑)
...2005/11/20(Sun) 21:18 ID:aPbln5qE    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です
みちるの強さは、女の意地、母としての意地なのでしょうね。これからは意地を張らずに尚人に寄りかかってもいいのではないでしょうか。幸せを祈るばかりです。
...2005/11/20(Sun) 21:23 ID:jVM2TK5.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 「祭りは今年だけじゃない」のセリフでは,原作19頁の「城山のアジサイと「果たされない約束」のモチーフ」を思い出してしまいました。「約束」どおり,祭りやいろいろな所に連れて行っている彼らに不幸が訪れないことを祈っています。ところで,「無理をするな」の一言は,「告白」の場面で形を変えて再登場するのでしょうか・・・
 ともかく,ミチルを無事に真夫妻に引き継げたようですから,きちんと挨拶も説明もできたし,君を憎むことでしか立っていられないと八つ当たりもされずに済んだということで,まずはほっと一息・・・
...2005/11/20(Sun) 23:59 ID:F6vw4xCw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:ぶんじゃく

初めまして 朔五郎様

サイド編にP2編など朔五郎様の文才には
頭が下がる一方です、一読者としては作者の苦労も
省みずいつまでも沢山の物語が続くことを願ってます
お忙しい中大変でしょうが私の様に一話一話を心待ち
にしている読者を楽しませてくださいね。
...2005/11/21(Mon) 02:06 ID:rkrzoak2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
ご意見、ご感想、ありがとうございました。

SATOさん
みちるが出かけて行く場面は、そのとおり、古賀春華のイメージでした。
「祭りの夜に」というのは「あい○○しい」からの拝借です(^^;;;
皿を割る少女の名前は朔五郎のイメージでは「広瀬○紀」でした。つまり、ずばり「あの少女」だったのですが「皆川つながり」で、梓でもいいかもしれませんね(^^)

たー坊さん
もちろん二人には幸せになってもらいます(確定・笑)

にわかマニアさん
この二人(三人)は幸せになる運命のようです。そういう約束のようです(^^)
真にとって緒形は、娘が通う高校の教師なので、殴るわけには・・・緒形が廣瀬家を訪れる日にどんな態度をとるのでしょう(実はまだ決めてません・苦笑)

ぶんじゃく様
初めまして。あたたかい激励、ありがとうございました。
そもそも私の創作は、あちこちから切り取ってきて組み合わせているだけのものですので(苦笑)
「世界の〜2」の方は何人かの共作者がいらっしゃって、それぞれの味を出していますので、ごらんになって頂ければ幸いです。
というわけで、初回の挨拶も済みましたので、これからは「さん付け」でざっくばらんにお話ししましょう(^^)
よろしくお願いします。
...2005/11/23(Wed) 04:56 ID:U41Q0qzc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
沢尻エリカさんの話題をひとつ

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051125-00000001-oric-ent
...2005/11/26(Sat) 03:11 ID:aQQ2WLwo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
ひとまず、あげておきます。
...2005/11/27(Sun) 23:04 ID:6najmbUo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
沢尻さんの主演ドラマが満足度一位ですか・・・大の男なのに、「1リットル・・・」を観てるとポロポロ泣いてしまうんですよね。明日の放送は亜也が学校を去ることになるようで、またまた泣いてしまいそうです。
(「セカチュー」のヒットの延長線上にある、というのは嬉しいコメントでした)

※沢尻エリカさんの所属事務所はスターダストなんですね。先輩の竹内結子さんや中谷美紀さんのような素敵な女優さんに成長していって欲しいです。
...2005/11/28(Mon) 23:11 ID:2nt9br3.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
沢尻エリカさんについては、これも面白いです。

http://www.nikkansports.com/ns/entertainment/interview/2005/sun051016.html
...2005/11/29(Tue) 03:29 ID:nTxihdgI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
昨日の「1リットルの涙」では、麻生クンが良かったです。ホームルームで亜也のことが問題になり、イヤーな雰囲気になりかけたときに彼が痛烈にクラスメートや担任を批判した場面、橋の上で亜也に対して「何も出来ない。俺も奴らと同じさ。」と言った場面は視聴者の気持ちを代弁しているように思えました。そして、ハンデを負った人々に対して、私たちはどう向き合うべきか、問いかけられているようにも思えました。まだまだ未熟な私には答えが見つかりませんが・・・
...2005/11/30(Wed) 20:39 ID:JnxURxuQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
佐藤めぐみさんの情報です。

http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=6037
...2005/12/02(Fri) 01:12 ID:XAPAyNpQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(27) 優しい時間・愛媛編5

いったん帰宅してシャワーを浴び、しばらく休息した後、緒形は再びみちるの病室を訪れた。もう日が暮れかけた時刻だった。
「どうしたの?」
「あ、これか」
緒形は包帯が巻かれた右手の人差し指を見ながら言った。
「あわてて飛び出そうとした時に、写真立てを倒しちゃってさ。そのガラスのかけらが床に飛び散って・・・」
「そう」
みちるは、ふと緒形から顔を背けた。
「でもさ、今度ばかりは自分が医者だったらなって思ったよ」
「そうなの?」
緒形は自嘲的な笑いを浮かべた。
「うん。だって医者だったら脈をとったり、主治医から詳しい説明を受けたり、治療方針について意見を言ったり、いろんなことが出来たと思うんだ。だけどオレはただ、たすけてください、って祈ることしか出来なくてさ・・・なんか無力感に襲われちゃったよ」
「でも、お医者さんだって案外そんなものじゃないの?リナの父親も言ってたけど、身内が危険な状態になったりしたら、かえって何も出来なくなるかも」
そう言ったみちるは、急いで付け加えた。
「あ、私は尚人の身内じゃないけど」
「まあ、それに近いさ。それにしても、そんな医者いるかのなあ」
そう言いながら窓の方を見た緒形は、ガラスに映る自分と目が合い、なぜか慌てて目を逸らした。
「ねえ」
みちるが問いかける。
「写真立てのことだけど」
「ああ」
緒形は思わず俯いた。
「・・・桜井ミチルと二人で撮った写真が入ってた。最後にデートした日、道後動物園で撮ったんだ。彼女、キリンを見ながら嬉しそうにはしゃいでいた。でも、オレにはわかっていたんだ。その笑顔の仮面の下には泣きは腫らした素顔があることが」
緒形は一瞬宙を見つめ、思い直したように続けた。
「忘れてはいけないと思ったんだ・・・もう二度と会うことはないけど、ミチルの苦しみが少しでも軽くなって欲しい。理不尽な理由で奪われた幸せな未来を、ほんの少しでも取り戻して欲しい。そう祈り続けたんだ・・・そんなふうに、彼女を忘れないことが彼女を愛することだった」
みちるは緒形の瞳の奥を見つめた。
「どうしたの、写真は」
「いい機会だから、もう捨てようと思う。いいんだ、もう・・・」
短い沈黙の後、みちるが話し出す。
「ねえ、尚人。リナの父親はひどい男で・・・私とリナを捨てて勝手にパリの美大に行っちゃって・・・私たちはどうなるのよって言ったら、そりゃお前たちの人生だろ、なんて言うし・・・」
「ひどい男だな」
「でしょ?まあ、アイツの本性を見抜けなかった私も悪いんだけどね」
みちるがニコッとしながら続けた。
「だけど、尚人は違う。変な言い方だけど、桜井さんに会えないことが尚人を育ててくれたんじゃないかな。彼女の写真が訴えかける、その痛みが癒えるようにと尚人は祈り続けた。彼女を愛し続けた。そうやって尚人は、人の苦しみや痛みが理解できる、優しい、素敵な男性になれたんじゃないの?・・・それって、すごいことだと思う・・・こんな恋は二度とないよ。そんな大事な十七年を、こんなかたちで終わらせていいの?」
「そうだな。なんだかんだ言ってもオレは逃げていたんだ。聞いてみるよ、彼女の消息を。教えてもらえるかわからないけど・・・」

幸いなことに、みちるは三日間の入院生活の後に退院することができた。それからしばらくして、緒形は、みちるの兄であり、親代わりでもある廣瀬真の家に招待された。妹がお世話になった御礼、というのがその名目だった。
「本当に切ってもいいの?」
「ああ」
後ろ髪が少し伸びていた緒形は、みちるに切ってもらっていた。
「はい、できたよ」
「うん、ありがとう」
部屋には二着のスーツが吊るしてあった。
「どっちが良いと思う?」
「うーん・・・」
みちるは見比べながら考え込んだ。
「私はこっちのコナカのほうが好みだけど・・・」
「けど?」
「兄は青山のほうが気に入ると思うわ」
「そ、そんなことにこだわる人なの?」
「スーツには、かなりこだわりを持っているみたい」
「そうか」
緒形は溜息をついた。名目は御礼であっても、実はみちるの相手としてふさわしいかどうかの面接試験のようなものであることは確実と思われた。
スーツに着替え、ネクタイを締めている尚人に、みちるが言う。
「似合うじゃない」
「そう?」
みちるが済まなそうな顔をして言った。
「行く前からプレッシャーかけるみたいで悪いんだけど・・・うちの兄、最近ちょっと気が立ってるみたいで・・・」
「ええっ・・・どうして?」
「うん、実はね、同業者が何かの書類で偽装をしたみたいなの・・・その計算のやり直しが兄のところに持ち込まれちゃったのよ。兄は不正からは一番遠いと思われてるから・・・」
「なるほど」
「それで、夜も眠れないほど仕事に追われてるみたいなの」
「じゃ、じゃあ、オレのことなんか後回しにしても・・・」
みちるが苦笑いを浮かべる。
「それが出来ないのが兄なのよ・・・生真面目と言うか・・・融通が利かないというか・・・」
最悪のタイミングだな、呟く尚人に、みちるが言った。
「・・・行くよ、尚ちゃん」

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(28) 優しい時間・愛媛編6
...2005/12/03(Sat) 21:01 ID:Am.BlgKA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
尚人とみちるの会話は、二人の未来を暗示しているようでイイですね。
真が計算のやり直しの仕事をしているのは、タイムリーな話題でした。真もいい迷惑でしょうが、くれぐれも尚人には八つ当たりしないでもらいたいです(^^)

※ああいう不正が行われて気の毒なのは、マンションからの立ち退きを強いられる住民や休業に追い込まれたホテルの関係者ですよね。彼らには全く落ち度がないのですから。
...2005/12/04(Sun) 23:46 ID:.5yul7no    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
早速、拝読させていただきました。
物語の尚人とみちる会話は、かつて朔と亜紀が迎えるはずだった未来が重なるような気がしました。
私の方では、しっかりと実現してもらおうと思います。同じような雰囲気をいただくかもしれませんが、よろしいでしょうか?
次回も期待しております。
...2005/12/04(Sun) 23:53 ID:2S26iUtw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
コメントありがとうございます。真さんには、よく伝えておきます。
マンションやホテルの問題については、こんな時こそ行政や政治の力を発揮してもらいたいですね。
関係する方がいらしゃいましたら、心よりお見舞い申し上げます。

たー坊さん
コメントありがとうございます。
はい、朔五郎のものでしたら、遠慮なくご利用ください。
ただ、こちらでは高校2年生の朔と亜紀が健在なので、彼らには「違う道」を歩んでもらいましょうか(笑)
...2005/12/05(Mon) 00:09 ID:i75Gqpho    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さん
みちるが尚人の髪を切ってあげるところ、スーツを「コナカ」にしようとして、結局「青山」にした意味がやっと分かりました(^^)
...2005/12/08(Thu) 00:11 ID:JCD4uilA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>スーツを結局「青山」にした意味がやっと分かりました(^^)

 これからは,お説教のパターンとして,従来の
 「人と会ったら,挨拶をしなさい」
だけでなく,
 「人に会う時は,青○の服を着なさい」
というのも追加ですね。
...2005/12/08(Thu) 06:35 ID:qDqkuY1w    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
少し前に投稿されていた廣瀬みちるの高校時代のエピソードを読み返してみましたが、自分もこんなことあったな・・・と懐かしいようなほろ苦いような・・・ちょっと切ないですね。

※ちなみに高校時代の廣瀬みちるはメガネをかけていたのでしょうか?「ひまわり畑」が出てきたので、勝手に想像してしまいましたが・・・(^^)
...2005/12/10(Sat) 01:40 ID:YBMCY2KA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん

おっしゃるとおり「ひまわり畑」は「いま〜」の雰囲気を出すために使っております。廣瀬みちるは「内気で自分を表現するのが苦手」という「みお」のイメージですので、メガネをかけていても全然違和感はないと思います(^^)
(廣瀬亜紀とは別のイメージをつくりたかったので)
...2005/12/10(Sat) 17:04 ID:0RS/aYTU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
テレビで、サッカー天皇杯・レッズvsFC東京を観ていたら、愛媛県総合運動公園陸上競技場からの中継でした。
1987年、亜紀と智世がここで県大会を走ったのだと思うと、感無量でした(笑)
...2005/12/11(Sun) 02:12 ID:TLgiFv1g    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(28) 優しい時間・愛媛編6

緒形とみちるは、真の家の前までやって来た。緒形はかなり緊張した表情をしている。その緒形の耳に強烈な言葉が飛び込んで来た。
「まだ生きていたのか」
緒形は、まるで首根っこを掴まれたかのように縮み上がった。
「堂々と二人で歩いてるとは、いい度胸してるな・・・帰ってくれないか」
自分で呼んでおいて帰れとは、随分ひどい話だと思いながら振り向くと、そこには真に捉まってうなだれている朔と亜紀の姿があった。
「お父さん、ひどい」
「前にも言っただろう。こんな男と付き合ってるヒマがあったら、陸上の練習をしなさい。もう来年の大会は始まっているんだぞ。まぐれで全国大会に出たくらいで浮かれていると泣くことになるぞ。それに、良い成績を上げておけば、推薦入学の話が来るかもしれないじゃないか」
「練習はちゃんとやってるよ」
「親に口答えするんじゃない。ああ、もう、誰のせいで俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ。計算のやり直しなんか山ほど持ち込まれちまって・・・偽装した同業者か?社会の仕組みが悪いのか?」
真は朔を睨みつけた。
「君のせいではないな・・・だからこそ君に八つ当たりしなけりゃやってられないんだよ、畜生」
「そんな、朔ちゃんがかわいそう・・・」
亜紀の必死の抗議も空しく、朔はすごすごと引き上げるしかなかった。
「全く、今日は大事な客が来るっていうのに・・・」
ぶつぶつと呟きながら家に入ろうとした真は、緒形とみちるに気が付いた。
「今日はお招き頂き、あり・・・」
挨拶しようとする緒形を制した真は、満面に作り笑いを浮かべて言った。
「ああ、これはこれは緒形先生。いつもうちの亜紀がお世話になっております。おっと今日はそんな話ではなく、みちるのことで・・・」
「はい。私も一度ご挨拶に伺おうと思っておりまして・・・」
「ま、先生、立ち話もなんですから、どうぞお上がり下さい」
先程の態度が嘘のような低姿勢である。
「こちらへどうぞ」
応接間に案内された緒形は、みちると並んで腰を下ろした。
「今日はリナちゃんは・・・」
「ああ、リナならご心配なく。うちの綾子と亜紀が見ておりますので。それにしても先生、さすがお目が高い」
「は?」
「そのスーツ、青山のものでしょう。もう、一目でわかりました」
緒形とみちるは思わず笑いを噛み殺した。
「はい。みちるさんが選んでくれたものですから」
「おお、そうでしたか。もう相性もピッタリという感じですな」
「ところで先程、うちの生徒の松本朔太郎がいたようですが・・・」
「ああ、あいつですか。うちの亜紀にまとわりついて・・・困ったもんです、まったく。あんなヤツ、成人しても先生のような立派な大人になれるわけがない」
「いえいえ・・・まあ、若いんですから、少し長い目で見てやったほうがよろしいのでは」
「そんなもんでしょうかねえ」
「はい・・・それはそうと、私とみちるさんのことですが」
「先生には、妹が危ないところを助けていただき、ありがとうございました。で、先生は、よく妹の部屋へ?・・・そういう関係だと考えてよろしいのでしょうか?」
「やだ、お兄ちゃん。尚人さんはこの間、初めて・・・」
「そうでしたか・・・それで・・・」
「はい。私は、みちるさん、そしてリナちゃんと真剣に将来のことを考えたいと思っています」
「ということは、妹と結婚を?」
「はい。お許しいただければ」
「そうですか」
真は安心したように、大きく頷いた。
「先生もご存知だとは思いますが」
しみじみとした口調で真が語り始めた。
「妹の前の夫というのがひどい男で・・・妹は、傍で見ていても気の毒になるくらい苦労を重ねました。この間も仕事で無理をしすぎて倒れてしまって。妹の先行きを考えると私も心配で・・・良いご縁でもあればと思っていたところでして・・・ただ、リナがおりますので、それもなかなか難しいかと。その点、リナは先生にとてもなついていると聞いておりますので」
「それも実際に暮らしてみないと、本当のところはわからないとは思うんですけど。でも、努力はしてみようと思います」
「そうですな。こればかりはやってみないとわからない・・・でも、そのように前向きに考えて頂けるだけでもありがたいことです」
「あ、おじちゃんだ」
リナが部屋に入って来て、緒形の膝の上にちょこんと座った。
「こらリナ、ちゃんと挨拶をしなさい」
そう言いながらも、真は目を細めていた。

緒形、みちる、そしてリナの三人は港の広場をゆっくりと歩いていた。波がキラキラ輝いている。
「すっかりごちそうになっちゃったね」
「兄の家は何かあると、必ずすき焼きとカニクリームコロッケなの」
「でも、無事に挨拶できて良かったよ」
緒形は自分を見上げているリナの頭を撫でた。
「実はさ、勇気を出して桜井の家に行ってみたんだ。話を聞いてみたら、桜井も再婚して、幸せになってるって」
「ほんと?良かった・・・」
「さて・・・」
緒形はみちるを見つめながら言った。
「いよいよこれからは、オレたち自身がどうするかだな」
「そうね」
その時リナが口を開いた。
「お母さん、おじちゃんとケッコンするの?」
「うん」
みちるは微笑んだ。
「じゃあ、リナは真おじちゃんの家で、亜紀ねえちゃんと一緒に住む・・・」
「ちょ、ちょっとリナ・・・」
カッとするみちるを押し留めると、緒形はリナの前にしゃがんだ。
「リナちゃんはおじちゃんのこと、キライ?」
「ううん・・・好きだよ、大好きだよ・・・」
「お母さんがおじちゃんと結婚するのはイヤ?」
「そんなことないよ・・・」
「じゃ、どうして?」
「だって、だって・・・リナはいないほうが」
緒形は思わずリナを抱きしめた。
「おじちゃんはね、リナちゃんのお父さんになりたいな。リナちゃんがいないと淋しい」
「お父さん?」
「そう、お父さん」
「リナはいっしょにいてもいいの?」
「いいんだよ」
「ホント?」
「リナ、お父さんって言ってごらん」
「おとう・・・さん」
「もう一度、もっと大きな声で」
リナは緒形の顔を見た。そしてその顔がくしゃくしゃになっていった。
「おとうさん・・・お父さん・・・ウワァ」
長い間探し続けた自分の居場所を見つけて、重圧から開放されたように大声で泣き続けるリナを強く抱きしめ、そして言った。
「リナ、何も考えないでいいよ。ただお父さんとお母さんに甘えていれば、それでいいんだよ」
いつか自分自身でいろいろ悩む時が来る。その時までは、こうしていればいい。緒形は心の中でそう呟いていた。

(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット・特別編
...2005/12/12(Mon) 00:02 ID:2G..k0tQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
真の態度の豹変ぶりはびっくりするとともに、面白おかしかったです。
真の「本性」を見てしまった緒形先生、みちるとリナを大切にしないと後で恐いですよ・・・(^^)

リナのいじらしさにはシンミリさせられました。
...2005/12/13(Tue) 20:46 ID:0xlA4lkw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
リナのいじらしさに感動です。
しかし・・・、
朔の頭の上がらなさは、当分の間どうしようもないのでしょうか?
私、執筆者として、再び真が朔の絡むところを書いてみたくなりました(笑)
...2005/12/13(Tue) 22:48 ID:.rB5vZnw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん、たー坊さん
お読みいただきありがとうございます。
真の「アクの強さ」というのはドラマの中でも、ものすごいインパクトでした。
別スレの方では、亡き娘に叱咤激励される立場になってしまった真を描いたので、こちらでは違うキャラにしてみました。やっぱり、こっちのほうがシックリしてますか?(笑)
...2005/12/15(Thu) 00:29 ID:rPTfSoLo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(特別編)

1987年12月

「朔ちゃん、やっぱりここにいたんだ」
「よくわかったね」
「だいたいわかるよ。今日はあったかくて気持ちいいね」
「うん」
「波がキラキラしてる」
「うん」
「相変わらず読書が好きだね」
「まあね」
「今度は何を読んでるの?」
「先月出たばかりの本なんだ」
「へえ・・・ノルウェイの森、か」
「そう。キャッチコピーは《100パーセントの恋愛小説》」
「ねえ、おもしろい?」
「うーん・・・よくわかんないな」
「ちょっと見せてよ」
「あ、やめたといたほうがいいよ」
「どうして?」
「い、いや・・・」
「いいじゃない」
「あ・・・」
「ねえ、私も読みたいから2、3日貸してよ」
「・・・一度読んじゃったからいいけど」
「いいけど?」
「その・・・亜紀はあんまり好きじゃないかも」
「そんなの読んでみなけりゃわからないでしょ?」
「・・・そりゃそうだ」

「これ、ありがとう、朔ちゃん」
「あ、ああ・・・」
「ねえ、この主人公は十九歳だよね」
「そう、ちょうど二十歳になるところ」
「なんか、その・・・すごくリアルというか生々しいというか・・・」
「亜紀、顔が赤くなってるよ」
「だって・・・朔ちゃん、あの・・・私たちもあと二年か三年すると、あんなことするようになるのかな・・・」
「さあ、どうだろ」
「朔ちゃんは、あんなことしたいの?・・・そうだよね、男の子だもん」
「そ、そんなこと、その場になってみなきゃわからないよ」
「そうか・・・」
「そうだよ」
「でも私、ひとつ気になったことがあるんだ」
「気になったこと?」
「・・・あのね、まず高校生の男の子が死んじゃうじゃない?」
「うん」
「その恋人だった直子は、大学に進学した後、彼氏の友達と関係を持つようになる・・・」
「でも、結局はうまくいかないんだよね」
「それで、精神に異常を来たして自殺してしまう・・・」
「そうそう」
「その時、直子を失った男の子は、死んだ友達がとうとう直子を手に入れたんだ、みたいなことを言ってるよね。俺は俺なりにベストを尽くして、直子と新しい生き方をうちたてようと努力したんだ、でも直子はおまえを選んだってね」
「すごい喪失感だよね、きっと」
「たとえば」
「なに?」
「たとえば朔ちゃんが私を残して死んじゃったとするでしょ」
「どういう発想?それ」
「ちょっと思いついただけ」
「すごい想像力」
「死者の世界にいる朔ちゃんは、私をそこに引きずり込んで手に入れようとする?」
「しないでしょ、普通」
「じゃ、私が他の男の子と幸せになるのを祝福してくれる?」
「どうかな・・・オレ、心が狭いからな」
「じゃ、どうするのよ」
「見て見ぬふりをするんじゃない、きっと」
「そうか・・・1969年っていったら今から18年前じゃない?37歳になったこの男は、直子のいた風景は覚えているけど、直子の顔を思い出すのには時間がかかる。そしてその時間は時が経つにつれてだんだん長くなってきてるって・・・そんなもんかな、記憶なんて。私だったら朔ちゃんの顔は忘れないと思うけどな」
「亜紀、どうしてもオレに死んで欲しいわけ?」
「そんなことありえない、と思ってるから言えるのよ」
「わかんないよ、人間の運命なんか」
「ないない、私たち二人はいつまでも普通のままよ」
「なんか、すごく自信ありそう」
「わかるのよ、私には。なーんにも起こらないよ、きっと」
「それが一番いいかも・・・」
「直子を失った主人公は、実は別の女の子とも付き合ってるんだよね」
「そう。直子には、ずっと待ってると言いながら、最後の最後で放り出してしまって、そのことが、ずっと彼を苦しめている」
「で、結局彼は、白い灰になった直子よりも、生身の人間として残っている小林っていう女の子を選んだ。そして電話を掛けて、世界中に君以外に求めることは何もない。何もかもを君と最初から始めたい、って言った・・・そしたら、その女の子に、今どこにいるの?って聞かれたでしょ。彼はそれに答えることができない。彼にとって、その時世界は《どこでもない場所》になっていたのね」
「なんか、すごく淋しいね。どこでもない場所の真ん中から、小林っていう子の名前を呼びつづけている、それがラストシーンのわけでしょ」
「ね、ね、朔ちゃんにとって世界ってどんなところ?」
「う・・・ん、あたたかくて、優しい音のする場所かな」
「あ、やだ・・・その目つき。もう、エッチ」
「でもさ・・・」

死は生の対極にあるのではなく、我々の生のうちに潜んでいるのだ・・・
どのような真理をもってしても愛するものを喪った哀しみを癒すことはできないのだ・・・

「なーんか、すごく哲学的だと思わない?」
「そうね」
「本屋の親父が言ってた。これ、すごい売れ行きで、たぶん新記録になるだろうって」
「ふーん」
「すごい話だよね」
「ねえ、朔ちゃん。じゃ、将来この本を超えるベストセラーが出るとしたら、どんな本だと思う?」
「やっぱり《悲劇の恋愛》かな・・・喪失と再生っていうか・・・いや、全然違う感じの本かも」
「え、違うって?」
「たとえばさ、哲学の本とか」
「哲学って、あの・・・ソクラテスとか?」
「そう」
「ソクラテスの本がそんなに売れるかなあ」
「亜紀、冗談だよ」
「意地悪ね」
「亜紀はベストセラーの悲劇の主人公になってみたい、なんて考えたことある?」
「ないよ、一度も。ただ普通に生きていたいだけ。できれば好きなひとと一緒に」
「それって、オレのこと?」
「どうかな」
「え・・・」
「フフッ」
「なんだよ・・・いつか松本亜紀になってくれるんじゃ・・・」
「あせらない、あせらない。人生は長いんだから」
「そうか・・・」
「うん・・・好きよ、朔ちゃん」

(特別編・終わり)
夢見るジュリエット(29) 世界で一番青い空1
...2005/12/18(Sun) 03:19 ID:fuwNDbZs    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
懐かしい朔と亜紀の姿が目に浮かびます。
今日は、真の監視?を逃れた亜紀の嬉しそうな顔が目に浮かびます。
次回も期待しております。
...2005/12/18(Sun) 12:45 ID:3CCZSLOA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さん
お読み頂き、ありがとうございます。1987年12月といえば、ドラマ本編では既に亜紀はいなかった時期で、いよいよ「未知の世界」へ入ったところです。
次回は少し戻って、いよいよ「あそこ」に行きます(^^)
...2005/12/18(Sun) 21:47 ID:i/DIPMY6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
別スレにかかりきりになっているため、なかなか更新できません。
次回は修学旅行にしようかと思いましたが、その前に、夏休みの終わりに、廣瀬家の三人で一泊旅行に行ってもらいます。行き先は同じ愛媛県内です(^^)
...2005/12/26(Mon) 21:47 ID:aQQ2WLwo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
廣瀬家の一泊旅行はどこへ行くのでしょうか?
楽しみにしています。

薬師丸ひろ子さんが紅白の審査員に決まったそうです。「1リットルの涙」の母親役が記憶に新しいので、嬉しいです。

小池徹平クンはWaTとして紅白に出場ですね。ヤンクミ先生こと仲間由紀恵さん、龍山の特進クラスの同士・長澤まさみさんの前でどんなステージを披露するか楽しみです。
...2005/12/27(Tue) 20:08 ID:U3JgHA2c    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
ヤンクミと龍山の組み合わせなら「修二と彰」の《青春アミーゴ》も是非聞きたかったですね(^^;;;
代わりに「亮司と雪穂」に出てもらいましょうか(笑)まずいか、やっぱり・・・

武田鉄矢さんは大河ドラマにも出演するそうで、その役は、一豊の立身出世を夢見る山内家の老臣。当然「くノ一」とは対立するでしょう。同時期に綾瀬さん、長澤さんの両方と戦うことになるとは(笑)
...2005/12/28(Wed) 21:59 ID:1JcnjBQk    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
ボウズのお父さんこと柄本明さんも大河出演ですね。豊臣秀吉役だそうで・・・
私個人的には、「ウォーターボーイズ」の「あの」イメージが強烈だったのですが、今度はどんな秀吉を見せてくれるでしょうか?
...2005/12/29(Thu) 15:35 ID:a11QIjpo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
謹賀新年
本年もよろしくお願いいたします。
...2006/01/01(Sun) 12:50 ID:YyjIY2Ow    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
あけましておめでとうございます。
本年が皆様にとって良い年でありますように。
...2006/01/01(Sun) 18:47 ID:KmMAsiH6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:ぶんじゃく

あけましておめでとうございます。

昨年はここで色々なドラマが読めて幸せでした。
今年もマイペースで頑張ってください。
...2006/01/02(Mon) 01:26 ID:F2EgqIOk <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
ぶんじゃくさん
あけましておめでとうございます。

このスレはもともと「もし亜紀が生きていたら」というお題で、多くの方が物語を綴っていたものです。過去ログに行きかけていたので、朔五郎が投稿することにしました。
どうせなら新しいパターンで、そもそも亜紀が病気にならないのはどうかと思い、書いてみました。
なかなか更新できませんが、お許しください。
...2006/01/07(Sat) 00:43 ID:n9ysW4KA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
こんばんは。
現在、亜紀と真は宇和島に旅行中です。
間もなくUPする予定です。
...2006/01/11(Wed) 23:49 ID:TLgiFv1g    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
「白夜行」観ましたが、なかなか良かったと思います。子役の二人がいい味出てました。特に雪穂役の女の子の目の演技がものすごく上手でした。綾瀬はるかさん・山田孝之クン、子役に負けずに頑張れ!
...2006/01/13(Fri) 22:35 ID:/TyFL55U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊

謹賀新年。
今年もよろしくお願い致します。

こちらでは、新年の挨拶をしておりませんでしたので・・・。どうも失礼致しました。
今年も続編を楽しみにしております。
...2006/01/14(Sat) 10:31 ID:6UjPSku6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
「白夜行」の著者・東野圭吾さんが直木賞を受賞しました。おめでとうございます。
...2006/01/17(Tue) 19:34 ID:4pjwPEVg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>東野圭吾さんが直木賞を受賞
 いつも直木賞と芥川賞は同時に発表されますが,@主人公は他者の視点から間接的に描かれるのみで,A読者に解決が示される訳ではないという「白夜行」の構成は,龍之介の「藪の中」を想起させるものがありますね。
...2006/01/18(Wed) 08:38 ID:md0r7C4Q    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(29) 亜紀の道1

「同じ海でも全然色が違うね」
「この海は宇和海だ。瀬戸内海とは違うだろ?」
「うん。同じ愛媛県なのに」

そうだ亜紀・・・この海の色を覚えていてくれ。遠い日、俺が愛する少女はこの海を「世界で一番美しい」と言った。そしてこの色の中に溶け込んでいったんだ。
亜紀、いつかお前も世界で一番愛する相手と一緒に、この海を眺めてくれ・・・

夏休みも終わりに近づいたある日、亜紀は両親と共に、綾子の実家を訪れた。同じ県内にありながら、亜紀がこの宇和島を訪れるのは小学生の時以来であった。
「亜紀、ちょっと散歩に行こう」
夕方近くなって少し暑さが和らいだ頃、真が亜紀に話し掛けた。
「・・・うん」
父と二人で散歩なんて何年ぶりだろう。亜紀は微かな戸惑いを感じていた。真と亜紀はゆっくりと自転車を漕ぎ出した。
「なんか変な感じ、自転車で並んで走るなんて」
「そうか?」
二人がまずやって来たのは城南中学校だった。
「ここ、お父さんが通ってた中学校?」
「そうだ」
亜紀はしばらくためらってから、真に尋ねた。
「・・・山口・・・桃子さんも?」
「ああ、そうだ。彼女は石応(こくぼ)というところに住んでたから、本当は別の中学校のはずだった。でも何かの理由で、ここに通っていた」
「へえ」
「このへんは学校が集まってるところでね、ほら、すぐ隣が小学校だろ?」
「うん」
「だから、小学校と中学校の記憶がごっちゃになってるんだよ」
「ふーん・・・」
「もう、どれが現実でどれが夢かさえ区別がつかなくなってきたな」
「そうなんだ」
「ここの桜が満開になった時、花吹雪に紛れて彼女の姿が見えなくなった・・・そんな記憶があるんだけど、夢だったのか現(うつつ)だったのか」
「いいじゃない、きれいな思い出なら。それが残っているだけで」
「そうかもしれないな」
「ねえ、向こうが東高校でしょ?」
「そうだよ、行ってみようか」
二人は表通りに面した校門の前にやって来た。そこからは小奇麗な中庭が見えた。
「そこの中庭で、よく二人でお昼を食べた。二年生になってからは綾子と三人になることもあった」
「お母さんも?」
「ああ、綾子は桃子に可愛がられていたんだ。俺と桃子はお互いに恥ずかしがりでなかなか気持ちを口にすることが出来なかった。それでお互いに、綾子に手紙を預けて渡してもらったりしたんだ」
「メッセンジャーだったんだ、お母さん」
「綾子には世話になった。綾子のおかげで俺たちはずいぶん分り合えた」
「ねえ、お父さん・・・」
亜紀は一番気にしていたことを尋ねた。
「桃子さんとお母さん、本当はどちらを愛しているの?」
「亜紀・・・」
真は遠くの空を見ながら言った。
「桃子は17歳で死んでしまった・・・人生には実現することとしないことがある。実現しなかったからこそ、心の中で大切に育んでいくということもあるんじゃないかな。その一方で現実に身近にあって、手をつないで、共に年を経ていける愛というのもまた、素晴らしいものだよ・・・亜紀というかけがえのない娘も生まれたことだしな」

「コーヒーでも飲んでいこうか」
東高校から、警察署裏手の綾子の家へ続く道の途中に、伊達家の庭園が残っている。その入り口の、通りを挟んで向かい側に、喫茶店が二軒並んでいた。真は小さな方の店に入って行った。中に入ると、ごく普通の造りで、近所の人たちの憩いの場になっているようだった。
「お父さん、学校帰りにここに寄ったの?」
「時々な。一応、校則では禁止されていたから、大っぴらにはできなかったんだ。生活指導の教師に見つかるとうるさくてな」
「怒られたことある?」
「ああ・・・《廣瀬、おまえ、いい度胸してるな。こんな学校の目と鼻の先でな。道草食ってるヒマがあったら帰って勉強しなさい》ってな」
「ふーん・・・」
「でも、懐かしいな」
「お母さんと一緒に帰ったりしたの?」
「たまにな。俺と桃子が一年生の時、どこで知り合ったんだか、中学三年生だった綾子が桃子のところに遊びに来るようになってな。さっきの中庭のところで三人でバドミントンをやったりしてたんだ。桃子はバスで通っていたから、帰る方向が同じだった俺と綾子は二人でこの道を帰った」
「どんな話してたの?」
「それが桃子の話ばっかり」
「なにそれ?」
「俺も綾子も、桃子のことが大好きだったんだ。その頃の綾子にとって、俺はあくまでも《桃子さんが愛している彼》だったんだ」
「ふーん。でもそんな二人が結婚して、娘が生まれちゃうなんて、なんだか不思議」
「そうだな」
真は苦笑いしながら答えた。

「この道、何となく良い感じだね」
「そうだろ」
喫茶店を出るとすぐ、左側に古い造り酒屋の建物がある。やがて、小さな川に架かる橋を渡ると、道に面して鮮魚や仕出し弁当を扱う店がそこかしこに見られた。
「この町にふさわしい感じだろ?」
「うん・・・なんだか懐かしい気がする」
「小説の舞台にでもなりそうな道だよな」
やがて道は二手に別れていた。
「ここを真っ直ぐ進んで国道を渡ると、俺の生まれた家があった。今はもうないがな」
もう一方の道は左手のこんもりとした小山の裾を巡るように伸びていた。
「俺と綾子はいつもここで別れた」
二人は左の道を進んだ。やがて道の脇に用水路が現れ、それからしばらく行くと、警察署裏手の綾子の実家があった。
「着いたね、お父さん」
「ああ」
真は亜紀を見てニコリと笑った。
「疲れたか、亜紀」
「ううん」
「じゃ、もうちょっと先の方へ行ってみようか」
二人は再びペダルを踏み、国道を渡った。のどかな小道が真っ直ぐに続いていた。
(続く)
※次回予告 夢見るジュリエット(30) 亜紀の道2
...2006/01/18(Wed) 23:55 ID:i/DIPMY6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
真の回想編が始まりましたね。
読んでいてどことなく懐かしい風景が浮かんでくるようでした。私は四国には行ったことがありませんが、実際にこのあたりを朔五郎さんは歩かれたのでしょうか?
...2006/01/20(Fri) 00:02 ID:M7UkOkpI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
この道は、原作の中でサクとアキが通った通学路です。朔五郎は二回ほど自転車で走りました。
この道は一度も映像化されていませんが、地元の方のガイドにより、二人が別れた曲がり角まで特定されています。ここには確かにサクとアキがいた・・・そんな雰囲気が濃厚に漂っているところです。
ちなみに、真の家=サクの家、綾子の家=アキの家、桃子の家=大木の家、という感じの位置関係になります。
なお、前に別スレでも触れましたが、原作のラストの中学校のシーンは、朔五郎は城南中学校の情景だと思います。一般的には、サクとアキが住んでいた地区から見て城東中学校だと解釈されているようですが、実際に現地に行ってみると、やはり城南中学校のほうがしっくりきます。
...2006/01/20(Fri) 00:44 ID:J6cezmXA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
「白夜行」で余貴美子さんが演じる図書館司書の顔を見ると何故かホっとします。
「優しい時間」「いま、会いにゆきます」でも余さんが演じるキャラは主人公たちを温かく見守り、時には叱咤してましたね。今回の役も「北時計のママ」「尚美先生」のイメージが重なりますね。
...2006/01/20(Fri) 22:40 ID:8kp3Phlg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
真と亜紀の親娘深い話をしながらのサイクリングに微笑ましいと同時に、切なさを感じました。
でも、高校生くらいの娘さんとサイクリングのみならず、何かしながら会話をするという光景は現代社会において少なくなってきているものでしょうから、羨ましがられるのかなとも感じております。
もしかしたら、亜紀が真にハンカチを貸すシーンが見られるのでしょうか?
その部分も期待の中に入れて、次回を楽しみにしております。
...2006/01/21(Sat) 22:33 ID:iiJyEMHU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>もしかしたら、亜紀が真にハンカチを貸すシーンが見られるのでしょうか? その部分も期待の中に入れて・・・

 私もそんなほのぼのとした展開を期待しながら,次回を楽しみにしています。
 とは言いながら,劇中劇の四国編で「助けてください」のセリフを病気の少女の方に言わせるなど,有名なセリフを別の登場人物に移し変える手法もお得意の朔五郎さんのことですから,「挨拶おじさん」の口から「俺が死んだら,あの人の骨と一緒に撒いてくれ」なんてセリフが飛び出すのではないかという「先読み」を楽しんだりもしています。
...2006/01/22(Sun) 09:29 ID:GhMBjsTY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
話題その1
昨日(金曜日)の夜、三浦友和さん主演のドラマをやってました。僻地医療に従事する医師の役で、役名は「マコト(誠)」
伊藤蘭さんが演じる妻は、白○病で亡くなってしまいます(合掌)
最後に村の人々が焼香に駆けつけるところは「○リットルの涙」を思い出しました・・・

話題その2
金曜日の朝日新聞の夕刊に長澤まさみさんの記事が載っていました。シリーズもので「好きな絵本」を語るというものですが、彼女の好きな絵本は「ぐりとぐら」
これも何かの因縁でしょうか(苦笑)
...2006/01/28(Sat) 00:46 ID:1JcnjBQk    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:ぱん太
朔五郎様

 初めまして(ですよね)。以前からお名前は拝見しておりましたが。今後ともよろしくお願いします。当方、都内の某大学病院に勤務する元不良患者(癌患者)のアホ外科医でございます。
 僻地医療に関してご意見がありましたので、投稿させていただきます。木曜日の「小早川伸木の恋」で僻地医療を否定するような台詞がありました。「この先10年を棒に振ってしまうのか」云々。どうなんですかねぇ〜。朔五郎様ご指摘のドラマも先ほどビデオで見ました。当方、昨日は久しぶりに遊びでの朝帰りをしでかしましたので。ついでに、途中から家内も呼び出され、一緒に朝帰り。夫婦共々、アホでございます。詳細は別の機会に投稿させていただきます。
 僕の親父は僻地医療に従事する医師を養成する某大学の教授でした。兄も僕もその大学が第一志望だったにも関わらず、一次試験で落ちています。ちなみに、この大学、各都道府県から数名の新入生を取っており、一次試験は各都道府県が行い、二次試験を大学が行っています。学費と生活費の一部は貸与され、卒業後に9年間、出身都道府県の地域医療に従事することによって返還が免除されます。そんな大学を尻目に育ってきた環境だけに、僕は僻地医療に何ら抵抗がありません。故に、小早川の言葉が妙に気に入らない。
 大学の先輩は都内の大学病院で三次救急の研修を受けた後、某都立病院に転じ、その1年後に伊豆七島の某島に転勤になりました。島で唯一の診療所です。島民約3000人(だったかな?)の健康を一手に引き受けています。2年の予定で赴任したにも関わらず、もう9年になります。学生時代に交際していた女性は大卒後スチュワーデスになりますが、先輩の赴任とともに退社し、結婚して一緒に島に渡っています。何回か遊びに行っていますが、島民の先輩に寄せる期待はとてつもなく大きい。三次救急経験者ですので、ほとんんどの疾患には対応できるのですが、手に負えなければヘリや飛行機で都内に搬送するそうです。飛行機を使えば、1時間もかからない島です。併せて赴任元の某都立病院はヘリポートを備えた病院です。先輩は定住することを決意したらしく、家を建てちゃいました。スゴイ官舎(ここでは言えないくらいのスゴイものでした)が経費削減で取り壊しされるのを受けてのようですが。今の時代、ネットを使えば医療情報は入手できるし、本も買える。確かに一線の外科医のように1週間に数回の手術を執刀して腕を磨くことは難しいかも知れません。要は価値観なんでしょうかね。
 もう一人言わせていただければ、大学の同期は、元外交官でした。赴任したアフリカの某国の医療惨状を目の当たりにして一念発起し医師になり、今もアフリカで医療活動を続けています。
 国立大学出身の医師や国立病院の医師を一定期間僻地医療に従事させる案も出ています。これから医師になる人間には僻地医療が必須となってくるのではないでしょうか。
 大学病院でしか勤務経験のない一アホ外科医が言うことではありませんが。

 乱文、失礼致しました。
 ではでは。
...2006/01/28(Sat) 11:38 ID:U/Oxgoyc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 僻地医療や医者の「人間としての幅」に関する朔五郎さんやぱん太さんのお話をうかがって,一部既出ですが,改めて2004年11月18日の衆院憲法調査会公聴会における聖路加病院の日野原名誉院長の公述を思い出しました。

 (以下公述内容の要約・抜粋)
 全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれるよう努力するのが日本の国是だが,世界人口64億のうちの五分の一が食物がない。(そういうところに)半年か一年実際に行ってみて,それから自分の専門に入れば,本当の人間ができる。
 ハーバードの医学部の学生は,何かの仕事をやってから入る人が多い。日本のように偏差値がいいからではなく,世間を知っている人が医療をやりたくて入ってくる。神学の教授による講義もあるし,コンファレンスも一緒にやる。日本では,専門家だけが物を言う構造になっており,専門ばかで幅の広い生命論がない。
 ノーベル医学賞ができて100年以上たって,日本人で誰も受賞した人がいないのは,才能がないからではなく,若い人を育てる畑がないからだ。
...2006/01/28(Sat) 12:17 ID:ORJrPts2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:ぱん太
にわかマニア様

 こんばんは。専門バカのアホ外科医でございます。
 日野原先生の仰ることは尤もなことですね。そういう意味では、2004年から始まった臨床研修の必修化は画期的とも言えるかも知れません。しかしながら数ヶ月病棟を回っただけで深いところまで理解できるかと言えば、絶対性はありません。
 スペシャリストかゼネラリストか、どちらの医師が優秀なのかと言えば、僕は後者だと考えます。しかし、日本の環境下ではゼネラリストでは患者から町医者の延長としか取られかねないという面もあります。アメリカではゼネラリストのホームドクターの地位が高かったりするんですけどね。
 アメリカに留学した際、僕は当時26歳で、27を目前にしていましたが、その病院内のレジデントで、僕は最年少でした。同期の平均年齢は30歳。バックボーンも様々でした。アメリカはメディカルスクールの教育だけではなく、レジデントプログラムも確立しています。色々な意味で日本は立ち遅れていると思いますし、極論はメディカルスクールになるんだと思います。最近、学士入学を実施する大学が増えてきたことは、何らかの布石となるかも知れませんね。

 ではでは。
...2006/01/28(Sat) 19:58 ID:U/Oxgoyc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
間が開いたので、再掲します。


夢見るジュリエット(29) 亜紀の道1

「同じ海でも全然色が違うね」
「この海は宇和海だ。瀬戸内海とは違うだろ?」
「うん。同じ愛媛県なのに」

そうだ亜紀・・・この海の色を覚えていてくれ。遠い日、俺が愛する少女はこの海を「世界で一番美しい」と言った。そしてこの色の中に溶け込んでいったんだ。
亜紀、いつかお前も世界で一番愛する相手と一緒に、この海を眺めてくれ・・・

夏休みも終わりに近づいたある日、亜紀は両親と共に、綾子の実家を訪れた。同じ県内にありながら、亜紀がこの宇和島を訪れるのは小学生の時以来であった。
「亜紀、ちょっと散歩に行こう」
夕方近くなって少し暑さが和らいだ頃、真が亜紀に話し掛けた。
「・・・うん」
父と二人で散歩なんて何年ぶりだろう。亜紀は微かな戸惑いを感じていた。真と亜紀はゆっくりと自転車を漕ぎ出した。
「なんか変な感じ、自転車で並んで走るなんて」
「そうか?」
二人がまずやって来たのは城南中学校だった。
「ここ、お父さんが通ってた中学校?」
「そうだ」
亜紀はしばらくためらってから、真に尋ねた。
「・・・山口・・・桃子さんも?」
「ああ、そうだ。彼女は石応(こくぼ)というところに住んでたから、本当は別の中学校のはずだった。でも何かの理由で、ここに通っていた」
「へえ」
「このへんは学校が集まってるところでね、ほら、すぐ隣が小学校だろ?」
「うん」
「だから、小学校と中学校の記憶がごっちゃになってるんだよ」
「ふーん・・・」
「もう、どれが現実でどれが夢かさえ区別がつかなくなってきたな」
「そうなんだ」
「ここの桜が満開になった時、花吹雪に紛れて彼女の姿が見えなくなった・・・そんな記憶があるんだけど、夢だったのか現(うつつ)だったのか」
「いいじゃない、きれいな思い出なら。それが残っているだけで」
「そうかもしれないな」
「ねえ、向こうが東高校でしょ?」
「そうだよ、行ってみようか」
二人は表通りに面した校門の前にやって来た。そこからは小奇麗な中庭が見えた。
「そこの中庭で、よく二人でお昼を食べた。二年生になってからは綾子と三人になることもあった」
「お母さんも?」
「ああ、綾子は桃子に可愛がられていたんだ。俺と桃子はお互いに恥ずかしがりでなかなか気持ちを口にすることが出来なかった。それでお互いに、綾子に手紙を預けて渡してもらったりしたんだ」
「メッセンジャーだったんだ、お母さん」
「綾子には世話になった。綾子のおかげで俺たちはずいぶん分り合えた」
「ねえ、お父さん・・・」
亜紀は一番気にしていたことを尋ねた。
「桃子さんとお母さん、本当はどちらを愛しているの?」
「亜紀・・・」
真は遠くの空を見ながら言った。
「桃子は17歳で死んでしまった・・・人生には実現することとしないことがある。実現しなかったからこそ、心の中で大切に育んでいくということもあるんじゃないかな。その一方で現実に身近にあって、手をつないで、共に年を経ていける愛というのもまた、素晴らしいものだよ・・・亜紀というかけがえのない娘も生まれたことだしな」

「コーヒーでも飲んでいこうか」
東高校から、警察署裏手の綾子の家へ続く道の途中に、伊達家の庭園が残っている。その入り口の、通りを挟んで向かい側に、喫茶店が二軒並んでいた。真は小さな方の店に入って行った。中に入ると、ごく普通の造りで、近所の人たちの憩いの場になっているようだった。
「お父さん、学校帰りにここに寄ったの?」
「時々な。一応、校則では禁止されていたから、大っぴらにはできなかったんだ。生活指導の教師に見つかるとうるさくてな」
「怒られたことある?」
「ああ・・・《廣瀬、おまえ、いい度胸してるな。こんな学校の目と鼻の先でな。道草食ってるヒマがあったら帰って勉強しなさい》ってな」
「ふーん・・・」
「でも、懐かしいな」
「お母さんと一緒に帰ったりしたの?」
「たまにな。俺と桃子が一年生の時、どこで知り合ったんだか、中学三年生だった綾子が桃子のところに遊びに来るようになってな。さっきの中庭のところで三人でバドミントンをやったりしてたんだ。桃子はバスで通っていたから、帰る方向が同じだった俺と綾子は二人でこの道を帰った」
「どんな話してたの?」
「それが桃子の話ばっかり」
「なにそれ?」
「俺も綾子も、桃子のことが大好きだったんだ。その頃の綾子にとって、俺はあくまでも《桃子さんが愛している彼》だったんだ」
「ふーん。でもそんな二人が結婚して、娘が生まれちゃうなんて、なんだか不思議」
「そうだな」
真は苦笑いしながら答えた。

「この道、何となく良い感じだね」
「そうだろ」
喫茶店を出るとすぐ、左側に古い造り酒屋の建物がある。やがて、小さな川に架かる橋を渡ると、道に面して鮮魚や仕出し弁当を扱う店がそこかしこに見られた。
「この町にふさわしい感じだろ?」
「うん・・・なんだか懐かしい気がする」
「小説の舞台にでもなりそうな道だよな」
やがて道は二手に別れていた。
「ここを真っ直ぐ進んで国道を渡ると、俺の生まれた家があった。今はもうないがな」
もう一方の道は左手のこんもりとした小山の裾を巡るように伸びていた。
「俺と綾子はいつもここで別れた」
二人は左の道を進んだ。やがて道の脇に用水路が現れ、それからしばらく行くと、警察署裏手の綾子の実家があった。
「着いたね、お父さん」
「ああ」
真は亜紀を見てニコリと笑った。
「疲れたか、亜紀」
「ううん」
「じゃ、もうちょっと先の方へ行ってみようか」
二人は再びペダルを踏み、国道を渡った。のどかな小道が真っ直ぐに続いていた。

(続く)

※次回予告 夢見るジュリエット(30) 亜紀の道2
...2006/02/19(Sun) 22:40 ID:ZVH3Qls.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(30) 亜紀の道2

静かな住宅街の中を抜けて行く、のどかな小道。真と亜紀はゆっくりと自転車のペダルを漕いでいた。二人の影が地面に伸びている。
「亜紀は覚えているかな・・・亜紀がまだ小さかった頃、チャイルドシートに亜紀を乗せてこんなふうに散歩したものさ」
「じゃ、家にある古い写真が?」
「そう、あれはここらへんで写したんだよ」
「へえ・・・」
「俺はこの道を、勝手に《亜紀の道》と呼んでいた」
近所の主婦がゆっくり歩いていたり、小さな子供が走っていたり・・・
やがて行く手には小高い丘が立ち塞がり、道はその裾を巡るように左にカーブしていた。
「ほら、あそこに手すりが見えるだろ?」
丘の中腹には鉄製の手すりが見えた。
「うん」
「まだ独身時代、綾子と待ち合わせした時、俺は先に着いて、あそこから綾子が自転車で走ってくるのを見ていたんだ」
二人は自転車を停め、石段を登っていった。
「ちょうどここらへんだったかな」
「何が?」
「俺と綾子が初めてキスをした場所」
「えっ」
思いがけない言葉を聞いて、亜紀の胸はドキドキした。
「あれは桃子の七回忌のことだった」
遠くを見つめるように真は言った。
「桃子が死んでから、俺と綾子は会わないようになった。顔を合わせればどうしても思い出してしまうからな。高校を卒業すると、俺は逃げるように東京の大学に進学した。一刻も早く行きたかったんだが、親や担任が卒業式だけは出ろって言うんでイヤイヤ出席したんだ。桃子の名前が呼ばれることはない・・・その現実と向かい合うのが怖かった」
真は空を見上げながら続けた。
「俺たちのクラスはD組で、名前を呼ばれる順番は最後だった。当然、桃子の名前は呼ばれなかった。わかってはいても、俺はやっぱり悲しかった。その時、担任の佐々垣先生が言ったんだ。待ってください、もう一人名前を呼ばせてくださいって」
「山口桃子さん?」
「そうだ。誰もが弾かれたように顔を上げた。体育館の入り口には、桃子の遺影を持った綾子が立っていた。綾子は前に向かって歩いて行った。そして俺の横を通り過ぎるとき、軽く頭を下げた。目を合わせることも、言葉を交わすこともなかった。俺は式が終わると、そのまま東京に向かい、それ以来この町には帰ってこなかった。そのうち俺の実家も宮浦に移ってしまったんだ」
「縁が切れちゃったんだ」
「そう・・・でも、東京で就職していた俺のところに一通の手紙が届いた」
「手紙?」
「うん。それは桃子の七回忌の知らせだった」
「それで帰って来たんだ」
真はこくりと頷いた。
「俺はその場で綾子と再会した。二人で久しぶりに桃子の話をしたんだ。七年という月日は血が吹き出すような悲しみを、だいぶ和らげてくれていた。俺も綾子も初めて桃子の死と正面から向かい合ったような気がしたよ」
「・・・・・」
「会食も終わって帰ろうとした時に、俺たちは桃子の親に呼ばれた。そして、小さな瓶に入った白い粉を渡された。それは桃子の遺灰だった」
「どんな気がした?」
「ああ、これが桃子なのか、と思ったな」
「ふうん」
「俺たちは前に三人で来た事のある、この場所にやって来た。俺たち三人は、休みの日とかに、この石段に座って将来の夢を話したりしたんだ」
「そんな思い出があったんだ・・・全然知らなかった」
「俺も綾子も亜紀には黙ってきたからな」
その時、二人の巫女が通り過ぎて行くのが見えた。
「なんだか不思議な場所ね」
「そうなんだ・・・あの日、桃子が入った瓶を持って、俺たちはここに来た。二人で遺灰を見ているうちに日が傾いてきて、空にはまるでUFOのように金星が輝いていた。俺たちは急に気持ちが高まるのを感じた。そして気が付くとキスをしていたんだ。俺の上着のポケットに入っていた瓶を握り締め、綾子は強く唇を押し付けてきた」
「お母さんが?なんか信じられない・・・」
「そうだな。あの綾子があんな情熱的になるなんて、ちょっと考えられないことだったな」
亜紀は顔を少し紅潮させながら言った。
「桃子さんが、そうさせたのかな」
「そうかも知れんな。俺たちを結びつけたのは、桃子の意思だったのかも知れない」
「桃子さん、愛してたんだね。お父さんもお母さんも」
「ああ」
「でも、自分が死んでからも、自分が愛した人たちの幸せを考えるなんて、なんだか素敵だな」
「そう思うか?」
「もし私が桃子さんの立場になったとしたら、そうありたいと思うわ」
真は亜紀を見て微笑んだ。
「そんなこと言うな、亜紀。お前は生きろよ、愛する相手と二人で・・・いつまでもな」
「うん」
ふとその場の空気が柔らかくなった。まるで誰かが笑みを浮かべたかのように。

(続く)

※次回予告 夢見るジュリエット(31) 世界で一番青い空1
...2006/02/19(Sun) 22:45 ID:ZVH3Qls.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さん
こちらでは久しぶりの投稿作ですね。
真たち3人で歩いた青春時代が甘酸っぱい感じでしんみりしますね。桃子さんが亡くなったので尚更そう思います。
亜紀に語りかけた「愛する相手」というのは朔のことでしょうか・・・答えを聞いてしまうとネタばれになるので、次回以降のストーりーを楽しみにします。
...2006/02/20(Mon) 22:00 ID:aPbln5qE    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
ご感想、ありがとうございます。

真・桃子・綾子の関係は
※朔・亜紀・律子(映画版)
※朔・亜紀・智世(ドラマ版)
※和哉・カヲル・ジーコ(きみの知らないところで世界は動く)

を混ぜたようなイメージでしょうか。
ちなみに、NHKの「きみの知らないところで〜」で「今のカヲル」を演じていたのは、白夜行で亮司に騙されて、死に追いやられてしまう奈美江役の、奥貫薫さんでした。
...2006/02/21(Tue) 01:09 ID:ldvdBDoM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO

朔五郎さん
そうでしたか
このストーりーでの綾子はある時は律子・ある時は智世の役回りを演じつつ、桃子の可愛い妹分だった印象があります。
...2006/02/22(Wed) 23:55 ID:ow9DBFdg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
キャストイメージもしっかりとしたものをお持ちのようで、期待せずにはいられません。
次回も楽しみにしております。
...2006/02/25(Sat) 19:44 ID:PcTGUBxU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さん
お久しぶりです。
キャストイメージと言えば、もちろん真と綾子は、原作の朔と亜紀と「赤」を混ぜています。
ところで、三浦×山口のコンビでは、もう一つ同じような映画が撮られていたと思います。
堀辰雄原作の「風立ちぬ」なのですが、原作とはかなり違っております。
その中で「自転車の二人乗り」があったり、出征し帰ったら幸せになろうと誓ったりと、どこかのドラマと被るようなエピソードが出てきます。
ただ「世界の〜」の謙太郎じいさんと違うのは、戦争から戻ると彼女はすでに結核で亡くなっていたということでしょうか。
それにしても三浦友和さん、恋人を2回、娘を1回、この間のドラマでは奥さんを1回と、よくよく愛する女性に先立たれる役に当たっていますね(苦笑)
...2006/02/25(Sat) 20:57 ID:Jp88QQD6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
三浦友和さんは4月からの朝ドラ「純情きらり」にヒロインの父親役で出演します。このドラマでも奥さんに先立たれる役柄のようですね。
ヒロインはハチこと宮崎あおいさんですが、彼女はラジオドラマ版「世界の中心〜」の亜紀役でしたよね(^^)

http://www.nhk.or.jp/drama/html_news_kirari.html
...2006/03/03(Fri) 23:12 ID:SYhpg2h2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
「純情きらり」では
※ヒロインはピアニストを目指して上京するが、受験に失敗し、浪人生活を送る。
※ヒロインの両親は駆け落ちにより結婚する。
※ヒロインの仲間として「前衛画家」が登場する。

という感じで「セカ2」の関係者には楽しめそうな内容ですね(^^)
...2006/03/04(Sat) 17:20 ID:gsR32xGo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:双子のパパさん
 朔五郎様 はじめまして

 やっと、パート2までくる事ができました。(まだ読ませては頂いておりませんが・・)
 パート1、世界の中心で、愛をさけぶ2での 初めの頃の、朔五郎様はじめ、皆様のやりとりをとても楽しく拝読させて頂きました。発想力、想像力が欠けている私は、ただ、尊敬するばかりです。皆様が作ってこられた道を、後から歩かさせて頂いた感じが致します。遅れてこのドラマに出会ってよかったのかな〜と思いました。
 パート2を読み終えるまではと、思ったのですが、途中でのコメントお許しください。
 これからもお邪魔させていただきます。よろしくお願いします。
...2006/03/16(Thu) 00:30 ID:iQJpuj5A    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
双子のパパさま

初めまして。冒頭に書きましたように、このスレッドは、初期の作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいと思って立てたものです。
このようなコメントを頂き、うれしく思っております。
これからもよろしくお願いいたします。
...2006/03/18(Sat) 02:20 ID:bnTxlF/Q    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>二人がまずやって来たのは城南中学校だった。
>彼女は石応というところに住んでた
>表通りに面した(東高校)の校門から小奇麗な中庭
>東高校から、警察署裏手の綾子の家へ続く道の途中に、伊達家の庭園
>古い造り酒屋の建物

 先日,宇和島を訪ねた際,「サクと亜紀の歩いた道」を巡っていたはずなのに,いつの間にか,「挨拶おじさん」の追憶の情景と重なってしまいました。
...2006/03/19(Sun) 02:46 ID:jdTlfyoo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
にわかマニアさん
「あの道」をお歩きになりましたか(^^)
松崎や庵治とは違い、映像化されていないだけに、逆にイマジネーションが刺激されますよね。
市立宇和島病院の入り口の独特の形状も印象的に残っています。これは「君の知らないところで〜」の中にちょっと映ってましたけど。
「城下町」のコーヒーは賞味されましたか(^^)
...2006/03/19(Sun) 16:33 ID:ScFjZyHs    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>「城下町」のコーヒーは・・・

 行きは「春賀」駅を通るため旧線経由の633Dを利用して宇和島着が9時42分。帰りは2人が乗った18時56分発の1074D「宇和海24号」に乗車したため,宇和島での滞在時間はたっぷり9時間もありましたから,洋館風というサクの家のモデルになった歴史資料館はもちろん,喫茶店も商店街も十分に味わってきました。もっとも,皿の割れる音は聞こえてきませんでしたが・・・(^^)
 荷物を預けたのも,もちろん,「あのコインロッカー」ですし,乗車便を「あの2人」に合わせただけでなく,「夕食時間帯」の病院から駅に向かうというところまで追体験してきました。
 詳細は「ロケ地」スレで・・・
...2006/03/19(Sun) 23:42 ID:jdTlfyoo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
下がってきましたので、あげますね。
...2006/03/26(Sun) 21:06 ID:7mCvsFBE    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>原作のラストは城南中学校の情景だと思います。一般的には、サクとアキが住んでいた地区から見て城東中学校だと解釈されているようですが、実際に現地に行ってみると、やはり城南中学校のほうがしっくりきます。

 謎解き本(28頁)でも,図書館(サク)や警察(亜紀)という住所の手がかりを重視すると2人の学区が異なるという矛盾が生じると指摘していますが,現地に行って見て,「桜の木」という条件に合うのは,やはり城南中の方だと思いました。(もっとも,これは2006年の時点で見た印象ですから,ひょっとしたら,改修等の関係で80〜90年代とは姿形が違ってしまったのかもしれませんが・・・)
 また,一人称小説という原作の性格上,物語に登場する学校は,特に断り書きのない限り,話者であり視点人物であるサクの通った学校(この場合は城南)と解するのが順当でしょう。城南と城東の学区は隣接していることでもありますし,亜紀は何らかの事情で越境通学をしていたのかもしれません。(これがドラマ版だと,「あの父」が教育方針か交友関係か何かの事情で越境通学させたという屁理屈をこじつけると,何となくストンと落ちるのですが・・・)
...2006/04/01(Sat) 07:11 ID:b6Cia5iA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(31) 世界で一番青い空1

消灯後の病室。
窓から月の光が差し込んで、病床のネームプレートの「廣瀬亜紀様」という文字を照らしていた。
そんな病室の中で、ページをめくる音がする。
その音の主は亜紀だった。朔太郎が持ってきたファイルを見ている。
「修学旅行のお知らせと書類か」
そして亜紀はこみ上げて来るものが抑えられなくなったように笑みを浮かべた。
「ふふっ、パスポート用の写真も良く撮れてる」
亜紀は、ファイルの青い表紙を撫でた。
「サクちゃん、よくやってくれるよね・・・」
亜紀はファイルを見ながらそう呟いた。そして愛しそうにそれを抱いたまま布団の中にもぐりこんだ。

発端は陸上部の休日練習だった。九月とはいえ、まだ暑い日が続いていた。一人、黙々とスタートの練習をしていた亜紀は、一時を過ぎたのに気付いた。
「たこ焼きでも食べに行こうかな・・・」
ふと呟いた亜紀は、グラウンドに面した道路に朔の姿を見た。朔は白い包みを持っていた。
「お弁当だよ。亜紀のお母さんに頼まれたんだ」

朔が自転車で亜紀の家の前を通りかかると、ちょうど綾子が出てきたところだった。綾子は亜紀の弁当を届けに行こうとしていたのだった。
朔は、その役目を進んで引き受けた。綾子も深く考えず、朔にそれを預けた。
そして堤防の近くを通りかかった時、朔は何気なく空を見上げた。
「なんか、変った雲だなあ・・・」
心惹かれた朔は堤防の上でゴロリと横になった。強い日差しを受けた顔を潮風が撫でていく。
「風・・・気持ちいいなあ・・・」
ついウトウトしてしまった朔が目覚めた時、既に一時間以上が過ぎていた。
「いけね、弁当届けなきゃ・・・」
あわてて飛び起きた朔は自転車を漕ぎ始めた。途中でたこ焼きを買い、亜紀のいるグラウンドを目指す。
朔がグラウンドに着いた時、亜紀はちょうど休憩しようとしていた。
「ラッキー・・・」
その時、亜紀が振り向いた。朔は弁当の白い包みを見せながら、亜紀に呼びかけた。
「お弁当だよ。亜紀のお母さんに頼まれたんだ」
「ほんと?ありがとう」
朔は亜紀に近づくと包みを渡した。
「オレもたこ焼きを買って来たんだ・・・」
「いいなあ・・・ね、一個くれない?」
「いいよ」
「もう一個もらっちゃうかも」
「いいよ」
「後でもっと欲しくなっちゃうかも。へへ、イヤな女かな、私」
「いいよ・・・亜紀はそのままでいいんだよ」
そんなこと想定内だというように、諦め顔で朔は頷いた。
「はい、コーラ」
二本買ってきたうちの一本を亜紀に渡す。
「ありがとう・・・好きよ、朔ちゃん」
楽しげに食事をする二人。
(ん?)
弁当のフタを開けた時、亜紀は首を傾げた。
(ま、気のせいか・・・)
楽しそうな朔の顔を見て、気にしないことに決めた。
こうして炎天下、自転車のカゴの中に一時間以上も放置された弁当は、亜紀のお腹に収まったのである。

次の日の朝。
「起立・・・礼・・・着席」
一通りの連絡を終えた後、谷田部が再び口を開いた。
「もう一つ、真面目な話です」
真剣な顔をしている谷田部に、生徒たちはただならぬものを感じていた。
「廣瀬が入院しました」
「入院?」
教室内がざわめいた。空いている亜紀の席を見ながら、朔が蒼ざめていた。

亜紀が稲代中央病院に入院していることを智世から聞いた朔は、放課後、必死で自転車を走らせた。正面入り口に走り込んだ朔は受付の女性職員に噛み着くように聞いた。
「あ、あの・・・廣瀬亜紀さんの病室は・・・」
あまりの形相に思わず後ずさりしながら、その職員は答えた。
「ちょ、ちょっとお待ちください・・・」
どこかに電話を入れて確認をしている。
「廣瀬亜紀さんは退院されました」
「た、退院?じゃ、良くなったんですか?」
「いえ、明日戸(アスド)病院に転院されたようです」
「明日戸病院・・・」
気が遠くなりながらも、朔は自転車を漕いだ。遥か彼方の山の中腹に、その病院の建物が小さく見えていた。

息も絶え絶えに、明日戸病院にたどり着いた朔は、売店の前に亜紀の両親の姿を見つけた。
「あ、あの」
おずおずと近寄る朔に綾子が口を開いた。
「・・・朔くん」
「あ、あの・・・」
「うん・・・吐き気がひどくてね・・・食べたもの、みんな戻してしまうの」
「オレ何でもしますから・・・できること、何でもしますから・・・」
「できることなんて・・・いいのよ、そんなに気を遣わなくても」
おそるおそる真に目を向けると、怒りの形相をあらわにしている。
「なぜ亜紀がこんな目に遭わなきゃならん」
「・・・」
「俺のせいか?綾子のせいか?いや、君のせいだな」
「ええっ・・・」
「綾子が君に弁当を預けたのが十一時ちょっと過ぎ、亜紀が食べたのが一時・・・その間あの包みをどこに置いてたんだ」
「ああっ・・・て、堤防で・・・」
「どうせ昼寝でもしてたんだろ?そんな暑いところに置きっぱなしにされたものを食ったらどうなるか分かるな?」
「す、すみません・・・」
「食中毒なんだ。君は何をした?・・・分かったら帰ってくれないか」
言葉を失った朔はトボトボと外に出た。その時、背後から綾子の声がした。
「朔くん、ごめんね。うちの人もちょっと動揺して余裕なくて・・・そんなに心配しないで大丈夫よ。三、四日で退院できるって。明日になれば吐き気も収まると思うから、そうしたら会ってやって」
「・・・」
「ね、元気出して。朔くんがそんな顔してると、亜紀まで落ち込んじゃう・・・本当は悪い病気なんじゃないか、とかね。あの子わりと悲観的なところがあるから・・・明日は、明るい顔を見せてあげてね」
「はい・・・」
綾子の言葉の優しさに、頷くのがやっとの朔だった。

※次回予告 夢見るジュリエット(32) 世界で一番青い空2
...2006/04/02(Sun) 14:17 ID:whSn2Anw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 遠出に誘った張本人とはいえ病気と直接の因果関係はない(加害者ではない)ドラマ本編ですら,あれだけの目に遭わされたことを思うと,れっきとした加害者である今回の場合,サクの運命やいかに・・・
 そう言いながら,あの父のキャラを心待ちにするもう一人の自分がいます。
 なぜかと言えば,娘に彼氏ができた時の参考にするためなのです。
 これまでのところ
 「まず挨拶をしなさい」・・・相手次第
 「こんな知らされ方は不愉快だ」・・・当確
 「まだ生きていたのか」・・・当確
...2006/04/02(Sun) 15:41 ID:faRtOcjA    

             城南vs城東  Name:にわかマニア
 138番及び161番の続編です。
 今は閉鎖されてしまい,googleに辛うじて残されたキャッシュを通じてしか見ることができないのですが,「住所を重視するとサク(城南)と亜紀(城東)の学区が異なる」という謎解き本の記述に対し,地元の方の解説によると,警察方面(亜紀の家)だけでなく図書館(サクの家)も城東中学校の学区であり,片山さんも城東OBなので,2人が通った学校は城東中学だと結論づけていました。
 しかし,雰囲気の件は別として,だからと言ってそのように即断できないのは,大木との関係の問題があるのですね。夢島とその対岸の養殖場と大木の家の位置関係からすると,大木は城南中の学区になり,サクや亜紀とは学区が異なってしまうのです。
 それと,もともと,城東中は1961年に城南中から分かれて設置された学校だそうですが,城南中の方は,その後も再編で学区が拡大された経緯もあり,1学年9クラス(原作6頁)のようなマンモス校のイメージとしてどちらが合っているかは微妙なところです。
 その一方で,城南中の所在地は予科練の跡地だったせいか,1992年まで男子は「丸刈り」だったようですが,原作ではサクが坊主頭だったことを思わせるような記述は見当たりません。また,城南中の制服はセーラー服ではないため,原作23頁の「見慣れたセーラー服」という記述とも矛盾します。
 つまり,どちらと断定しても一長一短なのですね。ひょっとすると,2つの学校を合成して作られたのが小説の舞台なのかもしれません。
...2006/04/05(Wed) 02:03 ID:/yVpNbbo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
にわかマニアさん
矛盾といえば、サクの家があった図書館は、警察署方面とは全然違う方向になり「あの道」を一緒に通学することは実際にはないと思われます。
というわけで「あの風景」は宇和島市内の実景を色濃くモチーフにしているものの、やはり「仮想」の部分があるのでしょうね。もしかすると、福岡のどこかの風景をミックスしているのかもしれませんね。
私が注目したのは「棒登り」という遊具で、普通これは小学校の校庭にあるものだと思います。
私の記憶では城南中にも城東中にも無かったと思います。
しかし、城南中には小学校が隣接しており、すぐ隣には小さな公園もあって、児童向きの遊具もありました。このようなことから、城南中のほうが小説のイメージには合うのではないかと思った次第です(^^)
...2006/04/09(Sun) 09:36 ID:0.W5488o    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。

朔はとんでもないことをやらかしましたね。
亜紀がそれでも怒らないのが印象的です。
世の女性は、もし同じことがあったらどうするんでしょうね(笑)
亜紀に限っては、後悔の念にかられる朔を優しく包みそうな気がします。
...2006/04/09(Sun) 23:09 ID:kAp9lbpg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:双子のパパさん
 お疲れ様です 朔五郎様

 食中毒ですか〜。やらかしてしまいましたね。亜紀が回復したあと、悪戯顔で、チクリ、チクリやられるのでしょうか?
 真の言葉に、吹き出して笑ってしまいました。真にどうやってあやまり、許しを請うのでしょうか。
 次回作も楽しみにしております。
...2006/04/14(Fri) 01:41 ID:k9k1xjFM    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔なら、いつかやらかすかと思っていたのですが、真夏の炎天下に弁当を届ける途中で昼寝ですか・・・(スウィングガールズみたいな話で、個人的には好きですが)
これじゃ真にまともに顔向けできませんね〜

※『純情きらり』での三浦友和さんは理解のある優しい父親を演じていましたね。以前、ドリフの加藤茶さんと共演したCMのイメージに近いような気がしました。来週から三浦さんが見られないのがちょっと寂しいです。
...2006/04/15(Sat) 11:38 ID:Nsiy/FDE    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
コメントをお寄せ頂いた皆様、ありがとうございました。
これは「朔と亜紀」だから許されることで、普通なら大変なことになるでしょうね。
ずっと前に書きましたが、この物語の「裏ヒロイン(!?)」は綾子です。彼女がついている限り、事態をうまく収拾してくれるでしょう(^^)
...2006/04/15(Sat) 19:55 ID:KVUsmmh.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(32) 世界で一番青い空2

夕方になって、ようやく症状は落ち着いてきたが、一日中辛い思いをした亜紀は、蒼ざめた顔をしていた。
「亜紀ちゃん、もうすぐ点滴も終わるから、もうちょっと頑張ってね」
「うん・・・」
亜紀は綾子の目をちらりと見ると、さりげなく言った。
「ねえ、この点滴の中にはどういう薬が入ってるの?」
「確か、吐き気止めって言ってたわよ」
綾子は輸液ボトルのラベルを見ながら言った。
「プリンペランだって」
「ふーん・・・」
亜紀は考え込むような仕草をした。無意識のうちに掛け布団を握り締めた指先が震えている。
「ねえ、この吐き気は本当は薬の副作用のせいじゃないの?」
突然そんなことを言われても、何のことか理解できない綾子は困惑した。
「さあ・・・吐き気止めの副作用が《吐き気》ということはないと思うけど。変なこと心配するんじゃないの」
「そう・・・そうよね」
そこへ真が入ってきた。そして、その場の雰囲気が重いのを感じて言った。
「なんだ・・・どうした、二人とも元気ないな。何かあったのか?」
「う、ううん、何でもないの。ちょっと考えすぎちゃった、私」
亜紀の言葉に真はホッとしたように言った。
「それなら良かった・・・これ、気に入るかどうかわからんが」
それは亜紀のために買ってきたパジャマだった。
「ありがとう。とっても、あいくるしいね。うれしい」
精一杯、気を遣って亜紀は礼を言った。
「そ、そうか」
真の顔に笑みがこぼれた。
「いや、気に入ってくれたか」
「う、うん。ステキよ」
思いがけない亜紀の褒め言葉に、感無量という顔をする真。
「俺のセンスも捨てたもんじゃないだろう」
そして身を乗り出すようにして続けた。
「若い頃からちょっとは自信があったんだ・・・それでな、今まで綾子にも黙っていたんだが・・・」
訝しげな表情の綾子を尻目に、真は勢い込んで言った。
「夢があるんだ・・・」
「夢?」
「ああ、ずっと前から、ブティックを経営したいと思っていたんだ」
「・・・・・・・」
あまりのことに綾子も亜紀も完全に言葉を失い、凍りついてしまった。
「それでな、店長は亜紀にやってもらう。松山の一等地に店を出そう。きっと当たるぞ・・・メドが立ったら、大阪に二号店を出そう。どうだ、亜紀」
「う、うん・・・」
亜紀は美しく着飾り、セレブな女性たちの相手をしている自分の姿を思い浮かべた。
(悪くないかも)
そんな亜紀の表情を見て、脈があると思ったのか、真はにこやかに言った。
「実はな、店の名前も考えてあるんだ」
「へえ」
「MAKOTO’S CLOSETでどうだ?」
「え、お父さんの名前をつけるの?」
「嫌か?」
「嫌じゃないけど・・・そうだな、例えばS&Aとか」
「SとA?Aは亜紀だろうがSは・・・あ、まさか」
「ごめんね、お父さん」
その時、亜紀が見せたはにかむような、そして嬉しそうな表情を見て真はすべてを悟った。
「亜紀、父親の俺より、こんなひどい目に遭わせたアイツが好きなのか・・・」
真は愕然とした表情になった。
「女の子の夢なんてそんなものですよ。あなた、朔くんを誤解してます。いい子ですよ、朔くんは」
「そうなんだろうな・・・俺の娘は本当はこんな夢を持ってるんだな・・・しかし・・・」
真は首を振りながら言った。
「こんな知らされ方は不愉快だ・・・」
ガックリと肩を落とし、真は出て行った。
「悪いこと言っちゃったかな・・・」
亜紀が言う。
「気にしなくていいわよ。父親がいつかは味わう悲しみなんだから・・・自分だって私を私の親から奪ったんだから」
「そうか・・・」
「それより亜紀、ブティックはやめといた方がいいんじゃない?」
「そうかな」
「別にブティックそのものが悪いとは言わないわ。でも今は美しく着飾るより、内面から美しくなることを考えなさいよ。服だって着る人を選ぶのよ。心が醜い人からは、誰もが目を背けるわよ」
「私、そんなふうになるつもりはないけど・・・でも朔ちゃんなら、たとえ私がどんなに醜い人間でも抱き締めてくれると思うけどな」
「あらあら、朔くんまで巻き添えにする気なの?」
綾子は呆れたように言った。
「そんなことしたら、朔くんから、一生太陽を奪うことになるかも知れないわよ。それに、朔くんだって嫌になって亜紀から去ってしまうかもよ」
「そんな・・・」
「《風と共に去りぬ》っていう小説があるでしょ。あんなことになってもいいの?」
「イヤだ」
その時亜紀の脳裏に、経営に失敗し借金まみれになった挙句、朔にまで去られ、生ける屍のように公園のベンチにうずくまる自分の姿が浮かんだ。小さく身震いすると亜紀は言った。
「やっぱり止めておく。悪い予感がするの、何となく・・・」
「そうよ、自分で決めたように、ちゃんと愛媛大学の心理学科に行って、立派な心理士になりなさい」
「うん」
「さて、これで亜紀は安心ね・・・ちょっとお父さんの様子を見て来るね」
「うん」

山の中腹にあるこの病院の敷地からは、稲代の夜景が良く見えた。綾子が近づいた時、真は疲れ果てたようにベンチにうずくまっていた。
「綾子か・・・」
「うん」
「亜紀は大丈夫なのか、目を離して」
「亜紀はもう大丈夫。心配なのはあなたの方よ」
「失礼な」
「なに落ち込んでるのよ。亜紀はいつまでたっても私たちの娘よ。そのことは変らないわ、絶対に」
「でも、親子と恋人は違うじゃないか」
綾子はその言葉に目を丸くした。
「亜紀は、これからどんどん、色々な世界に行って、ちゃぁんと、アイツと恋愛もして・・・その時、俺の方がいいよって言えるもの、俺、何一つないと思うんだよ・・・」
沈痛な顔で真は続けた。
「髪の毛も薄くなって、一人でパンツも洗えなくて、金のことばっかり言ってて、性格も意地悪だと思われてて・・・」
そして泣きそうな顔でこう言った。
「きっと・・・子供夫婦と仲良くするとかも、無理っぽいよな」
父親としての淋しさを思い知らされている真の姿を見て、こらえ切れず綾子は後ろから抱きついた。そして一緒に涙を流した。
「こんな俺に寄ってくる理由、何にもないよな。生きてたら、それって遠くないよな。でも、それくらいは生きてそうな気がするよな・・・」
真は、振り絞るような声で、自分を背後から抱き締めている綾子に言った。
「綾子はいてくれよな。俺の嫁さんだからいてくれよな・・・いてな・・・いてな・・・すっといてくれよな・・・」
限りない優しさを込めて綾子は言った。
「ね、あなた・・・何かを失うことは、何かを得ることだと思わない?」
「亜紀を奪われて、一体何を得るって言うんだよ」
「私がなってあげるわよ、あなたの恋人に・・・それにね、可愛い孫の顔も見られるわよ、いつかきっと」
綾子の言葉を聞いて、真の顔にわずかに笑みが浮んだ。

※次回予告 夢見るジュリエット(33) 世界で一番青い空3
...2006/04/15(Sat) 20:09 ID:KVUsmmh.    

             パロディー「プロポーズ大作戦」編  Name:にわかマニア
 真の口から突然発せられた「ブティック」というコトバ。でも,誰かに頼まれて設計するのではなく,自らが営む店とは・・・
 朔五郎さん。ひょっとして「白」の読みすぎでは・・・
 でも,本編第8話の亜紀のセリフを真に語らせてみたり,相変わらず茶目っ気たっぷりですね。

 では,ショボーン状態のサクが一縷の望みを託して応募した視聴者参加番組の顛末を以下に・・・

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 司会者(やすきよ) それで,君としては,食中毒事件のことは反省しているから,お父さんに交際を認めて欲しいって訳やな。
 サク (うなだれたまま)はい・・・
 司会 さあ,どうでしょう。(榊を振りながら)
    神の御前にて身を委ねたる・・・
 キューピッド(きん枝) もう,こんな役目やってられへんわ。いきなり「人の家にテレビカメラを向けるとは,いい度胸してるな」でっせ。慌てて名刺を探してたら,「まず挨拶をしなさい」ときたもんだ。
 その次は,「君にも夢ってものがあるだろう。いつまでも変な帽子かぶって,変なプラカード持って道化役なんかやってないで,古典落語の一つでもマスターしたらどうだ」ってお説教でっせ。放っといてくれっちゅうんや。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 「ただいま恋愛中」(仁鶴・きよし)編と「新婚さんいらっしゃい」(三枝)編も考えてみたのですが,亜紀主導のやりとりに司会者が呆れるというベタな展開しか思いつかず,断念しました。

 あと,西条凡児と真の掛け合いも考えてみたのですが,どうも「娘をよろしく」という展開にはなりそうもないので,「おやじバンザイ」で綾子にとっちめてもらいましょうか・・・

 (70年代の関西ネタで申し訳ありません)
...2006/04/15(Sat) 20:51 ID:HlNCkk8k    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。

今回はどことなく幼さの残る考え方をした亜紀の不に着が印象的でした。
さらに、真の大人気なさ(?)と言いましょうか、父親としての苦悩の様子とのコントラスト、2人の間に入る綾子に、しみじみとした気分になりました。
次回も期待しております。
...2006/04/17(Mon) 14:13 ID:BsVbFX5A    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
にわかマニアさん
なつかしいですね・・・プロポーズ大作戦(^^)

たー坊さん
今回は「亜紀の悲観的なところ」を出してみました。
真のキャラはドラマ本編とはちょっと違う味を加えております(^^)
...2006/04/19(Wed) 21:18 ID:v.tTD9/2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
気が付けば、かなり下にありました。
あげておきますね。
...2006/04/23(Sun) 19:45 ID:AlAkXc3g    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
久しぶりに、他のドラマについて・・・

TBS・金曜10時の「クロサギ」
これは、映画「世界の〜」のマニアにとっては、たまらない共演が実現しています。
山崎努さんと堀北真希さん。
山崎さんは言わずと知れた「重じい」ですが、堀北さんは?
実は、写真館に飾ってあった、重じいの「初恋の人」の写真が堀北さんなのです。
50年以上思い続けた、片思いの相手と再共演とは(^^)

あとは、同じくTBSの日曜9時の「おいしいプロポーズ」
「白」と「輪舞曲」と「古畑任三郎」をゴチャ混ぜにしたようなキャスト。
おまけに、長谷川京子さんはシングルマザー、と思ったら、娘ではなく姪っ子と同居しているという設定のようですが・・・
「白」や「輪舞曲」や「古畑」を観ていた方はパロディぽくて楽しいかもしれません。
...2006/04/28(Fri) 00:03 ID:1JcnjBQk    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO

「クロサギ」は「野ブタ」のコンビが再共演してるな・・・という印象はありましたが、そーですか、奥が深いですね・・・堀北さんが「世界の中心〜」に出ていたとは知りませんでした。(「世界」つながりでは、初回ゲストの杉田かおるさんの部下役で「たこ焼きパパさん」が出演してましたよ)
個人的には、刑事が主人公を追い掛け回す構図が「白」に近い印象を持ちました。
堀北さんといえば、「ロッテ」のCMで長澤まさみさんと共演してますね。堀北さんの友人役の市川由衣さんは「ラフ」で長澤さんのライバル役で出演予定とか・・・『タッチ』の南と『H2』のひかりの顔合わせなので個人的に楽しみです。

「おいしいプロポーズ」では、長谷川京子さんがイタリア料理店のシェフ役ですが、誰かさんが投稿中のストーりーでは、ハセキョーさんに似た人がやっぱり料理人(小料理屋のママ)をやっていたと思うのですが・・・この方は先見の明がありますね・・・(^^)
私個人的には、西村雅彦さん(レストランの支配人役)が「ナースあおい」の副院長のキャラとかぶってるように感じました。
...2006/04/28(Fri) 00:27 ID:Zrr84RbA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
またまたドラマネタです。
綾瀬はるかさんが(珍しく)フジテレビのドラマに出演するようですね。
そのドラマは“HERO”
木村拓哉さんが検事役を演じた、あのドラマのスペシャルらしいですね。
綾瀬さんの役どころは分かりませんが「犯人役」でないことを、切に切に願っております(苦笑)

「クロサギ」では、ついに「重じい」と「片思いの人」が再会しましたね(^^)
...2006/04/28(Fri) 22:42 ID:R6NrMCR.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
山田孝之さんがまたまた東野圭吾氏の作品に出演するそうです。『手紙』という映画で、相手役は沢尻エリカさんらしいです。

山田さんと沢尻さんは、7月期のドラマでも共演するとの噂が・・・金曜22時枠「太陽の光にあたれない、難病少女の物語(仮)」がそのドラマらしいですが、タイトル名だけから想像すると「世界の中心〜」「1リットル」「白」を思い起こさせます。果たして内容は??

朔五郎さん、「クロサギ」の中で「重ジイ」の助手をしている女性は「白」で亮司たちに騙された人じゃありませんでしたっけ?今度は騙す側に回ったわけですね。そして、亮司の相棒が「おいしいプロポーズ」では御曹司に『出世』しましたね。

>「クロサギ」では、ついに「重じい」と「片思いの人」が再会しましたね(^^)
先日の書き込みを読んだので、私も意識しながら観ていました。次回はもっと接近するみたいですが、『重じい』がストーカーになるんじゃないかと心配です(苦笑)
...2006/04/28(Fri) 23:39 ID:9EZbGcOc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
>難病少女
う〜む、またかと感じですねー(苦笑)
医学的にみれば、太陽の光(紫外線)に当たると、皮膚がんや角膜潰瘍を発症してしまう「色素性乾皮症」という病気があるので、それじゃないかとも思いますが・・・
石Pが日記の中で言っていた「白の続編」ってこれじゃないですよね(^^;;;

あ、映画「手紙」のほうが「白」の続編ということかもしれませんね。こちらは生野氏がメガホンということなので、植田プロデューサーが関わっている可能性もあり、そうだとすれば石Pの作品とは一味違った作品になると思います。楽しみです(^^)
...2006/04/29(Sat) 04:22 ID:nTxihdgI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>綾瀬さんの役どころが「犯人役」でないことを、切に切に願っております(苦笑)

 まあ,古今東西の悪役を見回してみると,悪役を演じられるのも演技力があるという,言わば一つのステータスですから,そういう役回りになっても不思議ではありませんが,むしろ,被害者役(例えば,ハサミで刺されるとか)でないことを祈っています(^^)。
 これまでの情報では,新中納言知盛(祗園藤二と二役?),鎌倉殿(柳生但馬守と二役?),武田観柳斎,本位田又八,土方歳三の兄という何ともすごい顔触れで,そこに浜路姫がどのように加わっていくのか,楽しみです。

 個人的には産経新聞のウルトラ国粋主義的な論調にはついていけないのでフジテレビはあまり好みではないのですが,たまには他局で仕事をするのは,違った切り口が身について,演技の幅も拡がりますから,いいことですね。ちょうど,「世界」・「あいくるしい」・「白夜行」と続いて,「あの娘は石丸教室の門下生」という色が着きかけてきたことでもありますから,それを払拭するためにも,いい機会だと思います。
 いずれにしても,「五社協定」のような「囲い込み制度」が無くてよかった!(これにピンとくる人は,かなりの映画マニアか還暦以上の方ですかね)
...2006/04/29(Sat) 05:29 ID:KBFUHnhs    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
HEROは、私が中学時代に見てハマったことを覚えております。

当時のキャストが完璧に揃うかどうか分かりませんが、綾瀬さんは、新人・若手事務官として登場していただくのも面白いのではないでしょうか?
...2006/04/29(Sat) 22:51 ID:wQVNAimU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
にわかマニアさん
殺人事件の被害者役では、それで出番が終わってしまいますからね(^^;;;
(ちなみに「殺人事件」が起こるそうです)

たー坊さん
私も事務官がいいと思います。検事役では(年齢的に)ちょっと若い感じかも。
...2006/04/30(Sun) 18:04 ID:vd68W3e6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(33) 世界で一番青い空3

「ほんとに、ウチのバカがとんでもないことをいたしまして・・・申し訳ありませんでした」
翌日の午後、亜紀の入院する病院にやって来た富子は、這いつくばるようにして綾子に謝った。
「も、もちろん治療費はこちらで負担させていただきます・・・それで、あの、とりあえずお詫びということで・・・」
富子は、恐る恐る封筒を差し出した。
「どうぞ、これはお持ち帰りください」
綾子の口から予想外の言葉が発せられるのを聞いて、富子は完全に凍り付いてしまった。治療費さえ受け取らないということは、よほど怒りが深いのだろう。なんとか許してもらわなければ・・・
「あ、あ、もう二度とお嬢さんに近づかないよう、ウチのバカにも、よーく言って聞かせますので・・・どうぞ、どうぞお許しください・・・」
もうほとんど泣き顔になっている富子に、綾子は言った。
「お金は欲しくありません。でも私は、朔くん本人に、お願いしたいことがあるんですよ」
「朔本人に?それは責任を取れと?もしかして、お嬢さん、なにか後遺症でも・・・」
あまりに飛躍した話に、綾子は思わず笑ってしまった。
「あら、申し訳ありません、笑ったりして。ご心配なく。亜紀はもうすっかり元気になって、明日には退院できるそうです・・・ただ・・・」
「ただ・・・?」
「あの子、ちょっと悩んじゃってるみたいなんです」
「と、いいますと、ウチの朔のことがトラウマになっているということでしょうか?顔を合わせればイヤなことを思い出してしまうから、二度と会いたくないと・・・」
「いえいえ」
綾子は笑った。
「そうじゃないんですよ。むしろ逆なんです」
「逆?」
「ええ、ずっと心配してるんですよ。今度のことで朔くんが傷ついてるんじゃないか、気まずくなって、自分から離れて行ってしまうんじゃないかって。あの子、結構悲観的なところがあるものですから・・・」
「そんな・・・お嬢さんにそんなこと言われたら、私どもは、いったいどうすればいいのか」
ただただ恐縮するばかりの富子である。
「朔くんには、そんな娘の気持ち、分かってやって欲しいんです。今までどおり接して欲しい・・・亜紀にとって、朔くんとのお付き合いは、それほど大事なものなんですよ。もちろん、まだ高校生ですから、先のことはどうなるかわかりません。でも、人の一生には、その時にしか経験できないものって、あると思うんです。これから先ずっと続くにせよ、そうでないにせよ、そんな良いお付き合いをしたということは、二人にとって一生の宝物になるような気がするんです」
「・・・はい」
「実は、ついさっき、朔くんが会いに来てくれましてね・・・あ、いえ、修学旅行に必要な書類を届けてくれたんですけど・・・朔くん、謝りながら泣いちゃいましてね、それを見て、亜紀まで泣き出してしまって」
「あ、あのバカ・・・」
微笑みながら綾子は続けた。
「朔くん言ってました。入院代はオレがバイトして返すから・・・どんなことしても、何年かかっても必ず返すからって」
「朔・・・」
「そしたらね、亜紀が言うんですよ。そんなこと気にしなくていいよ、朔ちゃん。世の中には、お金には代えられないものがあるんだよ・・・朔ちゃんは、きっとそれ以上の心を私にくれると信じているからって」
富子はもう、熱いものがこみ上げてくるのを抑えることができなかった。
「お分かりいただけましたか?」
「はい・・・でも」
「でも?」
「ウチのバカみたいのに、亜紀さんみたいな良いお嬢さんを巡り合わせるなんて、仏さん、なんて粋な計らいをしてくれるんだろうって」
「いえ、こちらこそ、そう思ってますよ」
「ありがとうございます。でも、ご主人は怒ってらっしゃるのでは・・・」
「あの人は頑固ですから」
綾子は笑った。
「でも、もう内心諦めているみたいですよ。娘は朔くんに奪われてしまうだろうと」
「それでは、さぞ・・・」
「それがね、面白いんですよ」
綾子の瞳はイタズラっぽく輝いていた。
「あの人、前は、朔くんのことをただうっとうしく思っているだけで、ほとんど無視していたんです。だけど最近、娘の相手として少し意識し始めたみたいですよ」
「そうなんですか」
「それでね、アイツは俺と会ってもロクに挨拶もできない。あれじゃ世の中ではやっていけないんだ。今度来たら厳しく注意してやる、なんて言ってるんですよ」
「お恥ずかしい・・・」
富子は身を縮めた。
「でもね、ホントに嫌いだったら《注意してやる》なんて言うと思います?」
「あ、いえ」
「でしょ?・・・あの人、不器用だけど、不器用なりの愛情表現なんだな、って思って見てるんですよ」
「そのことが分かるでしょうか、ウチの朔に」
綾子はふと遠い目をした。
「分かるんじゃないですか・・・でも、急ぐ必要はないと思うんです。男の人が成長する時って、なにか壁にぶち当たって、撥ね返されて、それが悔しくてまたぶつかって行く・・・そういう過程って必要だと思うんですよ。僭越かも知れませんけど、あの人もそんなふうに考えてるような気がします。そりゃ最愛の娘の相手ですもの、期待もするし、心配もするでしょう」
そして、懐かしげに笑うと、こう続けた。
「あの人だって、私の父に散々叩かれたんですから」
「そういえば、私たち夫婦が出会った頃にも同じようなことがありました」
二人の母は声を立てて笑った。そして、よもやま話は、いつまでもいつまでも続いたのだった。

(続く)

※次回予告 夢見るジュリエット(34) 世界で一番青い空4
...2006/04/30(Sun) 18:06 ID:vd68W3e6    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。

朔がやらかしつつも、綾子がナイスフォローをしていますね。
よくよく考えると、綾子は朔の敵か味方のどちらなんでしょう?判断のつかない状況が多少あるような気がします。
...2006/05/01(Mon) 21:58 ID:4/GtctVs    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さん

このお話では、綾子は「二人の理解者」というスタンスで描いているつもりなのですが(^^;;;
...2006/05/01(Mon) 23:25 ID:9dyuxjxQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
あ、これは失礼致しました。
言葉足らずでもありましたので、言い訳をさせていただくと、綾子の「2人の理解者」というスタンスが、味方の部分。亜紀の側について朔に悪戯を仕掛けるという部分が敵(?)というようなニュアンスでした。極論を言いますと、亜紀の悪戯好きな性格は綾子の遺伝と考えておりますので、ある意味(?)敵のような要素があるような気がしておりますので、そのような表現をさせていただきました。

・・・なにやら、ご理解に苦しむかと思います・・・。スルーしていただいて結構です(苦笑)
...2006/05/01(Mon) 23:52 ID:4/GtctVs    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
また、ドラマネタです(^^)

HEROのなかでの、綾瀬はるかさんの役は「新米検事」だそうです。
それにしても、「白」から見れば180度違う役で「華麗なる転身」というところでしょうか(苦笑)
でも演技とはいえ、罪を犯してしまう人間の心理を経験したことはプラスになるかもしれませんね。
...2006/05/02(Tue) 04:18 ID:whSn2Anw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(34) 世界で一番青い空4

チュン、チュン・・・

楽しげな小鳥のさえずりが聞こえる。
「うーん・・・」
いつものように亜紀は目覚めた。枕元の時計を見ると6時だった。
「ちょっと早いけど・・・起きようかな」
何も変らない朝だったが、今日は特別な日だった。オーストラリアへの修学旅行に出発する日なのである。何となく落ち着かない気持ちが、不思議と心地良かった。
「そうだ・・・」
机の上に置かれた腕時計・・・
(どうしようか・・・)
手に取って、しばらく見つめていた。文字盤の秒針は、まるで亜紀に何かを訴えかけるかのように、動き続けていた。
(行く?あなたも・・・行きたいよね・・・)
ケースに入れたその時計を、亜紀はバッグの中に入れた。

「あら早いわね、亜紀ちゃん」
下に降りて行くと、綾子が笑顔を向けた。
「何となく寝てられなくて・・・」
「うん、わかるわかる。楽しみにしてたもんね」
綾子は自分が修学旅行に行った時のことを思いだしていた。ただ、綾子が修学旅行に行った頃には、慕っていた山口桃子を喪った悲しみがまだ癒えていなかった。
(亜紀ちゃん、あなたは・・・)
それに比べて、亜紀はなんて明るいのだろう。幸いなことに、あの入院騒ぎの後、朔との仲も変らなかったようだ。
「なんか、羨ましいなあ」
「なにが?」
「亜紀ちゃんの、何の翳りもない青春が、よ」
「う、うん」
綾子は知らなかった。ある夏の夜、亜紀が、鏡の中の世界にいる「もう一人の自分」に会いに行ったことを。そして、その少女から「時間」を託されたことを。

「おはよう」
「おはよう、亜紀」
皆は一度教室に集まった。担任の谷田部が入って来る。
「起立・・・礼・・・」
「はい、みんな、昨夜は良く眠れましたか?パスポート忘れてる人、いないよね」
一通りの連絡の後、谷田部の口から予期せぬ言葉が飛び出した。
「はい、静かに。これからクジ引きをします」
「・・・クジ?」
教室がざわめいた。
「先生、なんのクジですか?」
「松山空港までのバスの席順」
「えー」
「適当でいいじゃない・・・」
「ほら、ブウブウ言わない・・・みんな、仲が良いのはとっても良いことなんだけど、いつもいつも同じ相手とばかり一緒にいるのはどんなもんかな。たまには違う相手と話すのも良いことだよ。ほら・・・どうせ空港までなんだから・・・さっさと引いて」
「はーい・・・」
皆は渋々、クジを引いた。

「えーと、前から六番目の左側、と。あ、安浦君」
智世の隣になったのは、学級委員の安浦だった。
「よいしょっと。安浦君、空港までの短い間だけどよろしくね」
「う、うん」
「朔と亜紀とは仲直りできたの?」
「まあ・・・」
「ま、いろいろあったけど、元気出していこうね」
「ああ」

「あ、ここか・・・ああっ、なんでお前がここにいるんだよ」
顕良の相棒は隣のクラスの龍之介であった。
「いいからいいから。オレは自分でクラスを選ぶんだよ」
「なんだよ、まったく」
顕良は割り切れない表情だった。

亜紀は副担任として同行する緒形と一緒になった。
「先生、ご婚約おめでとうございます」
「うん、ありがとう」
緒形は、亜紀の叔母である廣瀬みちると正式に婚約していた。
「リナちゃんとは仲良くしてますか?」
「ああ・・・」
緒形は苦笑いを浮かべた。
「もう、日曜日になると必ず遊びに来て《パパ、パパ》ってまとわりつくんだ。最初は《お父さん》だったけど、いつの間にか《パパ》なった・・・おかげで疲れてても寝てる暇もないんだ」
「大変ですね、それは」
「だけどな可愛いもんだぞ、子供って・・・あ、もちろん嫁さんも良いもんだけどな」
亜紀は苦労を重ねてきた叔母・みちるが本当の幸せを掴んだことを、素直に喜んだ。
「それにしても廣瀬、さっきから後ろばかり気にしてるみたいだけど」
チラリと後ろを見た緒形はすべてを悟って苦笑いした。
「なるほど・・・」

亜紀のすぐ後ろには朔が座っていた。そして、その横にいるのは、顕良の彼女・沢口エリカだった。
エリカは自分から積極的に朔に話しかけていた。それは、付き合っている顕良がいまひとつ不器用なため、デートの時はエリカ自身で仕切らなければならない、という思いがあるからだった。つまり、この機会に男の子が興味を持つ話題を仕入れておこうと考えたのである。そして、その話し声は前の席にいる亜紀の耳にも入ってきた。
「ねえ、松本君は映画とか観る?」
「ああ、結構観るよ」
「どんなのが好きなの?」
「《手紙》とか《天使の卵》とか《パッチギ》とか・・・」
「あ、私も《手紙》は観た・・・」
「出演してる女の子が良い感じだよね」
「うん・・・あれ、でも考えてみたら《手紙》も《天使の卵》も《パッチギ》も出てる女の子同じじゃない」
エリカはニヤリと笑った。
「ふーん、ああいうタイプが好みなんだ」
「べ、別にそういうわけじゃないよ」
「隠さなくてもいいじゃない」
エリカはちょっと口調を変えた。
「顕ちゃんはどうかな・・・やっぱりあんなタイプが好きなのかな・・・」
「顕ちゃんってボウズのこと?ああ、好きなんじゃないの、あんな感じの女の子。そういやエリカに似てるかも」
「やだ・・・でも、うれしい」

この光景に、強烈な刺激を受けている人物がいた。もちろん顕良である。顕良の席からは二人の話の内容を聞き取ることは出来なかった。しかし、話が盛り上がっている雰囲気は十二分に伝わっていた。
「あ、エ、エリカ、そんな接近するなって・・・」
「胸、当たってる?てか・・・」
顕良の耳元で悪魔が囁いた。
「おお、新カップルの誕生か、いいねえフレッシュで」
「あ、ス、スケ、うるせえんだよ、てめえ」
龍之介は、わざとらしく同情したような表情をすると、さらに追い討ちをかけた。
「ああ気の毒だね、おまえさん・・・また正々堂々と持ってかれちまったのか」
「そんなんじゃねえよ・・・ああ、どこか行っちまえよ、この色ボケ魔神」
なにやら不穏な空気が立ち込める中、休憩のため、バスはパーキングエリアに停まった。

※次回予告 夢見るジュリエット(35) 世界で一番青い空5
...2006/05/03(Wed) 19:29 ID:Am.BlgKA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 クラスが違うのに,いつもやってきては足元の窓越しにボウズと話しているスケちゃん。それを見透かしているかのように,私語をしている生徒を注意する時,最後に必ず「大木」と付け加える担任。
 クジで席を決めたバスのはずなのに,ボウズの隣がスケちゃんということは,スケちゃんの分までクジが用意してあったということになりますが,最初から「どうせ,あいつのことだから,やって来るだろう」と見越していたのですね。恐るべし。谷田部・・・
...2006/05/04(Thu) 03:57 ID:qE5v4rOI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
にわかマニアさん

その通りです。谷田部先生は一人分多くクジを作っておいたのです(^^)

朔五郎よりお知らせです。
今回、ブログを開設しました(IDの後の家のマークから入れます)
このスレの「夢見るジュリエット」を掲載していきます。
また別スレの「世界〜2」は、共同制作ですので、朔五郎の一存ではいじれません。が「特別編・ミチルがゆく」については、この後、本スジとは絡まず、あのスレの中に書くと混乱を招くことから、ブログの方に移したいと思っております。
...2006/05/04(Thu) 18:25 ID:bhfrNPYY <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
朔五郎さん

ブログ解説おめでとうございます。
とうとう、ココまで来たか〜!といった感じです。
近々、お邪魔させていただくかもしれません。その時は、よろしくお願いいたします。
...2006/05/04(Thu) 23:29 ID:YUkKD6tI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さん

さっきブログを観てきましたよ。
「夢みるジュリエット」シリーズはお気に入りのストーりーなので、最初からまとめて読めるのが嬉しかったです。

※「HERO」で綾瀬はるかさんは、新米検事役ですか・・・「赤い運命」では検事の卵(玉木宏さん)と“恋仲”になるので、そこからつながってるのでしょうか(^^)
※「富豪刑事」の深田恭子さんが可愛らしいです。どことなく綾瀬はるかさんと風貌が似ているような気がするのですが、気のせいでしょうか。ちなみに番組中のCM(パンテーン)に綾瀬はるかさんが出ています。
※「純情きらり」のヒロイン(宮崎あおいさん)のすぐ上の姉(井川遥さん)の名前が『モモコ』なんですね。父親役は『廣瀬真』じゃなかった、三浦友和さんなので、『ジュリエット』シリーズを思い出しました。
...2006/05/05(Fri) 23:11 ID:xx8RUORw    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さん
ありがとうございます。いつでも遊びに来てくださいね(^^)

SATOさん
ご来訪ありがとうございます。
「富豪刑事」は私も大好きです。あれはハマリ役ですよね(^^)
...2006/05/06(Sat) 02:21 ID:s/A2MNzI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。
いつのまにか、かなり下に下がってまいりましたので、お節介ですが上にあげておきますね。
...2006/05/14(Sun) 22:02 ID:Y.JyDB5A    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
なかなか新作が出せず、申し訳ありません。
...2006/05/18(Thu) 00:46 ID:i/DIPMY6 <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れさまです。
どうかお気になさらず、のんびりと執筆なさってください。
...2006/05/19(Fri) 23:43 ID:Geplekg2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(35) 世界で一番青い空5


バスを降りた朔とエリカを、秋の陽差しが優しく包んだ。
「うーん、気持ちイイ・・・私、太陽って大好き」
エリカの白い肌に、光の粒子が弾けていた。
「でもさ、オーストラリアは夏に向かうところだからね。紫外線キツイよ、きっと」
「大丈夫。私、小さい頃からUVには強くて、あんまり日に焼けないんだ・・・」
「他の女子が聞いたら羨ましがるよ・・・」
「そうかな。あ、ちょっとお手洗いに行って来るね」
「うん」
エリカが離れて行くのを待っていたかのように、亜紀が近づいて来た。朔の背後に近づき、トントンと肩を叩く。朔は思わず振り向いた。
「あ・・・(やられた)」
「フフッ、朔ちゃん」
「・・・亜紀」
「あ、あの・・・」
「ん、どしたの?」
「あ、その、朔ちゃん元気かな、と思って・・・」
「はあ?」
朔は不思議そうな顔をした。
「だって、すぐ前にいたんだから、元気に話をしていたのくらい分かるでしょ」
「朔ちゃん・・・」
「だから、なに?」
「もう・・・なんであんなにエリカと仲良くするの?」
「あ・・・」
朔はやっと気が付いた。
「ごめん」
「私、ずっと、後ろの席の話、聞いてたんだよ・・・」
「ごめん・・・」
うろたえながら朔が言い訳する。
「エリカが、ボウズとのことで相談に乗って欲しいって言うから・・・」
「エリカの悩みの方が大事なの?」
「・・・」
「浮気とかしてない?」
「・・・してねえよ」
「ふん、どうだかね」
いつの間にか智世が傍に立っていた。
「いかにもエリカを気遣うような振りしてさ」
「フリ?」
さすがにムッとした様子のサクに、智世は追い討ちをかけた。
「分かってたんでしょ?あー、前で聞いてるわって。分かっててデレデレしてたんでしょ?」
「そんなことねえよ」
「やりたい放題やって、ええっ?・・・自分が一番カッコイイって?」
そして呆れ果てたというように、トドメを刺した。
「フッ・・・正義の味方は、大威張りだね」
「俺の気持ちなんか・・・」
「ほら、エリカのためじゃなくて、あんた、自己満足してるだけじゃない」
「智世、やめて、やめてって・・・」
亜紀はたまらず止めに入った。そんな亜紀を押しのけて智世は続けた。
「どうして、わかってやる事一つ出来ない、えっ?」
そして智世は、亜紀を朔の目の前に押し出した。
「どうして、恋する女の子の願い一つ叶えてやれないんだよ!」
「・・・」
「情けないなあ・・・」
言葉も無くうなだれる朔を残し、智世は去って行った。
「朔ちゃん・・・」
亜紀の声が聞こえる。
「気にしないで・・・私の朔ちゃんへの気持ちは変らないから」
ひび割れて、ボロボロになった朔の心にその声は沁み込んでいった。そして朔は、この声のためなら、何でもしようと思った。

そんな場面を、少し離れたところから、龍之介と顕良が見ていた。
「おお、やるねえ智世・・・」
そう言いながら、龍之介は顕良の脇にしゃがみこんだ。
「なんだ、おまえさん。顔色悪いな」
そう言いながら、龍之介は顕良のたこ焼きを一個つまんだ。
「あ、てめえ、人のもん食うなよ」
「ケチ臭いこと言ってるから、二度も持ってかれるんだよ、おまえさん」
「う、うっせえな、色ボケ魔人・・・違うって言ってるだろ」
そんな顕良に、ニヤリと笑いながら龍之介は言った。
「じゃ、そういうことで」

(雨降って地固まる、か)
谷田部は心の中で呟いていた。
(ま、これからも仲良くしなさい・・・)
みんなを乗せたバスは無事に松山空港に到着した。そして・・・

龍之介は智世と
顕良はエリカと
そして、朔は亜紀と

ごく自然に、いつものポジションに戻ったのである。

※次回予告 夢見るジュリエット(36) 世界で一番青い空6
...2006/05/30(Tue) 00:21 ID:vd68W3e6 <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
 サク父のセリフを誰に転用するのかも密かな見所だったのですが,まさか,ここで智世に言わせるとは,全く意表を衝かれました。
...2006/05/30(Tue) 00:30 ID:2xj6JS7s    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
智世がサクにきつい言葉を浴びせましたが、『シャンとしろ!』という激励にも受け取れましたね。幼馴染ということもあるのか、智世からサクへの友情が感じられました。
...2006/06/03(Sat) 23:45 ID:t0.gcWHI    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
そのとおりです(^^)智世から朔と亜紀への辛口の激励です・・・

なかなかUPできなくて申し訳ありません(汗)
...2006/06/04(Sun) 04:58 ID:bhfrNPYY <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
夢見るジュリエット(36) 世界で一番青い空6


愛媛県の玄関口、松山空港。これから旅立つ人。今、愛媛に降り立った人。さまざまな思いや夢、そしてもしかしたら悲しみがすれ違って行く・・・数多くの話し声や靴の音を聞きながら、亜紀はそんなことを思っていた。
「亜紀、おい亜紀」
「あ、朔ちゃん・・・」
「なに、ボーッとして」
「え・・・」
「もしかして、ホームシック? すでに感傷的になってるとか・・・」
「そんなことないよ」
なんだろう、この感覚は。亜紀はとまどいを感じていた。
楽しみにしていた。ずっと楽しみにしていた・・・現にとても楽しい気持ちだ。だけど、だけど何か引っかかるものがある。
谷田部の、良く通る声が聞こえてくる。
「はい、二十分後にこの場所に集合。それまでに用事は済ませておくこと。わかった?」
「はーい」
「じゃ、解散」
亜紀は喉がカラカラに渇いていた。朔に声を掛けてみる。
「ね、朔ちゃん、何か飲む?」
「そうだな・・・」
「じゃ、私買ってくるからここで待ってて」
「オレも行こうか?」
「ううん、大丈夫」
亜紀は笑いながら言った。
「コーラでいいんでしょ?」
「ああ」

亜紀は売店に足を運ぶと、冷蔵ケースの中からコーラとピカリスエットを取り出し、レジに向かった。そして、手にしたポーチの中から財布を取り出した時、一緒に入っていたパスポートがスルリと抜け出し、床に落ちた。それに気付かぬまま、亜紀は支払いを済ませて、その場を離れようとした。

トン、トン・・・

誰かが亜紀の肩を叩いた。足早に朔のところに戻ろうとしていた亜紀は思わず歩を止めた。
(もう、朔ちゃんたら・・・あそこで待っててって言ったのに)
いつものイタズラをやり返されたと思った亜紀は、叩かれた右肩とは逆の方向に振り向いた。
「引っかからないよ・・・あれ・・・」
そこには誰もいなかった。一瞬きょとんとした亜紀だったが、次の瞬間、背筋が凍りついた。少し離れた床の上にパスポートが落ちている。
「わあっ」
慌てて駆け寄り、拾い上げる。それが自分のものであることを確認し、亜紀は大きく息をついた。
(あぶなかった・・・)
「ちょっと廣瀬、なにやってるの」
谷田部の声が聞こえた。
「あ、先生」
「何か拾うのを見たから・・・それ、パスポートじゃない」
「は、はい」
「あんた、パスポートがどんなに大事か分かってるんでしょうね。それを失くしたら、もう旅行は終わり。どんなに泣いてもさけんでも、たすけてやることはできないんだよ」
「すみません」
亜紀は素直に頭を下げた。
「ま、気を付けなさい。財布なんかと一緒にしてちゃダメだよ」
「はい。先生、落としたことを教えていただいて、ありがとうございました」
「え、私は・・・」
「先生、本当にありがとうございました。じゃ、戻ります」
「廣瀬・・・」

亜紀は朔のところへ戻ってきた。
「はい、コーラ」
「サンキュ・・・そうだ、なに怒られてたの?」
「見てたの?」
「うん、偶然ね。遠くて何を言ってるのかは分からなかったけど」
「実はね・・・」
亜紀は先程の出来事を話して聞かせた。
「ええっ、パスポートかよ」
「うん」
「お、おい亜紀、どうしたんだよ。さっきだって、ぼーっとしてたし、亜紀らしくないよ。
なにかあったの?」
「別に・・・」
「まあ、気付いたから良かったけど」
「先生が肩を叩いて教えてくれたの」
「亜紀、それは違うよ」
「違うって?」
「だって先生はずっとこのあたりにいて、亜紀が慌てて何かを拾い上げるのを見て近寄って行ったんだぜ」
「え?」
亜紀は不思議そうな顔になる。
「じゃ、誰が教えてくれたんだろう」
「きっと通りすがりの親切な人じゃない?」
「そっか・・・でも、ちゃんとお礼を言いたかったな。女の人のような気がするな、今から思うと。だって、指とか細い感じだったし、それに」
「それに?」
「ちょっと弱々しい感じがした」
「案外さ」
朔は冗談っぽく笑った。
「神様だか妖精だかが、たすけてくれたのかもよ。世界で一番青い空を、亜紀が見られますようにって」
「また・・・」
「その神様か妖精は、きっと、こんなことも思ってるよ。オレと亜紀がいつまでも、いつまでも仲良くいられるようにって」
「どうして?」
亜紀の耳元で、朔は小声で言った。
「・・・オレと亜紀のDNAを残すため」
亜紀はパッと赤くなり、うろたえながら言った。
「ちょ、ちょっと朔ちゃん、変なこと言わないでよ。最近、性格変ったんじゃない?」
「全然」
「もう」
口では怒りながら、朔のことを、今までより身近に感じる亜紀だった。

亜紀たちを乗せた、羽田行き全日空機は、松山空港を離陸した。窓際の席に座った亜紀は、ケースから腕時計を取り出した。あの夜、鏡の向こうの世界で「もう一人の自分」から手渡されたその時計。その針は、彼女から託された時間を刻み続けていた。
(ね、さっき、危なかったの。あなたを連れて行ってあげられなくなるところだった。これから気を付けるからね・・・無事にウルルまで行けるように応援してね)
窓から差し込む光に、文字盤のガラスがキラリと光った。亜紀の思いに答えるように。

(続く)

※次回予告 夢見るジュリエット(37) 世界で一番青い空7
...2006/06/04(Sun) 19:16 ID:gsR32xGo <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
亜紀の肩をたたいたのは鏡の向こうの世界の『もう一人の自分』だったのでしょうか?

※昨晩、亜紀が赤いホタルの導きで鏡の中に入り、あちらで『もう一人の自分』と会う話を読み返したのですが、恐くてトイレに行けなくなってしまいましたよ・・・(苦笑)
...2006/06/10(Sat) 22:45 ID:2Brsh8Jo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
>亜紀の肩をたたいたのは鏡の向こうの世界の『もう一人の自分』だったのでしょうか?

たぶん、そうだと思います。
イメージとしては、ドラマで決行当日の朝、朔が亜紀の病室にやってきた時、亜紀が肩を叩きました。でも指は立てませんでしたよね。あんな感じです。
...2006/06/11(Sun) 01:38 ID:TLgiFv1g <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
お疲れ様です。

朔の鈍感さには少々呆れたと言いますか、「そこ気付けよ!」と突っ込んでしまいました。

なんとか無事に松山を離陸したようですから、間違いなく全員をウルルに届けてあげてください。
...2006/06/13(Tue) 18:23 ID:Ld4vJI0U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:たー坊
気が付けばここまで・・・。
上にあげますね。
...2006/07/03(Mon) 02:13 ID:t1r7zoFQ    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
たー坊さん
ありがとうございました。

ところでみなさん、HEROはご覧になりましたか?
綾瀬さんがノビノビとしているのが微笑ましかったです。全体的にコメディタッチで進行し、要所を締めるというのは、なかなか効果的だと思いました。

が、

「妻の願いで、遺灰を海に撒いた」

というオチには、かなり引いてしまいましたが(苦笑)
...2006/07/04(Tue) 02:33 ID:gsR32xGo <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
>HERO
綾瀬はるかさんが演じる泉谷検事は最初は東京志向でまるでやる気なし、ところが次第に仕事の自覚に目覚ていくさわやかなキャラでしたね。(防波堤でタバコの吸殻を発見できてお手柄でした)
綾瀬さんの次回作は新人○○の成長物語にしてもらいたいなと思いました。となるとFTVの火曜9時枠でしょうか(^^)
...2006/07/04(Tue) 21:28 ID:iArl0ps2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん
タバコの吸殻かと思ってつかんだら、フナムシだった、というオチでなくて良かったです(^^;;;
ところで、あのエンディングからみると、連ドラ化が濃厚だと思います。しかも、下関出身の代議士との闘いとなると、レギュラーとはいかないまでも、綾瀬さんの出番はありそうですが………
というわけで、私は「月9」と予想します(^^)
...2006/07/04(Tue) 23:15 ID:ckzYHrgY <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>下関出身の代議士との闘い

 山口県と言えば,岸・佐藤兄弟の選挙区が田布施でしたが,兄の方の後継者のAさんは下関でしたね。「官○長官」ともなると政権の中枢ですから,それとの対決ということは,ひょっとして松本清張の世界になっていくのかも・・・
...2006/07/05(Wed) 01:01 ID:SMTVvO7.    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
さて ドラマ「タイヨウのうた」は、第3話になって、だいぶ盛り上がってきましたね   (^^)

※楽しいことの後には、悲しいことが起こる
※生きることに執着していないように装いながら、内心、やっぱり 「生きたい」 と思っている

など 「あのドラマ」との共通点も見られてなかなか興味深いと思います (^^)

視聴率という数字は、視聴者にとっては、ほとんど重要性はありませんが、制作スタッフや局の営業担当の方々にとっては、それなりに重いものでしょうから、ここでも少し盛り上げてみようかと思います。

佐藤めぐみさんが目立っていますね。たしか舞台版「世界の〜」でも似たような雰囲気だった記憶が………
やっぱり、ああいう元気いっぱいのキャラが持ち味なのでしょうね(^^)
...2006/07/29(Sat) 11:31 ID:/GCuznag <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
朔五郎さん

しばらくです。
「タイヨウのうた」に出てくる佐藤めぐみさん=美咲は本当に薫を思っているんだなと感じました。
親友のピンチにパニックになるところは第三者にとっては『おいおい、もっと落ち着けよ』となるのでしょうか、当事者にとってはいてもたってもいられない気持ちがよく出ていたと思います。事情を知らない仲間や遊園地の職員との温度差もよく表現されてるな、と思いました。

ドラマ化された「純愛三部作」では、主人公を見守る友人も丁寧に描かれていますね。
『世界の中心〜』の智世
『いま、会いにゆきます』の万里子
そして、『タイヨウのうた』の美咲
ですね

前二作では智世や万里子に感情移入してしまった状態でして、今回もそうなるのかなーと楽しみにしています(苦笑)
...2006/07/29(Sat) 12:50 ID:xRhYX36c    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
SATOさん

私自身は、智世や万理子も好きでしたが、それ以上に美咲が好きかも知れません。
佐藤めぐみさんも、最近はホラーが多かったのですが、やはりこういう役回りがよく似合いますね(^^)

それにしても、あの遊園地の職員、よく確認もせずに電源を落としてしまい、その後の対応も誠意がない、というのでは 「万が一」 の時は訴訟を起こされても仕方ないところでしょうね (怒)
...2006/07/30(Sun) 11:02 ID:cUleQBwU <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
金曜夜は「レガッタ」「タイヨウのうた」を続けて観ていますが、どちらも2回目あたりでリタイヤしなくてよかったと思っています。
どちらも初めの頃はゴチャゴチャした印象でしたが、「レガッタ」はスポ根と恋愛ドラマのバランスが良くなってきましたし、「タイヨウのうた」は薫と孝治がストーりーの軸としてはまってきた感じです。視聴率的にはどちらも苦戦しているようですが、これからも楽しみに観ます。

綾瀬はるかさんが10月期のドラマにヒロイン役で出演する噂があります。
日テレの土9『たったひとつの恋』で相手役は亀梨和也クンとか・・・町工場の息子とお金持ちのお嬢様のラブストーりーだそうです。いま放送中の『マイボス・マイヒーロー』同様、奇想天外な楽しいドラマを期待しています(^^)
...2006/08/05(Sat) 00:21 ID:AZYqQ8Yo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
>たったひとつの恋
どうやら、脚本は北川悦吏子さんのようなので、甘〜いラブストーリーになりそうですね(^^;;;
これが実現すればの話ですが

NTV
綾瀬はるか&志田未来、つまり「雨鱒の川」コンビが、同クールで競演

NTV,NHK
綾瀬はるか VS 三浦友和、つまり「亜紀」と「亜紀パパ」が土9で激突!

NTV,TBS
綾瀬はるか VS 長澤まさみ、つまり「廣瀬亜紀」と「広瀬亜紀」が同クールで対決!!

と、なかなか興味深い組み合わせですね(^^)
...2006/08/05(Sat) 03:44 ID:i75Gqpho <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
ドラマ「タイヨウのうた」の 「ゴレンジャー」については、さまざま感想・意見が寄せられているようです。
XP患者の関係者の方の意見もあったと聞きました。

ところで、白血病やガンの治療で髪を失ってしまうことについては、最近は「医療用カツラ」のラインナップが非常に充実しております。
むしろ積極的に「オシャレ」として楽しむ、という前向きな方もいると聞きました。

「ゴレンジャー」のように漫画チックなのがどうかは難しいところだとは思いますが、それを着用する人の精神的抵抗感を少しでも軽くしてあげるという発想自体は悪くなかったと、私は思います。
...2006/08/06(Sun) 12:18 ID:fW13KZ8M <URL>   

             こぼれ話2題  Name:にわかマニア
(宇和島)
 お正月に八犬伝と重なる時間帯で放映された「君の知らないところで世界は動く」が昨8月12日夜,NHKの衛星第2で再放送されました。脚本・映像ともによかったのですが,75分というのは厳しいですね。
 もちろん,「あの喫茶店」も登場しました。3月に訪ねた時の感じでは,片山さんが作中人物の口を通じてこき下ろすほど「不味いコーヒー」ではありませんでしたが・・・

(下 関)
 HEROの次回作の敵役かどうかは判りませんが,このお盆休みに下関に「お国入り」した某代議士の集会で,BGMとして第4話でサクが自転車をこぎながら口ずさんでいた曲が流れていました。
...2006/08/13(Sun) 12:39 ID:XF4SqtCA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
ドラマ「タイヨウのうた」
なんだか 「白夜」のニオイが、ちょっとしましたねえ(^^;;;
「白夜」の時は、田中圭クンに強請られたのでしたっけ?
あと、施設で育って、いいところの養女におさまったとか………
もうそろそろ、サイドストーリーは整理して、孝治と薫のことをじっくり見せてもらいたいところですが………
...2006/08/19(Sat) 01:38 ID:ScFjZyHs <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
↑私も同感です。
薫に「別れ」を告げてうつろな目で遠くを見る表情が『亮司』でしたね。少年院に入った原因は麻美を守るためだったようですので、これも『白』に重なるかと・・・(苦笑)

※『世界の中心〜』最終回の半ばで受験勉強に励む朔がふと亜紀の灰が入った小瓶を見つめる場面があるのですが、その目つきが何と言ったらいいか、物凄く危ないんですよ。このとき、山田クンの目の演技の巧みさを目の当たりにしました。亮司や孝治の翳りのある表情はこの場面が原点なのでは?
...2006/08/20(Sun) 21:43 ID:8kp3Phlg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
↑同感です。
 「世界・・・」の終盤,空港のロビーで倒れてサクに抱えられた時の亜紀の眼といい,セットのカーテンレールを壊す直前や,小瓶を見つめてカセットを押入れにしまう時のサクの目つきといい,何とも眼の演技のすごい2人を主人公に持ってきたものだと感じました。
...2006/08/21(Mon) 04:42 ID:cinvMtRY    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:朔五郎
>目の演技
山田さんの「実力」については全く同感です。
ですが問題は、その翳りが「タイヨウのうた」というドラマにマッチしているかということだと思います(^^;;;
...2006/08/21(Mon) 20:00 ID:ldvdBDoM <URL>   

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
10月期の火曜フジテレビは9時枠・10時枠とも『世界の中心〜』ゆかりのキャストが出演します。
9時『役者魂』には森山未來クンが、10時『僕の歩く道』には本仮屋ユイカさんがキャスティングされています。火曜9時は『ウォーターボーイズ』の枠だったので、森山クンは古巣に帰ってきた感じですね。ユイカさんは『ファイト』以来、久しぶりにドラマでお目にかかれますね。と思いきや、先日仕事で某信用組合へ行ったら、その信組のイメージキャラになっていたようで、彼女のポスターが窓口に貼ってありました。制服姿が中々似合っていましたよ。
...2006/08/26(Sat) 23:54 ID:oXDujeR2    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
かねて噂のあった「たった1つの恋」が本決まりになったそうです。また、綾瀬はるかさんにお目にかかれるので、とりあえずホッとしました。


>NTV
>綾瀬はるか&志田未来、つまり「雨鱒の川」コンビが、同クールで競演
いま思えば、昨年の今頃やっていた『女王の教室』では綾瀬はるかさんの少女時代を演じた子役二人がクラスメートだったんですね・・・え、もう一人はって?「やったのは、私だよ」のあの娘ですよ(^^)
...2006/08/27(Sun) 22:18 ID:FP3HYT1o    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:にわかマニア
>かねて噂のあった「たった1つの恋」が本決まりに

 噂が出ては「ガセネタ」説が流れるという繰り返しで,なかなかやきもきさせられましたが,「予想どおり」24時間テレビでの発表となりましたね。
 「数字がとれる」とか「華やかさ」が注目される北川さんですが,登場人物に対する視点など,丁寧で暖か味を感じさせる構成をされる方なので,非常に期待しています。これまで,本人の病気→家族の病気→暗い過去といった路線できていただけに,今回は「明るさ」を前面に出して,今までとは違った面を見せて欲しいものです。
 今後については,数字よりも「存在感」を感じさせるような,石丸さんの言葉をもじって言えば「記録よりも記憶に残る」本格派の俳優を目指し,芸術祭参加の文芸超大作にも挑戦して欲しいと願っています。
...2006/08/29(Tue) 12:20 ID:O1GNE53U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
「タイヨウのうた」が終わりました。途中でゴチャゴチャした感じが多々しましたが、最終回は良かったのではないかと思います。一視聴者としては、薫と孝治中心の話が観たかったので、スッキリした感じでまとめた最終回は私の中では◎でした。ヒロインの死は避けられませんでしたが、あまり重々しくなく、孝治をはじめとする残された人たちが前向きに歩き出すラストは好感が持てました。何か、映画と同じ感じになっちゃったかな・・・とは思いましたが。
沢尻&山田コンビは今度は映画「手紙」で再共演しますね。公開を楽しみに待っています。

10月期は「満を持して」綾瀬はるかさん・長澤まさみさんが登板しますので、こちらも楽しみです。
...2006/09/16(Sat) 07:55 ID:oXooBiXg    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:Apo.
タイヨウのうたを見たら連想してしまい、また書きたくなりました。



思い出編4
(綾子)

67

そろそろ夜が明けそうな時刻、真はベットで横になっていた。
隣のベットにいる綾子も寝付かれないでいるような気がする。いつもの寝息をたてていないからだ。
二人とも、眠りにつけないまま夜を過ごしていた。
理由は簡単。亜紀が初めて父親に反抗したうえ、朝方、家を抜け出したことに気がついたためだった。

真がやっと眠りにつきかけたとき、亜紀の部屋のほうから物音がする。「…ん、まだ怒っているのかな? …部屋の空気を入れ替えているのかな?最近、夜遅くまで頑張るなー」と、不安と満足気に顔を崩しかけたとき、『ズズズー』と擦るような物音のあと『ドン』と鈍い音が続いた。
「こ、これは、亜紀が二階から飛び降りたんだ」と理解する数秒間、身体が凍りついてしまった。それに話し声もしたような…。
綾子はとうの昔から、夜、亜紀が部屋を抜け出していることを知っていた。
真が今日、ついに亜紀と衝突しまい、それに亜紀の行動に気がついたようなので何と切り出そうかと考えるうち眠れないで状態が続いていたのだった。


綾子がそれに気がついたのは、そう、亜紀が宮浦高校に入学して数日が立ってからのことだった。食事の支度を終え玄関に新聞をとりにドアをあけたときのこと。
「おはようございます。はい、廣瀬さん、新聞です」と、亜紀がニコニコして新聞を持って立っていたからだ。何がどうなったのか分からず目を丸くしていると、「ウフ、ビックリした?」と笑った。
「亜紀ちゃん、ビックリしたも何も…。驚くわよ! どうやって外へ出たのよ…?」
「お母さん。ごめんね。ちょっとね、早朝ランニングしてきたの。一汗かいたらお腹空いちゃった。朝ごはん出来てるんでしょう? ね、ご飯にしよ。目玉焼き食べたいなー」、そう言って入ってくる。
それを制して、二階の方に目をやり、亜紀の腕を引いて外へ出た。
「どうやって、外へ出たのよ? お父さんに知られたら大変よ!」
「ヘヘヘ。とうとうバレちゃったか。…て、言うか、お母さんには分かってもらいたくて」
「分かっていたわよ。二階から降りた気配がないのに、食卓についていることがあったから。あれは先週のことだわ…」
「そう、今日で3回目。週1回のペースかな?家を抜け出すのは」
「どうやって、抜け出していたの?…どうやって?入って…」
「お父さんには黙って、いてね!」と、亜紀は真剣な目をしている。
「訳を言いなさい。訳を…。亜紀ちゃんのこと、信用しているけど。お母さんだって理解できないことだってあるのよ。女の子だし、無茶を仕出かすような娘には…」
続きの言葉を制止ながら、「あのね、早朝ランニングをしながら、宮浦の街をね探検しているの。大体の町並みが分かったわよ。とってもステキなところね、宮浦ってサ」
「どうやって…?」
「寝る前にね、靴を準備しておいて二階から抜け出すの。それで、お母さんが新聞を取りに玄関を開けるでしょう。そうしたらそっと中へ入るの。だって、朝開けたら、玄関の鍵、閉めないでしょ!」
「それだったら、ちゃんと玄関から出ればいいじゃないの。わざわざ、泥棒みたいなことしなくたって」
「えへ。そしたら、お母さんも一緒に早起きしないといけないでしょ。お父さんに知られてしまうし…。ゼッタイに反対されるもん。夜抜け出しているのが分かったら、『女の子がハシタナイ真似をするもんじゃない!』と一括されて、部屋に閉じ込められるかも…。いや、部屋の外に鍵をかけるかも…」
「それは、言いすぎですよ!娘を監禁するなんて…。いくら、お父さんでも……。…あるかも?」
「でしょう!でしょう!それに、気分がね。…なんて言うか、スッキリするの。スリルがあってワクワクするもん。病みつきになりそうなくらい…」
「…しょうがないわね。お父さんにバレないようにね。これだけは約束して! 無茶はしないって」
「はい。ありがと。…お母さんなら解かってくれるって…」
「さあ、急いで、朝ごはん食べてしまいましょう。お父さんが感づくわよ」
亜紀の背中を押しながら玄関に入っていった。


亜紀ちゃんの気持ちが何となく理解することが出来る。
これまで何度か転校させてきて、親友と呼べる友達も出来ていないみたいだし、まして、幼馴染なんて…。やっと宮浦に落ち着く場所が決って新しい生活が始まったばかり。中学3年の途中から始まった宮浦の生活。
亜紀ちゃんは高校生活が始まってから、急に活発になったような気がする。それまで一人で出歩くことなんてなかった。1ヶ月前とは別人みたい。幼かったころは明るくて、活発で好奇心旺盛だった娘が、優等生みたいに振舞うようになったのは、いつからだろうか。そう、転校を繰り返すうちにそんな態度をとるようになったんだ。

これもあの男子を見つけたためかしら? …

一人っ子の亜紀ちゃんは女の子の性格と男っぽい性格を器用に使い分けているみたいだったわ。父親と接するとき、わざと男の子がするような言葉使いをして「親父(おやじ)さん、運動不足だぞ。キャッチボールでもしようか?」などと誘い出すことがあった…、そう、小学のころだった。女の子の身体つきなったころは陸上を始め、運動好きな娘を演じていたわね。それが、いつのまにか本格的になってしまって、…最初のころは父親をジョキングに誘い出すのが目的だったように思うわ。
運動から戻ってきたとき、「お母さん、ほら。腰が引き締まったよ。モデルになれるかなー」って、今度は女の子を演じてもいた。
それが今回は、街の探検だなんて言って、夜に家を抜け出している。
何かの目的があってのことかしら? …あ、あの男子?
しばらく様子をみることにしましょう。亜紀ちゃんが無茶をするとは思えないし、今までは必ず訳を話してくれたから信用しても大丈夫よね。
「亜紀ちゃん。信じているからね」と、心に語りかけて亜紀の背中を押した。


続く
...2006/09/18(Mon) 19:01 ID:Qeu9/NxU    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:Apo.
68


高窓からの木漏れ日が食卓の一部を照らし、その反射光がリビング兼食堂をキラキラと輝かしていた。暖かくなった春の光とともに、小鳥のさえずりが揺れるカーテンの隙間から侵入してくる。チラチラ、カーテン越しの光の波が床板の上で揺らぎ、初夏を思わせるような清々しい朝だった。
つけっぱなしのテレビからは、『平年より5度高い気温になる模様だ』と告げていた。
真の食卓には亜紀が取ってきた新聞が置かれ、挟まれていた広告は綾子の席に置いてあった。テレビのスイッチを入れることと、新聞と広告を分けて置くこと、これは幼いころから亜紀にとって、朝の習慣となっていた。
亜紀は顔を洗い、食卓につきゆっくり吟味して箸を運んでいた。そのとき、眩しそうに片手で目を覆い、欠伸をしながら真が2階から降りてきた。
「おーはーよー…」一段一段降りながら、「亜―紀。今日は…ン…早いなー」と、欠伸の合間に発せられた。
食事を中断して、早口で、
「おはよう、お父さん。ほら、外、いい天気だよ。こんな日は早起きしないとね。もったいないじゃない」
「何がもったいないんだ?」、首を左右に傾け、「天気が、かい?」、と言うのと同時に、バシッと新聞を広げた。
真の食事を運んできた綾子は、「亜紀ちゃんね。早起きして、手伝ってくれたのよ」、と盆から移しながら、「はい、これ。亜紀ちゃんが作った目玉焼き」と白い皿を突き出した。
新聞をサッと左側にずらし、「えー。初めてだな。亜紀が作った朝食を食べられるなんて。これは、美味そうだ」とビックリしたようで、そして満足顔がにじみ出ていた。
亜紀はその様子を上目使いに見ていた。口に運ぶ箸が一瞬停止したようだった。
勘のいい真に気がつかれないよう話しを変えて、亜紀が朝食を手伝うために早起きしたことにした。
亜紀は綾子の顔を見て、口パクで「ありがとう」と言った。
これからは、亜紀ちゃんが部屋を抜け出した朝は目玉焼きを作らなければならないと、綾子は心に決めた。「でも、うまく、ヘタクソに作れるかしら?」
それは、亜紀が高校に入学したころ、朝の出来事だった。



真は後悔していた。
これまで亜紀には正義感のある父親像を示そうとしていたのに…、興奮のあまり亜紀のテープを勝手に捨ててしまったからだ。亜紀が幼いころからそう努力してきた。
「お父さんって、ステキね。お仕事頑張っていて、尊敬しているの。お父さんみたいな人のお嫁さんになるの」と言ったとき、「じゃ、亜紀も頑張って勉強しなくちゃね。お父さんみたいな人に好かれるために…」と言った。
亜紀はニッコリ笑って、「うん。頑張る。約束するね」って。
その前は、『お父さんのお嫁さんになる』って言っていたのが、お嫁さんとお母さんが同じだと分かってとき泣き出したんだった。
今日はとても悪いことをしてしまった。
あの日、トイレに行ったとき、亜紀の部屋から話し声がしたんだ。ラジオの声かな? とも思ったけど、娘の声を間違えるはずはない。あれは誰かに話しかける声だった。とっても嬉しそうな感じで…。
綾子や亜紀が何を言おうとも耳に残った亜紀の弾むような声、長年聞いてきた娘のウキウキした声なんだ。間違うわけが無いじゃないか。
それから、寝言じゃないかとも思ったけど、部屋から物音がするから亜紀は起きていたと思う。
それで、気になって気になって…、『あの声はテープに吹き込んでいるんじゃないか』ってそう気がついたら、仕事が手につかないくらいだった。だから、早めに仕事を切り上げ、亜紀の部屋でテープを見つけたときはショックだった。…聞かなければ良かった。
こっそり娘の部屋に侵入して、大切にしているものを取り上げるなんて、正義感のある父親像が…壊れてしまう。情けない。綾子に先に相談すべきだったなー。
「私、いつまで頑張ればいいの」って亜紀から言われたのは…ショックだ。
『頑張っていたら彼氏が出来たから、もう頑張らなくっても構わない』って、…そう宣言したのか?『お父さんみたいな人、…お父さんよりもっとステキな人を見つけたから…』って。

真は決心して起き上がり、ベットに座って綾子を見ると、肩のあたりがピクっと動いた。
やっぱり綾子は眠れず起きていたんだ。亜紀が部屋を抜け出したことを気にして…きっと、そうなんだ。そして、ゆっくりと話しかけた。
「綾子。…起きているんだろ?…少し、…話をしないか?」
やっぱり、主人は気がついたんだわ。亜紀ちゃんが抜け出したこと。でも、何か悲しそうな声。少し震えている。
「はい、あなた。…眠れないようですね」と起き上がった。
「あのなー。亜紀がな…」
「ちょっと待ってください。私も話したいことがあります。リビングで…、お茶でも。準備が出来ましたらお呼びしますから」と、ガウンを肩に掛け、ベットを後にした。
トイレを済まし、顔を洗って少し残った眠気を追い払った。鏡を見ながら両手で顔をパンパンと叩いて気を引き締めてからキッチンへと向う。
お茶の支度が出来あがったので真を呼びに上がった。

物音一つしない。
深々としていて、真夏が近づいているのに、少し肌寒く感じるのは緊張しているせいだろうか。
席につく真の肩がうな垂れていた。
「何から話していいのやら…。亜紀に悪いことしてしまったって…。ズッーと疑問に思っていて、仕事どころじゃなかったよ」
目が釣りあがって、少し焦燥している。「聞かなきゃよかった。テープ。…衝動的に捨てちゃって…」
「分かっていますよ。私もあなたに悪いことしていましたから」と、落ちついた様を装った。
「な、な…。それって、どういうことだ?」
「…あなたは亜紀の部屋に入ってテープを捨ててしまったから、亜紀ちゃんが反抗して家を抜け出したんじゃないかって。家出じゃないかって。…それで、眠れないんでしょう?亜紀ちゃんが部屋を抜け出していること。今日が初めてじゃないんですよ。」
「そこまでは。…家出なんて。ただ、亜紀の父親像がね。…崩れちゃって。もう、信用されないんじゃないかって。…え、えええ!初めてじゃないって、どういうことだ!」、口をあんぐりと開け放っていた。
「落ち着いてください。順序だってお話ししますから…。はい、あなた。お茶を飲んで気を静めてから…」
と言って、綾子はお茶を飲みだした。
落ち着いた綾子を見ていると、真は心細くなってきた。「結局、自分は何も分かっていなかったんだ。綾子の手の中で動いていただけかも。結婚してからズーッと。いや、結婚する前からかもしれない…」と考えていた。
お茶を飲む真の手が震えているのが見て取れた。
そうなのか。主人は亜紀ちゃんの理想像が自分だということが崩れるのが怖いのね。何か可愛い。…そして、『家を抜け出したのが自分のせいだ』、って思って心配だった訳か。それだったら話しは簡単だわ。
ゆっくりお茶を飲み、そして話しの筋道がついたので話し出した。
真の目は踊っていた。
...2006/09/20(Wed) 08:49 ID:X2JLu/Mc    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:Apo.
69


「亜紀ちゃんが幼いころ、あなたのお嫁さんになるって言っていたでしょう。分かるのよね。私もそうだったから。…それはね。父親から愛されているっていう実感なのよ。女の子のね。そうして、成長する訳。そして、そういった経験から異性の対象を父親と比較するのよ。…って結局、父親に似ている人を好きになるの。これって一般的だと思うのよ。私があなたを好きになったときがそうだったから」
成長した息子に諭しているような語り方だった。「亡くなった母が生きていたら、こんな風だったかもしれない」と真は思った。
「それじゃ、亜紀の理想像は俺なんだな?今でも…」
「そうだと思うけど。…昔はね、確実にそうだったわね。今はどうなのかな?…んー?」
頭をちょっと横に傾けて見せると、顔色が変るのが分かった。「この人は昔と変らないわねー。かわいいー」と思い、「クスッ」と笑ってしまった。
「ん、ん…。前は亜紀ちゃんがあなたに話しかけたり、運動に誘ったりしていたでしょう?あれは大好きな父親の健康を気にしてのことだと思うの。尊敬よね。亜紀ちゃんの方から話しかけていたはずよね。…でも近頃は、あなたの方から亜紀ちゃんに話しかけているわね。それも勉強に結びつくことばっかりで…」
「そうだったか?そんなことはないと思うけど…なー」
「干渉しすぎよ。父親像を壊したくなかったらそっと見守ってあげることよね。一人娘の亜紀ちゃんにはね。…後で、私がちゃんとあなたに報告しますから。…亜紀ちゃんの前では凛々しくしていてください。年頃の娘は感情の起伏が激しいから、注意してくださいね。」
「わかったよ。で…?」
安心したらしく、声が落ち着いてくるのが分かった。
「亜紀ちゃんはね。…高校に入学したころから、朝ランニングしているの。そうね、天気が良い日に、週に1回程度かしら。最初は宮浦の街の探索も兼ねていたようね。だから、色々走るコースを変えていたんじゃないかしら。今はちゃんと決めた場所を走っていると思うわ。ほとんどの街中はわかるみたいだから。…あなたを誘いたいみたいだったのよねー、最初は。…(真の身体をジロジロ見ながら)…ちょっと無理よね、そのお腹じゃ。それに仕事も忙し過ぎるから。…これでも、私、気を使ってあなたにヒントを与えていたのだけれど?」
「何だい?それは…」
「目玉焼きよ!…亜紀ちゃんが早起きして朝食を手伝ったことにしてあるんですよ。無理してヘタクソにこさえるって、大変なんだから」
「そういえば、そうそう。1週間に1度はヘタクソな目玉焼きがでてくるな…。あ、思い出した。入学したころに初めて亜紀が作ったって。あれは綾子が作ったのを…」
「そうですよ。目玉焼きは亜紀が外出したときのサインですよ。もう、1年以上続いていますけど…。今まで何の問題もありませんでしたよ。…あなたは気がつくのが遅すぎます! あなたから目玉焼きのことなど、聞かれたら、このことを話そうと思っていたんですけど…。気がついてないのに話したら、どうされましたか?」
「ん…。…俺一人、内緒にしていたって訳か…。怒っただろうな、癇癪を起こしてしまうかも」
「そうでしょう!」
「…なんで2階から脱出するんだ?それに今日は話声がしたようだったが…」
「亜紀ちゃん、私を起こしたくないみたい。負担をかけたくないみたいなの。…それに、スリルがあるんですって。まるで男の子よね。一人っ子だから、男の子の雰囲気も味わいたいみたい。昔からそうじゃない…。…それで、ここが肝心なところなんだけど、亜紀ちゃん、好きになった男の子がいたみたいなの。相手はそんな気がないみたいだったんだけど、2年生になって、つい最近やっと親しくなれて。…楽しくてたまらいみたいだわ。それに、お友達も数人。陸上部の…智世さん。その子が親友なんだって。…亜紀ちゃんにやっとお友達が出来たのよ」
涙ぐんで話した。亜紀ちゃんに親しい友達がいなかったこと、この人知っていたのだろうか?
「え、そうか、友達がね。男のこのことは気になるけど、親友がね…。…お前に任せるよ。おれは凛々しくな!…そうか、そうか。それは良かった」 
「そうか!あの話し声は、その親友と待ち合わせて朝ランニングって訳か…」目が潤んでいた。
嬉しさを堪えているみたいだった。この人も気にしていたんだわ。
「分かりました? 亜紀ちゃんのことは私に任せて、あなたは凛々しくね。…亜紀ちゃんに嫌われないようにね。そうしないと反動で、とんでもない男性を好きになるかもしれないんだから…」
「んー。辛いね。父親っていうのは」
「娘を持った父親が経験することですよ。でも、娘はいつまでも父親を尊敬し続けるものなのですからね…。二度と昨日のようなことは…、やり過ぎですからね」
「何も分からず…すまなかった」と、真は頭を下げた。
「亜紀ちゃんには私から話しておきますから、安心してください。くれぐれも凛々しくね。…お願いします」」と、ニッコリ笑ってあげた。

夜が明けだした。
チュンチュン、チッチチー。すずめの鳴き声が聞こえてくる。
「あなたは部屋に戻って、一眠りしてください。もう直ぐ亜紀ちゃんが戻るはずですから。この後、お仕事がありますでしょう!」
「お前は大丈夫か?眠らなくても」
「大丈夫ですよ。あなたと亜紀ちゃんが出かけたら一眠りしますから。これは私が続けてきた日課です。さあさあ、今朝は目玉焼きですからね。美味しい目玉焼きですよ、今日からは。 …あー…安心した」
「眠い、眠い。…じゃ、一眠りするよ」と言いながら真は2階へ向かった。
頭をポンポンと叩きながら、顔は微笑んでいた。

いつもの主人に戻ったみたいだわ。でも、少し後ろめたい気がする。亜紀ちゃんのためだと思ってしたことだれど、私のためでもあるのよね。…亜紀ちゃんが年頃になって、…母娘、共通の秘密が出来るなんて幸せ、それって夢だったわ。
娘を持った母親の喜びってところよね、父親には可哀想だけど仕方がないことなのよね。…恋する乙女の気持ちはゼッタイ、父親に話してはいけない。もめる元だから…理解出来ないことだわ。
あの男の子、『朔ちゃん』って言ったわね…亜紀ちゃんが好きになった男の子、主人にはまだ曖昧にしていないといけないわ。私は亜紀ちゃんの味方になってあげて、少しづつ探りをいれるのって楽しいなー。青春が戻った感じで、ワクワクするわ。
んーん…? ひょっとしたら、主人が言っていた先ほどの話し声の相手はその『朔ちゃん』かもしれない?…。
そんな気がする。
...2006/09/21(Thu) 10:15 ID:kN5XIuQE    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:Apo.
70


朝靄の中にうっすらと太陽が上げってくる。それに合わせたように小鳥の囀りが響き渡った。
朝の空気は格別だ。深呼吸すると、新鮮な空気にどんな悩みでも溶け出してしまうように感じる。
ちょっとした出来事で、心が傷つけられてもこの朝の空気を吸い込むと、今日も頑張ろうと気持ちが新たになる。
もう幾度、朝方部屋を抜け出したことだろう。
生活の営みのスタートを感じる。新聞配達の人、牛乳配達、体操をしている人、犬と散歩している老人…、中には仕事に出かける人たち…。
夜が明ける前から、一日の生活が始まっていることを理解できて嬉しかった。
それは、高校入学の前日に思いつきで部屋を抜け出したのが始まりだった。あのときは、1日でも早く高校に行きたいと思い宮浦高校を目指したんだっけ。
生きていくなかで、自分の転機、そう…とても楽しくって良いことが始まる予感がしたから。
入学したら直ぐに、友達が出来た。智世…、直ぐに親友になってくれた。それで、智世の家を探したのが探検ランニングの始まり。
大木君の家、中川君の家も分かっている。街の中の配列が理解でき、近道も分かった。でも、松本君の家は遠くて見つけるまでに半年かかってしまったわ。
最近では、港の堤防を経由して松本君のおじいさんが経営する写真館のコースを走ることに決まってしまった。
そうだ、紫陽花の牛原山に行ったこともあったわ。あれは日曜の朝のことで、たくさんの人が集まっていて、「あなたも紫陽花を鑑賞してみよう会の参加者ですか?」って声をかけられた。
「私、申し込んでいないんですけど、参加出来るんですか?」
「いいんですよ。誰でも。現地集合なんですから…さあ、ここにお名前を書いてください」
そうして牛原山に登ったんだ。結構な坂道だったけど、日ごろのトレーニングで苦にならなかった。
その日は、お母さんに送り出されたのでゆっくり探検が出来たんだ。
とってもステキなピンクの紫陽花で、あの場所が忘れられなくなってしまって…。

「廣瀬さんでしたっけ? 如何ですか? すばらしいでしょう!」
「はい。とっても…ステキな花ですね。…紫陽花って」
「でしょう。これらはね、ほら今、登ってきて来ていらっしゃる、あの御老人の方々が植えられたんですよ。それから、成長を見守るように毎年、紫陽花の鑑賞会が始まったんです。…お若いから、息切れもされてないみたいですね?」
「いえ、そんなことはないですよ。…(深呼吸)…こんな景色を見たら疲れが吹っ飛んじゃいました。…あのー、どうしてピンクとか青紫色の花があるんですか?」
「私は役場の者なんでお世話をしているだけですから詳しく分かりませんが、pHが、…土の酸性・アルカリ性が関係していると思いますが…?ほんとのところは分かりません。…知っていることは、学名を『おたくさ』って言うんです。幕末、長崎に来ていたシーボルトが奥さんの名前『お滝さん』にちなんで付けたそうです。花言葉は、『辛抱強い愛情、元気な女性』だそうです。また、花の色が変るので『冷淡、移り気』っていうのもあるようなんですけど…」
「私にピッタリかも…前半の花言葉だけですけど」
「あはは、ほんとに元気そうなお嬢さんですものね。…では!」
と言って、世話役の男性は到着した他の参加者のほうへ行った。
「辛抱強い愛情か…」と呟いた。
亜紀はこの場所を特別な場所として意識した。そして、紫陽花を…。

鑑賞会が終了したら現地解散となった。
それぞれのグループが持ち寄った菓子や飲み物で談笑していた。さっきの役場の人に誘われたが、殆どが老人だったので辞退して一人山を下った。
牛原山に登るときにあった朝靄は完全に無くなり、雲間から陽が割き込んでいて気温が上りそうな気がする。吹付ける南風が程よく暖かくて気持ちがいい。木々の隙間から見えた積み木モザイクの街中がはっきりした形となった。
目を閉じるとピンクの紫陽花の群れが目の奥に張り付いた絵画のように映し出されるのだった。
「わたし、このときのために早朝ランニング(探検)を始めたみたい。…なんかサー、そんな、運命的なことを感じる…」
そして、初めて家を抜け出したときのことを思い出してみた。

夜遅く寝たはずなのに、早々に目が覚めてしまった。
「あー、ワクワクする。明日は入学式。どんな高校なんだろう。そうだ。今からちょっと覗いてこようかな?」
そう思いたったら我慢できなくなってしまい、直ぐに行動に移して…。
入学に準備した運動靴などが部屋にあったので、それを履いて二階の部屋から抜け出した。簡単だった。屋根伝いに庭に飛び降りればいいのだから。高く盛った庭土に刈った草が集めてあって、その上に飛び降りたら意外と衝撃が少なく音もあまりしなかった。
高校へジョキングのつもりで駆け出すと、夜が明けだす前の時刻だというのに、意外と人がいた。
「私と同じように、運動しているひともいるんだ…」
高校に着くと、入学式の立看板が準備してあって、案内の矢印があった。流石に校内に入るのは遠慮して、その周辺を散策して家路についたのだった。
家の近くに来たとき、道路越しにお母さんが新聞を取りに玄関から出てくるのが見えた。
音がしないよう、そっと、玄関の取手を回すと鍵がかかっていない…。それで家の中に入り、起きたばっかりの顔をして顔を洗い、食卓についた。
「あら、亜紀ちゃん。おはよう」
「おはよう。お母さん」
「どうしたの?トレーナーなんか着ちゃって…」とお母さんは首を傾けた。
ちょっと不安になったけど、「遅くまで勉強していたから、寝巻き代わりにいいのよね。このまま眠れるし、…トレーナーって」
「女の子でしょう。部屋着に着替えてきて! 亜紀ちゃんあなた、高校生になるんだよ!」
「ごめんなさい」と、2階の部屋に向かうと後ろから、「だらしない格好はいけません。年頃なんだから…」とお母さんの声がした。いつもの優しい声色だ。
部屋で着替えながら、「これって良いかも。また、やってみよう」と思った。
「でも、お母さんには話しておかないと…」
...2006/09/22(Fri) 07:40 ID:gY1TuzYA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:Apo.
71


「お母さん、あのね。相談があるんだけど」
「なーに?亜紀ちゃん、改まって相談って…」
雨で練習が中止になって、早めに帰宅したときのことだった。
梅雨入りしたばかりで、ムシムシする。なんか鬱陶しい。
こんなとき、亜紀ちゃんとゆっくりお話しが出来るなんて、幸せな気分になれるような気がしたのよ…。
私の目がランランと輝いていたのか、亜紀ちゃんは、「何か、変? お母さんが期待するような話しじゃないんだけど…」と、言った。
「ごめんなさいね。何かね、雨が続くと思うと鬱陶しくってね、気が滅入りそうだったの。…亜紀ちゃんが早く帰ってきてくれたのでね、母娘でお話しをしようかって思っていたところだったのよ…。気分転換って言うか…」
探るような眼差しで、
「ケーキがあるんだけど、…どうお? 一緒にお茶しない?」と言うと、
「うん。賛成。…お母さんって、よく分かっていらっしゃる! 大好き」と亜紀ちゃんが答えて…。
ケーキと紅茶で話しが始まった。母娘はランラン気分。
さっきまでの気分がすっかり消えてしまっていた。
「はい。召し上がれ」
「ありがと…」
大好きな苺ケーキを頬張るけど、少し悩みがあるのが顔に出ていた。それは、いつもの癖。眉間にしわを寄せるものだ。ほんの僅かで一瞬だから私にしか判らない。それは、幼いころからのもので、娘の反応を確かめるのには打ってつけだった。
こんなときは亜紀ちゃんが話しだすまで待つしかなかった。そうしないと肝心なことを隠してしまうからだ。そんな、屈折した、へそ曲がりの性格…誰に似たのだろうか? 私だろうか? 主人には、分からないみたいだから…。
そんなことを考えていると亜紀ちゃんが、か細い声を発した。

「あのね。お母さん。…女の子が目立つことって、いけないことかな?」、ケーキを食べる手を止めて、真剣な眼差しで言った。
「どういうこと?…それって、んー、…場合によるって思うけど」
「ねー。どんな…場合?」
目がクリクリしている。何か良いヒントを期待しているみたい。
「そうね。校則を無視して髪を染めるとかって、目立つことだわ。それはいけないことだと思うわ。…たとえ、好きな男の子に注目してもらいたくてもね」
「そんなことしないわよ。んーん、…注目され…、…少し当たっているけど…」
モジモジして俯いてしまった。
亜紀ちゃんは好きな男の子が出来て、その男子に注目されたいんだわ。少し探りを入れてみるか!
「亜紀ちゃん。目立つことと注目されたいことって違うと思うの。誰かに自分のことを気づいて欲しい場合のことだけど…」
「んーん」
亜紀ちゃんの目が輝いている。
やっぱりなー。好きな男の子に気付いて欲しいんだわ。まだ、好きって告白できていないんだ。
「注目されたいときはね、ちょっと周りの女の子と違う服装をすることね。転校生なんて、制服が違っていたら直ぐに分かるでしょ? そんなとこ、かしら?」
「そうだけど。…転校生じゃないし、違う服装なんて私…無理よね」
「男の子みたいに学生服にしたら? …目立って注目されるわね。ホホホ…」
「からかわないで!…ん、もう…」
「ごめん。ん…、亜紀ちゃんは陸上部だからトランクスの色を変えてみるって、どうなのかな?…」
「トランクスってお父さんの下着でしょう!レーシングパンツって言って欲しいわ」
「そうなの?ごめんね。…練習用だったら、違う色でもいいんじゃない? 女の子らしくピンクとか」
「ピンクはちょっと…、赤ならいいわ…」
「じゃ、お母さんが今度、買ってきてあげるわね。その方が、お母さんも楽だし。…このごろは洗濯しても直ぐに乾いてくれないし、乾燥機の調子も悪いのよね」
「うん。ありがと。お母さんって、何でも話が通じるのね。私が思っていること…」
「そうね。母娘だもん。…それからね。これが大事なことよ。好きな男子には亜紀ちゃんの取って置きの笑顔で語りかけることね。…そしたら亜紀ちゃんの想いが通じると思うわ…きっと、…」
「うん、そうしてみる」
ペロッと舌を出して、元気にケーキを食べだした。
やっぱりなー。好きになった男の子に注目してもらいたいんだわ。亜紀ちゃん青春しているね、…私まで胸が熱くなりそう。


傾いた日の光が打ち寄せる波を照らしている。穏やかな波。
時々、波間からキラッ・キラッと反射光が目に刺さる。遠くで若者が騒いでいるのか、黄色い声が聞こえてくる。青春の息吹は永遠に続き、繰り返される。
年代が移り過ぎ容姿が多少変っても、若者のエネルギーはここかしこで発散されるのだ。一時期、そのエネルギーの真っ只中に亜紀ちゃんもいたことを感じずにはいられない。自分もほんの一部だが、関わって…。
日の光の中、雲間から欠けた月が遠慮がちに顔を見せ、寝そべってウインクしたように見えた。
何処からか吹いてくる、ちょっと冷たい風のささやきが、「お母さん…」って語りかけているように感じた。ここには亜紀ちゃんが生きている。
幾度、繰り返してきたことだろうか。主人と二人この堤防までの散歩。
ここに座って目を閉じると、亜紀ちゃんと語り合ったことが自然と脳裏に浮かんでくる。まるで生きている亜紀ちゃんが語りかけているように…。
亜紀ちゃんが高校に入学してからの楽しい思い出ばかり、それも母娘の秘密の相談…。
その一つ一つを思い描き、生き生きして微笑む亜紀ちゃんに語りかけてみた。
「ね、そうなんでしょ? 亜紀ちゃん!」
「お母さんたら…、もう…、そうに、決まっているじゃない…」と答えてくれた。

「輝いていたよね。…亜・紀・ちゃ・ん…」
「…ありがとう…」


おわり (バイバイ)

思いつきで書きました。
亜紀の赤色のレーシングパンツ。亜紀が家を抜け出すときの音に両親が気づかないはずがないこと、またどうやって家に戻ったのか。テープ事件後の真の態度。亜紀にとって牛原山の紫陽花が秘密の場所となった理由なんかを結びつける物語にしてみました。
...2006/09/22(Fri) 19:43 ID:gY1TuzYA    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:宮浦高校 谷田部敏美
 朔五郎さん、お元気ですか?
 「○○病」は文化祭の劇の中の話だったというもうひとつの朔太郎と亜紀の物語を誰もが楽しみにしていた最中に突然自分のブログに引越してからもう半年が経ちました
 まだ帰って来れませんか?
 いつまでも首を長くしてお待ちしています
...2006/11/29(Wed) 22:23 ID:IiRxmA9U    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:議運
イタズラはアマゾンだけでたくさん
...2007/04/26(Thu) 05:22 ID:o.I2cBBo    

             Re: 続・サイド・・・ Part.2  Name:SATO
下がってきたので上げます
...2007/12/04(Tue) 22:59 ID:l0ujf4lw    

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