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過去ログNo1
アナザーストーリー 3  Name:たー坊
皆様こんばんは。アナザーストーリーを執筆させていただいております、たー坊です。
今回、皆様のおかげでパート2が終了し、パート3に突入させて頂くことになりました。
今までお読み頂いた皆様、初めてお読みいただける方、これからもよろしくお願い致します。

このストーリーは「世界の中心で、愛をさけぶ」を見て、「こういう結末もあればいいな。」という個人的な妄想を素人が形にさせて頂いておりますので、多々お見苦しい部分もあるかと思いますが、ご感想など頂ければ幸いです。

パート1へのリンクです。↓

http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=4038&pastlog=11

パート2へのリンクです。↓

http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=8806&pastlog=14

こちらもお読み頂ければ幸いです。
...2005/06/16(Thu) 20:02 ID:YcFOuR7A    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
アーネン様
お読みいただきましてありがとうございました。
おかげ様で、アナザーストーリーが”3”に突入することができました。
これからも、グーテンベルク様と一緒に応援していただければ幸いです。これからもよろしくお願いします。

Marc様
お久しぶりです。そして、お読み頂きましてありがとうございます。おかげ様で、アナザーストーリーが”3”に突入することができました。
これからもアナザーストーリーをよろしくお願いします。

ゴン41様
お読みいただきましてありがとうございます。
そして、”2”のキリ番ゲット、おめでとうございました!
おかげ様で”3”に突入することができました。
こらからもよろしくお願いします。
...2005/06/16(Thu) 20:10 ID:YcFOuR7A    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:グーテンベルク
たー坊様へ
こんばんは、グーテンベルクです。いつも執筆お疲れ様です。そして、パート3突入おめでとうございます。ドラマが終了してから今まで、朔や亜紀たちの素晴らしい物語を読めたことをとても嬉しく思います。そして、またこれからも読めると思うとさらに嬉しくなります。今後も頑張って執筆してください。応援しています。
...2005/06/16(Thu) 20:47 ID:LZGRxZbw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:北のおじさん
たー坊様。

お久しぶりです。 パート3突入おめでとうございます。
最近仕事が忙しく、ROM状態でした。
いつもたー坊さんの心温まる物語を楽しく読ませていただいています。
これからもお体に気をつけ、私たちを楽しませて下さい。
...2005/06/16(Thu) 23:14 ID:iqHE1mJU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
グーテンベルク様
”3”に突入早々、励ましのお言葉を頂きましてありがとうございます。
これからも書き続けたいと思いますので、お読み頂ければ嬉しいです。
お互いに頑張っていきましょう。私もグーテンベルク様のストーリーを楽しみにしております。

北のおじさん様
こちらこそご無沙汰しております。
お仕事が忙しいとのことですが、お体を大切になさってください。そして、お時間がございます時に、拙くはありますが、お読み頂ければ幸いです。
これからもお読み頂ければ幸いです。
...2005/06/18(Sat) 19:57 ID:NK9Yo0J6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
8月の青空。
梅雨も明けて、高い位置からの太陽から、強い光が全国に降り注いでいる。

朔「んん〜・・・・・・。」

久しぶりの休日、宮浦漁港の防波堤の上で心地良い潮風を全身に受けながら朔が、寝転んだまま体を伸ばす。一時帰京まで2ヶ月となっていた今日、恵美の招待で、恵美の住む町の花火大会に行くことになっていた。

龍之介「お〜い。朔ちゃん。」
朔「お疲れ。」
龍之介「お疲れ。どうしたよ?やけに早いじゃないか。」
朔「そうかな?」
龍之介「ああ。ここに集合するのは4時だぞ。」
朔「え?3時じゃなかったっけ?」
龍之介「何を聞いてたんだよ、おまいさん。」
朔「そっか、1時間、間違った。」

今日は宮浦漁港に4時集合のハズが、時間を間違えて1時間も早く来てしまっていた。どこか抜けている朔らしいといえば、朔らしいのだが。
体を起こした朔の隣に龍之介が腰を下ろした。

龍之介「あと2ヶ月だな。準備のメドはついてんのかい?」
朔「8割くらいかな。向こうの住む所なんかも手配済みだよ。・・・・・偶然、前に住んでたアパートの部屋が空いていたんだ。大家さんとは顔見知りだから、すぐに快諾してもらえたよ。」
龍之介「そうか、それならいいな。で?他に何かあるのか?」
朔「後は、医学書と必要最低限の家具ぐらいだね。」
龍之介「引越し作業の時は呼んでくれ。漁は親父に任せておいたらいいからさ。」
朔「その時は頼むよ。」
龍之介「おう。・・・それで、亜紀には?」
朔「この前の誕生日の時に、亜紀から話してくれた。『応援するから』って言ってくれたよ。・・・・・・大丈夫。亜紀はそんなに弱くない。名前の由来が白亜紀・・・恐竜だからさ・・・。」
龍之介「はは、恐竜か。どうりで・・・白血病にも勝つわけで、お前も尻に敷かれてるわけだ。」
朔「まあね・・・でも。」
龍之介「でも?」
朔「俺が帰ってくるまで、亜紀のこと・・・よろしく。」
龍之介「分かってるって!任せとけよ、おまいさん。」

その時、亜紀と智世がやってきた。2人の手には、それぞれカバンが握られている。
亜紀の顔は心なしか不機嫌そうだ。

亜紀「朔ちゃん、どうして何も言わずに先に行っちゃったのよ?私、朔ちゃん家に寄ったんだよ。そしたら、もう出かけたって言うじゃない。」
朔「いや・・・1時間早く来ちゃって、集合時間を間違えてたみたいでさ。」
龍之介「そういうこと。」
智世「朔らしいねぇ。そういうところ昔と全然変わらないよ。でも・・・医療現場ではそういうことはダメに決まってること、忘れるんじゃないわよ!」
亜紀「本当に肝心なところが抜けてるよね。」

そんなこんなで、いつも通り決まってボウズが最後にやってきた。

ボウズ「なんだ?もう集まってんのか。」
智世「あんたが遅いのよ。まあ、遅刻しないだけマシってことね。今日は良い心掛けなんじゃないの?」
ボウズ「俺を遅刻魔呼ばわりするんじゃねぇっての。」
龍之介「まあ、それは置いといて。ボウズ、恵美に連絡は?」
ボウズ「ああ、家を出てくる前に電話したぜ。『駅まで迎えに行くから。』って言ってたぞ。車で来るらしい。」
亜紀「恵美って免許を持ってたっけ?初めて聞いたよ。」
ボウズ「大学1年の夏休み中に取ったらしいぞ。」
智世「そうなんだ。」

仲間内での会話に花が咲いている。
5人は、歩きながら宮浦駅へと向かった後、電車に乗り込んだ。
車窓からは、真夏の真っ青な空からの光が海に反射して輝いている。そんな景色を楽しむ5人を乗せながら、電車は海岸線に沿って走っていく。

目的地に着いた5人は改札口へ。出た途端にクラクションの音がした。音の方を向くと、ワンボックスカーの運転席から顔を出して、手を振りながら「こっちよ!」と呼ぶ恵美の姿があった。

智世「恵美〜!」
恵美「いらっしゃい!」
亜紀「出迎えご苦労!」
恵美「アハハハハッ!私は亜紀の家来?」
亜紀「わらわは、宮浦の姫であるぞよ!」
恵美「フフ・・・承知つかまつりました。本日は、亜紀姫のお世話をさせて頂きます。」
智世「お〜い・・・。2人だけタイムスリップしてるよ〜。」

女3人の仲の良い会話。その間、男達は気温30℃を超える真夏日の太陽の下、会話が終わるのを待っていた・・・・・・。

ボウズ「お〜い・・・・・・・・・・。」
朔「暑いんだけど・・・。」
龍之介「早く、車のクーラーを恵んでくれ・・・・・・。」

薄っすらと額に汗を滲ませながら佇む3人を見て、慌てて車内に入る亜紀と智世。
助手席にはボウズが座り、2列の後部座席の前列には龍之介と智世、最後尾の座席には朔と亜紀が座った。恵美が、ゆっくりとアクセルを踏み込む。

朔「ふぅ・・・涼しい・・・。」
亜紀「ゴメンね。話に夢中になっちゃて。」

そう言うと、紺のノースリーブに白いスカート姿の亜紀は、ポケットからハンカチを取り出して、朔の額の汗を拭いてあげた。

智世「それでさ、今からどこに行くの?」
恵美「花火大会が始まるまでには時間があるからね、ひとまず、私の家に来てもらうわ。それで、涼しい時間帯になったら、市街地に行こうかなって。この前来た時には見れなかった所を案内してあげる。」
亜紀「楽しみね。」

若い声で一杯の車内。10分ほど走っただろうか、一軒のアパートの前に停車した。

恵美「着いたよ。皆、降りて。」
龍之介「ここかぁ。」
白い外壁の小奇麗なアパート。2階の一室に恵美の部屋がある。

智世「あれ?でも、恵美は両親と住んでるんじゃないの?」
亜紀「そういえば・・・。」
恵美「ううん、退院してからは一人暮らしよ。といっても、両親と妹は車ですぐの実家に住んでるけどね。」
朔「何で一緒に住まないの?」
恵美「1回でもいいから完全に自立しないといけないって思ったんだ。それで、とりあえず1人暮らし。単純でしょ?」
龍之介「いやいや。しっかりした考え方だと思う。」
恵美「ありがとう。それで、週末は実家に帰るようにして、家族の時間をとるようにしてるのよ。」

話しながら階段を上がって行った。言い終えると同時に恵美の部屋の前へ。
鍵を回した後に“カチャ”と音がした。

恵美「狭いけど、どうぞ。」
一同「お邪魔します。」

中に入ると、さっぱりした部屋が2部屋あった。床には人数分のクッションが置かれていた。

恵美「好きなところに座ってて。ジュースでも出すから。」
亜紀「私も手伝うよ。」
恵美「いいからいいから。座って。」

程なくして恵美が人数分の冷たいものを持って来た。
喉を潤しながらの会話が始まった。

智世「きれいな部屋ね。生活感が少ない。」
恵美「昨夜、仕事から戻ったら急いで片付けたのよ。普段は全然ダメ。」
亜紀「そんなこと言って、本当はいつも綺麗なんでしょ?」
智世「言えてる。亜紀の部屋も綺麗だけど、ここは同じくらいかそれ以上の綺麗さだよね。」

そして、話題は今夜のメインイベントについて。

龍之介「何発くらい上がるんだ?」
恵美「細かい数までは分からないの。でも、規模としては大きい方だと思うよ。宮浦はもちろん、県内から人が集まるからね。」
智世「夜の7時からだったっけ?」
恵美「うん。でも場所を取らないといけないから、6時少し前には会場に行かないと。」
朔「その前に飲み物も調達しないといけないんじゃないの?」
亜紀「そっか。その分の時間も考えないといけないね。」

壁に掛かった時計を見る。現在の時間は夕方の4時半の少し前だ。

ボウズ「じゃあ、5時過ぎに、ここを出ようぜ。」
恵美「そうね。少しくらいは街を案内できると思うし。」
龍之介「それで決まりだな。」

そうして、時間はやってきた。
恵美の部屋を出発する一同。再び車に乗り込む。
車は、海岸の方向かって走り出した。途中、鉄道の下をくぐって、街の外れにある港へ。車はここで止まった。

恵美「ここはね、私が子供の時に父とよく来た場所。今でも、落ち込む様なことがあると来るんだ。特に、夏の太陽が沈む瞬間が好きなのよね。花火を見る場所からでも見えるかもしれない。」
亜紀「宮浦のアジサイの丘と同じような感じだね。」
朔「うん。」

皆には聞こえないくらいの声で、隣に寄り添う朔に言った。
その後、恵美は自分に所縁がある所を中心に回ってくれた。幼稚園から小・中学校に高校。それから、学生時代に足繁く通った場所・・・・・・。あらためて、自分をさらに知ってもらおうとする恵美の気持ちが、5人に伝わった。
そして、あっという間に時間は過ぎた。今度は、飲み物を調達するために、会場近くのコンビニエンスストアへと向かった。
冷房が効いた店内に入った6人。真っ先に飲み物が入ったフリーザーへと向かった。

ボウズ「どれがいいかな〜。」
龍之介「おいボウズ、やっぱりこれだろ?」
ボウズ「そうだな!夏といえばこれだよな!」

2人が立ったのは、アルコール類の前。やっぱり酒好きな2人である。
そんな2人の後にある人影が・・・・・・。

続く
...2005/06/18(Sat) 20:01 ID:NK9Yo0J6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。
「アナザーストーリー」では初めましてですね。
私は美也(みや)と言います。
「アナザーワールド」の方には、何度か書き込みをしています。

「アナザーストーリー」「アナザーワールド」は、ドラマでは亜紀さんが死んでしまって大泣きしてしまった私にとって、どちらも、朔と亜紀が幸せそうなので、とても嬉しいお話です。

私は今、「世界の中心で、愛をさけぶ」の新しいHPを作っています。
それを作りながらですが、これからも「アナザーストーリー」の続きを楽しみにしています。
...2005/06/18(Sat) 20:20 ID:PwwtYxeA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊様
2人の後ろに立つ人影・・・
気になります(^^)
これからもすばらしい作品をお創り下さい。

遅ればせながら、PART3突入おめでとうございます。
...2005/06/19(Sun) 21:47 ID:ScFjZyHs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
恵美って宮浦在住の5人と比べてずいぶん大人っぽい女性のように受け取れましたが、社会人だったんですね。
...2005/06/19(Sun) 22:48 ID:nGi5s9K6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様
初めまして。アナザーストーリーを執筆させていただいておりますたー坊です。
この物語は、美也様と同じように私もドラマに感動し、別の幸せな日々があって欲しいという思いから書かせていただいております。
HPの作成と言うことで、実に大変な作業をなさっておいでですね。その合間にでもこのストーリーをお読みいただけば幸いです。

朔五郎様
おかげさまで、パート3に突入することができました。そして、物語もそろそろ中盤〜後半へと入って来ています。
最後まで頑張りますので、お読み頂ければ幸いです。これからもよろしくお願いします。

SATO様
今回もお読み頂きましてありがとうございます。
恵美についてですが、以前、朔五郎様に頼まれてお教えした現在のプロフィールをのせておきます。

結城恵美・・・・・
物語上、現在25歳。
今住んでいる町に誕生し、幼稚園から高校までを故郷で過ごす。高校卒業後、一時、親許を離れ首都圏の大学に進学。4年間をそこで過ごし、卒業後に故郷に戻り就職。町の観光案内の仕事をしながら、実家で家族と共に暮らしていたが、1年前に宮浦町内で交通事故に遭う。足に重傷を負い、稲代総合病院に入院。そこで、恋人であるボウズに出会い、現在に至る・・・。「もう少ししっかりしなければ。」という思いから、現在は実家の近くで一人暮らしをして、週末は家族とともに過ごしている。

現在の設定をかねての状況です。
これからもお読み頂ければ幸いです。
...2005/06/19(Sun) 23:25 ID:Geplekg2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
アルコールが並ぶ棚の前に立つボウズと龍之介。
そして、その背後に迫る人影。
???「こら!中川!!大木!!酔っ払って迷惑を掛けるんじゃない!!」
ボウズ「っっ!!・・・ビックリした・・・。」
龍之介「・・・・・・声、でか過ぎですよ。一応、公共の面前なんスから・・・。」

もちろん、すぐ近くにいた朔、亜紀、智世、恵美もその声を聞きつけてやってきた。
皆の目の前に現われたのは、新婚ホヤホヤの恩師だった。

亜紀「先生!」
谷田部「久しぶりね〜。」
朔「お元気そうで何よりです。どうですか?新婚生活は。」
谷田部「おかげさまでうまくいってるわよ。・・・で?あんたたちはどうしてここに?」
朔「皆で花火を見に来たんですよ。」
谷田部「そっか。実は私も家族と親戚とで見に来たのよ。」

亜紀と朔が谷田部の話し相手になってしまっている一方、恵美が智世に、何やら聞いている。

恵美「誰?」
智世「私達の高校の先生。今でも、時々集まったりするのよ。」
恵美「へ〜。生徒から慕われそうな先生だね。」
智世「うん。でも、宿題は多かったけどね。」

その時、谷田部が恵美の存在に気付いた。そばにいた智世に声を掛ける。

谷田部「それで上田。そちらはどちら様?」
智世「誰だと思います?」
谷田部「な〜に?もったいぶっちゃって・・・私の教え子ではないみたいだけど・・・。」
恵美「初めまして。結城恵美と申します。この町で生まれ育ちました。皆とは1年前に知り合って、それからは時々集まっています。」
谷田部「ご丁寧にありがとうございます。私は、この子達の高校時代の担任だった、谷田部敏美と申します。・・・あの、つかぬことですが・・・・・・。」

言いかけたときに、谷田部の疑問を解く言葉を龍之介が言った。

龍之介「先生、恵美はボウズのコレです。」

そう言うと、少し悪そうな顔で、右手の小指を立てて見せた。
一瞬、ポカンとした谷田部が、すぐさまボウズを見る。

谷田部「話は聞いてたけど・・・そうなの!」
ボウズ「おかげ様で・・・・・・ありがとうございます。」
谷田部「あら〜、そう!・・・・あんたには勿体ないなぁ。美人だし、器量も良さそう、なにより育ちのよさが分かるわ。」
ボウズ「そりゃないですよ!先生。」
恵美「お褒めに預かりまして、恐縮です。」

久々に聞く恩師の毒舌。ボウズ以外は、一瞬吹き出しそうになった。

谷田部「まあ、それは冗談だけど・・・恵美さんでしたね?」
恵美「はい。」
谷田部「中川はいい奴です。もちろん、欠点もありますけど、それを補ってしまうほどいい奴なんです。これからも、この子の傍に・・・・・・。」
恵美「はい・・・。」

かつて、朔と亜紀の間で苦悩したことを知っている谷田部が、真剣な眼差しを見せながら訴えるように言った。その様子を察し、恵美は一言だけ答えた。

谷田部「じゃあ、私はこれで・・・皆で遊びに来なさい。もちろん恵美さんも一緒にね。」
一同「はい。」
谷田部「・・・あと、大木!中川!」

昔の条件反射により、その場で直立不動になる龍之介とボウズ。

谷田部「今日はアルコール禁止。じゃあね。」

それだけ言い残して店を出て行った。

恵美「今日は、お酒無しね。」
智世「あんたも。当分は禁酒してもらいます!」
龍之介「一口だけ。」
智世「ダメ。あんたは酔うとタチが悪すぎるから。」

結局、皆が買った飲み物の中にアルコールは一本もなかった。
朔と亜紀はお茶やスポーツドリンクを選び、智世はサイダー、龍之介とボウズは、昔懐かしいラムネ、恵美はコーラを選んだ。そして、袋の中には、大量のアイスクリームとかき氷が入れられていた。

会計を済ませ、再び車に乗り込んで場所取りに向かう。
会場の駐車場に車を止め、トランクからシートを出して海岸線沿いのいい場所へ。かなりの人がすでに場所を取っていたが、それでも十分な場所を確保することができた。

朔「これでよし、と。」
亜紀「お疲れさま。」
龍之介「さて、始まる前にトイレでも行っとくか。」
ボウズ「俺も行っておこう。」
朔「あ、ちょっと食べるものでも見てこようかな。」
亜紀「私も行きたい。2人はどうする?」
恵美「私達はここを取っておくわ。ついでに、私達の食べ物も頼んでいい?」
朔「いいよ。何がいい?」
智世「私は・・・お好み焼きとイカ焼き。なければ適当に頼むわ。」
恵美「私は、ホッドックとかあれば、それで。」
亜紀「わかった。無かったら適当に買ってくるね。」

そう言うと、それぞれが単独行動を取ることに。
朔と亜紀は、海岸に入ってくる道の両端に並んだ屋台をめぐる。焼き物を中心に香ばしい匂いが2人の鼻をくすぐる。今にもよだれが出てしまいそうだ。

亜紀「おいしそう・・・・・・。」
朔「そういえば腹が減ったような・・・。」
亜紀「とりあえず、頼まれたものを買わないと。」

2人は人が集まり始めた場所で、はぐれることの無いように、しっかりと手を握って、それぞれの店を覗いていく。程なくして恵美と智世に頼まれたものを買って、自分たちの分を選びにかかる。

朔「焼きそばがいいかな、それともお好み焼き・・・。」
亜紀「私は、朔ちゃんに合わせるよ。」
朔「亜紀が好きなものにすればいいじゃない。一口ずつ交換してもいいんだし。」
亜紀「・・・イか焼き食べたい。」

ちょっとだけ恥ずかしそうに言った亜紀に、朔は微笑んでみせた。

朔「奢るよ。」
亜紀「え?悪いよ。自分の分くらいは自分で出すよ。」
朔「いいよ。」
亜紀「いいって。」
朔「いいから。たまにはこのくらい。」

朔は、ポケットから財布を出そうとした亜紀の手を掴んだ。亜紀は「ご馳走様です。」と言った。

朔「何でそんなに他人行儀なの?」
亜紀「まだ他人じゃない。結婚してないでしょ。恋人同士だけどね。」

買い物を済ませた2人は歩きながら話す。
亜紀のさりげない一言が、朔には嬉しくもプレッシャーになった。
真っ直ぐ恵美と智世の所に戻った。ボウズと龍之介も戻って来ている。

恵美「戻ってきたわね。じゃあ、2人とも着替えますか。」
智世「そうね。行こ、亜紀。」
亜紀「そうだね。」

すると、ボウズの「どこに行くんだよ?着替えるって?」との言葉に、智世が「すぐに戻るから。」とだけ言い、3人は駐車場へと向かった。

龍之介「何だ?」
ボウズ「さあ?」

2人は、コンビニエンスストアから買ってきたペットボトルに口をつけながら、3人の後姿を見送る。朔も少し“ポカン”としている。
10分後に3人が戻ってきた。さっきの服装とは一変し、全員が浴衣姿である。亜紀と智世が持っていた鞄もの中身は浴衣だった。

ボウズ「おぉ!!」
龍之介「わざわざ着替えた甲斐があったな、智世。」
智世「どう?いいでしょ。」
恵美「こういう夏のイベントには浴衣だと思ったの。」
亜紀「どう?朔ちゃん。」
朔「似合ってるよ、とっても。」

亜紀は朔の目の前で、満面の笑顔で浴衣の両袖を“ヒラヒラ”と揺らして広げて見せた。白地に、紫の帯と朝顔らしき模様の浴衣をまとった亜紀は、いつも以上に大人の女性の雰囲気を醸し出している。智世は白地に赤の帯と模様の浴衣を。恵美は紺色ベースの浴衣である。
いつもと違う雰囲気に、大いに盛り上がる朔、龍之介、ボウズ。特に朔は、「今すぐ抱きしめたい・・・。」とすら思い、良からぬ想像までしそうになってしまうのだった。
それだけ亜紀は美しく見える。

恵美「そろそろ時間ね。」
ボウズ「あと、5分くらいで始まるかな。」
朔「花火を見るのも久しぶりだよ。」
亜紀「今度、2人でしようね。約束。」

カップルで座りながら一発目の花火を待つ。
亜紀のお願いを朔は快く受け入れた、その時・・・。

龍之介「お〜!!来た来た来た!!」
智世「おお〜!」

“ヒュルルルルル・・・・・”と打ちあがる音が聞こえたかと思ったその瞬間“ドン!!”という音と共に、ついさっき日没して暗くなったばかりの空に、色とりどりの花火が漆黒の闇に咲いた。

ボウズ「迫力あるな〜!!」
恵美「でしょう?こういう大きさもあるから、人が集まってきてくれるのよ。
亜紀「綺麗だよね・・・朔ちゃん・・・。」
朔「・・・・・亜紀の方が100倍・・・。」

懐かしいことを言ってみる朔。しかし、今回は亜紀に聞き返されることは無かった。次々と打ちあがる花火の音にかき消されてしまったからだ。亜紀の耳に朔の言葉が届くことは無く、亜紀の涼しげな表情の横顔が朔の視界に入ってきていたのだった。
そして、6人は夜空を見上げ続けた。時折、飲み物と夜店で買った食べ物をつまみながらの花火観賞は続いた。

                ・
                ・
                ・
そして10月。
松本家では一同がそろって、朔の激励会が行われていた。
明日は、朔が東京へ旅立つ日だ。

続く
...2005/06/21(Tue) 21:04 ID:IDVkIuxY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:clice
たー坊様
亜紀の浴衣姿のイメージはやはり白地に紫ですね、ちょうど東京ウォーカーの表紙をはるかちゃんが浴衣で飾っていました。たー坊様、とてもナイスなタイミングです。
みんなで楽しく花火見物をする姿が見えるような気がしました。
ずいぶんとご無沙汰をしてしまって、その間気にかけて頂いてありがとうございました。また少しずつ書いていければと思います。
そして遅くなりましたが、パート3へ入られましたことおめでとうございます。
...2005/06/21(Tue) 21:53 ID:0161g3d.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ゴン41
  たー坊様。
 こんにちは。浴衣を着て恋人同士達で観る花火大会、何か懐かしく昔を思い出しました。(遠い夏の日?)さて、”3”新たな展開に入りそうですね。
切ないシーンがありそうな気もしますが、朔と亜紀が幸せに成ります様に。楽しみにしております。
...2005/06/22(Wed) 13:08 ID:1d9vUfMw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:サイトのファン
たー坊さんへ
たー坊さんの世界の中心で、愛をさけぶ
=(アナザーストーリー)
パート3、おめでとうございます!!
というか、執筆、お疲れ様です!!
出張で自宅を空けていて、戻ってスグにアクセス
したら、パート3になっており
まとめて読ませて頂きました。
3組と二人の両親に恩師との交流がホノボノと描かれ、本当に心が安らぎます!!
たー坊さんが以前に書かれた、プラス、マイナス
の話しで、幸せな二人に何か不吉な事が起きてしま
わないかドキドキしてしまいました。
色々な事も含め、今後の展開を楽しみにしております。
この場を提供してくださる管理人さんに感謝を
するとともに、パート100ぐらいを目指して
頑張って下さい。
たー坊さんの続編を心待ちしております。
...2005/06/23(Thu) 00:48 ID:sSuwiy56    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
clice様
こちらこそご無沙汰しております。そしてお忙しい中、お読みいただきましてありがとうございます。
浴衣を取り入れることは以前から考えておりました。ちょうど、東京ウォーカーの表紙にいいモチーフがありましたので参考にしました。表紙では白に赤色の模様だったと思いますが、それは智世の方がイメージとして近かったので、亜紀には紫にしてもらいました。
おかげ様で、このストーリーも”3”に突入することができました。これからも、お時間がございます時にお読みいただければ幸いです。

ゴン41様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
おっしゃるとおり、”3”では、新たな展開に持っていければと思います。まだまとまってないので、出来上がり次第UPさせていただきます。
花火大会は、朔と亜紀へのご褒美のつもりです。遠い夏の日になるかもしれなかった現実のとある夏の1日。2人には再び行ってもらいたいものです。
これからもお読みいただければ幸いです。

サイトのファン様
おかげ様で”3”に突入させて頂きました。管理人様と読者の皆様には本当に感謝しております。
それにしてもパート100ですか・・・話のネタがなくなっていると思いますので、程々のところで終わらせたいと思っております(笑)
これからは色々なことを形にしていければと思います。プラスマイナスについては、これからのテーマの一つになってくると思います。
これからもよろしくお願いします。
...2005/06/23(Thu) 22:33 ID:7v.A7ves    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
龍之介「それにしても明日かぁ。」
ボウズ「そうだな。朔が帰ってきた時には、まだ1年半もあるとか思ってたけどよ・・・時間が経つのは早いっつーか・・・。」

松本家に全員が勢揃いしていた。朔の激励会である。
どことなく寂しげな空気が漂う中、2人が“パシッ”と頭を叩かれた。富子だった。いつもの口調で切り出す。

富子「ほーら!別に朔が死ぬわけじゃないんだから!」
潤一郎「むしろめでたいだろうが。これから一応の医者になるために上京するんだから。」
朔「一応じゃねぇよ!正真正銘の医師になるための試験を受けに行くんだよ!」

いつも元気な龍之介たちだが、さすがに今日は元気がない。相変わらずなのは松本夫妻と場を盛り上げようとしている智世。そして、緊張感の中に身を置く朔だ。ここ1週間で、みるみる表情が引き締まっていくのを周囲が感じていた。そして、誰よりもその変化に驚いていたのは、ずっと一緒にいる亜紀だった。

智世「あんたたち!しんみりしてんじゃないわよ!明日出発するっていうのに。ほら飲め!飲みなさいよ!」
亜紀「人格変わってるよ、智世。」
智世「だってこいつら、ここに来るまで『盛り上げるのは任せろ!』って言ってたくせに、いざとなったらこの通りでしょ。本当にがっかりだわ。」
朔「・・・・・・よせよ、智世。」

すでに何かに戦いを挑むような真剣な眼差し。それを見た瞬間の智世は、さらに言いかけていた言葉を飲み込んだ。

亜紀「朔ちゃん・・・まだ、肩に力が入るのは早いよ。」
朔「・・・・・・ゴメン。」
潤一郎「ところで朔太郎、今のままでも、お前の様子から真剣さは伝わってくる。しかし、きちんとお前から挨拶しておくべきだ。」
真「お父さんのおっしゃる通りだぞ。俺も、朔の口から聞きたいのだが?」
朔「分かりました。」

すると朔は“スッ”と立ち上がり、話し始めた。

朔「亜紀を助けたいという気持ちからこの道を選び、準備してきました。そして、その道を歩くことを許されるかどうか、半年後には結果として出ます。今まで、皆にはたくさん支えられてきました。俺にしても亜紀にしても・・・・・・。明日からしばらく宮浦を離れます。東京でもう一度精いっぱい頑張って皆の前に戻ってきます。その間、また迷惑を掛けるかも知れませんが、いい結果を持ち帰りたいと思いますのでよろしくお願いします・・・・・最後に・・・俺がいない間の亜紀を頼みます。」

神妙な面持ちで聞いていた龍之介とボウズが拍手を始めた。同時に綾子も・・・。
このあと龍之介とボウズはいつもの調子を取り戻し、家の中は大いに盛り上がったのである。
           ・
           ・
           ・
龍之介「じゃあな、おまいさん。」
智世「頑張りなさいよ!」
ボウズ「期待してるからな!明日気をつけてな。」
朔「頑張ってくる。またここで。」

3人が帰宅した。3人とも仕事があるために明日の見送りには来れないのだ。しばしの別れだ。

綾子「じゃあ、朔君・・・。」
朔「はい。」
綾子「半年だけだからといって無理はしないようにね。勉強を頑張るのは当然だけど、体を壊したら元も子もないわ。休む時はしっかり休みなさいね。」
朔「わかってます。」
真「頑張れ。ここが最後の頑張りどころだぞ。」
朔「はい。」
綾子「それでは、失礼します。」
潤一郎「今日はわざわざありがとうございました。」

廣瀬夫妻が帰宅した。
後片付けをする潤一郎と富子。朔は、明日の準備の最終確認のために部屋に戻る。そこには亜紀がいた。真と綾子の許可を得て今日は松本家に泊まることになっていた。

朔「何してるの?」
亜紀「見て分かるでしょ?明日の荷物の準備よ。」
朔「えっ!?まさか、亜紀も一緒に東京に行くとかってわけじゃないよね?」
亜紀「もう!何言ってるのよ!朔ちゃんの荷物に決まってるでしょ!・・・(できることなら、一緒に行きたいよ・・・。)」

切ない気持ちを心の奥底にしまいこみ、憮然として朔の目を見ながら言った。
しかし・・・・・・。

朔「もう準備は済んでるよ。」
亜紀「えっ?」

朔は言いながらバッグを指さす。亜紀がその方向を見ると、かなりの物が詰まっているのであろう黒いカバンが置いてあった。
亜紀は何も言わずに“ペロッ”と舌を出し、すぐに、今用意していたものを片付けた。

亜紀「・・・・・・・・・・・・。」
朔「・・・・・・・・・・・・・。」

2人の間に会話は無かった。離ればなれになる期間は半年だけ。しかし、亜紀の心境は朔が想像しているものより切ないものだった。

亜紀「明日のお昼と夕ご飯は、私がお弁当を持たせてあげるから。その後は自分でやってね。」
朔「ありがとう。」
亜紀「・・・ちゃんと食べてね。試験前に体を壊したら元も子もないんだから。それと、しっかり睡眠時間を取ることも忘れずにね。」
朔「心配性だね。そんなに信用ない?」
亜紀「そういうことじゃないけど・・・やっぱり心配。」
朔「亜紀より、料理の腕だけは上だと思うけど・・・。」
亜紀「何よ!どうしてそんな事が言えるの?人が心配してるのに!」
朔「ゴ、ゴメン・・・。」

普段ならこの程度の冗談交じりの憎まれ口をたたいても亜紀は全然怒らないのだが、本気で怒った亜紀に少なからず驚いた朔は、ナーバスになっている亜紀に気付いた。
この後、会話が無いまま時間が過ぎた。再び口をきいた時は、風呂あがりのベッドの上だった。

亜紀「さっきはゴメンね。ちょっと言い過ぎたね。」
朔「こっちも悪かったよ。・・・言いたいことがあるなら今のうちに聞いておくよ。」
亜紀「じゃあ、約束してもらおうかな。」
朔「浮気はしないしHな本とかも買いません。どうぞご安心を、姫。」

らしくないくらいにおどけて言った。少しだけ嫌味を込めて・・・・・・。

亜紀「誰が姫?」
朔「亜紀。自分で言ったこともあるじゃない。“宮浦の姫”って。」
亜紀「それは・・・あの時の雰囲気に合わせてっていうか・・・そのくらいわかるでしょ?」
朔「まあね。ちょっとからかってみたくなったんだ。」
亜紀「あ、ひどい。これから半年間寂しい思いをする私に向かってそういうことする?・・・心優しいはずの朔ちゃんならそういうことはしないと思ってたけど・・・。将来の私の旦那様って朔ちゃんじゃないのかも・・・。そうしたら、私をもらってくれる男の人なんていないだろうから、私は一人で寂しく死んでいっちゃうんだろうな・・・・・。」
朔「話が飛躍しすぎ。それに“旦那様”って・・・。まだ婚姻届出してないじゃない。あと将来の話は、俺が国家試験を通って亜紀を養っていけそうだと思えてからの話だよ。」
亜紀「じゃあ、朔ちゃんは私と結婚するんだ?そうだよね?」
朔「え?・・・・・・・・・・。」

気が付けば墓穴を掘ってしまっている朔。こうなってしまっては亜紀のペースになってしまう。案の定、亜紀が朔をたたみかけ始めようと、朔に向き合い居ずまいを正した。

亜紀「プロポーズして!」
朔「い、今!?早いって!」
亜紀「7年前にしてくれたじゃない。私のこと嫌い?」
朔「・・・・・・とにかく!俺はまだできない!亜紀と同じで自立してからだよ。」
亜紀「一言だけ言ってくれればいいのに。それだけで随分違うんだけどな。」

亜紀の勢いは止まらない。朔がタジタジになるほど、今は亜紀は朔のことが好きで好きでしょうがない様子である。朔が亜紀を想えば想うほど亜紀の朔への想いは強く大きくなってきた。それは今でも変わらない。
その後、明日に備えてベッドに潜り込んだ。もちろん手を取り合って。
朔「・・・・・・・・・・。」
亜紀「どうしたの?」
朔「久しぶりだなと思ってさ。2人きりでこうやるの。」
亜紀「そうだよ。朔ちゃんのそばにいてこうするのって本当に久しぶり。」

亜紀がゆっくりと朔の顔のすぐ下に顔を寄せた。
半年間会えないことが直前に迫ってあらためて気付くお互いの存在のありがたさ。
病気を経験して、お互いに当たり前であることの大切さを知った。そして、そのことに感謝の気持ちを持って日々を過ごしてきた。そのつもりだった。しかし、そういう気持ちに感謝し足りないかもしれないと感じた2人だった。気が付けば、2人でいるのが当たり前のこととして、感謝することを忘れて過ごしてきたのかもしれない。だからこそ、今夜は思いやろうとお互いに感じた。

朔「これでいいよな?」
亜紀「もっと・・・強くして欲しいな。」
朔「分かった。」

朔は、亜紀の希望を叶えようと思いっきり抱きしめていた。少し痛いのではと思えるほど・・・。今までの人生で、この瞬間ほど朔のぬくもりを強く感じたことはなかった。亜紀は感謝した。朔の両腕の中で・・・・・・。

翌日・・・・・・。
宮浦駅のホームのベンチに座る若い2人。
亜紀が朔に甘えるようにして右肩にもたれかかっている。

亜紀「はい、これ。」

そう言って、少し大きめの包みを朔に渡した。中身は昨夜約束していた弁当だ。朔は「ありがとう。」と言い、受け取った。
その時、電車が遠くから来るのが分かった。朔が立ち上がる。

亜紀「気をつけてね。」
朔「一勝負してくるよ。」
亜紀「やだ、なに言ってるの?フフ・・・。」

そういうと、亜紀がいきなり朔の腕の中に飛び込んできた。朔は、驚いて固まってしまう。

亜紀「私から言いたいことはたくさんあるんだけど、今は言わないね。そのかわり、帰って来たらたくさんデートしよう?」
朔「行きたい所を考えておいて。」
亜紀「うん・・・・・・。」

朔の肩のあたりに顔をうずめる亜紀・・・・・・。電車がホームに入ってくる時までそのままだった。

亜紀「弱いなぁ・・・私。前よりすごく弱くなっちゃった・・・・・・・。」
朔「ただ無理をするだけだったら、強いとは言えないんじゃないかな?そのままの亜紀でいいよ。」

そう言われて亜紀は体を離した。笑顔を見せている。
朔は到着した電車に乗り込んだ。

亜紀「朔ちゃん頑張ってね。私も頑張るから・・・行ってらっしゃい!」
朔「無理するなよ。行ってきます!」

ドアが閉まり、東京へと向けて走り始めた電車を亜紀は、見えなくなるまで見送っていた。
           ・
           ・
           ・
車内・・・。
亜紀とのしばしの別れを惜しむ暇もなく、すぐに医学書に目を通す朔。
その時、脱いだ上着の肩のあたりに2ヶ所の跡を見つけた。何やら水滴でもついたかのようである。「こんなところに水が垂れるはずないな・・・なんだろう?」などと考えたその時、朔の脳裏には、さっきの亜紀の行動が浮かんだ。

朔「まさか・・・!」

窓の外には過ぎ去っていく宮浦の景色。思わず進行方向とは反対側を見つめた。・・・・・・朔は確信していた。肩に付いた水滴は、亜紀の涙だということを・・・。

続く
...2005/06/26(Sun) 01:12 ID:7mCvsFBE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 たー坊様
 遅くなりましたが,パート3突入おめでとうございます。
 でも,パート3突入とともに,サクは国家試験のために上京ということで,宮浦−東京の二重生活に逆戻りなのですね。もちろん,目的と希望を持っての上京ですから,「マイナス」とか「アンラッキー」という言い方は適当ではありませんが,ここをくぐり抜けた後の2人には,より大きな「ラッキー」が訪れることを期待しています。
 それにしても,亜紀の態度からは,しばらく離れ離れになる切なさがひしひしと伝わってきましたが,サクの一言一言に揚げ足取りとも言えるような突込みを入れるところは父親仕込みなのでしょうか(^^ゞ
...2005/06/26(Sun) 01:56 ID:Q00/ZLOM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:グーテンベルク
 たー坊様へ
おはようございます。グーテンベルクです。パート3に入ってからストーリーを一気に読ませていただきました。医師になるための試練とはいえ、切ないですね。でも将来の幸せのために2人とも頑張ってほしいですね。どのストーリーも大変素晴らしいとおもいました。これからも頑張ってください。
応援しています。
 
 今回の物語を読んでいる時、スキマスイッチの 「奏(かなで)」がラジオから流れてきました。
その歌の歌詞では彼女の方が遠くへ行くということで逆ですが・・・ぐっときました。
 
...2005/06/26(Sun) 05:46 ID:ENDka5LE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
季節的には秋に入ったのですね。上記2名様に同じくちょっぴり切ないムードでしたが、今後のために朔と亜紀には頑張ってもらいたいですね。
...2005/06/26(Sun) 08:45 ID:Sl.jkMbw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
寂しさのあとには、輝くような季節がやってくることを想像しております。
がんばれ、朔と亜紀。
...2005/06/26(Sun) 23:51 ID:1YGBMVdw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:北のおじさん
たー坊様。

国家試験を控えた朔を寂しい思いをしながら送る亜紀の姿に涙を誘われました。
朔と亜紀の二人に素晴らしい未来がある事を祈ります。

ガンバレ、朔ちゃん。
...2005/06/27(Mon) 00:20 ID:J2/IsRdY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:管理人
たー坊さま執筆お疲れ様です^^
PART2を過去ログに送らせてもらいましたのでお知らせしておきますね。
http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=8806&pastlog=14
...2005/06/27(Mon) 01:00 ID:qUMjFm/w    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ゴン41
たー坊様。
 こんばんは。又、しばしのお別れですね。涙が出てるのに、別れ際は笑顔って、亜紀は健気
...2005/06/27(Mon) 23:16 ID:VXW8b.eY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ゴン41
  たー坊様。
 すみません。途中で送信してしまいました。
涙が出てるのに、別れ際は笑顔。亜紀は健気ですね。お互いにとても深い愛情で、気持ちが通じあってても女性のそういう所って、更に惚れ直してしまいます。列車内で亜紀の涙をみつけたなら、私なら引き返してしまい、明朝又、出発いたします。(笑
 しばらく寂しい日々続くと思われますが、続編楽しみにしております。
...2005/06/27(Mon) 23:32 ID:VXW8b.eY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
にわかマニア様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。おかげ様でパート3に突入することができました。本当に皆様のおかげです。
揚げ足をとる突っ込みは、真ゆずりというものは当然のことと思いますが、亜紀自身が朔と一緒にいつづけていることも影響していると思います。
次回もお読み頂ければ幸いです。


グーテンベルク様
お忙しい中お読みいただきましてありがとうございます。おかげさまでパート3に突入できました。
もちろん、亜紀にとっては辛いこの時期を乗り越えたら、幸せが待っていることでしょう。2人には頑張ってもらいましょう。
お互いに頑張っていきましょう。

SATO様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
朔には是が非でも受かってもらい、亜紀を安心させて向かえに行く準備の前段階に進んでもらおうかなと思ってはおりますが・・・・・・。
次回もお読み頂ければ幸いです。

朔五郎様
おっしゃる通り、春が来たときには、朔は宮浦に帰って来れる様にしてもらいたいと思いますが、なにぶん、私自身が天邪鬼なものでして・・・・・・。
これからの展開をを楽しみにして頂ければ幸いです。

北のおじさん様
お忙しい中お読みいただきましてありがとうございます。
これからは、2人にとっての踏ん張りどころです。朔は見事に結果を出すことができるのか?そんな朔を亜紀はどう支えるのかを楽しみにしていただければ幸いです。

管理人様
わざわざお知らせいただきましてありがとうございます。
私ごときにこのような場を提供して頂きまして、本当に感謝しております。
拙い物語ですが、お読み頂ければ幸いです。

ゴン41様
おっしゃるとおり、亜紀は本当に健気に思えます。そういう書き方をしたのは私ですが・・・・・・。
朔には、亜紀のために合格を勝ち取らないと、思いっきり皮肉を言われそうですが・・・。
次回もお読み頂ければ幸いです。
...2005/06/30(Thu) 19:33 ID:sc4QNN/Y    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
読者の皆様

こんばんわ。たー坊です。
いつもお読みいただきましてありがとうございます。

さて、パート3を立ち上げた時にパート2へのリンクを貼らせて頂きましたが、過去ログ行きに伴いまして、変更になりましたことを管理人様がお知らせ下さいましたので、あらためてリンクを貼らせて頂きます。

パート1↓

http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=4038&pastlog=11

パート2↓

http://www.alived.com/cgi/yyai/yyplus.cgi?mode=past_one&no=8806&pastlog=14
...2005/06/30(Thu) 19:37 ID:sc4QNN/Y    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
すっかり暗くなった道を歩く朔。
一番は最初に上京した時には、全ての気持ちが亜紀に向いていた。常に病状を気に掛け「今日も無事でいてくれ」と願った日々・・・。全てはそこからだった。
今回は少し違う。もちろん亜紀が全てではあるが自分のためでもある。「頑張らないといけない。」そう思えるエネルギーの源はもちろん亜紀だ。今日亜紀が、故郷を離れる時には決して見せなかった涙は、そう見せかけただけだった。上着に残る涙の跡を見つけた時には、亜紀の姿はもう無かった。
後ろ髪を引かれつつも、前向きに最後の試練を乗り越えて、胸を張って亜紀に会おうと決心し、どこか懐かしさすら感じながら歩きなれた緑道をアパートへと向かった。

大家「おかえり、かな?」
朔「ご無沙汰してます。また、お世話になります。」

アパート近くにある、大家さんの家に寄った。久しぶりの再会に少し嬉しくなる朔。

大家「はい、鍵だよ。電気もガスも使えるはずだよ。」
朔「すみません。いろいろ。」
大家「気にしなくていいよ。それじゃ、これから半年間頑張ってね。」
朔「はい。」

鍵を受け取った朔はすぐに部屋へと向かった。
鍵を開け、部屋の中の電気をつけた。前日までに送ったダンボール箱が浮かび上がる。大家さんに予め受け取ってもらっていたのだ。すぐさま必要な荷物を開けた。
時刻はすでに7時を回った。空腹の朔は亜紀の手作り弁当を一口ずつ味わいながら口に運んだ。

朔「うまいな・・・・・亜紀、ありがとう。」

冷めているハズの弁当だったが、とっても温かく感じられた。しかし、それも食べ終えると一気に殺風景な部屋に気付く。色も褪せて、真冬でもないのにやたらと寒くも感じた。理由は簡単だった。亜紀がいないからだ。

朔「半年間の我慢だ。」

朔はそう言い聞かせた。
そのあとは、何かを振り切るように、荷物の片付けもそこそこに勉強を始めた。
そして気付けば12時を回っていた。寝る前に弁当箱を片付けようと思い立ち、台所へ。洗おうとしたその時、弁当箱を包んでいた布と弁当箱の間に、ビニール袋に入った封筒を見つけた。

朔「何だろう?」

呟きつつ封を開ける。
中には亜紀からの手紙が入っていた。朔は弁当箱を洗うことも忘れて手紙を読みはじめた。


〜亜紀からの手紙〜
 朔ちゃんへ。
この紙を読む頃、すでに東京の部屋にいると思います。私と朔ちゃんが3週間の新婚生活・・・なのかな・・・?一緒に暮らした部屋にいると思います。
・・・きっと、同じ部屋でも雰囲気が違って感じると思うんだ。・・・私も同じことを経験したから・・・。あれは、朔ちゃんが初めて上京した時・・・ビニールカーテン越しにキスをしてくれた後、残された私の目に映る全ては色褪せて見えたの。朔ちゃんが修学旅行に撮って来てくれたウルルの写真さえも・・・。好きな人がそばにいないっていうのは、たとえ死別でなくてもとても辛いんだって、当たり前だけど思ったのね。でも今回は、そんな絶望のようなものは感じないんじゃないかって思ってる。寂しいけど、乗り越えられるって・・・。今日、上京するわけだけど、朔ちゃんのかわいい寝顔を見たら不安なんてどっかに飛んでっちゃった。朔ちゃんも不安はあると思うけど大丈夫だよ。朔ちゃん強いから。私は弱くなっちゃたけどね(苦笑)朔のせいだよ!
 朔ちゃんには勉強に集中して欲しいから、私からは電話しないね。もしも朔ちゃんが寂しいとか辛い時に、ただ、そばにいることさえできないけど、いつでも電話ちょうだいね。声だけなら、いつでも私はそばにいることができるよ。私もそばにいたいから。
・・・本当は、朔ちゃんの腕の中にいたいけどね!腕の中にいる時って、私がどれだけ安心して、落ち着くことができて、幸せかって分かってないでしょ?それだけ温かいんだよ。だから、帰ってきたらすぐに抱きしめて欲しいな・・・・・・・・・。
 あと、私の手料理を時々送ってあげることに決めたんだ。美味しくないかもしれないけど・・・・・・。温めたらすぐに食べられるようにしてあげるから。不味くても我慢してね(苦笑)
 最後に・・・好きな人がいないのは寂しいことだけど、だからこそ、普段は伝えられないことも伝えられると思うの。それは・・・・・・また今度ね。テープにでも入れて送るから、それをお楽しみに!!
じゃあね朔ちゃん!大好き!!!
             未来の・・・・・・松本亜紀より・・・なんてね(照)


手紙を読み終えた朔の顔には苦笑いが浮かんでいた。その文面に温かさも感じながら、亜紀の照れた笑顔が想像できる。
気が付けば、部屋の中には色が戻っていた。

朔「弱くなんかなってないって。相変わらず強い。尻に敷かれる訳だ!」

朔は苦笑いを浮かべて一人納得したように呟いた。
封筒に手紙を戻すと、すぐに弁当箱を洗い、再び勉強に励んだ。
こうして、最後の試練に向け、東京では朔が、宮浦では亜紀が新たなスタートを切ったのであった。
                    ・
                    ・
                    ・
師走・・・。

久保「どうやら実習の忙しさを言い訳にせずに、知識の方も怠ってはいなかったようだね。」
朔「時間があるときに、医学書に目を通していただけなんです。」
久保「いやいや。何事もそういう積み重ねが大事なんだよ。継続は力なりだよ。」

教授室に呼ばれた朔は久保教授と話をしていた。
稲代総合病院での特例長期実習で体験したことを教授に報告し、これからにおけることに相談に乗ってもらっていた。

久保「郵送してもらったレポートはしっかりと読ませてもらったよ。そんなに枚数としては多くないが、実によくまとめられていて内容もしっかりしていたよ。」
朔「ありがとうございます。」
久保「それで、松本君に聞きたいのだが・・・、私達医師にとって、患者さんと向き合う時、何が一番大切だと思う?」
朔「・・・・・・できる限り、話すことだと思います。やはり信頼関係が第一だと思いました。治療の方針はもちろんですが、関係のない話をすることも、信頼関係を築く上で大事なことではないでしょうか。」
久保「そうだね。簡単に言うとそういうことだよ。その患者さんの悪い部分だけを診るのにしても、我々の方が医療に関する知識は豊富なのだから、それをしっかりと説明しないといけない。高飛車に『任せておけ。』などと言うのは、その患者さんに希望どころか不安を植え付けてしまうからね。松本君、私が一番分かって欲しかったのはそこなんだよ。よく気付いたね。」
朔「いい機会を与えていただいてありがとうございました。」

朔の言葉に満足そうに頷く久保教授だった。

久保「さて、あとは卒業試験だね。君の心配はしていないよ。今すぐ受けても大丈夫だ。私が保証するよ。国家試験も大丈夫だ。・・・・だからといって気を抜くんじゃないぞ。・・・といっても、たまの息抜きは必要だけどね。」
朔「はい。」

朔は少しだけホッとした。やはり、そういうふうに太鼓判を押してもらえるとことに悪い気はしない。
部屋を後にした朔は、久しぶりに学生食堂に顔を出した。

小林「松本君!」
朔「あれ?どうしたんだ?そっちは、就職してる筈だろ?なんでここにいるんだよ?」
小林「かつてのサークルの集まり。皆でどこか行こうかって。」
朔「だからって母校の食堂に集まることはないだろ。」

テーブルにはかつての同期生が集まっていた。とはいっても、亜紀のために頑張り続けてきた朔にとって、サークルなどほぼ無縁のものだった。登録だけはしてあったものの、活動に参加したことなど無かった。
その時、朔の顔なじみの学生達が言った。

吉岡「で?どうなんだ調子は?」
朔「どうもこうもないよ。こっちは卒業試験も国家試験も控えてるんだから。」
吉岡「医学部は遊ぶ暇無しか。俺達、文系でよかった。」
朔「皮肉かよ?」
小林「私達も大変なの!社会人になったはいいけど、どんどん景気は悪くなるし・・・。しっかりしないといつクビにされるか・・・・・。」
吉岡「そういうことだ。松本、お前が羨ましい。就職先もこの間まで行ってた病院で決まりだろ?やりたいことを仕事にできる人間なんて世間に一握りだ。お前は幸せ者だよ。」
朔「吉岡、さっき言った言葉はどこに行ったんだよ?ま、でも・・・幸せ者か・・・そうかも。」
小林「彼女も待っているんでしょ?その人のためにも頑張らないと。」
吉岡「そうか、アキさんだっけ?助かったんだったな。そっかそっか・・・・・。んっ?ってことはお前、無事に医者になったら結婚すんのか?」
朔「まだしねぇよ。亜紀にもやりたいことがあるから、それとの兼ね合いだね。まあ、でも将来は・・・。」

その言葉を聞いた吉岡は立ち上がり、いきなり朔にヘッドロックをしながら叫ぶように言った。広い学生食堂に吉岡の大きい声が響く。

吉岡「このやろ〜!!羨ましすぎんぞ!!」
朔「ちょ、待てって!!お前確か高校時代は柔道部だろ!?イテッ!!ギブギブギブ!!」
吉岡「俺なんかモテナイのに!なんでお前だけ〜?」

小林と吉岡。朔にとって東京で心許せる、たった2人の友人だ。この2人にだけは、亜紀のことを喋っていた。2人は他学部のために朔より2年早く卒業していて、現在は社会人として日々奮闘している。だから、今日この2人に会えたことは朔にとっても嬉しいことだった。
それから久々に再会した3人は、ほんの少しだけ食堂で談笑した。
子供から大人への過渡期を過ぎた2人と、大人ではあるがどこか子供?の朔。
最愛の人のために苦労続きだった朔が、ようやく自分のための階段を登り始めたことを小林と吉岡は感じ取っていた。
                   ・
                   ・
                   ・
12月24日・・・クリスマス・イヴ。

亜紀「ねえ、聞いてる?」
朔「うん?」
亜紀「ほら!聞いてないじゃない。」
朔「なんだっけ?」
亜紀「もう〜!!」

朔が自分の誕生日以来、亜紀に連絡を取っていた。
亜紀が電話口で膨れている。

亜紀「お正月!お正月気分に浸れるものを送ってあげたいけど、何がいい?って聞いてるんじゃない!」
朔「じゃあさ、お袋に頼んで餅でも送るように頼んでくれない?」
亜紀「いいけど・・・朔ちゃん、おじさんたちに電話してないの?一昨日、行ったんだけど、おばさんが私に朔ちゃんのことを色々と聞いてきたよ?」
朔「ああ・・・そういえばしてないや。」
亜紀「もうっ!・・・仕方ないなぁ。今年も年越しパーティーするから、その時に電話してよ。私も行くから。」
朔「悪いね、いつも。」
亜紀「ホントだよ。」

そうは言うものの怒ることはない。久しぶりに聞く声は2人を元気にさせていた。

続く
...2005/06/30(Thu) 19:56 ID:sc4QNN/Y    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。
早速お話を読みました。

東京に着いてから読んで貰おうと、弁当箱を包んでいた布と弁当箱の間に手紙を入れるなんて、亜紀さんも泣かせる事してくれます。
手紙の内容も、朔太郎と心がつながっていなければ書けない事ですよね。
それに最後の「未来の松本亜紀」もいいですね。

以前書きました、7月2日開設予定の私のHPですが、いつでも公開できる準備ができました。
しかし、まだ未完成なので、開設後も少しずつHPを作っていきたいと思っています。
HPの名前はシンプルに「朔太郎と亜紀の部屋」です。アドレスは、後日お知らせします。
もし宜しければ、おいで下さい。

では、次のお話を楽しみにしています。
...2005/06/30(Thu) 20:32 ID:CCN2CvVM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
今回は朔が上京してからの話だった訳ですが、悪戯好きの亜紀らしいところを表現させて頂きました。
これからも2人の幸せな日々は続いてくれることを、私自身期待しております。
次回もお読み頂ければ幸いです。
...2005/07/04(Mon) 00:19 ID:UEmVt0kY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
読者の皆様
こんばんは。たー坊です。
いつもアナザーストーリーをお読み頂きましてありがとうございます。さらに、感想も頂きまして、大変励みになっております。重ねて御礼申し上げます。

さて今回、私事で申し訳ありませんが、身内が怪我で入院してしまいました。私自身、急に忙しくなっております。
それに伴いまして、当分の間の執筆を中断させて頂きたいと思います。
本当に申し訳有りませんが、ご理解いただけるようお願いいたします。
...2005/07/04(Mon) 00:27 ID:UEmVt0kY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
>身内が入院

 大変ですね。おだいじに。
 早く快復されるといいですね。
...2005/07/04(Mon) 03:21 ID:ckzYHrgY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
大変なことになりましたね。
身内の方の回復をお祈りいたします。
...2005/07/04(Mon) 08:35 ID:iArl0ps2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:Marc
たー坊 さま

掲載いつもありがとうございます。
今は大変なときと思われますが、御自分
の体調にもお気をつけ下さい。
お身内の方が早く快復されますように。
...2005/07/04(Mon) 12:38 ID:S1dreSQM <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ゴン41
  たー坊さま。
 こんばんは。大変ですね。お大事になさって下さい。又、落ち着かれてからゆっくり執筆して下さい。「アナザーファン」皆でのんびり待ってます。
...2005/07/04(Mon) 23:10 ID:2y4KKNzw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
にわかマニア様
こんばんは。わざわざ気遣っていただきましてありがとうございます。
気長に頑張りますのでよろしくお願いします。

SATO様
いつも励ましていただきましてありがとうございます。
今回は、私自身も驚いております。少しずつ再開できるように頑張ります。

Marc様
お久しぶりです。いつもお読み頂けているようで、ありがとうございます。
今回、こういう形になってしまい、私自身も落胆しておりますが、なるべく早い時期に再開できるように頑張ります。

ゴン41様
こんばんは。いつも励まして頂いているのに、今回はこういう形になってしまい申し訳ございません。
なるべく早く戻ってこれるように頑張りますのでよろしくお願いします。
...2005/07/04(Mon) 23:26 ID:UEmVt0kY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
このたびは、大変なことになられたようで、心よりお見舞い申し上げます。
一日も早いご回復をお祈りいたします。
...2005/07/05(Tue) 00:09 ID:i75Gqpho    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
このたびはこういうことになってしまいまして申し訳ございません。私も本人も晴天の霹靂でした。
どのくらい中断するかはメドが立っておりません。しかし、できれば今月中にスローペースでも再開できればと思います。
再びお読み頂ければ幸いです。
...2005/07/06(Wed) 21:43 ID:5qnDRWFw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
身内の方に大変な事があったそうで、お見舞い申し上げます。
お話の方は、無理をせず、ゆっくりと続けてください。

それから、私のHPにも来て頂いてありがとうございました。
少し落ち着きましたら、時々覗きに来て下さい。
...2005/07/06(Wed) 23:01 ID:eKEEpk3w <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様
ご理解いただきましてありがとうございます。
マイペースで頑張ります。

さて、先日はお邪魔させていただきましたが、非常にこれからが楽しみなHPだと思いました。
お互いに頑張りましょう。
...2005/07/08(Fri) 21:18 ID:BMZMdCh.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
1995年元旦。
クリスマス・イヴに亜紀と約束したとおりに、朔は皆が集まっている写真館に電話を入れていた。

亜紀「はい、松本写真館です。」
朔「・・・・・・・何で亜紀が出るの?」
亜紀「細かいことはいいじゃない。時間が勿体ないと思うからさっそく皆の声を聞いてもらおうかな。・・・あ、その前に、今年もよろしくね。」
朔「うん。こちらこそ、よろしく。」

朔の声を聞き終えた亜紀は、すっかり盛り上がっている皆の方に受話器を向けた。

亜紀「お待たせしました。朔ちゃんです!」
龍之介・ボウズ「おおお〜〜!!!!」
朔「うっ!!うるせっ!声がでか過ぎるんだって!」
龍之介「頑張ってるか〜い?おまいさ〜ん。」
ボウズ「こっちのことは心配すんな〜!!皆、何の問題なく元気だぞ〜!」
智世「・・・・・・サク〜。ゴメンね〜。最初から酔っ払ってて・・・。」
朔「いつものことだろ。智世、あんまり飲ませられないように気をつけろよ。」
智世「亜紀と2人で気をつけてるから大丈夫。それに、亜紀のお父さんがいるから。」
朔「あ、おじさんがいるなら大丈夫だね。」
智世「そういうこと。じゃあ、おばさんに代わるね。」

智世が富子に受話器を渡した。

富子「ちゃんと食べてるんだろうね?」
朔「大丈夫だって。」
富子「それならいいよ。で、食材は?お米とかは足りてるんだろうね?」
朔「今のところ大丈夫。近くのスーパーでも安くしてるから問題ないよ。」
富子「わかった。あ、ちょっと待って。」
綾子「もしもし?朔君?」
朔「あ、明けましておめでとうございます。」
綾子「おめでとう。今年もよろしくね。」
朔「こちらこそ、よろしくお願いします。」
綾子「何かできることがあったら遠慮なく言ってね。できることはしてあげるから。」
朔「ありがとうございます。でも、今は大丈夫です。ご心配お掛けしてすみません。あ、おじさんにかわってもらえますか?新年の挨拶をしないと・・・・・・。」
綾子「分かりました。あなた。」

綾子から真に受話器が渡された。

真「明けましておめでとう。」
朔「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
真「よろしく。・・・どうだ、勉強の方は?」
朔「おかげさまで、教授のお墨付きを頂いてます。今は気を抜かずに頑張ろうと思ってます。」
真「うん、それならいいな。プレッシャーを掛けるわけじゃないが、いい結果を楽しみにしてるよ。」
朔「はい。頑張ります。」

頼もしい朔の声を聞いた後、真が電話口に亜紀を呼んだ。

真「挨拶はできるようになってきたみたいだな。」
亜紀「何のこと?まぁ、いいや。・・・・・もしもし?」
朔「もしもし・・・・・どうなの?最近。」
亜紀「朔ちゃんがいないだけ。あとは変わりないよ。心配しないで。」
朔「そっか。じゃあ、また今度。」
亜紀「また、電話ちょうだいね。」
朔「うん。」

亜紀もこれ以上は勉強時間を削ってしまうと思い、もっと話たい気持ちを抑えて受話器を置いた。
そんな思いを知ってか知らずか、潤一郎が亜紀に声を掛けた。

潤一郎「亜紀ちゃん、少しだけ飲もうか?」
亜紀「じゃあ、一口だけ。」

その言葉を聞いた潤一郎が亜紀のコップの注ぐ。そして、ゆっくりと話し始めた。

潤一郎「朔太郎は、亜紀ちゃんのために頑張ってきたから、自分のために頑張れるかどうか心配だったんだけどね・・・その心配はなさそうで安心したよ。」
亜紀「朔ちゃんは大丈夫ですよ。」
潤一郎「うん。・・・亜紀ちゃん、うちのバカのことよろしく頼むよ。」
亜紀「はい。」
新年会はそのまま盛り上がり、夜は更けて行った。
                   ・
                   ・
                   ・
そして、1995年1月末日。

すでに夜になっていた。大学の図書館で勉強をし終えた朔は、上着を着て、首に亜紀の編んでくれたマフラーを巻いて構内を出た。今にも雪でも降るのではないかと思えるほど気温は下がり、夜でもはっきりと分かるくらいに空は曇っている。
乗りなれた電車を乗り継ぎ、どこにも寄ることなく家路についた。
部屋の入り口に立った朔。いつもの通り鍵を探して上着やズボンのポケットをゴソゴソ・・・・・・。その時アパートの塀の向こう側から、朔の帰りを待っていたように人影が近づいてきた。

朔「寒い・・・どこだ、鍵は?」

などと気配に気付かず相変わらずポケットをゴソゴソ・・・。
その時、近づいた気配が朔の右肩を“ポンポン”と叩く。朔は「亜紀みたいだな・・・。」と思い、「大家さんかな?」とも思いつつ振り返ったその時、“ブニュ”と、白く細い人差し指が朔の頬にうずまる。

亜紀「フフッ、朔ちゃん。」
朔「え・・・なんで???」

間違いなく亜紀だった。ニットの帽子をかぶり、手袋を着けてしっかりと防寒対策をしていた。両手には駅前のスーパーの袋が握られている。4ヶ月ぶりに再会した亜紀は、前よりも髪が伸び、少し痩せたように思える。首には朔のマフラーが巻かれていた。

亜紀「寒い。早く中に入ろうよ。」
朔「あ・・・ああ。」

少し“ポカン”としながら、あれだけ見つからなかった鍵をすぐに探し出し部屋に入り、暖房を入れた。
冷蔵庫に買って来た物を入れたあと、亜紀は散らかっている部屋を見た。

亜紀「ちょっと、これ。」
朔「仕方ないじゃない、忙しいんだから。いや、それよりどうして?」
亜紀「来ちゃった・・・・・・。」

亜紀は、防波堤で朔に「好き」と告白した時と同じように少し俯きながら、ハニかんでいる様子を見せながら、少女のように可愛らしく言った。

朔「いや・・・『来ちゃった。』って・・・・・・。」
亜紀「会いたいから来ちゃった。」
朔「だって、学校は?東京までの電車賃は?」
亜紀「学校はテストも終わって、明日から春休みでしょ!・・・お金は、朔ちゃんが行ってからアルバイトしてたの。」
朔「バイト!?だって体は!?」
亜紀「全然平気だよ。正直に言ったら、『無理するな。』って怒られるかと思ったから言わなかったけど・・・。」
朔「何のバイト?」
亜紀「スケちゃんに紹介してもらって漁協の事務で書類整理のバイトをしてたの。スケちゃんのお父さんのおかげで、普通よりお給料も多くしてもらえて・・・。時間も私の体調が万全な時にさせてもらえたの。」
朔「そう・・・・・・・・・・。」
亜紀「怒ってる?」
朔「怒ってないよ。」
亜紀「もし怒ってても許してね。私が自分で決めてやったことだから。・・・それに、もちろん会いたいことが一番なんだけど、朔ちゃんを助けたいと思ったんだ。」
朔「何を助けるんだよ・・・・・?」
亜紀「・・・勉強のお手伝い。今日から家事一切を私が引き受けるから。朔ちゃんは、勉強に専念して欲しい。もちろん、私も甘えたりしないから。」

少し強がってみせた。亜紀は、朔の時間を削ることのないように、全てがひと段落してから甘えさせてもらおうと思っていた。それまでは支え続けることを決意して。
しかし・・・

朔「甘えろよ。」
亜紀「えっ?」
朔「亜紀泣いただろ?俺がこっちに来る時に。だから甘えろよ。」
亜紀「あ、ばれちゃってた?」
朔は思い出していた。上京する時に亜紀が自分の腕の中で涙したことに、すぐには気付かなかったことを。気付いた時には車内にいて亜紀の姿が無かったことを。
そんな朔をよそに、おどけるような笑顔を見せる亜紀。
その時、朔が亜紀を包んだ。

亜紀「ハァ・・・・・・こういうことするから私が弱くなっちゃうんだよね・・・。やっぱり朔ちゃんのせいだよ。」
朔「やめる?」
亜紀「それはもっと嫌なの。1分だけでいいからこのままでいてくれる?」

そのまま朔は亜紀を抱きしめ続けた。
亜紀は朔から離れ、満面の笑顔を見せた後、さっきの食材を使って夕食の用意を始めた。

亜紀「はい!朔ちゃんは勉強して!」
朔「じゃあ、これから国家試験まで頼むよ。」
亜紀「任せておいて。これでまた新婚生活がおくれるね。(嬉)」

満面の笑顔を朔に見せて台所に立った亜紀を見つめてから机に向かう朔。部屋は急に暖かい雰囲気に変わり、朔にとってこれ以上無い環境が用意されたことになった。
俄然やる気になる朔。雑音遮断のための耳栓をしながらの勉強は思いのほかはかどる。これも“亜紀効果”なのかもしれない。
時間も夜8時半をまわった時、亜紀が盛り付けた料理を運んできた。夕飯である。

亜紀「朔ちゃん、朔ちゃん、ご飯だよ。」
朔「・・・・・・・・・・・・・・。」

何の返事も無い朔。亜紀が耳栓に気付くまでに時間は掛からなかった。
「どうしよう?邪魔しちゃ悪いし・・・。」と思うものの、しっかり食べて頑張ってもらおうと、そっと後ろから近づいて朔の首のまわりに腕をまわして知らせた。
驚きながら朔が亜紀に気付いた。すぐに耳栓を外した。

朔「びっくりした・・・何?」
亜紀「ご飯できたよ。」

ニコニコしている亜紀の後ろには、小さなテーブルの上に用意された手料理。
すぐに2人で食卓を囲む。

朔「いただきまーす。」
亜紀「いただきます。」

今日の献立はご飯と焼き魚と味噌汁など。いたって和風である。さっそく味噌汁をすする朔。味はもちろんだが、亜紀の愛情が朔の体と心を芯から暖める。

亜紀「どう?」
朔「うぉいひぃ。(おいしい。)」

口の中のものを飲み込まないまま答える朔に、亜紀は“プッ”とふきだしそうになる。

亜紀「ちゃんと飲み込んでからでいいよ。でも、よかったぁ。」

思わず顔がほころんでしまう朔に亜紀も一安心だ。亜紀自身も笑顔で箸を口に運んでいた。そして、これからのことについて切り出した。

亜紀「さっきのような時はどうすればいいかな?」
朔「何を?」
亜紀「耳栓までして集中していたから、邪魔しちゃ悪いなぁって思ったの。さっきも少し躊躇したのよ。」
朔「そういう時は遠慮なく知らせてもらっていいよ。」
亜紀「うん。じゃあ遠慮なく抱きつくね。」
朔「おいおい。」
亜紀「ウッソ!冗談に決まってるじゃない。」

2人向き合っての食卓。日々勉強の中で、オアシスを見つけた時のようにも思える幸せな時間の中の他愛の無い会話。笑顔が絶える理由が見当たらない。
再び、亜紀が切り出した。

亜紀「私は何に気を付ければいいかな?」
朔「うーん・・・。とりあえず、うるさくはしないで欲しい。どうしてもTVを見ることとかあると思うけど、イヤホンとかしてもらえると嬉しい。もちろん、こういう時には気を使う必要は無いよ。」
亜紀「わかったぞよ。でも、お風呂やトイレの時とか掃除や洗濯の時の音って言うのは・・・・・。」
朔「そのあたりは仕方ないよ。それに必要以上に神経使うと、今度は亜紀が疲れちゃうから。それは俺も困るしね。できない時にはちゃんと言ってもらって構わないから。」
亜紀「ありがとう。でも、朔ちゃんこそ私に気を使って遠慮しないでね。私はそのためにいるんだから。」
朔「遠慮なく言わせてもらうよ。ありがとう亜紀。」
亜紀「私の方こそありがとう。もし邪魔になるようであれば、すぐに帰るつもりでいたの。さっき『国家試験まで頼むよ。』って言ってくれた時は嬉しかったよ。」
朔「俺だって、亜紀がいてくれるだけでどれだけ助かるか・・・家事をしてもらわなくても亜紀がいるだけで、ホッとするんだよ。」
亜紀「・・・・・・好きよ・・・朔ちゃん。」

いつものように甘い雰囲気になりかけるが、2人ともすぐに自重した。あまりに度が過ぎるといつまでも2人の時間になってしまうからだ。あくまでも、2人で協力して卒業試験と国家試験を突破することが最優先であることを、亜紀自身も分かっていた。
少し沈黙したが、ここで朔が切り出した。

朔「じゃあ、さっそく・・・お願いが・・・。」
亜紀「なに?」
朔「靴下を・・・・・全体でたたむのはやめて。」
亜紀「フフフッ・・・はい、分かりました(笑)」

少し、おそるおそる言った朔だったが、笑顔で答える亜紀に一安心である。

亜紀「じゃあ、他にも何かあったら言ってね。できるだけ努力するから。
朔「うん。ありがとう。」

これからひと月以上2人で暮らすことになって、亜紀は喜びのあまり飛び上がりそうだった。朔のそばにいられるだけで嬉しかった。朔も亜紀という最高の恋人がそばにいることで、ラストスパートにさらなる勢いをつけることができるようになるのであった。
「亜紀のためにも頑張ろう。」結局、自分のためよりも亜紀のための方が頑張れる朔だった。

続く
...2005/07/08(Fri) 21:27 ID:BMZMdCh.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
読者の皆様
こんばんは。たー坊です。
いつもアナザーストーリーをお読みいただきましてありがとういございます。

身内の入院などで色々ご迷惑をお掛けしております。今回、少しずつ書き溜めていたものが完成致しましたのでUPさせて頂きました。

今後も当分の間は完全に不定期のUPとなりますが、よろしくお願い致します。
これからもお読み頂ければ幸いです。
...2005/07/08(Fri) 21:31 ID:BMZMdCh.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ゴン41
  たー坊様。
 おはようございます。少しは落ち着かれたでしょうか?お大事にして下さい。
 
 亜紀の「来ちゃった」 短い言葉でしたが、宮浦で一人待っている亜紀の心情が、この一言に込められていて、なんかすごく凝縮された一言でした。
 結局自分の為よりも亜紀の為の方が頑張れる
お気持ち大変良く解ります。
 それでは、ゆっくりと、続編楽しみにしております。 
...2005/07/09(Sat) 08:29 ID:RywSU9R6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
厳しい状況の中、創作をされていること、感じいります。
さて、介ちゃんのお父さんも、なかなか味なはからいをなさいますね。
周囲の暖かい雰囲気が心地よいですね。
...2005/07/09(Sat) 20:16 ID:iexND0Qc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
たー坊さま
新作楽しみにしていました。
朔は国家試験に受かるよう、亜紀のためにも頑張ってほしいですね。
...2005/07/09(Sat) 21:26 ID:qDLH1sUY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:サイトのファン
たー坊さんへ
執筆、お疲れ様です!!
まとめて拝読させて頂きました。
たー坊さんも色々と大変なご様子ですが
無理をなさらないで下さい。
不定期でも、たー坊さんの作品を読ませて頂くのを
楽しみにしておりますので!!
今回の作品も最高にいいですね!!
以前は、靴下のたたみ方でサクともめて
キレた亜紀が素直にサクの言う事を聞くところは
二人で過ごしてきた時間の経過を感じさせますね。
サクはこれから国家試験とキツクなりますが
亜紀と二人で乗り越えられるので幸せかもです??
続編を、のんびりお待ち致します。
たー坊さんファイトです!!
...2005/07/11(Mon) 01:31 ID:zKvaUW4I    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんばんは。
新しいお話、読ませて頂きました。
「押しかけ女房」みたいに、亜紀さんが東京の朔太郎君の所に行ってしまうなんて、行動力ありますね。
告白だって、亜紀さんからしたほどですからね。

でも前回と違って、24時間一緒に居られないですから、朔太郎君がいない間の亜紀さんの心の中も描いていただけたら嬉しいです。

1995年といえば、私は東京にいました。
そしてこの年の1月に「阪神・淡路大震災」がありましたし、3月には東京で「地下鉄サリン事件」がありました。
ですから、この1995年は、私にとって、忘れる事の出来ない年です。

私のHPは、この週末に熱を出してしまって、全く更新できませんでしたが、今日は何とか少し更新できました。
お互いに大変ですが、頑張りましょう。

では、次のお話を楽しみにしています。
...2005/07/11(Mon) 21:41 ID:il/17eDw <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
美也さま
今晩は。あの1995年から10年たった今年になって、「地下鉄サリン事件」を思い出させるテロ事件が起こってしまいました。テロリストたちは、警戒態勢の裏をかくようにまんまと事件を起こしたわけですが、本当にイヤな世の中になったものですね。
HPのほうも拝見させていただいております。徐々に出来上がっていくのを見るのは楽しいですね。
...2005/07/11(Mon) 23:38 ID:r/voG2wg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
なにかのテレビ番組で見たのですが。
今回のような反抗意識でのテロとは別ですが、テロリストも、自分達の正義の下に行動している。間違っている者達を正そうとしている。それで正せないような者達なら、これ以上被害が出ないうちに殺すと。
これがテロリスト達の考えのようです。これがテロリスト達の正義です。

こう考えてみると、決してやっていることは正しいとは言えませんが、なにが正しくないのかもわかりません。
テロリストを応援する気なんてまったくないですが、お互いの正義を掲げて戦っているのだと思います。
根本的には考えてる事は同じことなんだと思います。だれもが幸せに暮らせる世界を創る。しかし、その世界への導き方の違いで、テロが起きて、戦争が起きているのだと。
「どっちが勝て」なんて言い方はできませんが、ぶつかり合う中で早くお互いの重なり合う部分を見つけて、それを尊重していってほしいと願っています。
...2005/07/12(Tue) 01:19 ID:8L23LgAc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
ゴン41様
今回もお読みいただいてありがとうございます。
おかげ様で、少しずつ落ち着いて来ておりますが、まだ忙しい状態です。
これからも不定期ではありますが、これからもお読み頂ければ幸いです。

朔五郎様
お読み頂いてありがとうございます。
これからも不定期のUPが続きますが、最後まで頑張りますのでよろしくお願いします。

SATO様
お読み頂きましてありがとうございます。
さて、国家試験も迫り、朔も大詰めです。亜紀のために結果を出すことができるのか、楽しみにして頂けたら幸いです。

サイトのファン様
私事でご迷惑をお掛けしております。ご理解いただけるようお願い致します。
物語の方はこれからも無理せずマイペースで頑張りますのでよろしくお願い致します。

美也様・SATO様・夕妃様
95年の出来事は私もよく記憶しております。
震災は自然のことなので仕方ないのですが、テロに関しては夕妃様の言う通り、相互理解が大事ですね。尊重は恋愛以前に人間としての基礎部分だと私は思います。根本的には同じでも、道が違うだけで大事に発展することは人間の難しいところなのでしょうね。
95年の地下鉄サリン事件が起きた時には信じられませんでしたし、今後こういうことが起きることってあるのだろうか?と考えておりましたが、SATO様の言う通り、10年後にはロンドンと・・・。何かテロが日常化しすぎて、実際に被害にあっていないだけで、ただ流してしまっているような・・・・客観的に自分の考えを見た場合、そんな感じを覚えます。

テロのない世界が戻って来る事を願わずにはいられません。
...2005/07/13(Wed) 21:13 ID:MZx6qdrQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:グーテンベルク
 おはようございます。グーテンベルクです。身内の方が入院されたとのこと、お見舞い申し上げます。無理をせずにがんばってください。物語の方は亜紀が朔のもとにやってきたりと、亜紀が朔の厳しい受験勉強の道のりを太陽のように照らしてあげているように思えました。朔と亜紀には2人の時間は必要ですね。
 各地で起こるテロ、それが原因で戦争までも引き起こされてしまったり・・・憎しみが新たな憎しみを呼び・・・やりきれないですね。私もテロや戦争、紛争がない世界がやってくることを祈らずにはいられません。
 それでは次回の物語も楽しみにしています。お互いにがんばりましょう。
...2005/07/14(Thu) 04:37 ID:Vxs0wUnU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
グーテンベルク様
お疲れ様です。お忙しい中をお読みいただきましてありがとうございます。
お言葉に甘えさせていただき、マイペースで時間を見つけては書いていきたいと思います。
グーテンベルク様もいろいろとやるべきことがおありのようですが、お互いに執筆を頑張りましょう。
...2005/07/14(Thu) 19:31 ID:nhYPuf.Y    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
初めまして。ター坊様。世界各地で何の罪もない人に対するテロや同じ人間同士で殺戮しあうなんて、私には考えられません。同じ赤い血の通った人間なんだから、何で解決できないのか・・・話せば分かる時代ではないのでしょうね?本当に悲しい・・・
今、神様でも難しいのかな?切ない・・・
ドラマもター坊様が脚本している展開になってくれたらどんなに良かったかなと思うのは、私だけじゃないですよね。これからも、無理せずに続編を楽しみにしています。追伸、朔と亜紀の幸せが永遠に続きます様に。
...2005/07/14(Thu) 19:44 ID:lZHag206    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
初めましてたー坊です。
お読み頂けたようでありがとうございます。さらに、お褒めのお言葉も頂戴しまして、本当に励みになります。

本当に殺しあうのは悲しいことですが、神様でもなんとかならないのではなく、神様がそうさせているのでは?とも思います。
いずれにしても、もう少しどうにかなるという思いはどなたでも同じでしょう。

物語はマイペースでUPしていきます。つたない物語ですが、これからもお読み頂ければ幸いです。
...2005/07/14(Thu) 21:05 ID:nhYPuf.Y    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
亜紀が上京してから4日が経った。
“カリカリカリカリ・・・・・・・・・・・・・。”と部屋にペンが走る音が響く。
時刻は朝の6時半。早くも起床した朔は、朝の身支度もそこそこに机に向かっていた。気を張らざるをえないせいか、最近の平均睡眠時間は4時間もない。本当はもっと眠りたいのだが、そのくらい眠ると何をどうしても目が覚めてしまう。
昨日も亜紀が眠りに着こうとする中、午前2時過ぎまで机に向かい続けた。亜紀はたまらず「体を壊すからやめて。」言うのだが、朔は一切聞く耳を持たない。亜紀の心配な日々もまた続いていた。

朔「よし。朝飯・・・。」

布団で眠る亜紀を起こさぬように台所へ。昨夜亜紀が炊いたご飯と味噌汁、焼鮭での朝食だ。
食べ始めようとした時、亜紀が目を覚ました。

亜紀「・・・おはよ。」
朔「おはよう。」
亜紀「また勉強してたでしょ。お願いだからもう少し寝てくれない?朔ちゃんが倒れるのが怖いよ。」
朔「いや・・・目が覚めちゃうんだ。それに、起きた時には亜紀が隣にいるから元気になるんだ。全然大丈夫。」
亜紀「朔ちゃん・・・本当によく続くね。」
朔「いいから早く顔洗って来いよ。朝飯、一緒に食べよう。」

亜紀は少し呆れ顔で洗面所へ向かう。2月の冷たい水がすぐに目を覚まさせてくれる。
スッキリした亜紀は、パジャマ姿のまま朝の食卓についた。

亜紀「いただきます。」
朔「いただきまーす。」
亜紀「ホント元気だね。元気すぎる・・・・・・。」
朔「そうかな?・・・やっぱり亜紀は眠そうだね。」
亜紀「・・・・・私が眠るまでに朔ちゃんが抱きしめてくれないからだよ。」

亜紀にとっての早起きで寝不足気味なのを無理やりに朔のせいにする。どんな手を使ってでも「最低あと1時間は眠ってもらわないといけない。」と思い続けている亜紀がいる。
それだけ朔の体調を心配しているのだ。

朔「いや、俺が抱きしめないのは原因じゃないでしょ。」
亜紀「分かってないなぁ〜。身体的な疲れじゃなくて精神的な疲れ。朔の腕の中とそうでないのとじゃ雲泥の差なのよ。」
朔「そうなの?」
亜紀「そうだよ。」

「病は気から」という言葉があるが、朔もこれには肯定的だった。亜紀という典型的な前例がそうさせていた。決して否定できないし本人の言う事なので、朔も納得してしまうところがあった。

朔「じゃあ、今夜から何か工夫するよ。」
亜紀「うん、少しでもそこにいたいよ。」

そう言って笑ってみせた。本当に嬉しいのでさすがの亜紀も顔に出る。
朔もいつの間にか言いくるめられてしまっていた。しかもそれに気付いていない様子である。朔らしいと言えば朔らしいが・・・・・・。

亜紀「そういえばゴメンね。本当は私が朝ごはんを作って、朔ちゃんを起こすのが本当なんだろうけど・・・。」
朔「俺が起きちゃうからなぁ、朝は俺がするよ。」

上京するときの亜紀は、朔を支えるためにいつも早起きして頑張るつもりだったが、この4日間は完全に立場が逆転していた。朔が毎日亜紀より早く起きてしまうため、亜紀が目覚めた時には朔は机に座っているか、朝食の準備をしているか、あるいは朔が起こしてくれているくらいだ。

朔「そのかわり、試験が終わったら大寝坊するから。その時は迷惑かけるからよろしく。」
亜紀「呼んでも起きない時は何するか分からないよ、覚悟しておいてね。」
朔「・・・怖いな。例えば何?」
亜紀「そうね〜・・・・・。まずは鼻をつまむでしょ、次にほっぺをつついて、それでもダメなら氷を顔につけたり熱湯をかける・・・・・・。」

少しすまし顔で「ん〜・・・。」と思案している様子に、朔の笑顔はだんだんと引き攣って来ている。

朔「・・・・・・俺、何か悪いことした?」
亜紀「ううん・・・朔ってそれくらいしないと起きないでしょ?」

ここまで本心を顔に出さずに言われると、朔も「もしかして本気?」と心の片隅で思ってしまう。もちろん、心の中で亜紀はおかしくて笑ってしまうのだが。

朔「悪戯するのはやめろよな・・・。」
亜紀「じゃあ、どうすればいい?」
朔「いたって普通に起こしてくれれば。」
亜紀「じゃあ、呼んでもダメなときはキスしてあげる。それでもだめなら氷と熱湯を使うってことでいいよね?」
朔「キスはいいけど、熱湯はダメ。」
亜紀「・・・・・・キスはいいんだ。」
朔「あ・・・・・。」
亜紀「いいんだ?」
朔「キス以外。」
亜紀「いいよね?」
朔「いや、キス以外。」
亜紀「キスしちゃダメ?ダメならしないけど・・・・・・。」
朔「頼むから普通に起こしてね。」
亜紀「ツレナイなぁ・・・朔ちゃん・・・・・・。」

亜紀はまだ言いたげではあるが、朔はそそくさと立ち上がった。早めに朝食を終えて食器を台所に運んだ後、再び机に向かう。「まぁいいや。言うことを聞く私じゃないしね。」とつぶやき、亜紀は集中する朔の後姿を見つめながらご飯を口に運び続けた。その後、亜紀も食器を片付けた後、持ち込んだ語学の教科書を参考にテーブルを机代わりに勉強をはじめた。部屋には2人がペンを走らせる音が響き続けた。
そして昼時になれば、片方のペンの音がフライパンや鍋の音に変わる。亜紀は上京以来、昼食と夕食は欠かさず作っている。エプロンを身に着けて冷蔵庫の中をのぞいて材料を選び、栄養のバランスの取れた食事を朔にとってもらう努力を続けている。おかげで、以前より体調が少しだけではあるが良いと朔は感じていた。やはり亜紀の存在は、朔に色々な良いことをもたらしてくれるようだ。

そして夜。

朔「冷たっ!!」
亜紀「アハハハハハハハハハッ!!」

夕飯ができあがったので、勉強を続けている朔に知らせることにした。
朝、宣言していた通りに、冷凍庫から氷を1個取り出し朔の後ろの首にそーっと近づけてからくっつけた。
朔は、急に首の後ろに感じた刺すような冷たさに、ペンを握っていた右手を慌てて後ろにやる。今にも飛び跳ねそうな勢いの様子に、亜紀は腹を抱えんばかりだった。

亜紀「フフフフッ。夕ご飯できたよ。」
朔「・・・・・・・・・・・・・・・。」

朔は本当に憮然としていて怒っているのは明らかだ。笑っていた亜紀からは、その様子を見るなり笑顔が消えていった。

亜紀「まずかった・・・・・?」
朔「夕飯は何作ったの?」
亜紀「カレーライスとサラダ・・・なんだけど・・・。」
朔「・・・いらない。」
亜紀「え・・・・・・・。」

朔の「いらない。」は、亜紀をどん底に突き落とした。朔は何も言わずに机に向かってしまう。
亜紀はすぐさま「二度とこんなことはしないから。」とすがるように言うのだが、朔は参考書を見続けたまま、完全無視の状態が続いた。
亜紀は、うつろな目をしたままカレーを食器に盛り付けて、テーブルに運ぶ。朔の方を見るのが怖く感じられる。亜紀は、耳栓をしていないはずの朔に「お風呂の準備をするね。」と言って風呂場へ向かった。
                   ・
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・・・・・数分経っても亜紀が戻ってこない。朔は少し「やり過ぎたかな・・・。」と心の中で呟きながら風呂場へ向かう。そっと中を覗うと、亜紀はエプロンを顔に押し当てて泣いていた。朔は少し反省しながらも強気に亜紀の手を掴み、リビングへと連れて行った。

朔「いただきます!」
亜紀「・・・・・・・。」
朔「ほら食べよう。腹減ってんだよ俺。」
亜紀「・・・・・・怒ってない?」
朔「もう怒ってない。俺も大人げなかったよ。」
亜紀「私・・・・・・ここにいていいの?」
朔「他に行く場所があるの?」
亜紀「・・・・・・宮浦に帰らなくてもいい?」
朔「先に1人で帰りたいの?」

亜紀は俯いたまま首を横に振った。

朔「宮浦に帰る時は、2人で一緒に帰るものだと思ってるんだけど。」
亜紀「私もよ・・・。」
朔「だったら、変なことはしないこと。度が過ぎた悪戯はしないこと。」
亜紀「分かった・・・・・・ぞよ。」

朔は「ぞよ・・・・か。」と言い、カレーライスを口に運んだ。そして、「今日も美味いよ。」と言ってあげた。亜紀もその言葉にスプーンを手に取った。そして、ボウズがたこ焼きをほおばるのと同じようにカレーを食べる朔を、恐る恐る見る。朔はそんな亜紀に笑顔で応えた。しかし、朔の口元にはご飯粒がついている。思わず笑ってしまう亜紀。

朔「何?」
亜紀「ご飯粒。」

そう言うなり、朔についているご飯粒に手を伸ばして取り自分の口へ・・・・・。

朔「ありがとう。」
亜紀「いいえ。」

亜紀の笑顔に朔も一安心だ。
その後の食事は、笑顔が絶えない時間になった。お互いに共有できる時間があることに感謝する2人。気が付けばいつの間にやら仲直りしている。
                       ・
                       ・
                       ・
亜紀「朔ちゃん、まだ寝ないの?もう1時を過ぎたよ。」

亜紀は先に布団の中に入ってウトウトしていたのだが、風呂から上がった後、部屋の明かりを消しても机の蛍光灯を頼りに朔は机に向かい続けていた。

朔「よし、今日はもう寝よう。」
亜紀「じゃあ、一緒に寝れるよね。」

亜紀は目を輝かせている。朔は笑いながら何も言わずに布団の中に入って来た。

亜紀「フフフ・・・。」
朔「満足した?」
亜紀「うん。とても温かいよ。本当に幸せ・・・。」

朔を上目遣いでうっとりしたような視線で見つめた。見つめた先では朔も笑ってくれている。次第に亜紀は眠くなり、「おやすみ。」と言いながら朔の腕の中、懐に頬を寄せて夢の中へ・・・・・・。
時刻は1時半を回った。朔は亜紀の寝息を聞いた後、起こさないように気をつけながらそっと体離してから布団を出た。
その後、再び机に向かった。結局4時まで朔は勉強を続けたのであった。

翌朝の7時半・・・。
今日は亜紀が先に目覚めた。眠る時に朔の腕の中にいたので、すっきりした寝起きだ。しかし・・・・・・。

亜紀「・・・あれ?」
朔「・・・スー・・・スー・・・スー・・・スー・・・。」

亜紀が頬をうずめたハズのところに朔の体は無かった。気付くと、亜紀の顔のすぐ下には、朔の両腕があった。再び布団に入る時に、亜紀を起こさないようにするため後ろから腕をまわしていたからだった。

亜紀「さては、私が寝たのを見計らって夜中に勉強してたのね!」
朔「くか〜〜〜〜・・・・・・・・・。」
亜紀「もう・・・・・・・・・。」

亜紀は、本気で怒りはせずに自分に回されている朔の腕を下からそっと掴んだ。そして、自分の顔をその中にうずめた。

亜紀「ほどほどに頑張れ朔ちゃん。私、もう何も言わないから好きにやっていいよ。体は壊さないように!・・・・・・朔ちゃんが起きるまでこうしてようっと・・・・・・・。」

亜紀は微笑みながら寝ている朔に言った。朔が起きるまで亜紀の幸せな時間は続いたのである。

続く
...2005/07/14(Thu) 21:28 ID:nhYPuf.Y    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんわ。たー坊様。早速読ませて頂きました、未だに、このドラマが続いているように感じます。山田朔と綾瀬亜紀の二人のつつましく尚且つ、幸せの日々が・・・。もしあの時、特効薬が出来ていたらこんな風に幸せな生活を送っていたんでしょうね。二人をやさしく見守っていくたー坊様の文書力には敬服いたします。これからの展開を楽しみにしてます。
...2005/07/14(Thu) 23:43 ID:m.kCsNsg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

今回も読ませていただきました。
やはり、亜紀もわかっていても我慢できないというか・・・朔と接したいんですよね。
でもそれを受け入れる朔の優しさと、陰ながらの努力には男として憧れますね。

まだまだ亜紀にはいろいろと期待しています(笑
次回も楽しみにしています。頑張ってください!
...2005/07/14(Thu) 23:43 ID:SCCX1oDY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
亜紀も、なかなかイタズラが上手ですね(笑)

それにしても、朔五郎は

>朔を上目遣いでうっとりしたような視線で見つめた。

というところで、あるシーンを思い出してしまい、いい年して感傷に浸ってしまいました(苦笑)
...2005/07/15(Fri) 02:50 ID:rPTfSoLo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ゴン41
たー坊様。
おはようございます。朔五郎さんの1シーンプラス、私は”亜紀は俯いたまま首を横に振った”のシーンでも、又あるシーンを思い出し感傷に浸ってしまいました。いい年して。もし、できる事ならこれからもそういったシーン期待します。
...2005/07/16(Sat) 04:41 ID:RENl0E2g    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。
新しいお話、早速読ませて頂きました。

今回は、強気な朔太郎君が印象的でした。
いつもは亜紀さんにからかわれてばかりですが、自分の将来がかかっている訳ですから、亜紀さんのいたずらに怒るのも無理はないですね。

亜紀さんもそうとは分かっていても、やっぱり泣いてしまう…そこも可愛いです。
今後、東京ではいたずらはしないでしょう。
でも、寝ている朔太郎に、いきなり襲い掛かる(起こす)事はあるかもしれないですけど(笑)

私のHP( http://saku-aki.daisuki.cc/ )は「物語」は第5話まで書き終わりました。
4話までは週に1話ずつ進んでいましたが、5話は2週間かかりました。
でも、これくらいがちょうどいいのかも知れません。
お互い、無理せずに頑張りましょう。

では、次のお話を楽しみにしています。
...2005/07/16(Sat) 18:32 ID:fYmL4spE <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
お読み頂きましてありがとうございます。
2人の幸せをテーマに個人的な妄想を形にさせて頂いているのにもかかわらず、お褒めの言葉も頂きまして、ありがとうございます。
これからもお読み頂ければ幸いです。

夕妃様
長い間書かせていただいてるので、ドラマとは、だいぶ亜紀の変化もしてきていると思い、こういう形にしています。どんどん女性になっていく亜紀を表現できればと思います。
次回も楽しみにして頂ければ幸いです。

朔五郎様
亜紀の悪戯のレベルは、どんどん高度になっていきます。悪戯連発によって2人にはさらに幸せになってもらいます。
これからもよろしくお願いします。

ゴン41様
ここまでは、亜紀の変化をメインテーマの一つとして書いてきました。しかし、亜紀の攻撃に慣れた朔の反撃も増えると思われますので、そのつながりで、ご希望のような場面が増える可能性があります。
これからもお読み頂ければ幸いです。

美也様
お疲れ様です。
HPの作成でお忙しいとおもいますが、そんな中でも物語をお読みいただきまして、ありがとうございます。
これからも、お互いに頑張っていきましょう。
落ち着きましたら、美也様のHPにもお邪魔したいと思います。
これからもよろしくお願いします。
...2005/07/19(Tue) 22:10 ID:QMWxrpwY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朝、東京の朔の部屋・・・・・・。

朔「遅れる!」
亜紀「もう、何やってるのよ!朝ごはんは?!」
朔「ゴメン、いらない!行ってくる!」

バタバタとした朝である。珍しく朔が寝過ごしてしまい、遅刻ギリギリの様子で部屋を出て行った。

亜紀「・・・・・・どうするのよ、朝ごはん、2人分作っちゃった。」

フライパンの中にある2つの目玉焼きを見ながら亜紀が呟く。そしてため息をつくのだった。今日の朔は学校に行っている。最後の追い込みのためだ。
テーブルに運び、一人寂しく朝食をとる亜紀。ブラウン管の中から聞こえるアナウンサーの声とVTRに使われているBGMが、やたらと大きく聞こえている。小さいはずのテーブルも少し大きく感じる。

亜紀「つまんないなぁ・・・・・・結婚生活の新妻って結構寂しいものなのかも・・・。」

そう言いつつ朝食を終えると、食器を片付けてその他の家事をこなし始める
洗濯機のスイッチを入れて、脱衣かごに入った2人の服の洗濯を始めた。

亜紀「朔ちゃんのは・・・と。あ、朔の匂い・・・って、なにしてるんだろ、私。」

これまたひとりごちる。すぐに朔の洗濯物を洗濯機に放り込んで、スイッチを入れ水をため洗剤を入れた。“ガー・・・・”と音をたてて、水に流れができていく。

亜紀「さてと・・・次は、お掃除しないと。」

まず、はたきで一通りの埃を床に落とした後、掃除機で吸い取り、今度は棚の上を雑巾で入念に拭き取った。2日に1度はこれをしている。部屋数も少なく物も少ないので、ほんの15分もあれば掃除は終わってしまうのだ。掃除が終わる頃には洗濯も終わっている。脱水させている間に汚れた水を捨て、新しい水をためて待つ。脱水後にすすぎに入るからである。冬の冷たい水に手を突っ込む度に、母・綾子の日頃の家族を支えてくれている行動に感謝していた。母と同じように。亜紀自身も文句のひとつも言わずに、好きな人の為に頑張っているのだ。
自分の衣類の洗濯も終えると、今度は窓を開けて物干し竿に干す。自分と朔の靴下が洗濯バサミからぶら下がっているのを見ると、とっても嬉しくてしょうがない。

亜紀「前言撤回。やっぱり結婚したいよ。・・・大学卒業したら朔ちゃんに永久就職しちゃおうかなぁ・・・なんて♥」

他の洗濯物のしわを伸ばしている間の亜紀の表情は照れて、はにかみ、最高に幸せであることは誰の眼にも明らかなのであろう。ついさっきと言っていることが違う・・・・・。
25歳の大人で、誰の眼から見ても相手の男性が羨む女性。しかし、恋人の前では、こういう少女の部分を併せ持ち、それを表に出すこともある。ここが、亜紀自身も「甘えん坊かな?」と思う要因であるのだ。
それが終わる頃には10時をまわっている。朔の深夜に及ぶ猛勉強のとばっちりを受けて、最近寝不足なため、布団を敷いて眠る準備。昼までに少し寝ておくことで、朔の生活リズムに合わせ易いのだ。亜紀なりの工夫の一つだ。

亜紀「あ、ここにも朔ちゃんの匂い・・・。」

もう朝の温もりなど残ってなどいない筈なのに、それが蘇ってくるようだ。布団を頭からすっぽり被り、朔と一緒に寝ている間のことを思い出す。それだけでも幸福感に満たされる亜紀。

亜紀「・・・朔、本当にありがとう。本当に大好き。」
「朔には、こんな姿を見せられないね。結婚してから・・・・・・。」

などと、いろいろ考えているうちに、睡魔に襲われて亜紀は眼を閉じた。
                ・
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午後1時すぎ。
短い眠りから覚め、布団を片付ける。
少し遅い昼食の準備をして、軽く寝ぼけた顔を冷水でシャッキリさせてから、テーブルについた。食器を片付け夕方まで勉強をする。
“カリカリカリカリ”とシャープペンが走る音が響いている。語学を中心にした勉強をすることが、日課となっているのである。
もちろん、テープをウォークマンにセットしてのヒアリングも忘れてはいない。
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午前8時すぎ。
亜紀はこの時間に台所に立ち始める。空腹はもちろんであるが、朔に帰宅時間はそれなりに遅くなるために、この時間になってしまう。
もちろん、料理を温めなおす手間がもったいないのは当然だが、本当の理由は、なるべく作りたてを食べてもらおうという思いやりと、自分も朔と夕食くらいは一緒に食べたいという気持ちからであるからだ。
ゆっくりと気持ちを込めて料理する。そうしている間に・・・・・・。

朔「ただいま。」
亜紀「おかえり!今日もお疲れ様。」
朔「腹減ったよ。」
亜紀「フフフッ!そういうと思った(笑)・・・すぐご飯できるからね。座って待ってて!」

帰宅した朔を、とびっきりの笑顔を作って迎えてあげるのだ。
美味しい手料理を食べさせてある。もちろん笑顔を絶やさずに。これなら、朔の1日の疲れも吹き飛ぶというものである。
亜紀は、この時間を1日のうちで最も楽しみにしているのである。もちろん、朔も同じなのである。

続く
...2005/07/20(Wed) 00:15 ID:mg2BDU.A    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

今回も亜紀のしっかりした部分、可愛らしさ、そして朔を愛する気持ちが出てて、亜紀の幸せな生活が俺の頭の中で映像化されました。
しかし、ひとつ思ってしまったこと・・・。そーいえば亜紀って25歳だったんですよね(苦笑
大人だけど、良い意味で気持ちが若々しくて、今でも高校生の二人がいる感じです。でも、そんな二人がすごく俺は好きです。
次回も楽しみにしています。
...2005/07/20(Wed) 00:26 ID:8kp3Phlg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。
早速、新しいお話を読ませて頂きました。

私はまだ結婚していませんので、実際の所、経験はしたことはないので分かりませんが、自分も結婚するとしたら、こういう風な関係になれたらいいなと思います。

よく聞く話では、夫の洗濯物と、家族の洗濯物とを分けて選択する奥さんもいるみたいなので、せめて、亜紀さんにはいつまでも、今回のお話みたいな思いでいて欲しいと思います。

私のHPは、「物語」は第6話まで書き終わりました。
第7話からは文章にするのに苦労しそうな場面がたくさん出てきます。今日も書いていますが、中々進みませんが、頑張ります。

では、次回のお話を楽しみにしています。
...2005/07/21(Thu) 20:22 ID:Ofeo7IfE <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
夕妃様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
今回の物語は、違和感を覚えるほどに亜紀の日常を描いてみました。口には出さずとも、亜紀の心の中では、こんな感じで呟いているかも知れないというう想像も多々入っております。
次回もお読み頂ければ幸いです。

美也様
もし、この2人が結婚したとしても、その後の新婚生活で、亜紀が朔の洗濯物を分けて洗うことは無いと思います。一緒にいることに慣れてしまっても、「しょうがないなぁ。」と言いつつ、笑って干していると思います。
これからもよろしくお願いします。お互いに頑張っていきましょう。
...2005/07/22(Fri) 00:28 ID:hFmO/2f6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
亜紀「夜は何にする?すぐに帰って来るんでしょ?」
朔「2時間で戻れると思うよ。そうだな・・・ラーメンとか・・・。」
亜紀「麺ならパスタにしない?」
朔「それでもいいよ。じゃ、行ってきます。」

夕方の5時過ぎ。
手持ちの参考書では分かりづらい箇所があったために、朔は大学の図書館へ行くことにした。

亜紀「あ、朔ちゃん、鍵貸して。もしかしたら買い物に出るかもしれないから。」
朔「分かった。」

玄関を出ようとしていた朔を亜紀が呼び止めて言った。朔はいつもとは違ってすぐに財布の中から鍵を取り出して亜紀に手渡した。

亜紀「気を付けてね。」
朔「亜紀こそ。すぐ近くだからって言っても気をつけろよ。」
亜紀「大丈夫!行ってらっしゃい!」

亜紀は朔を笑顔で見送った後でドアを閉めた。
「フンフン♫」と亜紀はとっても機嫌がよさそうである。またひとつ将来の自分たちをイメージすることができた。とても嬉しくてたまらない様子だ。

亜紀「冷蔵庫の中はどうかな・・・・・?」

と、エプロン姿でひとりごちながら冷蔵庫の中を確認。
すぐに何が足りないかに気付いた。そしてエプロンを外すと部屋の戸締りを確認してからスーパーへ向かった。

一方の宮浦。

智世「おー・・・よちよち。可愛いね〜。それにしてもこんな寒空の下に放っておくなんて・・・ひどい飼い主がいるものね・・・・・。」

2月の寒空の下、智世は龍之介の家へと向かっていた。今日は龍之介一家と鍋を囲むことになっているのだ。
亜紀は東京、恵美は仕事で忙しい。話し相手がいない智世は、たまたま道端にダンボール箱の中に入れられて捨てられている子犬を見つけて、思わず抱き上げた。子犬はどこか安心した中にも、その目からは悲しさに包まれた雰囲気を醸し出している。

智世「あんた、見れば見るほど可愛いね。・・・・・飼いたいけど、ウチは一匹いるし・・・。」

子犬には智世の考えていることが分かるのだろうか?頭をチョコンと傾げる様にしながらも、軽く衰弱しながら目を潤ませているようにして何かを訴えているようだ。「自分を置いていかないで・・・怖いよ・・・・・。」と、智世には聞こえた。
智世は意を決して踵を返し、子犬を自宅へと連れ帰った。

智世父「柴犬かな?」
智世母「そんな感じがするわね。」
智世「見れば見るほど可愛いんだよ。この子。」

親子3人で子犬を店先の片隅に座らせてミルクを与えていた。
時折、ゆっくりと立つとおぼつかない足取りで薬棚の方に行こうとするのを、智世は「ダ〜メ。そっちに行ったら危ないぞ。」と“ヒョイ”と体を持ち上げて元の位置に戻す・・・・・・。

智世「ウチで飼えない?」
智世父「う〜ん。2匹か・・・・・・。」
智世母「いいじゃない。1匹も2匹も同じ。こんな可愛い小さな命を粗末にする方がどうかしてる。違う?」
智世「いいの!?」
智世父「大変だけど、こいつも含めて協力して面倒見るか。」
智世「ありがとう!」

上田家に新しい家族が誕生した瞬間だった。早速、以前から飼っている犬と対面させてみる。“先輩”が匂いを嗅ぐ。するとすぐに仲良くなったようだ。成犬が子犬の面倒をみるという微笑ましい光景・・・・・・。
そして智世は2匹を連れて再び大木家へ向かった。

大木家にて・・・・・・。

龍之介「そういうわけか。獣医には見せたのか?」
智世「ううん。まだ。」
龍之介「明日にでも見せて来いよ。早めに予防接種でも受けさせてさ。」
龍之介父「それにしても子犬を捨てるとはな・・・・・・。」
智世「おじさんもそう思うでしょ?本当に可愛い顔してるのに・・・・・・。」
龍之介母「智世ちゃんは本当にいいことしたよね。」

龍之介と智世の間に座る2匹。子犬は落ち着かなくヨタヨタ歩き回ろうとするたび“先輩”が智世に知らせる。それから智世の手によって元の位置に戻されるのだった。

龍之介「こいつ、もう少しでかくなったら船に乗せてみようか?」
智世「ちょっと、無理はしないでよ?」
龍之介「な〜に。揺れる船上ではおとなしくしてるから大丈夫だって。」
龍之介母「ところで、名前は?」
智世「まだつけてないの。募集中です。」
龍之介「“ヨタスケ”は?」
智世「・・・・・・(絶句)・・・・・・どういうセンス?由来は?」
龍之介「いや・・・落ち着きなくて、ヨタヨタ歩き回ってるからさ・・・・・。」

当然のように大不評を買った。即座に却下した智世・・・・・・・・。
子犬の名前を話題に美味しく鍋を囲むのであった。その後、龍之介の部屋に移動した二人。二匹の犬には大木夫妻が夢中になっている。

龍之介「朔ちゃんから連絡あったか?」
智世「ないなぁ〜・・・亜紀からは一度掛かってきたけど。『元気?』ってこの前にね。・・・朔に悪戯をしすぎて、思いっきり怒られたってさ。」
龍之介「ほ〜!付き合ってから7年半くらいだっけか?・・・とうとう亜紀のことをコントロールし始めたか?」
智世「でもね〜・・・何も泣かさなくても。」
龍之介「何?朔ちゃん、亜紀のことを泣かしたのかよ?」
智世「3時間後には仲直りしたみたい。ホントに昔から人騒がせな2人よね。」
龍之介「言えてるな。」

一方・・・。

亜紀「ハクシュッ!!・・・・・・ハクシュッ!!」

キッチンのコンロに水を張り、鍋をかけて沸騰するのを待っていた亜紀を、突然のくしゃみが襲う。

亜紀「何?誰か噂をしてるのかな・・・それとも、朔ちゃんが私の悪口でも言ってるのかな・・・・・・?」

と、その時・・・。
“ガチャ”という音とともにドアが開いて朔が帰宅した。

朔「ただいま。」
亜紀「・・・・・・・私の悪口みたいなこと言った?」
朔「は?」

そのまま、見つめ合う2人・・・・・。
                    ・
                    ・
                    ・
朔「俺は亜紀を悪くは言わない。亜紀も俺のことは悪く言わないでしょ?」
亜紀「うん。智世に愚痴は聞いてもらうけど・・・。」
朔「何?」
亜紀「愛情表現が足りないって言い合ってる。今では朔ちゃんはしてくれるけど・・・。」

朔はテーブルについて亜紀の方を見ている。亜紀はパスタを茹でながら、朔との会話を続けている。ゆっくり朔はキッチンに来てソースの味見・・・・・・。

朔「うん、うまい。」
亜紀「朔ちゃんもスケちゃんもシャイ?照れ屋さん?」

と言いながら、亜紀はパスタの茹で具合をみる。ちょうど良い茹で加減だ。
朔は、横に立ちながら

朔「そういうのは苦手。」

と言いながらも作業を続ける。かなり亜紀の攻撃にも慣れてきたようだ。

亜紀「だから、まだ言ってくれないのね。いつまで待てばいいの?」
朔「言葉では言えないけど行動でならできるかもしれない。」
亜紀「じゃあ、後でやってみせてよ。楽しみにしてるから。」

そう言いながら、パスタを盛り付けた皿を朔に渡した。朔は「うん。」と言いながらソースを上からかける。そんな朔を亜紀は驚きつつも期待に満ちた目で見ている。
そして、食事。亜紀のミートソーススパゲティには朔も大満足。そして、さっき約束したとおり朔が行動を起こした。向き合って座っていたテーブルから立ち上がり亜紀の背後へ。
そのまま、まだ食べている亜紀を抱きすくめた。

亜紀「せめて、食べてからにしてよ。」
朔「そっちがやれって言ったんじゃない。」
亜紀「ま、いいか。温かいし。でも、どういう風の吹き回し?」

亜紀が言ったときに、朔はさらに力を入れた。
1日のうちで数少ない温もりを感じられる時間・・・。
しかし、

亜紀「朔ちゃん、こうしてくれるのは嬉しいけど・・・・・・どこ触ってるのかなぁ?」
朔「え?」
亜紀「・・・・・・・。」

亜紀はすぐさま朔の腕を振りほどくと軽蔑の視線を送るのだった。朔自身は気付いていないので始末が悪い。

亜紀「胸に腕が当たってた!最低!!!」
朔「え!・・・・・いや、俺自身気付いてないっていうか・・・わざとじゃない!とにかくゴメン。」
亜紀「その様子は本当にワザとじゃないのね。しかたない、許してあげるよ。」

すぐさま謝ったので亜紀はすぐに元に戻った。ことなきを得た朔・・・・・・。
それこそワザとやったら、亜紀からビンタの1発2発は覚悟しなければいけないことになる。朔の心の中にはやましい感情は無かった。
しかし・・・・・。
夜、布団に入った時に朔の腕の中で寝ようとはしない亜紀。明らかに警戒していた。
朔も「仕方ないか。」と納得していたのだった。

一方の宮浦。

智世「ほら、寝るよ。」

自宅に戻り2匹の相手をしていた智世。
2匹のうち、子犬はすでにウトウト・・・・・・。
抱きかかえてタオルを何枚か敷いた上に体を置いた。相当に眠いのだろう。子犬はほとんど動かない。その上から毛布が掛けられる。頭だけ出して目をつむっている。上田家の1日が終わっていく・・・・・・。

翌朝・・・。
智世が下に降りてきた。毛布を退かすとまだ子犬が寝ていた。下に敷いたタオルを引っ張ると子犬は驚いたように目を覚ましたのだろう。完全に開ききっていない目をパチクリさせる代わりに、首を振るような仕草をした。そしてさらに、智世がタオルを引っ張ると、コロコロ転がる子犬・・・・・・。

智世「転がる・・・コロコロ・・・・・・コロ?」

智世の脳裏にアイデアが浮かんだ。試しにそれで子犬を呼んでみる。

智世「コロ。」

すると、子犬は相変わらずおぼつかない足取りで智世の足元にやって来た。

智世「決まりね。あんた今日から“コロ”だよ。」

抱き上げて言った。“コロ”と名づけられた子犬は、首を傾げて「なぁに?“コロ”って誰?」とでも言いたげな感じである。頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいるかもしれない。そんな子犬の気持ちを知ってか知らずか、智世はもう一度「コロ。あんたの名前はコロ。」と言った。コロは、返事の代わりに前足と後足をジタバタさせて、返事をしているようだった。

一方の東京では、亜紀が朔の目覚めを待ってパンを焼いている。
朔は、布団の中でこれが試験前の最後になるのであろう、のんびりとした朝を迎えていた。
そんな穏やかな寝顔を見ながら、亜紀は朔の合格を祈っていた。

続く
...2005/07/22(Fri) 00:36 ID:hFmO/2f6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

今回も読ませていただきました。
朔は・・・・考えて行動するとなかなか上手くいかないですね(苦笑
でも亜紀にとっては嬉しかった・・・・はずですよね?
亜紀も相変わらず・・・朔に頑張ってほしいです。

智世の世話好きな面が見れました。
やっぱり智世は優しいですね。龍之介は子供が生まれた時、どんな名前を付けるのか楽しみです。。その時はもちろん智世が隣にいて・・・・却下するんですかね?(笑
次回も楽しみにしています。
...2005/07/22(Fri) 01:42 ID:DP1WdM7w    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。

今回は智世さんの優しい面が出ていて嬉しかったです。
でも、相変わらず、龍之介君はどこかズレていますね。「ヨタスケ」なんてね(笑)
それと、一つ気になるのが、「先輩」の犬の名前です。この犬って、第5話で智世さんのお父さんが抱えていた犬ですよね。

東京にいる二人については、少しの事でも嬉しくなる亜紀さんや、無意識に亜紀さんの胸に触ってしまった朔太郎君の慌てぶりがよかったです。
でもそう言えば、亜紀さんが朔太郎君に「ビンタ」される所、見たことがありません。
それほど仲がいい証拠だと思いますが、一回は、亜紀さんが朔太郎君を「ビンタ」する所も見てみたい気がします。

では、次回のお話を楽しみにしています。
...2005/07/22(Fri) 19:29 ID:xqT9ve1M <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんわ。たー坊様。今週から福岡でも「世界の中心で・・・」再再放送が始まりました。今回は2作を読ませて頂きました。ドラマの後半で亜紀が1日だけの外泊許可が下りて、夜の海で「朔ちゃんの家で朝ごはんを食べるのが今の夢かな」と言ったのを思い出しました。亜紀が生きていれば、二人共この様に幸せな甘い生活を毎日送っていたんだろうなと一人切なく思いながら拝読させてもらいました。最新作では、智世の優しさが、よく描。それに引き換え、龍之介は相変わらずですね。今後、朔と亜紀はどうなっていくんでしょう。とても楽しみに次回作を待ってます。
...2005/07/22(Fri) 23:28 ID:S1b.5Gmk    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま

二人の「未来予想図」ができていく過程がわかって。とてもハッピーですね。あのドリカムの名曲を思わず口ずさみたくなるようなシーンでした。
...2005/07/23(Sat) 05:08 ID:SogL8S42    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
夕妃様
今回もお読み頂きましてありがとうございます。
朔は性格上、計算をするタイプではないでしょうから、どさくさに紛れて、故意にやったわけではありません。もちろん、それさえ無ければ、亜紀は手放しで大喜びしたことでしょう。朔には、いつの日か完璧な愛情を亜紀に伝えてもらおうと思っています。
次回もお読み頂ければ幸いです。

美也様
今回もお読み頂きましてありがとうございます。
上田家に以前からいる犬・・・私自身、名前が分からず、そんな表現をしてみました。もし、ご存知なら教えていただければと思います。
亜紀の朔へのビンタについては、一度くらいは描いてみたいのですが、この2人に限って、そういうこては無いような気もします。
これからもよろしくお願いします。

電車男様
この後の展開ですが、ドラマには無い幸福感溢れる物語が続きます。せっかく東京の部屋で2人きりですしね。都会の甘い生活を満喫してもらおうと思ってます。その中で、2人のエピソードなんかも描ければと思います。
これからもよろしくお願いします。

朔五郎様
お疲れ様です。
ドリカムの「未来予想図」ですか・・・2人の良いBGMになりそうですね。しかし・・・人生プラスマイナスが、この物語のテーマのひとつでもあるので、そこも当然出てくるだろうと思います。当分は大丈夫です。
これからも楽しみにして頂ければ幸いです。
...2005/07/25(Mon) 01:03 ID:VcWqyPzU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
“トントントントン・・・・・・”
亜紀が包丁とまな板でいい音を奏でていた。
今日は朔が国家試験を受けた。今朝、さすがに緊張気味だった朔をとびきりの笑顔で送り出した。しかし、送り出してからの部屋の中で亜紀も不安と緊張に襲われていた。夕食を作っている今もどこか落ちつかない。
その時・・・・・・。
“ガチャ!”

朔「ただいま・・・・・・・・。」
亜紀「おかえり・・・・・お疲れ様。どう・・・。」

「どうだった?」と聞く暇も無く、朔はテーブルの前へ。

亜紀「・・・・・・・・・・。」

国家試験に全てを出し切って来たのであろう。相当疲れているのか、それとも全てが終わって放心状態なのか・・・?朔はこれまでにないほどにボーっとしている。

亜紀「朔・・・ちゃん?」
朔「今までありがとう。おかげ様で、とりあえず一段落したよ・・・・・・・・。」
亜紀「本当にご苦労様・・・どうだった?」
朔「良い悪いはともかく、全力を出して実力も発揮できたことは、俺自身もなんとなく・・・・・・・・。」
亜紀「じゃあ、大丈夫だね。・・・・・ご飯、15分くらいでできるから。」

そう言って亜紀は台所へ。
そして盛り付けまで終わり、朔を呼ぶのだが・・・・・・返事が無い。

亜紀「朔ちゃん。サーク。」
朔「・・・・・・・・・・・。」

亜紀が朔のところに戻ると・・・・・・・・・・朔は上着も脱がずに大の字になり仰向けで寝ていた。やはり、相当に疲れていたのだろう。
全てが終わった後だからであろう、朔は高校時代のようになんとも無邪気な寝顔で寝息をたてている。

亜紀「・・・・ご飯、起きてからにしようね。今日は腕によりをかけたからおいしいよ。今日まで頑張ったご褒美だからね。・・・・・・本当にお疲れ様・・・・・・。」

心を込めて、寝ている朔に労いの言葉をかけた。

亜紀「・・・・・・・・・・もう一つ。」

亜紀は朔に囁くように言った後、エプロンを外して朔のすぐ上に座った後、両手で朔の頭を持ち上げた。起こさないように細心の注意を払った。ゆっくりと自分の太ももの上に置いた。朔は知らない間に膝枕されている。今まで亜紀は朔に2度膝枕されたことがあるが、朔が亜紀に膝枕をしてもらうのは初めてのことだった。

まるで聖母のような優しい眼差しと微笑みを朔に向ける。朔の頬に優しく触れ、自分の長い髪をよけた。ゆっくりと顔を朔の顔に近づける・・・・・・・・・・。

亜紀「(1・・・・2・・・・3・・・・4・・・・5・・・・。)」

亜紀は唇を重ねたまま、心の中で数を数えた。
10秒くらいして唇を離した後、亜紀は顔を少しだけ赤らめていた。
しかし、今回は悪戯ではない。本当に朔を想い愛しいと思えたからこそ自然に振舞えたことだった。
それから、亜紀もホッとしたのか眠気に襲われた。膝枕したまま朔を向いたまま寝てしまった・・・。
                 ・
                 ・
                 ・
2時間後・・・。
時間は10時近くになっていた。
朔がゆっくりと目を覚ます。

朔「・・・・・・・・亜紀も寝て・・・あれ?」
亜紀「・・・スー・・・スー。」

朔は自分が膝枕されていることに気付いた。そして、今度は自分が亜紀にお返しをする番だと思った。
何も言わずに体を起こした。空腹も忘れている。今度は朔が亜紀を抱きしめてキスをした。起こさないようにそっと・・・・・。
上京してから睡眠不足になりながらも精いっぱい支えてくれたことに対して朔なりのお礼だった。亜紀が朔の腕の中が好きと言ってくれているからこその行動だった。
その後、再び睡魔に襲われた朔はそのまま寝てしまう。亜紀も朔にもたれて寝たままだった。
結局、2人が起きたのは10時半近くだった。

朔「いただきます。」
亜紀「どうぞ召し上がれ。いただきます。」
朔「ごめんな。せっかく作ってくれたのに寝ちゃってさ。遅くなっちゃったな。」
亜紀「ううん、いいよ。私も寝ちゃったしね。それに疲れてたでしょ?しょうがないよ。」

夜遅くの夕飯だ。TVをつけるとニュースのスポーツコーナーの時間だった。
プロ野球のキャンプ情報がメインになっている。各球団のルーキーの特集が組まれ、期待と不安に胸が高まる選手の姿が画面に映し出された。

亜紀「朔ちゃんもルーキーだね。」
朔「まだ決まったわけじゃないよ。」
亜紀「朔ちゃんは大丈夫だよ。絶対に合格してるから自身持って。・・・なんとなく分かるんだ。」
朔「根拠は分からないけど、亜紀が言ってくれるとそんな気がするよ。」
亜紀「前向きにね、前向きに。」

朔が味噌汁をすすった。お椀をテーブルに置くなり「あー・・・うまい。」としみじみ言った。

亜紀「朔ちゃんは、期待のゴールデンルーキーになると思うな。」
朔「それは褒めすぎだよ。」
亜紀「そう?これからかな・・・。」
朔「そういうこと。」

亜紀は「私たちはどうするの?」とでも聞きたかったのかもしれない。しかし、合否が出ていない以上、朔がハッキリした言葉を言ってくれる可能性は低いので、その言葉を飲み込んだ。朔と向き合い笑顔が自然と出てくるので、飲み込んだこと自体も気にはならなかった。

亜紀「おかわりは?」
朔「う〜ん・・・じゃあ、一口だけ。」

朔から茶碗を受け取り、亜紀は台所の炊飯器へ。

亜紀「はい。いっぱい食べてね。」
朔「なんか、今日はいつも以上に美味いね。」
亜紀「だって、今日でとりあえずは終わりでしょ。今まで頑張った朔ちゃんへのご褒美じゃないけど、腕にいつも以上によりをかけて作ったから。」
朔「最後の最後まで本当にありがとう。」

食後を終えた2人は揃って台所で後片付けをした。「やっぱり、何をするのでも2人がいい。」洗い終えた食器を朔から渡されて水分を拭き取り、重ねるごとに亜紀はそう思った。
後片付けを終えた2人。
風呂が沸きあがるまでの時間、TVを見ながら2人で壁に寄り掛かっている。

亜紀「ねぇ、朔ちゃん。」
朔「うん?」
亜紀「今夜からはずっと一緒に眠れるよね?」
朔「言われなくても・・・俺もそうしたいし。」
亜紀「よかった。」
朔「それより、聞きたいことがあるんだけど。」
亜紀「何?」
朔「亜紀がこっちに来たときに思ったんだけど痩せたよね?」
亜紀「うん。ホントに少しだけね。」
朔「鼻血、眩暈とか内出血はないの?ちょっと熱っぽいとか・・・・・。」
亜紀「・・・再発はないって佐藤先生が言ってた。定期の通院でね、前に血液検査した時の数値も問題ないって言ってた。それにね・・・・・・・。」
朔「それに?」
亜紀「最近、少し食べる量を気を付けてたから、そのせいだと思うよ。」
朔「・・・・・何で気を付けてたんだよ?」
亜紀「少しだけダイエット。朔ちゃんが宮浦に帰ってきてから、私、少しだけ太っちゃって。」
朔「太ったってどれくらい?」
亜紀「あー!それ、女の子に聞いちゃダメな言葉だよ!失礼だと思わない?」
朔「亜紀が言ったんじゃないか・・・。」
亜紀「それはそうだけど・・・。」
朔「でも、確かに失礼だけど、俺は亜紀の体が心配なんだよ。本当におかしい所はないんだよな?」
亜紀「ないよ。それに太った原因だって見当はついているんだから。」
朔「え?」
亜紀「幸せ太り。あの時は、朔ちゃんがすぐそばにいてくれたからね。」
朔「俺のせい?嬉しいんだか悲しいんだか・・・・・。」
亜紀「ハハハハハハハハハ(笑)」

その後、2人は付けっぱなしのTVもそっちのけでじゃれあった。
他愛のない会話、朔が肩を抱き寄せ、亜紀がそれに応えるようにもたれかかったり、久しぶりに、何ものにも邪魔されない暮らしがこれから宮浦に帰るまで続くと思うと、亜紀は結果など関係なく嬉しかった。それは、2人でいられることを考えるとニヤケることを我慢できない朔も同じであった。
名前を呼び合うだけで幸せな気分になることができる空間がそこにあった。
                 ・
                 ・
                 ・
亜紀「結果はいつ出るの?」
朔「3月。」
亜紀「それまでは東京にいないといけないんだよね?」
朔「卒業式もあるしね。1ヶ月くらいはここにいないといけない。あっという間だと思うけど。」
亜紀「どうしようかな・・・・・アルバイトでも探そうかな、私。」
朔「生活費は問題ないよ。今回は親父が頑張ってくれてるから、仕送りしてもらってるし。」
亜紀「甘えちゃっていいのかな・・・何か悪い気がする・・・。」
朔「まあ・・・・でも、これからのことは明日考えよう。疲れた。」
亜紀「そうだね。じゃあ寝よっか。」

朔がオレンジ色の光を残して電気を消した。
薄暗い中で、ふと亜紀の方を向くと、何かを期待するように目を輝かせている。
朔にはその意味がすぐに理解することができた。

朔「フゥ・・・・。」
亜紀「なーに?何か不満?」

ちょっと膨れてみせた亜紀をいきなり朔が押し倒した。

亜紀「!!!」

あまりに突然のことにまともに声も出ない亜紀。一瞬とても焦ったのだが、朔は何もしてこない。どうやら暴挙に出たわけでなく、少し度が過ぎた悪戯だったようだ。

朔「・・・・・落ち着く。」
亜紀「少しは私の気持ちが分かったでしょ?」
朔「なんとなく・・・・・・。」
亜紀「・・・・・・体を横にしてくれない?少し重いよ。」

亜紀が朔の耳元で囁くように言うと、朔はすぐに体を横にして亜紀の背中に腕をまわした。亜紀は両腕を朔の胸の辺りに当てている。守られているような感覚を覚えて嬉しかった。

そして翌朝・・・・・。
2人とも同時に目を覚ました。

朔「今・・・何時?」
亜紀「ん・・・やだ!11時じゃない!」
朔「・・・・・ハハ、大寝坊だね。それも亜紀も揃って。」
亜紀「笑い事じゃないよ。でも疲れてたね2人とも。」
朔「今日は昼まで眠れそう。」
亜紀「そうしようか。一生に10回あるかないかの大寝坊!」

そういうと再度布団を被った。その間も2人が体を離すことは無かったのである。
これから結果が出るまでは、ひと時の幸せが訪れることになるのである。

続く
...2005/07/25(Mon) 01:05 ID:VcWqyPzU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

今回も読ませていただきました。
やっとですね。やっと二人が自由になったと言うか。
これからの1ヶ月、どんな暮らしになるのか楽しみです。まぁ今以上の幸せなんて、俺にはどんなものか想像できないので、次回がものすごく楽しみです。
期待しています。
...2005/07/25(Mon) 14:17 ID:PchMa682    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、たー坊様、お疲れ様です。とても楽しみに待ってました。ドラマに無い、若い二人の幸福に満ちた物語となっていますね。純愛は当時のままと変わりませんけど。朔と亜紀のやり取りが、実に、微笑ましく感じます。この先、一ヶ月間の展開どうなっていくんでしょうね?次回がとても楽しみです。話は変わりますが、二人の出会いは、1987年6月21(日)学年主任の葬儀だったですね。それ以前は、どうだったんでしょうか?このストーリーを読んで幾たび、気になってしょうがありません。よろしければ、いつかその件について書いていただければ、幸いですけど、宜しくお願いいたします。
...2005/07/26(Tue) 00:18 ID:Md70v9Rg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
夕妃様
今回もお読み頂きましてありがとうございます。朔は国家試験を終えて、ようやくひと段落ついたといったところでしょう。一時的な自由の身ですね。亜紀も同じです。
今のままでも十分幸せなのはおっしゃる通りです。しかし、何の制約もなく一緒に過ごせるのは、さらなる幸せではないでしょうか?そのあたりを描けて行けたらと思います。

電車男様
今回もお読み頂きましてありがとうございます。
この先は短い間ではありますが、最高の時間を過ごしてもらおうと思います。
また、2人の出会いですが、偶然にも執筆中です。それを楽しみにして頂けたら幸いです。
...2005/07/26(Tue) 21:42 ID:HZ2uOfQ6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんばんは。
今回も読ませて頂きました。
他愛もない二人の会話を見ているだけでも、幸せさが伝わってきます。

私のHPでも、今日、第7話の
「防波堤で、亜紀が朔太郎に『好き』と言わせようと迫る場面」
という、幸せそうな二人の場面を書いた所です。
名場面であればあるほど、その場面に思い入れを持つ方が多いと思いますので、書く方としては本当に難しかったです。
なので、たー坊さんがどれほど苦労されているかが、少しですが分かったような気がします。

では、次のお話と「二人の出会い」の物語を楽しみにしています。
頑張って下さい。
...2005/07/26(Tue) 22:08 ID:3ko9W8A. <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:サイトのファン
たー坊さんへ!!
執筆、お疲れ様です!!
まとめて拝読させて頂きました。
サクと亜紀の新婚生活??
ほのぼのと描写されているので
読ませて頂いていて心が温まります!!
サクの国家試験、、、
合格するといいですね。
智世の家の新しい家族のコロ・・・
龍之介と智世の関係の進展のキーにでもなるのですかね??
スゴク気になります。
続編、お待ちしております!!
...2005/07/27(Wed) 02:25 ID:5G.px4Qg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様

HP作成でお忙しい中でもお読み頂きましてありがとうございます。
最近は日常の小さな幸せに特化した物語(と言っても基本的なテーマはそこですが・・・。)を描いておりますが、これからもよろしくお願いします。

サイトのファン様
お忙しい中お読み頂きましてありがとうございます。
これからは、朔の進路に伴う新生活など、色々と書くことが多くなりそうなので、一つに絞って描かせていただこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
...2005/07/27(Wed) 18:10 ID:UeV1sfkk    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔と亜紀が最高の日々を満喫しているその頃・・・・・・。

龍之介「おいコロ!あんまりウロチョロすんなって。」
智世「やっぱり置いてきた方がよかったかな?」
龍之介「思ったより元気になるのが早かったからな・・・。それにしても、いきなり体と足がしっかりして来たんじゃねぇのか?」
智世「そうなのよね〜。最近じゃ家の中は歩き尽くしたらしくてね、やたらと外に興味を示すのよ。良い物食べさせすぎたかな・・・。」
龍之介「んで、何で“コロ”って名前にしたんだ?」
智世「あんたの家で鍋を食べた後、帰って寝かせた次の朝、敷いていたタオルを引っ張ったら、コロコロ転がったのよ。それで試しにコロって呼んだら、私の足元に来たの。」
龍之介「それが由来か?」
智世「そ〜よ。悪い?」
龍之介「そうは言ってねぇじゃねぇか。まあ、可愛らしい名前だと思うぜ。・・・お前と違って・・・・。」

小声でボソッと言う龍之介。しかし、智世の耳に届くには十分すぎる声の大きさだった。
いきなり後頭部を叩く智世。

龍之介「いって〜な!このアマ!」
智世「あんたねぇ、もう付き合って長いんだから!そういうのは卒業したらどうなのよ?」

それから、かなりの時間が路上夫婦漫才に費やされた・・・・・・・。見物しているのは・・・・・・コロただ一匹・・・・・・。2人の様子を見ていたコロは、チョコンと首を傾げて、「何やってんだか・・・・・。」と言いたげなのかもしれない。つぶらな瞳で見た後、「ファ〜〜〜〜ア。」と大あくび・・・・・・。

智世「何よ〜・・・・・・・コロ、何か文句ある?」
コロ「(べ〜つに〜。)」

“ポリポリ”と後ろ足で首の辺りを掻くような仕草をしようとする。
その態度は、あからさまにバカにしているように見えても仕方が無い。

龍之介「てめぇ・・・・・・。」

龍之介はムキになり、コロの首の後ろを掴むと持ち上げた。コロは体をジタバタさせている。

龍之介「お前、人間をバカにしてるとまた捨てられるぞ?」
コロ「(だって、バカなんだもん。)」

と、言ったか言わないかを理解する方法はどこにも無い。しかし、顔を“プイ”と横に向けるので、龍之介の想像するのも無理は無い・・・・・・。

智世「あんたねぇ・・・・・・。」
龍之介「おい智世。本当にこいつ、船で無人島にでも連れてって置き去りにしてやろうか?それとも、船の上から大海原に投げ捨ててサメの餌にでもなってもらおうか?」

かなり凶悪そうな表情をしている龍之介。智世も「本気?」と心配になってしまう。
そして、当のコロは・・・・・怯えている。

智世「スケ、あんたのことも大事だけどこの子も大事。本当にそんなことしたら、ビンタ100発じゃ済まないわよ?」
龍之介「だってよ。よかったな、コロ。」

そう言うと、地面に下ろしてやった。
コロは「ヴ〜・・・・・・。」と虚勢でも張っているのであろうか?明らかに敵意むき出し。そんなコロをヒョイと持ち上げて抱っこしてあげるのは智世だ。

智世「大丈夫よ〜・・・あんたはおっきくなるまで私が面倒見てあげるからね。」

そんな時、「智世〜、スケちゃん〜。」と2人を呼ぶ声がする。
2人が振り返ると、そこにいたのはボウズと恵美。

龍之介「あっれ、来てたのか?」
恵美「昨日の夕方ね。小田原まで出張に行ってたのよ。仕事も終わったから帰りに宮浦にね。」
智世「ボウズのとこ?どうせなら私のところに泊まってよ〜。女友達もいないからさ〜、最近はつまらないったらありゃしないわよ。」
恵美「亜紀は?」
智世「朔の所。」
ボウズ「そういや試験はどうなった?」
龍之介「結果はまだだろ。」
恵美「東京だよね?なんだか羨ましい。2人で今頃幸せなんだろうな。」
智世「普段、私達の前では見せられないことをしているかもよ?」

話題は自然と朔と亜紀のことになる。
しかし、智世が抱きかかえている子犬を見るなり話の主役は変わった。

恵美「智世、その犬は?」
智世「この前、捨てられてたのを拾ってきたの。」
ボウズ「名前は?」
智世「コロ。」
恵美「ちょっと抱かせて。」

智世が恵美にコロを抱かせてあげた。コロは、さっきとうって変わっておとなしい。少しだけ警戒心があるのだろうか?少し恵美の匂いを嗅ぐ・・・・・。

恵美「わー・・・・かわいいね・・・。」
智世「家に連れてきた時にはちょっと心配だったのよ。それが今では急にわんぱくでやんちゃになってね・・・・・。」
恵美「でも、おとなしいよ?」

そういった時に、警戒心を解いたコロが恵美の頬をペロッと舐めた。それからは愛想を振り撒くようにじゃれるコロ・・・・・。恵美はとてもコロを気に入ったようだ。

恵美「ねぇ智世、この子家に連れてっちゃダメ?」
龍之介「連れてかない方がいいぜ。そいつの本性を知ったらガッカリするから。」
恵美「え?」
智世「アハハ。スケとコロって、何か相性が悪いみたいだから・・・・・。」
コロ「ヴヴ〜〜〜〜〜。」

恵美の腕の中で龍之介の方を向き、明らかに敵意をむき出す・・・・・・。

ボウズ「こりゃいいや!よぉスケ、コロにも好かれるように頑張れよ!」
龍之介「なんで俺がコロに好かれるように頑張らないといけないんだよ?」
恵美「う〜ん・・・彼女のペットにも好かれていたほうがいいかもね。」

そういうと恵美は抱いていたコロをボウズに渡した。コロはさっきと同じようにボウズの匂いを嗅ぎ、すぐにボウズとじゃれようとしている。ボウズも頭を撫でてやるのだった。

智世「これで懐いていないのはあんただけよ、龍之介。」
龍之介「あっそ。」
ボウズ「俺と恵美には懐いてるぞ〜。なんで嫌われんだか。」
恵美「普段の行いが悪いんじゃないの?スケちゃん?」
龍之介「俺の何を知ってんだよ?」

その後も龍之介に敵意を向けるコロだが、3人には愛嬌を振りまき続けていた。
一方・・・・・。

朔「・・・・・・・・・・。」
亜紀「・・・・・・・・・・。」
朔「・・・・・・なんだよ?」
亜紀「まあ、いいじゃない・・・・・・。」

ここぞとばかりに亜紀が朔に思いっきり甘えていた。
かつて、“ガム太郎”と呼ばれた朔よりも、今の亜紀の方がそのような感じの呼ばれ方の方が似合うかもしれない・・・・・。
亜紀は朔にベッタリ・・・・・・。朔も戸惑いを隠せないでいる。「もし、おじさん(真)にこんな状態を見られたら交際を反対されるかもしれない・・・・。」と感じてしまうほど、朔には不安が付きまとう。
そんな朔の気持ちを知る由がない亜紀。朔の肩にもたれたり、腕を組んだり。離れようとしないでいる。

亜紀「あれ?どうかした?」
朔「くっつき過ぎ。」
亜紀「いいじゃない。誰かに見られるわけじゃないんだし。」
朔「そうじゃなくってさ・・・・・・・。」
亜紀「2人きりですることなんてこれくらいしかないでしょ?」
朔「・・・そうかなぁ・・・・・違うと思う。」
亜紀「なんとなくやましいんでしょ?大丈夫。明日には元に戻るから。」
朔「そういうもんなの?」
亜紀「禁断症状かもね(笑)」
朔「笑い事じゃないって。」
亜紀「それもそうね。もし、私がこのままだったら、朔ちゃんに依存しちゃうかもね。」
朔「依存って・・・。」
亜紀「もう、今年の7月で・・・8年!・・・そんなになるんだね。」
朔「・・・あっというまだったけど。」
亜紀「そこまで来たら、依存しちゃうのも自然なのかな・・・。」
朔「・・・もし、あのまま亜紀が病気にならなかったら、俺たち結婚しているのかもな・・・・・。」
亜紀「そうだよねぇ・・・もう8年だもんね・・・。」
朔「そのうちの半分くらいのデートは病室だったし。」
亜紀「あ、ひどい!それ皮肉でしょ?私だってなりたくてなった訳じゃない!」
朔「あ、デートじゃなくてお見舞い。」

冗談と分かっていても結構カチンときている亜紀。思いっきり膨れっ面をしている。
朔はさらにからかいを込めてその頬を人差し指でつついた。

亜紀「朔ちゃんのバカッ!!」
朔「さてと、何か飲もうかな・・・・・・。」

これ以上は怒らせまいとキッチンに向かう。後ろから亜紀が「ココア。」と相変わらずの膨れ顔と口調で言った。朔は苦笑いを返してお湯を沸かし始めた。2人お揃いのマグカップをテーブルから持って来て準備をする。

亜紀「少し甘め。」
朔「え?」
亜紀「甘め!」
朔「はいはい。」

お湯が沸き、2人分のココアを作る。言われたとおりに亜紀の方には少しだけ砂糖を加えた。両手にマグカップを持ちテーブルに置く。

朔「はいどうぞ。」
亜紀「どーも!!」

いつになく投げやりな亜紀。

朔「いい加減にしたら?膨れ顔を作り続けるのも疲れるでしょ。」
亜紀「私を膨れさせているのはどこのどなたかな?」
朔「たまにはさぁ・・・・・・。」
亜紀「ふん。」

プイとそっぽを向く。
「まるで子供だね。」と朔は言った。憤慨する亜紀・・・・・・。

亜紀「どうせ私は子供ですっ!!朔ちゃんはもう大人になったんだもんね。大人と子供じゃ結婚も無理ね!」
朔「うん、無理だね。」
亜紀「・・・・・・・・・・ゴメンなさい。」

あまりに落ち着いている朔に、いつもの方法は通用しないと判断した亜紀は素直に謝った。
それも小さな声で・・・。

朔「ん?何か言った?」
亜紀「ゴメンなさい。」
朔「聞こえないなぁ・・・・・。」
亜紀「ゴメン!!」
朔「よくできました。」
亜紀「・・・・・・・・・・・・・・。」

亜紀は何も言わずに朔の方をジーっと見つめた。そして、朔がカップを置いたのを見て体当たりをした。勢い余って後ろにあった壁に後頭部をぶつけ、
“ゴン!!!”といい音がする。亜紀の実力行使だった。

朔「痛っ!!」
亜紀「はぁ〜スッキリした!!」
朔「バカを言うなよ!下手したら死ぬ事だってあるんだぞ!!」
亜紀「ゴメンね〜。でも、私をからかった罰だ!それに手加減したからそんなことない、ぞ・よ!」
朔「ふざけんな。」
亜紀「あら?私にそんな口調で言うの初めてじゃない?」
朔「・・・・・・。」
亜紀「じゃあ、仲直りということで。」
朔「今のはケンカ?」
亜紀「細かいことはもういいの!夕ご飯は何にする?」

続く
...2005/07/27(Wed) 18:16 ID:UeV1sfkk    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

今回も読ませていただきました。
珍しく、朔が主導権を握ってる感じでしたね。いや、亜紀がわざと下手に出ていたのか・・・。
しかし、最終的には実力行使とは(苦笑
ビンタではなく体当たり・・・なんとなく雰囲気がいいですね。
やっぱり最後は亜紀の勝ちでしたね(笑

次回も楽しみにしています。
...2005/07/27(Wed) 23:05 ID:dCKfNPWo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:
初めまして。いきなりですがこの話はおもしろいと思います。電車男みたいに小説化してくれないかなーなんて思ってます。これからも楽しみにしています。体に気をつけてください。
...2005/07/28(Thu) 16:36 ID:BPDIHzDw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
夕妃様
付き合い始めてから時間もかなり経過して、亜紀の攻撃にもだいぶアドリブが利くようになった朔がいます。亜紀も以前ほど主導権を握ることが容易ではないことに気付いているので、逆に素直になっていくのでかないのでしょうか。
これからもお読み頂ければ幸いです。

r様
はじめまして。アナザーストーリーを執筆させていただいているたー坊です。
お褒めの言葉をいただきましてありがとうございます。小説化はとんでもないことですが、そこまでおっしゃて頂ける事は大変嬉しいことです。
この物語は、皆様は物語を執筆なさっておられるのに触発されて書き始めたものです。拙く、出来も良いとは思えませんが、これからもお読み頂ければ幸いです。
...2005/07/31(Sun) 21:05 ID:TjlGlSwk    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
龍之介「・・・・・・・・・・パパさん、4つ。」

コロを連れてたこパパに来ている4人。龍之介が注文していた。
智世の膝の上にコロがいる。パパさんの焼く動作とたこ焼きの匂いの両方に反応を見せている。こらえきれなくなったのか地面に降りてパパさんの前へ。小さな尻尾を動かして興味津々。

パパさん「もうちょっと待ってろな!もう少しで焼けるから。ほれ、ご主人様の所に戻って待ってろ。いい子だから。」
智世「コロ、こっちおいで!」

コロは理解したのか、智世の足元にゆっくりと戻った。

ボウズ「おいスケ、ちゃんと5人分頼んだんだろうな?」
龍之介「あ?4人だろ?」
恵美「え、コロの分。」
龍之介「そんなもん人間じゃあるまいし・・・ガキのころから贅沢させんじゃねぇよ。」
恵美「ひどい。」
智世「最低ね、アンタ・・・・・・。」

女性陣に冷たい視線を向けられた龍之介は、理不尽さすら感じている。

ボウズ「おいコロ。心配しなくてもいいぞ。俺の1個やるからよ。」
恵美「私も。」
智世「よかったねぇ。あんた可愛がられてるよ。」

そう言いながらコロの頭を撫でる。コロは心地良さそうな表情を浮かべている。
その時、パパさんが4人前を持って来た。

一同「いただきまーす。」
恵美「あ!おいしい!」
ボウズ「恵美はここのたこ焼き初めてだっけ?」
恵美「初めてよ。いいな〜、皆は小さいころからこのたこ焼きを食べてきたんでしょ?」
智世「そういうこと。子供のころからこの値段、この味なのよ。」

その時、ボウズの足元にやって来たコロが、足を甘噛みしてねだる。

ボウズ「おいおい。そんな慌てなくてもやるよ。」

そういうと、たこ焼きをつまんでコロの口元に運ぼうとしたその時、パパさんが再度たこ焼きを持って来た。

パパさん「特大サービス!!」
恵美「すごい!」
智世「いいの〜?パパさん?」
パパさん「おう!」

テーブルの上に持って来られたたこ焼きは、3人分はあろうかという量だった。
さらに、小さな紙皿もついている。

恵美「紙皿はコロのお皿かな?」
智世「多分ね。」

そういうと、5個のたこ焼きを取ってコロの前に置いた。コロはよだれを垂らしながらそれを待っていて、智世の手が皿から離れると早速1個を口に入れた。
おいしそうに食べるコロに一同は微笑ましくなる。龍之介を除いて。
龍之介は1人ふてくされながらコーラを飲んでいた・・・・・・・・・。

一方・・・

亜紀「夕飯は?」
朔「今日こそラーメン。」
亜紀「じゃあ、そうしようかな。あ、お買い物に行かないと。」
朔「麺は無いの?確か、前に買ってたはずだけど・・・。」
亜紀「え?あったかな・・・・。」

亜紀はそう言うとダンボールの中を探す。朔もやってきた。

朔「あれ?」
亜紀「無いね。食べちゃったのかな。」
朔「仕方ない、買ってこようか。」
亜紀「そうだね。あ、ちょっと待って。」

亜紀はそういうと、押入れの中から2人のパジャマを出してきて洗濯機へ。

亜紀「あ、朔ちゃんの少し汗の匂いがする・・・。」
朔「ゴメン。いつもいつも。」
亜紀「ううん。いいよ。」

洗濯を終えて干した後で出かける準備を済ませた後、戸締りを確認した。ドアを開けて部屋を出る。
しっかりと手を握ってスーパーへ向かった。

スーパーにて・・・。

亜紀「これでいいよね。」
朔「え?こっちでしょ。」

さっそくラーメンの棚の前に来た2人。
どの味にするかで意見が異なってしまう。

亜紀「普通しょうゆでしょ。」
朔「いや、塩でしょ。」
亜紀「私、しょうゆがいいな・・・。」
朔「俺、塩が好きなんだけど・・・。」
亜紀「しょうゆ!」
朔「塩!」

このままでは、らちがあかないので自然とジャンケンになった。
「最初はグー!」で、結果は・・・亜紀の勝利!

亜紀「はい!しょうゆに決定!異議は無いよね!?」
朔「でも次は絶対に塩だから。」
亜紀「朔ちゃんが作ってくれるならね。」

嬉しそうに笑った亜紀は足を他のコーナーに向けた。後からは朔がしょうゆラーメンを持たされて続く。追いついた朔は人目を気にせずに亜紀の手を握る。亜紀も握り返して来た。品物を見る間であってもその手が離れることはない。

一方の宮浦。

智世「ほらスケ、仲直りしなさいよ。」
ボウズ「そうだぞ。子犬相手に何ムキになってんだっつの。」
恵美「コロもたこ焼き1個で手を打つって言ってくれてるんだから・・・。」
龍之介「誰がこいつの言うことを理解できてんだよ!!?」

たこ焼きをたいらげた一同は、龍之介とコロに和解をさせようとしていた。
コロもさっきとはうって変わって龍之介の足元にやってきてチョコンと座っている。
目当ては龍之介の分のたこ焼きなのは誰の目にも明らかだった。

龍之介「本当に要領のいいやつだな、お前は・・・・・・。」
智世「いいから細かいことは気にしないの!」
龍之介「はいはい。」

そういうと龍之介は一つ残ったたこ焼きをコロの前に置いた。コロは早速飛びつくようにそれを食べる。

龍之介「ほら、もう人をバカにすんじゃねぇぞ。」

そう言った龍之介。コロは食べ終わった後でその場で座りなおして龍之介を見ている。

智世「和解成立!」
恵美「よかったねー。コロ?」

コロは恵美の方を向いて舌を出した。その後、足元にやって来たコロを恵美は抱き上げて膝の上に乗せた。
その後もしばし談笑は続いたのである。

そして、東京の夜・・・・・。
スーパーを出た時に、少し雨が降ってきた。慌てて2人は急ぎ足で部屋に戻った。

朔「よーし、できた。」
亜紀「こっちもいいよ。」

夕食の用意をしている。ラーメンの他に手作り餃子も食卓に乗せようと朔が腕を振るっていた。亜紀はラーメンを担当。出来上がりと同時にテーブルに運びスープをすする。

朔「たまにはいいな。」
亜紀「おいしい、本当にたまにはいいかも・・・。」
朔「餃子はと・・・。」
亜紀「これ、おいしい!朔ちゃんすごい!」
朔「うん、いけるいける。」

食事の間の談笑は続いている。数時間前にケンカしたことなど忘れていた。
そして亜紀がいきなり真剣な話を切り出した。ずっと亜紀が気にしていたことだ。

亜紀「ねぇ、朔ちゃん。」
朔「ん?」
亜紀「私と暮らしてるけど、何か違和感とかない?」
朔「突然なに?」
亜紀「こうして期間限定で2人暮らしでしょ。朔ちゃん、私の日常を知ったら嫌になっちゃうんじゃないかなって思ってたの。」
朔「高校時代にも聞いたよね。」
亜紀「どう?食べ物の好みとか、私の主婦業とか・・・・・・。」
朔「別に・・・嫌なことは無いよ。靴下だって普通にたためるしね。」
亜紀「それは・・・ね。あまりからかわないの。私、真剣なんだからね。」
朔「じゃあ、俺も真面目に答えるよ。」
亜紀「うん。言って言って!」
朔「全然問題は無いよ。・・・・というよりも、こういうのって心地良くってさ。おかげで俺も良い思いをさせてもらってるしね。将来結婚したらこういう感じがいいよ。俺。」
亜紀「本当?なら良かったぁ・・・。本当の私を知ったら朔ちゃんは、結婚してくれないんじゃないかと思って・・・。」
朔「え、亜紀は今まで俺に本当の姿を見せてくれてなかったの?」
亜紀「違うよ。病気になってからは、多少は意地っ張りな面もあったけど自分の姿をさらけ出してきたつもり。」
朔「それなら・・・・・・。」
亜紀「いつも装ってた私に『頑張らないでいい、そのままでいい。』って言ってくれてからは、素直に甘えさせてもらってるんだからね。そこは心配しなくていいよ。私が心配してたのは、お互いの生活のリズムとかが、あまりに違っていたらどうしようって・・・・・・。」
朔「・・・やっぱり、俺が勤め始めたら大変だと思うけど、それでも、お互いに頑張れたらと思う。」
亜紀「やっぱり、月に1度くらいしか会えなくなっちゃうのかな?」
朔「そればかりはなんとも・・・・・・。まあ、細かいことは後で考えよう。」
亜紀「そうだね。」

再び笑顔で食べる2人。その時、亜紀が餃子を箸で持って朔の顔の前に差出した。
訳が分からずにポカンとしている朔に言う。

亜紀「はい。」
朔「あ、自分で取るから。」
亜紀「そうじゃなくて・・・。」
朔「あ、小皿?」

しかし、亜紀はそれでも「違うよ。」と言いたげ。そして自ら少し顔を赤くして言った。

亜紀「はい、あーん。」
朔「え?・・・・・・・・。」

微妙な沈黙・・・・・・。
朔はそれだけは勘弁してくれと言いたげである。しかし、亜紀はなおも続ける。

亜紀「もう・・・いいから!だって誰もいないんだよ。」
朔「それは、そうだけど・・・・・・。」

そう言いながらも朔もなんとなく覚悟を決めている様子。理由は亜紀があからさまに不機嫌な口調で言ったからであった。それに以前も同じようなことが一度だけあった。
1分後、朔は恐る恐るそれを受け入れた。亜紀は「よくできました。」と恥ずかしそうに笑っている。

朔「これも、退院したら1度してみたいと思ってたこと?」
亜紀「うーん・・・10番目くらいにしてみたかったかな。」
朔「え・・・そのうちどのくらいが終わってるの?」
亜紀「6つくらいかな。」
朔「じゃあ、最低でもあと4つあるんだ・・・。どんなことがしたいの?」
亜紀「まず仕事でしょ。あとは朔ちゃんと・・・・・結婚式、新婚旅行、新婚生活!」
朔「あ、そう・・・。」

しばし話の主導権を亜紀が握りつつ楽しい時間を過ごした。
その後は2人でドラマを見る。朔の受検勉強中、亜紀が見ていたドラマのようで、朔もそれに付き合った。内容は学生達がそれぞれの将来と今の恋愛に翻弄されるというもの。亜紀は時々「いいな・・・。」と呟く。その時は、決まって仲睦まじいシーンであることに朔は気付いていた。

そして、風呂上りの朔の目の前には、なぜか朔のTシャツを着た亜紀。

朔「パジャマは?」
亜紀「さっき雨降ったでしょ。私のも朔ちゃんのもまだ乾いてないの。」

さすがに真冬ではないので幾分暖かいが、それでも冷え込みは厳しい。朔は、Tシャツでも寒くないように押入れからもう一枚毛布を出した。

亜紀「今日は朔のシャツを借りるね。」
朔「いいよ。」

まだ暖房がついている部屋の片隅、壁のすぐ横にくっつけるようにして布団を敷いた。
朔は壁に寄りかかる。亜紀もそれに続くように、朔の懐に飛び込むようにして朔に寄りかかる。

朔「おい、亜紀・・・。」
亜紀「ゴメンね。でも、こうしていたい。」
朔「・・・不安?何かあるんじゃない?」
亜紀「不安はあるよ。最近順調すぎて怖い。」
朔「絶対にないから。こんなことするのは恋人同士なら普通なんじゃない?」
亜紀「私達、普通じゃなかったから。」

まだ、そんな大きな不安ではないことは亜紀自身も朔も分かっている。でも、もしそれが大きくなってしまった時に何かが起きるのではないか?という不安が亜紀には常にあるのだ。
朔は、亜紀を抱きかかえたまま布団に横になった。すぐさま上から布団を掛ける。間もなく亜紀が涙ぐんだ。朔は夢島の時とは違いその理由をなんとなく捉えていた。
亜紀にとっては幸せの感覚はあの時と同じなのであろう。これからまた不幸が襲い掛かるのではないかという不安が、再び出てきている状態だ。

朔「もう何も無いって、絶対。」
亜紀「本当?」
朔「うん。」
亜紀「じゃあ、寝る・・・ぞよ。」
朔「目を覚ますと朝だよ。」
亜紀「もし目覚めなかったら?朝は来ない・・・よね」
朔「俺が起こすよ。氷を使ったり、熱湯を掛けたりして。」
亜紀「それ、この前に私が言ったことじゃない・・・その中にキスは無いの?」
朔「それでもいいけど・・・・・。」
亜紀「じゃあ、それで起こして。」
朔「だからって、寝たフリは無しだからな。」
亜紀「あ・・・バレちゃった。」

朔はさらに体を全体を押し付けてくる亜紀を受け入れた。背中に手を回して強く抱き寄せる。お互いにTシャツしか着ていないので、豊かで柔らかいふくらみが当たり、その奥からは亜紀の鼓動を感じることができた。

亜紀「Tシャツの上に何か着ればよかったのにね。なにやってるんだろうね・・・私達。」
朔「寒いよな。」
亜紀「ううん。朔がいるからとっても温かい。もしかしたらセーターを着るより温かいかも・・・。」
朔「お世辞はいいよ。」
亜紀「そんなじゃない。本当にそう思うよ。」

朔は嬉しく思い、亜紀の左頬にキスをする。亜紀はさらに朔と体を密着させようとする。
朔は思った。自分は亜紀なくして生き続けることはできない、亜紀に生かされているとも感じた。そして決意するように亜紀に気持ちをこう伝えた。

朔「亜紀。また、自転車の後ろに乗って欲しい。」
亜紀「少し太らないといけないね。」
朔「今のままでいいから。」
亜紀「おじいさんの代わり?」
朔「違う。俺は、亜紀を乗せて走りたい。」
亜紀「うん。私そのままで後ろに乗るからね。」
朔「俺、亜紀を守るから・・・ずっと・・・。」
亜紀「うん。私、朔に守ってもらうから・・・(一生かな?)」

続く
...2005/08/01(Mon) 23:37 ID:KCm5xpXs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:
やっぱりおもしろいなーと思います。毎日「今日はUPされたかな?」とこのホームページを見ています。これからも楽しみにしているのでどんどん書いて下さい!!それと個人的に言うと、亜季や朔に恋敵が現れてくれないかなー、なんて思っています。
...2005/08/02(Tue) 13:18 ID:FHCEOg/o    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
r様
今回もお読み頂きましてありがとうございます。
以前の私のコメントをお読み頂ければお分かりになって頂けるかと思いますが、身内が入院してしまい、私自身も時間を見つけては執筆・投稿をしています。とても毎日はUPできませんし、現在は定期的にUPすることもできませんので、何日かに1度くらいのペースでチェックして頂ければと思います。

また、物語のネタをご提供いただけるのはありがたいのですが、とても皆様のご希望等に沿えるだけの時間と文章力を持ち合わせておりません。そこをご理解頂ければと思います。

次回もお読みいただければ幸いです。
...2005/08/03(Wed) 20:54 ID:xO6hMlcU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

読ませていただきました。
やはり亜紀とって、普通の幸せが恐怖に変わってしまうのも仕方がないですよね。並大抵のことじゃなく、またあんな生活に戻ったらと思うと、どうしようもない。

今回の話を読ませていただき、亜紀のためにそばにはずっと朔にいてほしいと思いました。いつも思いますけど、今回は特に。
そして、朔のために、亜紀にはずっとそばにいてほしいと思えました。
次回も楽しみにしています。
...2005/08/03(Wed) 21:30 ID:t/BVcLKI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
コロがいい味出してますね。
こういう、強いものに媚びないヤツというのが大好きです。
亜紀の不安はよく理解できます。読者の立場としては複雑な思いがありますが・・・
...2005/08/03(Wed) 22:09 ID:Am.BlgKA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
夕妃様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
朔と亜紀、お互いにずっと一緒にいることでしょう。それは亜紀にはこの先まとわりつくであろう不安を払拭するのに必要であるからであり、朔もまたそれを望むでしょう。お互いに添い遂げることが、自分の人生そのものとも思っているかも知れません。
次回もお読みただければ幸いです。

朔五郎様
ご感想いただきありがとうございます。
一度は捨てられてしまったにもかかわらず、それでも媚びないコロですが、さすがに要領の良さは身に着いています。これからは上田家で幸せになることでしょう。たまに登場させて、ハチ公ばりの賢い犬になって、たまに活躍してもらおうかなとおもっております。
これからもよろしくおねがいします。
...2005/08/05(Fri) 14:51 ID:X8WVw3pU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
よほどのことが無い限り陽は昇り、人々は朝を向かえて1日が始まる。
そんな当たり前すぎてこれっぽっちも考えないことを幸せに感じる者もいる。もちろん、この2人もそのうちだ。

亜紀「・・・・・・いつまで寝るの?せっかくの時間が減っちゃうよ。」
朔「スー・・・スー・・・スー・・・スー・・・スー・・・。」
亜紀「相変わらずの癖ね・・・ここまで来ると病気よ。受験疲れが一気に出てるのかな。」
朔「うー・・・ん・・・。」
亜紀「本当によく寝るね。・・・でも、朔ちゃんの寝顔を見れるのも一つの幸せかな。」

口元を緩めながら、寝ているのにしっかりと自分を腕の中にいさせてくれる朔に話しかけるが、そんな言葉も朔の耳には届かない。亜紀は「ね・・・。」と念を押し確認するように言った。

朔「スー・・・・・・・・。」
亜紀「もう9時だよ。起きるのを待ってる方も大変なんだぞ・・・。」
朔「・・う・う・・・ん・・・。」
亜紀「ま、いいか・・・・・・。」

すぐそばにある朔の顔。高校時代とほとんど変わらない寝顔には、亜紀も、ただただ微笑むしかない。呼んでもなかなか起きてくれなかった夢島のことを思い出す。もう7年も前のことだった。そして、「朔!」と呼んで「んあ?」と言いながら起きた朔の姿をもう一度見たいと思った。
手始めに鼻を軽くつまんでみるがダメ。次に右頬を“つんつん”とつつくがこれもダメ。
そして、

亜紀「朔!」
朔「・・・・・・・・・・・・・・・・スー。」
亜紀「・・・・・・・・・・。」

一回でダメなら、

亜紀「朔!朝だぞ!起きなさい!遅刻するよ!」

「遅刻!?」と寝ぼけながらも口にしてパッチリと目覚めた。しかし、目の前には悪戯っぽく微笑む亜紀の優しい笑顔があった。
朔「おはよ・・・・・・ふぁ・・・。」
亜紀「おはよう、よく寝てたね。」
朔「何かした?寝てる間に、顔に何か当たったような・・・当たらないような・・・・・。」
亜紀「鼻をつまんで頬をつついたの。それでも起きてくれなかったから、朔!って2回呼んだよ。」
朔「そっか、ありがとう。寒くなかった?」
亜紀「全然、大丈夫。」

Tシャツ姿の二人。
亜紀は体を起こそうとする。

亜紀「朔ちゃん、朝ごはん作るから放して。」
朔「嫌だ。あと5分。」
亜紀「もう・・・。」

嬉しさがこみ上げる亜紀だが、朔はそういうと眠ろうと目を閉じた。
てっきり、朔は自分を必要と思ってくれていると解釈していた亜紀。これには一瞬にして怒る。

亜紀「朔ちゃん!」
朔「あと少しだけ・・・・・・。」
亜紀「私は抱き枕じゃないよ!寝ぼけ過ぎ。」
朔「いや・・・亜紀って抱き心地が良いもんだから・・・・柔らかいし。」
亜紀「ふぅーん・・・そうなんだ・・・・・・。」

言い終わると同時に“ギュ〜”と朔の鼻をおもいっっっきりつねってやる。「イデデ・・・。痛い!」と朔が言ったので亜紀はその手を離した。

亜紀「何考えてるの!」
朔「ゴメン。」
亜紀「こういうのは私らしくないんだからね。ちょっとだけ嬉しかったけど・・・。」
朔「だったらいいじゃない・・・。」
亜紀「はい!さっさと起きる!!」
朔「それはやめろよ。谷田部みたい。」
亜紀「だってマネしたんだもん。」

しぶしぶ体を起こし朔が布団を片付ける間、脱衣所では亜紀のパジャマ代わりに使った少し大きいサイズのTシャツを脱ぎ普段着に着替える。朔のTシャツには、引き出しの匂いに混じって少しだけ朔の匂いがする。綺麗に整えてハンガーに掛けた。
すでにキッチンには朔が台所に立ち朝食の準備をしていた。まだ眠そうな顔をしている。

朔「ふぁぁぁぁぁ・・・・・。」
亜紀「お寝坊さん、朝のメニューは何ですか?」
朔「お寝坊さん?コックの間違いでしょ。」
亜紀「じゃあコックさん、朝のメニューは何ですか?」
朔「軽く、スクランブルエッグ、ベーコンをカリカリに焼いたやつと、昨夜の残りのサラダ。」
亜紀「じゃあパンだね。焼いていいの?」
朔「うん、頼むよ。それと、チーズやブルーベリーにジャムがあるから。冷蔵庫の中、お好みでどうぞ。」
亜紀「遠慮なく頂きます・・・・・・ぞよ。」

軽くとぼけた微笑ましい会話。「フフ・・・・・・。」と亜紀は機嫌よさそうに準備する。
朔はベーコンを焼いていた。いい音と匂いがする中、時折、亜紀がふざけて自分の背中に顔をくっつけたりしてくる感触が嬉しい。
時折、アパートの隣の緑道をスクーターが走る音が聞こえてくる。それが小さくなると、住宅地の一角にあるこの部屋はいつもの静かさを取り戻す。そんな2人の愛の巣は、せわしなく時を過ごさなくてはいけない都会の中にあっても、穏やかにゆっくりと時を刻む。
一方、対照的なのは・・・・・・。

智世「待て〜!!待ちなさ〜い!!」

まだ漁船が帰港する船の数もまばらな宮浦港に、智世の大きく騒がしい声が響く。
「コロ!待て〜〜〜〜!」と言う声も空しく、一匹の元気な子犬が岸壁へと猛ダッシュしていた。そんなコロを追いかける智世。元陸上部もこのところは運動らしい運動もなく、体はすっかり鈍っている。

智世「30になる前に鍛えなおさなきゃ・・・・・・。」

コロを追いかけながら心の中で真剣に呟いた。
一方のコロはスピードを落としある場所に座った。智世もすぐに追いつきコロの後ろに佇む。

智世「あんた、どうしたの?こんなところに。」

息を切らして海を見ると、龍之介が船で戻ってくるところだった。
船が接岸すると同時にコロが船内に飛び乗る。

龍之介「おいおい。もう少し待ってろコロ。」

そう言うと、コロをヒョイと持ち上げ脇の方へ。
すぐに水揚げが始まった。それが終わると同時に智世も甲板へ。

智世「ゴメン。いきなり。」
龍之介「どうしたんだよ?」
智世「朝起きたらコロが急に外に出たの、後を追いかけたらここに来たのよ。」

「へー・・・。」と龍之介はコロを見る。コロは船のいけすの中にいる一匹の小さいタコに興味津々。そっと前足を出してみる。イタズラ盛りのコロである。

龍之介「そういや、朝飯は?」
智世「コロのおかげで食べてない。」

その時、“グー”と智世の腹が鳴る。龍之介は笑いながら「ここで食えよ。」と智世とコロを誘った。
水揚げされたばかりの魚のアラを使ってダシをとり、味噌を加えたアラ汁と、白いご飯とさばいた魚の漁師料理を甲板で食べる。空腹だったので箸が進む。
コロも焼いた魚にありつけてご機嫌のようだ。もちろん食べ終わった後はすぐにいけすの前へ。

龍之介「今日、暇か?」
智世「あるけど?」
龍之介「どっか行くか?」
智世「船で?その辺の海に?」
龍之介「コロも乗っけて。2人と1匹のクルージング。」
智世「なーに言ってんの、クルージングって感じの船じゃないでしょ!ありがたくお受けします。」
龍之介「よし。」

そういうと2人は操舵室に入った。コロは足元に付いてきた。龍之介がゆっくりと船を出す。燃料は満タンではないのでそんなに遠出はできない。そして一番元気なコロは進行方向に向かって行こうとチョコマカ動き回る。

智世「今日のコースは?」
龍之介「そうだな・・・あの辺りに行ってみるか。」

龍之介が指差す先には、陸地から海岸沿いを進むと行くことができる場所があった。
座礁することのないように浅瀬ではスピードを落とす。

龍之介「何もねえな。」
智世「まあ、そう無人島を探検するような感じには、そうそうならないでしょ。」

その時、後ろで何か水に落ちる音がした。何事かと2人が様子を見ると、視界に入ったのは何とコロ。

智世「あんたバカ?冬の海に飛び込むなんて自殺行為じゃない!」
龍之介「コロ、海開きには半年は早いぜ。」
智世「のんきなこと言ってないでよ!どうしよう?」
龍之介「心配ないんじゃねぇか?」
智世「え?」

智世がコロを見ると、泳いではいないものの、うまいこと浮いていた。波も穏やかですぐにまずいことにはならなそうだ。しかし、風邪を引いてもらっては困るので、龍之介が漁に使っている網をコロに向けて下ろした。おとなしくその網に入るコロ、龍之介が網を引き上げた。甲板に下りたコロは、勢いよく体から海水を飛ばした。

智世「こら!冷たいでしょ!」
龍之介「まあ、いいじゃねえか。」

冬の海上はなぜか風が弱まり、寒さがやわらいでいた。

続く
...2005/08/05(Fri) 14:53 ID:X8WVw3pU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:an
はじめまして☆anと申します。
たー坊さん素晴らしいです!!一気にパート1から読み続けてしまいました♪
サクと亜紀の本編の結末が悲しかったので幸せな感じがたまらないです。
続き楽しみにしています!!
...2005/08/06(Sat) 20:59 ID:ZgA4RNIY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

今回も読ませていただきました。
相変わらず幸せな朔と亜紀ですが、今回はなんの不安もない・・・なんとゆーか、今まではどこかでなにかがあるんじゃないか?と思うような二人でしたが。
初めて気持ちを疑わずに、二人の世界にのめり込んでしまい、幸せぶりに微笑んで(ニヤけて)しまいました。
これからの智世と龍之介にも注目してます。
次回も期待しています。

anさん。
そうなんですよね。たー坊さんの作品は、一話読むと最初から読みたくなりますよね。俺もアナザーストーリーを見つけたときは一気に最初から読みました。それ以来、虜です。今でも、たまに最初から頭の中で映像化しながら一気に読み通したりしてます。
...2005/08/06(Sat) 21:57 ID:UE2wUaq2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
an様
初めまして。物語を書かせて頂いてます、たー坊と申します。
この物語は、私自身がこうあったらいいのではないかと思うことを形にさせて頂いているものです。
拙い物語ですが、これからもお読みいただければ幸いです。

夕妃様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
日頃、なにかと小さな不安を抱えて生きている朔と亜紀ですが、今回はここの所で一番の甘く幸せな時を過ごせたのではないでしょうか?ワンパターン気味だった朔の愛情表現も亜紀に良い希望を与えたのではないかと思います。
次回も楽しみにしていただけましたら幸いです。
...2005/08/07(Sun) 18:10 ID:./gFPEj6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
一方、昼食を済ませた朔と亜紀。
大学での授業内容、特に語学が好きな亜紀は英語を中心に復習をしていた。その隣では、朔も医師として働き始めることを願って、その準備をしている。
ものの2,3時間でそれも終わり、時間は3時をまわっている。亜紀が声を掛けた。

亜紀「朔。」
朔「何?」
亜紀「家にいるのも良いんだけど、そればかりの時間だけだともったいないと思わない?」
朔「何かしたいの?」
亜紀「いくら鈍い朔ちゃんだって、そのくらいは分かってると思うんだけどなぁ。」

確かに朔は、亜紀の望んでいることをなんとなく理解している。しかし、とぼけたフリをして「なんだろう?」と、思案しているような表情を作り、亜紀の目線から自分を外すようにしている。
亜紀は、朔が目をそらしている間に隣に素早く移動していた。そして、もたれ掛かり甘えている。

朔「何か、亜紀って変わったよな。」
亜紀「えっ?」
朔「最近、そういうことをいつでもするようになってきたじゃない。以前は、もっと疲れているような時しかそういうことをしなかったのに。」
亜紀「そうかなぁ・・・確かに、朔に「そのままで良い。」って言われるまでは、必要以上にカッコつけてたと思うけど・・・。」
朔「まぁ、甘えてくれるのは嬉しいからいいけど。」
亜紀「甘えん坊だもん、私。おまけに、意地っ張りで頑固で負けず嫌い。泣き虫だし、カッコつけだしね。・・・・・・何か、私って本当に欠点だらけね。自信喪失しそう。」
朔「その欠点を全部兼ね備えていないと亜紀じゃないんだけどね。」
亜紀「う〜ん・・・・・・ん?あまり嬉しくないよ、それ・・・・・・。むしろけなしてるでしょ!結構、傷ついたんだけど・・・。」
朔「ハハハハハハハハ・・・。」
亜紀「笑い事じゃない。・・・・・・・・・そんなことを言ってるわけじゃないよ。」

本題に戻る2人。

亜紀「デートしよ。」
朔「え?いや・・・金もないし・・・。」
亜紀「お金掛けなくていいの。このあたりをお散歩するだけでも立派なデートよ。高校の時なんてそうだったじゃない?たまに、パパさんのところで食べるくらいで。」
朔「まあ、そうだね。」
亜紀「ね!・・・連れてって欲しいんだけどな〜・・・。」

朔の肩にもたれ掛かり、すましている中にも甘えを込めた目で朔を見る。
朔が頷くのに時間は掛からなかった。

朔「どこに行きたいの?」
亜紀「一緒にいてくれるならどこでもいいの。公園でもいいし、この辺りをのんびり散策してもいいし・・・・・。」
朔「確かに、金は掛からないね。」

季節の移り変わりで少しずつ暖かくなるこのごろ。
部屋を出た2人は、しっかりと手を握り合っていた。お互いの指の間にしっかりと絡ませている。車道側を朔が亜紀をリードしながら歩くので、亜紀は安心していた。

亜紀「どこに連れてってくれるの?」
朔「さっき、亜紀が公園って言ったから、とりあえず、そこに。」
亜紀「やっぱり、家の近くでのんびりするのが、私達らしいね。」
朔「でも、たまには都心でのデートもしたいでしょ?」
亜紀「行きたい!」

亜紀の屈託のない「行きたい!」に、思わず笑ってしまう朔を見て、少し間置いて、亜紀も“プッ”と吹き出す。お互いに、とても楽しくて仕方がない。

亜紀「結婚してもたまにはこういうことしたいなぁ・・・・・・。」

と、軽〜くプレッシャーを掛けてみた。朔は「喜んで。」と答えてくれたので、「成長したね。」とさりげなく言ってあげた。

坂を上がって10分くらい経ち、2人は大通りに出た。比較的交通量の多い通りの反対側には、周囲が木で囲まれた場所があった。

亜紀「朔ちゃん、もしかしてあれ?」
朔「そう。俺も近くに住んでるのに来たことはないんだけどね。」
亜紀「本当に?部屋から歩いて30分掛かってないくらい近いんだよ?」
朔「俺、趣味みたいに勉強しかしてなかったし。」
亜紀「そっか・・・ゴメン。」

申し訳なさそうに言う亜紀。朔は言葉で答える代わりに、握っていた手に力を入れて軽く微笑んで見せた。
亜紀は手を離すと、しがみ付く様にして腕を絡めた。

朔「そういうところは、相変わらずだよなぁ。」
亜紀「でも、少しずつ慣れて来たでしょ?」
朔「まあ、色々やられたからね・・・おかげで免疫ができてきたよ。」
亜紀「何か、皮肉に聞こえる・・・。私って、そんなに大胆かなぁ?」

大通りに架かる歩道橋は公園の入口へと続いている。階段を上り、下を通る車の上を渡りながら、そんな会話が続く。
入口を抜けて、“公園内案内図”と表示されたボードの前へとやって来た。

朔「大胆だよ。それで、前々から気になっていたんだけどさ・・・・・。」
亜紀「何?」
朔「亜紀って、俺と付き合う前に何人と付き合ってきたの?」
亜紀「・・・・・・何それ?」
朔「だって、やたらと、こう・・・男心をくすぐるというか、ドッキリさせるのが上手いから・・・・・・。」
亜紀「・・・・・・一生、秘密にしておこうと思ってたんだけど、朔ちゃんが不安がってるなら話すよ。」
朔「・・・・・・・・。」
亜紀「・・・教えてあげる。私の秘密。」

案内図によると、この公園の奥には池がある。そこにはボート乗り場があるようなので、ボートに乗りながら話すことにした。
朔がボートを動かして桟橋を出発していく。人気のあまりない池の端の方へという指示を亜紀が出したので、朔はそれに従ってボートを寄せていく。

亜紀「さてと・・・何から話そうかな・・・。」
朔「何で、そんなに楽しそうなの?こっちの気も知らないでさ・・・・・。」
亜紀「朔ちゃんこそ、私の気を知らないでしょ?」

若干、口を尖らせる亜紀に、朔は質問を開始した。

朔「・・・でさ、俺以前に付き合った男っていたの・・・?」
亜紀「いるわけないじゃない。」
朔「でもさ、どうしてそんなに慣れてたんだよ?」
亜紀「慣れてたわけじゃないよ。私、朔ちゃんに一番最初に話し掛けた時なんて心臓が凄かったのよ。“バックンバックン”っていってたくらいなんだから!」
朔「なんか、意外だなぁ。」
亜紀「私の性格上、悪戯好きなのは朔ちゃんも知ってる通りよ。・・・それで、その大元はお母さんなの。」
朔「おばさん?」
亜紀「私が小さい時、私とお父さんが、仲良かった時なんだけど、お母さんが何かしてたのよ。それで聞いたら、『ちょっとしたお楽しみ。』って笑いながら言ったのよ。その後、2人の様子を見ていたら、お母さんがお父さんに悪戯してたの。」
朔「・・・もしかして、それが亜紀の悪戯の元凶?完全な遺伝じゃないか。」
亜紀「アハハ、そうなるね(笑)その後でいろいろ聞いたら、『好きな人にできる女性の特権よ。亜紀ちゃん、覚えておきなさい。』って(笑)・・・それからは、小説で読んだりTVドラマのラブシーンを参考にしたり・・・・・・。」
朔「それじゃあ・・・。」
亜紀「そう!朔ちゃんの思い込みよ。そういうのを実行した相手は朔ちゃんが初めてだったよ。すっごく緊張したんだから!」
朔「へぇ〜・・・。」
亜紀「それからは、面白くなっちゃってね・・・今も続いてるでしょ。」
朔「悪い癖だ・・・・・・。」

今にも天を仰ぎそうに、しみじみとつぶやく朔、その正面では亜紀が思いっきり膨れた。

朔「とても女の子らしい、良い趣味だと思うよ・・・・・・。」
亜紀「分かればよろしい。」
朔「・・・・・(俺、脅されてる?)」

この時点で、朔の愛妻家、いや、恐妻家への道が出来上がった。
朔は、さらに質問を続ける。

朔「じゃあ、・・・・・・ファーストキスっていつ?」
亜紀「幼稚園・・・・・・・かな・・・・・。」
朔「な・・・・・。」
亜紀「あ、誤解しないで!ませてたわけじゃなくて、ただの事故だったんだから。」
朔「事故?・・・・・・幼稚園の廊下を歩いてたら、出会い頭に走ってきてた男の子とぶつかった時とか?」
亜紀「何で分かるの!?」
朔「え!?そんな漫画の世界にあるようなことがあったの?」
亜紀「うん。ぶつかった時には気付いてなかったんだけどね、相手と一緒に走ってきていた子が見ていたの。教えてくれなくてもいいのに、後で余計にも『お口とお口がぶつかってた。』って・・・・・・。」

亜紀は苦い表情をしていた。

朔「それ以降は?小中高・・・・・・。」
亜紀「大丈夫!小学校は男女がグループに分かれてたようなものだったし、中学は言い寄られたこともあるけど、全部断ってたし、なにより、とっつきにくくて喋りづらいと思われてたみたい。」
朔「それで高校に入って、俺と付き合った直後に・・・・・・。」
亜紀「付き合えることになって幸せだったんだもん。・・・・・・ポーっとしちゃってた。だからガードも緩くなっちゃってて・・・・・・。朔ちゃんの私の嫌いなところ“第5位”。」
朔「もう、何も言わなくていいよ。今でも夢に出てくる時があるくらいだから。亜紀が本当のことを言わなかったのがトラウマになってる・・・・・。」
亜紀「私、大事にしたくなくって・・・。なにより、図書館で奪われたなんて、恥ずかしくて先生には言えないよ!・・・・・・朔ちゃんにはショックだったよね・・・?」
朔「うん。」
亜紀「ゴメン!」

亜紀は体の前で手を合わせて、申し訳なさそうにしている。
そして、さらに話はじめた。

亜紀「でも、あれは事故で回数に入ってないし・・・。口内炎あったのを分かってても唇を重ねてくれたのには本当に嬉しかったし、驚いたよ。・・・・・だから、あれが私のファーストキス・・・・・・。そう思ってる。」
朔「俺自身、そう思わないと発狂しそうだよ・・・・・。」

朔は少し、いじけているのか、俯いて相当に落ち込んでいる。亜紀には負のオーラが出ているようにさえ思えた。

亜紀「でも、でもね・・・やっぱり、私のファーストキスをもらってくれたのは朔ちゃんだし、これからは一番最初になんでもあげられるハズだし・・・・・・。」
朔「そういうことにしておこうかな・・・・・・。」
亜紀「それで・・・朔ちゃんは?そういう経験あったの?」
朔「・・・・・・亜紀ほどじゃないよ。」
亜紀「じゃあ、付き合ってたんだ・・・・・・何かいい気しないなぁ。」
朔「いや、初めての彼女は亜紀だよ。・・・キスもあの時が初めてだったし。」
亜紀「ファーストキスなのに、あんな強引にできるものなの?何か怪しいなぁ。」
朔「必死だった。あんなに人を好きになったことは無かったからさ、失うかもしれないと思って・・・それを防ぐためにはって考えたら、それしかなかった。亜紀は、最初嫌がったし・・・・。」
亜紀「・・・今も失うのは怖い?」
朔「昔よりもそれが強いと思うよ。」

ストレートな表現に、亜紀は微笑んで「ふふん♫」と、ご機嫌になる。
朔は照れ笑いで、どことなく居心地が悪そうだ。

亜紀「もうこれで不安はないでしょ?」
朔「スッキリしたよ。あー、よかった。」
亜紀「もっと話したいことがあるんだけど、それは、また後でね。」

その時2羽の水鳥が、ゆったり泳ぎながら2人の乗るボートの近くに近寄ってくる。どうやらペアのようだ。

亜紀「こういう時って餌をあげたいよね。」
朔「そういえば餌を売ってたなぁ、失敗した。買って来ればよかった。」

餌をもらえないと理解したのか、2羽はすぐに行ってしまった。

朔「もう少し愛想がよくてもいいんじゃ・・・・・・。」
亜紀「可愛げが無くなるね・・・・・・。」

落胆する2人。
時間になったので、2人は桟橋に戻ることにした。帰りは亜紀がボートを漕いでいる。亜紀自ら、「やってみたい。」と言ったため、朔と場所を交換した。
しかし・・・・・・、

朔「反対!反対!」
亜紀「意外と難しい・・・・・・。」
朔「あんまり下手なことをすると転覆するよ。代わろうか?」
亜紀「もう少しだけやらせて。こういうのやったことなかったからやってみたい。」
朔「ボートに乗った事はあるよな?」
亜紀「あるけど、小さい頃にお父さんが漕いで、お母さんの隣に座ってたから、自分で漕いだことはないの。」

最初は危なっかしい感じで漕いでいた亜紀だが、コツをつかんだのか次第に余裕がでてきたようだ。
最後は朔が漕いで桟橋へと戻った2人。

朔「ほら。」
亜紀「あ、うん。」

ボートから降りる亜紀に先に降りた朔が手を差し伸べた。しっかりと手を掴みあい引っぱった時に、亜紀が勢い余って朔に突っ込んで来てしまった。そんな慌てる亜紀の体を、しっかりと受け止めた。

亜紀「あ、ありがとう。」
朔「大丈夫か?」
亜紀「うん。大丈夫。」

「ありがとうございました。」と、係員が2人に言った。「あ、どうも。」と、朔。亜紀も会釈して外へ出た。

亜紀「楽しかったよ。朔ちゃんの気になっていたことも片付いたし、私が朔ちゃんの初めての彼女でよかったぁ!」
朔「うん、良かった!」

そう言うと手を繋ぐ2人。さっき見た案内板を頼りに、広い公園の散策へ。
しばらくすると、休憩所に出た。

朔「少し、休もうか?」
亜紀「そうね。」
朔「先に座って待ってて。俺、飲み物買ってくる。」
亜紀「うん、ありがとう。」

亜紀を椅子に座らせて、朔は売店へ。嬉しそうに微笑む亜紀だったが、少し離れたところで、雰囲気の悪い不良達が目に入ってきた。「何となく自分の方を見ている?」亜紀は警戒せずにはいられなかった。

亜紀「(朔ちゃん、早く戻って来て。)」

少し不安になりながら思った。
しかし、朔はそんな亜紀の様子には何も気付いてはいない。注文のための順番待ちをしている。
やがて、不良が亜紀に目を付けた。少しずつ近づいて来る。やはり、亜紀は誰の目からも美しい女性であった。亜紀自身はそんなことをこれっぽっちも思わないのは、亜紀の眼には朔以外の男性は映らないからである。
次第に距離が短くなる。亜紀は、妙案を思いつき実行に移した。

亜紀「朔ちゃん!私、暖かければ何でもいいよ!」
朔「分かった!」

朔も、亜紀の不安に気付いてはいない。亜紀は、1人ではないことをアピールするためにそう言ったのだった。
多少は効果があったのか、不良は近づくのをやめた。
ホッと胸をなでおろした亜紀。朔が飲み物を持って戻ってきた。

亜紀「朔ちゃん、場所を変えたいんだけど。」
朔「え?」
亜紀「お願い!」

少し様子がおかしいことに気付いた朔は、それ以上何も言わずに亜紀の手を引いて別の場所にあるベンチを見つけ、そこに移動した。

朔「どうした?」
亜紀「すぐ近くに不良がいた。近づいて来たんだから!・・・あー怖かった・・・。」
朔「すぐに呼べばよかったじゃないか。」
亜紀「さりげなく朔に知らせたでしょ。『暖かければ何でもいいから。』って。」
朔「ああ、あれか・・・。」

朔は呑気に飲んでいる。

亜紀「・・・すぐに気付いて守って欲しかったのに。」
朔「ごめん。」

朔は人気の少ない公園であることを確認して、亜紀の腰に手を回した。
しかし、

亜紀「何かヤラシイ。手を回すなら肩にして。」
朔「あ、うん。」

従順に亜紀の言葉に従って細い肩を抱く。亜紀は少しだけ朔との距離を近づけた。

亜紀「これからどうする?」
朔「結構広い所みたいだから、もう少しここにいようかなって。」
亜紀「さっきのガラの悪い人たちに関わらなければいいけどね。」
朔「それでなかったら帰ろうか?聞きたいこともあるしね。」
亜紀「・・・・・・まだ、何かあるの?」
朔「『もっと話したいことがあるんだけど、後でね。』って、亜紀から言ったじゃないか。」
亜紀「あ、それは夜にでも。」
朔「じゃあ、しっかり俺が見張ってるから、もう少し奥に行かない?」
亜紀「絶対守ってよね。」

亜紀はそういうと自分の腕と朔の右腕を組んだ。飲み物を片手に奥に向かう。
楽しい時間はこの後も続いたのである。

続く
...2005/08/07(Sun) 18:13 ID:./gFPEj6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

今回も読ませていただきました。
今まではこれからの二人を思いながら見てきましたが、初めて二人が過去について話してるのが新鮮でした。
とゆーか、ホントに今まで聞かなかったのは何故だろう?と思ってもいましたが。。
やはり外は危険ですね。
朔の男の見せ所か!?とちょっと期待しましたが・・・さすが亜紀ですね(笑

次回も楽しみにしています。
...2005/08/07(Sun) 20:38 ID:6h.cP3FU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんばんは。
今回のお話も楽しく読ませて頂きました。

私は、亜紀さんが、どうしてあんなに男心をくすぐるのが上手いのか、自分のHP「物語の内容・第2話」の所に「何故かな?」と書きました。

今回、たー坊さんのお話を読んで、そう考えるのが自然かなと思いました。
私も、朔太郎君も亜紀さんも、お付き合いするのはお互い、初めてであって欲しかったので、嬉しかったです。

それと、朔太郎君は、どれだけ亜紀さんが美しくて、他の男性の目を引きやすいのかを、もう少し自覚した方がいいですね。

それでは、亜紀さんの「もっと話したいこと」が何なのかを気にしながら、次のお話を楽しみにしています。
...2005/08/07(Sun) 21:21 ID:jGPcx8kU <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
たー坊様、お久しぶりです。いつ拝読しても素晴らしい作品に仕上がっていますネ!いつも拝読する度、このストーリーの中に吸い込まれてしまいます。やはり二人はお互い、ファースト・ラブだったんですか。ドラマを見ていてもその様に感じてましたけど。しかし、亜紀は、朔より一枚も二枚も上手ですよね!今もそうですけど?でも昔のままの朔も好きです。亜紀もエルメスみたいに綺麗で美しいから朔も心配でしょうね。今夜のお話がとても待ちどうしいです。次回作をとてもとても楽しみに待ってます。
...2005/08/08(Mon) 18:57 ID:z0Fh0rZE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:an
たー坊さん。。カナリはまってます!!
今回もすごくよかったです。
次回もたのしみにしています♪

夕紀さん
私も虜になりました(笑)
本と次回作が楽しみですネ!!
...2005/08/09(Tue) 00:15 ID:J2By997Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
夕妃様
お読みいただきましてありがとうございます。
今回は2人の未来のために過去を語ってもらいました。第二話で朔が亜紀に「経験あるの?」と聞いていたところからヒントを得て、描かせていただきました。
次回もお読みいただければ幸いです。

美也様
お読みいただきましてありがとうございます。
朔は亜紀の存在をもっと感謝して自覚しないといけないと、私も思います。
しかし、その分、朔は亜紀を大事にしていると思うので頑張ってもらいたいですね。

HPの作成も大変だと思いますが、お互いに頑張っていきましょう。

電車男様
お久しぶりです。今回もお読みいただきましてありがとうございます。
私もドラマでも本当は初めて交際するのだろうと勝手に思っておりますが、それにしても亜紀はそれを隠すのがうまかったように思います。そこは亜紀が朔よりも上手であるという証拠みたいなものなのでしょう。
高校生当時の朔と亜紀が基本的にベースですが、時間が経過し、お互いの変化も感じていただけるように頑張ります。
これからもお読みいただければ幸いです。

an様
お読みいただきましてありがとうございます。
評価していただき書き甲斐があります。
これからもご感想をいただければ嬉しいです。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/08/09(Tue) 16:39 ID:kmSE6jbA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
2人が「ただいまー!」と、誰もいるはずのない部屋にむかって言った。

朔「疲れた?」
亜紀「全然!」
朔「そりゃそうだよな。」

帰宅途中に、安売りをしていた商店街に立ち寄って、当分の間の食材をお得な値段で確保することができた亜紀は得意満面の表情である。荷物持ちをした朔も、亜紀の家庭的な一面が多く見ることができるようになってきたことに、嬉しく、満足しているのだ。

朔「じゃあ、亜紀はTVでも見ててよ。今日は俺が作るから。」
亜紀「いいの?」
朔「今まで、亜紀にやってもらいっぱなしだったからね。たまには俺が。」
亜紀「何か、家族サービスみたい。いい旦那様になってくれそう。」

嬉しそうに言う亜紀に、朔は軽くドキドキしながらも、それを隠して苦笑いのような表情を浮かべている。「お言葉に甘えて!」と亜紀は言い残し、朔の視界から見えなくなる位置に行った。
それから1時間後に夕食はできあがった。2年前、この部屋で亜紀と一緒に作った時と同じコロッケだった。好評だった普通のコロッケとカレー風味の2種類が、付け合せのキャベツと共に、白い皿の上に綺麗に盛り付けられている。

亜紀「美味しそう・・・。」
朔「まだあるから、遠慮なく食べて。」
亜紀「いただきまーす。」

ソースをかけて、一口サイズにしたコロッケを口に運ぶ。

亜紀「うん、おいしい。朔ちゃんすごい。」
朔「・・・うん、まあまあかな。」

亜紀が誉めてくれたので、朔も一口食べてみる。自分でも納得できる味だった。
朔の料理に舌鼓を打ち、おおいに満足した亜紀だった。
               ・
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               ・
亜紀が風呂上りにいつものように体をほぐしながら、入れ違いに風呂へ向かった朔を待っている。この時、亜紀は告白した時と同じくらいの緊張感に襲われていた。

亜紀「(死ぬまで話す事は無いと思ってたけど・・・・・・朔ちゃんに教えるって言っちゃったしね。・・・・・・あー緊張する・・・。)」

その時、

朔「寝ようか?」
亜紀「そうだね。」

朔が濡れた髪を乾かす。
亜紀は心を落ち着かせるために、無意識のうちに枕を抱きかかえて座っている。

亜紀「朔ちゃん、さっきの話だけど・・・。」
朔「うん?」

枕を抱いたまま亜紀が切り出した。
顔はなんとなく恥ずかしそうだ。

朔「何恥ずかしがってんの?・・・らしくない。」
亜紀「じゃあ、話さないもん。・・・朔ちゃんは知りたがるはずと思ったんだけどな〜。」

半分膨れ、半分いじけている。その目は“ジトー”として湿っぽい。梅雨のような感じの目だ。

朔「そういう目をするなよ・・・。」
亜紀「こういう目をさせないでよ・・・。」

「はいはい。」と言いながら、朔は亜紀の横に座る。

亜紀「なんか、聞いても聞かなくてもどっちでもいいみたいね。」
朔「そこまで言うなら話してよ。」
亜紀「まあ、いいや。・・・・・・そろそろ話してもいい時期かなぁって。」
朔「何を?」
亜紀「どうして私が、朔ちゃんを好きになったのか。教えてあげよっか?・・・・・聞きたい?」
朔「・・・・・・聞きたい。」

朔の返事に、亜紀は「ウフフッ!」と、悪戯心を込めた笑顔を咲かせている。
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                 ・
1986年、秋

龍之介「あー、終わった、終わった!」
ボウズ「本当にかったるいよな、化学の実験ってやつはよ。」

宮浦高校の朝。
当時の朔たちは1年生だ。高校生として初めての夏休みを終え、新学期に入っていた。
今日は1時限目から実験ということで、乗り気ではない幼なじみ3人組。
普通の授業よりも長く感じる時間を、なんとか乗り切り、自分達のクラスに戻る途中だ。
その時、

智世「よ!」
朔「智世。」
ボウズ「相変わらず元気だなぁ。絶叫マシーン。」
智世「うっるさい!・・・あんたら、前の時間化学の実験でしょ?」
龍之介「ご生憎様。俺達が授業内容を理解してるはずがないだろ。」
智世「最初っからあんたには期待してない。」

龍之介とボウズには目もくれずに、3人の中で1番成績がマシな朔に目を向ける。

智世「どんな感じ?」
朔「ノート見れば少しは。」
智世「じゃあ、貸して!お昼が終わるまでには返すから!」
朔「おう。」

そういうと、朔は手に持っていた教科書類を渡そうとするが・・・。

朔「あれ?」
智世「どしたの?」
朔「・・・・・・しまった!化学室にノートだけ忘れた!」
ボウズ「何やってんだよ。」
智世「ホント!!・・・教科書は持って来てて、ノートだけ忘れるなんてね。」
朔「智世、次、実験なんだろ?」
智世「そーよっ!ほら、一緒に行くよ。」
龍之介「俺達は先に戻ってんぞ。」
ボウズ「先生が来てたら代わりに返事しといてやるよ。」

こうして2人は化学室へと戻った。
そこには亜紀がいた。

亜紀「智世!」
智世「席とってくれた?」
亜紀「バッチリよ。」

そういうと、亜紀は自分のとなりの席を指差した。
同時に、朔の存在に気付く。

亜紀「智世、彼氏?」
智世「なーに言ってんの?そんなわけないじゃない。」
朔「違うよ。」
亜紀「なーんだ。あ、廣瀬亜紀って言います。よろしく。」
朔「松本朔太郎です。よろしく。」
亜紀「松本君って、違うクラスでしょ。どうして?」
朔「さっき、この机で実験してたんだけど、忘れ物しちゃってさ。」
亜紀「もしかして、これ?」

そういうと、亜紀は自分の教科書に重ねていたノートを見せた。
朔は「それ。ありがとう。」と、言う。

智世「さて、もうこれであんたに用事はないわ。次の授業遅れるわよ。」
朔「なんだよ、その言い方・・・・・・。」

その時、休み時間の終了を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
その途端、「ヤバイ!」と、朔はノートを持ってもうダッシュで化学室を出て行った。
智世にノートを貸すことも忘れて・・・・・・。

智世「・・・朔・・・また、忘れてるよ。亜紀、ノート貸して。」
亜紀「コーラおごってね。」
智世「はいはい。」

これが、朔と亜紀の初めての出会いだった。
もちろん、この時は近い未来に自分達が恋に落ちることなど知る由もなかった。
                  ・
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朔「でもさ・・・・俺、あの時に亜紀と出会ってたことを、すぐに忘れちゃってたんだけど・・・・・。」
亜紀「そんなことだろうと思った・・・・・・。朔ちゃんひどいよ。」
朔「いや、それは・・・・・・。」
亜紀「彼氏として最悪。」

落ち込む朔に心の中で微笑みかけながら、亜紀は再び話し始めた。
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                  ・
それから2ヶ月後・・・・・・。
季節はそろそろ冬になろうとしている。
亜紀「寒いね・・・・・・。」
智世「ホント。しっかり体を温めとかないと。」

夏場の半袖のTシャツに短パンというものは有り得ない外気の温度。ジャージに身を包んだ2人は、ウォーミングアップの最中だ。時折、谷田部の声がグラウンドに響いている。

亜紀「あ、松本君たち。」
智世「あ、本当だ。・・・相変わらずの馬鹿笑いっぷりだよ。」
亜紀「でも、何か羨ましい。」
智世「そういえば、亜紀はそういう経験が無いって言ってたね。」
亜紀「うん。」

他愛も無い会話を続ける2人。
亜紀は、なぜか朔たちを目で追っていた。

続く
...2005/08/09(Tue) 16:41 ID:kmSE6jbA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは、たー坊さん。

亜紀さんのお話とは、亜紀さんが、どうして朔太郎君が好きになったのか、だったのですね。

今まで、色々な方がそのことを書かれていましたので、たー坊さんがどのようにそれを描くのか、とても楽しみにしています。
...2005/08/09(Tue) 20:26 ID:W9gbwz8M <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
この「アナザーストーリー」の魅力は「独創性」あるいは「オリジナリティ」というものが感じられ、とても新鮮なことです。
パロディも度が過ぎると読む方も「ゲンナリ」してしまうのですが、たー坊さまの作品はそこらへんのブレンドの加減が絶妙なのだと思います。
夢島の時は、どちらかといえば「キャリア志向」が感じられた亜紀が、すっかり家庭的になっているのが興味深いです。
これからも楽しいお話をお創り下さい。
...2005/08/09(Tue) 23:39 ID:0.W5488o    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様
今回もお読み頂きましてありがとうございます。
朔と亜紀の出会いは、あの瞬間の時より前に2人に接点があるのではないかと思い、自分なりにストーリーを作ってみます。
次回もお読み頂けたら幸いです。

朔五郎様
お褒めのお言葉を頂きまして本当に嬉しいです。自分ではおっしゃって頂けたことを意識してはおりませんでしたので、本当に嬉しく思います。
亜紀の変化は、これからも良い意味でも悪い意味でも続きます。
次回もお読みいただければ幸いです。
...2005/08/10(Wed) 21:24 ID:7u0Smt.E    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
その日の練習終了後、2人は女同士で家路についていた。

智世「あ〜あ・・・こんな時優しい彼氏がいたらな〜・・・。」
亜紀「言えてるね・・・・・・。」
智世「亜紀は好きな人いないの?」
亜紀「いないよ。それに、お父さんが猛反対するだろうし。」

首を横に振りながらも亜紀は自分の気持ちに嘘をついているような感覚を覚えた。
理由は亜紀自身にも分からない。恋愛はしていない。しかし、なぜか松本朔太郎を目で追う自分がいるのも事実。今の段階では自分の口から朔のことなど智世に聞けるはずがなかった。

それからは、ただ日々が過ぎていった。クリスマス、正月、新学期になっても・・・。
亜紀は自分自身の微妙な気持ちを抱えたままであった。朔も化学室で亜紀に出会って話してから、会話をする機会がなく、亜紀の心境に気付くハズも無かった。

しかし、そんな2人が近づくキッカケが訪れた。

2年生・・・朔と亜紀、智世にボウズが同じクラスになった。
内心、亜紀は少しだけドキドキしている。

亜紀「まさかね・・・そんなこと・・・。」
智世「何が?」
亜紀「うん?・・・別に、何でもないよ。」
智世「それよりさ、新学年になったんだから彼氏作らないと!」
亜紀「智世、大木君に言えばいいのに。」
智世「それを言わないでよ・・・。」

この頃になると、智世は龍之介を意識せずにはいられない。そんな智世の相談役には、自然に亜紀がなっていたのは言うまでも無い。もちろん、他人に対しても自分に対しても、揺れる乙女心を隠すためだった。

その後、担任である谷田部が教室に入って来た。
パッと智世が亜紀に体を向けるのをやめた。その後、亜紀も教壇の方を向いて居ずまいを正した。横目で退屈そうな朔の横顔にチラッと視線を送った後で・・・。

亜紀「(体を起こしなさいよ。朔。)」

亜紀は智世がいつも朔を呼ぶのと同じように呼んだ。もちろん朔はそんな亜紀の気持ちと視線に気づくことなく、谷田部が教室に入って来てからもボーっとしているのだった。
それからは、自然と視線を送ることはそんなに多いものではなくなった。しかし、安浦とともに学級委員になった亜紀は、前に出るたびに1回だけ朔に視線を向けるようになっていた。

亜紀「(朔ちゃん、私の方を向いてて。・・・・・・何言ってるんだろう・・・私・・・。)」

気付いていてもそれを否定するように自分に言い聞かせ続けた亜紀。
もちろん、行動に出ることは無く、淡い恋心を抱きつつもそれを抑えているのであった。
それは、厳しい父である真の存在と自分の悪癖である無理し続けることが大きな原因であった。それ以上に、化学室で自分と出会っていたことすら忘れている様子の朔へ、亜紀が恋人に怒るような仕返しのつもりだった。もちろん、勝手な想いだったことにも亜紀自身は気付いている。八つ当たりと変わらないということも・・・。

しかし、

谷田部「2年生を代表して、廣瀬亜紀。」
亜紀「はい。」

手を挙げて返事をしてマイクの前に立つ。
弔辞を読み始める・・・しかし、突然の雨に他の生徒は軒下の下に避難し、亜紀一人が残された。しかも、手にしている弔辞は、雨に濡れて読めるものではなくなってしまっていた。

亜紀「(どうしよう・・・・・・。)」

そう思ったものの、機転をきかせて弔辞を続ける。
その時・・・・・・。
運命の瞬間・・・・・・朔が背後に立って傘を差し向ける。大いに驚く亜紀。そして、何事もないように読み続けた。
お葬式を終えた後、亜紀の恋愛感情は揺るぎないものになっていた。

亜紀「素直になりたい・・・・・・。」

誰もいない場所で小さく呟いた。小さな声でもその想いは真剣だった。
それからは、全てが幸せな日々。キーホルダーを渡したこと、相合傘をして一緒に帰ったこと、“朔”って呼べることになったこと・・・。
そして、7月2日、17回目の自分の誕生日に想いは伝わることになる。(ドラマ第一話へ)
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亜紀「・・・あ〜あ、言っちゃった。」
朔「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
亜紀「あ、顔赤いよ。そんな朔ちゃんは久しぶりね。何か嬉しい。」
朔「あまり・・・からかうなよ。」
亜紀「ウフフフフフ!」

隣でしっかりとその時の自分の気持ちを伝えていた。朔は、なぜか亜紀以上に顔から火が出そうなほど恥ずかしそうである。その一方で、朔の様子に喜び、悪戯心を表情に出して笑うのは亜紀。

亜紀「そういうわけで、今夜も朔ちゃんを独り占めにさせてもらおっと。」
朔「それは・・・多分無理。」
亜紀「どうして?」
朔「・・・腕が痺れるんだよね。」
亜紀「バカ。」
朔「バカって、そりゃないだろ。」

亜紀は「なーんてね。冗談だよ。朔ちゃん。」と笑いながら言った。
そして、

亜紀「朔ちゃんは・・・どうして私のことを?」
朔「え?」
亜紀「何で、好きになってくれたの?」
朔「それは・・・・・・亜紀とボウズの仲を取り持とうとして、自然と好きだったことに気付いたからかな・・・。」
亜紀「ふーん・・・・・・。」

朔の顔を“じーっ”と見つめる。なんとなく朔がウソをついているように見えた。
朔もどことなく後ろめたいので、心拍数が上昇している。それは体をくっつけている亜紀にも感じられた。そして、朔の目が一瞬泳いだのを、亜紀は見落とさなかった。

亜紀「・・・ウソはダメじゃない。」
朔「ウソなんかついてないよ。」
亜紀「2人の間に隠し事は無しって、何回も言ってるよ。私・・・・・・。」
朔「・・・・・・・・・・・。」
亜紀「私は話したんだから、朔ちゃんも話してくれるのが普通じゃないの?」
朔「う・・・それは・・・。」

亜紀は「話しなさいよ。」と言わんばかりに、コロコロ感情を入れ替えた視線で朔に意思表示と要求を続けた。次第に朔も耐え切れずに重い口を開いた。
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朔が化学室で亜紀と出会っていたことも忘れていた1987年の春。
4月になり、2年生になった朔たちはクラス替えを経て、新学年の生活をスタートさせていた。

ボウズ「なあ、朔。」
朔「なんだよ?また、いいエロ本でも見つけたの?」
ボウズ「ちげえって!ほれ、智世の後ろの席の学級委員。」
朔「ああ、廣瀬だったっけ?」
ボウズ「良いと思わねぇ?」

ボウズの顔はニヤケけている。
その時、

龍之介「お前とは釣りあわねぇよ。」
朔「よ、スケちゃん。」
ボウズ「お前、クラスちがうじゃねぇかよ。」
龍之介「細かいことを言うんじゃねぇよ。」

クラス替えにも関わらず、隣のクラスから龍之介がやって来て聞き耳を立てていたのであろう。この後、龍之介によるボウズへの厳しい洗礼が続けられた。

龍之介「あんまりマジになんないほうが身のためだぞ。ああいうクラスのマドンナ、しかも成績優秀な才女は、たいてい彼氏がいるんだって。相手は・・・たとえば、クラスの学級委員とか、下手すりゃ大学生。」
ボウズ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

3人の中で一番こういうことに詳しい龍之介の話には説得力があった。
絶句するボウズ。しかし、それでも諦めきれずに亜紀を目で追い続け、グランドで練習する陸上部を金網越しからものぞき続けた。当然、朔と龍之介も付きあわせて・・・・・・。
そのうちだった。朔が亜紀を意識し始めたのは・・・。それも、亜紀の気持ちなど知らずに・・・。

その後、村田先生の葬儀の場において亜紀が弔辞を読む。その時降った雨の中、朔の意識は関係なく、傘を持って亜紀の所に向かった。

そして、防波堤で亜紀と過ごした後、数々の葛藤を乗り越えて、2人は恋に落ちていくのであった。
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亜紀「じゃあ・・・1年生のことは完璧に忘れてたのね?」
朔「ゴメン。」
亜紀「最悪・・・・・・・・。続きは?」
朔「結局、ボウズが俺にウォークマンを手に入れるために、ハガキを書かせようとした時は、俺自身嫌だった。ボウズに『ハガキが読まれるような感動的な話』ってリクエストされて・・・。本当に嫌だったから最初は適当に話のネタを集めてたんだ。本当に複雑だったんだよ。自分の気持ちにも気付いて間もない一方で、ボウズが亜紀を好きなのも知ってたしね。」
亜紀「そうなんだ。それで結局、ハガキの内容が白血病の話になった訳ね?」
朔「そう。」
亜紀「じゃあ、朔ちゃんは私のこと好きになってくれたのは、ボウズのおかげ?」
朔「う〜ん・・・・・・少しだけ。」

朔は右手の親指と人差し指で「ほんのちょっと。」とやってみせた。
そんな朔に亜紀が言う。

亜紀「まだ、あるんでしょ?」
朔「へっ?」
亜紀「バ・レ・バ・レ!私、分かっちゃうもん。」
朔「・・・・・・。」

亜紀は得意げに目をキラキラさせている。「朔ちゃんの話なら何でも聞きたいな〜。」と、甘え、ねだる様に言う。朔は観念したように話し始めた。

朔「朝練してたでしょ。」
亜紀「うん。」
朔「実は、亜紀が練習してる時に目で追ってしまう自分がいたんだ。」
亜紀「私が朔ちゃんを抱きしめたその後と同じように?」
朔「うん。」
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                  ・
5月のゴールデンウィーク明け。
朔は寝ぼけながら、自転車を漕いで学校へ。その時、宮浦高校の陸上部が早朝練習をしていたところに朔は通りかかった。

朔「(ふぁぁぁぁ〜〜〜。・・・・・・朝からご苦労様・・・・・・。ん!?)」

その時朔が見たのは、一人だけ真紅の短パンに真っ白なTシャツを着ている亜紀だった。長い足と胸が真っ先に朔の目に飛び込んで来た。去っていく後姿と弾むポニーテール見送りながら5秒くらい固まってしまう。もちろん、半年くらい前に亜紀と出会っていたことも忘れて・・・・・・。
その時!

“ボスン!!!”

朔「つっ!!!」
ボウズ「お前、連休明けだからってボーっとしてんじゃねぇよ。」
龍之介「ぼーっとして、どしたの?」
朔「別に・・・・・・。」
ボウズ「何だ?」
龍之介「(何か隠してんな・・・・・・。)」
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                  ・

亜紀「やっぱり、私と出会ったこと忘れてる・・・・・・。」

完全に怒っている様子の亜紀。知らないとはいえ、グラグラに揺れていた乙女心を軽く見れられていたようなので当然といえば当然なのだが・・・・・・。

亜紀「しかも、最初に足?胸?」
朔「あ・・・・・・(しまった!余計なことまで!)」

亜紀は激怒し、体を起こして体育座りで枕を抱えて口元を隠し、三角目を作り、睨みつけている。

亜紀「やっぱり、私の体が目当てなのね!?」
朔「違うって!」
亜紀「じゃあ、『愛してる』って言ってみなさいよ!」
朔「う・・・。」
亜紀「ほら。私の目を見て大きな声でハッキリと、言ってみなさいよ!!」

困った朔は、一瞬の隙を突いて亜紀と唇を重ねようとしたが、亜紀は「何で好きでもない人とキスする必要があるの!?」と言いながら、“サッ”と体を逸らした。

亜紀「ちゃんと言葉で言ってくれるまで、お料理、お洗濯、お掃除にお買い物はもちろん、手も繋がないし、抱きしめさせてあげない、キスもしない!!!」
朔「・・・・・・俺、亜紀の体目当てじゃない。」
亜紀「うん。それで?」
朔「だ・・・・・い・・・・・・です・・・・。」

「大好き」と言いたいのだが、自分のペースとテンションではないので、聞き取りづらくなってしまう。「聞こえないなぁ。」と、亜紀はこの間の仕返しとばかりに言った。

朔「大好きだ!俺と亜紀が付き合ってるのは運命だよ!」
亜紀「80点。」

朔の真っ赤になっている顔を覗き込みながら、嬉しそうに微笑んで合格点をつけた。
そして言う。

亜紀「そうね。そこは、私達が運命の赤いゴムで結ばれてたからだからよ。」
朔「それ、赤い糸・・・。」
亜紀「知ってるよ。でも、ゴムがいいでしょ。そっちの方がしっかりしてるし、切れにくいと思うわ。」
朔「そうかな・・・赤い糸の方が俺は好きだけど・・・。」
亜紀「・・・ガッカリ。軽く傷ついた。」
朔「何でだよ。」
亜紀「朔ちゃん、最近、もっと素敵になったと思ってたのに。」

落胆した亜紀は、体ごとそっぽを向いて拗ねた様に朔に背中を向けた。
そして、理不尽にも「バカ朔。」と一言。

朔「・・・・・・バカ亜紀。」

と、小さく言い返す。しかし、それを聞き逃さずに

亜紀「今、バカ!?私のこと、バカって言った!?」
朔「いいえ、何にも。」

と、隠すように言う朔に構わず、亜紀は自分の鞄の中からゴムを持って来た。

亜紀「私達が赤いゴムで結ばれてることを証明します。」
朔「???」

無理やり自分の右手首と朔の左手首をくっつけて、普段、自分の長い髪をまとめる時に使う赤いゴムでとめてみせた。そのまま、朔の隣に戻り布団をかけようとする亜紀を朔が手伝う。

亜紀「もしも朝までに外れたら、2度と離れないように、一生朔ちゃんにくっつき続けるから。」
朔「亜紀・・・・・・本当にやめようよ。」

と、うんざりするような様子で朔は言うものの、亜紀はお構いなしに眠りについた。
それを見た朔もしぶしぶ就寝した。
そして翌日の朝、布団の中の2人の手首に巻かれた赤いゴムは、外れてはいなかったのである。

続く
...2005/08/10(Wed) 23:12 ID:7u0Smt.E    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
5月・・・。
今年もゴールデンウィークの混雑の模様がブラウン管に映し出されるようになった。龍之介、智世、ボウズ、恵美。今年も1日くらいは皆で集まることができるかもしれない。そんな日々を期待しながら、少しづつ緑が濃くなっていく宮浦の水田の中を自転車で走り抜けていくのは亜紀だ。

亜紀「気持ちいい・・・・・・。風が心地いいなぁ。」

颯爽と走り続ける。長い髪と羽織っている薄い水色のシャツが風になびいている。
大学生活も3年目になり、忙しくなっているが、やるべきことも順調にこなしている。
そして今日は体と心が軽い。もちろんペダルも・・・・・・。

亜紀「ちゃんと起きてなさいよね。」

小声で呟くとペダルを漕ぐ足にさらに力を込めた。自転車のスピードがグングン上がっていくと同時に回りの景色が後ろに去っていくスピードも上がっていく・・・。
“キッ”とブレーキの音が軽く鳴り、亜紀は自転車を降りた。

芙美子「おはよう。」
亜紀「おはよう。どこかに行くの?」
芙美子「うん。」
亜紀「お化粧までしちゃって。」

松本家にやって来た亜紀。玄関に足を向けると同時に芙美子が出てきた。いつも大学で一緒の2人なので、多少の変化に亜紀が気付いたのだった。

芙美子「まあ、お姉ちゃん、細かいことは気にしないで。」
亜紀「なに?私にも言えない所?」
芙美子「フッフッ・・・。」
亜紀「デートだ。」
芙美子「ピンポーン!」
亜紀「バレバレだよ。」
芙美子「だよね。じゃ、行ってきまーす!」
亜紀「気をつけてね。」

芙美子が少し後ろを振り向きながら、亜紀に手を振って出かけて行った。それを見送った後、松本家の中へ。

亜紀「おはようございまーす。」
富子「はーい・・・あ、いらっしゃい。」

台所にいた富子が亜紀の姿を見るなり笑顔を見せながら出迎えてくれた。
そして、いきなり言った。

富子「亜紀ちゃん、卵ある?」
亜紀「え?」
富子「親戚からおすそ分けされたんだけど、それでも多いんだよ。帰る時に持って行ってくれないかな?」
亜紀「それじゃ、遠慮なくいただきます。」
富子「そう!助かるよ〜。家だけじゃ食べきれなくってね〜。」

いつまで経っても変わらない亜紀への接し方。亜紀は感謝せずにはいられなかった。
「ほら、早くお行き。」と、富子に言われて亜紀は朔の部屋に向かった。
戸を開けて中に入った。すると、

亜紀「あら、早いのね。」
朔「おはよ。」
亜紀「おはよう。本当に珍しいね、朔ちゃんがこんな時間に起きてるなんて。」

亜紀が時計を指さす。時刻は9時半だ。
久しぶりの休日、朔は家でのんびりしていた。

亜紀「デートしない?」
朔「どこで?」
亜紀「防波堤でお昼食べない?お弁当作ってきたから。」

そういうと、手に持った籠を持ち上げてみせた。

亜紀「ねっ?」
朔「後で行こうか。」
亜紀「フフ!ありがと!」

ベッドに座っている朔は笑って約束してあげた。亜紀も満面の笑顔になり朔の隣に座る。
ニッコリ笑って朔を見つめ続ける。思わず朔はタジタジになった。
2人暮らしも良いけれども、時々こうやって会うことにも新鮮さを感じている亜紀だった。

朔「・・・何?その笑顔は?」
亜紀「(ニッコリ)」

朔の顔に向けて満面の笑顔を向け続ける亜紀。その心の中は、しばらくぶりで会えることの嬉しさを素直に表したものだった。
楽しくおしゃべりを始めた2人。話題は上田家のコロのこと。朔は忙しくて一度も見たことはないのだが、亜紀は何度も智世に連れて来てもらった時に見せてもらっていたのだ。
「それでね。」と、亜紀がほぼ一方的に話しているのを朔はただ聞いているのだが、それでも朔は十分満足している。それは表情にも表れている。

朔「・・・・・・・。」
亜紀「あれ?どうかしたの?」

すると、微笑んで聞いていた朔はいきなり亜紀の唇を奪ってみせた。

亜紀「ルール違反。」
朔「???」
亜紀「せめて言ってからにして。驚くでしょ。」
朔「いいじゃない。これでも結構我慢してるんだよ。」
亜紀「そういう風に行動では表現できるのにね。言葉では言ってくれないもんね。・・・ま、いいや。うれしいことに変わりないしね」
朔「素直にそう言ってくれればいいのに。」

苦笑いを浮かべる朔へ思いっきりの笑顔を見せる亜紀。
すると、亜紀が切り出した。

亜紀「どうせだから、今から出かけようよ。」
朔「そうだね。天気もいいし。」
亜紀「じゃあ、行こう。」

立ち上がるとすぐに亜紀は朔の手を引っ張り出掛けて行った。
春の青空の下、自転車に2人が乗って走る。

亜紀「温かいね。」
朔「春だから当たり前だよ。」
亜紀「違うよ。そうじゃなくて、朔ちゃんの背中が温かいってことを言ってるの。」
朔「・・・・・・。」

2人乗りの自転車でそんな会話が交わされる。
亜紀は最初、朔の肩に両手を乗せていたのだが、次第に朔の背中にもたれ掛かりはじめ、頬をくっつけた。
それと同時に話題も変わる。

亜紀「どう?最近のお仕事は?」
朔「もっと大変だと思っていたんだけどね。1年半いたから慣れてるみたい。思っているよりは余裕があるよ。」
亜紀「でも、油断しちゃダメよ。朔ちゃんって肝心な所が抜けたりしてるから。」
朔「分かってる。」
亜紀「合格した時は嬉しかった。コロッケも完璧にできたし。」
朔「亜紀、俺より喜んでるんだもん。涙目になってさ。」
亜紀「朔ちゃんなら大丈夫って思ってたんだけどね。やっぱりちゃんとした形で知らされると、分かってても嬉しくて。・・・でも、私お祝い用のコロッケしか準備してなかったから・・・ダメだった時のことまで考えてなかった。」
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3月。
東京、霞ヶ関の厚生省庁舎。
朔が掲示板に載せられている合格者の番号を一つ一つ確認していた。そしてついに自分の番号を見つけたのである。

朔「(!)・・・・・。」

朔は自分の番号を確認すると、心の中でガッツポーズをして地下鉄の駅へと向かった。
部屋では亜紀が今か今かと落ち着かない様子で待っているだろう。そう思う朔の歩は自然と早くなっていく。
一方の亜紀は宮浦から立て続けに掛かってくる電話の対応をしていた。

智世「で?まだなの?」

受話器を取るなり智世の声が聞こえてきた。

亜紀「今、厚生省に行ってる。」
智世「電話は?」
亜紀「ううん。」
智世「そっか・・・。今、龍之介とボウズと恵美もいるよ。」

智世の後ろから声が聞こえてくる。皆、朔のことを気に掛けてくれているのだ。
亜紀は「帰ってきたら電話させるから。」と言って受話器を置いた。
今日は、同じような電話がこれで4件目だ。松本家、谷田部先生、廣瀬家、そして智世達。
亜紀は祈るような気持ちで玄関の方を見ていた。

続く
...2005/08/11(Thu) 00:57 ID:r5AN4yuU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
読者の皆様

こんばんは。たー坊です。
いつも物語をお読みいただいてありがとうございます。拙い内容にも関わらず、いつもご感想をいただいております。とても励みになります。

さて、以前に私事で執筆のペースがダウンしておりましたが、最近、だいぶ落ち着いて参りました.
そこで、これから1週間の執筆のペースをあげます。

遅れを取り戻すように頑張りますので、これからもお読みいただければ幸いです。
...2005/08/11(Thu) 01:04 ID:r5AN4yuU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:夕妃
たー坊さん。

前回、今回も読ませていただきました。
やっぱり亜紀は朔が気になっていたんですね。
でも、「亜紀を好きになった理由」は意外と今まで聞いたことがありませんでした。俺としては、「ホントにそれだけだったのか?朔。」といいたいところですが(苦笑

急に話が飛んだのであれ!?っと思いました(笑
あの朔と亜紀、どのように合格の喜びを分かち合い膨らませていったのか楽しみです。
ペースをあげていただけるとは、最高に嬉しいです。
ホントに本にしてほしいぐらい好きなので、これからも頑張ってください。
...2005/08/11(Thu) 01:24 ID:0LWadVnA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:Marc
こんにちは、たー坊 様

幸せな物語をありがとうございます、たー坊様が書かれる時間
は宮浦の自然のように大らかなようであっても、日々繰り返され
ることや様々な節目の出来事が綾取るように物語を生み出して
行く素敵な世界です。

これからも、よろしくお願い致します。
...2005/08/11(Thu) 12:44 ID:8s3BU3vQ <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
夕妃様

今回も早速お読みいただきましてありがとうございます。
朔が亜紀を好きになった理由は、その他にもいろいろなことが想像できるかと思います。例えば・・・亜紀の笑顔などでしょうか。どちらにしても「それだけ」ではないのかもしれません。その先は、読者の皆様のご想像にお任せ致します。
朔も健全な男子ですので、物語の理由にしました。
ペースですが、急に予定が入ってしまい、一週間限定でのUPになりますのでご了承下さい。
これからもよろしくお願い致します。

Marc様
お読みいただきましてありがとうございます。
これからもそれぞれの日々や葛藤がいかに周囲に影響を及ぼすのかも描いていくことができたらと思います。
次回は今夜中にUPします。
これからもお読みいただけましたら幸いです。
...2005/08/12(Fri) 13:15 ID:NbPb3GW6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
その時、“ガチャ”とドアが開き、朔が帰ってきた。
すぐに亜紀が朔に近寄る。その表情は不安と期待のどちらともとれるものだ。朔が合否を確認するために出かけていった後、家事をしつつもソワソワしていて落ち着きが無かったのだから、当然の反応ではあるのだが。

亜紀「おかえり。・・・どうだった?」

しかし、朔は「うん。」と一言だけ。上着を脱ぎながら、奥へと向かった。亜紀は、朔の様子から「ダメだったの・・・?」と聞く。そんな亜紀に上着を手渡した後で向き合って笑ってみせた。

亜紀「え・・・・・・?」
朔「うん。」
亜紀「合・・・格・・・・・・?」

朔はそんな亜紀に右手でOKマークをつくってみせた。朔が合格を勝ち取ったことを理解した亜紀は、朔の上着もそっちのけで両手を大きく上に上げて大声で叫ぶように言った。

亜紀「やった〜!!!」
朔「ありがとう。」

その後、亜紀は朔に抱きつくようにして喜んだ。

亜紀「おめでとう!」
朔「俺、やったよ。」
亜紀「本当に凄い!!本当におめでとう、朔ちゃん!!」
朔「ありがとう!」

そのまま、亜紀は朔にしがみ付くようにしたままだったが、朔のお腹が“グ〜・・・”と鳴って、体を離した。朔は苦笑いを浮かべている。

亜紀「アハハハハ。」
朔「腹減ったよ。」
亜紀「うん!すぐに作るから待っててね。」

朔をテーブルに座らせて、亜紀はキッチンに立った。もちろん、お祝いということになるので、当然メニューは・・・・・・廣瀬家の名物、親から子へ受け継がれるカニクリームコロッケ。

朔「亜紀。」
亜紀「うん?」
朔「揚げ過ぎないようにね。」
亜紀「大丈夫!もう失敗しないよ。ウフフ・・・。」

わざわざキッチンにやって来てまで言う朔を、嫌な顔ひとつせずにテーブルへと追い返した。自分のことのように喜ぶ亜紀の心は、本当に意味で朔が宮浦に戻ってきてくれるという期待でいっぱいになっていた。下準備を済ませて、高温になった油にコロッケを入れ始める。最後に油の中へハート形コロッケを入れると同時に、TVを見ている朔の横顔に向けて、やわらかな表情と優しい眼差しを送った。

朔「ん?どうかした?」
亜紀「何でもないよ。」

「そう?」と言いながら再びTVを見る。その後も亜紀は朔のことを見続けていた。
                         ・
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翌朝。
2人は体を寄せ合いながら眠っていた。もう、お昼も間近である。
それも、先に目が覚めたのは朔。すぐ隣では亜紀が完全に緊張感から解き放たれたからであろうか、時間も関係なく寝息をたてている。
その後、間もなく亜紀は目を覚まし、朝食を一緒に食べた。
今朝もカニクリームコロッケである。亜紀が昨日の夕食を作りすぎたことが理由だ。それを食べ手いる間も亜紀は朔に微笑み続けていた。
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5月の宮浦。
朔のこぐ自転車の後ろには亜紀が乗っている。

朔「それにしても、俺のことを見続け過ぎだった。」
亜紀「いいでしょ!私のために頑張り始めて結果を残した好きな人が目の前にいるんだもの。」
朔「何か、肩書きみたい・・・。」
亜紀「そこで、『亜紀のことが好き。』とか言ってくれればいいのに!」
朔「結局は表現して欲しい訳だ。」
亜紀「何よ!前に私をほったらかしにしたことを忘れたとは言わせないわ。誓約書だって取ってあるんだから!」
朔「そんなこと言ったってさぁ・・・・・・。」
亜紀「もう!煮え切らないなぁ。よし!こうしてやる!!」

叫ぶように言った瞬間、朔のわき腹をコチョコチョくすぐり始めた。

朔「やめろ亜紀!危ない!」
亜紀「危ないって言うのはこういうこと!」

そういうと、自分の両手で朔の目を隠してしまった。次第に本気で焦り始める朔。

朔「本当に危ないぞ!」
亜紀「大丈夫!私が朔の目の代わりをやってあげるから。」
朔「いいから離せ!」
亜紀「はーい、そのまま真っ直ぐ進んで。」

目隠しをされて、大いに焦る朔とは対照的に、危険にも関わらずこの状況を楽しんでいるような様子さえ見せる亜紀は、再び「こうしてやる!」と言い、体の全体重を朔の背中に押し付けた。

朔「お、重っ!くぅ〜っ!!」
亜紀「重い?!(まさか太った?)・・・じゃあ、朔ちゃんのせいだ!」
朔「亜紀の自己管理だろ?なんで俺のせい?」
亜紀「幸せ太り!私、朔ちゃんのおかげで、し・あ・わ・せ!」
朔「何なんだよ、それ・・・。(本当に幸せなのか嫌味なのか分からねぇよ!)」

心の中だけが悶えるような叫びを声に出さずに叫ぶ朔だったが、次の瞬間にその叫びも無くなり、あることに気付いた。背中に、亜紀の中で朔が一番好きな感触に気付く。以前に1・2度しか感じたことのない感触・・・。朔が「これって・・・もしかして?」と、呟く。そう、“あの感触”である。
次の瞬間に朔は鼻の下を伸ばし始める。口数も一気に減ることで、亜紀はその変化を感じ取った。
「私がワザとやってるのにも気付かないで・・・。」と、心の中で言う。そう、亜紀は朔がそのことに気付くように仕掛けたのだ。まさに罠である。
ここ半年は、朔自ら墓穴を掘ることも少なくなっていたのだが、こうされることには慣れていない朔への新たな方法を見つけたのだ。恐るべし亜紀である。

亜紀「(引っ掛かったね。今度は何の特権を使って朔ちゃんに約束してもらおうかな〜。)」
朔「・・・・・・・・・・・・・・・。」
亜紀「(それでは・・・。)・・・無口になったのはどうしてなの?」
朔「いや、別に・・・。」
亜紀「ふーん・・・じゃ、何で鼻の下を伸ばしてデレ〜っとしてるのかな?」
朔「それは・・・ね。」
亜紀「胸当たってるんでしょ?」
朔「ま、まさか・・・。」
亜紀「顔に出てる!・・・朔の(息を軽く吸い込んで)・・・大バカぁ!H!どスケベ!」

その声は、近くの上田薬局店の看板娘とその恋人と足元に寝そべる柴犬の耳に届いていた。

朔「どスケベはやめろよ!大声で言うなってば。」
亜紀「変態。」
朔「そこまで言う・・・?」
亜紀「朔ちゃんって、やっぱり私と体が目的で付き合ってる。」

冗談にしても度が過ぎるが、そんな心にもないことを言ってみる。朔はガックリと肩を落とした。

朔「・・・・・ひどくない?」
亜紀「やっぱり?冗談よ、気にしないでね。」
朔「あっそう・・・・・・・・・・。」
亜紀「じゃあ、お詫びのしるしに何をしてもらおうかな〜。」
朔「何でも聞きますよ。」
亜紀「じゃあねぇ・・・今年の夏も皆で夢島に行くこと。どう?」
朔「休みが取れたらね。」
亜紀「何が何でもお休みをもらってよね。」

その時、上田薬局店の前を通り過ぎようとするが、智世に呼び止められてしまった。

智世「何なの?さっきのアンタの大声は?」
亜紀「聞いてよ!朔ったらね・・・・・んんん!?」

言いかけた瞬間に、朔が後ろから口を塞いだ。

朔「何でもない。気にするなよ智世。」
龍之介「ほう・・・亜紀の口止めをするほど、何をやらかしたんだい?お・ま・い・さ・ん?」
朔「何て喋り方だよ・・・・・・。」

ほんの一瞬の隙をついて、亜紀が智世とコロのところへ逃げた。すぐに智世に耳打ち・・・。
10秒後には亜紀と智世の白い目が朔に向けられた・・・・・・・・・。

続く
...2005/08/12(Fri) 23:20 ID:NbPb3GW6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:child93
お久しぶりです。
なんだかかなりのハイペースですね。
毎回続きを楽しみに待っている一読者としては大変嬉しいのですが、
体に気をつけて、無理をされないでくださいね!
それにしても…わかりやすい朔ちゃん。
読んでてほのぼのとしてきます(*^-^)
悪戯大好き亜紀ちゃんもカワイイし。
私もこんなカワイイ女性になりたかったなぁ〜と思ったりします。
これからは研修医朔ちゃんと学生亜紀ちゃんの姿が見れるんですね。
どんな二人が描かれるのか楽しみにしています!
...2005/08/13(Sat) 00:56 ID:OUjH.0HM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:an
たー坊さん。こんばんわ。
ドラマ10・11話あたりは胸が苦しく、かなしくなるので時間があるときにしか見ていなかったのですが、今日時間があったので5巻全てDVDをみました。
やはり、苦しく・・・あきの病気が治っていれば・・と涙が止まりませんでした。
その希望をかなえてくれているアナザーストーリー!救われますね♪
忙しいでしょうが、とっても楽しみにしてるのでがんばってくださいね。
ちなみに今回も亜紀のサクを愛しさの余り悪戯してしまう姿よかったです!!
...2005/08/14(Sun) 00:55 ID:eSRNFdRA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
こちらの亜紀サンは絶好調ですね。朔の逆襲はあるのでしょうか?やっぱり「返り討ち」になるのでしょうか(笑)
...2005/08/14(Sun) 10:01 ID:iM3RCfr2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
child93様
お久しぶりです。いつもお読み頂けているようで、ありがとうございます。
お気遣い頂いてありがとうございます。ここの所、少しだけ時間ができましたので、1週間限定でペースupしております。
これからもお読みいただければ幸いです。

an様
お読みいただきましてありがとうございます。ドラマ本編の後半は、私も見るのが辛いものがあるのですが、それがこのストーリーを書こうと思ったキッカケのひとつでもあるのです。
これからもお読みいただければ幸いです。

朔五郎
お疲れ様です。
最近絶好調の亜紀ですが、朔も調子を上げております。しかし、ひとつの方法が通用しないと判断すると、新たな方法を探し出してしまう亜紀ですので、結局は返り討ちにあってしまうでしょう。
もしかしたら、朔が亜紀に勝つ方法は、”実力行使”しかないのかもしれません。
次回もお読みいただけましたら幸いです。
...2005/08/14(Sun) 14:28 ID:h4o/qCFs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
白い目を向け続ける亜紀だったが、智世はなだめるように自分の経験を話し始めた。

智世「でもね、朔はまだ我慢強いと思うよ?私なんて・・・あの男にね・・・。」
亜紀「あ・・・・・・。」
智世「まっ、好きでもない男とって訳じゃないから。全然後悔してないし。」

思わぬとばっちりを食った龍之介は胸を撫で下ろした。横では朔がニヤついている。
その時、足元にコロがやって来た。

朔「ん?何この犬?」
亜紀「この前、話してた犬。」
朔「ああ!」
智世「そっ。コロって言うの。」

朔は自分の匂いを嗅ぐコロの頭を撫でてやると、コロも朔の手を舐め返してきた。

朔「なかなか可愛いんじゃない?」
龍之介「ところがドッコイ!こいつは要領がいいんだぜ。」
亜紀「・・・・・・。」
智世「あれ?亜紀、どうしたの?」
亜紀「コロはいいなぁ・・・可愛いって言われて。」
龍之介「もしかして・・・朔ちゃん、亜紀にそういうことを言ってあげてないんじゃないか?」
亜紀「いいよスケちゃん。朔ちゃんは、そういうの大の苦手だから。」
智世「あんたねぇ・・・亜紀にそういうこと言ってあげなさいよね。」

なぜか朔が責められる。
苦い表情の朔は「分かった、じゃあ。」と言い、亜紀を後ろに乗せて走り始めた。
そのまま2人と一匹が見送った。

亜紀「ふふ・・・。」
朔「本当にさぁ・・・頼むよ・・・亜紀。」
亜紀「でも、言われたことないよ。」
朔「それは・・・。」
亜紀「夫婦になるまでには一度くらいは言ってね。」
朔「了解・・・。」

はっきりと朔の声を聞き取った亜紀は微笑みながら、再び朔に寄り掛かった。

朔「やめろって。胸が・・・当たるから。」
亜紀「今日だけのサービスだったりして。」
朔「それなら・・・お言葉に甘えて・・・。」
亜紀「やっぱり下心だ。バカ朔。」
朔「あ・・・・・・。」

再び白い目を向けられるのかと思いきや、亜紀は朔の首に腕をまわし、話題を変え、顔を肩に乗せて甘え始めた。

亜紀「ねえ?初めての患者さんを診たときはどうだった?」
朔「とても驚いたよ。・・・とても。」
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                  ・
4月、稲代総合病院。

真新しいロッカーから白衣を取り出してネームプレートをつけた。ようやくこの時が来たのだ。袖を通したその時、佐藤医師が若い医師を呼んだ。

佐藤「準備はいいかな?皆がお待ちかねだよ。」
朔「変なプレッシャーはやめて下さいよ。」
佐藤「はは・・・まあ、固く考えなくていいから。肩の力を抜いて。」
朔「はい。」

廊下に出て、ナースステーション連れて行かれる。中に入ると、病院のスタッフが笑顔で出迎えてくれた。その笑顔は逆に朔を緊張させた。
さっそく岡野看護婦が声をかける。

岡野「似合ってるわよ、朔君。」
朔「岡野さん・・・最初からからかわないで下さいよ。」
佐藤「ははは・・・。えー、今日から新しく我々の仲間となるべく、優秀な人間がこの病院に来てくれました。・・・といっても、私をはじめ、皆、何年も前から知ってるけど。・・・この通り緊張しているけど、ある意味、我が家に帰ってきた感覚でやってもらえれば大丈夫だとおもいます。本当に命を助けるための熱意には凄いものがあるし、即戦力という言葉がピッタリです。おかえり・・・かな?松本朔太郎君です。」
朔「本日から正式に医師として戻ってきました。佐藤先生には即戦力とおっしゃて頂きましたが、まだまだ分からないことばかりですので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします。」

簡単な挨拶をして一礼をすると、スタッフは暖かい拍手で出迎えてくれた。
「じゃあ、我々の自己紹介・・・。」と誰かが言いかけるが、「必要ないでしょう。」と、つっこみが飛ぶ。生命の最前線には珍しく和やかな雰囲気だ。

佐藤「それでは、今日も1日頑張りましょう!」

スタッフが一斉に持ち場に散って行った。

佐藤「朔君は当分の間、実習に来たときと同じように動いて。」
朔「はい。それで、指導して頂く先生は・・・?」
佐藤「その役目は私です。といっても、基本的なことはできていると思うから、必要以外に口は出さないよ。でも、命を扱う現場だ。些細なことでも分からないことがあれば、私以外でもいい、必ず誰かに聞くように。」
朔「はい。じゃあ、子供たちの様子を見てきてもいいですか?」
佐藤「いい心がけだよ。10時になったら診療室に来て。」
朔「はい、それまでには戻ります。」

佐藤医師には、そんな白衣姿の朔が、とても新人とは思えないでいた。
その後、言われた通りに行動する朔。診療室では佐藤先生のアシストをしていた。そして、午前中の診療時間も終わりに近づいた時、佐藤先生が用意されたある患者のカルテを見つけ、看護婦の松嶋に聞いた。

佐藤「この患者さんは、今日来てるんだよね?」
松嶋「ええ。」
佐藤「よし、朔君。この患者さんは君が診てみなさい。」
朔「いいんですか?」
佐藤「どんどん聞いてもらっていいから。医師になって初めての患者さんだよ。しっかり。」
松嶋「大丈夫、頑張って。」

朔は緊張気味に佐藤医師が座っていた椅子に座って、「次の人どうぞ。」と松嶋看護婦に指示を出した。何故か、笑顔で患者を呼びに行った松嶋看護婦・・・。
そして、午前中、最後の患者として診療室に入って来たのは・・・・・。

???「失礼します。」
朔「あ・・・・・!」

思わず佐藤医師と看護婦を見る朔。患者とは、なんと亜紀だった。
驚かずにはいられない朔の様子に、佐藤医師が「ほら。」と促す。

朔「え、えーと・・・前回の検査の結果ですが・・・問題ありません。」
佐藤「どれどれ?・・・うん、問題ないね。」

検査結果を見ての朔の診立てを確認するために、佐藤医師が結果を見た。朔の診断に誤りはない。

亜紀「そうですか。よかった。」
朔「体に異常はありませんか?口内炎とか鼻血が出たり、内出血や眩暈はないですよね?」
亜紀「はい。ありません。」
朔「え、えーと・・・他に気になることは・・・。」
亜紀「ありません、フフフ・・・。」

思わず笑ってしまう亜紀に、朔は「何だよ・・・?」と口だけ動かした。
「じゃあ、これで終わりです。」と、佐藤医師が言った。「それでは失礼します。」と、亜紀が診察室を出て行く。
                  ・
                  ・
                  ・
朔「ハァ〜〜〜〜〜〜・・・・・・・。(思いっきりのため息)」
佐藤「どうだい?初めて患者さんを診た感想は?」
朔「言っておいて下さいよ〜〜。」
佐藤「ハッハッハッ(笑)いやいや、私たちも亜紀ちゃんに頼まれていたんだよ。」
朔「すみません。我儘で。」
佐藤「いいものを見せてもらったよ。」

そういう間に、お昼時間に差し掛かった。医局に戻ると書類の整理が待っていた。見よう見まねでそれを手伝い始めたが、先輩医師である高野が朔の持っていた書類を取り上げた。

高野「朔君、あれ。」

高野が窓の外を指さすと広場の椅子に亜紀が座っている。手には弁当らしきものが握られている。しかし、朔はそれを無視するように整理の手を休めない。

高野「いいのか?」
朔「新人ですから、俺。」

すると、再び書類を持っていた手を、今度はもう一人の先輩医師の佐々木が取り上げた。

佐々木「いいから行け!」
高野「今さら遠慮するのもおかしいぞ。」
朔「いや、でも・・・。」
佐々木「今日だけ特別。ほら、行った行った!」

「お願いしますっ!」佐々木に背中を押され、朔はそう言い残して亜紀の所にもうダッシュ。そんな後輩を見る2人の先輩。

佐々木「2人でもできる量だろ?」
高野「少なくて助かった。さっさと片付けよう。」
佐々木「ああ。」
                  ・
                  ・
                  ・
                  ・
                  ・
再び、5月の宮浦。

亜紀「先生、あの時はありがとうございました。」
朔「なんだよ、それ。・・・また、俺が診ようか?」
亜紀「普段は診なくていいから。そのかわり、もし私が再発したら、今度こそ朔ちゃんが助けてよね。」
朔「分かった。約束するよ。」

続く
...2005/08/14(Sun) 15:15 ID:h4o/qCFs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:child93
やられました…!
“研修医朔ちゃん&学生亜紀ちゃん”のお話の前に
“担当医朔ちゃん&患者亜紀ちゃん”のお話がありましたか!
予想していなかったです。
次こそは研修医朔ちゃん&学生亜紀ちゃんかな??(*^-^)
...2005/08/14(Sun) 15:42 ID:Fjef2Xvk    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:Wolfy
たー坊様。執筆お疲れ様です。レスははじめてかもしれませんが、いつも楽しく読ませていただいております。二人にこんな未来があったらよかったのに、と心から思います。
8月10日分からまとめて読ませていただきましたが、その8月10日分の後半、5月のゴールデンウィーク明けの直前の表現で少し気になるところがありました。第4話の冒頭、朝練中の亜紀と朔が手を振り合うシーンは、第3話ラストの抱擁シーンの翌日ではなく、何日か(恐らく1週間近く)後だと思われます。なぜなら二人が謙太郎とサトさんの骨を撒きに行ったのは、期末試験の前(の恐らく日曜日)で、第4話の朝練シーンは期末試験が終わってからだからです。
御存知のこととは思いますが、老婆心まで。
...2005/08/14(Sun) 19:29 ID:DsKXKjMc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。
初めての患者さんが亜紀さんだとは、さすがに朔太郎君も驚いたでしょうね。
でも、亜紀さんを助けるためにお医者さんになったのですから、それが自然な流れかなと思います。


Wolfyさんへ

私はたー坊さんの書かれた通り、手を振り合ったのは抱擁シーンの翌日だと思います。
理由は、県予選が7月19日ですから、その一週間前は12日で、その数日前に謙太郎さんが亡くなられているので、骨を撒きに行ったのは、12日頃ではないかと思います。
(前日・11日の土曜日は学校は半日で終わるので、その日の午後という可能性もあります)
また、朔太郎君は亜紀さんの練習に何日か付き合っていますから、それから逆算してみても、翌日(or翌々日)なのでは?と思います。

色々ご意見があると思いますので、他の方の意見もお聞きしたいです。

では、たー坊さん、次のお話も楽しみにしています。
...2005/08/14(Sun) 20:20 ID:S3rFwevw <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:an
たー坊さんこんばんわ♪
PC開いては更新していないか確認が日課になってしまいました・・(笑)
それにしても、私が男だったら亜紀の行動は酷の様な気がします^^
あんなにかわいい子に甘えられたらサクじゃなくても下心がわいちゃいますよねぇ〜♪

次回も楽しみにしています。
...2005/08/14(Sun) 22:21 ID:PJeLiuI6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:Wolfy
美也さん、はじめまして。
第3話の抱擁シーンのあとに、亜紀が試験中に鼻血を出すシーンがありますから、第4話との間に少なくとも1日ははさまっています。亜紀が勉強をおろそかにしない優等生であることを考えると、抱擁シーンは試験前の日曜日で、第4話は期末試験をはさんで約1週間後、と考えたくなります。ただ、第1話の告白が7月2日でその僅か3週間後には亜紀が夢島で倒れる、という異常にタイトなこのドラマのスケジュールを考えると、期末試験中の7月12日日曜日に抱擁シーン、その後1,2日をはさんで第4話が始まる、というのが順当なところでしょうか。
...2005/08/14(Sun) 22:28 ID:52r1kyvc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
child93様
早速のご感想をありがとうございます。
研修医としての朔と患者としての亜紀のこのシーンは、私個人的にも書きたいと思っていた部分でした。2人にとって、特に朔にとって印象深いシーンにしたいと思っておりましたので、短くも濃くなることを意識致しました。
これからもよろしくお願いいたします。

Wolfy様
Wolfy様は初めましてですね。たー坊と申します。
いつもご覧頂けているとのことで、大変光栄です。
さて、今回のご指摘ですがその通りだと思います。
しかし、あえて私の考えを申し上げます。

ドラマでは、朔に気付いた亜紀が朝練中に手を振っています。その後で第3話の抱擁シーンがあります。ここで私が思ったのは朔の心境です。朔が亜紀と抱擁したことを思い出すのは、その出来事からそんなに日数が経過していない段階の方が、より強く鮮明に思い出すのではないかということです。
説得力があるのは、Wolfy様をはじめとした日数と亜紀の性格を根拠にしたものでしょう。

そして、私が失敗をした部分は、私が朔の心境をもとに考えていたのにも関わらず、そこから浮かんだセリフを亜紀に言わせてしまったことです。そのまま朔に言わせれば、そんなに違和感もなかったでしょう。この点は私の構成の甘さです。

自分でもよく分からないような説明になってしまって申し訳ありません。
ご指摘を受けて、亜紀のセリフの表現を変更しました。
このように拙い物語ですが、これからもお読みいただければ幸いです。

美也様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
亜紀を朔が診ることは、朔の手で亜紀を助けられなかったことへのささやかな埋め合わせと、亜紀の朔への感謝、それに佐藤医師をはじめ、2人を知っている病院スタッフから朔へのお祝いのようなものだったのかも知れません。私は無性に今回のシーンを書きたいと思っており、形にすることができました。

抱擁シーンの解釈では貴重なご意見をありがとうございます。全く同じと思える結論も根拠とプロセスが違うことで、全くの別物になることは面白いですね。
これからもお読みいただければ幸いです。

an様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
毎日チェックしていただけるのは本当に嬉しいです。私は基本的に毎週2〜3話を目標にしております。もちろん、都合によってはUPできなかったりしますし、時間がある時には週に5日UPすることもあります。
週に2、3回チェックしていただければいいと思いますよ。お時間のある時に読んでいただければと思います。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/08/15(Mon) 01:05 ID:d9HgSi4A    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
下心丸出しの朔の背中に頬を寄せて甘え続ける亜紀。警戒心は皆無である。それは、亜紀が朔を100%信頼している確かな証拠であるのだ。
春の宮浦の町は人もほとんどいないので、2人乗りの自転車はスピードを落とすことなく防波堤へと向かっている。

朔「亜紀。」
亜紀「なに?」
朔「くっつくなよ。」
亜紀「嫌だ。恥ずかしくないよ、人も少ないし。」
朔「いや、亜紀の・・・その・・・体がさぁ・・・。」
亜紀「でも、実際に朔ちゃんが私を襲うことはないよ。そうでしょ?」

こうも屈託なく言われてしまうと、朔も「う、うん・・・。」としか言い返すことができなくなってしまう。朔としては、そういう空間と時間があれば、いつでも亜紀とひとつになりたい欲望があるため、「そんな、殺生な・・・。」と心の中で言っているのだが・・・。

亜紀「前にも言ったけど結婚してからよ。」
朔「はい。」
亜紀「朔ちゃんは変なことできない性格だもの、大丈夫。」
朔「そう?」
亜紀「だって、一緒に寝るときにそういう行動起こしたことはないじゃない。」
朔「ああ・・・・・・・・・。」
亜紀「私、抱きしめられるのは大好きよ。そこまでならいつでも歓迎するからね。」
朔「そりゃどうも・・・。」
亜紀「・・・朔ちゃん、絶対に裏切らないでね。」
朔「・・・・・・心配するなよ。俺も最低限の理性は常に維持してるからさ。」

少しだけ自分の気持ちに嘘をついた。でも、亜紀を悲しませたくないという思いの方が強いのも事実。もう一つの自分の気持ちに正直になっている。人間の男性としての理性と、動物のオスとしての本能の狭間で揺れ続ける朔の男心・・・・・・。

朔「そろそろだね。」
亜紀「2人でここに来るのも随分久しぶりだね。」
朔「あー・・・そういえばそうだ・・・何ヶ月ぶりだよな?」
亜紀「そんなになるんだっけ?それだけ、2人でいる時間が少なくなってきたってことになるのよね。」

少し寂しげな亜紀の顔。朔も同じことを思う。最近は3週間に一度しか会えないことも珍しくなくなってきている。亜紀の心の元気の源は、朔と時間を共有することよって満たされる部分が大きい。量を質で補うために、亜紀が目一杯甘えることになっても朔が納得できることもあるのだろう。
2人を乗せた自転車はあっというまに防波堤に着いた。

朔「ん〜・・・いい天気と海風だなぁ。ほら、亜紀。」

防波堤を上ろうとしている亜紀の白く細い手首を掴んで引っ張った。

亜紀「何か新鮮。いつでも来れる場所なのにね。」
朔「本当にそうだよ。」

2人は防波堤に腰掛け、亜紀の作ってきた弁当を広げた。
蓋を開けると和食中心の色とりどりの中身が姿を現した。みるみる朔の顔が喜びの表情に変わっていく。

朔「おおっ!すげぇ!」
亜紀「我ながら上出来だと思ってる。自画自賛になっちゃうけど、どうかな?」
朔「すごいよ亜紀!うまそうだな〜。」

朔は再び弁当箱をのぞきこむ。本当に美味しそうなお弁当である。朔が出来ばえに思わず中身を凝視し続ける間に、亜紀は別に用意してきた取り分け用の器と箸を取り出した。

亜紀「はい、朔ちゃん。」
朔「ありがとう。」
亜紀「ちょうどいい時間ね。いただきましょう。」
朔「そうだね。」
2人「いただきまーす。」

早速、朔が玉子焼きに箸をのばして口に運んだ。亜紀はお茶を飲む。口をつけたコップを置くと、いつも決まって聞くように、「どう?おいしい?」と、朔の顔をジッと見つめて尋ねる。
朔は、ゆっくりモグモグと玉子焼きを味わってから言った。

朔「うまい!」
亜紀「ウフフフフフ!」

この反応だ。こういう時にみせる朔の屈託のない笑顔、あれから8年が経とうとしている。高校時代、付き合い始めた時によく見せてくれたこの笑顔。自分が病魔に侵されてからは、悲壮感が漂う笑顔が多くなった。それは、自分が奇跡の生還を果たしても、医師という道を選んだ朔の顔からは、かつてのような笑顔が皆無と言っても過言ではないくらいになくなってしまっていた。しかし、亜紀はかつての笑顔を見れる瞬間というのを気付いていた。それは、自分といて手料理を振舞っていた時、朔が最初の一口を食べる時だった。
思わず、箸を運び続ける朔の顔を凝視し続ける。それに朔は気付いた。

朔「どうしたの?」
亜紀「あ、ごめん・・・笑ってるなーって。」
朔「は?どういうこと?」

怪訝そうな表情を浮かべながら亜紀にその真意を問う。亜紀は少し迷いながらも朔の変化を感じ取っていること、それを以前から感づいていたことを話した。
朔は亜紀の話に真剣に聞き入り、とても驚いた。

朔「そんなに変わったかな?俺は無意識なんだけど・・・・・・。」
亜紀「もちろんそうだと思うの。でも、段々と朔ちゃんの笑った顔が何か違うようになってきちゃって・・・。でも、私とご飯食べてる時は昔と変わらないの。」
朔「だから、亜紀ってよくご飯作ってくれるの?」

「うん。」と、亜紀は言う代わりに、少しだけ恥ずかしそうに頷いた。でも、とても朔の心の状態を心配しているのだ。

朔「ありがとう。でも、俺はそんなにストレスが溜まっているとかじゃないから、心配しなくていいよ。」
亜紀「本当?大丈夫?」
朔「それに、亜紀の料理を食べてるときには昔と同じなんだろ?じゃあ、それでいいじゃない。」
亜紀「・・・・・・本当にゴメンね。」
朔「やめろって。・・・亜紀が病気になったことが原因じゃないって何回も言ってるじゃない。」
亜紀「だって、だってさ・・・。」
朔「俺は、亜紀を助けるためにこの道を選んだんであって、俺は好きでやってるんだよ。亜紀のせいじゃないってば。」
亜紀「うん・・・・・・。」
朔「そんな風に負い目に感じられたんじゃ、俺、安心して亜紀と一緒にいることが難しくなっちゃうじゃないか。」
亜紀「申し訳なく思っちゃいけないの?」
朔「ダメ。俺が好きなことをしてるのに、それを否定されてるみたいでいい気分がしない。」
亜紀「・・・・・・・・・。」

あくまで亜紀を庇う朔。それでも亜紀は「でも・・・。」と言いたげな表情である。

朔「あのさ、今は俺も医者になって、亜紀も夢を追い続けていて・・・もう過去を振り返っても仕方ないじゃない。それに、今はすごく幸せだと思う。何が不満?」
亜紀「不満はないよ、私は朔ちゃんといれたら幸せだし。」
朔「それならいいじゃない。」
亜紀「・・・・・・・分かった!」

朔が軽く驚くくらいの声と笑顔で吹っ切るように言った。

亜紀「朔ちゃんの言うとおり、私、考えるのはもうやめる!今の幸せとこれからのことだけ考える、それでいいよね?」
朔「いいよ。」

さっぱりした表情の亜紀は、朔の優しさを感じつつお弁当に箸を伸ばす。
その後も2人の笑顔が絶えることはなかったのである。
そして、そんな2人の後姿を見る2人の人影があった。

ボウズ「ったく、先客がいんのかよ。」
恵美「邪魔するわけにはいかないね、他に2人きりになれる場所は?」
ボウズ「川原だな、少し歩くけどいいか?」
恵美「いいよ。行きましょう。」

朔と亜紀を2人きりにするため、今回は声を掛けずに別の場所へと向かった。恵美の手にはこれまた弁当が握られている。ボウズの自宅にいると父親がうるさいので外で人目につきにくい場所を選んで食べようと思っていたのだ。先にいた2人に今回は譲ったのである。
ボウズと恵美が港からいなくなる頃には、朔と亜紀は弁当を食べ終えていた。
亜紀がふと海を見ると、少し遠くに夢島のシルエットが浮かび上がっている。

亜紀「夢島に今年も行けるといいね。」
朔「皆で?」
亜紀「そうよ、前にも言ったでしょ。・・・2人きりでもいいけれど、朔ちゃんがね・・・。」
朔「・・・・・・・・・。」
亜紀「エッチだからなぁ・・・。」

白い目を装い、向ける亜紀。当然のように憤慨するのは朔。

朔「俺がいつ、どこで、亜紀を襲ったんだよ!?」
亜紀「何度か押し倒されてるけど?」
朔「実際、そこから先のことを俺がしたことあるのかよ?」
亜紀「ない。・・・ププッ、朔ちゃん冗談よ。」

ケラケラ笑う自分に少し恨めしそうな視線を送る朔、亜紀は「そんな目で見ないでよ。」
と切り出した。

亜紀「ほら!朔ちゃん、笑って!」
朔「・・・・・・・・。」

昔の自分みたいに意地を張ったように機嫌が悪くなった朔に、亜紀は「しょうがないなぁ。」と、小さく呟いて再び朔を怒らせた直後、自分から朔の頬に唇をくっつけた。
コロッと上機嫌になった朔を可愛いと思いながらも、「自分が主導権を握れるように作戦を立てなきゃ。」と思うしたたかな亜紀だった。

続く
...2005/08/15(Mon) 21:44 ID:Ch1b.MMQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
お久しぶりです、たー坊様。知らないうちにもう六話もお書きになったのですね!雷でPCの調子が悪く返信が遅れました。一話、一話の作品の完成度が凄く高いです。私は、このアナザーストーリーがとても大好きです。ドラマの後半は見るたびに切なくなってしまい、自分も病気になりそうでした。しかし、たー坊様のストーリーを読んでいくうちに、亜紀が生きていれば、こんな風に二人幸せな時を送っていたんだと思うと何だかほっとします!これからも楽しみにしてます。
...2005/08/15(Mon) 23:48 ID:bmDnvBIg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
私自身は完成度をそれほど高いものではないと思っておりますが、評価していただきとても嬉しく思います。
物語もトータルで考えると、半分から6割方を書き終えた感じがあります。最後までかきおえることができるようにこれからも頑張ります。
また、お読みいただければ幸いです。
...2005/08/18(Thu) 00:38 ID:PLl.Z5WQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
8月・・・。
授業が終わった後駅に向かった亜紀は、ホームに滑り込んできた電車に飛び乗った。
のどかな風景の中を“コトンコトン・・・コトンコトン・・・”と走り抜けていく。
「次は、宮浦です。」独特な口調のアナウンスが聞こえてきても亜紀は準備もしなければ、降りる準備もしない。そのまま電車は宮浦を出発してしまった。

宮浦を発ってから少したあと、「亜紀。」と声がすると同時に、席に座る1人の女性、智世だった。

亜紀「智世!びっくりしたよ。てっきり次の電車かなって思ったから。」
智世「最初はそのつもりだったのよ。でも、駅に来たら電車が来たところだったからね。飛び乗っちゃった!」
亜紀「智世らしいね。ほら、汗かいちゃってる。」

亜紀はポケットからハンカチを取り出そうとするが、智世はそれを制して自分のポケットからハンカチを取り出した。

智世「もう夏だもんね。陸上の練習を思い出すわ。」
亜紀「最近、汗かいてないもんね。体にも悪そう・・・。」
智世「だから、今日行くんじゃない!ダイエットしないと!」
亜紀「智世、太ってないじゃない。」
智世「ところが・・・・・・ね、最近、お腹まわりが・・・。」
亜紀「ウソ?」
智世「最近、スケにも言われた・・・『お前、太った?』って・・・。ねぇ、亜紀はなんでそんなにスリムなの?何か普段してたりするの?」
亜紀「何もしてない。少し太ったかなって思ったら、気をつけたりするけど・・・。」
智世「・・・世の中って何でこんなに不公平?昔から亜紀はスタイルいいもんね・・・グラマーで、胸おっきくて・・・・・・朔もイチコロなわけよね。」
亜紀「こんなところでやめて。」
智世「ねぇ亜紀教えて!どうやったらその体型になれる?」
亜紀「私に言われても・・・・・・。」
智世「裏切り者。」

切実な悩みを抱える智世。亜紀も何とかしてあげたいが、全然分からないので答えようが無い。

亜紀「ほら、元気だしなよ。」
智世「そうね。温泉入って日頃のストレスだけでも洗い流しますか!」

亜紀と智世が向かっているのは、恵美の住む町。
恵美の誘いを受けて、2人は温泉に入るために電車に乗っているのだ。しかし、本来、いつもの6人で行くはずが、朔と龍之介は仕事のために来れないでいた。
                   ・
                   ・
                   ・
智世「恵美が『温泉に入りに来ない?』って。」
龍之介「温泉もいいけどさぁ、漁協の集会があんだよ。」
智世「無理?」
龍之介「悪い、行けない。」
智世「そう・・・。」

1週間前に電話で話した時点で、すでに龍之介は参加できないことを伝えていた。しかし、それ以上にハッキリしなかったのは朔だった。

朔「温泉?」
亜紀「そう。リフレッシュに行かない?」
朔「皆は行くの?」
亜紀「まだ分からないけど・・・・・。」
朔「多分、無理だと思うよ。」
亜紀「じゃあ、行けることになったら連絡ちょうだいね。最近、デートしてないし、トリプルデートでもいいから。」
朔「分かった。連絡する。」

そして、前日。
廣瀬家の電話が鳴る。亜紀は「朔からだ。」と思い、電話を受けた。

亜紀「もしもし?」
朔「亜紀?」
亜紀「電話くれたってことは、行けるの?」
朔「それがさ・・・ゴメン。」
亜紀「分かった、仕方ないよね。」
朔「何か埋め合わせするからさ。」
亜紀「今回は高くつくよ。じゃあね。」

「あ、ちょっと・・・。」と朔が言いかけるのもワザと無視して亜紀は受話器を置いた。
                   ・
                   ・
                   ・
電車は目的地に近づきブレーキが掛かりだす。ゆっくりとスピードを落としていくと、ホームの中ほどに停車した。
改札を出た2人を見つけた恵美は、首を長くして待っていたようで片手を大きく上げて手招きしている。

恵美「こっちこっち!いらっしゃい。」
亜紀「お誘いありがとう。」
智世「それで、本当なの?」
恵美「え?」
智世「ダイエット!」

人通りの多い駅前で女3人が集まって、立ったままの会話もどうかと思った亜紀は、近くの喫茶店で休憩することを提案した。
店に入り、注文を済ませた直後に智世が恵美にグチり始めた。

智世「最近、お腹まわりがまずいのよぉ!」
恵美「そうは見えないけど?」
亜紀「そう言ったんだけど、智世が必要以上に気にしてるみたいで・・・。」
智世「スケに言われたの!」
恵美「ははーん・・・。好きな男の人の為に頑張ろうってワケね。その気持ちはよく分かるわよ。」

2人より、少しだけ長い時を生きてきた恵美は、その分人生経験も豊富である。もちろん、恋愛に関してもそれは当てはまる。“女性版スケちゃん”とでも言うのだろうか。しかし、自分が恋に落ちると純粋な面が大きく前に出るので、その分ボウズともうまくバランスを取ることができているのだ。

亜紀「ダイエット効果のあるサービスがあるんでしょ?」
恵美「うん。昔から温泉のおかげで観光が盛んなんだけど、今日行く所で新しいサービスを始めるんだって。そこの支配人さんと知り合いで、『試してみない?』って言われたの。一人で行くのもどうかと思ったから皆を誘ったの。」
智世「支配人さんと知り合いって?」
恵美「仕事柄よ。自然とそういうところと繋がりができるの。」
智世「で?ダイエット効果は?」
恵美「・・・行ってからのお楽しみ。」

喫茶店を後にして、車に乗り込んだ3人は、恵美の運転で街を見下ろせる高台にある旅館へと向かった。
早速、中に入る3人。趣のある建物の中は純和風である。恵美と支配人が挨拶をする。

支配人「そちらは?」
恵美「私の友達です。一緒にいいですよね。」
支配人「私としても助かります。お1人よりも2人、3人の感想を頂けた方が参考になります。」
亜紀・智世「お世話になります。」

挨拶を済ませて奥の部屋に通された。

亜紀「ねぇ、感想って何?」
恵美「実はここ、リニューアルしたところなの。1週間後にオープンするんだけど、その前に何人か招待して営業時の参考にしたいんだって。」
智世「じゃあ、料金は?」
恵美「お試しだから、もちろんタダ!」

智世が「しっかりしてる!」と言いながら、畳の上に寝転んだ。亜紀はそれを見て笑っている。
その後さっそくお風呂場へ。今日は3人以外に人はおらず、貸しきり状態だ。
ひとまず、露天風呂へと向かう一同・・・・・・。
バスタオル一枚だけを身にまとった3人。

亜紀「ちょっと熱い?」
恵美「源泉が近いからじゃないかな。でも気にならないでしょ?」
智世「私はちょうどいいよ。」

すると、次第に智世の興味はダイエット効果へ。

智世「恵美、そろそろここのダイエットが期待できるサービスを教えてくれても良いんじゃない?」
恵美「後でまわるけど、砂風呂よ。」
亜紀「どうりで。それならダイエット効果もあるわけね。」

2人きりの夢島で、亜紀は自ら朔に砂に埋めてもらったことを思い出した。その時、朔は悪戯の仕返しとばかりに自分の上に砂の胸を作ろうとしていたのだが、亜紀が瞬時に見破った。

恵美「でも智世、本当に深刻には見えないよ?」
智世「それなら見てみる?」

湯の中でバスタオルをはずす。しかし、亜紀と恵美にはそんなに太ってるようには見えない。

亜紀「どこが?」
恵美「それで痩せたいっていうのは、贅沢なんじゃない?」
智世「じゃあ、2人とも見せてよ。」

智世の言われるままに2人もバスタオルを外した。それを見るなり、智世は後ろにあった露天風呂の湯船を形成する岩に腕を置きそこに顔を押し付けて嘆きはじめた。

智世「神様はいないわ・・・。なんで2人ともそんなにスタイルがいいのよぉ〜!」

智世の心の叫びは、風呂場に響きわたった。

亜紀「そんなことないよ!」
恵美「智世だって細いじゃない!」
智世「スタイル抜群の2人に言われたくない・・・。うっうっうっ・・・・・わーん・・・。」

確かに2人の言葉には智世に対する説得力はない。亜紀はグラマーの一言。恵美は恵美で細い。智世ももちろん細いのだが、やはり目の前で見せつけられると・・・。

智世「スタイル抜群のあんたたちに言われても説得力ない〜。」
亜紀「そんなこといわれても・・・。」
恵美「ねぇ・・・。普段から軽く運動してるだけだし・・・。」
智世「それを教えてよ!」

それからは恵美から智世への日々気をつけることについてのレクチャーが続いた。
次第に智世もやる気になってきたようだ。「あんなことを言いやがったスケを絶対に見返してやるぅ〜〜!!」そんな執念にも近い闘争心の炎がメラメラと燃え上がり始めた。

続く
...2005/08/18(Thu) 00:40 ID:PLl.Z5WQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さまへ
女のプライドをかけた闘いが始まりましたね。
でも、男から見ると「キレイになろう」とする女性のほうにやはり惹かれていくと(朔五郎は)思います。一所懸命な姿に「健気さ」を感じてしまうのです。
まあ、女性が男を見る場合も同じかもしれませんが・・・
...2005/08/20(Sat) 18:11 ID:juX.pDTM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
お読みいただいてありがとうございます。
今回は、たまには女性陣だけのシーンを書いてみようかなと思い、UP致しました。
実は、今回を書いているうちに、アイデアが浮かんできて、”女のプライド”をかけた闘いが、後にあることにつながっていくことになってきております。
次回も温泉のシーンが続きます。そして、その後のストーリーを楽しみにしていただければ幸いです。
...2005/08/20(Sat) 18:36 ID:vcrrbG7Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 本放送の時にはカットされた「砂湯」と「ダイエット」のシーンが膨らんで,アナザーストーリーの一話のエピソードに発展したのですね。
 智世がやせるためのどのような心がけを伝授されたのか,男性・女性の違いこそあれ,ペンネームを「ビア樽ポルカ」に改名した方がいいような体型の人間としては,とても他人事とは思えないのです。まあ,こんなことを書くと,「挨拶おじさん」が登場して,「その前にやることがあるだろう。ビールの量を半分に減らせ」とお説教を垂れそうですが・・・
...2005/08/20(Sat) 18:45 ID:F6vw4xCw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
にわかマニア様
お読みいただきありがとうございます。
女性陣3人、好きな人のために頑張る姿を取り入れ、女性陣だけのストーリーを書いてみようと思ったのが今回のストーリーのキッカケでした。
智世も龍之介から「最近太っただろ、食う量を減らせよ。」などと言われたかどうかは別にして、次回も含めて女性陣の1日を描きます。智世だけは自分のプライドの為にも頑張る姿を描いています。
間もなく続きをUP致しますので、それもお読みいただければ幸いです。
...2005/08/20(Sat) 19:05 ID:vcrrbG7Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
智世「それで、亜紀!」
亜紀「な、なに?そんな大きな声で・・・。」
智世「その胸はどうやって?」
亜紀「どうって・・・。」
恵美「智世、それは人それぞれだから。」

もう誰も智世を止められない。一度燃え上がった闘争心は復讐にも似た力を得て、良い意味で向上しようとしている。
少し呆れ気味に言った恵美の言葉をさえぎると、今度は亜紀が普段していることを聞きだそうと躍起だ。

智世「陸上の時のストレッチでいいの?」
亜紀「少なくとも、私はそうだけど・・・。」
智世「とりあえずそれね。今夜からやってみよう。」
恵美「(胸とは直接関係ないような・・・・・?)でも、本当にいいな。」
智世「そう思うでしょ?どうやったらこんな・・・ボインちゃんになれるのかな?」
亜紀「ちょっと・・・恥ずかしいからやめて。」

亜紀は「ダメ。朔にだってそう言ってるんだから。」と、そーっと伸ばしてきた智世の手を払う。

智世「いいじゃない。男に触られるわけじゃないんだから!」
亜紀「よくない!」
恵美「でも・・・羨ましい。」
亜紀「恵美まで・・・・・・。」

さっきの嘆きはどこにいったのであろうか、立ち直った智世は上機嫌だ。
もし、朔と龍之介とボウズが隣にある男湯にいたら、どさくさに紛れて覗きにくることは容易に想像がつく。
すると湯船の中、話題は自然と自分たちの彼氏になった。その中身は愚痴が多い。

智世「女心が分かってない。」
亜紀「それは言えてるね。」
恵美「そうかなぁ?」
亜紀「もちろん、大事にしてくれてると思うけどね。」
智世「だって、あんたたちは寝る時は一緒に寝てるんでしょ?」
恵美「え?それって・・・。」
亜紀「違うよ。本当に一緒に寝てるだけ。そこから先は結婚してからじゃないとダメって。」
恵美「・・・・・・朔がおあずけをさせられている犬みたい。」
智世「本当ね。朔もかわいそうに・・・・・・。」

女友達2人の率直で、哀しみを込めたような視線を足した感想である。
亜紀は、やんわりと否定する。

亜紀「そんなことないよ。無意識のうちに触ってるもの。」
智世「え〜??男らしくないなぁ。」
亜紀「ワザとしてる訳じゃないけどね。」
恵美「それ、計算だったりして。」
亜紀「・・・そんなことない・・・と思う。」
智世「スケは堂々と言ってくるよ。」
恵美「私の所も。」
智世・亜紀「え!?ボウズが?」
恵美「スケちゃんから情報が入ってくるみたいよ?スケちゃんは、そういうことに長けてるんでしょう?色々と聞いてるみたい。」
智世「色々とご迷惑を・・・申し訳ないです。」
恵美「私は全然構わないよ。それで主導権を握れそうだから。」
亜紀「主導権は大事よね。私は全然握ってないからなぁ・・・。」
恵美・智世「亜紀は朔を完全に尻に敷いてるでしょ!」

2人が瞬時にツッコミを入れた。
亜紀は驚いた様子を見せ、自然と声が大きくなる。

亜紀「え?そんなことないよ!」
智世「いつも見てると、朔のこと振り回す時もあるよ、亜紀は。」
亜紀「じゃあ、朔ちゃんに何かしてあげないと。」
恵美「夏休み中でしょ?毎日職場にお弁当持って行ってあげれば?」
智世「それいいじゃん!」
亜紀「そうしようかな。」

内心、亜紀はこの時点でそうすることを決めたようだ。好きな人のために何かできる喜びを亜紀は誰よりも知っている。

亜紀「ボウズは?」
恵美「ほら、同じ町に住んでないじゃない。月に1・2度は会えるからその時は思いっきり笑いあったり、たまにケンカもするけど・・・甘えさせてもらったりね。」
智世「いいねぇ。ボウズのことだからロクなことできないんじゃないかと思ったけど。」

この中で、一番ボウズと付き合いが長い智世が安心したように言った。

恵美「スケちゃんは?」
智世「ま、家も近いしね。道を歩くと気が付けばいるから。そこから自然と2人になったりね。たまにコロを連れて海に出たり。」
亜紀「船で海に出てデート?」
恵美「すごーい!今度スケちゃんに頼んで操縦してもらおうっと!」

亜紀と恵美は自分の彼との船上デートに思いを馳せる。イメージの中では、漁船がクルーザーに変わってしまっているのだが・・・。

恵美「まあ、結局はそれぞれに欠点も多いし、愚痴をこぼすこともあるけど・・・。」
智世「言わなくても・・・・・・そうだよねぇ。」
亜紀「・・・・・・好きなんだよね。」

しみじみするように言った亜紀に恵美も智世も「うん。」と頷きながら同調した。
その後、砂風呂に向かった3人はここでも気合いが入る。

亜紀「久しぶりだなぁ・・・。」
恵美「私も。これが効くのよね。」
智世「私は初めてだから、何か楽しみ。」

それぞれ、担当の従業員から指示されたようにして、砂風呂をかけはじめる。砂に体が埋まると智世が感想を漏らす。

智世「苦しい・・・かも・・・。」
亜紀「頑張れ!スケちゃんのために!」
恵美「そう!」
智世「そうだ!(私は見返すのよ〜。)今年も水着を着たいし。」
亜紀「私だって・・・(朔ちゃんに喜んでもらうんだから!)」
恵美「今年も皆で海に行こう!(主導権を完全に握らなきゃ!)」

涙ぐましい努力をする女性陣。気が付けば、もう夕方の6時である。
砂風呂から抜け、浴衣姿で部屋へ。
くつろぐ3人。

恵美「何か、男の子たちもいた方がいいと思ったけど、3人だけっていうのもいいかもね。」
智世「それは当然よ。」
亜紀「どうして?」
智世「だって、覗きとか夜這いとかされそうじゃない?」
恵美「・・・あるかも。」
亜紀「少なくとも朔ちゃんはそんな人じゃない。」
恵美「亜紀、その言い方ひどいよ。“ヨシくん”だってそういうことしないわ。」
亜紀「え?」
智世「“ヨシくん”って・・・・・?」
恵美「あ・・・・・・。」
亜紀「ボウズのこと“ヨシくん”って呼んでるの!?」
智世「アハハハハ!似合わないよ!その呼び方!」

大人の恵美が見せたほんのわずかな隙。恵美は珍しく頬を赤くしている。

恵美「良いじゃない!・・・からかわないで下さい。」
亜紀「その呼び方は何で?」
恵美「前は“顕良”って書いて、“アキヨシ”って読んでたんでしょう?そこからよ・・・。」
智世「それで本人は?」
恵美「気に入ってるみたい。」

「気に入ってる・・・あのボウズが・・・??????」心の中で、そう思ったのだろう。亜紀と智世は畳に寝転んで大笑い。恵美だけが軽く怒ったようにして「いいでしょ!」と猛抗議をするのだった。
                  ・
                  ・
                  ・
深夜、週末ということもあって、3人は恵美のアパートに泊まることにした。
ここでも女性陣だけのおしゃべりの時間が続いている。

一方、宮浦では仕事帰りの朔が廣瀬家の前。龍之介が上田薬局店の前で2人の帰りをそれぞれ首を長くして待っていた。

そんなことを知る訳もなく、3人は普段の出来事を話題に大いに盛り上がっている。そのうち、それぞれの家に電話を入れた。廣瀬家、上田家それぞれの電話が鳴り、母親が受けた。それを聞いた父親がそれぞれ伝えるのであった。

智世父「おい、スケ。」
龍之介「はい?」
智世父「恵美さんって言う人の所に泊まるそうだ。」
龍之介「恵美の所?」
智世父「友達か?」
龍之介「ボウズの彼女ですよ。」
智世父「そうか、悪いな。」
龍之介「仕方ないっすよ。じゃあこれで。」
智世父「スケ、ありがとう。」
龍之介「いえいえ。そんじゃ。」

去っていく龍之介の後姿を見送りながら、智世の父は、智世の帰りを長いこと待っていてくれた龍之介に感謝していた。

そして・・・。

朔「おっせーな。亜紀の奴・・・。」
真「悪かったな、躾のなっていない娘で。」
朔「あ、そういう意味じゃ・・・。」

朔は、しどろもどろになりそうになりながらも、なんとか釈明しようと試みた。
そんな様子を見て笑みを浮かべながら真が言う。

真「まあ、気持ちは分かる。俺も若い頃は家内と待ち合わせの時に待たされたんでな。」
綾子「女性の特権ですよ。いいじゃないですか。」

続きを遮るように、家から出てきた綾子が真に言いなれている様子で優しげに言う。

朔「はは・・・それ、亜紀が前に言ってました。」
真「血は争えんな。」
綾子「それともうひとつ。亜紀から電話で、今日は恵美さんの所に泊まるそうです。」
真「恵美・・・さん?」
朔「ボウズの彼女です。」
真「ほぉ・・・中川君にもそういう女性が・・・そういえば、もう皆も25か・・・。」
朔「8年経ちました。」
綾子「もうそんなになる?」
真「どうりで・・・最近、腰がな。」

そう言うと、真は軽く伸びをした。

真「明日仕事だろう?亜紀もいないし、申し訳ないが帰りなさい。」
朔「そうですね。これで失礼します。」
綾子「朔くん、亜紀ちゃんの我儘に付き合ってくれてありがとう。」
真「家内の悪い癖が遺伝したようでな。」
綾子「悪い癖だなんて・・・。朔くんはどう思う?」
朔「え・・・・・?」

一瞬答えに困る。しかし、

朔「そういうところがないと、亜紀じゃないですから。」
真「・・・・・・こういう時は、父親の意見に従うべきだ。」
綾子「あら、母親の意見に従うのも大切よ。」
真「・・・・・・。」

朔は廣瀬夫妻のやりとりに、自分達の未来を重ね合わせていた。
「たまには、亜紀に気持ちを伝えよう。」と思った。それは、口には出さない龍之介も同じだった。

続く
...2005/08/20(Sat) 19:07 ID:vcrrbG7Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは。ター坊様。女三人集まればなんとやらといいますが、まさにその状態ですね。相変わらず智世は、絶叫マシーンそのままだし、亜紀のスレンダーボディーは未だ健在なんですね。智世は、亜紀と恵美の体型が自分と違うのがよほど悔しいのがよく表現出来てますし、ほんと、隣の男風呂に朔、介、ボウズがいれば、女風呂が気になって仕方ないでしょうね?恵美の部屋でどんな話で盛り上がるんでしょうか?とても楽しみです!
...2005/08/20(Sat) 20:51 ID:07x0EjAA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
いつもお読みいただきありがとうございます。
女性陣の賑やかな会話、常にそれは愛する人たちについてのような気がします。そして、笑ったり泣いたり、時には愚痴を言い合ったり・・・。でも、結局は賑やかなんだと思います。
次回は後ほどUP致します。お読みいただければ幸いです。
...2005/08/20(Sat) 22:59 ID:vcrrbG7Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔と龍之介が自分たちを待っていてくれたことも知らずに、恵美の部屋で遅くまでくつろぎ続ける亜紀と智世。
8時すぎに部屋に到着して、冷蔵庫の中身を使って遅めの夕食を取り終えたのが夜の9時半。それからあっという間に時間が過ぎ、2人分しかない布団に3人でもぐりこんだ時には12時間際であった。

亜紀「狭いね・・・。」
智世「8月・・・それも熱帯夜に3人は暑苦しい。」
恵美「うるさい。」

仲の良い2人の冗談混じりの会話。

恵美「さて、夜はこれからね。」
亜紀「幸い明日は休日。結構夜更かしできるよ。」
恵美「私も休み。今日は午後から休んだからほとんど3連休。」
智世「明日は土曜日かぁ。うちは自営業だし、両親に店番してもらえるし・・・。」
亜紀「たまには羽目をはずすとしましょうか。」

亜紀に大賛成の恵美と智世。「何の話をする?」と恵美が仕切り始めた。
思案顔の亜紀と智世。
少しして、亜紀が何かを思い付いたように「さっきの続き。」と言い出した。

恵美「さっきって?」
亜紀「恋愛について!」
智世「いいねぇ。何か中学とか高校の修学旅行みたい。」
恵美「もう10年以上前よ・・・年とったなぁ・・・私。」
智世「そうだよねぇ・・・27って言ったらねぇ。」
恵美「そうなのよ・・・あと3年で三十路・・・。智世、怒るわよ。」
亜紀「そんなこと言って、恵美も楽しんでるでしょ?」
恵美「バレた?」
智世「バレバレ。」

本題に入る前でさえ、無関係な話で時間を費やす。
亜紀が「それは置いといて・・・。」と本題に入った。

亜紀「今まで、何人と交際した?」
恵美「2人。」
智世「そうなんだ、さすが大人。私は1人。」
亜紀「私も。いつ頃の話?」
恵美「大学時代に少しの間ね。もちろん真剣だったわ。」
智世「いい人だったの?」
恵美「うん。優しかったよ。でも・・・ヨシくんの方がいいな。」
亜紀「のろけちゃって。ラブラブじゃない。」
恵美「そういう2人だって仲良いじゃない。」
亜紀「そうだね、随分長い間一緒にいるし。」
恵美「私は付き合って3年。」
智世「私は4年と少し。幼なじみの時からも含めたら20年くらいの付き合いね。」
亜紀「私は先月で8年ね。」
恵美「亜紀は病気の前から・・・あらためて考えると朔ってすごいね。」
亜紀「私、1度は別れようって言ったんだけど、結局プロポーズされちゃった。」
智世「幸せ者だ、亜紀は。」
亜紀「本当にそう思う。」

幸せそうな亜紀の表情に恵美も智世も羨望の眼差しで見る。
もちろん、自分たちも幸せなことに違いない。

智世「じゃあ、結婚とかは?」
恵美「うーん・・・・・・今すぐしてもいいかな?」
智世「私も。・・・ねぇ亜紀?プロポーズされた時ってどんなだったの?」
亜紀「もう・・・嬉しくて嬉しくて・・・・・・朔ちゃんの優しさが私を包んでくれた感じ。心を“ぎゅっ”ってしてもらったみたいだったよ。」
恵美「“ぎゅっ”かぁ、いいなぁ〜。」
智世「羨ましい・・・もう亜紀は朔のものだもんね。」
亜紀「“朔ちゃんの”・・・思ったよりいいかも・・・。」
恵美「私はいつ言ってもらえるかな・・・早いうちがいいけど。」
智世「私も。」
亜紀「恵美はもう少しの辛抱かな・・・ボウズって結構考えちゃうみたいだからね。」
智世「そうそう。恵美と付き合うか迷った時なんてグズグズしてたんだから!!」
恵美「そうなの!?初めて聞いた!」
亜紀「写真館で朔ちゃんとスケちゃんに相談に乗ってもらったりもしてね。」
恵美「いい話聞いた!今度会う時に聞いてみようっと。」
智世「少しふざけてみたら?ボウズもさらに男らしくなったりして。」
恵美「そうね。未だに愛の言葉も少ないし!」

どうやら、亜紀のような考えを持っているようだ。基本的に女性陣が男性陣を尻に敷く構図が基本。特にそれが顕著なのは朔と亜紀のカップルだ。

智世「でも、亜紀は就職してからでしょ?」
亜紀「う〜ん・・・実際には、朔が私を待たせると思うよ。」
恵美「学生結婚の可能性は低い?」
亜紀「うん。朔ちゃんはそういうところが真面目だったりするところがあるし。」
智世「私たちは今すぐにでもプロポーズして欲しいのにね。」
恵美「結婚したいね。」

全員が大きく頷いた。そこからの話題は大きく逸れて、朔と龍之介とボウズの悪口へと変わっていくことになる。恵美が口火を切った。

恵美「未だに言ってくれることが少ないよね。」
亜紀「本当ね。でも、最近は言ってくれるようになってきたかな。」
恵美「どうやってるの?」
智世「亜紀は色々仕掛けてるから・・・。」
亜紀「やっぱり、粘り強くお願いすることかな?」
智世「例えば?」
亜紀「朔ちゃんは何もしてないけど、わざと不機嫌なフリをして、“もっと愛情表現して!”とか言って、慣らしてたの。」
恵美「凄い・・・けど、かわいそうだよ。」
智世「理不尽すぎるよ、それ・・・・・・。」
亜紀「でもね・・・言ってもらえると嬉しいの。おかげで最近は、朔ちゃんからいろいろやってもらえるよ。」
恵美「本当に粘り強いよね。」
智世「亜紀の方法は朔とボウズには通用すると思うけど・・・スケには難しいね・・・。」
恵美「スケちゃんは手強いよね。」
亜紀「そうだね・・・・・・。」

ここからは3人が協力して、“打倒・大木龍之介”を合言葉に、睡眠時間を削っての作戦会議へと変わっていく。
「あーでもない・・・こうでもない・・・。」時折、軽い溜息まじりで頭をフル回転させている。

亜紀「結局、長い目で見ていった方がいいんじゃない?」
智世「もっと強力な内容で続けるってこと?」
亜紀「うん。」
恵美「ねぇ、前に無人島に入った時に男の子たちの目の前で服を脱いだじゃない。」
亜紀「夢島?」
智世「普段からあれくらいのインパクトね。」
恵美「今年も行こうよ。明日帰るときに水着を見ていけば?」
亜紀「それいいじゃない!」
智世「賛成!」

明日の予定が決まった。
帰る前にであっても、女性陣の闘いは行われるのである。

続く
...2005/08/20(Sat) 23:01 ID:vcrrbG7Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。
恐るべし女性三人組みですネ!この調子じゃ、朔とボウズは多分、これからもずっと亜紀と恵美の尻にしかっれぱなしなんでしょうね?でもそれがうまくいく秘訣だと思います。何を隠そう私もかみさんの尻にしかれています。(笑)また、今年もあの夢島に行くんですか?女性三人がどんな水着を買うのか楽しみです!次回作も楽しみに待ってます。
...2005/08/21(Sun) 00:26 ID:RsdnnY8M    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
少なくとも、亜紀が朔を尻に敷くことで8年もの間良い交際を続けて靴ことができたのだと、個人的に思っています。
次回からは夢島での物語になります。
これからもよろしくお願いします。
...2005/08/21(Sun) 16:42 ID:R5LA7V3w    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
翌朝、「これから帰る。」と、亜紀と智世がそれぞれに自宅に電話を入れた。
その時、「朔くんがずっと家の前で待っていたわよ。」と綾子。「スケが、蚊に刺されながら待ち続けてたぞ。」と智世の父。それぞれの親が娘に言った。

恵美「よかったじゃない。」
亜紀「許さないといけなくなっちゃうな。」
智世「そうね・・・少しは勘弁してやるか!」

自分たちの知らないところで想っていてくれる恋人に思いを馳せ、早く会いたいという気持ちを抱きつつ、車に乗り込んだ。

右手に海を臨む道路を市街地に向けて走る。中心部に到着するが、電車の時間までには時間があったため、予定通り3人は新作の水着を見ることにした。

恵美「見ておく?」
智世「そうね。」
亜紀「いい掘り出し物があるかもよ。」

女性陣はそれぞれが思い思いのに見てまわった。
普段着から、もちろん水着までくまなくチェックをする。
ふと、智世が亜紀にたずねた。

亜紀「何?」
智世「あれ、どう思う?」

智世が指さす先には、真紅の派手なビキニがあった。

亜紀「・・・・・・着るの?。」
智世「ダメか・・・。」

「確かにインパクトはあるね・・・。」それでも、あまりに派手なので亜紀はしばし絶句していたが、切り替えて言った。

亜紀「スケちゃんに見せてあげたら?」
智世「その前に、この体を何とかしないと。」
亜紀「早朝ランニングでもしたら?土日限定で私も付き合うよ。」
智世「ホント!?」
亜紀「うん。」

亜紀は智世に協力することを約束した。
この夏、智世に目標ができた。自分の思うようにシェイプアップして龍之介を見返し、さらに自分に惚れさせるというものだ。

恵美「この水着すごいね!着るの?」
智世「うん!」
亜紀「智世、燃えてるよ〜。皆で夢島に行けたらいいね!」

結局は全員が購入してしまった。
そして次の土日、早速亜紀が智世に付き合っている。

亜紀「行くよ!」
智世「はいよ!・・・でも、亜紀が痩せちゃしょうがないよね。」
亜紀「私も決めたの。9月に朔がお休みを取れたって言ってくれたから、その時までに私も頑張って、朔を釘付けにさせるのよ!」
智世「亜紀も燃えてますね〜!じゃ・・・早速・・・。」
2人「宮浦〜、ファイト!ファイト!ファイト!ファイト!」
亜紀「ぷっ。」
智世「くくく・・・。」
亜紀「懐かしい。」
智世「でも寂しい。」

たった2人のトレーニング。それはとても懐かしいものであると同時にとても励みになるものだった。

そして、あっというまに当日の朝を迎えた。
厳しい残暑が残る中、龍之介は一足早く漁港で船の準備をしている。そんな時、智世が荷物をまとめてやってきた。

智世「バカスケ!」
龍之介「なんだよ、突然?」
智世「知らない!!」
龍之介「?????」

自分が智世が傷つく言葉を言ったことも忘れて、訳がわからないと言った表情を浮かべる。そんな龍之介をお構いなしに智世はさっさと船に乗り込み荷物を置いた。
そんな2人を、車の陰から見つめる2人の影。

ボウズ「あちゃー・・・。」
恵美「スケちゃんの自業自得だから・・・。」
ボウズ「これは、一肌脱がないといけないかな?」
恵美「その必要は無いよ。・・・智世、最近頑張ってたみたいよ。」
ボウズ「だといいけどよ・・・。」

その時、さらに後ろからこの2人が声を掛けた。

朔「亜紀から聞いたけど・・・・・・。」
ボウズ「俺も恵美から聞いたけど・・・。」
亜紀「やっぱりねぇ。」
恵美「見ての通りよ。」
亜紀「でも、痩せたでしょ?」
恵美「うん。」
ボウズ「?」
朔「何の話?」
亜紀「智世が怒った理由は2人も知ってる通り。それで、スケちゃんを見返すために頑張ってたのよ。」
恵美「朔、気付かない?・・・亜紀も智世に付き合った結果・・・痩せたってこと。」

朔は驚いて亜紀を見る。亜紀は「気付いてなかったのね。」と少し怒ったように言った。

朔「いや・・・それはその・・・。」
亜紀「もういいもん。」

その隣では、「やれやれ・・・。」と言う感じの恵美と、「この色ボケカップルが。」ボソッと言うボウズがいる。

龍之介「お前ら!いいから早く来い!」
亜紀「あれ?」
朔「気付いてたのか?」

どうでもいいところは鋭いので、4人に気付いた龍之介が大声で呼んだ。
観念したようにゾロゾロと船に向かう4人。少しだけ気まずい智世と龍之介とは対照的に、仲の良い4人をを乗せて、船は出港して行った。

亜紀と恵美の長い髪が風になびくのを見てボーっとしている男が2人・・・。

ボウズ「いいよなぁ・・・。」
朔「亜紀の髪ってサラサラしててさ・・・いい香りがするんだ。」
ボウズ「恵美も同じだぜ・・・。落ち着くよなぁ?」
朔「ああ。嫌なこととか疲れだとか全部吹っ飛んでくよ。」

くだらない会話。小声でヒソヒソ話す2人の声は、船のエンジンとカモメの鳴き声に掻き消されると思われたが、実際は恵美と亜紀の耳にしっかりと届いていた。

恵美「考えることは同じみたいね。」
亜紀「本当ね。でも・・・体をくっつけてるとね。」
恵美「向こうが下心を抱いてることを考えても・・・・・・。」
亜紀「温かいもんね。」
恵美「そうそう。」

恵美にしても亜紀にしても、やはり恋人の腕の中にいることは、なにより至福の時間に変わりはないようだ。

そんな時間を過ごす間に、船は桟橋に到着した。

続く
...2005/08/22(Mon) 00:02 ID:xuAa..iA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。八年前、朔と亜紀が一番輝いていた夢島に今年も来たんですね。(今も二人は輝いていますけど・・・)今回は。二人だけではなく三組・六人で。ドラマでは、亜紀が「私、みんなで騒いだ事ない」って言ってたのを思い出しました。今回も朔が一番張り切っているのでしょうか?朔、介、ボウズは、下心みえみえの行動に出るんでしょうか?また、女性人の購入した水着が気になります。智世の早朝ランニングの成果はいかがだったんでしょう?とても次回作が楽しみです!
...2005/08/22(Mon) 19:28 ID:yBLmBbt.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:サイトのファン
たー坊さんへ
執筆、お疲れ様です!!
まとめて拝読させて頂きました。
長期の出張から戻ってPCの電源を入れて
すぐにココにアクセスして一気に拝読しました。
サクも試験に合格し正式な医者になり
コロも智世の家族の一員になったのですね
プラスの事ばかりで安心しました。
女性3人組の温泉行きで心配するサクと
龍之介は見事に亜紀と智代にコントロール
されていることが証明されて笑ってしまいました。
夢島での展開がスゴク楽しみです。
続編、心待ちしております!!
...2005/08/24(Wed) 23:50 ID:fpL/8OxM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
今回はで3度目の夢島ということになります。以前も書いたのですが、再び描きたいと思い、今度は少し長くして夢島編に突入します。
最近、UPできないのですが、9月に入るくらいから再び少しずつUPできると思いますので、これからもよろしくお願いします。

サイトのファン様
長期出張お疲れ様でした。すぐにお読みいただけること、私も嬉しく思います。
プラスのことばかりの日々、悪い事と良い事は続くものと言いますが、良い事(プラス)が続きすぎかな?と、少し反省しつつも、良い事がこれからも続きそうです。
次回もお読みいただければ幸いです。
...2005/08/27(Sat) 12:49 ID:cFZNXb.2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんばんは、お久しぶりです。

書き込みは出来ませんでしたが、毎日このスレッドを確認していました。

感想としては、女三人集まったらこんな話をするのかと、新鮮な気持ちで、楽しく読むことが出来ました。
それにしても、この女性三人の彼氏は本当に大変だなと感じました。
でも、三人はそれで幸せなんですよね。
再び夢島に行くみたいですが、今度はそこで何が起こるのか楽しみです。

私のHPの「物語の内容」は、今日、ようやく第9話を書き終えました。
ちょうど、昨年の放映と同じペースです。
次は第10話ですが、実は、6月以来、その話を思い出すだけで辛くなるので、DVDでは見ていないのです。
第10話を見るのはそれ以来ですが、一度書くことを決めたので、辛いですが、しっかりと書いていこうと思っています。

最後になりましたが、次のお話を楽しみにしています。
...2005/08/28(Sun) 22:28 ID:O4q2jJ/U <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様
毎日確認していただいていたとのことでとても嬉しく思います。執筆者の冥利に尽きます。
3組のカップルの基本は女性陣が男性陣を尻に敷くというものです。もちろん、亜紀が朔を尻に敷いているのを目の当たりにしたことが大きいと思います。
これからもお読みいただければ幸いです。
...2005/08/30(Tue) 00:07 ID:fAYcKwxI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
2年ぶりに夢島に降り立った6人。すでに昼食は済ませて来たので、早速海へと繰り出すことにした。

先に男性陣が砂浜に来たのだが・・・。

朔「?」
ボウズ「お前・・・それは何なんだ?」
龍之介「見ての通りだ。」

龍之介の右手に握られていたのは、なんと・・・銛(もり)。

龍之介「バーベキューの用意はしてあんだろ。でも、肉がたりねぇな。」
ボウズ「たんぱく質は足りてるだろ。」
龍之介「いや、全然だめだ。」
朔「いいけどさぁ、誰が調理すんの?」

朔の素朴な疑問に、2人は躊躇することなく朔に視線を向けた。

朔「俺はしないからな!」

と言い、さっと浮き輪とボートを膨らませる。そんな朔の肩の後ろから、ガバっと腕をまわし、「頼むよ〜おまいさん。」と言う。

朔「知るか!」
龍之介「そんなつれないこと言わないでさ〜・・・。」
朔「嫌だ。」

その時、

亜紀「私も朔ちゃんの魚料理が食べたいな〜・・・。」
朔「悪乗りするなよ。」
亜紀「あら!こんなに磨きをかけた私にそういう口を利くのかしら?」
朔「いくら亜紀でもダメ。面倒。」
亜紀「冷たい・・・・・・。」
恵美「朔、作ってあげたら?」
亜紀「ね。」
朔「・・・・・分かったよ!」

朔は、しぶしぶ承諾して、浮き輪とボートを膨らませ続けた。

智世「さて泳ぎますか?」
ボウズ「さっさと行こうぜ。」
恵美「そうね。」

朔がボートと浮き輪を膨らませているうちに、龍之介と智世、ボウズと恵美は「じゃね!」と言い残し、さっさと海の中に入って行ってしまった。

朔「・・・・・・・・・・。」
亜紀「どうしたの?」
朔「なんて勝手な人たちだと思ったんだよ。」
亜紀「ま、気にしないで。いいじゃない。」

ジーンズに白いキャミソールの亜紀は「早く!私を海に連れてって。」と子供のように言う。朔は少し呆れ顔だ。
ようやく海に入ろうとした時に、亜紀は服を脱ぎ始めた。

亜紀「どう?」
朔「やっぱ、やせたよ。」
亜紀「それだけ?」
朔「・・・きれいになった。」
亜紀「ありがと。」

真っ白なビキニ姿になった亜紀は嬉しそうに微笑んであげると、水着姿のままセクシーポーズを繰り返しやって見せた。朔は平静を装いながらも、心臓は高鳴り、喉を唾が流れ、よからぬ考えを押さえるのに精一杯である。

亜紀「行きますか?」
朔「よし!行こう!」

朔は急ぎ服を脱ぎすてて、亜紀の手を引き波打ち際まで連れて行くと、今度はさっき膨らませたボートに浮き輪を乗せて持って来た。

朔「乗って!」
亜紀「うん!」

波に自由を奪われつつも、亜紀の乗ったボートを引っ張って沖に向かった。
左には龍之介と智世が、右前方ではボウズと恵美が海水を掛け合ってはしゃいでいた。

亜紀「2人ともいいなぁ・・・愛されて・・・。」
朔「なっ・・・・・・。」
亜紀「いつも愛情を受けてるって実感できてるみたい。」
朔「・・・俺、怒らせるようなことした?」
亜紀「してないよ。」
朔「じゃあ・・・・・・。」
亜紀「でも、もっと愛して欲しい・・・ぞ・よ!」

水の中で呆気にとられてボーっとしている朔に、亜紀は少しおどけるようにして言った。

朔「何をしろと?」
亜紀「もっと、もっと・・・・・・。」

朔は亜紀の次の言葉を待ち続けた時、照れ隠しをするようにバシャッとボートから朔に水しぶきをかけるように海に飛び込んだ。

朔「うわっ。」
亜紀「悪戯成功!」
朔「バカ亜紀。」
亜紀「どんなに悪口言われてもいいもん。朔が一生私を愛してくれればね!」

そういい残して、海の中に潜る亜紀を朔が追いかける。
比較的澄んだ水の中、すぐに自分を見つけた朔に向けて口を動かす。

亜紀「(追いついてみなさいよ。)」
朔「(は?)」
亜紀「(愛してるなら、捕まえてみなさい!)」

亜紀は沖合いに向けて泳ぎ始めた。慌てて後を追う朔。「あまり沖に行かれても危ない!」そう感じた朔は必死で亜紀の足首を掴もうとするが、もう少しの所なのに届かない。
亜紀は再び振り向き、「早くっ!」と言わんばかりに思い切り笑いながら先に行ってしまう。
朔は本当に必死になってようやく追いつき、亜紀の膝の少し上の辺りを捕まえた。
亜紀はにっこり笑って動きを止めた。そして、

亜紀「(私は愛してるからね!)」

水の中で言葉にはならないが、次の瞬間には互いの体温を求め合い、そのまま海面に顔を出した。

亜紀「はい。」
朔「はい?」

亜紀は理解していない朔に、目を閉じながら人差し指でチョンと自分の唇に触った。朔は周りを見渡し、龍之介たちの姿を確認する。ボウズと恵美は水を掛け合い大はしゃぎ。
そして、智世たちは・・・?

智世「きゃあっ!!」
龍之介「ハッハッハッ!」
智世「もう!冷たーい!!」
龍之介「それはともかく取ったど〜!!」
智世「バカ〜!!」

龍之介の銛の先は、魚をしっかりと捕らえていた。
そんな2組の様子を確認した後、「ね?」と言う亜紀の肩を抱き寄せ、キスをした。そのまま、亜紀がリードするように海中へ。しかし、朔が背中や腕を撫でるようにして絡みつくようにしてくることに身の危険を感じた亜紀は、朔を振り払い、あっという間に陸地へとにげてしまうのだった。
                  ・
                  ・
                  ・
夕方・・・・・・。
結局、全員がそろって夕食のバーベキューの準備をする頃には、2人の距離は決定的になっていた。

智世「亜紀?何かあった?」
亜紀「別に?」
恵美「朔の様子が変だけど・・・。」
亜紀「さあ・・・。」

実は、勝手に朔がいじけているのであった。七輪を使って龍之介の獲ってきた魚を焼いている。

朔「・・・・・・。」
龍之介[ブツブツしてどうしたんだよ!おまいさん?]
朔[別に・・・・・・。]
ボウズ「ほれ!まずは飲め!」

そう言って渡された缶ビールをイッキしようとしたが・・・。
蓋が開いてない・・・。

ボウズ「ワハハハハハッ!」
龍之介「相変わらずだねぇ!おまいさん!」

さらにいじけた朔は、缶を叩きつけた。

朔「何なんだよっ!」
龍之介「ま、ま。」
ボウズ「気にすんなよそのくらい。」

恵美「もう・・・。」
智世「火に油を注いでる・・・。」
亜紀「でも、面白いじゃない。」
智世「呑気だねぇ。朔の色に染まりきっちゃったみたいね。」
亜紀「一緒に暮らしたこともあるんだもん。」
恵美「でも、早いところ仲直りした方が・・・。」
亜紀「そうね、後で。」

この後、バーベキューでの夕食は、いろいろな意味で大いに盛り上がることになるのである。

続く
...2005/08/30(Tue) 00:18 ID:fAYcKwxI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
亜紀は地上だけではなく、水中での逃げ足も速いのですね。まさに「マーメイド」という感じです。
しかし、期待通りの「白いビキニ」感動しました(オヤジ丸出し・苦笑)
...2005/08/30(Tue) 20:36 ID:9MkQbco2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ゴン41
   たー坊様
 お久し振りです。皆にとっていい思い出になりそうですね。でも亜紀は愛してる朔に抱き寄せられたのに、そんなに怒らなくても。次回楽しみにしております。
...2005/08/31(Wed) 22:06 ID:eIeajE9o    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様

こんばんは。今回もお読みいただきましてありがとうございます。
これから何話か夢島での楽しい時間が待っているのですが、警戒心を完全に無くすことのないように、亜紀は行動することでしょう。陸はもちろん、海でも亜紀の危険回避能力はフル稼働です。
次回もお読みいただけましたら幸いです

ゴン41様
こちらこそお久しぶりです。
2年ぶりの夢島。朔と亜紀にとっては3回目になるわけですが、そんな開放的な場所でも、朔をどこかで警戒することを忘れないのが亜紀です。行動力が日に日に高まっている朔ですから、もし、他のカップルの目の届かない所に連れて行かれたら、何をされるか・・・。そんな気持ちもあるのでしょう。
これからもお読みいただけましたら幸いです。
...2005/08/31(Wed) 23:51 ID:oGmqolxg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
亜紀「おい!朔!」
朔「お・・・“おい!”!?」
亜紀「ふふっ、キスしよっか〜?」
朔「???(様子がおかしい・・・。)」

夢島での夕食のバーベキューを楽しんだ後、亜紀の様子がおかしい。その後ろでは、ボウズと龍之介の酔っ払いコンビが缶ビールを片手にバカ騒ぎをしているのが朔の視界に入ってきている。
智世が「ごめん。飲ませちゃった。」と手を合わせて申し訳なさそうにしており、恵美もまた、ボウズに「飲みすぎ!それに亜紀にも飲ませすぎ!」と、怒りを通りこして呆れている様子だ。

亜紀「朔ちゃん・・・ね。」
朔「飲みすぎなんだよ。」
亜紀「いいじゃない〜。酔いつぶれたら朔ちゃんにおぶってもらって、送ってもらえるもん・・・。私との時間が濃く・・・なる・・・じゃない。」
朔「もう潰れる寸前だろ。それに、ここ・・・夢島。どうやって海を渡れと?」
亜紀「私をおぶって平泳ぎで戻ってくれれば・・・・・・。」
朔「無理。」
亜紀「そしたら、私は朔の背中にくっついて幸せ・・・なのに。」
朔「無理。」
亜紀「やーねー・・・冗談よ。・・・でもヒドイわ・・・。」
朔「お前、飲みすぎだし、飲まされすぎなんだよ!」
亜紀「今、初めて『お前』って言ってくれたー。何か新鮮・・・だ、ぞよ。」
朔「???」
亜紀「朔ぅぅ〜・・・ちゃん。」

そういうなり、朔の背後からもたれて甘え始めた。右手に持った缶チューハイの匂いが朔の鼻をつく。

亜紀「ねぇ〜ねぇ〜・・・・・・。」
朔「いいから、その右手に持っている物を置いてきなさい。」
亜紀「朔も飲めぇ〜・・・私と一緒に酔っちゃえ・・・。」
朔「いいから、ほら貸して!」
亜紀「朔ちゃんツレナイ。」

朔は亜紀の手から缶を取り上げた。亜紀は膨れるどころかケラケラ笑っている。
「亜紀は酔うと笑い上戸になるみたいだな・・・。」と冷静な分析をしている。
しかし、

龍之介「な〜!いいじゃねぇかよ〜朔!」
ボウズ「そうだって!ほれ、お前ら飲んでるか〜!!」
恵美「飲んでるよ〜!」
智世「こうなったらとことん飲んでやるぅ〜。」

いつの間にか、智世も、冷静な恵美も相当に酔ってしまっている。朔は「あぁ〜〜っ!!!ったく!」と叫ぶように言った後で「ハァ〜」と深いため息をつくのであった。
すると・・・・・・。

亜紀「スケちゃん!もう一本!」
龍之介「あいよ!恵美、一本取ってやってくれ!」
恵美「はい亜紀。どうなっても知らないからね〜。」
亜紀「大丈夫!!朔がね〜、東京にいる時に約束してくれたから〜!」
智世「なによぉ〜?“亜紀の朔ちゃん”に何を約束してもらったのかなぁ?」
亜紀「一緒のお布団に寝ていた時にねぇ、『俺、亜紀を守るから。ずっと・・・』って言ってくれたんだよ。ねぇー。」

亜紀はそういうと一気飲みをして、皆の目があるのにも関わらず、朔の右腕に自分の腕を絡ませてピッタリとくっついた。

朔「おいっ!亜紀!」
ボウズ・龍之介「おおおおおおおぉぉぉぉぉ〜〜〜〜!!!???」
恵美「いいねぇ!朔、なかなかやるじゃん!」
智世「よっ!この幸せ者っ!!」
亜紀「いいでしょ〜〜。」
ボウズ「いやいや!朔もできるようになったじゃねぇか!」
龍之介「いいね!愛してるね!お・ま・い・さ・ん?」
朔「・・・・・・・・・。」
                 ・
                 ・
                 ・
                 ・
                 ・
そのままドンチャン騒ぎが続いた。日が完全に沈みきる頃には、恵美と智世が酔い潰れてしまった。酒に強いボウズと龍之介も、潰してしまった2人の恋人をそれぞれの場所で介抱している。「あんな形でも一応2人きりだよな・・・・・・。」そう思った朔は、かつて、自分と亜紀が泊まった空間に入った。
中では亜紀が眠っている。一番最初に酔い潰れてしまったのだった。

朔「起きたら覚えてろよ。」

そう言うと・・・。

亜紀「ん〜・・・朔ちゃん・・・・・・。」
朔「何だよ?」
亜紀「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
朔「寝言か・・・・・・。」
亜紀「・・・・・・あ・・・る(あいしてる)・・・。」
朔「は?」
亜紀「う〜ん・・・・・・。」
朔「また寝言かよ・・・。」

朔は昼間で海の中で亜紀が言ったこと、やはり朔の耳には入ってはいなかった。

亜紀「・・・・・・・(寝言)じゃないよ。」
朔「おはよう。」
亜紀「おはよ・・・。」
朔「・・・・・・・。」
亜紀「ゴメンね。今何時?」
朔「8時前。」
亜紀「ちょっと寝たね・・・あっ、少し頭が痛いかも。」
朔「・・・・・・言わんこっちゃない。飲みすぎなんだよ。」

朔は亜紀を叱る時のような、少しキツイ目つきで見ている。

亜紀「イタタタタ・・・・・・。」
朔「亜紀が悪い!」
亜紀「今日の朔ちゃん怖い・・・・・・。嫌いになった?」
朔「ああ!」

だんだん、体の底からふつふつと湧き上がって来る怒りを抑えきれなくなって来た。

朔「せっかく神様が生きるチャンスをくれたのに、それをフイにするかもしれない行動を取る亜紀なんか嫌いだ!!」
亜紀「・・・・・・朔ちゃん、呑めば良かったのに。」

少しおどけるような様子で朔の反応を探る亜紀の言葉に、朔がとうとうキレた。
無意識に右手な力を込めて動かしていた・・・。

“パシッ!!!”

亜紀「あっ・・・・・・・朔・・・?」

呆然とした様子で、亜紀は叩かれて赤くなった自分の左頬をおさえている。
朔は興奮から冷めないうちに話し始めた。

朔「これでも医者だ。皆がどんなに呑んだって俺が呑み過ぎたらダメなんだ。」
亜紀「・・・・・・・・。」
朔「もし、誰かが急病になった時に俺まで酔いつぶれたら、助かる命も助からなくなるかもしれない。」
亜紀「あっ・・・。」
朔「気付いた?・・・亜紀、急性アルコール中毒になんかなったらどうするんだ!」
亜紀「・・・。」
朔「命の大切さを知ってるはずだろ!?」

亜紀は何も言い返せない。
朔は俯く亜紀を包み込んで語りかけた。

朔「いなくなろうとするなよ。この温もりも、長い髪も、香りも・・・俺には必要なんだよ。無いと困るんだよ。」
亜紀「ゴメンね。」
朔「分かればいいよ。イッキとか2度とするなよ。危ないんだから。」

亜紀は朔の肩のあたりに“コツン”と、おでこを当てた。

亜紀「ねぇ、花火しない?」
朔「反省してねぇだろ。」
亜紀「してるよ。早く仲直りしようよ。」
朔「それなら・・・皆も。」
亜紀「そうだね。」

そう言うと、2人は外に出るためにドアを開けたのだが・・・。

智世「ねぇ、スケ。」
龍之介「あ?」
智世「私を酔わせてどうするつもりだったの?」
龍之介「何もしねえよ。皆がいるところでそういうことをするわけにはいかねぇしな。」
智世「よしよし。」
龍之介「・・・・・・なんだよ?そんなに俺のことが嫌いか?」
智世「バッカねぇ、そんな訳無いじゃない。でもね・・・いつになったら私を花嫁にしてくれるのか、それともする気が無いのか・・・。」
龍之介「・・・・・・・するか?」
智世「口先だけならいらないわよ。」
龍之介「結婚かぁ・・・もう少し独身時代を謳歌したかったりして。」
智世「浮気だけはするなよ。」
龍之介「待ってるからとか言うつもりか?」
智世「そうよ。」
龍之介「・・・分かった。婚約すっか?」
智世「ちゃんと言いなさいよ。」
龍之介「ここだと聞かれるから今度な。」

その時、龍之介の予想通りに朔と亜紀が聞き耳を立てていた。

朔「プロポーズのチャンスが・・・。」
亜紀「もう!スケちゃんは余計なところが鋭いんだから!」
朔「智世・・・ゴメン。」

一方、この2人も聞き耳を立てていた。

ボウズ「さすがスケ。」
恵美「鋭―い。それにしても・・・。」
ボウズ「ん?」
恵美「私達がああいうことになるのはいつのことなのかしら?」
ボウズ「はいー?」
恵美「私ね、30までには結婚したいって考えてるのよ。」
ボウズ「その相手は俺ってワケか?」
恵美「私はそのつもりもなきにしもあらず。」
ボウズ「あ・・・う・・・。」
恵美「私も待つとしますか。」
ボウズ「そうしておいてもらえるとありがたいですな。」

ボウズは突然のことに言葉を発せないでいた。恵美は「少し、プレッシャーになるけども、ヨシくんなら大丈夫だよ。」少し、他人事のような恵美だった。

亜紀「後で2人きりでしますか。」
朔「そうですね。」
亜紀「なんだか、智世も恵美も幸せそう・・・。」

亜紀は2人の表情をチラリと見て思った。

亜紀「私へのプロポーズはいつになるのかしら・・・。」
朔「さあ・・・。」
亜紀「婚約してから8年よ。待つのも大変なんだぞ。」
朔「まずは、酔いを完全に醒ませてからだ。」
亜紀「はい・・・。」
朔「それに亜紀の夢はどうするの?」
亜紀「それなんだけど、今、悩んじゃってね。」
朔「何?」
亜紀「どうしようもなくなったら言うから。・・・さ、それよりも花火!」

朔が訊ねるのを途中で止めて、亜紀は奥の扉からタイムポストのあるところに向かった。首を傾げながらも、バケツの中に少量の花火を持った朔が後に続いた。

続く
...2005/08/31(Wed) 23:55 ID:oGmqolxg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。二年ぶりだったんですね、二人の思い出が詰まった夢島に来たのは!ポカリのCMと同じ白のビキニですか!やっぱり亜紀は、一番白が似合いますネ!相変わらず、朔に対する愛情表現は上手だし、朔をかわすのも昔と少しも変わりませんね。それにしても、朔は成長してない気がします。でも、今回の作品は、朔の亜紀に対する愛情がひしひしと伝わってきます。自分も同じ行動を取ったでしょう。そう言えば、朔は初めて亜紀に手を上げたんじゃないでしょうか?次回も楽しみに待ってます。
...2005/09/01(Thu) 23:44 ID:.TjN1fEI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
亜紀の白ビキニは、ポカリなどをイメージしております。亜紀が白を好んで着る?のかどうかは実際には分かりませんが、いずれ、その理由も書こうと思っています。
また、今回朔ははじめて亜紀に手を上げました。
でもそれは、おっしゃるとおり、亜紀への愛情と喪う恐怖からのものです。朔も口には出しませんが、それだけ抱えているものもあるでしょう。
次回もお読みいただければ幸いです。
...2005/09/02(Fri) 22:48 ID:dWeE0mrg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
亜紀「綺麗だよねぇ。」
朔「これぞ夏の風物詩。」
亜紀「子供の時からこれが一番好き。」
朔「そう?俺は、ロケット花火が好きだったな。」
亜紀「今では平気なんだけど・・・子供の時は少し怖かったりしたの。」
朔「嘘だ。亜紀の性格からしてそういうのが一番好きだよ絶対に・・・イテ。」
亜紀「朔ちゃん、最近余計な一言が多いよ。少しだけ傷ついたわ!」

朔の左腕をつねってから膨れ顔を作って文句を言う。
しかし、朔が余計な一言を言う理由がある。交際を始めた時から唯一変わらないその表情を見たいがために時々言うのであった。

朔「・・・そこは変わらないよな。」
亜紀「何が?」

亜紀は怪訝そうな顔をしながら聞いた。

朔「その膨れ顔。昔からその子供みたいな顔が嬉しくて・・・痛っ!!イテテ!」
亜紀「はいはい。」
朔「イテェ・・・・・・。」

今度は朔の左足を思い切り踏んづけてグリグリと踵に力を入れた。
かなりの実力行使を亜紀はしたのだった。

朔「・・・それは女性としてどうなんだよ?」
亜紀「最近朔ちゃんに言葉の攻撃が効かなくなってきちゃったから、実力行使せざるをえなくなってきちゃった。」

朔は「それはないよ・・・。」と、落ち込み気味。
亜紀は機嫌を直したのか微笑んでいる。その表情のままで残り少なくなった花火の袋の中に手を伸ばした。

亜紀「これで最後みたい。」
朔「地味になっちゃたなぁ。」
亜紀「そう?地味だけどすごく風情があると思うよ。」

朔は「まあね。」と言う。亜紀から線香花火を一本手渡された。
亜紀は「これには、すごく意味のあることが含まれていると思う。」と言いながら先端に火をつけた。それに続いて朔も点火する。

亜紀「何か・・・生きているみたいに思わない?」
朔「うん。言われてみれば・・・。」

2人の右手から下がっている2本の線香花火は、点火後に“パチパチパチッ”と火花を出しつつ、独特の音を発し始めた。

亜紀「火花なのかな・・・、私には、これが命の証みたいに感じるの。ほとんど毎年これをする度に・・・。」
朔「どういう・・・こと?」
亜紀「点火して、最初はくすぶる感じで“ジジ・・ジジジッ”って音がするでしょ?それから“パチパチ”ってするじゃない。」
朔「うん。」
亜紀「最初の音は生まれた時の合図で、“パチパチ”っていうのは、人間として考えれば成長して働いてる時とでもいうのかな・・・そして音が小さくなっていくのは、おじいさんとおばあさんの時なの。そして、最後に“ポトッ”って落ちる時は・・・。」
朔「その一生を終える瞬間を表す・・・・・・か。」
亜紀「うん。私はそう思うの。」
朔「分かる気がするよ。」

気が付くと2人の線香花火は火花を散らしていた部分が地面に落ちていた。
「これで・・・この線香花火たちの一生が終わったってことになるのかな。」朔がそう言うと、亜紀は「うん。」と言う代わりに軽く頷いた。

亜紀「あ、もう一本づつ。」
朔「まだあった?これで本当に最後?」
亜紀「そうみたい。」

2人はロウソクの揺らめく火の上に最後の花火をかざした。やがて聞き慣れた音が鳴り始める。
すると・・・。

亜紀「朔ちゃん、私の言う通りに花火を動かして。」
朔「え?」
亜紀「お願い。」
朔「ああ。(?)」

“ジジジ・・・”と音が鳴り始めた花火を持つ2人。亜紀がゆっくりと語り始めた。

亜紀「音が鳴り始めた時、私と朔ちゃんが生まれました。」
朔「・・・・・・・。」
亜紀「“パチパチ”と音が変わります。・・・この時、私と朔ちゃんが高校に入学しました。」

そう言い終ると、亜紀は「少し花火を近づけて。」と朔に指示。言われるままに朔は自分と亜紀の花火を近づけた。すると、さらに亜紀が語る。

亜紀「1987年の7月2日です。」
朔「だから、近づけたんだ。」
亜紀「うん(笑)」

亜紀は「もうちょっとだけ近づけて。」と2度目の指示。

亜紀「この時が最初に夢島に来た時です。スケちゃんと組んで、朔ちゃんが私を襲いそうになった時。」
朔「いや、だから・・・。」
亜紀「でも、この時私たちは結ばれませんでした。」

その後、亜紀は「少し離して。」と指示。

亜紀「これは、私が倒れて白血病だと分かった時です。そして、これからどんどん2人の距離は近いようで、遠のいて行きます。」
朔「俺の誕生日・・・。」

朔は亜紀の語りに合うように自分の花火を遠ざける。

亜紀「本当ならこの時、片方の花火は途中で落ちてしまうはずだったのかも知れません。」
朔「“でも・・・この花火の命の灯は消えることは無かったのです・・・・・・”でしょ?」
亜紀「そう・・・・・・そして、一度消えかかった火花は、再び大きく散り始めたのでした・・・。」
朔「・・・それから先は?」
そう言いながら、朔は自分の花火を近づけ始めた。亜紀もまた、花火同士がくっついてしまう限界まで近づけた。

亜紀「これは・・・今の私たちの状態です。」
朔「・・・・・・。」
亜紀「そして、ここから先は私の願いです。」
朔「聞かせて。」
亜紀「その後、この花火たちは・・・。」

そこから先、亜紀はなにも言わずに2つの花火をくっつけた。
それまで2本の花火は少しづつ勢いを弱めかけていたが、2つが一緒になることで再び勢いを盛り返した。少なくとも朔と亜紀にはそう思えた。

亜紀「この2本の花火はめでたく結婚して・・・・・・。」
朔「・・・・・・。」

再び盛り返した火花に例えて亜紀は続けた。その間にもやはり、火花は弱々しく衰えてくる。

亜紀「40歳・・・50歳・・・60歳・・・70歳・・・。」
朔「結婚してからずっと。」
亜紀「そう、年月を重ねるごとに・・・幸せに生きます。」

花火はやがて火花を発しなくなった。

亜紀「2本の花火、つまり私たちは・・・。」

亜紀は言い終わると、落ちるのであろう先端を見つめたのだが・・・。

朔「ははは・・・。」
亜紀「下に落ちてくれないと、物語が完結しないじゃない・・・。」

2本は固まったままでくっついていた。すでに花火からは火花は出ていない。
亜紀は何か思いついたように再び語り始めた。

亜紀「訂正・・・・・・この花火たちは、生まれ変わっても一緒になってお互いを大切にして愛し合う運命なのです。」
朔「それが・・・亜紀の願い?」
亜紀「うん。・・・どう?私の物語は?」
朔「編集者じゃなくて作家になれるよ。」
亜紀「そう?」
朔「いいと思うよ。この物語。」

朔は、「いいと思う。」に自分たちの未来への希望も込めてそう言った。亜紀はその真意を読み取り、朔の肩にもたれながら言う。

亜紀「私の願いは言ったとおりよ。」
朔「ありがとう。」
亜紀「本当にさっきの花火のようになったらいいのにな・・・。」
朔「なるよ。きっと・・・俺もそうなって欲しいし、そうなりたい。」
亜紀「ありがと・・・・・・。」
朔「あっと・・・亜紀、今のは正式じゃないから。でも、ちゃんと言うから・・・。」
亜紀「・・・朔ちゃん、私・・・待ってるから、絶対に迎えに来てね。」
朔「約束する。」

海水をいれたバケツの傍らにくっついた線香花火が置いてあった。
そして体温が触れ合う。亜紀の肩を抱く朔と肩を抱かれる亜紀の2人は、将来について夜遅くまで語り合うのだった。
そんな2人を影からのぞく人影・・・。

龍之介「見せ付けやがって。」
智世「あんな風に愛されたい・・・。」
龍之介「そんじゃ、語り合いましょうか?」
智世「船の上がいいな・・・。」
龍之介「よし・・・行くぞ。」

ボウズたちも、夜遅くまで将来について語り合う。

ボウズ「仕事は?」
恵美「ヨシくんに合わせるつもり。元々、結婚したら辞めるつもりでいるし・・・もし、辞めろっていうなら辞めるよ。」
ボウズ「それでいいのか?」
恵美「結構楽しい仕事なの。だから続けたいのが半分、その人のために辞めてもいいという気持ちが半分・・・・・・。」
ボウズ「もし、俺と恵美がそういうことになったら・・・恵美の好きにしたらいい。」
恵美「ありがと・・・じゃあ、その時が来たらまた話そう?」
ボウズ「分かった。」

若者たちの将来にはなにがあるか分からない。でも、闇に浮かぶ満月がその道を示しているようにも見えた。

朔は思い出していた。骨を盗み出した後に祖父・謙太郎が言っていた言葉を・・・。
                 ・
                  ・
                  ・
“ずっと一緒に老いていける人生もまた素晴らしいものだ・・・と、思うよ。”
                  ・
                  ・
                  ・
朔は、自分の腕の中で眠ってしまった亜紀の寝顔を見ながらその言葉を反芻し、真剣にこれからを考えていた・・・。
朔だけではない。龍之介、ボウズもまた、同じようにこれからのことを真剣に考えている・・・。

続く
...2005/09/02(Fri) 23:31 ID:dWeE0mrg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
試験でしばらくこちらには顔を出しておりませんでしたが、次々とアップされてますね。必死で追いつきますので、よろしくお願いいたします。

智世が犬を飼いはじめたようですが、お父さんが犬好きだった影響でしょうか。ドラマの5話で、夢島に誘いに来た朔に向かって「(智世を)持ってって、ついでにもらっちゃって。」と言ったときに犬をだっこしてたと記憶しています。
...2005/09/03(Sat) 00:30 ID:Brzd7xZw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊様
うーむ、ヤラレタ、という感じですね(脱帽)
線香花火のお話を絵本にしたら「絵」としてもきっと美しい作品になるでしょう。
オリジナリティがあって素晴らしいと思います。
...2005/09/03(Sat) 04:07 ID:jjCjSkPQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんにちは、ター坊様。
花火ですか!八年前は、朔が用意していたのに、バタバタし忘れて来ましたネ!今回は、持参したんですね。でも二人のやり取りが凄くリアルに表現出来てます。最近、朔も亜紀の行動パターンが読めるようになってきたけど、亜紀はいつもその先を行きますよね(笑)線香花火の設定は、お互いの絆がいっそうふかっまたんじゃないでしょうか!八年前の出来事が思い出されます。あの時は、亜紀の背中に一匹の蛍が止まっていましたが、今回は、何もなくほっとしています。朔は亜紀の寝顔を見れることが、一番の幸せなんでしょう。この幸せが永遠に続いて欲しい限りです。次回作品の展開がとてもとても楽しみです。
...2005/09/04(Sun) 12:50 ID:hHF1CaPo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
いつもお読みいただきありがとうございます。
試験も終わり、お時間にも余裕ができておられるかもしれません。気が向いた時にでもお読みいただければ嬉しく思います。
上田家には現在2匹の犬がいることになりますが、コロは2代目として活躍してくれることでしょう。もちろん初代も健在ですよ。
これからもよろしくお願い致します。

朔五郎様
ご感想を頂きましてありがとうございます。
朔五郎に「脱帽」とおっしゃっていただきまして、大変うれしく思い、とても自信になります。
私自身不思議だなと思うのは、夢島のシーンを書く時には、自然とそういうストーリーを書ける予感がすることです、そんな本能みたいなものに従うと、自分でも納得できるシーンを書ける気がしております。
これからもお読みいただければ幸いです。

電車男様
8年前は、亜紀に「海の家でも開くつもり?」と言わせるほどの大量の荷物を持参しながら花火を忘れてきた朔ですが、今回は、ちゃっかり2人きりのいいムードを作るための小道具として利用してました。
そんないいムードの後の亜紀とのやりとりは、朔を大いに元気付けたことでしょう。
幸せは永遠には続かないもののように思えますが、私もこの2人の間には続いて欲しいと思わずにはいられません。
次回もお読みいただければ幸いです。
...2005/09/05(Mon) 23:35 ID:3NRchgM6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
翌朝の夢島・・・・・・。
小鳥のさえずりが亜紀の耳に届いている。

亜紀「やだ・・・寝ちゃった。」

気が付くと、自分が朔の腕の中いることに気付き、あたりを見回すとバケツと自分たちと重ね合わせた2本のくっついた線香花火が目に入る。
すぐ横には朔の寝顔があった。

亜紀「好きよ・・・朔ちゃん。大好き・・・。」

目覚めた瞬間に朔の寝顔があって幸せすぎる今に感謝することを通り越し、何がなんだか分からないような感覚に陥った亜紀は、混乱にも近いような状態・・・でも、朔への気持ちが一段と大きく膨らんだことだけは、間違いなく認識していた。

亜紀「朔ちゃん、ありがとう・・・。」

まだ夢の中にいる朔に呟くように言った。再び朔の体に全体重を預け、頬を懐に寄せると、「亜紀〜・・・。」と、ニヤける様な口元をしながら、“ぎゅう・・・”と亜紀を抱きしめた。もちろん夢の中にいる。

亜紀「もう・・・バカ・・・。」
朔「・・・・・・。」

それから程なくして朔が目を覚ました。

亜紀「朔ちゃん。」
朔「いつのまにか朝になったのか・・・風邪ひいてない?」
亜紀「私は大丈夫。ここにいたから温かかった。」
朔「亜紀、気が付いたら寝てるんだもん。」
亜紀「朔の腕は不思議だね。何からでも守ってくれそう。」
朔「シェルターじゃないんだから・・・。」
亜紀「時にはお布団の代わりになって時には暖房の代わりだよ・・・。」
朔「・・・・・・・・・・・。」

そのまま会話が途切れてしまったが、朔が余韻に浸る亜紀に突き刺さるような言葉を発してしまう。

朔「もう離れろよ。」
亜紀「・・・ひどい。」
朔「だって、皆が探しに来るかもよ。見られたらどうすんの?」
亜紀「見られてもいいもん。」

その時、「サクー。アキー。」と、絶叫マシーンの声が扉の奥から聞こえてきた。亜紀は、さっきの言葉とは矛盾していることもお構いなしに、朔から慌てて離れた。

智世「あ、いたいた!」
亜紀「どうしたの?」
智世「朝ごはんできてるよ。」
亜紀「あ、ごめん。ありがとう。」
智世「そのかわり、片付けはあんたたちでやってもらうから。」
朔「わかった。」

皆の所に戻ってテーブル代わりの台を囲むと、それぞれのカップルが異様に仲睦まじい。

朔「皆、どうしたの?」
智世「何が?」
ボウズ「そりゃあなぁ、お前らに見せ付けられたらなぁ。」
恵美「そうそう。」
龍之介「俺たちがそういうことをしちゃいけない決まりはないだろ?」

2人は皆に見られていたことにこの時初めて気付いて赤面するのだった。

龍之介「でも、おかげで俺らも・・・な?ボウズ」
ボウズ「そういうことだ。俺たちも色々といい思いができたからよ。」
智世「感謝、感謝!」
恵美「ありがとね。朔、亜紀。」
朔・亜紀「・・・・・・。」

朝食の後、このまま帰るのももったいないと思った6人は再び海へ繰り出した。
しかし、朔と亜紀は片付けが終わるまで海には行けない。

龍之介「おりゃあ!」
ボウズ「冷てぇっ!スケ、そういうことは智世とやれよ!」
智世「そうだ!私にやれよな〜!」
恵美「スケちゃん、智世頑張ったんだよ。この赤いビキニを着るためにね!」
智世「恵美!」

突然の恵美のフォローに智世は大慌て。
その言葉を聞いた龍之介が「行くぞ。」と智世を沖に連れて行った。

龍之介「悪かったな。」
智世「は?」
龍之介「傷つけるようなこと言って。」
智世「ま、おかげで、日頃の運動不足を解消できたわよ!」
龍之介「でも・・・まあ綺麗になったよ。」
智世「そう。」

智世は、めったに自分から謝らない龍之介がちゃんと言ってくれたことに、驚き嬉しくもあった。
その様子を見ていたのは、片づけを終え、砂浜で着替えた朔と中で着替えてきた亜紀。

亜紀「協力した甲斐があった。(笑)」
朔「毎週土日は早朝ランニングに付き合ってたもんな。」
亜紀「そうそう。」
朔「じゃあ、俺たちも行きますか。」
亜紀「ちょっと待って、日焼け止め塗るから。」
朔「・・・手伝おうか?」
亜紀「変なとこ触っちゃ嫌よ。(笑)」

亜紀は朔を信頼して、背中にオイルを塗ってもらうことにしたが・・・。
朔の手つきがヤラシイのか、亜紀は全部塗ってもらってすぐに1人で海へと逃げてしまった。
朔は「ハァ。」と軽くため息をついて、亜紀の後は追わずにボートを浮かべてその中で寝ることにした。

亜紀「何で追いかけてくれないのよ?」

呟くように拗ねた後、朔に気付かれないようにボートにそーっと近づいた。
太陽光線直撃のボートの中、朔の「あちぃ・・・・・・。」と言う声が聞こえる。亜紀は一気にボートの端っこにつかまり、全体重を掛けてバランスを崩す。一気にボートが傾き始めた。

朔「何だ!?」
亜紀「えい!!」
朔「亜紀!」
亜紀「もうちょっと!」
朔「よせ!」
亜紀「きゃあっ!!」

朔がそう叫んだときには、ボートはひっくり返っていた。
亜紀の悲鳴だけが海に残る。
先に上がってきたのは亜紀。

亜紀「イタタタ・・・・。」
朔「何やってんの?」
亜紀「足が攣っちゃた。イタタ・・・・・・。」
朔「自業自得。」
亜紀「ひどい・・・助けて。」
朔「どうしようかな・・・。」
亜紀「守ってくれるって約束したじゃない。・・・本当に泣いちゃう。」
朔「たまには亜紀に天罰が必要かも・・・。」
亜紀「私のこと嫌いになったんだ。もう新しい女の人がいるんだ!」
朔「そうかもね。」
亜紀「おばさんに言いつけてやる!愛されてないって泣き付いてやる!」
朔「どうぞ。」
亜紀「本当に泣いてやる!」
朔「いつも泣かされてきたから、今度は俺が泣かさないとね。」
亜紀「・・・ごめんなさい朔ちゃん。助けて。もうひどいことしないから・・・お願い。」

足がつくかつかないかの水深で亜紀は必死になっていた。
今にも泣き出してしまいそうな亜紀の表情に、朔は「そろそろいいかな。」と思うと同時に、愛しさすら感じ、しっかりと亜紀の体を支えた。

亜紀「ばかぁ・・・・・・。」
朔「最近、悪戯が過ぎるんだよね。」
亜紀「バカバカバカバカ・・・・・・。」

朔の得意顔に、亜紀は半泣きで怒り続ける。朔の顔をつねろうとしても難しいので、摑まった腕に思いっきり爪を立てた。

朔「イテェ!!」
亜紀「朔ちゃんが素直に助けてくれないからじゃない!」
朔「それは・・・亜紀が悪いだろ・・・・・・。」
亜紀「怖かったんだから!バカ・・・・グス・・・クスンクスン。」
朔「ゴメン。」

言葉が後に行くにつれて、朔のトーンがダウンしていく。
朔に頭を撫でてもらって落ち着いた亜紀は機嫌を直して朔に言う。

亜紀「おぶってて欲しいな・・・。」
朔「そのまま沖に行く?」
亜紀「溺れても助けてくれるなら。」

その条件を呑んで朔は恵美たちの近くに。

恵美「ラブラブだね。」
朔「おかげさまで。」
ボウズ「亜紀、自分で泳げよ。」
亜紀「足が攣っちゃった。」

短い会話の後、朔はさらに沖に向かった。亜紀は痛みが引いた後で朔に立ち泳ぎをさせて、朔の左側に寄り添うようにして肩と腕につかまった。

亜紀「綺麗・・・。」
朔「ん?」
亜紀「夏の青空。」

そういうと、亜紀はゆっくりと朔から離れて仰向けに浮いた。太陽の光の影響だろうか、亜紀の白い肌と白いビキニが同化して、何も着ていないように朔には思え、亜紀の隣に同じように浮いて右手を握った。
空に白い機体のジャンボジェットが南の空に向けて飛んで行く・・・。

亜紀「オーストラリアの空・・・。」
朔「ん?」
亜紀「あの飛行機、オーストラリアの上空を飛ぶのかな・・・。」
朔「もしかしたら・・・。」
亜紀「ウルルの空、見に行きたい。」
朔「うん・・・。」

その後、皆は一度島に戻った。再び飛行機が上を通過していく。そのたびに顔を見合わせる朔と亜紀がいた。

続く
...2005/09/05(Mon) 23:42 ID:3NRchgM6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
いやーホントにかゆいかゆい!
朔と亜紀のラブラブぶりに当てられ気味です(^^)

※海面で浮いている白ビキニを着た亜紀の姿を想像していたら、ポカリのCMの歌が聞こえてくるようでした。
...2005/09/05(Mon) 23:57 ID:6SQcCEmQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。            愛する人の腕の中で朝を迎えるなんて、こんな幸せな事はないですね!相変わらず二人のやり取りには呆れます(笑)ボウズの「色ボケ魔人ども」って言葉が聞こえてきそうです。そう言えば、二人はまだ、ウルルの青い空を見に行ってなかったですね?近いうちに、行けるのでしょうか?ター坊様。次回も楽しみにしています!
...2005/09/06(Tue) 20:04 ID:AUtk4fNw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。

亜紀と朔が海に体を浮かべるシーンは、おっしゃるとおりポカリから持ってきました。
ジャンボジェットにして飛行機雲を普通のものに差し替えたとイメージしていただければと思います。
さて、夢島はまだまだ続きます。
朔のカッコいいところも見られるかもしれません。
次回もお読みいただければ幸いです。

電車男様
朔と亜紀のやりとりは、書いている私も躊躇することがあります(苦笑)でも、「5年も辛抱したんだからいいじゃないか!」と納得させながら書き続けております。
これからも夢島のシーンは続きます。朔と亜紀には浮き沈みの激しい1日になります。
これからもお読みいただければ幸いです。
...2005/09/08(Thu) 22:31 ID:PrmTjimM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔が七輪で龍之介がいつのまにか獲ってきた魚を焼いている。
あと少しでお昼時、朔の焼き魚がメインになりそうだ。少し離れたところでは、龍之介とボウズが鉄板を使って焼きそばを作り、智世と恵美がもう一品。亜紀が食器の準備をしていた。
やがて、朔だけが調理をつづけているようになった。焼きそばの粉末ソースが焦げた香ばしい香りが漂っている。

亜紀「朔ちゃん。」
朔「できた?」
亜紀「うん。あとどのくらい掛かりそう?」
朔「すぐできるよ。」
亜紀「じゃあ、お皿を持ってくるね。」
朔「あ、皿はいいよ。」
亜紀「え?」
朔「串を使ってるから。」

朔が魚の方を見る。亜紀がそれにつられてみると、魚には一本ずつ竹串が使われていた。
塩焼きの魚からはとてもいい匂いがしている。

亜紀「美味しそう・・・・・・。」
朔「亜紀は好きでしょ。」
亜紀「朔ちゃんの特製が一番好き。」
朔「また今度作るよ。」
亜紀「楽しみにしてるね!(笑)」

そんな楽しげなやりとりを、羨ましそうに見ているのはボウズと恵美の2人。
なかなかすぐには会うことはできないこの2人は、一緒に料理を作るなどの共同作業をしたことはほとんどなく、いつもそばにいて、思いついたら2人で行動することのできる朔と亜紀、龍之介と智世を羨ましいと思わずにはいられない。

恵美「今日の夕方帰るでしょ?」
ボウズ「そうだと思うぜ。」
恵美「私、休暇と土日で三連休なの。月曜日も休みだから今日、泊まっていい?」
ボウズ「マジ!?」
恵美「ダメ・・・・・・なの?」
ボウズ「いやいやいやいや!!大歓迎!」
恵美「じゃあ、お邪魔します!」

その時に朔と亜紀が焼き魚を持って来た。
ボウズと恵美の仲睦まじい様子に、朔が「どうしたの?」のと尋ねる。亜紀も「ほんとにいい雰囲気ね。」と何やら探るような感じで言った。

ボウズ「いやー・・・それがさぁ。」
恵美「ね。」

この通り何も言わずに秘密にする2人であった。

夏の青空のもとで食べるご飯はとても美味しく、それぞれ笑顔が絶えない。
くだらなくも充実した時間はあっという間に過ぎていく。

龍之介「あー、食った食った!」
智世「ごちそうさま!」
亜紀「朔ちゃん、美味しかったよ。」
恵美「ほんと!」
ボウズ「じっちゃんの直伝だもんな。」
朔「いえいえ。焼きそばも美味かったよ。」
龍之介「おいおい、俺が釣ってきたことを忘れんなよ。」
智世「はいはい。」
亜紀「ところで、これからどうする?」
龍之介「夕方に帰るにしても時間があるな・・・・・・よし、それぞれに分かれて散策しようぜ。」
朔「散策?」
龍之介「もともとリゾート開発があったこの島だ。この廃墟以外にも何かあってもおかしくない。どうやら、舗装する前段階の道はあるみたいだからそこを行くのもいいかもしれない。」
亜紀「面白そう。」
ボウズ「片付けたら行こうぜ。」
                   ・
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龍之介「行くぞ智世。」
智世「準備できてるよ。いつでもどうぞ。」

智世の声を聞いた龍之介はゆっくりと船を出した。
島の裏側を目指す2人は、さっき皆で泳いだ砂浜を越えたところに接岸しようと試みるが、浅瀬で船が座礁しかねないために上陸を断念し、船から飛び降りて海中の様子を見てみることにした。

智世「でも、ボンベとか持ってきてないでしょ?」
龍之介「浅いから素潜りで大丈夫。・・・もしやばかったら助けるから心配すんな。」

そういい残して海へ飛び込んだ龍之介の後を慌てて追う智世。

龍之介「(ずいぶんと水が綺麗だな。視界も良好だ。)」
智世「(スケ。)」

智世が龍之介の肩を捕まえている。2人は一度海面に顔を出して会話をすることにした。

龍之介「どうした?」
智世「こんなでっかいエビがいた!」
龍之介「伊勢エビか!?・・・って、伊勢エビがこんな浅いところにいるわけがねぇか・・・。」

そう言いつつも智世の手を引き再び海中へ。智世が指さす先には確かに大きなエビがいた。
漁師としての本能、あっという間にエビを捕まえた。

龍之介「確かにでかいなぁ。」
智世「食べられるでしょ?」
龍之介「多分、伊勢エビだろうけど・・・こんな浅瀬にいるのはおかしいな・・・。」
智世「おかしいって?」
龍之介「少なくとも10メートルくらいの深さにいるもんだ。こんな5メートルくらいのところには滅多にいないと思う・・・。」
智世「ふ〜ん・・・・・・でも、美味しそう・・・。」
龍之介「お前なぁ・・・海に還してやろう。」
智世「ダメ。」
龍之介「乱獲したくはねえんだよ。」
智世「お願い!一匹だけ!」
龍之介「お前、食い意地張ってばっかいるとまた太るぞ。」
智世「う・・・痛いとこ衝かないでよ。」
龍之介「せっかくさぁ・・・いい体になったのに・・・。伊勢えびも美味いと思うけど・・・・・・お前・・・。」
智世「え?ちょっとまさか!」

龍之介の発作的な企みに瞬間的に気付いた智世は説得するように話し始めた。

智世「最初、スケとそういうことになった時は、正直嬉しかった。」
龍之介「じゃあ・・・。」
智世「でも、船の上でロマンチックになムードに浸ってたらそのまま・・・。」
龍之介「いや、それは・・・。」
智世「私は、あんたと一緒にいられればそれでいいわ。抱きしめられた回数も数えてないほどなのにいきなりそれは酷いと思ってないの?」
龍之介「すまん・・・。」
智世「ここから先は、将来を誓い合ってからでもいいじゃないの?」
龍之介「傷つけて悪かった。」

龍之介はこれまでのことを詫びた。とっくに恋人である智世を未だに幼なじみとして接していた部分がかなりあった自分の行動を反省し、一人の女性として改めて向き合うことを決めた。

智世「そういうわけで伊勢エビお願い!」
龍之介「一匹だけだぞ。」
智世「やった!!」

2人は一度船に戻り、いけすに伊勢エビを入れた後再び海に潜り、海中散策を楽しんだ。
一方・・・。

恵美「ちょっと待って。」
ボウズ「大丈夫か?」
恵美「ちょっと足場が悪いの。」
ボウズ「つかまれよ。」

ボウズが差し出した右手を恵美がつかむとそのまま思いっきり引き上げた。
勢いあまって転びそうになった恵美をボウズがしっかりと受け止めたが、それでも2人とも後ろに倒れてしまった。

恵美「ゴメン。大丈夫?」
ボウズ「イテテ・・・まあ、何とか。」
恵美「あ!」

桟橋近くの石段を上がっていった2人は、途中から山道に入りさらに上を目指していた。ところどころ急な道の両隣には、わずかに工事をしていた痕跡があったのでそれを辿っていた2人。偶然にも恵美が見つけたものがあった。

恵美「これ、コテージ?」
ボウズ「すげぇ!!」

思わぬものを見つけた2人は、壊れている鍵を外してさっそく中に入ってみた。

続く
...2005/09/08(Thu) 23:29 ID:PrmTjimM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
三組それぞれの愛情表現があって楽しいですね。
それにしても、ボウズと恵美はキケンな感じがしますが(^^;;
...2005/09/09(Fri) 02:36 ID:iexND0Qc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様

今回もお読みいただきましてありがとうございます。
ボウズと恵美がキケンだとおっしゃってますが、本当にキケンな事態になるのは、まだこれからです。(笑)
基本的に私の物語はほのぼの路線ですので、そんなに悪い状態にはしてこなかったは思いますが、そろそろ誰かに災難に遭遇してもらおうかと思っております。
そのあたりをお読みいただけたら幸いです。
...2005/09/09(Fri) 22:51 ID:6vgKFKak    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
ボウズ「おおー・・・・・・。」
恵美「広いけど・・・ちょっと。」

コテージの中は一通り出来上がっていた。平屋建ての内装はログハウスの造りみたく、木の温もりが伝わるようだ。
ところどころにはテーブルや椅子が配置されており、一瞬、今でも人が生活しているのではないかという感覚に陥るのだが、キッチンと風呂場の蛇口からは水が出ないし、コンロのガスも止まっている。なによりコテージの中はかなり埃っぽいので、その感覚も即座に否定した2人だった。

恵美「ケホケホッ。」
ボウズ「埃が・・・・・・大丈夫か?」
恵美「なんとかね・・・あ、クモの巣まで・・・。」
ボウズ「でも、掃除したら使えるな・・・。」
恵美「そうね。ほうきとかその辺にないのかな?」

外に出た2人が辺りを歩いてみるとコテージの裏側に物置を見つけた。そして、その裏側には、大木の枝の下に古井戸を見つけた。
恵美が物置の扉を開けようとするが、錆付いているのだろうか恵美の力では開けることができない。ボウズも加わり思いっきり引く。
すると・・・。

“ガーン!!!”

恵美「キャッ!!」
ボウズ「恵美!!」

勢いあまって転びそうになった恵美をボウズが素早く掴まえた。

恵美「あ・・・ありがと・・・。」
ボウズ「いや・・・大丈夫か?」
恵美「うん・・・・・・こんなこと滅多にないよね。」
ボウズ「余計なことを言うなよ。」

ボウズの受け止めた腕に抱かれた恵美は、恥ずかしさの中にも喜びをかくしきれないでいる。ボウズは思いがけない自分への言葉に、顔を真っ赤にしているだけだった。
気を取り直し、強引に開けた扉の中を覗き込むと、数本のほうきとちりとりが無造作に置かれていた。

恵美「じゃヨシくん。」
ボウズ「あ?」
恵美「私が助手ね。」
ボウズ「ちぇ・・・。」
恵美「フフフ・・・。」
ボウズ「その前に古井戸が使えるかどうか確かめようぜ。水道が使えない以上、もし水が枯れていなかったら、儲けもんってことでさ。」

手に持ったほうきとちりとりを物置に立て掛けて2人は大木を目指した。
近くまで来て観察してみると、錆付いてはいるものの、幸いにも手動のポンプは壊れてはいないようだ。
「ふん!」と、ボウズが気合を入れつつ両腕に力を込めて押した。何度か繰り返したその時・・・。

“バシャ!!”

恵美「わ、すごーい!!」
ボウズ「おおー出た出た!!触ってみ?」
恵美「冷たいよ。気持ちいい〜〜。」
ボウズ「やったぜ。次に来るときには風呂付きのキャンプだ。」
恵美「泳いだ後には持ってこいだね。助かるわ。」

思わぬ収穫を得て大喜びの2人。

恵美「バケツとかないかな?雑巾もあれば床がふけるじゃない?」
ボウズ「ちょっと待ってろ。」
恵美「どうしたの?」

ボウズは、自分たちのいる所の向こう側に別のなにかを見つけて行って見ることにした。
ほどなくして、基礎の半分くらいが出来上がったのであろう物を見つけた。森の中佇む建物が建つはずだったのだろう。少し離れたところには別の物置を見つけた。

ボウズ「これは・・・建てている途中だったのか・・・?」
恵美「ヨシくん?」
ボウズ「見てみろよ。これもコテージみたくするつもりだったのかもしれないぞ。」

そう言ってボウズは恵美に基礎まで出来上がったものを見せた。

恵美「どうせなら3つ建てといてくれればいいのにねぇ。」
ボウズ「言えてるよ。そしたらカップルに分かれて夜は遠慮しねぇんだけどな。」
恵美「それ・・・もしかして。」
ボウズ「そういう意味はないっての。カップル同士でしか話せないこともあるだろうし。」
恵美「ちょっと安心した。私、もう少しだけプラトニックでいたいの。」

恵美は笑って言っているのだが、ボウズは大いに不満そうだ。
そんなボウズをよそに恵美は新たに見つけた物置の戸を開けて、バケツとモップを見つけてきた。

恵美「はい!お掃除お掃除!」
ボウズ「はーい・・・・・・。」

恵美が主導権を握り、再びコテージの中に向かった。
まず埃を外に全て掃き出すことからはじめていく。何年も溜まりに溜まった埃は、ひとはきするだけで膝くらいの高さまで舞い上がることも珍しくない。
途中でむせりながらもボウズが恵美に大変な思いをさせないために埃を外に出すと、恵美が床をモップで一気に拭いていく。
この作業を何度か繰り返し、フローリングの床はあっという間に綺麗にされていった。
中に家具らしい家具はほとんどと言って良いほど無く、他に掃除する所といえば、クモの巣を除去することくらいだった。

ボウズ「ふぅ。」
恵美「終わったね。これで、今度来るときには少しの掃除ですぐに立派な宿泊施設になるわね。」
ボウズ「あの廃墟からはおさらばだ。」
恵美「じゃあ、皆にこのことを教えようよ。井戸から水を汲んでくれば、少しはサッパリできるかもしれないよ?」
ボウズ「帰る前に皆でひとっ風呂しようってワケか。」
恵美「そっ!」

恵美とボウズは物置に掃除道具を片付けた後、少しだけ森の奥を散策した後で荷物の置いてある廃墟へと戻ろうと山道を下山して行った。
そして、ボウズたちがコテージを見つけた頃、朔と亜紀は・・・。

朔「亜紀〜。早くしてよ。」
亜紀「ゴメンね。ちょっと待って。」

未だに島の散策に出発していなかったこの2人。実は亜紀が着替えに時間が掛かっていた。
タイムポストのあるところから見える海の洞窟、この中に行ってみようと決めたのだが、亜紀が水着を脱いでしまっていたため二度手間になってしまっている。

朔が「亜紀〜〜〜〜。」と、ウンザリしているのが分かるくらいな様子で呼ぶと・・・

亜紀「私の水着姿見たくないの?今は朔ちゃんしかいないからとびっきりセクシーなのに・・・。」
朔「まあ、時間はまだあるからのんびりしようか?」
亜紀「そうそう。慌てずにゆっくりとね。」

実に現金な朔。亜紀は「朔ちゃん可愛い!」と、高校時代の朔を思い出すようにして、中からガラス越しに見えるソワソワしている朔に柔らかな視線を送った後、中から出てきた。

朔「遅い。」
亜紀「ゴメン。どうかな?」
朔「あまり言わないで。」
亜紀「え?」
朔「意識すると良からぬことを考えてしまいそうでさ。」
亜紀「見た方がいいんじゃない?ねえ?ねえねえ?」

表情こそ見ていないものの、朔は亜紀が憎たらしいほどに可愛くどこか美しく笑っていることは容易に想像がついた。

亜紀「あ〜あ。ツレナイなぁ朔ちゃん。」
朔「簡単に想像がつくからだよ。」

タイムポストの前に来た2人。おもむろに朔がTシャツを脱ぎ、海へと飛び込んだ。
思っていたより水深は浅く、思いっきり飛び込むのは危険だと判断した朔は、亜紀に足先から静かに入るように注意した。

朔「気をつけろよ。本当に。」
亜紀「大丈夫だよ、朔ちゃん。」

亜紀が満面の笑顔で答えたとき朔が固まった。
わざと、水着のズレを直すような仕草で朔にアピール。

亜紀8年前、清楚な少女がこの島でワンピースをハラリと落としたように、Tシャツを脱いでその場に落とした。25歳・・・清楚なのは変わらない。その匂いも温かさも。
未だにプラトニックな関係。簡単に一線を越えてしまうことは簡単だろうが、今のままでも構わない。ゆっくり少しずつ歩いていければ・・・・・・。
亜紀といる時は高校生の時と同じような気持ちでいたつもりだった。しかし、時間というものは、人が変わりたくなくても変えていくもので、歩くつもりが走っていた。
少なくとも朔だけがそれを感じた。
そして、完全に魂を抜かれてしまった朔・・・・・・。
しかし・・・・・・。

亜紀「行くよ!!」
朔「・・・え・・・何?」

さっきの朔の忠告はどこへ・・・・・・。
亜紀は思いっきり朔を目掛けて飛び込んできた。思いっきり亜紀の手によって朔は海中に沈められてしまった。
その後で自分はさっさと海面に顔を出したのだが、すぐそばの朔がなかなかあがって来ない。

亜紀「え?朔ちゃん?」

朔は海中で沈んだままだった。あまりに様子がおかしいことはすぐに亜紀には理解することができた。

亜紀「朔ちゃん!!」

亜紀は大慌てで潜り、朔の体を水の浮力も使って何とか顔だけを海面に出すが・・・

亜紀「朔ちゃん!朔ちゃん!・・・大丈夫!?」

“ピシャピシャ”と顔を叩くが一向に反応しない・・・・・・。

亜紀「目を開けてっ!!!」
朔「・・・・・・・・・・・・・・。」
亜紀「ごめんなさい!!悪ふざけなんでしょ!?もうしないからお願い!!」
朔「・・・・・・・・・・・・・・。」

亜紀はぐったりとしている朔を抱きかかえるようにして鼻に顔を近づけるが・・・。
朔が呼吸をしていない・・・・・・・・・・。

亜紀「スケちゃん!!!智世!!!恵美!!!ボウズ!!!誰でもいいから来てっ!!!」

しかし、散策に出ている遠くの4人にはその声が聞こえるはずも無かった。

亜紀「冗談でしょっ!?お願い・・・目を覚まして・・・私、朔ちゃんがいないと生きていけないの!!!」
朔「・・・・・・・・・・・・・・。」
亜紀「・・・・・・嫌ぁーーーっっっっっっ!!!!お願い!朔ちゃん目を開けてーっっ!!!」

自分の手によって朔を喪う現実。
その恐怖と悲しみが亜紀の目からとめどなく涙を溢れさせていた・・・。
亜紀はなすすべなく、朔の名前を呼び続けた・・・・・・。

続く
...2005/09/09(Fri) 23:01 ID:6vgKFKak    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。
今回も、前半は楽しく読ませて頂きました。
そして後半は、たー坊さんが書かれていた、

>そろそろ誰かに災難に遭遇してもらおうかと思っております。

と言うのが、まさか、亜紀さんだったとは…
ドラマの中の朔太郎君と亜紀さんの立場が逆になった…とまではいかないかも知れませんが、そうなった時の亜紀さんがどうなってしまうのか、しっかりと見守りたいと思います。

ところで、今日は、最終回からちょうど1年ですよね。
どなたからもお話が出なかったので…
でも、1年は本当に早いですね。

では、次回のお話も楽しみにしています。
...2005/09/10(Sat) 23:28 ID:W2h6YhwM <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
あまりの過激な展開に呆然としております。
息を呑んで次回を待ちます。
...2005/09/11(Sun) 20:53 ID:PjOm56Ig    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
急な展開に驚かれたと思いますが、状況的には8年前と同じような状況です。
白血病から生還してからは幸せの連続で、本当に恵まれていたと思います。それは、8年前も同じでした。突然に奈落の底に突き落とされるところは、今回と同じです。

そういえば、あれからもう1年が経ちましたね。でも、特別編まではあと4日あります。それが終わったら、あらためて終わったという感が出てくるのではないでしょうか?

それでは、次回もお読みいただければ幸いです。

朔五郎様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
いきなりの展開に、朔五郎様以外ににも驚かれている方もいらっしゃるかと思います。
もう、この場で言ってしまおうかなどと思いますが、それは次回のお楽しみということでお願い致します。
次回は近日中にUPする予定ですので、次回も楽しみにしていただければ幸いです。
...2005/09/13(Tue) 21:02 ID:.rB5vZnw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:Marc
こんにちは、たー坊様

次の掲載まで待とうと思いましたが、うずうずしてしまいます
ので、ちょっとだけ書いちゃいます。

「おおおっ!」っと本当に驚きました。

楽しみにしております〜
...2005/09/14(Wed) 08:26 ID:7ROvdfDM <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
Marc様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
突然の展開に驚かれているようですね。この物語をお読みいただいている他の皆様もそうだと思います。
続編は、後ほどUP致します。
果たして朔はどうなるのか、亜紀はどうするのか、
そして、その後は・・・。
楽しみにしていただけましたら幸いです。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/09/15(Thu) 19:42 ID:itNPifNI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
亜紀「起きてよ・・・。クスン・・・。」
朔「・・・・・・・・・・。」
亜紀「お願い!目を・・・グス・・・覚まして・・・。」

再び朔の顔に近づくが・・・・・・やはり呼吸をしている気配は無い・・・。

亜紀「朔ちゃん・・・・・・・・・朔ちゃん・・・・・・・・・朔ちゃん・・・。」
朔「・・・・・・・・。」

亜紀は、名前を呼び続けながら、何とか海面に顔を出している状態の朔を自分の胸にギュウっと抱きしめていた。

亜紀「ゴメンね・・・本当にゴメンね・・・・・・。私も一緒に行くから・・・。」
朔「・・・・・・・・・・・。」
亜紀「せっかく・・・助かったんだけど・・・朔ちゃんがいない世界にいても意味が無いから・・・私は行けるか分からないけど・・・生まれ変わったら今度こそ結婚しようね・・・。私は絵本作家になって、朔ちゃんは写真屋さん・・・・・・子供も生まれて、裕福じゃなくてもいいから・・・幸せに暮らすの。・・・・・・それとも、私はもうこりごり?・・・きっとそうだよね・・・。」

とりあえず、そんなことを言ってみた。もしかしたら朔が「違うよ。」って言ってくれると思ったから・・・。
しかし・・・。

亜紀「本当に・・・私が・・・死なせたの?・・・そうなんだよね・・・・・・?」
朔「・・・・・・・・・。」

虚ろな目をしている亜紀は、とりあえず朔を岩の所まで運ぼうとしていた。
顔は涙でボロボロだ。
しかし・・・・・・・・

朔「そうだよ、亜紀。俺は世界で一番好きな人に殺されかけたんだ。」
亜紀「・・・・・・・・え?」
朔「結婚もしてないのに死んでたまるかよ。」
亜紀「サ・・・・・・ク・・・ちゃ・・・?」
朔「勝手に俺を殺すなよ。」
亜紀「・・・・・・・・・。」

目の前にいる朔が目を開けている。
しばし呆然とした後、朔が息を止め続けて死んだように装ったことを理解した亜紀は、自分を見ている朔につかみかからんばかりの勢いで迫った。

亜紀「死んだフリだなんて最低!!!最悪!!!私が・・・私がどんな思いをしたと思ってるのよ!!!」
朔「注意してるそばから亜紀が無茶なことをするからだよ。」
亜紀「うう・・・ヒック!・・・朔ちゃんのバカ〜!!」
朔「さっき攣った足はどうしたんだよ!?」
亜紀「そんなこと忘れた!!うう〜・・・ヒック・・・ヒック。・・・・・・朔ちゃんのバカ・・・!」
朔「俺のことを“バカ”と言う以外に言うことはないの?」
亜紀「スケベ、うう・・・・・・変態・・・・・・ヒック・・・ヒック。」
朔「・・・・・・いくら泣いても今回は譲らないからな。」
亜紀「譲るとか譲らないとかそんなことはどうでもいいの!!」
朔「?」
亜紀「怖かった・・・本当に怖かった〜!朔ちゃんが死んじゃったって、私はこれからどう生きていけばいいのって!」
朔「・・・これに懲りたら、2度と度が過ぎた悪戯はしないことだよ。」
亜紀「朔のバカ!もうしない!グス・・・クスンクスン。」

顔をボロボロにし、泣き腫らして真っ赤になった目・・・。
朔は亜紀の目に未だに光る涙を右手の人差し指の背で拭ってあげた。

亜紀が落ち着くのを待ってから、気を取り直して洞窟の入口まで来た2人。亜紀は朔と手をつないで背中を追うようにしている。

朔「暗くて足元が危ないところがないか確認しながら行くよ。一歩一歩少しずつ行くから。」
亜紀「気をつけてね。」
朔「うん。じゃ、行こう。」

2人は腕を組んで歩く。
亜紀は朔と腕を組んで、その力を緩めようとはとしない。

朔「亜紀、そんなにひっつくなよ。」
亜紀「あ、当たってる?」
朔「う、うん。」
亜紀「・・・怒る気になれないの。このままでいいよ。」

亜紀の言うままに奥へと進んでいく。奥に進めば進むほどに太陽からの光は届きにくくなっていく。
後ろを振り返るたびに幻想的な光景が広がる。

亜紀「思ったより広いね。」
朔「うん。もっと狭いと思ってたけど。」
亜紀「それにほら、浅くなってる」
朔「そうだね。」

洞窟の入口ではみぞおちくらいまであった水深は、奥へ進むほどに浅くなってきていた。気が付けば膝の少し上くらいまで浅くなっている。
次第に洞窟は左へとカーブを描き始めた。外からの光は徐々に小さくなっていく。

朔「どうする?危ないから引き返そうか?」
亜紀「ここまで来たのにもったいないよ。行けるとこまで行こう?分かれ道とかないみたいだし、大丈夫だよきっと。」
朔「分かった。前に行くよ。」
亜紀「あ、待って。」

亜紀は朔と絡めている自分の腕にさらに力を込めた。

朔「亜紀、力入れすぎだよ。」
亜紀「もう離さないもん。」
朔「・・・そんなにしなくてもいいよ。」

そんなやりとりをしながら前進していく。
やがて光が見えてきた。もう一つ存在する洞窟の入口との合流点であるということはすぐに理解できた。
すると・・・。

亜紀「ねえ朔ちゃん。」
朔「え?」
亜紀「あれ・・・。」

亜紀が指差す方向には、合流点の光とは全くの別物の光だった。
そして、すぐ近くには自然の地形を利用した岩でできた階段があった。

朔「もしかして、ここも開発の手が入る予定だったのかな?」
亜紀「この階段、地形を利用してはいるけど、明らかに人工的に作ったのが分かるね。」
朔「上ってみようか?」
亜紀「でも、上には何も見えないよ?」
朔「隠し扉とかあったりするかもよ?」
亜紀「頭をぶつけないように気をつけてね。」

朔を先頭に階段を上っていく。亜紀はその間も朔と絡めた腕を離そうとはしなかった。
やがて、洞窟の天井に朔がなにやら見つけて叫ぶように亜紀を呼んだ。

朔「これ!」
亜紀「これ・・・扉?」
朔「うん!・・・よし、開けてみよう。」

朔は目いっぱいに力を込めて扉を押した。鈍い音がした次の瞬間、扉の向こう側に存在した光景が目に入ってきた。

亜紀「綺麗・・・。」
朔「いつも見慣れている光景のはずなのに・・・。」
亜紀「出れる?」
朔「うん。」

朔は岩に足をかけたりして外に出た。亜紀も朔に手伝ってもらって外へ。
すると、そこに広がっていたのは・・・・・・・。

亜紀「すごーい!」
朔「おお・・・・・すげえ。」

上には真っ青な空と白い雲。自分たちが来た洞窟の入口の近くにはかすかに見えるタイムポスト。
そんなに入口から距離はないのに、ずいぶんと歩いてきた気がした2人。
さらにいろいろな光景を目にする。

朔「なんか、小さい野原だよここ。」

ビーチサンダルの下は、青々とした芝。崖の下には太平洋があり、水平線まで見える。

亜紀「あ、スケちゃんと智世。」
朔「え、どこ?」
亜紀「あそこ。・・・何か潜ってるよ。」
朔「なんか持ってる。・・・まさか漁をしてるんじゃないだろうな?」
亜紀「スケちゃんならありそう。」

宮浦一帯が見えるこの場所。その方向に見えた船の近くには龍之介と智世の姿があった。
2人はこの辺りも散策してみることにした。

声が聞こえる範囲に分かれてみる。
程なくして、亜紀が新たな物を発見した。

亜紀「朔ちゃん。」
朔「ん?」
亜紀「ここにもあるよ。」
朔「タイムポスト・・・?」
亜紀「えーと・・・“これはタイムポストです。未来のあの人に手紙を書いてみませんか”あそこにあるのと同じね。」
朔「開けてみようか?」
亜紀「え、いいのかなぁ?」
朔「いいから、いいから。」

朔がポストを開けると、そこにはたった一台のカメラが入っていた。かなりの年代物らしい。
埃を払ってみると、亜紀が「撮ってみようよ。」と言うので、朔が亜紀を近くに立たせた。

亜紀「綺麗に撮ってね。」
朔「じゃ、ポーズとって。」
亜紀「えーと・・・。」

亜紀はお決まりとばかりにセクシーポーズをしてみせた。
朔は躊躇なくシャッターを切る。なんと、“カシャ”と音がした。

亜紀「使えるの?」
朔「撮れたと思うよ。」
亜紀「タイマー機能は付いてないの?」
朔「えーと・・・・・・あ、できるできる。多分使えるよ。」
亜紀「最近写真が少ないよね。私と朔ちゃんの写真が欲しいの。撮らない?」
朔「分かった。」

ポストの上にカメラをセットした。
亜紀が朔に体を寄せていきピースサインを作った。朔は亜紀に促されるままにそれをマネして、やがてシャッターが切られた。
満足した2人は微笑み合って今来た道を戻っていく。

洞窟前の海。カメラを水に濡れない所において2人きりで時間を満喫した。
亜紀は朔を挑発するような仕草すらみせ、朔はそれに構うことなくしていたのだが、
亜紀は次第に顔を膨らませた。

その後、亜紀はいつも通りにふるまった。あまりの愛おしさにたまらず朔が触れようとするが、一線を越えることはしなかった。
「忍耐忍耐。人生は辛抱の連続・・・・・・。」などとブツブツ言っている朔の小声が、亜紀には聞こえていた。

亜紀「朔ちゃんありがと。」
朔「どういたしまして。」
亜紀「うん・・・」

そっと亜紀は朔を見つめ続けていた。
やわらかな風が吹くこの場所で、亜紀は朔への思いを最高な状態に高めていた。

その後、皆が戻ってくると合流した。

恵美「皆、海に入った?」
亜紀「うん。」
ボウズ「実は、そこの石段を上がっていくとコテージがあってよ。」
朔「コテージ?」
ボウズ「ログハウスみたいな感じでよ、辺りを探ったら井戸もあって使えたんだぜ。」
龍之介「へぇ〜・・・そいつは知らなかったなぁ。」
恵美「それでね、そこのコテージにはお風呂場もあって、私達、お掃除したの。」
智世「ほんと?」
恵美「本当よ!」
ボウズ「さすがにつめてーんだけどよ、サッパリはできるぜ。バケツで井戸から水を汲んでくればいいからさ。」
龍之介「よし、行こうぜ!」

こうして6人は、ボウズと恵美の案内でコテージへと向かった。
石段をあがりしばらくすると山道に出てさらにあがって行く。「水着姿のままで上って行く一行のことを第三者が見たら、パニックになる人もいるかもしれない。」そんなことを考えることができるくらいに、皆の心には余裕ができている。
やはり自然の力は偉大である。

コテージの前に到着した6人は、龍之介と智世が先頭で部屋の中に入った。
どことなくまだ埃っぽい室内であるが、この無人島においてはとても贅沢な宿泊施設である印象は全員が持っている。

龍之介「よく見つけたなぁ。散策して正解だった。」
智世「ほんとよね。おまけに2人で掃除までしてもらっちゃって。ありがとね恵美。」
ボウズ「俺へのお礼の言葉は?」
智世「どうせ恵美がほとんどやってくれたんでしょ?」
恵美「違うわよ。ヨシくんお願いしちゃったわ。ね。」
ボウズ「その通り。恵美頼みとあっちゃ、ムゲには断れねぇよ。」

智世につっかかられたものの、恵美のナイスフォローによって血が上りかけたボウズの頭も一瞬にして冷却されていった。

朔「それにしても・・・この島にはそうとう大きな開発計画があったってことがわかるなぁ。」
恵美「うん。他にも同じようなものを建てるつもりだったみたい。」
智世「じゃあ、さっそく井戸から水を汲んできましょうか?」
亜紀「そうだね。朔ちゃんも手伝って。」
朔「分かった。じゃあ行こう。」

3人が外に水を汲みに行っている間に、残りの三人は風呂場を見ていた。

龍之介「なかなかいいんでないかい?」
ボウズ「だろ?」
恵美「女の子たちには嬉しいな、海に入っても家に帰るまではシャワーとか浴びれなかったもの。」
龍之介「まさか、外で裸になって水を被る訳にはいかねぇもんな。」
恵美「そうなの。男の子たちの目もあるしね。」
ボウズ「色々大変だな。」
恵美「わかってもらえるだけで十分よ。」

その時、朔たちがバケツに水を汲んで戻って来た。

朔「じゃあ、どうしようか?」
龍之介「男たちから入ろうぜ。」
智世「えーっ?こういう時こそレディーファーストでしょ!」
龍之介「本来はそうだけど、女が先に入っちゃうと男たちが入るうちに水の給水とかで汗かくし、なにより、冷たい水を被るわけだから風邪もひきやすい。」
恵美「なるほどね・・・・・・。」
智世「・・・・・・。」

智世は龍之介の思わぬ言葉に驚き、信じられないような表情を浮かべている。
「スケちゃんも優しいね。智世が羨ましいな。」亜紀が普段は龍之介についての愚痴を聞かされている智世をさりげなくからかった。智世は「うるさいっ!」と小声で毒づくのが精一杯だったようで、顔は赤くなっている。

そういうわけで男たちが先に冷水を浴びた。短時間でさっさと終わらせて女性陣と交代した。
しかし・・・・・・。

亜紀「じゃあ、朔ちゃんたちよろしくね。」
朔「水が足りなくなったら呼んで。」
智世「遠慮なくさせてもらうから。」

亜紀、智世、恵美が浴室へと向かった。
すると、龍之介がわざと女性陣に聞こえるような大声で言う。

龍之介「お前ら!さっさと水の準備するぞー!」
朔「ど・・・どうしたの?」
ボウズ「声がでけぇ。」

龍之介はすjかさず口の前に人差し指を立てて「シーっ!」と静かにするように合図を送った。
そして静かにコテージの外へ向かった。

ボウズ「急にどうしたんだよ?」
朔「そうだよスケちゃん。普段はこんなことは面倒くさがって自分からなんてやったことなんかないだろ?」
龍之介「いいからお前らもっと小声で話せ。」
朔「?」

そーっと足音すら立てずにコテージから遠ざかる3人。ある程度まで離れると、龍之介が朔とボウズに背を向けたままで「お前ら、こんなチャンスは滅多に無いと思わねぇか?」と言った。
次には、まるで時代劇に出てくるような悪代官のような表情を見せる。

朔「何考えてるの?」
龍之介「さっきの浴室だが・・・窓が高い位置にひとつあっただろ?」
ボウズ「ああ。」
龍之介「そして、お前らは気付いてはいなかったが、かなり下のほうに小さい小窓があった。」
ボウズ「マジかっ!?」
龍之介「もう分かったよな、湿気を逃がすためかどうか分からないが・・・そうだよ。そうなんだよ・・・。」
ボウズ「ヘへへ・・・・・・。」

こういう時には驚異的な洞察力とひらめきにより妙案を考えてしまう龍之介。もう風呂場をのぞく気満々だ。
しかし、朔だけは浮かない表情をしている。

ボウズ「ん?」
龍之介「どうしたんだいおまいさん?」
朔「実行するの?・・・今言ったこと・・・。」
龍之介「当たり前だろ。」
朔「やめない?」

驚き顔のボウズと龍之介。
朔の心境は複雑だった。まず、いくら親友の2人といえど亜紀の無防備な姿を見られるのは耐えがたかった。何より、そういうものから亜紀を守りたい気持ちが強く、もし、2人にのぞかれでもしたら亜紀は気絶してしまうかもしれない。その後で大泣きするかもしれないことを想像すると、とても参加する気になれなかった。

龍之介「付き合い悪いぞお前さん。」
ボウズ「バレなきゃいいんだって!」
朔「・・・・・・。」

その時、「水をくださーい。」と恵美の声が聞こえた。
龍之介とボウズの2人はあらかじめ用意していたバケツを持ち、コテージの中へ向かった。脱衣所にバケツを置いて戻ってくると、さっそく2人は下のほうにある小窓へ。朔は朔でどうしていいのか分からずに立ち尽くしていた。

龍之介「さっき俺たちが入ってた時に、あらかじめ鍵は開けておいた。」
ボウズ「ナイス!」

そして、朔に構わずに龍之介が静かに小窓に手を掛けて静かに開け、顔を近づけたその時!

“バシャッ!”
“ビシャッ!”

智世「このバカスケ!!」
龍之介「ゲホ!鼻に水が・・・・・・。」
ボウズ「冷てぇ・・・びしょ濡れじゃねえか・・・・・・。」
恵美「ヨシくん・・・最低よ!」

何が起こったのか分からない朔がその光景をボーっと見ていたその時、もう一つの窓から亜紀がヒョッコリ顔を出した。

朔「あ。」
亜紀「朔ちゃーん。よく我慢したね。」
朔「いや・・・別に・・・。」
亜紀「それでね、今ので使っちゃったからもう1回水を汲んできて欲しいの。」

朔を近くまで呼んで窓からバケツを2つ渡した。
すると・・・。

朔「あ、水着で入ってたの?」
亜紀「そうよ。」
智世「こんなこともあろうかってやつ。」
恵美「亜紀はいいな。こんなちゃんとした彼氏で。」
亜紀「そ、自慢の彼氏です。」

それぞれ、水着の肩の紐をつまんでみせた。
亜紀はノロケて、照れ気味の朔に女性陣の評価もうなぎのぼりだ。

朔「じゃ、汲んできたら浴室のドアをノックするから。」
亜紀「ゴメン。お願いね。」
朔「いや、いいよ。」

そして、そんなやり取りを見ていた出歯亀2人組・・・・・・。

龍之介「なんで・・・こうなんだ?」
ボウズ「くそ・・・朔のやつ一人でいい思いをしやがって・・・・・・。」
                        ・
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                        ・
女性陣も浴室から出て着替えた。
コテージを後にして桟橋へと向かう6人。

朔「危ない。」
亜紀「あ、ありがとう。」

足場の悪いところで朔が亜紀に手を貸す。
しかし、恵美と智世の2人はたとえ転んでもボウズと龍之介の助けを借りようとしない。意地になっているようだ。

智世「触らない!」
恵美「助けなんかいらない!」
ボウズ・龍之介「・・・・・・・・・・・・。」

仲睦まじい1組とは対照的な2組・・・・・・。

ボウズ「祟ってやる。朔を祟ってやる。」
龍之介「“呪いのお経”か?」
ボウズ「なんでもいい。とにかく呪ってやる・・・・・・。」

完全に開き直ったボウズと龍之介が最後尾でブツブツ言っていた。

続く
...2005/09/15(Thu) 19:43 ID:itNPifNI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
朔は死んだふりでしたか・・・考えてみれば、水の中で息を止めるくらい、彼には朝飯前というところでしょうか?何と言っても元「ウォーターボーイズ」ですから(^^)

冗談はさておき、少しは亜紀と対等に渡り合えるようになったのですね。お風呂場での態度も「立派」でしたね。私は彼ほど「立派な人」じゃないので、スケちゃん・ボウズの気持ちもわかります。
...2005/09/15(Thu) 21:27 ID:15d2n9h2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
ホッとされたというか、拍子抜けした方が多かったと思います。
死んだフリは、おっしゃるとおりウォーターボーイズからいただきました。実際にドラマでは朔がそれとなくそういうことをしていましたし。
一瞬、本当にそういうことにしていいかと思ったのですが、その後に続くストーリーが浮かばずに断念いたしました。
おかげで、ストーリーは当分続く予定です。
これからもよろしくお願いいたします。
...2005/09/16(Fri) 23:15 ID:e07B6Vb2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
“ドドドドドドド・・・・・・”と大海原を宮浦港に向けて進む五郎七丸。
帰る途中の船内は・・・。

ボウズ「謝るからいい加減に機嫌直してくれよ・・・。」
恵美「付き合って2年半・・・・・・知らないこともたくさんあるけど、まさかヨシくんがそんなことをするような人だとは思ってもみなかった。」
ボウズ「いや、魔が差したというか・・・俺も健全な男の一人であって・・・・・・。」
恵美「人間だったら理性と言うものがあるでしょう!」
ボウズ「そうなんだけどよ・・・・・・。」
恵美「お坊さんでしょ。一般の方たちにご法話する立場でしょう!・・・実際、私にもお話してくれたじゃない。」
ボウズ「ゴメン。」
恵美「“ごめんなさい”でしょ?」
ボウズ「・・・ごめんなさい。」
恵美「“2度としません”は?」
ボウズ「ごめんなさい、あんなことは2度と致しません。どうかご勘弁下さい・・・。」
恵美「心から反省してください。今日はヨシくんのところに泊まるつもりだったけど、智世の家に泊まらせてもらうから。」
ボウズ「おい恵美!そりゃねぇだろ!」
恵美「“恵美”?呼び捨てとはどういうこと!?」
ボウズ「う・・・。」
恵美「そのくらい私は怒ってるの!滝に打たれて修行したら?それとも護摩行でもする?」
ボウズ「どうかご機嫌を直してください・・・。本当に申し訳ございません。」
恵美「絶対に今日は許さないから!」

そっぽを向かれたボウズはがっくりとうなだれた。
恵美は亜紀と朔の隣に座った。

恵美「あんな感じでどう?」
亜紀「いい。すごくいいと思う。」

屈託の無い笑顔でボウズには聞こえることの無いように話す2人。
隣では今まで見たことの無いボウズの様子に笑ってしまうのをこらえるのに精一杯な様子の朔。

恵美「朔・・・大丈夫?」
朔「なんとか・・・あー・・・ボウズのあんな一面ははじめて見たなぁ。」
亜紀「20年くらいの付き合いでしょ?」
朔「そうだよ。」
亜紀「じゃあ、ボウズも変わったのかな・・・。」
恵美「えっ?」
亜紀「だって、ボウズって嘘はつけても隠し通すのは難しい性格だと思うの。だから、小さい時の朔ちゃんたちにも飾らない性格、そのままでいたと思うのね。だから、“あんなボウズは初めて見た”って、朔ちゃん。」
朔「うん。」
亜紀「知らないうちに、恵美のおかげでそんな面も出来上がってきたのかもしれないって。」
朔「なるほど・・・言われてみれば。一理あるよ。」
恵美「ふ〜ん・・・。」

なんとなく恵美は少しだけ機嫌を直したようだ。
幸せいっぱいの朔と亜紀に「許してあげて。」と言われた恵美はさりげなく近づいてボウズの頭を軽く叩いた。

ボウズ「・・・なんでしょうか?」
恵美「智世のうちに泊まるつもりだったけどダメって言われちゃったの。やっぱり泊めて!」
ボウズ「はい。・・・それは・・・許してくれる・・・と?」
恵美「それはこれからのヨシくん次第。」
ボウズ「俺次第?」
恵美「私の言うことを聞いてくれたら考えてあげる。」

実は今回恵美の言葉は、亜紀が朔をコントロールする時に良く使う言葉だ。

恵美「のどが渇いた。」
ボウズ「俺のバッグに水筒がある!」

そういうと大急ぎでバッグから水の入った水筒を持ってきた。

恵美「あと、甘いものが食べたいな。」
ボウズ「おい朔!」
朔「え?」
ボウズ「お前、チョコレート持ってたよな?あれをくれ!」
朔「ああ。」

朔がボウズにチョコを渡すとすかさず恵美に手渡す。

亜紀「ぷ・・・ぷぷっ・・・。」
朔「くくくく・・・・・・。」

そんな様子を見ていた朔と亜紀は、恵美の要求に応えようとするボウズの様子に必死になって笑うのを堪えていたが、吹き出すのも時間の問題になってきてしまい、2人に背を向けて肩を震わせながらもお互いの顔を見合わせている。

朔「何?」
亜紀「朔ちゃんこそ何?」
朔「ボウズには悪いけど、亜紀も本当にこういうこと好きだよね。」
亜紀「でも勘違いしないでね。今回は人助けなんだから。」
朔「結局はボウズの自業自得だったんだけど・・・でもいいものを見せてもらってるよ。」
亜紀「ほんとね・・・ププッ!」

恵美「じゃ、最後のお願い。」
ボウズ「何?まだあんのかよ?」
恵美「文句があるなら・・・。」
ボウズ「何でも言ってくれていいよ。」

朔「ブッ・・・ふふふふふ!」
亜紀「(朔ちゃん笑っちゃダメ!)ク・・プププ。」

すると、そーっと恵美はボウズの耳に口を近づけてヒソヒソ・・・・・・。

ボウズ「はぁ!!??」
恵美「短い時間でいいからよろしくね。」
ボウズ「・・・・・・なんてことを要求してくれんだ。」
恵美「悪い?!」
ボウズ「いや、喜んで。」

それを見てまたもや笑いそうになる朔と亜紀を見ているのは、龍之介と智世。
この2人もまた激しいやりとりをしている。

智世「あんたっていうやつは!」
龍之介「いつものことじゃねぇかよ!」
智世「もし、私たちが何も着ていなかったらどうするつもりだったのよ〜〜!!!」
龍之介「そんなこと考えてましぇ〜ん!!!」
智世「私だけならまだしも、恵美と亜紀もいたの分かってる??!!」
龍之介「知―りましぇーん!!!」

智世は相当真面目な話をしているつもりなのに、龍之介にはこれっぽっちも伝わっていないように思える。
堪忍袋の緒が切れた智世は龍之介の頬を思いっきり引っ叩いた。

“バシィッ!!!”

龍之介「イッテェ!!!!」
智世「あんたいい加減にしなさいよっ!!!」
龍之介「分かった・・・悪い・・・。」
智世「あんた、そのくだらない頭をもっと別の場所にまわしなさいよっ!!」

再び、「うるせえブス!!」と言おうかと思って智世を見ると、目にいっぱい涙を溜めている。

龍之介「いやー、おまえさぁ・・・・・・。」
智世「このエロスケ!!」

再び、思いっきりの智世のビンタが炸裂した。
しかし、この瞬間に龍之介の手に握られていた舵が変にきられてしまった!

“ガクン!”

恵美「キャァッ!!!」
ボウズ「恵美!」

バランスを崩し、海に投げ出される寸前のところで恵美の腕を掴んで、何とかことなきを得た。

恵美「・・・は・・・はぁ、はぁ・・・。」
ボウズ「怪我は!?」
恵美「だ、だい・・じょうぶ・・・。」

驚きすぎて呆然としている恵美をボウズが落ち着かせようとしている。
しかし、恵美が海に投げ出されようとしていた反対側で事件が起こっていた!

“バシャーン!!”
同時にあがる水しぶき、何と亜紀が海に投げ出されてしまった!!

朔「亜紀っ!!」

その声に気付いたボウズが、恵美と一緒に朔に駆け寄る。

恵美「亜紀!」
ボウズ「やばいっ!」

次の瞬間!

“バシャーン!!”
上着を素早く脱ぎ捨てて、朔が海に飛び込んだ!!

ボウズ「朔っ!」
恵美「スケちゃん!エンジン止めてっ!!」
龍之介「え?何で??」

すると、智世がことの異変に気付いた。

智世「え、あれ・・・亜紀・・・?亜紀っ!!!」
龍之介「朔も!どういうことだよっ?!!」

ようやく事態に気付いた龍之介がエンジンを止め、智世が慌てて甲板に飛び出してきた。
そのころ海では、朔が亜紀のもとへ辿り着こうとしていた。

朔「亜紀!」
亜紀「朔ちゃん・・・。」
朔「大丈夫か!?」
亜紀「大丈夫だけど・・・ビックリした・・・。」

話しかけて応答が来た。亜紀はもちろん泳げるので意識を失ってないなら大丈夫だろう。
大慌てで海に飛び込んできた朔もひと安心だ。

亜紀「つかまっても大丈夫?」
朔「うん。ほら早く!」

肩の辺りにつかまる。
結構冷静に見えても相当驚いているのだろう。朔は亜紀の心臓の音が高まっているのと、呼吸が乱れているのを感じ取っていた。
朔は無意識のうちに強く亜紀の体を抱き寄せていた。

亜紀「・・・・・・大丈夫?」
朔「俺のことはいいよ。それより怪我してない?」
亜紀「大丈夫。落ちる時には何処も打ったりしてないよ。」
朔「ならよかった・・・。」

その時、船から浮き輪が投げ込まれた。

龍之介「2人とも大丈夫か!?」
朔「大丈夫だ。」
ボウズ「引き上げるから浮き輪につかまってくれ!」
朔「わかった。亜紀、早く。」
亜紀「ありがとう。」

先に亜紀が船に戻り、次に朔が甲板に戻ったのだが、2人ともずぶ濡れになってしまって、風邪をひいてもおかしくなかった。

続く
...2005/09/16(Fri) 23:18 ID:e07B6Vb2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
翌日・・・・・。

朔は海に飛び込んだのにもかかわらず、今日もケロっとした様子で病院に出勤していた。
6時少し過ぎに仕事を終えて、さっそく現像した夢島の写真をバッグに入れた。そのバッグを抱えて病院を出た。
今日は自転車ではなく徒歩で来ていた。実は、昨日ずぶ濡れになった亜紀を家に送っていった時に、病院近くのバス停から、指定した時間に朔に乗ってもらって、一緒に帰って少し一緒に時間を過ごす約束をしていたのだ。

バス停前で待つこと10分。予定より少し遅れてバスがやってきた。
乗り込むと、車内は通勤通学の客でかなり混んでいる。しばらく亜紀の姿を探すが・・・・・・姿が見当たらない。

朔「(間違った?)」

腕時計を確認するものの、事前に確認した時間のバスに間違いは無い。

朔「(亜紀の予定が狂ったのかも・・・。)」

そう思いつつ、先に廣瀬家の前で亜紀の帰りを待つことにした。
最寄のバス停で下車して廣瀬家へ向かう。時刻は六時半、家の前まで来た時には空は完全に暗くなる一歩手前だった。そして、2階の亜紀の部屋の明かりがついていることに気付いた。

朔「(なんだ・・・先に帰ってたんだ。)」

単純にそう思った朔は玄関のドアをノックした。出迎えてくれたのは綾子だ。

綾子「はーい・・・・・。」
朔「こんばんは。」
綾子「あら朔くん。こんばんは。お仕事終わり?」
朔「はい。それで、今日は亜紀と約束してたんですけど・・・・・・。」
綾子「亜紀から聞いてるわ。でもね、亜紀は今日休んだのよ。」
朔「え?熱とか出ましたか?」
綾子「そうなの。昨日、上田さんのお宅で体を拭かせてもらってから朔くんに送ってもらったんだけどね・・・。」
朔「大丈夫なんですか?」
綾子「うん・・・無理しないで休んだおかげでね。市販の薬も飲んだから。・・・あ、立ち話なんかしちゃってごめんなさい。あがって。」
朔「いいんですか?」
綾子「朔くんは亜紀の担当医でしょ?それに朔くんが亜紀の一番の薬になるの。それくらい母親なら分かるわよ。」

朔は「かなわないなぁ・・・・・・。」と心の中で呟きつつ、綾子に亜紀の部屋へ通された。

綾子「入るわよ。」
亜紀「はーい・・・。」
綾子「気分はどう?」
亜紀「そんなことはどうでもいいの。それより、どうしよう・・・約束。」
綾子「そんなことって・・・・・・朔くんは亜紀に約束を破られたことを怒らない人でしょ?事情があったんだもの。」
亜紀「そうだけど・・・今頃バス停で待っていたりするんじゃないかな・・・・・・。」
綾子「それは心配ないわよ。」
亜紀「え?」

綾子に呼ばれて、廊下で待っていた朔が入ってきた。

亜紀「あ、朔ちゃん!」
綾子「心配なかったでしょ?」
亜紀「・・・・・・お母さん、先に言ってよ。」
綾子「フフ・・・さてと、飲み物持ってくるわね。」

軽く亜紀をからかった後、どこかとぼけた表情で下に降りていった。
亜紀もまだまだ綾子にはかなわないようだ。

亜紀「来てくれたの?」

そう言いながらベッドから体を起こそうとするが、朔が制止した。

朔「いいよ。寝たままで。」
亜紀「でも・・・。」
朔「いいから。」

朔は亜紀の背中に右腕を添えて亜紀の体を支えつつ、左手も使って亜紀を再び寝かせた。

亜紀「おかえり。ゴメンね、約束・・・。」
朔「いや・・・それは別に・・・・・・。バスに乗っても亜紀がいなくてさ・・・来てみたら熱出したって聞いたけど・・・大丈夫?」
亜紀「もう大丈夫。・・・・・・朝起きた時におかしいなって思って熱測ってみたら、38℃近くあったの。」
朔「そんなに?・・・熱だけ?ほかには?」
亜紀「本当に大丈夫なの。熱もさっき測ったら37℃ちょうどだったし。」

亜紀は頭だけ右に向けている。朔がベッドの隣に座っているからだ。
確かに綾子の言う通り、朔の亜紀を心配する心が亜紀にはなにより効き目のある薬のようだ。
亜紀に椅子の上にあるクッションを使うように言われ、クッションを持ってきた朔は再び亜紀の近くに座った。

朔「ちょっといい?」
亜紀「うん?」

朔が確認のために右手を亜紀のおでこに当てて熱を測った。亜紀の言うとおり、ほとんど熱はないように感じた。

亜紀「ありがと・・・。」
朔「いや、仕事だし。」
亜紀「・・・仕事?私への愛情表現かと思って嬉しかったのにな。」
朔「それは・・・そういう意味もあることはあるんだけど。」
亜紀「まぁ、いっか。ありがと・・。」

その時、綾子が飲み物を持って戻ってきた。

綾子「朔くん、悪いけど留守番お願いしていいかしら?」
亜紀「お母さん?」
綾子「まだ、お買い物行ってないのよ。亜紀が熱を出しちゃったでしょ?」
亜紀「心配性だなぁ。」
朔「でも・・・ああいうことがあったら当然だよ」
綾子「そうなのよ。朔くんは親心を良く分かってるわね。」
朔「やっぱり、職業柄なのかな・・・・・・。」
綾子「え?」
亜紀「朔ちゃん、どういうこと?」
朔「夜勤の日なんか特にそうなんだけど・・・救急車で搬送されてくる子供の親って、大抵俺たちの制止を振り切って、処置室に入ってこようとする時が多い。そういう時には、あの時のおじさんとおばさんの気持ちがより鮮明にっていうか・・・理解し易いんだ。」
亜紀「なるほど・・・・・・。」
綾子「あ、いけない。スーパー閉まっちゃうわ。朔くんお願いね。」
朔「いいですよ。お帰りになるまでお邪魔します。」
綾子「疲れているのにごめんなさいね。すぐに戻るから。」

綾子は急ぐ様子で買い物に出かけた。
亜紀は「お母さん急がなくていいよ。時間をかけてね!」と心の中で言った。もちろんその理由は朔との時間を確保するためなのは言うまでもない。

“バタン”と玄関のドアが閉まると、なぜか短い沈黙が部屋を包む。
すると亜紀が・・・。

亜紀「持ってきた?」
朔「・・・何を?」
亜紀「昨日撮った写真。」

亜紀に言われて、朔が「あ、現像してきたよ。」と、今まですっかり忘れていた写真をバッグから取り出した。
紙袋をカサコソ言わせて取り出した。
朔は寝ている亜紀に「どうかな?」と言いながらそれを手渡した。

亜紀「・・・・・・。」
朔「気に入らなかった?」
亜紀「この顔がそんな風に思っていると思う?」

亜紀の表情は、いつも通りに優しさに溢れた微笑で満たされていた。

亜紀「さすが朔ちゃん。使い慣れてるカメラじゃないのに綺麗に写ってる。」
朔「喜んでもらえて良かった。」
亜紀「それにしても、この空本当に綺麗だよねぇ。私が入院していた時に朔ちゃんが撮って来てくれた写真も綺麗だったなぁ。」
朔「もうとってないでしょ?」
亜紀「ちゃんとアルバムにしまってあるよ。ほら。」

亜紀が指差す先には、これまでに積み重ねてきたテープの横に、小さなアルバムがあった。

朔「しまってあるの?」
亜紀「大切にしてあるの。朔ちゃんの気持ちが詰まっているものだもの、そう簡単に処分したら罰が当たっちゃうよ。」
朔「亜紀がそう思ってくれてると、俺も嬉しいよ。」
亜紀「実は昨夜にね、久しぶりにアルバムを見たの。私・・・何かあると朔ちゃんに“ウルルの空を見てみたい。”って、困らせてたけど、すぐそこに広がる空もすごく綺麗だなってあらためて思ったよ。」
朔「空か・・・亜紀といるときくらいしか見上げないな。」
亜紀「実は私も。偉そうなこと言ってるけど、朔ちゃんと一緒にいる時くらいしか空を見てなかったりするのよね。」
朔「晴れてる時は、1日1回くらいは見ないと損かもね。・・・・・・でも、亜紀はウルルの空も見たいんでしょ?」
亜紀「もちろん。いつか見に行きたいな。朔ちゃんも一緒にね!」
朔「ハハハ・・・。」
亜紀「でも、宮浦の空も見ていたいな。」
朔「うん。」

しばし微笑み合った後、朔は亜紀に言った。

朔「亜紀、ゴメン。」
亜紀「えっ???何が?」
朔「俺、亜紀に謝らなきゃ。」

訳が分からない亜紀は、少し不安げに朔に言う。

亜紀「何のことなのか全然分からないよ。ちゃんと説明してくれなきゃ。」
朔「・・・昨日、亜紀を泣かせちゃったから。」
亜紀「あのことなら・・・確かに凄く怖かった。」

すると、朔はどこか懐かしむような表情さえ浮かべながら話し始めた。

朔「・・・・・・8年前の俺の誕生日・・・亜紀はどこまで記憶に残ってる?」
亜紀「え・・・・・・朔ちゃんの腕の中にいた時かな・・・・・・?」
朔「もちろん、その後の俺の様子は知るわけがないよな。」
亜紀「朔ちゃん・・・何が言いたいのか分からないよ?」
朔「俺、亜紀が意識を失った後、すごく怖かった。嫌だった。病院から抜け出した時に覚悟はしていたつもりだったのに・・・。いざ、これで亜紀を喪うと思ったらね・・・。」
亜紀「・・・・・・・。」
朔「死んだフリをしながら亜紀の様子をずっと伺ってたんだけど・・・今思うと、俺が8年前に経験した辛さを亜紀にも味あわせてしまったのかなって。本当にゴメン。」
亜紀「もういいよ。私も最近は朔ちゃんを困らせてばっかりだったものね。私の方こそゴメンナサイ。」

寝たままではあるが、頭を下げるような仕草をした亜紀。
再び「ゴメン。」と朔も頭を下げる。

その時「ただいま。」と、綾子が帰宅した。
亜紀の部屋に入ってくる。

綾子「ただいま。朔くんありがとうね。」
朔「いえ。じゃあ、俺はこれで。」
亜紀「明日もお仕事頑張ってね。」
朔「亜紀も無理せずに早く治して。」
亜紀「うん。治ったらまたデートしようね。」

しかし・・・・・・。

綾子「もう帰るの?そのまま帰す訳にはいかないでしょ。朔くんの分もご飯作るから食べて行って。」
朔「え?でも・・・。」
綾子「お家の人には私からも言うから。それに4人分の食材を買ってきちゃったのよ。」

朔が亜紀の方を見ると、亜紀の目からは「もっと一緒にいて欲しいな。」という光線が出ていた。

朔「それじゃあ、お言葉に甘えて。」
綾子「決まりね。それじゃさっそく支度しないと。」

綾子が先に出て行くと、亜紀が口を開いた。

亜紀「やったぁ。」
朔「まったく。」
亜紀「気付いてくれて嬉しかったよ。朔ちゃんありがと♪」
朔「本当に病人かって疑いたくなるほど元気だよな。」
亜紀「朔ちゃんが帰ったら、また熱が出たりするかもね。」
朔「何言ってんだよ。」
亜紀「うふふふっ。」

この時、亜紀はさりげなくガッツポーズを布団の中でしていた。

一方、夢島で事件を起こしたこの男・・・・・・。
時間は今日の数時間前に遡る。

続く
...2005/09/18(Sun) 00:51 ID:3CCZSLOA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
それにしても、スケはともかく、ボウズまであのようなことをするとは・・・
やっぱり、本山で「荒行」でもやってもらいましょうか(笑)
恵美さん、普段おとなしい人ほど、怒ると恐いというのは本当かもしれませんね(笑)
...2005/09/18(Sun) 22:40 ID:bnTxlF/Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
いつもご感想をいただきましてありがとうございます。
恵美の性格は、基本的に温厚です。しかし、怒らせると本性を現します。もちろんそれは、一人の人間として当然のことを伝えるためです。
そして次回は、ボウズが恵美の恐ろしさを思い知ることになりますのでお楽しみに。
これからもよろしくお願いいたします。
...2005/09/18(Sun) 22:56 ID:3CCZSLOA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
たー坊さま・朔五郎さま
ボウズはスケがいなければ、おそらくあんなことはしませんよ。スケの「悪い誘い」に乗ってしまったんでしょうね。私も悪友の誘いに乗って、大目玉を食らったことがありましたもの(^^)
...2005/09/18(Sun) 23:07 ID:Ac3gnzek    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
コメントをいただきましてありがとうございます。
SATO様の言うことはもっともです。当初、私もそう思いましたが、高校時代にクラスの最後尾でエロ本らしきものを読んでいたのを見て、ある程度は自分の意思もあったのだろうと推測しました。
そして、この後はその考えに基づいたストーリー展開になっております。
朔五郎様にも申しましたが、恵美の恐ろしさを思い知ってもらおうと思います。ある意味、神仏よりも恐ろしいかもしれない怖さを楽しみにしていただければ幸いです。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/09/18(Sun) 23:18 ID:3CCZSLOA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
ボウズ父「このバカチンが!!」

父の一喝と同時にボウズの右肩に向けて恵美が思いっきり木の板を打ち下ろす。

“ビシィッ!!”

ボウズ「(痛ってぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!)」

ボウズの悪事を恵美はボウズの父に包み隠さずに全て話した。
その結果、ボウズは父に本堂へ連行されて座禅をさせられている。ボウズの父の提案で、恵美もお仕置きに加わることになった。

ボウズ父「仮にもお前は僧侶だろう!御仏に一番近い者として恥ずかしいとは思わんのか!!??」
ボウズ「・・・・・・・・・・・・。」
恵美「私、悲しかったです。彼がこんな人だなんて思いもしませんでした。」
ボウズ父「恵美さん、本当に申し訳ない。私もこいつがここまでバカだとは思いもしませんでした。」
ボウズ「(ずいぶんな言われようだな、俺・・・。)」
ボウズ父「こいつは、冗談交じりでの行動だったんだと思います。恵美さんもその点は想像がつくでしょう?」
恵美「ええ。」
ボウズ父「これがもし恵美さんたちじゃなかったらそれこそ警察沙汰でしょう。その分恵美さんにも加わってもらって、厳しくこいつの性根を叩きなおさないといけません。」
ボウズ「(余計なお世話だ!)」

恵美が頷くと、父は再び「喝!!!」と叫ぶ。それに合わせて恵美は再び板を打ち下ろす。

“ビシッ!”

そんなことが2時間近く続いた。
ようやく開放されたボウズは、とりあえず自分の部屋へ。もちろん恵美も一緒である。

ボウズ「痛ってぇ〜〜〜!!!」
恵美「自業自得でしょ!!ほら!」

真っ赤になったボウズの肩を手当てする恵美。
湿布を貼った上から、“バチン”と叩く。

ボウズ「っつ〜〜〜・・・・・・。」
恵美「痛がらないの!そのくらいなんでもないでしょ。」
ボウズ「バカヤロ。こんだけ腫れてれば痛いに決まってんだろ。」
恵美「私の方があなたより何倍も心に痛みを負ってるの。このくらいの報いは当然よ。」
ボウズ「帰りの船で何でこんなことを要求したんだ?と思ったら、俺を痛めつけることが目的だったわけだ。」
恵美「そのくらい私も傷ついたんだからね。」
ボウズ「・・・・・・・・・・・・。」
恵美「言っておきますけど、私は道を外れたことをする人には噛み付くし、場合によっては引っ叩くこともするよ。」
ボウズ「外見に似合わず怖いなぁ。」
恵美「学生時代の男友達にはよく言われたわ。」
ボウズ「だから今まで結婚できなかったんだな。」
恵美「そうよ。だからあなたとそういうことを意識しつつあったのに・・・一時白紙に戻さないとダメね。」
ボウズ「・・・・・・・・・・・。」
恵美「何とか言ってよ。」
ボウズ「今回のことは、とても反省しています。身内だから、冗談で終わるだろうと思ってた。でも、それは間違いだった。」
恵美「いくらあなたでも、そう簡単にすべてを見せたくはないの。」
ボウズ「プラトニックか・・・・・・。分かったよ。本当にゴメンなさい。」
恵美「ようやく、わかったみたいね。次にこんなことをしたら、私だって考えないといけなくなるからね。」
ボウズ「2度と致しません。」

ボウズに罰を与えて気が済んだのか、恵美はほぼ24時間ぶりにボウズの前で笑って見せた。

恵美「後はいかにして信頼を取り戻していくかだけど・・・・・・。」
ボウズ「とりあえず、近いうちに亜紀と智世には謝ってくるよ。」
恵美「そうね。それが第一歩よね。私も頭をさげなくちゃ。」
ボウズ「え?なんでお前?」
恵美「これでも一応あなたの彼女ですから。」
ボウズ「一応って・・・・・・。(う〜ん、しっかりしてるなぁ。すでに女房のような・・・・・・。)」

ボウズの頭の中が脇道に逸れていく。
恵美はなんとなくそれを察知してボウズに詰め寄る。

恵美「ヨシくん、余計なことを考えないでよ!」
ボウズ「余計っちゃ余計かもしれねぇけど・・・。恵美に感謝してたんだよ!」
恵美「感謝???」
ボウズ「そうだ。いてもらって助かってるなって思ったんだ。」
恵美「・・・ちょっと嬉しいな。」
ボウズ「って・・・何言ってんだ・・・・・・俺?」

ボウズの顔は、湿布を貼った肩と同じくらいに真っ赤になっている。
恵美の心は、さっきとは違って雲ひとつないような空と同じように晴々としていた。

恵美「じゃあ、今回のお詫びに何をしてもらおうかな・・・。」
ボウズ「まだ何かあんのかよ?」
恵美「たくさんあるなぁ・・・色々して欲しいことって・・・。」
ボウズ「もったいぶらないで言えよ。」
恵美「高級レストランでディナーとか。」
ボウズ「はっ???」
恵美「朔と亜紀みたく都会でのデートとか。」
ボウズ「な・・・な・・・・・・・?」
恵美「2人きりでどこかに旅行なんてのもいいなぁ。」
ボウズ「・・・・・・・。」
恵美「あ、もちろん費用はヨシくん持ちでね!」
ボウズ「宝くじで1億当たったら考えてやるよ。」
恵美「じゃあ、買いに行こうよ。」
ボウズ「本気か?」
恵美「当たったらちゃんと教えてね。ドレスコード付きのいいお店を見つけておくから。」
ボウズ「マジ?・・・・・・・堅苦しいのは嫌だぞ。」
恵美「デートは横浜の夜景を見に行きたいなぁ。ランドマークタワーのレストランでお食事しながら夜景を見れたら最高だわ。」
ボウズ「ずいぶんと簡単そうで難しいことを言うな。」
恵美「当面は・・・どれか一つを実現してくれたらいいよ。」
ボウズ「実現するまで許してくれないとかって言うんじゃねぇだろうな?」
恵美「デートに誘ってくれた時点で勘弁してやろうかなぁ・・・・・・。」
ボウズ「誘ってくれた時点って・・・。」
恵美「最近のデートは私から誘ってばっかりで、あなたからは誘ってもらってないわ。たまにはリードしてもらわないとね。」
ボウズ「・・・・・・。」
恵美「さてと・・・十二分にヨシくんを困らせたところで、今日は帰るわね。明日からお仕事だわ。」
ボウズ「駅まで送ってやるよ。」
恵美「そうそう。そうこなくちゃね。」

恵美どこか悪戯めいた笑顔に、ボウズは少々困惑気味だ。
「こんな恵美は今まで見たことがねぇ・・・。」と言うのが最初。次の瞬間には、朔と亜紀のやりとりが脳裏に浮かぶ。

ボウズ「(今までは他人事だと思って笑ってられたけど・・・・・・女ってのは、みんな亜紀のように悪戯好きというか、困らせたがる面を持つ生き物なのか?朔は毎回大変だな・・・そして、俺も周囲からそう思われるのか・・・・・・。)」
恵美「どうしたの?行くよ?」
ボウズ「・・・・・・おう。」

どこか引き攣ったような顔で返事をした後は、仏頂面になり、先に部屋を出て行く恵美の背中を追った。
歩くと、肩の痛みが一層引き立った。

その頃、廣瀬家では・・・。

亜紀「ね、ウォークマンで最近やり取りしてないよね。」
朔「あ〜・・・言われてみれば。今は・・・。」
亜紀「朔ちゃんが持ってるハズよ。」
朔「そうだっけ・・・?」
亜紀「・・・・・・・・失くしたとか言わないでしょうね?」
朔「いくら俺でもそれはない。大丈夫。」
亜紀「でも、朔ちゃんのそういうところは当てにならないから・・・。」
朔「ずいぶんと気分を悪くするようなことを言ってくれるじゃない。」
亜紀「もちろんそういうところがないと朔ちゃんじゃないんだけど・・・ウォークマンを失くしたとなったら、2人の絆を疑っちゃうな・・・。」
朔「失くしてないってば。」
亜紀「なら、安心できるんだけどね。」
朔「じゃ、久しぶりにテープに入れてみようか?」
亜紀「いいメッセージを期待してる。」

その時、下から綾子が呼ぶ声がした。
夕飯が出来あがったという。

亜紀「行こう。」
朔「大丈夫?ここで食べてもいいんだよ?」
亜紀「朔ちゃんも心配性だね。大丈夫よ。」

亜紀が何事もないように言うので、朔はどこかに心配しつつも、一階に亜紀を先頭に降りていった。

綾子「降りてきたわね。」
亜紀「ん?この匂いはカニクリーム!」
綾子「正解。」
亜紀「何かお祝い事あったっけ?」
綾子「朔くんの就職祝いね。」
亜紀「今さら?」
綾子「もちろん・・・本来なら4月にしたかったけど、朔くんも忙しかったからね。今日だって、朔くんがいるのは久しぶりでしょ。」
亜紀「そういえばそうね。」
朔「すみません。気を遣わせてしまって。」
綾子「いいのよ。でも、亜紀はコロッケなしね。」

思わぬ綾子の言葉に「何で?どうして?」と、憤慨気味の亜紀。

朔「まあまあ。」
綾子「これ、朔くんが全部食べていいのよ。」
亜紀「私は!?」
綾子「病人にはおかゆが定番じゃない?」
亜紀「もう大丈夫!治ったって!」
綾子「フフ。冗談よ。」
亜紀「もう・・・。」

そんな様子にニヤついている朔だが、そんな様子に気付いた亜紀は朔の手をつねった。

朔「!!!」
亜紀「バカ。」

亜紀が綾子に聞こえないように朔に軽く毒づく。
「また尻に敷かれるのかな・・・?」などと、戦々恐々となりながらもテーブルについた。
香ばしい匂いが漂う。亜紀の作ってくれるカニクリームより良い匂いがする。

亜紀「いただきます。」
朔「いただきます。
綾子「どうぞ召し上がれ。」
亜紀「今日、お父さんは?また遅いの?」
綾子「うん。最近、結構楽しんでるみたいよ。」
亜紀「ふ〜ん・・・。」

その時、綾子が朔の箸が進んでない事に気づいた。
そのことを聞くと、「おじさんを待たなくてもいいのかなって・・・思ったんです・・・。」と朔は言う。

綾子「気にしなくていいわよ。」
亜紀「そうだよ朔ちゃん。」
朔「じゃあ、遠慮なくいただきます。」

カニクリームコロッケをひとくち、口に入れる。
とてもいい味だ。

朔「やっぱりうまいですね。」
綾子「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。」

すると、亜紀は朔が答えに困るような質問をわざとした。

亜紀「じゃ、私のと、お母さんのとだったらどっちがおいしい?」
朔「あう・・・・・・。」
綾子「亜紀、それは朔くんも答えづらいでしょう?わざと困らせるのはやめなさい。」
亜紀「わざとじゃないよ。純粋に聞きたいだけ。」
朔「正直に言っていい?」
亜紀「いいよ。」
朔「やっぱりおばさんかな・・・もちろん亜紀のもうまいんだけど。」
亜紀「やっぱりそうだよね。まだまだお母さんには敵わないなぁ。ハハハ・・・。」

分かっていても、少しだけガッカリした亜紀がいる。
朔はそれに気付かずとも、綾子はなんとなくそれを察していた。
その時、真が帰宅した。

続く
...2005/09/18(Sun) 23:19 ID:3CCZSLOA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:サイトのファン
たー坊さんへ
執筆お疲れ様です!!
まとめて拝読させて頂きました。
3組での夢島は本当に幸せそうで
心が温まりますね。
ノゾキの場面は最高でした。
サクは職業がらか、人格者になりましたね。
話しは変わってしまいますが
ボウズの父は相変わらず怖いですね!!
ボウズと恵美の関係もだんだん深まり
これからがスゴク楽しみです。
サクも廣瀬家の一員みたいに溶け込んでいて
真はもう、怖くなくなったみたいですね??
サクと亜紀を含め、3組のどのカップルが
一番早く結婚するのか興味深々です。
続編、楽しみにしております!!
...2005/09/19(Mon) 01:25 ID:HORHBXoA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 たー坊様
 ボウズの父は,第1話の学年主任の告別式の後,法衣を着たまま「手伝え」と蹴りを入れるなど「荒法師」のようなキャラでしたが,ここでも相変わらずですね。ボウズもなかなか煩悩を断ち切れないようで,聖職者への道は険しそうです。
 サイトのファンさんも言われるように,この先,3組のうち真っ先にゴールインするのはどのカップルか,目が離せなくなってきました。
...2005/09/19(Mon) 23:51 ID:DV0xRJyE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
サイトのファン様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
夢島でののぞき事件は、龍之介にそそのかれて(多少は自分の意思もあります。)してしまったわけですが、その代償は結構大きかったです。
ボウズの父と恵美の思わぬコンビネーションに、ある意味、本山での修行や荒行よりも恐ろしさを感じたことでしょう。
あらためて、父親の恐ろしさと恵美の芯の強さを思い知ったことでしょう。
これからもお読みいただければ幸いです。

にわかマニア様
お久しぶりです。コメントをいただきましてありがとうございます。
ボウズの父は相変わらずで、年を取ったことのによって、さらに凄みが増しているかのように思えましたので、形に致しました。
ボウズの煩悩は、普段抑えることができても、そそのかされると一気に増幅し爆発するようです。
やはり、まだまだ修行中の身なのでしょう。
さて、結婚ネタですが、近いうちに変化があるかもしれません。気長にお待ちください。
これからもよろしくお願いいたします。
...2005/09/20(Tue) 22:18 ID:jVM2TK5.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
真「ん?・・・何か良いことでもあったか?」

鍵を開けて玄関に入ると、香ばしい匂いが真の食欲をそそる。
それに導かれるままにリビングに入った。

真「・・・。」
朔「あ、お邪魔してます。」
綾子「おかえり。」
亜紀「おかえりなさい。」

“なぜ、夕食の時間に朔がいるのか?”
“なぜ、夕食のメニューがカニクリームなのか?”

不思議そうな顔をする真に、亜紀が「どうしたの?」と一言。
真はそれには答えずに朔に尋ねた。つい、昔ながらの仏頂面のままで。

真「何で、家にいるんだ?」

真は、ただ疑問に思ったことを口にしただけだったのだが、さっきまでの暖かい家庭の温もりは一瞬にして消え去り、場は一瞬にして凍りついた。
朔は思わず咽てしまい、亜紀は慌てて背中をさすってあげた。
自分の言葉と表情に大きな問題があったことに気が付いた真は、「あ、すまん。」と言うしかなかった。

綾子「今日、亜紀が体調崩してたのよ。」
真「昨日のが原因か?」
綾子「そうみたい。それで、朔くんがわざわざ様子を見に来てくれたのよ。」
真「それはそれは。わざわざ済まないな朔。」
朔「いえ。」
真「でも、何でカニクリームなんだ?」
亜紀「朔ちゃんの就職祝いをしてないでしょ。」
真「・・・あぁ。そういうことか。」

そういうと、真はテーブルについた。

綾子「ちょっと待って、温めなおすから。」
真「ついでにビールも頼む。コップはもちろん・・・。」
亜紀「4つ!」
真「綾子が飲むにしても3つだ。」
亜紀「私、本当に大丈夫だよ!」
真「娘はこう言っておりますが、先生はどう思われますか?」
朔「そうですね・・・まだ早いでしょう。明日以降、元気なら飲んでも構わないと思いますよ。」
亜紀「朔ちゃん!」
朔「夢島でも飲んだじゃない。」
亜紀「そうだけど・・・。」
真「我慢しなさい。」
亜紀「はーい・・・。」

と言いつつも、頬は膨れている。
「亜紀。」と真が言うとそれを引っ込めた。まるで子供のような振る舞いだ。
もしかしたら、さっき朔が「亜紀のカニクリームより、おばさん(綾子)のカニクリームのほうが旨い。」と言ってしまったのが原因かもしれない・・・・・・。

しかし、酒を酌み交わす男2人のこの姿を見て、亜紀も綾子も嬉しそうに微笑んでいた。
朔と真はそれぞれの仕事についてをメインに話が弾んでいる。
その様子を見ていた亜紀に綾子が目で合図を送る。

亜紀「(何?)」
綾子「(将来はそんなに問題をなさそうね。)」
亜紀「(その前に、朔ちゃんにどうやってプロポーズさせるかなの。)」
綾子「(え?)」
亜紀「(朔ちゃんは、とってもシャイだから未だに“愛してる”って・・・。)」
綾子「(言ってくれないのね?)」
亜紀「(うん。)」
綾子「(大丈夫よ。その時が来たらちゃんと言ってもらえるものだから。)」
亜紀「(その保証の根拠はどこからくるの?)」
綾子「(お父さんがね、そうだったのよ。)」
亜紀「(・・・・・・お父さんと朔ちゃんはちがうでしょ!)」
綾子「(今はそう思うかもしれないけど、後でちゃんと言ってくれるから。お父さんと朔くんって、似ている部分が結構あるのよ。)」
亜紀「(嘘っぽいなぁ。)」
綾子「(あと何年かしたら分かるわよ。)」
亜紀「(そうかなぁ・・・そうだといいけど・・・・・・。)」

などと、目だけでやり取りをしたかどうかは定かではないが、微笑ましい光景に目を細める2人。
そして、そんな様子に気付いた真と朔。

真「どうかしたのか?」
綾子「いえ。」
朔「亜紀も・・・。」
亜紀「母娘の秘密のテレパシー。」
朔「何それ?」
亜紀「何でもいいの。」
綾子「そういうこと。さ、もっと食べて。」

そう言った後、どこか悪戯っぽく笑う亜紀と綾子に、朔と真は首を傾げるばかりだった。
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真は、酔いがまわったのか、食事を終えるとすぐに寝てしまった。
綾子が寝室の戸を閉める時には、寝息をたてそうな勢いだった。
リビングに戻ると、朔と亜紀が談笑していた。

綾子「本当に仲がいいのね。何でそんなに仲がいいのかしら?」
亜紀「それは・・・・・・ね?」
綾子「病気のこともあったけど・・・まさか、ここまで続くとはお母さんは思ってもみなかったの。」
朔「俺、信用されてなかったですよね。絶対。」
綾子「亜紀が倒れてからは私達にも余裕がなかっただけのことよ。からかわないの。」
朔「すみません。」
亜紀「私、見る目あるでしょ?」
綾子「そうね。もし、朔くんが亜紀を下さいとか言う時には、私は大喜びで結婚させちゃうわね。」
亜紀「お父さんは?」
綾子「反対なんてしないでしょ。最初こそ水と油かな、なんて思ったこともあったけど、今はそんなこともないのよ。相変わらず無愛想なのは、お父さんが不器用だから。・・・結構、朔くんのことは気に入ってるし、認めているみたいね。」
亜紀「だって。良かったね、朔ちゃん。」
朔「・・・・・・。」
亜紀「どうしたの?」
朔「プレッシャー。」
綾子「大丈夫よ。そう遠くない未来に、あっさりと言ってしまうものだと思うわ。」
朔「そうですかね・・・?」
亜紀「そうね。普段は行動で示せているんだから大丈夫だよ、きっと。」
綾子「亜紀は、どんな風に行動で示してもらっているの?」
亜紀「東京の時なんてね・・・・・・。」
朔「ちょっと・・・亜紀・・・。」
綾子「一緒に寝てたんでしょう?」
亜紀・朔「えっ?」
綾子「亜紀の寝言。声が大き過ぎるんだもの。」
亜紀「き、聞こえてたの?」
朔「・・・・・・・・・・・。」
綾子「そういうこと。」
亜紀「恥ずかしい!」

亜紀は、今にも顔から火が出そうになっている。
朔も同じように顔を真っ赤にして無言で俯いている。

綾子「もう25なんだから何をしてもいいけど、ちょっと無防備すぎるんじゃない?」
亜紀「そんなことないよ!朔ちゃんは本当に信頼できるんだから。」
綾子「そうね。それは間違いないわね。」
亜紀「だったら、聞かないでよ!」

亜紀は恥ずかしさを隠すために、わざと怒ったフリをして「朔ちゃん。」と、なかば強引に朔を自分の部屋に連れて行った。

綾子「まだまだ子供の部分もあるものなのね・・・。」

そういうと、食器の後片付けを始めた。

一方、亜紀は部屋に戻るなり、部屋のドアを勢いよく閉めた。
そして、怒ったような表情のままベッドに入って布団を頭からスッポリと被った。

朔「どうしたの?」
亜紀「ゴメンね。料理下手で。」

亜紀のリベンジが始まった。

朔「だって、亜紀はまだ主婦じゃないし・・・何より年季が違うじゃない。」
亜紀「慰めの言葉なんていらない。」
朔「なあ、それくらいで機嫌を損ねないでよ。」
亜紀「だって、悲しい。」
朔「結婚したら、自然と料理の腕前も上がるからさ。」
亜紀「じゃあ、結婚しようよ。」
朔「あと、2年は待って。3年間無事に勤めたら自信をもって1人前って言えるからさ。」
亜紀「本当?」
朔「「本当だよ。」
亜紀「ちょっと安心した。」

亜紀は、笑顔になって布団から顔を出した。

朔「さてと・・・明日もあるからそろそろ帰るよ。」
亜紀「もう帰っちゃうの?まだ9時前だよ。」
朔「明日はちょっと早いんだよ。」
亜紀「そっか、それなら仕方ないね。」
朔「じゃあ、ウォークマンはポストに入れておくから。」
亜紀「うん。」

朔が部屋を出ようとすると、亜紀も後に続こうとする。
しかし、

朔「いいから。寝てなよ。」
亜紀「もう!朔ちゃんのおかげでよくなったってば。」
朔「どれどれ?」

朔は、再びおでこに手を当てる。さっきと同じように熱を測る。
確かにさっきよりも回復しているように思える。机の上にあった体温計を亜紀に手渡した。

亜紀「あっち向いてて。」
朔「え?」
亜紀「もしかしたら、下着が見えちゃうかもしれないでしょ。」

朔は慌てて反対側を向いた。待つこと1分、“ピピピ・・・”と音が鳴った。
確認すると、36・7℃。

朔「下がったね。」
亜紀「明日から学校に行くぞー。」
朔「油断禁物。今日はしっかり寝ること。」
亜紀「うん。朔の言うとおりにするよ。」

こうして、思いがけず廣瀬家で楽しいひとときを過ごした朔は、翌日も張り切って仕事に励んだのであった。
亜紀もまた、すっかり体調は万全だったので、大学へと出かけていったのである。

続く
...2005/09/21(Wed) 22:06 ID:ZQTZXlzA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
 こんばんは、ター坊様。長い間ご無沙汰しております。夢島では、色んな出来事が起こった見たいで、相変わらず介ちゃんとボウズのスケベ心は、昔のままですよね(笑)二人に比べれば朔は、成長しているのか、亜紀に調教されているのか、どっちなんでしょうか?でも、亜紀に対する思いやり・優しさは計り知れない感じがします。         一方、ボウズの父は、昔とちっとも変わってないし、凄〜く恐ろしいですが、恵美も少しやり過ぎではないでしょうか?(共犯だから仕方ないかな)  
...2005/09/22(Thu) 19:42 ID:O1QsFF62    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
お久しぶりです。一気にお読みいただいたようで、とても大変だったのではないでしょうか?ありがとうございます。
ボウズと龍之介の下心は8年経っても健在です!一方の朔は、亜紀の教育もあってか露骨な真似はしなようです。もっとも、2人組にくらべれば、全然スケベの度合いは低いと思われます。
また、恵美はやりすぎとのことですが、実はこれ、亜紀の受け売りです。船で夢島から戻るシーンにそれらしいセリフがありますので、ご覧になってみてください。
次回もお読みいただけたら幸いです。
...2005/09/22(Thu) 22:51 ID:pxSrnANE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
”好きよ・・・朔ちゃん。大好きだよ。”

自分のこの一言から全てが始まった。ずーっと朔を想い続けて、傷つけ合う時もあったが、ひとつづつ確実に乗り越えてきた。
いくつもの障害があったからこそ、いい面も悪い面もひっくるめて朔のことが大好きなんだろうな・・・。
でも・・・・・・。

亜紀「はい、今日で1ヶ月。」

就寝直前、自分の部屋のカレンダーを見て不機嫌そうに独り言を言う。
あれから朔とは全然会っていない。
最近の朔は多忙を極めているために、約束通りにテープはポストに入れて置いてくれるものの、会うことはかなっていないのである。

1、朔ちゃんは、今後は1ヶ月間などという、長い時間、いかなる理由があろうとも、私をほったらかしにしないこと。
2、お互い、可能な限り、最低、週に一度は、10分くらいの短い時間でもいいので、会う時間を作ること。
3、お互い、どうしても、2番のことができない時は、テープあるいは、電話でお互いの声を聞かせること。
4、朔ちゃんは、どんな形でもかまわないので、自主的に私に愛情表現をすること。

亜紀は、以前に誓約書として朔に渡した内容を思い出していた。
「1番に該当してるよ、朔ちゃん。」と言いつつ、机の上の朔の写真たてを“パタン”と裏返しにした。

ベッドに入り、2日前に届けられたウォークマンのイヤホンを耳に装着した。
“カチ”と再生ボタンを押すと、“サー”と言う音の後に朔の声が聞こえてきた。

テープ朔「こ、こんばんは。」
亜紀「こんばんは。何でそんなにオドオドしてるの?」

返事をもらえる訳ではないのだが、思いっきり嫌味を込めて言ってみる。

テープ朔「あの、本当に最近のことはごめんなさい。」
亜紀「本当にそう思ってるのかなぁ?」
テープ朔「でも、そろそろ落ち着いてきました。」
亜紀「じゃあ、会おうよ!」
テープ朔「亜紀のことだから今頃これを聞いて大いに膨れていると思います。」
亜紀「分かってるじゃない。」
テープ朔「明後日、俺の誕生日に会いたいから、家に来てください。」
亜紀「いいよ。」
テープ朔「それと・・・。」
亜紀「なぁに?」
テープ朔「・・・何となくこういう気持ちになりました。」
亜紀「何?」
テープ朔「愛してます。世界中の誰よりも・・・。」

テープはそこで途切れていた。
“カチッ”
亜紀はすぐさま巻き戻しボタンを押した。

テープ朔「それと・・・・・・何なくこういう気持ちになりました。」
亜紀「・・・・・・。」
テープ朔「愛してます。世界中の誰よりも・・・。」
亜紀「嘘・・・。」

亜紀は再び巻き戻してその部分だけを聞いた。

亜紀「夢じゃないよね?」

夢ではない。確かな現実がそこにあった。
亜紀は、もう飛び上がらんばかりに喜んですぐに写真たてを元に戻した。
すぐに着替えて松本家でも稲代総合病院でも構わない。どこでもいいから朔に会いたい。
そんなことを思ったのだが自重した。
「明後日を待とう。楽しみにしよう。」と思った。
アルバムの中から朔が写っている一枚を見つめた後、ふともう一枚の写真が目に入った。
それは、8年前に撮った結婚写真・・・。

亜紀「8年も経ったけど、変わっているのかな・・・私たち。」

写真の中にいる自分たち・・・。
もう形だけじゃない結婚写真を撮れる日もすぐそこに来ている・・・。
亜紀はそんな期待をせずにはいられなかった。

亜紀「明後日が本当に楽しみ・・・。おやすみ朔ちゃん。」

写真たての中にいる朔とひと時の別れ。
               ・
               ・
               ・
               ・
               ・

そして翌朝・・・。

亜紀「いってきまーす!」

ここ最近とはうってかわって、亜紀は元気よく大学に向かった。
そのかわりようは、綾子も首を傾げるばかりだ。

真「どうした?」
綾子「このところ、少し元気がないって思ってたんだけど・・・。」
真「悩みでも解決したんじゃないのか?」
綾子「そうね・・・。」
真「じゃあ、行って来る。」
綾子「気をつけていってらっしゃい。」
真「帰りは・・・8時か9時だな。」
綾子「ねえ?最近帰りが遅いけど・・・そんなに忙しいの?」
真「ああ。今のうちに片付けときたい仕事があってな。」
綾子「もう年なんだから無理もほどほどにね。」
真「まだまだ。若い者には負けんさ。」

そう言う真も、頭に白いものが目立ち始めた。時間の流れを感じさせる・・・。
車に乗り込む真を、綾子はどこか寂しげな表情で見つめていた。

続く
...2005/09/24(Sat) 00:01 ID:Xzg2Act2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
 おはようございます!ター坊様。  ”好きよ…朔ちゃん。大好きだよ。”      この言葉から、二人の純愛が始まったんですよね!今でも脳裏に当時の事が、鮮明によみがえります。 朔が亜紀の家に行って、もう1ヶ月が経ったんですか?亜紀の心の中の思いが分かります!あれは8年前の9月1日始業式の夜、病室のベッドの上で、入院する前の朔からのテープを聴きながら、今回と同じような場面がありましたよね。あの時は、亜紀はもちろんですが、自分も凄く切ない気分になりました!(多分、自分だけではない) でも今回、依然とは状況が全然違うし、「愛してます。世界中の誰よりも…。」愛情表現の下手な朔が、このような言葉をテープに吹き込む事態が驚きです!何か亜紀を驚かせるようなプランを用意しているのでしょうか・・・?次回がとても楽しみです!
...2005/09/24(Sat) 09:40 ID:Y29nx6yo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 太陽が西から昇る夢を見て何やら胸騒ぎを感じていたところに,このストーリーを見て驚きました。サクからの告白!
 谷田部と亜紀の入れ替わった順番を元に戻したのに続いて,ついに2つ目の「禁断の扉」を開けてしまったのですね。「パンドラの箱」のように災いが続出しないことを祈っています。電車男さんと同様,何か亜紀を驚かせるようなプランが飛び出してくるのか,次回をとても楽しみにしています!
 それにしても気がかりなのは,まだまだ若い者には負けないというエネルギーの矛先を誰かが一身に引き受けることになるのでしょうか。
...2005/09/26(Mon) 08:38 ID:yslTgtjQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
今回は、朔に亜紀への想いの丈をテープに吹き込んでもらいましたが、2人にとって特別なイベントは特にあるかもしれませんし、ないかもしれません(苦笑)
しかし、何らかの変化はあるかもしれませんが・・・・・・。
次回もお読みいただければ幸いです。

にわかマニア様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
「パンドラの箱」に「禁断の扉」ですが、ご心配なさらないで下さい。災いは続出することはないと思います。特に亜紀は、以前の物語で夢島において1日のうち2度も怖い目に遭っていますから。
次回以降も幸福路線でいきます。基本的なスタンスはほのぼの路線ですので。
真については活躍の場があるかもしれません。
これからもよろしくお願いします。
...2005/09/27(Tue) 19:26 ID:6najmbUo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
翌日。
秋雨前線の影響も収まり、街を闊歩する人々の服装にも冬の様相が多くなってきた。

芙美子「ハァ・・・。」
亜紀「分かるよ、その気持ち。」
芙美子「この不景気を恨むわ・・・。」

来年に本格的に始まる就職活動へ向けての大学の説明会を終えた亜紀と芙美子は、帰りに学生たちがよく利用するカジュアルショップに寄ることにした。

芙美子「バブルの時ってすごく楽だったらしいよ。」
亜紀「話を聞くとそうだよね。」
芙美子「企業の説明会や面接に行ったりすると、物とかもらえたりしたところも・・・。」
亜紀「それ、本当?結構誇張してると思うけど・・・。」
芙美子「何か、ここまで厳しい状況だと働く不安以上に就職活動に恐怖すら感じるわ。」
亜紀「・・・・・・・・・。」

芙美子の言葉は亜紀にも重なる部分があった。夢島で朔にこぼしそうになったその言葉を飲み込んだのだが、現実にそれが近づいてくると亜紀にも不安を通り越した恐怖心みたいなものを覚えている。
「朔は自分より厳しい状況で勝ち得たのだから、こんなことを言ってはいけない。」と、自分に言い聞かせて来年を見据えている。2人の脳裏には「働いていけるのだろうか?」という不安の前に「就職できるのだろうか?」という現実が横たわっていた。

店の中に入った2人。

亜紀「気分転換しないとね・・・。」
芙美子「世の中捨てたものじゃないと思うけど・・・やっぱり悲観しちゃう・・・。」
亜紀「こういう時こそ、好きな人のことでも考えないとね。」

そう、亜紀は明日に迫った朔の25回目の誕生日にセーターをプレゼントしようとこの店
に入った。

芙美子「忙しい・・・。」
亜紀「うん・・・。本当なら手編みのセーターにしたいけど・・・。」
芙美子「いいじゃん。気持ちがこもってれば。」
亜紀「そうだよね。後は手料理でも食べさせますか!」

そういうと2人は笑い合った。
亜紀が選んだのは、チャコールグレーのセーターだった。
自宅の部屋に戻るなりさっそく包みを開けた。そのままプレゼントするのも気が引けた亜紀は、裁縫箱を持ち出して右手の袖口の裏に同じ色合いの糸で見つからないようにマークを縫いつけた。

亜紀「朔ちゃんもマグカップにやってくれたもんね、今度は私がやってあげるよ。」

笑顔でひと針ずつ慎重に縫い付けていく。多少乱れてはいるが、かすかに浮かび上がっているように見える。

亜紀「これでよし、と。」

出来上がったマークは“ハートマーク”だった。
かつて、朔が亜紀の誕生日にマグカップをプレゼントした時には、カップの裏に“HAPPY BIRTHDAY”“I LOVE YOU”と、2つのメッセージを書いていた。家に戻って初めてそれに気付いた亜紀は、自分の部屋に長い時間閉じこもりっきりになって、そのメッセージをずっと見ていた。
今度は自分の楽しみのために自分の気持ちをマークとしてセーターに縫いこんだ。
「いつ気付いてくれるのか楽しみ。」できあがった刺繍を見て、亜紀は微笑みながらそう思った。

そして、10月23日がやって来た。

佐々木「お疲れ。」
朔「お疲れ様でした・・・。」

今夜当直の先輩医師の佐々木が待合ロビーを抜けて自動ドアの向こうに消えて行く朔の後姿を見送りながら微笑んだ。

朔「・・・・・・・・・・・・・・ふぁ〜〜〜。」

朔は疲れきった様子で大あくびをした後、朔は亜紀の手編みのマフラーを巻いて自転車で坂を下って行く。泊まり明けの朔はあくびを連発しながらのんびり自転車を漕いで自宅へまっすぐ向かって行くのだった。

“ガラッ”と戸が開く音。「ただいま・・・。」と、言葉少なに帰宅した朔を富子が出迎えた。

富子「おかえり!」
朔「うん・・・。」
富子「ったく!『ただいま』くらい言いな!」
朔「・・・・・・言った。」

朔は半分眠ったような顔を見せてから自分の部屋に向かった。
そのまま「おやすみ・・・。」とボソッとつぶやき、着替えることもせず、ベッドに倒れこみ、枕に突っ伏したまま寝てしまった。
                   ・
                   ・
                   ・
午後6時半・・・。

松本家の玄関が開いて、芙美子と亜紀が帰宅した。
亜紀の手には、ケーキの箱が握られている。

芙美子「ただいまー。」
亜紀「おじゃましまーす。」

この通り元気いっぱいの2人。就職説明会はひとまず置いといて、今日は朔の誕生日を祝うことに気持ちを切り替えている。

富子「おかえり。亜紀ちゃんわざわざありがとうね。」
亜紀「いえいえ。朔ちゃんは?」
富子「泊まり明けだから寝てるんじゃない?」
亜紀「あらららら・・・。」
芙美子「甘えられなくて残念でした。」
亜紀「こら、からかわないの!」

富子は台所、芙美子は自分の部屋へ。
亜紀は朔の部屋に行き、そっと戸を開けて朔の様子を見る。

亜紀「だらしないんだから・・・。」
朔「スー・・・・・・・。」

亜紀の目に入ってきたのは、下はスーツの、上は長袖の白いワイシャツのまま、顔を少しだけ横に向けて泥のように眠る朔と、以前に亜紀が朔に選んだネクタイが、ポツンとハンガーに掛けられていた。

亜紀「先にご飯食べちゃうぞ。」

亜紀は台所に戻って、松本家一家と朔のいない夕食を潤一郎の帰宅を待って楽しんだのだ。
その後、再び朔の部屋に様子を見に行った亜紀。今度は、夕食と今日持参した2人分のケーキを朔の部屋に持って入ってきた。

亜紀「朔ちゃん、起きた?」
朔「・・・・・・スー。」
亜紀「怒らないから、早く起きてね。」
朔「う・・・ーん・・・・・・スー。」

少しの間、朔の無邪気な寝顔を愛おしそうにジーっと見つめ続ける亜紀。その表情は亜紀も無意識のうちに笑みをたたえている。
朔が起きるまでの間、今日の説明会の資料に目を通していた。
その時・・・。

朔「ん〜・・・・・ん・・・ふぁ〜〜〜〜。」
亜紀「起きた?」

亜紀は起き上がった朔に話しかけるのだが、朔は相当寝ぼけている様子で頭をポリポリ掻いた後、亜紀の方を向いた。
しかし・・・。

朔「・・・・・・。」
亜紀「朔ちゃん?」
朔「・・・うわぁっ!!」
亜紀「!!・・・どうしたの?」
朔「あ・・・なんだ・・・亜紀か・・・。」

亜紀に気付くまでには、ボーっとしていたようで、その存在を認識した時には、とても驚いた朔だった。

亜紀「お疲れ様。」
朔「うん・・・あれ?今、何時?」
亜紀「8時すぎ。」
朔「あ、結構寝てたなぁ。」
亜紀「私が来たときなんて、可愛い寝顔だったよ。」
朔「はいはい。」
亜紀「ご飯持ってきてあげたし、それにほら!」

亜紀はケーキの入った箱を取り出して見せて、「顔洗ってきて!」と朔を洗面所に送り出した。大急ぎで朔が顔を洗い、サッパリした様子で戻ってくると、亜紀が夕食の準備とケーキの準備をしていた。

朔「いただきます。」
亜紀「召し上がれ。・・・でも、今日はおばさんの手料理だけど・・・。」
朔「亜紀も忙しいだろうし仕方ないよ。」
亜紀「次のお休みに作らせて。」
朔「楽しみにしてる。」

朔の夕食を待って、せめてもと選んできたケーキを2人で食べる。
そして、亜紀の楽しみがこもったセーターを自分でもう一度包んで朔に渡した。

亜紀「はい。」
朔「ん?」
亜紀「25歳の誕生日でしょ。」
朔「あ、そっか。・・・どうりでケーキが出てくるわけだね。」
亜紀「自分で言って忘れてたの?もう、しょうがないなぁ(笑)」
朔「泊まり明けって、時間の感覚がおかしくなるんだよね。(苦笑)」
亜紀「ふふっ、おめでとう。」
朔「ありがとう。開けてもいい?」
亜紀「どうぞ。」

丁寧に包みを開けた朔。中から出てきたチャコールグレーのセーターに思わずニンマリ。さっそく、そのまま着てみた。

朔「どう?」
亜紀「似合う!我ながら良い物を選べたかな。」

サイズもピッタリ。亜紀の朔に対するコーディネートは毎回素晴らしいものがある。

亜紀「ハッピバースデイトゥユー。ハッピバースデイトゥユー。ハッピバースデイディア朔ちゃーん・・・ハッピバースデイトゥユー・・・。」
朔「(普通、ケーキを食べる前に歌うんじゃ?)あ、ありがとう。」

少し違和感を覚えながらも亜紀の心遣いに嬉しさを隠せない朔。
1ヶ月ぶりに過ごせる2人きりの時間を満喫した朔と亜紀。
明日、朔は昼から仕事、亜紀も朝から学校があるので、9時半少し前に朔は亜紀を送っていくことにした。

続く
...2005/09/27(Tue) 20:16 ID:6najmbUo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
時が過ぎるのは早いもので、亜紀と芙美子は来年就職なのですね。朔が25歳ということは1995年ということでしょうか。この年は色々暗いニュースが多かったですが、野茂投手がメジャーリーグにデビューし、まだ日本にいたイチローの活躍が神戸の人々を元気づけた年でもありました。
...2005/09/27(Tue) 21:21 ID:No73SyGU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:clice
たー坊様
いつ読ませて頂いても、それぞれの役柄そのままの会話にほんと上手いなーと思います。
私の話では朔は緒方さんですから、亜紀が死ななかったら山田君の朔はこんなんだよなとか思い、そのことは朔太郎を理解する上でもとても参考になります。
個人的には綾子さんのしゃべり方が好きですね、もう見えるようです。そして母親として娘の成長を見守れる幸せという部分も・・。
先日はこちらの話に感想を頂きありがとうございました。
先が読めないというのは、書いてる者としてはちょっと嬉しいコメントです。
そしてそれは私も同じで、これからの二人と周りの人達の今後のことはとても楽しみです。どこか裏と表のような世界、これからもよろしくお願いします。
...2005/09/28(Wed) 22:27 ID:1DGRMlTo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
時は95年、ちょうど10年前の今くらいでしょうか。この年は、本当にいろいろなことがありましたが、あえてここで書くのは明るい話題です。
といっても、SATO様と私の書くことは同じような部分が多いです。
やはりイチローですね。当時はあの振り子が斬新で、当時はとてもマネしてました。もちろん、野茂のトルネードもです(笑)おかげで、現在もその動作が身に着いてしまっています。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

clice様
お疲れ様です。いつもお読みいただけているとのことで、大変嬉しく思います。
また、お褒めのお言葉には恐縮です。
私の物語など参考になるようなものではないような気もしますが・・・(苦笑)
でも、私はclice様の物語を毎回楽しみにして、やはり、参考にさせていただいております。特に、松本家夫妻と廣瀬家夫妻の会話には、いつも助けていただいております。
これからも、お互いに頑張っていきましょう。
よろしくお願い致します。
...2005/10/01(Sat) 01:14 ID:ezFi.8AQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
廣瀬家の前まで来たとき朔がいつもと違う様子に気付いた。

朔「あれ?電気点いてないよ。」
亜紀「お父さんいないのかな。」
朔「おばさんは?」
亜紀「泊りがけで同窓会に行ってるの。」

鍵を開けて中に入りリビングに入ると、テーブルの上に置手紙があった。
真からの物だった。

亜紀「お父さんも事務所だって。」
朔「仕事?」
亜紀「たぶんね。」

その時、電話が鳴った。
すかさず、亜紀が受話器を取る。

亜紀「はい、廣瀬です。」
真「俺だ。」
亜紀「お父さん。・・・仕事?」
真「ああ。泊まりになりそうだ。」
亜紀「着替えは?」
真「着替えは、さっきの手紙を置いた時に持って来てあるから心配ない。」
亜紀「ご飯は?」
真「さっき食べた。心配ない。」
亜紀「分かった。」
真「じゃあな。明日の午前中には戻る。」
亜紀「ヤダ、お父さん。私、学校だよ。」
真「そう・・・だったな。・・・亜紀、戸締りはしっかりするんだぞ。」
亜紀「ほら、また子供扱いしてる・・・。」
真「俺と綾子にとっては、お前はいつまでも子供だ。」
亜紀「はーい・・・。」
真「じゃあな。」

真が電話を切るのを待って、亜紀も受話器を置いた。

亜紀「お父さん泊まりだって。」
朔「そっか。」

亜紀は軽く頷き、冷蔵庫からコップに2人分の飲み物を持って来た。

朔「ありがと。」
亜紀「いえいえ。」
朔「じゃあ、俺、これ飲んだら帰るから。」
亜紀「えっ?」

驚いた様子を見せる亜紀に、朔は「え?」と返す。
亜紀が不機嫌な顔つきになることに朔は気付いた。

亜紀「どうして?」
朔「え?何が?」
亜紀「この家に私を一人きりにするつもり?」
朔「明日、亜紀は学校でしょ?」
亜紀「誰もいない夜に一人きり・・・寂しくて眠れない。朔ちゃんの声と優しい温もりが無いと泣いちゃう。」
朔「亜紀はそんな性格じゃないだろ。」
亜紀「そうでした。」

亜紀はとぼけたようなフリをして、朔を玄関先で見送った。

それから40分後、誰もいないリビングで溜息混じりにテレビを見ていた亜紀。突然インターホンが部屋に鳴り響く。
「こんな時間に誰だろう?」と思いながらも

亜紀「はい?」

そう言ってドアを開けると、そこには朔が立っていた。

亜紀「どうしたの?」
朔「遊びに来た。」
亜紀「・・・・・・何時だと思ってるの?」
朔「まだ10時過ぎ。・・・泊まるから。」
亜紀「え、ホント?」
朔「ホント。」
亜紀「ホントにホント?」
朔「ホントだよ。」
亜紀「あがって、あがって!!」

亜紀は朔の手を引っ張り、家の中へ招き入れてすぐに、鍵を掛けた。

亜紀「これで眠れる。」
朔「俺がいなくても眠れるってば。」
亜紀「夜に一人きりだと寂しいものよ。」
朔「赤ん坊じゃないんだから・・・。」

いつも先に風呂に入らせてくれる朔を、今日は先に入らせた。
亜紀は脱衣所に朔が持参した着替えとバスタオルを用意する。もちろん、とても喜びながら。朔の為にできる行動・・・。嬉しくて嬉しくてしょうがない。

ガラス戸越しに、亜紀が朔に声を掛けた。朔は慌てて湯船に深く体を沈める。

亜紀「朔ちゃん。」
朔「んん?!」
亜紀「心配しなくても開けないよ。それとも一緒に入ろうか?」
朔「できればそうしてもらった方が嬉しいんだけど・・・。」
亜紀「いいよ。ちょっと待ってね。」
朔「えっ!?」

すると、戸の向こう側では、亜紀が服を脱ぐシルエットとともに、“パサッ”と服が床に落ちる音が聞こえ始める。

朔「ほほほ・・・ほ・・・ほ、本当に!?」
亜紀「今日は朔ちゃんの誕生日だもの。偶然にも両親いないしね。」
朔「いいい・・・い、いいの?」

あまりのことに興奮し、発する言葉もまともではない。
そんな朔の様子を感じ取り可愛いとすら思う亜紀は、なおも色っぽく服を脱ぎ続ける。
ゆっくり、朔を焦らすように・・・・・・。
そして・・・。

亜紀「朔ちゃんお待たせ!!」

そう言うと、亜紀は勢いよく戸を開けた。

朔「あ、あ・ああ・・・・・・。」
亜紀「どう♪?」
朔「・・・・・・・。」

それほど厚みがない真っ白なバスタオル1枚に身を包んだ亜紀が、浴室の入り口で悪戯っぽく微笑みながら、セクシーポーズをしてみせる。
朔は、完全に魂を抜かれてしまった。
そのまま亜紀は浴室の中へ・・・・・・しかし・・・。

亜紀「そんな訳ないでしょ。」
朔「・・・・・・へっ?」
亜紀「さすがに2人で一緒に入ったら狭いと思うし、緊張してリラックスできないじゃない?」
朔「そんなこと無いと思うよ!」
亜紀「そんなことあるよ。」
朔「だって、風呂って本当にリラックスできるうえに、亜紀が入ってきたらいい香りがして、もっと癒されるし・・・・・・だから!」

千載一遇のチャンスを逃すまいとの本能が朔の語気を荒くさせる。
しかし、そんな朔の様子に怯むことなく亜紀が言い返した。

亜紀「バカなこと言ってないの!バスタオルとか置いておくからね。」
朔「・・・・・・・ありがとう。」

結局、亜紀はバスタオルを体に巻きつけて朔に見せ付けただけであった。
最後には、湯船の中に思いっきりガッカリしてふてくされる朔が残された・・・・・・。

亜紀が風呂場に向かうのと入れ替わりに朔がリビングに入ってくる。
テーブルの上には亜紀からのメモを挟んだコップにコーヒー牛乳が注がれていた。

〜〜メモ〜〜

お風呂上りの定番だよね。
市販のじゃなくて私が作ったの。
結構自信作なの。どうぞ召し上がれ。

私のお風呂上りに朔ちゃん手作りのコーヒー牛乳が飲みたい、ぞ・よ!

可愛らしい文字とともに、さりげなくもしっかりした形で朔に要求を伝えた。
朔はそれを見て、口に運びかけていたコップを置き、少し遠慮がちに廣瀬家の冷蔵庫を開けて牛乳を取り出し、あたりを見回してコーヒーと砂糖を見つけると、お湯を沸かしコーヒー牛乳を作る。

ほどなくして亜紀が戻ってきた。

亜紀「あれ?飲んでなかったの?」
朔「亜紀を待ってたんだよ。」
亜紀「気を遣わなくていいのに。」
朔「2人で飲んだほうがうまいからだよ。」

まるで、我が家のようにくつろぐ朔を見て、「お父さんが見たら、思いっきり怒られるよ。」と半分冗談混じりで言う亜紀に、慌てて朔は背筋を伸ばして玄関を見た。

亜紀が朔の作ったものを朔が亜紀の作ったものをさっそく飲む。三分の一くらい飲んだところで、味くらべとばかりに亜紀が朔の飲んでいるコップを「もーらいっ!」と奪い、一口味見をした。

朔「あっ・・・。」
亜紀「ん?なに?」
朔「いや・・・間接キス・・・。」

朔の思わぬ言葉に、亜紀は少し呆れた様子。

亜紀「間接キスの前に、私たち直接してるじゃない。」
朔「逆に新鮮だなぁってさ・・・。」
亜紀「それもそうね・・・。」

亜紀の飲んでいるのも交換した後で、2人は飲み干した。
その後、2人仲良く並んで洗面台で歯磨きをした後、亜紀は朔を連れて自分の部屋へ。

朔「どっちのがうまかったかな?」
亜紀「それは私だよ。」
朔「やっぱりそうだよな。俺もそう思った。」

明日もあるので2人は眠りについた。自分の誕生日に思いがけない幸運を得た朔は、神様と家を留守にしてくれた真と綾子におおいに感謝しているのであった。
亜紀と時間を共有できる、それも自分の誕生日に・・・。すやすやと眠る亜紀の寝顔にこの上ない幸福感を感じていた・・・。

しかし、それ以上の幸福が待ち受けていることにこの時は気付いていなかった。

続く
...2005/10/01(Sat) 01:28 ID:ezFi.8AQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。            朔も、やる時はやるもんですね!一度、帰ったふりをして、時間を見計らい、再度訪問。このフェイントがいいですね。亜紀の嬉しそうな笑顔が伝わってきます。でも、亜紀の方がやはり一枚も二枚も役者は上ですね(笑)亜紀の「一緒に入ろうか」と言う言葉に、朔の鼻の下が像さんみたいに長〜く伸びている姿が想像できますし、亜紀が風呂の戸を開けた瞬間、眼が…になって固まった姿も想像できます。ドラマの夢島での出来事が思い出されました。二人は今が一番の幸せなんでしょうね!でもこれ以上の幸福が待ち受けているんですか!?次回もとてもとても楽しみです!
...2005/10/01(Sat) 20:29 ID:anMdSoIE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
電車男さまに同じく、朔のフェイントに座布団1枚。しかし、風呂場では見事に肩透かしを食らいましたね。
その後一人で風呂に入る亜紀はポカリのCMソングを口ずさみながら涙ぐんでたかもしれませんね。もちろん朔がいてくれる幸福感を感じてのうれし泣きです(^^)
...2005/10/01(Sat) 23:53 ID:NEVrGWgQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
ただただ、唖然呆然といった感じです(^^)
手作りのコーヒー牛乳ですか・・・懐かしい味ですねえ。
もう、目をパチクリさせながら「次の幸せ」を待っております。
...2005/10/02(Sun) 18:03 ID:whSn2Anw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
10月23日は朔の誕生日なのですが、そんなことはおかまいなしに亜紀のための行動をしてます。
亜紀がまさかの行動をとった時の朔は、鼻の下が一気にのびたついでに、心拍数は急上昇だったことでしょう。
ある意味、とても印象に残る誕生日だったのではないでしょうか。
これからもよろしくお願い致します。

SATO様
お読みいただきましてありがとうございます。
結局、亜紀との入浴がかなうことはありませんでしたが、結局はわずかな厚さの布1枚しか纏わない亜紀の無防備な姿を見ることができた時点で、最高の誕生日プレゼントだったのではないでしょうか。
そして一人で入浴していた亜紀は、涙ぐむことはせずに湯船の中に頭まで沈めて、ニヤケながら喜びを噛み締めていたのではないかと想像します。
次回もお読みいただければ幸いです。

朔五郎様
ご感想をいただきましてありがとうございます。
手作りコーヒー牛乳は、さりげない亜紀の愛情です。亜紀の全てを拝む寸前のところまでいったわけですから、それに比べれば微々たる印象かもしれませんが、朔の心が豊かになることには違いないと思います。
次回は近日中にUP致しますので、お読みいただければ幸いです。
...2005/10/02(Sun) 21:58 ID:dWeE0mrg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
1995年がもうすぐ過ぎ去りそうにしていた年の瀬・・・。

「朔ちゃん。」
何度、この声に救われただろう・・・・・・?
「アハハ!」
いつもこの笑顔に励まされてきた・・・・・・。
「温かいね。」
この温もりに、何度勇気付けられただろう・・・・・・?

寝ても覚めても亜紀がいる。いつも手を繋いでいるようだ。
その時・・・。
どこからともなく声が聞こえて来た。

???「・・・・・・・ん。」
朔「ん?」
???「わりましたよ・・・さん。」
朔「え?」
???「終わりましたよ、お客さん。」
朔「・・・。」

目がパッチリ覚めた。夢の中から戻る時、朔はいつも人より時間が掛かる。
目の前には自宅の風呂場。
それでも、さっきの声の主は変わらない。

朔「・・・・・・・・・。」
亜紀「終わりましたよ、お客さん。」
朔「できた?」
亜紀「途中で寝ちゃうから苦労したんだよ。」

風呂場に置かれた椅子に座っていた朔は、亜紀に髪の毛を切ってもらっていた。いや、半ば強引に切られていた。
目の前で微笑んでいる亜紀の手には、ファッション雑誌と鏡が握られていた。
鏡を覗き込む朔。

朔「へぇ・・・。」
亜紀「似てるでしょ?」

亜紀がファッション雑誌の1ページを朔に見せる。

朔「気に入ったよ。亜紀は器用だね。」
亜紀「たまにお父さんの髪を切ってるからね。」

朔は、今までファッションにはかなり無頓着だった。亜紀は高校以来変わっていない朔の髪型を雑誌のモデルみたく変えてあげた。もちろん、素人技術なので、雑誌のモデルのような感じに近づけようとするのが精いっぱいだったが、それでも人前に出るのに十分すぎるほどの出来映えだった。
                 ・
                 ・
                 ・
                 ・
                 ・
久しぶりの休日。
朔は切った髪の毛を洗い流した後、自分の部屋でのんびりとくつろいでいる。
静かでまったりとした部屋の中、亜紀との目だけの会話。朔が微笑むと亜紀も微笑む。
壁にもたれながら、冬の装いの季節の雰囲気を窓の外から感じていた。

亜紀「ね?」
朔「うん?」
亜紀「幸せ。」
朔「・・・。」

たった一言だが、朔にはこれ以上ないほど自身をつけさせる言葉だ。
亜紀のたっての希望で後ろからすっぽりと包む朔の腕。
亜紀は回されていた朔の手をそっととり、朔のジーンズのポケットに一緒につっこんだ。

亜紀「お邪魔します。」
朔「どうぞ。」

見つめ合い、この上なく良い雰囲気・・・・・・。
亜紀がゆっくりと目を閉じると、朔が顔を近づけはじめた。あと1cm。
しかし・・・。

富子「朔!!亜紀ちゃん!!」

智世ばりの“絶叫マシーン”の勢いで、富子が部屋に入って来た。
その前に富子のただならぬ気配を感じて、ポケットから手を抜き体を離して何事もないように装った。

富子「ニュースだよ!!」
朔「どうしたんだよ?そんなに大声で?(あと、1cmだったのに・・・くそ。)」
亜紀「そうですよ。(せっかくのチャンス・・・久しぶりなのに・・・。)」

心の中では魂の叫びが飛びかっていた。
朔は亜紀の誘導と自らの努力により、以前と比べるとだいぶ亜紀に気持ちを伝えるようになることができるようになっている。しかし、ある一定の気持ちにならないと、亜紀の望むことをしてもらうことが難しい状態であることに違いはなかった。
そんなことを考える心境も、富子の一言で吹っ飛ぶ。

富子「今、買い物しているスケのお母さんにあったんだけど、スケが結婚するって!!」
亜紀「そうなんですか?おめでたいですね。」
富子「驚かないのかい?龍之介が結婚するんだよ!!」
朔「そっかそっか。」
富子「ちょっと2人とも・・・。」
朔「だって、スケちゃんと智世も付き合って長いし。」
亜紀「うん。もう3年半くらいになるんじゃないかな?」
朔「そんなになる?俺たちは人のことは言えないけど、2人も長いよな。」
亜紀「そうだね!フフフフフフ。」

呑気な2人。しかし、さらなる富子の言葉に2人は言葉を失う。

富子「それが、相手を聞いたら何も言わないんだよ!!」
朔「?」
亜紀「えっ?」

朔と亜紀の動きが止まった。
一瞬見合わせた2人は、急いで上着を羽織って部屋を飛び出した。

朔「亜紀〜〜!」
亜紀「待って!」
朔「早く乗れ!」

外に飛び出した2人は、急ぎ自転車に2人乗りして、とりあえず上田薬局店に向けて出発した。

亜紀「朔ちゃん急いで!!」
朔「ああっ〜〜!」

朔は2人分の体重にもかかわらず、思いっきりペダルを踏み込み続けた。
気合を入れるための雄叫びが宮浦の田園風景に響く。
いつもはもっと掛かるはずの時間も10分も掛かってはいなかった。

朔「おじさん!」

店内に入るなり朔は智世の父を叫ぶようにして呼んだ。朔は酸欠だか筋肉痛だかわからないような状態で、両手を膝の上につけて肩で息をしている。冬だというのにこめかみの辺りからツーっと一筋の汗が流れた。

亜紀「こんにちは!智世は?」
智世父「今、買い物だよ。」
朔「おじさん、スケちゃんが結婚するって!」
智世父「・・・そうみたいだな。」
朔「相手は智世なんでしょ?」
智世父「・・・・・・。」
亜紀「違うんですか!?」
智世父「朔、廣瀬さん。」
朔「はい。」
智世父「人生は、いつどうなるか分からないものだよ。」
朔「・・・・・・・。」
亜紀「・・・・・・・。」
智世父「智世も満足しているみたいだ。私は智世が満足しているならそれでいいんだよ。・・・まだ、仕事があるんだ。これで・・・。」

それだけ言い残し奥に消えて行った。
店を出た2人・・・。
朔「とりあえず、ボウズのところ・・・。」
亜紀「・・・・・・・。」
朔「亜紀?」
亜紀「智世のお父さん、肯定も否定もしなかったね・・・。」
朔「ああ。」
亜紀「本当のところどうなんだろう?」
朔「さあ・・・。」

2人は不安の中、ボウズの家へ向かった。

ボウズ「よお。どうした?」
朔「実はさ・・・・・・。」

俯く亜紀の様子から何やら感じ取ったボウズは、ひとまず中に入れた。
普段は、法事などが行われる本堂に2人を招きいれた。

ボウズ「どした?」
亜紀「実はね・・・。」

立派な仏像を横目に亜紀が重い口を開いた。厳かな雰囲気の中で亜紀と朔の説明が続いた。
ことを把握したボウズは、急ぎ恵美に連絡をとった。
事情を聞いた恵美は、仕事納めを前に忙しいにもかかわらず、すぐさま駆けつけたのだった。

続く
...2005/10/03(Mon) 21:56 ID:jLNQf/OM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
介と智世の行く末は・・・?
次回まで焦らされる楽しみが増えました。
サプライズな結果を期待しております。

ポケットに一緒に手を入れて、
「お邪魔します」
「どうぞ」
このフレーズは「いま、会いにゆきます」の大好きなワンシーンだったので、ここでお目にかかれて嬉しいです(^^)

※明日からの「赤い運命」放送が楽しみです。ちなみに今まで「赤い疑惑」の録画を観てました。
...2005/10/03(Mon) 22:23 ID:9x4MIy.A    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
また、お人が悪い(笑)

スケの相手候補を何人か頭の中に思い浮かべながら、今夜は眠ります(^^;;
...2005/10/04(Tue) 03:42 ID:gsR32xGo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
>また、お人が悪い(笑)
と自らもフェイントの名手である朔五郎さんに言われてしまったたー坊さま

 事態の急展開に驚いています。
 夢の中の出来事なのか,いつまでもプロポーズに踏み切れないサクに対して思うところあってのスケちゃん一流の「お芝居」なのか・・・
 もし,本当だとしたら,相手は誰なのか・・・
 あれこれ今後の展開を思い浮かべながら,昨夜も眠れずに過ごしました(^^;;
...2005/10/04(Tue) 08:32 ID:7ep7tCrw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは、お久しぶりです。
相変わらず、亜紀さんに(お風呂などで)振り回される朔太郎君ですが、明希さんを真剣に怒る所は、やはり男らしいですね。自分も見習いたいものです。

自分のHPは、色々あって更新できませんでしたが、昨日、少し更新しました。
まだ生活が落ち着いていないので、以前ほど頻繁には更新できませんが、たまにでいいので、私のHPに来て下さい。

では、智世さんの相手が誰かを気にしながら、次回のお話を楽しみにしています。
...2005/10/04(Tue) 20:06 ID:huwsNWHw <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
おっしゃるとおり、ポケットに手を突っ込むところは、「いま、会いにゆきます。」からいただきました。
これで、「頬指杖」「手を繋ぐ」「腕を組む」に加えて、外でできる亜紀から朔への愛情表現に新たな方法が加わったことになりますので、デート中のバリエーションが増えました。
そのあたりも楽しみにしていただけましたら幸いです。

朔五郎様
毎回のことで、申し訳なさすら感じます。(苦笑)
スケちゃんの相手候補は、いかようにでもできそうです(笑)試しに黒沢千尋とでもくっつけてみましょうか?
これ以上のお喋りは、混乱を引き起こしそうなので自粛しますが・・・是非とも色々な展開をイメージなさってください。
嫌なサプライズはなるべくなら避けようと思います。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

にわかマニア様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
睡眠不足にさせてしまい申し訳ありません。
ですが、読者の皆様にあれこれ想像していただくのは私としても嬉しく思います。
スケちゃんなりの朔へのメッセージというのも面白いですね。もしかしたら、そういう展開にもなりえますね。智世を共犯者にして・・・。その場合、さらに裏で操っているのは・・・。
いずれにしても、これからの展開を楽しみにしていただけるように頑張りますので、よろしくお願いいたします。

美也様
お久しぶりです。ご感想をいただきましてありがとうございます。
朔もだいぶ亜紀の攻撃をかわしつつ、多少の反撃に転じることができるようになってきましたが、やはり、亜紀はその上をいくことができるようです。
HPの更新お疲れ様です。
私もコメントを残さないまでも、時々拝見させていただいております。
ご多忙なのに、あれだけのものを作り、発展させようと努力なさる姿勢には敬服しております。
次回は明日以降にUPしたいと思います。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/10/04(Tue) 21:23 ID:2S26iUtw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
1996年正月。
龍之介の結婚がよく分からないまま年が明けてしまった。

亜紀「・・・・・・・・・。」
朔「亜紀・・・・・・・。」
亜紀「ゴメンね。本当に智世のことが心配なの・・・。」

正月休みの最終日、年末より龍之介と智世の関係が曖昧な状態であるようだということが分かってから、クリスマス、元旦と過ごしてきたのだが、誰もが心ここにあらずといった感じであった。ただ日々が過ぎ、96年を迎えていたのだった。

そして、今日はついに龍之介から呼び出された。
場所は松本写真館・・・。
朔と亜紀の足取りは重い。特にここ最近の亜紀からは笑顔の数がめっきり減ってしまった。
おまけに、昨夜は眠れなかったらしく、目元にはクマができてしまっている。
朔が愛情表現してあげたときですらその顔は引き攣っていて、心ここにあらずといった状態が続くことが多い・・・・・・。

智世の父の様子がおかしいことに気付いて、すぐに4人で集まった時、恵美の口から「少しは・・・覚悟しておかないといけないかも・・・。」と出ていたのだが、本当にそうなってしまうのだろうか・・・?2人の頭は他人事とは思えないくらいに龍之介と智世のことで一杯になってしまうのだった。

手を繋いでも、腕を組んでも・・・感じる温もりが鈍い感じがする。
それほど、朔にしても亜紀にしても友の人生の決断がどのようなものなのか気になって仕方のないのである。

朔「・・・。」
亜紀「何か・・・憂鬱だなぁ。」
朔「うん・・・まあ・・・。」
亜紀「頭痛くなりそう・・・。」
朔「俺は・・・腹がちょっと・・・。」
亜紀「ハァ・・・。」

「スケちゃんからは、あまりいい報告は期待することができない・・・。」
朔と亜紀はそんなことを思い続けながら、写真館へと向かった。

ボウズ「遅いぞ。」
朔「ボウズが早すぎるんだよ。」

皆で集合する時には、大抵遅刻してしまうボウズがすでに写真館に来ている。
やはり、彼も今回のことは、相当に気にかけている様子である。
そして、その後ろには恵美の姿もある。その表情は、やはりどこか暗いように思える・・・。

4人は写真館の中に入ってみたのだが、龍之介はもちろん智世の姿も無い。
仕方なく4人はそれぞれに椅子に座り、思い思いに龍之介の口から発せられるのであろう言葉を想像にていた。
そして待つこと15分・・・。

“ガチャ”

龍之介「よう!待たせたな!」

ドアを開けるなり龍之介がそう言った。
すぐさまボウズが冷静に努めつつも詰め寄るように龍之介の前に立った。

ボウズ「朔たちに聞いたぜ?」
龍之介「いや〜・・・本当はもう少し内緒にしておきたかったんだけどよ〜。」
亜紀「一大事になんでそんなにヘラヘラしてられるの?」
龍之介「こういうのって、驚かせる方が面白いじゃんか。それに、言っちゃ悪いけど幸せだし。」
朔「・・・・・・・・・・・・。」
龍之介「それにしても・・・どっから情報がもれたんだ?知らねぇか?」
恵美「何で私たちが知ってるのよ?」
龍之介「そっか。そりゃそうだよなぁ。ハハハ・・・。」

どこか重い雰囲気に、ヘラヘラ笑っていた龍之介がようやく気付いた。

龍之介「・・・アレ?」
朔「“アレ?”じゃねぇよ!!」

珍しく朔が龍之介にキレた!
亜紀が慌てて朔に後ろから抱きついて制止しようと必死になる。

亜紀「朔ちゃん!!」
朔「離せ、亜紀!!」

そんな朔の様子に、ボウズが亜紀に加勢して朔を落ち着かせる。

龍之介「なんだよ・・・?どうしたんだよ、お前?」
恵美「・・・スケちゃん?とりあえず話して。」
龍之介「ああ。」

龍之介は驚きながらもゆっくりと口を開いた。

龍之介「えーと・・・去年だけど、俺・・・結婚することにしたから。」
亜紀「うん、聞いてるよ?」
龍之介「ちゃんと、向こうの親にも挨拶してきた。もちろんスーツでね。」
朔「・・・。」
龍之介「それで、家の親にも挨拶に来てくれたぜ。」
ボウズ「そっか、良かったなぁ。」
恵美「それで・・・お相手は?」
龍之介「ああ、そろそろ来るはずだけど・・・。」

そして、それから10分・・・。

“ガチャ”
音がしてドアが開いた。
4人は、それに注目。入ってきたのは・・・。

智世「ゴメーン!遅くなっちゃったね。」
龍之介「おせえぞ。」
智世「ゴメンゴメン。お客さんいたもんだから・・・。」

これでいいのだが・・・てっきり、2人の関係は終わってしまったものだと思っていた4人は、智世が入ってきたことに意外そうというよりも、驚きの表情すら見せている・・・。

朔「・・・・・智世?」
智世「なーに?」
亜紀「本当に智世・・・なの?」
ボウズ「・・・・・・・。」
智世「何なのよ?まるで、幽霊でも見ているような顔しているじゃない。」

全てを理解した4人・・・。
そして・・・。

恵美「智世〜〜!!」
智世「ナニナニ!?」

恵美が智世に抱きついてきた。
何が何だか分からない智世は、驚きの表情のまま恵美にされるがままになっている。
ついにはそれに亜紀も加わり、室内は女性陣の声で急に華やかになった。

そして、その様子を見ていた龍之介の頭が“バシ!”と叩かれる。

龍之介「イテ。なんだよ?」

後ろにはボウズが立っていた。

ボウズ「良かったなぁ!この幸せモンがっ!」
朔「おめでとう。おめでとう・・・おまいさん。」
龍之介「あ?なんだか気持ち悪いぞ?」

この一言を聞いたボウズと朔は、羽交い絞めにしたり、ヘッドロックをかけたり、コブラツイストをきめたりして、荒っぽい祝福をしたのだった。
あまりの喜びように、龍之介と智世は怪訝そうな顔をして4人に聞いた。

龍之介「お前ら、ちょっとおかしくねぇか?」
智世「そうよ。」
亜紀「だって!」
朔「亜紀の言う通り!」
龍之介・智世「??????」

今にも泣き出しそうな亜紀の表情に2人は首を傾げるばかりだ。
そんな様子にボウズと恵美が、これまでの経緯を説明すると・・・。

龍之介「ワッハッハ!何だそりゃ!?」
智世「4人とも、何を早とちりしたのよ〜〜〜?」

大爆笑の2人。
室内が笑いに包まれる。

そして、龍之介と智世も今までの経緯を話し始めた。

続く
...2005/10/05(Wed) 17:27 ID:3NRchgM6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:Marc
こんにちは、たー坊さま

年越しの憂鬱が、笑いと幸せで明けましたね。
いつもありがとうございます、これからもどんどん
続きを待っています〜
...2005/10/05(Wed) 18:48 ID:kcGLzhRU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
やれやれ・・・とホっとすると同時に「なーんだ」と気が抜けてしまいました。
しかし、智世のお父さんもやってくれますね。ヤキモキさせて後でサプライズを演出しようとしたのでしょうね。
...2005/10/05(Wed) 18:55 ID:3SsF.iqI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:KAZU
たー坊様

はじめまして。KAZUと申します。
アナザーワールドでは最近ちょこちょことお邪魔させて頂いております。
アナザーワールド以外に、その後の「世界の中心で、愛をさけぶ」の物語を書かれている方がいらっしゃる事を最近になって解りまして一気にパート1から読ませさせて頂きました。
会社にて読ませさせて頂きましたが、感動していまい涙(;_;)が出そうになった事が幾度と在った事か。
これからもちょくちょくお邪魔しますので、お体に気をつけて執筆の程頑張って下さい。心から応援しております(^^♪
...2005/10/05(Wed) 21:27 ID:8K0gtK0o    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:セカチュウ症候群中年
以前より、興味深く読ませていただいています

ちょっと気になる点があります
朔が龍之介に話しかける時に
「おまいさん」と呼びかけていますが
ドラマでは「おまえさん」です

「おまいさん」という日本語はありません、
もちろん「おまえさん」という日本語はあります
「おまいさん」は筆者の造語ですか?
これに対するコメントを見たことがありませんので、もし重複でしたら、お許しを!
...2005/10/06(Thu) 19:06 ID:P3WNrSrU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
横レスお許しを

「おまいさん」という言葉は原作の小説の中で使われております。ただし、これは龍之介の言葉ではなく、朔が龍之介に対して言った言葉です。
よって「おまいさん」という言葉はたー坊様の造語というわけでは無いと思われます。
もちろん、本当の意図はたー坊様にしかわかりませんので、客観的事実のみ書かせて頂きました。

失礼致しました。
...2005/10/06(Thu) 20:46 ID:974wI2E6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
Marc様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
おかげさまで亜紀の憂鬱は龍之介の間の抜けた「アレ?」でなくなりました。
これからは、龍之介と智世のイベントに絡めたストーリーとなります。
次回以降もお読みいただけましたら幸いです。

SATO様
ご感想をいただきましてありがとうございます。
智世の父はサプライズを狙ったわけではなく、ただ単に娘を送り出す父としての感傷のような感情に浸っていたのではないでしょうか。
だから、あんな誤解されかねないようなことを(笑)
次回は、龍之介らしさを交えたストーリーになると思います。
楽しみにしていただけましたら幸いです。

KAZU様
はじめまして。たー坊と申します。
KAZU様が、グーテンベルク様の「アナザーワールドシリーズ」に書き込みをされていらっしゃったことは、私も知っておりました。
今回、私の作品をお読みいただけたこと、執筆させていただいている私にとっては、大きな励みになります。
これからもよろしくお願いいたします。

セカチュウ症候群中年様
はじめまして。たー坊と申します。
以前よりお読みいただいていらっしゃるとのことで、ありがとうございます。

さて、今回の件ですが、あらためてご指摘いただいたのは初めてだと思いますので、お答えいたします。

まず、ドラマでの朔と龍之介は、智世とボウズを含めた4人組の中でも、特に古い付き合い、幼なじみだったという設定だったと思いますが、このことが「おまいさん」という言い方の原点であると考えることを前提とします。
高校時代の龍之介は時折おどけて、ふざけながらも「おまいさん。」と言っていますね。龍之介の性格上、亜紀が白血病に侵されている間にも、ムードメーカーのような存在を率先して努め、朔を元気付けていたことを想像しております。時には「お前。」とハッキリした口調で、心からのアドバイスをしたりします。
また、亜紀が病を克服するまでに何回もそういうことを繰り返したとことは想像できるのではないのでしょうか?この物語では書いておりませんが、亜紀が戻ってきた時には、心の中でそっと「良かったねぇ・・・おまいさん。」などと言っていたかもしれません。
朔は、それまでの龍之介の心遣いを知ってか知らずか、場によっては龍之介の口調をそのままマネしたこともあるだろうと考えます。これは、朔と龍之介の間限定で、朔なりの感謝の意を表したりしていると位置づけております。
また、朔五郎様にお書きいただいておりますが、原作の中では朔自らが「おまいさん。」と言っております。確か夢島に関係する場面でのことだったと思います。

そういった理由から、このストーリーの中で、朔にも、ごくたまにでありますが、龍之介のマネをして「おまいさん」と言ってもらっております。
しかし、この物語は、90%くらいはドラマをベースとしております。
そういうところから考えますと、ある意味、朔の「おまいさん。」という言葉に限って言えば、私の造語と言えなくもないと思います。

うまく説明出来ていないかもしれませんが、私の考えは以上です。
これかもお読みいただけましたら幸いです。

朔五郎様
お疲れ様です。
お客様の応対をしていただきまして、わざわざありがとうございました。
上記の通り、私の頭の中にあることは、書かせていただきました。朔五郎様、読者の皆様はどう思われるか分かりませんが、これからも地道に続けたいと思いますので、よろしくお願い致します。
次回もお読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/06(Thu) 21:29 ID:/ah7V9/U    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:セカチュウ症候群中年
失礼しました
 
原作者には失礼だが、原作本を立読みでしか読まず、評価するに値しないと作品を思っていますので。

ドラマは昨年末の再放送の時にはまりましたので、典型的なドラマ派です。
...2005/10/07(Fri) 21:43 ID:62/nOoFo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
セカチュウ症候群中年様
先日はご指摘ありがとうございました。

私の説明にご納得いただけましたでしょうか?
これからもお読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/08(Sat) 23:07 ID:PrmTjimM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
話は、1995年11月中旬。

上田薬局店の前で、智世が誰かを待っている。
なぜか落ち着かない様子でソワソワ・・・。足元ではかなり成長したコロが「ふぁぁ〜〜〜。」と、智世とは対照的にリラックス・・・。

智世「あんたは呑気でいいねぇ・・・。」
コロ「(え???)」
智世「私の言葉は分からないでしょ・・・。」
コロ「(顔見れば分かるよ。)」

そんな平和なやりとり・・・。
上田薬局店に向かっているこの男も智世と同じのハズ・・・・・・。
その男が視界に入ってくるまでは気が気でなかった智世。

智世「ガチガチじゃないの・・・。」
龍之介「当たり前だろうが。」
智世「ほら、ネクタイ・・・曲がってる」

智世はうまくは動かない緊張した手でネクタイを直した・・・。
のそのそ足元にやってきたコロが、龍之介にいつものようにシッポを振っているのが救いだ。

龍之介「コロ、お前は癒しだな。」
コロ「(???)」
智世「今日はアンタの無邪気加減に救われるって言ってるわよ。」
コロ「(???)」

コロの不思議そうな表情が、ガチガチに緊張していた2人を解していった。

智世「あがって。」
龍之介「おう。」
智世「コロ、アンタもおいで。」

智世、龍之介、コロの順に中に入って行った。

智世父「よう、スケ。」
智世母「よく来たわね。」
龍之介「思ったより緊張してないんすね。」
智世父「智世の様子を見れば、遅かれ早かれこういうことになるかなと思っていただけだよ。」
智世「お父さん・・・。」
智世父「まずは座れ。言いたいことがあるんだろう?」

龍之介と智世は、智世の両親とテーブルを挟んで向かい合って座った。
コロはゆっくりと智世の母の隣に寝そべるようにしている。しかし、顔つきはどこか神妙な面持ちだ・・・。

智世父「正直言って、お前たちの様子を見て不安が無いわけではない。だが、それだけで判断せずに、しっかりとした言葉で聞かせてもらおうかとおもってな。」
智世「・・・・・・・・・。」
龍之介「分かりました。」

全員が固唾を呑むようにして、部屋に静けさがもたらされた。
龍之介が、軽く気を抜いたようにして話し始めた。

龍之介「色々考えてたんですけど、どっかに飛んでっちゃいました。」
智世「スケ!!」

「何を言ってるのよ!!」と言いそうな勢いの智世を制して龍之介が表情を険しくする。

龍之介「単刀直入に言います。智世を俺にください、結婚させてください。」
智世「・・・。」
智世父「スケ、智世はうちの跡取りでもある。全てを話してもらわないと、簡単に承諾することはできんぞ。」
龍之介「ハッキリ言って、まだ何も決まってません。智世にもついこの間に言ったばかりです。」
智世父「無責任じゃないのか?」
龍之介「そう言われても仕方ないです。ですが、あれこれ考えて混乱する前に、おじさんとおばさんに、報告と言うか・・・その。」
智世父「ハハハ。お前らしいなぁ。子供の時から全然変わってない。」
智世「お父さん・・・。」
龍之介「俺の代で漁師を辞めるか、あるいは上田薬局店を潰してしまうことになるかもしれません。でも、智世と結婚させてください。」
智世父「今までのお前からは想像できない言葉だな・・・。」
智世母「本当ね・・・。」
智世父「・・・・・・智世のことは、どう思ってるんだ?」
龍之介「正直言って、うるさいです。ボウズからは“絶叫マシーン”って呼ばれてるくらいだし。」
智世「ちょっと・・・。」
龍之介「俺も、『うるせえ!』って怒鳴ったり。でも、こんな小さい時から一緒にいて、高校の時から意識しだして・・・今は、隣にいないと落ち着かないんです。」
智世父「そうか・・・。」
龍之介「いないと困るんです。」
智世父「住む場所はどうするつもりなんだ?」
龍之介「今、互いに実家に住んでます。どちらかに住むのも良いかも知れませんが、偏ってしまうとお互いの親もいい顔はしないでしょうから、近くのアパートにでも住めればと思います。」
智世父「智世はそれでいいのか?」
智世「まだ、決めてないけどいいと思う。」
智世父「将来は?」
龍之介「住む所は変わっても、俺は海で、智世はここで働ければいいと思います。子供ができた時には、順番でお互いの実家に預け合ったり。・・・もし、子供が進路を決める時が来たら、本人の意思に任せたいと思います。漁師になってもいいし、薬局を継いでもいいし。あるいは他の道を選んでも・・・。俺たちもアドバイスをします、もちろん。」
智世父「・・・・・・本当にお前らしいなぁ。」

笑いながら言った。智世の母も小さい時からの龍之介そのままだという印象を受けていた。

智世父「考えていないようで考えているというか・・・考えているようで考えていないというか・・・・・・。」
龍之介「すみません・・・・・・。」

智世が出したお茶を口に含んだ後で言った。

智世父「結婚しなさい。」
智世「お父さん・・・。」
智世母「・・・そうね。少し寂しい気もするけど。」
龍之介「いいんすか!?」
智世父「だが、条件がある。」
龍之介「何ですか?」
智世父「まず、もうちょっとしっかりした計画、ここ1・2年だな。住む所とか、そういった準備を智世と話し合って、しっかり決めること。」
智世母「それと、スケちゃんのご両親とは今までも家族ぐるみで友人関係だったから、それを維持すること。必要以上に堅苦しく考えないで欲しいわ。」
龍之介「は、はい。」
智世父「それと、週に1回は旬の魚を持って来い。」
龍之介「分かりました。」

緊張が解けたのか、「フゥ〜〜・・・。」と龍之介は息を吐いた。

智世父「とりあえず、スケ。」
龍之介「はい?」
智世父「一度家に戻って着替えて来いよ。うちで夕飯にしよう。・・・ついでにいいのあったら頼むな。」

龍之介は急いで自宅に戻った。

智世「よかった・・・。」
智世父「まあ、婚約の段階だな。」
智世母「のんびり、でも、しっかり考えないとね。」
智世「ありがとう。」
智世父「正直、付き合いが長すぎて、結婚っていう実感がないなぁ。」
智世「自然の流れっていうのかな?」
智世母「世間にありふれた話ね。」

のんびりくつろぐ上田一家。龍之介が魚を持って戻ってきて、捌いた後で、いつもより少し賑やかな夕食になった。
そんな中コロは・・・のんきに大あくびをした後、刺身の匂いを嗅いで、龍之介に食べさせてもらったのだった。さらに場の雰囲気が和んだ。

それから数日後、今度は龍之介が智世を大木家に連れて行った。
大木夫妻は、智世が息子と結婚するということを聞いていたので、緊張気味に挨拶しにきた智世は、「よく来たよく来た。」と大歓迎されたのだった。
その日の夕飯は鯛になった。とにかくお祭り騒ぎの大木家・・・・・・。

さりげなく抜け出し、船の中に乗り込んだ2人。

智世「スケ?」
龍之介「あん?」
智世「今さら結婚しないとか無しだぞ。」
龍之介「言わねぇよ。」
智世「もし、ふざけたこと言ったら、睡眠薬を大量に飲ませてやるから。」
龍之介「分かったよ、心配すんな。」
智世「それを聞いたら安心した。」

いつものようにくだらない会話。満月が海面に綺麗に映っている。
2人にしては珍しくロマンチックな雰囲気。龍之介が智世の唇を奪った。慣れないことに智世の心臓の鼓動は、急にその数を増やしていった。

智世「やるならやるって言いなさいよ!」
龍之介「そうか?普通だと思うけどなぁ。」
智世「・・・まぁ、今までが少なすぎたんだから、婚約期間中はそういうこともしっかりしてもらいますから。」
龍之介「はいはい。」
智世「それにしても・・・・・・。」
龍之介「朔ちゃんたち、ビックリするだろうなぁ。」
智世「亜紀なんて絶句するかもよ?」
龍之介「ボウズは絶叫するだろうな〜。・・・『お前、血迷ったか!?』って。」
智世「もっと、優しくしなさいよね。・・・恵美は普通だろうな・・・。」
龍之介「恵美はそうだろうよ。」
                    ・
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                    ・
朔「ハクシュッ!!」
亜紀「どうし・・・クシュ!!」

ボウズ「デックショイ!!」
恵美「誰かが噂してる?」
ボウズ「分からない。し・・・ハックショイ!!」
                    ・
                    ・
                    ・

とうとう龍之介と智世がこれから先の人生を一緒に歩んでいく決心をした。
近いうちに、このことを知らされる朔、亜紀、ボウズ、恵美。今夜のクシャミは、それを予兆だと知るまでには少しだけ時間が掛かることになったのである。

続く
...2005/10/09(Sun) 00:22 ID:6vgKFKak    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
おお、遂にやりましたね、介ちゃん!
おめでとう(パチパチ)
私のほうは現在、ボウズ×エリカのストーリーを創作中です。
たー坊様から良い刺激を受けて頑張っております。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/10/09(Sun) 20:38 ID:iexND0Qc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
介と智世へ祝福メッセージを贈ろうと思ったら朔五郎さんに先を超されてしまいました。
私は「隠れ智世ファン」なので、朔&亜紀だけでなく、是非介&智世のアナザーを!とのリクエストにこのような形で応えていただき、こんな嬉しいことはありません。
末永くお幸せに(^^)
...2005/10/09(Sun) 21:26 ID:Lgq052M6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 スケちゃん・智世さん
 まずは,おめでとうございます。
 でも,元担任には一度は入れ替えた順番をに元に戻され,智世にまで先を越されてしまったということで,亜紀が今後サクにどのようなプレッシャーをかけるのかと思うと,手放しで喜んでばかりもいられないですね。お〜っ,こわ〜っ。
...2005/10/09(Sun) 22:20 ID:.EWuivmU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
こちらこそ朔五郎様の良い刺激を受けて頑張っております。今回で物語はひと段落つくことになりそうです。次回以降は2人の結婚式のために皆が奔走しつつ、自分達の幸せを噛み締めることのがどういうことなのかを描いていけたらと思います。
お互いに頑張りましょう。

SATO様
今回もお読みいただきましてありがとうございます。
リクエストをいただいておりましたが、今回が一番大きなケースになると思います。これまでは、朔と亜紀がメインで、その中で龍之介と智世をメインとして、時々持ってきてましたが、段々と2人が主役になってくると思います。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

にわかマニア様
お祝いのお言葉を頂戴いたしましてありがとうございます。2人に代わって御礼申し上げます。
亜紀は、知らず知らずのうちに先を越され続けて、負けているかのように感じることもありますが、朔とはもはや内縁の妻に近い状態のような気もします。これからは亜紀も大事な時期です。松本家に再び支えてもらおうかと思ってます。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/10/10(Mon) 16:55 ID:758dhlZU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんにちは。
ようやく、龍之介君と智世さんが婚約しましたね。
分かっていた事とはいえ、本当に良かったです。

では、次回も楽しみにしています。
...2005/10/10(Mon) 17:24 ID:F6glLy7A <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
美也様
お疲れ様です。
確かに特に智世にとっては、ようやくですね。
高校時代からの恋が実るまでに時間は掛かりましたが、それ以上に結婚までこぎつけるまでは、さらに不安もあったことでしょう。
これからもお読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/10(Mon) 22:09 ID:758dhlZU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔「いつの間にそんなことを・・・・・・。」
ボウズ「しっかりやるべきことをやってたんじゃねぇか!」
亜紀「そうだよね。」
ボウズ「しかし・・・。」
恵美「ヨシくん?」
ボウズ「スケ、お前本気か!?」
智世「それ、どういう意味?」
ボウズ「いや〜・・・こんなうるさい“絶叫マシーン”と一緒になったら、毎日尻に敷かれて大変なんじゃねぇかと思ってよ。」
恵美「ヨシくん!何を!」
龍之介「バーカ。うるさいのは生まれつきだろ、もう慣れた!」
智世「ちょっとあんたら!」

さすがに耐え切れなくなった智世が、大声で会話を遮って反撃に転じ始めた。

智世「ボウズ!さっきから聞いてりゃ言いたいことを言ってくれるじゃない!」
ボウズ「だって、その通りだろ?」
智世「その減らず口をこうしてやる!!」

素早くボウズの前に来ると、いきなりその顔を引っ叩いてほっぺたを両手で思いっきり引っ張る。
「グ・・・ふごご・・・ふぁあへ!ほごふぇっひょーはひん!」とボウズが言うが、そのままでは何と言っているのか解るはずがなかった。

龍之介「お前、何て言ったのかわかんねぇよ。」
恵美「“離せ!この絶叫マシン!”と言ったのよ。」

恵美が通訳した。
「余計なことをするなよ。」とボウズが恵美に毒づく。
そして、今度は龍之介に詰め寄ると思われた智世だが・・・一向に文句を言う気配がない。
亜紀がそーっと近づいて智世に言った。

亜紀「少し、丸くなったのね?」
智世「これから先、あんまりうるさくすると、浮気とかされちゃうでしょ?特にスケの場合は・・・。」
亜紀「早くもスケちゃんの性格を把握しちゃってるのね。」
智世「あいつ場合、そんなに簡単じゃないわよ、きっと。」
亜紀「一筋縄じゃいかない相手だものね。・・・でも、智世?」
智世「何?」
亜紀「幸せでしょ?」

核心を突く亜紀の一言に、智世は頷きながら顔を赤くする。
亜紀はそっと微笑んで「おめでとう。」と言ってあげた。

高校時代からの想いが通じて、ようやく龍之介と両想いになることができた智世。
自分の朔への想いとは裏腹に、ずいぶんと時間がかかってしまっていたことを思い出す亜紀・・・。自分たちに幸せが訪れても今度は亜紀の病気に気を遣って、ひと段落するまではいろいろと辛抱してくれていたことに、あらためて感謝せずにはいられない。

智世「亜紀。」
亜紀「うん?」
智世「あんたたちよりも早く結婚しちゃうけど、そっちも早く結婚しちゃえば?」
亜紀「私は、そうしてもいいんだけど、朔がね・・・。」
智世「どうしたの?」
亜紀「“あと2年待って。”だって。」
智世「しょうがないなぁ・・・こうなったら待ってあげなよ。亜紀だって朔を5年待たせたんだから。」
亜紀「分かってる。」

亜紀はそう答えると、相変わらず馬鹿騒ぎしているボウズと共に手荒い祝福をしている朔を見た。
落ち着くと、恵美が婚約した2人に非常に答えづらい質問を始めた。

恵美「スケちゃん、どうやってプロポーズしたの?」
龍之介「言いにくいことを聞くね〜、おまいさん。」
朔「俺も聞いてみたいなぁ。」
亜紀「そうよスケちゃん、話してよ。」
龍之介「仕方ねぇなぁ!」

そういうと、龍之介は夢島でのことを話し始めた。
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3ヶ月前・・・。
話は、夜の夢島で3組のカップルがそれぞれに、思い思いに甘い時間を過ごしていた時に遡る。
皆に聞こえてしまうという疑いを持った龍之介が、その夜は必要以上には話すことをしなかった。しかし、翌日になりカップル同士で散策に出かけた船の中・・・。

智世「本当におっきいなぁ〜。」
龍之介「いつまでも見てんじゃねぇよ。」
智世「これってさぁ、おめでたい時とかに食べたりするんだよねぇ?」
龍之介「ああ。鯛もそうだけどな。」

智世はいけすにいる伊勢海老を見ながら、調理方法などをあれこれ質問している。
その時、龍之介の口から思いもかけない一言が。

龍之介「なぁ、昨夜のことだけど・・・。」
智世「えー?」
龍之介「マジに結婚すっか?」
智世「だからアンタ、本気なら真面目に言いなさいよ。」

また調子に乗っているのだろうくらいにしか智世は感じてはいない。
しかし、

龍之介「だから、マジだっての。」
智世「えっ?」
龍之介「結婚するか。」
智世「・・・・・・・いいよ。」
龍之介「よし、決まり。」
智世「決まり・・・・・・。」

それから、2人はお祝いとばかりに、さっそく伊勢海老を捌いて新鮮なその味をを楽しんだのだが、
智世は未だに実感がわかずにポワーンとし続けていた。
しかも、その後コテージにおいてボウズとともに覗きをされかけたために、その気分は吹き飛び、実感が湧いたのは龍之介がスーツで上田家に挨拶をしに来た時だった。
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ボウズ「どんだけいいかげんなプロポーズだったんだ!?」
龍之介「いいかげんとはなんだ!いいかげんとは!」
朔「スケちゃん、ボウズの言うとおりだぞ。」
亜紀「もっと、ムードとかさ・・・。」
恵美「女心を解ってない!」

智世以外から非難轟々・・・。

結局、その後はいつもどおりの静かな写真館に戻るのに時間はかからなかった。
そして、それぞれ自宅へと戻っていった。

ボウズの部屋・・・。

恵美「あーよかった。」
ボウズ「ほんとだぜ。智世の親父が朔たちに紛らわしい態度をとるからこういうことになるんだ。」
恵美「アハハ・・・でも良かったわ。気が早いけど・・・新婚旅行はどこに行くのかしらね?」
ボウズ「その前に、スケは金を持ってんのか?」
恵美「もし、お金なかったら、私たちで手作りの披露宴をしてあげない?」
ボウズ「松本写真館でやってみっか?」
恵美「それイイ!朔が専属カメラマンだね!」
ボウズ「言えてるな!」

幸せのおすそ分けによって、恵美とボウズもかなり幸せなムードに包まれている。
一方の松本家・・・。

亜紀「おやすみ・・・。」
朔「は?」

“ドサッ”

亜紀は朔の部屋に着いた途端にうつぶせにベッドに倒れこんだ。

朔「今から寝てどうするんだよ?」
亜紀「だって、昨夜は気になって眠れなかったんだもん・・・。」
朔「今、夜の8時。10時には起こして送ってくよ。」
亜紀「いいよ。」
朔「え?」
亜紀「決めた。今日は朔ちゃんの腕の中で暖かく眠るの。」
朔「またそんなワガママを・・・。」
亜紀「智世がようやく幸せになったのよ・・・私も幸せが欲しい。」
朔「何を言ってんだか・・・。」

すると、亜紀はそれまでの眠そうな声から一変。
怒って言うのである。

亜紀「私、朔ちゃんに幸せにして欲しい!」
朔「はいはい・・・今日は泊まっていって。どうせ明日は休みだからさ・・・。」

皆が龍之介と智世の婚約に胸を撫で下ろしていた。
同時に、それぞれのカップルは幸福のお裾分けをしてもらっていたのだが、朔だけは、とばっちりを受けたような感覚になってしまっていた。

続く
...2005/10/10(Mon) 22:13 ID:758dhlZU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:KAZU
たー坊様
スケちゃん、智世さん婚約おめでとうございます。
スケちゃんも結婚ですか(^^♪
次は誰の番か楽しみですが、朔と亜紀が結婚してしまうとこの物語も終わってしまうのでしょうか?結婚して欲しいのは当たり前ですが結婚せずにこのままず〜と続いて欲しいと思うのは私だけでしょうか・・・
...2005/10/11(Tue) 22:11 ID:MiVxoQ/c    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
KAZU様
お忙しい中いつもお読みいただきましてありがとうございます。
とうとうこの2人が結婚します。そして次は朔と亜紀の番かもしれません。
さて、このストーリーの区切りについてですが、いずれはある形で終えたいと考えております。一度終えた後で、5年後くらいにこのサイトがまだ残っているようでしたら、再び続編みたいなものを書きたいなとも思います。
多分、ここ1・2週間で終了することはないと思いますので、ご安心下さい。
次回は、明日か明後日までにUPするつもりです。
お読みいただけましたら幸いです。」
...2005/10/12(Wed) 21:58 ID:VSdS9lBE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:KAZU
たー坊様
ご回答有難うございます。
物語は結末があるもので悲しいですが、最後まで読ませさせて頂きたいと思いますので、執筆頑張って下さい!!
...2005/10/13(Thu) 09:29 ID:Ztl12Msc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
KAZU様
こちらこそありがとうございます。
激励のお言葉をいただきましてありがとうございます。なるべく長期間続けたいとおもっております。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/10/13(Thu) 22:49 ID:.rB5vZnw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
4月。
キャンパスライフの最終年を迎えた亜紀。
今日はいつもよりお洒落をして授業に出席していた。

すでに就職活動もスタートし、長年の夢である絵本の編集者を目指して、そちらの方向に絞って試験に面接にと精力的に活動をしている。

そんな春の日差しが穏やかな1日・・・。
亜紀は、同級生の男子学生から呼び出しを受けていた。

亜紀「ゴメンね。今授業が終わったの。」
学生「いや、いいんだ。」
亜紀「何?私、これから約束があって急ぐから。」
学生「分かった。時間はとらせない。」

男子学生は本題に入った。

学生「もう、俺たちは4年生。今のうちに言っておきたいことがあって・・・。」
亜紀「何?」
学生「入学した時、廣瀬さんに一目惚れしました。今までの人生ではじめてここまで人を好きになりました。よろしくお願いします。」

亜紀はキョトンとしていたが・・・。

亜紀「それは・・・交際ってこと?」
学生「そう。」
亜紀「悪いけど、今の私には、高校時代から真剣にお付き合いしている人がいます。今の私にも、これからの私にも、その人が必要です。そして、私は一生をかけてその人を愛する自信と願望があります。そして、その人に愛されている実感があります。そして、将来も約束してます。」
学生「・・・・・・・・・・・・・・。」
亜紀「ごめんなさい。・・・じゃ、私は急ぎますので。」

まさに一刀両断・・・。
亜紀は学生に恨まれるかもしれないと思いながらもさっさと済ませて正門へと向かっていった。
あとに残された学生は、呆然と立ち尽くすしかなかった。

芙美子「あ〜あ・・・あんなにアッサリとフっちゃって・・・。」
亜紀「だって、急いでるし・・・悪いのは分かってるんだけど・・・。」
芙美子「彼、結構人気あるみたいだよ?あとで、他の女子学生に色々と言われちゃうかも。」
亜紀「仕方ないわよ。・・・ところで、次の授業は?」
芙美子「休講。先生、風邪だって。」
亜紀「ふ〜ん・・・。」
芙美子「心配しなくていいよ。デートの邪魔はしないから!」
亜紀「バレたか・・・・・・。」
芙美子「フフフフフフフフフフフ・・・。」」

不敵な笑みを残し、芙美子は図書館前にいる、亜紀に想いを伝えた人物とは別の男子学生のところに小走りで行った。
その男子学生と芙美子は、亜紀に向かってあらためて手を振った。
見送られた亜紀は、正門を出ると駅に向かいながら呟く。

亜紀「やっぱり、芙美子ちゃんは鋭いわね・・・。彼とも相変わらず仲が良いみたいだし・・・。」

亜紀は、芙美子の潜在能力に驚異的なものを感じていた。
駅の改札口前に着いた亜紀は、東京方面の列車の到着を待つ。その5分後、ホームに列車が滑り込んだ。

改札から出てきたのは、仕事を終えたばかりでスーツ姿の朔。
改札口に背を向けて立つ亜紀の背後にそーっと近づいて、“トントン”と右肩を叩いた。
亜紀が振り向くと当然のように人差し指が亜紀の頬に埋まる。

亜紀「もうっ!人がいるのに何をするの!(照笑)」
朔「なんだよ、亜紀がそういうことをさせてきたんじゃない。」

これは亜紀も誤算だった。
思った以上に朔はオープンな性格になっていて、好奇の視線に晒されることにも慣れてしまっている。

亜紀「ま、いっか・・・。」
朔「は?」
亜紀「何でもない。行くよ。」

亜紀が朔の手を引いて、大学近くの商店街に向かった。
今日は2人で必要な物の買出しに来ている。それが本来に目的なのだが、亜紀はデートが目的になっている。

そして、必要な物が何に使われるのかというと、手作り披露宴の飾りつけに使うのである。
1週間程前、ボウズのところに龍之介が訪れてこんなことを言っていた。
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ボウズ「お前、式はいつの予定だ?決まったら教えろ、俺が仕切ってやるからよ。」
龍之介「それなんだけど・・・。」
ボウズ「?」
龍之介「金が無いから披露宴とかなし!結婚写真くらいは松本写真館で撮ってもらうけど・・・・・・。」
ボウズ「はぁ!?智世はそれで納得してんのか!?」
龍之介「それなんだって・・・あいつはすでに色々とイメージを膨らませちまってるから・・・ハッキリと言いづらくて・・・。」
ボウズ「バカか?お前。」
龍之介「それを言うなよ〜・・・なんとかなんない?」
ボウズ「知るかっ!」
龍之介「そういうなよ〜・・・結婚したら置けなくなるエロ本とかやるからよ〜・・・。」

悪代官のような悪そうな顔で言う龍之介。
しかし、前回に夢島でとばっちりを食らっているボウズは「いらねぇよ!そんなもん!!」と、突っ撥ねたのである。

結局、何の解決策も発見できずに帰宅する龍之介の背中を見かねたボウズは、さっそく恵美に相談し、朔と亜紀に協力を頼んだ。そして、龍之介と智世には内緒で計画を進め、最後には龍之介の手柄にしてあげようということまで決めた。
4人から龍之介と智世への結婚祝いである。
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亜紀「あ、ネクタイまがってるよ。」
朔「サンキュ。」

雑貨店に入った2人はここでも周囲の目を気にすることなく、手を繋ぎっぱなしで「テーブルクロスにはどの色が良いだろう?」「キャンドルサービスには?」などと、布や必要な装飾品を物色していく。

亜紀は、朔の手を引っ張り、「この柄かわいいと思わない?」「この色綺麗だよね!」と、とてもご機嫌な様子で楽しんでいる。
今日だけではない。最近の亜紀は朔をからかって困らせることもなく、常に笑顔を絶やさないでいる。
朔は不思議に思い聞いてみた。

朔「・・・気分よさそうだね?」
亜紀「うん!」
朔「何で?・・・最近はワガママも言わないし、俺を困らせることもしないし・・・。」
亜紀「何でだと思う?」
朔「さあ・・・。」
亜紀「朔ちゃんのおかげだよ!」
朔「え?」

ポカンとした顔の朔だけがその場所に残された。亜紀は微笑んだまま、店内の奥へと進んでいく。気が付いた朔は早足で亜紀に追いついた。

朔「あのさ・・・。」
亜紀「自分でしておいて分からない?」
朔「???」

亜紀が言いたいのは、もちろんテープのことである。
朔が初めて言ってくれた4文字の愛の言葉。ひと月の間ほったらかしにされたのにもかかわらず亜紀はそのことを不問にした。当然、怒ったり、困らせたりすることもなく、次に会った時には、極上の笑顔で迎えてあげた。
その時には久しぶりにベッドで一緒に眠ったのだが、これまでにない愛情を感じた。
「もし、今結ばれても後悔はしない。」
実際にはそんなことは無かったが、そんな気持ちにさせるほど、朔の言葉は亜紀の心に刻み込まれた。

そんな気持ちの中での今日のデート。スーツ姿の朔には頼もしさと愛おしさを感じた。
だから、亜紀は本当に楽しそうに言うのである。

亜紀「ね、朔ちゃんも選んでみてよ。」
朔「え?俺はいいよ。」
亜紀「どうして?」
朔「俺より、亜紀の方がこういうセンスはいいだろ?まあでも・・・。」
亜紀「何?」
朔「ワイングラスとパーティーセットくらいは選んでみようかな・・・。」
亜紀「宴会にはしないこと。」
朔「新郎がそういう方向にもっていくことの無いように監視しないと。」
亜紀「アハハ・・。言えてる!」

親友の出発を自分たちが心から祝福するためにも、朔と亜紀は必要な物を選ぶのに余念が無い。亜紀は朔の右腕に自分の腕を絡ませながら、披露宴の成功を祈っている。

続く
...2005/10/13(Thu) 22:52 ID:.rB5vZnw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
介と智世が婚約してから、周囲の4人も一緒に幸福感を感じているところが温かくていいですね。
高校時代の朔は余裕なさすぎで亜紀に翻弄され気味でしたが、医師としての第一歩を踏み出すにあたって本当に成長しましたね。凛々しいスーツ姿が目に浮かぶようです。(ドラマ版「電車男」第一話に登場したカッコいいリーマンの姿がそのまま朔に重なります・・・)
...2005/10/13(Thu) 23:15 ID:WIiCNm4I    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
この時の朔はSATO様がおっしゃられた通りの姿を私も想像して書きました。
そして、誰かの幸せは自分の幸せ、自分の幸せは誰かの幸せ。そんな路線を評価していただき嬉しく思います。これからは龍之介と智世の結婚のために皆が協力します。その時、亜紀の悪ふざけで朔との間に亀裂が入るかもしれません。次回以降、そのあたりを楽しみにしていただけましたら幸いです。
...2005/10/16(Sun) 22:05 ID:e07B6Vb2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
大量に必要な物を買い込み、雑貨店を後にした二人・・・。
当然のように荷物持ちを買ってでた朔は、指に食い込む袋に悪戦苦闘気味・・・。

亜紀「大丈夫?」
朔「駅まで行ってしまえば大丈夫。電車に乗っちゃえば後は楽だからね。」

朔はそう言うものの、亜紀の目に入ってくる朔の指は、真っ赤になって痛々しい。
亜紀は、半分だけ荷物を持つことにした。

亜紀「何でもかんでも一人で背負い込むとロクなことないよ。」
朔「ありがとう。実を言うと結構辛かったんだよね。」
亜紀「だから言ったじゃない。」

少しだけ呆れたような表情を見せる亜紀を見て、朔はあることに気付いた。

“亜紀に荷物を半分持ってもらって、手が軽くなった。人生も同じことが言えるのかもしれない・・・。辛いことや悲しいこと、困難なことも2人で持てば、軽くなる。そして、嬉しいことや楽しいこと、喜びを感じても2人で持とう。そうすれば、幸せが何倍にもなるから・・・。”

亜紀が言った意味が分かった気がする。
“朔ちゃんが何でも一人で抱え込むと、私も悲しくなるし辛くなる。”
最近、よく言われるこの言葉。亜紀は、もしかしたら人に心の一部を持ってもらうことの大切さに気付いているのかもしれない。

亜紀「あ、ちょっと待って。」
朔「ん?」
亜紀「見て!あのショウウインドウ。」

亜紀の視線の先にあったのは、貸衣装のウエディングドレス。
マネキンに着せられている純白のそれは、人で賑わうこの場所にあって、どこか神聖な雰囲気を醸し出している。

亜紀「綺麗・・・。」
朔「うん・・・着て欲しいなぁ・・・。」
亜紀「智世に?」
朔「え?なに言ってんだよ。亜紀に決まってるだろ。」
亜紀「ありがと・・・でも、今は智世のことを考えようよ。」
朔「・・・大人になったね。」
亜紀「今の状況を考えたらそうなるの。・・・でも、朔ちゃんにそう言ってもらえてとても嬉しいよ。」
朔「じゃあ、今のうちから結婚資金を貯めとかないと。」
亜紀「外でのデート回数減らして、家で会うかも。」
朔「よし!頑張るぞ〜。」

朔の頭の中に、亜紀との2度目の結婚式の意識が芽生えつつある。
亜紀は本当に嬉しそうに微笑んでいる。しかし、あることに気付いた。

亜紀「智世・・・ウエディングドレスはどうするのかな・・・。」
朔「あ、忘れてた・・・。スケちゃんがそのことを忘れていることも有り得るし・・・。」
亜紀「ねぇ?皆で少しずつお金を出して、レンタルしない?」
朔「でも・・・こういうのって、結構するんじゃない?」
亜紀「そっか・・・・・・じゃあさ、せめて花嫁のヴェールだけでも借りて来れないかな?」
朔「相談してみないと分からないけど・・・それくらいなら。」
亜紀「帰ったら、そういうことも問い合わせないとね。」

2人は松本家に荷物を置くと、さっそく貸衣装店に電話で問い合わせた。
一方のボウズと恵美はというと・・・

潤一郎「おい、ボウズ。」
ボウズ「え?」
潤一郎「いくらなんでも、準備は早すぎやしないか?」
ボウズ「ああ、ご心配には及びません。今日は、シュミレーションだけですから。」
潤一郎「シュミレーション?」
恵美「当日は、どこにどのようにテーブルを置こうかとか・・・。」
潤一郎「あ、そういうことか・・・。」
ボウズ「でも、式の前日からは、おじさんにも手伝ってもらいもらいますよ。」
潤一郎「スケと智世ちゃんの晴れ舞台だからな。腰が痛まない程度にがんばりますかね・・・。」

朔と亜紀、ボウズと恵美。
この2人だけではなく、親たちも全面的に協力してくれている。
龍之介と智世は当日はどんな風に喜んでくれるのだろうか・・・・・・。

さらに、新郎新婦には極秘での挙式準備が続く。
忙しい合間をぬっては集合して、式の準備をして来た。いつの間にか、季節は梅雨が近づいてきた。
そんな中、当面の新婚生活を送るための新居探しをして来た2人は、大木家と上田家のちょうど真ん中に位置する木造平屋の空き家を不動産屋で見つけ、そこに決めていた。
すでに必要な物で持ち込める物は全て部屋に入れた。
毎日のように少しずつ、タンスやテレビなどの大きな物から、生活雑貨の小さな物まで、自らの手で新居を作っていく。
キッチンと2部屋の小ぢんまりとした部屋は、年数は古いものの、土台や柱はしっかりしているうえ、リフォームされてあるので新築同様とまではいかないまでもピカピカだ。
そして、このリフォームを計画、実行したのは・・・・・・・・・・・・廣瀬真建築設計事務所。
真自らが壁紙や床材を選び、さらには風呂場まで新しくしてくれた。
もちろん、亜紀が半ば強引に真に頼み込んだ。
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ある休日の昼下がり・・・。

亜紀「お父さん、お願いがあるんだけど、聞いてもらえない?」
真「何だ?珍しく神妙だな。言ってみなさい。」
亜紀「智世のこと。結婚生活を送るために新居を探して、空き家を見つけたらしいの。でも、古すぎて迷っているみたいなの。私たちで何とかできない?」
真「その家はあれか?上田薬局店の近くにある木造平屋の・・・。」
亜紀「そう。何で知ってるの?」
真「たまに通りかかると見かけるが・・・古いな・・・住めるのか?」
亜紀「それも含めて、お父さんに見てもらえたらと思うんだけど・・・。」
真「そうか。じゃあ見てこよう。」

さっそく真は行動に出た。
龍之介を連れ立って、不動産屋立会いのもとで、細かく家の内部等をチェックした。
その結果、住めると判断した真は、龍之介と智世にリフォームを提案したのだった。

柱や土台は年数の割には丈夫なので、内装を中心にことは運んだ。
そして、費用をできる限り削るためにボウズと龍之介に智世、さらには朔と亜紀まで駆り出されてのリフォームがされたのである。真が先頭に立って一つ一つ指示を出してくれたおかげで、素人には難しいことも何とかクリアすることができた。
真は軽い腰痛になってしまったのだが・・・・・・。
              ・
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              ・
              ・
              ・
6月・・・。
久しぶりにのんびりとした昼下がり・・・。
稲代総合病院のベンチには、朔と定期通院で来ていた亜紀が座っている。

朔「おじさん、腰はどうなった?」
亜紀「大丈夫よ。私が毎日マッサージしてあげたおかげで1週間後には元通り。今朝も元気に事務所に行ったわ。」
朔「それなら良かった。おじさん、張り切ってたみたいだけど、腰がひどくなったら辛いからなぁ・・・。」
亜紀「気持ちは若いといっても、もう今年で57だもの・・・。それでも“無理しすぎ”って怒ったら、“まだまだ若者には負けん!”だって。」
朔「アッハッハッハッ!!おじさんらしいなぁ。」

青空には雲がいくつか浮いている。
そろそろ紫陽花が鮮やかな色を見せる頃だ。
そして、龍之介と智世の披露宴の準備も大詰めになっているのだ。

しかし・・・。
肝心なことを龍之介と智世は忘れていることに気付いていなかった。

続く
...2005/10/16(Sun) 22:17 ID:e07B6Vb2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
朔と亜紀は、一緒に生きていくことの実感がだんだん真実味を帯びてきているようですね。
それにしても、新居のリフォームまで手作りでしてくれるとは、なんとも素晴らしい友達ですね。
それにしても、肝心なことを忘れてるって(^^;;;
...2005/10/16(Sun) 23:09 ID:rTE3UMpY    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:サイトのファン
たー坊さんへ
執筆、お疲れ様です!!
まとめて拝読させて頂きました。
読ませて頂いていて驚きの連続でした・・
3組での結婚レースの一番手はボウズと恵美
と自分では予想していたので龍之介が一番とういう
驚きと。最初の展開で龍之介の結婚相手が
智世以外??という驚きでドキドキしながら
読ませて頂きました。
でも今は安心して温かい気持ちで繰り返し
読ませて楽しませて頂いております。
亜紀に告白した男子生徒が出てきましたが
亜紀ほどの美人なら、もっと多くの男子学生から
告白されてもいいですよね。
でもさすが亜紀です。
浮気心無しにキッパリ断るところは最高ですね。
私もそういう亜紀のファンですから!!
龍之介と智世の新居も肝心なことも
気になります!!
続編、心待ちしております!!
...2005/10/16(Sun) 23:58 ID:wIv78Dt2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
いつもお読み頂きましてありがとうございます。
いろいろな意味で頼りになる友人に、今回のことをまかせっきりですが、それに応えるべく頑張った4人の手作り披露宴をお楽しみ下さい。
ですが、その前に朔と亜紀は大いにとばっちりを受けております。次回からはその点をお楽しみ下さい。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

サイトのファン様
お久しぶりです。お読みいただきましてありがとうございます。
これまでは、婚約指輪のおかげで変な虫がつくことのなかった亜紀ですが、今回とうとう根性のあるのが出てきました。しかし、それを一刀両断する亜紀でした。ですが、このことが原因で朔と亜紀の間には亀裂が生じます。
次回もお読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/22(Sat) 16:08 ID:pxSrnANE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
梅雨の晴れ間・・・。
“宮浦〜・・・ファイト!ファイト!ファイト!・・・・・・”
グランドでは、宮浦高校陸上部の練習が行なわれている。
もちろん、顧問は・・・。

谷田部「そこ〜!!もっと声を出しなさーい!!」

地区大会も迫りつつあるこの時期、生徒たちよりも、谷田部の方が気合が入っている。
生徒たちも何とか出場できるように、谷田部の期待に応えられるようにと努力を続けていた。

そろそろ今日の練習も終盤・・・。
その時、“チリリリン”と自転車のベルの音がした。
谷田部が後を振り向くと、仕事を終えた朔が自転車の後ろに亜紀を後に乗せてやってきたところだった。

思わず表情が緩む谷田部だが、すぐに気を引き締めて言う。

谷田部「こら!あんたたち!グランドを自転車で走るんじゃなーーい!!!」
亜紀「わー怖い!朔ちゃん逃げよう!」
谷田部「ちょっと廣瀬!あんたはこっちに来なさい!」
朔「俺は!?」
谷田部「アンタはいらない!さっさと自転車を駐輪場に置いてきなさーい!」
朔「だって。相変わらず、ひどい言い方するよな。」
亜紀「先生らしいけどね。じゃあ、朔ちゃん後でね。」
朔「ああ。」

朔がスピードを落とすと、亜紀は飛び降り谷田部の方へ向かう。

谷田部「久しぶりじゃない!元気だった?」
亜紀「ええ。先生こそ相変わらずですね。・・・でも、あんまり昔のままだと・・・旦那さんに嫌われちゃうかもしれないですよ。」
谷田部「痛いとこを突いてくれるじゃない、廣瀬?・・・余計なことはいいわ。ちょっとコーチしてあげて。」
亜紀「運動着持ってきてないですよ。今日は報告があって来ましたから。」
谷田部「それは後で聞くわ。」

亜紀の話をろくに聞かず、谷田部は練習を中断させてキャプテンを呼び寄せた。

谷田部「廣瀬、紹介するわ。今年のキャプテンの本西。」
亜紀「廣瀬です。初めまして。」
本西「初めまして。」

すると、本西は少し驚いた様子を見せている。
それに気付いた谷田部と亜紀は、不思議に思って聞いた。

谷田部「どうした?」
本西「先生、“廣瀬さん”って、“あの廣瀬さん”ですか?」
谷田部「・・・どういうこと?」
本西「これからいうことは、2年生の頃から生徒の間で流れ始めた噂ですけど・・・。」
亜紀「?」
本西「この学校に “廣瀬さん”っていたらしいんですけど、その人は2年生の夏に入院して、何か重い病気で死んだって・・・。その時に絶対安静の廣瀬さんを動かして死なせたのが、その人の恋人で“松岡さん”っていう同級生だったらしいんです・・・。」
亜紀「それで?」
本西「その死んだはずの“廣瀬さん”の霊が、夜中に学校の図書室に入り込んで、“わらわは、コロッケパンが食べたいぞよ・・・。”って言いながら、泣いているらしいんです。」

話を聞いた亜紀と谷田部は、しばしポカーンとしていたが、次第におかしくなって2人は笑いだした。自転車を置いてきた朔も加わり、あらためてその話を聞いた3人は、大爆笑したのだった。

谷田部「あーおかしい!・・・あんたたち、この学校では有名人だわ!」
朔「亜紀が幽霊・・・・・・?ハハハ!」
亜紀「私、後輩たちの間では死んでるのね。随分リアルな噂ね!」

その様子を見ていた本西は何がなんだか分からずにキョトンとしている。
谷田部がそれに気付いて説明を始めた。

谷田部「その話はね、半分は本当よ。」
本西「じゃあ、こちらは、やっぱり廣瀬さんなんですか?」
亜紀「そうよ。私が幽霊です。」
本西「え?だって・・・。」
谷田部「もう9年近く前になるわ・・・確かに廣瀬は白血病に侵されて命を落としかけたわ。」
本西「落としかけた・・・?それじゃあ、絶対安静の廣瀬さんを動かした“松岡さん”は?」
朔「俺のことだよ。ただし、“松岡”じゃなくて“松本”だけどね。」
本西「え?どこまでが本当なんですか?」
谷田部「廣瀬のことは、ここにいる松本が確かに動かしたわ。それは、この2人の絆が原因だったのよ。・・・でも、結局廣瀬は持ちこたえ、骨髄移植を受けて、無事に退院して、今は大学4年生。それで、松本は今やお医者様なのよ。」
本西「それじゃあ・・・!」
朔「どうやら、誰かが俺たちのことを聞いて、怪談話にしたんだろうね。」
亜紀「そうね。だって、今はこの通りに元気だもの。」

本西は納得した様子で頷いている。
谷田部は「じゃあ、噂の真相が分かったところで、廣瀬には短距離の臨時コーチをしてもらいますかね・・・。」と言った。
亜紀は「たこ焼き4人前で手を打ちましょう。」と笑いながら答えた。

谷田部「了解!で、松本。」
朔「はい?」
谷田部「あんたは、私に報告をしながら臨時の陸上部チームドクター。」
朔「はい。」

亜紀はグランドに残り、朔と谷田部は、9年前に朔が亜紀の練習が終わるまで待ち続けていた、あの場所に腰を下ろした。

朔「相変わらずですね。」
谷田部「そうでもないわよ。最近、私の頭にも白いものが・・・。」
朔「いつになく弱気ですね。」
谷田部「私も人が丸くなったのかしらねー・・・。」
朔「結婚して落ち着いたんですよ。」
谷田部「随分、分かったような口の利き方をするわねぇ・・・それで?何か話があるんじゃない?」
朔「実は、結婚式の司会を先生にお願いできないかなと思いまして。」
谷田部「誰の結婚式?」
朔「えっ?聞いてないんですか?」
谷田部「何も聞いてないわ。」
朔「スケちゃんと智世です。」
谷田部「えぇ〜!!??とうとう結婚するの!」
朔「はい。聞いてなかったんですか?」
谷田部「全然知らなかったわよ!」
朔「スケちゃん・・・肝心な人に教えてなかったんだ・・・。」

思わぬことに驚いた朔だったが、谷田部に順序だてて説明を始めた。
夢島で龍之介が智世にプロポーズしたこと、新居も決まっていること、身内だけで手作りの結婚式をすること。それを2人には内緒にしていること・・・。

谷田部「そういうことなら私も協力しないとね。」
朔「正直言って、まだ未定の部分も多いんです。もしかしたら、司会の話もなくなるかもしれませんが・・・。」
谷田部「了解!」
朔「すみません。急な話で。」
谷田部「あんたが謝ることないのよ。大木が忘れてるのが悪いんだから。」

谷田部は立ち上がり、腕時計で時間を確認すると、大声で練習終了の合図を送った。
クールダウンをさせているあいだに、亜紀が戻ってきた。

朔「お疲れ。」
亜紀「お疲れ様。お話は済んだ?」
朔「うん。それがさ、スケちゃんは谷田部に結婚の報告をし忘れてたみたいだ。」
亜紀「え〜っ?なにそれ?」
朔「だよなぁ。」

すると、谷田部は生徒たちを部室に移動するように指示を出して、朔と亜紀にもそこへ行くように言った。
部室に行ってみると、着替えを終えた陸上部の面々が座ったままで、2人を待っていた。

朔「先生?」
谷田部「松本、廣瀬。今からあんたたちには、この子たちに色々と話をしてもらいます。」
亜紀「話?」
谷田部「この子たちが質問するから、それに答えてあげて。」
朔・亜紀「え〜?」
谷田部「この期に及んでブーブー言わない!もう決めたんだから!」
生徒たち「よろしくお願いしまーす!」

どうやら、“廣瀬亜紀幽霊疑惑”は、本西によって晴らされたらしく、驚く様子を見せる生徒は1人もいない。
さっそく、“はい!”と1人の生徒の手が挙がった。谷田部がその生徒を指す。
そんな感じで質問は続けられた。朔には、人体の仕組みについての質問、亜紀には、大会前のリラックス方法などの質問が相次いだ。
しかし、やがて質問内容は朔と亜紀の高校時代の話や、今の関係、出会いからデート、挙句の果てには、とても答えることのできないような質問までが出され始めた。

生徒「松本さんと廣瀬さんはどこまでいってるんですか?」
朔「ゲホ!(思わず咳き込む)」
亜紀「失礼よ!」
生徒「でも聞きたいですよ。なあ、皆?」
陸上部「イェーイ!!」

部室内は蜂の巣をつついたような大騒ぎ。
そりゃそうだろう、男の方は恋人に自らの手で止めを刺した。女の方は幽霊になって、夜な夜な図書室を彷徨っている。そんな噂がまことしやかに流れていた中で、本人たちは今も元気に幸せな日々を過ごしているのだ。
質問をしたのが陸上部のムードメーカー的存在だったらしく、一同は朔と亜紀に何かを期待するような視線を向けている。
谷田部の顔は緩みっぱなしでとても助けてくれそうな雰囲気ではない。

朔「婚約してます。」
一同「ヒューヒュー!!いいなぁ〜!!」
亜紀「朔ちゃん!」
朔「ハァ。」
一同「“朔ちゃん”だって!羨ましい〜〜!!」

今時の高校生パワーに、タジタジな朔と亜紀。
亜紀が「静かにしなさい!」と言っても、大盛り上がりが収まらない部室。

その後も、朔と亜紀の恋愛についての質問が次々と飛び交った。
そりゃそうだろう、大人の恋愛とはいかなるものなのか、誰でも興味津々になるのは当然だ。
「どこにデートに行きましたか?」「初めてのキスはいつですか?」「何回抱き合いましたか?」等々・・・・・・。

結局、たこ焼きパパさんに着いた時には、夜の8時近くになっていた。

続く
...2005/10/22(Sat) 16:10 ID:pxSrnANE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
パパさん「ほい!たこ焼き4人前!」
亜紀「ありがとうパパさん。」
朔「あ、それとコーラ3本。」
パパさん「おう。適当にやってくれ。勝手に持ってっていいぞ。」
朔「なんだよ・・・それ。」

朔はブツクサ言いつつも、席から立ち上がってたこ焼きを焼いているパパさんの後ろをすり抜けて冷蔵庫の中で冷えているコーラを物色・・・。
すでに陽は落ちて空はオレンジから漆黒へと移り変わろうとしている。
後輩たちにいろいろな意味での指導をした朔と亜紀は、谷田部も一緒に夕食代わりのたこ焼きをつまんでいる

谷田部「どう?後輩にいろいろ質問されたけど。」
亜紀「顔から火が出るかと思いました!・・・先生、本当に余計なことをしてくれましたね。」
谷田部「でも、こうして奢ってあげてるでしょ。勘弁しなさいよね。」
亜紀「先生にそう言われると断りきれないな・・・あ、性格見抜かれてる。」
谷田部「そうでなければ、担任教師は務まらないわよ。」
亜紀「敵わないな・・・。」

亜紀は朔に「飲み物は?」と聞いた。
朔は何も答えずに手にコーラを持って戻ってきた。

朔「そんなに言うなら、亜紀も手伝えよ。」
亜紀「ゴメン。」

そう言いつつも、谷田部にコーラを渡す。
亜紀もまた、朔に一人分のたこ焼きを渡した。

谷田部「こうしてみると、あんたたちもいい感じになってきたねぇ。」
朔「おかげさまで。」
谷田部「大木と上田が結婚するのも無理ないか・・・あんたたちと同い年だもんねぇ・・・今のあいつらは、もしかしたらあんたたちよりもお似合いかも。」
亜紀「そういえば、結婚の報告を受けた時の2人は、いつもより雰囲気が良かったです。」
朔「そうかなぁ?俺にはそんな感じは受けなかったけど・・・。」
亜紀「朔ちゃんは鈍いから仕方ないよ。」
朔「そんな言い方はないだろ。」
亜紀「事実だから仕方ないよ。」

亜紀は口にたこ焼きを頬張りながら、朔の肩をポンポンと叩く。
軽く腹が立った朔は、亜紀に気付かれないように亜紀の分のコーラを振った。

谷田部「はいはい、あんたたちのやりとりには相変わらず呆れるわ。本当にごちそう様です。」
朔「やめてくださいよ・・・。」

それからは、しばしの雑談となった。
最近の谷田部の新婚生活に学校や職場のこと、亜紀の就職活動に、やはり龍之介と智世の結婚について・・・。
少しして、さっきの陸上部の生徒たちがたこ焼きパパさんの隣の道路を通りかかった。

生徒A「凄い先輩がいるもんだな。」
生徒B「そうだよぁ。幽霊だって噂されてた人が今は大学生で、その彼氏は医者って・・・。
今の俺らくらいの年から付き合ってるんだろ?すげぇよ。」
生徒A「ああ。それにしても・・・。」
生徒B「なんだよ?」
生徒A「廣瀬さん、すっげぇ美人じゃねぇ?」
生徒B「だな!細いし、色白だし。松本さんが羨ましい〜〜〜っ!!」
生徒A「俺、近くに座ってたんだけどさ、これがまたいい匂いがしたんだよ。」
生徒B「それに引きかえ、最近の女子ときたら・・・。」
生徒A「ああ。色黒すぎだし、気は強いし・・・廣瀬さんみたいな大和撫子はいないよな。」
生徒B「ハァ・・・・・・。」
生徒A「あぁ、俺も廣瀬さんみたいな可愛くて美人で性格が良い彼女が欲しい〜っ!!」
生徒B「お前にゃ無理だ。それにしても、本当に女神みたいだったなぁ・・・。スタイルも良さげだし・・・。」
生徒A「下心丸見えのお前にも無理だな。」

自嘲気味に去っていく2人組。
その生徒たちが完全に通り過ぎるのを待って、朔たちは再び会話を始めた。

谷田部「やっぱり廣瀬は誰にでも好かれるんだね。」
亜紀「悪い気はしないですよね。」
谷田部「あんたは、男子から好かれるあまりに女子からは時々嫌われてたりしたくらいだもんねぇ。そんな中で廣瀬を射止めた松本、あんたは幸せモンだよ!・・・いい?今、婚約してるからと言っても、あんたが廣瀬を怒らせたら、そんなものは一瞬にしてオジャンになることだってあるんだからね!気をつけるように!」
朔「は、はい!」
亜紀「そうだよ。この前も告白されちゃった。」
朔「!!!!!!」
谷田部「ええ〜〜?本当?」
亜紀「はい!学校の同級生に!」

あまりの出来事にショックで固まってしまった朔を無視して、谷田部と亜紀はさらに続ける。

亜紀「芙美子ちゃんの話だと、結構カッコいいって評判の人みたいです。」
谷田部「そっかそっか。(朔の様子を見ながら)試しに、デートの一回くらいしてあげても良かったんじゃない?」
亜紀「そうですね・・・(朔の様子を見ながら)しっかりと気持ちを言ってくれたから・・・もしかしたら・・・。」
谷田部「そうよ!人生なんてどこでどう転ぶか分からないんだから!」
亜紀「(朔の様子を見ながら)ちょっと・・・早まったかな・・・。」
朔「な・・・・・・なにを・・・・・・???」

パニック状態に陥れるのには十分な亜紀の一言に、朔は何が何だか分からなくなり、「え?え?どういう・・・こと???」と、何度か繰り返すしかなかった。

谷田部「さてと・・・もう7時ね。帰って夕飯を作らないと。」
亜紀「献立は決めてるんですか?」
谷田部「まだよ。家の近くのスーパーに寄って決めるわ。」
亜紀「家事は先生がするんですよね?仕事との両立って難しいですよね?」
谷田部「う〜ん・・・うちは、旦那の理解があるから。家事は半分ずつしてるからね、それほど大変じゃないわ。」
亜紀「そうなんですか?じゃあいいなぁ・・・。」
谷田部「そうね。」

谷田部は「大木と上田によろしく。あと、中川にも。」と言い残し、帰宅した。
亜紀は、肩を落としている朔の正面に座り、まだ口を付けてなかったコーラの栓を開けたその時、勢いよく中身が飛び出して、亜紀のインナーに掛かってしまった。

亜紀「あ〜あ・・・濡れちゃった・・・。朔ちゃん、帰りにTシャツ貸してね。」
朔「うん・・・・・・。」

亜紀は中身が飛び出した原因が朔にあることも知らず、朔もまた、さっき自分がしたことなど、頭の中にあるはずも無かった。
この時、朔はあることを心に決めていた。
                 ・
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松本家・・・。

朔は力なく上着を脱いでハンガーに掛け、タンスからTシャツを出して亜紀に差し出すと、自分は亜紀が着替えの邪魔にならないよう、一旦、部屋を出た。

朔「どういうことだよ・・・。」
 「亜紀、俺と別れるつもりなのか・・・?」
 「やっぱり、俺は亜紀にとっての通過点・・・?」

そんなことをブツクサ言っていると、ドアから亜紀の「終わったよ。」という声が聞こえた。
朔は静かに部屋に戻り“ドサッ”と腰を下ろした。
相変わらずヘコんでいる朔に亜紀は呆れたように言う。

亜紀「朔ちゃん、いい加減に機嫌直したら?」
朔「・・・俺より、さっき言っていた奴の方がいいのかよ?」
亜紀「あのねぇ・・・。そう思ってたら、今頃二股かけてるかもよ?」
朔「・・・かければ良かったじゃない・・・もったいない。」
亜紀「もう・・・冗談なの分かってるでしょ。」

亜紀は朔の隣に、「それとも、ヤキモチ?」と、少し嬉しそうに微笑みながら座るが、
朔の心境はそれどころではない。
「どうせ・・・別れてしまうなら・・・。」そう呟いた朔に、亜紀が「え?何?」と聞いたその時!
一瞬の隙、亜紀は朔に押し倒された。

亜紀「・・・朔ちゃん?」
朔「やっぱり俺は亜紀にとって通過点なんだろ?」
亜紀「違うよ!」
朔「嘘つけ!」
亜紀「んっ。」

無理やり唇を重ねた。
もう、朔の頭には亜紀への思いやりなど無いように思えた。
「こんなに好きなのにどうしてだよ???」
理不尽にも近い感情は、朔をある行動に駆り立てる。
亜紀の両頬を手で押さえ、いつもより乱暴で激しい。
亜紀は、初めての大人の口づけに驚き、抵抗しはじめた。

亜紀「ん!んあっ!・・・・んんん・・・(イヤ!やめてっ!)」

しかし、朔にやめる気配はない。
亜紀は朔の温もりがいつもと違うことに気付いたとき、朔の手が自分の服にかけられた。
全身に精いっぱいの力を込めて朔を押しのけた。
目にはいっぱい涙を溜めている。

朔「亜紀・・・。」
亜紀「もう会わない。さよなら。」

亜紀は自分の荷物を取ると、別れを告げて部屋を飛び出した。
呆然とする朔が残された部屋に、富子が凄い形相で飛び込んできた。

富子「朔!あんた亜紀ちゃんに何をしたんだよ!?」
朔「・・・・・・。」
富子「あの子、泣きながら出てったじゃないか!!」
朔「・・・。」
富子「朔!」

しかし、朔はその重い口を閉ざしたまま。
らちのあかない富子は、仕方なく台所に戻る・・・。
そして、時間は10時。
ようやく芙美子が帰宅した。
帰りの遅さに、富子が怒り芙美子がそれをかわす。

富子「まったく!兄妹揃って何やってんだよ!」
芙美子「お兄ちゃん、何かしたの?」
富子「さっき、亜紀ちゃんが泣きながら出て行ったんだよ。」
芙美子「え〜?」

心配になった芙美子は、朔の部屋に入る。

朔「勝手に入るなよ。」
芙美子「泣かしたんだって?」
朔「・・・・・・。」
芙美子「お兄ちゃんのことをあれだけ大事に思っているのに何で泣かすの?」
朔「は?」
芙美子「お姉ちゃんね、この前告白されたんだけど、お兄ちゃんいるから、あっさり断ったんだよね。フラれたその人が可哀想なくらいの見事な断りっぷりだった。」
朔「何だって?」
芙美子「“今の私には、高校時代から真剣にお付き合いしている人がいます。今の私にも、これからの私にも、その人が必要です。そして、私は一生をかけてその人を愛する自信と願望があります。そして、その人に愛されている実感があります。”だってさ。」
朔「・・・・・・。」
芙美子「早いところ仲直りした方がいいんじゃない?」

それだけ言い残して芙美子は自分の部屋に戻って行った。
朔は、自分の早合点と愚かさに気付いて、大いに後悔した。

気が付けば、時間は1時を回っていた。朔は家を飛び出して廣瀬家へ向かうことに。
しかし・・・家の前に置いておいた自転車のタイヤがパンクしている・

朔「何なんだよ!」

朔は漆黒の宮浦の街を彷徨うことになるのである。

続く
...2005/10/23(Sun) 01:41 ID:h7tgg8KQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:sin
はじめまして sinnです。
今までに無い緊迫した状況ですね。
心配です。
...2005/10/23(Sun) 13:09 ID:7dqy9SH.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
>今までに無い緊迫した状況ですね。
 でも,まさか,3日後の連載開始1周年の記念すべき日を「破局」で迎えるという展開にはならないであろうことを信じて続編を待ちましょう。
 それにしても,たー坊さんにしても朔五郎さんにしても,ここの執筆者ってのは,フェイントの名手が多いですね。「文章を書くってのは,エライこった」という誰かのコメントが聞こえてきそうです。
...2005/10/23(Sun) 14:06 ID:xvBczAPc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
うーむ、いかん。これはいかんでしょう(^^;;;
どーすんだよ、朔・・・

って、たー坊様のことですから「軟着陸」させてくれるでしょう、と信じております。
...2005/10/23(Sun) 19:11 ID:U41Q0qzc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
sin様
はじめまして。たー坊です。お読みいただきましてありがとうございます。
この物語は、個人的な希望をBBSという場をお借りして形にさせていただいているものです。おかげさまであと3日で1年が経とうとしております。
これからもできる限り続けていきたいと思っておりますので、よろしくお願い致します。

にわかマニア様
貴重なネタをご提供いただきましてありがとうございます。
すでに先の話はある程度書きあがっていたのですが、にわかマニア様の貴重なネタを得て原稿を執筆し直しています。
3日後の1周年をお待ち下さい。
場合によっては最終回になることも考えられますので・・・・・・・。

朔五郎様
>どーすんだよ、朔・・・
ごもっともです。朔の勘違いが大きなこととして、朔の人生に暗い影を落とすことのないように、お祈りいただけましたら嬉しいです。
そして、あまり私のことは信用なさらないで下さい(笑)墜落・大破・爆発炎上ということも十分ございますので・・・・・・。
次回もお読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/23(Sun) 21:46 ID:h7tgg8KQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:sin
たー坊様
全力で応援したいと思ってます。
次回楽しみに待っておりますのでマイペースで
頑張ってください。
...2005/10/24(Mon) 10:03 ID:902pmQVo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:KAZU
たー坊様
えっえ〜〜って感じです。私があんなコメントを入れたから早く終わらそうなんて思ってらっしゃるのでは(;_;)
でも今後の展開によってはもっと朔は亜紀に尻に敷かれますね!!
...2005/10/24(Mon) 19:09 ID:uyqvWrOA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:JBL
はじめまして。いつも楽しく拝読させて頂いております。
しかし、緊迫した局面になってきましたね。
諺か何かに「終わり良ければ、すべて良し」と、いうのがありますが、逆に「終わり悪ければ、すべて悪し」ということも言えるのでは。(ストーリーの良し悪しではありません。心の問題です)
本編以上に、感想等でのたー坊様のコメントが気になりだした矢先での、今回の内容…。
本編(原作、ドラマ、映画等)での心の痛手を、たー坊様のこのストーリーで癒されてきた者としては、この展開は黙って見逃す事ができず、ついついお便りしてしまいました。
ストーリー当初の「この内容は、ほのぼの路線で行く」と言う、たー坊さまの言葉を信じ、10月26日を待ちます。
執筆活動大変だと思います。お身体ご慈愛下さい。
追伸
今日はドラマでの亜紀の命日ですね。(合掌…)
...2005/10/24(Mon) 19:58 ID:kGSW6vvE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:WATER
そうですね…。
確かに今日は亜紀の18回目の命日ですね。
何故か本当にあった話のように感じてしまいます…。
あと、昨日はドラマ版サクの誕生日ですね。
もう少し経てば映画版の亜紀の誕生日ですね。
10月28日は私の身内の人の誕生日…(笑)。
ちなみに私の祖母の誕生日はドラマ版亜紀の綾瀬さんの誕生日と同じです。
長くなっちゃった…。
...2005/10/24(Mon) 20:41 ID:XeK27CFQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:美也(みや)
こんばんは。
こちらの朔太郎君と亜紀さんはすごい事になっていますね。
朔太郎君には気の毒ですが、これくらいのことがないと、読んでいる方としては面白くないですよね。
次回も楽しみにしています。

それから、昨日は朔太郎君の誕生日、そして今日は亜紀さんの命日ですね。
それに合わせるように、私のHPの「物語の内容」を書き終えました。
宜しければ見に来て下さい。
...2005/10/24(Mon) 21:08 ID:tD1y/eqw <URL>   

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
1日経って、あらビックリといった感じでしょうか。
こんばんは。たー坊です。
こんなに沢山のコメントをいただきましてありがとうございます。
皆様にお返事するその前に、今日は廣瀬亜紀の命日ということで・・・。ご冥福をお祈りして・・・(合掌)

sin様
連日の応援コメントありがとうございます。
1周年を前にかなり大きな局面を迎えております。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

KAZU様
>えっえ〜〜って感じです。私があんなコメントを入れたから早く終わらそうなんて思ってらっしゃるのでは

そんなことは、多分ないと思いますので・・・。
少なくとも、相当な苦情がない限りは続けさせていただきたいと思っております。
次回以降を楽しみにしていただけましたら幸いです。

JBL様
はじめまして。たー坊と申します。
いつもお読みいただけているみたいでありがとうございます。私、この物語に絶対の自信を持って執筆させていただいているわけではございませんでしたが、JBL様の心を癒すことができたとのことで、かなり嬉しいです。
さて、次回は26日にUPする予定です。これからもお読みいただけましたら幸いです。

WATER様
はじめまして。たー坊です。
何かと親類の方のお誕生日ど重なる部分がおありのようですね・・・。このような偶然というのは、ドラマなどの作り話のようなものであっても感情移入のような部分をより強くさせるような気がします。
私の物語はそこまでの力というものはございませんが、気が向きました時にでもお読みいただければと思います。

美也様
HPの更新、お疲れ様です。
ここ最近は亜紀と命日と重なるせいか、執筆者の皆様方でもその話題に合わせて投稿などが活発になっているようです。

>こちらの朔太郎君と亜紀さんはすごい事になっていますね。朔太郎君には気の毒ですが、これくらいのことがないと、読んでいる方としては面白くないですよね。
おっしゃるとおりです。基本的にはほのぼの路線ですが、たまにはこういう時があってもいいかと思いまして話を続けております。龍之介と智世の結婚式までは目が離せなくなるような物語にできたらと思います。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/10/24(Mon) 23:36 ID:Xzg2Act2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
読者の皆様

こんばんは。たー坊です。
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
おかげさまで、この物語は私の初投稿から1周年を迎えることができました。
私が投稿する以前に執筆されていた作者の皆様がいるのにも関わらず、私が”アナザースートリー”を書かせていただけていることに、どこか申し訳なさを感じていますが、それにもまして、読者の皆様から毎回頂戴する暖かい励ましのお言葉には、とても救われました。あらためて御礼申し上げます。
1年が経ちましたが、これは私の「世界の中心で、愛をさけぶ」に対する思い入れだけでは続けることのできないもので、皆様の励ましに支えられてこそ成しえたものだと思っております。
これから2周年、3周年と続けられるかどうかは私にも分かりませんが、長続きできるよう努力して参りますので、これからもよろしくお願い申し上げます。

さて、これより続きをUP致します。
お読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/26(Wed) 23:15 ID:K/7EVxbs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:北のおじさん
たー坊様。

連載1周年おめでとうございます。
最近の展開には驚きながらも、楽しく読み続けさせていただいています。
多くのファンの方々に夢を与えるたー坊さんの物語、これからも楽しみにしています。
ゆっくりとで構いません、長く続けて下さい。
...2005/10/26(Wed) 23:29 ID:WY3AHUZc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
北のおじさん様

お久しぶりです。毎回お読みいただけているとのこと、とても嬉しく思います。

>ゆっくりとで構いません、長く続けて下さい。
早くもこの言葉に勇気付けられております。
次回以降もよろしくお願い致します。
...2005/10/26(Wed) 23:35 ID:K/7EVxbs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
家を飛び出した朔は、とりあえず廣瀬家へ向かった。
しかし、どの部屋にも明かりはついていない。
おかしいと思い、近づくと、真が家から出てきた。

朔「すみません・・・。」
真「おぉ、朔?こんばんは。・・・今・・・挨拶し忘れたな?最近ではすっかりそんなとこもなくなって頼もしくなったと思っていたが、過大評価だったか?」
朔「こんばんは・・・すみません。」
真「ところで亜紀は?今日はいっしょに高校に行っていると聞いたんだが?」
朔「まだ、帰ってないんですか!?」
真「・・・・・・どういうことだ?」
朔「すみません・・・さっき、俺の誤解からケンカしてしまって・・・。」

朔は、亜紀の冗談を真に受けてしまって、亜紀にキツイことを言ってしまったこと、泣かせてしまったことを一部だけを隠して正直に話した。
真の表情は次第に険しいものになっていったのだが、それを抑えるようにして朔に話し始めた。

真「大人の男女の話だ。俺はお前たちを見守る立場の人間であって、必要以上に口は出すことはしない。しかし、亜紀は俺の大事な娘だ。無事に帰してくれ。」
朔「はい。」
真「任せたぞ。悔しいが俺より亜紀のことを知っているのは朔だからな・・・。綾子も帰りが遅いと心配しているんだ。綾子には亜紀は朔のところに泊まると言っておこう。幸い、明日は日曜日だからな・・・。」
朔「すみません・・・。」
真「謝るヒマがあったらさっさと行け!」

真がはっぱをかけると、朔は全力疾走で防波堤に向かった。
「やれやれ・・・。」そう言うと、10分ほど散歩をした後、娘を案じる気持ちを隠して家の中に入って行った。
もちろん、亜紀の帰りが遅いと心配している綾子には、「途中で亜紀と朔に会ったよ。今日は朔の所に泊まるそうだ。」とバレないように芝居をうった。

一方の朔は、自転車が使えなくとも、そんな事は感じさせずに防波堤にやってきた。
一気に駆け上がり息を整えつつ亜紀の名を呼ぶ。
しかし・・・。

朔「亜紀!」

ここにはいないようだ。
「くそっ!」朔はそう言い捨てた時、脳裏に砂浜が浮かんだ。そう、白血病に絶望した亜紀が自殺未遂をしたあの砂浜・・・。
「まさか!?」そう呟いた後、朔は猛ダッシュで砂浜に行ってみる。
しかし、ここにも亜紀の姿は無い。
酸欠と筋肉痛だか何だか分からないような痛みを両足に感じつつも、休むことなく次に心当たりのある場所に向かった。

朔「亜紀ー!亜紀ー!」

深夜の宮浦の町に朔の亜紀を求める声が響く。

学校・・・・・・。
ここにもいない。
神社・・・・・・。
いるわけが無かった。

亜紀を見つけることができないまま、夜が明けてしまった・・・・・・。
朝9時・・・。

朔「・・・・・・・・。」
富子「亜紀ちゃんは!?」
朔「見つからない・・・。」
富子「自業自得だよっ!!この大バカもん!!」

富子は怒りを隠すことをせずに、朔の頭を叩いた。
朔は何も言い返さずに、1度は風呂に入ると、そのままベッドの上に寝転んだ・・・というよりも寝転ぶしかなかった・・・。

“そうだ、隣には亜紀がいない・・・。”
“もしかしたら、一生亜紀と寝ることはないのかもしれない・・・・・・・。”
“一寸先は闇とはこのことなのか・・・?”

ここにきて、ようやく亜紀にいないこと・・・高校時代の時のことを思い出す朔だった・・・・・・。
                  ・
                  ・
                  ・
                  ・
                  ・
3日後・・・。
最近、町にできたスーパーで、買い物中の富子に綾子が声を掛けた。

富子「廣瀬さん・・・。」
綾子「こんにちは。お買い物ですか?」
富子「ええ・・・チラシに誘われて・・・つい・・・。」

さすがの富子も思わずトーンダウン・・・。
綾子はその理由が分かっているのだが、あえてそのことは聞かなかった。

富子「朔が・・・亜紀ちゃんに何かしてしまったようで・・・。」
綾子「そのことは・・・別に・・・。ただ、亜紀もショックだったようで・・・。」
富子「本当に申し訳ございません・・・。」
綾子「2人がどういう答えをだすかは分かりません。もう大人ですし・・・私たちがあれこれ言う必要はないでしょう・・・子供たちを信じましょう・・・。」
富子「ええ・・・。」

富子は自宅に戻ると、すっかり元気のなくした朔に、夕食時に家族も交えた所で、綾子との会話を、そのまま朔に教えた。

そして、一方の亜紀もまた、めっきり元気を失くしていた。
食事時でも食べ物が喉を通らない・・・。
体重はすでに2キロ近く減っていた・・・。

真も綾子もどうすることができず・・・部屋へ肩を落として戻っていく亜紀の後姿を見つめるしかなかった。

亜紀「バカ・・・。」

亜紀は、机の上においてある裏返された写真たてに言う・・・。
声も温もりもこの先一生感じることができないのかもしれない・・・・・・。
“会いたい・・・。”
“話したい・・・。”
“抱きしめて欲しい・・・。”

全ては自分につながることゆえに・・・亜紀は枕に顔を押し付けて泣いた・・・。
泣くしかなかった・・・・・・。

互いに時間があるときですら、2人がいつものように、町を手を繋いで歩いたり、どちらかの部屋でまったりすることもなかったのである・・・・・・。

続く
...2005/10/26(Wed) 23:37 ID:K/7EVxbs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:真の友達
真になり代わって言いたいな。

朔しっかりしろ!
君は幾つになった?
純愛もプラトニックも良いけれど。
亜紀を頼んだのは、もう何年前と思っているんだ。

早く、孫の顔を見せてくれ。
...2005/10/27(Thu) 00:26 ID:g23fbYyA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:JBL
2年目突入おめでとうございます。

実は、10月26日で何らかの答え(ストーリー上の展開と、もしかして終了?!)を出されるのかなと思い心配しておりました。

執筆活動は、私が想像する以上に大変だと思います。「頑張れ」と言う声援は、プレッシャーになるといけませんので言いません。そのかわり、のんびりと気ままに活動下さればと思います。
これからも一読者として、陰ながら応援させて頂きます。
...2005/10/27(Thu) 20:27 ID:VuxbdjoM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
一周年おめでとうございます。
さて、朔と亜紀は、すっかり煮詰まってしまったようですが、新しいステップに進むときには、こういうこともありますよね。
次回以降楽しみにしております。
...2005/10/28(Fri) 00:26 ID:1JcnjBQk    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:KAZU
たー坊様
一周年おめでとうございます。
一周年とは長いようで短く感じる今日この頃ですが、一年も執筆活動を続けて行くのは並大抵の事ではないと思います。無理せずに頑張って下さい!!
因みに、朔と亜紀の今後の展開が心配です。
...2005/10/28(Fri) 12:48 ID:TINE0KYo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 たー坊様
 遅くなりましたが,連載2年目突入おめでとうございます。

 「プラス」と「マイナス」の配合のバランスとは,本編の夢島での哲学的な会話のテーマでしたが,山あり谷ありの展開の今後が楽しみです。某翁なら「人と人が付き合うってえのはエライこった」と言うところでしょうか。
...2005/10/28(Fri) 17:54 ID:AxVuN3Ms    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:Marc
たー坊様

1周年おめでとうございます。
そして、素敵な物語をありがとうございます。
私も、JBLさんの「のんびりと気ままに」の大賛成です、これか
らも応援します♪
それでは、また。
...2005/10/28(Fri) 22:45 ID:3yqvS5aE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
真の友達様
こんばんは。たー坊です。
お読みいただいたうえに厳しいお言葉を頂戴しましてありがとうございます。
おっしゃる通りなのですが、基本的に朔がプロポーズしないとそういったことまでは進まないと思います・・・。でも、実際に真が朔にそういう発言をしたときの朔の表情というのは、これからの創作に大きな影響をもたらしそうです。
コメントありがとうございました。

JBL様
こんばんは。祝いのお言葉をいただきましてありがとうございます。
執筆活動は実に大変な時もあれば、スイスイ進む時もあります。最近は・・・どちらでもないですね。
次回で終了などとするつもりはありません。マイペースで執筆させていただきます。
これからもよろしくお願い致します。

朔五郎様
お疲れ様です。「世界の中心で、愛をさけぶ2」シリーズに遅れながらも1年間執筆をさせていただきました。朔五郎様をはじめとした作者の皆様がいらっしゃらなければ、私が執筆することはなかったと思っております。あらためて御礼申し上げます。
これからもお互いに長続きするように願っております。

KAZU様
お読みいただきましてありがとうございます。
おかげさまで1年間執筆を続けることができました。自分でもここまで話が膨らみ、続くことになるとは思っても見ませんでした。
朔と亜紀の今後は当然ながら2人次第です。次回は今ある壁を乗り越えられるかどうかがポイントです。どうぞお楽しみに。
これからもお読みいただけましたら幸いです。

にわかマニア様
この1年間、幾度となくネタをご提供いただいたり、激励をしていただきまして本当にありがとうございます。一難去ってまた一難。今はそんな状況の2人をこれからも見守っていただければ嬉しいです。
それにしても本当に「人と人が付き合うのは大変なこと。」ですね。
これからもよろしくお願い申し上げます。

Marc様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。おかげさまで1周年を迎えることができました。これまではなるべく定期的にUPしてきたつもりですが、これからはお言葉に甘えて不定期で、のんびり気まま路線で書かせていただこうかなと思います。それでも「週イチ」のペースは最低限守ろうとは思っております。
これからもお読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/28(Fri) 23:24 ID:ve97YfNc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
それから1週間後・・・。

佐藤医師「どうかしたの?」
朔「何がですか?」
佐藤医師「最近、やけに元気がないなと思ってね。」
朔「いえ、別に・・・。」
佐藤医師「それならいいのだが。」

他人に見抜かれるほど朔の落胆ぶりは凄まじかった。
そしてその後の仕事帰り・・・。

佐々木「まあ、飲め!」

朔は、病院から車で10分くらいの所にある居酒屋にいた。
先輩医師の佐々木と高野に連れられて、朔は学生時代にもめったに来ることのなかった雰囲気に、幾分気が紛れている。

佐々木「お前、そんなことでグダグダしても仕方ないじゃないか。」
朔「そんなことって・・・・・・。」
高野「なぁ、そんな言い方ねぇよなぁ・・・。」

その時、

店員「注文の方よろしいですか?」
高野「芋焼酎3つ。あと、唐揚げと・・・とりあえずピザ。」
佐々木「あと、これとこれと・・・。」

大失恋に打ちひしがれる朔をそっちのけでオーダーする先輩医師2人・・・・・・。

高野・佐々木「今日も1日お疲れしたっ!」
朔「お疲れ様です。」

「カンパ〜イ!!!」
こうなったらもうヤケだ。
朔もテンションを大幅に上げて大盛り上がり・・・。

佐々木「そうだ朔!女なんて1人じゃないぞ〜。」
高野「佐々木の言う通り。もっと他の女とも交際してみろ〜。」
朔「はい!絶対に亜紀より良い女を見つけます!」
佐々木「よく言った!・・・それでは、朔の新たな出発を祝って、あらためてカンパ〜イ!!!」

それから3時間後・・・。時刻は夜の11時。
最終バスから降りてきた朔・・・。

朔「飲みすぎたかな・・・。」

軽く酔っている朔は、自転車を病院に置いてバスで帰宅した。
ふと見ると廣瀬家が見える。2階の亜紀の部屋の電気はついていた。

朔「フゥ・・・。」

どことなく哀愁漂う背中・・・。

朔「亜紀より良い女なんているわけない・・・。ボウズの気持ちが今更になって分かるよ・・・。」

と、その時!
亜紀の部屋の電気が消えた。そのまましばらく見ていると、亜紀が家から出てきた。

朔「亜紀!?」

思わず大声で呼んでいた。
亜紀が朔の存在に気づくと、すぐさま自転車に乗って走り出そうとする。
朔はそれを阻止すべく、全力疾走で追いつこうとするが、亜紀は颯爽と行ってしまった。
「この時間にどこに行くんだろうか?」そんなことを普通なら考えるのだが、今の朔は亜紀の心を取り戻そうと必死に後を追いかけた。

しかし、亜紀はそんな朔を無言で振り払いどこかへと走り去ってしまった。
見失った朔もまた、諦めきれずに追う。

朔「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
 「亜紀・・・。」
 「返事をしてくれ・・・。」
 「亜紀・・・・・・・。うおっ!!!」

“ズザザッ!!!”

朔は、疲労からきた足のもつれによって、アスファルトの上に転倒してしまった。
すぐさま立ち上がろうとするものの、足に痛みが走る。
朔が手で触ってみると、ズボンが破れて真っ赤な血が滲んでいる。

朔「・・・・・・。」

もう、自分で何も言う気力もない。
それでも、亜紀を求める気持ちまで萎えることはなく、再び立ち上がり足を軽く引きずりつつも、走り始めた。

向かったのは、墓地。
祖父・謙太郎の眠る墓のあるボウズの寺を目指した。

門をくぐり墓の前までくるが、ここにはいない。
ボウズも既に寝ているだろう。部屋に明かりはない。

朔「まさか・・・百瀬駅?」

一瞬、脳裏がよぎるが、この夜中に亜紀がそこに行くとは思えなかった。
稲代総合病院もないだろう・・・。

朔「どこだよ・・・。」

そう思った時、朔の頭にある場所が浮かんだ。
再び走り始める朔。

時間はすでに午前4時近かった。暗闇の中、確信を持って傾斜のある山道を登っていく。
頂上に着いた時にはすでに空は明るくなりかけていた。

膝に手をつき、呼吸を整える。
歩きながら亜紀の姿を探す。
ふと気付くと、紫陽花が咲き始めている。あと少しすれば鮮やかになり、見頃を迎えるのだろう・・・。

紫陽花の丘の頂上付近で足を引きずりながらも亜紀を探し続けていた朔は、再び転倒し、顔を擦りむいてしまった。
その時、ふと、足元に亜紀のバッグを見つけた。
朔は慌てて中を確認すると、ほとんどの物が残されたままだった。

朔「近くに亜紀がいる・・・。」

そう呟いて、紫陽花の茂みの中に入って行ったその時、

亜紀「・・・。」
朔「いた・・・。」

地面にしゃがみこんで、イヤホンを耳に着けてテープを聴いている・・・。

テープ朔「こ、こんばんは。」
亜紀「・・・・・・。」
テープ朔「あの、本当に最近のことはごめんなさい。」
亜紀「この間の行動は何なのよ・・・?ばか・・・。」
テープ朔「でも、そろそろ落ち着いてきました。」
亜紀「謝りなさいよ・・・。」
テープ朔「亜紀のことだから今頃これを聞いて大いに膨れていると思います。」
亜紀「膨れてない・・・・・・泣いてる。」
テープ朔「明後日、俺の誕生日に会いたいから、家に来てください。」
亜紀「何かの記念日じゃなくてもいい・・・。グスン・・・。」
テープ朔「それと・・・。」
亜紀「・・・・・・・・・・・・。」
テープ朔「・・・何となくこういう気持ちになりました。」
亜紀「何となくじゃダメ。ちゃんと・・・。」
テープ朔「愛してます。世界中の誰よりも・・・。」

“カチッ”

亜紀は一番最近のテープを聞いていた。
テープが止まる音を聞いた朔は、亜紀が巻き戻し始めたのを見計らって勇気を出して今までなかなか言えなかった言葉を、テープなどを介さずに自らの口で言った。

朔「亜紀のことを愛してます。世界中の誰よりも・・・。」
亜紀「!!!」

亜紀はすぐにイヤホンを外して後ろを振り返る。
まぎれも無く朔の姿があった。

朔「・・・。」
亜紀「朔ちゃん・・・。」
朔「・・・・・・。」
亜紀「帰って。」
朔「嫌だ。」
亜紀「帰って!!」

亜紀は朔のそばをすり抜けようと立ち上がるが、そこには朔が立ちはだかった。

亜紀「どいてよ!」
朔「嫌だ。何があってもどかない。」
亜紀「松本君、私たちはもう終わったのよ!さよなら。」
朔「待てよ!」

行こうとする亜紀の腕を朔はしっかりと掴まえていた。
朔は悲しかった。自分の愚かさが・・・・・・。

朔「ゴメン。芙美子から聞いた。」
亜紀「そう。」
朔「・・・・・・・ここは、亜紀が泣きたい時に泣く場所だろ?だから・・・もしかしたらって・・・・・・。」
亜紀「絶対に泣かない!あなたの前なんかじゃ泣かない!」
朔「意地を張るのはやめない?俺も張らないからさ・・・。」
亜紀「・・・・・・・。」

亜紀は涙を拭うこともせず、朔の顔を見る。
朔もまた、涙を流していた・・・・・・。

亜紀「もう一回言って?」
朔「?」
亜紀「“愛してる”って・・・。」
朔「・・・・・・。」
亜紀「お願い・・・・・・。」
朔「・・・松本朔太郎は廣瀬亜紀を愛してます。世界中の誰よりも・・・。」
亜紀「・・・・・・。」

亜紀は、朔に身を委ねた。
朔がしっかりと抱きしめると、一瞬体を硬くした亜紀。
しかし、この前とはうってかわって優しく、温かいオーラが亜紀を包み込む。

朔「ゴメン。」
亜紀「もういいよ・・・。」

亜紀の言葉に朔は強く抱きしめた後、亜紀の唇を奪った。
ゆっくりと目を閉じる亜紀は、ハラハラと涙を流した。

安堵感から一気に疲れが出た朔は、近くにあった木陰に腰を下ろした。
亜紀は擦りむいた足の手当てをする。

亜紀「嬉しいな。こんなになるまで心配してくれて・・・・・・。」
朔「今回は全部俺が悪いんだ・・・・・・。」
亜紀「もう、自分を責めないで。結局は前よりも良くなったんだから。」
朔「イテテ・・・・・・。」
亜紀「ゴメン。もう少しだけ我慢してね。」
朔「ああ。」

足の手当てを終えた亜紀は朔の右頬にも擦りむいた傷があることに気付いた。
人差し指でチョコンと触る。

亜紀「ここ。」
朔「イッテ。」
亜紀「薬つけてあげるよ。」

亜紀はそういうと傷口に唇をくっつけた。

朔「お、おい。」
亜紀「・・・・・・。」

すっかり朝になっていたが、時刻はまだ4時半過ぎ。
疲れが出て、木に寄りかかり眠ってしまった朔の寝顔を見た亜紀もまた、朔にもたれて眠ってしまった。
2人は夢の中で絆を確かめ合ったのだろうか?
それとも、ただ寝ぼけているだけなのであろうか?
やがて、お互いを求め合うように触れ合って、さらに長い時間眠りについていた。

続く
...2005/10/28(Fri) 23:47 ID:ve97YfNc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
遅ればせながら、1周年おめでとうございます。
ここ数回の展開はどうなるかとハラハラする思いで、感想を書き込む余裕がなかったのですが、元のサヤに収まったようで、ホットしました。
「愛してます、世界中の誰よりも」というセリフは、私もいつかは言ってみたいですね、ハイ。松本朔太郎や上杉達也だけの専売特許にしておくにはモッタイナイです(^^)
...2005/10/29(Sat) 00:17 ID:/AQsvkec    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ぶんじゃく
初めまして、たー坊様
ここのサイトは一ヶ月くらい前に知ったのですが
今日で他の皆様も物語も含めだいたい全部読み終わったので一言書かせていただきます。
まず一周年だそうですがおめでとうございます^^
それから、ありがとうございます、毎日訪れては
心穏やかにさせていただいております、とても楽しく読ませていただいてますのでこれからもご無理をなさらず書き続けて下さいね。

ここに物語が色々な形で受け継がれていることを感謝します。
...2005/10/29(Sat) 00:47 ID:r71SCbb6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
 こんばんは、ター坊様。お久しぶりです!    執筆されて1年が経ったんですか!お疲れ様です 。いつもいつも拝読するのが、仕事から解放され て、萌える時間でした。今もそうなんですけど! しばらく読んでないうちに、朔と亜紀に大問題が 発生していたんでね!でも、結局は、「雨降って 地固まる」よりさらに、二人の絆が深まりまし  たね。本当に、ホットしました。ター坊様もお人 が悪い(笑)やっぱりアナザーストーリーは、こ の二人なしでは、全然考えられません!これから も、時間が許す限り、また、無理をされずに、2 年でも3 年でも執筆して頂きますよう、お願い いたしますす。追伸、最近めっきり寒くなってき ていますので、お体には気をつけてください。 
...2005/10/29(Sat) 01:09 ID:Ddr.mwc2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
いつもお読みいただきありがとうございます。
おかげさまをもちまして、今回で1周年を迎えることができました。これも皆様のおかげだと思っております。本当にありがとうございます。
>「愛してます、世界中の誰よりも」というセリフは、私もいつかは言ってみたいですね、ハイ。松本朔太郎や上杉達也だけの専売特許にしておくにはモッタイナイです(^^)
私自身、野球好きなのでタッチは漫画版で読んでおりました。そこで例のセリフです。亀裂が生じた2人を元通りにするためには朔に何を言わせようか・・・?そこから考えてこのセリフです。
再び亀裂が生じた時にはどんなセリフにしようかな〜と思っています。
これからもよろしくお願い致します。

ぶんじゃく様
初めまして。たー坊です。
お読みいただけたばかりかコメントまで頂戴いたしましてありがとうございます。
おかげさまで、先日1周年を迎えることができました。
私の拙い文章力で書いている作品ですので、お見苦しい点も多々あるでしょうに、感謝いただけているということ自体、私の方こそ御礼申し上げます。次回以降の励みになります。
これからもお読みいただけましたら幸いです。

電車男様
こちらこそお久しぶりです。
お忙しいのにもかかわらずお読みいただきましてありがとうございます。
1周年を迎えましたが、あっという間に経ったという感じです。時間を見つけては執筆するという生活がこんなに長く続くとは思いもよりませんでした。
お言葉に甘えさせていただき、マイペースでのんびりと続けさせていただければ嬉しいです。
次回もお読みいただけましたら幸いです。
...2005/10/29(Sat) 23:15 ID:OT4z.eoA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊様
実は今日、アジサイの丘に行ってまいりました。
あのキスをしたシーンと、たー坊様のシーンが思い浮かびましたよ。
あと、亜紀の家の周りをしおしお歩く朔の姿も(^^;;;
...2005/10/30(Sun) 20:51 ID:vd68W3e6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
こんばんは。たー坊です。お返事が遅れてしまって申し訳ございません。

アジサイの丘に行って来られたそうですね。実に羨ましいです。
>あのキスをしたシーンと、たー坊様のシーンが思い浮かびましたよ。
あと、亜紀の家の周りをしおしお歩く朔の姿も(^^;;;
あのシーンが浮かぶのは思い入れのある人には当然のことかもしれませんが、私のストーリーまで浮かべていただけるとは嬉しいですね。
朔には、この後亜紀とケンカするたびに廣瀬家の周りをしおしお亜紀を求めて歩いてもらいましょう。
ストーカーと間違われて警察に通報されない程度に(笑)
...2005/11/01(Tue) 19:20 ID:ezFi.8AQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
誰も、朔と亜紀の関係に終止符が打たれかけ、亀裂が修復されていたことを知らなかったあの日から1週間。そんな午後の松本写真館・・・。

ボウズ「おい朔!そっち持ってくれ!」
朔「分かった!・・・亜紀、釘取って。」

朔とボウズが中心となって、手作り披露宴の準備が開始された。
あらかじめ、ボウズと恵美が設計図まで用意して、その図面通りに作業を進めている。
恵美は仕事で遅れるとのこと。2人のアシスタントは亜紀と潤一郎だ。

潤一郎「おい朔。」
朔「ん?」
潤一郎「少し曲がってんじゃないのか?」
朔「だってよ、ボウズ。」
ボウズ「亜紀も見てくれよ。」
亜紀「どれどれ?」

潤一郎の隣に亜紀が行ってみる。

亜紀「あ、ホントだ。」
ボウズ「どうすればいい?」
亜紀「朔ちゃん、もう少し高く。」
朔「こう?」
亜紀「上げすぎ。もう少し下げて。」
朔「どう?」
亜紀「OK!いいですよね?」
潤一郎「おぉ。それならいいな。」

看板の設置が完了した。
これには、当日の朝にド派手に彩られた布を掛ける予定になっている。
“大木龍之介・智世 結婚披露宴会場”と・・・・・・・。

朔「次は?」
ボウズ「テーブルとかの設置だ。これを見てくれ。」

ボウズはポケットから2枚の見取り図を取り出した。

亜紀「・・・?何で2枚あるの?」
ボウズ「それがさ、」

ボウズが言いかけたときに、写真館のドアが開いた。
「ゴメン!」と言いつつ、恵美入って来る。

恵美「こんにちは。」
潤一郎「いらっしゃい!」

何故か、潤一郎の鼻の下が少しだけ伸びたように思えた。
すかさず、小声で朔がつっこむ。

朔「親父・・・何してんだよ。」
潤一郎「「あ・・・いや・・・。」

それに気付いた亜紀が「どうしたの?」と一言。
朔はボウズの手前喋るわけにもいかず、潤一郎を軽く一瞥して、亜紀に「後で。」と口だけを動かした。

亜紀は気を利かせて、「ねぇ、ボウズ。何で2枚あるのか説明して。」と言った。
その隙に朔は潤一郎に「何してんだか・・・。」と一言。

ボウズ「実は、一枚は俺の案。もう一枚は恵美の案。2つのプランがあるんだ。」

テーブルの上に置かれた2枚の図面には全く違うテーブルの配置が書かれている。

亜紀「どっちでもいいんじゃない?」
恵美「何それ?せっかく考えたのに!」
ボウズ「そうだぞ!これが原因でケンかになりかけたんだぞ!」
亜紀「私に言わないでよ。ねえ?」
朔「まあ・・・そうだけど・・・。」

ボウズと恵美は、軽く意地を張っているようだ。

朔「らちがあかないな・・・。親父、選んでよ。」
亜紀「そうね。ここは第三者の意見を尊重するということで。」
ボウズ「おじさん、どっちがいいと思う?」
恵美「選んでください。」

差し出された図面を見比べる潤一郎。
ボウズの案は、高砂にあたるところと司会席をキッチリ設けるもの。
恵美の案は、堅苦しいことは抜きにして、高砂の代わりに龍之介と智世の席を真ん中に配置して、司会席も来賓の席に組み込んでしまうというもの。

じっくりと両案を比較した後、潤一郎は少しひいき目を加えて、自分の意見として言った。

潤一郎「恵美さんの方かな。」
恵美「はい、決定!」
ボウズ「何だよ〜〜!!おじさん、そりゃないだろ!」
潤一郎「年をとると、堅苦しいのは苦手でな。」

そう言いつつも鼻の下が伸びている潤一郎に、息子は呆れ顔だ。
亜紀も朔がさっき何を言おうとしたか理解して朔をつつく。

亜紀「おばさんには悪いけど・・・いいんじゃない?」
朔「よくない。・・・こんなとこおふくろに見つかったら、それこそ家の中は無茶苦茶になると思う。」
亜紀「その間、私の家に避難しなよ。」
朔「誰が家庭崩壊の収拾をつけるんだよ?変なことをおふくろには吹き込むなよ。もし吹き込んだら・・・本当に怒るぞ。」
亜紀「でも・・・あの様子じゃ、バレるのも時間の問題だよ?」

亜紀に言われて潤一郎を見ると、未だに案を練っている恵美の姿を目の前にして、さっきよりもデレ〜として、鼻の下を伸ばしっ放し・・・。
朔の分かり易さは潤一郎から遺伝したようだ。

亜紀「この際だから、バラして2週間くらいウチに泊まりに来ちゃえば?」
朔「目的が違ってるぞ。でも、そろそろ自立して、病院の近くにアパートでも借りようかな・・・。」
亜紀「もしかして・・・同棲?」
朔「違うよ。」
亜紀「何で?一緒に住みたい。朔ちゃんが泊まりの時以外なら一緒にいられるじゃない?そうすればさ・・・。」
朔「籍を入れてからでいいじゃない。」
亜紀「・・・早くプロポーズしないと、私、お見合いしちゃうからね。」
朔「脅かすなよ・・・・・・。」
亜紀「ウフフッ!」

その横ではボウズが恵美の案を渋々承諾して、テーブルの配置に取り掛かっている。
しかし、恵美も少しだけ譲歩した。高砂だけは別にすることになったのだ。

ボウズ「おい、お前ら!」
恵美「ラブラブするのも結構だけど、手伝って!」
ボウズ「そこだけ空気が違うんだよ!!」

潤一郎はさっきとは違う笑顔を見せながら、朔と亜紀を見ている。
朔は「余計なことをすんな。」とばかりに視線を送り、亜紀はそれを無視するかのように再び手伝い始めた。

恵美「テーブルを3台かける3台で並べてね。」
ボウズ「これで何人座れる?」
恵美「12人。」
ボウズ「それは、高砂席も入れての数字か?」
恵美「高砂は除いてあるよ。高砂も入れたら16かな。」

その間も、朔と亜紀は寄り添いながらボソボソと文句と言いつつ作業を続ける・・・。

亜紀「そっちだって空気が違ってるよー・・・。」
朔「ごもっとも。」
亜紀「いいもんね・・・終わった後でこっちはこっちでいい思いするもん。」
朔「何かいいことあるの?」
亜紀「分かってるくせに。」

亜紀は顔をとても赤くして、朔に無言で訴えた。
しかし、朔は知らん顔で亜紀から逃げるようにして別のテーブルの準備に取り掛かろうとする。
それでも、亜紀は朔の横に寄り添う。

亜紀「お・ね・が・い♥」
朔「スケちゃんと智世の結婚を聞いた時にもしてあげたじゃない。」
亜紀「この前の話でしょ?・・・ああいうのって何回してもらっても嬉しいの。朔ちゃんだって知ってるくせに!あの後の私の寝顔を見てるなら気付いてるはずよ?」
朔「知らないなぁ・・・亜紀の寝顔なんて別に見なくてもいいし。」
亜紀「“私のことはどうでもいい”なんて言い方しなくてもいいでしょ・・・ワザとそういう言い方してるのはバレバレだからいいけど。ねぇ?」
朔「・・・・・・・・。」
亜紀「私、愛されたいなぁ・・・朔ちゃんだけに愛してもらいたいなぁ・・・。」
朔「皆がいる前で、なに大胆なことを言ってんだよっ。」
亜紀「小声だから気付かないよ、ふふ・・・(微笑)」

サラリと、かつ小声で朔の求愛するような仕草と目線を使った亜紀の攻撃。
朔は今までにないほどの愛情表現と女神のような笑顔にノックアウト寸前。なんとか理性を保つのに精一杯な様子。

朔「明日じゃダメ?」
亜紀「明日?」
朔「今日、これが終わったら夜勤なんだ。夜勤明けたら休みだから家で待ってて。おふくろには話しておくから。」

朔はそれだけ言って、次のテーブルに移ろうとした時、朔のシャツの裾を亜紀の白い手が掴んでいた。
驚いて後ろを見る朔の目に入ってきたのは、まるで捨てられた子猫のような雰囲気をまとった表情の亜紀だった。

ボウズ「よっしゃぁ。これでテーブルクロスを敷いたら、形はできるな。」
恵美「よし、後は、雑貨品で飾り付けだね。」
ボウズ「飾り付けるやつは?」
恵美「それは、朔と亜紀がこの前ね、デートついでに用意してくれてるはずだよ?」
ボウズ「朔!飾りつけ用の雑貨は!?」

ボウズの呼びかけに少しビクッとした朔は、「奥の部屋に置いてある。今、取って来る。」と言って、亜紀を連れて行った。

亜紀「・・・。」
朔「大丈夫?」

たまらず、亜紀の肩を掴みながら言った。

亜紀「うん。」
朔「これが終わったら家に来いよ。明日学校は?」
亜紀「ないよ。」
朔「夜勤だけど、ずっと家俺の部屋にいていいから。帰ってきたら納得いくまで話そう。」
亜紀「ありがとう。」

亜紀は安心したのか、すぐに切り替えて再び準備に取り組んだ。
朔は亜紀のそばに寄り添うようにして作業を続けたのである。

続く
...2005/11/03(Thu) 01:25 ID:jLNQf/OM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さま
いつもながら、ほのぼのとしたムードで、読んでいていい気分になります。
それにしても亜紀はすっかり「小悪魔」になりましたね(^^)
...2005/11/03(Thu) 21:10 ID:jjCjSkPQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:sin
たー坊さま
亀裂も修復して、いつの間にか結婚を感じさせる
いい雰囲気ですね。
しかし、何か起きそうな感じがするのは、僕だけでしょうか。
次回、楽しみにしてます。 
...2005/11/06(Sun) 08:18 ID:SMJfgfBQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
いつもお読みいただいてありがとうございます。
以前の仲違いも過去のものとなり、今は友のために頑張っています。が、これをキッカケに亜紀と恵美は自身の結婚に向けて色々行動を起こします。
次回以降もお読みいただけましたら幸いです。

sin様
お読みいただきましてありがとうございます。
おかげさまで、ヒビが入った関係も接着剤を使わずに元通りです。
しかし、一難去ってまた一難というわけではないのですが、亜紀は心に大きな不安を抱えています。
次回はそのあたりを書ければと思います。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/11/06(Sun) 15:04 ID:/ah7V9/U    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
その夜、朔が出かけた後は、富子が話し相手になってくれていた。
亜紀が苦しく、厳しい就職活動に挫けそうになっていることを聞いた富子は、豪快に笑い飛ばしてみせた。

亜紀「笑い事じゃないですよ!」
富子「でも、まだ時間があるじゃないか。」
亜紀「ないですよ。8ヶ月だけじゃないですか。」
富子「誰が卒業するまでに就職しなって言ったんだい?」
亜紀「えっ?」
富子「やりたいことがあるんだろう?」
亜紀「はい・・・絵本の編集者になりたいです。」
富子「こんな時代だからね・・・なかなか希望の職業に就くのは難しいもんだよね・・・。」
亜紀「はい・・・。」
富子「でも、だからって全く希望もしていない職を嫌々ながらやっても仕方ないんじゃない?なにより続かないよ。」
亜紀「でも、フラフラする訳には・・・。」
富子「亜紀ちゃん・・・人生は長いんだよ?・・・さすがに30歳になってフラフラしてるのはどうかと思うけどね、希望する職に就くのにはタイミングがあると思うよ?」
亜紀「タイミング?」
富子「例えば、国家資格が必要な仕事あるだろう?・・・弁護士だとか。まぁ、難しいことは分かんないけどねぇ・・・ああいうのになるのも大変みたいだねぇ。時には運もあるし。それと同じじゃないの?」
亜紀「それとこれとは・・・・・・別・・・じゃないですか。」
富子「だから!もっと、楽に考えなよ!そんな顔してたら面接で落とされるよ!」
亜紀「?」
富子「鏡を見てみな。・・・そんなキツイ顔してたら、美人が台無しだよ!」

そう、いつもの調子で言うと、近くにあった手鏡を亜紀に「ほら!」と渡す。
キョトンとしている亜紀に富子はさらに続ける。

富子「自分の顔をごらんよ。今の亜紀ちゃんはね、いつもは優しくてキラキラしてる目がこーんな風につり上がっちゃってるんだよ。」
亜紀「そう・・・ですか?」
富子「まぁ、自分では気付かないもんだから。・・・もっと肩の力を抜いてきなよ!いい?」
亜紀「はい(笑)」
富子「そうそう。そんな風にしてけば大丈夫だよ。」
亜紀「ありがとうございます。」
富子「しかしあれだわ。見合いを全部断って良かったよ。」
亜紀「お見合い?」
富子「親戚から、朔にどうかってことで何回かあったんだよ。本当に余計なお世話だね。」

亜紀は心が落ち着かなくなってきた。

亜紀「・・・・・・断ったんですよね?」
富子「決まってるだろう。亜紀ちゃんがいるのに何でそういうことをするかねぇ?」
亜紀「良かった・・・。」

ホッとした様子の亜紀の様子を見た富子は、ニヤリとして言う。

富子「だって、写真は何枚か見たけど、亜紀ちゃんより器量の悪そうなのばかりだったんだよ。笑っちゃうよ、本当に!」
亜紀「アハハハ・・・・・・・。」
富子「朔なんかに亜紀ちゃんはもったいないけどね。」
亜紀「そんなことないですよ!」
富子「そう言ってもらえると嬉しいねぇ(笑)・・・いいかい?私はね、朔よりも亜紀ちゃんの味方だから。もし、朔が何かするようだったらすぐに言うんだよ。芙美子とうちのお父さんとで朔を懲らしめてやるからさ!」

富子は再びニカッと笑ってみせる。
亜紀も笑うと「じゃあ、帰ります。」と言って立ち上がるが・・・。

富子「ちょいお待ち!・・・相談に乗ってあげたのにタダで帰るのかい?」
亜紀「え?」
富子「夕ご飯の準備を手伝っておくれ!材料を4人分用意しちゃったから。」
亜紀「4人?」
富子「亜紀ちゃんの分も入ってるに決まってるだろう。」

そう言って台所に向かう富子の後を、嬉しそうに亜紀が追った。
そして、思ったことそのまま口にした。

亜紀「・・・おばさん?」
富子「なんだい?」
亜紀「“お母さん”って呼んでもいいですか?」
富子「えぇ!?」

富子は驚いて亜紀を見た。
亜紀もまた、「あっ・・・。」とした表情をした。

亜紀「ご、ごめんなさい。・・・馴れ馴れしかったですよね。」

富子はしばし呆然としていたが、やがて優しい表情で言った。

富子「亜紀。お米をといでおくれ。」
亜紀「えっ?」
富子「私と亜紀の2人の時だけはそう呼んでもいいよ。もし、朔とお父さんが聞いたらビックリして気絶しかねないからね!」

亜紀に背中を向けておかずの用意をはじめた富子。
その隣に嬉しそうに並び、お米をとぎ始めた。
“もう一人、お母さんができた・・・。”と、亜紀は心の中で喜びを爆発させた。

一方、そのころの朔は・・・。

朔「大丈夫!!すぐに治療するからね〜・・・岡野さん!処置室は!?」
岡野「準備OKです。すぐに運びましょう!」
朔「大丈夫だぞ!!」
患者「・・・いた・・い・・・・・・。」

外来患者の受付時間も終了し、一息つけるかと思った矢先に急患が運び込まれてきた。
健気にも痛みを我慢しているのは、中学生か高校生くらいの女の子だった。

朔「大丈夫だよ。すぐに止血するからね。」
患者「はい・・・・・・。」
岡野「あなた、お名前は?」
患者「長田・・・・・・・長田芽衣です。」
岡野「芽衣ちゃんね?・・・あなた強いわね。」

岡野が彩の気を紛らわせているうちに、朔は、血で赤くに染まった運動着の腕のところをハサミで切って、患部の処置にあたっている。ところどころにあるアザが痛々しい。
その後、佐々木医師も処置に加わり、あっという間に治療していくのだった。
                         ・
                         ・
                         ・
佐々木「お疲れ。とりあえず病室までついてあげて。」
朔「はい。」

岡野看護師と共に、朔は病室へとベッドを搬送する。
芽衣は緊張感から開放されたのか眠ってしまっていた。
そして、病室へ芽衣が運ばれた時には両親と2人の教師。そのうちの1人は、朔がよ〜く知ってる人物だった。

朔「先生?」
谷田部「松本!」
朔「え、長田さんは先生の受け持ちですか?」
谷田部「私は違うのよ。今日は陸上部の居残り組の練習に付き合ってたら、たまたま騒ぎに巻き込まれたわけ。あの子の担任はこちらの黒木先生。」
黒木「担任の黒木です。・・・あの、谷田部先生?こちらの若い先生は、谷田部先生の教え子さんですか?」
谷田部「ええ。学校の怪談話はあなたも知ってるでしょ?その話のモデルの片方。」
黒木「それじゃ、この方が“松岡”さん?」
朔「松本です。・・・“松岡”はどこかで変化したんでしょう。」
黒木「あ、そうなんですか。」
朔「ま、それは後にするとして・・・どうして彼女は怪我を?」
黒木「実は、彼女は女子バスケットボール部に所属しています。それが、今日の練習終了間際に、ボールを深追いして、体育館の下の方にある小窓に勢い余って突っ込んでしまったんです。その時に割れたガラスで切ってしまって・・・・。」
朔「部活の顧問の先生は?」
黒木「私です。女子バスケット部の顧問と担任の両方です。」
谷田部「そういうワケ。それで、怪我の具合は?」
朔「幸い傷自体はそんなに深くはなかったです。大事な血管なども傷つけてませんでした。人によっては入院する必要もないくらいなのですが、皮膚を切って、毛細血管が多数傷ついたためでしょう、思いのほか出血がありました。それで少しショックを受けたようですね。・・・疲れたんでしょう、今は眠ってます。今日はこのまま泊まってもらおうと思ってます。」
谷田部「松本、腕の傷は痕になって残ることは?」
松本「まだ、なんとも。・・・・・・手術の時のように深く切開することもなかったですから、そういうのに比べれば心配はないと思います。」

安堵の表情を浮かべている教師2人とは対照的に両親は少し戸惑ったような様子を浮かべていた。そして彩の父、伸一が朔に切り出した。

伸一「あの、先生。」
朔「はい?」
伸一「入院ついでにお願いがあるんですが・・・。」
朔「何でしょうか?」
伸一「娘の・・・芽衣の体の検査をしていただけませんか?」
朔「検査?」
伸一「最近、家内に言われて気付いたんですが、最近、食べているのに痩せてきているようなんです。それに、体の何ヶ所かにアザがあるんです。」

「アザ?」
朔が聞き返すと、今度は母の涼子が付け加えるように言う。

涼子「それに、最近口内炎ができたとか言ってまして・・・2日前には眩暈もしたらしいんです。」
朔「アザに口内炎に眩暈・・・・痩せてきている・・・。」

「まさか・・・。」
朔はそう思った。いや、決まったわけではないが、そう思おうと無意識にしたのかもしれない。
その時、佐々木が長田夫妻に詳細な怪我の状態と治療方法の説明のためにやってきた。
朔は今までのやりとりを全て報告した。
報告に佐々木も表情を険しくしたが、後で不安を吹き飛ばすように言った。

佐々木「検査は承知致しました。この際ですからね、検査して病気ではないことをハッキリさせて退院していただきましょう!」

佐々木は不安を和らげるように笑顔を作った。
朔もそれに合わせるように笑顔を見せる。

それから谷田部と黒木は学校に戻り、長田夫妻のうち、伸一が芽衣に付き添い、涼子は自宅に着替えを取りに戻った。

医局では、朔と佐々木が話しこんでいた。

朔「・・・・・・・。」
佐々木「もし・・・彼女がそうだったら?」
朔「・・・まだ、分からないじゃないですか。」
佐々木「そうだとしても治すぞ。学校生活に戻してやるんだ。」
朔「はい。」

そして、翌朝。

佐藤医師を交えて3者で話し合い、長田一家に検査をすることを正式に告げた。
そして、朔は自宅に戻った。
芽衣の前に亜紀と向き合っておかなければならない。

続く
...2005/11/06(Sun) 21:25 ID:/ah7V9/U    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
歌手の本田美奈子さんがお亡くなりになりました。この話の亜紀のように再び元気になって我々の前に姿を見せてくれると信じていたのですが・・・合掌。

ストーリーの方の話題にもどりますが、担ぎ込まれた急患が心配ですね。次回をハラハラしながら待ちます。
...2005/11/06(Sun) 21:51 ID:OsLB0j/U    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
ううむ、シリアスな展開になってきましたね。
「バスケ部の少女がケガ」「アザと口内炎」では両方の病気を心配しなければなりませんね(おろおろ)
...2005/11/06(Sun) 22:56 ID:fW13KZ8M    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:双子のパパさん
はじめまして たー坊様。 先月このサイトを知りまして、やっと、やっと追いつくことができました。たー坊様の物語の世界に、フフフと笑ったり、時には涙ぐんだりと、心あたたまる、また安らぐ時間を過ごさせていただいております。これからも楽しみに読まさせていただきます。ので、執筆お願い致します。寒くなってまいりました。どうか、お体には、お気をつけください。       
...2005/11/09(Wed) 11:23 ID:fHR7q9co    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
本田美奈子さんの訃報は私も知りました。
カンニングの中島さんといい、意外に白血病は多いな・・・と思いました。
私は本田さんのことはさっぱりわかりませんが、多くの方から慕われていたんだなと・・・。
そういう方ほど、こういうことになってしまうのでしょうか?神様は時に残酷なことをしますね・・・。

朔五郎様
お読みいただきましてありがとうございます。
これから芽衣は、入院することになるのですが、結構大変な事になります。それも朔と亜紀にとってです。次回もお読みいただけましたら幸いです。

双子のパパさん様
はじめまして。たー坊です。
お読みいただきましてありがとうございます。
先月からお読みいただくのは大変だったと思います。本当にありがとうございます。
また、評価していただけているとのことで、とても嬉しいです。激励のお言葉にはとても感謝しております。
できる限り続けたいと思っておりますので、これからもよろしくお願い致します。
...2005/11/09(Wed) 22:33 ID:6vgKFKak    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
亜紀が首をなが〜くして待っているハズの自宅の戸を開けて、「ただいま。」と一言。
富子が「ご飯はアンタの部屋。」と、これまた一言。

ネクタイをゆるめながら自分の部屋の戸を開ける。
「ただいま〜・・・。」と亜紀を呼ぶ。

亜紀「朔ちゃん?」
朔「ただいま。」
亜紀「朔ちゃん!」

亜紀は座っていたのにわざわざ立って、朔のもとへ。
すかさず腕を朔の首に回して、とっても甘い声で言う。

亜紀「おかえり〜・・・お疲れさま。」
朔「え?なんだよ?」
亜紀「朔ちゃぁ〜ん♥♥♥」
朔「人格が変わってる・・・。」
亜紀「たまにはこういう出迎え方をしてみようかと思ったの・・・ダメ?」
朔「ダメ。気持ち悪い。」
亜紀「そんなに意地悪なこと言っちゃ、イ・ヤ!」

“気持ち悪い”
そう言われた亜紀は、ムキになって不気味な仕草を続ける。
人差し指を朔の胸に当てて妙な色香を漂わせつつ、挑発するような視線で朔を虜にしようとする・・・・・・。

朔「はいはい。いい加減にしようか?」
亜紀「はい。」

亜紀はいつもの亜紀に戻ると、あらためて“おかえり”。
癒されるその笑顔に朔も、“ただいま”。

亜紀「上着。」
朔「あ、サンキュ。」

ハンガーに上着を掛ける姿がかなりサマになって来た。まさに新妻。
朔は、前日の亜紀の様子とは異なって、とても明るいことに気付いた。

朔「俺が話を聞く必要はないか?」
亜紀「そんなことないよ。聞いて欲しい。」
朔「分かった。でも・・・。」
亜紀「でも?」
朔「腹減ったから、メシを・・・。」

そう言いつつ、テーブルの上に置かれている手料理へ恨めしそうに視線を送る。

亜紀「私もお腹空いた。朔ちゃんを待ってたから食べてないの。」
朔「じゃあ、食べよう。」

「いただきます。」
顔を向かい合わせて食事を始めた。今日の献立は炊き込みご飯に、焼き魚と味噌汁という純和風。このうちの焼き魚は亜紀が作ったもの。実は、東京で亜紀が焼き魚を作って以来、朔は亜紀の味を大いに気に入っていた。
「うーん。うまい。」
そんな声が今にも聞こえてきそうな朔の表情である。

亜紀「結婚したら毎日でも作ってあげるよ?」
朔「いや、まだいいや・・・あ、変な意味じゃないよ。こういうのって、たまにだからありがたみを感じるんだと思うし。」
亜紀「そうね・・・まだ就職活動も続いてるし。」
朔「どう?」
亜紀「まだ。・・・実は不安を感じていたのってそのことなの。なかなか厳しいのよね、実際に内定出てないし。」
朔「そっか・・・でも、どうしてそんなに元気に?」
亜紀「おばさんの性格。」
朔「おふくろ?」
亜紀「別に新卒で希望の職種で働かないといけないわけじゃないって。タイミングも必要、やりたくもないことを嫌々しても長続きしないって。」

朔は自分の役目を富子に奪われてしまったが、いい意味で能天気な母の言葉には「ナイス。」と心の中で思っていた。
そして、亜紀にとってはさらに大事なことを朔に聞く。

亜紀「ね、お見合いの話があったんだって?」
朔「・・・おふくろから聞いたの?」
亜紀「うん。」

「また余計なことを!」
朔は軽く恨めしげに心の中で叫ぶように嘆いた。

朔「俺も後で聞いたんだけど、何度か親戚からね。・・・俺には言わずにおふくろが直接断ったらしいんだ。」
亜紀「それも聞いてる。」
朔「じゃあ、いちいち俺に聞くことないでしょ。」
亜紀「嬉しかったの。おばさんも私の味方になってくれてるなって。」
朔「そっか。」
亜紀「もしフラれたら、バッサリ髪でも切っちゃいそうだけどね。」

そういえば、もうずいぶん長い間、亜紀は髪を短くしてはいない。
高校時代の長さよりもさらに長くなっていた。肩から背中と腰の中間までの長いストレートで、艶のある黒髪は、亜紀という女性の特徴の一つで、朔が好きな理由のひとつ。

朔「長いよな。」
亜紀「髪?」
朔「うん。」
亜紀「朔ちゃんって、ロングは嫌い?」
朔「いや・・・・・・そんなことないけど・・・。」
亜紀「けど?」
朔「短いのも似合いそう。」
亜紀「ショートカット?・・・私、小さい時からロングなの。自分でも切ってみないと分からないな。」
朔「だからって切るなよ。」
亜紀「ロングが好きなの?朔ちゃんがそう言うならもっと伸ばしちゃうよ。頑張っちゃうよ、私。」
朔「それより、後悔のないように就職活動しなよ。」
亜紀「・・・。」
朔「あ・・・。」

亜紀の攻撃をかわすためとはいえ、朔は「しまった。」と心の中で思った。
しかし、亜紀はニッコリ笑ってみせた。

亜紀「私、人よりもハンデ背負ってるけど、胸張っていくよ。・・・ちっぽけだけど、背筋伸ばして頑張るよ。」
朔「それを聞いたら安心したよ。大丈夫、いい結果出るよ。」

その後も会話は弾んだ。
亜紀の問題も片付き、朔は芽衣のことに集中できる。
食器も片付けて、部屋でまったりとくつろぐ2人。

朔「明日は午後から。亜紀は?」
亜紀「私、もう休みも同然よ。単位は去年でほとんど取り終わってるし。」
朔「就職活動。」
亜紀「それをしても、時間はあるよ。」
朔「そっか・・・・・・ちょっと羨ましいな。」
亜紀「毎日でも朔ちゃんの帰りを待てるよ。」
朔「今は、自分のことだけ考えなよ。」
亜紀「ありがと。・・・でもあれだね。付き合い始めたときには、私は世界を飛び回りたいようなこと言ってたけど、朔ちゃんの方がそういうことありそうだよね。」
朔「分からないよな・・・人生って。仕事始めたら、会う時間もまともに取れないと思ってたけど、結構会えるもんだよな。」
亜紀「朔ちゃんが地元で就職してくれたのが大きいよ。東京に残っちゃったら遠距離だもの。」
朔「神様が良くしてくれてるんだよ。」
亜紀「罪滅ぼしかもしれないよ?」

クスっと笑う2人。

朔「亜紀が就職決まったら、どこか旅行に行く?」
亜紀「どこ?」
朔「2人きりで、近場とか。」
亜紀「近場ねぇ・・・う〜ん・・・・・・横浜!」
朔「横浜?東京にいた時にも行かなかったなぁ。」
亜紀「山下公園の夜景を見たい。綺麗だよ、きっと。」
朔「よし、行こう。」

しかし、亜紀は不安を隠せない。

亜紀「でも、朔ちゃん大変でしょ。研修医だからお給料も安かったり・・・。」
朔「貯金できるくらいはもらってるよ。」
亜紀「・・・30までには結婚したい。少なくとも同棲したい。」
朔「別に・・・必要ないでしょ。東京でも長期間生活したけど問題なし。」
亜紀「朔ちゃん、長い間一緒にいても私の嫌なとことか見えたりしないの?」
朔「全然。逆に俺のほうが嫌われないかと心配だよ。」
亜紀「じゃあ、私たち大丈夫ね。相性いいんだ、やっぱり。」

嬉しそうに笑う亜紀の顔にときめきつつ、穏やかな心になる朔。
亜紀はそのまま、「んん〜。」と伸びをしつつベッドに寝転んだ。長い髪が広がりながら、その上には白いキャミソールが映える。そしてそこから覗く亜紀の二の腕が、やけに色っぽく思えた。

朔「泊まる?」
亜紀「いい?智世も結婚することだし、少しくらい幸せのお裾分けをしてもらってもいいでしょ?」
朔「俺もこれから大変だからさ、元気をもらっておかないと。」
亜紀「何が大変なの?」

亜紀につっこまれて、朔は昨夜からのことを話した
場合によっては自分と同じ思いをすることになるかもしれない存在を知った亜紀は、決して最悪なことにはならないようにと心の中で願うのだった。なによりも他人事とは思えない。

亜紀「私、面接がない日にはお弁当作ってあげる。スタミナつけて、その子のために頑張ってあげて。」
朔「ああ、頑張るよ。」

このことが、後々事件を起こすことになるのだが、今はそんなことを知るわけもなく、2人はベッドに寝転んだ。夏場ということもあり、タオルケット1枚だけを2人で一緒に使う。

朔「寒くないでしょ?」
亜紀「十分にあったかいよ。でも冬の方が好きだな。」
朔「なんで?」
亜紀「朔ちゃんに抱きしめてもらって眠れるから!」
朔「俺だってそうだよ。亜紀を抱きしめたい。」

さらりと大胆なことを言ってのける朔に、亜紀はこの時負けを悟った。
もはや、自分が愛情表現を求めることをせずとも朔は自分から言ってくれるハズ・・・。
心臓はドキドキし、それを隠すように抱きついた。

朔「待てよ、電気消すから。」

朔は体を起こして紐を引っ張り電気を消した。

朔「さて、寝ますか?」
亜紀「そうね。」

2人揃って決して広くはないベッドに身を寄せ合う。
そして、自然に眠りに落ちるまで会話が続くハズ・・・・・・。

朔「・・・・・・・・・。」
亜紀「・・・・・・・・・質問タイム。」
朔「は?」
亜紀「朔ちゃん喋ってくれないもの。ずーっと私の顔を見るだけ。私に何か聞きたいこと無いの?」
朔「うーん・・・あ、ひとつだけある。」
亜紀「ほら!いいよ、何でも答えてあげる。」

朔は遠慮することなく、以前から疑問に思っていたことを口にし始めた。
それは、亜紀の日常の他愛もないことであるもののどこかで引っ掛かっていたものである。

朔「亜紀は、何で白いものばかりを着るの?」
亜紀「なにそれ?」
朔「いや、何となく前から気になっててさ。」
亜紀「ふーん・・・・・・。」

内心、亜紀は朔に鋭さが出てきたと感じていた。
実は、いつも白系統の色の服を着ているのには凄く意味のあることだった。
それは、亜紀の朔への愛を伝えるための数ある手段のひとつで、亜紀の正直な思いなのだ。
仮に、黒系統の服を着ていると時でも、インナーやアクセサリーには白を使うようにしている。靴下ももちろん白が多い。

亜紀「秘密に気付いてくれたのね。」
朔「秘密?」
亜紀「そうよ。ご褒美に包み隠さずに教えてあげる!」

亜紀は本当に嬉しそうにしながら話す。

亜紀「私が白い服を着るのはね、朔ちゃんへの希望があるのよ。」
朔「希望?」
亜紀「そっ!」

元気よく答えた亜紀は、一転してモジモジしつつ顔を真っ赤にしながら、肝心な部分を語りだした。

亜紀「白って他の色に染まりやすいでしょ。」
朔「ああ。」
亜紀「そこが重要な部分なの。」
朔「染まりやすいことが?」
亜紀「そう!」
朔「・・・・・???見えてこないな・・・。」
亜紀「・・・その染まりやすい白を私が着てるの。」
朔「亜紀が染まりやすい???」
亜紀「そう!何に染まりやすいと思う?それも自らが着ているの。」
朔「???・・・・・・・・・・分からない。」

一層顔を真っ赤にした亜紀は静かに言った。

亜紀「・・・私を・・・朔ちゃんの色に染めて下さいってこと・・・。」
朔「・・・・・・・。」

亜紀の思わぬ告白に朔は顔を真っ赤にさせて口をパクパクしている。

亜紀「そのくらい好きなんだからね!!」

何故か怒るように言う亜紀に朔もまた始めた。

朔「あらためて言うよ。今さらだけど、ちゃんと言ったことなかったし・・・。」
亜紀「なに?」
朔「亜紀といると楽しいし、癒されるし、元気が出る。・・・・・・・俺の隣にいてください。俺と付き合ってください!」
亜紀「・・・・・・・・・・・プ!」
朔「何だよ・・・笑うなよ。」
亜紀「ゴメン・・・ふふ・・・いいよ。結婚もしてあげる!」

「亜紀〜・・。」と、朔は後ろから抱きすくめてふざけ始めた。

亜紀「あ、もう!」
朔「亜紀だってこういうの好きでしょ。」
亜紀「フフフッ・・・でも腕が胸に当たってるよ〜・・・。」
朔「え?嘘だろ・・・俺触ってないよ。」
亜紀「ま、いいか・・・朔ちゃんはHだしね!」
朔「俺だって男だよ。」
亜紀「よろしい、初めて認めたね。そういう勇気も必要だよ。」

誉められているのかけなされているのか分からない朔と、嬉しさを隠さずに爆発させる亜紀。
“ボー・・・・・・・”と、夜の宮浦の船の汽笛が聞こえる夜、2人の熱帯夜よりも熱い夜は更けていった。
                       ・
                       ・
                       ・
と言っても、朔は男にはなり損ねたが・・・・・・。
龍之介と智世の幸福のお裾分けをしてもらった2人だった・・・・・・。

続く
...2005/11/09(Wed) 22:41 ID:6vgKFKak    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ぱん太
初めまして、たー坊様。僕も先日、このサイトを見つけ、たー坊様の物語にはまっています。今では白血病も不治の病ではなくなりましたが、本田美奈子さんの死を思うと、考えさせられるところが多々あります。当方、血液内科ではありませんが、心臓外科の医師です。たー坊様の物語での亜紀さんのように、患者さんが治癒することを信じ、毎日の仕事に邁進できればと思います。これからも楽しみにしております。頑張ってください。
...2005/11/09(Wed) 23:32 ID:pqOH.TUI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さん
「白」ですかー。いいですねー(笑)
それにしても朔、それを女性の口から言わせてはイカンでしょう。
先輩のドクターに付いて、男としての修行を積む時が来たのかも(笑)
...2005/11/10(Thu) 21:23 ID:0RS/aYTU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。 
龍之介と智世の幸福のお裾分けなんですか!好いですね。二人のやり取りの仕方に、ほのぼのとした幸せを感じます。亜紀の「あなた色に染まりたい」という言葉が男にとってどんなに嬉しいことか、朔の鼻の下が伸びきっているようですね(笑)ご馳走様。でも朔もまだまだ女性のハートが良くわかってないみたいですね。それが、朔のいいところかも知れません。亜紀もそんな朔に惹かれたんでしょう。やっぱりこの二人は、お似合いのカップルです!でもこの先、何かまた一大事が起こるんですか?次回作も楽しみに待ってます。だいぶ夜も寒くなりましたので、風邪を引かれないように、お体には充分気をつけて下さい。
...2005/11/10(Thu) 23:03 ID:Z22LuLjc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 たー坊さん,朔五郎さん,電車男さん
 「白」ですかー。ご馳走様。
 でも,別の見方をすれば,サクだって元々は「白」だったのに,いち早く「亜紀色」に染まってしまったのかもしれませんね。多分,アナザーに突入する前の「本編」の段階で・・・
...2005/11/11(Fri) 00:40 ID:zLiXDAHw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:KAZU
たー坊様
朔と亜紀の会話を聞いていると今時にない懐かしさを感じますね。今の世の中ではあまり考えられませんが、純粋って良いなぁ〜って思ってしまいます。
...2005/11/11(Fri) 12:22 ID:MiVxoQ/c    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
ぱん太様
はじめまして。たー坊と申します。
お読みいただきましてありがとうございます。
医療の現場、それも心臓外科におられるとのことですが、とても大変な職場にいらっしゃいますね。
白血病が恐ろしい病気にかわりは無いでしょうが、ばん太様のような方たちに、患者さんを一人でも多く救っていただけたらと思います。
この物語は無茶苦茶な部分も多く、医療に関わる方からは到底ありえないようなこともあるかとは思いますが、これからもお読みいただけましたら幸いです。

朔五郎様
ズバリ「白」です(笑)
しかし、亜紀の口からそれを言わせるのはダメですね。同意見です。
しかし、基本的にイニシアティブを握るのは亜紀ですので、こういうことをガンガン言ってもらって、権力の座を揺ぎ無いものにしてもらいましょう(笑)
そして、さらに朔には頑張ってもらいましょう。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

電車男様
9年経っても鈍感ぶりの変わらない朔ですが、まさに諸刃の剣といったところでしょうか。ひょんなことから亜紀のビンタが飛ばないことを祈るだけです。しかし、もう亜紀の眼の中には朔しか映らないでしょうから、大丈夫でしょう。でも、そんなだからこそ、何かあったら怖いのが亜紀なんですけどね・・・(笑)。
これからもよろしくお願い致します。

にわかマニア様
的確なご意見をありがとうございます。
まさにその通りですね。とうの昔に朔は亜紀の色に染まりきっていたことでしょう。
そして、実は亜紀も朔の色に染まりつつあったのかもしれませんが、あえてそれを言わなかったと・・・。そして、さらに朔の色に染まりたいという願望は、イコール結婚願望でもあるのかもしれません。
これからもお読みいただけましたら幸いです。

KAZU様
ひと昔もふた昔も前のセリフはいかがでしたでしょうか?物語では26歳、年代も90年代後半という時ですが、この時もそんなセリフはすでに死語であったと思います。
このセリフ、比較的言われていた時代を知らない私は、かなり苦労致しました。多少クサくて、朔の鼻の下を大いに伸ばす言葉だと思います。
次回もお読みいただけましたら幸いです。
...2005/11/13(Sun) 13:42 ID:.rB5vZnw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
なぜか結婚する龍之介と智世よりも幸せいっぱいの朔と亜紀。
しかし、2週間後のこの日はおおいに慌しい。

ボウズ「おら朔!さっさとやるぞ!」
朔「やってんだろ!なんでもっと綿密に計画を練っておかなかったんだよ!」
恵美「本当にゴメン!!まさか明日に入籍するなんて全然聞かされてなかったから・・・・・。」
朔「亜紀は智世に何も聞いてなかったの?」
亜紀「全然!!まさか、こんなに早くなるとは思わなかった。」

閉館後の松本写真館では、急遽、明後日に決まった披露宴の準備に慌しい。
実は、昨夜遅くに恵美のところに連絡が入ったのだった。

智世「恵美?遅くにごめん。」
恵美「どうしたの?」
智世「実は、明後日に籍入れることになったから。」
恵美「え〜〜?急だね!」
智世「そうなのよ!!スケの奴が『明後日入れるぞ。』だって!こっちの都合も考えないで、まったく!」
恵美「亜紀には知らせたの?」
智世「電話するべきなんだけど、亜紀も今が大事でしょ。事後報告でいいかなと思って。」
恵美「そっか・・・・・・。とにかくおめでとう!今度、皆で集まれる時にはパーティーね!」
智世「いずれ披露宴するよ。その時には私の美しいウエディングドレス姿を見させてあげるから!」
恵美「美しい・・・自分で言わないよ普通。」
智世「やっぱり?」

恵美は、電話を切る間際に「ブーケちょうだい!亜紀には内緒!」と言った。
受話器の向こう側から高い声での笑い声が聞こえた後で電話は切れた。

ボウズ「よっしゃ!こっちは終わったぞ!」
亜紀「こっちも終わり!」
恵美「これを結んで・・・・・・・と・・・・・終わったぁ!」
ボウズ「朔は!?」
朔「ちょっと待って・・・・・こうして・・・・・ふぅ・・・・・よし、終わったぁ!!」

全員が「終〜〜了〜〜〜!!!」と声を揃える。
やっと準備完了したのだ。ハイタッチで互いの労をねぎらうと、朔が奥から飲み物を持ってきた。

朔「一本ずつね。」
亜紀「気が利くね。」
ボウズ「お!?朔のオゴリか?」
朔「ああ。」
恵美「朔、ご馳走様!」

「カンパ〜〜イ!!!」と、軽めの前夜祭のような打ち上げ。
ペットボトルが合わさると、特有の鈍い音が鳴った。これで、後は新郎と新婦を迎えるだけだ。

ボウズ「それで、スケと智世だけどよ。」
朔「あ、どうやって連れてくるんだよ?」
ボウズ「明後日、入籍を済ませた2人を町役場で待ち伏せて、出てきたら車に乗せる。で、2人をここに連れてくればいい。」
亜紀「皆に連絡はとってあるの?」
恵美「智世から報告があった時点で、すぐにヨシくんに電話したの。」
ボウズ「谷田部はもちろん、新郎と新婦の両親にも連絡はとってあるぜ。・・・・・・それぞれの親には、朔と亜紀から伝えて欲しいんだけどな。」
亜紀「うちは、たぶん大丈夫。」
朔「うちは、ここが仕事場だし・・・。でも、これから俺は仕事。夜勤だから、式には出れると思う。」
亜紀「私も、明日は通知が来るはずだから、少し遅れるかも。」
恵美「じゃあ、しょうがないよ。最終的には来ればいいでしょ。」
亜紀「ゴメンね。」
ボウズ「心配すんな。お前らの代わりに、俺が2人を迎えに行くからよ。」
恵美「私と谷田部先生で司会とかするから大丈夫。」
朔「悪い、すぐに来るようにするから。」
ボウズ「まあ、スケには段取りはしてある。これから家に帰って確認しとくからよ。」
恵美「あ、そういえば衣装は?」
朔「ああ、近くにある貸衣装に依頼しておくよ。悪いけど、明日の午前中にでも取りに行って。」
恵美「了解。それは私が引き受けました。それで、朔?」
朔「ん?」
恵美「明日のカメラマンよろしく!写真館だから、撮ったその場で現像できるよ。」
亜紀「それいいね。私アシスタントするよ。」
朔「決まりみたいだなぁ・・・明日は早めに帰ってこないと谷田部に何言われるか・・・(苦笑)」

軽い冗談に、写真館は若い声に包まれた。
その後、仕事の朔をボウズが車で送っていった後、中には亜紀と恵美が残され、女2人でのお喋りが始まった。

恵美「最近どう?」
亜紀「全然。」
恵美「え?朔とうまくいってないの?」
亜紀「あ、そっち?てっきり就職活動かと思った。」
恵美「ハハハ・・・ま、私もそれなりに苦労したなぁ・・・。」
亜紀「恵美って・・・何で町の観光案内の仕事にしたの?」
恵美「一時、東京にもいたんだけど・・・結局は故郷の方が心地よかったのよね。それに故郷が好きだし・・・故郷の良さを知ってもらおうと思ったのがキッカケかな。」
亜紀「そうなんだ・・・。」
恵美「やっぱり、好きなことを仕事にしたいよね・・・いざ、その世界に入ってみると大変だったり・・・例えば・・・観光シーズンには土日に休みがなかったり。」
亜紀「自己管理も大変だね。」
恵美「それも慣れなんだけどね(笑)」

一足早く社会人になっている恵美の話は大いに参考になる。
何とか就職先を決めて充実する日々を送りたいと思わずにはいられない。

恵美「明日、結果が出るんでしょ?」
亜紀「うん。大学の近くの小さな出版社。」
恵美「大丈夫。」
亜紀「前向きにいきますよ・・・・・・。」
恵美「あ・・・・。」
亜紀「何?」
恵美「・・ん、何でもない。」
亜紀「な〜に?気になるじゃない。」
恵美「自分から励ましておいて、こんなこと言うのもあれなんだけど・・・・・・亜紀、もし明日ダメだったら、私の職場を受けてみない?」

あまりに突然なことに、亜紀は面食らってしまう。

亜紀「どういうこと?」
恵美「実は、観光案内の仕事の中で、町の広報のようなことを担当する部署があるの。そこでは絵本とまではいかなくても、パンフレットにイラストを用いて旅行代理店とかに配るんだけど・・・。」
亜紀「恵美の町のことを調べて、キャラクターなんかを使って絵本のような感じに編集するの?」
恵美「うん。絵本編集の要素とかもあると思う。それどころか物語を創作して、その部署の人たちのオリジナルの絵がそのままパンフレットにのったこともあるのよ。」
亜紀「何か、簡単な作家みたい。」
恵美「そうね。・・・・・・完全な編集者って訳じゃないけど・・・求人も出してたと思うし・・・・・・どうかな?」
亜紀「考えておくね。」

亜紀は心のどこかに引っかかる部分もあったのだが、前向きに考えると恵美に伝えた。

恵美「それはそれとして・・・朔とは?」
亜紀「おかげさまで・・・。」
恵美「相変わらず一緒に寝てるんでしょ?」
亜紀「たまにね。」
恵美「あんまり夢島で2人が幸せそうだったから、私たちもこの前試したの。」
亜紀「最高でしょ?」
恵美「本当にそう思う。何でもっと早く気付かなかったのか不思議。」
亜紀「でも・・・それ以上に幸せなのは・・・。」
恵美「・・・・・・うん・・・本当に良かったね。」
亜紀「私、高校の時からずーっと智世の恋を知ってたから、スケちゃんと付き合い始めたって聞いた時も嬉しかったの。」
恵美「それが、いつのまにか私たちの中で一番早く結婚するんだもの・・・ああ・・・いいな。」

しみじみと、そしてどこか清々しい表情の恵美だ。
亜紀も、微笑みをたたえている。

亜紀「ブーケトスするんでしょ?」
恵美「うん。計画に入ってる。」
亜紀「今度こそ私が取らないと。」
恵美「あ、それだけは譲れない。」
亜紀「私と恵美でブーケ争奪戦?」
恵美「ねえ亜紀?年功序列ということで、私に譲ってくれない?」

亜紀はワザとムキになったような顔をして、「負けないもん!」と、負けず嫌い全開。
恵美は恵美で「いいでしょ?亜紀は一度結婚写真撮ってるじゃない!」と言い返す。
すると亜紀は何かに気付いたように、飾られている写真を手にとって懐かしみながら話し始めた。

亜紀「私がこれを撮った時・・・ブーケトスやったんだ・・・その時、智世のところに来たのに、先生が横取りしちゃったんだっけ・・・。」
恵美「亜紀痩せてるね・・・やっぱり病気が原因?」
亜紀「うん。この後は髪の毛もなくなっちゃった。」
恵美「もう終わったことだから笑い話にもできるんだろうけど。」
亜紀「うん・・・それでね、その後、谷田部先生がようやく結婚できて・・・その時もブーケトスしたの。そしたら・・・。」
恵美「智世のところに飛んでったの?」
亜紀「ううん。私のところに来たのに、今度は智世横取りしてくれたわ!」
恵美「あらら・・・ん?ということは、亜紀から始まったブーケトスは何かの因縁なのか、横取りした人が次に結婚することになってるのね!?」
亜紀「そういうこと!!」
恵美「こうなったら、何が何でもブーケをもらわないと!」
亜紀「ダメ!私だって結婚したいもん!!」
恵美「年功序列!」
亜紀「ダメ!わたしたち、もう9年になるんだから!」
恵美「どうせだから10年目突入しちゃえばいいじゃない!私が先に結婚して、次にブーケを亜紀が取ればいいだけじゃない?」
亜紀「絶っっっっっっ対にイヤ!!!」

笑いながらも軽くムキになる2人。
それだけ強いジンクスが宿るブーケトスには2人も本気になる。
軽〜くライバル心を芽生えさせた2人だった。

そして、誰もいなくなった写真館。明日はいよいよ人生の門出を祝う場所となる。

自分の部屋で披露宴の進行の確認に余念のないボウズ。
自宅の部屋で明日着る服の準備をする恵美。
病院の医局でコーヒー片手に一息つく朔。
自分の就職を決めたい、無二の親友の幸せを思いっきり祝いたいと思う亜紀。

そしてこの家庭では・・・。

谷田部「どれにしようかな?」

恩師もまた着ていくものを選んでいた。

公一「いつも通りに学校でのスタイルで行ったらどう?」
谷田部「やっぱりそう思う?」
公一「生涯いち教師として・・・大木くんと上田さんには一生“先生”って呼ばれるんだから。」
谷田部「“先生”ねぇ・・・・・・。」
公一「そうだよ。俺だって、その立場は変わりないんだし。」
谷田部「そっか・・・人生最後まで教師か・・・・・・。」
公一「俺、結婚しても未だに“先生”って呼びそうになるぞ。」
谷田部「家庭を築いてもそれか・・・(苦笑)」
公一「そうそう(笑)」

それぞれに明日の披露宴に思いをめぐらせていた。

谷田部「あ!スピーチ考えてなかった!!」
公一「着ていくものを考える前にそれを考えないでどうすんの?」
谷田部「仕方ないでしょ!・・・あんたも手伝って!」
公一「俺?国語の成績だけがあまり良くなかったのは、よ〜く知ってるでしょ。」
谷田部「ブーブー言わずに考える!!」
公一「分かったよ・・・・・・。」

そして、その日はやって来た。

続く
...2005/11/13(Sun) 20:02 ID:.rB5vZnw    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。
いよいよ明日が、龍之介と智世の披露宴なんですか!二人にとっては、山あり谷ありの長〜い道のりでしたね?おめでとうございます心よりお祝い申し上げます。どんな披露宴になるんでしょうか?また、谷田部先生の二人に対する、スピーチも楽しみです。それよりも一番の関心は、亜紀と恵美のブーケ争奪戦です。私個人としては、何が何でも亜紀に取らしてあげたいいんですが、そこは、ター坊様のさじ加減ひとつですけど、どんな展開になるのでしょうか?次回作も眼が離せません。風邪など惹かれないように体調には充分注意して下さい。
...2005/11/13(Sun) 22:16 ID:4RIZl4n.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ぱん太
こんばんは、ター坊様。早速返信をいただき、ありがとうございます。当方、この10月で34歳になりました。ドラマの設定では、朔と亜紀は70年(昭和45年生まれ)の設定ですので、僕よりも1学年上と言うことになるかと思います。ドラマの中で、17年後の朔太郎は病理医になっていました。少なからず、違和感を覚えました。亜紀に何もしてあげられなかったことを理由に医師になったのであれば、臨床それも血液内科医の設定でいて欲しかったと思って止みません。と言うのも、僕が心臓外科医になった理由が、昔付き合っていた女性が拡張型心筋症で亡くなったことにあります。心臓移植を出来ていれば、助かったかも知れない彼女の命。医師になることは小学校時代から決めていましたが、心臓外科医になることを決定付けたのは、彼女の死でしたね。僕自身も心房中核欠損症や不整脈があり、度々入院していて、その入院先で知り合ったのが彼女でした。年配の患者しかいない某大学病院の循環器内科の病棟で、唯一同年代が彼女でした。小学4年生の夏休みの入院で知り合い、彼女が亡くなったのが高校3年の11月ですから、正味9年間の初恋でした。彼女は県内トップの成績でしたが、高校生活の大半は病院から通学していたようです。当時、その病院には僕の親父も消化器内科の教授として勤務していましたし、彼女の父親も脳神経外科の教授として勤務していましたが、僕の自宅からは車で1時間くらいの場所にあったため、会えるのは、ホントに月に数回でした。彼女の通夜・告別式に、親父は同僚のご令嬢の葬儀と言うことで出席したようですが、学校のあった僕は、後日、焼香に行ったのみです。とても切なく、悔しかったことを覚えています。
 幸いにも医学部に合格することは出来ましたが、第一志望であった地元の大学には落ちました。東大、慶応と落ちまくり、やっと合格したのが都内の某国立大学です。
 大学に入った当初から、研修先は女子医大と決めていました。心臓外科では定評があるところでしたし、現在の研修とは違って当時の研修は、結構自分の好きな科を回ることが出来たんです。月給(奨学金?)は3万円でしたけど.............。市中病院に出れば、もっと給料の良いところは沢山あります。しかし、学生時代には、女子医大での研修を決めいていたので、暇な時間にはバイトしまくり、2年間研修に没頭できる蓄えをしようと躍起になったことを覚えています。1年生の5月〜6年生の12月まで毎日バイトに通っていた某大手新聞社の人たちとは今でも交流がありますし、医療ネタの記事や連載を企画すると、すぐに問い合わせが来ます。僕が辞める頃に入って来た新人たちが中堅どころになってきたので、良いように使われています。正直、監修料が欲しいところですね。
 そんなこんなで、女子医大では、循環器内科・循環器外科・循環器小児科・麻酔科・救命救急センターしかローテーションしていません。ただ、当時の研修状態だと、大学ではそのまま医局に入り、ストレート研修が多かったようです。だから僕は学生実習では癌に接してはいても、医師になってからはほとんど癌とは接してなかったんです。医師になって2年目、兄が体調を崩し、入退院を繰り返すようになりました。骨ページェットという診断が東京医大八王子医療センターの見解でした。日に日に弱っていく兄に、一抹の不安を感じた僕は、骨肉腫では実績のある慶応病院の整形外科に事情を話し、兄から口伝に聞いている血液検査のデータと主訴を伝えました。その慶応の先生は「兄貴の友達と言うことで、東京医大にデータを提供するように手紙を書くから」と言って下さり、僕はその手紙を兄夫婦に預けました。「転院するなら慶応はすぐにでも病室の確保をすると言っているけど、どうするかは自分で決めな」と託しました。兄夫婦が実際に動いたのは、それから半年後。兄貴はホスピス病棟にいました。東京医大の見解では、骨ページェットからの癌転化ということでしたが、入院当初からのレントゲンや血液データを診ていた慶応の医師は「これ、最初から癌だよ」とサラリと言ってのけました。ここまで来ちゃうと、ホスピスが妥当ですねとの見解。悔しかったですねぇ〜。親父も含め、兄(長男です。亡くなったのは次男です)夫婦も医師、僕もペイペイでしたが、医師の端くれ。4人も身近にいて、兄貴の癌に気付いてやれなかった。無念でしたねぇ〜。ホスピスに入って2ヶ月目。主治医に聞いたそうです。「僕はもうダメなんでしょうかねぇ〜」と.................。「病院で死ぬと言うこと」等を執筆している有名なホスピス医ですが、「ここまで癌が拡がってしまうと、正直厳しいですね。今、我々が出来ることは○○さんの苦痛を少しでも軽減してあげることです」と言われたようです。そのときから、それまで友人と会うことを悉く拒否してきた兄が友達と会うようになったり、親父に、自分の死後のことを託したり..............。一通りすると、脳転移のせいか、喋れなくなり、失明し、耳も聞こえなくなりました。結構、悲惨な死でしたねぇ〜。まだ、兄貴が東京医大に入院している頃「チキショー、仕事してぇなぁ〜」と泣いていたことを思い出します。兄は内視鏡を開発する会社員。趣味とも言える仕事が出来なくて、さぞ無念だったろうと思います。あれから、もう8年が過ぎようとしています。忘れ形見の当時3歳だった甥は、来年6年生になります。時間の経過が早いですねぇ〜。
 
 心臓移植医になることを目指していた僕は、臨床研修修了後、即座にアメリカ結婚とアメリカ留学を決めました。「喪中はヤベぇ〜よ」という仲人をお願いしていた某大手新聞社の編集局長から諭され、海外での身内だけの結婚式に変えました。相手は某T大学医学部保健学科卒の司法修習生。大学卒業後は興銀に就職し外為をやっていましたが、「女なんかがT大なんて出ると生意気でしょうがねぇ〜」と言われたらしく、一念発起、司法試験に合格しちゃったんですね。ちょうど彼女の司法修習が修了する時期と僕が海外留学する時期が重なったので、入籍だけを済ませ、二人で渡米しました。ちなみに、家内は学年1つ上です。5年間アメリカにはいましたが、その間、100例程度の心臓移植に携わりました。家内は公衆衛生学の大学院に通学してました。2003年の3月に帰国しましたが、戻ったのは自分の母校でもなく、研修先でもなく、家内の出身校。そこの大学病院の移植外科に勤務することになりました。移植外科の教授は、国立がんセンターの肝胆膵外科部長から信州大学教授に転じ、信州大学で生体肝移植を立ち上げた有名人です。留学中に臓器移植法も施行され、自分の留学の成果を還元しようと頑張ろうと思ったのですが、日本での臓器移植はまだまだの状況。実際、帰国してからは、1例も心臓移植に携わっていません。毎日が一般の心臓外科医としての生活です。
 そんな僕もちょうど2年前(帰国から7ヵ月後)に癌に罹患しました。膵臓癌です。1週間しかいなかった内科病棟では、悲壮感漂う顔で教授と主治医と担当医が「お気の毒ながら、悪性腫瘍を疑います。外科では手術可能と言っていますので、明日にでも外科病棟に転床していただきます」家内が「経過観察とかは出来ないんですか?」と食い下がると「膵臓の場合、進行が早いんですよ。年齢のことも鑑みると早めに外科に任せた方が得策です」との回答。翌日、外科病棟に回されたのでした。外科での主治医は移植外科と肝・胆・膵外科の教授を兼務する方でした。いきなり家内と教授室に呼ばれ、内科でのカルテと今までの検査データをテーブルの上に並べられ、「どう診るよ?」とやられました。「CT及びMRI上、ステージVの膵臓癌。しかし、大動脈や神経浸潤は見られないので、何とか手術適応の範囲。膵体尾部の癌なので、手術期間的にも3時間半程度でしょうか?」と答えるのがやっと。「まぁ、そんなもんだろう」と軽く教授には言われましたね。「でも、この年齢での膵臓癌は非常に稀だから、恐らく国内最年少だよ。念のために、内分泌癌の検査もしておこう」とおいうことになりました。
 そんなこんなで手術を受けたのが一昨年の12月。合併症や諸々の問題を乗り越え、翌年4月には職務復帰。病院も某T大学から女子医大に移りました。順調に回復していましたが、この夏に肝転移が発見され、再手術。8月8日に手術をして。9月からボチボチ復帰した次第です。

 そんな様子を見かねてか、家内が学士入学で僕の母校に合格しました。「看護士や保健士としてでは無く、医師として、正面から旦那の病気に向き合いたい」というのが志望の動機だったようです。一応、家内は保健学科の出身なので看護士や保健士の資格は持っています。たまたま、面接官が僕を良くする教授だったこともあって、僕の近況報告から始まり、自分のこれなでの思いを語ったそうです。自分の旦那をネタに面接に臨む家内と、それを受け入れる大学...............。なんなんだか。家内も某T大医学部公衆衛生学教室の助教授の要職にある身。それを蹴ってまで、医師になりたいようなので、よほどの覚悟なのでしょう。膵臓癌の5年生存率は20%と散々なもの。自分がこのさき、何年生きられるかどうかは分かりませんが、常に医療の最前線に立っていられればと思う今日この頃です。

 ター坊様の物語での亜紀は、就職云々で迷っておられるようで。最近では医学部でも学士入学が結構増えています。亜紀が医師になるって言い出したら、結構サプライズですね。

 最後に研修医時代の思い出を一つ。結構多忙な日々を送っていたので、彼女(今の家内)と逢うのも週末だけでした。一応土曜日の勤務は午前だけだったので、それから彼女の家に行ったり、僕の家にきて貰ったり........。深夜の呼び出し等で寝不足だった僕は、彼女のの膝枕で熟睡してしまうこともしばしば。3時間とか平気で寝てましたね。その間、彼女は、読書ばかりしていたようですが.........。今では全然そんなことはしてくれませんけどね。それでもまぁ〜、手術の当日に付き添ってもらったり、毎日授業の合間を見つけ出して病室に来てくれたのは結構心強かったですねぇ〜。

 と、まぁ長々と書いてしまいましたが、ター坊様の物語のネタにでもなればと思った次第です。支離滅裂な文章、失礼しました。
...2005/11/14(Mon) 01:19 ID:a/sUWjlg    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
お読みいただきましてありがとうございます。
次回はいよいよスケと智世の結婚式です。今回のことは智世は一切しらないので、是非喜んでくれるような式にしたあげたいと思っております。
次回は、ブーケ争奪戦とともに楽しみにしていただけましたら幸いです。

ばん太様
一通り読ませていただきました。
本当に貴重なお話をしていただきましてありがとうございます。とても私が経験することはないかもしれないお話の数々・・・・・・とても感想のような形でお返事することはできませんが、あえて一言で言うならば「事実小説より奇なり。」でしょうか・・・。話のネタにするにはあまりに大きすぎる話ですね・・・・・・。
私の経験、及び文章力では、とても評価していただけるような作品はできませんが、これからもお読みいただける方がいる限りは続けたいです。
ばん太様もくれぐれもお体に留意して下さい。
そして、常に医療の最前線に立ちたいという思いを原動力に、一人でも多くの患者さんを救っていただきたいです。5年生存率の数字など関係ありません。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/11/14(Mon) 21:00 ID:Uy.A.MM6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さん
さあ、ブーケ争奪戦の結末は・・・驚愕の展開はあるのでしょうか・・・
あと、亜紀の就職試験の結果も気になりますね(^^)
...2005/11/14(Mon) 23:40 ID:tvwn3vyU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 久々に「ブーブー言わない!!」の名調子が出ましたね。やっぱり,どこまで行っても「先生」なのですね。
 それにしても,この調子で披露宴を仕切られるんじゃ,新郎新婦も出席者も大変だなァ・・・
...2005/11/15(Tue) 12:53 ID:KtFPB3WI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
朔五郎様
お疲れ様です。
次回はいよいよ結婚式ですが、未だブーケトスまでには時間がありますので、ご了承を(笑)
争奪戦は、2人以外にも虎視眈々と狙っているかも・・・しれません(笑)
次回もお読みいただけましたら幸いです。

にわかマニア様
どこまで行っても、結婚しても生涯いち教師の谷田部です(笑)というわけで、披露宴も谷田部色を大きく前面に押し出した披露宴に・・・なるかもしれません(笑)
これからもお読みいただけましたら幸いです。
...2005/11/16(Wed) 23:06 ID:e07B6Vb2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
翌日。
宮浦町役場・・・・・・。

係員「はい。それでは、今日、私が責任を持って受理させていただきます。」

たった今、晴れて大木龍之介と上田智世は夫婦となった。

係員「おめでとうございます。末永くお幸せに。」
龍之介「よろしくおねがいします。」
智世「ありがとうございました。」

役場を出ると、からっとしつつも夏の暑い日差しが2人を直撃した。
そんな中、さりげなく手を繋ぐ2人。

龍之介「さらば、俺の青春・・・俺の独身時代・・・・・・。」
智世「ちょっと、これから2人で頑張っていこうって時に、何を感傷に浸ってるのよ?」
龍之介「俺も責任あるなぁって思っただけだよ。」
智世「まぁ、子供が生まれるまでは少し浮ついても大丈夫じゃない?」
龍之介「え?じゃあ・・・浮気OK!?」

あんまりな発言に問答無用で智世が手を出した。
後頭部に平手うち。“ピシャリ”といい音が駐車場に響いた。
「何やってんだか・・・・・・。」
カジュアルだが、どこかフォーマルな感じもする格好のボウズが、車の中から2人の様子を見て呆れている。
気を取り直したボウズは窓を開けて2人を呼んだ。
いよいよ作戦開始。前日に龍之介とは最終確認を済ませている。いわば、今日の手作り披露宴は、2人への結婚祝いであると同時に智世へのドッキリでもあるのだ。

龍之介「よう!」
ボウズ「書類に不備はないだろうな?」
龍之介「さあ・・多分大丈夫だろ?・・・何かあれば連絡くるだろ。」
ボウズ「ったく・・・・・・。」

再び呆れ顔のボウズ。

智世「それで、あんたは何でここにいるの?」
ボウズ「皆で記念に写真撮影しようかって話になってる。ここ2日のことだったけど、恵美はもう来てるし、朔と亜紀は少し遅れるけど集まれるってよ。」
智世「朔がカメラマンしてくれるんだ。」
ボウズ「そういうことだ。」

2人に後部座席に乗せた後、時間稼ぎをするために、ボウズは自宅の寺へと向かった。
一方、そのころの松本写真館では・・・。

恵美が飲み物と花嫁衣裳とタキシードの手配を済ませ、奥の部屋では富子と綾子が簡単ではあるが料理を作っていた。そして皆で作った会場では、ここぞとばかりに真が最終チェックをしていた。潤一郎はカメラのチェックに余念がない。

真「・・・大丈夫だな。」
潤一郎「大丈夫ですか?」
真「ええ。釘もしっかり打ってあるし、素人が設計して作ったわりには上出来ですよ。」
潤一郎「作ってる間は、お客さんも不思議そうに見てましたよ。」

潤一郎の笑顔に真の口元も緩む。
その時、谷田部夫妻が到着した。

谷田部「こんにちは・・・。」
潤一郎「ああ!先生、ようこそお越しくださいました。」
真「ご無沙汰しております。いつも娘がお世話になってます。」
谷田部「こちらこそご無沙汰しております。今日はお招きいただいてありがとうございます。」
公一「私までお招きいただいて・・・。」
真「とんでもございません。こちらこそ、子供たちが無理を申しまして・・・・・・。」
公一「とんでもございません。家内はこういうことが好きなもので、以前、松本くんと廣瀬さんに今回のことを聞かせられてから、いつかいつかとウズウズしてたんですよ。」

大人同士の挨拶の途中、新郎新婦の両親が到着した。

潤一郎「大木さん、上田さん。」
龍之介父「よお、潤ちゃん。ありがとね〜こんないいことしてもらっちゃって・・・。あ、廣瀬さんも・・・ありがとうございます。」
真「いえいえ。こちらこそ、子供たちのワガママに協力していただいてありがたいですよ。」
谷田部「大木さん、上田さん。このたびはおめでとうございます。」
智世母「先生・・・お忙しい中ありがとうございます・・・。」
谷田部「とんでもございません。教師として、教え子の結婚式に出席させていただけるのは嬉しい限りです。」
智世父「本当に皆様、ありがとうございます。」

智世の父が深々と頭を下げるのと同時に、いつもは陽気な龍之介の父も頭を下げた。

龍之介父「しかし、潤ちゃん。」
潤一郎「どうした?」
龍之介父「写真館をこんなに大改造しちゃっていいのかい?何日か休みにしたんだろう?」
潤一郎「それがさ、さすがにプロだね。廣瀬さんの指導で、これらは簡単に設置できるように設計されてるんだよ。今日も終わったらすぐにしまえることになってる。」
谷田部「さすがに一級建築士ですね。」
真「いや・・・お恥ずかしいですね。そんなに大層なものではありませんよ。」

その時、奥から富子と綾子が戻ってきた。

富子「あらあら!皆さお集まりですね!」
綾子「大木さん、上田さん。いつも娘がお世話になって・・・・・この度はおめでとうございます。」
龍之介母「廣瀬さん・・・本当にご主人には新居のことや、今日のことでお力をお貸しいただいて・・・・・本当にありがとうございます。」
智世母「富ちゃんも。写真館を貸してもらって。」

新郎新婦の両親は感激しきりだ。
その時、ドアが開いて恵美が衣装を両手に入って来た。

恵美「あ、お集まりですね。」
潤一郎「それ、衣装?」
恵美「ええ。」

恵美は満面の笑みを浮かべて頷いた。
すると、松本夫妻と谷田部以外は「誰?」というような表情をしている。

恵美「あ、松本君のお父さんとお母さん、先生以外の皆様は初対面でしたね。・・・私、結城恵美と申します。以前、宮浦総合病院に入院していた時に、皆と知り合って以来、時々集まったりしています。」
谷田部「中川くんの彼女なんですよ。」

それを聞いた時、綾子と真は話だけは聞いていたので、「あぁ、亜紀がいつもお世話になっております。」と挨拶をして、富子「今回は色々とありがとう。」と笑顔で労いの言葉を掛け、ボウズにそういう女性の存在がいることを知った大木・上田両夫妻はおおいに驚いたのだった。

一方、朔と亜紀はというと・・・。
亜紀が松本家へと来ていた。何とか仕事を終えることができた朔は、風呂に入っていた。
亜紀は朔の着替えを用意している。

亜紀「朔ちゃーん・・・早くしてよ。遅れちゃう。」
朔「え、俺・・・メシもまだなんだけど?」
亜紀「お母さんが写真館で作ってくれるって言ってた。」
朔「でもさ・・・カメラマンって結構体力いるんだよね。一応、家で少しだけでもつまみたいんだけどなぁ・・・。」
亜紀「じゃあ、冷蔵庫勝手に開けるからね。私が作ってあげる。」
朔「悪いね。」

亜紀は台所に直行、昨夜の残り物であろう食材で軽いものを作る。その間に、朔は風呂からあがり、台所へ。
そこには、やはり谷田部の時と同じく紫色のドレスを身にまとった亜紀が不似合いなかっぽう着でフライパンを操っている。
前日までのストレートヘアとは違い、パーマのかかった黒髪は朔のハートを刺激したのだった。

朔「い・・・いつの間に美容院に行ったんだよ?」
亜紀「今朝一番。」
朔「気合入ってるなぁ・・・・・・。」
亜紀「そう言うと思って、朔ちゃんの服もキッチリのにしたよ。」
朔「脱衣所のとこに置いてたこれ?どうりでカジュアルなのにジャッケットな訳ね。」

朔は黒いジーンズにストライプのシャツの上にジャケットを羽織っている。しかもノーネクタイ。
当然これも亜紀が以前にコーディネートしたものだ。

そのまま2人は軽食をとったあと、すぐに写真館へと向かった。

そのころ、龍之介と智世はボウズの寺の墓地の中、とある墓前に線香を供えていた。
その墓石には“松本家之墓”とある。
2人は謙太郎に結婚報告をしていたのだった。もちろん、ボウズが2人に提案したのは言うまでもない。

ボウズ「お前らさぁ、自分たちの先祖だけに結婚報告をしたんだろうが、ちゃんとじっちゃんにも報告しとけよなぁ。」
龍之介「ごめんなさーい。」
智世「朔が聞いたら怒るなぁ・・・多分。」

線香の匂いが心を落ち着かせる。
“朔と亜紀のことだけでなく、自分たちのことを見守って下さい。”
龍之介と智世はそんなことを謙太郎に手を合わせながら祈って、結婚報告を済ませたのだった。
そのまま車に乗り込んだ一行は、いよいよサプライズパーティーが行なわれる松本写真館へと向かう。

一方。

朔「すみません。遅れました。」
亜紀「お疲れ様でーす。」
恵美「遅い!ほら、早く手伝ってよ。」

恵美に急かされて、大木、上田両夫妻への挨拶もそこそこに、ボウズが新郎新婦を連れてくるまでのわずかな時間に司会の原稿の最終チェックなどをして、皆で着席して新郎と新婦の到着を待つことになった。
そして、その10分後・・・・・・。
写真館の前に車が止まり、エンジンの切れる音。
ボウズがとうとう2人を連れてやってきた。
ボウズが素早く席に着いて、後に続く2人は少し緊張気味に中に入ってきた。

潤一郎の「ヨッ!!」という不似合いな音頭で、拍手が巻き起こる。
何も聞かされていない智世は、谷田部と両親の姿を見つける。極めつけは亜紀の正装ぶり。それを見た智世はキョトンとしている。

智世「な・・・なに?」

それには誰も答えずに、司会役の恩師がゆっくりと話し始めた。

谷田部「ただいまより、大木・上田両家によります、結婚披露宴を執り行わせていただきます。」
智世「え?」
谷田部「大木、上田。さっさと高砂席に座りなさい。」

谷田部らしい口調での司会。朔と亜紀はクスリとする。
そして、親たちもこれからはじまる式に何が起こるかを期待している様子であった。

続く
...2005/11/16(Wed) 23:46 ID:e07B6Vb2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ぱん太
ター坊様。
こんばんは。先ほど帰宅して、早速読ませていただきました。ター坊様、スゴイですね。1年以上にも渡って、これだけのストーリーを展開するのは並大抵の発想力では不可能です。僕も体験記の執筆を試みましたが、未だに実現できずにいます。どうしても、どこかにあるような体験記になってしまうんですね。独自性が打ち出せません。
ブーケトスは、昨年6月に大学の後輩の結婚式で久しぶりに見ました。やっぱり良いもんですね、結婚式って。自分の結婚式が国内で行う予定で筆耕まで済ませ、後は送付するのみと言う直前で止めただけに、たまに呼ばれて出席する結婚式は、感慨も一入です。

先日の投稿を読み返したら、誤字脱字だらけでした。半分寝ていましたので、どうかご了承の程。

では、今後の展開にも期待しております。寒くなってきましたので、体調に留意して頑張ってください。
...2005/11/17(Thu) 01:11 ID:Hmlgdob6    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
谷田部先生、相変わらずのインパクトですね。
それにしても・・・どうなるのでしょうね。
次回を楽しみにしております。
...2005/11/18(Fri) 01:25 ID:bnTxlF/Q    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:双子のパパさん
たー坊様 お久しぶりです。
 久しぶりにパソコンに向かう時間ができ、3話続けて読まさせていただきました。
いよいよ、披露宴開始ですね。親同士の会話、とても距離が近くていいですね〜。こんなにあたたかい関係は、自分の周りにはありません。うらやましです〜。ブーケは誰の手に!?
次回作 楽しみに待っております。
...2005/11/18(Fri) 01:53 ID:UMAnpCqU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
ばん太様
お読みいただいてありがとうございます。
おかげさまで、1年以上書き続けることができております。私の物語にも独自性を持たせることに苦労することが多く、なかなか実現することは難しいのですが、皆様に支えていたたけたことで長続きできております。時には何ヶ月に渡り、中断することもあるかとは思いますが、それでも続けられたらと思います。これからもよろしくお願い致します。

朔五郎様
谷田部先生は、どこまでいっても谷田部敏美です。
次回は、らしさ全開の司会っぷりを表現できればと思っております。
セオリー無視の披露宴にできるように頑張ります。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

双子のパパさん様
こちらこそ、お久しぶりです。
あの悲劇から9年が経ち、仲間意識のみならず親たちの距離もとてもちかくなっております。だから実現できた今回の披露宴です。
次回もお読みいただけ増したら幸いです。
...2005/11/20(Sun) 17:13 ID:jVM2TK5.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
砂席でポカンとしている智世と、それに合わせて智世と同じように装う龍之介。
ボウズもようやく恵美の隣に着いた。それを確認して谷田部が再び声をマイクに通す。

谷田部「上田、中川に感謝しなさいよ。」
智世「え?」
谷田部「大木が今日のことを頼んだんだって。」

もちろん、これは事前に龍之介の手柄にしてしまうと決定されたことである。
それを知らされている谷田部は朔たちの龍之介に対する心遣いに協力すべく、アドリブで智世に伝えた。
もちろん、そんなことを知る由もない智世は、驚いたように龍之介を凝視した。

智世「ウソ!?」
谷田部「ウソじゃないわよ。」

それでも信じられない智世は、向かいかって座っている列席者の顔、特に亜紀の顔を見る。
亜紀が無言で「ホントだよ。」と言うと、今度は隣にいる朔、続いて恵美と視線を送る。

智世「・・・・・・・・・・。」
谷田部「さて、状況を把握できたところで始めますか?」

どこかバラエティ調なしゃべり方に、公一は吹き出しそうになっていた。

谷田部「それでは、気を取り直しまして・・・・・ただいまから、大木・上田両家の結婚披露宴をとり行います!」

一斉に写真館は拍手に包まれる。

谷田部「さて、突然ではございますが、お色直しにまいりたいと存じます。」
朔「いきなり?」
亜紀「だって、私たちばかりが正装するわけにはいかないでしょ。」

そういうと、亜紀は朔に自分の格好を見せ付けるようなしぐさ。
朔もまた自分のジャケット姿を、そして、ボウズも同じような格好していること、さらには恵美まで亜紀と同じように気合の入っている格好に、頷く朔だった。

谷田部に連れられて奥の部屋に行く新郎新婦の2人。
「フゥ・・・・・・・・・・。」と軽い安堵のため息が写真館に満たされた。

それと同時に、朔はカメラの準備・・・・・。
潤一郎が固定カメラの準備をかって出る。そして亜紀は小物の準備を担当。

真「親子で仕事ですか・・・・いいですね。」
潤一郎「あ〜・・・・・そう言えば、朔と初めてかもしれませんね。」
綾子「朔くん、しっかりね。」
朔「任せて下さいよ。今日中には良い写真ができると思いますよ!」

頼もしい朔の一言。しかし、次の瞬間にボウズに耳打ち。

朔「なぁ、俺、夜勤明けて間もないんだよね・・・・残業手当出るんだろうな?」
ボウズ「俺に請求くんのかよ・・・・・。」
朔「いや・・・・・この前、亜紀の誕生日だったから、今月厳しいんだよね・・・・。」
ボウズ「俺だって、来月恵美の誕生日だっての。」

その時、朔の左耳に激痛が走る。
一部始終を聞いた亜紀は、朔の左耳をつかんで、そのまま写真を現像する暗室に連れて行った。

亜紀「バカ。」
朔「いや・・・・・・。」
亜紀「毎日お昼は作ってあげるから、その分を浮かせれば?」
朔「就職はどうすんだよ?」
亜紀「心配しなくていいわよ。第一、あんなの朔ちゃんらしくないよ。」

それだけ言うと、亜紀はみんなの所に戻っていく。
朔も後に続いた。
その後、戻ると同時に、谷田部のアナウンスが響く。

谷田部「お待たせ致しました。あらためて、新郎新婦の入場です。」

恵美が予め準備していたラジカセの再生ボタンを押す。
すると、結婚式ではおなじみのBGMが響いた。それに合わせてゆっくりと一歩ずつ保を進める。
その緊張気味の表情を潤一郎と朔が揃ってカメラに収める・・・・・・。

綾子「いいわね・・・・・・言わなくても分かってるわね。」
亜紀「この顔を見ると分かるでしょ。」

キラキラした表情をしながら、亜紀は朔のカメラマンぶりに嬉しそうだ。
綾子は誰にも聞こえないようにそっと耳打ちする。

綾子「朔くんが定年退職したら、2人で写真館を継ぐのもいいんじゃない?」
亜紀「まずは、私の就職と結婚が先!」
綾子「ダメだったの・・・?」
亜紀「不採用だって・・・・・・。」
綾子「そう・・・まあ、慌てなくてもいいの。最悪の場合、お父さんが事務所で雇ってくれるって。」
亜紀「その前に、恵美の職場を受けてみる。絵本の仕事をかじれるくらいのことはできるみたい・・・・・・。」
綾子「亜紀の思うとおりにしなさい。」

綾子はさすがに落ち込み気味の亜紀を優しく諭した。
亜紀が幼い時、まだ、宮浦の“みの字”もなかった時のころ、20年くらい前の関係変わらない・・・・・・。

谷田部「それでは、続きましてケーキ入刀です。」
恵美「ケーキ?そんなの用意してないんじゃ・・・?」
ボウズ「ないよな・・・・・・。」

ボウズが朔に目配せで確認するが、朔はもちろん亜紀も知らない。
しかし、公一がしっかりと小さいものであるが運んできた。谷田部夫妻の結婚祝いである。
ケーキ入刀と同時に一斉にフラッシュがたかれた。しみじみと谷田部はおめでとうと呟いていた。

そして、セオリー無視の順番で式が進んでいく。それはそれで変わった趣向ということで親たちは結構楽しんでいる。
今は、富子と綾子の料理で歓談の時間となっていた。

真「どうですか?写真の方は?
潤一郎「いやいや、式場で撮る時よりも仕事はしやすいですよ。良い出来になりそうです。」
真「朔くんの方は?」
潤一郎「亜紀ちゃんが良いサポートしてくれているようです。そうそう失敗はないですよ。うちの芙美子よりも良いセンスしてすね。さすがに芸術関係を仕事のしたいと希望しているだけあるんじゃないですか?」
真「はは・・・朔くんの影響でしょう・・・。それにしても、上田さんのウエディング姿を見ると、9年前を思い出しますよ。あの時は無理を申しましたが・・・・・・。」
潤一郎「あの後は、うちのバカがとんでもないことを・・・・・・。」
真「でも、もしあの後で亜紀が死んでいたとしても、私は納得していたと思いますよ・・・それに、現に亜紀は元気になりました。松本さんにはいつも助けていただいて・・・・・私、楽しみにしているんです。もう一度、亜紀がウエディングドレスを着る時を・・・・・・。」

どこか寂しげであるが楽しみであることは嘘でもないようだ。
潤一郎は、「朔にはたっぷりプレッシャーを掛けておきましょう。」と笑いながら言った。

宴会になることなく、高砂席の前にはそれぞれの両親と恵美と亜紀とボウズと朔がカメラ片手に撮りまくり。すると・・・・・。

谷田部「それでは大変お待たせいたしました。ただいまから、新郎新婦の永遠の愛を誓う儀式を執り行います。」
ボウズ「へ?」
谷田部「新郎新婦には、この場で口づけを交わしていただきます。」
龍之介「何を・・・・・・。」

谷田部の脳裏には、2年前の公一との結婚式の時の記憶が蘇っていた。
                         ・
                         ・
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                         ・
自分の結婚式。
谷田部の強引な希望で、出席していた教え子たちを不作為で選び、挨拶や余興をさせるという暴挙に出ていた。
しかし、
「先生!キスしてみて!」
この言葉に龍之介は

龍之介「先生、腹くくりましょうよ。」
「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」

会場の音頭をとるように連呼し、その場が盛り上がりを見せ始めた。
そしてなかなか行動しない恩師にこの3人も・・・・・・・・・。

ボウズ「先生〜!!もう逃げられませんぜ!!」
朔「先生!早くしないと暴動が起きますよ!!」
亜紀「やだ!2人とも何言ってるの!?(笑)」

さらに・・・・・・。

龍之介「先生早く!」
智世「先生、まさか逃げられると思ってないよね〜?みんな待ってるよ!」

そしてボウズが・・・・・・。

ボウズ「谷田部!・谷田部!・谷田部!」

すると、ボウズに朔と亜紀も続いた。

朔・亜紀・ボウズ「谷田部!・谷田部!・谷田部!・谷田部!・谷田部!」
亜紀「先生〜!私も見たい!!」
朔「早く!皆、待ってますよ!」
ボウズ「早くしちゃえ〜!!!」

その後、しぶしぶ公一と口づけを交わした。
その時の盛り上がり方は凄まじいくらいだったのを覚えている。

谷田部「これでいいのか、あんたたち〜!」

さらに・・・・・・。

谷田部「あんた達!後で覚えておきなさ〜い!!」

マイク越しにドレス姿で誓った。
                ・
                ・
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                ・
ついに訪れたこの瞬間。
リベンジ開始。

谷田部「あんたたち・・・特に大木?あんた、私の結婚式のときに自分がやったことを忘れたとは言わせないよ?」
龍之介「あ・・・・・・。」
谷田部「上田、あんたもあの時は煽ったから同罪。」

谷田部判事の判決が言い渡された。
こうなった以上、龍之介も智世も何も言い返せない。
さらに・・・・・。

谷田部「そういえば、媒酌人のお席が空いております。ここは、松本くんと廣瀬さんにお願いしましょう。」
朔「え?」
亜紀「何で?」

朔も亜紀も恐怖を感じた。
自分たちもあの時は大いに盛り上がったから・・・・・・。
「何をやらされるか分からない・・・・・。」
2度目の判決に、恐れおののく2人だった。

続く
...2005/11/20(Sun) 21:42 ID:jVM2TK5.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:電車男
こんばんは、ター坊様。お疲れ様です。
いよいよ結婚披露宴の幕が開きましたね。やはり、待ってましたといわんばかりに、龍之介と智世に、谷田部先生の復讐?が始まりましたね(笑)朔と亜紀にも、復讐の魔の手が近づいてきているようですね!この先どんな展開に話は進むんでしょうか!?次回もとても楽しみです。
...2005/11/20(Sun) 22:47 ID:cvX6ZDMc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ぶんじゃく

こんばんは、たー坊様

谷田部先生の顔が浮かんできます^^
当事者を含めた5人組には緊張とは違った
汗が流れていそうですね、もしかしたら6人組
なんてことになるのかも(笑)
...2005/11/21(Mon) 01:55 ID:rkrzoak2    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
やはり・・・
絶対に怒らせてはいけない人を怒らせてしまったのですね(^^;;;
「愉快な復讐劇」が楽しみです(^^)
...2005/11/23(Wed) 04:12 ID:U41Q0qzc    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
電車男様
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
今回の披露宴の主役が交代するかもしれない事件を、生徒たちは引き起こしていました。
目には目を歯には歯を・・・・・・。
次回は恩師のリベンジをお楽しみ下さい。

ぶんじゃく様
今回の一番の被害者は、2種類の緊張感を味わうことになった新郎新婦だと思います。
自ら書きながらも、こんな状況下に置かれてしまうことには、「いやだなぁ・・・しんどいな・・・。」と思います。しかし、そこは書いたもん勝ちということで(笑)
次回もお読みいただけましたら幸いです。

朔五郎様
お読みいただきましてありがとうございます。
えー・・・・・・逆鱗に触れて以来、いつもいつも復讐のチャンスを狙っていた恩師ですが・・・とうとうこの時がやってきました。
どんな悲劇が訪れるのかは次回をお楽しみ下さい。
...2005/11/23(Wed) 22:34 ID:h7tgg8KQ    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ぱん太
こんばんは、ター坊様。お疲れ様です。

復習ですかぁ〜。怖いですねぇ〜(苦笑)。
僕も10年前に幼馴染の結婚式で思わぬことをさせられたことがありました。新婦側の友人代表と新郎側の友人代表(僕)で腕をクロスさせてお互いにカクテルを飲ませるというパフォーマンスをやらされました。その後で、司会者から「お互いに付き合っている方はいらっしゃるんですか?」と聞かれて、二人とも首を振ると、「じゃぁ、この機会に如何でしょう?」とやられました。その場では披露宴ってことで「そうですねぇ〜。良いですねぇ〜。」と笑って誤魔化しましたが、二次会の席で、その女性と向かい合って飲んでいて、「私は東京には行けないなぁ〜」と言われ、住所交換だけしました。その後、何度か手紙のやり取りをしましたが、いつの間にか自然消滅しましたね。あの女性、今頃何やってんだろうと、久しぶりに思い出してみました。2歳年上だったので、36歳。もう結婚して子供もいるんだろうなぁ〜なんて思ってます。そう言えば、この友人は職場結婚でしたが、その会社の恒例らしく「キ〜ス!キ〜ス!キ〜ス!」とは囃したてられ、キスしてましたねぇ〜。
 ってなことが懐かしく思い出されます。
 実家には月に1回程度帰るものの、なかなか友人と会う機会がありません。たまに遊びに行くのは、幼稚園からの友人同士が結婚した家くらいですかね。実家から歩いて5分程度なので。子供のいない我が家は、お子様のいる友人の家に行きにくいのが実情です。家内も4月からは学生なので、子供は諦めたのでしょう。
 ちなみに、ぱん太君は、我が家の愛犬(チワワ♂)でございます。もう一匹、もぐちゃん(チワワ♀)がいて、我が家のリビングは運動場と化しています。

 ではでは、次回を楽しみにさせていただきます。
...2005/11/26(Sat) 02:55 ID:Q00/ZLOM    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
ぱん太様
お読みいただきましてありがとうございます。
今回もご自身の経験をお話していただいてますが、実は私は友人、親戚等の結婚式に出席したことがなく、そのような場にいらしたことがあると聞くと、少し羨ましい気がします。実際に、物語のような式に出席できたらという希望を織り交ぜてみました。
また、愛犬チワワが二匹いるというのは物語のおいいネタになるかもしれません。上田家にはコロがいますので。たまにはコロを主役にしてみようかな・・・なんて思いました。
これからもよろしくお願い致します。
...2005/11/27(Sun) 23:13 ID:6najmbUo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
谷田部「それでは順番は違いますが、さっそくご媒酌人には挨拶をしていただきましょう。」
朔「マジ?」

突然に話を振られた朔は、突然のことに困り果てる。
それでも、何とか挨拶を始めるのだが・・・・・・。

朔「えー・・・このたび、急遽仲人をすることになりました松本です・・・・・・。」
亜紀「(ガンバレ!朔ちゃん。)」
朔「もう、だいぶ前の話ですが、スケちゃんと智世が結婚すると聞いた時には、すごく驚きました。・・・思った以上に早く結婚を決めた時、夢にも思わなかったと申しますか・・・あれ?おかしいかな・・・・・・?」
亜紀「しっかりして!」

思わず、亜紀の悲鳴にも似た声が聞こえた。
その場は失笑・・・。綾子と潤一郎は苦笑し、富子は呆れ顔。そして真は表情一つ変えずに聞いていた。
朔は、思わず理不尽さを感じつつ、「このたびは・・・・・・。」と、半泣き状態・・・。

龍之介「しっかりしろよ、朔ちゃん。」
朔「俺・・・急に言われてるんですけど・・・・・。」

挨拶の途中にもかかわらず、思わず不満を漏らしてしまった。
それでも、何とか挨拶を終えた朔・・・・・・。
媒酌人席に座り続ける朔と亜紀だった・・・・・・。

谷田部「それではですね、ここであらためて乾杯の音頭をとって頂きましょう。」

今更な言葉に、恵美と新郎新婦以外の教え子たちには、再び緊張が走る・・・・・。

谷田部「では、私の時にもぶっつけ本番で挨拶をしてくれた中川顕良くんにお願いしましょうか。」
ボウズ「来たよ・・・。」

ボウズにも牙剥く恩師・・・・・・。

恵美「がんばれ・・・。」
ボウズ「簡単に言ってくれるよ・・・まったく。」

しかし、そこは以前に経験したことのあるボウズ。前回と同じように挨拶を乗り切った。

恵美「ナイス。」
ボウズ「まぁ、人前で結構な回数、話はしてるからな。」

谷田部は内心嬉しかった。ボウズの成長ぶりに目を細める。
しかしその一方では、「しくじったか・・・。」と教師らしからぬ一面も・・・。
それを知ってか知らずか、得意顔で、してやったりのボウズだった。

谷田部「それでは、続いて新婦の一番の親友と言えるのではないでしょうか?」
朔「(来た。)」
谷田部「廣瀬亜紀さん、挨拶の方をお願いします。」

亜紀はその場に起立する直前に朔に目で合図を送る・・・。

朔「(頑張れ・・・。(笑))」
亜紀「(私のピンチにその笑顔は何?どういうこと・・・?(怒))」
朔「(何とかなるって。)」
亜紀「(根拠ないのね・・・。(呆))
朔「(お手並み拝見!)」
亜紀「(・・・後で覚えてなさいね。)」
朔「(脅し?)」
亜紀「(さあ。)」

たった1秒ない間にこれだけの会話が交わされていようとは誰も思わないのであろう。
もちろん気付くハズもなかった。

亜紀「スケちゃん、智世・・・このたびはおめでとうございます。・・・正直言ってこんなに早く2人が結婚するとは思いもしませんでした・・・。私たち6人の中でも一番早く結婚するとは思いもよらず・・・驚きと嬉しさが交錯していました。でも・・・こうして2人が正装で高砂に座っているのを見ると、素直に受け入れて自分のことのように喜べます・・・智世?おめでとう・・・長年の想いを貫いて良かったね。ウエディングドレス似合ってるよ・・・。」
智世「亜紀・・・。」
亜紀「スケちゃん?・・・夢島でいつの間にかプロポーズしてたなんて全然気付かなかった・・・けっこう適当でアッサリした言葉だったみたいだけど・・・ちゃんと幸せにしてあげてね。・・・泣かせたりしたら・・・私と恵美のダブルビンタが炸裂するよ!」
智世「(感涙・・・。)」

その新婦にさりげなくハンカチを手渡した龍之介の顔は、亜紀の“ダブルビンタ宣言”に笑顔が引き攣っていた。

龍之介「ハハ・・・・・・了解。」

その言葉を聞いた朔とボウズ・・・。
媒酌人席と1番前に座るボウズの席とは向かいあって距離も近いために小声でも十分に会話ができる・・・。

朔「スケちゃんも大変だ・・・。」
ボウズ「強力な援軍が智世についたからな。」
朔「まぁ、これで亜紀の尻に俺が敷かれることが少なくなれば儲けもんだけど・・・。」
ボウズ「スケにストレス発散のはけ口になってもらおうってことか?」
朔「まぁそんなとこ。」
ボウズ「その前にさぁ、もう少し亜紀を乗りこなせよ・・・明らかに亜紀の影響で恵美の気が強くなっちまってるんだ・・・前は本当におしとやかで、亜紀よりいい女を見つけた!・・・って思ったのによぉ・・・。」
朔「その亜紀は最近穏やかだけどね・・・。」
ボウズ「就職決まったら、また気が強くなるんじゃねぇのかよ・・・?おい?」

しかし、その会話はしっかりと恵美の耳に届いていた。
それでも会話を続ける2人・・・。

ボウズ「案外、恵美も亜紀も鬼嫁になる気がする・・・。」
朔「鬼嫁・・・頭があがらなくなるほど尻に敷かれるの?俺?」
ボウズ「どうすっかなぁ・・・俺ら・・・。」

その時、朔が負のオーラを感じ取った。
ふと、ボウズの隣を見ると恵美がいつものような穏やかで優しげな顔とは似ても似つかないような表情を見せている・・・。それは、まるで夜叉の面のような・・・目はしっかり三角目だった・・・。

朔の引き攣る顔に、ボウズもようやく気付いた。
となりでは、恵美が激怒してボウズの睨みつけている・・・・・・。

ボウズ「・・・・・・・・・・・・・。」
恵美「・・・・・・・・・・・・・。」
ボウズ「・・・・・・・・・・(まあ、あの・・・。)」
恵美「・・・・・・・(これが終わったら・・・どうなっても知らないから・・・。)」

ボウズはしばらくの間、硬直し続けた。

そんなやりとりに誰もが気付くはずがなかった。というよりも、そんなことに興味はなし。
全ての視線は高砂席に座る新郎新婦に集中していた。

谷田部「それでは・・・そろそろ新郎新婦の挨拶を頂戴しましょうか。」

「来たよ・・・。」と、心の中で呟く龍之介。
「ひゃあ・・・。」と、智世。

谷田部に促されて、まずは龍之介が立ち上がった。

龍之介「えー・・・と・・・どうすっかなぁ・・・。」
ボウズ「お前、ガラにもなく緊張してるな?」
朔「らしくないなぁ。」
龍之介「(うるせ!)・・・本日は、私たちのためにこのような心温まる披露宴を開いていただきまして、本当にありがとうございます。・・・元々、私が、ここにいるボウズに頼んだのがはじまりでしたが、いつの間にか朔たちばかりではなくて、亜紀と恵美・・・そればかりでなくそれぞれのご両親と先生まで巻き込んで、協力してもらって・・・素晴らしい人たちに支えてもらっている私たちは、本当に幸せ者です。・・・・・・先ほど、ここに来る前に婚姻届を提出して来ました。今日から私たちは幼馴染みから夫婦へとなることができましたが、まだまだ・・・未熟者です。・・・明日からも変わらぬご指導ご鞭撻を、お願い申し上げます。今日は本当にありがとうございました。」

龍之介が深く頭を下げた。
龍之介らしからぬ言葉に、皆は驚き意外に感じてはいたが、谷田部が拍手をし始めるとその場は、谷田部のそれに続くように拍手に包まれた。
智世の目は潤んでいる。
式の雰囲気は予想もしない方向に向かい始めたが、ボウズがそれをいつも通りの賑やかさを取り戻すための一言。

ボウズ「よぉ、らしくねぇなぁ・・・お前。」
龍之介「うるせぇよ!黙ってろ。(笑)」

高校時代からバカをやってきた2人のやり取りは、雰囲気を大きく変えた。
もらい泣き寸前だった恵美もクスクス笑っている。
親たちもどこか微笑ましげな表情を浮かべていた。

そして・・・。

谷田部「上田?いや、もう大木か・・・。あなたからも一言聞きたいな・・・。」
智世「・・・。」

優しく諭すような恩師の言葉に、さっき自分のことを泣かせた無二の親友の顔を見る。

亜紀「・・・(頷く)」
智世「・・・。」
亜紀「頑張れ・・・。」
智世「・・・皆さん、私は、今日が生きてきて一番良い日だと思っています。それは、ただ単に結婚したからというわけではありません。皆さんにとても心に残る式をしていただいたことが大切なことです。これからの人生でも今日のような日というものはそうはないでしょう・・・。今日この瞬間を胸にこれからも大切に日々を生きていきます。そして今度は、私たち夫婦が、今日のような心温まる結婚式を、友人たちのために作らせてもらえたら・・・そんなことを思っています。・・・そして・・・お父さん、お母さん・・・今日まで本当にありがとう・・・私は今とても幸せです・・・でも、子供は子供、娘は娘。明日からは、また薬局で顔を合わせるので、これからもよろしくお願いします。そして、スケちゃんのお父さん、お母さん。小さい頃からずっと知っているから、お父さんとお母さんという気がしないです・・・これからも変な気を遣わずに、今まで通りにこれからもよろしくお願いします。」

こぼれそうな涙をこらえて元気な笑顔を見せる智世・・・。
亜紀も恵美も朔もボウズも「おめでとう。」と口にしていた。
そして恩師は万感の思いでその光景を見つめた。
さらに穏やかな表情の廣瀬夫妻。その横では、智世の母が指の背で涙を拭っているが、それ以上に智世の父は号泣していた・・・。

潤一郎「良かったなぁ・・・。」

花嫁の父の肩をポンポンと叩く。

智世父「潤ちゃん、ありがとう・・・。」
潤一郎「智世ちゃん、綺麗だよ。」
富子「本当。あー良かった。」
智世母「皆さん、本当にありがとうございます。」
龍之介父「私からもお礼を申し上げます・・・。」
綾子「いえいえ、そんな。」
真「私もやりがいのある仕事をさせていただきましたし、いいものを見させていただきました。こちらこそありがとうございました。」
龍之介母「こちらこそ、本当にありがとうございました。」

そんな中・・・。

谷田部「えー・・・感動の中、申し訳ございません。まだ式は終わっておりません。新郎新婦退場の後、ブーケトスを行ないますので、皆様外へ集合してください。」

この言葉に感動を忘れて思わず反応したのは亜紀と恵美だった。
いよいよブーケ争奪戦が始まろうとしていた。
しかし・・・。

谷田部「おっと、忘れておりました。新郎新婦には、しっかりとこの場で誓いのキスをしていただきましょう。」
智世「気付いたよ・・・・・・。」

覚悟を決めた2人は、永遠の愛を誓う口づけを交わした。
普段、あまりやり慣れてないことにどこかぎこちない2人は、真っ赤な顔のまま、逃げるように外へと向かったのであった。

続く
...2005/11/27(Sun) 23:50 ID:6najmbUo    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:SATO
谷田部先生の何とも微笑ましい復讐劇でした。
かえすがえすも、介と智世が一番最初にゴールインするとは意外でしたが、私にとっては嬉しい限りです(^^)
...2005/11/28(Mon) 23:06 ID:2nt9br3.    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:ぱん太
たー坊様。お疲れ様です。今晩は結構早めに帰ってこられましたので、早速読ませていただきました。
僕は結構親戚とか友人の結婚式に招待されることが多いですね。高校生の頃までは、親戚の結婚式と言うと家族総出で出て行きましたけど、初めて大学2年生のときに出席した従姉の結婚式は喰らわされましたね。前々日に従姉から電話がかかって来て「あんた、ギター弾けるわよね?明日、仕事帰りに楽譜持って寄るから」と言われ手渡された楽譜。徹夜で覚えて当日に備えました。ピアノを弾く新郎新婦と一緒に得体の知れない若い学生みたいのが一人。何とも奇妙な光景に見えたことでしょう。
彼方此方の結婚式で様々なパフォーマンスをさせられながら、自分では国内で挙式・披露宴を行っていないので、復讐出来ずじまい。まぁ〜、結婚式に出て嫌な思いをしたことが無いので、結構良い思いでですけどねぇ〜。
年末年始は、さすがに奥様をどこかに連れ出さないと暴動が起きそうですが、一連のセカチュー関連を見ていて松崎に行ってみたくなりました。近くに犬も一緒に泊まれるペンションがあったりしませんかねぇ〜。
...2005/11/28(Mon) 23:45 ID:Kkp01Ojs    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:朔五郎
たー坊さん

みんな、普段とは違って立派な挨拶をしますね(微笑)でも、25歳位になれば、もう大人ですよね。
ところで、この時点の朔のイメージは、山田さんと緒形さんのどちらに近いのでしょうね・・・朔五郎的には、まだ山田さんでしょうか(^^)
...2005/11/29(Tue) 03:41 ID:nTxihdgI    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:にわかマニア
 たー坊さん,朔五郎さん

>この時点の朔のイメージは、山田さんと緒形さんのどちらに近いのでしょうね・・・朔五郎的には、まだ山田さんでしょうか(^^)

 物語が進むにつれて,そういう問題も出てくるのですね。元のドラマや映画は,過去と現在の対比を強調する意図もあってか,それぞれを別の俳優が演じていたものの,山田君・綾瀬君にしても森山君・長澤君にしても,いわゆる「子役」という訳ではないし,高2から25歳頃までなら実年齢±5歳前後ですから,私も石丸流に言えば「読む時に山田君のイメージで読んで」います。
 物語がさらに十数年進んで「青春群像」が第二世代に引き継がれた時には,登場人物のイメージも「代替わり」していくことになるのでしょうが(朔五郎さんのところの物語のように)・・・
 でも,その場合,サクの方には山田君に対応する人物がいるのですが,亜紀の方はかなりの難問になりそうですね。

 ところで,本スレも間もなくパート4突入ですね。パート2では誰もが予期しえなかった先生の結婚という衝撃のハプニングがありましたし,パート3ではスケちゃんと智世がゴールインしました。
 さあ,パート4の話題を飾るのは,ボウズか,はたまた予想外の人物か。サクはどんなドジを踏んで亜紀を何回怒らせるのか,ますます目が離せなくなってきました。
...2005/11/29(Tue) 04:12 ID:xaoTDHzE    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:双子のパパさん
たー坊様 拝読させていただきました。

 いつもの介ちゃんのイメージと違い、きめるときはきめる龍之介がとてもかっこよかったです。
 私も朔五郎様とにわかマニア様と同じで物語を読ませていただく時は、山田さんが浮かんできます。
 私の場合、亜紀も綾瀬さんで、いつも制服を着てしまってます(^^)

 まもなく、パート4突入ですが、お体に気をつけて、これからも執筆お願いします。御苦労だとは思いますが、次回作楽しみにいたしております。
...2005/11/29(Tue) 15:28 ID:H9sASRXU    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:KAZU
たー坊様
さぁ〜て、智世のブーケは誰の手に渡るやら・・・
出来れば亜紀に渡って欲しいですが、当たり前すぎるので恵美へかなぁ(^^♪
あと少しでパート4へ突入ですが、お体にお気をつけて頑張って下さい!!
...2005/11/29(Tue) 21:10 ID:7x0NF0Xk    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:たー坊
SATO様
”教え子に牙剥く恩師”を楽しんでいただけたようで嬉しいです。今回は身内だけの披露宴ということもあり、あまり大規模の復讐はできませんでしたが、少しくらいは満足したのではないでしょうか。
さて、新居で龍之介と智世の新婚生活が始まりますが、時々ボウズに酒の力を与えて大暴れしてもらいましょうか(笑)
次回もお読みいただけましたら幸いです。

ぱん太様
コメントをいただきましてありがとうございます。
なぜか、披露宴の余興などは、罰ゲーム的なものが多い気がします。今回もそれを挨拶に取り入れたのですが、もっとド派手でも良かったかなと思います(笑)
さて、私も松崎には一度足を運んでみたいものですが、宿泊先は頭を悩ませますよね。松崎プリンスホテルしか知らないので・・・。民宿なんかはありそうな気はします。
これからもよろしくお願い致します。

朔五郎様
お読みいただいてありがとうございます。
今のところ、朔、亜紀、龍之介、智世、ボウズが26歳、恵美が28歳の設定です。
さすがに、形式そのままの挨拶というのは結構難しいものがあるかもしれませんが、アドリブでなら、このくらいのオリジナリティは出せるかなと思いましたが、いかがでしたでしょうか?
さて、キャラのイメージですが、今のところはそうはドラマと変わりありません。ただ、恵美と他の脇役陣のイメージに確固たるものが無いのがちょっと・・・(苦笑)
これからもよろしくお願い致します。

にわかマニア様
おっしゃるとおり、亜紀が特に難しいです。
ですが、それもパート4に入るうちに固まってくると思います。先月、1周年を迎えることができましたが、その辺りは、かなりの課題です。
そんなことも考えつつ、続けられたらと思います。
次回もお読みいただけましたら幸いです。

双子のパパさん様
いつもと違う龍之介の姿にご好評のようで、私も嬉しいです。こんなにシャッキリした龍之介は珍しいので、ある意味貴重です(笑)
ドラマの高校時代は終わり、制服をきることはありませんから、お好みの服装をイメージなさってください(笑)時々、具体的な描写を入れます。
これからもよろしくいお願い致します。

KAZU様
コメントを頂きましてありがとうございます。
次回はいよいよ”ブーケ争奪戦”開催予定です。
果たして、誰のところに飛んでいくのか・・・・・・。そして幸せを得るのは誰なのか・・・尻に敷かれ易くなるのは、朔とボウズのどちらなのか・・・。
次回もお読みいただけましたら幸いです。
...2005/11/30(Wed) 00:37 ID:KkzI0loA    

             Re: アナザーストーリー 3  Name:しん
お疲れさまです. 勝手ながらコメントさせてもらいます。今日始めて世界のDVDを見ました。やばいですね。
それでこのサイトに来ました
今からサイドストーリーいっきに読もうと思います。体に気おつけてください。
...2005/11/30(Wed) 01:02 ID:nC2zyanE    

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