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知的障害者テーマに・野島伸司のシリアスドラマ


朝日新聞 夕刊(97年12月4日)掲載記事

「高校教師」「人間・失格」などで、社会道徳を挑発するドラマを発表してきた脚本家、野島伸司が、 知的障害者をテーマにしたドラマ「聖者の行進」(TBS系毎週金曜夜10時・1月9日スタート)を書いている。 制作発表に姿を見せた野島に、シリアスなドラマづくりへの思いを聞いた。

舞台は、知的障害者が健常者と共に働く工場だ。 一見、平穏だが、やがて、暴力やレイプなど許しがたい虐待がおこなわれていることがわかる…。 春ごろ見たニュースがきっかけになり、構想がふくらんでいったという。

「これまでも、現実にいまある社会問題につっこむということで、やってきた。 このニュースを聞くまでは宗教をテーマにやろうかとも思ったんですが、どうしてもオウム事件の後追いのように受け止められるな、と感じていた」

さっそく知的障害者の施設を訪れ、周辺取材にも時間をかけたが、取材を消化したうえで脚本にするのに、思いのほか頭を悩ませた。

「いろんな悲劇的な声を聞いて、全部取り入れなくちゃ、と使命感みたいなものが最初あった。 でも、その人たちの意見を代弁してドラマをやっても、視聴者には届かない。 思い切って、自分の中にストレートに入ってこない感情は放棄しました」

「虐待のシーンをつきつめて書くつもりも、実際に起きた事件のドキュメンタリードラマにするつもりもない。 これはぼくのオリジナルのドラマだ、とくくるようになってからは、書きやすくなった」

脚本家としてデビューしてまもなく10年。 当初は恋愛ドラマを書いていたが、シリアスものを手掛けるようになったのは、「自分がずっとやっていく職業が『しょせん娯楽だろ』って思われるのがいやで。 といって、社会派志向ではないんですけど」と笑う。

ただ、シリアスなドラマにはいつも、彼自身が抱える精神的なテーマを込めている。

「それは、人間は基本的に強くなる必要はない、ということ。 弱い心を、薄く何枚も情緒でくるむような生き方のほうがいいんじゃないの、と。 自分の弱さがいやで人は強くなろうとするけれど、それは、どこか鈍感になるということ。 他人の痛みにも鈍くなる。だから弱くていいんだ、と」

仕事は乗りに乗っているが、「最近さびしくなっちゃって」という。
役者と仲良くすると、「いいように書いてあげなくちゃ」と思ってしまう気持ちが腹立たしくて、役者と仲良くしなかった。 すると現場にも行かないのでスタッフとも口をきく機会がない。 「ストイックで孤独な作業」を続け、追い詰められてきた。

「書いてるだけか、おれの人生は、なんて思ったりしてね。 ブラウン管を通して発信だけはしてるけど、現実のぼくを知る人間は少ない。 さびしいものがありますよね」

その気持ちを埋めるように、詩を書いた。一月に詩集になる(幻冬舎)。

「テレビドラマって、マジョリティーに対する発信。それに対して、マイノリティーに対する発信としてとりとめもなく詩を書いた。 それを手にとって読んでくれる人がいるということが、孤独な作業を続けるぼくを勇気づけるんです」


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